JP2020034556A - 前立腺癌の判定方法 - Google Patents

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Takahiro Inoue
貴博 井上
小川 修
Osamu Ogawa
修 小川
秀輔 赤松
Shusuke Akamatsu
秀輔 赤松
後藤 崇之
Takayuki Goto
崇之 後藤
新 李
Xin Li
新 李
公治 清水
Kimiharu Shimizu
公治 清水
憲司 中山
Kenji Nakayama
憲司 中山
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Abstract

【課題】精度の高い前立腺癌の判定方法を提供する。【解決手段】前立腺癌の判定方法は、被検体由来の試料に含まれる複数の脂質分子種を検出するステップと、検出された複数の脂質分子種のうち、少なくとも幾つかの脂質分子種の存在比を得るステップとを含んでいる。被検体由来の試料は、尿または前立腺組織であってよい。複数の脂質分子種を検出するステップは、質量分析を行うステップを含んでいてよい。【選択図】図3

Description

本発明は、前立腺癌の判定方法に関する。
前立腺癌は、特に欧米諸国では罹患率の高い悪性疾患であり、日本でも近年その罹患率の増加が著しい。従って、前立腺癌の判定精度の向上が求められている。
従来、前立腺癌を判定するためのバイオマーカーとして、血清中の前立腺特異抗原(PSA:prostate-specific antigen)が用いられている。しかし、PSAは、前立腺特異抗原であって前立腺癌特異抗原でないので、前立腺肥大症、前立腺炎などの良性疾患や直腸診、射精行為によっても値が上昇することがある。従って、PSA検査では、前立腺癌の検出感度は高いものの、検出特異度(つまり、判定精度)が低いという問題がある。
本発明は、精度の高い前立腺癌の判定方法を提供することを課題とする。
本発明は、
被検体由来の試料に含まれる複数の脂質分子種を検出するステップと、
検出された前記複数の脂質分子種のうち、少なくとも幾つかの脂質分子種の存在比を得るステップとを含み、
前記被検体由来の試料は、該被検体に対して直腸診を行った後に採取された尿である、
前立腺癌の判定方法に関する。
本発明によれば、精度の高い前立腺癌の判定方法が得られる。
第1の実施例において、典型的な前立腺癌患者及び良性前立腺肥大症患者の被検体試料から取得した、代表的なMALDI−TOFMSの出力スペクトルを示す。 図1のスペクトルのうちm/z=700〜900(図1において破線で囲まれた部分)の拡大図を示す。 第1の実施例の被検体から取得した尿試料につき、PC[PC(34:1)とPC(34:2)の和]とLPC(16:0)の存在比を統計処理した結果を示すグラフである。 第1の実施例の被検体から取得した血液試料につき、血清PSA濃度を統計処理した結果を示すグラフである。 第1の実施例の被検体から取得した尿試料、血液試料につき、前立腺癌と前立腺肥大症との識別におけるROC曲線を示す。 第2の実施例の被検体から取得した尿試料につき、PCs[PC(34:1)とPC(34:2)の和]とLPC(16:0)の存在比を統計処理した結果を示すグラフである。 第2の実施例の被験体から取得した尿試料につき、前立腺癌と前立腺肥大症との識別におけるROC曲線を示す。
以下、添付の図面を参照して、本発明に係る実施の形態を説明する。
本発明の実施形態に係る前立腺癌の判定方法は、さまざまな前立腺癌の検査に用いることができる。前立腺癌の検査は、例えば、(1)健康診断における前立腺癌のスクリーニング、(2)前立腺癌と良性前立腺肥大症との判別、(3)前立腺癌の治療中または治療後における治療効果のモニタリング、(4)前立腺癌治療後における再発の検出、(5)被検体の予後の判定である。
前記(1)について詳しく述べると、例えばPSA検査を含む一般の健康診断や人間ドックにおいて、PSAの値が高い、あるいは前立腺の肥大症状がみられるといった理由で前立腺癌の疑いがもたれた被検者については、精密検査において前記前立腺癌の判定方法を用いて、前立腺肥大症であるのか前立腺癌であるのかを判別することができる。
本発明の実施形態に係る前立腺癌の判定方法は、以下のステップを含んでいる。
(ステップi)被検体由来の試料に含まれる複数の脂質分子種を検出するステップ
(ステップii)ステップiで検出された複数の脂質分子種のうち、少なくとも幾つかの脂質分子種の存在比を得るステップ
(ステップiii)ステップiiで得た存在比を基に前立腺癌の判定を行うステップ
[ステップi]
ステップiでは、被検体由来の試料に含まれる複数の脂質分子種を検出する。被検体は、前立腺癌の疑いがある生体であり、人または他の動物(例えば、犬)であってよい。
被検体由来の試料は、任意の生体試料であってよく、尿または前立腺組織であってよい。試料が尿である場合、通常の排尿時に採取した尿を用いてもよいし、被検体に対して直腸診(直腸指診、前立腺マッサージとも称される)を行った後に採取した尿を用いてもよい。前立腺マッサージを行った後に(好ましくは、直後に)採取した尿を用いることにより、通常の排尿時に採取した尿を用いた場合に比べて、前立腺癌の判定精度が向上することがわかっている。
検出される脂質分子種としては、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、リゾホスファチジルコリン(LPC)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスホセリン(PS)、スフィンゴミエリン(SM)、ホスファチジルグリセロール(PG)などのリン脂質およびこれらのサブクラスが想定される。「サブクラス」の定義は一般的な定義に従うが、当該脂質分子種の異性体、ならびに、当該脂質分子種に対して脂肪酸の組成および/または脂肪酸の炭素数が異なる分子、更には異なる結合様式を含む概念である。抽出溶媒を変更することにより、検出される脂質分子種およびそのサブクラスも変わる。
複数の脂質分子種は、任意の手法で検出してよい。複数の脂質分子種は、例えば、(1)質量分析法、(2)クロマトグラフィー法(液体クロマトグラフィー(LC)、ガスクロマトグラフィー(GC)など)、(3)電気泳動法(キャピラリー電気泳動など)、(4)免疫抗体を用いたイムノアッセイ法などを任意に組み合わせて検出してよい。
前記(1)質量分析法は、例えば、レーザーイオン化飛行時間型質量分析法(LDI−TOF/MS法)、エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI−MS法)であってもよい。
TOF/MS法では、TOF/MS装置によって得られるスペクトルのパターン分析によって、対象の脂質分子種を検出することができる。特定のm/z値のピークが存在するか否かを検出することにより、試料中に対象の脂質分子種が存在するか否か、という定性的検出を行うことができる。また、スペクトルのm/zピークの高値・低値によって定量的検出も可能である。LDI−TOF/MSは、例えば、マトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF/MS法)、表面増強レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(SELDI−TOF/MS法)であってもよい。
MALDI−TOF/MS法は、MALDIとTOF/MSを組み合わせたオミックス解析法である。下記実施例には本解析法を用いた具体例が記載されている。生体試料に適当な前処理を施して分析用試料とし、これにα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)及びジヒドロキシ安息香酸(DHB)などのマトリックス溶液を加えてMALDI−TOF/MSシステムにアプライすればよい。
SELDI−TOF/MS法は、SELDIとTOF/MSを組み合わせたプロテインチップ技術である。生体試料に適当な前処理を施して分析用試料とし、プロテインチップに分析用試料をアプライして脂質分子種をチップ上に吸着させ、SELDI−TOF/MSシステムに装填すればよい。疎水性基やイオン交換基、金属イオン固定基などの官能基を固定化したチップのほか、対象の脂質分子種に対する特異的結合分子(例えば、抗体、抗体断片、アプタマーなど)を固定化したチップを作製して用いてもよい。
ESI−MS法の場合は、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどの分離手段と質量分析計を直結させて用いることが好ましい。本発明の脂質分子種は比較的低分子量なので、ESI−MS法を用いて脂質分子種の検出を行う場合には、低分子量の脂質分子種の分離に適した条件で分離手段を使用することが望ましい。
前記(4)免疫抗体を用いたイムノアッセイ法にはさまざまなものが存在し、そのいずれを用いてもよい。イムノアッセイ法を反応形式に基づいて分類すると、サンドイッチ法、競合法、凝集法、ウエスタンブロット法がある。イムノアッセイ法を標識に基づいて分類すると、ラジオイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、酵素イムノアッセイ(EIA)、ビオチンイムノアッセイがある。
イムノアッセイ法の具体例は、ELISA法、免疫比濁法(TIA法)、ラテックス免疫凝集法(LATEX法)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA法)、イムノクロマトグラフィーなどである。また、ガラスやポリマーアレイに抗体を固定化して目的の脂質分子種を検出するマイクロアレイ法やメンブランストリップ法、イムノビーズ法などを用いてもよい。さらに、複数バイオマーカーを同時測定する、マルチプレックスアッセイを用いてもよい。例えば、96ウェルプレートの各ウェル内に複数の異なる抗体をスポット状に固相化し、基本原理はELISA法であるが検出にECLを用いて、同一ウェル内で生じる発光を別々に検出する方法や、複数抗体が個別に結合した蛍光色素ビーズを用いてELISA法とフロ−サイト技術を組み合わせたビーズアレイ方法などを用いてもよい。
抗体及びその抗原結合性断片の作製方法も周知である。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよいが、再現性などの観点からはモノクローナル抗体が好ましい。抗体の作製は、周知のハイブリドーマ法により行うことができる。具体的には、例えば、化学合成または遺伝子工学的手法により調製した脂質分子種を免疫原として、適宜アジュバントと共に動物(ヒトを除く)を免疫し、該動物体内で抗体を誘起する。該動物から脾細胞やリンパ球のような抗体産生細胞を回収し、これをミエローマ細胞などの不死化細胞と融合させることにより、ハイブリドーマを作製することができる。スクリーニング抗原として検出目的の脂質分子種を使用して、当該ハイブリドーマから、目的の脂質分子種と結合するハイブリドーマを選択し、これを増殖させて培養上清から抗脂質分子抗体を得ることができる。適宜、対象脂質分子種そのものや、対象脂質分子種よりも高分子量の化学種などとの結合性を確認し、脂質分子種への特異性が高い抗体を選択してよい。例えば、脂質分子種がリン脂質であれば、抗体は抗リン脂質抗体であってよい。
「抗原結合性断片」とは、例えば免疫グロブリンのFab断片やF(ab’)断片のような、当該抗体の対応抗原に対する結合性(抗原抗体反応性)を維持している抗体断片を意味する。このような抗原結合性断片もイムノアッセイに利用可能であることは周知であり、もとの抗体と同様に有用である。Fab断片やF(ab’)断片は、周知の通り、モノクローナル抗体をパパインやペプシンのようなタンパク分解酵素で処理することにより得ることができる。なお、抗原結合性断片は、Fab断片やF(ab’)断片に限定されるものではなく、対応抗原との結合性を維持しているいかなる断片であってもよく、遺伝子工学的手法により調製されたものであってもよい。また、例えば、遺伝子工学的手法により、一本鎖可変領域(scFv)を大腸菌内で発現させた抗体を用いることもできる。scFvの作製方法も周知であり、上記の通りに作製したハイブリドーマのmRNAを抽出し、一本鎖cDNAを調製し、免疫グロブリンH鎖及びL鎖に特異的なプライマーを用いてPCRを行なって免疫グロブリンH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子を増幅し、これらをリンカーで連結し、適切な制限酵素部位を付与してプラスミドベクターに導入し、それで大腸菌を形質転換し、大腸菌からscFvを回収することによりscFvを作製することができる。このようなscFvも「抗原結合性断片」に包含される。
さらには、脂質分子種を検出するために、当該脂質分子種と結合性を有するアプタマーを利用することもできる。アプタマーの製造には、当該脂質分子種の構造情報から結合しうるDNA・RNAまたはそれらの誘導体を合成して用いる。当該脂質分子種の測定には、アプタマーの結合を発光法や蛍光法、表面プラズモン共鳴法により検出する。さらにまた、アプタマーを用いる方法以外にも、電気泳動法、LC法、GC法などが挙げられる。いずれの方法もそれ自体周知の常法であり、本発明の脂質分子種の検出にそのまま利用することができる。
複数の脂質分子種を検出するステップiは、複数の脂質分子種を定性的に検出する(つまり、存在を検出する)ステップ、および、複数の脂質分子種を定量的に検出するステップを含んでいる。なお、定量的検出は、半定量的検出であってもよい。定量的検出の結果は、質量分析法を用いた場合は検出イオンの信号強度で示され、電気泳動、液体クロマトグラフィー、ELISA法などのイムノアッセイ法などを用いた場合は脂質分子種の含有量で示される。
試料が尿である場合、複数の脂質分子種を検出するステップiの前に、検出手法に応じた前処理を行うステップを実施してもよい。前処理は、細胞成分(尿路上皮細胞など)の除去、分子篩膜での濃縮、脂質分子種吸着担体での濃縮、イオン交換処理による分画などを組み合わせることにより行う。この前処理は、有機溶媒を用いた手法(例えば、公知のBligh−Dyer法)により、試料から複数の脂質分子種を抽出するステップを含んでいてよい。前記前処理を実施することにより、尿路上皮細胞などの夾雑物が除かれ、ステップiでの検出精度が向上し、ひいては後述する前立腺癌の判定精度が向上する。
[ステップii]
ステップiiでは、ステップiで検出された複数の脂質分子種のうち、少なくとも幾つかの脂質分子種の存在比を得る。存在比は、ステップiで質量分析法を用いた場合は検出イオンの信号強度の比であり、イムノアッセイ法などを用いた場合は脂質分子種の含有量の比である。以下、信号強度と含有量を含む概念として、「検出値」を用いる。存在比を得る対象である少なくとも幾つかの脂質分子種は、ステップiで検出されるすべての脂質分子種であってもよいし、または、そのうち幾つかであってもよい。
存在比を得る対象である少なくとも幾つかの脂質分子種は、リゾホスファチジルコリン(LPC)とホスファチジルコリン(PC)を含んでいてもよい。なお、化学構造的にリゾホスファチジルコリン(LPC)はホスファチジルコリン(PC)の構成成分である。前記少なくとも幾つかの脂質分子種は、互いに不飽和度の異なる2つのホスファチジルコリン(PC)、および、リゾホスファチジルコリン(LPC)であってもよい。このとき、得られる存在比は、例えば[PCの検出値]/[LPCの検出値]で表される(当然であるが、その逆数であってもよい)。
前記互いに不飽和度の異なる2つのホスファチジルコリン(PC)は、
・1-パルミトイル-2-リノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(1-palmitoyl-2-linoleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine)(以下、PC(34:1)と称す)と、
・1-パルミトイル-2-オレオイル-グリセロ-3-ホスホコリン(1-palmitoyl-2-oleoyl-glycero-3-phosphocholine)(以下、PC(34:2)と称す)であってよい。
リゾホスファチジルコリン(LPC)は、
・1-パルミトイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(1-palmitoyl-2-hydroxy-sn-glycero-3-phosphocholine)(以下、LPC(16:0)と称す)であってよい。
このとき、得られる存在比の算出において、PCの検出値は、PC(34:1)の検出値とPC(34:2)の検出値との和であってよい。従って、得られる存在比は、<[PC(34:1)の検出値]+[PC(34:2)の検出値]>/[LPC(16:0)の検出値]で表される。
[ステップiii]
ステップiiiでは、ステップiiで得た存在比を基に前立腺癌の判定を行う。前立腺癌の判定は、存在比にしきい値を設定し、存在比の値が当該しきい値より大きいとき(または小さいとき)に癌である、と判定してもよく、存在比の値が当該しきい値より小さいとき(または大きいとき)に前立腺肥大症である(または前立腺癌でない)と判断してもよい。あるいは、前立腺癌の判定は、医師などが存在比を確認し、経験に基づいて行ってもよい。
本発明の実施形態では、前立腺癌の判定を行うステップiiiを含めて「前立腺癌の判定方法」と称しているが、本発明はこれに限定されることなく、前立腺癌の判定を行うステップiiiを除く、ステップi,iiを実施して前立腺癌の判定支援を行う方法もまた、「前立腺癌の判定方法」に含まれるものとする。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は実施例の記載に限定して解釈されるべきではない。
被検体由来の試料として、第1の実施例では尿を用い、第2の実施例では前立腺組織を用いた。
<第1の実施例:尿>
第1の実施例では、前立腺癌を罹患している40人の被検体(PCa患者)と良性前立腺肥大症を罹患している27人の被検体(BPH患者)にそれぞれ直腸診を行い、その直後の初尿を50mL採取し、これを被検体試料とした。
被検体試料の前処理を実施した。具体的には、採取した被検体試料に対して遠心分離を施して上清を採取し、孔径100μmのフィルタを用いてろ過し、尿路上皮細胞等の夾雑物を除いた。これを分析用試料とした。
次に、Bligh−Dyer法を用いて、1mLの分析用試料から脂質の抽出を行った。遠心減圧濃縮装置を用いて、抽出物を乾固させた。乾固した抽出物を、200μLのクロロホルム/メタノール(体積比=2:1)溶液により再溶解させた。再溶解した抽出溶液と、これと等量の2,5−ジヒドロキシ安息香酸(LaserBio Labs 社製)溶液とを混合した。混合溶液のうち1.5μLをMALDI−TOF測定用サンプルプレート(Hudson Surface Technology社製:μFocus MALDI plate 900μm)に供し、風乾させた。
MALDI−TOFMS((株)島津製作所製:AXIMA Performance)を用いて、サンプルプレート上の風乾試料に含まれる脂質を同定した。MALDI−TOFMSでの解析は、m/z=400〜1000の範囲で実施した。MS/MS解析による脂質の同定は、衝突誘起解離(CID)とポストソース分解(PSD)で実施した。
図1は、典型的な前立腺癌患者及び良性前立腺肥大症患者の被検体試料から得られた代表的なMALDI−TOFMSの出力スペクトルを示す。スペクトルの横軸はm/zを示しており、縦軸は信号強度を示している。図2は、図1のスペクトルのうちm/z=700〜900(図1で破線で囲まれた部分)の拡大図を示す。図中、PCaは前立腺癌患者から得られた試料(PCa試料)のスペクトルを示し、BPHは良性前立腺肥大症患者から得られた試料(BPH試料)のスペクトルを示す。1mLの超純水でも質量スペクトルを取得し、これをバックグラウンド(Blank control)とした。
図からわかるように、PCa試料とBPH試料の両方のスペクトルで多くのピークが確認された。特に、PCa試料のスペクトルでは、m/z=700〜900の間に多くのピークが確認された。
それぞれのピークに関する脂質分子種の同定については、MS/MS解析を行い、得られた質量スペクトルデータについて解析を行った。この結果をもとに前立腺癌および良性前立腺肥大症の両疾患群の間に顕著な増減が認められる存在比を探索した。ピークの信号強度の比は、オープンソースソフトウェア(OpenMS, URL: https://www.openms.de)により求めた。
本発明者らは、鋭意検討の結果、PCs[PC(34:1)とPC(34:2)の和]とLPC(16:0)の存在比が、前立腺癌、良性前立腺肥大症の両疾患群の間に顕著な増減を伴うことを見出した。
図3は、27人のBPH患者と40人のPCa患者から取得した血液試料につき、血清PSA(前立腺特異抗原)濃度を統計処理した結果を示すグラフである。統計処理にはマン・ホイットニーのU検定を用いた。p値は0.6317であった。
図4は、図3と同じ患者群から取得した尿試料につき、脂質分子種であるPCs[PC(34:1)とPC(34:2)の和]とLPC(16:0)の存在比を統計処理した結果を示すグラフである。
図4からわかるように、p値は0.0003であり、BPH患者とPCa患者とで前記脂質分子種の存在比に有意な差が認められる。以上のとおり、本発明の実施形態に係る前立腺癌の判定方法が有効であることを確認した。
図5は、血清PSA濃度、PCsとLPCの存在比(PCs/LPC)の、前立腺癌と良性前立腺肥大症を識別する指標としての評価を、ROC(Receiver Operating Characteristic)解析により行った結果を示すROC曲線である。ROC曲線は、縦軸を真陽性率、つまり感度(Sensitivity)、横軸を偽陽性率、つまり「1−特異度(1-Specificity)」を尺度としてプロットしたものである。血清PSA濃度、PCs/LPCに対してそれぞれカットオフ値を決定し、各カットオフ値よりも血清PSA濃度、PCs/LPCが大きければ前立腺癌である可能性が高い(つまり陽性)と判断する。そして、前立腺癌患者全体に対する、陽性と判断された前立腺癌患者の割合より感度を計算し、良性前立腺肥大症患者全体に対する、陽性と判断された良性前立腺肥大症患者の割合より偽陽性率を計算する。同様にして他のカットオフ値での感度と陽性率を計算し、このようにして求めた値をグラフにプロットし、ROC曲線を描く。血清PSA濃度、PCs/LPCのそれぞれに対するカットオフ値は、前立腺癌のステージや検査の位置づけ、その他種々の条件より決定することができる。このROC曲線が座標平面のより左上方に位置するほど検査方法として、優れていると判断することができる。図5からわかるように、尿試料中のPCs/LPCの方が、血液試料中の血清PSA濃度よりも、前立腺癌と良性前立腺肥大症を識別する指標として優れていることが認められた。
<第2の実施例:前立腺組織>
本発明者である後藤らは、前立腺癌を罹患している31人の被検体(PCa患者)から採取した前立腺組織を試料として、質量顕微鏡((株)島津製作所製:iMScope)を用いて質量スペクトルを取得し、論文(非特許文献1)に発表した。そこで、第2の実施例では、非特許文献1に掲載されている質量スペクトルを基に、本発明の実施形態に係る前立腺癌の判定方法が有効であることを確認した。
まず、非特許文献1に記載されている質量スペクトルを取得する手順を簡単に説明する。クライオスタット(Leica社製:CM1850)を用いて、凍結保存された前立腺組織を10μm厚に薄切し、酸化インジウムスズ(ITO)でコーティングされたガラスの上に載置する。また、マトリックスとして9−アミノアクリジンヘミ水和物(9−AA)(Acros Organics社製)が用いられ、これを真空蒸着装置(サンユー電子社製:SVC-700TM/700-2)により220℃で8分間、薄切試料の上に蒸着する。
マトリックスが蒸着された薄切試料に対して、m/z=400〜1000の範囲でnegative/positive ion modesで質量分析(MS)を行い(分解能:10μm)、質量スペクトルを取得する。取得された質量スペクトルについて、同装置を用いたMS/MS解析により構造解析を行う。質量スペクトルはトータルイオンカレント(TIC)により規格化され、ソフトウェア((株)島津製作所製:SIMtools)を用いて解析される。また、イオンのイメージングは、ソフトウェア(Novartis社製:Biomap)を用いて行われる。
次に、前記非特許文献1に掲載されている質量スペクトルから、31人のPCa患者の前立腺癌組織中の非癌部(Benign epithelium)(または正常腺管部)と癌部(Cancer)のそれぞれにつき、LPC(16:0)の信号強度に対するPCsの信号強度[PC(34:1)とPC(34:2)の信号強度の和]の比(PCs/LPC)を求め、Wilcoxonの符号順位検定を用いて統計処理した。統計処理の結果を図6に示す。
また、31人のPCa患者の前立腺癌組織中の非癌部と癌部のそれぞれのPCs/LPCについて、癌部と非癌部を識別するための指標値としての評価をROC解析により行った。その結果であるROC曲線を図7に示す。
図6からわかるように、p値は0.0001未満であり、非癌部と癌部とで前記脂質分子種の存在比に有意な差が認められた。また、図7からわかるように、ROC曲線は座標平面の左上方に位置していた。このことから前立腺組織中のPCsとLPCの存在比は、癌部と非癌部を識別する指標として優れていることが確認された。
以上のとおり、本発明の実施形態に係る前立腺癌の判定方法が有効であることを確認した。第2実施例は、同一の被検体から取得された生体試料(前立腺組織)に含まれる複数の脂質分子種につき、前立腺癌の高い判定精度が確認された点で意義がある。
本発明は、上述の実施形態に限定されるべきではなく、さまざまな変形例が可能である。本発明は、以下の態様を包含する。
(1)被検体由来の試料に含まれる複数の脂質分子種を検出するステップと、
検出された前記複数の脂質分子種のうち、少なくとも幾つかの脂質分子種の存在比を得るステップとを含み、
前記被検体由来の試料は、前記被検体に対して直腸診を行った後に採取された尿である、
前立腺癌の判定方法。
(2)被検体由来の試料に含まれる複数の脂質分子種を検出するステップと、
検出された前記複数の脂質分子種のうち、少なくとも幾つかの脂質分子種の存在比を得るステップとを含み、
前記被検体由来の試料は、前立腺組織である、
前立腺癌の判定方法。
前記前立腺癌の判定方法は、前記前立腺癌の判定を支援する方法であってもよい。また、前記前立腺癌の判定方法でなく、前記被検体の診断方法と称してもよい。
(3)前記少なくとも幾つかの脂質分子種は、ホスファチジルコリン(PC)とリゾホスファチジルコリン(LPC)を含む、
(1)又は(2)に記載の前立腺癌の判定方法。
(4)前記少なくとも幾つかの脂質分子種は、互いに不飽和度の異なる2つのホスファチジルコリン(PC)、および、リゾホスファチジルコリン(LPC)である、
(1)又は(2)に記載の方法。
(5)前記複数の脂質分子種を検出するステップは、質量分析を行うステップを含む、
(1)から(4)のいずれかに記載の前立腺癌の判定方法。
(6)前記複数の脂質分子種を検出するステップの前に、前記被検体由来の試料から前記複数の脂質分子種を抽出するステップを含む、
(1)から(5)のいずれか1項に記載の方法。

Claims (6)

  1. 被検体由来の試料に含まれる複数の脂質分子種を検出するステップと、
    検出された前記複数の脂質分子種のうち、少なくとも幾つかの脂質分子種の存在比を得るステップとを含み、
    前記被検体由来の試料は、該被検体に対して直腸診を行った後に採取された尿である、
    前立腺癌の判定方法。
  2. 被検体由来の試料に含まれる複数の脂質分子種を検出するステップと、
    検出された前記複数の脂質分子種のうち、少なくとも幾つかの脂質分子種の存在比を得るステップとを含み、
    前記被検体由来の試料は、前立腺組織である、
    前立腺癌の判定方法。
  3. 前記少なくとも幾つかの脂質分子種は、ホスファチジルコリン(PC)とリゾホスファチジルコリン(LPC)を含む、
    請求項1又は2に記載の前立腺癌の判定方法。
  4. 前記少なくとも幾つかの脂質分子種は、互いに不飽和度の異なる2つのホスファチジルコリン(PC)、および、リゾホスファチジルコリン(LPC)である、
    請求項1又は2に記載の方法。
  5. 前記複数の脂質分子種を検出するステップは、質量分析を行うステップを含む、
    請求項1から4のいずれか1項に記載の前立腺癌の判定方法。
  6. 前記複数の脂質分子種を検出するステップの前に、前記被検体由来の試料から前記複数の脂質分子種を抽出するステップを含む、
    請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
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