JP2021502410A - 細胞内細菌感染症治療用組成物 - Google Patents
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Abstract
Description
さらに好ましい態様において、本方法または使用は、生体材料に起因する感染症を治療するためのものであって、治療されるべき細胞は、被験体に導入された生体材料上または生体材料近傍に存在している。例えば、生体材料に起因する感染症は、インプラント周囲炎(歯科インプラント周辺の感染症)であってもよい。被験体から生体材料を取り除いた後に残る細胞内細菌感染症も、治療され得る。感染症は、医療装置などの生体材料をしかるべき注意を払って挿入し管理した場合であっても、それらを使用する際によく見られる合併症である。黄色ブドウ球菌および表在性ブドウ球菌による感染症は、特に蔓延している。生体材料の感染症は、治療に対して非常に抵抗性が高い。長期にわたる抗体の投与が必要とされ、多くの場合、生体材料は、取り除かなければならなくなるが、これは、例えば、人工関節や人工心臓弁などの永久インプラントが関わる場合では、患者/被験体において劇的な結果に至ることがある。取り除いた後であっても、感染領域に存在している細菌の根絶には、長期にわたる抗生物質による治療(これは6ヶ月にも及ぶことがある)が必要となる。研究によると、生体材料周辺の組織に細菌が生き残り続けるということが示されている。マクロファージは、細胞内細菌の宿主として関与し続け、再発する感染症において細菌の貯蔵所を維持する。本発明の方法および使用によって、このような「隠れた」細菌を標的とすることができる。
上記で定義された光感作性薬剤を含む第1の容器と、
上記で定義された抗菌剤を含む第2の容器と、を含む、キットを提供する。
以前は、テトラフェニルポルフィリンジスルホン酸(TPPS2a)およびその誘導体であるテトラフェニルクロリンジスルホン酸(TPCS2a)が、PCI用途に適した両親媒性光増感剤として用いられていた。TPPS2aおよびTPCS2aは、非常によく似た物理化学的性質を有しているが、赤色光で活性化することができるのは、TPCS2aのみである。赤色光は、組織を良好に透過するので、TPCS2aは、広範な臨床用途に適している。本研究では、抗生物質(抗菌剤)と組み合わせたPCIによって、光照射時に抗生物質のサイトゾルへの送達が増強されることで、細胞内細菌感染症に対処することができるかどうかを評価することを目的とした。ゲンタマイシンは、細胞内抗菌効力が低いので、PCIの潜在的な効果を調べるために、これを選択した。
細菌株および接種原の調製
表在性ブドウ球菌O−47株(リオールら,2014,上記)を、Raw264.7マウスマクロファージ(Raw264.7細胞)を用いたインビトロの研究に用いた(シャー(Xia)ら,2008,ACSナノ(Acs Nano),2(10),2121〜2134頁)。5%の牛胎児血清(FCS)を添加したRPMI培地(ギブコ(Gibco)社、ペイズリー、英国)(本明細書ではRPMIと称する)中での表在性ブドウ球菌に対するゲンタマイシン(セントラファームB.V.社、オランダ)の最小発育阻止濃度および最小殺菌濃度は、それぞれ、0.04μg/mlおよび0.33μg/mlと求められた。黄色ブドウ球菌ATCC49230株を用いて、ゼブラフィッシュの胚に感染させた。以前に説明されている手順(リオールら,2014,上記;およびリオールら,2017,ヨーロピアン・セルズ・アンド・マテリアルズ(European Cells & Materials),33,143〜157頁)にしたがい、GFPを含む黄色ブドウ球菌RN4220株を発現するプラスミド、WVW189(黄色ブドウ球菌RN4220−GFP)を構築して、ゼブラフィッシュ胚における細胞と細菌との相互作用をインビボで視覚化するのに用いた。以前に説明されている手順(リオールら,2014,上記;およびリオールら,2017,上記)にしたがって、異なる実験のために、所望の濃度の細菌懸濁液(PBSまたはRPMI中)を調製した。
Raw264.7細胞を、1ウエルあたり1×105個の濃度で96ウエルプレート(ポリスチレン製ヌンクロン(Nunclon)(商標)クリアTCプレート、平底;グライナー(Greiner)社、オランダ)播種し、5%のCO2を含む加湿雰囲気中、37℃のRPMI中で一晩インキュベートした(特に指定しない限りこの条件である)。次いで、ゲンタマイシン(15.6〜1000μg/ml)を含む200μlのRPMI中で、細胞を一晩インキュベートした。または、細胞を、光増感剤TPPS2a(0.1〜0.4μg/ml)(PCIバイオテクAS社、ノルウェー)を含むRPMI中で2時間インキュベートし、結合しなかったTPPS2aを除去するために、この培地を新しいRPMIと交換して、さらに2時間インキュベートした。ずっとRPMI中でインキュベートしたRaw264.7細胞をコントロールとして用いた。ルミソース(PCIバイオテックAS社、ノルウェー)を用いた15分の光照射時以外は、アルミニウムホイルを用いて細胞を光から保護した。光照射後、新しいRPMI中で細胞を24時間インキュベートした。Raw264.7細胞の代謝活性に及ぼすゲンタマイシンおよびTPPS2aの影響を、製造者の取扱説明書にしたがって、それぞれ、インキュベーションの24時間後にMTTアッセイを用いて、または光照射の直後もしくは24時間後にWST−1アッセイによって、調べた(セルMTT(Cell MTT)アッセイキットまたはWST−1アッセイキット、シグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)社、オランダ)。TPPS2aを単独で用いた場合、または表在性ブドウ球菌と組み合わせて用いた場合のRaw264.7細胞の生存率に及ぼす影響を調べるため、45分間、細胞に細菌をファゴサイトーシスさせた後(ファゴサイトーシスアッセイについては、以下で詳細に説明する)、0.25μg/mlのTPPS2aを含む200μlのRPMI中で2時間インキュベートした。または、TPPS2aのみを含む200μlのRPMI中でずっと、細胞をインキュベートした(細菌なし)。その後、新しいRPMIで細胞を洗浄し、次いで、光照射を5分間、または10分間、または15分間、行った。あるいは、洗浄後、光照射を行わなかった。処理として光照射のみを行った細胞をコントロールとして用いた。ヨウ化プロピジウムの流入を測定して、光照射直後または24時間後の細胞生存率の低下を定量化した。
培養後、表在性ブドウ球菌細菌を沈殿させ、0.5mlのヒト血清(H1血清、Cat N13−402E、バイオ・フィッテイカー(Bio Whittaker)社、オランダ)と混合した1.5mlのPBSに再懸濁し、オプソニン化のために20分間インキュベートした。接種原は、RPMIを用いて1.8×108CFU/mlに調整した。細胞の培地を、細菌の接種原(細胞に対する細菌の比率は40:1)と交換し、ファゴサイトーシスを45分間進めた。その後、Raw264.7細胞を、60μlの予熱したPBS(37℃)で穏やかに4回洗浄し、浮遊性の表在性ブドウ球菌の持ち越しを防止するために、200μlの予熱したPBS(37℃)で最終洗浄した。このような洗浄ステップ後に見られた浮遊性の表在性ブドウ球菌は、常に、回収された細胞内細菌数の0.5%未満であった。0.5mMのEDTAを含む100μlのRPMI中でインキュベートすることによって、Raw264.7細胞を剥離した。剥離した細胞をバイアルに移し、水浴超音波処理器(トランスソニック(Transsonic)460、エルマー・シュミットバウアー(Elma Schmldbaur GmbH)社、ドイツ)中で5分間、40μlの1%サポニンとインキュベートすることによって溶解した。超音波処理物を遠心分離し、沈殿した細菌を繰り返し洗浄し、PBSに再懸濁した後、連続的に10倍希釈したものを定量培養した。Raw264.7細胞中で生存している細胞内の表在性ブドウ球菌を、1ウエルあたりのCFU数として表した。
ファゴサイトーシス後、ゲンタマイシン(1μg/ml、10μg/ml、または30μg/ml)を単独で含む200μlのRPMI、またはゲンタマイシン(1μg/ml、10μg/ml、または30μg/ml)とTPPS2a(0.25μg/ml)との組み合わせを含む200μlのRPMIのいずれかで、Raw264.7細胞をインキュベートした。RPMI中でインキュベートした未処理の細胞、またはTPPS2aのみを含むRPMI中でインキュベートした未処理の細胞をコントロールとした。TPPS2aとインキュベートした細胞について、結合しなかったTPPS2aを除去するために、培地を、同じ濃度のゲンタマイシンを含む新しいRPMIと交換した後、さらに2時間インキュベートした。その後、1μg/mlのゲンタマイシンを含む新しいRPMI中で細胞をインキュベートし、10分間または15分間、光照射を行った。光照射を行わなかった細胞をコントロールとした。光照射後、細胞を一晩インキュベートし、溶解した後、生き残っている細菌の定量培養を行った。
個々のゲンタマイシン分子が1つ以上のアレクサフルオロ(Alexa Fluor)405分子でラベルされる可能性を最小化するために、過剰量のゲンタマイシン(K2CO3、pH9中)(シグマ−アルドリッチ社)をアレクサフルオロ405サクシニミジルエステル(ライフ・テクノロジー(Life Technologies)社)と混合した。抱合後、C−18カラムを用いた逆相クロマトグラフィーにより、反応混合物を分離して、抱合しなかったゲンタマイシンおよびアレクサフルオロ405分子から抱合体を精製した。単離されたアレクサフルオロ405ラベル化ゲンタマイシンを分取し、凍結乾燥し、使用時まで−20℃の暗所で保存した。
一晩培養を行った後、培養皿(マットテック・ガラス・ボトム・カルチャー・ディッシュ(MatTek Glass Bottom Culture Dish)、米国)の底に、1ウエルあたり3.0×105個のRaw264.7細胞を播種し、10μg/mlのゲンタマイシンを単独で含む1mlのRPMI、または10μg/mlのゲンタマイシンと1μg/mlのTPCS2a(PCIバイオテクAS社、ノルウェー)との組み合わせを含む1mlのRPMI中でインキュベートした。その後、細胞を、PBSを用いて穏やかに繰り返し洗浄し、2分間光照射を行い、共焦点顕微鏡法(SP5、ライカ(Leica)社、オランダ)のために、プロロング(登録商標)・ゴールド・アンチフェード・リージェント(Prolong Gold antifade reagent)(ライフ・テクノロジー社、オランダ)で覆った。
成体の野生型(WT)ゼブラフィッシュおよびトランスジェニック(Tg)ゼブラフィッシュを、国内の動物福祉委員会(DEC)によって認可された国内の動物福祉規約にしたがって管理した。成体のゼブラフィッシュおよび胚の維持については、以前に説明されている(ザング(Zhang)ら,2017,ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ・パートA(J. Biomed. Mater. Res. A),105(9),2522〜2532頁)。
以前に説明されている注入手順(ザングら,2017,上記)にしたがって、血島またはキュビエ管を介してゼブラフィッシュ胚の血液循環への注入を行った(ベナルド(Benard)ら,2012,ジャーナル・オブ・ビジュアライズド・エクスペリメンツ(Journal of visualized experiments):JoVE,61)。注入1回あたりの液体の体積を、本研究のすべての注入に対して1nlに調整した。
ゲンタマイシン溶液またはTPCS2a溶液(どちらもPBSに溶解)またはその混合物を、受精から32時間後(32hpf(hours post fertilization))に、WTゼブラフィッシュ胚に注入した。コントロール胚にはPBSを注入した。34hpfにルミソースを用いて10分間の光照射を行う時以外は、アルミニウムホイルを用いて胚を光から保護した。胚の生存(心拍、動き)を、6dpiまで毎日モニターした。
30hpfに、黄色ブドウ球菌ATCC49230の段階的接種原を野生型ゼブラフィッシュ胚に注入し、個別に200μlのE3培地中で維持した。培地を毎日新しく交換した。1群あたり5〜6個の胚を定量培養し、マグナライザー(MagNA lyser)(ロシュ(Roche)社、オランダ)を用いて破砕することで、注入用量を確認した。4dpiまで毎日、生存を確認した。
受精から2日後(2dpf(2 days post fertilization))に、好中球が赤色蛍光でラベルされているという特徴を有するTg系統(lyzc:DsRed)のゼブラフィッシュ胚(ホール(Hall)ら,2007,BMCデベロップメンタル・バイオロジー(BMC Dev. Biol.),7,42頁)、またはマクロファージが赤色蛍光でラベルされているという特徴を有するTg系統(fms:Gal4:mCherry)のゼブラフィッシュ胚(グレイ(Gray)ら,2011,トロンボシス・アンド・ヘモスタシス(Thromb. Haemostasis),105(5),811〜819頁)に、黄色ブドウ球菌RN4220−GFPの接種原を、キュビエ管を介して静脈より注入した。注入から2時間後、蛍光顕微鏡(LM80、ライカ社、オランダ)を用い、FITCフィルターおよびmCherryフィルターを通して明視野で画像を記録した。
30hpfに、適切な用量の黄色ブドウ球菌ATCC49230を、野生型ゼブラフィッシュ胚に血島を介して静脈より注入し、異なる処理を行うため、無作為に群分けした。32hpfに、ゲンタマイシン(0.05μg/ml、0.1μg/ml、または0.4μg/ml)を単独で含む1nlのPBS溶液、またはゲンタマイシン(0.05μg/ml、0.1μg/ml、または0.4μg/ml)と0.25μg/mlのTPCS2a(2.5×10-3ngを含むことになる)との組み合わせを含む1nlのPBS溶液を、静脈より注入した。コントロール胚にはPBSを注入した。34hpfに10分間の光照射を行う時以外は、アルミニウムホイルを用いて胚を光から保護し、E3培地中で個別に維持した。培地は毎日新しく交換した。6dpiまで生存をモニターした。
インビトロにおける毒性試験およびRaw264.7細胞における細胞内細菌の死滅については、複数群と比較用の同一群との差異を、ダネットの多重比較検定を用いて解析した。対比較用に指定された群間の差異を、シダックの多重比較検定を用いて解析した。胚の生存割合は、カプラン−マイヤー法を用いて評価した。一対の生存曲線間の差異を、ログランク検定を用いて解析した。P値<0.05の場合に、差異が有意であるとみなした。解析はすべて、グラフパッド・プリズム(Graphpad Prism)7.0を用いて行った。
Raw264.7細胞の代謝活性に及ぼすゲンタマイシンおよびTPPS2aの影響
細胞内死滅アッセイを行うために、Raw264.7細胞に対するゲンタマイシンおよびTPPS2aの許容濃度を、それぞれMTTアッセイおよびWST−1アッセイによって評価した。ゲンタマイシンの細胞外濃度が250μg/ml以下であれば、24時間インキュベートした後、Raw264.7細胞の代謝活性が低下することはなかったので、これをさらなる実験におけるゲンタマイシンの最大濃度として選択した。
TPPS2a−PCIが、ゲンタマイシンによる細胞内表在性ブドウ球菌の死滅を増強したかどうかを調べるために、表在性ブドウ球菌感染Raw264.7細胞を、TPPS2aのみ(0.25μg/ml)、またはゲンタマイシンのみ(1μg/ml、10μg/ml、または30μg/ml)、または各ゲンタマイシンとTPPS2aとの組み合わせ、に暴露した(図1)。ゲンタマイシンとTPPS2aとの組み合わせは、光照射を5分間行った際は、細胞内細菌の死滅に影響しなかった(データは示さない)。したがって、10分間または15分間、細胞の光照射を行い、光照射を行わなかった細胞および未処理かつ光照射を行った細胞をコントロールとした。光照射を行わなかった場合、どの処理によっても、Raw264.7細胞における細胞内細菌の数は、未処理群と比較して減少しなかった。光照射を行った場合、TPPS2aのみを用いた処理は、未処理かつ光照射を行った群と比較して、表在性ブドウ球菌の細胞内生存に影響しなかった。このことは、光で誘導されるTPPS2aの活性化自体では、細胞内細菌を死滅させることはなかったということを示している。ゲンタマイシンのみを用いた処理でも、ゲンタマイシンの濃度および光照射時間に関係なく、細胞内表在性ブドウ球菌を死滅させることはなかった。10分間の光照射を行った場合、30μg/mlのゲンタマイシンによる死滅は、TPPS2a−PCIによって有意に増強された(細胞内細菌数が1ログ低下した)が、10μg/mlのゲンタマイシンではそうではなかった。15分間の光照射を行った場合、10μg/mlのゲンタマイシンとTPPS2aとの組み合わせおよび30μg/mlのゲンタマイシンとTPPS2aとの組み合わせを用いて処理したRaw264.7細胞における細胞内表在性ブドウ球菌の死滅は、それぞれ1ログ低下および2.5ログ低下と有意に増強された。
光照射を行った際に、PCIがゲンタマイシンのサイトゾル内への放出を誘導したかどうかを調べるために、光照射を行った場合および行わなかった場合のRaw264.7細胞におけるゲンタマイシンおよび光増感剤TPCS2aの細胞内分布細胞内分布を視覚化した(図2)。TPCS2aは赤色光を吸収するので、インビボにおける使用に適している。したがって、この細胞を用いた研究およびゼブラフィッシュ胚を用いたインビボにおける研究に、TPCS2aを選択した。光照射を行わなかった場合、ゲンタマイシンおよびTPCS2aのどちらも、エンドサイトーシス小胞のような、細胞周縁にある細胞区画内に局在していた。光照射を行った後は、どちらの薬剤もサイトゾルへと放出されていた。ゲンタマイシンは、Raw264.7細胞の核に蓄積しているように思われた。
ゼブラフィッシュ胚に対する毒性を試験するために、段階的用量のゲンタマイシン(胚1つあたり、1nlのPBS中0.16〜16ngの範囲の用量を注入し、1nlのPBSをコントロールとした)、TPCS2a(胚1つあたり、1nlのPBS中2.5×10-2ng、2.5×10-3ng、および2.5×10-4ngの用量を注入し、1nlのPBSをコントロールとした)、およびゲンタマイシンとTPCS2aとの組み合わせ(1.6ngおよび0.8ngのGENをそれぞれ単独で、または1.6ngおよび0.8ngのGENを2.5×10-3ngのTPCS2aと組み合わせたもの(1nlのPBS中)を注入し、1nlのPBS注入をコントロールとした)を注入することが生存に及ぼす影響を評価した。ゲンタマイシンおよびTPCS2aは、どちらも、用量依存的な毒性を示し、最大非毒性濃度は、それぞれ、胚1つあたり2ngおよび2.5×10-3ngであった(データは示さない)。胚1つあたり1.6ngまたは0.8ngのゲンタマイシンと胚1つあたり2.5×10-3ngのTPCS2aの組み合わせは、胚の生存を低下させることはなかった(データは示さない)。各群の当初の規模は、胚の数が33〜36個の範囲であった。
ゼブラフィッシュ胚を用いた感染実験に適した黄色ブドウ球菌の用量を評価するために、受精から30時間後に、段階的接種原を血液循環に注入した。注入した黄色ブドウ球菌の中央CFU数は、意図された投与用量が胚1つあたり100CFU、500CFU、3000CFU、および6000CFUである群に対して、それぞれ、胚1つあたり150CFU、500CFU、2750CFU、および7500CFUであった。各群に回収されたCFU数のばらつきは、小さかった(図3A)。黄色ブドウ球菌感染胚の死滅数は、接種原の用量に比例していた(図3B)。胚1つあたり3000CFUの用量では、注入から4日後に胚の約50%が死滅したが(図3B)、これは、抗生物質処理の効力を評価するのに適しているので、この用量をさらなる実験のために選択した。
インビボにおけるブドウ球菌感染に対するゲンタマイシンの抗菌効力をPCIが増強したかどうかを調べるために、黄色ブドウ球菌感染ゼブラフィッシュ胚を、ゲンタマイシン単独またはゲンタマイシンとTPCS2aとの組み合わせを用いて処理した。注入した黄色ブドウ球菌の中央CFU数は、胚1つあたり2850CFUと決定された(データは示さない)。ゲンタマイシンを用いた処理はすべて(TPCS2aを含む含まないにかかわらず)、PBSによるモック処理と比較して、生存を有意に改善させた(図4)。0.1ngのゲンタマイシンにTPCS2aを添加すると、0.1ngのゲンタマイシンを単独で用いた処理と比較して、処理結果は有意に改善され、0.4ngのゲンタマイシン処理で得られたものと同様の生存レベルとなった。このことは、PCIが、黄色ブドウ球菌感染に対するゲンタマイシンの抗菌活性を増強し、その効力を得るのに必要な用量を低減させるということを示す。しかし、胚を0.05ngのゲンタマイシンで処理した場合の効力は、TPCS2aによって改善しなかったので、TPCS2aの増強効果を観察するには、最低限のゲンタマイシンの投与が必要である(図4)。
細胞内部での抗菌効力が限定的な抗生物質であるゲンタマイシンのブドウ球菌に対する細胞内活性は、インビトロおよびインビボのどちらにおいても、PCIによって増強されることが示された。Raw264.7細胞においては、PCIは、光照射を行った後に、ゲンタマイシンのサイトゾルへの放出を誘導し、ファゴサイトーシスされた表在性ブドウ球菌の根絶を向上した。ファゴサイトによって内在化された黄色ブドウ球菌を用いたゼブラフィッシュ胚モデルでは、PCIは、(細胞内)黄色ブドウ球菌感染に対するゲンタマイシン処理の効力を増強し、必要な用量を低減させた。これらの結果は、PCIが、細胞内細菌に関連した感染症に対する抗生物質の細胞内活性を増強するということを初めて証明するものである。
実施例1の実験と比較して、抗菌剤としてバンコマイシンを用いたこと以外は、同様の実験を行った。
PCIは、マクロファージにおいて、エンドサイトーシス小胞からサイトゾルへとバンコマイシンを再局在化させる
マクロファージにおいて、PCI処理によって、バンコマイシンをエンドサイトーシス小胞から放出できるかを調べるために、Raw264.7マクロファージ細胞株を用いて実験を組み立て、蛍光ラベル化バンコマイシンおよびTPCS2aの光照射前後の細胞内局在を調べた。
TPCS2a:励起:バンドパス:395〜440nm、二色性ビームスプリッター 460nm
発光:ロングパス 620nm
BODIPY:励起:バンドパス:450〜490nm
発光:バンドパス:500〜550nm
結果を図5に示す。
バンコマイシン(Vanco)を単独で用いた場合、またはバンコマイシンをTPCS2aおよび光照射と組み合わせて用いた場合(T)の、感染を起こしていないゼブラフィッシュ胚に対する毒性を調べた。1つの胚あたり、バンコマイシン(1nlのPBSあたり0.4ng、1.6ng、または6.4ng)、または1nlのPBSあたり2.5×10-3ngのTPCS2aとバンコマイシンを組み合わせたものを、1回の投与につき注入した。注入後、E3培地を含むペトリディッシュにおいて、ゼブラフィッシュ胚を群分けして維持した。光照射を行うペトリディッシュをルミソース照明装置に設置し、胚の光照射を10分間行った。各群の当初の規模は、胚の数が27〜29個であった。
未感染胚1つあたり0.4〜6.4ngの用量のバンコマイシンを注入すると、ゼブラフィッシュ胚に対する毒性は用量依存性を示し、注入後6日(6dpi(days post injection))で、胚のうちの約5%〜20%が死に至った(データは示さない)。バンコマイシンとTPCS2a/光照射を組み合わせて用いると、より強い毒性が生じ、胚のうちの約20〜40%が6dpiで死に至った(データは示さない)。
Claims (24)
- 細胞内細菌感染症を治療または予防する方法であって、感染が起きている細胞を抗菌剤および光感作性薬剤と接触させることと、前記光感作性薬剤を活性化するのに有効な波長の光を前記細胞に照射することとを含み、前記抗菌剤は、前記細胞のサイトゾルに放出され、前記細胞において細菌を死滅もしくは損傷させる、または細菌の複製を防止する、方法。
- 前記方法は、インビボにおいて行われ、前記細胞は、被験体内に存在している、請求項1に記載の方法。
- 前記接触ステップは、15分〜4時間、好ましくは1〜2時間、行われる、請求項1または2に記載の方法。
- 前記光感作性薬剤は、両親媒性のポルフィリン、クロリン、バクテリオクロリン、またはフタロシアニンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- 前記光感作性薬剤は、TPCS2a、AlPcS2a、TPPS2a、およびTPBS2aから選択され、好ましくはTPCS2aである、請求項4に記載の方法。
- 局所送達の場合の前記光感作性薬剤の用量は、0.0025〜250であり、好ましくは1〜250μgであり、好ましくは2.5〜40μgであり、好ましくは10〜30μgであり、例えば25μgである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
- 前記細胞は、5〜60分間、好ましくは10〜20分間、好ましくは15分間、照射される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
- 局所送達の場合の前記抗菌剤の用量は、25〜10000μgであり、好ましくは50〜5000μgであり、好ましくは1mgである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
- 前記抗菌剤は、アミノグリコシド(好ましくはゲンタマイシン)、糖ペプチド(好ましくはバンコマイシン)、またはマクロライドである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
- 前記細菌感染症は、スタフィロコッカス属、マイコバクテリウム属、シュードモナス属、またはエシェリヒア属の細菌が原因である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
- 前記細菌感染症は、生体材料に起因する感染症であり、前記生体材料は、好ましくは、医療用の装置、機器、器具、または用具や、補綴物または材料、組織用または創傷用の被覆材である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
- 前記細菌感染症は、骨髄炎、菌血症、結核、Q熱、心内膜炎、皮膚(皮下)組織または粘膜の感染症/損傷(好ましくは、慢性創傷、潰瘍、膿瘍、もしくは糖尿病性足感染症)、口および鼻の感染症(好ましくは、慢性副鼻腔炎もしくは歯周炎)、あるいはインプラント周囲炎である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
- 前記細胞は、生体材料、好ましくは、医療用の装置、機器、器具、または用具や、補綴物または材料、組織用または創傷用の被覆材の上、または近傍に存在している、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
- 前記抗菌剤および/または前記光感作性薬剤は、前記生体材料上または前記生体材料内に供給されている、請求項13に記載の方法。
- 前記被験体は、哺乳類であり、好ましくは、サル、ネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、またはモルモットであり、最も好ましくは、前記被験体は、ヒトである、請求項2〜14のいずれか1項に記載の方法。
- 前記被験体は、ウシであり、前記細菌感染症は、黄色ブドウ球菌による乳腺炎である、請求項2〜15のいずれか1項に記載の方法。
- 前記細胞は、前記抗菌剤および光感作性薬剤に、同時に、または別々に、または順次に、接触させられ、前記方法がインビボにおいて行われる場合には、前記接触は、前記抗菌剤および前記光感作性薬剤を局所投与、皮内投与、皮下投与、または静脈内投与することによって行われる、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
- 細胞において細菌を死滅もしくは損傷させる、または細菌の複製を防止する、インビトロにおける方法であって、該方法は、前記細胞を抗菌剤および光感作性薬剤と接触させることと、光感作性薬剤を活性化するのに有効な波長の光を前記細胞に照射することとを含み、前記抗菌剤は、前記細胞のサイトゾルに放出され、前記細胞において細菌を死滅もしくは損傷させる、または細菌の複製を防止する、ものであり、好ましくは、前記接触ステップは、請求項3または16で定義されたものであり、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、前記照射は、請求項7で定義されたものであり、前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものであり、前記細菌感染症は、請求項10、11、または12で定義されたものであり、および/または前記細胞は、請求項13で定義されたものである、方法。
- 抗菌性物質としての抗菌剤および光感作性薬剤の使用であって、好ましくは、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、および/または前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものであり、好ましくは、前記使用は、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を含む、使用。
- 抗菌剤と光感作性薬剤とを含み、好ましくは治療に用いられる組成物であって、好ましくは、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、および/または前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものである、組成物。
- 被験体における細胞内細菌感染症の治療に使用するための、抗菌剤および光感作性薬剤、または請求項20で定義される抗菌剤と光感作性薬剤とを含む組成物であって、好ましくは、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものであり、前記細菌感染症は、請求項10、11、または12で定義されたものであり、および/または前記被験体は、請求項15で定義されたものであり、好ましくは、前記使用は、請求項1〜17のいずれか1項で定義された方法を含む、抗菌剤および光感作性薬剤、または抗菌剤と光感作性薬剤とを含む組成物。
- 被験体における細胞内細菌感染症を治療するための医薬品の製造における、抗菌剤および/または光感作性薬剤の使用であって、好ましくは、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものであり、前記細菌感染症は、請求項10、11、または12で定義されたものであり、および/または前記被験体は、請求項15で定義されたものであり、好ましくは、前記使用は、請求項1〜17のいずれか1項で定義された方法を含む、使用。
- 被験体における細胞内細菌感染症の治療に、同時に、別々に、または順次に使用するための複合製剤として、抗菌剤と光感作性薬剤とを含む、製品であって、好ましくは、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものであり、前記細菌感染症は、請求項10、11、または12で定義されたものであり、および/または前記被験体は、請求項15で定義されたものであり、好ましくは、前記使用は、請求項1〜17のいずれか1項で定義された方法を含む、製品。
- 被験体における細胞内細菌感染症の治療に使用するためのキットであって、該キットは、
光感作性薬剤を含む第1容器と、
抗菌剤を含む第2容器と、を含み、
好ましくは、前記光感作性薬剤は請求項4、5、または6で定義されたものであり、前記抗菌剤は、請求項8または9で定義されたものであり、前記細菌感染症は、請求項10、11、または12で定義されたものであり、および/または前記被験体は、請求項15で定義されたものであり、好ましくは、前記使用は、請求項1〜17のいずれか1項で定義された方法を含む、キット。
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