以下、本開示の実施の形態について説明する。図中同一又は相当部分には同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
本明細書において、一部又は全体が筒状で、ねじ部を有する内周面又はねじ部を有する外周面を有する端部を含む金属部品を「筒状金属部品」と定義する。本発明者らは、筒状金属部品の端部の耐食性を高めることが可能なクロメート処理について検討した。その結果、次の知見を得た。
一般に、クロメート処理においては、クロメート被膜が金属部品の表面に均一に形成される必要がある。クロメート被膜が不均一に形成されれば、金属部品の耐食性が低下する。具体的には、クロメート被膜が薄い箇所では腐食が進行しやすくなる。また、クロメート被膜が厚すぎればクロメート被膜にクラックが入りやすくなる。そのため、クロメート被膜は金属部品の表面に均一に形成される必要がある。
クロメート被膜を均一に形成するには、クロメート処理中に処理条件が変化しないことが望ましいと考えられてきた。処理条件とはたとえば、温度、pH、クロメート処理液の濃度、クロメート処理液の撹拌速度等である。
そこで本発明者らは、鋼板の表面にクロメート処理を実施し、処理条件と耐食性との関係を調査した。具体的には、市販の冷延鋼板の表面に、Zn−Ni合金めっき層を形成した。Zn−Ni合金めっき層は、厚さ約8μm、Ni含有量約13%、残部はZn及び不純物からなるめっき層であった。Zn−Ni合金めっき層を備える冷延鋼板の表面にクロメート処理を実施した。クロメート処理液は、大和化成株式会社製ダインクロメート(商品名)を用いた。クロメート処理を実施した後、冷延鋼板に対して塩水噴霧試験を実施した。表1に、クロメート処理の条件及び塩水噴霧試験の結果を示す。
表1中、撹拌速度(m/s)とはクロメート処理液の撹拌速度(m/s)を示す。撹拌速度が0m/sである場合には、撹拌しなかったことを示す。試験番号1及び試験番号2では、クロメート処理液を撹拌しないで冷延鋼板をクロメート処理液に浸漬してクロメート処理を実施した。試験番号3及び試験番号4では、クロメート処理液を撹拌しながらクロメート処理を実施した。表1中、処理1と処理2とは、処理を行った時系列を示す。処理1の処理条件でクロメート処理を実施した後、続けて、処理2の条件でクロメート処理を実施した。試験番号5及び試験番号6では、撹拌しながらクロメート処理を実施した後、続けて、撹拌なしでクロメート処理を実施した。試験番号5は、撹拌速度1.2m/sで15秒処理した後、続けて、撹拌速度0m/sで30秒処理した。試験番号6は、撹拌速度1.2m/sで15秒処理した後、続けて、撹拌速度0m/sで60秒処理した。撹拌速度及び処理時間以外のクロメート処理の条件は、試験番号1〜試験番号6で同一であった。塩水噴霧試験は、JIS Z2371(2015)に準拠した方法で実施した。表1には、528時間経過後の冷延鋼板表面の錆の面積率(%)を示す。
試験番号1〜試験番号4と比較して、試験番号5及び試験番号6では、塩水噴霧試験後の錆の面積率が低かった。つまり、試験番号1〜試験番号4と比較して、試験番号5及び試験番号6の冷延鋼板の耐食性は高かった。試験番号5及び試験番号6では、1回のクロメート処理を実施している間に、クロメート処理液を撹拌する工程(流動クロメート処理という)と、クロメート処理液を撹拌しない工程(滞留クロメート処理という)とが含まれていた。試験番号1〜試験番号4は、1回のクロメート処理中において、流動クロメート処理又は滞留クロメート処理のいずれかの処理方法であった。つまり、試験番号1〜試験番号4は、流動クロメート処理及び滞留クロメート処理の両方を備えなかった。
以上の検討から、本発明者らは、従来と全く異なる知見を得た。それは、1回のクロメート処理中に、処理条件を変化させることによって金属部品の耐食性を高めることができるという知見である。具体的には、1回のクロメート処理中に、クロメート処理液を撹拌する工程と、クロメート処理液を撹拌しない工程とを順次実施することによって、金属部品の耐食性を高めることができる。本明細書において、クロメート処理液を撹拌しながらクロメート処理を実施する工程を、流動クロメート処理という。クロメート処理液を撹拌しないでクロメート処理を実施する工程を、滞留クロメート処理という。
ところで、筒状金属部品の一例である鋼管は一本当たり十数メートルの長さを有する。また、筒状金属部品の一例であるアクセサリーも数メートルの高さを有する。鋼管やアクセサリーに代表される筒状金属部品の全体をクロメート処理液に浸漬するためには、筒状金属部品全体にクロメート処理液を接触させるための大型の装置が必要となる。一方で、鋼管やアクセサリーに代表される筒状金属部品において耐食性が特に要求されるのは、ねじ部を有する端部である。そこで本発明者らは、筒状金属部品の少なくとも端部にクロメート処理を実施すればよいと考えた。筒状金属部品の少なくとも端部にクロメート処理を実施する場合、筒状金属部品の少なくとも端部がクロメート処理液に接触すればよい。
本発明者らは、鋼管やアクセサリーの様な大型の筒状金属部品の端部にクロメート処理を実施し、かつ、上述の流動クロメート処理と滞留クロメート処理とを一連の処理として実施するための装置を検討した。その結果、本発明者らは、流動クロメート処理ではクロメート処理液が供給及び排出される機構とし、かつ、流動クロメート処理後の滞留クロメート処理では処理筐体内にクロメート処理液を貯留できる機構に切り替えることができれば、従来には無い、流動クロメート処理の後続けて滞留クロメート処理が実施できる装置となることを知見した。
以上の知見に基づいて完成した本開示の筒状金属部品用表面処理装置は、筒状金属部品にクロメート処理するための表面処理装置である。筒状金属部品は、ねじ部を有する内周面又はねじ部を有する外周面を有する端部を含む。筒状金属部品用表面処理装置は、筒状金属部品の内周面又は外周面に表面処理を実施する。筒状金属部品用表面処理装置は、処理筐体と、クロメート処理液貯留槽と、供給管と、排出管と、供給機構と、噴射機構と、開閉機構と、制御装置とを備える。処理筐体は、筒状金属部品の端部に取り付け可能である。処理筐体は、筒状金属部品の端部に取り付けられたときに、ねじ部を有する内周面又は外周面と、クロメート処理液とを収容可能である。クロメート処理液貯留槽は、処理筐体に供給されるクロメート処理液及び処理筐体から排出されるクロメート処理液を貯留可能である。供給管内には、クロメート処理液貯留槽から処理筐体に供給されるクロメート処理液が流れる。排出管内には、処理筐体からクロメート処理液貯留槽に排出されるクロメート処理液が流れる。供給機構は、クロメート処理液貯留槽内のクロメート処理液を、供給管を通して処理筐体に供給する。噴射機構は、供給管の端部に接続して処理筐体内に配置される。噴射機構は、供給機構により処理筐体内に供給されるクロメート処理液を噴射する。開閉機構は、供給管と排出管とを開閉可能である。制御装置は、クロメート処理液貯留槽から供給管を通して処理筐体にクロメート処理液を供給し、かつ、処理筐体から排出管を通してクロメート処理液貯留槽にクロメート処理液を排出しながらクロメート処理を実施する流動クロメート処理を実施するとき、開閉機構を制御して供給管及び排出管を開いた状態とし、かつ、供給機構を駆動してクロメート処理液を供給管を通して処理筐体に供給し、流動クロメート処理後、処理筐体内のクロメート処理液を滞留させてクロメート処理を実施する滞留クロメート処理を実施するとき、開閉機構を制御して供給管及び排出管を閉じた状態とし、かつ、供給機構を停止してクロメート処理液を処理筐体内に供給するのを停止させる。
本開示による筒状金属部品用表面処理装置は、開閉機構、供給機構及びそれらを制御する制御装置を備える。制御装置が開閉機構及び供給機構を制御することにより、供給管及び排出管が開いた状態となる。制御装置が供給機構を起動してクロメート処理液を流動させる。これにより、処理筐体内にクロメート処理液を滞留させず、流動させ、流動クロメート処理を実施できる。制御装置が開閉機構を制御することにより、供給管及び排出管が閉じた状態となる。これにより、処理筐体内にクロメート処理液を滞留させて滞留クロメート処理を実施できる。筒状金属部品用表面処理装置は、開閉機構及び制御機構により、上記の2段階モードの切り替えを可能とする。1回のクロメート処理中に流動クロメート処理と滞留クロメート処理とを実施することにより、筒状金属部品の耐食性が高まる。
上記制御装置は、流動クロメート処理から滞留クロメート処理に切り替えるとき、開閉機構を制御して、供給管及び排出管を閉じた状態とし、その後、供給機構を停止してクロメート処理液を処理筐体内に供給するのを停止してもよい。
この場合、供給管及び排出管を閉じた後に供給機構を停止すれば、処理筐体内にクロメート処理液を溜めやすい。そのため、滞留クロメート処理に必要な量のクロメート処理液を処理筐体内に溜めやすい。
上記筒状金属部品用表面処理装置は、クロメート処理液貯留槽が、処理筐体よりも下方に配置されてもよい。
クロメート処理液貯留槽が処理筐体よりも下方に配置されれば、処理筐体から自然落下によりクロメート処理液を排出できる。そのため、クロメート処理液の排出が容易になる。
上記筒状金属部品用表面処理装置はさらに、めっき液貯留槽と、分岐供給管と、分岐排出管と、供給切替え機構と、排出切替え機構とを備えてもよい。めっき液貯留槽は、処理筐体に供給されるめっき液及び処理筐体から排出されるめっき液を貯留可能である。分岐供給管は、供給管から分岐している。分岐供給管は、めっき液貯留槽内に配置され、めっき液を分岐供給管内に流入させることが可能な端部を含む。分岐排出管は、排出管から分岐している。分岐排出管は、めっき液貯留槽内に配置され、分岐排出管内のめっき液を排出することが可能な端部を含む。供給切替え機構は、供給管上に配置される。供給切替え機構は、クロメート処理液貯留槽及びめっき液貯留槽のいずれから処理筐体にクロメート処理液又はめっき液を供給するか切替える。排出切替え機構は、排出管上に配置される。排出切替え機構は、クロメート処理液貯留槽とめっき液貯留槽のいずれにクロメート処理液又はめっき液を排出するか切替える。
筒状金属部品用表面処理装置がさらにめっき液貯留槽を備え、処理筐体と接続されれば、めっき処理を実施可能である。処理筐体とめっき液貯留槽とが、分岐供給管と、分岐排出管とでつながっていれば、製造設備の省スペース化が可能になる。供給切替え機構及び排出切替え機構により、クロメート処理を実施するか、めっき処理を実施するか切替えることができる。
上記噴射機構は、クロメート処理液を、筒状金属部品の中心軸に直交する方向から、筒状金属部品の端部に向かって20〜90°傾斜した方向に噴射してもよい。
噴射機構が、クロメート処理液を上記の傾斜した方向に噴射すれば、より均一な厚さのクロメート被膜を形成できる。
上記筒状金属部品は、一部又は全体が筒状で、ねじ部を有する内周面又はねじ部を有する外周面を有する端部を含む金属部品である。筒状金属部品は、全体が筒状であってもよいし、一部が筒状であってもよい。筒状金属部品は一端が開口した筒状であり、他端は閉塞していてもよい。筒状金属部品は中心軸に垂直な断面が環状であってもよい。筒状金属部品はたとえば、鋼管、ケーシングハンガー、ケーシングヘッド、チュービングハンガー、チュービングヘッド又はフロートシューである。
本実施形態の筒状金属部品の製造方法は、上記表面処理装置を用いた製造方法である。筒状金属部品は、ねじ部を有する内周面又はねじ部を有する外周面を有する端部を含む。製造方法は、流動クロメート処理工程と、滞留クロメート処理工程とを含む。流動クロメート処理工程では、端部の内周面又は外周面を、流動しているクロメート処理液に浸漬し、クロメート処理液が流動した状態でクロメート処理する。滞留クロメート処理工程は、流動クロメート処理工程に続けて実施する。滞留クロメート処理工程では、クロメート処理液の流動の発生を停止して、クロメート処理液を滞留させた状態でクロメート処理する。
1回のクロメート処理中に、流動クロメート処理工程と、滞留クロメート処理工程とを実施すれば、筒状金属部品の耐食性が高まる。
上記流動クロメート処理工程では、0.6〜1.5m/sの流速で、10〜30秒のクロメート処理を実施し、上記滞留クロメート処理工程では、15〜90秒クロメート処理を実施してもよい。
各クロメート処理工程の条件を上記のとおり調整することで、筒状金属部品の耐食性が安定して高まる。
上記製造方法において、筒状金属部品は、鋼管、ケーシングハンガー、ケーシングヘッド、チュービングハンガー、チュービングヘッド又はフロートシューであってもよい。
以下、図面を参照して、本実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
[第1の実施形態]
[筒状金属部品用表面処理装置]
本実施形態の筒状金属部品用表面処理装置は、筒状金属部品にクロメート処理するための表面処理装置である。図1は、本実施形態の筒状金属部品用表面処理装置の全体図である。図1を参照して、筒状金属部品用表面処理装置1は、処理筐体2と、クロメート処理液貯留槽3と、供給管41と、排出管5と、供給機構6と、噴射機構4と、開閉機構8と、制御装置9とを備える。
[筒状金属部品]
クロメート処理の対象となる筒状金属部品10は、一部又は全体が筒状で、ねじ部を有する内周面又はねじ部を有する外周面を有する端部を含む金属部品である。筒状金属部品10はたとえば、鋼管、ケーシングハンガー、ケーシングヘッド、チュービングハンガー、チュービングヘッド又はフロートシューである。鋼管は全体が筒状である。鋼管のねじ部を有する内周面又はねじ部を有する外周面を有する端部を管用ねじ継手という。本実施形態の筒状金属部品用表面処理装置1は管用ねじ継手に好適に使用可能である。筒状金属部品10は、亜鉛を含有するめっき層を最表層に備えてもよい。
[処理筐体]
処理筐体2は、筒状金属部品10の端部に取り付け可能である。処理筐体2は、筒状金属部品10の端部に取り付けられたときに、ねじ部を有する内周面又は外周面と、クロメート処理液とを収容可能である。図2は、処理筐体2の概略構成を示す縦断面図である。図2を参照して、処理筐体2は、第1シール部材21と、第2シール部材22と、噴射機構4とを備える。
第1シール部材21は、筒状金属部品10の内部に配置される。第1シール部材21は、筒状金属部品10の端部に取り付けられる。第1シール部材21は、筒状金属部品10の内周面に全周にわたって密着して、筒状金属部品10の内部を閉塞する。第1シール部材21の材質は、特に限定されない。第1シール部材21はたとえば、ヘキサプラグである。
第2シール部材22は、筒状金属部品10の外部に配置される。第2シール部材22は、筒状金属部品10の端部に取り付けられる。第2シール部材22は、筒状金属部品10の端部を外周側から覆うように筒状金属部品10に取り付けられる。
第2シール部材22は、筒状金属部品10の軸方向の一端220が封鎖されている。第2シール部材22の他端221は、筒状金属部品10の外周面に密着する。第2シール部材22の他端221は、筒状金属部品10の雄ねじ部11よりも筒状金属部品10の軸方向内側で筒状金属部品10の外周面と密着する。これにより、第1シール部材21と第2シール部材22とは処理筐体2の内部に空間を形成する。処理筐体2内には、筒状金属部品10の雄ねじ部11を有する外周面が収容される。クロメート処理の際には、処理筐体2にさらにクロメート処理液が収容される。これにより、筒状金属部品10の雄ねじ部11を含む外周面にクロメート被膜が形成される。
第2シール部材22は排出口222を備える。排出口222は、排出管5と接続する。流動クロメート処理中、及び、使用後のクロメート処理液は、排出口222を通って処理筐体2の外に排出される。クロメート処理液は、排出口222において、自然落下により排出してもよいし、ポンプを用いて排出してもよい。クロメート処理液を自然落下させる場合、排出口222は、第2シール部材22を筒状金属部品10に取り付けた状態で筒状金属部品10よりも下方に配置されてもよい。
第2シール部材22はさらに、空気穴223を備えてもよい。空気穴223は、使用後のクロメート処理液の排出を促進するために利用される。空気穴223は、第2シール部材22を筒状金属部品10に取り付けた状態で筒状金属部品10よりも上方に配置されてもよい。空気穴223は、電磁弁等の開閉装置により開閉可能な構成としてもよい。流動クロメート処理中、又は、クロメート処理後に空気穴223を開放して処理筐体2からクロメート処理液の排出を促進してもよい。空気穴223から圧縮空気を供給して、クロメート処理液の排出を促進してもよい。空気穴223には、上方に延びる管が接続されてもよい。この場合、処理筐体2の外部にクロメート処理液が吹き出すのを抑制できる。空気穴223から上方に延びる管の長さは、必要に応じて調整できる。また、空気穴223から上方に延びる管は、分岐して排出管5と接続してもよい。この場合、空気穴223から溢れたクロメート処理液が、排出管5を通ってクロメート処理液貯留槽3に流入する。これにより、余分なクロメート処理液をクロメート処理液貯留槽3に回収できる。
[噴射機構]
噴射機構4は、クロメート処理液を処理筐体2内に噴射する。噴射機構4は、供給管41の下流端410に接続して処理筐体2内に配置される。噴射機構4は、供給機構6により処理筐体2内に供給されるクロメート処理液を噴射する。図2を参照して、噴射機構4は、ノズル42と配管43とを備える。
配管43は、供給口430を有する。供給口430は、処理筐体2の外部に配置されている。供給管41の下流端410は、供給口430と接続している。供給口430を通って処理筐体2内にクロメート処理液が流入する。
処理筐体2内に配置された配管43の端部には、複数のノズル42が接続されている。複数のノズル42は、処理筐体2内において、筒状金属部品10の中心軸X1の周りに配置されている。複数のノズル42は、筒状金属部品10の軸方向から見たときに、放射状且つ等間隔に配置されている。しかしながら、ノズル42の配置の間隔は特に限定されない。
本実施形態では、筒状金属部品10の端と第2シール部材22の一端220との間に各ノズル42が配置されている。各ノズル42は、配管43内に供給されたクロメート処理液を雄ねじ部11の表面に噴射する。
図3は、噴射機構4を筒状金属部品10の軸方向から見た模式図である。図3に示すように、本実施形態では8本のノズル42が配管43の端部に接続している。ノズル42の数は、特に限定されない。ノズル42の数は2本でもよいし、4本でもよいし、6本でもよいし、8本でもよいし、10本以上であってもよい。好ましくは、ノズル42は、6本以上である。各ノズル42は、噴射方向S1にクロメート処理液を噴射する。噴射機構4は、ノズル42に限定されない。たとえば、配管43に断面積の小さい噴射孔を空けて、圧力差によりクロメート処理液を噴射してもよい。
処理筐体2は、図2及び図3に限定されない。処理筐体2は、筒状金属部品10の端部に取り付け可能であり、雄ねじ部11を有する外周面と、クロメート処理液とを収容可能であれば特に限定されない。
[供給管]
供給管41内には、クロメート処理液貯留槽3から処理筐体2に供給されるクロメート処理液が流れる。供給管41は、2つの端部を含む。供給管41の2つの端部のうち、クロメート処理液貯留槽3側に位置する端部を上流端411、処理筐体2側に位置する端部を下流端410と定義する。図2を参照して、供給管41の下流端410は、処理筐体2の外部に配置された供給口430と接続している。
図1を参照して、供給管41の上流端411はクロメート処理液貯留槽3の内部に配置されている。供給管41の上流端411はクロメート処理液貯留槽3と接続してもよい。供給管41は、クロメート処理液貯留槽3の側面を貫通してクロメート処理液貯留槽3内に延びてもよい。クロメート処理液貯留槽3に天板が設けられている場合は、供給管41は、天板を貫通してクロメート処理液貯留槽3内に延びてもよい。
供給管41の数は特に限定されない。供給管41は、1本でもよいし、2本以上でもよい。供給管41の材質や大きさは特に限定されない。供給管41の断面は円でもよいし、円でなくてもよい。供給管41には、不純物を取り除くフィルターが取り付けられてもよい。供給管41には、チャッキバルブ、ストレーナ及び逆流防止弁が取り付けられてもよい。
[排出管]
排出管5内には、処理筐体2からクロメート処理液貯留槽3に排出されるクロメート処理液が流れる。排出管5は、2つの端部を含む。排出管5の2つの端部のうち、処理筐体2側に位置する端部を上流端511、クロメート処理液貯留槽3側に位置する端部を下流端510と定義する。図2を参照して、排出管5の上流端511は、処理筐体2の排出口222と接続する。流動クロメート処理中、及び、使用後のクロメート処理液は、排出口222を通って排出管5内に流入する。
図1を参照して、排出管5の下流端510は、クロメート処理液貯留槽3内に配置される。排出管5の下流端510は、クロメート処理液貯留槽3と接続してもよい。排出管5は、クロメート処理液貯留槽3の側面を貫通してクロメート処理液貯留槽3内に延びてもよい。クロメート処理液貯留槽3に天板が設けられている場合は、排出管5は、天板を貫通してクロメート処理液貯留槽3内に延びてもよい。
クロメート処理液は、排出管5を通ってクロメート処理液貯留槽3内に排出される。排出管5の数は特に限定されない。排出管5は1本でもよいし、2本以上でもよい。排出管5の材質や大きさは特に限定されない。排出管5の断面は円でもよいし、円でなくてもよい。排出管5には、不純物を取り除くフィルターが取り付けられてもよい。排出管5には、チャッキバルブ、ストレーナ及び逆流防止弁が取り付けられてもよい。
[クロメート処理液貯留槽]
クロメート処理液貯留槽3は、処理筐体2に供給されるクロメート処理液、及び、処理筐体2から排出されるクロメート処理液を貯留可能である。図1では、クロメート処理液貯留槽3は、直方体状の筐体である。クロメート処理液貯留槽3の上面は開口していてもよいし、天板が設けられていてもよい。クロメート処理液貯留槽3の形状は、クロメート処理液を貯留可能であれば特に限定されない。クロメート処理液貯留槽3内に、供給管41の上流端411と、排出管5の下流端510とが配置される。
[供給機構]
供給機構6は、クロメート処理液貯留槽3内のクロメート処理液を、供給管41を通して処理筐体2に供給する。供給機構6は特に限定されない。供給機構6はたとえばポンプである。供給機構6の配置は特に限定されない。図1に示すように、供給機構6は供給管41上に配置されてもよい。
[開閉機構]
開閉機構8は、供給管41と排出管5とを開閉可能である。開閉機構8が供給管41を開くことにより、供給管41内にクロメート処理液が流れる。開閉機構8が供給管41を閉じることにより、供給管41内のクロメート処理液の処理筐体2への流入を止める。開閉機構8が排出管5を開くことにより、排出管5内にクロメート処理液が流れる。開閉機構8が排出管5を閉じることにより、処理筐体2内のクロメート処理液の排出を止める。
より具体的には、開閉機構8は、供給管開閉機構81と、排出管開閉機構82とを含む。供給管開閉機構81は、供給管41上に配置される。供給管開閉機構81は、供給管41を開閉する。排出管開閉機構82は、排出管5上に配置される。排出管開閉機構82は、排出管5を開閉する。図1では、供給管開閉機構81と、排出管開閉機構82とはそれぞれ1つである。しかしながら、開閉機構8の数は特に限定されない。開閉機構8は、供給管41上と排出管5上とで同じ数でもよいし、異なる数でもよい。
開閉機構8の構成は特に限定されない。供給管開閉機構81はたとえばゲートバルブ、グローブバルブ、ボールバルブ、バタフライバルブ、及び、へポートバルブである。排出管開閉機構82はたとえばゲートバルブ、グローブバルブ、ボールバルブ、バタフライバルブ、及び、へポートバルブである。開閉機構8の具体的な構成は、供給管開閉機構81と排出管開閉機構82とで同じであってもよいし、異なっていてもよい。
[制御装置]
制御装置9は、供給機構6及び開閉機構8を制御する。これにより、筒状金属部品用表面処理装置1は、流動クロメート処理を実施し、その後滞留クロメート処理を実施する。制御装置9を説明する前に、流動クロメート処理と滞留クロメート処理とを説明する。
[流動クロメート処理]
図4は、流動クロメート処理を説明するための図である。図4を参照して、流動クロメート処理では、処理筐体2内のクロメート処理液を流動させながらクロメート処理を実施する。流動クロメート処理では、クロメート処理液貯留槽3から供給管41を通して処理筐体2にクロメート処理液を供給しながら、かつ、処理筐体2から排出管5を通してクロメート処理液貯留槽3にクロメート処理液を排出しながらクロメート処理を実施する。
[滞留クロメート処理]
図5は、滞留クロメート処理を説明するための図である。滞留クロメート処理は、流動クロメート処理に引き続いて実施される。図5を参照して、滞留クロメート処理では、処理筐体2内にクロメート処理液を滞留させてクロメート処理を実施する。滞留クロメート処理では、処理筐体2からクロメート処理液貯留槽3へのクロメート処理液の排出を停止し、かつ、クロメート処理液貯留槽3から処理筐体2へのクロメート処理液の供給を停止した状態でクロメート処理を実施する。本明細書において、滞留クロメート処理とは、クロメート処理液を撹拌しないでクロメート処理を実施することをいう。
本実施形態の筒状金属部品用表面処理装置1を用いることにより、流動クロメート処理後に滞留クロメート処理が実施される。このとき、流動クロメート処理と滞留クロメート処理とは続けて実施される。つまり、流動クロメート処理と滞留クロメート処理とは、1回のクロメート処理中に実施される。より具体的には、流動クロメート処理後に、処理筐体2を取り外すことなく、滞留クロメート処理が実施される。流動クロメート処理後、連続して滞留クロメート処理が行われることで、筒状金属部品10の耐食性が高まる。
図6は制御装置9の機能ブロック図である。図6を参照して、制御装置9は、供給機構制御部91と、開閉機構制御部92とを含む。
供給機構制御部91は、実施されるクロメート処理の種類に応じて供給機構6を制御する。具体的には、筒状金属部品用表面処理装置1が流動クロメート処理を実施するとき、供給機構制御部91は、供給機構6を駆動してクロメート処理液を供給管41を通して処理筐体2に供給する。
筒状金属部品用表面処理装置1が、流動クロメート処理に引き続いて滞留クロメート処理を実施するとき、供給機構制御部91は、供給機構6を停止してクロメート処理液を処理筐体2内に供給するのを停止させる。
開閉機構制御部92は、実施されるクロメート処理の種類に応じて開閉機構8を制御する。具体的には、流動クロメート処理を実施するとき、筒状金属部品用表面処理装置1はクロメート処理液貯留槽3から供給管41を通して処理筐体2にクロメート処理液を供給し、かつ、処理筐体2から排出管5を通してクロメート処理液貯留槽3にクロメート処理液を排出しながらクロメート処理を実施する。このとき、開閉機構制御部92は、開閉機構8を制御して供給管41及び排出管5を開いた状態とする。
筒状金属部品用表面処理装置1が流動クロメート処理に引き続いて滞留クロメート処理を実施するとき、開閉機構制御部92は、開閉機構8を制御して供給管41及び排出管5を閉じた状態とする。
図7は、制御装置9のハードウェア構成の一例を示す機能ブロック図である。図7を参照して、制御装置9は、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)93と、メモリ94と、インターフェース95(図7では、I/Fと表示されている)と、ハードディスク96(図7では、HDDと表示されている)とを備える。これらの構成はバスにより互いに接続されている。ハードディスク96には、流動及び滞留クロメート処理プログラムが格納されている。流動及び滞留クロメート処理プログラムがメモリ94にロードされ、CPU93で実行されることにより、上述の供給機構制御部91及び開閉機構制御部92の動作を実現する。ハードディスク96は、記憶媒体であれば特に限定されない。たとえば、SSDでもよい。
[筒状金属部品用表面処理装置の動作について]
上述の構成を有する筒状金属部品用表面処理装置1の動作について説明する。図8は、本実施形態による筒状金属部品用表面処理装置1の動作フロー図である。図9は、図8の動作フローに対応した、制御装置9から供給機構6及び開閉機構8に出力される信号のタイミングチャート図である。以下、図8〜図13の説明では、供給機構6をポンプ6、供給管開閉機構81を供給バルブ81、排出管開閉機構82を排出バルブ82として説明する。しかしながら、供給機構6、供給管開閉機構81及び排出管開閉機構82の構成はこれに限定されない。
クロメート処理が開始されると、制御装置9は初めに流動クロメート処理を実施する。図8を参照して、開閉機構制御部92は、排出バルブ開放信号を出力して排出バルブ82を開放する(S1及びS821)。開閉機構制御部92はさらに、供給バルブ開放信号を出力して供給バルブ81を開放する(S1及びS811)。具体的には、図8及び図9を参照して、開閉機構制御部92は、時刻t0において(図9参照)、排出バルブ82への排出バルブ開放信号をL(Low)(閉鎖)からH(High)(開放)に切り替える(S1)。H(High)レベルの排出バルブ開放信号を受けた排出バルブ82は、排出管5を開く(S821)。開閉機構制御部92はさらに、時刻t0において、供給バルブ81への供給バルブ開放信号をL(閉鎖)からH(開放)に切り替える(S1)。Hレベルの供給バルブ開放信号を受けた供給バルブ81は、供給管41を開く(S811)。以上の動作により、時刻t0において、排出管5及び供給管41がともに開いて、クロメート処理液が流通可能になる。
続いて、供給機構制御部91は、ポンプ起動信号を出力してポンプ6を起動する(S2及びS61)。具体的には、図8及び図9を参照して、排出管5及び供給管41が開いた時刻t0の後の時刻t1において、供給機構制御部91はポンプ6へのポンプ起動信号をL(停止)からH(起動)に切り替える。Hレベルのポンプ起動信号を受けたポンプ6が駆動して(S61)、クロメート処理液貯留槽3から処理筐体2にクロメート処理液が供給される。クロメート処理液が処理筐体2に供給されると、流動クロメート処理が開始される。つまり、時刻t1から流動クロメート処理が開始する。流動クロメート処理中において、ポンプ6が供給するクロメート処理液の流量は、流動クロメート処理に適した流量に調整可能である。
制御装置9は、処理時間tf(tf=t2−t1)が、流動クロメート処理に必要な処理時間T1を経過したか判断する(S3)。処理時間tfが処理時間T1を超えた場合、制御装置9は、流動クロメート処理から滞留クロメート処理に切り替える。処理時間T1は対象材や処理条件等によって適宜調整可能である。
滞留クロメート処理に切り替わると、開閉機構制御部92は、排出バルブ閉鎖信号を出力して排出バルブ82を閉鎖する(S4及びS822)。開閉機構制御部92はさらに、供給バルブ閉鎖信号を出力して供給バルブ81を閉鎖する(S4及びS812)。具体的には、図8及び図9を参照して、開閉機構制御部92は、時刻t2において(図9参照)、排出バルブ82への排出バルブ開放信号をH(開放)からL(閉鎖)に切り替える(S4)。排出バルブ開放信号がL(Low)レベルに切り替わると、排出バルブ82は排出管5を閉じる(S822)。開閉機構制御部92はさらに、時刻t2において、供給バルブ81への供給バルブ開放信号をH(開放)からL(閉鎖)に切り替える(S4)。供給バルブ開放信号がLレベルに切り替わると、供給バルブ81は供給管41を閉じる(S812)。以上の動作により、時刻t2において、排出管5及び供給管41が閉鎖して、クロメート処理液が流通できなくなる。また、処理筐体2内のクロメート処理液の流動の発生が停止し、クロメート処理液が滞留する。クロメート処理液の流動の発生が停止した時点(時刻t2)で、滞留クロメート処理が開始する。
続いて、供給機構制御部91は、ポンプ停止信号を出力してポンプ6を停止する(S5)。具体的には、図8及び図9を参照して、排出管5及び供給管41がともに閉じた時刻t2の後の時刻t3において、供給機構制御部91はポンプ6へのポンプ起動信号をH(起動)からL(停止)に切り替える。ポンプ起動信号がLレベルに切り替わると、ポンプ6が停止して(S62)、クロメート処理液貯留槽3から処理筐体2へのクロメート処理液の供給が停止する。
制御装置9は、処理時間tr(tr=t4−t2)が、滞留クロメート処理に必要な処理時間T2を経過したか判断する(S6)。処理時間trが処理時間T2を超えた場合、制御装置9は、クロメート処理を終了する。開閉機構制御部92は、排出バルブ開放信号を出力して排出バルブ82を開放する(S7及びS823)。具体的には、図8及び図9を参照して、開閉機構制御部92は、クロメート処理液貯留槽3から処理筐体2へのクロメート処理液の供給が停止した後の時刻t4において(図9参照)、排出バルブ82への排出バルブ開放信号をL(閉鎖)からH(開放)に切り替える(S7)。Hレベルの排出バルブ開放信号を受けた排出バルブ82は、排出管5を開く(S823)。以上の動作により、時刻t4において、排出管5が開いて処理筐体2内のクロメート処理液がクロメート処理液貯留槽3に排出される。
以上の動作により、本実施形態の筒状金属部品用表面処理装置1は、供給管41及び排出管5を開いた状態とし、かつ、供給機構6を駆動してクロメート処理液を処理筐体2に供給する。筒状金属部品用表面処理装置1はさらに、供給管41及び排出管5を閉じた状態とし、かつ、供給機構6を停止してクロメート処理液の処理筐体2への供給を停止する。筒状金属部品用表面処理装置1は、上記2つの処理状態を続けて実施する。そのため、処理筐体2内のクロメート処理液が流動した状態と、処理筐体2内のクロメート処理液が滞留した状態との2種類のクロメート処理を一連の処理として実施できる。本実施形態の筒状金属部品用表面処理装置1であれば、1回のクロメート処理中に、流動クロメート処理と滞留クロメート処理とを続けて実施できる。
供給バルブ81、排出バルブ82及びポンプ6への各信号のタイミングは図8及び図9に限定されない。供給バルブ81、排出バルブ82及びポンプ6への各信号の出力のタイミングは、バルブの開放及び閉鎖の速度、クロメート処理液の流量及びクロメート処理液の粘度などの条件によって適宜変更できる。流動クロメート処理を実施するとき、供給管41及び排出管5を開いた状態とし、かつ、供給機構6を駆動してクロメート処理液を処理筐体2に供給できればよい。また、滞留クロメート処理を実施するとき、供給管41及び排出管5を閉じた状態とし、かつ、供給機構6を停止してクロメート処理液の処理筐体2への供給を停止できればよい。また、流動クロメート処理から滞留クロメート処理へと切替えができればよい。
供給バルブ81、排出バルブ82及びポンプ6への信号の出力は同時でもよい。たとえば、供給バルブ81及び排出バルブ82の閉鎖速度がポンプ6の停止速度と同等以上に早ければ、供給バルブ81、排出バルブ82及びポンプ6への信号の出力は同時でもよい。また、供給バルブ81及び排出バルブ82の閉鎖速度がポンプ6の停止速度よりも遅い場合であっても、処理筐体2内に十分なクロメート処理液を滞留させることが可能な速度で供給バルブ81及び排出バルブ82が閉鎖するのであれば、供給バルブ81、排出バルブ82及びポンプ6への信号の出力は同時でもよい。
図10は、図8とは異なる他の実施形態による筒状金属部品用表面処理装置1の動作フロー図である。図11は、図10の動作フローに対応した、制御装置9から供給機構6及び開閉機構8に出力される信号のタイミングチャート図である。
図8の動作フロー図と比較して、図10の動作フロー図では、工程S1及び工程S2の代わりに工程S10を含み、工程S4及び工程S5の代わりに工程S11を含む。工程S10は、図8における工程S1及び工程S2を同時に実施する。工程S11は、図8における工程S4及び工程S5を同時に実施する。図10のその他の動作フローは、図8と同じである。
具体的には、流動クロメート処理を実施する際、開閉機構制御部92は、排出バルブ開放信号及び供給バルブ開放信号を出力して排出バルブ82及び供給バルブ81を開放する(S10、S811及びS821)。同時に、供給機構制御部91は、ポンプ起動信号を出力してポンプ6を起動する(S10及びS61)。
図10及び図11を参照して、開閉機構制御部92は、時刻t5において(図11参照)、排出バルブ82への排出バルブ開放信号をL(閉鎖)からH(開放)に切り替える(S10)。開閉機構制御部92はさらに、時刻t5において、供給バルブ81への供給バルブ開放信号をL(閉鎖)からH(開放)に切り替える(S10)。時刻t5において、供給機構制御部91はポンプ6へのポンプ起動信号をL(停止)からH(起動)に切り替える。時刻t5において、流動クロメート処理が開始する。
制御装置9は、処理時間tf(tf=t6−t5)が、流動クロメート処理に必要な処理時間T1を経過したか判断する(S3)。処理時間tfが処理時間T1を超えた場合、制御装置9は、流動クロメート処理から滞留クロメート処理に切り替える。
流動クロメート処理から滞留クロメート処理に切り替わると、開閉機構制御部92は、排出バルブ閉鎖信号及び供給バルブ閉鎖信号を出力して排出バルブ82及び供給バルブ81を閉鎖する(S11、S812及びS822)。同時に、供給機構制御部91は、ポンプ停止信号を出力してポンプ6を停止する(S11及びS62)。
図10及び図11を参照して、開閉機構制御部92は、供給管41と排出管5とがともに開き、ポンプ6が起動した時刻t5の後の時刻t6において(図11参照)、排出バルブ82への排出バルブ開放信号をH(開放)からL(閉鎖)に切り替える(S11)。開閉機構制御部92はさらに、時刻t6において、供給バルブ81への供給バルブ開放信号をH(開放)からL(閉鎖)に切り替える(S11)。以上の動作により、時刻t6において、排出管5及び供給管41が閉鎖して、クロメート処理液が流通できなくなる。これにより、滞留クロメート処理が開始する。時刻t6において、供給機構制御部91はポンプ6へのポンプ起動信号をH(起動)からL(停止)に切り替える。
制御装置9は、処理時間tr(tr=t4−t6)が、滞留クロメート処理に必要な処理時間T2を経過したか判断する(S6)。処理時間trが処理時間T2を超えた場合、制御装置9は、クロメート処理を終了する。以降の動作は、上述のとおりである。
クロメート処理の開始時、つまり、流動クロメート処理の開始時と、滞留クロメート処理への切り替え時とで、供給バルブ81、排出バルブ82及びポンプ6への信号の出力のタイミングを変化させてもよい。たとえば、流動クロメート処理を実施する際、開閉機構制御部92及び供給機構制御部91は、排出バルブ開放信号、供給バルブ開放信号及びポンプ起動信号を同時に出力し、滞留クロメート処理に切り替える際には、排出バルブ閉鎖信号及び供給バルブ閉鎖信号とポンプ停止信号とを時間差で出力してもよい。
滞留クロメート処理に切り替える際、供給バルブ81、排出バルブ82及びポンプ6への信号の出力のタイミングのうち、排出バルブ82への信号の出力、すなわち排出バルブ82の閉鎖が最も早ければ、処理筐体2内にクロメート処理液を溜めやすい。そのため、滞留クロメート処理を実施するのに十分な量のクロメート処理液を処理筐体2内に溜めやすい。したがって、流動クロメート処理から滞留クロメート処理に切り替えるとき、開閉機構8を制御して排出管5を閉じた状態とし、その後、開閉機構8を制御して供給管41を閉じた状態とし、同時に供給機構6を停止してクロメート処理液を処理筐体2内に供給するのを停止してもよい。
図12は、図8及び図10とは異なる他の実施形態による筒状金属部品用表面処理装置1の動作フロー図である。図13は、図12の動作フローに対応した、制御装置9から供給機構6及び開閉機構8に出力される信号のタイミングチャート図である。
図10の動作フロー図と比較して、図12の動作フロー図では、工程S11の代わりに工程S12及び工程S13を含む。工程S12及び工程S13は、それぞれ図10における工程S11に含まれる動作の一部を実施する。図12のその他の動作フローは図10と同じである。
流動クロメート処理は上述の図10及び図11と同様に開始する。図12及び図13を参照して、制御装置9は、処理時間tf(tf=t8−t5)が、流動クロメート処理に必要な処理時間T1を経過したか判断する(S3)。処理時間tfが処理時間T1を超えた場合、制御装置9は、流動クロメート処理から滞留クロメート処理に切り替える。
流動クロメート処理から滞留クロメート処理に切り替わると、開閉機構制御部92は、排出バルブ閉鎖信号を出力して排出バルブ82を閉鎖する(S12及びS822)。その後、開閉機構制御部92は、供給バルブ閉鎖信号を出力して供給バルブ81を閉鎖する(S13及びS812)。同時に、供給機構制御部91は、ポンプ停止信号を出力してポンプ6を停止する(S13及びS62)。
開閉機構制御部92は、供給管41と排出管5とがともに開き、かつ、ポンプ6が起動した時刻t5の後の時刻t7において(図13参照)、排出バルブ82への排出バルブ開放信号をH(開放)からL(閉鎖)に切り替える(S12)。以上の動作により、処理筐体2からのクロメート処理液の排出が停止する。排出管5が閉じた時刻t7の後の時刻t8において、開閉機構制御部92は、供給バルブ81への供給バルブ開放信号をH(開放)からL(閉鎖)に切り替える(S13)。時刻t8において、供給機構制御部91は、ポンプ6へのポンプ起動信号をH(起動)からL(停止)に切り替える。以上の動作により、時刻t8において、供給管41が閉じて処理筐体内のクロメート処理液の流動の発生が停止する。クロメート処理液の流動の発生が停止した時点(時刻t8)で、滞留クロメート処理が開始する。
制御装置9は、処理時間tr(tr=t4−t8)が、滞留クロメート処理に必要な処理時間T2を経過したか判断する(S6)。処理時間trが処理時間T2を超えた場合、制御装置9は、クロメート処理を終了する。以降の動作は、上述のとおりである。
[筒状金属部品の製造方法]
本実施形態の筒状金属部品10の製造方法は、上記筒状金属部品用表面処理装置1を用いた製造方法である。製造方法は、流動クロメート処理工程と、その後に滞留クロメート処理工程とを含む。滞留クロメート処理工程は、流動クロメート処理工程に続けて実施する。つまり、本実施形態の製造方法は、1回のクロメート処理中に、流動クロメート処理工程と、滞留クロメート処理工程とを含む。
初めに、クロメート処理を実施する筒状金属部品10を準備する。筒状金属部品10は、一部又は全体が筒状で、ねじ部を有する内周面又はねじ部を有する外周面を有する端部を含む金属部品である。筒状金属部品10はたとえば、鋼管、ケーシングハンガー、ケーシングヘッド、チュービングハンガー、チュービングヘッド又はフロートシューである。本実施形態の製造方法は管用ねじ継手の製造に好適に適用可能である。
[流動クロメート処理工程]
流動クロメート処理工程では、筒状金属部品10の端部の内周面又は外周面を、流動しているクロメート処理液に浸漬する。流動クロメート処理工程では、クロメート処理液が流動した状態でクロメート処理する。流動クロメート処理の処理条件は適宜設定できる。流動クロメート処理の処理条件はたとえば次のとおりである。クロメート処理液の温度:10〜100℃、処理時間:1〜600秒、クロメート処理液の流速:0.1〜10.0m/s。
[滞留クロメート処理工程]
滞留クロメート処理工程は、流動クロメート処理工程に続けて実施する。滞留クロメート処理工程では、クロメート処理液の流動の発生を停止して、クロメート処理液を滞留させた状態でクロメート処理する。滞留クロメート処理の処理条件は適宜設定できる。滞留クロメート処理の処理条件はたとえば次のとおりである。クロメート処理液の温度:10〜100℃、処理時間:1〜600秒。
上記製造方法により、1回のクロメート処理中に、流動クロメート処理工程と、滞留クロメート処理工程とを実施すれば、筒状金属部品10の耐食性が高まる。
流動クロメート処理工程では、0.6〜1.5m/sの流速で、10〜30秒のクロメート処理を実施し、滞留クロメート処理工程では、15〜90秒のクロメート処理を実施してもよい。この場合、筒状金属部品10の耐食性がより安定して高まる。
[第2の実施形態]
本実施形態の筒状金属部品用表面処理装置1はクロメート処理に加えて、他の表面処理を実施してもよい。他の表面処理とはたとえば、めっき処理及びリン酸塩化成処理などである。以下、筒状金属部品用表面処理装置1が、クロメート処理に加えてめっき処理を実施する場合について説明する。
図14は、めっき液貯留槽を備える場合の、筒状金属部品用表面処理装置1の全体図である。図14を参照して、筒状金属部品用表面処理装置1は、めっき液貯留槽300と、分岐供給管412と、分岐排出管512と、供給切替え機構810と、排出切替え機構820とを備える。図14の筒状金属部品用表面処理装置1のその他の構成は図1と同じである。図15は、電極を備える場合の処理筐体2の概略構成を示す縦断面図である。筒状金属部品用表面処理装置1が、クロメート処理に加えてめっき処理を実施する場合、筒状金属部品用表面処理装置1は、処理筐体2内に、電極700と、通電棒710とを備える。図15の処理筐体2の他の構成は、図2の処理筐体2の構成と同じである。
[めっき液貯留槽]
めっき液貯留槽300は、処理筐体2に供給されるめっき液及び処理筐体2から排出されるめっき液を貯留可能である。図14では、めっき液貯留槽300は、直方体状の筐体である。めっき液貯留槽300の上面は開口していてもよいし、天板が設けられていてもよい。めっき液貯留槽300の形状は、めっき液を貯留可能であれば特に限定されない。
[分岐供給管]
分岐供給管412は、供給管41から分岐している。分岐供給管412内には、めっき液貯留槽300から処理筐体2に供給されるめっき液が流れる。分岐供給管412は、2つの端部を含む。分岐供給管412の2つの端部のうち、めっき液貯留槽300側に位置する端部を上流端414、処理筐体2側に位置する端部を下流端413と定義する。
分岐供給管412の下流端413は供給管41に接続する。分岐供給管412の上流端414は、めっき液貯留槽300内に配置される。分岐供給管412の上流端414は、めっき液貯留槽300に接続されてもよい。分岐供給管412の上流端414は、めっき液を分岐供給管412内に流入させることが可能である。分岐供給管412内のめっき液は、供給管41に流入する。めっき液は、供給管41を通って処理筐体2に運ばれる。図14では、分岐供給管412の数は1本であるが、2本以上でもよい。分岐供給管412の数は特に限定されない。分岐供給管412の断面は円でも良いし、円でなくてもよい。分岐供給管412には、不純物を取り除くフィルターが取り付けられてもよい。
[分岐排出管]
分岐排出管512は、排出管5から分岐している。分岐排出管512内には、処理筐体2からめっき液貯留槽300に排出されるめっき液が流れる。分岐排出管512は、2つの端部を含む。分岐排出管512の2つの端部のうち、処理筐体2側に位置する端部を上流端514、めっき液貯留槽300側に位置する端部を下流端513と定義する。
分岐排出管512の上流端514は、排出管5に接続する。分岐排出管512の下流端513は、めっき液貯留槽300内に配置される。分岐排出管512の下流端513は、めっき液貯留槽300に接続されてもよい。分岐排出管512の下流端513は、分岐排出管512内のめっき液を排出することが可能である。排出管5内のめっき液は、分岐排出管512内に流入する。めっき液は、排出管5から、分岐排出管512を通ってめっき液貯留槽300に排出される。図14では、分岐排出管512の数は1本であるが、2本以上でもよい。分岐排出管512の数は特に限定されない。分岐排出管512の断面は円でも良いし、円でなくてもよい。分岐排出管512には、不純物を取り除くフィルターが取り付けられてもよい。
[供給切替え機構]
供給切替え機構810は、供給管41上に配置される。供給切替え機構810は、クロメート処理液貯留槽3及びめっき液貯留槽300のいずれから処理筐体2にクロメート処理液又はめっき液を供給するか切替える。具体的には、供給切替え機構810は、供給管41と分岐供給管412とを接続又は遮断する。供給切替え機構810はさらに、供給管41と分岐供給管412とを接続している間、供給管41の分岐供給管412との接続箇所よりクロメート処理液貯留槽3側を遮断する。開閉機構8が、供給切替え機構810の機能を有しても良い。図14では、供給管開閉機構81が、供給切替え機構810の機能を有する。この様な供給切替え機構810はたとえば、ボールバルブ及びへポートバルブである。
めっき処理を実施する場合、供給切替え機構810は、めっき液貯留槽300から処理筐体2にめっき液が供給されるように流路を切り替える。具体的には、分岐供給管412と供給管41とをつないで、分岐供給管412内のめっき液を供給管41に流入させる。同時に、供給管41の、分岐供給管412との接続箇所よりクロメート処理液貯留槽3側を遮断する。これにより、めっき液のみを処理筐体2内に供給する。
めっき処理の後にクロメート処理を実施する場合、供給切替え機構810は、分岐供給管412と供給管41とを遮断する。これにより、供給管41へのめっき液の流入を止める。同時に、供給管41の流路をクロメート処理液貯留槽3から処理筐体2までつなげる。これにより、処理筐体2へクロメート処理液の供給が可能になる。
供給切替え機構810は、開閉機構8とは独立した構造であってもよい。たとえば、供給切替え機構810をボールバルブ又はヘポートバルブとし、開閉機構8をゲートバルブ、グローブバルブ又はバタフライバルブとしてもよい。
[排出切替え機構]
排出切替え機構820は、排出管5上に配置される。排出切替え機構820は、クロメート処理液貯留槽3とめっき液貯留槽300のいずれにクロメート処理液又はめっき液を排出するか切替える。具体的には、排出切替え機構820は、排出管5と分岐排出管512とを接続又は遮断する。排出切替え機構820はさらに、排出管5と分岐排出管512とを接続している間、排出管5の分岐排出管512との接続箇所よりクロメート処理液貯留槽3側を遮断する。開閉機構8が、排出切替え機構820の機能を有しても良い。図14では、排出管開閉機構82が、排出切替え機構820の機能を有する。この様な排出切替え機構820はたとえば、ボールバルブ及びへポートバルブである。
めっき処理を実施する場合、排出切替え機構820は、処理筐体2からめっき液貯留槽300にめっき液が排出されるように流路を切り替える。具体的には、分岐排出管512と排出管5とをつないで、めっき液を分岐排出管512に流入させる。同時に、排出管5の分岐排出管512との接続箇所よりクロメート処理液貯留槽3側を遮断する。これにより、めっき液のクロメート処理液貯留槽3への排出を抑制する。
めっき処理の後にクロメート処理を実施する場合、排出切替え機構820は、分岐排出管512と排出管5とを遮断する。これにより、分岐排出管512へのクロメート処理液の流入を止める。同時に、排出管5の流路を処理筐体2からクロメート処理液貯留槽3までつなげる。これにより、クロメート処理液貯留槽3にクロメート処理液の排出が可能になる。
排出切替え機構820は、開閉機構8とは独立した構造であってもよい。たとえば、排出切替え機構820をボールバルブ又はヘポートバルブとし、開閉機構8をゲートバルブ、グローブバルブ又はバタフライバルブとしてもよい。
[処理筐体(電極付き)]
図15は、電極700を備える処理筐体2の図である。図15を参照して、処理筐体2は電極700と、通電棒710とを備える。処理筐体2のその他の構成は、上述の処理筐体2と同じである。
電極700は、電気めっき処理に使用される公知の不溶性陽極である。電極700はたとえば、酸化イリジウムで被覆されチタン板や、ステンレス鋼板等である。電極700の形状は特に限定されない。電極700の形状はたとえば円筒状である。
電極700には、通電棒710が接続されている。通電棒710はたとえば、チタン棒や、ステンレス鋼棒などである。
電極700は、筒状金属部品10の外周側に配置される。電極700の形状が円筒状の場合、電極700は筒状金属部品10と同軸に配置される。電極700は、筒状金属部品10の雄ねじ部11に対向する。電極700と雄ねじ部11との間にめっき液を供給し、電極700と金属部品の筒状金属部品10との間に電位差を与えることにより、雄ねじ部11を含む筒状金属部品10の表面にめっき層が形成される。
[製造方法]
筒状金属部品用表面処理装置1を用いて、クロメート処理とめっき処理とを実施する場合の筒状金属部品10の製造方法を説明する。製造方法は、めっき処理工程と、クロメート処理工程とを含む。
[めっき処理工程]
めっき処理工程では、筒状金属部品10の内周面又は外周面をめっき液に浸漬する。めっき液はたとえば、亜鉛イオン:1〜100g/L及びニッケルイオン:1〜100g/Lを含むZn−Ni合金めっき液である。めっき液は他には、Zn−Fe合金めっき液、Zn−Co合金めっき液、Cu−Sn合金めっき液、Cu−Sn−Zn合金めっき液及びCu−Sn−Bi合金めっき液でもよい。めっき液の種類は特に限定されない。めっき処理は電気めっきにより実施される。電気めっきの処理条件は適宜設定できる。電気めっきの処理条件はたとえば次のとおりである。めっき液の温度:1〜100℃、めっき液のpH:1〜14、処理時間:1〜100分。
めっき処理工程が完了したら、処理筐体2からめっき液を排出する。本実施形態の筒状金属部品用表面処理装置1によれば、めっき処理工程の後にクロメート処理工程を実施する際、処理筐体2を取り外すことなく、クロメート処理工程を実施できる。
[クロメート処理工程]
クロメート処理工程では、流動クロメート処理と滞留クロメート処理とを実施する。流動クロメート処理及び滞留クロメート処理は上述のとおりに実施する。
以上の製造工程により、めっき層の上にクロメート被膜が形成された筒状金属部品10が製造できる。クロメート処理工程では、流動クロメート処理工程と滞留クロメート処理工程が実施される。そのため、筒状金属部品10の耐食性は高い。
[その他の槽]
上記説明では、筒状金属部品用表面処理装置1が、クロメート処理に加えてめっき処理を実施する場合について説明した。しかしながら、筒状金属部品用表面処理装置1は、クロメート処理に加えて、他の表面処理を実施してもよい。表面処理の種類に応じて、処理液を貯留する槽を追加してもよい。また、各槽に接続した分岐供給管412と分岐排出管512とを追加してもよい。
たとえば、クロメート処理の前後に筒状金属部品10、供給管41及び排出管5等の水洗を行う場合、筒状金属部品用表面処理装置1はさらに、水貯留槽と、水貯留槽に接続した分岐供給管412と、分岐排出管512とを備えてもよい。リン酸塩処理を実施する場合は、筒状金属部品用表面処理装置1はさらに、リン酸塩処理液貯留槽と、リン酸塩処理液貯留槽に接続した分岐供給管412と、分岐排出管512とを備えてもよい。他の表面処理は、水洗及びリン酸塩処理に限定されない。さらに貯留槽、分岐供給管412及び分岐排出管512を追加して、酸洗や脱脂等の前処理を実施しても良い。
[他の製造工程]
上記製造方法は、めっき処理工程及びクロメート処理工程に加えて、他の製造工程を含んでもよい。他の製造工程はたとえば、水洗、酸洗、脱脂、リン酸塩化成処理である。他の製造工程については、上述のとおり、筒状金属部品用表面処理装置1にさらに、貯留槽、分岐供給管412及び分岐排出管512を追加して筒状金属部品用表面処理装置1を用いて実施しても良いし、筒状金属部品用表面処理装置1を用いずに実施しても良い。筒状金属部品用表面処理装置1を用いない場合、従来の方法(たとえば浸漬、スプレー等)で行ってもよい。
[第3の実施形態]
噴射機構4は、噴射の角度を適宜調整可能である。噴射の角度を調整することで、より均一な厚さのクロメート被膜を形成できる。以下、クロメート液の噴射角度を調整する場合の実施形態について説明する。第3の実施形態において、筒状金属部品用表面処理装置1の構成は第1の実施形態の筒状金属部品用表面処理装置1と同じである。ただし、噴射機構4の噴射方向S1が調整されている。
図3は、噴射機構4を筒状金属部品10の軸方向から見た模式図である。図3を参照して、各ノズル42は、本体部42aと、先端部42bとを含む。本体部42aは、筒状金属部品10の中心軸X1に直交する平面と平行に伸びている。本体部42aは、筒状金属部品10の中心軸X1側から筒状金属部品10の径方向外側に向かって延びている。
先端部42bは、本体部42aと連続して設けられている。クロメート処理液は、本体部42a内を通り、先端部42bの噴射口から噴射される。先端部42bの噴射口は、筒状金属部品10の軸方向から見たときに、雄ねじ部11よりも筒状金属部品10の径方向外側に配置される。
各ノズル42は、先端部42bの噴射口から、筒状金属部品10の中心軸X1周りの一方向にクロメート処理液を噴射する。すなわち、各ノズル42の噴射方向S1は、筒状金属部品10の中心軸X1を中心として、右回り又は左回りに設定されている。各ノズル42から噴射されたクロメート処理液は、筒状金属部品10の中心軸X1を中心とする螺旋流を形成する。各ノズル42の噴射方向S1は、雄ねじ部11のねじの溝の方向と一致していることが好ましい。
図16は、ノズル42を本体部42aの延在方向R1から見た模式図である。先端部42bは、筒状金属部品10の中心軸X1に直交する平面に対して雄ねじ部11側に傾いている。筒状金属部品10の中心軸X1に直交する平面に沿う方向を基準方向V1とする。
基準方向V1と、ノズル42のクロメート処理液の噴射方向S1とがなす角を、傾斜角α1とする。図16に示すように、ノズル42を本体部42aの延在方向R1から見たとき、先端部42bは、基準方向V1から雄ねじ部11側へ傾斜角α1だけ傾いている。すなわち、ノズル42のクロメート処理液の噴射方向S1は、基準方向V1から雄ねじ部11側へ傾斜角α1だけ傾いている。
傾斜角α1は特に限定されない。一方で、傾斜角α1は20〜90°であってもよい。この場合、より均一な厚さのクロメート被膜を形成できる。傾斜角α1のより好ましい下限は30°である。傾斜角α1のより好ましい上限は60°である。
本実施形態では、ノズル42の本体部42aが筒状金属部品10の中心軸X1に直交する平面と平行に延び、ノズル42の先端部42bが当該平面に対して傾斜している。しかしながら、噴射方向S1の調整方法はこれに限定されない。たとえば、ノズル42の全体を筒状金属部品10の中心軸X1に直交する平面に対して傾斜させてもよい。
[製造方法]
製造方法は、クロメート処理工程を含む。クロメート処理工程では、流動クロメート処理工程と、滞留クロメート処理工程を実施する。各クロメート処理工程では、噴射方向S1を調整してクロメート処理液を噴射する。これにより、より均一なクロメート被膜を形成できる。クロメート処理の条件は上述のクロメート処理の条件と同じである。
[第4の実施形態]
第1〜第3の筒状金属部品用表面処理装置1は、筒状金属部品10の外周面に表面処理を実施する場合について説明した。筒状金属部品用表面処理装置1は、筒状金属部品10の内周面に表面処理を実施してもよい。筒状金属部品10の内表面に表面処理を実施する場合であっても、筒状金属部品用表面処理装置1の各構成は変わらない。しかしながら、処理筐体2内の各部の配置が第1〜第3の実施形態に係る処理筐体2と異なる。
[処理筐体]
図17は、図2とは異なる他の実施形態による処理筐体2の概略構成を示す縦断面図である。図17の処理筐体2を用いることにより、筒状金属部品10の雌ねじ部12を含む内周面にクロメート被膜を形成できる。
図17に示すように、処理筐体2は、第1の実施形態に係る処理筐体2と同様に、第1シール部材21と、第2シール部材22と、噴射機構4とを備える。
第1シール部材21は、筒状金属部品10内に配置される。第1シール部材21は、第1実施形態と同様に、筒状金属部品10の内周面に全周にわたって密着して、筒状金属部品10の内部を閉塞する。本実施形態の第1シール部材21は、筒状金属部品10内において、雌ねじ部12よりも筒状金属部品10の軸方向内側に配置されている。
第2シール部材22は、第1実施形態と同様に、筒状金属部品10の端部に取り付けられる。ただし、本実施形態では、クロメート処理の対象である雌ねじ部12が筒状金属部品10の内周面に形成されているため、筒状金属部品10の外周面において第2シール部材22が筒状金属部品10の外周面に接触する位置は特に限定されない。第2シール部材22は、より端部側で筒状金属部品10の外周面に接触することができる。
噴射機構4はノズル42及び配管43を含む。各ノズル42は、雌ねじ部12と第1シール部材21との間に配置されている。すなわち、各ノズル42は、筒状金属部品10内において、雌ねじ部12よりも筒状金属部品10の軸方向内側に配置されている。
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、各ノズル42は放射状且つ等間隔に配置されている。ノズル42の本数及び配置の間隔は特に限定されない。各ノズル42は、本体部42aと先端部42bとを含む。本体部42aは、筒状金属部品10の中心軸X1と実質的に平行に延びている。
各ノズル42は、第1の実施形態のノズル42と同様に、先端部42bの噴射口から中心軸X1周りの一方向にクロメート処理液を噴射する。各ノズル42から噴射されたクロメート処理液により、筒状金属部品10の中心軸X1を中心とする螺旋流が形成される。螺旋流の方向は、雌ねじ部12のねじの溝の方向と一致していることが好ましい。
図18は、図17の処理筐体2内のノズル42を本体部42aの延在方向R1から見た模式図である。先端部42bは、筒状金属部品10の中心軸X1に直交する平面に対して雌ねじ部12側に傾いている。傾斜角α1は特に限定されない。一方で、傾斜角α1は20〜90°であってもよい。この場合、より均一な厚さのクロメート被膜を形成できる。傾斜角α1のより好ましい下限は30°である。傾斜角α1のより好ましい上限は60°である。
クロメート処理液の噴射方向S1をどちらに傾かせるかは、雄ねじ部11又は雌ねじ部12とノズル42との相対的な位置関係に応じて決定すればよい。要するに、各ノズル42の噴射方向S1は、クロメート処理液が雄ねじ部11又は雌ねじ部12側に噴射されるように筒状金属部品10の中心軸X1に直交する平面に対してねじ側に傾いていればよい。
処理筐体2は、図17及び図18に限定されない。処理筐体2は、筒状金属部品10の端部に取り付け可能であり、雌ねじ部12を有する内周面と、クロメート処理液とを収容可能であれば特に限定されない。
[第5の実施形態]
第4の実施形態に示した処理筐体2を用いることにより、筒状金属部品10の内周面にクロメート被膜が形成できる。筒状金属部品10の内周面に対して、クロメート処理に加えてめっき処理を実施する場合、処理筐体2はさらに電極700及び通電棒710を備える。この場合、筒状金属部品用表面処理装置1の各構成は第2の実施形態において示した筒状金属部品用表面処理装置1と同じである。ただし、処理筐体2内の各構成の配置が異なる。また、処理筐体2は、第4の実施形態において示した処理筐体2の構成に加えて、第5の実施形態では、電極700と通電棒710とを備える。電極700及び通電棒710以外の処理筐体2内の各構成の配置は、第4の実施形態において示した配置と同じである。
図19は、図17とは異なる他の実施形態による電極700を備える処理筐体2の概略構成を示す縦断面図である。図19の処理筐体2は、図17の処理筐体2の構成としてさらに、電極700と、通電棒710とを備える。その他の構成は、図17の処理筐体2と同じである。
電極700は、筒状金属部品10の内周側に配置される。電極700は、筒状金属部品10の雌ねじ部12に対向する。電極700と雌ねじ部12との間にめっき液を供給し、電極700と金属部品の筒状金属部品10との間に電位差を与えることにより、雌ねじ部12を含む筒状金属部品10の表面にめっき層が形成される。
第4の実施形態及び第5の実施形態において示した筒状金属部品用表面処理装置1を用いた筒状金属部品10の製造方法は、第1〜第3の実施形態の製造方法のとおりである。
[変形例]
以上、実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
クロメート処理液貯留槽3の配置は図1に限定されない。クロメート処理液貯留槽3は、処理筐体2の上方に配置されてもよいし、下方に配置されてもよいし、処理筐体2と水平に配置されてもよい。クロメート処理液貯留槽3が処理筐体2よりも下方に配置されれば、処理筐体2から自然落下によりクロメート処理液を排出できる。そのため、クロメート処理液の排出が容易になる。したがって、クロメート処理液貯留槽3は、処理筐体2の下方に配置されてもよい。
クロメート処理液貯留槽3を処理筐体2の上方に配置する場合は、供給機構6は排出管5上に配置されてもよい。この場合、供給機構6は、排出管5内のクロメート処理液を処理筐体2からクロメート処理液貯留槽3に送る。クロメート処理液貯留槽3から自然落下により処理筐体2にクロメート処理液が供給される。
以下、本開示の実施例を説明する。ただし、本開示は実施例により制限されるものではない。
対象材として、外径:17.78cm(7インチ)、肉厚1.1506cm(0.453インチ)、鋼種:P110の鋼管に形成された管用ねじ継手VAM21(登録商標)のピン(鋼管の外周面に形成された雄ねじ部を含む鋼管の端部)を用いた。管用ねじ継手のピンにはZn−Ni合金めっき層が形成されていた。Zn−Ni合金めっき層は、厚さ約10μm、Ni含有量約13%、残部はZn及び不純物からなるめっき層であった。Zn−Ni合金めっき層を備えるピンの表面にクロメート処理を実施した。クロメート処理液は、大和化成株式会社製ダインクロメート(商品名)を用いた。クロメート処理を実施した後、目視によりクロメート被膜の品質(厚さの均一性及び付着量)を評価した。クロメート被膜は青〜黒に着色した被膜である。そのため、厚さの均一性及び付着量については、クロメート処理後のピンの表面の発色に基づいて評価を実施した。クロメート処理の条件を表2に示す。
表2中、流速(m/s)とは、供給管内のクロメート処理液の流量から算出した、クロメート処理液の移動速度である。傾斜角(°)とは、管用ねじ継手(鋼管)の軸方向に直交する方向に対する、クロメート処理液の噴射方向の傾斜角である。クロメート処理液の噴射方向は、鋼管の端部に向かって傾斜角(°)に表示された角度だけ傾斜していた。均一性とは、クロメート被膜の厚さの均一性を意味する。流動クロメート処理と滞留クロメート処理とは続けて実施した。
表2中、均一性についてE(Excellent)とは、均一にクロメート被膜が形成されていたことを示す。均一性についてA(Acceptable)とは、やや不均一な部分が見られたものの、許容範囲内であったことを示す。均一性についてN(Not Acceptable)とは、クロメート被膜が不均一に形成されていたことを示す。
表2中、付着量についてE(Excellent)とは、クロメート被膜が十分付着していたことを示す。付着量についてA(Acceptable)とは、やや少ないものの、許容範囲の量でクロメート被膜が付着していたことを示す。付着量についてN(Not Acceptable)とは、クロメート被膜の付着量が不十分であったことを示す。
[評価結果]
表2を参照して、試験番号1〜試験番号3では、流動クロメート処理の後に続けて滞留クロメート処理を実施した。そのため、クロメート被膜の均一性及び付着量がE(Excellent)又はA(Acceptable)であった。
一方、試験番号4及び試験番号5では、クロメート処理の間中撹拌を続けた。つまり、滞留クロメート処理を実施しなかった。そのため、クロメート被膜の均一性及び付着量がN(Not Acceptable)であった。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。