JP2024054964A - 放射冷却装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】低廉化を図りながら柔軟性を持たせることができ、しかも、耐候性を向上できる放射冷却装置を提供する。【解決手段】放射面Hから赤外光を放射する赤外放射層Aと、少なくとも赤外放射層側に銀または銀合金を備える光反射層Bと、赤外放射層Aと光反射層Bとの間に位置させる保護層Dとを備える形態に構成され、赤外放射層Aが、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整された樹脂材料層Jであり、樹脂材料層Jを形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂であり、 可塑剤が、脂肪族二塩基酸エステル類又はフタル酸エステル類からなる第1可塑剤とリン酸エステル類からなる第2可塑剤とを、前記第2可塑剤が5重量%以上、70重量%以下となるように配合したものである。【選択図】図1

Description

本発明は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させ、且つ、少なくとも前記赤外放射層に隣接する赤外放射層側に銀または銀合金を備える光反射層と、前記赤外放射層と前記光反射層との間に位置させる保護層とを備える形態に構成され、
前記赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整された樹脂材料層である放射冷却装置に関する。
放射冷却とは、物質が周囲に赤外線などの電磁波を放射することでその温度が下がる現象のことを言う。この現象を利用すれば、たとえば、電気などのエネルギーを消費せずに冷却対象を冷やす放射冷却装置を構成することができる。
そして、光反射層が太陽光を十分に反射することより、昼間の日射環境下においても冷却対象を冷やすことができる。
つまり、光反射層が、赤外放射層を透過した光(紫外光、可視光、赤外光)を反射して放射面から放射させて、赤外放射層を透過した光(紫外光、可視光、赤外光)が冷却対象に対して投射されて、冷却対象が加温されることを回避することにより、昼間の日射環境下においても冷却対象を冷やすことができる。
尚、光反射層は、赤外放射層を透過した光に加えて、赤外放射層から光反射層の存在側に放射される光を赤外放射層に向けて反射する作用も奏することになるが、以下の説明においては、光反射層を設ける目的が赤外放射層を透過した光(紫外光、可視光、赤外光)を反射することにあるとして説明する。
このような放射冷却装置の従来例として、樹脂材料層を形成する樹脂材料として、ジメチルシロキサン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、アクリル酸樹脂、メチルメタクリレート樹脂を用いたものがある(例えば、特許文献1参照)。
特表2018-526599号公報
放射冷却装置においては、放射冷却装置の低廉化のために、樹脂材料層の低廉化を図ることが望まれる。
また、放射冷却装置に柔軟性を備えさせるために、樹脂材料層の軟質化を図ることが望まれる。つまり、光反射層を、例えば銀の薄膜として構成して、柔軟性を備えさせることに併せて、赤外放射層を構成する樹脂材料層が軟質性を備えれば、放射冷却装置が柔軟性を備えるものとなる。そして、柔軟性を備えさせるにあたり、同時に、赤外放射層を構成する樹脂材料層に耐久及び難燃性を備えさせて、放射冷却装置に耐久性及び難燃性を備えさせることが望まれる。
このように放射冷却装置が柔軟性を備えることに加えて、耐久性及び難燃性を備えれば、既設の屋外設備における外壁等に後付けして、長期に亘って放射冷却性能を与えることができるものとなる等、利便性が向上する。
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、低廉化を図りながら柔軟性を備えさせ、しかも、耐久性及び難燃性を適切に備えさせることができる放射冷却装置を提供することにある。
本発明の放射冷却装置は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させ、且つ、少なくとも前記赤外放射層に隣接する赤外放射層側に銀または銀合金を備える光反射層と、前記赤外放射層と前記光反射層との間に位置させる保護層とを備える形態に構成され、
前記赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整された樹脂材料層であるものであって、その特徴構成は、
前記樹脂材料層を形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂であり、
前記可塑剤が、脂肪族二塩基酸エステル類又はフタル酸エステル類からなる第1可塑剤とリン酸エステル類からなる第2可塑剤とを、前記第2可塑剤が5重量%以上、70重量%以下となるように配合したものである点にある。
本発明で用いられる塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの単独重合体及び塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの共重合体であり、その製造方法は、従来公知の重合方法で行われる。
すなわち、塩化ビニル系樹脂は、大気の窓領域において十分な熱輻射が得られるものである。
つまり、塩化ビニル系樹脂は、その熱輻射特性が大気の窓領域において大きな熱輻射が得られるフッ素樹脂やシリコーンゴムと同等であり、これら樹脂よりもかなり安価であるから、直射日光下で周囲温度よりも温度が低下する放射冷却装置を安価に構成するのに有効である。
塩化ビニル系樹脂には可塑剤が混入されているから、樹脂材料層が軟質性を備えることになる結果、放射冷却装置が柔軟性を備えるものとなる。
ちなみに、塩化ビニル系樹脂は、可塑剤を入れることにより軟質となることで、他物が接触しても他物に合わせて柔軟に形状を変化させることによって傷つくことを回避するため、長期に亘って美麗な状態に維持できる。ちなみに、薄膜状のフッ素樹脂は、硬質性であるから、他物の接触により柔軟に形状を変化させることができず傷がつき易く、美麗な状態を維持し難いものである。
また、塩化ビニル系樹脂に可塑剤を入れることにより、傷がついても80℃以上に加熱することで変形し表面傷を無くし平滑化することができ、つまりは傷を自己修復することができる。フッ素樹脂やシリコーンゴムにこの特性はない。軟質塩化ビニル系樹脂のこの特性によって綺麗な状態を長期間維持することができる。このことは長期にわたる放射冷却性能の維持につながる。
また、塩化ビニル系樹脂は、難燃性であり且つ生分解され難いものであるから、屋外で長期間使用する放射冷却装置の樹脂材料層を形成する樹脂材料として好適である。
しかも、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤が、脂肪族二塩基酸エステル類又はフタル酸エステル類からなる第1可塑剤とリン酸エステル類からなる第2可塑剤とを、前記第2可塑剤が5重量%以上、70重量%以下となるように配合したものであるから、赤外放射層を構成する樹脂材料層に耐久性及び難燃性を適切に備えさせることができる。
説明を加えると、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤として、脂肪族二塩基酸エステル類、フタル酸エステル類、リン酸エステル類を用いると、可塑剤が太陽光に含まれている紫外線(波長295nmから400nmの紫外光)を吸収し難いものとなるため、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂の耐久性の低下を抑制できる。
つまり、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤が紫外線を吸収すると、可塑剤の加水分解が進む結果、塩化ビニル系樹脂が脱塩酸等を生じて着色(茶色)し、しかも、機械強度の低下を生じる虞があるが、可塑剤が太陽光に含まれている紫外線を吸収し難いものとなるため、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂の耐久性の低下を抑制できるのである。
しかも、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤が、脂肪族二塩基酸エステル類又はフタル酸エステル類からなる第1可塑剤とリン酸エステル類からなる第2可塑剤とを、前記第2可塑剤が5重量%以上、70重量%以下となるように配合したものであるから、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂に、耐久性に加えて、難燃性を適切に備えさせることができる。
ちなみに、塩化ビニル系樹脂に耐久性を備えさせるとは、高温高湿環境下での使用による塩化ビニル系樹脂の黄変を減少及び高温高湿環境下での使用による塩化ビニル系樹脂の機械的伸びの低下を減少させる性質、紫外線の照射による塩化ビニル系樹脂の黄変を減少させる性質を備えさせることである。
また、塩化ビニル系樹脂に難燃性を備えさせるとは、可塑剤を混入した塩化ビニル樹脂を加熱した際に、塩化ビニル系樹脂が炭化し難い性質を備えさせることである。
そして、本発明者の鋭意研究により、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤を、脂肪族二塩基酸エステル類又はフタル酸エステル類からなる第1可塑剤とリン酸エステル類からなる第2可塑剤とを、前記第2可塑剤が5重量%以上、70重量%以下となるように配合したものとすることにより、塩化ビニル系樹脂に耐久性及び難燃性を適切に備えさせるに至った。
要するに、本発明の放射冷却装置の特徴構成によれば、低廉化を図りながら柔軟性を持たせることができ、しかも、耐久性及び難燃性を向上できる放射冷却装置を提供できる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記可塑剤が、前記塩化ビニル樹脂の100重量部に対して、1重量部以上、200重量部以下の範囲で混入されている点にある。
すなわち、塩化ビニル樹脂に混入する可塑剤が、塩化ビニル系樹脂の100重量部に対して、1重量部以上、200重量部以下の範囲で混入されているから、塩化ビニル樹脂に適度な柔軟性を備えさせることができる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記第1可塑剤としての前記脂肪族二塩基酸エステル類が、アジピン酸エステル類、アジピン酸エステル共重合体類、アゼライン酸エステル類、アゼライン酸エステル共重合体類、セバシン酸エステル類、セバシン酸エステル共重合体類、コハク酸エステル類及びコハク酸エステル共重合体類からなる群より選択される1つ以上の化合物である点にある。
すなわち、塩化ビニル系樹脂に混入する第1可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル類を、上述の群より選択される1つの以上化合物にすることにより、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂に、耐久性及び難燃性を適切に備えさせることができる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記第1可塑剤としての前記脂肪族二塩基酸エステル類が、脂肪族二塩基酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものである点にある。
すなわち、第1可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル類を、脂肪族二塩基酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものにすることにより、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂に、耐久性及び難燃性を適切に備えさせることができる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記第1可塑剤としての前記フタル酸エステル類が、フタル酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものである点にある。
すなわち、第1可塑剤としてのフタル酸エステル類を、フタル酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものにすることにより、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂に、耐久性及び難燃性を適切に備えさせることができる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記第2可塑剤としての前記リン酸エステル類が、リン酸トリエステル、又は、芳香族リン酸エステルである点にある。
すなわち、第2可塑剤としてのリン酸エステル類を、リン酸トリエステル、又は、芳香族リン酸エステルとすることにより、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂に、耐久性及び難燃性を適切に備えさせることができる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記樹脂材料層の膜厚が、
波長0.4μmから0.5μmの光吸収率の波長平均が13%以下であり、波長0.5μmから波長0.8μmの光吸収率の波長平均が4%以下であり、波長0.8μmから波長1.5μmまでの光吸収率の波長平均が1%以内であり、1.5μmから2.5μmまでの光吸収率の波長平均が40%以下となる光吸収特性を備え、且つ、8μmから14μmの輻射率の波長平均が40%以上となる熱輻射特性を備える状態の厚みに調整されている点にある。
尚、波長0.4μmから0.5μmの光吸収率の波長平均とは、0.4μmから0.5μmの範囲の波長毎の光吸収率の平均値を意味するものであり、波長0.5μmから波長0.8μmの光吸収率の波長平均、波長0.8μmから波長1.5μmまでの光吸収率の波長平均、及び、1.5μmから2.5μmまでの光吸収率の波長平均も同様である。また、輻射率を含む他の同様な記載も同様な平均値を意味するものであり、以下、本明細書においては同様である。
すなわち、樹脂材料層は、厚みによって光吸収率や輻射率(光放射率)が変化する。そのため、太陽光をできるだけ吸収せず、いわゆる大気の窓の領域の波長帯域(光の波長8μmから14μmの領域)において大きな熱輻射を発するように樹脂材料層の厚みを調整する必要がある。
具体的には、樹脂材料層における太陽光の光吸収率(光吸収特性)の観点において、波長0.4μmから0.5μmの光吸収率の波長平均が13%以下であり、波長0.5μmから波長0.8μmの光吸収率の波長平均が4%以下であり、波長0.8μmから波長1.5μmまでの光吸収率の波長平均が1%以内であり、波長1.5μmから2.5μmまでの光吸収率の波長平均が40%以下とする必要がある。尚、2.5μmから4μmまでの光吸収率については、波長平均が100%以下であればよい。
このような光吸収率が分布する場合、太陽光の光吸収率は10%以下となり、エネルギーで言うと100W以下となる。
つまり、太陽光の光吸収率は樹脂材料層の膜厚を厚くすると増加する。樹脂材料層を厚膜にすると、大気の窓の輻射率はほぼ1となり、その際に宇宙に放出する熱輻射は125W/mから160W/mとなる。
光反射層での太陽光吸収は50W/m以下であることが好ましい。
したがって、樹脂材料層と光反射層における太陽光吸収の和が150W/m以下であり、大気の状態がよければ冷却が進む。樹脂材料層は、以上のように太陽光スペクトルのピーク値付近の吸収率が小さなものを用いるのが良い。
また、樹脂材料層の赤外光を放射する輻射率(熱輻射特性)の観点では、波長8μmから14μmの輻射率の波長平均が40%以上となる必要がある。
すなわち、光反射層で吸収される50W/m程度の太陽光の熱輻射を樹脂材料層から宇宙に放出させるには、それ以上の熱輻射を樹脂材料層が出す必要がある。
例えば、外気温が30℃のとき、波長8μmから14μmの大気の窓の熱輻射の最大は200W/mである(輻射率1として計算)。この値が得られるのは、高山など、空気の薄いよく乾燥した環境の快晴時である。低地などでは大気の厚みが高山よりも厚くなるので、大気の窓の波長帯域は狭くなり、透過率は低下する。ちなみに、このことを「大気の窓が狭くなる」と呼ぶ。
また、実際に放射冷却装置を使用する環境は多湿であることもあり、その場合も大気の窓は狭くなる。低地で利用する際の大気の窓域で発生する熱輻射は、状態の良いときで30℃において160W/mと見積もられる(輻射率1として計算)。
また、日本ではよくあることであるが、空に靄があるときや、スモッグが存在する場合、大気の窓はさらに狭くなり、宇宙への放射は125W/m程度となる。
かかる事情を鑑みて、波長8μmから14μmの輻射率の波長平均は40%以上(大気の窓帯での熱輻射強度が50W/m以上)ないと中緯度帯の低地で用いることができない。
したがって、樹脂材料層の厚みを、上述した光学的規定の範囲になるように調整することにより、太陽光の光吸収による入熱よりも大気の窓における出熱の方が大きくなり、昼間の日射環境下でも屋外で放射冷却できるようになる。
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、太陽光の光吸収による入熱よりも大気の窓における出熱の方が大きくなって、日射環境下でも屋外で放射冷却できる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記樹脂材料層の厚みが、100μm以下で10μm以上である点にある。
すなわち、樹脂材料層を形成する樹脂材料が塩化ビニル系樹脂である場合において、樹脂材料層の厚みを、100μm以下で10μm以上にすることにより、日射環境下でも屋外で適切に放射冷却できる。
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、太陽光の光吸収による入熱よりも大気の窓における出熱の方が大きくなって、日射環境下でも屋外で適切に放射冷却できる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記光反射層は、波長0.4μmから0.5μmの反射率が90%以上、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上である点にある。
すなわち、太陽光スペクトルは波長0.295μmから4μmにかけて存在し、そして、波長が0.4μmから大きくなるにつれて強度が大きくなり、特に波長0.5μmから波長2.5μmにかけての強度が大きい。
光反射層が、波長0.4μmから0.5μmにかけて90%以上の反射率を示し、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上である反射特性を備えると、光反射層が太陽光エネルギーを5%程度以下しか吸収しなくなる。
その結果、夏場の南中時に、光反射層が吸収する太陽光エネルギーを50W/m程度以下とすることができ、樹脂材料層による放射冷却を良好に行うことができる。
尚、本明細書では、太陽光について、断りのない場合、スペクトルはAM1.5Gの規格とする。
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、光反射層よる太陽光エネルギーの吸収を抑えて、樹脂材料層による放射冷却を良好に行うことができる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記光反射層が、銀または銀合金で構成され、その厚みが50nm以上である点にある。
すなわち、光反射層に上述の反射特性、つまり、波長0.4μmから0.5μmの反射率が90%以上、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上である反射率特性を持たせるためには、光反射層における放射面側の反射材料としては、銀または銀合金である必要がある。
そして、銀または銀合金のみで前述の反射特性を持たせた状態で太陽光を反射する場合、厚さが50nm以上必要である。
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、光反射層よる太陽光エネルギーの吸収を的確に抑えて、樹脂材料層による放射冷却を良好に行うことができる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記光反射層が、前記樹脂材料層の存在側に位置する銀または銀合金と前記樹脂材料層から離れる側に位置するアルミまたはアルミ合金の積層構造である点にある。
すなわち、光反射層に前述の反射率特性を持たせるためには、銀または銀合金とアルミまたはアルミ合金を積層させた構造にしてもよい。なお、この場合も放射面側の反射材料は銀または銀合金である必要がある。この場合、銀の厚みは10nm以上必要であり、アルミの厚みは30nm以上必要である。
そして、アルミまたはアルミ合金は、銀または銀合金よりも安価であるから、適切な反射率特性を持たせながらも、光反射層の低廉化を図ることができる。
つまり、高価な銀または銀合金を薄くして、光反射層の低廉化を図るようにしながらも、光反射層を、銀または銀合金とアルミまたはアルミ合金との積層構造にすることにより、適切な反射率特性を持たせながらも、光反射層の低廉化を図ることができる。
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、適切な反射率特性を持たせながらも、光反射層の低廉化を図ることができる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記保護層が、厚さが300nm以上で、40μm以下のポリオレフィン系樹脂、又は、厚さが17μm以上で、40μm以下のポリエチレンテレフタラート樹脂である点にある。
すなわち、赤外放射層としての樹脂材料層の放射面から入射する太陽光は、樹脂材料層及び保護層を透過した後、樹脂材料層の放射面の存在側とは反対側にある光反射層で反射され、放射面から系外へ逃がされる。
そして、保護層が、ポリオレフィン系樹脂にて厚さが300nm以上で、40μm以下の形態に、又は、エチレンテレフタラート樹脂にて厚さが17μm以上で、40μm以下の形態に形成されているから、昼間の日射環境においても、光反射層の銀または銀合金が変色することを抑制できるため、光反射層にて太陽光を適切に反射させるようにしながら、昼間の日射環境においても、冷却機能を的確に発揮させることができる。
つまり、保護層が存在しない場合には、樹脂材料層にて発生したラジカルが光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することや、樹脂材料層を透過する水分が光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することにより、光反射層の銀または銀合金が短期間で変色して、光反射機能を適切に発揮しない状態になる虞があるが、保護層の存在により、光反射層の銀または銀合金が短期間で変色することを抑制できる。
保護層にて光反射層の銀または銀合金の変色を抑制することについて説明を加える。
保護層が、ポリオレフィン系樹脂にて厚さが300nm以上で、40μm以下の形態に形成される場合には、ポリオレフィン系樹脂は、波長0.3μmから0.4μmの紫外線の波長域の全域において紫外線の光吸収率が10%以下である合成樹脂であるから、保護層が紫外線の吸収により劣化し難いものとなる。
そして、保護層を形成するポリオレフィン系樹脂の厚さが、300nm以上であるから、樹脂材料層にて発生したラジカルが光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することを遮断し、また、樹脂材料層を透過する水分が光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することを遮断する等の遮断機能を良好に発揮することになり、光反射層を形成する銀又は銀合金の変色を抑制できることになる。
つまり、ポリオレフィン系樹脂にて形成される保護層は、紫外線の吸収により、反射層から離れる表面側にラジカルを形成しながら劣化することになるが、厚さが300nm以上であるから、形成したラジカルが光反射層に到達することはなく、また、ラジカルを形成しながら劣化するにしても、紫外線の吸収が低いことにより劣化の進み具合は遅いものであるから、上述の遮断機能を長期に亘って発揮することになる。
保護層が、エチレンテレフタラート樹脂にて厚さが17μm以上で、40μm以下の形態に形成される場合には、エチレンテレフタラート樹脂は、ポリオレフィン系樹脂よりも、波長0.3μmから0.4μmの紫外線の波長域において紫外線の光吸収率が高い樹脂材料であるが、厚さが17μm以上であるから、樹脂材料層にて発生したラジカルが光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することを遮断し、また、樹脂材料層を透過する水分が光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することを遮断する等の遮断機能を長期に亘って良好に発揮することになり、保護層を形成する銀又は銀合金の変色を抑制できることになる。
つまり、エチレンテレフタラート樹脂にて形成される保護層は、紫外線の吸収により、反射層から離れる表面側にラジカルを形成しながら劣化することになるが、厚さが17μm以上であるから、形成したラジカルが反射層に到達することはなく、また、ラジカルを形成しながら劣化するにしても、厚さが17μm以上であるから、上述の遮断機能を長期に亘って発揮することになる。
尚、ポリオレフィン系樹脂及びエチレンテレフタラート樹脂にて保護層を形成する場合において、その厚さの上限を定める理由は、保護層が放射冷却に寄与しない断熱性を奏することを極力回避するためである。つまり、保護層は、厚さが厚くなるほど放射冷却に寄与しない断熱性を奏することになるから、反射層を保護する機能を発揮させながらも、放射冷却に寄与しない断熱性を奏することを極力回避するために、厚さの上限が定められることになる。
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、光反射層の銀または銀合金が短期間で変色することを抑制しながら良好に冷却できる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記樹脂材料層と前記保護層と前記光反射層とが積層された状態においてフィルム状である点にある。
すなわち、樹脂材料層と保護層と光反射層とが積層された状態においてフィルム状である。つまり、樹脂材料層と保護層と光反射層とが積層された状態に形成される放射冷却装置が、放射冷却フィルムとして作製されている。
そして、樹脂材料層及び保護層が柔軟性を備えているから、光反射層を薄膜状にして、光反射層に柔軟性を備えさせることにより、放射冷却装置(放射冷却フィルム)が、柔軟性を備えることになる。
したがって、フィルム状でかつ柔軟性を備える放射冷却装置(放射冷却フィルム)を、既設の屋外設備における外壁等に後付けして、放射冷却性能を与えるようにすることを良好に行える。
ちなみに、放射冷却装置(放射冷却フィルム)をフィルム状に作製するには、種々の形態が考えられる。例えば、フィルム状に作製された光反射層に保護層及び樹脂材料層を塗布して作ることが考えられる。あるいは、フィルム状に作製された光反射層に保護層及び樹脂材料層を貼り付けて作ることが考えられる。或いは、フィルム状に作製された樹脂材料層上に、塗布あるいは貼着により保護層を形成し、保護層上に、蒸着・スパッタリング・イオンプレーティング・銀鏡反応などによって光反射層を作製することが考えられる。
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、既設の設備に後付けして放射冷却性能を与えることを良好に行うことができる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記樹脂材料層と前記保護層とが、接着剤又は粘着剤の接合層にて接合されている点にある。
すなわち、樹脂材料層と保護層とを、接着剤又は粘着剤の接合層にて接合するものであるから、例えば、光反射層と保護層とを積層状態に形成し、別途製作した樹脂材料層と保護層とを接合層にて接合する手順にて、樹脂材料層と保護層と光反射層とが積層された状態に良好に形成することができる。
ちなみに、樹脂材料層と保護層との間に接合層が位置する場合には、接合層からもラジカルが発生することになるが、保護層を形成するポリオレフィン系樹脂の厚さが300nm以上であり、保護層を形成するエチレンテレフタラート樹脂の厚さが17μm以上であれば、接合層にて発生したラジカルが光反射層に到達することを、長期に亘って抑制できる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、樹脂材料層に、無機材料のフィラーが混入されている点にある。
すなわち、樹脂材料層に無機材料のフィラーを混入させることにより、樹脂材料層に光散乱構成を備えさせることができる。
そして、光散乱構成を備えさせることにより、放射面を見たときに、放射面のギラツキを抑制できるものとなる。
フィラーを形成する無機材料としては、二酸化ケイ素(SiO酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)等を好適に使用できる。ちなみに、樹脂材料層にフィラーを混入すると、樹脂材料層の表裏両面が凹凸状になる。
尚、樹脂材料層と保護層との間に接合層が位置するから、樹脂材料層の裏面が凹凸状になっていても、樹脂材料層と保護層とを接合層によって適切に接合することができる。
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、放射面のギラツキを抑制できる。
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記樹脂材料層の表裏両面が凹凸状に形成されている点にある。
すなわち、樹脂材料層の表裏両面を凹凸状に形成することにより、樹脂材料層に光散乱構成を備えさせることができる。
そして、光散乱構成を備えさせることにより、放射面を見たときに、放射面のギラツキを抑制できるものとなる。
ちなみに、樹脂材料層の表裏両面を凹凸状にするには、エンボス加工や表面に傷を付ける加工等を行うことにより行うことができる。
尚、樹脂材料層と保護層との間に接合層が位置するから、樹脂材料層の裏面が凹凸状になっていても、樹脂材料層と保護層とを接合層によって適切に接合することができる。
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、放射面のギラツキを抑制できる。
放射冷却装置の基本構成を説明する図である。 樹脂材料の光吸収率と波長との関係を示す図である。 塩化ビニル樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。 塩化ビニリデン樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。 銀をベースにした光反射層の光反射率スペクトルを示す図である。 放射冷却装置の具体構成を示す図である。 放射冷却装置の具体構成を示す図である。 放射冷却装置の具体構成を示す図である。 放射冷却装置の具体構成を示す図である。 ポリエチレンの光透過率と波長との関係を示す図である。 試験用構成を説明する図である。 保護層がポリエチレンの場合の試験結果を示す図である。 保護層が紫外線吸収アクリルの場合の試験結果を示す図である。 ポリエチレンの輻射率スペクトルを示す図である。 実験結果をまとめた表である。 高温高湿試験における黄変の結果を示す表である。 キセノン照射試験における黄変の結果を示す表である。 高温高湿試験における伸び保持性の結果を示す表である。 ミクロバーナー法における難燃性の結果を示す表である。 防炎試験の形態を示す図である。 放射冷却装置の別構成を説明する図である。 樹脂材料層にフィラーを混入させた構成を説明する図である。 樹脂材料層の表裏を凹凸状にした構成を説明する図である。 実験結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔放射冷却装置の基本構成〕
図1に示すように、放射冷却装置CPは、放射面Hから赤外光IRを放射する赤外放射層Aと、当該赤外放射層Aにおける放射面Hの存在側とは反対側に位置させる光反射層Bと、赤外放射層Aと光反射層Bとの間に位置させる保護層Dとを積層状態に備え、且つ、フィルム状に形成されている。
つまり、放射冷却装置CPが、放射冷却フィルムとして構成されている。
光反射層Bは、赤外放射層A及び保護層Dを透過した太陽光等の光Lを反射するものである。そして、その反射特性が、波長0.4μmから0.5μmの反射率が90%以上、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上である。
太陽光スペクトルは、波長0.295μm(295nm)から4μm(4000nm)にかけて存在し、波長0.4μm(400nm)から大きくなるにつれ強度が大きくなり、特に波長0.5μm(500nm)から波長1.8μm(1800nm)にかけての強度が大きい。
尚、本実施形態において、光Lとは、紫外光(紫外線)、可視光、赤外光を含むものであり、これらを電磁波としての光の波長で述べると、その波長が10nmから20000nm(0.01μmから20μmの電磁波)の電磁波を含む。本書では、紫外光(紫外線)の波長域が、295nm(0.295μm)以上で、400nm(0.4μm)以下の範囲であるとする。
光反射層Bが、波長0.4μmから0.5μmにかけて90%以上の反射特性を示し、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上の反射特性を示すことにより、放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)が光反射層Bで吸収する太陽光エネルギーを5%以下に抑えることができ、すなわち夏場の南中時に吸収する太陽光エネルギーを50W程度とすることができる。
光反射層Bは、少なくとも赤外放射層に隣接する赤外放射層側に銀または銀合金を備えるものである。すなわち、その全体が銀あるいは銀合金で構成される、又は、保護層Dに隣接して位置する銀または銀合金と保護層Dから離れる側に位置するアルミまたはアルミ合金の積層構造(換言すれば、樹脂材料層Jの存在側に位置する銀または銀合金と樹脂材料層Jから離れる側に位置するアルミまたはアルミ合金の積層構造)であるとして構成されて、柔軟性を備えるものであって、その詳細は後述する。
赤外放射層Aは、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整された樹脂材料層Jとして構成されるものである。
樹脂材料層Jの詳細は後述するが、本実施形態では、樹脂材料層Jを形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂である。つまり、樹脂材料層Jを形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル樹脂、又は、可塑剤が混入された塩化ビニリデン樹脂である。可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂は、伸性(伸び易さ)が優れている。
本発明で用いられる塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの単独重合体及び塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの共重合体であり、その製造方法は、従来公知の重合方法で行われるものである。
従って、放射冷却装置CPは、放射冷却装置CPに入射した光Lのうちの一部の光を、赤外放射層Aの放射面Hにて反射し、放射冷却装置CPに入射した光Lのうちで樹脂材料層J及び保護層Dを透過した光(太陽光等)を、光反射層Bにて反射して、放射面Hから外部へ逃がすように構成されている。
そして、光反射層Bにおける樹脂材料層Jの存在側とは反対側に位置する冷却対象物Eからの放射冷却装置CPへの入熱(例えば、冷却対象物Eからの熱伝導による入熱)を、樹脂材料層Jによって赤外光IRに変換して放射することにより、冷却対象物Eを冷却するように構成されている。
つまり、放射冷却装置CPは、当該放射冷却装置CPへ照射される光Lを反射し、また、当該放射冷却装置CPへの伝熱(例えば、大気からの伝熱や冷却対象物Eからの伝熱)を赤外光IRとして外部に放射するように構成されている。
また、樹脂材料層J、保護層D及び光反射層Bが柔軟性を備えることによって、放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)が柔軟性を備えるように構成されている。
加えて、放射冷却装置CPは、赤外光IRを樹脂材料層Jの光反射層Bと接する面とは反対側の放射面Hから放射する放射冷却方法を実施するために用いられることになり、具体的には、放射面Hを空に向け、当該空に向けた放射面Hから赤外光IR放射する放射冷却方法を実施することになる。
〔樹脂材料層の概要〕
樹脂材料層Jを形成する樹脂材料(塩化ビニル樹脂)は、厚みによって光吸収率や輻射率(光放射率)が変化する。そのため、太陽光をできるだけ吸収せず、いわゆる大気の窓の波長帯域(波長8μmから波長14μmの帯域)において大きな熱輻射を発するように樹脂材料層Jの厚みを調整する必要がある。
具体的には、太陽光の光吸収率の観点で、樹脂材料層Jの厚みを、波長0.4μmから0.5μmの光吸収率の波長平均が13%以下であり、波長0.5μmから波長0.8μmの光吸収率の波長平均が4%以下であり、波長0.8μmから波長1.5μmまでの光吸収率の波長平均が1%以内であり、波長1.5μmから2.5μmまでの光吸収率の波長平均が40%以下であり、波長2.5μmから4μmまでの光吸収率の波長平均が100%以下である状態の厚みに調整する必要がある。
このような吸収率分布の場合、太陽光の光吸収率は10%以下となり、エネルギーで言うと100W以下となる。
後述の如く、樹脂材料の光吸収率は樹脂材料の膜厚を厚くすると増加する。樹脂材料を厚膜にすると、大気の窓の輻射率はほぼ1となり、その際に宇宙に放出する熱輻射は125W/mから160W/mとなる。保護層D及び光反射層Bでの太陽光吸収は50W/m以下である。樹脂材料層J、保護層D及び光反射層Bにおける太陽光吸収の和が150W/m以下であり、大気の状態がよければ冷却が進む。樹脂材料層Jを形成する樹脂材料は、以上のように太陽光スペクトルのピーク値付近の光吸収率が小さなものを用いるのが良い。
また、樹脂材料層Jの厚みは、赤外放射(熱輻射)の観点では、波長8μmから14μmの輻射率の波長平均が40%以上となる状態の厚みに調整する必要がある。
保護層D及び光反射層Bで吸収される50W/m程度の太陽光の熱エネルギーを、樹脂材料層Jの熱輻射より樹脂材料層Jから宇宙に放出させるには、それ以上の熱輻射を樹脂材料層Jが出す必要がある。
例えば、外気温が30℃のとき、8μmから14μmの大気の窓の熱輻射の最大は200W/mである(輻射率1として計算)。この値が得られるのは、高山など、空気の薄いよく乾燥した環境の快晴時である。低地などでは大気の厚みが高山よりも厚くなるので、大気の窓の波長帯域は狭くなり、透過率は低下する。ちなみに、このことを「大気の窓が狭くなる」と呼ぶ。
また、放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)を実際に使用する環境は多湿であることもあり、その場合においても大気の窓は狭くなる。低地で利用する際の大気の窓域で発生する熱輻射は、状態の良いときで30℃において160W/mと見積もられる(輻射率1として計算)。また、日本ではよくあることであるが空に靄があるときや、スモッグが存在する場合、大気の窓はさらに狭くなり、宇宙への放射は125W/m程度となる。
かかる事情を鑑みて、波長8μmから14μmの輻射率の波長平均は40%以上(大気の窓帯での熱輻射強度が50W/m)ないと中緯度帯の低地で用いることができない。
したがって、上記事項を鑑みた光学的規定の範囲になるように樹脂材料層Jの厚みを調整すると、太陽光の光吸収による入熱よりも大気の窓における出熱の方が大きくなり、日射環境下でも屋外で放射冷却により外気より低温とすることができるようになる。
本実施形態においては、塩化ビニル系樹脂にて形成される樹脂材料層Jの厚みが、100μm以下で10μm以上である。
〔樹脂材料の詳細〕
キルヒホッフの法則により、輻射率(ε)と光吸収率(A)は等しい。光吸収率は吸収係数(α)から下記の式(1)(以下、光吸収率関係式と呼ぶことがある)にて求めることができる。
A=1-exp(-αt)---(1)尚、tは膜厚である。
つまり、樹脂材料層Jの膜厚を調整すると、吸収係数の大きな波長帯域で大きな熱輻射が得られる。屋外で放射冷却する場合、大気の窓の波長帯域である波長8μmから14μmにおいて吸収係数の大きな材料を用いるとよい。
また、太陽光の吸収を抑制するために波長0.3μmから4μm、特に0.4μmから2.5μmの範囲で吸収係数を持たない、或いは小さな材料を用いるとよい。吸収係数と吸収率の関係式からわかるように、光吸収率(輻射率)は樹脂材料の膜厚によって変化する。
日射環境下での放射冷却によって周囲の大気より温度を下げるためには、大気の窓の波長帯域において大きな吸収係数をもち、太陽光の波長帯域では吸収係数を殆ど持たない材料を選ぶと、膜厚の調整によって太陽光は殆ど吸収しないが、大気の窓の熱輻射を多く出す、つまりは太陽光の入力よりも放射冷却による出力の方が大きな状態を作り出すことができる。
太陽光スペクトルは波長0.295μmより長波しか存在しない。なお、紫外線の定義は波長0.4μmよりも短波長側の範囲、可視光線の定義は波長0.4μmから0.8μmの範囲、近赤外線の定義は波長0.8μmから3μmの範囲、中赤外線の定義は3μmから8μmの範囲、遠赤外線の定義は波長8μmよりも長波の範囲とする。
炭素-塩素結合(C-Cl)に関して、アルケンの炭素と塩素の結合エネルギーは3.28eVであり、その波長は0.378μmであるので、太陽光のうちの紫外線を多く吸収するが、可視域については吸収をほとんど持たない。
厚さ100μmの塩化ビニル樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを図2に示すが、波長0.38μmよりも短波長側で光吸収が大きくなる。
厚さ100μmの塩化ビニリデン樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを図2に示すが、波長0.4μmよりも短波長側で若干の吸収率スペクトルの増加がみられる。
図3に、炭素-塩素結合をもつ樹脂である塩化ビニル樹脂(PVC)の大気の窓における輻射率を示す。また、図4に、炭素-塩素結合をもつ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)の大気の窓における輻射率を示す。
炭素-塩素結合に関しては、C-Cl伸縮振動による吸収係数が波長12μmを中心に半値幅1μm以上の広帯域に現れる。
また、塩化ビニル樹脂の場合、塩素の電子吸引の影響で、主鎖に含まれるアルケンのC-Hの変角振動に由来する吸収係数が波長10μmあたりに現れる。塩化ビニリデン樹脂についても同様である。
これらの影響で、厚さ10μmの輻射率の波長平均は、波長8μmから14μmにおいて43%であり、波長平均40%以上という規定の中に入る。図示の通り、膜厚が厚くなると大気の窓領域における輻射率は増大する。
樹脂材料層Jの大気の窓の熱輻射は樹脂材料の表面近傍で発生する。
図3に示す如く、塩化ビニル樹脂の場合は100μmより厚くなっても大気の窓領域における熱輻射の増大は殆どなくなる。つまり、塩化ビニル樹脂場合、大気の窓における熱輻射は表面から深さ約100μm以内の部分で生じており、より深い部分の輻射は外に出てこない。
図4に示す如く、塩化ビニリデン樹脂は、塩化ビニル樹脂と同様であることが分かる。
以上のように、樹脂材料表面から発生する大気の窓領域の熱輻射は、表面からの深さが概ね100μm以内の部分で生じており、それ以上に樹脂の厚みが増していくと、熱輻射に寄与しない樹脂材料によって、放射冷却装置CPの放射冷却した冷熱が断熱される。
理想的に太陽光を全く吸収しない樹脂材料層Jを光反射層Bの上に作製することを考える。この場合、太陽光は放射冷却装置CPの光反射層Bでのみ吸収される。
樹脂材料の熱伝導率はおしなべて0.2W/m/K程度であり、この熱伝導性を考慮して計算すると、樹脂材料層Jの厚みが20mmを超えると、冷却面(光反射層Bにおける樹脂材料層Jの存在側とは反対側の面)の温度が上昇する。
太陽光をまったく吸収しない理想的な樹脂材料が存在したとしても、樹脂材料の熱伝導率はおしなべて0.2W/m/K程度であるので、20mmを超えると光反射層Bが日射を受けて加熱されてしまい、光反射層側に設置された冷却対象物Eは加熱される。つまり、放射冷却装置CPの樹脂材料の厚みは20mm以下にする必要がある。
〔樹脂材料層の厚みについて〕
放射冷却装置CPの実用の観点では、樹脂材料層Jの厚みは薄い方がよい。樹脂材料の熱伝導率は、金属やガラスなどよりも一般に低い。冷却対象物Eを効果的に冷却するには、樹脂材料層Jの膜厚は必要最低限であるのがよい。樹脂材料層Jの膜厚を厚くするほどに大気の窓の熱輻射は大きくなり、ある膜厚を超えると大気の窓における熱輻射エネルギーは飽和する。
飽和する膜厚は樹脂材料にもよるが、炭素-塩素結合を含む樹脂の場合、厚みが100μmであっても飽和しており、厚さ50μmでも大気の窓領域において十分な熱輻射が得られる。樹脂材料の厚さが薄い方が、熱貫流率が高まり被冷却物の温度をより効果的に下げられるので、炭素-塩素結合を含む樹脂の場合、50μm以下の厚さにすると断熱性が小さくなり冷却対象物Eを効果的に冷却することができる。炭素-塩素結合の場合には、100μm以下の厚さであれば、冷却対象物Eを効果的に冷却することができる。
薄くする効用は断熱性を下げて冷熱を伝えやすくすること以外にもある。それは、炭素-塩素結合を含む樹脂が呈する、近赤外域でのCH、CH、CH由来の近赤外域の光吸収の抑制である。薄くすると、これらによる太陽光吸収を小さくすることができるので、放射冷却装置CPの冷却能力が高まることになる。
以上の観点から、炭素-塩素結合を含む樹脂である塩化ビニル系樹脂の場合、50μm以下の厚さにするとより効果的に日照下において放射冷却効果を出すことができる。
〔光反射層の詳細〕
光反射層Bに上述の反射率特性を持たせるためには、放射面Hの存在側(赤外放射層Aに隣接する赤外放射層側)の反射材料は銀または銀合金である必要がある。
図5に示す通り、銀をベースとして光反射層Bを構成すれば、光反射層Bに求められる反射率が得られる。
銀または銀合金のみで太陽光を前記の反射率特性を持たせた状態で反射する場合、厚さが50nm以上必要である。
但し、光反射層Bに柔軟性を備えさせるためには、厚さを100μm以下にする必要がある。これ以上厚いと曲げにくくなる。
ちなみに、「銀合金」としては、銀に、銅、パラジウム、金、亜鉛、スズ、マグネシウム、ニッケル、チタンのいずれかを、例えば、0.4質量%から4.5質量%程度添加した合金を用いることができる。具体例としては、銀に銅とパラジウムを添加して作成した銀合金である「APC-TR(フルヤ金属製)」を用いることができる。
光反射層Bに上述の反射率特性を持たせるためには、保護層Dに隣接して位置する銀または銀合金と保護層Dから離れる側に位置するアルミまたはアルミ合金とを積層させた構造にしてもよい。尚、この場合においても、放射面Hの存在側(樹脂材料層Jの存在側)の反射材料は銀または銀合金である必要がある。
銀(銀合金)とアルミ(アルミ合金)の2層で構成する場合、銀の厚みは10nm以上必要であり、アルミの厚みは30nm以上必要である。
但し、光反射層Bに柔軟性を備えさせるためには、銀の厚さとアルミの厚さとの合計を100μm以下にする必要がある。これ以上厚いと曲げにくくなる。
ちなみに、「アルミ合金」としては、アルミに、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、機械構造用炭素鋼、イットリウム、ランタン、ガドリニウム、テルビウムを添加した合金を用いることができる。
銀および銀合金は雨や湿度に弱くそれらから保護をする必要があり、また、その変色を抑制する必要がある。そのために、図6から図9に示す如く、銀や銀合金に隣接させる形態で、銀を保護する保護層Dが必要である。
保護層Dの詳細は、後述する。
〔可塑剤の詳細〕
樹脂材料層Jを形成する塩化ビニル樹脂に混入する可塑剤は、脂肪族二塩基酸エステル類又はフタル酸エステル類からなる第1可塑剤とリン酸エステル類からなる第2可塑剤とを、可塑剤の全体に対して第2可塑剤が5重量%以上、70重量%以下となるように配合したものである。
そして、可塑剤が、塩化ビニル系樹脂の100重量部に対して、1重量部以上で、200重量部以下の範囲で混入されている。
加工の観点で可塑剤の重量部は100重量部以下が望ましい。
第1可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル類が、アジピン酸エステル類、アジピン酸エステル共重合体類、アゼライン酸エステル類、アゼライン酸エステル共重合体類、セバシン酸エステル類、セバシン酸エステル共重合体類、コハク酸エステル類及びコハク酸エステル共重合体類からなる群より選択される1つ以上の化合物であるとよい。
第1可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル類が、脂肪族二塩基酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものであるとよい。
前記第1可塑剤としてのフタル酸エステル類が、フタル酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものであるとよい。
第2可塑剤としてのリン酸エステル類が、リン酸トリエステル、又は、芳香族リン酸エステルであるとよい。
〔可塑剤の考察〕
以下、塩化ビニル系樹樹脂に混入する可塑剤について考察する。
(塩化ビニル系樹脂の劣化について)
塩化ビニル系樹樹脂(フィルム)の太陽光による劣化は、可塑剤の紫外線による劣化が大きく関与している。
通常屋外で長期使用される塩化ビニル系樹樹脂(可塑剤が混入されている)は、着色や添加剤によって太陽光に含まれる紫外線から守られている。例えば黒等の色に着色され、紫外線の影響を受けづらい状態となっていることが多い。一方、放射冷却装置CPの場合、放射冷却性能を得るために太陽光の吸収を最小限に抑える必要がある。そのため可塑剤を守るための添加物や染料・顔料を十分に入れることができない。
エステル系可塑剤の紫外線による劣化は、主に紫外線エネルギーを可塑剤が吸収することによって生じる。
紫外線吸収は、主に可塑剤のエステル結合の結合エネルギーを超える電子遷移が生じることによって生じる。紫外線による活性エネルギーの付与と水分子により、塩化ビニル系樹樹脂に混入された可塑剤の加水分解が進む。
可塑剤の結合が切れると、切れた結合が周囲の塩化ビニル系樹脂を攻撃し、脱塩酸等生じて着色する。また、このことにより機械強度も低下する。
塩化ビニル系樹脂が着色すると、太陽光を放射冷却装置CPが吸収するために日中では冷却できなくなる。
故に、他用途では直射日光に晒される屋外用途で用いられる可塑剤(トリメリット酸エステル、エポキシ化脂肪酸エステル)を、放射冷却装置CPでは用いることができず、放射冷却装置CPの可塑剤として、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類、リン酸トリエステル類、芳香族リン酸エステル類を用いることができる。
<フタル酸エステル類の詳細>
フタル酸エステル類を列挙すると、次の通りである。
フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジトリデシル(DTDP)、テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOTP)、イソフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOIP)等。
尚、フタル酸エステル類の代表例としての、DOP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)、DBP(フタル酸ジブチル)は、295nmより長波の紫外線を殆ど吸収しない。
<脂肪族二塩基酸エステル類の詳細>
脂肪族二塩基酸エステル類を列挙すると、次の通りである。
アジピン酸ジブチル(DBA)、アジピン酸ジイソブチル(DIBA)、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、アゼライン酸ビス-2-エチルヘキシル(DOZ)、セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOS)、セバシン酸ジイソノニル(DINS)、コハク酸ジエチル(DESU)等。
また、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸等の2塩基酸とジオール(二官能アルコール、あるいはグリコール)との共重合(ポリエステル化)によって合成された分子量400~4000の脂肪族ポリエステル。
尚、脂肪族二塩基酸エステル類の代表例としての、DOA(アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル)は、295nmより長波の紫外線を殆ど吸収しない。
<リン酸トリエステル類>
リン酸トリエステル類を列挙すると、次の通りである。
トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリブチルホスフェート(TBP)、トリス(2エチルヘキシル)ホスフェート(TOP)。
尚、リン酸トリエステル類の代表例としての、トリブチルホスフェート(TBP)は、295nmより長波の紫外線を殆ど吸収しない。
<芳香族リン酸エステル>
芳香族リン酸エステル類を列挙すると、次の通りである。
トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレシルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、トレジルジフェニルホスフェート(CDP)、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート。
香族リン酸エステル類は、295nmより長波の紫外線を殆ど吸収しない。
<適正な可塑剤の評価について>
第1可塑剤として、アジピン酸エステル共重合体(アジピン酸1-3ブタンジオール共重合体)を選択し、第1可塑剤としてのアジピン酸エステル共重合体と第2可塑剤としてのリン酸エステル類(リン酸オクチルジフェニル)とからなる可塑剤を、塩化ビニル樹脂100重量部に対して30重量部を混合して、塩化ビニル樹脂の耐久性と難燃性とを評価した。尚、塩化ビニル樹脂には、トリアジン系の紫外線吸収剤とヒンダードアミン系の光安定剤の夫々が、塩化ビニル樹脂の100重量部あたり、0.5重量部混入されている。
具体的には、可塑剤全体に対する第2可塑剤としてのリン酸エステル類(以下において、難燃可塑剤と呼称する場合がある)の配合割合(重量%)を、0重量%、0.1重量%、1重量%、5重量%、10重量%、30重量%、50重量%、70重量%、100重量%に変化させながら、塩化ビニル樹脂の耐久性と難燃性とを評価した。
ちなみに、塩化ビニル系樹脂に耐久性を備えさせるとは、高温高湿環境下での使用による塩化ビニル系樹脂の黄変(以下において、高温高湿黄変と呼称する場合がある)を減少させる性質、高温高湿環境下での使用による塩化ビニル系樹脂の機械的伸び(以下において、伸び保持性と呼称する場合がある)の低下を減少させる性質、紫外線の照射による塩化ビニル系樹脂の黄変(以下において、キセノン黄変と呼称する場合がある)を減少させる性質を備えさせることである。
また、塩化ビニル系樹脂に難燃性を備えさせるとは、可塑剤を混入した塩化ビニル樹脂を加熱した際に、塩化ビニル系樹脂が炭化し難い性質を備えさせることである。
図16に、槽内温度65℃、湿度85%RHでの耐高温高湿試験を500時間行ったときの黄変(高温高湿黄変)の結果を示す。
難燃可塑剤が、0.1重量%以上配合されていれば、高温高湿黄変が発生しない。
図17に、キセノン照射試験を1440時間実施したときの黄変(キセノン黄変)の結果を示す。
キセノン照射試験(キセノンウエザー試験)の条件は以下の通りである。
紫外線強度180W/m(波長295-400nm)。
〈散水なし条件〉BPT63℃、湿度50%、1時間42分。
〈散水あり条件〉槽内温度38℃、湿度90%、18分。
難燃可塑剤が、0.1重量%以上且つ70重量%以下に配合されていれば、キセノン黄変が発生しない。
図18に、上述の耐高温高湿試験(図18では耐久試験と記載)を500時間行ったときの機械的伸び(伸び保持性)の結果を示す。
尚、伸び保持性=(耐高温高湿試験後のダンベル試験片の破断伸び:耐久試験後変位)/(耐高温高湿試験を実施しないダンベル試験片の破断伸び:耐久試験前変位)とする。
難燃可塑剤が、70重量%以下に配合されていれば、伸び保持性を50%以上に保持できる。
ちなみに、図18には、耐久試験前において試験片が破断するときの耐久試験前荷重と耐久試験後において試験片が破断するときの耐久試験後荷重とを記載し、併せて、最大荷重(%)を記載する。
最大荷重(%)=(耐久試験後荷重)/(耐久試験前荷重)
図20に示す如く、日本消防協会の定める防災試験を参考にして、試験片Kを45度に傾け、当該試験片Kを下方側からミクロバーナーRにて1分(もしくは程よいタイミングまで)加熱する防炎試験を行った。図19に、その防炎試験による炭化面積を比較したときの結果を示す。炭化面積が少ないほど、難燃性が優れていることになる。
尚、本実施形態におけるミクロバーナーRによる防炎試験では、試験片Kとして、樹脂材料層Jに相当する塩化ビニル樹脂の層、保護層Dに相当するポリエチレンテレフタラートの層、光反射層Bに相当する銀の層を積層したものを用意し、当該試験片Kを、銀の層を下側に位置させる状態で45度に傾ける状態で設置して、ミクロバーナーRにて加熱する試験を行った。
当該試験の結果、難燃可塑剤の配合量が、5重量%未満であれば、試験片の全体が炭化される(全焼する)が、難燃可塑剤が、5重量%以上に配合されていれば、試験片の全体が炭化されない(全焼しない)ことが確認できた。
上記の各種の試験の結果を図15にまとめて記載するが、図15の表に示す如く、難燃可塑剤が5重量%以上、70重量%以下に配合されていれば、塩化ビニル樹脂に耐久性及び難燃性を適切に備えさせることができる。
つまり、難燃可塑剤の配合量が5重量%未満であると、難燃性を備えさせることができないものとなり、難燃可塑剤の配合量が70重量%を超えると、伸び保持性を備えさせることができず、また、キセノン黄変が生じるものとなる。
〔その他の添加剤について〕
樹脂材料層Jを形成する塩化ビニル系樹脂には、安定剤、安定化助剤、充てん剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤が入っていてもよい。
<安定剤>
安定剤としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸化合物、ジメチルスズビス-2-エチルヘキシルチオグリコレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズビスブチルマレエート、ジブチルスズジラウレート等の有機錫系化合物、アンチモンメルカプタイド化合物等が例示される。又、塩化ビニル樹脂100重量部に対する安定剤の配合量は0.1~20重量部程度である。
<安定化助剤>
安定化助剤としては、トリフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリデシルフォスファイト等のホスファイト系化合物、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等のベータジケトン化合物、グリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等のポリオール化合物、過塩素酸バリウム塩、過塩素酸ナトリウム塩等の過塩素酸塩化合物、ハイドロタルサイト化合物、ゼオライトなどが例示される。又、塩化ビニル樹脂100重量部に対する安定化助剤の配合量は0.1~20重量部程度である。
<充填剤>
充填剤としては、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、珪藻土、フェライト、などの金属酸化物、ガラス、炭素、金属などの繊維及び粉末、ガラス球、グラファイト、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウムなどが例示される。又、塩化ビニル樹脂100重量部に対する充填剤の配合量は1~100重量部程度である。
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート]メタン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノンなどのフェノール系化合物、アルキルジスルフィド、チオジプロピオン酸エステル、ベンゾチアゾールなどの硫黄系化合物、トリスノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトなどのリン酸系化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛などの有機金属系化合物などが例示される。又、塩化ビニル樹脂100重量部に対する酸化防止剤の配合量は0.2~20重量部程度である。
<紫外線吸収剤>
紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート、p-tert-ブチルフェニルサリシレートなどのサリシレート系化合物、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-ジオクチルアミノメチルベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系化合物の他、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物などが例示される。又、塩化ビニル樹脂100重量部に対する紫外線吸収剤の配合量は0.1~10重量部程度である。
<光安定剤>
光安定剤としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート(混合物)、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドリキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1(オクチルオキシ)-4-ピペリジル)エステル及び1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールと高級脂肪酸のエステル混合物、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールの重縮合物、ポリ[{(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル){(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}}、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N'-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、N,N',N'',N'''-テトラキス-(4,6-ビス-(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン等のヒンダードアミン系が例示される。又、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する光安定剤の配合量は0.1~10重量部程度である。
〔放射冷却装置の具体構成〕
本発明の放射冷却装置CPは、図6から図9に示すように、フィルム構造にすることができる。樹脂材料層J及び保護層Dを形成する樹脂材料は柔軟であるために、光反射層Bを薄膜にすると、光反射層Bにも柔軟性を備えさせることができ、その結果、放射冷却装置CPを、柔軟性を備えるフィルム(放射冷却フィルム)とすることができる。
フィルム状の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、糊をつけて、車の外周、倉庫や建屋の外壁、ヘルメットの外周にラッピングすることにより、放射冷却を発揮させる等、既設の物体に後付けして、容易に放射冷却能力を発揮させることができる。
フィルム状の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)を装着する対象としては、各種のテント類の外面、電気機器等を収納するボックスの外面、物品搬送用コンテナの外面、牛乳を貯留する牛乳タンクの外面、牛乳タンクローリーの牛乳貯留部の外面等、冷却が必要な諸々のものを対象とすることができる。
放射冷却装置CPをフィルム状に作製するには、種々の形態が考えられる。例えば、フィルム状に作製された光反射層Bに保護層D及び樹脂材料層Jを塗布して作ることが考えられる。あるいは、フィルム状に作製された光反射層Bに保護層D及び樹脂材料層Jを貼り付けて作ることが考えられる。或いは、フィルム状に作製された樹脂材料層Jの上に、保護層Dを塗布あるいは貼り付けて作成し、保護層Dの上に、蒸着・スパッタリング・イオンプレーティング・銀鏡反応などによって光反射層Bを作製することが考えられる。
具体的に説明すると、図6の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、光反射層Bを、銀又は銀合金の一層として形成する場合や、銀(銀合金)とアルミ(アルミ合金)の2層で構成する場合において、当該光反射層Bの上側に、保護層Dを形成し、保護層Dの上部に、樹脂材料層Jを形成したものである。尚、光反射層Bの下側にも、下側保護層Dsを形成する。
図6の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)の作成方法としては、フィルム状の樹脂材料層Jの上に、保護層D、光反射層B、下側保護層Dsを順次塗布して、一体的に成形する方法を採用することができる。
図7の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、光反射層Bを、アルミ(アルミ合金)として機能するアルミ箔にて形成されたアルミ層B1と、銀又は銀合金からなる銀層B2とから構成し、当該光反射層Bの上側に、保護層Dを形成し、保護層Dの上部に、樹脂材料層Jを形成したものである。
図7の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)の作成方法としては、アルミ箔にて構成されるアルミ層B1の上に、銀層B2、保護層D、樹脂材料層Jを順次塗布して、一体的に成形する方法を採用することができる。
尚、別の作成方法として、樹脂材料層Jをフィルム状に形成して、当該フィルム状の樹脂材料層Jの上に、保護層D、銀層B2を順次塗布し、アルミ層B1を銀層B2に貼り付ける方法を採用することができる。
図8の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、光反射層Bを、銀又は銀合金の一層として形成する場合や、銀(銀合金)とアルミ(アルミ合金)の2層で構成する場合において、当該光反射層Bの上側に、保護層Dを形成し、保護層Dの上部に、樹脂材料層Jを形成し、光反射層Bの下側に、PET等のフィルム層Fを形成したものである。
図8の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)の作成方法としては、PET(エチレンテレフタラート樹脂)等にてフィルム状に形成されたフィルム層F(基材に相当)の上に、光反射層B、保護層Dを順次塗布して、一体的に成形し、保護層Dに対して、別途形成したフィルム状の樹脂材料層Jをのり層N(接合層の一例)にて接合(接着)する方法を採用することができる。
のり層Nにて使用する接着剤(粘着剤)は、例えば、ウレタン系接着剤(粘着剤)、アクリル系接着剤(粘着剤)、EVA(エチレン酢酸ビニル)系接着剤(粘着剤)等があり、太陽光に対して高い透明性を持つものが望ましい。
図9の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、光反射層Bを、アルミ(アルミ合金)として機能するアルミ層B1と、銀又は銀合金(代替銀)からなる銀層B2とから構成し、アルミ層B1を、PET(エチレンテレフタラート樹脂)等にてフィルム状に形成されたフィルム層F(基材に相当)の上部に形成し、銀層B2の上側に、保護層Dを形成し、保護層Dの上側に、樹脂材料層Jを形成したものである。
図9の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)の作成方法としては、フィルム層Fの上に、アルミ層B1を塗布して、フィルム層Fとアルミ層B1とを一体的に成形し、別途、フィルム状の樹脂材料層Jの上に、保護層D、銀層B2を塗布して、樹脂材料層J、保護層D、銀層B2を一体形成し、アルミ層B1と銀層B2とをのり層Nにて接着する方法を採用することができる。
のり層Nにて使用する接着剤(粘着剤)は、例えば、ウレタン系接着剤(粘着剤)、アクリル系接着剤(粘着剤)、EVA(エチレン酢酸ビニル)系接着剤(粘着剤)等があり、太陽光に対して高い透明性を持つものが望ましい。
〔保護層の詳細〕
保護層Dは、厚さが300nm以上で、40μm以下のポリオレフィン系樹脂、又は、厚さが17μm以上で、40μm以下のポリエチレンテレフタラートである。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン及びポリプロピレンがある。
図2に、ポリエチレン、塩化ビニリデン樹脂、エチレンテレフタラート樹脂、塩化ビニル樹脂の紫外線の吸収率を示す。
また、図10に、保護層Dを形成する合成樹脂として好適なポリエチレンの光透過率を示す。
放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、夜間のみならず、日射環境下にても放射冷却作用を発揮するものであるから、光反射層Bが光反射機能を発揮する状態を維持するには、保護層Dにて光反射層Bを保護することにより、日射環境下で光反射層Bの銀が変色しないようにする必要がある。
保護層Dが、ポリオレフィン系樹脂にて厚さが300nm以上で、40μm以下の形態に形成される場合には、ポリオレフィン系樹脂は、波長0.3から0.4μmの紫外線の波長域の全域において紫外線の光吸収率が10%以下である合成樹脂であるから、保護層Dが紫外線の吸収により劣化し難いものとなる。
そして、保護層Dを形成するポリオレフィン系樹脂の厚さが、300nm以上であるから、樹脂材料層Jにて発生したラジカルが光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することを遮断し、また、樹脂材料層Jを透過する水分が光反射層Bを形成する銀又は銀合金に到達することを遮断する等の遮断機能を良好に発揮することになり、光反射層Bを形成する銀又は銀合金の変色を抑制できることになる。
ちなみに、ポリオレフィン系樹脂にて形成される保護層Dは、紫外線の吸収により、光反射層Bから離れる表面側にラジカルを形成しながら劣化することになるが、厚さが300nm以上であるから、形成したラジカルが光反射層に到達することはなく、また、ラジカルを形成しながら劣化するにしても、紫外線の吸収が低いことにより劣化の進み具合は遅いものであるから、上述の遮断機能を長期に亘って発揮することになる。
保護層Dが、エチレンテレフタラート樹脂にて厚さが17μm以上で、40μm以下の形態に形成される場合には、エチレンテレフタラート樹脂は、ポリオレフィン系樹脂よりも、波長0.3から0.4μmの紫外線の波長域において紫外線の光吸収率が高い合成樹脂であるが、厚さが17μm以上であるから、樹脂材料層Jにて発生したラジカルが光反射層Bを形成する銀又は銀合金に到達することを遮断し、また、樹脂材料層Jを透過する水分が光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することを遮断する等の遮断機能を長期に亘って良好に発揮することになり、光反射層Bを形成する銀又は銀合金の変色を抑制できることになる。
つまり、エチレンテレフタラート樹脂にて形成される保護層は、紫外線の吸収により、光反射層Bから離れる表面側にラジカルを形成しながら劣化することになるが、厚さが17μm以上であるから、形成したラジカルが反射層に到達することはなく、また、ラジカルを形成しながら劣化するにしても、厚さが17μm以上であるから、上述の遮断機能を長期に亘って発揮することになる。
説明を加えると、エチレンテレフタラート樹脂(PET)の劣化は紫外線によってエチレングリコールとテレフタル酸のエステル結合が開裂しラジカルが形成されることに起因する。この劣化は、エチレンテレフタラート樹脂(PET)における紫外線が照射される面の表面から順に進行する。
例えば、大阪における強さの紫外線がエチレンテレフタラート樹脂(PET)に照射されると、1日あたり、照射される面より順に約9nmのエチレンテレフタラート樹脂(PET)のエステル結合が開裂していく。エチレンテレフタラート樹脂(PET)は十分に重合しているので、開裂した表面のエチレンテレフタラート樹脂(PET)が光反射層Bの銀(銀合金)を攻撃することはないが、エチレンテレフタラート樹脂(PET)の開裂端が光反射層Bの銀(銀合金)まで到達すると、銀(銀合金)が変色する。
従って、屋外で使用するうえで、保護層Dを1年以上耐久させるためには、9nm/日と365日とを積算して、約3μmの厚さが必要となる。保護層Dのエチレンテレフタラート樹脂(PET)を3年以上耐久させるためには、厚さが10μm以上必要である。5年以上耐久させるためには、厚さが17μm以上必要である。
尚、ポリオレフィン系樹脂及びエチレンテレフタラート樹脂にて保護層Dを形成する場合において、その厚さの上限を定める理由は、保護層Dが放射冷却に寄与しない断熱性を奏することを回避するためである。つまり、保護層Dは、厚さが厚くなるほど放射冷却に寄与しない断熱性を奏することになるから、光反射層Bを保護する機能を発揮させながらも、放射冷却に寄与しない断熱性を奏することを回避するために、厚さの上限が定められることになる。
ところで、図8に示すように、樹脂材料層Jと保護層Dとの間にのり層Nが位置する場合には、のり層Nからもラジカルが発生することになるが、保護層Dを形成するポリオレフィン系樹脂の厚さが300nm以上であり、保護層Dを形成するエチレンテレフタラート樹脂の厚さが17μm以上であれば、のり層Nにて発生したラジカルが光反射層Bに到達することを、長期に亘って抑制できる。
ちなみに、上述の如く、保護層Dが厚くなると、光反射層Bの銀(銀合金)の着色を防ぐうえでのデメリットは生じないが、放射冷却するうえでの問題が発生する。つまり、厚くすると放射冷却材料の断熱性を上げることになる。
例えば、保護層Dを形成する合成樹脂として優れている主成分がポリエチレンの樹脂は、図14に示すように、大気の窓における輻射率が小さいため、厚く形成しても放射冷却に寄与しない。それどころか、厚くすると放射冷却材料の断熱性を上げることになる。次に、厚くなると主鎖の振動に由来する近赤外域の吸収が増加し、太陽光吸収が増える効果が増加する。
これら要因により、保護層Dが厚いことは、放射冷却にとって不利である。このような観点から、ポリオレフィン系樹脂にて形成される保護層Dの厚さは、5μm以下であることが好ましく、さらには、1μm以下であることが一層好ましい。
〔保護層の考察〕
保護層Dによる銀の着色のされ方の違いを検討するために、図11に示すような、赤外放射層Aとしての樹脂材料層Jを備えない保護層Dを露出させたサンプルを作製し、模擬太陽光が照射された後の銀の着色を調べた。
つまり、保護層Dとして、紫外線を吸収する一般的なアクリル系樹脂(例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が混入するメタクリル酸メチル樹脂)とポリエチレンとの二種類を、バーコーターで、光反射層Bとして銀を備えるフィルム層F(基材に相当)上に塗布したサンプルを形成し、保護層Dとしての機能を検討した。塗布した保護層Dの厚みは、それぞれ10μmと1μmである。
尚、フィルム層F(基材に相当)は、PET(エチレンテレフタラート樹脂)等にてフィルム状に形成されたものである。
図13に示すように、保護層Dが紫外線を良く吸収するアクリル系樹脂の場合、保護層Dが紫外線で分解されラジカルを形成し、直ぐに銀が黄化して、放射冷却装置CPとして機能しなくなる(太陽光を吸収し、一般の材料のように日射が当たると温度上昇する)。
尚、図中の600hの線は、JIS規格5600-7-7の条件でキセノンウエザー試験(紫外光エネルギーは60W/m)を600h(時間)行った後の反射率スペクトルである。また、0hの線は、キセノンウエザー試験を行う前の反射率スペクトルである。
図12に示すように、保護層Dが紫外線の光吸収率が低いポリエチレンの場合には、近赤外域から可視域での反射率の低下がみられないことがわかる。つまり、主成分がポリエチレンの樹脂(ポリオレフィン系樹脂)は、地上に届く太陽光が持つ紫外線を殆ど吸収しないため、太陽光が当たってもラジカルを形成し難いので、日射が当たっても、光反射層Bとしての銀の着色が発生しない。
尚、図中の600hの線は、JIS規格5600-7-7の条件でキセノンウエザー試験(紫外光エネルギーは60W/m)を600h(時間)行った後の反射率スペクトルである。また、0hの線は、キセノンウエザー試験を行う前の反射率スペクトルである。
なお、この波長帯域の反射率スペクトルが波打つ理由は、ポリエチレン層のファブリペロー共振である。キセノンウエザー試験の熱などによってポリエチレン層の厚みが変化したことによる原因で、この共振位置が0hの線と600hの線とで多少変わっていることがわかるが、銀の黄化に由来する紫外-可視域における大きな反射率の低下は観測されない。
尚、フッ素樹脂系も紫外線吸収の観点からは保護層Dを形成する材料に適用できるが、実際に保護層Dとして形成すると、形成段階で着色し、劣化するため、保護層Dを形成する材料としては用いることができない。
また、シリコーンも紫外線吸収の観点からは保護層Dを形成する材料に適用できるが、銀(銀合金)との密着性が極めて悪く、保護層Dを形成する材料としては用いることができない。
〔放射冷却装置の別構成〕
図21に示すように、フィルム層F(基材に相当)の上部にアンカー層Gを備え、当該アンカー層Gの上部に、光反射層B、保護層D、赤外放射層A(可塑剤が混入された塩化ビニル樹脂の樹脂材料層J)を備える形態に構成してもよい。
尚、フィルム層F(基材に相当)は、例えば、PET(エチレンテレフタラート樹脂)等にてフィルム状に形成されたものである。
アンカー層Gは、フィルム層Fと光反射層Bとの密着を強めるために導入されている。つまり、フィルム層Fに、直接、銀(Ag)を製膜しようとすると、簡単に剥がれが生じることになる。アンカー層Gは、アクリルやポリオレフィン、ウレタンが主成分であり、イソシアネート基を持つ化合物やメラミン樹脂が混合されているものが望ましい。太陽光に直接当たらない部分のコーティングであり、紫外線を吸収する素材であっても問題ない。
尚、フィルム層Fと光反射層Bとの密着を強める方法には、アンカー層Gを入れる以外の方法もある。例えば、フィルム層Fの製膜面にプラズマ照射して表面を荒らすと密着性は高まる。
〔赤外放射層の別構成〕
図22に示すように、赤外放射層Aを構成する樹脂材料層J(可塑剤が混入された塩化ビニル樹脂)に、無機材料のフィラーVを混入させて、光散乱構成を備えさせるようにしてもよい。また、図23に示すように、赤外放射層Aを構成する樹脂材料層Jの表裏両面を凹凸状に形成して、光散乱構成を備えさせるようにしてもよい。
このように構成すれば、放射面Hを見たときに、放射面Hのギラツキを抑制できるものとなる。
つまり、上記した樹脂材料層Jは、表裏両面が平坦で、フィラーVが混入しない構成であるが、このような構成の場合には、放射面Hが鏡面状となるため、放射面Hを見たときに、ギラツキを感じるものとなるが、光散乱構成を備えさせるとこのギラツキを抑制できる。
また、樹脂材料層JにフィラーVを混入させた場合において、保護層D及び光反射層Bが存在すると、フィラーVを混入させた樹脂材料層Jのみの場合や光反射層Bのみの場合よりも、光反射率が向上する。
フィラーVを形成する無機材料としては、二酸化ケイ素(SiO酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)等を好適に使用できる。尚、樹脂材料層JにフィラーVを混入すると、樹脂材料層Jの表裏両面が凹凸状になる。
また、樹脂材料層Jの表裏両面を凹凸状にするには、エンボス加工や表面に傷を付ける加工等を行うことにより行うことができる。
樹脂材料層Jの裏面が凹凸状になる場合には、図8で説明した構成と同様に、樹脂材料層Jと保護層Dとの間にのり層N(接合層)が位置するようにすることが望ましい。
つまり、樹脂材料層Jの裏面が凹凸状であっても、樹脂材料層Jと保護層Dとの間にのり層N(接合層)が位置するから、樹脂材料層Jと保護層Dとを適切に接合することができる。
尚、樹脂材料層Jの裏面が凹凸状になる場合において、例えば、プラズマ接合により、樹脂材料層Jと保護層Dとを直接的に接合するようにしてもよい。尚、プラズマ接合とは、樹脂材料層Jの接合面と保護層Dの接合面にプラズマの放射によりラジカルを形成し、そのラジカルにより接合する形態である。
ちなみに、保護層DにフィラーVを混入すると、保護層Dの光反射層Bに接する裏面が凹凸状になり、光反射層Bの表面を凹凸状に変形させる原因になるため、保護層DにフィラーVを混入することは避ける必要がある。つまり、光反射層Bの表面が凹凸状に変形すると、光反射を適正通り行えないものとなり、その結果、放射冷却を適正通り行えないものとなる。
この点に関する実験結果を、図24に基づいて説明する。
図24における「光拡散層にAg層を直接形成」とは、フィラーVを混入させる或いは光反射層BであるAg層側にエンボス加工の凹凸がある赤外放射層A(樹脂材料層J)の表面に、銀(Ag)を蒸着等により成膜して光反射層Bを形成することを、意味するものである。
また、「鏡面Ag上に光拡散層」とは、光反射層BであるAg層の上面が鏡面状に形成され、当該Ag層の上部、保護層D、及び、フィラーVを混入させる或いはエンボス加工の凹凸がある赤外放射層A(樹脂材料層J)が積層されていることを、意味するものである。
図24に示すように、「光拡散層にAg層を直接形成」の場合には、光反射層Bの表面が凹凸状になるため、光反射率が大きく低下するが、「鏡面Ag上に光拡散層」の場合には、光反射層Bの表面が鏡面状に維持され、適正通りの光反射率が得られる。
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
(1)上記実施形態では、冷却対象物Eとして、放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)の裏面に密着される物体を例示したが、冷却対象物Eとしては、冷却対象空間等、各種の冷却対象を適用できる。
(2)上記実施形態では、樹脂材料層Jの放射面Hをそのまま露出させる形態を例示したが、放射面Hを覆うハードコートを設ける形態で実施してもよい。
ハードコートとしては、UV硬化アクリル系、熱硬化アクリル系、UV硬化シリコーン系、熱硬化シリコーン系、有機無機ハイブリッド系、塩化ビニルが存在し、いずれを用いてもよい。添加材として有機系帯電防止剤を用いてもよい。
UV硬化アクリル系の中でもウレタンアクリレートは特によい。
ハードコートの成膜方法としては、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などを用いることができる。
ハードコート(塗膜)の厚みは1~50μmであり、特に2~20μmが望ましい。
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
A 赤外放射層
B 光反射層
D 保護層
H 放射面
J 樹脂材料層
N 接合層

Claims (16)

  1. 放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させ、且つ、少なくとも前記赤外放射層側に銀または銀合金を備える光反射層と、前記赤外放射層と前記光反射層との間に位置させる保護層とを備える形態に構成され、
    前記赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整された樹脂材料層である放射冷却装置であって、
    前記樹脂材料層を形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂であり、
    前記可塑剤が、脂肪族二塩基酸エステル類又はフタル酸エステル類からなる第1可塑剤とリン酸エステル類からなる第2可塑剤とを、前記第2可塑剤が5重量%以上、70重量%以下となるように配合したものである放射冷却装置。
  2. 前記可塑剤が、前記塩化ビニル系樹脂の100重量部に対して、1重量部以上、200重量部以下の範囲で混入されている請求項1に記載の放射冷却装置。
  3. 前記第1可塑剤としての前記脂肪族二塩基酸エステル類が、アジピン酸エステル類、アジピン酸エステル共重合体類、アゼライン酸エステル類、アゼライン酸エステル共重合体類、セバシン酸エステル類、セバシン酸エステル共重合体類、コハク酸エステル類及びコハク酸エステル共重合体類からなる群より選択される1つ以上の化合物である請求項1又は2に記載の放射冷却装置。
  4. 前記第1可塑剤としての前記脂肪族二塩基酸エステル類が、脂肪族二塩基酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものである請求項1又は2に記載の放射冷却装置。
  5. 前記第1可塑剤としての前記フタル酸エステル類が、フタル酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものである請求項1又は2に記載の放射冷却装置。
  6. 前記第2可塑剤としての前記リン酸エステル類が、リン酸トリエステル、又は、芳香族リン酸エステルである請求項1又は2に記載の放射冷却装置。
  7. 前記樹脂材料層の膜厚が、
    波長0.4μmから0.5μmの光吸収率の波長平均が13%以下であり、波長0.5μmから波長0.8μmの光吸収率の波長平均が4%以下であり、波長0.8μmから波長1.5μmまでの光吸収率の波長平均が1%以内であり、1.5μmから2.5μmまでの光吸収率の波長平均が40%以下となる光吸収特性を備え、且つ、8μmから14μmの輻射率の波長平均が40%以上となる熱輻射特性を備える状態の厚みに調整されている請求項1又は2に記載の放射冷却装置。
  8. 前記樹脂材料層の厚みが、100μm以下で10μm以上である請求項1又は2に記載の放射冷却装置。
  9. 前記光反射層は、波長0.4μmから0.5μmの反射率が90%以上、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上である請求項1又は2に記載の放射冷却装置。
  10. 前記光反射層が、銀または銀合金で構成され、その厚みが50nm以上である請求項9に記載の放射冷却装置。
  11. 前記光反射層が、前記樹脂材料層の存在側に位置する銀または銀合金と前記樹脂材料層から離れる側に位置するアルミまたはアルミ合金の積層構造である請求項9に記載の放射冷却装置。
  12. 前記保護層が、厚さが300nm以上で、40μm以下のポリオレフィン系樹脂、又は、厚さが17μm以上で、40μm以下のポリエチレンテレフタラート樹脂である請求項1又は2に記載の放射冷却装置。
  13. 前記樹脂材料層と前記保護層と前記光反射層とが積層された状態においてフィルム状である請求項12に記載の放射冷却装置。
  14. 前記樹脂材料層と前記保護層とが、接着剤又は粘着剤の接合層にて接合されている請求項1又は2に記載の放射冷却装置。
  15. 前記樹脂材料層に、無機材料のフィラーが混入されている請求項14に記載の放射冷却装置。
  16. 前記樹脂材料層の表裏両面が凹凸状に形成されている請求項14に記載の放射冷却装置。
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