JP2019201920A - 金属火災用感温性無機組成消火剤及び金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤 - Google Patents

金属火災用感温性無機組成消火剤及び金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明では、本発明では、マグネシウム等の金属類の火災で、既に燃焼している物質に対する消火剤、また延焼の可能性がある未燃の物質に対する延焼抑止剤として、固体膜又は固体泡を形成する感温性の固体状又は液体状の無機組成物を提供する事を目的とする。【解決手段】アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0〜26重量部のケイ酸アルミニウムと、水とを含有する、金属火災用感温性無機組成消火剤、又は金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤。【選択図】なし

Description

本発明は、金属類の火災で既に燃焼している物質に対する消火剤、及び延焼の可能性がある未燃の物質に対する延焼抑止剤に関する。
従来から知られる代表的な消火剤として、水、粉末消火剤、強化液、泡消火剤等がある。
水は、安価であり、広域に消火栓が設置されている事から、消火剤として最も頻繁に使用されている。しかし、水で一旦消火したはずの物体が、水の蒸発後に再燃する欠点を有する。
アンモニア成分を含有する粉末消火剤は、熱分解で生成したアンモニアラジカルによって燃焼の連鎖反応を抑制し、消火能力を発揮する。しかし、粉末消火剤は、噴霧した空間領域の酸素濃度を気相のラジカル停止反応によって低下させる為、風向きによっては、消防隊員の活動を制限する可能性がある。
強化液は、A火災での消火効果とB火災で油を鹸化して消火する特性があり、優れた消火剤である。しかし、強化液は、A火災において液の乾燥後に消火したはずの物の表面上で消火液に含有する成分が粉体になるため、再燃を防止できない欠点を有する。
泡消火剤では、界面活性剤由来の表面張力の低減により、水を効率的に燃焼物に付着させ、水による気化熱の冷却効果と、液体泡による燃焼物表面への被覆による窒息効果とで、消火能力を発揮する。しかし、界面活性剤は環境や魚類に与える影響が問題視されている。
ケイ酸化合物について、近年、環境に優しく消火能力の性能も考慮したケイ酸化合物を含有する消火剤は幾つか報告されている。
特許文献1には、スメクタイト等の粘土鉱物と水、或いは消火液と混合して消火材料を調製し、A火災の能力単位を測定する際に用いる第一模型に対して、2台の消火器で消火を試みたところ、木材は炭化したまま、完全に鎮火したとある。しかし、この技術では、燃焼物表面上にて火災時の熱を利用した脱水縮合反応によるシリケート層の生成に由来する固体膜又は固体泡の形成ができない。
特許文献2には、水、水ガラス及び粘土を混合して調製した懸濁液を、消火剤として使用している。しかし、この技術では、ケイ酸化合物は砂のバインダーとしての作用を発揮するのみで、燃焼物に対して直接的な消火の効果を発揮していない。
また、これら技術に記されるケイ酸化合物を利用した消火剤は、水に溶解しない粘土鉱物の懸濁液であるため、消防法第二十一条の二第二項の規定に基づいた「消火器用消火剤の技術上の規格を定める省令」に照らし合わせると、不適切であるという問題点も有している。
特許文献3には、乾燥水ガラスを油タンク火災に限定して使用する記載がある。しかし、この技術では、水ガラスが有機溶媒と接触すると、発泡しないケイ酸が固油接触界面に析出するという化学的問題や、水ガラスの比重により、油の気液界面に水ガラス乾燥カレットが存在したとしても沈降する速度が速いという物理的問題がある。
更に、人体に対する高い安全性を有する泡消火剤や、生物や環境への負荷の少ない泡消火剤(特許文献4及び5)が開発されている。しかし、これら泡消火剤の泡は、界面活性剤由来の液体の泡であるから、火災の熱が液体泡に供給されれば、泡を形成する骨格成分の水が蒸発する事により、泡構造を維持できなくなる。
本発明者らは、既に、感温性素材であるケイ酸化合物を利用して、感温性無機組成物を作製し、これを建築部材の形に合うように加工し、建築部材の耐火材の開発を行っている(特許文献6)。この耐火材は、ISO834の標準温度曲線に準じた加熱環境においても、木造部材の表面に高分子泡が積層した嵩高い発泡層を形成する事で1時間の耐火性能を付与させる事ができる。
特開平7-558号公報 特表2000-512517号公報 特開2008-206849号公報 特開2009-291636号公報 特開2012-254101号公報 特許第5854422号
現在、火災に対して、消火能力の性能が良く、また環境に優しい消火剤の開発が望まれている。本発明では、マグネシウム等の金属類の火災で、既に燃焼している物質に対する消火剤、また延焼の可能性がある未燃の物質に対する延焼抑止剤として、固体膜又は固体泡を形成する感温性の固体状又は液体状の無機組成物を提供する事を目的とする。
本発明は、(ア)火災等の熱を感知し、燃焼物の表面に固体膜又は固体泡の単独又は混成体を形成して、消火作用を発現する消火剤として機能する事、(イ)延焼の可能性がある未燃の物質に予め前記感温性無機組成物を供給する事によって延焼抑止効果を発揮する延焼抑止剤として機能する事、(ウ)消火後に温度が下がると固体膜及び泡の単独又は混成体の液状化又は保持のいずれか又は双方の現象が発現する事を考えて開発された技術である。本発明は、以下の発明を包含する。
金属火災用感温性無機組成消火剤
項1.
アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0〜26重量部のケイ酸アルミニウムと、水とを含有する、金属火災用感温性無機組成消火剤。
項2.
アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0〜26重量部のケイ酸アルミニウムと、飽和濃度以下のホウ酸塩と、水とを含有する、金属火災用感温性無機組成消火剤。
項3.
前記アルカリ金属ケイ酸化合物が、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、項1又は2に記載の金属火災用感温性無機組成消火剤。
項4.
前記ホウ酸塩が、四ホウ酸二ナトリウム10水和物、四ホウ酸二ナトリウム5水和物、五ホウ酸ナトリウム10水和物、八ホウ酸二ナトリウム4水和物、メタホウ酸ナトリウム2水和物、メタホウ酸ナトリウム4水和物、四ホウ酸二カリウム4水和物、及び五ホウ酸カリウム4水和物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である、項2に記載の金属火災用感温性無機組成消火剤。
項5.
平均粒子径が10μm〜200μmの粉体である、項1〜4のいずれかに記載の金属火災用感温性無機組成消火剤。
項6.
粘度が1 mPa・s〜50mPa・sである、項1〜5のいずれかに記載の金属火災用感温性無機組成消火剤。
項7.
項1〜6のいずれかに記載の金属火災用感温性無機組成消火剤を有する基材を含む塗料。
金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤
項11.
アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0〜26重量部のケイ酸アルミニウムと、水とを含有する、金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤。
項12.
アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0〜26重量部のケイ酸アルミニウムと、飽和濃度以下のホウ酸塩と、水を含有する、金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤。
項13.
前記アルカリ金属ケイ酸化合物が、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、項11又は12に記載の金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤。
項14.
前記ホウ酸塩が、四ホウ酸二ナトリウム10水和物、四ホウ酸二ナトリウム5水和物、五ホウ酸ナトリウム10水和物、八ホウ酸二ナトリウム4水和物、メタホウ酸ナトリウム2水和物、メタホウ酸ナトリウム4水和物、四ホウ酸二カリウム4水和物、及び五ホウ酸カリウム4水和物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である、項12に記載の金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤。
項15.
平均粒子径が10μm〜200μmの粉体である、項11〜14のいずれかに記載の金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤。
項16.
粘度が1 mPa・s〜50mPa・sである、項11〜15のいずれかに記載の金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤。
項17.
項11〜16のいずれかに記載の金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤を有する基材を含む塗料。
本発明の金属火災用感温性無機組成物(消火剤及び延焼抑止剤)は、マグネシウム等の金属類の火災で、既に燃焼している物質に対する消火剤、また延焼の可能性がある未燃の物質に対する延焼抑止剤として有効に機能する。本発明の金属火災用感温性無機組成物は、固体膜又は固体泡を形成する感温性の固体状又は液体状の有用な無機組成物となる。
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、火事の熱によって無機高分子を形成し、燃焼物を覆う効果がある。この効果を利用する事で、本発明の金属火災用感温性無機組成物を金属類の火災に使用する事が出来る。本発明の金属火災用感温性無機組成物は、金属火災に適用出来る、固形状及び液体状を水分組成だけで制御する事が出来る。
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、金属類の火災に対して、消火効果のある消火剤であり、延焼抑制効果のある延焼抑止剤である。
図1は、3gのマグネシウム消火に用いた様々な状態の消火剤サンプルを示す図である。 図2は、3gのマグネシウム消火実験の装置・用具の配置を示す図である。 図3は、3gのマグネシウムを各サンプルで消火した場合の底面温度の経時変化と、液体を用いた場合の消火時の様子を示す図である。 図4は、ペレット型消火剤を投下した様子を示す図である。 図5は、12gのマグネシウムを消火する時の実験装置用具配置を示す図である。 図6は、12gのマグネシウムを液体の各サンプルで消火したマグネシウム底面温度の経時変化を示す図である。 図7は、燃焼前の12gのマグネシウムおよび消火無しと、消火後のマグネシウムの外観の様子を示す図である。 図8は、消火後のマグネシウムの断面の様子を示す図である。 図9は、12gのマグネシウムをサンプル2-4で消火した時の周辺温度および底面温度の経時変化を示す図である。 図10は、同一母剤を希釈したサンプルで3g-Mgを消火した場合のMg円錐底部の経時的温度変化を示す図である。 図11は、同一母剤を希釈したサンプルで12g-Mgを消火した場合のMg円錐底部の経時的温度変化を示す図である。
金属火災用感温性無機組成消火剤及び金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤
本発明の金属火災用感温性無機組成消火剤及び金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤を、合わせて「本発明の金属火災用感温性無機組成物」とも記す。
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0〜26重量部のケイ酸アルミニウムと、水とを含有する。本発明の金属火災用感温性無機組成物は、必要に応じて、飽和濃度以下のホウ酸塩を含有しても良い。
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のアルカリ金属ケイ酸化合物を一種単独で使用し、又は二種以上を混合して使用し、必要に応じてケイ酸アルミニウムを含み、また必要に応じて四ホウ酸二ナトリウム10水和物(ホウ砂)等のホウ酸塩を含み、液体から固体状まで、任意の形態に調節出来る。
本発明の金属火災用感温性無機組成物を燃焼物に対して供給すると、水の気化熱により燃焼物を冷却すると共に、消火途上の被該環境中の熱により、燃焼物の表面にシロキサン分子構造を持つ固体膜又は固体泡、或はそれらの混成体が生成される。
本発明の金属火災用感温性無機組成物で加熱生成した被覆物自体の耐熱性は100℃以上約850℃未満の温度領域にて安定した状態を保つ事が出来る。本発明の金属火災用感温性無機組成物を用いると、水の蒸発する温度以上で、燃焼物の表面を安定して被覆し、窒息効果を保つ事が出来る。また燃焼部分の被覆は、付着部分からの火炎の発生を阻止する事で火炎の分散化に寄与するため、火勢を削ぐ効果(延焼抑止効果)も発現する。
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、熱分解時に有害となる有機化合物(界面活性剤やキレート剤、金属脂肪酸等)を含まないため、一酸化炭素ガスを発生しない材料である。仮に、本発明の金属火災用感温性無機組成物の主成分であるケイ酸化合物が火災の熱によって溶融したと仮定すると、発生したヒュームは非晶質SiO2であり、このヒュームは人の皮膚に触れると皮膚表面の水分を吸着し、乾いた感覚となるが、単に水で洗い流すだけで良い。
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、ケイ酸化合物を含む消火剤や延焼抑止剤であり、火災時の熱分解による人的有害性がほぼ無い環境を作り出す事が出来る。本発明の金属火災用感温性無機組成物は、潮解作用が発現するよう任意に調製する事ができ、消火後に温度が下がると、被覆物を形成する骨格物質の潮解が始まり、骨格成分の飽和水蒸気圧と大気中の水蒸気圧が等しくなるまで吸水する事が出来る。
本発明の金属火災用感温性無機組成物では、潮解現象が発現した当初こそ骨格成分が露出した状態であるが、その後は骨格成分が液体に覆われてしまうため、骨格成分が潮解により溶解するまで進行する。本発明の金属火災用感温性無機組成物は、この現象により、火事等の熱で形成した被覆物は、外気温に戻る事で液状化する事が出来る。
本発明の金属火災用感温性無機組成物を用いると、可燃性の延焼予測物に対して、予め燃焼する前に、連続的に、又は断続的に供給する事で、延焼予測物の表面に被覆前駆体、又は被覆物を形成し、火災からの熱を低減し、延焼を抑止する事が出来る。
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、通常、ケイ酸化合物溶液にケイ酸アルミニウムを混合し、必要に応じてホウ酸塩を含み、目的に応じた任意含水率に調製して製造する事が出来る。
(1)金属火災
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、マグネシウム等の金属類の火災に使用する事が出来る。金属火災の対象金属は、マグネシウムに加えて、鉄、亜鉛等である。金属火災の消火では、消火剤中に金属炭酸塩が含有すると、爆発の恐れがある。よって、本発明の金属火災用感温性無機組成物は、通常、金属炭酸塩を含まない事が好ましい。
これまで、金属消火剤は、砂、フラックス等の固体の形態で使用されている。本発明の金属火災用感温性無機組成物は、金属類の火災に使用する際に、液体の形態で使用出来る事から、金属類(マグネシウム等)の火災と木材火災との2つが共存した火災にも使用する事が出来る。
(2)アルカリ金属ケイ酸化合物
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、アルカリ金属ケイ酸化合物を含む。このアルカリ金属ケイ酸化合物は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である事が好ましい。
このようにアルカリ金属ケイ酸化合物は、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸リチウムを示し、ケイ酸カリウムは、K2O・nSiO2(n=1.8〜3.7)の組成式(mH2Oは省略)を有し、係数nは各組成式に付帯する括弧内に記載した値である化合物を表す。ケイ酸ナトリウムは、Na2O・nSiO2(n=2.0〜3.8)の組成式(mH2Oは省略)を有し、係数nは各組成式に付帯する括弧内に記載した値である化合物を表す。ケイ酸リチウムは、Li2O・nSiO2(n=3〜8)の組成式(mH2Oは省略)を有し、係数nは各組成式に付帯する括弧内に記載した値である化合物を表す。
市販物のアルカリ金属ケイ酸化合物(水ガラス)は強アルカリ性を示す。アルカリ金属ケイ酸化合物を水で希釈する事で、本発明の金属火災用感温性無機組成物のpHを調節する事が出来る。また、アルカリ金属ケイ酸化合物を、後述する「ホウ酸塩」の飽和溶液で希釈する事でpHを調節する事ができ、或はその希釈物に水を加えてpH調製する事も出来る。
本発明の金属火災用感温性無機組成物のpHは、通常、pH12.5未満で調製する事が好ましい。本発明の金属火災用感温性無機組成物を消火剤として用いる際は、通常、pH13程度〜pH11程度の範囲内で調節する事が好ましい。また、市場の要望等によっては、原料そのままのアルカリ金属ケイ酸化合物のpHを維持し、本発明の金属火災用感温性無機組成物を調製する事も出来る。
アルカリ金属ケイ酸化合物は、一種のケイ酸化合物を使用しても良く、二種以上の複数のケイ酸化合物を混合して使用しても良い。例えば、ケイ酸ナトリウムの濃度が共存ケイ酸化合物の濃度よりも高ければ、燃焼物に対する付着性が強くなり、液の広がりは若干悪くなる。例えば、ケイ酸カリウムの濃度が共存ケイ酸化合物の濃度より高ければ、燃焼物に対する付着性はやや弱くなるが、液の広がりは良くなる。例えば、ケイ酸リチウムの濃度が共存ケイ酸化合物の濃度より高ければ、燃焼物に対する付着性は弱くなり、液の広がりが良くなる。これらの特性を考慮し、消火剤や延焼抑止剤の目的や用途によって基本特性を設計する事が出来る。
(3)ケイ酸アルミニウム
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0〜26重量部のケイ酸アルミニウムを含む。
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、ケイ酸アルミニウムを含む事で、火災等の熱によって形成される固体膜や固体泡の高温骨格維持性、更に噴霧した際の消炎性を制御する事出来る。
本発明において「0〜X重量部を含む」とは、組成物中に対象成分を最大でX重量部含んでも良いし、0重量部の場合、含まなくても良い事を意味する。ケイ酸アルミニウムを「0〜26重量部」含むとは、本発明の金属火災用感温性無機組成物が、例えばケイ酸ソーダの二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、ケイ酸アルミニウムを最大で26重量部含んでも良いし、含まなくても良い事を意味する。
ケイ酸アルミニウムの添加量は、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対して0〜26重量部の範囲であるから、ケイ酸アルミニウムを目的や用途に応じて省く事も出来る。ケイ酸アルミニウムの添加量は、前記ケイ酸化合物の固形分100重量部に対し、26重量部以下であり、コスト的観点から0.1重量部から5.5重量部の範囲が好ましい。ケイ酸アルミニウムの添加量が増加する事で、本発明の金属火災用感温性無機組成物の消火効果や延焼抑止効果が高くなる。
(4)水
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、水を含み、水は、その目的を損なわない範囲で含まれる。本発明の金属火災用感温性無機組成物の含水率は、通常、7〜95重量%程度である。
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、固体(含水量:小)、ペースト(含水量:中)、液体(含水量:大)の全ての形態で使用する事が出来る。本発明の金属火災用感温性無機組成物は、水を含み、その含水率を制御する事で、各形態を調製する事が出来る。
(5)ホウ酸塩
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、必要に応じて、飽和濃度以下のホウ酸塩を含有する事が好ましい。
本発明の金属火災用感温性無機組成物では、前記ホウ酸塩は、四ホウ酸二ナトリウム10水和物(ホウ砂、Na2B4O7・10H2O)、四ホウ酸二ナトリウム5水和物(Na2B4O7・5H2O)、五ホウ酸ナトリウム10水和物(Na2O・5B2O3・10H2O)、八ホウ酸二ナトリウム4水和物(Na2B8O13・4H2O)、メタホウ酸ナトリウム2水和物(NaBO2・2H2O)、メタホウ酸ナトリウム4水和物(NaBO2・4H2O)、四ホウ酸二カリウム4水和物(K2B4O7・4H2O)、及び五ホウ酸カリウム4水和物(KB5O8・4H2O)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である事が好ましい。
例えば、四ホウ酸二ナトリウム10水和物は、ホウ砂とも言い、この水への溶解度(20℃)は60 g/L程度であり、これはケイ酸化合物溶液にも容易に溶解する。四ホウ酸二ナトリウム5水和物の水への溶解度(20℃)は38 g/L程度であり、これはケイ酸化合物溶液にも容易に溶解する。
また、五ホウ酸ナトリウム10水和物の水への溶解度(20℃)は12 g/L程度であり、八ホウ酸二ナトリウム4水和物の水への溶解度(20℃)は10 g/L程度であり、メタホウ酸ナトリウム2水和物の水への溶解度(60℃)は39 g/L程度であり、メタホウ酸ナトリウム4水和物の水への溶解度(20℃)は20 g/L程度であり、四ホウ酸二カリウム4水和物の水への溶解度(35℃)は29 g/L程度であり、これら化合物もケイ酸化合物溶液にも容易に溶解する。五ホウ酸カリウム4水和物もケイ酸化合物溶液にも容易に溶解する。
本発明の金属火災用感温性無機組成物に、ホウ酸塩を加える事で、本発明の金属火災用感温性無機組成物の粘度を調節する事、燃焼物に対する濡れ性を調節する事、また製品のpHを調節する事が出来る。本発明の金属火災用感温性無機組成物において、ホウ酸塩の添加量は、上記ホウ酸塩の溶解量(水溶液への溶解度)が上限である。通常、ホウ酸塩を水に溶解した時のpHが12.5未満と成るように、その添加量の上限濃度で調製する事が、作業の効率の点で好ましい。また、ホウ酸塩を含む本発明の金属火災用感温性無機組成物の含水率を制御する事により、消火時に生成する固体膜又は固体泡或いは混成体の形状を制御する事が出来る。
ホウ酸塩は、一種のホウ酸塩を使用しても良く、二種以上の複数のホウ酸塩を混合して使用しても良い。
(6)粉体
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、乾燥し、破砕することで、粉体化することができる。本発明の金属火災用感温性無機組成物を粉体化しても、水分は残り、水はその目的を損なわない範囲で含まれる。
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、平均粒子径が10μm〜200μmの粉体である事が好ましい。粉体とは、固体微粒子の極めて多数の集合体で、各粒子の間に適当な相互作用力が働いている状態である。
粉体の集合体としての評価は、ランダムサンプリング、多段サンプリング、層別サンプリング、集落サンプリングや系統サンプリングなど目的や事業所にあったサンプリング法を選べばよく、選択した方法で採取した粉体を、ふるいを用いた体積基準(体積分布)や実体観察による個数基準(個数分布)等で表す事が出来る。例えば、ふるいの目の大きさによって粉体の大きさを分け、体積基準(体積分布)で粒度分布を表す事が、実情に即している。
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、金属火災の火源に投与できれば、大きさに制限は無く、平均粒子径が10μm〜200μmの粉体である事が好ましく、20μm〜180μmの粉体である事が好ましい。本発明の金属火災用感温性無機組成物は、消火器に充填するサイズの粉体である事が好ましい。
(7)粘度
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、水を含む態様であり、粘度を有する。本発明の金属火災用感温性無機組成物の25℃における粘度は、取扱い容易性の観点から、1 mPa・s〜50mPa・s程度が好ましい。粘度は、1 mPa・s〜30 mPa・s程度がより好ましく、1 mPa・s〜25 mPa・s程度が更に好ましい。
粘度は、測定温度を25℃で一定にして、音叉型振動式粘度計(A&D製のSV-10型)により、実施例に記載の方法で測定する。例えば、本発明の金属火災用感温性無機組成物を室温で静置し、その後、25℃における粘度を音叉型振動式粘度計により測定し、安定した値を粘度とした。
(8)塗料
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、これを有する基材を含む塗料として使用する事が有用である。本発明の金属火災用感温性無機組成物を単独で使用する事に加えて、基材となる本発明の金属火災用感温性無機組成物を用いて塗料を調製する事も出来る。その際、公知の添加剤や、溶剤として水を本発明の目的を損なわない範囲で加える事が出来る。
添加剤として、例えば、顔料、乾燥剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、たれ防止剤、耐熱性向上剤等を用いる事が出来る。本発明の金属火災用感温性無機組成物を用いて塗膜を形成させる方法は、この組成物水溶液をドクターブレード法、ゲルキャスティング法、鋳込み成形法、カレンダ法や、噴霧コート法、ローラーコート法、バーコート法、エアナイフコート法、刷毛塗り法、ディッピング法等の公知の方法により塗布し、自然乾燥又は強制乾燥させて行う事が出来る。
建築部材等の表面に形成された乾燥済み本発明の金属火災用感温性無機組成物の層(塗膜)の厚さは、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に限定されない。乾燥済み本発明の金属火災用感温性無機組成物の層(塗膜)の厚さは、通常、50μm〜数十mmである。塗膜の耐久性を向上させる目的で、更に、120℃以上で加熱処理し、シリケート層を形成させる事が好ましい。
一方、塗膜の耐久性が必要で無く、本発明の金属火災用感温性無機組成物の潮解性を優先させる場合、塗膜後の加熱処理は無くて良い。この未加熱処理の乾燥塗膜は、本発明の金属火災用感温性無機組成物として潮解性を有する。
(9)産業上の利用可能性
本発明の金属火災用感温性無機組成物は、消火する対象物や延焼を抑止する対象物がシート形状でなくても、高温環境下において遮熱効果のある泡や膜の形成制御を行う事で、より一層消火剤として機能を発揮する事が出来る。本発明の金属火災用感温性無機組成物を、金属火災時に燃焼する物質に供給する事で、消火剤中の水による気化熱と脱水縮合反応によって生成する水の気化熱による冷却効果を発揮する事が出来る。
金属火災時に燃焼する物質に、本発明の金属火災用感温性無機組成物を供給する事で、燃焼物表面に固体膜又は固体泡を単独又は混成体の形成(以後、「被覆物」とも表記する)による窒息効果も発揮して、消火する事が出来る。本発明の金属火災用感温性無機組成物を用いる事で、その被液した消火物は、被覆物によって可燃物への酸素供給が遮断される事で再燃を防止する事が出来る。
本発明の金属火災用感温性無機組成物が供給された物質(例えばマグネシウム)に対しては、その被液した物質を、火災の熱によって形成した消火液由来のシリケート層がガスバリア性を発揮することで、窒化マグネシウム生成の阻害に寄与する事が出来る。本発明の金属火災用感温性無機組成物が無機高分子の被覆物を燃焼物上に形成すると、燃焼物から放射される熱を大きく減じることができ、遮熱効果を発揮する事ができる。
消火後に環境温度が下がると、本発明の金属火災用感温性無機組成物は潮解性を有する。本発明の金属火災用感温性無機組成物から、被覆物を形成していた固体は、液体へ変化し、又は一部液体化し、更には任意に組成を設定する事で保持する事も可能である。本発明の金属火災用感温性無機組成物を用いる事で、予め燃焼する前に、その延焼予測物の表面に膜を形成し、延焼を抑止する事が可能となる。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明においては、本発明の合目的であって、本発明の効果を特に害さない限りにおいては、改変或いは部分的な変更及び付加は任意であって、いずれも本発明の範囲である。
[1]マグネシウム火災に有効なアルミニウムを含むケイ酸化合物系消火剤
1.実験目的
小型ガス着火試験による平均着火時間を調査すると、鉄やニオブ、チタン等の粉末と比較してマグネシウム粉末は着火に至るまでの時間が非常に短く(3秒)、その発熱量も高い。マグネシウム火災では、近隣住民に対する危険性の除去や、消防隊員自身の安全性の向上・確保の為、マグネシウム火災を短時間で消火出来る革新的方法が望まれる。
マグネシウムの消火では、消火剤の様態(固体から液体まで)に依存する消火挙動を検討し、金属消火に有効な状態を探索した。更に、スケールアップしたマグネシウムに対して、粘度の異なる消火剤を噴霧し、消火挙動に対する詳細な検討を行った。また、被覆状態及び消火後のマグネシウム内部を調査し、消火に至るまでの被覆物のガスバリア性を検討した。更に、消火時の周辺温度を測定し、延焼抑止効果も検討した。
消火剤(本発明の金属火災用感温性無機組成物)の粘度は、音叉型振動式粘度計(A&D製のSV-10型)を用いて測定し、25℃で静置した後、その数値が安定するまで行う事で決定した。
2.マグネシウム火災に効果的な本消火剤の状態の選択
本消火剤は、含水率を制御する事で様々な状態に変化させる事が出来る。図1に3gのマグネシウム消火に用いた様々な状態の消火剤サンプルを示す。この様に種々の状態に変化する事が出来る本消火剤が、着火し易く発熱量の高いマグネシウムに対して、どの状態まで消火可能であるか調査した。
実験方法は望月らの方法(望月真, 山東俊, 佐藤和広; “金属粉に関連する火災の消火方法に関する検証,” 消防技術安全所報, Vol.46, pp.96-101(2009).)に準じて、図2の様に設置し行った。消火対象物として用いた3gのMg(マグネシウム粉末:和光純薬工業製)を円錐状に成形した。ターボライターを用いて、Mgの頂点が白く発光するまで接炎した。Mgが燃焼開始し、底部熱電対が1,000℃を計測した時点で、消火剤を投下した。消火実験は動画記録し、この時の消火状況、温度変化及び消火剤使用量を記録した。
実施例の各サンプルの調製法
表1に各サンプルの状態、固形分濃度、消火に使用した消火剤の量及び300℃到達時間を示す。ここで、固形分濃度は、熱処理前後の重量差を熱処理前の重量で除し、100を乗じて算出した。前述の熱処理は、空気雰囲気下において、600℃の電気炉中に4時間保持したものである。
1-1サンプル
JIS規格3号ケイ酸ソーダ水溶液を50℃に恒温した乾燥器にて平坦に伸展させ、1週間乾燥させた。板状に固体化した乾燥物を破砕し、約10mmの粒径のフレーク状に調製した。
1-2サンプル
JIS規格3号ケイ酸ソーダ水溶液の固形分100重量部に対し3.5重量部のケイ酸アルミニウムを混合して母剤を濃縮調製した。その後、50℃に恒温した乾燥器にて平坦に伸展させ、1週間乾燥させた。板状に固体化した乾燥物を破砕し、約3〜7mmの粒径のフレーク型消火剤を調製した。
1-3サンプル
JIS規格3号ケイ酸ソーダ水溶液を50℃に恒温した乾燥器にて平坦に伸展させ、1週間乾燥させた。板状に固体化した乾燥物を粉砕機にて破砕し、約2mmの粒径のペレット状に調製した。
1-4サンプル
JIS規格3号ケイ酸ソーダ水溶液の固形分100重量部に対し2.4重量部の硼砂(Na2B4O7・10H2O)を混合して濃縮することでペースト状に調製した。
1-5サンプル
JIS規格1号ケイ酸カリウム水溶液の固形分と、JIS規格2号ケイ酸カリウム水溶液の固形分を合計した100重量部(体積比1:3)に対し、2.4重量部の硼砂(Na2B4O7・10H2O)を混合して母剤を調製した。母剤を水で希釈することにより39.6[mPa・s]の粘度の液体として調製した。
表1では、300℃到達時間を記載した。望月らの文献(望月真, 山東俊, 佐藤和広; “金属粉に関連する火災の消火方法に関する検証,” 消防技術安全所報, Vol.46, pp.96-101(2009).)によれば、マグネシウムは300℃よりも低い温度になると再び温度上昇しない。そのため、マグネシウムの消火温度を300℃と設定した。
燃焼させた3gのマグネシウムの底面温度が1,000℃を計測して直ちに各消火剤を投下した。そのときのマグネシウム底面温度の経時変化を図3に示す。ここで、図3中に消火せずにそのまま3gのマグネシウムを自然燃焼させた結果を実線(3g-マグネシウム消火無し)で示す。
サンプル1-1の実験結果
フレーク状に調製した消火剤を投下し、1,300℃を越す状態から1,000℃まで降温した。その後、900〜1,000℃を約100秒間保ち、若干温度が上昇した後、次第に緩やかに降温した。300℃に到達した時間は447秒であり、使用した消火剤量は25gであった。サンプル1-1を燃焼しているMgに投下しても降温が少なかったのは、粒径がMgに対して大きいため、投下直後のサンプルとMgの接触する面積が小さく、窒息効果が直ちに発揮しなかったと考えられる。その後の若干の温度の上昇は、サンプル1-1が熱によって変形することでMgを被覆し、生成した発泡層がMgの放熱を阻害したため、若干の温度上昇があったものである。その後の緩やかな降温は、Mgに酸素が供給されない燃焼を阻害する効果と発泡層による放熱を阻害する効果の相互関係によって緩やかな降温になった。
サンプル1-2の実験結果
測定開始後約50秒の領域における温度の急激な昇温は、消火剤投下の有無に依らずほぼ同じと見られた。これは、成形したMgが双方ともほぼ同じ形状にする事が出来たものと考えられる。フレーク状に調製した消火剤を火源に投下して直ちに約650℃まで降温した。その後、600〜700℃の温度域を約150秒間保ち、次第に緩やかに降温した。300℃に到達した時間は443秒であり、使用した消火剤量は22gであった。
サンプル1-2は、サンプル1-1とほぼ同じサイズであるが、1,300℃を超す高温から急激に降温したのは、投下したサンプル1-2のケイ酸アルミが、燃焼するMgに覆い被さり、その被膜が燃焼するMg熱で破壊されずに、直ちに酸素の遮断に寄与したためである。つまり、燃焼に充分な酸素供給が阻害された。その後の緩やかな降温は、発泡した泡による断熱効果であり、外気への放熱が阻害されたためである。つまり、100〜250秒の間で約650℃を保ち、更に時間が経過すると徐々に降温した。
消火剤を投下した消火状況
耐火材を基にした本発明の消火剤は、約130℃で発泡を開始する。図4には、サンプル1-2の消火剤を投下した場合の実験の様子を写真で示す。a)は、図3の60秒の様子であり、消火剤を投下する前であり、白色燃焼している事が分かる。b)は、図3の80秒の様子であり、消火剤を投下した直後である。Mg全面に被覆しており、Mgの発光も非常に押さえられ、温度が低下している事が分かる。発泡と未発泡が混在している状況である。c)は、図3の100秒の様子であり、Mgに接している消火剤の発泡が進行しつつあり、外殻のフレークが未発泡のまま外に押し出されている。d)は、図3の200秒の様子であり、c)の隙間から消火剤を追加で投下しており、非常に嵩高くなっている事が分かる。e)は、図3の350秒の様子であり、安定した状態であり、これ以降は時間が経過しても発泡体の形状は変化する事はなかった。また、外殻には未発泡のフレークが存在していた。
サンプル1-3の実験結果
2mm程度のペレット状に調製した消火剤を火源に投下すると、直ちに約600℃まで降温した。その後、600〜650℃を約100秒間保ち、次第に緩やかに降温した。300℃に到達した時間は495秒であり、使用した消火剤量は12gであった。サンプル1-1と同組成でサイズの異なるサンプル1-3は、粒径が小さいためMgに接触する面積が大きい。そのため、被覆形成が良好であり、窒息効果が直ちに発揮したためである。固体の消火剤を用いた場合の投下直後の劇的な降温は、消火剤組成も関係するが、消火剤の粒径で簡便に効果を制御出来る事を示している。緩やかな降温は、発泡した泡による断熱効果であり、外気への放熱が阻害されたためである。
この様に燃焼しているMgにフレーク型及びペレット型消火剤を投下すると、従来の知見通りに弾ける事なく、高温のMgを内包し、系外への延焼を食い止める働きを有する事が分かった。なお、頂部の温度は発泡により熱電対が覆われ正確な温度を測定できなかった。
サンプル1-1〜1-3まで固体であり、夫々粒径が異なる。固体では粒径が小さくなると共に劇的な温度低下が見られた(図3)。これは、固体の粒径が小さい方が円錐状のマグネシウムに効率よく密着でき、窒息効果が直ちに表れたためであると考えられる。その後の緩やかな降温は、本消火剤特有の固体泡が生成・積層した発砲層による放熱の阻害である。
サンプル1-4の実験結果
ペースト状に調製したサンプル1-4は、マグネシウム火源に投下を試みるものの粘度が高く、燃焼するマグネシウムへの瞬間的な投下ができなかった。そのため、劇的な温度低下が始まるまで時間を費やしている事が分かる。Mgへの投下が完了した時間が計測開始から170秒であり、その後は急激に降温した。300℃に到達した時間は370秒であり、使用した消火剤量は29gであった。被覆後の降温が速いのは、ペースト状であるためマグネシウムとの密着が固体の場合よりも良く、強い窒息効果があった事に加え、ペーストに含有する水の量が固体よりも多い(図1中に含水率記載)ためである。ペースト状の消火剤では、300℃に到達した時間は図3の中で最も短く、明らかに消火作用を発揮した。降温挙動は優れているが、火源投入の操作性が悪かった。そこで、噴霧可能な状態にすれば操作性良く、マグネシウム火源への水の供給量も増加し、消火効率が良くなるのではないかと考えた。
サンプル1-5の実験結果
高粘度の液体に調製した消火剤サンプル1-5を燃焼するマグネシウムへ噴霧した。噴霧した瞬間を図3中の左の写真に示す。マグネシウムが弾け飛ぶ様子は見られない。噴霧する度に微小な発泡体がマグネシウムに付着し、続けて噴霧すると先に付着した泡の隙間を縫うように新しい発泡体が被覆した。被覆が完了した直後の写真を図3の右の写真に示す。図3右の写真のマグネシウムの底面温度は約800℃であり、被覆内部は赤熱状態にある。しかしながら、図3の写真右では、被覆物が白色を呈する状態であり、赤色は目視できない。サンプル1-5では噴霧直後から急激に降温しており、その後は時間の経過と共に緩やかな曲線で降温した。300℃に到達した時間は438秒であり、使用した消火剤量は僅か5gであった。
本発明の消火剤組成において、僅か5gで燃焼するMgを被覆することができ、窒息作用が発現することが明らかとなった。被覆後の降温が緩やかなのは、先に被覆している固体泡が、続いて供給される消火剤のMgへの水分供給を阻んでいるからである。そのため、600℃以下の温度は、若干固体に近い緩やかな降温となっている。なお、同一サンプルを棒状注水で消火実験を行っているが、300℃に到達した時間は455秒であり、使用した消火剤量は16gであった。棒状注水による液体の跳ね返りがあり、噴霧した場合よりも悪い結果となった。本消火剤でマグネシウムを消火出来る事を示した。
3.マグネシウム消火の降温のきっかけと消火効果の発現
図5に表す通り、マグネシウムを12gにスケールアップし、石膏ボードの裏面温度を新たに計測出来るようにした。頂部の熱電対は、上2枚の石膏ボードの中央に穴を空け、1枚目の石膏ボードからの突き出し距離は40mmとし、図5のように設置した。底部の熱電対は、頂部熱電対の穴を中心とした5mmの距離で穴を空け、2mm程度石膏ボードから突き出すように設置した。裏面の熱電対は、図5中の中心線付近に設置した。図5に表す通り、石膏ボード(縦200 x横200mm x厚12.5mm)を4枚重ね、金属Mgの12gの粉体を円錐状に成型した。このとき円錐頂点が頂部熱電対の位置に合うようにした。熱データはデータロガーを介し、パソコンに取り込んだ。消火剤の噴霧操作は、熱電対が底面温度1,000℃を計測して直ちに行い、赤熱状態のマグネシウムが見えなくなるまで続けた。
実施例の各サンプルの調製法
液体の各サンプルの調製は、原液の消火剤を希釈して、粘度を1.96mPa・s〜20.4 mPa・sの範囲で変えて行った。JIS規格1号ケイ酸カリウム水溶液の固形分と、JIS規格2号ケイ酸カリウム水溶液の固形分を合計した100重量部(体積比1:3)に対し、3.5重量部のケイ酸アルミニウムを混合して母剤(粘度20.4mPa・s)を調製した。母剤を水で希釈することにより12.5mPa・s、3.83 mPa・s、及び1.96mPa・sに調節し、各サンプルを調製した。
表2にサンプル名、粘度、固形分濃度、消火に要した液の使用量、液中の固形分量及び300℃到達時間を示す。図6に12gのマグネシウムを液体の各サンプルで消火したマグネシウム底面温度の経時変化を示す。
サンプル2-1の実験結果
調製した母剤をそのまま使用し、燃焼するMgへ噴霧した。噴霧する度に微小な発泡体がMgに付着し、続けて噴霧すると発泡体の隙間を覆うように隙間無く発泡体で被覆できた。固形分濃度が高く、Mgを被覆するまでの時間が短かった。噴霧直後から昇温を約70秒抑制した後、時間の経過とともに降温した。300℃に到達した時間は796秒であり、使用した消火剤量は20gであった(図6)。消火しないMgの経時変化と比較すると、明らかに全温度領域で温度が低く、また300℃到達時間も短い事が明らかとなった。
サンプル2-2の実験結果
約13mPa・sの粘度に調製した消火剤を燃焼するMgへ噴霧した。消火剤の被覆挙動はサンプル2-1とほぼ変わらなかった。また、温度変化もサンプル2-1とほとんど変わらず、噴霧直後から昇温を約50秒抑制した後、時間の経過とともに降温した。300℃に到達した時間は786秒であり、使用した消火剤量は17gであった(図6)。サンプル2-2も消火しないMgの経時変化と比較すると、明らかに全温度領域で温度が低く、また300℃到達時間も短い事が明らかとなった。
図6中に示す比較的粘度の高いサンプル2-1と2-2は、マグネシウムに噴霧する度に微小な発泡体がマグネシウムに付着し、続けて噴霧すると泡の隙間を縫うように被覆した。固形分濃度が高いため、マグネシウムを被覆するまでの時間が短かった。被覆後は、時間の経過とともに降温し、300℃に到達した時間はいずれも消火無しの場合よりも短時間であった。消火剤の原液である約20mPasまでの粘度であれば、降温時間が短く消火効果を有する事が分かった。
サンプル2-3の実験結果
約4mPa・sの粘度に調製した消火剤を燃焼するMgへ噴霧した。固形分濃度が低いため、12gのMgを覆うまでに時間が掛かった。噴霧直後から昇温を約150秒抑制した後、時間の経過とともにサンプル2-1及び2-2の降温挙動に沿うように降温した。300℃に到達した時間は810秒であり、使用した消火剤量は35gであった(図6)。サンプル2-3も消火しないMgの経時変化と比較すると、明らかに全温度領域で温度が低く、また300℃到達時間も短い事が明らかとなった。
中程度の粘度であるサンプル2-3は、サンプル2-1や2-2と比較すると若干固形分濃度が低いため、マグネシウムを覆うまでに時間が掛かった。そのため、被覆後の降温開始時間が若干遅くなっている。降温開始した後はサンプル2-1及び2-2の降温挙動に沿うように低下した。サンプル2-3についてもサンプル2-1及び2-2と同程度の消火効果を有している事が分かった。
サンプル2-4の実験結果
約2mPa・sの粘度に調製した消火剤を燃焼するMgへ噴霧した。固形分濃度が低いため、12gのMgを覆うまでに時間が掛かった。噴霧直後から昇温を約250秒抑制した後、時間の経過とともに劇的に降温した。この劇的な降温は、被膜形成までに使用した液体(消火剤)がマグネシウム周辺に留まる事で、間接的な冷却作用を窒息作用と共に相乗的に発揮したと考えられる。300℃に到達した時間は最も短く640秒であり(図6)、使用した消火剤量は57gであった。
燃焼するマグネシウムを降温させるきっかけは、無機被膜がマグネシウムを覆う窒息作用である事が分かった。表2の液中の固形分量がほぼ一定である事から、約7gの固形分で12gのマグネシウムを被覆出来る。直接比較する事はできないが、同量の12gマグネシウムの消火を行っている従来技術では、粉体の消火剤を300g使用している。従来技術と比較すると、本消火剤では固形分換算で、約1/40の量にてマグネシウムを消火出来る(液体の量で比較すると約1/5〜1/15)事が分かった。冷却作用の発現には、被覆形成までに費やした液体の量に依存した。そのため、最も粘度の低いサンプル2-4の冷却が最も良好であり、300℃到達時間が短く消火効果も良好である。
4.マグネシウムに被覆する無機物の形状制御と、その内部への液体の侵入制御
図7に燃焼前の12gのマグネシウム及び消火無しと、消火後のマグネシウム外観の様子を示す。図7中の上から1段目に燃焼前の12g-マグネシウムの様子を示す。この様に成形した後、消火実験を行っている。図7中の上から2段目は消火剤を噴霧せずに12g-マグネシウムをそのまま空気中で燃焼させた結果である。白色を呈する外殻の物質は、酸化マグネシウムである。また、マグネシウムを貫通する熱電対に堆積している物質は、燃焼時に発生するマグネシウムヒュームであり、熱電対に付着・堆積した。
図7の高粘度のサンプル2-1は、固体泡で良好にマグネシウムを被覆しており、同様にサンプル2-2及び2-3も良好に固体泡で被覆している。図7の最も低粘度のサンプル2-4は、当初から木材の消火剤として開発した薬剤である。本発明の消火剤は、熱によって合成される無機被覆物が、薄い膜の形状になるように設計している。図7のサンプル2-4では燃焼するマグネシウムに対して何度も噴霧したため、固体膜の断片が密に重なった状態で被覆している事が分かる。
この様にマグネシウムを被覆する無機物の状態は、粘度によって2つの種類に制御できた。粘度を高くすると固体泡が積層した発泡層で、粘度を低くすると固体膜片が集積した密集型のフィラーでマグネシウム表面を覆う事が出来る。連続的に供給する環境において本消火剤は、熱を感知する事で(供給初期に)燃焼中のマグネシウムを無機物で被覆し、その被覆物によってマグネシウム内部への液体の侵入を妨げる。この様に本消火剤は、熱に反応する化学的作用によってマグネシウム内部への液体浸入を防ぐ。現象的には噴霧放水の場合と同じ効果が得られるため、本消火剤を用いても水蒸気爆発しにくい状況を作り出す事が出来る。
5.消火に至るまでのマグネシウムの状態と、被覆物の密着状態と位置の特定
空気中でマグネシウムを燃焼させると、酸素や窒素と熱反応し、白色或いは黒色の酸化マグネシウム、更には黄色の窒化マグネシウムを生成する。酸化マグネシウムは水と反応して発熱する事は無いが、窒化マグネシウムは水とたやすく反応し、アンモニアガスの生成を伴って発熱する事が分かっている。鎮火を考慮した場合、消火したはずの物質が、別の発熱体(例えば窒化マグネシウム)に大量に変性すると、消火現場の混乱は避けられないと予想出来る。
そこで、図6及び図7の消火したマグネシウムの断面写真を撮影した。図8では、マグネシウムを被覆する状態が2種類であったため、粘度の高い代表的なサンプル2-1と粘度の低い2-4を、比較のため、消火無しの場合も併せて示す。図8に示す消火無しは、マグネシウム内部の多くが窒化マグネシウムへと変化し、長時間マグネシウムが窒素ガスに接していた事が分かる。これは、常圧下において高温で窒素ガスと接触しているマグネシウムは劇的に窒化速度が増大する事と一致している。
図8の高粘度のサンプル2-1の断面は、内部のほとんどが黒色を呈しており、酸化マグネシウム)の状態で消火している事が分かる。ここで、マグネシウムの表層が僅かに黄色を呈しているが、その少なさから燃焼しているマグネシウムにはほとんど窒素ガスが接触せず、良好な窒息状態が保たれた事が分かる。そのため、消火に至るまで窒化マグネシウムの生成はほぼ進行しなかった。また、消火剤がマグネシウム内部に侵入した形跡は無かった。
この様に、粘度の高い消火剤が形成した無機被覆物はマグネシウム消火時のガスバリア性が高い。図8の粘度の低いサンプル2-4の断面も、内部のほとんどが黒色を呈していた。窒化マグネシウムの生成は、サンプル2-1よりもほんの僅かに多いように見受けられる。その分布はマグネシウム表面に0.1mm程度の厚みで薄く存在しており、表面の一部のみ覆っていた。これは、粘度が低いため、薄膜が重なって被覆完了するまでの間に窒化マグネシウムが生成した。しかしながら、マグネシウム内部は大部分が酸化マグネシウムであった事から、充分に窒息作用を発揮している。またサンプル2-4においてもマグネシウム内部に消火剤が侵入した形跡は無かった。この様に、粘度の低い消火剤が形成した被覆物であっても、ガスバリア性は良い。
以上の様に粘度の高い消火剤はもちろん、粘度を低くした消火剤においても、固体膜の被覆は良好な窒息作用を発揮している事が分かった。また、被膜を形成している位置は、マグネシウム表面上に限られ、密着良く接している事が分かった。更に本消火剤の被覆物はガスバリア性が高く、鎮火後のマグネシウムにはほとんど窒化マグネシウムが含まれない事が分かった。
6.被覆物の延焼抑止性について
実験目的
延焼は、燃焼しているMgから発生した熱が燃えていない物体に伝わる現象であり、木材の着火温度が260℃であることはよく知られている。延焼を阻止するには、物質が燃焼しない温度以下であれば良いと考えられる。
本消火剤で用いている原料は水ガラスを主成分とする物質であり、含水率が低いほど嵩高く発泡層を形成することは上記実施例で表した。粘度が高ければ含水率が低くなり、嵩高く発泡するため、熱を遮る効果も高くなる。一方、粘度が低ければ固体膜を形成し、遮熱性も低くなる。延焼抑止性を評価するためには、燃焼しているMgの消火作業時の周辺の温度を測定すれば明らかとなる。消火に達するまでに、例えば木材燃焼温度を超えていれば、Mgの近くにある木材は着火する可能性は高くなり、延焼抑止性は低いと評価できる。
本消火剤が高粘度であれば、元来の耐火材の遮熱特性が濃く反映され、固体泡の発泡層が嵩高く形成し、延焼抑止効果も高い。そこで、消火剤の粘度が低く、最も遮熱性が低いサンプル2-4、つまり、最も粘度の低いサンプル(粘度1.96mPas)を用いて、消火時の周辺温度を計測し、その延焼抑止性を評価した。その結果を図9に示す。
サンプルの調製法
JIS規格1号ケイ酸カリウム水溶液の固形分と、JIS規格2号ケイ酸カリウム水溶液の固形分を合計した100重量部(体積比1:3)に対し、3.5重量部のケイ酸アルミニウムを混合して母剤を調製し、母剤を水で希釈することにより1.96mPa・sに調節して、サンプル5を調製した。
実験結果
図9中の頂点温度はマグネシウムの燃焼熱によって劇的に昇温するが、サンプル2-4の噴霧によって瞬時に降温する。噴霧開始して約180秒後に一旦頂点の温度が上がったのは、マグネシウムの被覆がまだ完全ではないためであるが、その200秒後には100℃を下回った。その後、頂点温度は100℃近傍を保持しており、ほとんど温度の上昇は見られなかった。
サンプル2-4のマグネシウム表面の被覆は450秒に完了している。例えば400秒では、マグネシウム底面の温度は900℃を計測しているが、マグネシウム頂点の温度は100℃以下を計測している。燃焼が進行する事で底面温度が低く計測された粉末ABC消火剤の場合と異なり、本消火剤の上方への遮熱性は極めて良好である事が分かった。一方、石膏ボードを1枚介した裏面温度はマグネシウム下方への伝熱状況を示す。
図9の裏面温度は、最も高い温度でも木材燃焼温度の260℃を超えず、良好な遮熱性を発揮している事が分かった。これは、消火剤を大量に噴霧(本消火剤系列に限る)したため、間接的冷却効果が発揮されたものである。
円錐の底面から12.5mm厚の石膏ボードを介して記録した温度は、最も高い温度でも260℃を超えず、良好な遮熱性を発揮していることが分かる。この様に固体膜片が集積する被覆物になり、遮熱性が低いと考えられるサンプル2-4においても、周辺温度を充分低くする事ができ、延焼抑止性を持つ事が明らかになった。
[2]マグネシウム火災に有効なホウ素を含むケイ酸化合物系消火剤
実施例の各サンプルの調製法
JIS規格1号ケイ酸カリウム水溶液の固形分と、JIS規格2号ケイ酸カリウム水溶液の固形分を合計した100重量部(体積比1:3)に対し、2.4重量部の硼砂(Na2B4O7・10H2O)を混合して母剤を調製した。母剤を水で希釈することにより39.6mPa・s、13.7 mPa・s、及び4.17mPa・sに調節し、各サンプルを調製した。
実験結果
表3に3g-Mgを消火対象とした場合の同一母剤から希釈した各サンプルの粘度、固形分濃度、使用量及び300℃到達時間を示す。
サンプル3-1の実験結果
図10にサンプル3-1を用いた場合の結果を示す。
サンプル3-2の実験結果
図10にサンプル3-2を用いた場合の結果を示す。約14mPa・sの粘度に調製した消火剤を燃焼するMgへ噴霧した。噴霧する度に微小な発泡体がMgに付着し、続けて噴霧すると発泡体の隙間を覆うように隙間無く発泡体で被覆できた。噴霧直後から降温し、一旦1,000℃付近で50秒程度保ったが、時間の経過と急激に降温した。300℃に到達した時間は369秒であり、使用した消火剤量は9gであった。消火していないMgの経時変化と比較すると、明らかに全温度領域で温度が低く、また300℃到達時間も短い。3gのMg消火に対して良好な結果であった。
サンプル3-3の実験結果
図10にサンプル3-3を用いた場合の結果を示す。約4mPa・sの粘度に調製した消火剤を燃焼するMgへ噴霧した。粘度と固形分率が低いため、当初は燃焼しているMgに付着しにくく、何度も噴霧する必要があった。付着しはじめると薄い膜を被せるようにMgを完全に被覆できた。降温は噴霧直後からあり、900〜1,100℃の幅広い温度領域で約80秒間保ち、以降は時間の経過と急激に降温した。300℃に到達した時間は377秒であり、使用した消火剤量は15gであった。消火していないMgの経時変化と比較すると、明らかに全温度領域で温度が低く、また300℃到達時間も短い。図10において、他の消火剤よりも使用量が多いのは、粘度と固形分濃度が低いためである。この使用量と固形分濃度の低さを同時に考慮すれば、火源であるMg周辺の温度も低くできるため、周辺に対する延焼抑制も同時に行える事を示唆している。
実施例の各サンプルの調製法
実施例の各サンプルは、前記「3g-Mg消火」と同一サンプルを用いた。サンプル3-1と4-1、サンプル3-2と4-2及びサンプル3-3と4-3は同一である。
実験結果
表4に12g-Mgを消火対象とした場合の同一母剤から希釈した各サンプルの粘度、固形分濃度、使用量および300℃到達時間を示す。
サンプル4-1の実験結果
図11にサンプル4-1を用いた場合の結果を示す。粘度を約37mPa・sの粘度に調製した消火剤を燃焼するMgへ噴霧した。噴霧する度に微小な発泡体がMgに付着し、続けて噴霧すると発泡体の隙間を覆うように隙間無く発泡体で被覆できた。スケールアップしたため、Mgを被覆するまで時間が掛かり、噴霧直後から降温した後、一旦900〜1,000℃付近で50秒程度保ったことが3g-Mgの場合と異なる。その後、時間の経過とともに降温した。300℃に到達した時間は894秒であり、使用した消火剤量は14gであった。消火しないMgの経時変化と比較すると、明らかに全温度領域で温度が低く、また300℃到達時間も短い事が明らかとなった。
サンプル4-2の実験結果
図11にサンプル4-2を用いた場合の結果を示す。約14mPa・sの粘度に調製した消火剤を燃焼するMgへ噴霧した。噴霧する度に微小な発泡体がMgに付着し、続けて噴霧すると発泡体の隙間を覆うように隙間無く発泡体で被覆できたものの、被覆するまでに時間を要した。発泡体が被覆したあとは、比較的急速に降温した後、緩やかな降温へ変化した。300℃に到達した時間は896秒であり、使用した消火剤量は39gであった。消火しないMgの経時変化と比較すると、ほぼ全温度領域で温度が低く、また300℃到達時間も短かった。
サンプル4-3の実験結果
図11にサンプル4-3を用いた場合の結果を示す。約4mPa・sの粘度に調製した消火剤を燃焼するMgへ噴霧した。粘度と固形分率が低いため、当初は燃焼しているMgに付着しにくく、何度も噴霧する必要があった。付着しはじめると薄い膜を被せるようにMgを完全に被覆できた。降温は噴霧直後からあり、900〜1,100℃の幅広い温度領域で約180秒間保ち、以降は時間の経過と急激に降温した。300℃に到達した時間は769秒であり、使用した消火剤量は32gであった。消火しないMgの経時変化と比較すると、明らかに全温度領域で温度が低く、また300℃到達時間も短い。
従来技術は12g-Mgの消火に約300gの消火剤を使用していることから、図11の本発明の消火剤は約1/10程度で消火可能であったことが分かる。
[3]マグネシウム消火における本発明の効果
本消火剤の特徴は、(1)燃焼するマグネシウム表面上にのみ無機被覆物を形成し、密着度の高い窒息作用を発揮する事、(2)マグネシウム内部への液体の浸透が無く、水蒸気爆発しない事、(3)窒素ガスをバリアし、消火残物は安全な酸化マグネシウムである事、(4)消火剤の粘度を低くすれば冷却効果が高くなり、短時間で消火可能である事、(5)粘度を高くすれば水損被害を抑える事、(6)低粘度の消火剤でも遮熱性が非常に高く延焼抑止効果を有する事、(7)木材火災も消火する事が出来る事、(8)液体としても使用可能である事の8点である。
これらの点を考え合わせると、マグネシウム火源から離れて噴霧放水する事によって、マグネシウム火災と木材火災の消火活動が同時に行う事が出来る。この噴霧放水による火源からの距離は、建物火災に準じた行動を取る事が出来ると考えられ、消防隊員がこれまでに訓練してきた安全確認を所定通りに確保でき、危険度を著しく低く出来るととともに短時間での消火が見込まれる。更に液体での使用を可能にした事から、消防装置が充分とは言えない地方であっても,マグネシウム火災の被害を食い止める事が出来る。
波及効果として、消火器に充填すればマグネシウム火災の初期消火が可能になる。これまでの粉体と比較すると、火源から離れた位置で、噴霧量が少なくても良い事から、消火後または消火活動中に消防署への連絡など適切な処置を行う時間を確保する事が出来る。

Claims (12)

  1. アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0〜26重量部のケイ酸アルミニウムと、水とを含有する、金属火災用感温性無機組成消火剤。
  2. アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0〜26重量部のケイ酸アルミニウムと、飽和濃度以下のホウ酸塩と、水とを含有する、金属火災用感温性無機組成消火剤。
  3. 前記アルカリ金属ケイ酸化合物が、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2に記載の金属火災用感温性無機組成消火剤。
  4. 前記ホウ酸塩が、四ホウ酸二ナトリウム10水和物、四ホウ酸二ナトリウム5水和物、五ホウ酸ナトリウム10水和物、八ホウ酸二ナトリウム4水和物、メタホウ酸ナトリウム2水和物、メタホウ酸ナトリウム4水和物、四ホウ酸二カリウム4水和物、及び五ホウ酸カリウム4水和物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である、請求項2に記載の金属火災用感温性無機組成消火剤。
  5. 平均粒子径が10μm〜200μmの粉体である、請求項1〜4のいずれかに記載の金属火災用感温性無機組成消火剤。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の金属火災用感温性無機組成消火剤を有する基材を含む塗料。
  7. アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0〜26重量部のケイ酸アルミニウムと、水とを含有する、金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤。
  8. アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0〜26重量部のケイ酸アルミニウムと、飽和濃度以下のホウ酸塩と、水を含有する、金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤。
  9. 前記アルカリ金属ケイ酸化合物が、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、請求項7又は8に記載の金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤。
  10. 前記ホウ酸塩が、四ホウ酸二ナトリウム10水和物、四ホウ酸二ナトリウム5水和物、五ホウ酸ナトリウム10水和物、八ホウ酸二ナトリウム4水和物、メタホウ酸ナトリウム2水和物、メタホウ酸ナトリウム4水和物、四ホウ酸二カリウム4水和物、及び五ホウ酸カリウム4水和物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である、請求項8に記載の金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤。
  11. 平均粒子径が10μm〜200μmの粉体である、請求項7〜10のいずれかに記載の金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤。
  12. 請求項7〜11のいずれかに記載の金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤を有する基材を含む塗料。
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