JP2024002736A - 金属二次電池用流路一体型正極及びその製法、並びに金属二次電池 - Google Patents

金属二次電池用流路一体型正極及びその製法、並びに金属二次電池 Download PDF

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晃敬 野村
Akitaka Nomura
智子 山岸
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Abstract

【課題】従来よりも出力や容量特性に優れ、また、大気中における放電特性を大幅に改善できる金属二次電池を提供することを目的とする。【解決手段】本発明によれば、繊維状の炭素材料からなる多孔質層のガス拡散用流路層と、前記炭素材料と同じ又は異なる繊維状の炭素材料からなる多孔質層の正極層と、を含み、前記流路層の一部は、前記流路層中の繊維状の炭素材料と前記流路層に入り込む前記正極層の繊維状の炭素材料との絡み合いによって発現する空洞の細孔を含み、前記流路層と前記正極層とによって提供される細孔が、10nm以上200μm以下の連続する細孔径分布を有し、前記連続する細孔径分布によって前記流路層と前記正極層が一体化している、金属二次電池用流路一体型正極が提供される。【選択図】図5

Description

本発明は、金属二次電池用流路一体型正極及びその製法、並びに当該正極を備える金属二次電池に関する。
近年、再生可能エネルギーの普及や自動車電動化の要請により、軽量かつ大容量、すなわち、より高いエネルギー密度をもつ蓄電池(具体的には、金属二次電池)の開発が求められている。開発が進められている蓄電池の中でも特にリチウム空気電池は、最も高い理論エネルギー密度を有しており、現在普及しているリチウムイオン電池を大幅に超えるエネルギー密度をもつ蓄電池としての実現化が期待されている電池である。
リチウム空気電池は、負極活物質にリチウム金属、そして、正極活物質に大気酸素を用いる電池である。放電時は、負極ではリチウム金属が溶出し、正極では大気から吸収された酸素と反応し過酸化リチウムが析出し、充電時は、これと逆の反応が起こり、これらを繰り返して充放電を行う。この充放電を化学反応式で表すと、負極では、

となり、正極では、

となる。ここで正極は、放電や充電に従って大気酸素を吸収したり排出したりする働きを有する電極であることから、空気極とも呼ばれる。
リチウム空気電池の出力や容量を向上させ、大気中における放電特性を改善させるには、正極が電極として十分な導電性を有すると同時に、電池反応が起きる電気化学活性面を有すること、そして、電気化学活性面に電池反応物である酸素とリチウムイオンを供給可能とする拡散経路を有することが必要である。この拡散経路は、放電反応により析出する固体生成物(具体的には、過酸化リチウム(Li))の成長を阻害せず、多量に蓄積できる空間を提供する役割も兼ねる。そのため、正極には、反応物質(酸素OとリチウムイオンLi)の拡散供給が容易な連続した空孔構造を有することに加え、できるだけ大きな細孔容積と表面積(すなわち、有効電極面積)を有すること要求される。
そこで、金属二次電池(特に、リチウム空気電池)の出力や容量を向上させ、また、大気中における放電特性を改善させることができる正極として、高い空隙率(すなわち、高い多孔性)と大きな表面積を備えた多孔性カーボン(例えば、カーボンナノチューブ)を用いる正極の開発が行われてきた。
非特許文献1においては、うねった波状(ウェーブ)構造を有するカーボンナノチューブ(CNT)を原材料としてシート状に加工し、これを正極として用いることによって、空隙率を94%まで高めつつ、十分な自立性及び機械的強度並びに導電性を有する多孔性カーボン正極の作製が可能となること、そして、これをリチウム空気電池正極に用いることによって当該電池の容量や出力が改善されることが報告されている。
非特許文献2においては、スタックセルにおける流路層として、波状加工して断面方向にガス拡散性をもたせたSUS箔又はAl箔の金属薄膜を利用し、これを多孔性カーボンの正極層間に挟んで積層する(すなわち、スタックセルを作製する)ことにより有効電極面積のスケールアップが可能となること、そして、その結果、リチウム空気電池としての容量や出力が改善されることが報告されている。
特許文献1においては、リチウム空気電池セル(すなわち、単セル)に従来の正極(具体的には、カーボンナノチューブからなる正極)を適用する場合の問題、すなわち、当該正極の加工や取扱いが困難で電池特性が安定化しないという問題や当該リチウム空気電池セルを用いる積層設計(すなわち、スタックセルの作製)ができず蓄電池としての容量や出力の向上が難しいという問題を解決するため、金属薄膜の流路層よりも軽量な炭素繊維から作製されたガス拡散層をスタックセルにおける流路層とし、カーボンナノチューブの正極層と当該ガス拡散層(すなわち、流路層)を複合化して一体化させた流路一体型正極を開発したことが報告されている。
特開2021―2437号公報
Akihiko Nomura et. al., "Highly-porous Super-Growth carbon nanotube sheet cathode develops high-power Lithium-Air Batteries", Electrochimica Acta 400 (2021) 139415 Yoshimi Kubo et. al., "Multicell Stack of Nonaqueous Lithium-Air Batteries", ECS Transactions, 62 (1) pp. 129-135 (2014)
しかしながら、非特許文献1に記載されている多孔性カーボン正極は、正極層と流路層とが一体化したものではない。非特許文献1では、正極層単体による電池特性の発現が評価及び確認されているだけである。非特許文献1に記載の多孔性カーボン正極を使用して実用的な電池モジュールを得るためには、スタックセルを作製する必要があるが、当該非特許文献には、スタックセルへ応用するために必要な情報(具体的には、スタックセルを作製する場合、当該非特許文献に記載の多孔性カーボン正極を実際にどのように利用することができるか、どのような構造を有する流路層と組み合わせるのが適切であるか等の情報)が一切ない。そのため、非特許文献1に基づいて、当該非特許文献に記載の多孔性カーボン正極を用いてスタックセルを設計し、作製することは当業者にとって極めて困難なことであり、スタックセルによって有効な電極面積をスケールアップさせることが容易ではないという課題がある。
また、非特許文献2では、上述のとおり、スタックセルにおける流路層として、波状加工して断面方向にガス拡散性をもたせたSUS箔又はAl箔の金属薄膜を利用し、これを正極層間に挟んで積層することにより有効電極面積のスケールアップを可能にしている。しかしながら、金属薄膜は一般的に重いため、非特許文献2においては、スタックセルの重量エネルギー密度が、非積層の単電池(単セル)の場合よりも大きく損なわれるという課題がある。また、非特許文献2における正極層と流路層も、両者が一体化したものではない。そのため、非特許文献2におけるスタック設計においては、流路層、正極層、セパレータ、負極層、集電体の順に、多数の部材を高い精度で積み上げる必要があり、工程が煩雑になるという課題もある。
また、特許文献1では、上述のとおり、流路層として、金属薄膜ではなく炭素繊維を用いることにより、流路層の軽量化と薄膜化を実現している。さらに炭素繊維を用いた流路層とカーボンナノチューブを用いた正極層を一体化させることによって、従来困難であったカーボンナノチューブ正極の取り扱いや加工を容易化してリチウム空気電池セルの電池特性の安定化を可能としている。また、当該リチウム空気電池セルを用いたスタックセルの作製を可能にして蓄電池(具体的には、リチウム空気電池)としての容量や出力の向上を図っている。他方、特許文献1には、流路層と正極層の一体化が導電性多孔質基材の流路層の内部にカーボンナノチューブの正極層全体が浸透した状態(入り込んだ状態)を意味するとの報告はあるものの、当該一体化による電池特性の発現は、正極層単体が達成できる電池特性に留まる(すなわち、正極層単体が達成できる電池特性を超えない)という課題がある。詳述すると、特許文献1に記載されている、流路層と正極層とを一体化させた正極では、当該流路層は、スタック構造における正極層の機能を発現させるためだけに設けられているものであって、当該流路層自体の新たな機能発現によって電池特性の向上を図るものではない。そのため、蓄電池としての容量や出力自体を向上させる効果は、正極層単体が達成できる電池特性に留まり、限定的であるという課題がある。
このように、上述した従来の金属薄膜の流路層や炭素繊維の流路層はいずれも、金属二次電池(特に、リチウム空気電池)の作製においては、正極層への単なる酸素ガス供給やスタック構造の維持だけを目的としたものであって、従来の流路層の役割以上の効果を期待するものではない。そのため、金属二次電池として設計されたスタックセルの電池特性は、正極層単体が達成できる電池特性に留まり、限定的である。このような理由から、従来の金属二次電池用正極は、当該金属二次電池の出力や容量の向上、並びに、大気中における放電特性の改善の点で、未だ十分とはいえず、新規な金属二次電池(特に、リチウム空気電池)用正極の開発が依然として希求されているという現状がある。
本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、繊維状の炭素材料からなる多孔質層のガス拡散用流路層と、前記炭素材料と同じ又は異なる繊維状の炭素材料からなる多孔質層の正極層と、を含み、前記流路層の一部は、前記流路層中の繊維状の炭素材料と前記流路層に入り込む前記正極層の繊維状の炭素材料との絡み合いによって発現する空洞の細孔を含み、前記流路層と前記正極層とによって提供される細孔(当該細孔には前記空洞の細孔も含む)が、10nm以上200μm以下の連続する細孔径分布を有し、前記連続する細孔径分布によって前記流路層と前記正極層が一体化している、金属二次電池用流路一体型正極によれば、従来よりも出力や容量特性に優れ、また、大気中における放電特性を大幅に改善できる金属二次電池が提供できることを初めて見出し、本発明を完成させた。
本発明は、具体的には以下の[1]から[14]の諸態様を有する。
[1] 繊維状の炭素材料からなる多孔質層のガス拡散用流路層と、
前記炭素材料と同じ又は異なる繊維状の炭素材料からなる多孔質層の正極層と、
を含み、
前記流路層の一部は、前記流路層中の繊維状の炭素材料と前記流路層に入り込む前記正極層の繊維状の炭素材料との絡み合いによって発現する空洞の細孔を含み、
前記流路層と前記正極層とによって提供される細孔が、10nm以上200μm以下の連続する細孔径分布を有し、前記連続する細孔径分布によって前記流路層と前記正極層が一体化している、
金属二次電池用流路一体型正極。
[2] 前記流路層の一部が、少なくとも5μmの厚さを有する、[1]に記載の正極。
[3] 前記空洞の細孔が、10μm以上50μm以下の連続する細孔径分布を有する、[1]又は[2]に記載の正極。
[4] 前記空洞の細孔が、前記正極層1グラム重量あたりの細孔容積として0.5cm/g以上5.0cm/g以下の値を有する、[1]から[3]のいずれかに記載の正極。
[5] 前記繊維状の炭素材料が、炭素繊維及び/又はカーボンナノチューブである、[1]から[4]のいずれかに記載の正極。
[6] 前記流路層の繊維状の炭素材料が炭素繊維であり、前記正極層の繊維状の炭素材料がカーボンナノチューブである、[1]から[5]のいずれか一項に記載の正極。
[7] 250m/g以上1400m/g以下のBET法比表面積を有する、[1]から[6]のいずれかに記載の正極であって、
0.1μm以上10μm以下の細孔径分布を有する細孔が、前記正極層1グラム重量あたりの細孔容積として1.0cm/g以上10.0cm/g以下の値を有する、正極。
[8] 前記流路層の密度が、0.01g/cm以上0.30g/cm以下である、[1]から[7]のいずれかに記載の正極。
[9] 前記正極層と前記流路層の間の剥離強度が、90度剥離試験で1mN/5mm以上である、[1]から[8]のいずれかに記載の正極。
[10] 前記正極の細孔径分布が水銀圧入法によって測定される、[1]から[9]のいずれかに記載の正極。
[11] 前記空洞の細孔が、電子顕微鏡又はX線コンピュータトモグラフによる観測によって視覚的に観測される、[1]から[10]のいずれかに記載の正極。
[12] 正極、金属を含有する負極、及び、前記正極と前記負極の間に電解液とを含む、金属二次電池であって、
前記正極が[1]から[11]のいずれかに記載の正極である、金属二次電池。
[13] 負極活物質と正極活物質を含み、
前記負極活物質が、リチウム、亜鉛、ナトリウム、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、又はカリウムであり、
前記正極活物質が酸素又は二酸化炭素である、
[12]に記載の金属二次電池。
[14] 多孔質層の正極層の原料として繊維状の炭素材料を溶媒中に分散させた分散液と、
多孔質層のガス拡散用流路層として繊維状の炭素材料からなる多孔質基材と、
を用意するステップと、
前記分散液を前記多孔質基材上でろ過することにより、前記流路層上に前記正極層を形成させるステップと、
を含み、
前記分散液に使用される繊維状の炭素材料が、BET法比表面積が350m/g以上1400m/g以下で、
前記多孔質基材が、30μm以上の細孔径と、0.01g/cm以上0.30g/cm以下の密度とを有する、
[1]から[11]のいずれかに記載の正極の製造方法。
本発明の一態様によれば、金属二次電池用正極として既存の正極とは異なる新規の金属二次電池用正極、具体的には、金属二次電池用流路一体型正極及びその製法を提供することができる。
本発明の一態様によれば、以下のとおり、従来の金属二次電池よりも出力や容量特性に優れ、また、大気中における放電特性を大幅に改善できる金属二次電池が提供できる。
本発明の一態様によればまた、金属二次電池用正極として、流路層と正極層が一体化した金属二次電池用流路一体型正極を提供することができる。そのため、当該正極を用いる金属二次電池によれば、平面状単一セルを積層(スタック)させて有効電極面積を容易にスケールアップさせることができる。そのため、本発明によれば、従来の金属二次電池よりも出力や容量特性に優れる金属二次電池が提供できる。
本発明の一態様によればまた、炭素繊維のような繊維状の炭素材料からなるガス拡散層を流路層として利用するので、薄くて軽い流路層を提供することができる。そのため、当該正極を用いる金属二次電池によれば、平面状単一セルを積層(スタック)させて有効電極面積をスケールアップさせて出力や容量を得る場合に、積層する正極層間に設ける酸素ガス供給のための流路層として金属を使用する従来の金属二次電池に比べ、重量エネルギー密度を向上させることができる。特に、流路層として、金属又はグラファイト炭素からなる燃料電池用セパレータ(これは、二次電池用のセパレータではなく、燃料電池セルに水素やメタノール等の燃料を供給しつつセルを積層するための部材である)によって代用する従来の金属二次電池では、料電池用セパレータは重く(具体的には、50mg/cm超)、分厚くなるため(具体的には、500μm超)、本発明によれば、このような従来の金属二次電池と比較して、重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を飛躍的に向上させることができる。
本発明の一態様によればまた、正極層と流路層との間に両層の境界を明確に区別することができない細孔構造、すなわち、酸素供給に有利な連続的な細孔径分布を有する細孔構造を備える、金属二次電池用流路一体型正極を提供することができる。そのため、本発明によれば、当該流路一体型正極を用いて金属二次電池(例えば、リチウム空気電池スタックセル)を作製することにより、正極層と流路層を単に積み上げただけの単純積層体や、正極層と流路層との間が有意な接着強度で接着されて一体化している積層体であっても上記連続的な細孔径分布を形成するには至っていない積層体を正極に用いる金属二次電池と比較して、蓄電池の容量や出力に優れた金属二次電池を提供することができる。
本発明の一態様によればまた、正極層と流路層との間に連続的な細孔径分布を有する細孔構造を備える金属二次電池用流路一体型正極を提供することができる。そのため、本発明によれば、当該流路一体型正極を用いて金属二次電池(例えば、リチウム空気電池スタックセル)を作製することにより、酸素濃度が比較的低い大気中(酸素濃度約20%)においても放電容量に優れている金属二次電池を提供することができる。つまり、本発明によれば、大気中での運転であっても純酸素雰囲気下と同程度以上の蓄電池容量を得ることができる。そのため、大気中における放電特性を大幅に改善できる金属二次電池が提供できる。
本発明の一態様によればまた、正極層と流路層との間に連続的な細孔径分布を有する細孔構造を備える金属二次電池用流路一体型正極を提供することができるので、本発明によれば、当該流路一体型正極を用いて金属二次電池(例えば、リチウム空気電池スタックセル)を作製することにより、ガス交換機能に優れた金属二次電池を提供することができる。そのため、本発明によれば、充放電サイクル特性の向上(例えば、低充電過電圧や放電回数の増加)を実現することができる。
本発明の一態様によればまた、正極層と流路層との間に連続的な細孔径分布を有する細孔構造を備える金属二次電池用流路一体型正極を提供することができるので、現在普及している金属二次電池(例えば、リチウムイオン電池)と比較して大容量で、高エネルギー密度の金属二次電池を提供することができる。そのため、本発明によれば、実用的に有利な金属二次電池の提供が大いに期待できる。
図1は、実施例において流路層から積層体を作製する方法を示す概略図である。 図2は、剥離試験用の試験片と剥離試験装置の概略図である。 図3は、本発明の具体的な一態様である「CNT1w/CP1積層体」の断面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 図4は、本発明の具体的な一態様である「CNT1w/CP1積層体」の剥離試験後のCP1(流路層)側の剥離面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 図5は、本発明の具体的な一態様である「CNT1w/CP1積層体」の断面のXCT(X線コンピュータトモグラフ)像を示す図である。 図6は、図5で得られた「CNT1w/CP1積層体」を構成する、CNT部(カーボンナノチューブ部)、炭素繊維部(CF部)、及び空洞部(Void部)の各占有体積の割合を厚さ方向に対してプロットした図である。 図7は、本発明の具体的な一態様である「CNT1w/CP1積層体」(例1の正極シート)、及び、正極層として例3の正極シートと流路層としてCP1を単に積み上げただけの「単純積層体」に関し、水銀圧入法による測定を行った結果を示す図である。 図8は、例8の正極シートである「CNT4p/CP4積層体」、及び、正極層として例9の正極シートと流路層としてCP4を単に積み上げただけの「単純積層体」に関し、水銀圧入法による測定を行った結果を示す図である。 図9は、リチウム空気電池セルの一態様の構成を示す概略図である(ここで、図中の(a)は、流路層と正極層が一体化した積層体を正極として用いたリチウム空気電池セル(セル例1、2、4、6、8、10)の構成を示す概略図であり、(b)は、正極層単体と流路層を単に積み上げただけの単純積層体を正極として用いた従来のリチウム空気電池セル(セル例3、5、7、9、11)の構成を示す概略図である。)。 図10は、セル例1及びセル例3のリチウム空気電池スタックセルの放電試験結果を示す図である。 図11は、セル例10と11のリチウム空気電池スタックセルの充放電サイクル試験結果を示す図である(ここで、図中の(a)は、セル例10のリチウム空気電池スタックセルの充放電カーブを示す図である。図中の(b)は、セル例10のリチウム空気電池スタックセルの充放電カーブを示す図である。図中の(c)は、セル例10と11のリチウム空気電池スタックセルに関し、サイクル数に対する放電終端時および充電終端時の電圧を示す図である。)。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができることに留意すべきである。例えば、本発明の理解を助ける目的で、金属二次電池がリチウム空気電池である場合を例にして説明することがあるが、本発明の金属二次電池用流路一体型正極の用途は、リチウム空気電池正極に限定されず、外部ガスの吸収や排出を伴う機構を有する正極を備えた電池(いわゆる、開放型の電池)用の正極としても適用可能であることに留意すべきである。
本発明の一態様である「金属二次電池用流路一体型正極」(以下、「本発明の正極」とも称する。)は、上述のとおり、繊維状の炭素材料からなる多孔質層のガス拡散用流路層と、前記炭素材料と同じ又は異なる繊維状の炭素材料からなる多孔質層の正極層と、を含み、前記流路層の一部は、前記流路層中の繊維状の炭素材料と前記流路層に入り込む前記正極層の繊維状の炭素材料との絡み合いによって発現する空洞の細孔を含み、前記流路層と前記正極層とによって提供される細孔が、10nm以上200μm以下の連続する細孔径分布を有し、前記連続する細孔径分布によって前記流路層と前記正極層が一体化している、金属二次電池用流路一体型正極である。
本発明の正極を構成する「多孔質層のガス拡散用流路層」は、金属二次電池において、酸素や二酸化炭素などの外部ガスの吸排気が可能なガス拡散機構を備えていればよく、当該流路層は、繊維状の炭素材料からなる多孔質層である。当該繊維状の炭素材料としては、金属二次電池(例えば、リチウム空気電池等の空気電池や燃料電池)においてガス拡散用の層の材料として用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、炭素繊維、カーボンナノチューブ、黒鉛化炭素繊維などが挙げられる。また、これらを組み合わせてもよく、例えば、炭素繊維とカーボンナノチューブを組み合わせて使用してもよい。典型的には、炭素繊維及び/又はカーボンナノチューブを使用することが好ましく、炭素繊維を使用することがより好ましい。
当該繊維状の炭素材料は多孔質であることを要するが、当該炭素材料の空隙率の下限値は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。当該空隙率の上限値は、流路層の物理的な強度を担保する観点から、99.5%以下が好ましく、98.5%以下がより好ましい。但し、本発明の目的を達成できれば、これらの空隙率に限定されない。
前記流路層の密度は、本発明の目的を達成できれば特に制限はないが、0.01g/cm以上0.30g/cm以下であることが好ましく、0.02g/cm以上0.20g/cm以下であることがより好ましく、0.05g/cm以上0.15g/cm以下であることがさらにより好ましい。
前記流路層の厚みは、本発明の目的を達成できれば特に制限はないが、典型的には50μm以上500μm以下の範囲であることが好ましく、120μm以上400μm以下であることがより好ましい。前記流路層の厚みは、設計する金属二次電池の厚みや正極層の厚み等を考慮して適切に調整することが望ましい。
本発明の正極を構成する「正極層」は、繊維状の炭素材料からなる多孔質層である。当該繊維状の炭素材料としては、金属二次電池(例えば、リチウム空気電池等の空気電池や燃料電池)において正極層として用いられる繊維状の炭素材料であれば特に制限はない。例えば、本発明の正極を構成する「流路層」に使用される繊維状の炭素材料と同様、炭素繊維、カーボンナノチューブ、黒鉛化炭素繊維などが挙げられる。また、例えば、炭素繊維とカーボンナノチューブを組み合わせて使用してもよい。このように、本発明の正極を構成する「正極層」に使用される繊維状の炭素材料は、同正極を構成する「流路層」に使用される繊維状の炭素材料と同じであっても異なっていてもよい。具体的には、例えば、「流路層」と「正極層」に同じ種類のカーボンナノチューブを使用することも可能であり、また、「流路層」に炭素繊維を使用し、「正極層」に炭素繊維とは異なるカーボンナノチューブを使用することも可能である。典型的には、炭素繊維及び/又はカーボンナノチューブを使用することが好ましく、カーボンナノチューブを使用することがより好ましい。当該カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWNT)であってもよく、二層カーボンナノチューブ(DWNT)であってもよく、多層カーボンナノチューブ(MWNT)であってもよく、それらの混合物であってもよい。
前記正極層に使用される、繊維状の炭素材料のBET法比表面積は、350m/g以上1400m/g以下であることが好ましく、400m/g以上1300m/g以下であることがより好ましく、500m/g以上1250m/g以下であることがさらにより好ましい。
前記正極層に使用される、繊維状の炭素材料のBJH法による細孔容積は、直径2nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.1cm/g以上20cm/g以下であることが好ましく、1.2cm/g以上15cm/g以下であることがより好ましく、1.5cm/g以上12cm/g以下であることがさらにより好ましい。
前記正極層の厚みは、本発明の目的を達成できれば特に制限はないが、典型的には10μm以上500μm以下の範囲であることが好ましく、50μm以上300μm以下であることがより好ましく、100μm以上200μm以下であることがさらにより好ましい。前記正極層の厚みは、設計する金属二次電池の厚みや前記流路層の厚み等を考慮して適切に調整することが望ましい。具体的には、前記正極層と前記流路層を合計した厚みが、60μm以上1000μm以下となるように調整することが好ましく、100μm以上600μm以下となるように調整することがより好ましく、140μm以上450μm以下となるように調整することがさらにより好ましい。
本発明の正極は、上述のとおりの「金属二次電池用流路一体型正極」である。ここで、「金属二次電池」とは、負極活物質に金属、正極活物質に酸素や二酸化炭素などの外部ガスを用いるものをいう。負極活物質の金属としては、例えば、リチウム、亜鉛、ナトリウム、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、カリウムなどが挙げられるがこれらに限定されない。金属二次電池の具体例としては、例えば、リチウム空気電池、亜鉛-空気電池、ナトリウム-空気電池、アルミニウム-空気電池、マグネシウム-空気電池、カルシウム-空気電池、鉄-空気電池、カリウム-空気電池、リチウム-二酸化炭素電池などが挙げられるがこれらに限定されない。但し、本発明の正極は、正極活物質に酸素を用いる金属空気電池正極として好ましく、中でも、リチウム空気電池正極としてより好ましい。正極活物質の酸素としては、純酸素、大気酸素、あるいは任意の酸素分圧のガスを含むものを用いることができる。なお、金属二次電池の放電時の出力特性の観点から、通常は、酸素濃度は高い方が好ましい。
また、本発明の正極では、前記流路層の一部は、前記流路層中の繊維状の炭素材料と前記流路層に入り込む前記正極層の繊維状の炭素材料との絡み合いによって発現する空洞の細孔を含み、前記流路層と前記正極層とによって提供される細孔が、10nm以上200μm以下の連続する細孔径分布を有し、前記連続する細孔径分布によって前記流路層と前記正極層が一体化していることを要する。つまり、本発明の正極では、正極層の上に流路層を積み上げた積層体構造を有する。そのうえ、前記正極層に接触している側の前記流路層の一部(具体的には、前記正極層に接触している前記流路層の表面部分)で、前記流路層中の繊維状の炭素材料と前記流路層に入り込む前記正極層の繊維状の炭素材料との絡み合いにより発現する空洞(すなわち、細孔)を有するという構造を有する。ここで、前記流路層によって提供される細孔は、前記流路層の一部に発現する上記空洞に対応する細孔を除くと、具体的には、100μm付近から200μmの細孔径を有する。前記正極層によって提供される細孔は、具体的には、10nmから10μm付近の細孔径を有する。前記流路層の一部に発現する上記空洞に対応する細孔は、具体的には、10μm付近から100μm付近の細孔径を有する。そのため、本発明の正極では、前記流路層と前記正極層とによって提供される細孔が、10nm以上200μm以下の連続する細孔径分布を有することになるので、当該連続する細孔径分布によって前記流路層と前記正極層が一体化することになる。このような一体化を、本願では、前記流路層と前記正極層とが、細孔径分布の観点から一体化しているとも称する。
他方、従来のように、前記流路層と前記正極層を単に積み上げただけでは、上述の空洞(すなわち、細孔)を発現しない。この場合、前記流路層と前記正極層とによって提供される細孔は、前記流路層により提供される細孔(具体的には、100μm付近から200μmの細孔径を有する細孔)と前記正極層により提供される細孔(具体的には、10nmから10μm付近の細孔径を有する細孔)だけになる。そのため、前記流路層と前記正極層とによって提供される細孔には、上述の空洞に対応する細孔(具体的には、10μm付近から100μm付近の細孔径を有する細孔)が発現せず、この影響が、10nm以上200μm以下の細孔径分布中において、不連続な細孔径分布として現われる。その結果、上述の連続する細孔径分布を有することはない。つまり、前記流路層と前記正極層とが、細孔径分布の観点から一体化していないことになる。
上述のとおりであるから、本発明の一態様である「金属二次電池用流路一体型正極」の「流路一体」とは、流路層中の繊維状の炭素材料と流路層に入り込む正極層の繊維状の炭素材料との絡み合いによって発現する空洞の細孔を一部に含む流路層と正極層とによって提供される細孔が、10nm以上200μm以下の連続する細孔径分布を有し、この連続する細孔径分布によって流路層と正極層が一体化していることを意味する。これは、正極層に接触している流路層に正極層成分の繊維状の炭素材料が入り込み、当該流路層成分の繊維状の炭素材料との絡み合いにより空洞が発現し、正極層に接触している側の流路層の一部に、正極層成分の繊維状の炭素材料と流路層成分の繊維状の炭素材料と両者の絡み合いにより発現した空洞とを有する部分(いわゆる、層)が形成され、当該空洞が細孔として正極層の細孔と流路層の細孔を連続させる細孔径を提供することになるためであると理解される。
本発明の正極の細孔径分布は、公知の水銀圧入法によって測定される。水銀圧入法とは、水銀の表面張力が大きいことを利用して粉体の細孔に水銀を浸入させるために圧力を加え、圧力と圧入された水銀量から比表面積や細孔径分布を求める方法である。
本発明の正極によれば、上述の「流路一体」構造を有しているので、前記流路層と前記正極層とが、細孔径分布の観点から一体化していることになる。この場合、当該正極層と当該流路層の間の接着は、ハサミやカッター等の裁断具による切断加工を行っても、流路層と正極層が互いに付着している状態を保つことができる有意な接着強度(具体的には、90度剥離試験で1mN/5mm以上)を示す。このような一体化を、本願では、前記流路層と前記正極層とが、接着強度の観点から一体化しているとも称する。このように、本発明の正極によれば、当該正極層と当該流路層が、接着強度と細孔径分布の両方の観点から一体化していることになる。
他方、当該正極層と当該流路層の間の接着が、90度剥離試験で1mN/5mm以上という前記有意な接着強度を示す場合、必ずしも記流路層と前記正極層とが細孔径分布の観点から一体化していることにはならないことに留意すべきである。これは、流路層に正極層成分の繊維状の炭素材料が入り込むことにより前記有意な接着強度を有する接着ができても、流路層の繊維状の炭素材料の細孔と正極層の繊維状の炭素材料の細孔の両方の細孔径が小さいため、正極層成分の繊維状の炭素材料が流路層の深くまでは入ることができず、当該流路層成分の繊維状の炭素材料との絡み合いが不十分で、両者の絡み合いによる空洞形成が生じない場合があるためである。
本発明の正極を構成する前記「流路層の一部」は、上述のとおり、正極層成分の繊維状の炭素材料と流路層成分の繊維状の炭素材料と両者の絡み合いにより発現した空洞とを有する部分(いわゆる、層)である。当該層の厚さは、少なくとも5μmの厚さを有することが好ましく、10μmの厚さを有することがより好ましく、20μmの厚さを有することがさらにより好ましい。なお、当該層の厚さの上限値は、流路層自体の厚さ以下であればよい。
本発明の正極を構成する「空洞の細孔」は、上述のとおり、前記正極層に接触している前記流路層の表面部分で、前記流路層中の繊維状の炭素材料と前記流路層に入り込む前記正極層の繊維状の炭素材料との絡み合いにより発現した空洞である細孔を意味する。当該「空洞の細孔」が有する細孔径分布は、本発明の目的を達成できれば特に制限はないが、典型的には10μm以上50μm以下の連続する細孔径分布を有することが好ましい。
また、前記「空洞の細孔」は、電子顕微鏡又はX線コンピュータトモグラフによる観測によって視覚的に観測される。例えば、電子顕微鏡による観測では、走査型電子顕微鏡装置により、また、X線コンピュータトモグラフによる観測では、X線CT(X線コンピュータトモグラフ)装置により像として観測される。
本発明の正極のBET法比表面積は、250m/g以上1400m/g以下であることが好ましく、400m/g以上1300m/g以下であることがより好ましく、500m/g以上1250m/g以下であることがさらにより好ましい。
本発明の正極における0.1μm以上10μm以下の細孔径分布を有する細孔は、前記正極層1グラム重量あたり(具体的には、正極層成分であるCNT(カーボンナノチューブ)の1グラム重量あたり)の細孔容積量として1.0cm/g以上10.0cm/g以下の値を有することが好ましく、1.2cm/g以上6.0cm/g以下であることがより好ましく、1.5cm/g以上5.0cm/g以下であることがさらにより好ましい。
本発明の一態様である「金属二次電池」(以後、「本発明の金属二次電池」とも称する。)は、正極、金属を含有する負極、及び、前記正極と前記負極の間に電解液とを含み、正極として上述の「金属二次電池用流路一体型正極」を使用するものである。正極以外は、従来の金属二次電池で使用されているものを使用すればよい。例えば、金属を含有する負極は、負極活物質として金属を用いるものであり、具体的には、負極活物質である金属として、リチウム、亜鉛、ナトリウム、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、又はカリウムが挙げられる。また、正極活物質としては、酸素又は二酸化炭素が挙げられる。
上述のとおり、本発明の正極は、正極活物質に酸素を用いる金属空気電池正極として好ましく、中でも、リチウム空気電池正極としてより好ましい。そのため、金属を含有する負極は、負極活物質である金属としてリチウムを使用することが好ましい。リチウムは、リチウム金属単体であってもよいし、リチウム合金であってもよい。リチウムとともにリチウム合金を形成する元素としては、マグネシウム、チタン、スズ、鉛、アルミニウム、インジウム、ケイ素、亜鉛、アンチモン、ビスマス、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。また、電解液の種類も特に制限されず、従来の金属二次電池で使用されているものを用いることができ、電解液内にセパレータを設けてもよい。
本発明の金属二次電池の一例を、概略図として図9(a)に示す。図9(a)に示される「金属二次電池」は、負極活物質としてのリチウム金属箔と、当該リチウム金属箔に接する負極集電体とを備え、正極として上述の「金属二次電池用流路一体型正極」を使用するものである。負極集電体は、導電性を有する金属材料やカーボン等であり、外部に接続する端子(図示せず)を有してもよい。負極では、負極活物質と負極集電体は、別個に構成されていてもよいし、一体であってもよい。また、同図に示されるとおり、負極活物質としてのリチウム金属箔と正極との間にセパレータを設けてもよい。正極では、正極層(図中では、「流路層と一体化した正極層」と称する。)と正極集電体は、別個に構成されていてもよいし、一体であってもよい。正極集電体としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属材料であってよく、中でも加工し易く、安価であるという点でアルミニウムが好ましい。
本発明の一態様である「金属二次電池用流路一体型正極の製造方法」は、上述のとおり、多孔質層の正極層の原料として繊維状の炭素材料を溶媒中に分散させた分散液と、多孔質層のガス拡散用流路層として繊維状の炭素材料からなる多孔質基材と、を用意するステップと、前記分散液を前記多孔質基材上でろ過することにより、前記流路層上に前記正極層を形成させるステップと、を含み、前記分散液に使用される繊維状の炭素材料が、BET法比表面積が350m/g以上1400m/g以下で、前記多孔質基材が、30μm以上の細孔径と、0.01g/cm以上0.30g/cm以下の密度とを有する。
多孔質層の正極層の原料として使用される「繊維状の炭素材料」としては、本発明の正極を構成する「正極層」において既に説明した「繊維状の炭素材料」を使用すればよい。当該「繊維状の炭素材料」を分散させる溶媒には、本発明の目的を達成できれば特に制限はないが、典型的には、水又は2-プロパノールを使用することが好ましい。
多孔質層のガス拡散用流路層とは、具体的には、本発明の正極を構成する「多孔質層のガス拡散用流路層」において既に説明したとおりである。多孔質層のガス拡散用流路層としては「繊維状の炭素材料からなる多孔質基材」が使用されるが、当該多孔質基材としては、金属二次電池(例えば、リチウム空気電池等の空気電池や燃料電池)においてガス拡散用の層(すなわち、流路層)として用いられる繊維状の炭素材料からなる基材であれば特に制限はない。例えば、炭素繊維の集合体(具体的には、カーボンペーパー、カーボンクロス、若しくはカーボンフェルトなど)や、カーボンナノチューブや黒鉛化炭素繊維などの集合体(具体的には、カーボンナノチューブのシートや不織布など)が挙げられる。好ましくは、炭素繊維及び/又はカーボンナノチューブの集合体であり、より好ましくは、炭素繊維の集合体であるカーボンペーパーである。
前記分散液を前記多孔質基材上でろ過することにより、前記流路層上に前記正極層を形成させるステップにおけるろ過は、公知の方法を用いればよく、例えば、前記分散液としてカーボンナノチューブの水分散液をカーボンペーパー(CP)上に吸引ろ過し、乾燥する方法が挙げられる。これにより、前記流路層上に前記正極層を形成させる。
前記分散液に使用される繊維状の炭素材料は、BET法比表面積が350m/g以上1400m/g以下であることが好ましく、400m/g以上1300m/g以下であることがより好ましく、500m/g以上1250m/g以下であることがさらにより好ましい。
前記多孔質基材は、30μm以上の細孔径を有することが好ましく、50μm以上の細孔径を有することがより好ましく、70μm以上の細孔径を有することがさらにより好ましい。
前記多孔質基材の密度は、「前記流路層の密度」において既に述べたとおりであり、0.01g/cm以上0.30g/cm以下であることが好ましく、0.02g/cm以上0.20g/cm以下であることがより好ましく、0.05g/cm以上0.15g/cm以下であることがさらにより好ましい。
本願において定めのない条件については、本発明の目的を達成できる限り、特に制限はない。
次に、本発明の実施の態様をより具体的に説明するが、本発明の実施の態様はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
<正極層原料>
表1には、実施例において正極層原料として使用した繊維状の炭素材料(以下、「正極炭素材料」とも称する。)の性状を示す。当該繊維状の炭素材料には、以下の多孔質層の単層カーボンナノチューブ(以下、「CNT」又は「繊維状CNT」とも称する。)を使用した。
単層カーボンナノチューブ1(以下、「CNT1」とも称する。)は、日本ゼオン社製のZEONANO SG101を購入し、原料として用いた。単層カーボンナノチューブ2(以下、「CNT2」とも称する。)は、スーパーグロス法により、上述の非特許文献1の記載に従って作製し、原料として用いた。具体的には、スパッタ蒸着によりFe(2nm)/Al(40nm)を蒸着させたシリコン基板を環状炉内に封入し、1大気圧下、He/H混合ガス(混合比1/9)を流速1000sccmで供給しながら、750℃で6分間アニールした。次いで、水(150ppm)及びエチレン(10%)を含むHe/H混合ガスを流速1000sccmで10分間供給し、シリコン基板上にカーボンナノチューブ集合体を成長させ、これを単層CNT2として原料に用いた。単層カーボンナノチューブ3(以下、「CNT3」とも称する。)はOCSiAl社製の単層カーボンナノチューブTuball(登録商標)購入し、原料として用いた。単層カーボンナノチューブ4(以下、「CNT4」とも称する。)は名城ナノカーボン社製の単層カーボンナノチューブ(品名:EC2.0)を購入し、原料として用いた。


<正極炭素材料分散液の調製>
表1の正極炭素材料を、以下記載の条件で、水又は2-プロパノール中に分散させて正極炭素材料分散液を調製した。表2は作成した正極炭素材料分散液の正極炭素材料と分散溶媒の組み合わせを示す。
表2中のCNT1w、CNT2w、及びCNT3wはそれぞれ、CNT(すなわち、カーボンナノチューブ)試料としてCNT1、CNT2、及びCNT3を少量の純水中に混合させ、ミキサー撹拌(条件:エスエムテー社製 ハイフレックスホモジナイザHF93、回転速度9000rpm、3分間)にて予備分散させた後、当該CNT試料濃度が0.05重量%となるよう純水を加えて調製したものである。これらのCNT水分散液は、室温下で超音波処理(条件:Branson 450D、出力50W、50秒間)し、正極炭素材料分散液(すなわち、CNT1w、CNT2w、及びCNT3w)とした。なお、CNT4は、水中でまったく分散させることができず、分散液として調製することはできなかった。
CNT1p、CNT2p、CNT3p、及びCNT4pはそれぞれ、CNT1、CNT2、CNT3、及びCNT4を少量のイソプロパノール中に混合させ、ミキサー撹拌(条件:エスエムテー社製 ハイフレックスホモジナイザHF93、回転速度9000rpm、3分間)にて予備分散させた後、CNT試料濃度が0.05重量%となるようイソプロパノールを加えて調製したものである。これらのCNTイソプロパノール分散液は、氷浴下で超音波処理(条件:Branson 450D、出力20W、180分間)し、正極炭素材料分散液とした。


<流路層>
表3には、実施例において使用した流路層の性状を示す。当該流路層として使用した繊維状の炭素材料には、炭素繊維(以下、「CF」とも称する。)を主成分とする(換言すると、炭素繊維の集合体である)以下の多孔質層のカーボンペーパー(以下、「CP」とも称する。)を使用した。流路層1(以下、「CP1」とも称する。)には、クレハ社製クレカペーパーE704を使用した。流路層2(以下、「CP2」とも称する。)には、Technical Fibre Products社製Carbon Veil Optiveil(登録商標)20352Aを使用した。流路層3(以下、「CP3」とも称する)には、三菱ケミカル社製のパイロフィルMFLを使用した。流路層4(以下、「CP4」とも称する。)には、東レ社製カーボンペーパーTGP-H-030を使用した。


<流路層と正極層から構成される積層体の作製>
表2の正極層となる各正極炭素材料分散液を流路層となるカーボンペーパー(CP)(具体的には、表3中のCP1-CP4))上に吸引ろ過し、乾燥することにより、流路層と正極層が互いに接着している積層体を得た。ここで述べる「接着」とは、当該積層体が、後述する有意な接着強度(具体的には、90度剥離試験で1mN/5mm以上)を示す場合のみならず、単に付着しているだけの状態(具体的には、90度剥離試験で1mN/5mm未満)も含む。図1には、当該積層体を作製する方法の概略図を示す。
<剥離試験による流路層と正極層との一体化評価>
得られた積層体における流路層と正極層との間の接着強度は、90度剥離試験にしたがって、図2に示す剥離試験装置を使って評価した。具体的には、得られた積層体を5mm(幅)×15mm(長さ)の短冊状にカットし、流路層側(カーボンペーパー側)面を、両面テープを介してガラス片の一方の端部に貼り付けて固定して試験片として用い、この試験片の正極層側(CNT側)に粘着テープを介して鉛直方向に重り(0.1g=約0.1gf=約1.0mN)を固定し、試験片から正極層が剥がれ落ちるまで重りを追加した。これを5回以上繰り返し、正極層が剥がれ落ちる直前の重りの個数に相当する荷重の平均値を接着強度として求めた。流路層と正極層が接着強度の観点から一体化している積層体であると評価できる有意な接着強度は、90度剥離試験で1mN/5mm以上であることから、測定した接着強度が、90度剥離試験で1mN/5mm以上の場合は、流路層と正極層が接着強度的に一体化している積層体であると評価(○)し、90度剥離試験で1mN/5mm未満の場合は、流路層と正極層が接着強度的に一体化している積層体ではない(×)と評価した。
その結果、正極層となる正極炭素材料分散液としてCNT1w、CNT2w、又はCNT3wを使用し、流路層としてCP1又はCP2を使用する場合、上記有意義な接着強度が得られ(すなわち、評価が〇である)、また、正極層となる正極炭素材料分散液としてCNT3p又はCNT4pを使用し、流路層としてCP3又はCP4を使用する場合も、上記有意義な接着強度が得られる(すなわち、評価が〇である)ことを確認した。これらの場合には、ハサミやカッター等の裁断具による切断加工を行っても、流路層と正極層が互いに付着している状態を保つことも確認した。
正極炭素材料分散液としてCNT1w、CNT2w、CNT3w、CNT1p、又はCNT2pを使用し、流路層としてCP3又はCP4を使用する場合、流路層と正極層との間の剥離が容易であり、上記有意な接着強度が得られない(すなわち、評価が×である)ことを確認した。また、正極炭素材料分散液としてCNT2pを使用し、流路層としてCP1又はCP2を使用した場合も、流路層と正極層との間の剥離が容易であり、上記有意な接着強度が得られない(すなわち、評価が×である)ことを確認した。また、正極炭素材料分散液としてCNT1p、CNT3p、又はCNT4pを使用し、流路層としてCP1又はCP2を使用する場合、正極炭素材料成分が流路層を通過してしまい、流路層と正極層が互いに付着した積層体自体が得られない(すなわち、評価が×である)ことを確認した。
<顕微鏡像による流路層と正極層との一体化評価>
図3は、正極層となる正極炭素材料分散液としてCNT1wを使用し、流路層としてCP1を使用した場合の上記方法により作製した積層体(以後、「CNT1w/CP1積層体」とも称する。)について、ハサミで切断した断面の走査型電子顕微鏡像を示す。これは、上記剥離試験で、流路層と正極層が接着強度的に一体化していると評価されたものである。図3に示されるとおり、厚さ300μm程度のCP1に厚さ80μm程度のCNT1層(正極炭素材料分散液であるCNT1wに由来する、正極層となる単層カーボンナノチューブのCNT1層)が互いに付着している様子が確認された。加えて、図3に示されるとおり、流路層であるCP1が、正極層のCNT1層と接触している部分においては、当該CNT1層の繊維状CNT(具体的には、CNT1)成分が、流路層であるCP1に入り込み、CP1の炭素繊維と絡み合って、空洞である細孔を発現している様子も確認された。つまり、上記剥離試験で、流路層と正極層が一体化していると評価された積層体に関し、流路層の一部が、当該流路層中の炭素繊維と当該流路層中に入り込む正極層からの繊維状CNTとの絡み合いによって発現する空洞の細孔を含むことが確認された。
図4は、剥離試験後のCNT1w/CP1積層体におけるCP1側の剥離面の走査型電子顕微鏡像を示す。剥離面の顕微鏡像から流路層(CP1)側に入り込んだ正極層であるCNT1層側の繊維状CNT(具体的には、CNT1)成分が、剥離後もCP1側に残る様子が点線の丸で囲った部分に認められた。このような流路層側の剥離面における繊維状CNT(具体的には、CNT1)の残留は、目視観察によっても確認された。図示はしないが、本願実施例において、90度剥離試験で1mN/5mm以上の有意な接着強度を示したその他のいずれの積層体でも、顕微鏡又は目視観察により、正極層側の繊維状CNT(具体的には、CNT1)が流路層側に入り込む構造で正極を構成していることが確認された。
図5は、X線CT(X線コンピュータトモグラフ)装置(カールツァイス社製XRadia520Versa)により撮影したCNT1w/CP1積層体の断面像を示す。図5のX線CT像は非破壊で試料断面の観察を行っている点で図3の電子顕微鏡による断面観察と異なるものの、同図に示されるとおり、正極層であるCNT1層側の繊維状CNT(具体的には、CNT1)成分が、流路層に入り込み、当該流路層(具体的には、CP1)の炭素繊維と絡み合って、視覚的に多くの空洞(すなわち、細孔)を発現している様子が確認された。図示はしないが、本願の実施例において、90度剥離試験で1mN/5mm以上の有意な接着強度を示したその他の積層体についても、正極層となる正極炭素材料分散液としてCNT4pを使用し、流路層としてCP4を使用した場合の上記方法により作製した積層体(以後、「CNT4p/CP4積層体」とも称する。)以外は、同様の様子が確認された。つまり、上記剥離試験で、流路層と正極層が接着強度の観点から一体化していると評価された積層体に関し、CNT4p/CP4積層体以外は、流路層の一部が、当該流路層中の炭素繊維と当該流路層中に入り込む正極層からの繊維状CNTとの絡み合いによって発現する空洞の細孔を含むことが確認された。
図6は、上記X線CT像を解析して得られたCNT1w/CP1積層体を構成する、CNT部(具体的には、CNT1部)、炭素繊維部(具体的には、CP1の炭素繊維部)、及び空洞部(具体的には、正極層であるCNT1層側の繊維状CNT1成分が流路層であるCP1に入り込んで当該流路層の炭素繊維と絡み合って発現した空洞の細孔部)の各占有体積の割合を厚さ方向に対してプロットしたものである。図中では、上記CNT部、炭素繊維部、及び空洞部をそれぞれ、CNT部(カーボンナノチューブ部)、炭素繊維部(CF部)、及び空洞部(Void部)と表記する。CNT1w/CP1積層体では、CNT1の正極層とCP1の流路層との間を分ける明確な境界面は消失し、上記CNT部と上記炭素繊維部と上記空洞部とが互いに混じり合った部分(いわゆる、層)が、100μm以上の厚さで形成されていることを確認した。本願実施例において、90度剥離試験で1mN/5mm以上の有意な接着強度を示したその他のいずれの積層体についても、CNT4p/CP4積層体以外は、CNT部、炭素繊維部、及び空洞部が互いに混じり合った同様の部分(いわゆる、層)が形成されていることを確認した。
<流路層と正極層から構成される積層体及び正極単体層のシート性状の測定>
上記剥離試験で、流路層と正極層が接着強度的に一体化していると評価された積層体のうち、CNT1w/CP1積層体、CNT1w/CP2積層体(すなわち、正極層となる正極炭素材料分散液としてCNT1wを使用し、流路層としてCP2を使用した場合の上記方法により作製した積層体)、CNT2w/CP1積層体(すなわち、正極層となる正極炭素材料分散液としてCNT2wを使用し、流路層としてCP1を使用した場合の上記方法により作製した積層体)、CNT3w/CP1積層体(すなわち、正極層となる正極炭素材料分散液としてCNT3wを使用し、流路層としてCP1を使用した場合の上記方法により作製した積層体)、及びCNT4p/CP4積層体を正極シートとし、当該シート性状を測定した。ここでは、正極シートとして使用した上記積層体をそれぞれ、便宜上、例1、例2、例4、例6、及び例8とも称する。
加えて、流路層と一体化させない場合として正極単体層も正極シートとして使用し、当該シート性状も測定した。正極シートとして使用した当該正極単体層には、CNT1w、CNT2w、CNT3w、及びCNT4pの各正極炭素材料分散液のみから得られる正極層(ここでは、それぞれ便宜上、例3、例5、例7、及び例9とも称する。)を使用した。これらの正極単体層は、具体的には、上記の各正極炭素材料分散液をオムニポアメンブレンフィルター(細孔径:1.0μm)上にろ過、60℃真空乾燥し、その後、当該フィルターを剥離することにより得た。
因みに、CNT4p/CP4積層体の正極シート(例8)は、上記特許文献1の実施例1に記載されている方法に従って作製し、また、CNT4pの正極単体層の正極シート(例9)には、正極炭素材料分散液として、上記特許文献1の実施例1に記載されている分散液を使用した。
上記積層体及び正極単体層の各シート性状は、以下の方法で測定した。
(1)BET法比表面積の測定
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて窒素吸着法により得られた吸着等温線からBET法に従って求めた。
(2)直径2nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積の測定
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH法を用いて求めた。
(3)直径0.1μm以上10μm以下の細孔の占める細孔容積の測定
AutoPoreIV(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いた水銀圧入法により、細孔径10nmから200000nm(0.01μmから200μm)の範囲の細孔容積を測定し、細孔直径0.1μmから10μmの細孔容積の値を用いた。
(4)直径10μm以上50μm以下の細孔の占める細孔容積の測定
AutoPoreIV(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いた水銀圧入法により、細孔径10nmから200000nm(0.01μmから200μm)の範囲の細孔容積を測定し、細孔直径10μmから50μmの細孔容積の値を用いた。
結果を表4に示す。なお、表4中のBET法比表面積及び細孔容積は、正極層1グラム重量(具体的には、正極層成分であるCNT(カーボンナノチューブ)の1グラム重量)あたりの値に換算して表示されている。そのため、表4中のBET法比表面積及び細孔容積の単位(g)は全て、正極層1グラム重量(具体的には、正極層成分のCNT(カーボンナノチューブ)の1グラム重量)を意味する。

表4に示されるとおり、上記剥離試験で、流路層と正極層が接着強度の観点から一体化していると評価された積層体である正極シートのうち、例8を除く正極シート(すなわち、例1、例2、例4、例6)では、10-50μmの正極層のCNTの単位重量当たりの水銀圧入法細孔容積(単位:mLg-1)の値(この値は、正極層のCNTの単位重量に対する値に換算されている)が、1.5mLg-1以上となっており、10-50μmの細孔径を有する細孔の存在が明確に確認された。他方、上記剥離試験で、流路層と正極層が接着強度の観点から一体化していないと評価されたいわゆる単純積層体である正極シート(すなわち、例3、例5、例7、例9)、及び、流路層と正極層が接着強度の観点から一体化していると評価された積層体である正極シート(すなわち、例8)では、上記水銀圧入法細孔容積(単位:mLg-1)の値が0.8mLg-1以下と小さく、10-50μmの細孔径を有する細孔が存在しているとは言い難いことが確認された。特に、単純積層体である正極シートの例3、例9、及び、流路層と正極層が接着強度の観点から一体化していると評価された積層体である正極シート(すなわち、例8)では、上記水銀圧入法細孔容積(単位:mLg-1)の値が0.1mLg-1未満と極めて小さく、10-50μmの細孔径を有する細孔は、ほぼ存在しないことが確認された。この結果から、流路層と正極層が接着強度の観点から一体化していると評価された積層体である正極シートのうち、例8を除く正極シート(すなわち、例1、例2、例4、例6)では、10-50μmの細孔径を有する細孔が明確に存在する一方、単純積層体である正極シート(すなわち、例3、例5、例7、例9)、及び、流路層と正極層が接着強度の観点から一体化していると評価された積層体である正極シート(すなわち、例8)では、10-50μmの細孔径を有する細孔は存在しないと認められることが分かった。
図7には、例1の正極シートであるCNT1w/CP1積層体、及び、正極層として例3の正極シートと流路層としてCP1を単に積み上げただけの単純積層体に関して、水銀圧入法による測定を行った結果を示す。なお、図7の縦軸に示される「mLg-1」は、細孔容積量(V)(単位:mL)が正極層1グラム重量(具体的には、CNT1の1グラム重量)あたりの値に換算されていることを意味する。加えて、同図中の「正極層の細孔」及び「流路層の細孔」は、積層する前の各層が有する細孔の細孔径を示す。
図7に示されるとおり、上記単純積層体では、例3の正極シート(すなわち、正極層がCNT1である正極シート)によって提供される細孔径分布が、細孔径0.1-10μmの範囲に認められ、同時に、流路層のCP1によって提供される細孔径分布が細孔径100μm付近に認められるが、両者の間の10-100μm付近には細孔径分布がほとんど認められず、正極層と流路層とを明確に区別できる細孔径分布を提供することが確認された。
他方、図7に示されるとおり、例1のCNT1w/CP1積層体では、正極層のCNT1によって提供される細孔径分布が10μm以上の10-100μm付近の領域にまで拡大しており、流路層のCP1によって提供される100μm付近まで連続した細孔径分布を形成しており、正極層と流路層とを明確に区別することができない細孔径分布を提供することが確認された。つまり、例1のCNT1w/CP1積層体の細孔径分布では、上記単純積層体では認められない10-100μm付近の細孔径分布が認められ、正極層のCNT1によって提供される細孔径から流路層のCP1によって提供される細孔径に至るまで連続した細孔径分布を形成していることが確認された。
これらのことから、上記単純積層体では、正極層であるCNT1と流路層であるCP1が、互いに接しているだけの状態であって、細孔径分布の観点から一体化していないこと、他方、上記CNT1w/CP1積層体では、正極層であるCNT1と流路層であるCP1が、細孔径分布の観点から互いに一体化していることが分かった。
図8には、例8の正極シートであるCNT4p/CP4積層体、及び、正極層として例9の正極シートと流路層としてCP4を単に積み上げただけの単純積層体に関して、水銀圧入法による測定を行った結果を示す。なお、図8の縦軸に示される「mLg-1」は、細孔容積量(V)(単位:mL)が正極層1グラム重量(具体的には、CNT4の1グラム重量)あたりの値に換算されていることを意味する。加えて、同図中の「正極層の細孔」及び「流路層の細孔」は、積層する前の各層が有する細孔の細孔径を示す。また、上述のとおり、例8のCNT4p/CP4積層体は、上記特許文献1の実施例1に記載されている方法に従って作製したものである。
図8に示されるとおり、上記単純積層体では、例9の正極シート(すなわち、正極層がCNT4である正極シート)によって提供される細孔径分布が、細孔径0.1-10μmの範囲に認められ、同時に、流路層のCP4によって提供される細孔径分布が細孔径30μm付近から認められるが、両者の間の10-30μm付近には図7のCNT1w/CP1積層体で確認されるような細孔径分布はほとんど認められず、正極層と流路層を明確に区別できる細孔径分布を提供することが確認された。また、例8のCNT4p/CP4積層体の細孔径分布も、例9と同様な分布となっており、正極層と流路層を明確に区別できる細孔径分布を提供することが確認された。これらのことから、例8のCNT4p/CP4積層体は、接着強度の観点からは、上記剥離試験結果により正極層と流路層が互いに接着して一体化しているが、細孔径分布の観点からは、図7に示す例1のCNT1w/CP1積層体とは異なり、正極層のCNT4によって提供される細孔径と流路層のCP4によって提供される細孔径との間に連続した細孔径分布が形成されないことが分かった。つまり、例8のCNT4p/CP4積層体では、正極層と流路層の一体化による連続した細孔径分布は形成されないため、細孔径分布の観点からは、例8のCNT4p/CP4積層体は、正極層と流路層が一体化したものではないということが分かった。
この結果は、その他の上記結果も踏まえると、例8のCNT4p/CP4積層体では、
正極層のCNT4が流路層のCP4へ入り込んだ結果、流路層であるCP4側の一部にCNT4とCP4の炭素繊維とが混じり合った層が有意な接着強度を発現する一方で、当該層には、正極層のCNT4と流路層のCP4との間で、図7に示す例1のCNT1w/CP1積層体において、正極層成分のCNT1と流路層であるCP1の炭素繊維(CF)との絡み合いによって発現する空洞の細孔が形成されていないためであると理解される。当該空洞の細孔が形成されない理由については、例1のCNT1w/CP1積層体の場合と比べると正極層の細孔径が、図7と8の正極層の細孔径分布の最高ピークの比較結果から約1/10以下となっているので非常に小さいこと、また流路層の細孔径も、図7と8の流路層の細孔径分布の最高ピークの比較結果から約1/3となっているので小さいことから、正極層のCNT4は、流路層のCP4内に深く入ることができず、CNT4と流路層のCP4成分の炭素繊維(CF)との絡み合いによる空洞形成が生じないためであると理解される。
正極層と流路層が一体化した正極(すなわち、流路一体型正極)における連続した細孔径分布の形成は、CNTからなる正極層と流路層(CP)のそれぞれが提供する細孔径分布から外れる細孔径の容積量の増大から確認できる。例えば20μm付近の細孔径分布は、CNTからなる正極層と流路層(CP)のいずれも本来的に有するものではないため、当該範囲での細孔径分布の容積量の増大(より具体的には、10-50μmの積算細孔容積量の増大)が認められれば、CNTからなる正極層と流路層(CP)の一体化によって両層の間で連続的な細孔径が形成されていると確認できる。
流路一体型正極における連続した細孔径分布の形成は、空隙率が高く、細孔径が大きな正極層と流路層の組み合わせにより達成される。好ましい一態様としては、密度が0.30gcm-3以下(換言すると、空隙率が85%以上)となる正極層単体を作成できるCNTの正極炭素材料分散液を、細孔径が30μm以上で密度が0.01gcm-3以上0.30gcm-3以下の流路層(CP)へそのままろ過する態様が挙げられる。
<放電及びサイクル特性評価>
正極には、表4に示す例1から例9の正極シートの各積層体を使用してリチウム空気電池スタックセルを作製し、放電及びサイクル特性評価を行った。
リチウム空気電池スタックセルは、以下の方法により作製した。上記の各積層体を直径16mmに切り出し、100oCで12時間以上の真空乾燥を行った後、図9(a)に図示するように正極と負極集電体間に、リチウム金属箔(直径16mm)とリチウムイオン二次電池用セパレータと切り出した積層体(直径16mm)をその順に重ね、電解液(1Mのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)を含むテトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)溶液、又は、0.5MのLiTFSIと0.5Mの硝酸リチウム(LiNO)と0.2Mの臭化リチウム(LiBr)を含むTEGDME溶液を浸透させ、リチウム空気電池セルを作成した。ここで、放電と充電に必要な外部酸素ガスの吸収及び排出は、流路層の断面で行われる。
流路層と一体化していない正極層単体である、例3、例5、例7、及び例9の正極シートを使用する場合はそれぞれ、例1、例4、例6、及び例8の正極シートに対応する流路層を正極集電体との間に積層することによって流路層を導入し、リチウム空気電池スタックセルを作製した。図9(b)に作製したリチウム空気電池スタックセルの概略図を示す。流路層と一体化していない正極層単体を用いていること以外は、図9(a)と同様である。
表5には、作製した各リチウム空気電池スタックセルの構成を示す。ここで、リチウム空気電池スタックセルとして表示される、セル例1からセル例9はそれぞれ、例1から例9の正極シートの各積層体を使用して作製したリチウム空気電池スタックセルに対応する。
例示しないが、リチウム空気電池スタックセルにおいて正極層と正極集電体間に流路層を設けない場合は、放電に必要な酸素を供給させることができず、電池特性を得ることができないことを確認した。

セル例1から9のリチウム空気電池スタックセルに関して放電試験を行った。放電試験には、電池充放電システム(北斗電工、HJ1001SD8)を用い、室温、定電流条件下(放電レート:0.1mA/cm、0.4mA/cm又は2.0mA/cm)、2Vのカットオフ電圧、純酸素フロー中又は乾燥空気下(酸素:約20%、露点:-60から-50℃)の大気中で放電を行った。図10には、セル例1及びセル例3のリチウム空気電池スタックセルの放電試験結果である放電カーブを示す。同図から、純酸素フロー中と乾燥空気下の大気中のいずれの放電条件下においても、流路層と一体化している正極層を用いたセル例1のリチウム空気電池スタックセルの方が大きな放電容量を示すことが確認された。
表6はセル例1から9のリチウム空気電池スタックセルが示した最大の放電容量を示す。セル例8と9のリチウム空気電池スタックセルを除いていずれの場合も、流路層と一体化した正極を用いたセル例(具体的には、セル例1、2、4、6)のリチウム空気電池スタックセルの方が、流路層と一体化させずに個別に積層したセル例のリチウム空気電池スタックセル(具体的には、セル例3、5、7)よりも大きな放電容量を示すことが確認された。これは、正極層と流路層とが細孔径分布の観点から一体化されるため、正極層と流路層との間に連続的な細孔径分布が形成され、CNTからなる正極層に対して流路層からのより効果的な酸素供給が行えるからであると理解される。
他方、セル例8と9のリチウム空気電池スタックセルにおいては、一体化の有無に関わらず同程度の放電量を示した。セル例9のリチウム空気電池スタックセルにおいては、正極層と流路層の一体化によってより安定な容量発現は見込まれるが、正極層と流路層の単純積層の場合と同じで、正極層と流路層との間には連続的な細孔径分布が形成されず、細孔径分布の観点からの一体化が生じないため、当該セルの容量自体を改善する効果が低くなるからであると理解される。

表5に記載のセル例10と11のリチウム空気電池スタックセルについても、充放電サイクル試験を行った。電池充放電システム(北斗電工、HJ1001SD8)を用い、室温、定電流条件下(0.4mA/cm)、純酸素フロー中、カットオフ電圧2-4.5Vの間で5時間、放電と充電を繰り返した。図11には、セル例10と11のリチウム空気電池スタックセルの充放電カーブを示す。放電電圧はいずれも同程度であるが、流路層と一体化した正極を用いたセル例10のリチウム空気電池スタックセルの方が、低い充電電圧を示し、規定容量(2.0mAh/cm)の放電ができる回数(サイクル数)も上回ることが確認された。これは、正極層と流路層とが細孔径分布の観点から一体化されるため、正極層と流路層との間に連続的な細孔径分布が形成され、充放電に伴う酸素の吸収排出がより円滑に行われるため、サイクル特性が改善されるからであると理解される。
本発明の金属二次電池用流路一体型正極は、金属二次電池(特にリチウム空気電池)用正極として好適に用いることができ、当該電池への応用が大いに期待できる。そのため、多種多様な産業(例えば、電気及び通信機器産業、エネルギー産業、輸送産業、医療機器産業等)への利用可能性がある。

Claims (14)

  1. 繊維状の炭素材料からなる多孔質層のガス拡散用流路層と、
    前記炭素材料と同じ又は異なる繊維状の炭素材料からなる多孔質層の正極層と、
    を含み、
    前記流路層の一部は、前記流路層中の繊維状の炭素材料と前記流路層に入り込む前記正極層の繊維状の炭素材料との絡み合いによって発現する空洞の細孔を含み、
    前記流路層と前記正極層とによって提供される細孔が、10nm以上200μm以下の連続する細孔径分布を有し、前記連続する細孔径分布によって前記流路層と前記正極層が一体化している、
    金属二次電池用流路一体型正極。
  2. 前記流路層の一部が、少なくとも5μmの厚さを有する、請求項1に記載の正極。
  3. 前記空洞の細孔が、10μm以上50μm以下の連続する細孔径分布を有する、請求項1又は2に記載の正極。
  4. 前記空洞の細孔が、前記正極層1グラム重量あたりの細孔容積として0.5cm/g以上5.0cm/g以下の値を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の正極。
  5. 前記繊維状の炭素材料が、炭素繊維及び/又はカーボンナノチューブである、請求項1から4のいずれか一項に記載の正極。
  6. 前記流路層の繊維状の炭素材料が炭素繊維であり、前記正極層の繊維状の炭素材料がカーボンナノチューブである、請求項1から5のいずれか一項に記載の正極。
  7. 250m/g以上1400m/g以下のBET法比表面積を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の正極であって、
    0.1μm以上10μm以下の細孔径分布を有する細孔が、前記正極層1グラム重量あたりの細孔容積として1.0cm/g以上10.0cm/g以下の値を有する、正極。
  8. 前記流路層の密度が、0.01g/cm以上0.30g/cm以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載の正極。
  9. 前記正極層と前記流路層の間の剥離強度が、90度剥離試験で1mN/5mm以上である、請求項1から8のいずれか一項に記載の正極。
  10. 前記正極の細孔径分布が水銀圧入法によって測定される、請求項1から9のいずれか一項に記載の正極。
  11. 前記空洞の細孔が、電子顕微鏡又はX線コンピュータトモグラフによる観測によって視覚的に観測される、請求項1から10のいずれか一項に記載の正極。
  12. 正極、金属を含有する負極、及び、前記正極と前記負極の間に電解液とを含む、金属二次電池であって、
    前記正極が請求項1から11のいずれか一項に記載の正極である、金属二次電池。
  13. 負極活物質と正極活物質を含み、
    前記負極活物質が、リチウム、亜鉛、ナトリウム、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、又はカリウムであり、
    前記正極活物質が酸素又は二酸化炭素である、
    請求項12に記載の金属二次電池。
  14. 多孔質層の正極層の原料として繊維状の炭素材料を溶媒中に分散させた分散液と、
    多孔質層のガス拡散用流路層として繊維状の炭素材料からなる多孔質基材と、
    を用意するステップと、
    前記分散液を前記多孔質基材上でろ過することにより、前記流路層上に前記正極層を形成させるステップと、
    を含み、
    前記分散液に使用される繊維状の炭素材料が、BET法比表面積が350m/g以上1400m/g以下で、
    前記多孔質基材が、30μm以上の細孔径と、0.01g/cm以上0.30g/cm以下の密度とを有する、
    請求項1から11のいずれか一項に記載の正極の製造方法。
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