JP2020110853A - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
Description
下記特許文献2には、超硬合金の結合相と被覆層の界面に凸形状が形成された被覆焼結合金が開示されている。被膜と基材との高い密着性が安定して得られるため、突発的な欠損やチッピングが抑えられ、安定した長寿命加工が可能になる、と記載されている。
下記特許文献3には、例えば超硬合金基材の表面に凹凸が形成された表面被覆切削工具が開示されている。この表面被覆切削工具の逃げ面に凹凸を形成する方法としては、ブラスト処理やレーザー加工等が例示されている。そして、このような構成を有することにより、基材と被膜との密着性を良好に保ち、かつ被削材が基材に凝着しにくいという効果を示す、と記載されている。
また、特許文献2に開示の技術では、超硬合金の表面において凸構造ができるのは一部だけとなり、密着力強化の手法としては不十分である。詳細には、一般的に超硬合金において結合相の割合は5〜12wt%という限られた範囲で制御されており、結合相に凸構造ができたとしても、大部分を占める硬質相と被膜間の密着力が改善されず、十分な密着力が得られない。
さらに、特許文献3に開示の技術では、逃げ面における凹凸がブラスト処理またはレーザー加工等により形成されるから、超硬合金における軟質なCoが優先的にエッチングされ、刃先の強度が低下することが懸念される。
そのうえ、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3の技術は、いずれも超硬合金の基材の表面を改質し、皮膜の密着性を向上させるものであるから、高温で軟化する成分(例えばCo)を含む超硬合金を用いる点で耐熱性が十分ではなく、高速領域での切削加工には不向きである。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高速領域での切削加工における耐チッピング性に優れ、安定加工を実現可能な表面被覆切削工具を提供することを目的とし、以下の形態として実現することが可能である。
前記表面被覆切削工具の逃げ面の断面を20μmにわたって電子顕微鏡で観察したときに、前記工具基体と前記被覆層との界面には、高さ100nm以上400nm以下、幅100nm以上1000nm以下の大きさを有すると共に前記工具基体から前記被覆層側に突出する凸部が、5個以上あることを特徴とする表面被覆切削工具。
周期表4a、5a、6a族元素、Al、Siの炭化物、
周期表4a、5a、6a族元素、Al、Siの窒化物、及び
周期表4a、5a、6a族元素、Al、Siの炭窒化物
からなる群より選ばれる少なくとも1種から構成されていることを特徴とする〔1〕に記載の表面被覆切削工具。
表面被覆切削工具はWC結晶粒子と絶縁性粒子とを含む工具基体と、工具基体の表面を直接被覆する被覆層と、を備える。表面被覆切削工具は、表面被覆切削工具の逃げ面の断面を20μmにわたって電子顕微鏡で観察したときに、工具基体と被覆層との界面には、高さ100nm以上400nm以下、幅100nm以上1000nm以下の大きさを有すると共に工具基体から被覆層側に突出する凸部が、5個以上あることを特徴とする。
工具基体は、WC(炭化タングステン)結晶粒子と絶縁性粒子とを含んでいる。工具基体は、WC結晶粒子と絶縁性粒子とから実質的になるセラミックス焼結体であり、高温で軟化する成分を実質的に含まない。ここでいう高温で軟化する成分とは、高速領域での切削加工を想定して、融点がおおむね1600℃以下のCo、Fe、Ni等の金属を例示することができる。なお、セラミックス焼結体には、製造上不可避的に不純物が混入することがある。実質的に含まないとは、全く含まなくてもよいし、工具基体の作用効果に影響を与えない程度の微量(例えば不可避的不純物に相当する量)を含んでいてもよい。
被覆層は、工具基体の表面を直接被覆する被膜である。本願において、「直接被覆する」とは、工具基体と被覆層との間に、金属層等の他の層が介在しないことを意味する。
なお、「周期表4a、5a、6a族元素、Al、Siの炭化物」は、周期表4a、5a、6a族元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む炭化物を示す。
「周期表4a、5a、6a族元素、Al、Siの窒化物」は、周期表4a、5a、6a族元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む窒化物を示す。
「周期表4a、5a、6a族元素、Al、Siの炭窒化物」は、周期表4a、5a、6a族元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む炭窒化物を示す。
周期表4a族元素としてはTi(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)等が挙げられる。周期表5a族元素としてはV(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)等が挙げられる。周期表6a族元素としてはCr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)等が挙げられる。
被覆層としては、組成にTiと共に、AlとSiの少なくとも一方を含む窒化物か炭窒化物がより好ましい。このような被覆層としては、(TiAl)N、(TiAl)CN、(TiAlCr)N、(TiAlCr)CN、(TiSi)N、(TiSi)CN、(TiAlSi)N、(TiAlSi)CN、(TiAlV)N、(TiAlV)CN等を例示することができる。なお、これらの組成式中、かっこ内の各元素の比率は適宜変更可能である。これらの中でも、TiaAlbN(a+b=1)がさらに好ましい。
被覆層の厚みは、表面被覆切削工具を切断し、その断面をSEMにより観察して測定することができる。
表面被覆切削工具の逃げ面の断面において、工具基体から被覆層側に突出する凸部(以下、凸部21とも称する)の数え方を図3(A)及び図3(B)を参照しつつ説明する。図3(A)は、工具基体20と被覆層30の界面を模式的に示す説明図であり、図3(B)は、凸部21を拡大して示す説明図である。図3(A)及び図3(B)において、界面の延びる方向をX軸方向とし、被覆層30の積層方向をY軸方向とする。
凸部21を数えるにあたっては、表面被覆切削工具を逃げ面に対して直交する任意の平面で切断して、切断面をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察する。この切断面において、工具基体20と被覆層30との界面を、界面の延びる方向(被覆層30の積層方向と直交する方向、X軸方向)について20μmにわたって観察し、界面に現れる工具基体20から被覆層30側に突出する凸形状の高さおよび幅を測定する。測定した凸形状のうち、高さ100nm以上400nm以下、かつ、幅100nm以上1000nm以下の大きさを有するものを凸部21として数える。
凸部の配置は特に限定されないが、耐チッピング性を向上するという観点において、凸部は工具基体と被覆層の界面になるべく分散して配置されることが好ましい。
凸部の高さが400nm以下であれば、工具基体に凸部が形成されることに起因する切削抵抗の増大を招きにくいので、切削性能を十分に確保することができる。
凸部の高さが100nm以上であれば、凸形状によるアンカー効果を十分なものとして、被覆層の密着力を向上できる。
凸部の幅が1000nm以下であれば、凸形状によるアンカー効果が弱まりにくく、被覆層の密着力を確保することができる。
凸部の幅が100nm以上であれば、凸形状によるアンカー効果を十分なものとして、被覆層の密着力を向上できる。
さらに、このような幅及び高さを有する凸部が20μmの範囲に5個以上あれば、互いに隣り合う凸部の間に被覆層が嵌入することにより、被覆層の密着力を向上できる。なお、凸部の個数の上限値は特に定めるものではないが、40個以下とすることができる。
表面被覆切削工具は、切削加工に用いられる従来公知の様々な切削工具に適用することができる。表面被覆切削工具として、旋削加工用又はフライス加工用刃先交換型チップ(切削インサート、スローアウェイチップ)、ドリル、エンドミル、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップを好適に例示できる。なお、本発明の切削工具は、広義の切削工具であり、旋削加工、フライス加工などを行う工具全般を言う。
本実施形態の表面被覆切削工具は、例えば、合金鋼の高速加工に使用する切削工具として好適に用いることができる。
本願発明者らは、イオンボンバード処理時のバイアス電圧を適宜設定することにより、工具基体と被覆層との界面に研磨加工等では形成し得ないような微細な凸部が形成されることを新たに見出した。そして、このような知見に基づき、本実施形態のものを開発するに至った。
本実施形態では、表面被覆切削工具の逃げ面において、工具基体と被覆層との界面の20μmの範囲に微細な凸部が5個以上あるから、工具基体と被覆層の密着力を向上し、表面被覆切削工具の耐チッピング性を向上することができる。
さらに、本実施形態では、凸部が高さ400nm以下の微細なものであるから、凸部を設けたことに起因する切削抵抗の増大を招きにくい。このように、本実施形態では、工具基体と被覆層との界面に微細な凸部を設けることにより、切削性能を損なうことなく、工具基体と被覆層の密着力を向上できる。
また、本実施形態の表面被覆切削工具では、被覆層が工具基体を直接被覆するから、高温で熱膨張する金属層等を含まないものとして、高速領域での切削熱による被覆層の剥離を抑制することができる。
本実施形態の表面被覆切削工具では、工具基体を高温で軟化する成分を実質的に含まないものとすることで、高速領域での切削熱による工具損傷を抑制することができる。
これらの結果、本実施形態では、高速領域での切削加工における耐チッピング性に優れ、安定加工を実現可能な表面被覆切削工具を提供することができる。
表面被覆切削工具の製造方法は特に限定されない。例えば、アークイオンプレーティング蒸発法により、工具基体の表面に被覆層を形成することができる。この製造方法において、被覆層の形成条件を制御することによって所望の表面被覆切削工具を得ることができる。本実施形態では、工具基体の表面に形成される被覆層が単層である場合には、この被覆層の形成には1種類のターゲット(蒸発源)が用いられる。ターゲットとしては、例えばAl及びTiを含有する合金製ターゲットを用い、反応ガスとして窒素ガスを用いる。
なお、工具基体から被覆層側に突出する凸形状は、表面被覆切削工具の製造時におけるイオンボンバード処理条件を制御することにより適宜形成することができる。そして、イオンボンバード処理を所定のバイアス電圧で行うことにより、工具基体と被覆層との界面に20μmあたり5個以上の凸部を形成することができる。本願発明者らが研究した結果、イオンボンバード処理時のバイアス電圧を所定のバイアス電圧より大きくすると、工具基体から被覆層側に突出する凸形状の高さ及び幅が大きくなる傾向にあり、所定のバイアス電圧より小さくすると、工具基体から被覆層側に突出する凸形状の高さ及び幅が小さくなる(界面が平坦になる場合を含む)傾向にあることが確認された。また、WC結晶粒子と絶縁性粒子とを含む工具基体に対してイオンボンバード処理を行うと、凸形状が基体の表面の全体に亘ってまんべんなく形成されることを見出した。これは、イオンボンバード処理において、イオン化したアルゴンが工具基体の表面に多分に存在するWC結晶粒子に対して選択的に衝突することによって、WC結晶粒子が除去されて凸形状を形成するためであると考えられる。
試料1〜7の工具基体として表1の工具基体の組成(vol%)のセラミックス焼結体を用いた。各試料において、チップ形状はISO TNGN160408 Z01225とした。工具基体を、カソードアークイオンプレーティング装置に設置した。
試料1〜3については、真空ポンプによりチャンバー内を減圧するとともに、装置内に設置されたヒーターにより工具基体を温度550℃に加熱し、チャンバー内の圧力が3.0×10−3Paとなるまで真空引きを行った。次に、アルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を1.0Paに保持し、基体バイアス電源の電圧を徐々に上げながら、−200Vとし、工具基体の表面のクリーニングを15分間行った。つまり、試料1〜3ではイオンボンバード処理時のバイアス電圧を200Vとした。その後、アルゴンガスを排気した。
試料4についてはイオンボンバード処理時のバイアス電圧を400Vとし、試料5については同バイアス電圧を600Vとし、試料6については同バイアス電圧を100Vとし、試料7については同バイアス電圧を30Vとした他は、試料1〜3と同様とした。
次いで、上記装置にAl及びTiを含有する合金製ターゲットをセットし、反応ガスとして窒素ガスを導入しながら、基体温度550℃、反応ガス圧1.0Pa、基体バイアス電圧を−100Vに維持したまま、カソード電極に150Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオンを発生させ、刃先に1.5μmの被覆層を形成した。本発明には磁力線が被処理体まで伸び、被処理体近傍における成膜ガスのプラズマ密度が従来の蒸発源に比べ格段に高いことを特徴とする蒸発源を用いた。このような蒸発源を用いることで表面に「マクロパーティクル」と呼ばれる溶融したターゲット物質の付着が少なくなり、表面粗度が改善され、切削特性の向上につながる。従って、被覆層の成膜には本蒸発源を用いることが有効である。
このようにして、Ti0.4Al0.6Nの組成を有する被覆層が形成された試料1〜7の表面被覆切削工具を得た。
得られた表面被覆切削工具の逃げ面の断面を、SEM(走査電子顕微鏡)(日本電子株式会社製、JSM−7100F)にて10000倍の倍率で観察し、工具基体と被覆層との界面の評価を行った。評価の結果、試料1〜3が本発明の範囲内に含まれ、試料4〜7が本発明の範囲外となっていた。評価結果を表1に示す。なお、表1において、「*」は、本発明の範囲外であることを示す。
試料1〜7について、スクラッチテスターを用いて被覆層の密着力(N)を測定した。具体的には、スクラッチ試験用のダイヤモンド圧子を被覆層に接触させ、圧子に加える荷重を増大させながら圧子を被覆層に沿って移動させ、被覆層に破壊ないし剥離が生じ始める荷重(N)を密着力とした。なお、荷重は、圧子の移動距離1mmにつき10Nの割合で増大するように制御した。密着力の測定結果を表1に示す。この条件において、例えば、密着力が80N以上のものを本発明の表面被覆切削工具とすることができる。
各表面被覆切削工具を用いて、以下の条件による切削加工を行い、チッピング発生に至る加工距離(チッピング発生距離)を調べた。切削条件は、被削材をSCM415とし、切削速度300m/min、送り量0.1mm/rev、切込み0.2mmとした。試験結果を表1に示す。この条件において、例えば、チッピング発生距離が7km以上のものを本発明の表面被覆切削工具とすることができる。
(1)工具基体と被覆層との界面の評価
表面被覆切削工具の逃げ面の断面を20μmにわたって観察したところ、試料1〜3では、高さ100nm以上400nm以下、幅100nm以上1000nm以下の大きさを有すると共に工具基体から被覆層側に突出する凸部が5個以上観察された。
試料4では、上記の高さ及び幅の範囲内となる凸部の数が5個を下回った。
試料5では、上記の高さ及び幅の範囲内となる凸部の数が1個しか確認されなかった。
試料6及び試料7では、界面に凸形状が確認されず、上記の高さ及び幅の範囲内となる凸部がなかった。
なお、試料1〜3で観察された凸形状は、最大高さが400nm以下であり、最大幅が1000nm以下であった。
他方、試料4、5で観察された凸形状は、最大高さが400nm超であり、最大幅が1000nm超であった。
(2)密着力及びチッピング発生距離
被覆層の密着力の測定結果と、チッピング発生距離に関する結果を表1に示す。
本実施例によれば、切削速度300m/minという高速領域での切削加工における耐チッピング性に優れ、安定加工を実現できる表面被覆切削工具を提供することができる。
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
2…前逃げ面(逃げ面の一例)
3…横逃げ面(逃げ面の一例)
20…工具基体
21…凸部
30…被覆層
Claims (3)
- WC結晶粒子と絶縁性粒子とを含む工具基体と、前記工具基体の表面を直接被覆する被覆層と、を備えた表面被覆切削工具であって、
前記表面被覆切削工具の逃げ面の断面を20μmにわたって電子顕微鏡で観察したときに、前記工具基体と前記被覆層との界面には、高さ100nm以上400nm以下、幅100nm以上1000nm以下の大きさを有すると共に前記工具基体から前記被覆層側に突出する凸部が、5個以上あることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記被覆層は、
周期表4a、5a、6a族元素、Al、Siの炭化物、
周期表4a、5a、6a族元素、Al、Siの窒化物、及び
周期表4a、5a、6a族元素、Al、Siの炭窒化物
からなる群より選ばれる少なくとも1種から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。 - 前記絶縁性粒子はAl2O3、サイアロン、及び窒化珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面被覆切削工具。
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