JP2020119762A - 電子源の安定化方法、電子ビーム装置 - Google Patents
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Description
また、本発明は、電子源を備えて、電子源から電子ビームを発生する電子ビーム装置に関する。
そして、電子顕微鏡の電界放出型電子源として、通常は、タングステン(W)の<310>方位あるいは<111>方位の単結晶が使用されている。
図8Aに示すように、電子源1は、碍子部2に接合されたフィラメント3に、Taティップ4が溶接された構成となっている。
そして、図8Bに示すように、Taティップ4の先端に、LaB6ナノワイヤ5(直径数十nm、長さ約10μm)が、カーボン蒸着により接着されている。
LaB6ナノワイヤを電子源に使用することにより、透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡の高分解能化が期待できる。
一方、LaB6ナノワイヤを使用した電子源は、エミッション電流の安定度が良く、エミッション電流がほぼ一定である。そして、LaB6ナノワイヤを使用した電子源は、トータルエミッション電流が0.1μAであるが、電子線放出領域が狭いので外乱に影響されにくいことから、エミッション電流が安定であると考えられる。
これらのいずれの方法によっても、エミッタティップの表面を清浄化させて安定なエミッション電流を得ることが可能であることが知られている。
そこで、電界蒸発法によって、安定化させることが考えられる。
即ち、H2,Neの雰囲気で電界蒸発法を実施すると、これらの気体がLaB6ナノワイヤティップ先端に吸着して、エミッション電流を不安定化させる要因となる。
従って、気体を使用しない電界蒸発による安定化方法が望まれる。
また、本発明は、上述した安定化を実行できる、電子ビーム装置を提供する。
また、本発明の電子源の安定化方法によれば、気体を導入しないで電界蒸発のみによって電子源を清浄化できるので、電子源に帯電した残留基体分子が吸着することを防ぐことが可能になる。
従って、本発明の電子源の安定化方法によれば、電子源を使用した電子顕微鏡等の電子ビームを発生させる装置において、安定した稼働が可能となる。
本発明の電子源の安定化方法では、電子源として、LaB6を用いる。
そして、電子ビームを発生させるとき(エミッション時)に印加する電圧と比較して、電界が逆方向であって、電圧の絶対値が4倍以上であるパルス電圧を電子源に印加する。
このようなパルス電圧を電子源に印加することにより、電界蒸発により、電子源のLaB6の先端を清浄化することができる。
また、連続した電圧とすると、電子源が受ける衝撃が小さくなるため、電界蒸発による清浄化効果が得られにくくなる。
逆バイアスの電圧の大きさの上限は、特に限定されない。
ただし、逆バイアスの電圧を大きくし過ぎると、電子源が受ける衝撃が大きくなりすぎて、電子源が破損し易くなる。
電子源の強度は、電子源の寸法(例えば、ナノワイヤの直径や長さ等)によって変わるので、逆バイアスの電圧は、電子源の強度を考慮して、電子源を破損しない程度の範囲とする。
パルス電圧を複数回印加する場合には、パルスの間隔よりもパルス幅を短くすることが好ましい。
パルス電圧の所定の間隔は、例えば、一定の間隔とすることができる。また、その他の間隔とすることも可能であり、例えば、短い間隔で数回のパルス電圧を印加し、その後やや長い間隔を空けて、次の短い間隔で数回のパルス電圧を印加することを繰り返すことも可能である。
なお、パルス電圧を複数回印加する場合にも、1回印加する場合と同様に、それぞれのパルス電圧のパルス幅を、2秒以下、好ましくは1秒以下とする。
パルス電圧を複数回印加することにより、1回の印加では電子源1のLaB6の清浄化がまだ十分ではなかった場合でも、十分に清浄化することが可能になる。
例えば、所定の使用回数、もしくは、所定の使用日数毎に、安定化を行う。
そして、例えば、1日1回の頻度とする場合には、始業時に1回安定化を行うことが考えられる。
しかし、電子ビーム装置が安定化用の構成を備えていれば、電子源を電子ビーム装置に配置した状態で、そのまま電子源の安定化を実行することができる。
また、本発明の電子ビーム装置は、電子ビームを発生させる電圧を電極に供給する回路(第1の回路)と、第1の回路が供給する電圧と比較して、電界が逆方向であり、電圧の絶対値が4倍以上であるパルス電圧を電極に供給する回路(第2の回路)を備えている。
そして、本発明の電子ビーム装置は、これら第1の回路及び第2の回路が、切り替え可能に構成された切り替え機構を備えており、この切り替え機構により、電子源に印加される電圧が切り替えられる構成である。
これにより、電子ビーム装置に電子源を配置したままで、電子源の安定化を実行することができる。また、電子源の安定化を随時行うことが可能になる。
実際に、LaB6ナノワイヤから成る電子源の安定化を行って、エミッション電流の変化を調べた。
図1に示す実験装置6は、真空チャンバ7と、真空チャンバ7内にそれぞれ配置された、引出電極10及び蛍光板12を備えている。
引出電極10には、高電圧電源11が接続されている。蛍光板12には、電源13が接続されている。
そして、蛍光板12から見て左上方の真空チャンバ7に、蛍光板12に形成されるエミッションパターンを観測するためのビューポート14が設けられている。
エミッションパターンは、ビューポート14を通して、図示していないCCDカメラで観測される。
まず、真空チャンバ7の内部を、図示しない真空排気装置により、例えば、10−8Pa台の超高真空に保持する。
次に、スイッチ9を接続して、フィラメント電流電源8から電子源1にフィラメント電流を流し、さらに、引出電極10に高電圧電源11より正の引出電圧を印加することにより、電子源1より電子ビームを放出させる。
電子源1より放出された電子ビームは、蛍光板12に電源13より正の引出電圧を印加した状態で、エミッションパターンとして観測される。
そして、このエミッションパターンを、CCDカメラで観測する。また、エミッション電流を、電流計15によって、トータルエミッション電流として観測する。
図2に示す装置16の構成は、図1に示した電子ビームを観測するための装置6の構成とほぼ同様である。
ただし、図2に示す装置16では、図1に示した装置6で引出電極10に接続されていた高電圧電源11の代わりに、高電圧電源17とパルス発生機18が設けられている。そして、高電圧電源17は、図1の高電圧電源11とは逆の極性となっている。
即ち、引出電極10に接続されている電源の構成(高電圧電源11、高電圧電源17及びパルス発生機18)を取り替えることにより、図1の装置6の構成と、図2の装置16の構成とを、相互に変えることが可能である。
このため、図2に示す装置16では、引出電極10に接続された高電圧電源17により、エミッション時の電圧とは逆方向の電界で、かつエミッション時の電圧の4倍以上(例えば、4〜5倍)の電圧を、電子源1のティップに印加させるように構成する。
高電圧電源17から引出電極10に供給される電圧は、パルス発生機18により、矩形波のパルス電圧として出力される。
図3に示すパルス電圧は、電圧値E、パルス幅Δtの矩形波となっている。
パルス発生機18により発生させるパルス電圧のパルス幅Δtは、前述したように、例えば、Δt≦2秒、好ましくは、Δt≦1秒とする。そして、少なくとも1回以上のパルスを発生させる。
発生させるパルス電圧の電圧値Eは、高電圧電源17から一定のパルス電圧を供給させるための起動電圧値であれば良い。
図1の装置6の構成から図2の装置16の構成に変えて、真空チャンバ7内は超高真空(10−8Pa)の状態で維持する。この状態で、電子源1のLaB6ナノワイヤティップの先端にパルス電圧を印加することで、電界蒸発を行い、ティップの先端を清浄化させる。
その後、再度図1の装置6の構成に変えて、エミッション電流の時間変化を測定し、エミッション電流の安定性を確認する。
実際に作製した電子源に対して、以下に説明する通りに、パルス電圧の印加の前後における、エミッション電流の時間変化を測定した。
そして、図8に示したように、碍子部2に接合されたフィラメント3に溶接されたTaティップ4の先端に、カーボン蒸着によってLaB6ナノワイヤ5を接着させて、電子源1を作製した。
図1に示した装置6を構成して、この装置6の真空チャンバ7内に、作製した電子源1を配置した。そして、真空チャンバ7の内部を、図示しない真空排気装置により、10−8Pa台の超高真空とした。
そして、蛍光板12に形成されるエミッションパターンをCCDカメラで観測し、また、電流計15によってエミッション電流を測定した。なお、エミッション電流の測定において、前述した安定度の計算に用いられる、データ個数nを1分間に180個として、エミッション電圧の印加開始から30数分後までの時間変化を測定した。
図2に示した装置16を構成して、この装置16の真空チャンバ7内に、作製した電子源1を配置した。そして、真空チャンバ7の内部を、図示しない真空排気装置により、10−8Pa台の超高真空とした。
次に、電子源1と真空チャンバ7内の超高真空を保持した状態で、引出電極10に接続された電源を高電圧電源11に取り替えて、図1に示した装置6を構成した。
次に、この状態で、引出電極10に、高電圧電源11からエミッション電圧を印加して、電子源1から電子ビームを放出させた。なお、エミッション電圧は、エミッション電流が45nA程度となるように調整した。
そして、電界蒸発処理を行っていない試料の測定と同様に、エミッションパターンをCCDカメラで観測し、電流計15によってエミッション電流を測定した。
図4Aは、処理前の試料の結果を示し、図4Bは−1kV、1秒のパルス電圧を印加した試料の結果を示し、図4Cは−2kV、1秒のパルス電圧を印加した試料の結果を示し、図4Dは−3kV、1秒のパルス電圧を印加した試料の結果を示す。
図4Bより、−1kV,1秒のパルス電圧を印加した試料では、図4Aに示した試料よりも、エミッション電流の変化が激しくなっている。また、この試料のエミッションパターンは、開始数分後と30分以降とで大きく変化していた。なお、この試料では、エミッション電流を45nA程度となるように調整するために、高電圧電源11から印加する電圧を750V〜820Vの間で変化させる必要が生じていた。
図4Cより、−2kV,1秒のパルス電圧を印加した試料では、図4Aに示した試料や図4Bに示した試料よりも、エミッション電流の変化が大幅に少なくなっている。また、この試料のエミッションパターンは、開始数分後と30分以降とで変化が少なかった。なお、この試料では、高電圧電源11から印加した電圧は745Vであった。
図4Dより、−3kV,1秒のパルス電圧を印加した試料では、図4Cに示した試料よりも、さらにエミッション電流の変化が少なくなっている。また、この試料のエミッションパターンは、開始数分後と30分以降とで変化が少なかった。なお、この試料では、高電圧電源11から印加した電圧は833Vであった。
図5Aは、処理前の試料の結果を示し、図5Bは−1kV、1秒のパルス電圧を印加した試料の結果を示し、図5Cは−2kV、1秒のパルス電圧を印加した試料の結果を示し、図5Dは−3kV、1秒のパルス電圧を印加した試料の結果を示す。
図5Bより、−1kV,1秒のパルス電圧を印加した試料では、図5Aに示した試料より安定度の変化は小さくなるが、3%〜35%超まで、大きく変化している。
図5Cより、−2kV,1秒のパルス電圧を印加した試料では、安定度の変化が1%弱〜9%となり、図5Aに示した試料や図5Bに示した試料よりも大幅に少なくなっている。
図5Dより、−3kV,1秒のパルス電圧を印加した試料では、一部のピークの期間を除く大部分の期間で、安定度が1%〜2%の範囲にあり、安定度が向上している。即ち、LaB6ナノワイヤティップの先端の表面を電界蒸発させて清浄化する効果が、十分に得られている。
引出電圧は前述したように800Vであるので、安定度が十分に得られるパルス電圧の電圧値(−3kV)の絶対値は、引出電圧の4倍程度の電圧値であることが分かる。
実施例1では、1個のパルス電圧を印加して電界蒸発を行ったが、2個以上のパルス電圧を印加して電界蒸発を行うことも可能である。
具体的には、例えば、図6に示すように、N個のパルス電圧を印加する。パルス電圧の電圧値Eは、図4に示した実施例1の場合と同様に、エミッション時の電圧の4倍以上である。
パルス幅T1とパルス間隔T2の関係は、T1<T2とすることが好ましい。
また、パルス幅T1は、実施例1の1個の場合と同様に、2秒以下、好ましくは1秒以下の短い間隔とする。
本発明の電子ビーム装置の一例として、電子顕微鏡の概略構成図を、図7に示す。
これらの構成は、図1に示した装置6や図2に示した装置16と同様になっている。
電子顕微鏡100が走査型電子顕微鏡(SEM)である場合には、試料21の斜め上方に、検出器(反射電子検出器、二次電子検出器、等)が設けられる。
電子顕微鏡100が透過型電子顕微鏡(TEM)である場合には、試料21の下方に、検出器が設けられる。
即ち、図1の装置6と同様の高電圧電源11(エミッション時の電圧を供給する第1の回路)と、図2の装置16と同様の高電圧電源17及びパルス発生機18(パルス電圧を供給する第2の回路)を、スイッチ19によって切り替える構成としている。
この構成により、高電圧電源11からの電圧で電子ビームを放出させるエミッション過程と、パルス電圧の印加で電子源1に対して電界蒸発を行う安定化過程とを、切り替え機構であるスイッチ19により、切り替えることができる。
従って、電子源1の安定化のための別の装置を使用しなくても、電子顕微鏡100だけで、随時電子源1の安定化を実行することができる。
Claims (4)
- 電子ビームを発生する電子源を安定化する方法であって、
前記電子源としてLaB6を用い、
前記電子ビームを発生させるときに前記電子源に印加する電圧と比較して、電界が逆方向であって、電圧の絶対値が4倍以上であるパルス電圧を前記電子源に印加する
電子源の安定化方法。 - 前記電子源に、前記パルス電圧を所定の間隔をあけて複数回印加する、請求項1に記載の電子源の安定化方法。
- 前記パルス電圧のパルス幅が2秒以下である、請求項1又は請求項2に記載の電子源の安定化方法。
- 電子ビームを発生する電子源と、
前記電子源に前記電子ビームを発生させる電圧を印加する電極と、
前記電子ビームを発生させる電圧を前記電極に供給する回路と、前記電子ビームを発生させるときに前記電子源に印加する電圧と比較して、電界が逆方向であって、電圧の絶対値が4倍以上であるパルス電圧を前記電極に供給する回路とが、切り替え可能に構成された切り替え機構を備え、
前記電子源としてLaB6が用いられ、
前記切り替え機構により、前記電子源に印加される電圧が切り替えられる
電子ビーム装置。
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2019
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