JP2020168662A - セラミックス切削工具 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性を改善したセラミックス切削工具を提供することを目的とする。本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
炭化タングステンのXRDピークのうちで、結晶面(001)に帰属されるピークの強度Iaと、結晶面(100)に帰属されるピークの強度Ibとが、すくい面からみたときに下記の関係式[1]を満たし、且つ、逃げ面からみたときに下記の関係式[2]を満たすことを特徴とする、セラミックス切削工具。
関係式[1]:Ia/Ib≧0.450
関係式[2]:Ia/Ib≦0.440
炭化タングステンと、アルミナと、の結晶粒界に、所定の元素が分布している場合には、粒界が強化され、切削性能が向上する。
表面に、特定の表面被覆層が形成されている場合には、耐摩耗性が向上する。
セラミックス切削工具1は、少なくとも、炭化タングステンと、アルミナと、を含有する焼結体から構成されている。
セラミックス切削工具1は、すくい面3と、逃げ面5とを有する(図1,2参照)。セラミックス切削工具1の形状は特に限定されない。なお、図2において、符号4は、被切削物を示している。
セラミックス切削工具1は、炭化タングステンのXRD(X−ray diffraction)のピークのうちで、結晶面(001)に帰属されるピークの強度Iaと、結晶面(100)に帰属されるピークの強度Ibとが、すくい面3からみたときに下記の関係式[1]を満たし、且つ、逃げ面5からみたときに下記の関係式[2]を満たす。
関係式[1]:Ia/Ib≧0.450
関係式[2]:Ia/Ib≦0.440
なお、関係式[1]について、Ia/Ibの上限値は特に限定されないが、通常0.5
0である。また、関係式[2]について、Ia/Ibの下限値は特に限定されないが、通常0.40であり、さらに「0」に近い値であってもよい。
(1)セラミックス切削工具1に含まれる成分、及び各成分の含有量
セラミックス切削工具1は、少なくとも炭化タングステンと、アルミナと、を含有している。
各成分の含有量について説明する。以下の含有量は、焼結体(セラミックス切削工具1)の全体を100vol%としたときの量である。
炭化タングステンの含有量は、特に限定されない。炭化タングステンの含有量は、硬度や焼結性の観点から、20vol%〜95vol%が好ましく、23vol%〜64vol%がより好ましく、33vol%〜64vol%が更に好ましい。
アルミナの含有量は、特に限定されない。アルミナの含有量は、硬度や焼結性の観点から、3vol%〜74vol%が好ましく、23vol%〜64vol%がより好ましく、33vol%〜64vol%が更に好ましい。
これらの他の成分を含有すると、セラミックス切削工具1(セラミックス焼結体)において、炭化タングステンとアルミナとの粒界に特定元素が分布することになる。この場合、焼結性が向上し、粒界の結合強度が向上する。このように結合強度が向上するメカニズムの詳細は明らかではないが、特定元素が、粒界の結合強度を高めるためであると推測される。更に詳しくは、炭化物である炭化タングステンと、酸化物であり化学的に安定なアルミナとは反応しにくく、通常は両者の間に十分な結合強度が得られない。ところが、特定元素が粒界に介在すると、特定元素がアルミナの酸素と結合することや、特定元素が炭化タングステンの炭素と結合することにより、炭化タングステンとアルミナとの粒界の結合強度が高められると推測される。粒界の結合強度が向上する結果、セラミックス切削工具1の耐摩耗性が向上し、工具の寿命が長くなる。
また、焼成時の昇温速度及び保持時間を最適化することで、特定元素の移動(拡散)を促進することができる。
なお、本明細書における「平均粒径」は、鏡面研磨したセラミックス焼結体をエッチング処理し、これをSEM観察した画像を基に行うインターセプト法で測定した値である。
ここで、Ia、Ibの関係式について説明する。
ピークの強度Iaは、炭化タングステンのXRDピークのうちで、結晶面(001)に帰属されるピークの強度である。例えば、2θ=31.4°付近におけるピーク高さが好適に用いられる。
ピークの強度Ibは、炭化タングステンのXRDピークのうちで、結晶面(100)に帰属されるピークの強度である。例えば、2θ=35.7°付近におけるピーク高さが好適に用いられる。
ピークの強度Iaと、ピークの強度Ibは、上記関係式[1][2]を満たしているが、下記関係式[1’][2’]を満たしていることが好ましい。
関係式[1’]:Ia/Ib≧0.452
関係式[2’]:Ia/Ib≦0.435
関係式[1’’]:Ia/Ib≧0.469
関係式[2’’]:Ia/Ib≦0.430
セラミックス切削工具1は、表面にチタン、ジルコニウム、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、及び炭窒酸化物からなる少なくとも1種の表面被覆層6が形成されていてもよい(図3参照)。表面被覆層6が形成されると、セラミックス切削工具1の表面硬度が増加すると共に、被削材との反応・溶着による摩耗進行が抑制される。その結果、セラミックス切削工具1の耐摩耗性が向上する。
チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、炭窒酸化物としては、特に限定されないが、TiN、TiAlN、TiAlCrN、AlCrNが好適な例として挙げられる。
表面被覆層6の厚みは、特に限定されない。表面被覆層6の厚みは、耐摩耗性の観点から、0.02μm〜30μmが好ましく、0.05μm〜20μmがより好ましく、0.1μm〜10μmが更に好ましい。
セラミックス切削工具1は、炭化タングステン結晶7の配向が制御されて、上記関係式[1][2]が満たされている。
炭化タングステン結晶7の配向は、例えば、次のようにして制御できる。すなわち、ホットプレスや、放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)等の加圧焼成における加圧条件及び加熱条件をコントロールすることで、炭化タングステン結晶7の配向が制御される。
より具体的に説明する。下記の〔1〕〔2〕の工程を順に行ってセラミックス切削工具1を製造するに際して、〔2〕の工程(焼成工程)において、所定の焼成温度への昇温工程と所定の焼成温度からの降温工程との少なくとも一方にて、特定の温度域で温度をおよそ一定に保持しながら加圧を所定時間行うことで、炭化タングステン結晶7の配向が制御される。
〔1〕炭化タングステン粉末、及びアルミナ粉末を含んだ混合粉末を型に充填する(充填工程)。
〔2〕型に充填された混合粉末を、焼成温度で所定時間焼成して焼成体とする(焼成工程)。
ここで、本開示のセラミックス切削工具1が、クレータ摩耗及びVB摩耗の点で優れることについて、推測される理由を説明する。
炭化タングステンは、結晶面(001)面方向に沿って粒成長しやすく、そして、結晶面(001)の硬度が最も高いと言われている。図4には、炭化タングステン結晶7が示されている。符号9は結晶面(001)を示し、符号11は結晶面(100)を示している。また、図5は、本開示のセラミックス切削工具1の断面図を示しており、炭化タングステン結晶7が配向している様子が模式的に示されている。
本開示のセラミックス切削工具1は、上記関係式[1]を満たすことで、硬度が不足気味のすくい面3側に優先的に結晶面(001)が配向(配置)され、クレータ摩耗が抑制されると考えられる。
また、本開示のセラミックス切削工具1では、上記関係式[2]を満たすことで、粒子脱落が起きにくくなり、結果としてVB摩耗が抑制されると推測される。図6は、従来のセラミックス切削工具1の断面が示されている。この従来のセラミックス切削工具1は、逃げ面5において、結晶面(001)側を露出させる炭化タングステン結晶7が本開示のセラミックス切削工具1と比較して多い。このような炭化タングステン結晶7は、背面(図6では右側の面)のみで、周辺粒子13(アルミナ粒子、炭化タングステン等)により拘束されているに過ぎないので、炭化タングステン結晶7は脱落しやすい。これに対して、本開示のセラミックス切削工具1では、図5に示すように、符号11で示される結晶面(100)が逃げ面5に優先的に配向(配置)されることで、炭化タングステン結晶7について、周辺粒子13から拘束されている拘束面積が増し、粒子脱落が起きにくくなる。その結果、本開示のセラミックス切削工具1では、VB摩耗が抑制されるものと推測される。
このように、上記関係式[1][2]が満たされることで、クレータ摩耗及びVB摩耗が抑制される。
なお、図5では、セラミックス切削工具1に含まれる炭化タングステン結晶7が全て同じ配向をしている例を示したが、上記関係式[1][2]を満たしていれば、図7に示されるように、炭化タングステン結晶7が異なる配向をしていてもよい。
以上のように、上記関係式[1][2]を満たすように炭化タングステン結晶7の配向を制御するためには、上述の「2.炭化タングステン結晶の配向制御」に記載した方法が好適に採用される。この方法によれば、炭化タングステン結晶7が、(100)面方向に平板に粒成長するに際して、成長方向が制御されて、セラミックス切削工具1内での炭化タングステン結晶7の配向がコントロールされる。
(1)配合
各実施例及び比較例のセラミックス焼結体に用いた原料粉末の配合を表1に示す。
なお、原料粉末は、以下に示すものである。
Al2O3粉末:平均粒径0.5μm
WC粉末:平均粒径0.7μm
ZrO2粉末:平均粒径0.7μm、3mol%のY2O3で部分安定化
Y2O3粉末:平均粒径0.7μm
TiO2粉末:平均粒径0.5μm
HfO2粉末:平均粒径0.9μm
Yb2O3粉末:平均粒径0.8μm
樹脂ポットにジルコニア球石とエタノールを投入し、更にWC粉末以外の粉末を投入した。この時、分散剤を用いた。次に、樹脂ポットを30時間回転させた後、WC粉末を投入して更に30時間回転させた。
得られたスラリーをふるい通し(目開き25μm)させ、振動乾燥機によって乾燥させた。得られた粉をふるい通し(目開き250μm)させ、乾燥混合粉末を得た。
なお、ここまでの工程((1)〜(3))は、全ての実施例及び比較例のセラミックス焼結体で共通している。
(4−1)実施例1〜12のセラミックス焼結体
実施例1〜12のセラミックス焼結体では、次の方法でホットプレス焼成してセラミックス焼結体を得た。
すなわち、乾燥混合粉末は、カーボン冶具に投入され、表1の条件で焼成された。混合粉末は、焼成温度に到達する前の昇温時に1550℃にて2時間保持された。
このホットプレス焼成における温度とプレス圧力の様子が図8に示されている。焼成温度(1700℃〜1950℃)に到達する前に、1550℃、30MPaの1軸加圧が行われている。図8では、焼成温度より低い温度域(ここでは、1550℃)での所定時間の加圧が行われた後に、昇温して焼成温度でのホットプレス焼成が行われた様子が示されている。
以上のようにして、実施例1〜12のセラミックス焼結体が得られた。
なお、表1における「昇降温時のキープの有無」の「有」とは「昇降温時に、焼成温度より低い温度域で温度をおよそ一定に保持しながら加圧すること」を意味する。また、「無」とは「昇降温時に、焼成温度より低い温度域で温度をおよそ一定に保持しながら加圧することを行わないこと」を意味する。
実施例13のセラミックス焼結体は、乾燥及び造粒までは実施例4のセラミックス焼結体と同じであるが、焼成温度より低い温度域(ここでは、1550℃)での加圧時期が実施例4のセラミックス焼結体と相違する。すなわち、焼成温度に到達する前の昇温時ではなく、焼成後に焼成温度から降温する降温時の1550℃において2時間の保持を行った。
このホットプレス焼成における温度とプレス圧力の様子が図9に示されている。焼成後に、1550℃、800MPaの1軸加圧が行われている。図9では、1800℃のホットプレス焼成後に、焼成温度より低い温度域(ここでは、1550℃)での所定時間の加圧が行われた様子が示されている。
以上のようにして、実施例13のセラミックス焼結体が得られた。
比較例1のセラミックス焼結体は、乾燥及び造粒までは実施例4のセラミックス焼結体と同じであるが、比較例1のセラミックス焼結体では、焼成温度より低い温度域での加圧を行わない、従来のホットプレス焼成を採用した。
このホットプレス焼成における温度とプレス圧力の様子が図10に示されている。焼成温度より低い温度域で温度をおよそ一定に保持しながら加圧することが行われていない様子が示されている。
以上のようにして、比較例1のセラミックス焼結体が得られた。
比較例2のセラミックス焼結体は、乾燥及び造粒までは実施例4のセラミックス焼結体と同じであるが、その後の処理が実施例4のセラミックス焼結体と相違する。すなわち、比較例2のセラミックス焼結体では、乾燥混合粉末は、まず室温、100MPaで一軸成形された。次にこの成形体が以下のように焼成された。成形体は、アルゴン雰囲気で無加圧で焼成(一次焼成)された後に、HIP焼成(熱間等方圧加圧法による焼成)された。なお、一次焼成時、成形体は、無加圧にて1550℃で2時間保持された。HIP焼成は、150MPaのアルゴン雰囲気下にて1700℃で2時間保持された。
以上のようにして、比較例2のセラミックス焼結体が得られた。
(1)測定方法
結晶面(001)に帰属されるピークの強度Iaと、結晶面(100)に帰属されるピークの強度Ibを測定するために、各セラミックス焼結体に対してX線回折測定を行った。各ピーク強度Ia、Ibは、以下の2θ値におけるピーク高さとした。
ピーク強度Ia:2θ=31.4°付近におけるピーク高さ
ピーク強度Ib:2θ=35.7°度付近におけるピーク高さ
各セラミックス焼結体のプレス面、及びプレス面に対して垂直な面(以下、「プレス垂直面」ともいう)について、それぞれピーク強度Ia、Ibを求め、Ia/Ibの値を算出した。
なお、各面のピーク強度は、以下の条件で測定した。
・X線回折装置
(株)リガク製 X線回折装置 RINT−TTR III
・X線回折条件
モノクロメータ:使用
ターゲット:Cu
管電流:300mA
管電圧:50kV
スキャンスピード2度/分
サンプリング幅0.02度
セラミックス焼結体のXRD分析を行った所、実施例1〜13のセラミックス焼結体では、プレス面のIa/Ibは、プレス垂直面のIa/Ibよりも高い値を示した。
比較例1のセラミックス焼結体は、焼成温度より低い特定温度(1550℃)での保持を行っていない、すなわち、昇降温時に特定温度での保持をしていないセラミックス焼結体である。比較例1では、どの面においても、Ia/Ibの大きな差は無かった。
比較例2のセラミックス焼結体は、焼成温度より低い特定温度(1550℃)で無加圧の保持をしたセラミックス焼結体である。比較例2のセラミックス焼結体は、どの面においても、Ia/Ibの大きな差は無かった。
XRD分析の測定結果を考慮して、実施例1〜13及び比較例1のセラミックス焼結体においては、プレス面をセラミックス切削工具のすくい面に、プレス垂直面を逃げ面になるように、工具形状(RCGX120700T01020)に加工した。
比較例2のセラミックス焼結体においては、成形時の一軸プレス面をすくい面になるように工具形状(RCGX120700T01020)に加工した。表1に、各面のIa/Ibの値が示されている。
なお、表1には、上述のようにセラミックス焼結体の原料粉末の組成(配合)が示されているが、この組成は焼成後にも変化しないから、各セラミックス焼結体の組成と同等である。そして、焼成後の各セラミックス焼結体を機械加工して、セラミックス切削工具としているのであるから、結局、原料粉末の組成はセラミックス切削工具の組成と同等である。
(1)試験方法
各セラミックス切削工具を用いて、切削試験を行った。試験条件は下記の通りである。
・被削材:耐熱合金インコネル718
・切削速度:240m/min
・切込み量:1.0mm
・送り量:0.2mm/回転
・切削環境:冷却水あり
・評価:5pass(200m/pass)後の摩耗量(VB摩耗量、クレータ摩耗量)
試験結果を表1に示す。実施例1〜13のセラミックス切削工具は、良好な耐摩耗性を示した。一方、面方向によってIa/Ibに大きな差のなかった比較例1及び2のセラミックス切削工具の耐摩耗性は、実施例1〜13のセラミックス切削工具に比べて低かった。
以上の結果から、すくい面からみたときに、関係式[1]:Ia/Ib≧0.450を満たし、かつ逃げ面からみたときに、関係式[2]:Ia/Ib≦0.440を満たすことにより、クレータ摩耗及びVB摩耗が抑制されることが確認された。
3 …すくい面
4 …被切削物
5 …逃げ面
6 …表面被覆層
7 …炭化タングステン結晶
13…周辺粒子
Claims (3)
- 少なくとも、炭化タングステンと、アルミナと、を含有するセラミックス焼結体から構成されたセラミックス切削工具であって、
炭化タングステンのXRDピークのうちで、結晶面(001)に帰属されるピークの強度Iaと、結晶面(100)に帰属されるピークの強度Ibとが、すくい面からみたときに下記の関係式[1]を満たし、且つ、逃げ面からみたときに下記の関係式[2]を満たすことを特徴とする、セラミックス切削工具。
関係式[1]:Ia/Ib≧0.450
関係式[2]:Ia/Ib≦0.440 - 前記炭化タングステンと、前記アルミナと、の結晶粒界に、周期表3族(ランタノイド含む)、チタン、ジルコニウム、及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素が存在していることを特徴とする、請求項1に記載のセラミックス切削工具。
- 表面には、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、及び炭窒酸化物からなる少なくとも1種の表面被覆層が形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のセラミックス切削工具。
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