JP2020041192A - 磁歪合金の製造方法および磁歪合金 - Google Patents
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Abstract
Description
磁歪とは、磁場の印加によって磁性体が歪む特性である。これに対して、逆磁歪とは、歪まされた磁性体によって磁場が変化する特性である。そこで、磁性体を歪ませることによって変化した磁場から発電するデバイスが提案されている。このような発電デバイスに磁歪合金を用いるほか、磁場の印加によって歪まされた磁歪合金をアクチュエータとして利用することも検討されている。
よって、磁歪合金の磁歪特性を高めるうえで改善の余地がある。
(2)ここで開示する磁歪合金は、Fe,Si,Gaおよび不可避的不純物元素を含有する。
本願の発明者らは、方向性電磁鋼板として一般的に用いられるFe-Si基合金にGaを含有させる手法を見出した。すなわち、Fe-Si基合金にGaを溶融メッキ処理したうえで焼鈍することにより、Fe-Si基合金にGaを浸透させる手法である。
そのほか、本実施形態の「数値X〜数値Y」なる表現は、数値X以上であって数値Y以下の範囲を意味する。
以下、磁歪合金の製造方法を説明する。その後に、本方法で製造された磁歪合金を説明する。
[1.製造方法]
本製法では、図1に示すように、下記の工程1〜4が順次実施されて磁歪合金が製造される。
・工程1:Fe-Si基合金を準備する手配工程(ステップS1)
・工程2:Fe-Si基合金にGaをメッキ処理する表面処理工程(ステップS2)
・工程3:外形を整える成形工程(ステップS3)
・工程4:Fe-Si基合金にGaを浸透させる焼鈍工程(ステップS4)
以下、上記の各工程について、順を追って説明する。
手配工程では、Fe-Si基合金の合金板を準備する。
ここでは、準備するFe-Si基合金として方向性電磁鋼板を例示する。
方向性電磁鋼板は、一般的に2.0〜4.0質量%のSiを含有する多結晶材料である。この方向性電磁鋼板は、振動しやすい板厚(たとえば0.25mmや0.30mm)であることが好ましい。
このように、結晶配向度(方向集積度)の高い方向性電磁鋼板を、磁歪合金に製造される基材として用いることが好ましい。
上記の手配工程が実施されると、つぎに説明する表面処理工程が実施される。
表面処理工程では、手配工程で準備されたFe-Si基合金の表面に、少なくともGaを含むメッキ層を溶融メッキ処理で形成する。この表面処理工程によって、少なくともGaのメッキ層が表面に形成されたFe-Si基合金(以下「中間体」と称する)が製造される。
表面処理工程の溶融メッキ処理で用いられるメッキ液としては、下記の液1または液2が例に挙げられる。
・液1:ほぼGaのみのメッキ液
・液2:GaのほかにSnを含むメッキ液
液2には、Gaのほかに5.0〜15質量%のSnを含有するメッキ液が用いられる。
溶融メッキ処理に液1を用いた場合には、Fe-Si基合金に対するGaの濡れ性が不十分となるおそれがあり、Fe-Si基合金の表面にGaのメッキ層を良好に形成するうえで改善の余地がある。
液2におけるSnの質量%は、メッキ液の融点が低いほど表面処理工程を実施しやすい(操作が好都合)という観点より、共晶組成およびその周辺の質量%(ここでは5.0〜15質量%)であることが好ましい。たとえば、中間体がメッキ液において400℃で15分間加熱される。
上記の表面処理工程が実施されると、つぎに説明する成形工程が実施される。
成形工程では、中間体の外形を整える。具体的には、中間体のうち溶融メッキ処理で変形したメッキ層の厚さを均し、中間体の表面形状を矯正する(このことから、成形工程は「形状矯正工程」とも呼べる)。言い換えれば、成形工程の後に実施される焼鈍工程で良好な処理がなされるように、中間体の形状を下処理する。
上記の成形工程が実施されると、つぎに説明する焼鈍工程が実施される。
焼鈍工程では、中間体を焼きなましてGaをFe-Si基合金に浸透させる。
なお、焼鈍工程では、溶融しない状態で中間体の温度を上昇させる(このことから、焼鈍工程は「加熱工程」や「昇温工程」あるいは「アニール工程」とも呼べる)。
・条件1:αFe構造をとる温度範囲
・条件2:Gaが実質的に拡散する温度範囲
条件2に関し、図3に破線で記された相転移線(約300℃よりも小さい領域)は予想線である。この相転移線より、Gaが実質的に拡散する温度の下限(すなわち処理温度の下限が約300℃であること)が見て取れる。また、処理温度の上限は約1400℃以下であることも見て取れる。
本実施形態では、処理温度として設定可能な温度範囲のうち高い側の温度(ここでは500℃または600℃〜1400℃の高温)での焼鈍を「高温焼鈍」と表現し、この高温焼鈍の処理を施すことを「高温焼鈍する」と表現している。
そのほか、焼鈍工程は、中間体におけるGaやSiの酸化を抑制するため、水素雰囲気やヘリウム雰囲気などの還元性雰囲気または真空雰囲気において実施されることが好ましい。
上記の焼鈍工程により、Fe-Si基合金にGaが浸透した磁歪合金が中間体から製造される。このように製造された磁歪合金では、Fe-Si基合金にGaのメッキ層が浸透し、Gaのメッキ層は消失する。
本実施形態の磁歪合金は、上記の方法で製造され、室温において強磁性体であり、体心立方構造を有する。なお、ここでいう「室温」とは、20℃±20℃を意味する。
以下、磁歪合金の組成,集合組織を詳述する。
磁歪合金は、少なくともFe,Si,Gaおよび不可避的不純物元素を含有する。この磁歪合金には、FeおよびSiを含有するFe-Si基合金にGaおよび不可避的不純物元素が含有されている。なお、不可避的不純物元素としては、Mn,C(あるいはカーボン),Alなどが挙げられる。
磁歪合金の組成には、2.0〜4.0質量%のSiが含有され、3.2〜18質量%のGaが含有される。そのほか、たとえば0.01〜1質量%のMnなどの不可避的不純物元素が含有され、残部にFeが含有される。
さらに、上記の液2を用いて製造された磁歪合金は、Snを更に含有している。この場合には、1.0質量%以下のSnが含有される。そのほか、Snの質量%は、一般的にGaの質量%(ここでは3.2〜18質量%)の1/10程度に調節される。
磁歪合金に含有されるGaは、上述の条件1,2を満たす質量%の範囲(ここでは3.2〜18質量%)に調節される。さらに、3.2質量%未満であると磁歪特性が抑えられ、18質量%よりも大きいと脆くなりおそれがある。このことからも、Gaが上記の範囲に調節される。
この磁歪合金は、〈001〉方向に集合組織をもつ基材が用いられた場合には〈001〉方向に集合組織を有し、{110}〈001〉方向に集合組織をもつ基材が用いられた場合には{110}〈001〉方向に集合組織を有する。言い換えれば、結晶方位がGoss方位の磁歪合金を用いることが好ましい。
このように集合組織の制御された磁歪合金を用いることで、結晶方位から磁歪特性が高められる。
本実施形態の磁歪合金の製造方法および磁歪合金は、上述のように構成されるため、以下のような作用および効果を得ることができる。
さらに、方向性電磁鋼板がFe-Si基合金に用いられる場合には、集合組織を制御することなく、所定の結晶方位をなす磁歪合金を製造することができる。よって、結晶方位から、磁歪合金の磁歪特性を向上させることができる。
また、焼鈍工程で中間体を高温焼鈍することから、Fe-Si基合金へのGaの浸透性を向上させることができる。
これらからも、磁歪合金の磁歪特性を向上させることができる。
上記した方法によって製造された磁歪合金にGaが含有されることから、磁歪合金の組成から磁歪特性を向上させることができる。さらに、〈001〉方向に集合組織を有する結晶方位や{110}〈001〉方向に集合組織を有する結晶方位から、磁歪特性を向上させることもできる。
なお、本実施例に示す具体的な内容は、本件の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本件の範囲は、以下に示す具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
本実施例では、実施例1,2と比較例1,2とを比較した。
実施例1,2および比較例1,2では、厚さ方向の寸法(板厚)が0.25mmであり、長さ方向の寸法が14mmであり、幅方向の寸法が6mmのサイズをなす試料を用いた。
比較例1では、無方向性であって、Feのほか3.0質量%のSiを含有する試料を用いた。比較例2では、純鉄であって多結晶の試料を用いた。
実施例1,2の試料を製造する基材には、〈001〉方位の集積度が±5°のFe-3質量%Si基合金板(新日鉄住金(株)製30ZH)を用いた。その後、実施例1の磁歪合金は上記の基材を溶融Ga浴(上記の液1に相当)に入れ、実施例2の磁歪合金は上記の基材を溶融Ga-10質量%Sn浴(上記の液2に相当)に入れた。それから、400℃で15分間加熱し、25℃の室温まで冷却した。これらのようにして、基材に溶融メッキ層(上記のメッキ層に相当)を形成させた中間体を製造した。続いて、上記の中間体に対して、1000℃にて48時間の高温焼鈍の処理を施した。そして、上記のサイズに加工し、実施例1,2の試料を得た。
上記の実施例1,2および比較例1,2の各試料は、以下に説明する測定デイバスに取り付けられる。
図4に示すように、測定デバイス1はU字型をなす。このU字における二つの端部のうち、一方は自由な端部(以下「自由端部」と称する)1Aであり、他方は固定された端部(以下「固定端部」と称する)1Bである。
なお、測定デバイス1は、文献「WO2015/141414号」の第一実施形態に示された発電素子に準じている。
上記の測定デバイス1をEMIC社製512−A型の加振器(図示省略)に装着し、その加振器を所定の加速度(具体的には0.2G,0.3G,0.4G,0.5G,0.6G)で、約250Hz――共振周波数――の共振振動の状態で振動させた。この振動状態で発生する電圧の振幅(上向きのピークと下向きのピークの間の電圧)を測定した。この電圧を測定する機器には「オシロスコープ(IWATSU DS-5424)」を用いた。
上記のようにして測定された評価結果を下記の表1に示す。なお、比較例2の「<0.01V」なる表記は、0.01Vよりも小さい電圧が測定されたことを意味する。
表1に示す通り、実施例1,2のほうが比較例1,2よりも発生した電圧が高く、磁歪特性に優れていることがわかる。さらに、実施例2のほうが実施例1よりも発生した電圧が高く、磁歪特性が特に優れていることがわかる。
上述した実施形態はあくまでも例示に過ぎず、この実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせることもできる。
たとえば、成形工程を省略してもよい。
あるいは、本実施形態の磁歪合金は、上述した製法に限らず、他の方法で製造されたものであってもよい。
1A 自由端部
1B 固定端部
10 第一片部
20 第二片部
L コイル
M 磁石
X 試料
Claims (13)
- Fe-Si基合金の表面に少なくともGaを含むメッキ層を溶融メッキ処理で形成する表面処理工程と、
前記表面処理工程で前記Gaを含むメッキ層が表面に形成された前記Fe-Si基合金である中間体を焼きなまして前記Gaを前記Fe-Si基合金に浸透させる焼鈍工程と、
を備えたことを特徴とする磁歪合金の製造方法。 - 前記表面処理工程は、前記GaのほかにSnを含むメッキ液で前記Fe-Si基合金に溶融メッキ処理を施す
ことを特徴とする請求項1に記載の磁歪合金の製造方法。 - 前記メッキ液には、前記GaのほかにSnを5.0〜15質量%を含む
ことを特徴とする請求項2に記載の磁歪合金の製造方法。 - 前記焼鈍工程は、前記中間体を高温焼鈍する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の磁歪合金の製造方法。 - 前記表面処理工程の後であって前記焼鈍工程の前に実施され、前記中間体の外形を整える成形工程を備えた
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の磁歪合金の製造方法。 - Fe,Si,Gaおよび不可避的不純物元素を含有する
ことを特徴とする磁歪合金。 - 前記Feおよび前記Siを含有するFe-Si基合金に前記Gaおよび前記不可避的不純物元素が含有された
ことを特徴とする請求項6に記載の磁歪合金。 - 3.2〜18質量%の前記Gaを含有する
ことを特徴とする請求項6または7に記載の磁歪合金。 - 2.0〜4.0質量%の前記Siを含有する
ことを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の磁歪合金。 - Snを更に含有する
ことを特徴とする請求項6〜9の何れか1項に記載の磁歪合金。 - 1.0質量%以下の前記Snを含有する
ことを特徴とする請求項10に記載の磁歪合金。 - 〈001〉方向に集合組織を有する
ことを特徴とする請求項6〜11の何れか1項に記載の磁歪合金。 - {110}〈001〉方向に集合組織を有する
ことを特徴とする請求項6〜12の何れか1項に記載の磁歪合金。
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