JP2020186444A - 鉄系焼結体の基材の表面に形成される酸化被膜、およびこの酸化被膜を形成した摺動部材、並びに、この摺動部材を備える機器 - Google Patents

鉄系焼結体の基材の表面に形成される酸化被膜、およびこの酸化被膜を形成した摺動部材、並びに、この摺動部材を備える機器 Download PDF

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石田 貴規
Takanori Ishida
貴規 石田
小林 正則
Masanori Kobayashi
正則 小林
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Abstract

【課題】 鉄系焼結体である基材の表面に設けられ、さらに良好な自己耐摩耗性を発揮することが可能な酸化被膜と、この酸化被膜を形成した摺動部材と、この摺動部材を備える機器と、を提供する。【解決手段】 酸化被膜140は、鉄系焼結体である基材130の表面に形成され、少なくとも微結晶からなる第一層141と、当該第一層141の下側に位置し、柱状組織を含有する第二層142と、当該第二層142とは界面を介して基材130側に位置し、層状組織を含有する第三層143と、当該第三層143の下側に位置し、柱状組織を含有する第四層144と、を含む。第三層143には、アモルファスカーボンおよび炭化物の少なくとも一方からなる炭素偏析部145が含有されてもよい。【選択図】 図4

Description

本発明は、基材が鉄系材料で構成される焼結体(鉄系焼結体)であるときに、この基材の表面に形成される酸化被膜と、この酸化被膜を形成した摺動部材と、この摺動部材を備える機器と、に関する。
摺動部は、複数の摺動部材が互いに摺動面を介して組み合わせられることにより構成されている。一般に、摺動の種類がスライド摺動あるいは回転摺動であれば、当該摺動部を構成する少なくとも一方の摺動部材には、その摺動面に耐摩耗性被膜が形成されている。この耐摩耗性被膜は、代表的には、リン酸塩被膜、ガス窒化被膜、または、四酸化三鉄(Fe34)単層からなる酸化鉄系の酸化被膜等が知られている。四酸化三鉄(Fe34)単層の酸化被膜としては、黒染処理(別名フェルマイト処理とも呼ばれる。)方法で形成されたものが代表的である。
このような耐摩耗性被膜は、摺動部材を構成する基材の表面を被覆している。基材は通常金属製であり、この基材の表面の少なくとも一部は摺動面である。摺動部で摺動が行われるときには、摺動面には潤滑油が供給されるので、摺動中の摺動部材では、潤滑油により摩耗が防止または抑制されるとともに、金属(基材)同士の接触による摺動抵抗の増加を抑制する。これにより、摺動部では、長期に亘って円滑な摺動が確保される。
耐摩耗性被膜としては、従来からリン酸塩被膜が知られている。ただし、近年、冷媒圧縮機に求められる高効率化の観点では、従来のリン酸塩被膜は十分な自己耐摩耗性を実現できない可能性がある。そこで、本発明者らは、特許文献1に開示されるように、鉄系材料で構成される焼結体の基材の表面に形成される、三層構造の酸化被膜を提案している。鉄系焼結体である基材の表面に、このような三層構造の酸化被膜を形成することで、このような鉄系焼結体を摺動部材として用いても、良好な自己耐摩耗性を実現することが可能である。
国際公開2018/097280号公報
ところで、冷媒圧縮機のさらなる高効率化をはかるための構成としては、より低粘度の潤滑油の使用、摺動長さ(摺動部を構成する摺動面同士の接触長さ)の短縮化等の条件(構成条件)が挙げられる。また、冷媒圧縮機の摺動部では、例えば、潤滑油に溶け込んだ冷媒ガスが気化して発泡することによる摺動面の接触頻度の増加という条件(動作条件)も考慮する必要がある。例えば、クランクシャフトでは、その回転により主軸部に負荷変動が生じるが、この負荷変動に伴って潤滑油中の冷媒ガスの気化および発泡が生じる場合がある。このとき、発泡により潤滑油の油膜が切れるため摺動面の接触頻度が増加する可能性がある。
これらの条件はいずれも摺動面の耐摩耗性に大きな影響を及ぼすものであるため、摺動面に形成される耐摩耗性被膜には、これら条件に対応する性能が求められる。前述した特許文献1に開示の酸化被膜は、三層構造を有することから、最表面の耐摩耗性だけでなく、酸化被膜の接着性を良好なものとすることができる。言い換えれば、三層構造により、基材上における酸化被膜の安定性をより一層良好なものとすることができるため、総合的な観点で酸化被膜の良好な自己耐摩耗性を実現することができる。しかしながら、今後、冷媒圧縮機のより一層の高効率化を目指す観点では、自己耐摩耗性のさらなる向上を図ることが望ましい。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、鉄系焼結体である基材の表面に設けられ、さらに良好な自己耐摩耗性を発揮することが可能な酸化被膜と、この酸化被膜を形成した摺動部材と、この摺動部材を備える機器と、を提供することを目的とする。
本発明に係る酸化被膜は、前記の課題を解決するために、鉄系材料で構成される焼結体である基材の表面に形成される酸化被膜であって、少なくとも微結晶からなる第一層と、当該第一層の下側に位置し、柱状組織を含有する第二層と、当該第二層とは界面を介して前記基材側に位置し、層状組織を含有する第三層と、当該第三層の下側に位置し、柱状組織を含有する第四層と、を含む構成である。
前記構成によれば、最表面に緻密な第一層を有しているため、摺動部材の摺動面に良好な耐摩耗性を付与することができる。しかも、摺動部材の基材は鉄系焼結体であるが、第一層の最表面は緻密な微結晶で構成されているため、鉄系焼結体の封孔処理が不要となる。これにより、耐摩耗性の向上とともに製造コストの低減を図ることが可能となる。
また、前記構成によれば、第一層と基材との間に、柱状組織を有する第二層、層状組織を有する第三層、および柱状組織を有する第四層という3つの中間層が介在していることになる。そのため、従来の三層構造の酸化被膜に比較して、基材に対する接着性がさらに一層良好なものとなる。それゆえ、第一層による耐摩耗性の向上とともに、四層構造による耐摩耗性被膜としての安定性をさらに一層良好なものとすることができ、結果として、酸化被膜の総合的な自己耐摩耗性をさらに一層良好なものとすることができる。
また、前記構成によれば、基材が鉄系焼結体であり、その表面に良好な耐摩耗性被膜である四層構造の酸化被膜を形成することになる。それゆえ、従来の鋳鉄製の基材と比較して寸法精度が高く、成形後の機械加工を少なくすることができるとともに、従来の鋳鉄製の摺動部材を鉄系焼結体製の摺動部材に置き換えることができる。
また、本発明に係る他の酸化被膜は、前記の課題を解決するために、鉄系材料で構成される焼結体である基材の表面に形成される多層構造の酸化被膜であって、最外層と基材との間に介在し、層状組織を含有する層状組織層を有し、当該層状組織層には、アモルファスカーボンおよび炭化物の少なくとも一方からなる炭素偏析部が含有される構成である。
前記構成によれば、多層構造の酸化被膜が、最外層と基材との間の中間層として、層状組織と炭素偏析部とを含有する層状組織層を備えている。層状組織層が層状組織とともに炭素偏析部を含有することで、当該炭素偏析部は、負荷応力の集中の緩和に寄与したり層状組織層と他の層との接着性に寄与したりすることが可能となる。それゆえ、耐摩耗性被膜としての安定性をより一層良好なものとすることができ、結果として、酸化被膜の総合的な自己耐摩耗性をさらに一層良好なものとすることができる。
また、本発明には、前記のいずれかの構成の酸化被膜が、鉄系材料で構成される焼結体である基材の摺動面に形成されている摺動部材が含まれる。さらには、本発明には、前記構成の摺動部材を備えている機器も含まれる。
本発明では、以上の構成により、鉄系焼結体である基材の表面に設けられ、さらに良好な自己耐摩耗性を発揮することが可能な酸化被膜と、この酸化被膜を形成した摺動部材と、この摺動部材を備える機器と、を提供することができる、という効果を奏する。
本開示の実施の形態に係る冷媒圧縮機の構成の一例を示す模式的断面図である。 図1に示す冷媒圧縮機が備える摺動部に形成された酸化被膜を走査型イオン顕微鏡(SIM)で観察した結果の一例を示すSIM画像である。 図2に示す酸化被膜のSIM画像のうち枠Aの領域を収差補正走査型電子顕微鏡(STEM)で観察した結果を示すSTEM画像である。 (A)は、図2に示す酸化被膜のSIM画像のうち枠Bの領域を収差補正走査型電子顕微鏡(STEM)で観察した結果を示すSTEM画像であり、(B)は、枠Bの領域をエネルギー分散型X線分析(EDS)して炭素(C)元素のマッピングを行った結果を示すEDS画像である。 図1に示す冷媒圧縮機を備える冷凍装置の構成の一例を示す模式図である。
本開示に係る酸化被膜は、鉄系材料で構成される焼結体である基材の表面に形成され、少なくとも微結晶からなる第一層と、当該第一層の下側に位置し、柱状組織を含有する第二層と、当該第二層とは界面を介して前記基材側に位置し、層状組織を含有する第三層と、当該第三層の下側に位置し、柱状組織を含有する第四層と、を含む構成である。
前記構成によれば、最表面に緻密な第一層を有しているため、摺動部材の摺動面に良好な耐摩耗性を付与することができる。しかも、摺動部材の基材は鉄系焼結体であるが、第一層の最表面は緻密な微結晶で構成されているため、鉄系焼結体の封孔処理が不要となる。これにより、耐摩耗性の向上とともに製造コストの低減を図ることが可能となる。
また、前記構成によれば、第一層と基材との間に、柱状組織を有する第二層、層状組織を有する第三層、および柱状組織を有する第四層という3つの中間層が介在していることになる。そのため、従来の三層構造の酸化被膜に比較して、基材に対する接着性がさらに一層良好なものとなる。それゆえ、第一層による耐摩耗性の向上とともに、四層構造による耐摩耗性被膜としての安定性をさらに一層良好なものとすることができ、結果として、酸化被膜の総合的な自己耐摩耗性をさらに一層良好なものとすることができる。
また、前記構成によれば、基材が鉄系焼結体であり、その表面に良好な耐摩耗性被膜である四層構造の酸化被膜を形成することになる。それゆえ、従来の鋳鉄製の基材と比較して寸法精度が高く、成形後の機械加工を少なくすることができるとともに、従来の鋳鉄製の摺動部材を鉄系焼結体製の摺動部材に置き換えることができる。
前記構成の酸化被膜においては、前記第一層には、当該第一層の他の部位よりも前記微結晶が緻密に存在する緻密層が含有されている構成であってもよい。
前記構成によれば、第一層が緻密層を含有することから、第一層の耐摩耗性をより一層良好なものとすることができる。
また、前記構成の酸化被膜においては、前記第一層から前記第四層は、少なくとも三酸化二鉄(Fe23)および四酸化三鉄(Fe34)で構成されてもよい。
前記構成によれば、第一層から第四層の各層のいずれも、少なくともFe23およびFe34で構成されている。各層の結晶組織は異なるものの材質上の共通性が高いため、各層は良好な接着性を発揮することができる。それゆえ、四層構造による耐摩耗性被膜としての安定性をさらに一層良好なものとすることができる。
また、前記構成の酸化被膜においては、前記第一層において最も多く占める成分が三酸化二鉄(Fe23)であり、前記第二層において最も多く占める成分が四酸化三鉄(Fe34)であり、前記第三層において最も多く占める成分が四酸化三鉄(Fe34)であり、前記第四層において最も多く占める成分が四酸化三鉄(Fe34)である構成であってもよい。
前記構成によれば、最外層である第一層で最も多い成分がFe23であり、第一層と基材との間に介在する第二層〜第四層で最も多い成分がFe34である。それゆえ、第一層は良好な耐摩耗性を実現できるとともに、第二層〜第四層は中間層として良好な機能を実現することができる。
また、前記構成の酸化被膜においては、前記第一層の結晶粒径は0.001〜1μmの範囲内であり、かつ、当該第一層の結晶粒径は、前記第二層の結晶粒径よりも小さい構成であってもよい。
前記構成によれば、第一層の微結晶を具体的に特定しているので、緻密な微結晶に由来する耐摩耗性をより一層良好なものとすることができる。
また、前記構成の酸化被膜においては、前記第二層が含有する前記柱状組織は、アスペクト比が1を超え20以下の範囲内である縦長の結晶組織であってもよい。
前記構成によれば、第二層の柱状組織を具体的に特定しているので、第二層の中間層としての機能をより良好なものとすることができる。
また、前記構成の酸化被膜においては、前記第四層が含有する前記柱状組織は、アスペクト比が1を超え15以下の範囲内である縦長の結晶組織である構成であってもよい。
前記構成によれば、第四層の柱状組織を具体的に特定しているので、第二層の中間層としての機能をより良好なものとすることができる。
また、前記構成の酸化被膜においては、前記第三層は、アモルファスカーボンおよび炭化物の少なくとも一方からなる炭素偏析部を含有する構成であってもよい。
前記構成によれば、第三層が炭素偏析部を含有することで、当該炭素偏析部が負荷応力の集中の緩和に寄与したり第三層と他の層との良好な接着性に寄与したりすることが可能となる。それゆえ、耐摩耗性被膜としての安定性をさらに一層良好なものとすることができる。
また、前記構成の酸化被膜においては、前記炭素偏析部は、断続的または連続的に層状を成しているとともに、前記層状組織は、前記第二層が含有する前記柱状組織および前記第四層が含有する前記柱状組織よりも結晶粒径が小さい構成であってもよい。
前記構成によれば、第三層が層状の炭素偏析部と結晶粒径の小さい層状組織とを含有するため、負荷応力の集中の緩和、あるいは、他の層との接着性についての寄与をより一層良好なものとすることができる。それゆえ、耐摩耗性被膜としての安定性をさらに一層良好なものとすることができる。
また、前記構成の酸化被膜においては、膜厚が1〜10μmの範囲内である構成であってもよい。
前記構成によれば、膜厚が前記の範囲内であることで、四層構造の酸化被膜としての機能を良好に実現することができる。
本開示に係る他の酸化被膜は、鉄系材料で構成される焼結体である基材の表面に形成される多層構造であって、最外層と基材との間に介在し、層状組織を含有する層状組織層を有し、当該層状組織層には、アモルファスカーボンおよび炭化物の少なくとも一方からなる炭素偏析部が含有される構成である。
前記構成によれば、多層構造の酸化被膜が、最外層と基材との間の中間層として、層状組織と炭素偏析部とを含有する層状組織層を備えている。層状組織層が層状組織とともに炭素偏析部を含有することで、当該炭素偏析部は、負荷応力の集中の緩和に寄与したり層状組織層と他の層との接着性に寄与したりすることが可能となる。それゆえ、耐摩耗性被膜としての安定性をより一層良好なものとすることができ、結果として、酸化被膜の総合的な自己耐摩耗性をさらに一層良好なものとすることができる。
前記構成の他の酸化被膜においては、前記炭素偏析部は、断続的または連続的に層状を成しているとともに、前記層状組織層に含有される前記層状組織は、他の層に含有される結晶組織よりも結晶粒径が小さい構成であってもよい。
前記構成によれば、層状組織層が層状の炭素偏析部と結晶粒径の小さい層状組織とを含有するため、負荷応力の集中の緩和、あるいは、他の層との接着性についての寄与をより一層良好なものとすることができる。それゆえ、耐摩耗性被膜としての安定性をさらに一層良好なものとすることができる。
本開示に係る摺動部材は、前記のいずれかの構成の酸化被膜が、鉄系材料で構成される焼結体である基材の摺動面に形成されている構成であればよい。
前記構成によれば、摺動部材が、自己耐摩耗性が良好な耐摩耗性被膜としての酸化被膜を備えているため、より一層良好な摺動性能を有する摺動部を構成することができる。
前記構成の摺動部材においては、前記焼結体は、鉄が90質量%以上を占める構成であってもよい。
前記構成によれば、鉄系焼結体が鉄を90質量%以上含有するものであるため、より良好な品質を有する摺動部材とすることができる。
また、前記構成の摺動部材においては、前記焼結体は、硫黄およびモリブデンの少なくとも一方を含有する構成であってもよい。
前記構成によれば、鉄系焼結体が硫黄またはモリブデンもしくはその両方を含有することで、摺動部材としての品質をさらに一層良好なものとすることができる。
本開示に係る機器は、前記のいずれかの構成の摺動部材を備えているものであればよい。このような機器では、鉄系焼結体を基材とし、耐摩耗性被膜として前述した四層構造の酸化被膜または層状組織層を含む多層構造の酸化被膜を有する摺動部材が用いられる。これにより、酸化被膜が良好な自己耐摩耗性を有するため、摺動部材の品質をより一層良好なものとすることができ、摺動部における摺動性能を優れたものとすることができる。それゆえ、このような摺動部を備える機器の性能も優れたものとすることができる。
以下、本発明の代表的な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
(実施の形態1)
本実施の形態1では、本開示に係る酸化被膜が、冷媒圧縮機の摺動部に形成された構成を例に挙げて、当該酸化被膜およびこれを用いた摺動部材、並びに、この摺動部材を備える機器について説明する。なお、説明の便宜上、本開示に係る酸化被膜が形成された摺動部材を備える機器を「酸化被膜適用機器」と称する。したがって、本実施の形態1で例示する冷媒圧縮機は、酸化被膜適用機器に該当する。
[冷媒圧縮機の構成]
まず、本実施の形態1に係る冷媒圧縮機の代表的な一例について、図1および図2を参照して具体的に説明する。図1は、本実施の形態1に係る冷媒圧縮機100の断面図であり、図2は、冷媒圧縮機100の摺動部に設けられる酸化被膜のSIM(走査型イオン顕微鏡)観察を行った結果の一例を示すSIM画像である。
図1に示すように、冷媒圧縮機100においては、密閉容器101内にはR134aからなる冷媒ガス102が充填されるとともに、底部には潤滑油103としてエステル油が貯留されている。また、密閉容器101内には、固定子104および回転子105からなる電動要素106と、これによって駆動される往復式の圧縮要素107とが収容されている。
そして、圧縮要素107は、クランクシャフト108、シリンダーブロック112、ピストン113等によって構成されている。圧縮要素107の構成を以下に説明する。
クランクシャフト108は、回転子105を圧入固定した主軸部109と、主軸部109に対し偏心して形成された偏心軸110と、から少なくとも構成される。クランクシャフト108の下端には潤滑油103に連通する給油ポンプ111を備えている。
クランクシャフト108は、基材130として、鉄系材料で構成される焼結体(鉄系焼結体)を使用し、表面に酸化被膜140が形成されている。本実施の形態1における酸化被膜140の代表的な一例を図2に示す。図2は、酸化被膜140の断面をSIM(走査型イオン顕微鏡)により観察した結果の一例であり、酸化被膜140の厚さ方向の全体像を示す。なお、図2に例示する摺動部材はピストン113である。
本実施の形態1における酸化被膜140は、第一層141、第二層142、第三層143、および第四層144から構成されている。また、第三層143には、好ましくは後述するように炭素偏析部145が形成されている。酸化被膜140の具体的構成については後述する。なお、図2において、第一層141の外側に位置する黒い層150は、酸化被膜140のサンプルを保護する保護膜であり、酸化被膜140を構成する層ではない。
シリンダーブロック112は鉄系材料からなり、略円筒形のボアー114を形成するとともに、主軸部109を軸支する軸受部115を備えている。
また、回転子105にはフランジ面116が形成され、軸受部115の上端面がスラスト面117になっている。フランジ面116と軸受部115のスラスト面117との間には、スラストワッシャ118が挿入されている。フランジ面116、スラスト面117およびスラストワッシャ118でスラスト軸受119を構成している。
ピストン113はある一定量のクリアランスを保ってボアー114に遊嵌される。ピストン113は、鉄系材料からなり、ボアー114とともに圧縮室120を形成する。また、ピストン113は、ピストンピン121を介して連結手段であるコンロッド122により偏心軸110と連結されている。ボアー114の端面はバルブプレート124で封止されている。
ヘッド123は高圧室を形成している。ヘッド123は、バルブプレート124のボアー114の反対側に固定される。サクションチューブ(図示せず)は、密閉容器101に固定されるとともに冷凍サイクルの低圧側(図示せず)に接続され、冷媒ガス102を密閉容器101内に導く。サクションマフラー125は、バルブプレート124とヘッド123に挟持される。
以上のように構成された冷媒圧縮機100について、以下その動作を説明する。
商用電源(図示せず)から供給される電力は電動要素106に供給され、電動要素106の回転子105を回転させる。回転子105はクランクシャフト108を回転させ、偏心軸110の偏心運動が連結手段のコンロッド122からピストンピン121を介してピストン113を駆動する。ピストン113はボアー114内を往復運動し、サクションチューブ(図示せず)を通して密閉容器101内に導かれた冷媒ガス102をサクションマフラー125から吸入し、圧縮室120内で圧縮する。
潤滑油103はクランクシャフト108の回転に伴い、給油ポンプ111から各摺動部に給油され、摺動部を潤滑するとともに、ピストン113とボアー114の間においてはシールを司る。なお、摺動部とは、複数の摺動部材が互いの摺動面で接した状態で摺動する部位を意味する。
ここで、近年の冷媒圧縮機100では、さらなる高効率化を図るため、潤滑油103として、(1)より粘度の低いものを使用する、または、(2)摺動部を構成するそれぞれの摺動部材の摺動長さ(摺動部間の摺動長さとする。)がより短く設計される、等の対応が行われている。そのため、摺動条件はより過酷な方向に進んでいる。すなわち、摺動部の間の油膜はより薄くなる傾向にあり、あるいは、摺動部の間の油膜が形成され難い傾向にある。
加えて、冷媒圧縮機100においては、クランクシャフト108の偏心軸110が、シリンダーブロック112の軸受部115、並びに、クランクシャフト108の主軸部109に対して偏心して形成されている。そのため、圧縮された冷媒ガス102のガス圧により、クランクシャフト108の主軸部109と偏心軸110とコンロッド122との間に、負荷変動を伴う変動荷重が加えられる。この負荷変動に伴って、主軸部109と軸受部115との間などで、潤滑油103に溶け込んだ冷媒ガス102が繰り返し気化するため、潤滑油103に発泡が発生する。
このような理由により、クランクシャフト108の主軸部109と軸受部115との間などの摺動部において、油膜が切れて摺動面同士が金属接触する頻度が増加する。これに対して、冷媒圧縮機100の摺動部、例えば、本実施の形態1で一例として示すクランクシャフト108の摺動部には、前述したように第一層141〜第四層144を備える構成の酸化被膜140が施してある。そのため、油膜が切れる頻度が増加したとしても、これに伴い発生する摺動面の摩耗を長期間にわたって抑制することができる。また、酸化被膜140は、四層構造を有することから、耐摩耗性被膜としての安定性を良好なものとすることができる。
本実施の形態1では、摺動部材としては、クランクシャフト108を例示しているが、酸化被膜適用機器が冷媒圧縮機100である場合、摺動部材はクランクシャフト108の主軸部109および軸受部115に限定されない。前述した構成の冷媒圧縮機100における摺動部材としては、ピストン113およびボアー114であってもよいし、コンロッド122であってもよい。例えば、図2に例示する摺動部材は、前記の通り、ピストン113である。本開示では、これら摺動部材の表面に、耐摩耗性被膜として酸化被膜140が形成されていればよい。
[酸化被膜の積層構成]
次に、本開示に係る酸化被膜140について、図2に加えて、図3、図4(A),(B)を参照してより具体的に説明する。前述したように、本開示に係る酸化被膜140は、第一層141、第二層142、第三層143、および第四層144の4層構造を有しており、好ましくは、第三層143には図3に示すように炭素偏析部145が含有される。
第一層141は、鉄系焼結体である基材130の最表面に位置し、少なくとも微結晶からなる。第一層141を構成する微結晶は、少なくとも第二層142(あるいは第三層143、あるいは第四層144)を構成する結晶よりも結晶粒径が小さいものであればよい。第一層141の具体的な結晶粒径は特に限定されないが、代表的には、0.001〜1μmの範囲内であればよい。第一層141の結晶粒径がこの範囲内であれば、諸条件にもよるが、第一層141を構成する微結晶の緻密性を良好なものとすることができるので、最外層である第一層141による耐摩耗性をより一層良好なものとすることができる。
なお、図2には図示されないが、第一層141は、より緻密な微結晶により構成される緻密層を含有してもよい。この緻密層は、第一層141の一部として含有される構造または組織であり、第一層141の他の部位よりも微結晶が層状に緻密に存在する構成となっている。このように、第一層141が、当該第一層141の他の部位よりも微結晶が緻密に存在する緻密層を含有していれば、諸条件にもよるが、当該第一層141の耐摩耗性をより一層良好なものとすることができる。
第二層142は、第一層141の下側に位置し、縦長(酸化被膜140の厚さ方向に長い)の結晶組織である柱状組織を含有する。第三層143は、第二層142とは界面を介して基材130側に位置し、第二層142とは異なり横長(酸化被膜140の広がり方向に長い/酸化被膜140の厚さ方向に交差する方向に長い)層状組織を含有する。第四層144は、第三層143の下側に位置し、第二層142と同様に縦長の結晶組織である柱状組織を含有する。この層状組織は、好ましくは、第二層142または第四層144が有する柱状組織よりも結晶粒径が小さいものである。
第二層142および第四層144は、いずれも、少なくとも柱状組織により構成されていればよく、それぞれの柱状組織も同様であってもよいが、本開示においては、第二層142を構成する柱状組織(便宜上「第二層柱状組織]と称する)の方が、第四層144を構成する柱状組織(便宜上「第四層柱状組織]と称する)よりもアスペクト比が大きくなる傾向がある。
例えば、本実施の形態に係る酸化被膜140においては、第二層柱状組織のアスペクト比は1を超え20以下の範囲内であり、第四層柱状組織のアスペクト比は1を超え15以下の範囲内である。第二層柱状組織および第四層柱状組織のアスペクト比が1であれば柱状の結晶組織とならない。第二層柱状組織のアスペクト比が20を超えるか、第四層柱状組織のアスペクト比が15を超えると、それぞれ柱状組織としての結晶組織が長くなり過ぎて、第二層142または第四層144における他の層または基材との良好な接着性に影響を及ぼす可能性がある。もちろん、第二層柱状組織および第四層柱状組織のアスペクト比は、それぞれこれらの範囲内に限定されない。
第二層142が含有する柱状組織のアスペクト比が前記の範囲内であれば、当該第二層142の中間層としての機能をより良好なものとすることができる。また、第四層144が含有する柱状組織のアスペクト比が前記の範囲内であれば、第四層144の中間層としての機能をより良好なものとすることができる。このように、中間層である第二層142および第四層144の機能をより良好なものとすることができれば、基材130に対する接着性がさらに一層良好なものとなる。それゆえ、第一層141による耐摩耗性の向上とともに、四層構造による耐摩耗性被膜としての安定性をさらに一層良好なものとすることができる。
酸化被膜140を構成する成分の具体的な種類も特に限定されないが、第一層141から第四層144のいずれの層も、少なくとも三酸化二鉄(Fe23)および四酸化三鉄(Fe34)で構成されていればよい。したがって、第一層141から第四層144のいずれも、三酸化二鉄(Fe23)および四酸化三鉄(Fe34)以外の成分を含有してもよい。
各層のより好ましい一例としては、具体的には、例えば、第一層141においては、最も多く占める成分が三酸化二鉄(Fe23)であればよい。また、第二層142においては、最も多く占める成分が四酸化三鉄(Fe34)であればよい。また、第三層143においても、最も多く占める成分が四酸化三鉄(Fe34)であればよい。また、第四層144においても、最も多く占める成分が四酸化三鉄(Fe34)であればよい。
このように、第一層141から第四層144の各層がいずれも、Fe23およびFe34を含有する構成であれば、これら四層は、それぞれ結晶組織は異なるものの材質としての共通性が高いことになる。それゆえ、第一層141〜第四層144の各層は互いに良好な接着性を有することになる。それゆえ、四層構造による耐摩耗性被膜としての安定性をさらに一層良好なものとすることができる。特に、最外層である第一層141で最も多い成分がFe23であり、第一層141と基材130との間に介在する第二層142、第三層143、および第四層144で最も多い成分がFe34であれば、第一層141は良好な耐摩耗性を実現できるとともに、第二層142〜第四層144はいずれも中間層として良好な機能を実現することができる。
さらに、本開示においては、第三層143は、図3および図4(A),(B)に示すように、炭素偏析部145を備えていることが特に好ましい。炭素偏析部145は、第三層143を含む四層構造の酸化被膜140のうち炭素(C)の含有量が他の部分よりも多くなっている部分であればよいが、具体的には、アモルファスカーボンおよび炭化物の少なくとも一方、もしくはその両方が混在したものを挙げることができる。炭素偏析部145の具体的な形状も特に限定されないが、図3または図4(A),(B)に示すように、断続的または連続的な層状であればよい。
図3は、図2に示すSIM画像のうち、枠Aで囲んだ領域を収差補正走査型電子顕微鏡(STEM)で観察した結果を示すSTEM画像である。図3に示すように、炭素偏析部145は、第三層143のうち第二層142側に位置しており、図3に示す例では、断続的な層状を成している。また、図4(A)は、図2に示すSIM画像のうち、枠Bで囲んだ領域をSTEMで観察した結果を示すSTEM画像である。図4(A)に示すように、炭素偏析部145は、図3のSIM画像と同様に、第三層143のうち第二層142側に位置しており、図中(STEM画像中)向かって右側では連続的な層状を成しているが、左側では層が一部途切れているように観察される。
図4(B)は、図4(A)と同様に、図2に示すSIM画像のうち枠Bで囲んだ領域に相当するが、図4(A)とは異なり、枠Bの領域をエネルギー分散型X線分析(EDS)して炭素(C)元素のマッピングを行った結果を示すEDS画像である。図4(B)では、炭素はEDS画像中高い明度(明るい色)の部位で示される(実際のEDS画像では、炭素は黄色で示されるが、図4(B)はモノクロ化しているため、明度の高いグレーで示される)。図4(B)に示すように、炭素は明らかに第三層143における第二層142側に偏在している。また、図4(B)に示す第三層143における炭素のマッピング位置は、図4(A)において黒く示される炭素偏析部145の位置と十分に重複される。
また、図4(A)では、第二層142にも黒く示される部位が確認されるものの、図4(B)では、第二層142には炭素を示す明るい部位は確認されない。それゆえ、第二層142には炭素の偏在は見られないと判断される。なお、図4(B)では、第一層141にも炭素を示す明るい部位が確認されるので、第一層141を構成する緻密な微結晶には第二層142または第四層144と比較して相対的に炭素が多く含有されていると判断される。
ここで、図4(A)では、第四層144に黒く示される部位が観察され、図4(B)でも、第四層144に炭素を示す明るい部位が確認される。しかしながら、図4(A)における第四層144の黒い部位は基材130との境界付近であるのに対して、図4(B)における第四層144の明るい部位は基材130よりも第三層143寄りである。したがって、図4(A)における第四層144の黒い部位と、図4(B)における第四層144の明るい部位との位置は対応しないと考えられる。言い換えれば、図4(B)のEDS画像から、第四層144にもスポット状で炭素が偏析する部位が存在すると判断される。
ここで、図3に示すSIM画像では、炭素偏析部145に相当する炭素濃度が高い部位は黒く示され、炭素濃度が低い部位は黒く示されない。したがって、図3に示す領域(枠A)では、炭素偏析部145は断続的な層状を成していると判断される。ただし、図3では、炭素偏析部145が途切れた位置においても、層状組織143aが確認される。この層状組織143aは、図3から明らかなように、第二層142が含有する柱状組織または第四層144が含有する柱状組織よりも結晶粒径が小さい。そのため、少なくとも第二層142と第三層143との間では、炭素偏析部145が存在していなくても明確な界面が確認されることがわかる。
このように、本開示に係る酸化被膜140では、第三層143が層状組織143aに加えて炭素偏析部145を含有してもよい。第三層143における炭素偏析部145は、酸化被膜140における負荷応力の集中の緩和に寄与することが可能になる。また、炭素偏析部145は、第三層143と他の層(隣接する第二層142)との間で良好な接着性に寄与することも可能となる。また、炭素偏析部145は、第三層143において断続的または連続的な層状を成している。このように炭素偏析部145が連続的であってもなくても「層」を形成することで、負荷応力の集中の緩和、あるいは、他の層との接着性についての寄与をより一層良好なものとすることができる。それゆえ、耐摩耗性被膜としての安定性をさらに一層良好なものとすることができる。
また、本開示に係る酸化被膜140は、第一層141、第二層142、第三層143、および第四層144以外の層等を備えていてもよい。また、第一層141は、最表面側に形成され、より緻密に配列される微結晶により構成される緻密層を含有してもよいが、第一層141には緻密層は必ずしも含まれなくてもよい。第一層141そのものが、他の2層に比べて緻密な微結晶により構成されているため、緻密層が含まれなくても第一層141そのものが他の2層よりも結晶組織が緻密なものとなっている。
また、本開示に係る酸化被膜140は、第一層141、第二層142、第三層143、および第四層144の四層構造に限定されず、良好な自己耐摩耗性を実現できるのであれば、いくつかの層は備えていなくてもよい。本開示において特に特徴的な層としては、炭素偏析部145を含有する第三層143を挙げることができる。第三層143は炭素偏析部145を含有しなくてもよいが、炭素偏析部145を含有することで、前記の通り、酸化被膜140の負荷応力の集中を緩和したり他の層等の接着性を良好にしたりすることに寄与する。それゆえ、本開示に係る他の酸化被膜140は、少なくとも中間層として第三層143を備える構成であってもよい。
前述した第三層143が層状組織を有することから、当該第三層143を、最外層からの順番に基づく層の名称ではなく結晶組織に由来する名称として「層状組織層」と称するものとする。そして、本開示に係る酸化被膜140の他の構成としては、最外層および基材130の間に介在し、層状組織を有する層状組織層を少なくとも備え、当該層状組織層は炭素偏析部145を含有する構成を挙げることができる。すなわち、前述した四層構造では、第三層143が層状組織層に該当するが、本開示に係る酸化被膜140の他の構成は、第三層143のような層状組織層とともに少なくとも1層の他の層を有する構成であればよい。
このように、本開示に係る酸化被膜140が、層状組織および炭素偏析部145を含有する層状組織層を備えていれば、多層構造の酸化被膜140が、最外層(例えば第一層141のような緻密層)と基材130との間の中間層として層状組織層を備えていることになる。層状組織層が特に炭素偏析部145を含有することで、当該炭素偏析部145が負荷応力の集中の緩和に寄与したり層状組織層と他の層との接着性に寄与したりすることが可能となる。それゆえ、耐摩耗性被膜としての安定性をより一層良好なものとすることができ、結果として、酸化被膜140の総合的な自己耐摩耗性をさらに一層良好なものとすることができる。
なお、特許文献1に開示される酸化被膜(従来の酸化被膜)は、少なくとも微結晶からなる第一層、柱状組織を含有する第二層、および柱状組織を含有する第三層から構成される三層構造であって、第二層および第三層の間に界面が形成されている。このような三層構造の従来の酸化被膜であっても、耐摩耗性被膜としての安定性を良好なものとすることができるが、本開示に係る酸化被膜140のように、四層構造を備えているか、炭素偏析部145を含有する層状組織層を備えているか、より好ましくはこれらの双方を備えていれば、耐摩耗性被膜としての安定性をさらに一層良好なものとすることができる。
酸化被膜140全体の厚さ(膜厚)は特に限定されないが、1〜10μmの範囲内であればよく、例えば1〜8μmの範囲内であってもよい。同様に、第一層141、第二層142、第三層143、および第四層144の厚さ、並びに、第一層141が含有する緻密層、第三層143が含有する炭素偏析部145の厚さは、いずれも特に限定されない。
図3に示す例(すなわち図2におけるA枠で囲んだ部位付近)では、第一層141の厚さが約0.5μmであり、第二層142の厚さが約3.0μmであり、第三層143の厚さ(炭素偏析部145を含む)が約0.4μmであり、第四層144の厚さが約2.0μmであり、酸化被膜140の全体の厚さは約5.9μmである。
また、第三層143に含有される炭素偏析部145の厚さは特に限定されないが、第三層143全体の厚さを100%としたときに、当該第三層143に占める炭素偏析部145の厚さは5〜50%の範囲内であればよく、20〜50%の範囲内であってもよい。炭素偏析部145を第三層143に形成する場合には、当該炭素偏析部145による作用(負荷応力の集中の緩和、あるいは、他の層との接着性)を期待する観点では、第三層143全体の厚さ100%に対して少なくとも2%以上であることが好ましい。
[酸化被膜および摺動部材の製造方法]
次に、前述した酸化被膜140および当該酸化被膜140を備える摺動部材の製造方法について代表的な一例を説明する。酸化被膜140の製造方法または摺動部材の製造方法は、公知の鉄系材料の酸化方法を好適に用いることができ、具体的には特に限定されない。基材130である鉄系焼結体の種類、その表面状態、求める酸化被膜140の物性等の諸条件に応じて、製造条件等については適宜設定することができる。本開示では、炭酸ガス(二酸化炭素ガス)等の公知の酸化性ガスおよび公知の酸化設備を用いて、数百℃の範囲内、例えば400〜800℃の範囲内で基材130である鉄系焼結体を酸化処理することにより、基材130の表面に酸化被膜140を形成することができる。
特に本開示においては、酸化被膜140が第一層141〜第四層144の四層構造を有する構成であるか、層状組織および炭素偏析部145を含有する層状組織層を有する構成である(もしくは、四層構造かつ層状組織層を含有する構成であることが好ましい)。このような構成は、前述したような各種の酸化条件の設定により実現(製造)することは可能であるが、他の一例としては、酸化処理に際して炭素含有溶液を基材130に塗布することが挙げられる。
炭素含有溶液を用いた酸化被膜140の形成方法(酸化被膜140の製造方法あるいは摺動部材の製造方法)は特に限定されないが、代表的な一例をあげると、まず、摺動部材の種類等に応じて基材130である鉄系焼結体を切削して表面(外面)を研磨し、炭素含有溶液を基材130の表面に塗布し、余剰の炭素含有溶液を適宜除去し、その後に前述したように酸化処理すればよい。
ここで、炭素含有溶液の具体的な組成は特に限定されず、基材130の酸化処理に際して、第三層143の形成に寄与するか、または、炭素偏析部145の形成に寄与する程度の炭素を供給することができるものであればよい。代表的な炭素含有溶液としては、例えば、鉱油または合成油等の油性液体材料、あるいは、水および油性液体材料を含有する水溶性エマルジョン等を挙げることができる。水溶性エマルジョンは、水中に油性液体材料を分散させるための界面活性剤等を含有してもよい。また、油性液体材料または水溶性エマルジョンは、界面活性剤以外の公知の添加剤を含有してもよい。
炭素含有溶液の具体的な物性等も特に限定されず、基材130の表面(研磨面)に炭素含有溶液を塗布可能な諸物性を有していればよい。ただし、基材130である鉄系焼結体に炭素含有溶液を良好に浸透させる(浸透性の)観点から、なるべく低粘度のものを好適に用いることができる。具体的な粘度も特に限定されず、鉄系焼結体の諸条件に応じて適宜設定することができるが、一般的には、10mm2 /S以下の粘度を挙げることができる。
炭素含有溶液の塗布方法も特に限定されず、公知の各種方法を好適に用いることができる。代表的には、刷毛塗り法、浸漬(ディッピング)法、スプレー法等の方法を挙げることができる。基材130である鉄系焼結体に炭素含有溶液を良好に浸透させる観点では、スプレー法を好適に用いることができる。
なお、炭素含有溶液の基材130への塗布量は特に限定されず、基材130の種類、炭素含有溶液の種類、酸化被膜140の種類、基材130(摺動部材)の形状の等の諸条件により適宜異なる。現状では、炭素含有溶液が多孔質の鉄系焼結体に浸透したわずかな量であっても、四層構造または炭素偏析部145(層状組織層)を形成することが可能であることがわかっている。
また、基材130の表面に炭素含有溶液が多く付着し過ぎると、基材130の酸化に影響が生じる可能性が想定される。また、炭素含有溶液が基材130に浸透し過ぎても当該基材130の酸化に影響が生じる可能性が想定される。それゆえ、炭素含有溶液の塗布量は相対的に少ない方が望ましい。そのため、基材130に炭素含有溶液を塗布した後には、前記の通り、余剰の溶液を適宜除去することが望ましい。余剰の炭素含有溶液を除去する方法は特に限定されないが、公知の方法で拭き取り除去する方法、あるいは、炭素含有溶液を基材130に浸透させた後に公知の洗浄液で洗浄する方法等を挙げることができる。
本開示に係る酸化被膜140の製造方法(摺動部材の製造方法)においては、前記の通り、例えば酸化処理に際して炭素含有溶液を基材130に塗布することで、第一層141〜第四層144の四層構造、あるいは、層状組織および炭素偏析部145を含有する層状組織層を実現することが可能である。その理由は現時点では明らかでないものの、炭素含有溶液により基材130の表面に炭素を供給することによって、当該基材130の表面の酸化に炭素が何らかの影響を及ぼし、これにより、第二層142と第四層144との間に層状組織を含有する第三層143(あるいは層状組織層)が形成されることが推測される。
また、基材130に対する炭素の供給量が多くなると、酸化処理に伴って層状組織とともに炭素偏析部145が形成されるものと推測される。したがって、炭素含有溶液以外の方法で基材130に炭素を供給することによっても、四層構造または炭素偏析部145(層状組織層)を有する酸化被膜140の形成が可能であると考えられる。
また、基材130に炭素含有溶液を塗布した後に、余剰の炭素含有溶液の除去の程度を変えることで炭素偏析部145の厚さが異なるため、少なくとも炭素の供給量によって炭素偏析部145の厚さが異なると考えられるが、酸化処理の条件を変更することによっても異なることも推測される。それゆえ、炭素の供給量と酸化処理の諸条件とを適宜変更することによって、炭素偏析部145を備え、かつ、四層構造ではない多層構造の酸化被膜140を形成することも可能であると考えられる。
ここで、酸化被膜140の形成対象である基材130の具体的な構成は特に限定されず、鉄系材料を用いて公知の手法で製造される焼結体すなわち鉄系焼結体であればよい。鉄系焼結体(基材130)に含まれる鉄の含有量は特に限定されないが、本実施の形態1では、鉄が90質量%以上を占める焼結体が用いられることが好ましい。また、鉄系焼結体には、鉄以外の種々の成分を含んでもよいが、本開示では、例えば、硫黄(S)およびモリブデン(Mo)の少なくとも一方を含有する構成を挙げることができる。なお、本開示では、鉄系焼結体の基材130には、一般的には、ケイ素(Si)は含まれない。
モリブデン(Mo)は、鉄材に添加することで、高温強度を向上し、焼き戻し脆化を抑制することが知られている。硫黄(S)は、加工時の被削性を向上することが知られている。本開示に係る摺動部材においては、基材である鉄系焼結体に硫黄およびモリブデンの少なくとも一方を含有することで、摺動部材として品質を良好なものとすることができる。
鉄系焼結体における硫黄およびモリブデンの含有量は特に限定されないが、硫黄の場合、0.005〜0.5質量%の範囲内であればよく、0.2〜0.4質量%の範囲内がより好ましい。モリブデンの場合、0.1〜2.0重量%の範囲内であればよく、0.8〜1.6重量%の範囲内がより好ましい。
このように、本開示に係る酸化被膜140は、最表面に緻密な第一層141を備えている。そのため、摺動部材の摺動面に良好な耐摩耗性を付与できる。しかも、摺動部材の基材130は鉄系焼結体であり、通常であれば封孔処理が必要であるが、酸化被膜140の最表面(最外層)は緻密な微結晶で構成されているため、封孔処理が不要となる。それゆえ、耐摩耗性の向上だけでなく製造コストの低減を図ることが可能となる。
また、最外層である第一層141と基材130である鉄系焼結体の間には、それぞれ柱状組織を有する第二層142および第四層144が介在していることになる。したがって、酸化被膜140は、第一層141を基材130に固定(密着)させるための層を少なくとも二層有するため、第一層141の基材130に対する密着性をより一層良好なものとすることができる。それゆえ、耐摩耗性被膜としての安定性をより一層良好なものにすることができる。
しかも、第二層142および第四層144の間には、層状組織を含有する第三層143が介在している。そのため、第一層141を基材130に固定(密着)させるための層は、三層となる。特に第三層143は、炭素偏析部145を含有することが好ましく、この炭素偏析部145は、負荷応力の集中の緩和に寄与したり第三層143と他の層(すなわち隣接する第二層142および第四層144)との良好な接着性に寄与したりすることが可能となる。それゆえ、耐摩耗性被膜としての安定性をさらに一層良好なものとすることができ、結果として、酸化被膜140の総合的な自己耐摩耗性をさらに一層良好なものとすることができる。
さらに、従来では、基材130が鉄系材料である場合、鋳鉄等が用いられていたが、本開示に係る摺動部材は、基材130が鉄系焼結体であり、その表面に酸化被膜140が形成されている。それゆえ、鋳鉄製の基材130に比較して、寸法精度が高く、成形後の機械加工を少なくすることができる。しかも、鋳鉄では加工が難しいような形状の摺動部材であっても、鉄系焼結体では、その形状を実現することが可能になる。それゆえ、これまで鋳鉄製であった摺動部材であっても、鉄系焼結体製の摺動部材に置き換えることができる。
[変形例]
このように、本開示に係る酸化被膜140は、鉄系焼結体である基材130の表面に形成され、少なくとも微結晶からなる第一層141と、この第一層141の下側に位置し、柱状組織を含有する第二層142と、第二層142とは界面を介して基材130側に位置し、層状組織を含有する第三層143と、第三層143の下側に位置し、柱状組織を含有する第四層144と、を含む構成である。あるいは、本開示に係る酸化被膜140は、最外層と基材130との間に介在し、層状組織を含有する層状組織層を有し、この層状組織層には、アモルファスカーボンおよび炭化物の少なくとも一方からなる炭素偏析部145を含有する構成であってもよい。
また、本開示に係る摺動部材は、鉄系焼結体である基材130の表面(摺動面)に前述した四層構造の酸化被膜140、あるいは、層状組織層および炭素偏析部145を有する構成である。さらに、本開示に係る機器は、本開示に係る摺動部材を備えているものであり、本実施の形態1では、本開示に係る機器として、冷媒圧縮機100を例示している。
ここで、冷媒圧縮機100の具体的な構成は、前述した構成に限定されない。例えば、本実施の形態1では、冷媒としては、本実施の形態1ではR134aを用いているが、冷媒の種類はこれに限定されない。同様に、潤滑油103としては、本実施の形態1ではエステル油が用いられているが、潤滑油103の種類もこれに限定されない。冷媒および潤滑油103の組合せとしては、公知の種々のものを好適に用いることができる。
特に好適な冷媒および潤滑油103の組合せとしては、例えば、下記の3例を挙げることができる。これら組合せを用いることで、本実施の形態1と同様に、冷媒圧縮機100の優れた効率化および優れた信頼性を実現することが可能となる。
まず、組合せ1としては、冷媒として、例えば、R134aまたはこれ以外の他のHFC系冷媒、あるいはHFC系の混合冷媒を用い、潤滑油103として、エステル油またはエステル油以外のアルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコール、またはこれらの混合油を用いる例を挙げることができる。
また、組合せ2としては、冷媒として、R600a、R290、R744等の自然冷媒もしくはその混合冷媒を用い、潤滑油103として、鉱油、エステル油またはアルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのいずれかひとつ、またはこれらの混合油を用いる例を挙げることができる。
さらに、組合せ3としては、冷媒として、R1234yf等のHFO系冷媒もしくはその混合冷媒を用い、潤滑油103としては、エステル油またはアルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのいずれかひとつ、またはこれらの混合油を用いる例を挙げることができる。
これらの組合せのうち、特に、組合せ2または組合せ3であれば、温室効果の少ない冷媒を使用することで地球温暖化の抑制を図ることもできる。また、組合せ3では、潤滑油103として例示した一群にさらに鉱油が含まれてもよい。
また、本実施の形態1では、冷媒圧縮機100は、前記の通りレシプロ式(往復動式)であるが、本開示に係る冷媒圧縮機は、レシプロ式に限定されず、回転式、スクロール式、振動式等のように、公知の他の構成であってもよいことは言うまでもない。本開示が適用可能な冷媒圧縮機は、摺動部および吐出弁等を有する公知の構成であれば、本実施の形態1で説明した作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
また、本実施の形態1では、冷媒圧縮機100は、商用電源によって駆動されるものであるが、本開示に係る冷媒圧縮機は、これに限定されず、例えば、複数の運転周波数でインバータ駆動されるものであってもよい。冷媒圧縮機がこのような構成であっても、当該冷媒圧縮機が備える摺動部(摺動部材により構成される)の摺動面に、前述した構成の酸化被膜140を形成することで、当該摺動部において、自己耐摩耗性の向上および相手攻撃性の抑制の双方を実現することができる。これにより、各摺動部に給油量が少なくなるような低速運転時、あるいは、電動要素の回転数が増加する高速運転時においても、冷媒圧縮機の信頼性を向上させることができる。
(実施の形態2)
本実施の形態2では、前記実施の形態1で説明した冷媒圧縮機100を備える冷凍装置の一例について、図5を参照して具体的に説明する。図5は、前記実施の形態1に係る冷媒圧縮機100を備える冷凍装置の概略構成を模式的に示している。そのため、本実施の形態2では、冷凍装置の基本構成の概略についてのみ説明する。
図5に示すように、本実施の形態2に係る冷凍装置は、本体201、区画壁202、および冷媒回路200等を備えている。本体201は、断熱性の箱体および扉体等により構成されており、箱体はその一面が開口した構成であり、扉体は箱体の開口を開閉する構成である。本体201の内部は、区画壁202により物品の貯蔵空間203と機械室204とに区画される。貯蔵空間203内には、図示しない送風機が設けられている。なお、本体201の内部は、貯蔵空間203および機械室204以外の空間等に区画されてもよい。
冷媒回路200は、貯蔵空間203内を冷却する構成であり、例えば、前記実施の形態1で説明した冷媒圧縮機100と、放熱器205と、減圧装置206と、吸熱器207とを備え、これらが環状(冷媒ガス102が循環するように)に配管208で接続された構成となっている。吸熱器207は、貯蔵空間203内に配置されている。吸熱器207の冷却熱は、図5の破線の矢印で示すように、図示しない送風機によって貯蔵空間203内を循環するように撹拌される。これにより貯蔵空間203内は冷却される。
冷媒回路200が備える冷媒圧縮機100は、前記実施の形態1で説明したように、基材130が鉄系焼結体で構成される摺動部材を備え、この摺動部材の摺動面に前述した酸化被膜140が形成されている。
このように、本実施の形態2に係る冷凍装置は、前記実施の形態1に係る冷媒圧縮機100を搭載している。冷媒圧縮機100が備える摺動部は、耐摩耗性に優れ、摺動面への密着性にも優れている。そのため、冷媒圧縮機100は、摺動部の摺動ロスを低減することが可能となり、優れた信頼性かつ優れた効率を実現することができる。その結果、本実施の形態2に係る冷凍装置は、消費電力を低減することができるので、省エネルギー化を実現することができるとともに、信頼性も向上させることができる。
なお、前述したように、前記実施の形態1においては、酸化被膜適用機器として、冷媒圧縮機を例示しており、本実施の形態2では、酸化被膜適用機器として、冷媒圧縮機を備えた冷凍装置を例示している。しかしながら、本開示が適用可能な酸化被膜適用機器は、冷媒圧縮機またはこれを備える冷凍装置に限定されない。本開示に係る酸化被膜は、スライド摺動(往復動摺動)または回転摺動等の各種の摺動を実行するための摺動部材を用いる機器であれば、どのような機器に対しても適用することができる。
具体的には、例えば、各種のポンプ、モータ、エンジン、膨張機等の各種動作装置;冷蔵庫、冷凍ショーケース、エアコン等の各種冷凍装置;洗濯機、掃除機等の家電機器;遠心分離機;ビルトイン機器等の設備機器等を挙げることができる。
このように、本開示に係る酸化被膜適用機器は、鉄系焼結体を基材とし、耐摩耗性被膜として前述した四層構造の酸化被膜または層状組織層を含む多層構造の酸化被膜を有する摺動部材が用いられる。これにより、酸化被膜が良好な自己耐摩耗性を有するため、摺動部材の品質をより一層良好なものとすることができ、摺動部における摺動性能を優れたものとすることができる。それゆえ、このような摺動部を備える機器の性能も優れたものとすることができる。
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明は、さまざまな摺動部材、もしくは、さまざまな摺動部を備える部品または機器の分野、例えば冷媒圧縮機またはこれを備える冷凍装置等の各種機器の分野に広く好適に用いることができる。
100:冷媒圧縮機(酸化被膜適用機器)
108:クランクシャフト(摺動部材)
113:ピストン(摺動部材)
114:ボアー(摺動部材)
122:コンロッド(摺動部材)
130:基材
140:酸化被膜
141:第一層
142:第二層
143:第三層
143a:層状組織
144:第四層
145:炭素偏析部
200:冷媒回路
205:放熱器
206:減圧装置
207:吸熱器
208:配管

Claims (16)

  1. 鉄系材料で構成される焼結体である基材の表面に形成される酸化被膜であって、
    少なくとも微結晶からなる第一層と、
    当該第一層の下側に位置し、柱状組織を含有する第二層と、
    当該第二層とは界面を介して前記基材側に位置し、層状組織を含有する第三層と、
    当該第三層の下側に位置し、柱状組織を含有する第四層と、
    を含むことを特徴とする、
    酸化被膜。
  2. 前記第一層には、当該第一層の他の部位よりも前記微結晶が緻密に存在する緻密層が含有されていることを特徴とする、
    請求項1に記載の酸化被膜。
  3. 前記第一層から前記第四層は、少なくとも三酸化二鉄(Fe23)および四酸化三鉄(Fe34)で構成されていることを特徴とする、
    請求項1または2に記載の酸化被膜。
  4. 前記第一層において最も多く占める成分が三酸化二鉄(Fe23)であり、
    前記第二層において最も多く占める成分が四酸化三鉄(Fe34)であり、
    前記第三層において最も多く占める成分が四酸化三鉄(Fe34)であり、
    前記第四層において最も多く占める成分が四酸化三鉄(Fe34)であることを特徴とする、
    請求項3に記載の酸化被膜。
  5. 前記第一層の結晶粒径は0.001〜1μmの範囲内であり、かつ、当該第一層の結晶粒径は、前記第二層の結晶粒径よりも小さいことを特徴とする、
    請求項1から4のいずれか1項に記載の酸化被膜。
  6. 前記第二層が含有する前記柱状組織は、アスペクト比が1を超え20以下の範囲内である縦長の結晶組織であることを特徴とする、
    請求項1から5のいずれか1項に記載の酸化被膜。
  7. 前記第四層が含有する前記柱状組織は、アスペクト比が1を超え15以下の範囲内である縦長の結晶組織であることを特徴とする、
    請求項1から6のいずれか1項に記載の酸化被膜。
  8. 前記第三層は、アモルファスカーボンおよび炭化物の少なくとも一方からなる炭素偏析部を含有することを特徴とする、
    請求項1から7のいずれか1項に記載の酸化被膜。
  9. 前記炭素偏析部は、断続的または連続的に層状を成しているとともに、
    前記層状組織は、前記第二層が含有する前記柱状組織および前記第四層が含有する前記柱状組織よりも結晶粒径が小さいことを特徴とする、
    請求項8に記載の酸化被膜。
  10. 膜厚が1〜10μmの範囲内であることを特徴とする、
    請求項1から9のいずれか1項に記載の酸化被膜。
  11. 鉄系材料で構成される焼結体である基材の表面に形成される多層構造の酸化被膜であって、
    最外層と基材との間に介在し、層状組織を含有する層状組織層を有し、
    当該層状組織層には、アモルファスカーボンおよび炭化物の少なくとも一方からなる炭素偏析部が含有されることを特徴とする、
    酸化被膜。
  12. 前記炭素偏析部は、断続的または連続的に層状を成しているとともに、
    前記層状組織層に含有される前記層状組織は、他の層に含有される結晶組織よりも結晶粒径が小さいことを特徴とする、
    請求項11に記載の酸化被膜。
  13. 請求項1から12のいずれか1項に記載の酸化被膜が、鉄系材料で構成される焼結体である基材の摺動面に形成されていることを特徴とする、
    摺動部材。
  14. 前記焼結体は、鉄が90質量%以上を占めることを特徴とする、
    請求項13に記載の摺動部材。
  15. 前記焼結体は、硫黄およびモリブデンの少なくとも一方を含有することを特徴とする、
    請求項14に記載の摺動部材。
  16. 請求項13から15のいずれか1項に記載の摺動部材を備えていることを特徴とする、
    機器。
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