ところで、上記した特許文献1の技術では、左下半身に対応する第1部分の重ね合わせ部と、右下半身に対応する第2部分の重ね合わせ部とは、その横寸が狭く、略通常のズボンのような寸法になっており、そのため、着衣者のちょっとした動作でこの股上部分である重ね合わせ部、特に重ね合わせ部の下端側が容易にはだけて、素肌やオムツ、下着等が露出してしまい、着衣者は、恥ずかしい思いをするという問題点がある。さらに、斯かるズボンの着衣者は、車椅子に乗ることが多く、例えばベッドから車椅子に移動するときや、車椅子に座ったとき等、すなわち着衣者が股間を開くような動作をすると、重ね合わせ部がはだけてしまい、そのため着衣者は、車椅子に乗ることが億劫になるという問題点もある。
そこで、このような問題点を改善するため、重ね合わせ部に面ファスナー、ファスナー、ホック、ボタン、スナップ等の係脱自在の係合手段を設け、この係合手段により左右の重ね合わせ部を係合し、重ね合わせ部同士が容易に分離しないようにすることが考えられる。しかしながら、このような重ね合わせ部を係合する係合手段があると、着衣者が尿意や便意を催したとき、係合手段の操作に手間取って重ね合わせ部を迅速に開くことができず、その結果、用足しが間に合わず失禁してしまうということも考えられる。すなわち、重ね合わせ部に係合手段を設けてしまうと、折角の排尿や排便が容易にできるという特徴が発揮できなくなるという問題点が発生する。
本考案は、上記したような問題点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、排尿や排便が容易にできると共に股上部分が容易にはだけることのない、人体の右下半身用と左下半身用とが独立に分離している下半身用の衣服を提供することにある。
このような問題を解決するために、本考案の下半身用の衣服は、請求項1に記載したように、人体の右下半身に対応する右分割体(右分割体2a)と、人体の左下半身に対応する左分割体(左分割体2b)とから成り、該右分割体と該左分割体とが独立に分離している上端が開口した下半身用の衣服(ズボン1、90)であって、前記右分割体は、右脚部を挿入する右脚挿入部(脚挿入部50a)と、該右脚挿入部から上方に延在して右腰や右大腿部を覆う右腰大腿覆部(腰覆部51a)と、から成る右脚腰部(脚腰部5a)と、前記右腰大腿覆部から左方に延在して下腹部や臀部などの股上部分を覆うと共に、その前面部(前面部61a)の上端から股下を通って後面部(後面部62a)の上端に亘る右開口部(股部開口63a)を左端に有する右股上部(股上部6a)と、を備え、前記左分割体は、左脚部を挿入する左脚挿入部(脚挿入部50b)と、該左脚挿入部から上方に延在して左腰や左大腿部を覆う左腰大腿覆部(腰覆部51b)と、から成る左脚腰部(脚腰部5b)と、前記左腰大腿覆部から右方に延在して下腹部や臀部などの股上部分を覆うと共に、その前面部(前面部61b)の上端から股下を通って後面部(後面部62b)の上端に亘る左開口部(股部開口63b)を右端に有する左股上部(股上部6b)と、を備え、前記右股上部は、その下端部(折返部60a)の横寸(MT)が前記右脚腰部の横寸(ATa)とほぼ同じ長さの幅広状に形成され、前記左股上部は、その下端部(折返部60b)の横寸(MT)が前記左脚腰部の横寸(ATb)とほぼ同じ長さの幅広状に形成され、前記右分割体と前記左分割体とが着衣されたとき、前記右股上部及び前記左股上部の下端部の両端同士がほぼ合致するように、該右股上部と該左股上部とを互いに重ね合わせた状態で分離可能に係合することを要旨とする。
請求項2に記載の下半身用の衣服は、人体の右下半身に対応する右分割体(右分割体2a)と、人体の左下半身に対応する左分割体(左分割体2b)とから成り、該右分割体と該左分割体とが独立に分離している上端が開口した下半身用の衣服(ズボン1、90)であって、前記右分割体は、右脚部を挿入する右脚挿入部(脚挿入部50a)と、該右脚挿入部から上方に延在して右腰や右大腿部を覆う右腰大腿覆部(腰覆部51a)と、から成る右脚腰部(脚腰部5a)と、前記右腰大腿覆部から左方に延在して下腹部や臀部などの股上部分を覆うと共に、その前面部(前面部61a)の上端から股下を通って後面部(後面部62a)の上端に亘る右開口部(股部開口63a)を左端に有する右股上部(股上部6a)と、を備え、前記左分割体は、左脚部を挿入する左脚挿入部(脚挿入部50b)と、該左脚挿入部から上方に延在して左腰や左大腿部を覆う左腰大腿覆部(腰覆部51b)と、から成る左脚腰部(脚腰部5b)と、前記左腰大腿覆部から右方に延在して下腹部や臀部などの股上部分を覆うと共に、その前面部(前面部61b)の上端から股下を通って後面部(後面部62b)の上端に亘る左開口部(股部開口63b)を右端に有する左股上部(股上部6b)と、を備え、前記右股上部及び前記左股上部は、その下端部(折返部60a、60b)の横寸(MT)がそれぞれ20センチ以上に形成され、前記右分割体と前記左分割体とが着衣されたとき、前記右股上部及び前記左股上部の下端部の両端同士がほぼ合致するように、該右股上部と該左股上部とを互いに重ね合わせた状態で分離可能に係合することを要旨とする。
請求項3に記載の下半身用の衣服は、人体の右下半身に対応する右分割体(右分割体2a)と、人体の左下半身に対応する左分割体(左分割体2b)とから成り、該右分割体と該左分割体とが独立に分離している上端が開口した下半身用の衣服(ズボン1、90)であって、前記右分割体は、右脚部を挿入する右脚挿入部(脚挿入部50a)と、該右脚挿入部から上方に延在して右腰や右大腿部を覆う右腰大腿覆部(腰覆部51a)と、から成る右脚腰部(脚腰部5a)と、前記右腰大腿覆部から左方に延在して下腹部や臀部などの股上部分を覆うと共に、その前面部(前面部61a)の上端から股下を通って後面部(後面部62a)の上端に亘る右開口部(股部開口63a)を左端に有する右股上部(股上部6a)と、を備え、前記左分割体は、左脚部を挿入する左脚挿入部(脚挿入部50b)と、該左脚挿入部から上方に延在して左腰や左大腿部を覆う左腰大腿覆部(腰覆部51b)と、から成る左脚腰部(脚腰部5b)と、前記左腰大腿覆部から右方に延在して下腹部や臀部などの股上部分を覆うと共に、その前面部(前面部61b)の上端から股下を通って後面部(後面部62b)の上端に亘る左開口部(股部開口63b)を右端に有する左股上部(股上部6b)と、を備え、前記右分割体と前記左分割体とが着衣されたとき、前記右股上部及び前記左股上部の下端部(折返部60a、60b)の両端同士がほぼ合致するように、該右股上部と該左股上部とを互いに重ね合わせた状態で分離可能に係合すると共に、着衣者が30度(角度β)以上に股を開くまで、該右股上部及び該左股上部の下端部の両端同士の合致している状態が維持される長さに、該右股上部及び該左股上部の下端部の横寸(MT)を形成したことを要旨とする。
つまり、人体の右下半身に対応する右分割体と、人体の左下半身に対応する左分割体とが独立に分離している下半身用の衣服において、請求項1は、右股上部及び左股上部の下端部の横寸を右脚腰部及び左脚腰部の横寸とほぼ同じ長さの幅広状に形成し、請求項2は、右股上部及び左股上部の下端部の横寸をそれぞれ20センチ以上に幅広状に形成し、請求項3は、着衣者が30度以上に股を開くまで、右股上部及び左股上部の下端部の横寸を、該右股上部及び該左股上部の下端部の両端同士の合致している状態が維持される長さに幅広状に形成する。
従って、このように構成される請求項1〜3に記載の下半身用の衣服によれば、人体の右下半身用と左下半身用とが独立に分離している下半身用の衣服であっても、右股上部と左股上部とが容易にはだけてしまうことがなく、その結果、着衣者は、素肌やオムツ、下着等が露出して恥ずかしい思いをすることがない。特に、ベッドから車椅子に移動するときや、車椅子に座ったとき等であっても、右股上部と左股上部とが容易にはだけることはないので、着衣者は、車椅子に乗ることが億劫になるということがない。
また、右股上部と左股上部との重ね合わせ部に係合手段を設けていないので、排尿や排便をするときは、着衣者は、迅速且つ容易に右股上部と左股上部との重ね合わせ部を開くことができ、排尿、排便に手間取ることがない。その結果、排尿、排便までの時間が短縮され、失禁するおそれがなくなる。そして、失禁するおそれがなくなると、オムツを省略することも可能となる。
ところで、右股上部及び左股上部の下端部の横寸を幅広状に形成すると、着衣者が股を開いていない通常の姿勢のとき等に違和感を覚えるおそれがあるが、これは、次のようにするとよい。すなわち請求項4に記載の下半身用の衣服は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の下半身用の衣服において、前記右股上部及び前記左股上部の下端部の右端部には、該右端部と、前記右脚腰部とが重合する右ゆとり部(ゆとり部12a)が設けられ、前記右股上部及び前記左股上部の下端部の左端部には、該左端部と、前記左脚腰部とが重合する左ゆとり部(ゆとり部12b)が設けられ、該右ゆとり部及び該左ゆとり部は、着衣者が30度以上に股を開いていないときに皺状に現れることを要旨とする。
従って、このように構成される本考案の下半身用の衣服によれば、着衣者が30度以上股を開いていない姿勢のときには、右ゆとり部及び左ゆとり部が皺状に現れ、右ゆとり部が右股上部と右脚腰部との間に、左ゆとり部が左股上部と左脚腰部との間に介在して緩衝するので、これにより右股上部及び左股上部を幅広状に形成しても、着衣者が股を開いていない通常の姿勢のとき等に違和感を覚えることがない。すなわち、本考案によれば、着衣者は、どのような姿勢であっても違和感を覚えることのない、はき心地のよい下半身用の衣服を提供できる。
ここで、右ゆとり部及び左ゆとり部の横寸は、次のようにするとよい。すなわち請求項5に記載の下半身用の衣服は、請求項4に記載の下半身用の衣服において、前記右ゆとり部及び前記左ゆとり部は、着衣者が所定の角度以下に股を閉じたとき、その横寸(MTa、MTb)が最大で前記右股上部及び前記左股上部の下端部の横寸のほぼ1/3となるように形成されていることを要旨とする。従って、このように構成される本考案の下半身用の衣服によれば、右ゆとり部及び左ゆとり部の横寸が最適になり、その結果、着衣者が股を開いていない通常の姿勢のときに、はき心地のよさを維持しながら股間にゆとりを持たせ、且つデリケートゾーン(局部)を安定させてしっかりと保護することができる。
請求項6に記載の下半身用の衣服は、請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の下半身用の衣服において、前記右股上部の下端部は、左方に向かって所定の角度(角度α)の上り勾配が設けられ、前記左股上部の下端部は、右方に向かって該右股上部の下端部の上り勾配と同じ角度の上り勾配が設けられ、前記右股上部の開口側となる左端部には、該左端部を補強する右補強部(補強部7a)が設けられ、前記左股上部の開口側となる右端部には、該右端部を補強する左補強部(補強部7b)が設けられ、該右補強部(段差部70a)と該左補強部(段差部70b)とは、前記右股上部と前記左股上部とが重ね合わさった状態で着衣者が所定の角度以上に股を開いたとき、該右股上部の下端部及び該左股上部の下端部がほぼ水平になった状態で係合し、該右股上部と該左股上部とが分離するのを防止することを要旨とする。
従って、このように構成される本考案の下半身用の衣服によれば、着衣者が大きく股を開いたときであっても、右補強部と左補強部とが係合することで右股上部と左股上部とが容易にはだけることがなく、その結果、着衣者は安心して体を動かす(股を大きく広げる)ことができる。つまり、右股上部及び左股上部の下端部の上り勾配により、着衣者が大きく股を開いたときは、ほぼ水平状に右補強部の下端部と左補強部の下端部とが係合するので、これにより、右補強部と左補強部との係合状態をより強固なものにしている。
請求項7に記載の下半身用の衣服(ズボン90)は、請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の下半身用の衣服において、前記右股上部の上端に、前記右分割体を着衣者の腰付近に固定する右固定手段(ベルト部4a)を設け、前記左股上部の上端に、前記左分割体を着衣者の腰付近に固定する左固定手段(ベルト部4b)を設け、前記右股上部と前記右脚腰部及び前記左股上部と前記左脚腰部とは、所定の係合手段により係脱自在に係合可能としたことを要旨とする。従って、このように構成される本考案の下半身用の衣服によれば、右脚腰部及び左脚腰部を取り除いた部分、すなわち右股上部と右固定手段及び左股上部と左固定手段は、パンツやフンドシ等の下着として使用することもでき、非常に使い勝手がよくなる。
ここで、右股上部及び前記左股上部の前面部及び後面部の形状は、次のようにするとよい。すなわち請求項8に記載の下半身用の衣服は、請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の下半身用の衣服において、前記右股上部及び前記左股上部は、一枚の生地をその縦寸のほぼ中央から折り返すようにして形成され、前記右股上部及び前記左股上部の前面部は、略矩形状に形成され、前記右股上部及び前記左股上部の後面部は、その横寸が上方になるにつれて前記前面部の横寸よりも左右両側に徐々に長くなる略台形状に形成されていることを要旨とする。
従って、このように構成される本考案の下半身用の衣服によれば、着衣者の下腹部や臀部が二重に広く覆われ、おなかを冷やしにくくなり、且つ右股上部と左股上部とが容易にはだけることはないので、その結果、着衣者は、パンツ等の下着を省略することができる。そして、下着を省略することで、極めて容易に用を足すことができる。
以下に、本考案のズボン1に係る実施形態を図面に基づき説明する。まず、図1〜図7を参照しながら、ズボン1の構成について説明する。図1は、ズボン1の着用状態における正面図、図2は、図1に示したズボン1の着用状態における背面図、図3は、図1に示したズボン1の分離状態を示す正面図、図4は、図2に示したズボン1の分離状態を示す背面図、図5は、ズボン1の右分割体2aの構成を示す分解正面図、図6は、ズボン1の左分割体2bの構成を示す分解背面図、図7は、ズボン1の縫製状態を示す正面図、図8は、図3における右分割体2a及び左分割体2bの股上部6a、6bの一部を示すA−A断面図である。
ズボン1は、所定の生地を裁断縫製して形成され、人体の右下半身に対応する右分割体2aと、人体の左下半身に対応する左分割体2bとを有している。また、右分割体2aと左分割体2bとは、図3、図4に示すように、別個独立に分離可能に構成されている。右分割体2a及び左分割体2bは、ベルト部4a、4bと、脚腰部5a、5bと、股上部6a、6bとから構成されている。これらベルト部4a、脚腰部5a、股上部6aをそれぞれ縫い合わせることにより右分割体2aが形成され、ベルト部4b、脚腰部5b、股上部6bをそれぞれ縫い合わせることにより左分割体2bが形成される。
脚腰部5a、5bは、一枚の生地で筒状に縫製されるものであって、図2、図4に示すように、その左端と右端とが縫い目13a、13bにて縫い合わされ、その下端が内側に折り返されて縫い目14a、14bにて縫い合わされている。従って、着衣者は、通常、二枚の生地で縫製されて脚の左右二箇所にできる縫い目が、脚腰部5a、5bでは一箇所(縫い目13a、13b)で、且つ脚の裏側にその縫い目13a、13bが位置することにより、違和感なくズボン1を着衣することができる。
また、脚腰部5a、5bは、股上部6a、6bから下の部分であって右脚部及び左脚部を挿入するための脚挿入部50a、50bと、脚挿入部50a、50bから上方に延在する右腰(大腿)部及び左腰(大腿)部を覆う腰覆部51a、51bとを有している。脚挿入部50a、50bは、その下端に右足及び左足を出すための足部開口53a、53bが形成され、腰覆部51a、51bは、その股上部6a、6b側に右腰(大腿)部及び左腰(大腿)部を覆うための腰部開口54a、54b(図5、図6参照)が形成されている。腰部開口54aは正面から視て腰覆部51aの右端に、腰部開口54bは背面から視て腰覆部51bの右端に、つまり腰部開口54a、54bは、腰覆部51a、51bの人体の中心側にそれぞれ略U字状に形成され、この腰部開口54a、54bを形成する腰覆部51a、51bの端部(人体の中心側)が、股上部6a、6bと縫い目11a、11bにて縫い合わされる。
ここで、股上部6a、6bは、一枚の生地を縦寸のほぼ中央から折り返すようにして、脚腰部5a、5b(腰覆部51a、51b)に縫い目11a、11bにて縫い合わされて取り付けられており、従って、股上部6a、6bは、脚腰部5a、5bに取り付けられた状態では、その腰覆部51a、51bと反対側に略U字状の股部開口63a、63bが形成されることになる。また、股上部6a、6bは、脚腰部5a、5bに取り付けられた状態で、その前側となる前面部61a、61bは、正面視したときに折返部60a、60bを底辺とした略矩形状に形成され、一方その後側となる後面部62a、62bは、背面視したときに折返部60a、60bを底辺とした略台形状に形成されている。
つまり、股上部6a、6bが脚腰部5a、5bに取り付けられた状態では、後面部62a、62bは、その横寸が上方になるにつれて、前面部61a、61bよりも両側に徐々に長く形成されており、従って、後面部62a、62bの面積は、前面部61a、61bの面積よりも大きくなっている(1.5〜2倍程度)。これにより、ズボン1の臀部に対応する部分にゆとりを持たせると共に、あたかもパンツやフンドシを着たように、左右両側に縫い目11a、11bが位置して後面部62a、62bが臀部を包み込むようになるので、着衣者は、違和感なくズボン1を着衣することができる。
また、股上部6a、6bを折り返した箇所(折返部60a、60b)には、所定の勾配が形成され、すなわち折返部60a、60bには、図3、図4に示すように、腰覆部51a、51bと反対側に向かって同じ角度α(3〜7度程度)の上り勾配がそれぞれ設けられており、さらに、股上部6aと股上部6bを重ね合わせるため、股上部6bの方が、股上部6aよりも縦寸が若干長く形成されている。これにより、股上部6a、6bが脚腰部5a、5bに取り付けられた状態で、股上部6aを内側、股上部6bを外側にして股上部6aと股上部6bとが重ね合わされる。
ここで、股上部6a、6bの両端の高さは、股上部6a両端のTa1、Ta2、股上部6b両端のTb1、Tb2となり、つまり、Ta1は、前面部61a及び後面部62aの脚腰部5a側端の高さ、Ta2は、前面部61a及び後面部62aの股部開口63a側端の高さ、Tb1は、前面部61b及び後面部62bの脚腰部5b側端の高さ、Tb2は、前面部61b及び後面部62bの股部開口63b側端の高さであり、これは換言すれば、Ta1は腰部開口54aの高さ、Ta2は股部開口63aの高さ、Tb1は腰部開口54bの高さ、Tb2は股部開口63bの高さとなる。ここで、これらTa1、Ta2、Tb1、Tb2の関係は、図3、図4に示すように、Ta1=Tb2、Tb1>Ta1(Tb2)>Ta2、Ta1(Tb2)−Ta2=Tb1−Tb2(Ta1)=tとなる(股上部6bの方が、股上部6aよりも縦寸がtの2倍だけ長く形成されている)。
また、股上部6a、6bには、図1に示す正面から視て左側にゆとり部12aが、右側にゆとり部12bがそれぞれ設けられており、このゆとり部12a、12bは、着衣者が、図7に示す所定の角度β(30〜50度程度)以上股を開いていない姿勢でズボン1を着衣したとき、折返部60a、60bの左右両端付近の部分と、脚腰部5a、5bの折返部60a、60bとの結合付近の部分とが皺状に重合することにより現れるものである(図1、図2参照)。このゆとり部12a、12bは、図7に示すように、股上部6a、6bと脚腰部5a、5bを縫い目11a、11bにて縫製するときは、現れることはない。
つまり、股上部6a、6bと脚腰部5a、5bとの縫製時に、腰部開口54a、54bを形成する腰覆部51a、51bの端部と股上部6a、6bの端部とを合致させると、着衣者があたかも所定の角度βに股を開いたような姿勢に右分割体2a及び左分割体2bが形成されるようになっている。すなわち、股上部6a、6bは、折返部60a、60b付近の横寸が、ゆとり部12a、12bの分を考慮して通常よりも長く(通常の略3倍程度長く)形成され、図7に示すように、折返部60a、60bの横寸MTは、脚腰部5a、5bの横寸ATa、ATbとほぼ同じ長さになっている。そして、着衣者が股を開いていない通常の姿勢のとき、図1、図2に示すように、ゆとり部12a、12bはほぼ最大となり、その横寸MTa、MTbは、ほぼ同じ長さで折返部60a、60bの横寸MTの略1/3の長さとなる。従って、折返部60a、60bの脚腰部5a、5bと重合していない箇所の長さMTSも、折返部60a、60bの横寸MTの略1/3の長さとなり、ゆとり部12a、12bの横寸MTa、MTbと略同じ長さになる(MTa=MTb=MTS=MT/3)。従って、この状態から着衣者が股を徐々に開いていくと、ゆとり部12a、12bの横寸MTa、MTbもそれに伴って短くなり、着衣者が所定の角度β以上股を開くと、ゆとり部12a、12bの横寸MTa、MTbは消滅する。
なお、折返部60a、60bの横寸MT及び脚腰部5a、5bの横寸ATa、ATbの具体的な長さとしては、20〜30センチ程度が好ましく、この場合、ゆとり部12a、12bの横寸MTa、MTb及び折返部60a、60bの脚腰部5a、5bと重合していない箇所MTSの長さは7〜10センチ程度となる。
また、股部開口63a、63bを形成する股上部6a、6bの端部には補強部7a、7bが付設されている。この補強部7a、7bは、一枚の目の粗い厚手の生地で細長い略矩形状に形成されており、図8に示すように、股上部6a、6bの生地を挟み込むように該股上部6a、6bに取り付けられ、股上部6a、6bの生地と補強部7a、7bの生地とで段差部70a、70bを形成している。補強部7a、7bは、股上部6a、6bの生地の伸び(特に縦方向の伸び)や端部のほつれ等を防止すると共に、後に詳述するが、着衣者が大きく股を開いたときに段差部70aと段差部70bとが係合して、股上部6aと股上部6bとが容易にはだけるのを防止するものである。
次に、ベルト部4a、4bは、細長い帯状に形成され、図5、図6に示すように、脚腰部5a、5bの腰覆部51a、51bと、股上部6a、6bの前面部61a、61b及び後面部62a、62bの上端部に、平面から視て略「つ」字状に縫製等により付設されている。図3、図4に示すように、ベルト部4a、4bは、その一端部が前面部61a、61bの補強部7a、7bの位置まで形成され、その他端部が後面部62a、62bの補強部7a、7bの位置から突出部40a、40bが突出するように形成されている。
ベルト部4a、4bは、その一端側の前面部61a、61bと対応する位置の外側(人体と反対側)には第1面ファスナー9a、9bが設けられ、一方、その他端側の突出部40a、40bにはゴム部8a、8bと、内側(人体側)に第2面ファスナー10a、10bとが設けられ、第1面ファスナー9a、9bと第2面ファスナー10a、10bとは、係脱自在に係合するようになっている。また、ゴム部8a、8bは、第1面ファスナー9a、9bと第2面ファスナー10a、10bとの間に位置するように設けられ、従って、着衣者は、ゴム部8a、8bを伸ばして第1面ファスナー9a、9bと第2面ファスナー10a、10bとを係合することにより、ベルト部4a、4bを固定する。
以上のように構成されるズボン1を着衣する場合には、まず右分割体2aの腰部開口54aから脚腰部5aの脚挿入部50aに右脚を入れ、足部開口53aから右足を出す。そして、体に沿って脚腰部5aの腰覆部51a及び股上部6a(前面部61a及び後面部62a)を引き上げて右腰(大腿)部と下腹部(局部、臀部)を覆い、その後、ベルト部4aを背中側から左腰に沿って前側に回すようにして、第1面ファスナー9aに第2面ファスナー10aを係合する。これにより、右分割体2aの着衣が完了し、この状態では、左腰(大腿)部の側面と左脚全体が露出している。
次に、左分割体2bの腰部開口54bから脚腰部5bの脚挿入部50bに左脚を入れ、足部開口53bから左足を出す。そして、体に沿って脚腰部5bの腰覆部51b及び股上部6b(前面部61b及び後面部62b)を引き上げ、股上部6aの上に股上部6bを重ね合わせるようにして、左腰(大腿)部と下腹部(局部、臀部)を覆い、その後、ベルト部4bを、ベルト部4aに重ね合わせるように背中側から右腰に沿って前側に回すようにして、第1面ファスナー9bに第2面ファスナー10bを係合する。これにより、左分割体2bの着衣が完了し、すなわちズボン1の着衣が完了する。なお、ズボン1を脱衣する場合には、着衣する場合の逆の動作を行えばよい。
ここで、ズボン1の着衣が完了したときは、股上部6aの上に股上部6bがほぼ合致するように重なり、この状態では、股上部6aのTa1と股上部6bのTb2とが重なり、股上部6aのTa2と股上部6bのTb1とが重なっている。この際、Ta1とTb2は同じ長さなので、図1に示すように、正面視したときに折返部60bの左端部(補強部7b)と折返部60aの左端部とが、また、図2に示すように、背面視したときに折返部60bの右端部(補強部7b)と折返部60aの右端部とが、ほぼピッタリと重なる。一方、Tb1はTa2より長いので、図1に示すように、正面視したときに折返部60bの右端部と折返部60aの右端部(補強部7a)との間に、また、図2に示すように、背面視したときに折返部60bの左端部と折返部60aの左端部(補強部7b)との間に、略垂直方向の所定の隙間S(tの2倍の長さ、図3、図4参照)が形成された状態となる。そして、図1、図2に示す状態では、すなわち着衣者が股を開いていない通常の姿勢のときには、ゆとり部12a、12bの横寸MTa、MTbがほぼ最大に現れている。
また、ズボン1を着衣したまま排尿や排便をするときは、着衣者が、まず左手にて外側の股上部6bの前面部61bや折返部60b(補強部7b)を左脚側に引っ張り、次に股上部6aと股上部6bとの隙間から右手を差し込んで、内側の股上部6aの前面部61bや折返部60b(補強部7a)を右脚側に引っ張って、股上部6aと股上部6bとの重合を解除して開口部を形成するようにすればよい。
次に、図9及び図10を参照しながら、本考案のズボン1が、股上部6a、6bに設けられた補強部7a、7bにより、着衣者が大きく股を開いても股上部6a、6bが容易にはだけることのない構成について説明する。図9(A)は、図7に示したズボン1の縫製時の状態(着衣者が所定の角度βに股を開いている状態)における折返部60a、60b付近を示す股上部6a、6bの部分説明図、図9(B)は、図9(A)の状態から着衣者がさらに股を開いたときの折返部60a、60b付近を示す股上部6a、6bの部分説明図、図10は、図9(B)の円E内の補強部7a、7bの状態を説明するための股上部6a、6bのB−B断面図である。
図9(A)に示す着衣者が所定の角度βに股を開いている状態から、さらに着衣者が股を開くと、股上部6a、6bは、ピッタリと重合している状態から、股上部6aが矢印Cの方向に、股上部6bが矢印Dの方向に、それぞれ回転するように移動する。なお、股上部6a、6bが移動する前の図9(A)に示す状態では、折返部60a、60bは、水平線に対して角度αの所定の上り勾配を維持している。
そして、着衣者が股を大きく開いて図9(B)に示す状態になると、股上部6a、6bの補強部7a、7bが図9(B)の円E内に示すように係合する。この図9(B)に示す状態では、図9(A)に示す状態から股上部6a、6bが対称状に回転移動した結果、折返部60a、60bは、水平線と略平行な状態となっている。すなわち、図9(B)に示す状態では、図10に示すように、股上部6aの補強部7aの外側の段差部70aと、股上部6bの補強部7bの内側の段差部70bとが係合することにより、これ以上の股上部6a、6bの矢印C、D方向への移動を阻止する。しかも、この段差部70a、70bの係合状態は、折返部60a、60bが水平になっているので、段差部70aと段差部70bとの当接面がピッタリと当接し、これにより補強部7a、7bの係合状態はより強固なものになる。従って、着衣者が大きく股を開いても股上部6aと股上部6bとが容易にはだけることはない。さらに、図9(B)に示す状態では、補強部7a、7bの目の粗い生地と股上部6a、6bの生地との摩擦力により、さらに補強部7a、7bの係合状態をより強固なものにしている。
なお、ズボン1(ベルト部4a、4b、脚腰部5a、5b、股上部6a、6b)の生地としては、軽くて肌触りがよく、保温性や通気性、吸湿性等のよい、例えば絹や綿、麻等を使用するとよい。特に、褥瘡の発生を緩和するため、絹を含有する生地、例えば絹と綿、麻等を混紡した生地を裏張りするとよい。また、股上部6a、6bについては、縦方向に伸びるのを防止するため、図1、図2の矢印A、Bに示す地の目が縦地になるように生地を裁断することが好ましく、このようにすれば、股上部6a、6bが弛んで、重なり合った股上部6aと股上部6bとが容易にはだけてしまうことがない。
また、補強部7a、7bは、厚くて目の粗い芯地、例えば三河木綿、河内木綿、大麻織等を用いるのが好ましく、このように補強部7a、7bに厚くて目の粗い芯地を使用すれば、段差部70a、70bの有効性をより確実なものにできると共に、段差部70aと段差部70bとが係合する前の段階で、補強部7a、7bと股上部6a、6bとが擦れ合うときの摩擦力が大きくなり、これによっても重なり合った股上部6aと股上部6bとが容易にはだけてしまうことを防止する。なお、補強部7a、7bの股上部6a、6bへの取り付けは、縫製の他、接着芯を用いてアイロン等で接着により取り付けるようにしてもよい。この際、補強部7a、7bの地の目は、当然ながら股上部6a、6bと同様に、図1、図2の矢印A、Bに示す縦地になるように取り付ける。
さらに、ズボン1に抗菌処理、防臭処理、防炎処理を施すとよい。特に、抗菌処理や防臭処理では、環境に負荷をかけずにウィルスや細菌、臭い、花粉等のアレルゲン物質等を分解する信州セラミックス社の「アースプラス」(特開平10−17847、特開平11−343210に開示されている被着処理剤)を使用するとよい。
以上の説明から明らかなように、本考案のズボン1によれば、股上部6a、6b、特に折返部60a、60bの横寸MTを通常の略3倍程度長く幅広状に形成して、脚腰部5a、5bの横寸ATa、ATbとほぼ同じ長さにしたので、股上部6aと股上部6bとが容易にはだけてしまうことがなく、その結果、着衣者は、素肌やオムツ、下着等が露出して恥ずかしい思いをすることがない。特に、ベッドから車椅子に移動するときや、車椅子に座ったとき等であっても、股上部6aと股上部6bとが容易にはだけることはないので、着衣者は、車椅子に乗ることが億劫になるということがない。
また、着衣者が股を開いていない通常の姿勢のときには、折返部60a、60bの横寸MTの1/3程度の横寸MTa、MTbのゆとり部12a、12bが現れ、このゆとり部12a、12bが股上部6a、6bと脚腰部5a、5bとの間に介在して緩衝するので、股上部6a、6bを幅広状に形成しても、着衣者は違和感なくズボン1を着衣することができ、その結果、ズボン1のはき心地がよくなる。つまり、ゆとり部12a、12bにより、ズボン1は、あたかもフンドシとステテコとを合体したような構成が可能となり、これにより股間にゆとりを持たせつつデリケートゾーン(局部)を安定させてしっかりと保護する一方で、着衣者が、所定の角度βまで股を開いた場合であっても、股上部6a、6bをピッタリと重合して股上部6aと股上部6bとがはだけるのを防止できる。
また、股上部6a、6bに設けた補強部7a、7bにより、着衣者が大きく股を開いたときであっても、段差部70aと段差部70bとが係合することで股上部6aと股上部6bとが容易にはだけることがなく、その結果、着衣者は安心して体を動かす(股を大きく広げる)ことができる。特に、折返部60a、60bは、腰覆部51a、51bと反対側に向かって角度αの上り勾配が設けられており、着衣者が大きく股を開いたときは、この折返部60a、60bの勾配によりほぼ水平状に折返部60a(補強部7a)と折返部60b(補強部7b)とが係合するので、これにより、段差部70aと段差部70bとの係合状態をより強固なものにしている。
また、股上部6a、6bの重ね合わせ部に係合手段を設けていないので、排尿や排便をするときは、着衣者は、手で股上部6a、6bを左右に引っ張るだけで迅速且つ容易に股上部6aと股上部6bとの重ね合わせ部を開くことができ、その結果、排尿、排便までの時間が短縮され、失禁してしまうことが少なくなる。そして、失禁する心配がなくなると、オムツをする必要がなくなり、例えば、着衣者が男性の場合には、車椅子に座ったままでも立小便感覚で排尿することができ、一般の男子用トイレで用を足すことが可能になる。さらに、ズボン1は、股上部6a、6bにより着衣者の下腹部や臀部が二重に広く覆われ、おなかを冷やしにくい構造になっているので、これにより、ズボン1の着衣者は、パンツやオムツ等の下着を省略することも可能となる。
以上、本考案の包装箱1を図面に基づいて説明してきたが、具体的な構成は実施形態に示したものに限定されるものではなく、本考案の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加などがあっても本発明に含まれる。例えば、ズボン1を、図11に示すようなズボン90としてもよい。図11は、他の実施形態に係るズボン90の分解正面図である。なお、この他の実施形態の説明においては、上述した実施形態と同様な構成については同じ符号を付し、それら構成の説明については省略する。図11に示すズボン90は、図7に示した縫製状態時のズボン1において、脚腰部5a、5bが分離した状態を示している。つまり、ズボン90は、脚腰部5a、5bが係脱自在に係合可能になっている。
ここで、脚腰部5a、5bと股上部6a、6b及び脚腰部5a、5bとベルト部4a、4bとの係合手段としては、面ファスナー、ファスナー、ホック、ボタン、スナップ等が挙げられる。このように、ズボン90から脚腰部5a、5bを取り外したり、取り付けたりすることが自在にできると、脚腰部5a、5bを取り除いた部分をパンツ(フンドシ)91等の下着として使用することもでき、非常に使い勝手がよくなる。なお、この他の実施形態では、ベルト部4aとベルト部4bとを、同様な係合手段にて係脱自在に係合可能に構成するとよい。
また、上記実施形態では、ベルト部4aとベルト部4bとは重なるように構成したが、脚腰部5aと脚腰部5b及び股上部6aと股上部6bの縦方向の長さを相違させ、ベルト部4aとベルト部4bとが重ならないようにしてもよい。このようにすると、着衣者のベルト部4aとベルト部4bとの重なりによるゴワゴワ感が解消され、ズボン1の履き心地がよくなる。