JP2024036852A - 旋回装置の異常診断装置及び建設機械 - Google Patents
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Abstract
【課題】旋回装置ピニオンの損傷を抑制できる旋回装置の異常診断装置及び建設機械を提供すること。【解決手段】油圧モータ2と、油圧モータの出力軸16に結合された遊星歯車減速機10と、遊星歯車減速機の出力軸4に設けられ、旋回ベアリング80の内歯18とグリースバス40内で噛み合うピニオン17とを備えた旋回装置の異常診断装置であって、遊星歯車減速機のハウジングである減速機ハウジング6に取り付けられ、減速機ハウジングの振動を検出する第1振動センサ8と、第1振動センサによる検出結果に基づいて旋回装置の異常の有無を判定するプロセッサ9aとを備える。プロセッサは、第1振動センサによって取得される第1振動データをエンベロープ処理した後にスペクトル波形に変換し、当該スペクトル波形のRMS値を演算し、当該RMS値に基づいてグリースバス内のグリースの量を判定する。【選択図】 図5
Description
本発明は、例えば油圧ショベル等の建設機械向けの旋回装置の異常診断装置及び異常診断機能を備えた建設機械に関するものである。
下部走行及び上部旋回体を備える油圧ショベルには、下部走行体に対して上部旋回体を旋回駆動するための旋回装置が備えられている。旋回装置は、モータ(例えば油圧モータや電動モータ)と、当該モータの出力軸に結合された遊星歯車減速機と、当該遊星歯車減速機の出力軸に設けられ旋回ベアリングの内歯とグリースバス内で噛み合うピニオン(旋回装置ピニオン)とを備えている。
このうち遊星歯車減速機は、複数の歯車により構成される遊星歯車機構により、入力軸に入力される回転を減速してトルクを増幅して出力軸から出力する装置である。遊星歯車減速機の異常診断に関しては、遊星歯車機構近傍で発生する振動を検出し、その振動の周波数から損傷の種類、部位及び程度を判定する手法が知られている(例えば、特許文献1)。
一方、旋回装置ピニオンは、グリースで満たされたグリースバス内で内輪の内歯と噛み合っているが、継続使用によってグリースバス内のグリースが減少して油位が下がると損傷する可能性が高まる。旋回装置ピニオンが損傷すると長期間のダウンタイムが発生し得る。しかし、旋回装置ピニオンは、上記の遊星歯車減速機と異なり、異常診断技術の開発が為されていない。
本発明の目的は、グリースバス内のグリースの状態を判定することで旋回装置ピニオンの損傷を抑制できる旋回装置の異常診断装置及び建設機械を提供することにある。
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、モータと、前記モータの出力軸に結合された遊星歯車減速機と、前記遊星歯車減速機の出力軸に設けられ、旋回ベアリングの内歯とグリースバス内で噛み合うピニオンとを備えた旋回装置の異常診断装置であって、前記遊星歯車減速機のハウジングである減速機ハウジングに取り付けられ、前記減速機ハウジングの振動を検出する第1振動センサと、前記第1振動センサによる検出結果に基づいて前記旋回装置の異常の有無を判定するプロセッサとを備え、前記プロセッサは、前記第1振動センサによって取得される第1振動データをエンベロープ処理し、当該エンベロープ処理された前記第1振動データをスペクトル波形に変換し、前記スペクトル波形のRMS値を演算し、前記RMS値に基づいて前記グリースバス内のグリースの量を判定することとする。
本発明によれば、グリースバス内のグリースの状態(例えば量)を判定することで、例えば適切なタイミングでグリースを補充又は交換できるので、旋回装置ピニオンの損傷を抑制できる。
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は,本実施形態に係る建設機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す側面図である。なお,以下ではフロント作業装置の先端に位置するアタッチメントとしてバケットを備える油圧ショベルについて説明するが,アタッチメントはバケットの他にグラップル,ブレーカ,リフティングマグネットなど種々のものに付け替え可能である。
図1の油圧ショベル100は,垂直方向にそれぞれ回動する複数のフロント部材(ブーム31,アーム33,バケット35)を直列的に連結した多関節型のフロント作業装置(作業装置)30と,車両本体を構成する上部旋回体60及び下部走行体70とを備えている。上部旋回体60は、旋回ベアリング80を介して下部走行体2に旋回可能に支持されている。上部旋回体60は,旋回フレーム61上に各部材を配置して構成されており,上部旋回体60を構成する旋回フレーム61が下部走行体70に対して旋回可能となっている。また,フロント作業装置30の基端部であるブーム31の基端は車両本体を構成する上部旋回体60の前部に回動可能に取り付けられており,アーム33の基端はブーム31の先端に回動可能に支持されており,アーム33の先端にはバケット35が回動可能に支持されている。
下部走行体70は,左右一対のクローラフレーム72a(72b)にそれぞれ掛け回された一対のクローラ71a(71b)と,クローラ71a(71b)をそれぞれ駆動する走行油圧モータ73a(73b)とを備え、旋回装置400を介して上部旋回体60を旋回可能に支持している。なお,下部走行体70の各構成については,左右一対の構成のうちの一方のみを図示して符号を付し,他方の構成については図中に括弧書きの符号のみを示して図示を省略する。
ブーム31,アーム33,バケット35,及び下部走行体70は,油圧アクチュエータであるブームシリンダ32,アームシリンダ34,バケットシリンダ36,及び左右の走行油圧モータ73a(73b)によりそれぞれ駆動される。
上部旋回体60は、旋回油圧モータ2により遊星歯車減速機10を介して駆動され,下部走行体70に対して回転移動(旋回動作)を行う。遊星歯車減速機10は、旋回油圧モータ2の出力軸16(図2参照)から入力される回転を減速しつつトルクを増幅して出力軸4(図2参照)から出力する。
上部旋回体60を構成する旋回フレーム61上には,フロント作業装置30(複数のフロント部材31,32,35),上部旋回体60および下部走行体70を操作するための操作装置45が搭載されたキャブ(運転室)65と、遊星歯車減速機10の異常診断を行うことができるコントローラ9等が配置されている。この他にも旋回フレーム61上には,原動機であるエンジン62とともに,ブームシリンダ32,アームシリンダ34,バケットシリンダ36,旋回油圧モータ2及び左右の走行油圧モータ73a(73b)などの複数の油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプを含む油圧回路システム41が搭載されている。
図2は、本実施形態に係る異常診断装置300と、旋回装置400と、旋回ベアリング80の概略構成図である。
旋回装置400は、油圧モータ(旋回油圧モータ)2と、油圧モータ2の出力軸16と機械的に連結された遊星歯車減速機10と、遊星歯車減速機10の出力軸4に設けられ、グリースバス40内で旋回ベアリング80の内歯18と噛み合うピニオン(旋回装置ピニオン)17とを備えている。遊星歯車減速機10は、例えば図示のように、軸方向に連結された2段の遊星歯車機構(第1遊星歯車機構3A,第2遊星歯車機構3B)により構成でき、油圧モータ2の出力軸(回転軸)16は遊星歯車減速機10(図示の例では第1遊星歯車機構3Aの太陽歯車11a)と機械的に連結されている。
異常診断装置300は、第1振動センサ8と、コントローラ9とを備えており、第1振動センサ8による検出結果に基づいて旋回装置400の異常の有無を判定することができる。なお、図示したコントローラ9は第2振動センサ7と接続されているが、コントローラ9によってグリースバス40内のグリースの補充の要否(補充が必要な量にまでグリース量が減少している状態にあること)を判定するだけの場合(換言すると遊星歯車減速機10の異常診断を行わない場合)には第2振動センサ7は異常診断装置300から省略可能であり、その場合の第1センサ8の取り付け位置は図示した遊星歯車減速機10のハウジング6だけでなく油圧モータ2のハウジング1も許容される。
旋回ベアリング80は、下部走行体70の左右のクローラフレーム72a,72bを接続するフレーム74に固定され内周側に複数の内歯18を有する内輪81と、旋回フレーム61の下面側に固定され内輪81の外周側に位置する外輪82を備えている。
フレーム74の上方にはグリースバス40が設けられている。グリースバス40は、内輪81の内側面に沿って設けられた環状の凹部であり、ピニオン17の下部をグリース(図示せず)に浸かった状態で収容している。グリースバス40の外周面は内輪81の内周面で構成されており、内輪81の下面とグリースバス40は液密に結合することが好ましい。
図3は第1遊星歯車機構3Aが位置する部分における遊星歯車減速機10の横断面図である。第1遊星歯車機構3Aは、油圧モータ2の出力軸(回転軸)16に固定された第1太陽歯車11aと、第1太陽歯車11aと噛み合って第1太陽歯車11aの周囲を公転及び自転しながら回転し得る複数の第1遊星歯車12a(図示の例では遊星歯車12aは3つ)と、複数の第1遊星歯車12aと噛み合い、遊星歯車減速機10のハウジング(減速機ハウジング)6に固定された第1内歯車13aと、第1遊星歯車12aの回転中心部に挿入された複数の第1遊星歯車ピン14aと、複数の第1遊星歯車ピン14aに固定され、第1遊星歯車12aの公転速度で回転し得る第1キャリア15aとを備えている。
第2遊星歯車機構3Bは、第1キャリア15aに固定された第2太陽歯車11bと、第2太陽歯車11bと噛み合って第2太陽歯車11bの周囲を公転及び自転しながら回転し得る複数の第2遊星歯車12bと、複数の第2遊星歯車12bと噛み合い、ハウジング6に固定された第2内歯車13bと、第2遊星歯車12bの回転中心部に挿入された複数の第2遊星歯車ピン14bと、複数の第2遊星歯車ピン14bに固定され、第2遊星歯車12bの公転速度で回転し得る第2キャリア15bとを備えている。
第2キャリア15bは遊星歯車減速機10の出力軸4に連結されている。出力軸4の周囲には出力軸4の回転を支持する複数の軸受5が設けられている。出力軸4の下端には、下部走行体70に設けられた内輪81の内歯18と噛み合うピニオン(旋回装置ピニオン)17が設けられている。
なお、図示した遊星歯車減速機10の遊星歯車機構は2段であるが、遊星歯車機構の段数はこれに限られない。
本実施形態においては、ハウジング6は複数の遊星歯車機構3A,3Bと出力軸4を覆う筒状の部品であり、ハウジング6と出力軸4の間には複数の軸受5が固定されている。
ハウジング6の上部には、油圧モータ2のハウジング(モータハウジング)1が固定されている。油圧モータ2としては、例えばラジアル型やアキシャル型のピストンモータが利用できる。本実施形態においては、ハウジング1は、ピストンモータの構成部品であるピストンやシリンダブロックなどを覆う筒状の部品である。
図示の例では、遊星歯車減速機10のハウジング6における第1遊星歯車機構3Aの近傍(例えば第1内歯車13aの外周側の位置)に、第1振動センサ8が取り付けられている。第1振動センサ8は、遊星歯車減速機10のハウジング6に生じる振動を検出するセンサであり、例えば、加速度センサ、速度センサ、接触式変位センサが利用可能である。本実施形態においては、第1振動センサ8は、ハウジング6の外壁、より具体的にはハウジング6の側面(側壁の外側)に接触して設けられている。例えば、ハウジング8は鋳物部品であり、第1振動センサ8は、ハウジング8に第1振動センサ8を固定可能なマグネット(図示せず)を含む。
グリースバス40内のグリースの補充の要否を判定する場合には、第1振動センサ8をできるだけピニオン17に近い位置に取り付けることが好ましい。また、遊星歯車減速機10の異常診断を行う場合には、第1振動センサ8は、好ましくは遊星歯車減速機10の軸方向において内部に歯車が位置する範囲に取り付けることが好ましく、より好ましくは診断対象の遊星歯車機構のできるだけ近傍とする。図2の例では第1遊星歯車機構3Aの近傍に取り付けている。
油圧モータ2のハウジング1には、第2振動センサ7を取り付けることができる。第2振動センサ7は、油圧モータ2のハウジング1に生じる振動を検出するセンサであり、例えば、加速度センサ、速度センサ、接触式変位センサが利用可能である。本実施形態においては、第2振動センサ7は、ハウジング1の外壁、より具体的にはハウジング1の側面(側壁の外側)に接触して設けられている。例えば、ハウジング1は鋳物部品であり、第2振動センサ7は、ハウジング1に第2振動センサ7を固定可能なマグネット(図示せず)を含む。
遊星歯車減速機10の異常診断を行う場合には、第2振動センサ7の取り付け位置は、遊星歯車減速機10の発生する振動の影響をできるだけ受けないように、ハウジング1の表面において第1振動センサ8からできるだけ離れた位置に設定することが好ましい。ハウジング1の上面(天面)に第2振動センサ7を取り付けても良い。
なお、上記した第1振動センサ8及び第2振動センサ7の取付位置及び取付態様は一例に過ぎない。例えば、第1振動センサ8又は第2振動センサ7は、ハウジング6又は1にネジによって締結されることもできるし、接着剤などによって貼りつけられることもできる。
第1振動センサ8と第2振動センサ7は、プロセッサ(例えばCPU)9a及び記憶装置(例えばROM,RAM)9bを備えるコントローラ9と通信可能に接続されている。
なお、第1振動センサ8及び第2振動センサ7のそれぞれとコントローラ9との接続は通信ケーブルなどを利用した有線接続でも良いし、無線接続でも良い。コントローラ9はコンピュータやマイクロコンピュータで構成しても良いし、コントローラ9に振動データの波形や診断結果を表示するモニタを接続しても良い。第1振動センサ8と第2振動センサ7からの入力がアナログ信号の場合には、アナログ信号をデジタル信号に変換するADコンバータをコントローラ9に搭載しても良い。すなわち、異常診断装置300は、例えば、コントローラ9と接続され診断結果や診断内容を表示するモニタ(例えば後述のモニタ91,92,93)を有していてもよい。
コントローラ9が異常診断に利用する振動データは、第1振動センサ8及び第2振動センサ7のそれぞれで同時に計測されたデータである。すなわち、異常診断に利用される各センサ8,7の振動データの計測開始時刻と計測終了時刻は一致する。例えば、振動データは数kHzから数十kHzで数秒間から数十秒間サンプリングしたデータである。
図4は旋回ベアリング80周辺の模式的な平面図である。旋回ベアリング80は、下部走行体70に固定された内輪81と、内輪81の外周側に配置され上部旋回体60に固定された外輪82を備えている。内輪81と外輪82の間には円周方向に沿って複数のボール(図示せず)が収納されている。
ピニオン17は内輪81の内歯18と噛み合っている。内輪81の内周側には環状の凹部であるグリースバス40が配置されており、ピニオン17はグリースバス40内のグリースに浸されている。グリースによってグリースバス40が満たされた状態を確保することで、ピニオン17や内輪81の内歯18の破損が防止される。
油圧モータ2を動力原とする回転トルクがピニオン17に与えられると、ピニオン17は内歯18と噛み合いながら内輪81の内周に沿って公転し、そのピニオン17の動作とともに外輪82が内輪81の外周側で回転する。これにより下部走行体70に対して上部旋回体60が旋回動作する。
図5はコントローラ9によって実行される異常診断処理のフローチャートの一例を示す図である。コントローラ9は記憶装置に記憶されたプログラムと第1振動センサ8を介して取得された振動データとに基づいて図5に示した処理を実行する。
まず、コントローラ9は、ステップ221にて第1振動センサ8を介して取得される遊星歯車減速機10に係る第1振動データを取得する。
次に、コントローラ9は、ステップ222にて、ステップ221で取得した第1振動データに対してその振幅の外形を取り出すエンベロープ処理(包絡線処理)を行う。
そして、コントローラ9は、ステップ223にて、エンベロープ処理後の第1振動データを高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)によりスペクトル波形に変換する。図6にステップ223で第1振動データから得られるスペクトル波形の一例を示す。
図6のスペクトル波形は、第1太陽歯車11aが損傷した場合の例を示しており、油圧モータ2のピーク周波数Fmにおけるピーク(ピーク周波数Fmは例えば後述するステップ203の処理で算出可能)と、第1太陽歯車11aの損傷により特徴周波数fds及びその整数倍の周波数2fdsに発生した2つのピークが図から確認できる。なお、各歯車に損傷の無い場合(つまり正常時)には、特徴周波数fd及びその整数倍の周波数nfdにピークは観測されない。
図6中のFthは、スペクトル波形の周波数に関する所定の閾値(周波数閾値)を示し、Fthとしては例えば50Hzが選択できる。
ステップ224にて、コントローラ9は、ステップ223で得たスペクトル波形のRMS値を演算する。RMS値は、信号の二乗値の平均の平方根であり、実効値とも呼ばれる。RMS値は、周波数閾値Fth以下の領域(「低周波領域」と称する)において演算することが好ましい。第1振動データが加速度センサによって取得されたものであればRMS値は加速度RMS値となる。
ステップ225にて、コントローラ9は、ステップ224で演算したRMS値と所定の閾値Vthとの比較を行うグリース状態診断ステップを実行し、RMS値が閾値Vthより小さければステップ226にて異常有り(グリースバス40内のグリース残量が少ない)と判定し、RMS値が閾値Vth以上であればステップ227にて異常なし(グリースバス40内のグリース量は充足している)と判定する。
ステップ226では、油圧ショベルのキャブ内に設置されたモニタ等の報知装置を介して、グリースバス40内のグリースの補充を催促しても良い。図7はグリースバス40のグリースの補充を促すメッセージや図形を例えばキャブ内のモニタに表示する場合の具体例を示している。図中のモニタ91は中型油圧ショベル用のモニタを示しており、モニタ92,93は鉱山等で利用される超大型油圧ショベル用のモニタを示している。各モニタ91,92,93には、グリースバス40の油量が低下しており補充が必要なことを示すメッセージ94と、油圧ショベルに異常が発生していることを示す図形95と、オペレータがメッセージや図形を確認した場合に押下され、当該メッセージや当該図形を非表示にするトリガーとなるOKボタン96が表示されている。
(作用・効果)
図8を参照しながら本実施形態の作用・効果について説明する。図8は、油圧ショベルの使用に伴うRMS値の時間変化の一例として、加速度RMSの時間変化を模式的に示した図である。まず、油圧ショベルの使用開始直後は加速度RMSの計測結果が相対的に高い状態にあるが、これは、グリースバス40がグリースで満たされた状態にあり、ピニオン17が自転しながらグリースをかき分けてグリースバス40内を公転する際にグリースから受ける抵抗が大きく、衝突加振のような高周波数領域の振動成分がランダムに発生するためであると考えられる。また、油圧ショベルの使用を継続すると加速度RMSの計測結果が徐々に低下していくが、これは、長期間に渡って油圧ショベルを利用してグリースを消耗すると、グリースバス40の油位(グリース量)が下がっていく結果、ピニオン17が公転する際の抵抗が小さくなり振動成分が減少するためであると考えられる。なお、本実施形態のようにピニオン17をグリースに浸すグリースバス方式と異なり、歯車にグリースを塗布するグリース方式では、グリース量が減ると油膜が薄くなり、歯車表面が荒れて加速度RMSが増幅するという本願と逆の現象が見られる。
図8を参照しながら本実施形態の作用・効果について説明する。図8は、油圧ショベルの使用に伴うRMS値の時間変化の一例として、加速度RMSの時間変化を模式的に示した図である。まず、油圧ショベルの使用開始直後は加速度RMSの計測結果が相対的に高い状態にあるが、これは、グリースバス40がグリースで満たされた状態にあり、ピニオン17が自転しながらグリースをかき分けてグリースバス40内を公転する際にグリースから受ける抵抗が大きく、衝突加振のような高周波数領域の振動成分がランダムに発生するためであると考えられる。また、油圧ショベルの使用を継続すると加速度RMSの計測結果が徐々に低下していくが、これは、長期間に渡って油圧ショベルを利用してグリースを消耗すると、グリースバス40の油位(グリース量)が下がっていく結果、ピニオン17が公転する際の抵抗が小さくなり振動成分が減少するためであると考えられる。なお、本実施形態のようにピニオン17をグリースに浸すグリースバス方式と異なり、歯車にグリースを塗布するグリース方式では、グリース量が減ると油膜が薄くなり、歯車表面が荒れて加速度RMSが増幅するという本願と逆の現象が見られる。
このような知見に基づき、発明者らはRMS値に閾値Vthを設定し、RMS値が当該閾値Vth以下になった場合にはグリース残量が充分ではない、つまり異常状態と判断するように本実施形態の異常診断装置300を構成するに至った。
すなわち、本実施形態の異常診断装置300は、油圧モータ2と、油圧モータ2の出力軸4に結合された遊星歯車減速機10と、遊星歯車減速機10の出力軸16に設けられ、旋回ベアリング80の内歯18とグリースバス40内で噛み合うピニオン17とを備えた旋回装置400の異常診断装置300であって、遊星歯車減速機10のハウジングである減速機ハウジング6に取り付けられ、減速機ハウジング6の振動を検出する第1振動センサ8と、第1振動センサ8による検出結果に基づいて旋回装置400の異常の有無を判定するプロセッサ9aとを備え、プロセッサ9aは、第1振動センサ8によって取得される第1振動データをエンベロープ処理し、当該エンベロープ処理された第1振動データをスペクトル波形に変換し、スペクトル波形のRMS値を演算し、当該RMS値に基づいてグリースバス40内のグリースの補充の要否(グリース量やグリースの状態とも換言できる)を判定することとした。本実施形態によれば、減速機ハウジング6に取り付けた第1振動センサ8の第1振動データに基づいてグリースバス40内のグリースの補充タイミングを把握することができ、適切なタイミングでグリースを補充できるようになるので旋回装置ピニオン17の損傷を抑制できる。特に本構成では、グリースバス40内にグリース量を検出するセンサを設ける必要がないため、低コストとメンテナンスフリーを容易に実現できる。
なお、本実施形態が採用したエンベロープ処理(ステップ222)後のRMS値の演算(ステップ224)は一般に行われることではない。エンベロープ処理は波形の輪郭線を抽出する処理であるため、特定周期で入力される衝撃加振の抽出に向いているが、その一方で、各衝撃加振の激しさは見えなくなる。これに対しRMS値は一般的に波形の激しさを評価する目的で演算される。つまり、エンベロープ処理後の波形のRMS値を演算することは、RMS値の演算の本来の目的に反するため、エンベロープ処理後にRMS値を演算することは一般的に行われない。
図8の例では閾値Vthが1.5[m/s2]に設定されており、加速度RMS値が閾値Vth以下になった時刻T1にコントローラ9は異常(換言すると、グリースバス40内のグリースの補充が必要である)と判定し、例えばグリースの補充(グリースアップ)を促すメッセージ94や図形95をモニタ91に表示させる。この表示によりグリースアップの適切なタイミングをオペレータに報知することができ、当該表示を視認したオペレータはグリースバス40にグリースを補充することで、ピニオン17が損傷することを防止でき、長期的なダウンタイムを発生させることなく油圧ショベルの利用を再開できる。
なお、図示したRMS値の閾値Vth=1.5[m/s2]は一例に過ぎず、安全率の設定傾向や、第1振動センサ8の振動計測条件によるRMS値のばらつき、油圧ショベルの車格等によって閾値Vthは変化し得る。
ところで、ステップ224では、スペクトル波形の周波数閾値Fth以下の領域(低周波領域)においてRMS値を演算することが好ましい。つまり、RMS値は低周波領域に絞って算出することが好ましい。この理由は、ステップ222のエンベロープ処理で波形の輪郭線を取得したことで既にノイズが低減されており、エンベロープ処理後の波形において周波数閾値Fthを超えた高周波数領域の成分に物理的な意味がなく、ノイズ(誤差)にしかならない高周波数領域の成分をRMS値に含めることを排除する目的である。すなわち低周波領域に限定してRMS値を演算するとノイズの混入を防止できるので、グリースの補充タイミングの判定精度を向上できる。なお、低周波領域と高周波領域を区分する周波数閾値Fthの一例は上記の50[Hz]であるが、この値は一例に過ぎず、適宜調整が可能である。さらに、複数の周波数領域においてRMS値を演算し、それらを合算して閾値Vthと比較しても良い。
なお、図4に例示したグリースバス40には、旋回装置ピニオン17が1つだけ収納されており、1組の旋回油圧モータ2及び遊星歯車減速機10だけで上部旋回体60を旋回させているが、油圧ショベルの車格が大きくなるとグリースバス40内に複数の旋回装置ピニオン17が収納され、複数組の旋回油圧モータ2及び遊星歯車減速機10で上部旋回体60を旋回する場合がある。本実施形態はそのような場合にも適用可能である。ただし、各遊星歯車減速機10のカバーに取り付けられた第1振動センサ8の全てから振動データをコントローラ9に入力する必要はなく、複数の第1振動センサ8のうちいずれか1つから振動データをコントローラ9に入力すれば足りる。各旋回装置ピニオン17は同じ環境下でグリースバス40内を移動するため、1つの第1振動センサのデータでグリース量を判定できるためである。
<第2実施形態>
上記の実施形態(第1実施形態)では、コントローラ9を使ってグリースバス40内のグリースの量(例えば補充の要否)を判断する場合について説明したが、第2振動センサ7を追加するだけで遊星歯車減速機10の異常診断もコントローラ9で行うことができる。本実施形態ではその具体的方法について説明する。本実施形態の異常診断装置は、減速機ハウジング6に取り付けられる第1振動センサ8と、モータハウジング1に取り付けられる第2振動センサ7と、コントローラ9とを備えている。
上記の実施形態(第1実施形態)では、コントローラ9を使ってグリースバス40内のグリースの量(例えば補充の要否)を判断する場合について説明したが、第2振動センサ7を追加するだけで遊星歯車減速機10の異常診断もコントローラ9で行うことができる。本実施形態ではその具体的方法について説明する。本実施形態の異常診断装置は、減速機ハウジング6に取り付けられる第1振動センサ8と、モータハウジング1に取り付けられる第2振動センサ7と、コントローラ9とを備えている。
図9は本実施形態のコントローラ9によって実行される異常診断処理のフローチャートの一例を示す図である。コントローラ9は記憶装置に記憶されたプログラムと第1振動センサ8及び第2振動センサ7を介して取得された振動データとに基づいて図9に示した処理を実行する。なお、図9中に示したように、第1実施形態で説明した図5のフロー(グリースの補充要否判断フロー)を並行してコントローラ9で実行することが可能である。但し、図5のフローの説明は省略する。
コントローラ9は、ステップ201にて第2振動センサ7を介して取得される油圧モータ2に係る第2振動データを取得し、ステップ202にて当該第2振動データを高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)によりスペクトル波形に変換する。図10に油圧モータ2に係る第2振動データから得られるスペクトル波形の一例を示す。この図に示すようにスペクトル波形は周波数(Frequency)と振幅(Amplitude)によって表される。なお、ステップ202で第2振動データを高速フーリエ変換する前の処理として、第2振動データにおける或る周波数領域を除去するフィルタ処理や、第2振動データをエンベロープ波形に変換する包絡線処理等を行っても良い。
ステップ203において、コントローラ9は、ステップ202で取得したスペクトル波形に基づいて油圧モータ2の振動のピーク周期に対応するピーク周波数Fmを算出する。油圧モータ2のピーク周波数Fmの算出方法としては、ステップ202で取得したスペクトル波形において振幅が最大のピークに係る周波数をピーク周波数Fmと特定する方法がある。油圧モータ2の回転時には、図10に示すように或る周波数Fmにおいてピークが確認でき、これを油圧モータ2のピーク周波数と算出できる。算出したピーク周波数Fmはコントローラ9内の記憶装置に記憶する。
ステップ204において、コントローラ9は、ステップ203で算出した油圧モータ2のピーク周波数に基づいて油圧モータ2の回転数を算出する。油圧モータ2の回転数はピーク周波数Fmを油圧モータ2のピストン数で除した値として算出できる。
ステップ205において、コントローラ9は、ステップ204で算出した油圧モータ2の回転数と、第1振動センサ8の近傍に位置する遊星歯車機構3を構成する複数の歯車の数n及び歯数Tとに基づいて、当該複数の歯車の特徴周波数fd、すなわち当該複数の歯車の各々の回転周期をそれぞれ算出する。ここでは第1振動センサ8の近傍に位置するのは第1遊星歯車機構3Aであるため、第1太陽歯車11a、第1遊星歯車12a及び第1内歯車13aの特徴周波数fds,fdp,fdrを算出する。
或る歯車の歯の一部が損傷すると、或る周波数(特徴周波数fd)において振動が発生する。特徴周波数fdは回転数に依存するため、ステップ204で算出した油圧モータ2の回転数から各歯車の特徴周波数を計算する。各歯車11a,12a,13aの特徴周波数fds,fdp,fdrは下記式(1)-(3)により演算できる。ここで、fは回転周波数、Tは各歯車の歯数、nは遊星歯車の数であり、添え字s,p,rはそれぞれ太陽歯車、遊星歯車、内歯車を意味する。第1太陽歯車11aの回転周波数fsはステップ204で算出した油圧モータ2の回転数から演算できる。
なお、特徴周波数fdの代わりに、噛み合い周波数fzを算出しても良い。噛み合い周波数fzは、1秒間に歯車の歯が噛み合う回数を示し、遊星歯車減速機10の場合には下記式(4)により演算できる。
また、コントローラ9は、ステップ206にて第1振動センサ8を介して取得される遊星歯車減速機10に係る第1振動データを取得し、ステップ207にて当該第1振動データを高速フーリエ変換(FFT)によりスペクトル波形に変換する。図11に遊星歯車減速機10に係る第1振動データから得られるスペクトル波形の一例を示す。なお、ステップ207で第1振動データを高速フーリエ変換する前の処理として、第1振動データにおける或る周波数領域を除去するフィルタ処理や、第1振動データをエンベロープ波形に変換する包絡線処理等を行っても良い。
図6のスペクトル波形は、第1太陽歯車11aが損傷した場合の例を示しており、ステップ203で算出した油圧モータ2のピーク周波数Fmにおけるピークと、第1太陽歯車11aの損傷により特徴周波数fds及びその整数倍の周波数2fdsに発生した2つのピークが確認できる。なお、各歯車に損傷の無い場合(つまり正常時)には、特徴周波数fd及びその整数倍の周波数nfdにピークは観測されない。また、歯車の損傷が酷く、発生する振動が大きい場合には、油圧モータ2のスペクトル波形においても特徴周波数にピークが観測されることがある。この点に関して本実施形態の第1太陽歯車11aの損傷による振動は微少であるため、図10の油圧モータ2のスペクトル波形において特徴周波数fdsのピークはほぼ観測されない。
ステップ208において、コントローラ9は、ステップ207で第1振動データを変換して得たスペクトル波形から、ステップ203で演算した油圧モータ2のピーク周波数Fmにおけるピークを探索し、ピークが発見された場合には当該ピークを除去する。すなわち図11の例では破線で囲んだ周波数Fmにおける振幅をゼロにしてピークを除去する。特徴周波数fdと油圧モータ2のピーク周波数Fmが接近している場合、後続するステップ209で算出(抽出)する特徴周波数振幅にピーク周波数Fmの振幅が含まれて診断を誤る可能性がある。しかし、本実施形態のようにピーク周波数Fmにおけるピークを除去すれば、残ったスペクトル波形において各歯車の特徴周波数fdでのピークの発生の有無を容易に判別できるので、油圧モータ2の回転により生じるノイズの影響を低減でき、結果的に異常診断の精度が向上する。なお、ピークを除去する周波数はピーク周波数Fmのみに限らず、ピーク周波数Fmの前後の所定の範囲の周波数を対象にしても良い。また、各歯車に損傷が無い正常時における、遊星歯車減速機10の振動のスペクトル波形(但し、油圧モータ2のピーク周波数Fmは除去済み)の一例を図12に示す。
ステップ209において、コントローラ9は、ステップ208でピーク除去したスペクトル波形からステップ205で算出した各特徴周波数fds,fdp,fdrにおける振幅を抽出する。このとき各特徴周波数fds,fdp,fdrの整数倍の周波数における振幅をさらに抽出しても良い。振幅の抽出に際しては、算出した油圧モータ2の回転数の誤差を考慮して、抽出対象の周波数±数Hzの範囲において最大のピークを探索し、当該最大のピークの振幅を当該抽出対象の周波数における振幅としても良い。
ステップ210において、コントローラ9は、ステップ209で抽出した各特徴周波数fds,fdp,fdrにおける振幅を各特徴周波数に紐付くしきい値Ats,Atp,Atrと比較する。この比較の結果、コントローラ9は、振幅がしきい値At以下であれば異常なしと診断し(ステップ212)、振幅がしきい値Atより大きければその特徴周波数fdに紐づく歯車が損傷した(異常あり)と診断する(ステップ211)。しきい値Atは予め設定された値である。しきい値Atは、実験から求める方法、正常時の振幅値またはその整数倍とする方法、機械学習により求める方法などが考えられる。しきい値Atは特徴周波数ごとに異なることもある。
図11の減速機10のスペクトル波形の例では、ステップ209で第1太陽歯車11aの特徴周波数fds及びその2倍の周波数2fdsにおける振幅にピークが発見される。発見された各ピークの振幅としきい値Atsとの比較がステップ210で行われ、発見された各ピークの振幅がしきい値Atsよりも大きいので第1太陽歯車11aが損傷しているという診断が下される(ステップ211)。
(効果)
以上のように本実施形態では、油圧モータ2及び油圧モータ2の出力軸4に結合された遊星歯車減速機3によって駆動される油圧ショベル100における遊星歯車減速機3の異常診断装置300に、遊星歯車減速機3のハウジングである減速機ハウジング6に取り付けられ、減速機ハウジング6の振動を検出する第1振動センサ8と、油圧モータ2のハウジングであるモータハウジング1に取り付けられ、モータハウジング1の振動を検出する第2振動センサ7と、第1振動センサ8及び第2振動センサ7による検出結果に基づいて遊星歯車減速機3に含まれる複数の歯車11,12,13の異常の有無を判定するプロセッサ(コントローラ9)とを備えた。そして当該プロセッサ(コントローラ9)が、第2振動センサ7によって取得される第2振動データから油圧モータ2の振動のピーク周期に対応するピーク周波数Fm及び油圧モータ2の回転数を演算し、油圧モータ2の回転数と、複数の歯車11,12,13の数及び当該複数の歯車11,12,13の各々の歯数と、に基づいて、複数の歯車11,12,13の回転周期に対応する特徴周波数fdをそれぞれ演算し、油圧モータ2のピーク周波数Fmと、第1振動センサ8によって取得される第1振動データの特徴周波数における振幅と、に基づいて、複数の歯車11,12,13の異常の有無を判定することとした。
以上のように本実施形態では、油圧モータ2及び油圧モータ2の出力軸4に結合された遊星歯車減速機3によって駆動される油圧ショベル100における遊星歯車減速機3の異常診断装置300に、遊星歯車減速機3のハウジングである減速機ハウジング6に取り付けられ、減速機ハウジング6の振動を検出する第1振動センサ8と、油圧モータ2のハウジングであるモータハウジング1に取り付けられ、モータハウジング1の振動を検出する第2振動センサ7と、第1振動センサ8及び第2振動センサ7による検出結果に基づいて遊星歯車減速機3に含まれる複数の歯車11,12,13の異常の有無を判定するプロセッサ(コントローラ9)とを備えた。そして当該プロセッサ(コントローラ9)が、第2振動センサ7によって取得される第2振動データから油圧モータ2の振動のピーク周期に対応するピーク周波数Fm及び油圧モータ2の回転数を演算し、油圧モータ2の回転数と、複数の歯車11,12,13の数及び当該複数の歯車11,12,13の各々の歯数と、に基づいて、複数の歯車11,12,13の回転周期に対応する特徴周波数fdをそれぞれ演算し、油圧モータ2のピーク周波数Fmと、第1振動センサ8によって取得される第1振動データの特徴周波数における振幅と、に基づいて、複数の歯車11,12,13の異常の有無を判定することとした。
つまり、本実施形態の異常診断装置300及びこれを含む油圧ショベル(建設機械)100では、油圧モータ2のハウジング1に第2振動センサ7を取り付け、この第2振動センサ7を利用して取得される第2振動データを利用することで油圧モータ2のピーク周波数Fmを演算し、演算したピーク周波数Fmから油圧モータ2の回転数を演算することを実現した。すなわち油圧モータ2の回転数を回転数センサ等で直接的に取得することなく第2振動データを利用することで算出した。そして、演算した油圧モータ2の回転数を利用して各歯車の特徴周波数fdを演算し、第1振動センサ8を利用して取得されるスペクトル波形において油圧モータ2のピーク周波数における振幅を除去することで、油圧モータ2に連結された遊星歯車減速機10の特徴周波数fdに基づく歯車の異常診断を実現した。すなわち、本実施形態の異常診断装置は、回転数データの直接的な取得が難しい建設機械の油圧モータに連結される遊星歯車減速機において、第2振動センサ7を利用して油圧モータ2の回転数を演算することができるので、建設機械向けの遊星歯車減速機の異常診断を容易に行うことができる。
特に、本実施形態の異常診断装置は、第1実施形態のハードウェア構成に第2振動センサ7を追加し、コントローラ9が実行する演算処理を追加するだけで構成可能であり、ほぼ同じハードウェア構成で遊星歯車減速機10と旋回装置ピニオン17の異常を診断できる点で従前の異常診断装置に比して顕著な効果を発揮するものである。
なお、上記では第1遊星歯車機構3Aの近傍に第1振動センサ8を取り付けた場合について説明したが、第2遊星歯車機構3Bの近傍に第1振動センサ8を取り付けて第2遊星歯車機構3Bに含まれる歯車の異常診断を行っても良いことは言うまでも無い。
また、図9等ではステップ205で各歯車の特徴周波数fdを演算したが、特定の歯車の特徴周波数fdのみを演算しても良い。この場合、ステップ209では当該特定の歯車の特徴周波数fdの振幅と当該特徴周波数fdの整数倍の周波数の振幅を抽出し、ステップ210では抽出した振幅としきい値の比較を行うことで当該特定の歯車の異常の有無を判断しても良い。
また、上記では油圧モータ2と遊星歯車減速機10のハウジング1,6に2つの振動センサ7,8が取り付けられた図2を用いて説明したが、この2つの振動センサ7,8はハウジング1,6に常時取り付けておく必要はない。すなわちメンテナンスのときにだけ2つの振動センサ7,8をハウジング1,6に取り付けるようにしても良い。
本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施の形態に係る構成の一部を、他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
上記の実施形態では、油圧モータを備える旋回装置を例示したが、油圧モータの代わりに電動モータを利用しても良いし、油圧モータと電動モータのハイブリッド式モータを利用しても良い。
また、上記のコントローラ9に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は、それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また、コントローラ9に係る構成は、演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることでコントローラ9の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は、例えば、半導体メモリ(フラッシュメモリ、SSD等)、磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク、光ディスク等)等に記憶することができる。
また、上記の各実施の形態の説明では、制御線や情報線は、当該実施の形態の説明に必要であると解されるものを示したが、必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
1…ハウジング(モータハウジング),2…油圧モータ(旋回油圧モータ),3…遊星歯車機構,4…出力軸,5…軸受,6…ハウジング(減速機ハウジング),7…第2振動センサ,8…第1振動センサ,9…コントローラ,9a…プロセッサ,10…遊星歯車減速機,11a…第1太陽歯車,11b…第2太陽歯車,12a…第1遊星歯車,12b…第2遊星歯車,13a…第1内歯車,13b…第2内歯車,14a…第1遊星歯車ピン,14b…第2遊星歯車ピン,15a…第1キャリア,15b…第2キャリア,16…出力軸(回転軸),17…ピニオン,18…内歯,30…フロント作業装置(作業装置),40…グリースバス,60…上部旋回体,61…旋回フレーム,80…旋回ベアリング,81…内輪,82…外輪,100…油圧ショベル,300…異常診断装置
Claims (8)
- モータと、前記モータの出力軸に結合された遊星歯車減速機と、前記遊星歯車減速機の出力軸に設けられ、旋回ベアリングの内歯とグリースバス内で噛み合うピニオンとを備えた旋回装置の異常診断装置であって、
前記遊星歯車減速機のハウジングである減速機ハウジングに取り付けられ、前記減速機ハウジングの振動を検出する第1振動センサと、
前記第1振動センサによる検出結果に基づいて前記旋回装置の異常の有無を判定するプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、
前記第1振動センサによって取得される第1振動データをエンベロープ処理し、
当該エンベロープ処理された前記第1振動データをスペクトル波形に変換し、
前記スペクトル波形のRMS値を演算し、
前記RMS値に基づいて前記グリースバス内のグリースの量を判定する
ことを特徴とする旋回装置の異常診断装置。 - 請求項1の旋回装置の異常診断装置において、
前記プロセッサは、前記RMS値が所定の閾値以下のとき、前記グリースバス内のグリースの量が補充が必要な量まで減少していると判定することを特徴とする旋回装置の異常診断装置。 - 請求項1の旋回装置の異常診断装置において、
前記プロセッサは、前記スペクトル波形の所定周波数以下の領域において前記RMS値を演算することを特徴とする旋回装置の異常診断装置。 - 請求項2の旋回装置の異常診断装置において、
前記プロセッサは、前記グリースバス内のグリースの補充が必要であると判定したとき、その旨をモニタに表示することを特徴とする旋回装置の異常診断装置。 - 請求項3の旋回装置の異常診断装置において、
前記所定周波数が50Hzであることを特徴とする旋回装置の異常診断装置。 - 請求項1の旋回装置の異常診断装置において、
前記第1振動センサは、加速度センサであり、
前記プロセッサは、前記RMS値として加速度RMS値を演算することを特徴とする旋回装置の異常診断装置。 - 請求項1の旋回装置の異常診断装置において、
前記モータのハウジングであるモータハウジングに取り付けられ、前記モータハウジングの振動を検出する第2振動センサと、
前記プロセッサは、
前記第2振動センサによって取得される第2振動データから前記モータの振動のピーク周期に対応するピーク周波数及び前記モータの回転数を演算し、
前記モータの回転数と、前記遊星歯車減速機に含まれる複数の歯車の数及び当該複数の歯車の各々の歯数と、に基づいて、前記複数の歯車の回転周期に対応する特徴周波数をそれぞれ演算し、
前記モータの前記ピーク周波数と、前記第1振動センサによって取得される第1振動データの前記特徴周波数における振幅と、に基づいて、前記複数の歯車の異常の有無を判定する
ことを特徴とする旋回装置の異常診断装置。 - 旋回体を駆動するモータと、
前記モータの出力軸に連結された遊星歯車減速機と、
前記遊星歯車減速機の出力軸に設けられたピニオンと、
グリースバス内で前記ピニオンと噛み合い前記ピニオンによって駆動される内輪を有する旋回輪を備えた旋回装置と、
前記旋回装置によって駆動される旋回体と、
前記旋回装置を介して前記旋回体を旋回可能に支持する走行体と、
前記遊星歯車減速機を覆う減速機ハウジングに取り付けられた第1振動センサと、
前記第1振動センサによる検出結果に基づいて前記旋回装置の異常の有無を判定するコントローラとを備えた建設機械において、
前記コントローラは、
前記第1振動センサによって取得される第1振動データをエンベロープ処理し、
当該エンベロープ処理された前記第1振動データをスペクトル波形に変換し、
前記スペクトル波形のRMS値を演算し、
前記RMS値に基づいて前記グリースバス内のグリースの状態を判定する
ことを特徴とする建設機械。
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