JP2020049412A - 低温作動可能なペロブスカイト型酸化物酸素吸着材およびその製造方法並びに酸素分離方法 - Google Patents

低温作動可能なペロブスカイト型酸化物酸素吸着材およびその製造方法並びに酸素分離方法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来よりも優れた酸素吸着特性を有するペロブスカイト型酸素分離用吸着材を提供する。
【解決手段】300℃〜400℃の作動温度で酸素を選択的に吸着する、少なくともSrおよびCoを含むペロブスカイト型酸化物粒子から成る酸素吸着材であって、前記ペロブスカイト型酸化物粒子が、Ag粒子またはAgとPdとの合金粒子から選ばれる貴金属粒子によって部分的に被覆されており、前記Ag粒子、またはAgとPdとの合金粒子の量が、前記ペロブスカイト型酸化物1モルに対して、0.035モル〜0.150モルであり、300℃での酸素吸着速度が20〜35×10−3mmol−O/g/minである酸素吸着材。
【選択図】図2

Description

本発明は、300〜400℃の低作動温度で酸素混合ガスから酸素分離することができる特定の貴金属粒子で被覆されたペロブスカイト型酸化物酸素吸着材、およびそのペロブスカイト型酸化物酸素吸着材の製造方法、その酸素吸着材を用いた酸素分離方法に関する。
空気のような酸素含有ガス流から酸素を分離し、除去し又は濃縮するプロセスは、重要な工業的技術である。このようなプロセスは通常、原料を空気に求めるため、原料コストがかからないことから、酸素に付加される価格は、(1)分離・濃縮設備の設備費、(2)設備の稼動電力費、(3)分離媒体が必要な場合はその価格に依存するのが通常である。
純酸素を分離し製造する場合、製造法の主流は深冷分離法である。深冷分離法は上記(1)設備費および(2)電力費が高いが、スケールメリットが大きいため、純酸素を多量に必要とする製鉄、化学工業などにおいて操業する場合に適している。
酸素富化空気(酸素濃度が20%以上、100%未満の空気)を少量必要とする場合には、吸着分離法が適している。現在、吸着分離法で通常用いられている吸着材はゼオライトである。
純酸素を少量必要とする場合に適応可能な酸素の製造法として、ペロブスカイト型酸化物を酸素分離用吸着材として用いる吸着分離法が検討されている。ペロブスカイト型酸化物を酸素分離用吸着材として用いた酸素製造装置の場合、酸素を吸着/脱着させる効率の観点から、700℃〜800℃又はそれ以上の比較的高温で、運転される。
特許文献1には、250〜800℃の高温で、酸素をペロブスカイト型吸着材に吸着させて、酸素を分離する方法が記載されている。使用するペロブスカイト型吸着材は、構造式がLa1-xSrxCo1-yFey3-z、BaxSr1-xFeO3-z(式中、xは0.0〜1.0であり、yは0.0〜1.0であり、そしてzは>0であって化学量論から決定される)で表され、空気中800℃で、1時間保持して活性化して用いられる。特許文献1には、このペロブスカイト型吸着材は、直径1.6mmφのペレットであることが記載されている。
特許文献2には、200〜800℃の高温で酸素をペロブスカイト型吸着材に吸着させて酸素を分離する方法が記載されている。使用するペロブスカイト型吸着材は、BaFeO3-δにYまたはInをドーピングしたペロブスカイト型酸化物あり、空気中800℃で、1時間保持して活性化して用いられる。特許文献2には、このペロブスカイト型吸着材は、直径1.6mmφのペレットであることが記載されている。
特許文献3には、300℃以上800℃以下の温度環境下で、酸素をペロブスカイト型吸着材に吸着させて酸素を製造する方法が記載されている。使用するペロブスカイト型吸着材は、組成式:SrCoxFe1-x3-σ(但し、0.6≦x<0.9、0≦σ≦0.5)で示されている。
特許文献4には、ペロブスカイト類似酸化物をPSA(Pressure Swing Adsorption)プロセスにおいて酸素吸着材として用い、200〜700℃の温度で作動させることが記載されている。使用するペロブスカイト型吸着材は、構造式が、La1-xSrxCo1-yFey3-z(式中、xは0.5〜1.0であり、yは0.0〜0.5であり、そしてZは>0である)によって表される立方晶ペロブスカイト型酸化物である。特許文献4には、酸素吸着材として使用するペロブスカイト類似酸化物は、粒子が小さくて比表面積が大きいのが望ましいとの記載があり、成形体を切断、切り出し、研磨、粉砕等の加工を施すことによってペレット、顆粒、球等の粒子、粉末等の所望の形状にするとの記載がある。
上述したように、特許文献1〜4には、酸素分離作動温度は200℃〜700℃、800℃と記載されている。下限の200℃は、ペロブスカイト型酸化物を吸着材として用いる酸素分離作動温度としては低温であるものの、上限の700℃、800℃は依然として高温である。また、これらの特許文献に記載の酸素分離作動温度は、酸素分離を行う前の活性化処理としての800℃への加熱を前提としている。従って酸素分離作動温度の下限が200℃であったとしても、800℃に加熱する活性化処理を要するので、低作動温度での酸素分離を実現できているとは言えない。
従来技術における、ペロブスカイト型酸化物の酸素分離用吸着材としての検討では、ペロブスカイト型酸化物の組成を変える事による酸素分離能力向上にフォーカスして議論がなされており、ペロブスカイト型酸化物の比表面積に着目した検討はなされてこなかった。
特許文献5,6には、ペロブスカイト型酸化物を担体として、触媒としてAgを用いる排ガス処理用触媒の発明が開示されている。ここで用いられている、ペロブスカイト型酸化物は、上述した特許文献1〜4に用いられているペロブスカイト型酸化物とは異なり、マンガンを主体とする化合物であり、本発明で検討している酸素吸着材の使用条件では、事実上酸素を吸着する機能を発現せず、単なるAgの担体と考えて良い。本担体の意義は、その製造方法では、ペロブスカイト型酸化物の原料であるLa,Sr,Mnの硝酸塩を含む水溶液と、Agを含む硝酸塩を含む水溶液を混合して製造する事で、ペロブスカイト型構造の格子内にAgが取り込まれた構造とし、Agのシンタリングを防いで微細に担持できる担体としての機能を発現させている。したがって、特許文献5,6に記載の排ガス処理用触媒の発明と、本願発明とは、全く異なる発明である。
本願発明者は、特許文献7において、ペロブスカイト型酸化物が、組成式(A):{La(1-x1)Srx1}{Co(1-y1)Fey1}O3-δ(A)
(但し0.7≦x1≦1.0、0.1≦y1≦0.2、δは0<δ<3である)、または下記組成式(B):{La(1-x2)Srx2}CoO3-δ(B)(但し0.7≦x2≦0.9、δは0<δ<3である)を有するペロブスカイト型酸化物からなるペロブスカイト型酸素分離用吸着材の表面積の、酸素吸着特性に及ぼす影響に着目して、ペロブスカイト型酸化物を粉砕し、微粒子化/高比表面積化させて、特定の平均粒径、特定のBET比表面積Sを有して、吸着材特性を向上させたペロブスカイト型酸化物粒子から成る酸素吸着材を提案した。
特開2008−012439号公報 特開2010−012367号公報 特開2015−093251号公報 特開2005−087941号公報 特開2015−066469号公報 特開2017−192940号公報 特開2017−185483号公報
高比表面積化によるペロブスカイト型酸素分離用吸着材の特性向上は、300〜400℃の低温作動領域でのみ、従来に比較して一定の優れた特性向上が得られるが、それ以上の温度では、特性向上効果は得られないことがわかった。この事実から、発明者は、酸素吸着材の低温領域における更なる特性向上のキーポイントは、酸素吸着材の表面での反応を促進させることにあると考え、酸素吸着材の表面の一部を貴金属で被覆することを検討し、特定範囲の貴金属量で、特異的に酸素吸着速度が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
これらの検討に基づき、本発明は、300〜400℃の低作動温度で酸素混合ガスから酸素分離することができる特定の貴金属粒子で被覆されたペロブスカイト型酸化物酸素吸着材、およびそのペロブスカイト型酸化物酸素吸着材の製造方法、その酸素吸着材を用いた酸素分離方法を提供するものである。
かくして、本発明によれば、下記を提供する:
(1) 300℃〜400℃の作動温度で酸素を選択的に吸着する、少なくともSrおよびCoを含むペロブスカイト型酸化物粒子から成る酸素吸着材であって、
前記ペロブスカイト型酸化物粒子が、Ag粒子またはAgとPdとの合金粒子から選ばれる貴金属粒子によって部分的に被覆されており、
前記Ag粒子、またはAgとPdとの合金粒子の量が、前記ペロブスカイト型酸化物1モルに対して、0.035モル〜0.150モルであり、
300℃での酸素吸着速度が20〜35×10−3mmol−O/g/minであるである酸素吸着材。
(2) 前記AgとPdとの合金粒子におけるAgの含有量が、75モル%以上であり、100モル%未満である前記(1)に記載の酸素吸着材。
(3) 前記ペロブスカイト型酸化物が、下記組成式(A)、
{La(1−x1)Srx1}{Co(1−y1)Fey1}O3−δ(A)
(但し0.7≦x1≦1.0、0.1≦y1≦0.2、δは0<δ<3である)
または下記組成式(B)、
{La(1−x2)Srx2}CoO3−δ(B)
(但し0.7≦x2≦0.9、δは0<δ<3である)
を有するペロブスカイト型酸化物から選択される前記(1)または(2)に記載の酸素吸着材。
(4) 前記ペロブスカイト型酸化物粒子が粉砕によって得られた粒子であり、平均粒径が150nm以上300nm以下であり、BET比表面積Sが、4.0≦S≦6.0(m2/g)の範囲であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の酸素吸着材。
(5) 酸素含有ガスを、前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の酸素吸着材に、300℃〜400℃の温度で接触させて、酸素を選択的に分離する、酸素分離方法。
300℃〜400℃の非常に低い作動温度で、従来よりも優れた酸素吸着速度を有して、効率良く酸素を選択的に吸着し、分離する、ペロブスカイト型酸化物酸素吸着材が提供される。
以下に記載する実施例の項の実施例1〜3、比較例1〜5における、Ag被覆されたペロブスカイト型酸化物粒子を、300℃で酸素吸着させた銀量‐酸素吸着速度の関係を示すグラフを表す。ここでグラフの横軸は、ペロブスカイト型酸化物粒子の量1モルに対する、被覆したAg粒子のモル量のパーセント表示、即ちAgの外数でのモルパーセントで表記している。 本発明のAg被覆されたペロブスカイト型酸化物粒子の顕微鏡写真を示す。Ag被覆粒子と判定された部分を矢印で示している。
本明細書で用いた用語の意味を以下に示す。
「作動温度」とは、空気を原料として酸素を分離し製造する際に、吸着材であるペロブスカイト型酸化物を加熱する温度である。すなわち、酸素を分離するときの温度を指す。
「熱処理温度」とは、ペロブスカイト型酸化物に貴金属を被覆する際に、貴金属の原料を貴金属粒子に変換するために行う熱処理の温度とする。
「仮焼温度」とは、ペロブスカイト型酸化物製造時の温度であって、一回目の熱処理(仮焼)を行う温度を指す。
「本焼成温度」とは、ペロブスカイト型酸化物製造時の温度であって二回目の熱処理(本焼成)を行う温度を指し、この操作を行うことによって、ペロブスカイト型酸化物構造が形成される。仮焼温度よりも高温である。
「酸素吸着特性」とは、「酸素吸着容量」および「酸素吸着速度」の2つの要素を含む。
「酸素吸着容量」は、ある時間内で酸素が吸着可能な量を示し、酸素吸着容量が大きいほど、吸着可能な酸素量が多いことを表す。
「酸素吸着速度」は、酸素吸着開始から1分経過時点での酸素吸着量を示し、酸素吸着速度が大きいほど、短時間で多量の酸素を吸着可能であることを表す。酸素吸着特性は、ペロブスカイト型酸化物の組成、立方晶ペロブスカイト相の純度、および比表面積や粒子形状などによっても変わる。
本発明のペロブスカイト型酸化物を用いる酸素吸着材においては、酸素分離特性として吸着容量だけではなく、吸着速度も重視している。これは酸素製造時に、吸着/再生切り替え直後の吸着量の立ち上がりが速い方が吸着、再生のサイクルを短時間で行うことが出来て単位時間当たりの酸素製造量を多くすることができるためである。本発明のペロブスカイト型酸化物は、吸着速度が非常に大きいので、酸素分離作動温度300℃において、酸素分圧切り替え後1分程度で、既に飽和量の1/3程度の多量の酸素を吸着させることが可能である。
本発明で提供するペロブスカイト型酸化物は、少なくともSrおよびCoを含むペロブスカイト型酸化物粒子から成る酸素吸着材であって、前記ペロブスカイト型酸化物粒子が、Ag粒子またはAgとPdとの合金粒子から選ばれる貴金属粒子によって部分的に被覆されており、Ag粒子、またはAgとPdとの合金粒子の量が、前記ペロブスカイト型酸化物1モルに対して、0.035モル〜0.150モルである酸素吸着材である。この酸素吸着材は、300℃での酸素吸着速度が、20〜35×10−3mmol−O/g/minであり、300℃〜400℃の作動温度で、高い効率で酸素を選択的に吸着する。本発明でAgを被覆しているペロブスカイト型酸素吸着材は、Agを被覆させない場合、300℃〜400℃で酸素吸着開始から1分を超えて100分程度酸素を吸着させ続けた場合、約200×10−3mmol−O/g程度の酸素吸着量が得られるものである。本発明においては、この1/10の吸着量である20×10−3mmol−O/g以上の吸着量が、Agを被覆しない場合の1/100の時間である1分以内で得られ、優れた酸素分離特性を有する事を示す、酸素吸着速度20〜35×10−3mmol−O/g/minの酸素吸着速度が得られる事を、本発明の効果の範囲として規定する。
(ペロブスカイト型酸化物の組成の説明)
ペロブスカイト型酸化物は、一般式ABOで表されるペロブスカイト型構造を有する。本発明のペロブスカイト型酸化物は、Aサイト中に少なくともSrを含み、Bサイト中に少なくともCoを含む組成を有し、300℃〜400℃の作動温度で酸素を選択的に効率良く吸着する物であれば、特に限定されないが、SrおよびCoの割合が本発明の範囲より高いもののうち、ペロブスカイト型酸化物の組成がSrCoO3-δの場合、ペロブスカイト型酸化物は六方晶ペロブスカイト構造となり、立方晶ペロブスカイト相の割合が非常に低くなる。酸素吸着特性に影響を及ぼすのは、ブラウンミラライト型や六方晶といったペロブスカイト類似構造を有する相ではなく、立方晶構造を有するペロブスカイト相である。従って立方晶ペロブスカイト相の割合が低い場合、酸素吸着特性が著しく低下する。結果として、300〜400℃という低作動温度での酸素分離が不可能となる。
好ましくは、Aサイト中SrがAサイト中の比率で約70〜100%、Bサイト中にCoがBサイト中の比率で約80〜100%であるペロブスカイト型酸化物である。SrおよびCoの比率がこの範囲外であると、酸素空孔量δが小さくなるため酸素吸着特性が悪い。酸素空孔はペロブスカイト型酸化物の結晶格子中に含まれる酸化物イオンの欠損で、この欠損(空孔)の量こそが吸着可能な酸素量であり、またこの空孔を介して酸素が拡散するため、酸素空孔量δが大きいと酸素吸着特性が高くなる。
本発明のペロブスカイト型酸化物は、AサイトにSrに加えて、Laを含んでいてもよく、またBサイトにCoに加えて、Feを含んでいてもよい。Laは3価、Srは2価、FeおよびCoは4価から3価の間の価数をとる陽イオンとしてそれぞれ存在している。2価のSrによってAサイトが一定量置換されていると、Aサイトが低価数状態となる。すると、BサイトのCoとFeはこれを補う様に価数が変化するが、これと同時に酸化物イオンも、欠損することによって電気的に中性になろうとし、結晶格子中に多量の酸素空孔が生じる。
本発明において好ましいペロブスカイト型酸化物の一つ目の組成範囲は、組成式(A):
{La(1-x1)Srx1}{Co(1-y1)Fey1}O3-δ(A)
但し上式中、0.7≦x1≦1.0、0.1≦y1≦0.2、0<δ<3、で表される。
また本発明において好ましいペロブスカイト型酸化物の二つ目の組成範囲は、組成式(B):
{La(1-x2)Srx2}CoO3-δ(B)
但し上式中、0.7<=x2<=0.9、0<δ<3、で表される。
これらの組成範囲のペロブスカイト型酸化物が好ましい理由は、これらの組成範囲のペロブスカイト型酸化物が、大きな酸素吸着速度を有して優れた酸素吸脱着特性を示し、ペロブスカイト型構造の安定性が高く、構造耐久特性に優れているためである。
上記の好ましい組成式(A)においては、Aサイト中にSrを0.7以上、1以下、Bサイト中にCoを0.8以上、0.9以下含む、SrおよびCoを高い割合で含む組成となっている。SrまたはCoの割合がこれより低い場合、酸素空孔量δが小さくなり、また酸素の結晶中での拡散速度が低下するため、酸素吸着特性が低下する。またCoの割合がこの範囲から外れ、0.9を超える場合には、結果としてFeの割合が小さくなり、Feによるペロブスカイト型結晶構造の安定化効果が不足し、耐久性が不足して使用中に吸着特性が低下する場合が生じ得る。この課題を解決するために、二つ目の好ましい組成範囲(B)を提示する。
組成範囲(B)においては、BサイトはCoのみであり、上記の如く、Feによるペロブスカイト型構造の安定化効果が期待できない。このため、組成範囲(B)においては、Aサイト中のSr含有量は0.7以上、0.9以下と、一つ目の組成範囲(A)よりもより限定された範囲となっている。これは、組成範囲(B)においてはペロブスカイト型構造の安定化効果をAサイトのLaのみに負っているためであり、本範囲を外れてSrの量が増え、Laの含有量が低下すると、ペロブスカイト型結晶構造の安定性が不足し、構造耐久性が不足して使用中に吸着特性が低下する問題を生じる。
組成式(A)および(B)中のδは酸素空孔量を示す。本発明のペロブスカイト型酸化物がとり得るδの値の範囲は0<δ<3である。δ=0の場合は単位格子中に酸素欠損を含まない。δ=0のペロブスカイト型酸化物は存在するが、本発明のペロブスカイト型酸化物の組成では酸素欠損を持たなければ電気的に中性になれないため、δ=0とはならない。δ<0の場合は酸化物イオンが過剰な状態である。そのようなペロブスカイト型酸化物は存在するが、本発明のペロブスカイト型酸化物の組成では主成分の一つであるコバルトの価数が、δ<0とはならないように変化するため、δは常に0以上の値である。
本発明に用いるペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物粉末を合成するための方法としては、機能性セラミックスの分野で広く用いられている、粉末原料を用いる、いわゆる固相合成法に依る事が、原料も安価であり、大量製造も容易で、低コスト化に好ましい。
原料としては、Srについては炭酸塩、もしくは水酸化物から選ぶ事が好ましい。またLa、Co、Feについては、酸化物を用いる事が好ましい。上記の各化合物粉末の平均粒径は、例えば0.5μm〜3μm程度である事が、良好な混合物を得て、均一なペロブスカイト型酸化物を得る上で好ましい。ここで平均粒径とは、原料粉末の粒度分布におけるD50(メジアン径)をいう。固相合成法においては、各原料粉末を所定の配合割合で混合する。この混合物を酸化性雰囲気(例えば大気中)又は不活性ガス雰囲気下で、900℃〜1200℃から選ばれる温度で焼成することにより、所望の組成を有するペロブスカイト型酸化物の単一相から構成される原料粉を作製する。
上記の焼成は、1回で行うことも可能であるが、より好ましくは複数回に分けて行い、間に乳鉢、乾式ボールミル、湿式ボールミル、ジェットミルなどによる粉砕過程を挿入する。この粉砕過程を焼成過程の間に挿入することにより、均質で良好な特性の原料粉を得ることが可能となる。焼成を、例えば仮焼成、本焼成の2回に分け、仮焼成は本焼成よりも100℃〜300℃程度だけ低温で行うことが好ましい。
900℃よりも低温の範囲で焼成すると、ペロブスカイト相の形成が不十分な場合が生じる。ペロブスカイト相の形成が不十分であると、酸素吸着特性が低下する。1200℃を超えた温度で熱処理をすると、ペロブスカイトの成分の揮発が生じて組成ずれを起こしたり、後工程の粉砕が行い難くなるなどの問題を生じ得る。
このようにして得られたペロブスカイト型酸化物粉末粒子の粒度分布は、例えば1μm以下から、10μm程度もしくはそれ以上まで広く分布しているが、通常は、1μm〜5μmの範囲となっている。
(ペロブスカイト型酸化物を被覆する貴金属の説明)
本発明の酸素吸着材に用いられる、ペロブスカイト酸化物粒子は、複数の貴金属粒子によって部分的に被覆されている酸化物粒子である。本願発明者は、ペロブスカイト酸化物粒子を部分的に貴金属で被覆することにより、酸素吸着材の表面での反応が促進され、酸素吸着材の低温領域における更なる特性向上が図られることを見出した。
酸素吸着材の表面反応とは、ペロブスカイト型酸素吸着材が動作する際に、吸着材料の粒子表面で、空気中の酸素分子が吸着材から電子(e-)を受け取ってイオン化し、ペロブスカイト型酸化物の結晶構造中の酸化物イオン空孔位置に、酸素イオンが取り込まれる過程(空気中から酸素吸着材への酸素吸着過程)と、その逆に吸着材料中の酸化物イオンが吸着材料の粒子表面で、吸着材料に電子を渡しつつ酸素分子を形成し、空気中に脱離する過程(酸素吸着材から吸着酸素を脱離回収する過程)を言う。
酸素吸着材の表面での上記反応を促進することができる貴金属は、Agである。ペロブスカイト酸化物粒子の表面をAgで部分的に被覆すると、特異的に優れた酸素吸着材の低温動作特性の向上をもたらすことを見出した。また、AgとPdが共存する合金を用いても一定の特性向上が得られることも分かった。
ペロブスカイト酸化物粒子の表面をAgで部分的に被覆すると、特異的に優れた酸素吸着材の低温動作特性の向上をもたらすことの理由は、現時点では明確ではないが、この効果発現のメカニズムは、以下のように考えることができるが、本発明は、このメカニズムに限定されるものではない。
ペロブスカイト酸化物粒子の表面を、Agを主成分とする貴金属粒子で部分的に被覆することで、当該貴金属粒子が、ペロブスカイト酸化物粒子の表面における電子(e-)の貯蔵場所の役割を果たしていると考えられる。この電子の貯蔵場所が粒子表面に設けられることによって、ペロブスカイト酸化物粒子の表面での酸素の出入り(表面反応)に伴う、空気中の酸素分子またはペロブスカイト酸化物材料中の酸化物イオンと、ペロブスカイト酸化物との間の電子授受が促進され、表面反応が促進されると考えられる。
一方、ペロブスカイト型酸化物が、酸素を吸収、放出できるのは、ペロブスカイト型酸化物に含まれる、CoおよびFeが、価数変化が容易な特性(混合原子価)を有することに依っている。中でも、ペロブスカイト型酸化物において含有量の多いCoの状態が重要であると考えられる。ここで、特にAgはCoと近い電気陰性度およびイオン化エネルギーを有している。Agが粒子表面に存在してもペロブスカイト型酸化物中のCoの状態を大きく変化させず、ペロブスカイト型酸化物のもともと有している特性を損なうことなく、これに追加される形で、Agによる電子授受促進機能による利得が得られることが予想される。
これに対し、Ag以外の貴金属(Pd、Pt、Rh)の電気陰性度は、Ag<Pd<Pt=Rhであり、Coとは異なる電気陰性度を有していることから、これらの金属で被覆すること自体がCoの状態を変化させ、酸素の吸収、脱着特性に悪い影響を与える。PtとRhは価格も高く、被覆しても得られる効果は、ほとんどなく、これらの貴金属粒子で被覆するメリットは無い。Pdを用いて得られる効果は、Agで被覆した場合の約1/2である。Pdは一般にAgよりも高価な場合が多く、特性的、コスト的に望ましい元素とは言えないが、Ag−Pd合金として用いるとAg単体で用いる場合に次いで望ましい特性が得られる。
本発明の酸素吸着材において、ペロブスカイト型酸化物粒子が、Ag粒子またはAgとPdとの合金粒子から選ばれる貴金属粒子によって部分的に被覆されている量は、ペロブスカイト型酸化物粒子表面積に占める貴金属粒子の量によって決定されるが、この量を特定することは実際的に困難であるので、本発明では、酸素吸着材の製造時に使用するペロブスカイト型酸化物の量1モルに対して混合する金属粒子のモル数で規定する。
本発明の酸素吸着材に用いる貴金属の量は、貴金属がAgのみである場合にはAgのモル量、貴金属がAg−Pd合金である場合には、合金中のAgのモル量とPdのモル量の合計のモル量で表記する。本発明では、ペロブスカイト型酸化物が含有しているCoとFeのモル量の和を、ペロブスカイト型酸化物のモル量と定義する。AgまたはAg−Pd合金粒子の必要量は、ペロブスカイト型酸化物1モルに対して、0.035モル〜0.150モルの範囲である。
このペロブスカイト型酸化物の1モル量に対して、使用するAg粒子のモル量、もしくはAg−Pd合金粒子のモル量を求めて、Ag粒子もしくはAg−Pd合金粒子のモル量とする。AgもしくはAg−Pd合金の量が0.035モル未満では、Ag粒子、もしくはAg−Pd合金粒子を被覆した効果が十分には得られない。一方、Ag粒子もしくはAg−Pd合金粒子の量が0.150モルを超えると、Ag粒子もしくはAg−Pd合金粒子を被覆しない場合よりは酸素吸着材としての特性は優れてはいるものの、最も特性が向上する量の場合に比べて、得られる特性向上効果は目減りしており、逆に高価なAgもしくはAg−Pd合金の量が多くなっていて、コストアップとなってしまっており、本発明の効果が得られない。本発明における貴金属量は、より好ましくは、AgもしくはAg−Pd合金の量はペロブスカイト型酸化物1モルに対して0.05モル〜0.150モルの範囲である。
ペロブスカイト型酸化物を被覆する貴金属粒子の大きさは、FE−SEMなどの元素分析機能付きの走査型電子顕微鏡で酸素吸着材を観察する事により確認できる。酸素吸着材のSEM像を写真撮影すると共に、元素分析機能を用いて、当該SEM像に映るペロブスカイト型酸化物粒子の表面に存在する、被覆粒子の構成元素を個別に確認し、Agが検出された場合には、当該被覆粒子のサイズをSEM写真上で確認する。各被覆粒子の粒径としては、写真上で最も長い粒径部分(長径)を測定し、代表値とする。この貴金属被覆粒子のサイズの求め方は、被覆粒子の形状が必ずしも半球形状ではなく、歪んだ形をしている場合が多いため、採用している。一つの試料のSEM像において、複数の貴金属被覆粒子を見出し、これらの長径の平均値を算出して、当該試料の貴金属被覆粒子径と定義する。
貴金属被覆粒子の大きさは、ペロブスカイト型酸化物1モルに対して使用するモル量、更には貴金属の原料の硝酸塩を貴金属に還元するための熱処理温度と関係する。例えば、Ag単独粒子の場合であって、Agの量がペロブスカイト型酸化物1モルに対して0.075モル(ペロブスカイト型酸化物が(La0.1Sr0.9)(Co0.9Fe0.1)O3−δである場合、得られる酸素吸着材の4質量%に相当)である場合のAg被覆粒子は、長径が0.14μm〜0.25μm程度であり、この試料の被覆粒子径は0.2μmと求められた。同様に、Agの量が0.185モル(得られる酸素吸着材の10質量%に相当)である場合のAg粒子は、長径が0.62μm〜1.66μm程度であり、この試料の被覆粒子径は1.10μmと求められた。また、同様に、Agの量が0.37モル(得られる酸素吸着材の20質量%に相当)である場合のAg粒子は、長径が0.43μm〜1.60μm程度であり、この試料の被覆粒子径は1.00μmと計算された。したがって、本発明においては、300℃での酸素吸着速度で20〜35×10−3mmol−O/g/minが得られる試料については、貴金属被覆粒子の粒子径(長径)は、0.10μm〜0.30μmであり、この範囲の貴金属粒子径を有する事が好ましいと考えられる。
上記より、Agの量が、本発明の範囲を超えて多い0.185モルではAg被覆粒子の長径が平均で約1.1μmに達している事となる。これに対して本発明で用いているペロブスカイト型酸化物の粒径は、代表的には1.0〜5.0μmの範囲であり、平均値2.5μmを採用すると、Ag粒子の粒径(長径)が1.1μmとは、Ag被覆粒子1個でペロブスカイト型酸化物の粒径の約1/2に達しており、Agのペロブスカイト型酸化物に対する被覆の仕方は大変ムラの大きな状態である。またさらにこれ以上Agの量を増やしていくと、Ag粒子の一部はペロブスカイト型酸化物の表面から剥離し、単独の粒子として存在するものが生じてくる。このような剥離したAgの粒子は、酸素吸着特性の向上には寄与せず、好ましくない。
一方、本発明の特に好ましいAgの量の範囲である0.035モル〜0.150モルにおいては、熱処理も後述する好ましい範囲にて適切に行われていれば、Ag被覆粒子の長径は0.1μm〜0.3μmの範囲であり、上記と同様にペロブスカイト型酸化物の粒径は平均2.5μmであり、原料として添加したAgが全て酸素吸着材に残留し、ペロブスカイト型酸化物を被覆したと仮定すると、被覆するAg粒子のサイズと、ペロブスカイト型酸化物粒子1個あたりを被覆しているAg粒子の個数は変化するものの、個々のAg粒子によって被覆される面積を総和すれば、ペロブスカイト型酸化物の表面の5〜24%程度が銀粒子に被覆されていると予想される。またこのAgの量の範囲であれば、Agの大多数はペロブスカイト型酸化物の表面を被覆しており、酸素吸着特性の向上に寄与すると期待される。
使用するペロブスカイト型酸化物の種類が変わっても、同様の結果が得られると考えられる。
Ag粒子単体の代わりにAgとPdとの合金粒子を用いる場合は、合金におけるAgの含有量が、75モル%以上であり、100モル%未満である合金粒子が好ましい。Pdを含有すると、Ag単体よりも貴金属粒子の粒径の安定性が高く、耐久性が向上するので好ましい。一方、貴金属被覆による酸素吸着材としての特性向上は、Ag単体の方が、AgとPdとの合金粒子よりも優れているため、Agの含有量は75モル%以上であることが好ましい。
ペロブスカイト型酸化物粒子を、Ag粒子またはAgとPdとの合金粒子から選ばれる貴金属粒子で被覆する方法は、従来から用いられている種々の方法を採用することができる。例えば、数平均粒径が1μm〜5μmになるように調整したペロブスカイト型酸化物粉末粒子を、所定の量のAg粒子、またはAgおよびPdの硝酸塩を溶解した溶液に入れ攪拌した後、乾燥させ、600℃〜800℃の温度で熱処理をおこなって、酸化物粒子表面にAg粒子、またはAgとPdとの合金粒子を残す方法が挙げられる。このようにAg粒子またはAgとPdとの合金粒子の原料を溶液に溶解させ、ペロブスカイト型酸化物粉末粒子の表面に析出させる方法により、貴金属粒子の大部分がペロブスカイト型酸化物の表面を被覆して存在させることができる。
貴金属粒子の被覆における熱処理は、硝酸銀や硝酸パラジウムなどの貴金属粒子の原料を、貴金属粒子に変換するためのプロセスである。この温度が低温すぎると、原料からの貴金属粒子化が十分に進行せず、また当該温度が高温すぎると、貴金属粒子のサイズが大きく成長してしまい、いずれも本発明の本来の効果が得られにくくなる。このため本発明における熱処理温度は、600℃以上800℃以下である事が望ましい。
本願においては、貴金属粒子はペロブスカイト型酸化物の格子内に存在させることは無意味であり、ペロブスカイト型酸化物の粒子の表面に存在して被覆する事で、初めて機能が発揮される。このため本願発明においては、例えば、一度ペロブスカイト型酸化物を合成し、そののち硝酸銀水溶液と反応させる事によって、Ag粒子をペロブスカイト型酸化物の格子内ではなく、粒子表面に被覆・配置させている。
本発明の提供する低温動作化技術は、ペロブスカイト型酸化物粒子の粒径に係らず、効果を発揮する事が可能である。一方、本発明の、貴金属粒子によって部分的に被覆されているペロブスカイト型酸化物酸素吸着材の製造は、特許文献7に記載されるようにペロブスカイト型酸素分離用吸着材をさらに粉砕して、微粒子化/高比表面積化された、特定の平均粒径、特定のBET比表面積Sを有する、ペロブスカイト型酸化物粒子を用いることもできる。
特許文献7に記載の特定の平均粒径、特定のBET比表面積Sを有する、ペロブスカイト型酸化物粒子の製造方法においては、粉砕に、直径0.5mm〜0.1mm程度のセラミックスボールを用いる、ビーズミル等の媒体撹拌型粉砕装置を用いることで、容易に前記の微粉化が可能である。好ましい粒径の粉末を得るのに必要な粉砕時間は、粉砕装置の方式にも依って変化するが、ビーズミルを用いた場合には平均粒径が150nm以上300nm以下であり、BET比表面積が4.0≦S≦6.0(m2/g)の範囲に調整するのに必要なプロセス時間は15分以上25分以下程度である。
本発明の貴金属粒子で被覆されたペロブスカイト型酸化物酸素吸着材の酸素吸着・分離特性を以下、実施例を用いて説明する。
酸化ランタン(La23)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、酸化コバルト(Co34)、酸化鉄(Fe23)を、表1に示した組成になる様に秤量し、5φのジルコニアボールを用い、エタノールを分散媒として湿式ボールミル混合した。得られた混合粉を角サヤに入れて空気雰囲気で、表1に示した仮焼温度で12時間焼成した。得られた仮焼粉をボールミルで解砕し、再び角サヤに入れて空気雰囲気で、表1に示した本焼成温度で5時間焼成した。得られた本焼成粉を再度ボールミルで解砕して、貴金属粒子で被覆されるペロブスカイト型酸化物粉末とした。
得られたペロブスカイト型酸化物粉末粒子を、所定のAgが被覆されるように定めた量の硝酸銀を溶解した硝酸銀溶液に入れ、攪拌した後、乾燥させ、1時間空気雰囲気にて熱処理をおこなって、目的とするAg被覆されたペロブスカイト型酸化物粉末粒子を得た。
尚、表1の項目「Ag−Pd合金におけるAgのモル%」の欄の100%の値は、Ag単体の場合を意味する。
酸素吸着速度と酸素吸着容量は、熱天秤法(TG−DTA)により測定した。装置はリガクのThermo Plus TG8120を用いた。試料をTG−DTA中で300℃に加熱・保持し、雰囲気ガスを流して試料周囲の酸素分圧を変化させた。雰囲気ガスはガス導入ポートG2から導入し、炉体前面のG4ポートから装置外に排気した。ガスの導入量は空気用のマスフローコントローラーで150cc/minに制御した。吸着ガスを空気、脱着ガスを窒素として酸素分圧を変化させ、雰囲気を30分毎に切り替えた際の、30分間での合計の質量変化を酸素吸着容量とした。酸素吸着速度は、雰囲気を窒素ガスから空気に切り替えた後、1分経過時点での、窒素ガス雰囲気中での質量からの変化(重量増加)から算出した。表1に、試料の酸素吸着速度を示した。
比較例1〜5と、実施例1〜4は、ペロブスカイト型酸化物の組成、仮焼温度、本焼成温度、貴金属の種類、貴金属被覆時の熱処理温度を同一とし、貴金属量を変化させた場合の結果である。この結果を図1のグラフに表す。比較例1は貴金属の量が0の場合である。このため酸素吸着速度が極めて低く、酸素吸着材としての性能が低い。比較例2は、貴金属を被覆しているものの、量が少なく、酸素吸着速度は5×10−3mmol−O/g/minであり、未だ低く、必要な効果が十分に得られていない。一方、実施例1〜3の貴金属量では、比較例1、2よりも大きな酸素吸着速度が得られている。中でも、実施例2は、特に優れた35×10−3mmol−O/g/minの酸素吸着速度が得られている。
一方、比較例3〜5は、貴金属量が多い例である。これらの酸素吸着速度は、実施例1〜3と比較して、高価な貴金属でより多く被覆されているにも係らず、酸素吸着材としての特性は逆に低くなってしまっており、必要な効果が十分に得られていない。
実施例5は、実施例3と貴金属量が同じで、合金粒子におけるAgのモル%と、製造の際の貴金属被覆時の熱処理温度を変化させた場合の結果である。実施例5はAgとPdの合金粒子におけるAgの割合が、75%であり、熱処理温度も製造時の好ましい範囲内であるため、特に優れた26×10−3mmol−O/g/minの酸素吸着速度を有している。しかしこれも同じ貴金属量で、全量がAgである実施例3と比較すると、Pdを含有しているために若干特性が低下している。
一方、比較例6は、合金粒子におけるAgの割合が実施例5よりも少なく、請求項2に示す本発明で好ましい範囲の外である。さらに比較例6においては、貴金属量は0.185モルと多く、また熱処理温度も900℃と高い温度となっている。このため貴金属粒子の長径の平均値が1.5μmと大きくなっていて、酸素吸着速度は5×10−3mmol−O/g/minと低くなっている。これは、合金粒子において、より優れた酸素吸着速度を発揮するAgの割合が低くなり、これに加えて貴金属の量と熱処理温度も高すぎ、貴金属粒子の凝集が進行して粒径が粗大になり、ペロブスカイト型酸化物表面での貴金属被覆粒子の分布がまだらとなったためと考えられる。
実施例6〜8は、ペロブスカイト型酸化物の組成が、実施例1〜5と異なる例である。また比較例7と8は、それぞれ実施例6、8とペロブスカイトの組成は同じではあるが、貴金属の被覆がされていない例である。比較例7および8は、貴金属の被覆が無いため、酸素吸着速度は比較例1と同様に低い値となっている。一方比較例7に対し、実施例6はペロブスカイト型酸化物の組成は同じで、本発明の範囲内の量の貴金属の被覆がされており、酸素吸着速度は高い特性となっている。実施例7は、実施例6に対してペロブスカイト型酸化物のAサイトにより多くのLaを含有し、Bサイトにより多くのFeを含有している。このため実施例7の酸素吸着速度は、実施例6と比較すると一段低くなっているものの、なお高い特性を有している。
比較例8と実施例8は、使用したペロブスカイト型酸化物の組成が、AサイトにLaを含有していないが、Feのペロブスカイト相の安定化効果によって、ペロブスカイト相が得られているものである。但し、比較例8は、製造時の好ましい範囲よりも高温で本焼成を行っており、また貴金属を被覆していないので比較例8の酸素吸着速度特性は低い。実施例8は、32×10−3mmol−O/g/minと、高い吸着特性が得られている。
比較例9と10は、使用したペロブスカイト型酸化物の組成が、実施例8と同様にAサイトにLaを含まず、なおかつBサイトにFeも含有しないため、ペロブスカイト相を安定化させる効果を有するカチオンを含有しておらず、ペロブスカイト型結晶構造の安定性が不十分であり、ペロブスカイト型結晶構造が異なっている。この材料は酸素吸着速度から分かるように、元々の酸素吸着速度が比較例1のペロブスカイト型構造と比較しても非常に低い。比較例10は、比較例9で使用したペロブスカイト型酸化物に貴金属を被覆した例である。また比較例10は、製造条件他の例と異なり、焼成を低温の800℃で1回だけ実施して、本焼成を行っていない。更に貴金属の量が、他の例よりも多くなっている。このため比較例10においては、貴金属で被覆されているにもかかわらず、酸素の吸着特性が極めて低くなっている。
実施例9、10は、使用したペロブスカイト型酸化物の組成が、Feを含まない例である。Feを含んでいなくても、Laのペロブスカイト相の安定化効果によって、ペロブスカイト相が得られている。また、実施例9においては、本焼成温度が1100℃と少し低いが、この温度は、製造時の好ましい温度範囲であり、34×10−3mmol−O/g/minの高い酸素吸着速度が得られている。
比較例11は、使用したペロブスカイト型酸化物の組成のSrの含有量が少なく、本焼成温度が高温となっている例である。また使用した貴金属の量も少ない。このため、比較例11は実施例9、10と比較すると、酸素吸着速度は大幅に低くなっている。
実施例11および12は、ビーズミル粉砕による微粉砕を行うと共に、粉砕時間を変化させ、BET比表面積を4.0≦S≦6.0(m2/g)の範囲に調節した以外は実施例4と同条件としたものである。微粉砕によって比表面積が増える事により、微粉砕を行っていない実施例4よりも更に酸素吸着速度を向上できている事が確認できる。この結果、本発明の効果を得るためには必ずしも比表面積の高いペロブスカイト型酸化物を用いる必要はないものの、適切な範囲で比表面積を高めたならば、更に相乗効果で高い特性が得られることが確認できた。
上記の実施例は、TG−DTAにおいて吸着ガスを空気、脱着ガスを窒素として酸素分圧を変化させ、酸素吸着速度を評価している。これに対し実機として、実験用のPSAシステムを用い、実施例2で得られたペロブスカイト型酸化物粉末を用いて、300℃〜400℃の温度で、吸着分離試験を行った(実施例13)。この際、酸素の脱着を、窒素を流して酸素分圧を下げるのではなく、真空ポンプを利用して酸素分圧を低下させ、真空ポンプからの排気ガスを製品の酸素ガスとして回収して、酸素の脱着を、酸素分圧で確認した。実施例11で用いた吸着材は、本発明の範囲内の吸着材であり、これを用いて、28×10−3mmol−O/g/min程度の高い酸素吸着速度が得られたことから、本発明の提供する酸素分離方法は、実稼働において効果が得られる事が確認された。

Claims (5)

  1. 300℃〜400℃の作動温度で酸素を選択的に吸着する、少なくともSrおよびCoを含むペロブスカイト型酸化物粒子から成る酸素吸着材であって、
    前記ペロブスカイト型酸化物粒子が、Ag粒子またはAgとPdとの合金粒子から選ばれる貴金属粒子によって部分的に被覆されており、
    前記Ag粒子、またはAgとPdとの合金粒子の量が、前記ペロブスカイト型酸化物1モルに対して、0.035モル〜0.150モルであり、
    300℃での酸素吸着速度が20〜35×10−3mmol−O/g/minである酸素吸着材。
  2. 前記AgとPdとの合金粒子におけるAgの含有量が、75モル%以上であり、100モル%未満である請求項1に記載の酸素吸着材。
  3. 前記ペロブスカイト型酸化物が、下記組成式(A)、
    {La(1-x1)Srx1}{Co(1-y1)Fey1}O3-δ(A)
    (但し0.7≦x1≦1.0、0.1≦y1≦0.2、δは0<δ<3である)
    または下記組成式(B)、
    {La(1-x2)Srx2}CoO3-δ(B)
    (但し0.7≦x2≦0.9、δは0<δ<3である)
    を有するペロブスカイト型酸化物から選択される請求項1または2に記載の酸素吸着材。
  4. 前記ペロブスカイト型酸化物粒子が粉砕によって得られた粒子であり、平均粒径が150nm以上300nm以下であり、BET比表面積Sが、4.0≦S≦6.0(m2/g)の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸素吸着材。
  5. 酸素含有ガスを、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素吸着材に、300℃〜400℃の温度で接触させて、酸素を選択的に分離する、酸素分離方法。
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