排水や汚水といった水を浄化する技術として、生物処理と呼ばれる方法が一般的に用いられている。水中に含まれる有機物等の物質を、微生物の働きにより分解し、あるいは無害化するのである。
図10は、こうした生物処理を行うための装置として従来用いられている水処理装置の一例を示している。本従来例の水処理装置においては、活性炭やアンスラサイト、軽量骨材、あるいは樹脂等で形成された粒状の固形物である担体1が反応槽2内に投入され、ここに処理対象としての水Wが反応槽2に導入されて、担体1に担持された微生物により水Wが浄化処理されるようになっている。反応槽2は、内部に水平方向に沿って設けられた仕切板3により上下に分割されており、該仕切板3の上側の処理室4に担体1が投入される。処理室4における仕切板3付近の高さには曝気管5が設けられ、外部の曝気ブロワ6から処理室4内へ空気Aが送り込まれるようになっている。
仕切板3には集水ストレーナ7が設けられており、処理室4において処理された水Wが集水ストレーナ7により担体1を除かれて下方の集水室8へ抜けるようになっている。集水室8は、さらに処理水管9を介して処理水槽10に接続されている。
また、集水室8には外部の逆洗ブロワ11から逆洗用の送気管12を通じて空気Aを送り込むことができるようになっており、処理水槽10の下方には、逆洗用の送水管13の一端が接続されている。送水管13の他端は処理水管9に接続されており、送水管13の途中に備えた逆洗ポンプ14の作動により、処理水槽10内の水Wを処理水槽10から反応槽2へ送り込むことができるようになっている。
反応槽2の上部にはサイホン管15が設けられており、反応槽2内の水Wが一定の水位を超えると、超過分がサイホン管15を通じて外部へ排出されるようになっている。
水処理を行う場合、反応槽2に対し、上方から処理対象の水Wが導入される。水W中の物質は、処理室4において担体1に担持された微生物の働きによって処理される。水Wは、処理室4内を下方へ向かう間に微生物反応により浄化され、仕切板3に設けられた集水ストレーナ7を通じて集水室8へ抜ける。さらに、処理水管9を通って処理水槽10へ移り、沈殿等の必要な処理を経て、環境中へ放出される。
浄化処理の実行中、反応槽2の処理室4に対しては、曝気ブロワ6から曝気管5を通して空気Aが送り込まれる。これにより水W中に酸素が溶け込まされ、処理室4内の水W中の物質が、担体1に担持された好気性微生物により酸化される。
運転時間の経過に伴い、処理室4内の担体1には微生物が繁殖し、担体1の表面に生物膜からなる固形物が形成される。こうした固形物は、担体1の目詰まりや固着を生じさせ、水Wの通過抵抗を増大させ、浄化効率の低下を招く。そこで、このような反応槽2を備えた水処理装置を運転する場合は、定期的に逆洗を行い、担体1の表面の固形物を剥がし落とす必要がある。
逆洗を行う際は、逆洗ブロワ11から反応槽2の集水室8へ多量の空気Aを送り込む。集水室8へ送り込まれた空気Aは、仕切板3の集水ストレーナ7を通じて処理室4へ流れ込む。処理室4では、流れ込んだ空気Aの勢いにより、水Wと共に担体1が撹拌される。担体1が互いに衝突し、表面を擦り合わせながら水W中を上下に動くことで、担体1の表面に付着する固形物が剥離する。
続いて、送水管13に設けられた逆洗ポンプ14を作動させ、処理水槽10内の水Wを反応槽2の集水室8へ送り込む。水Wは集水ストレーナ7を通じて処理室4へ流れ込み、先の空気Aの吹き込みに伴い剥がれ落ちた固形物と共に、サイホン管15から外部へ排出される。
ところで、このような水処理装置では、本来の役割である水Wの浄化処理と、逆洗とを同時に実行することができない。つまり、逆洗の実行中は水Wの浄化処理を行うことができないので、連続的な浄化処理が必要な場所では複数個の反応槽が必要となり、浄化のための設備が大型化してしまう。また、逆洗を常時実行することはできないので、逆洗を行ってから次の逆洗を行うまでの間、徐々に担体1に固形物が増え、浄化効率が低下していってしまう。よって、一定以上の浄化効率を確保しようとすれば設備全体がさらに大型化してしまうという問題がある。
また、逆洗のための逆洗ブロワ11や送気管12、送水管13、逆洗ポンプ14といった機構を備える必要があるし、逆洗に十分な量の水を確保するためには処理水槽10の容積も大きくしなくてはならない。
そこで、こうした問題を解決し、コンパクトで浄化効率の高い水処理装置を実現し得る技術として、本願出願人により下記特許文献1に記載の下向流型生物膜浄化装置が既に提案され、実用化されている。
図11〜図13は下記特許文献1に記載の下向流型生物膜浄化装置と同等の水処理装置を示している。ここに示した水処理装置は、直径2mm〜10mm程度の粒状の固形物である担体1が投入された反応槽20と、該反応槽20内に酸素を供給する散気装置21を備えている。散気装置21は、反応槽20内に配置された散気管21aに対し、外部の散気ブロワ22から反応槽20内へ酸素を含む気体(例えば、空気)Aを送り込むようになっている。
反応槽20内における散気管21aよりも下方の位置には、下向きに開口23aを有する椀型の集水室23が設けられている。開口23aの高さは、反応槽20の最下部よりは上方である。集水室23の内部には、処理水管24の一端が開口している。処理水管24は、集水室23の内側から開口23aを通り、さらに反応槽20の壁を貫通して外部へ延び、他端は処理水槽25に接続されている。
処理対象の原水である水Wは、反応槽20の外に設けた原水槽26に貯留され、原水ポンプ27によって汲み上げられ、原水管28を通じて反応槽20に供給されるようになっている。
水処理の際には、反応槽20に対して処理対象である水Wが上方から導入されると共に、散気装置21から空気Aが供給される。そして、水Wが担体1の槽を下方へ通過する間、微生物の働きによって浄化される。浄化された水は、集水室23から処理水管24に引き込まれ、処理水槽25に導かれる。
そして、本例の場合、このような水Wの浄化処理と並行して、担体1の洗浄処理をも実行できるようになっている。
本例における反応槽20は、下部に下方へ向かって断面積の小さくなる逆円錐形の縮径部20aを備え、縮径部20aよりも上側は、高さによらず径の等しい円柱形の形状である。このような形状の反応槽20の中心軸に沿って、担体1を洗浄するためのエアリフト管29が設けられている。エアリフト管29は、下端を縮径部20aの最下部付近に、上端を反応槽20における水面よりも上側に配置されており、下端付近には、エアリフト管29内へ気体(例えば、空気)Aを導入するための導気管30の一端が接続されている。導気管30は反応槽20の外部へ延びており、導気管30の他端から洗浄用ブロワ31によりエアリフト管29内へ空気Aが送り込まれるようになっている。
エアリフト管29の上端部の周囲には、分離装置32が設置されている。分離装置32は、本体部32aと、遮蔽板32bを備えている。本体部32aは、エアリフト管29の上部を囲むように配置され、エアリフト管29の上端から径方向外側に向かって下り勾配をなす傾斜板32cと、該傾斜板32cの下方に配置される受け皿32dを備えている。傾斜板32cは、両面間を水Wが通過でき、且つ担体1の粒を通さない程度の隙間を備えた板状の部材であり、例えば金網やパンチングメタル、あるいは柵状の部材等である。本例の場合、図13に示す如く、長方形状の傾斜板32cが4枚、平面視でエアリフト管29を中心としてX字状に配置されている(図13では、傾斜板32cとしては手前側にあたる2枚のみが表れている)。4枚の傾斜板32cの上辺は、正方形をなしてエアリフト管29の上端を囲んでおり、該正方形を覆うように略四角台形状の誘導部32eが設置され、エアリフト管29の上端は、誘導部32eの上部の中心に開口している。傾斜板32cの上辺と、平面視で円形であるエアリフト管29の上端の間が、誘導部32eにより接続される形である。
各傾斜板32cの傾斜方向に沿った2辺には、それぞれ上方へ立ち上がるように縁部32fが設けられている。
遮蔽板32bは、円筒面状の形状をなす部材であり、本体部32aの上方にエアリフト管29の上端を囲むように設置される。遮蔽板32bの下端は、本体部32aの上面をなす誘導部32eあるいは傾斜板32cの上部に対し、少なくとも担体1の通過を許容する程度の距離を開けて配置される。
受け皿32dは、傾斜板32cおよび誘導部32eの下方に配置される皿状の部材であり、後述するように、傾斜板32cから下方へ流れる水Wを受けるために設置される。一方、受け皿32dは、傾斜板32cに沿って落ちる担体1を受けることがないよう、各傾斜板32cにあたる部分の縁が、傾斜板32cの下辺を超えて径方向外側に張り出さないように設けられる。受け皿32dの中心は、エアリフト管29が貫通している。
受け皿32dには排出管33の一端が接続されており、受け皿32dの受けた水Wを外部へ排出できるようになっている。排出管33の他端は、反応槽20とは別に設けた洗浄水処理槽34に接続されている。洗浄水処理槽34の上部には、戻し管35の一端が接続され、戻し管35の他端は原水槽26に接続されている。
担体1の洗浄処理は、洗浄用ブロワ31からエアリフト管29に対して空気Aを吹き込むことによって行う。洗浄用ブロワ31から吹き込まれた空気Aは、導気管30からエアリフト管29に到達すると、エアリフト管29内を上方へ向かう。この際、エアリフト管29の下端からは、反応槽20の底部に溜まった担体1が水Wと共に吸入され、空気Aの動きに伴ってエアリフト管29内を上昇する。ここで、エアリフト管29の下端は、下向きの傾斜を有する縮径部20aの最下部に開口しているので、反応槽20の底部に溜まった担体1はエアリフト管29の下端部の開口付近に自重によって集まり、これにより、エアリフト管29への担体1の吸入がスムーズに行われる。尚、集水室23は、担体1の溜まる反応槽20の下部に位置しているが、開口23aが下を向くように配置されているので、浄化されて集水室23から処理水管24を通じて処理水槽25へ抜き出される水Wに関しては、担体1が分離された状態で抜き出されることになる。
水Wと共にエアリフト管29内を上昇する間、担体1と水Wは空気Aによって撹拌され、これにより、担体1の表面に付着した生物膜等の固形物は剥離し、担体1が洗浄される。そして、洗浄された担体1と、剥離した固形物を含む水Wが、空気Aと共にエアリフト管29の上端から排出される。
水Wと担体1は、エアリフト管29の上端から分離装置32の本体部32aの上方へ排出される。この際、エアリフト管29の上端を囲むように配置された遮蔽板32bにより、排出される水Wや担体1が勢い良く周囲に放出されることは防止され、水Wと担体1はエアリフト管29の上端から本体部32aの誘導部32eのなす面に沿うように排出され、さらに径方向外側に位置する傾斜板32cへ誘導される。
傾斜板32cは、担体1の粒を通さない程度の隙間を備えているので、エアリフト管29の上端から排出された担体1は傾斜板32cの表面を伝って下方に落下し、反応槽20内に戻される。この際、傾斜板32cの傾斜方向に沿った二辺には縁部32fが備えられているので、担体1が傾斜板32cの側辺(縁部32fの備えられた辺)を超えて受け皿32dに落下することは防がれる。一方、排出された水Wの大半は、担体1から剥離した固形物と共に、傾斜板32cの隙間から下方へ流れ、受け皿32dに受けられる。
受け皿32dの水Wは、担体1から剥離した固形物と共に排出管33から外部の洗浄水処理槽34へ排出され、貯留される。洗浄水処理槽34では、水Wの沈殿処理が行われ、底部に沈殿した固形物は適宜抜き出されて汚泥として処理される。洗浄水処理槽34の上澄みは、原水槽26に戻され、再び反応槽20へ戻される。
担体1の洗浄処理は、上述の如き水Wの浄化処理を行いつつ、それと同時に実行することができる。尚、洗浄処理は、浄化処理の実行中、連続的に行うこともできるが、通常は定期的に短時間、実行すれば十分である。
このような水処理装置によれば、担体1の洗浄に際して水Wの浄化処理を停止する必要がなく、したがって、水処理装置の稼働率を向上させることができ、また、担体1に多量の固形物が付着する前に担体1を洗浄することができる。このため、小型の設備で高い効率による水処理が可能である。担体1の洗浄処理に要する設備も、図10に示す如き例における逆洗用の設備と比較して小型である。
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1〜図3は本発明の実施による水処理装置の形態の一例を示しており、図中、図11〜図13と同一の符号を付した部分は同一物を表している。
本実施例の水処理装置は、基本的な構成は図11〜図13に示す従来例と同様であり、微生物を担持する担体1と共に処理対象としての水Wを貯留する反応槽20と、該反応槽20内に酸素を供給する散気装置21を備えている。反応槽20内の散気管21aよりも下方の位置には椀型の集水室23が設けられ、集水室23の内部には、処理水管24の一端が開口している。処理水管24は、集水室23の内側と、処理水槽25を接続している。処理対象の原水である水Wは、反応槽20の外に設けた原水槽26に貯留され、原水ポンプ27によって汲み上げられ、原水管28を通じて反応槽20に供給されるようになっている。
また、円筒形の壁の下部に逆円錐形の縮径部20aを備えた反応槽20の中心軸に沿って、エアリフト管29が設けられている。エアリフト管29は、反応槽20の底部に一端(下端)が、水面より上に他端(上端)が位置するように配置されており、エアリフト管29の下端付近には、導気管30の一端が接続されている。そして、導気管30の他端から洗浄用ブロワ31によりエアリフト管29内へ気体(例えば、空気)Aが送り込まれるようになっている。
水面から上方へ突出するように配置されたエアリフト管29の上端部の周囲には、本体部32aと、遮蔽板32bを備えた分離装置32が設けられている。本体部32aは、傾斜板32cと受け皿32dを備えており、傾斜板32cとしては、エアリフト管29の上端を囲むように長方形状の板が複数枚(ここでは4枚)配置されている。各傾斜板32cは、エアリフト管29の上端から径方向外側の水面へ向かう向きに下り勾配をなすように配置され、エアリフト管29の上端と、4枚の傾斜板32cの上辺の間は、略四角台形状の誘導部32eにより接続されている。各傾斜板32cの傾斜方向に沿った2辺には、それぞれ上方へ突出する縁部32fが設けられている。
エアリフト管29から排出される水Wや担体1を分離装置32で受けるにあたっては、エアリフト管29の出口である上端を傾斜板32cで取り囲むことが確実且つ効率が良く、好適である。この際、例えば傾斜板32cを円錐面とし、その頂点にあたる位置にエアリフト管29の上端を配置しても良いが、円錐面状の部材は形成に手間や費用が嵩んでしまう。そこで、本実施例のように長方形状の傾斜板32cでエアリフト管29の上端を囲むようにすると、分離装置32を平面的で単純な形状の傾斜板32cにより構成することができ、分離装置32を備えた反応槽20を設置するにあたり、建設費を低く抑えることができる。また、このようにした場合、円形断面のエアリフト管29と傾斜板32cとの間や、傾斜板32c同士の間には隙間が生じることになるが、エアリフト管29と傾斜板32cとの間は誘導部32eで接続し、また、傾斜板32cには傾斜方向に関して両脇に縁部32fを設けることで、水Wや担体1を傾斜板32cへ正しく誘導し、また傾斜板32cの脇から担体1が落下することを防止し、後述する担体1の洗浄にあたり、エアリフト管29から排出された担体1を確実に反応槽20へ戻すことができる。
本体部32aの上方には、エアリフト管29の上端を囲むように円筒面状の遮蔽板32bが設置される。傾斜板32cおよび誘導部32eの下方には、受け皿32dが設置される。受け皿32dには排出管33の一端が接続されており、排出管33の他端は、洗浄水処理槽34に接続されている。洗浄水処理槽34の上部には、戻し管35の一端が接続され、戻し管35の他端は原水槽26に接続されている。
以上の構成については図11〜図13に示した例と共通しているが、本実施例の場合、図2、図3に示す如く、分離装置32の傾斜板32cの一部を覆うように流量調整板36を設置した点が異なっている。
傾斜板32cは、両面間を水Wが通過でき、且つ担体1が通過できない程度の隙間を備えているが、流量調整板36は、この傾斜板32cの有する隙間を塞ぐように、傾斜板32cのなす面に沿って配置される。本実施例の場合、各流量調整板36は、傾斜板32cの傾斜方向における寸法は傾斜板32cと等しく、傾斜方向と直交する方向における寸法は傾斜板32cの寸法より短く設定されており、傾斜板32cの傾斜方向に関しては傾斜板32cの全体を覆い、傾斜方向に直交する方向に関しては傾斜板32cの一部のみを覆うように配置される。このようにすると、担体1の洗浄を行う際、エアリフト管29の上端から排出されて傾斜板32cへ流れる水Wのうち、流量調整板36の設置されていない部分を通る水Wは傾斜板32cの隙間から下方の受け皿32dへ流れ落ち、排出管33から外部へ排出されるが、流量調整板36の設置された部分を通る水Wは傾斜板32cの隙間を通らず下端まで流れ、そのまま反応槽20へ戻されることになる。一方、水Wと共にエアリフト管29の上端から排出された担体1に関しては、流量調整板36の有無にかかわらず、傾斜板32cあるいは流量調整板36の傾斜に沿って反応槽20へ落下する。
水Wの浄化処理に伴って担体1に蓄積した固形物は、担体1の洗浄処理(エアリフト管29への空気Aの吹き込み)の実行により担体1から剥離する。図11〜図13に示した例の場合、剥離した固形物を含んでエアリフト管29の上端から排出された水Wの大半が傾斜板32cの隙間から受け皿32dへ流れ、排出管33から外部へ排出されることになるが、図1〜図3に示す本実施例の場合、剥離した固形物を含む水Wのうち、流量調整板36の設置された部分を通る一部の水Wはそのまま反応槽20へ流れ込み、水Wに含まれる固形物は反応槽20へ戻される。
つまり、図11〜図13に示した従来の水処理装置では、担体1の目詰まりや固着の防止のために洗浄を行った場合に、担体1から剥離した固形物の大部分を反応槽20の外部へ排出することになり、これが浄化処理の効率向上を制限する要因となっていたが、本実施例によれば、洗浄処理により担体1の目詰まりや固着は防止しつつも、剥離した固形物の一部を反応槽20に戻すことで、反応槽20内における微生物群の保持量を保ち、浄化効率を向上させることができるのである。
一般に、微生物による水処理を行う際には、浄化性能の指標として槽内における固形物の滞留時間(SRT:Sludge Retention Time)を用いることができる。これは、槽内に存在する固形物の総量を、浄化処理や洗浄に伴って単位時間あたりに流出する固形物の量で割った値として求めることができ、この値が大きいほど浄化性能が高いと言うことができる。一般的な水処理装置においては、SRTがおおむね10日程度以上あれば良いとされるが、特にアンモニアの除去を目的とする場合、アンモニア酸化細菌は増殖が遅いため、高めのSRT値が要求される。
SRTは、図11〜図13に示した例の場合、以下の式で表すことができる。
[式1]
SRT=VC/(QOUTCOUT+QWASHCWASH)
ただし、
・V:反応槽における水の容量
・C:反応槽内における固形物の濃度
・QOUT:水の浄化処理に伴って処理水管から排出される水の量
・COUT:処理水管から排出される水中の固形物の濃度
・QWASH:担体の洗浄処理に伴って排出管から排出される水の量
・CWASH:排出管から排出される水中の固形物の濃度
一方、図1〜図3に示す本実施例の場合、SRTは以下の式で表すことができる。
[式2]
SRT=(VC+aQWASHCWASH)/{QOUTCOUT+(1−a)QWASHCWASH}
ただし、
・a:担体の洗浄処理の際、流量調整板により反応槽へ戻される水の割合(0<a≦1)
つまり、本実施例においては、流量調整板36を設置することにより、担体1の洗浄処理の際にエアリフト管29から排出される水のうち、割合aに相当する量が反応槽20へ戻されることになる。その結果、上記式2におけるSRTの値は、上記式1におけるSRTの値よりも大きくなり、浄化性能を向上させることができるのである。
図4は、本実施例の水処理装置による浄化処理の効率を検証した実験の結果を示すグラフである。図中の円は、図1〜図3に示す本実施例の水処理装置において、原水槽26に貯留された水W中のアンモニア量に対し、処理水管24から排出される水W中におけるアンモニアの除去率を示している。また、図中の三角形は、図11〜図13に示した従来例の水処理装置におけるアンモニアの除去率を示している。従来例の場合、アンモニアの除去率は70%〜90%強程度に留まり、特に20℃以下の低水温では70%〜85%に抑えられているが、本実施例の場合、20℃以上ではおおむね100%近い除去率を示し、さらに15℃を下回る低水温でも90%前後の除去率を達成した。このように、本実施例の水処理装置では、20℃以上の通常の水温、20℃未満の低水温のいずれにおいても、従来例と比較して高い浄化性能を示した。
担体1の洗浄時において、エアリフト管29から反応槽20へ戻す水Wの相対的な流量、すなわち上記式2における割合aの値は、流量調整板36の傾斜板32cに対する面積や、設置位置により調整することができる。つまり、基本的には流量調整板36の面積が傾斜板32cに対して大きいほどaの値は大きくなるし、また流量調整板36の面積が同じであっても、例えば傾斜板32cの上半分を覆う場合と、左半分(ここでいう「左」とは、傾斜板32cの傾斜方向を上下方向としたときに、上下方向と直交し且つ傾斜板32cのなす面に沿う方向を左右方向と定義した場合の「左」を指す)を覆う場合とでは、後者の方がaの値は大きくなる。また、水Wの通る隙間を設けた傾斜板32cの全面を流量調整板36で覆うようにした場合、a≒1となり、エアリフト管29から排出される水Wのほぼ全量が反応槽20へ戻されることになる。
実際の流量調整板36の寸法や設置位置に関しては、図3に示したような配置に限らず、本発明を実施するにあたって要求される浄化性能等に応じて適宜設定すれば良い。例えば、図3では傾斜板32cに対し左右の辺に沿った位置に流量調整板36を配置したが、図5に示すように、傾斜板32cに対し左右方向に関して中央部に流量調整板36を配置しても良い。この他、流量調整板は傾斜板に対し種々の配置、形状を取り得る。
また、図6に示す如く、流量調整板36の傾斜板32c上にあたる位置に縁部36aを設けても良い。ここに示した例では、傾斜板32cの左右両側に、上下にわたって流量調整板36を配置しているが、該流量調整板36の上下方向に沿った辺の部分に、傾斜板32cのなす面に対して上方へ突出するように縁部36aを形成している。このようにすると、傾斜板32c上を流れる水Wにとって、流量調整板36上に覆われた部分の流路と、それ以外の部分の流路との間が縁部36aによって仕切られることになる。したがって、流量調整板36上を流れる水Wや、そこに含まれる固形物が、流量調整板36に覆われない部分へ流れて下方の受け皿32dに落ちることなく、確実に反応槽20へ戻される。これにより、反応槽20へ戻る水Wの量の調整をより確実且つ容易にすることができる。尚、図示は省略するが、図5のように傾斜板32cに対し左右方向に関して中央部に流量調整板36を配置した場合や、その他の配置を採用した場合でも、流量調整板36の傾斜板32c上にあたる位置に縁部を適宜備えても良い。
図7は流量調整板に関してさらに別の構成を示す実施例である。図7に示した例の場合、分離装置37の本体部37aは、略円錐台形状の中空の部材として構成されており、円錐面をなす傾斜板37bは、担体1を通さない程度の隙間を備えている。傾斜板37bの下方には、傾斜板37bの隙間を通って下方へ落ちる水Wを受けるための受け皿(図示せず)が備えられており、本体部37aの上方には、円筒状の遮蔽板(図示せず)が配置されている。
そして、傾斜板37bの表面に沿うように、円錐面をなす流量調整板38が配置されている。流量調整板38は、傾斜板37bを径方向に関して全域を覆い、且つ周方向に関して一部を覆うよう、平面視で放射状に設けられた第一調整板38aと、同様に、傾斜板37bを径方向に関して全域を覆い、且つ周方向に関して一部を覆うよう、平面視で放射状に設けられた第二調整板38bとを備えている。第二調整板38bは、第一調整板38aの直上に重なるように設けられており、エアリフト管29を軸として第一調整板38aに対し回転できるように構成されている。
このようにすると、傾斜板37bの一部が流量調整板38により覆われ、その部分の隙間が塞がれることになるが、ここで、第二調整板38bを第一調整板38aに対して回転させることで第一調整板38aと第二調整板38bとの重なりの大きさを変更し、傾斜板37における流量調整板38による被覆面積を調整することができる。こうして、図7に示す例によれば、上記式2におけるaの値(エアリフト管29から排出されて反応槽20へ戻される水Wの量)を簡単に調整することができる。尚、流量調整板による傾斜板の被覆面積の調整は、この他に、例えば寸法の異なる複数の流量調整板を用意して適宜交換したり、流量調整板を分割して設置個数を変更するといった種々の機構によっても行うことができる。
ところで、上記本実施例のように、浄化効率を高める目的で担体1の洗浄に伴って剥離した固形物を反応槽20に戻すことを考えた場合、例えば図8に参考例として示す如く、排出管33の途中に開度によって内部を流通する水Wの量を調整できる流量調整バルブ33aを設け、洗浄水処理槽34へ向かう水Wの量を制限することが考えられる。この場合、エアリフト管29から排出されたが洗浄水処理槽34へ向かうことができない余剰の水Wは、受け皿32dから溢れて反応槽20に戻ることになる。
しかしながら、このような仕組みを採用した場合、水Wに含まれる固形物により、流量調整バルブ33aが閉塞するリスクが生じる。流量調整バルブ33aが閉塞すれば、水Wと共に固形物の全量が反応槽20に戻り、浄化効率が著しく低下してしまうことになる。このような事態を避けるためには流量調整バルブ33aを頻繁にメンテナンスする必要があり、手間や費用が生じてしまう。
また、水処理装置の運転にあたっては、浄化の効率や担体1における微生物の担持量、反応槽20への水Wの供給量といった条件に応じ、担体1の洗浄の際にエアリフト管29へ送り込む空気Aの量や、洗浄処理の時間等を変更するような場合も考えられる。こういった変更を行えば、洗浄処理の際に反応槽20に戻される水Wの量や、洗浄処理による反応槽20中の固形物量の変動量が変化する。このため、適当な浄化効率を保つためには、洗浄処理の条件の変更に伴い、流量調整バルブ33aの開度を都度調節する必要がある。こうした調節を手動で行うのは非常に煩雑である。開度の自動調節機構を別途装備することもできるが、それにも費用と手間が生じる。
また、図9に別の参考例として示すように、洗浄水処理槽34に溜まった固形物を反応槽20へ戻す固形物戻し管39を設け、担体1の洗浄処理の間あるいは洗浄処理の後、適当な量の固形物を反応槽20へ戻すことも考えられるが、この方式では固形物を反応槽20へ戻すためにポンプ39aを設置し、作動させる必要がある。
これに対し、図1〜図3あるいは図5、図6、図7に示すように、流量調整板36,38により傾斜板32c,37bの一部を覆う方式を採用した場合、エアリフト管29から排出される水Wの量が変動しても、必ず概ね一定の割合の水Wを反応槽20へ戻すことができる。図8に示す流量調整バルブ33aや、図9に示すポンプ39aのような装置は不要であり、分離装置32,37に流量調整板36,38を備えただけの簡単な構成で反応槽20への固形物の回収を実行できる。
以上のように、上記本実施例は、微生物を担持する担体1と共に処理対象としての水Wを貯留する反応槽20と、反応槽20の底部に一端を、水面より上に他端を配置されたエアリフト管29と、エアリフト管29の内部へ気体(空気)Aを送り込む導気管30と、エアリフト管29の他端から反応槽20の水面に向かって下り勾配をなし、水Wが両面間を通過できる隙間を備えた傾斜板32c,37bとを備え、エアリフト管29に導気管30から気体Aを吹き込むことで、反応槽20内の担体1と水Wをエアリフト管29内へ吸入し、気体Aと共にエアリフト管29の他端から排出して傾斜板32c,37bに導き、担体1は傾斜板32c,37bに沿って落下させて反応槽20へ戻す一方、傾斜板32c,37bの隙間から下方へ流れる水Wは外部へ排出するよう構成され、傾斜板32c,37bの隙間の少なくとも一部を覆うよう、流量調整板36,38を備えている。このようにすると、担体1の洗浄により目詰まりや固着は防止しつつ、剥離した固形物の一部を反応槽20に戻すことで、反応槽20内における微生物群の保持量を保ち、浄化効率を向上させることができる。
また、上記本実施例においては、流量調整板36の傾斜板32c上にあたる位置に縁部36aを設けても良く、このようにすれば、反応槽20へ戻る水Wの量の調整をより確実且つ容易にすることができる。
また、上記本実施例において、流量調整板38は、傾斜板37bにおける被覆面積を調整可能に構成しても良く、このようにすれば、エアリフト管29から排出されて反応槽20へ戻される水Wの量をいっそう簡単に調整することができる。
また、上記本実施例において、エアリフト管29の他端は、水面から上方に突出するように配置され、傾斜板32cは、エアリフト管29の他端を囲み、径方向外側へ向かう向きに下り勾配をなすよう複数枚備えられ、傾斜板32cの傾斜方向に沿った辺に、上方へ突出する縁部32fを備えた構成とすることができる。このようにすると、平面的で単純な形状の傾斜板32cにより分離装置32を構成することができると共に、傾斜板32cの傾斜方向に沿った辺を超えて担体1が落下することを防止し、担体1の洗浄にあたり、エアリフト管29の他端から排出された担体1を確実に反応槽20へ戻すことができる。
したがって、上記本実施例によれば、簡便な構成により高い効率で水を浄化し得る。
尚、本発明の水処理装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。