本発明の抗血栓性材料は、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーと、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物と、基材と、を有し、上記アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーは、上記基材と共有結合し、上記有機硫黄化合物は、上記アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーとイオン結合、水素結合、配位結合及び分子間力からなる群から選択される結合様式で上記アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーと結合し、表面をX線光電子分光法(XPS)で測定した場合に、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率(Nratio)が、以下の式1を満たしていることを特徴としている。
6.0 ≦ Nratio ≦ 10.0 ・・・式1
[式中、Nratioは、抗血栓性材料の表面における全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率(原子数%)を表す。]
本明細書において使用する用語は、特に断りがない限り、下記に示す定義を用いる。
医療器材とは、医療機器及び医療器具を示す。ここで、医療機器及び医療器具として、具体的には、人工肺、人工心臓、人工弁、左心耳閉塞デバイス、ペースメーカー、人工血管、ステント、ステントグラフト、血管カテーテル、遊離血栓捕獲器具、血管閉塞器具、血管内視鏡、縫合糸、人工腎臓、血液回路、チューブ類、カニューレ、血液バッグ及び注射器等が挙げられる。
抗血栓性材料とは、抗血栓性を有する材料のことであり、特に限定されるものではないが、医療器材を構成する材料として用いることができる。これらの医療器材は血液と接触することが多く、医療器材の表面で血液凝固が進行しやすいため、材料に抗血栓性材料を用いることが必要とされている。
抗血栓性とは、血液と接触する表面で血液が凝固しない性質であり、具体的には、血小板の粘着や凝集を阻害したりする性質(以下、「抗血小板性」)やトロンビンに代表される血液凝固因子の活性化等で進行する血液凝固反応を抑制したりする性質(以下、「抗凝固活性」)を指す。抗血小板性と抗凝固活性はいずれか一方が不足すると長期的な血栓形成を抑制できないため、抗血栓性材料の表面は抗血小板性と抗凝固活性をいずれも有する表面であることが好ましい。
基材とは、抗血栓性材料を構成する材料のうち、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーが結合する材料のことである。本発明における基材の材料は、特に限定されるものではないが、例えばポリエステル、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリメチルメタクリレート、ステンレス、コバルト−クロム合金、ニッケル−チタン合金、亜鉛−タングステン合金等が挙げられる。汎用性が高いため、エステルを構成モノマーとして有するポリマーであることが好ましく、耐久性と成形性を兼ね備えたポリエステルであることがより好ましい。ポリエステルとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びポリブチレンナフタレート等が挙げられる。医療器材の材料として豊富な実績があることから、PETを抗血栓性材料の基材として用いることがより好ましい。
アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーは、繰り返し単位中に下記一般式(I)で示される部分構造又は下記一般式(II)で示される末端構造を含むポリマーであることが好ましい。
[式中、X1は、炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表す。]
[式中、X2及びX3は、共に炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、一方が水素原子を他方が炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表す。]
また、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーは、下記一般式(III)又は(IV)で示される繰り返し単位を含むポリマーであることがより好ましい。
[式中、X4は、炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表し、R1は、−(CH2)n−を表し、nは0〜4の整数を表す。]
[式中、X5及びX6は、共に炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、一方が水素原子を他方が炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表し、Yは、炭素原子を表すか又は窒素原子を表し、R2は、−(CH2)n−又は−(CH2)n−C(=O)−を表し、R3は、−(CH2)n−を表し、nは0〜4の整数を表す。]
アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーは、上記一般式(III)で示される繰り返し単位と一般式(IV)で示される繰り返し単位の交互重合体を含んでいてもよく、その場合、繰り返し単位を下記一般式(V)で記載することができる。
[式中、X7〜X9は、共に炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、一つが水素原子を二つが炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、二つが水素原子を一つが炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表し、Yは、炭素原子を表すか又は窒素原子を表し、R4は、−(CH2)n−を表し、R5は、−(CH2)n−又は−(CH2)n−C(=O)−を表し、R6は、−(CH2)n−を表し、nは0〜4の整数を表す。]
さらに、上記一般式(IV)のより具体的な構造としては、下記一般式(VI)〜(VIII)で示される繰り返し単位が挙げられ、上記一般式(V)のより具体的な構造としては、下記一般式(IX)〜(XI)で示される繰り返し単位が挙げられる。
[式中、X10及びX11は、共に炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、一方が水素原子を他方が炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表す。]
[式中、X12及びX13は、共に炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、一方が水素原子を他方が炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表し、R7は、−(CH2)n−を表し、nは0〜4の整数を表す。]
[式中、X14及びX15は、共に炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、一方が水素原子を他方が炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表し、R8は、−(CH2)n−又は−(CH2)n−C(=O)−を表し、R9は、−(CH2)n−を表し、nは0〜4の整数を表す。]
[式中、X16〜X18は、共に炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、一つが水素原子を二つが炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、二つが水素原子を一つが炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表し、R10は、−(CH2)n−を表し、R11は、−(CH2)n−又は−(CH2)n−C(=O)−を表し、R12は、−(CH2)n−を表し、nは0〜4の整数を表す。]
[式中、X19〜X21は、共に炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、一つが水素原子を二つが炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、二つが水素原子を一つが炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表し、R13は、−(CH2)n−を表し、nは0〜4の整数を表す。]
[式中、X22〜X24は、共に炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、一つが水素原子を二つが炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表すか、又は、二つが水素原子を一つが炭素数1〜6のアルキルスルホン酸又はその塩を表し、R14は、−(CH2)n−を表し、nは0〜4の整数を表す。]
上記のアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーは、後述する窒素含有ポリマーの窒素原子に対してアルキルスルホン酸基を有する化合物を結合させたものである。アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーについては、窒素含有ポリマーの窒素原子にアルキルスルホン酸基を有する化合物を結合させ、上記アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーを作成してから基材へ固定化してもよいし、窒素含有ポリマーを基材に固定化させてから窒素原子にアルキルスルホン酸基を有する化合物を結合させて、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーを作成してもよい。
ここで、窒素含有ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、アルキレンイミン、ビニルアミン、アリルアミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、プロタミン及びグルコサミンからなる群から選択される化合物を構成モノマーとして含むポリマーが挙げられる。これらの構成モノマーは、カチオン性の窒素原子を有するため、窒素含有ポリマーはカチオン性を示し、一方、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物はアニオン性を示すため、イオン結合することが可能である。また、この窒素含有ポリマーに対しアルキルスルホン酸を結合させることで、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーを作成することができる。
アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーは、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。ポリマーが共重合体である場合には、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体又は交互共重合体のいずれであってもよいが、窒素原子を含んだ繰り返し単位が連続するブロックが有った方がアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物と多点的にイオン結合できるため、ブロック共重合体であることがより好ましい。
単独重合体とは、1種類の構成モノマーを重合して得られる高分子化合物をいい、共重合体とは、2種類以上のモノマーを共重合して得られる高分子化合物をいう。中でもブロック共重合体とは、繰り返し単位の異なる少なくとも2種類以上のポリマーが共有結合でつながり、長い連鎖になったような分子構造の共重合体をいい、ブロックとは、ブロック共重合体を構成する「繰り返し単位の異なる少なくとも2種類以上のポリマー」のそれぞれを指す。
アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーは直鎖状でもよいし、分岐状でもよいが、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物と多点的にイオン結合を形成しやすくなるため、分岐状であることがより好ましい。ここで、窒素含有ポリマーの分岐構造がアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーの分岐構造を決定するため、窒素含有ポリマーが分岐状である場合、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーも分岐状となる。
アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物とイオン相互作用に基づく吸着量が多いことから、窒素含有ポリマーとしてポリアルキレンイミンを用いることが好ましい。ポリアルキレンイミンとしては、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン及びポリブチレンイミン、さらにはアルコキシル化されたポリアルキレンイミン等が挙げられるが、カチオン性の窒素原子が最も高密度で存在するため、ポリエチレンイミンがより好ましい。
ポリエチレンイミンの具体例としては、“LUPASOL”(登録商標)(BASF社製)や“EPOMIN”(登録商標)(株式会社日本触媒社製)等が挙げられるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーとの共重合体であってもよく変性体であってもよい。ここでいう変性体とは、ポリマーを構成するモノマーの繰り返し単位は同じであるが、例えば、後述する放射線の照射により、その一部がラジカル分解や再結合等を起こしているものを指す。
アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーは、特に限定されるものではないが、性能に影響を与えない範囲で他のモノマーを含んでいてもよく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、ビニルカプロラクタム、酢酸ビニル、スチレン、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート及びシロキサン等のモノマーを含んでいてもよい。
上記のアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーの重量平均分子量は、600以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらにより好ましい。また、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーの重量平均分子量は、2,000,000以下であることが好ましく、1,500,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることがさらに好ましい。アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーの重量平均分子量は、例えば、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法や、光散乱法等により測定することができる。
上記のアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーは、アルキルスルホン酸基(―(CH2)n―SO3H;nはアルキルスルホン酸基の炭素数を表す)が結合している窒素含有ポリマーである。ここで、アルキルスルホン酸基の炭素数は特に限定されるものではないが、好適な疎水性と官能基の立体障害による影響を減らしてアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物との相互作用を高めるため、アルキルスルホン酸基の炭素数は6以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。本発明に好適なアルキルスルホン酸基として、具体的にはメチルスルホン酸基(―CH2―SO3H)、エチルスルホン酸基(―(CH2)2―SO3H)、プロピルスルホン酸基(―(CH2)3―SO3H)、ブチルスルホン酸基(―(CH2)4―SO3H)、ペンチルスルホン酸基(―(CH2)5―SO3H)及びヘキシルスルホン酸基(―(CH2)6―SO3H)等が挙げられる。
上記のアルキルスルホン酸基に含まれるスルホン酸は、スルホン酸塩を形成していてもよい。スルホン酸塩としては、特に限定されるものではないが、例えばスルホン酸ナトリウム、スルホン酸カルシウム及びスルホン酸アミン塩等が挙げられる。
アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物としては、特に限定されるものではないが、ヘパリン又はヘパリン誘導体であることが好ましい。また、ヘパリン又はヘパリン誘導体は、血液凝固反応を阻害できるものであれば特に限定されず、臨床で一般的に用いられている未分画ヘパリンや低分子量ヘパリンのほか、アンチトロンビンIIIに高親和性のヘパリン等も含まれる。ヘパリンの具体例としては、“ヘパリンナトリウム”(Organon API社製)等が挙げられる。
アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーが血液等の体液中に溶出すると、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を基材の表面に保持できなくなるため、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーは基材の表面と共有結合している。
共有結合とは、二つの原子が互いの電子を共有することによって生じる化学結合を指す。本発明においては、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマー及び基材の表面が有する原子(具体的には炭素、窒素、酸素、硫黄等)同士の共有結合であり、単結合であっても多重結合であってもよい。アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーが基材と共有結合していることは、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーの良溶媒で洗浄した際の洗浄液中にアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーが溶出しないことから判定することができる。ここで、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーの良溶媒としては、基材を溶解せず、共有結合を化学的に切断しない溶媒を選択する。
上記アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーと上記アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物は、イオン結合、水素結合、配位結合及び分子間力からなる群から選択される結合様式で結合している。これらの結合様式は共有結合と比較して弱い結合であるため、形成を阻害する物質を添加することで切断することができる。アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物がアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーとイオン結合、水素結合、配位結合及び分子間力からなる群から選択される結合様式で結合していることは、これらの結合を阻害する物質を添加した際にアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出することから判定することができる。
本発明において、抗血栓性を持たせつつ、凝固系タンパク質であるvWFの吸着量を低減できる抗血栓性材料を提供することを目的に、本願発明者らが鋭意検討した結果、抗血栓性材料の表面をXPSで測定した際の、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率に最適な範囲が存在することを見出した。ここで、原子の存在比率は、「原子数%」で表される。原子数%とは、XPSで検出される全原子の存在量を100とした時の、特定原子の割合を原子数換算で示したものである。
XPSで測定した際の、抗血栓性材料の表面における全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率(原子数%)(以下、「Nratio」)は、以下の式1を満たすことが好ましい。
6.0 ≦ Nratio ≦ 10.0 ・・・式1
[式中、Nratioは、抗血栓性材料の表面における全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率(原子数%)を表す。]
ここで、Nratioは基材に含まれる窒素原子、基材表面に固定化されたアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーに含まれる窒素原子及びアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物に含まれる窒素原子に由来するが、カチオン性の窒素原子密度が高いため、主にアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーに含まれる窒素原子に由来する。Nratioが6.0原子数%以上の場合、基材の表面に固定化されたアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマー及びアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物の量が適切な量となり、目的の抗血栓性能を発揮できる。一方、Nratioが10.0原子数%以下の場合、全原子の存在比率に対する硫黄原子の存在比率が相対的に上昇するため、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーに含まれるスルホン酸基の量や抗血栓性材料の表面に存在するアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物の量が適切な範囲となり、目的の抗血栓性能及びvWF吸着抑制性能を発揮することができる。
具体的に、抗血栓性材料の表面における全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、XPSによって求めることができる。
[XPS測定条件]
装置 :ESCALAB220iXL(VG Scientific社製)
励起X線 :monochromaticAlKα1,2線(1486.6eV)
X線径 :1mm
X電子脱出角度 :90°(抗血栓性材料の表面に対する検出器の傾き)
ここでいう抗血栓性材料の表面とは、XPSの測定条件におけるX電子脱出角度、すなわち抗血栓性材料の表面に対する検出器の傾きを90°として測定した場合に検出される、測定表面からの深さ10nmまでのことを指す。
抗血栓性材料の表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで得られる物質中の束縛電子の結合エネルギー値から、抗血栓性材料又はアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面の原子情報が得られ、また各結合エネルギー値のピークのエネルギーシフトから価数や結合状態に関する情報が得られる。さらに、各ピークの面積比を用いて定量、すなわち各原子や価数、結合状態の存在比率を算出することができる。
具体的には、窒素原子の存在を示すN1sピークは結合エネルギー値が396eV〜403eV付近に見られ、本発明においては、全ピークに対するN1sピークの面積比が6.0〜10.0原子数%であることが好ましいことを見出した。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、小数点第2位を四捨五入して、算出することとする。
また、本発明において、抗血栓性を持たせつつ、凝固系タンパク質であるvWFの吸着量を低減できる抗血栓性材料を提供することを目的に、本願発明者らが鋭意検討した結果、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の表面をXPSで測定した際の、(A)全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率、及び(B)全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率を全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率で割った比に最適な範囲が存在することを見出した。ここで、原子の存在比率は、「原子数%」で表される。原子数%とは、XPSで検出される全原子の存在量を100とした時の、特定原子の割合を原子数換算で示したものである。
すなわち、上記抗血栓材料において、0.6Mホウ酸緩衝液(pH9.0)に37度で24時間浸漬した後にイオン交換水で5回以上洗浄し、真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥させ、表面をX線光電子分光法(XPS)で測定した場合に、(A)全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率(以下、「Nratio」)は、5.0〜15.0原子数%が好ましい。ここで、Nratioは主に基材表面に固定化されたアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーに含まれる窒素原子に由来する。Nratioが5.0原子数%以上の場合、基材の表面に固定化されたアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマー量が適切な量となることで、十分量のアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が担持できるため好ましい。Nratioが15.0原子数%以下の場合、基材の表面に固定化されたアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーに含まれるカチオン性の窒素原子量が適切な量となることで、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を適切な量担持できることから好ましい。
また、本発明において、0.6Mホウ酸緩衝液(pH9.0)に37度で24時間浸漬した後にイオン交換水で5回以上洗浄し、真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥させ、表面をX線光電子分光法(XPS)で測定した場合に、(B)全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率を全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率で割った比(以下、「Sratio/Nratio」)は、以下の式2を満たしていることが好ましい。
0.1 ≦ Sratio/Nratio ≦ 1.0 ・・・式2
[式中、Sratioは、抗血栓性材料の表面における全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率(原子数%)を表し、Nratioは、抗血栓性材料の表面における全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率(原子数%)を表す。]
上記のとおり、Sratio/Nratioは、0.1〜1.0であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.6以下であることがさらに好しい。ここで、Nratioは主に基材表面に固定化されたアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーに含まれる窒素原子に由来し、Sratioは主にアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーが有するアルキルスルホン酸基が持つ硫黄原子に由来するため、Sratio/Nratioはアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーの窒素原子に対するアルキルスルホン酸基導入量を反映する。Sratio/Nratioが0.1以上の場合、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーに含まれるアルキルスルホン酸基量が適切な量となり、vWFの吸着がより好適に抑制できるため好ましい。また、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーとアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物との相互作用のためには、Sratio/Nratioは1以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.6以下であることがさらに好ましい。
具体的に、下記の前処理を施すことで、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面をXPSで測定することができる。
[XPS前処理条件]
抗血栓性材料を十分量の0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬する(37℃、24時間)。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥させる。ここで、十分量とは、抗血栓性材料の表面積に対して、1mL/cm2以上の洗浄液を用いることをいう。
上記の前処理によって、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が抗血栓性材料の表面から溶出されたことは、後述するトルイジンブルー染色法によって定性的に確認することができる。上記の前処理後の抗血栓性材料へのトルイジンブルー吸着量は、前処理前の抗血栓性材料へのトルイジンブルー吸着量よりも少なくなる。
具体的に、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面における全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率及び全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、XPSによって求めることができる。
[XPS測定条件]
装置 :ESCALAB220iXL(VG Scientific社製)
励起X線 :monochromaticAlKα1,2線(1486.6eV)
X線径 :1mm
X電子脱出角度 :90°(アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面に対する検出器の傾き)
ここでいうアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面とは、XPSの測定条件におけるX電子脱出角度、すなわちアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面に対する検出器の傾きを90°として測定した場合に検出される、測定表面からの深さ10nmまでのことを指す。
アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで得られる物質中の束縛電子の結合エネルギー値から、抗血栓性材料又はアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面の原子情報が得られ、また各結合エネルギー値のピークのエネルギーシフトから価数や結合状態に関する情報が得られる。さらに、各ピークの面積比を用いて定量、すなわち各原子や価数、結合状態の存在比率を算出することができる。
具体的には、窒素原子の存在を示すN1sピークは結合エネルギー値が396eV〜403eV付近に見られる。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、小数点第2位を四捨五入して、算出することとする。
また、同様にしてXPS測定から、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率を算出し、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率を全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率で割った比が0.1〜1.0であることが好ましいことを見出した。ここで、硫黄原子の存在を示すS2pピークは結合エネルギー値が161eV〜170eV付近に見られるため、全ピークに対するS2pピークの面積比から全原子の存在量に対する硫黄原子の存在量を算出することができる。全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、小数点第2位を四捨五入して、算出することとする。
アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が硫酸基を有する場合、硫酸基の存在は抗血栓性材料の表面を、飛行時間型2次イオン質量分析法(以下、「TOF−SIMS」)で表面分析することによって確認することができる。
具体的に、抗血栓性材料の表面を、TOF−SIMSで測定する方法を以下に記載する。
[測定条件]
装置 :TOF.SIMS5(ION−TOF社製)
1次イオン種 :Bi3 ++
2次イオン極性 :正及び負
質量範囲(m/z) :0〜1500
ラスターサイズ :300μm四方
ピクセル数(1辺) :256ピクセル
後段加速 :10kV
測定真空度(試料導入前) :4×10−7Mpa
1次イオン加速電圧 :25kV
パルス幅 :10.5ns
バンチング :あり(高質量分解能測定)
帯電中和 :あり
抗血栓性材料の最表面とは、TOF−SIMSの測定条件における測定表面からの深さ1〜3nmまでのことを指す。
TOF−SIMSでは、超高真空中においた抗血栓性材料の最表面にパルス化された1次イオンが照射され、抗血栓性材料の最表面から放出された2次イオンが一定の運動エネルギーを得て飛行時間型の質量分析計へ導かれる。2次イオンの質量に応じて質量スペクトルが得られるため、抗血栓性材料の最表面に存在する有機物や無機物の同定、そのピーク強度から存在量に関する情報が得られる。
具体的に、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が硫酸基を有することは、TOF−SIMSにより観測される負2次イオンとして97HSO4 −ピークの存在によって確認される。より具体的には、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物としてヘパリンを用いる場合、抗血栓性材料の表面をTOF−SIMSで測定すると、負2次イオンとして97HSO4 −ピークに加えて、80SO3 −ピーク、71C3H3O2 −ピーク、83C3H3O3 −ピーク及び26CN−ピークが検出される。
本発明において、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーが窒素原子に結合したアルキルスルホン酸基を有することは、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面を、飛行時間型2次イオン質量分析法(以下、「TOF−SIMS」)で表面分析することによって確認することができる。
具体的に、下記の前処理を施すことで、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面をTOF−SIMSで測定することができる。
[TOF−SIMS前処理条件]
抗血栓性材料を十分量の0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬する(37℃、24時間)。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥させる。ここで、十分量とは、抗血栓性材料の表面積に対して、1mL/cm2以上の洗浄液を用いることをいう。
具体的に、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面を、TOF−SIMSで測定する方法を以下に記載する。
[測定条件]
装置 :TOF.SIMS5(ION−TOF社製)
1次イオン種 :Bi3 ++
2次イオン極性 :正及び負
質量範囲(m/z) :0〜1500
ラスターサイズ :300μm四方
ピクセル数(1辺) :256ピクセル
後段加速 :10kV
測定真空度(試料導入前) :4×10−7Mpa
1次イオン加速電圧 :25kV
パルス幅 :10.5ns
バンチング :あり(高質量分解能測定)
帯電中和 :あり
ここでいうアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の最表面とは、TOF−SIMSの測定条件における測定表面からの深さ1〜3nmまでのことを指す。
TOF−SIMSでは、超高真空中においたアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の最表面にパルス化された1次イオンが照射され、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の最表面から放出された2次イオンが一定の運動エネルギーを得て飛行時間型の質量分析計へ導かれる。2次イオンの質量に応じて質量スペクトルが得られるため、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の最表面に存在する有機物や無機物の同定、そのピーク強度から存在量に関する情報が得られる。
具体的に、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーが有する窒素原子に結合したアルキルスルホン酸基の存在は、TOF−SIMSにより観測される負2次イオンとして14n+108C(n+1)H(2n+2)NSO3 −ピーク及び14n+122C(n+2)H(2n+4)NSO3 −ピークの存在によって確認される。ここで、nはアルキルスルホン酸基の炭素数を示す。
特に限定されるものではないが、14n+108C(n+1)H(2n+2)NSO3 −ピークは下記の一般式(XII)で示される構造を示唆し、14n+122C(n+2)H(2n+4)NSO3 −ピークは下記の一般式(XIII)又は一般式(XIV)で示される構造を示唆する。これらのピークは、いずれも窒素原子に結合したアルキルスルホン酸基特有のピークである。
[式中、nはアルキルスルホン酸基の炭素数を表し、点線はTOF−SIMSによる結合切断部位を表す。]
[式中、nはアルキルスルホン酸基の炭素数を表し、点線はTOF−SIMSによる結合切断部位を表す。]
[式中、nはアルキルスルホン酸基の炭素数を表し、点線はTOF−SIMSによる結合切断部位を表す。]
具体的に、アルキルスルホン酸基としてプロピルスルホン酸基(n=3)を用いた場合、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面をTOF−SIMSで測定すると、負2次イオンとして160C4H8NSO3 −ピーク及び164C5H10NSO3 −ピークを検出することができる。
さらに、窒素含有ポリマーがアルキレンイミンである場合、14n+108C(n+1)H(2n+2)NSO3 −ピーク及び14n+122C(n+2)H(2n+4)NSO3 −ピークに加えて、14n+151C(n+3)H(2n+7)N2SO3 −ピークを検出できる。ここで、nはアルキルスルホン酸基の炭素数を表し、mはアルキレンイミンに含まれる窒素原子間の炭素数を表す。
特に限定されるものではないが、14n+14m+123C(n+m+1)H(2n+2m+3)N2SO3 −ピークは下記の一般式(XV)で示される構造を示唆する。このピークは、アルキレンイミンの窒素原子に結合したアルキルスルホン酸基特有のピークである。
[式中、nはアルキルスルホン酸基の炭素数を表し、mはアルキレンイミンの窒素原子間の炭素数を表し、点線はTOF−SIMSによる結合切断部位を表す。]
具体的に、アルキルスルホン酸基としてプロピルスルホン酸基(n=3)、アルキレンイミンとしてポリエチレンイミン(m=2)を用いた場合、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面をTOF−SIMSで測定すると、負2次イオンとして193C6H13N2SO3 −ピークを検出することができる。
ここでアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物溶出前後の表面をTOF−SIMSで表面分析した結果を比較することで、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物由来のピークを同定することが可能である。検出されるピークがアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物由来であるか、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマー由来であるか判定することができる。
本発明において、抗血栓性材料の表面におけるアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物の存在は、カチオン性官能基を有する色素を用いた染色法によっても確認することができる。
用いられるカチオン性官能基を有する色素の種類は、特に限定されるものではないが、水溶性であることが好ましく、トルイジンブルーo、マラカイトグリーン、メチレンブルー、クリスタルバイオレット及びメチルバイオレット等が挙げられる。
カチオン性官能基を有する色素としてトルイジンブルーoを用いた染色方法を以下に記す。
抗血栓性材料の表面積1cm2に対し、1mLのトルイジンブルーo溶液(1mg/mL、pH10.0の水酸化ナトリウム溶液へトルイジンブルーoを溶解させて調製)に浸漬し、37℃で1時間染色する。抗血栓性材料を染色液から取出し、pH10.0の水酸化ナトリウム溶液で3回洗浄後、50%(v/v)酢酸水溶液で37℃、30分処理して、抗血栓性材料の表面に存在するアニオン性官能基に対し、イオン結合したトルイジンブルーoを抽出する。抽出液において、630nmと750nm(リファレンス)の吸光度を紫外・可視分光光度計(U−3900;株式会社日立ハイテクサイエンス製)にて測定し、差分を真の吸光度とする。別に作製した検量線を用い、真の吸光度から抗血栓性材料の表面へ静電的に吸着していたトルイジンブルーo量を定量することが可能である。
また、本発明において、抗血栓性材料の表面におけるアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーの存在は、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面に対する、アニオン性官能基を有する色素を用いた染色法によっても確認することができる。
用いられるアニオン性官能基を有する色素の種類は、特に限定されるものではないが、水溶性であることが好ましく、オレンジII、メチルオレンジ、メチルレッド、チモールブルー、ダイサルフィンブルー、ルモガリオン、ヒドロキシナフトールブルー及びクマシーブリリアントブルー等が挙げられる。
アニオン性官能基を有する色素としてオレンジIIを用いた染色方法を以下に記す。
アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面積1cm2に対し、1mLのオレンジII溶液(1mg/mL、pH4.0の酢酸緩衝液にオレンジIIを溶解して調製)に浸漬し、37℃で1時間染色する。アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料を染色液から取出し、pH4.0の酢酸緩衝液で1回、蒸留水で2回洗浄後、1mM水酸化ナトリウム水溶液で37℃、30分処理して、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面のカチオン性官能基にイオン結合したオレンジIIを抽出する。抽出液において、482nmと550nm(リファレンス)の吸光度を紫外・可視分光光度計(U−3900;株式会社日立ハイテクサイエンス製)にて測定し、差分を真の吸光度とする。別に作製した検量線を用い、真の吸光度からアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を溶出させた後の抗血栓性材料の表面へ静電的に吸着していたオレンジII量を定量することが可能である。
また、上記抗血栓性材料の抗血栓性を評価する方法は、具体的な方法の例としては、抗血栓性材料の表面の抗ファクターXa活性測定が挙げられる。
ここで、抗ファクターXa活性とは、プロトロンビンからトロンビンへの変換を促進する第Xa因子の活性をどの程度阻害するかを表す指標であり、例えば、抗血栓性化合物としてヘパリン又はヘパリン誘導体を用いる場合に、抗血栓性の指標として用いることができる。特に限定されるものではないが、抗トロンビンXa活性測定には、“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”(積水メディカル株式会社製)を用いることが可能である。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用いた、抗ファクターXa活性の具体的な測定方法を次に記す。
上記抗血栓性材料(一例として口径5mmの生検トレパンで打ち抜いたPET製人工血管)を準備し、生理食塩水を用いて37℃で30分間洗浄する。洗浄後の抗血栓性材料を“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”(積水メディカル株式会社製)の操作手順に従って反応させ、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダ(MTP−300;コロナ電気株式会社製)で測定することで、抗ファクターXa活性による表面量を得た。抗血栓性材料の有効表面積で除することで単位面積あたりの抗ファクターXa活性を算出することができる。ここで、抗ファクターXa活性が低すぎると、上記抗血栓性材料におけるヘパリン又はヘパリン誘導体の表面量が少なく、目的の抗血栓性は得られにくくなる。すなわち、抗ファクターXa活性は20mIU/cm2以上であることがより好ましく、50mIU/cm2以上であることがさらにより好ましい。
上記抗血栓性材料の滅菌にエチレンオキシドガスを用いる場合、エチレンオキシドガス滅菌は抗血栓性材料の表面におけるヘパリン活性を低下させるため、エチレンオキシドガス滅菌前の抗ファクターXa活性は100mIU/cm2以上であることがより好ましい。
本発明において、窒素含有ポリマーがポリエチレンイミン、スルホン酸基を有する化合物がアルキルスルホン酸基である場合、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーの窒素原子に対するアルキルスルホン酸基の導入量はプロトン核磁気共鳴法(以下、「1H−NMR」)によって確認することができる。
具体的に、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーを重溶媒に溶解させた溶液の1H−NMRを測定した際に、ポリエチレンイミンの窒素原子に挟まれた2つの炭素原子に結合した水素原子、ポリエチレンイミンの窒素原子に結合したアルキルスルホン酸基の炭素原子に結合した水素原子、アルキルスルホン酸基の硫黄原子に隣接した炭素原子に結合した水素原子に由来するピークは2.4−3.2pptの範囲に検出され、窒素原子や硫黄原子と結合していないアルキルスルホン酸基の炭素原子に結合した水素原子に由来するピークは1.7−2.2pptの範囲に検出される。従って、下記式3より窒素原子に対するアルキルスルホン酸基の導入量を算出することができる。
窒素原子に対するスルホン酸基の導入量(当量)=(2A/(n−2))/(B−2A) ・・・式3
[式中、Aは1.7−2.2pptの範囲内で検出されるピークの積分値、Bは2.4−3.2pptの範囲内で検出されるピークの積分値、nはアルキルスルホン酸基の炭素数を表す。]
上記の抗血栓性材料は、医療器材のうち、人工肺、人工心臓、人工弁、左心耳閉塞デバイス、ペースメーカー、人工血管、ステント、ステントグラフト、血管カテーテル、遊離血栓捕獲器具、血管閉塞器具、血管内視鏡、縫合糸、人工腎臓、血液回路、チューブ類、カニューレ、血液バッグ及び注射器等に好適に用いることができるが、特に遊離血栓捕獲器具及び人工血管の材料として用いることが好ましい。
上記の抗血栓性材料を遊離血栓捕獲器具に用いる場合、遊離血栓捕獲器具の基材の表面の一部に抗血栓性材料を用いてもよいが、全ての構成要素に抗血栓性材料を用いることが好ましい。基材の構造は特に限定されるものではないが、例えば、多孔膜やメッシュ等が挙げられる。基材の材質としては、特に限定されるものではないが、ニッケル−チタン合金等の金属、ポリウレタン及びポリエステル等が好適に用いられ、ポリエステルの一種であるPETがより好適に用いられる。
上記の抗血栓性材料を人工血管に用いる場合、人工血管の全ての構成要素に抗血栓性材料を用いることが好ましいが、人工血管の内表面が血液と接触し最も抗血栓性を必要とするため、少なくとも人工血管の内表面に抗血栓性材料を用いていればよい。基材である人工血管の内表面を構成する材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、モノフィラメントやマルチフィラメント等で構成された経糸と緯糸からなる織物構造体が好ましい。材質としては、特に限定されるものではないが、ナイロンやポリエステル、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン等が好適に用いられ、ポリエステルの一種であるPETがより好適に用いられる。
人工血管の柔軟性が良好となるためには、材質であるメッシュがPETの場合には、単糸直径が10μm以下であるモノフィラメントやマルチフィラメントが好ましく、単糸直径が5μm以下であるモノフィラメントやマルチフィラメントがより好ましい。
上記の抗血栓性材料の製造方法を以下に示す。アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマー及びアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物の固定化方法は特に限定されるものではないが、第1の結合工程として基材へアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーを固定化し、第2の結合工程としてアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を固定化する方法等が挙げられる。ここで、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーの固定化は、基材へ窒素含有ポリマーを固定化してから窒素含有ポリマーの窒素原子へアルキルスルホン酸基を導入してもよく、窒素含有ポリマーの窒素原子へアルキルスルホン酸基を導入してから基材に固定化してもよい。
第1の結合工程として、基材へ窒素含有ポリマーを固定化してから窒素含有ポリマーの窒素原子へアルキルスルホン酸基を導入させた後、第2の結合工程としてアニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物を上記ポリマーにイオン結合させる方法を用いた場合の製造方法を以下に示す。
窒素含有ポリマーを基材の表面に共有結合させる方法は、特に限定されるものではないが、基材が官能基(水酸基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、イソシアネート基及びチオイソシアネート等)を有する場合、ポリマーと化学反応により共有結合させる方法がある。例えば、基材の表面がカルボキシル基等を有する場合、水酸基、チオール基及びアミノ基等を有するポリマーを基材の表面に共有結合させればよいし、水酸基、チオール基及びアミノ基等を有する化合物をポリマーと共有結合させた後、カルボキシル基等を有する基材の表面に共有結合させる方法等が挙げられる。
また、基材が官能基を有しない場合、プラズマやコロナ等で基材の表面を処理した後に、ポリマーを共有結合させる方法や、放射線を照射することにより、基材の表面及びポリマーにラジカルを発生させ、その再結合反応により基材の表面とポリマーを共有結合させる方法がある。放射線としてはγ線や電子線が主に用いられる。γ線を用いる場合、γ線源量は250万〜1000万Ciが好ましく、300万〜750万Ciがより好ましい。また、電子線を用いる場合、電子線の加速電圧は5MeV以上が好ましく、10MeV以上がより好ましい。放射線量としては、1〜50kGyが好ましく、5〜35kGyがより好ましい。照射温度は10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。
放射線を照射することにより共有結合させる方法の場合、ラジカル発生量を制御するため、抗酸化剤を用いてもよい。ここで、抗酸化剤とは、他の分子に電子を与えやすい性質を持つ分子のことを指す。用いられる抗酸化剤は特に限定されるものではないが、例えば、ビタミンC等の水溶性ビタミン類、ポリフェノール類、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリン等のアルコール類、グルコース、ガラクトース、マンノース及びトレハロース等の糖類、ソジウムハイドロサルファイト、ピロ亜硫酸ナトリウム、二チオン酸ナトリウム等の無機塩類、尿酸、システイン、グルタチオン、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(以下、「Bis−Tris」)等の緩衝剤等が挙げられる。しかしながら、取り扱い性や残存性等の観点から、特にメタノール、エタノール、プロピレングリコール、Bis−Trisが好ましく、プロピレングリコール又はBis−Trisがより好ましい。これらの抗酸化剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。また、抗酸化剤は、水溶液に添加することが好ましい。
基材としてポリエステルを用いる場合、特に限定されるものではないが、加熱条件下でポリマーを接触させることでアミノリシス反応により共有結合させる方法を用いることもできる。また、酸及びアルカリ処理により基材の表面のエステル結合を加水分解させ、基材の表面に生じたカルボキシル基とポリマーのアミノ基を縮合反応させ、共有結合させることもできる。これらの方法において、ポリマーを基材の表面に接触させて反応させてもよいが、溶媒に溶解した状態で接触させて反応させてもよい。溶媒としては、水やアルコール等が好ましいが、取り扱い性や残存性等の観点から、特に水が好ましい。また、ポリマーを構成するモノマーを基材の表面と接触させた状態で重合した後に、反応させて共有結合させてもよい。
加熱の手段は、特に限定されるものではないが、電気加熱、マイクロ波加熱、遠赤外線加熱等が挙げられる。アミノリシス反応によりポリエステル基材とポリマーを共有結合させる場合、加熱温度が低すぎると窒素含有ポリマーによるポリエステル基材に対するアミノリシス反応が進行しにくいため、加熱温度はガラス転移点付近以上であることが好ましい。一方で、高すぎるとアミノリシス反応は十分に進行するものの、基材であるポリエステルの骨格構造が壊れてしまうため、加熱温度は融点以下であることが好ましい。
また、基材に窒素含有ポリマー又はアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーを共有結合する前処理としては、酸又はアルカリと酸化剤を組合せることにより処理する方法が好適に用いられる。この処理する方法を用いる場合、補体を活性化する水酸基を表出させずにアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーが基材に共有結合する量を増やすことができるため好ましい。酸又はアルカリと酸化剤を組合せることにより基材の表面のエステル結合を加水分解及び酸化する工程の組み合わせとしては、酸と酸化剤により処理する方法が好ましいが、アルカリにより基材の表面を処理した後、酸と酸化剤により基材の表面を処理してもよい。
用いられる酸の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、硫酸、フルオロスルホン酸、硝酸、リン酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、テトラフルオロホウ酸、クロム酸及びホウ酸等の無機酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸及びポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸及び酒石酸等のカルボン酸、アスコルビン酸及びメルドラム酸等のビニル性カルボン酸並びにデオキシリボ核酸及びリボ核酸等の核酸が挙げられる。その中でも取り扱い性等の観点から、塩酸や硫酸等がより好ましい。
用いられる塩基の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム及び水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化テトラメチルアンモニウム及び水酸化テトラエチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウムの水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム及び水酸化タリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、グアニジン化合物、ジアンミン銀(I)水酸化物及びテトラアンミン銅(II)水酸化物等のアンミン錯体の水酸化物、水酸化トリメチルスルホニウム並びに水酸化ジフェニルヨードニウムが挙げられる。その中でも取り扱い性等の観点から、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等がより好ましい。
用いられる酸化剤の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、硝酸カリウム、次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素等のハロゲン、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム三水和物、過マンガン酸アンモニウム、過マンガン酸銀、過マンガン酸亜鉛六水和物、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム及び過マンガン酸バリウム等の過マンガン酸塩、硝酸セリウムアンモニウム、クロム酸、二クロム酸、過酸化水素水等の過酸化物、トレンス試薬並びに二酸化硫黄が挙げられるが、その中でも酸化剤の強さや抗血栓性材料の劣化を適度に防ぐことができる等の観点から、過マンガン酸塩がより好ましい。
また、基材として金属材料を用いる場合、特に限定されるものではないが、ホスホン酸誘導体又はカテコール誘導体を用いて基材の表面に官能基を導入することが可能である。ここで、ホスホン酸誘導体とは、下記の一般式(XVI)で示される化合物であり、カテコール誘導体とは、下記の一般式(XVII)で示される化合物である。これらのホスホン酸誘導体及びアルキル基の一端にホスホン酸基又はカテコール基を有し、他端に任意の反応性官能基を有する化合物である。過洗浄した金属基材を上記ホスホン酸誘導体又はカテコール誘導体の溶液に浸漬した後に、基材を溶液からとり出し加熱工程を加えることで、ホスホン酸基又はカテコール基が基材表面に結合され、ホスホン酸誘導体又はカテコール誘導体の他方の末端にある反応性官能基を基材の表面へ導入することができる。
[式中、Aは任意の反応性官能基を表し、Bは直鎖状のアルキル基を表す。]
[式中、Aは任意の反応性官能基を表し、Bは直鎖状のアルキル基を表す。]
また、基材として延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンを用いる場合、特に限定されるものではないが、プラズマやコロナ等により基材の表面を官能基化する方法を用いることができる。また、フッ素樹脂表面処理剤等を用いて基材の表面に存在するフッ素原子を引き抜き、空気中の酸素や水素、水蒸気等と反応して、例えば、水酸基やカルボキシル基、カルボニル基等を形成する方法を用いることもできる。
窒素含有ポリマーと基材の表面の官能基を共有結合させる方法としては、例えば脱水縮合剤等を用いて縮合反応させる方法がある。
用いられる脱水縮合剤の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、1−エーテル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、1−エーテル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、1,3−ビス(2,2−ジメチルー1,3−ジオキソランー4−イルメチル)カルボジイミド、N−{3−(ジメチルアミノ)プロピル−}−N’−エチルカルボジイミド、N−{3−(ジメチルアミノ)プロピル−}−N’−エチルカルボジイミドメチオダイド、N−tert−ブチル−N’−エチルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N’−(2−モルフォィノエチル)カルボジイミド メソ−p−トルエンスルフォネート、N,N’−ジ−tert−ブチルカルボジイミド及びN,N’−ジ−p−トリカルボジイミド等のカルボジイミド系化合物並びに4(−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルフォリニウムクロリドn水和物(以下、「DMT−MM」)等のトリアジン系化合物が挙げられる。
脱水縮合剤は、脱水縮合促進剤と共に用いてもよい。用いられる脱水縮合促進剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール及びN−ヒドロキシコハク酸イミドが挙げられる。
窒素含有ポリマー、脱水縮合剤及び脱水縮合促進剤は、混合水溶液にして反応させてよいし、順番に添加して反応を行なってもよい。
窒素含有ポリマーの窒素原子にアルキルスルホン酸基を結合させる方法は、特に限定されるものではないが、窒素含有ポリマーがアミノ基を有する場合、以下に挙げるスルホン酸化試薬を用いることができる。スルホン酸化試薬として、具体的には1,3−プロパンスルトン、1,4―ブタンスルトン及び1,5−ペンタンスルトン等のアルキルスルトン、ビニルスルホン酸並びに1−ブロモメチルスルホン酸、1−ブロモエチルスルホン酸、1−ブロモプロピルスルホン酸、1−ブロモブチルスルホン酸、1−ブロモペンチルスルホン酸、1−ブロモヘキシルスルホン酸等のハロゲン化アルキルスルホン酸が挙げられる。具体的には、窒素含有ポリマーを基材の表面に共有結合した後に、上記のスルホン酸化試薬の溶液に浸漬させることで、窒素含有ポリマーの窒素原子にアルキルスルホン酸基を導入することができる。
窒素含有ポリマーの窒素原子にアルキルスルホン酸基を結合させてから基材へ固定化してもよいし、上記の窒素含有ポリマーを基材に固定化させてから窒素原子にアルキルスルホン酸基を結合させてもよい。
また、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーが第1級から第3級のアミン残基を含んでいる場合、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物とのイオン相互作用を強固にし、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の溶出速度を制御しやすくさせるために、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーを第4級アンモニウム化する工程を追加してもよい。アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーを第4級アンモニウム化する方法は特に限定されるものではないが、例えば、アルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーを基材の表面に共有結合した後に、塩化エーテル、臭化エチル等のハロゲン化アルキル化合物又はグリシジル基含有4級アンモニウム塩を直接接触させたり、水溶液又は有機溶剤に溶解させて接触させたりする方法が挙げられる。
アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物をアルキルスルホン酸基を有する窒素含有ポリマーにイオン結合させる第2の結合工程としては、特に限定されるものではないが、水溶液の状態で接触させる方法が好ましい。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(参考例1)
10mLのメタノールにポリエチレンイミン(和光純薬株式会社製、重量平均分子量600)1.0gと1,3−プロパンスルトン0.30mLを溶解させ、45℃で12時間反応させ、ポリエチレンイミンの窒素原子にプロピルスルホン酸基を導入した。続いて、反応液に10mLの水酸化ナトリウム水溶液(8mol/L)を添加した。最後に、透析や分液による精製後に真空乾燥して参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを得た。
参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを重メタノールに溶解し、1H−NMRを測定した。窒素原子に対するアルキルスルホン酸基量を算出した結果を表1に示す。参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンのアルキルスルホン酸化率は19%であった。
(参考例2)
1,3−プロパンスルトン使用量を0.30mLから0.60mLに変えた点を除き、参考例1と同様の処理を行い、参考例2のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを得た。
参考例2のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを重メタノールに溶解し、1H−NMRを測定した。窒素原子に対するアルキルスルホン酸基量を算出した結果を表1に示す。参考例2のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンのアルキルスルホン酸化率は30%であった。
(参考例3)
1,3−プロパンスルトン使用量を0.30mLから4.16mLに変えた点を除き、参考例1と同様の処理を行い、参考例3のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを得た。
参考例3のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを重メタノールに溶解し、1H−NMRを測定した。窒素原子に対するアルキルスルホン酸基量を算出した結果を表1に示す。参考例3のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンのアルキルスルホン酸化率は61%であった。
(参考例4)
10mLのメタノールにポリエチレンイミン(和光純薬株式会社製、重量平均分子量10,000)1.0gと1,3−プロパンスルトン0.30mLを溶解させ、45℃で24時間反応させ、ポリエチレンイミンの窒素原子にプロピルスルホン酸基を導入した。続いて、反応液に10mLの水酸化ナトリウム水溶液(8mol/L)を添加した。最後に、透析や分液による精製後に真空乾燥して参考例4のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを得た。
参考例4のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを重メタノールに溶解し、1H−NMRを測定した。窒素原子に対するアルキルスルホン酸基量を算出した結果を表1に示す。参考例4のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンのアルキルスルホン酸化率は18%であった。
(参考例5)
1,3−プロパンスルトン使用量を0.30mLから0.60mLに変えた点を除き、参考例4と同様の処理を行い、参考例5のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを得た。
参考例5のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを重メタノールに溶解し、1H−NMRを測定した。窒素原子に対するアルキルスルホン酸基量を算出した結果を表1に示す。参考例5のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンのアルキルスルホン酸化率は27%であった。
(参考例6)
1,3−プロパンスルトン使用量を0.30mLから4.16mLに変えた点を除き、参考例4と同様の処理を行い、参考例6のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを得た。
参考例6のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを重メタノールに溶解し、1H−NMRを測定した。窒素原子に対するアルキルスルホン酸基量を算出した結果を表1に示す。参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンのアルキルスルホン酸化率は50%であった。
(参考例7)
10mLのメタノールにポリエチレンイミン(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製、重量平均分子量750,000)1.0gと1,3−プロパンスルトン0.30mLを溶解させ、45℃で24時間反応させ、ポリエチレンイミンの窒素原子にプロピルスルホン酸基を導入した。続いて、反応液に10mLの水酸化ナトリウム水溶液(8mol/L)を添加した。最後に、透析や分液による精製後に真空乾燥して参考例7のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを得た。
参考例7のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを重メタノールに溶解し、1H−NMRを測定した。窒素原子に対するアルキルスルホン酸基量を算出した結果を表1に示す。参考例7のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンのアルキルスルホン酸化率は16%であった。
(参考例8)
1,3−プロパンスルトン使用量を0.30mLから0.60mLに変えた点を除き、参考例7と同様の処理を行い、参考例8のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを得た。
参考例8のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを重メタノールに溶解し、1H−NMRを測定した。窒素原子に対するアルキルスルホン酸基量を算出した結果を表1に示す。参考例8のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンのアルキルスルホン酸化率は30%であった。
(参考例9)
1,3−プロパンスルトン使用量を0.60mLから4.16mLに変えた点を除き、参考例7と同様の処理を行い、参考例9のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを得た。
参考例9のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを重メタノールに溶解し、1H−NMRを測定した。窒素原子に対するアルキルスルホン酸基量を算出した結果を表1に示す。参考例9のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンのアルキルスルホン酸化率は54%であった。
(実施例1)
硫酸を0.6mol/L、過マンガン酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)を5.0重量%含む水溶液にPETメッシュ(繊維径:27μm;繊維間距離:100μm)を浸漬し、60℃で3時間反応させてPETメッシュの表面を加水分解及び酸化した(加水分解及び酸化する工程)。反応後に水溶液を除去し、塩酸及び蒸留水で洗浄した。
続いて、DMT−MM(和光純薬工業株式会社製)を0.5重量%、参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを5.0重量%含む水溶液にPETメッシュを浸漬し、30℃で2時間反応させてPETメッシュに参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを縮合反応により共有結合させた(第1の結合工程)。反応後に水溶液を除去し、蒸留水等で洗浄した。
最後に、ヘパリンナトリウム(Organon API社製)を0.75重量%、塩化ナトリウムを0.1mol/L含む水溶液(pH=4に調整)に浸漬し、70℃で6時間反応させて、アルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンとイオン結合させた(第2の結合工程)。水溶液を除去し、蒸留水で洗浄後、真空乾燥して実施例1の抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、実施例1の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。実施例1の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、22.6mIU/cm2であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、実施例1の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。比較例と比較して有意にvWF吸着が抑制されることを確認した。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例1の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、6.8原子数%であり、上記式1を満たす結果となった。
実施例1の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例1の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面から検出される、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、6.6原子数%であり、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、0.9原子数%であった。この場合、上記式2において、Sratio/Nratioは0.14であり、上記式2を満たす結果となった。
(実施例2)
第1の結合工程において、参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンに変えて、参考例4のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを用いた点を除き、実施例1と同様の抗血栓処理を行い、実施例2である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、実施例2の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。実施例2の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、30.4mIU/cm2であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、実施例2の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。比較例と比較して有意にvWF吸着が抑制されることを確認した。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例2の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、6.7原子数%であり、上記式1を満たす結果となった。
実施例2の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例2の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面から検出される、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、6.4原子数%であり、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、1.5原子数%であった。この場合、上記式2において、Sratio/Nratioは0.23であり、上記式2を満たす結果となった。
(実施例3)
第1の結合工程において、参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンに変えて、参考例5のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを用いた点を除き、実施例1と同様の抗血栓処理を行い、実施例3である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、実施例3の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。実施例3の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、174.7mIU/cm2であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、実施例3の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。比較例と比較して有意にvWF吸着が抑制されることを確認した。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例3の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、9.3原子数%であり、上記式1を満たす結果となった。
実施例3の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例3の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面から検出される、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、13.0原子数%であり、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、4.4原子数%であった。この場合、上記式2において、Sratio/Nratioは0.34であり、上記式2を満たす結果となった。
(実施例4)
第1の結合工程において、反応温度を30℃から60℃に変えた点を除き、実施例3と同様の抗血栓処理を行い、実施例4である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、実施例4の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。実施例4の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、185.5mIU/cm2であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、実施例4の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。比較例と比較して有意にvWF吸着が抑制されることを確認した。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例4の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は7.8原子数%であり、上記式1を満たす結果となった。
実施例4の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例4の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面から検出される、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は9.2原子数%であり、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は2.3原子数%であった。この場合、上記式2において、Sratio/Nratioは0.25であり、上記式2を満たす結果となった。
(実施例5)
第1の結合工程において、参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンに変えて、参考例8のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを用いた点を除き、実施例1と同様の抗血栓処理を行い、実施例5である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、実施例5の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。実施例5の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、52.4mIU/cm2であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、実施例5の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。比較例と比較して有意にvWF吸着が抑制されることを確認した。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例5の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は6.8原子数%であり、上記式1を満たす結果となった。
実施例5の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例5の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面から検出される、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は7.2原子数%であり、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は0.8原子数%であった。この場合、上記式2において、Sratio/Nratioは0.11であり、上記式2を満たす結果となった。
(実施例6)
第1の結合工程において、参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンに変えて、参考例7のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを用いた点を除き、実施例1と同様の抗血栓処理を行い、実施例6である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、実施例6の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。実施例6の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、175.5mIU/cm2であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、実施例6の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。比較例と比較して有意にvWF吸着が抑制されることを確認した。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例6の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、7.3原子数%であり、上記式1を満たす結果となった。
実施例6の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例6の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面から検出される、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、8.1原子数%であり、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、1.9原子数%であった。この場合、上記式2において、Sratio/Nratioは0.23であり、上記式2を満たす結果となった。
(実施例7)
硫酸を0.6mol/L、過マンガン酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)を5.0重量%含む水溶液にPETメッシュ(繊維径:27μm;繊維間距離:100μm)を浸漬し、60℃で3時間反応させてPETメッシュの表面を加水分解及び酸化した(加水分解及び酸化する工程)。反応後に水溶液を除去し、塩酸及び蒸留水で洗浄した。
続いて、DMT−MM(和光純薬工業株式会社製)を0.5重量%、ポリエチレンイミン(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製、重量平均分子量750,000)を5.0重量%含む水溶液にPETメッシュを浸漬し、30℃で2時間反応させてPETメッシュにポリエチレンイミンを縮合反応により共有結合させた(第1の結合工程)。反応後に水溶液を除去し、蒸留水等で洗浄した。
続いて、1,3−プロパンスルトンを1.0重量%含むメタノール溶液にPETメッシュを浸漬し、50℃で5時間反応させ、ポリエチレンイミンの窒素原子にプロピルスルホン酸基を導入した。反応後に水溶液を除去し、蒸留水等で洗浄した。
最後に、ヘパリンナトリウム(Organon API社製)を0.75重量%、塩化ナトリウムを0.1mol/L含む水溶液に浸漬し、70℃で6時間反応させて、アルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンとイオン結合させた(第2の結合工程)。水溶液を除去し、蒸留水で洗浄後、真空乾燥して実施例7の抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、実施例7の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。実施例7の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、113.3mIU/cm2であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、実施例7の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。比較例と比較して有意にvWF吸着が抑制されることを確認した。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例7の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、8.7原子数%であり、上記式1を満たす結果となった。
実施例7の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例7の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面から検出される、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、6.7原子数%であり、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、2.9原子数%であった。この場合、上記式2において、Sratio/Nratioは0.43であり、上記式2を満たす結果となった。
(実施例8)
実施例7において1,3−プロパンスルトンを1.0重量%含むメタノール溶液に浸漬し、50℃で5時間反応させる処理の代わりに、1,3−プロパンスルトンを1.0重量%含むメタノール溶液に浸漬し、50℃で5時間反応させ、更に、1,3プロパンスルトンを1.0重量%、メタノールを50重量%、カリウムt−ブトキシドを0.9重量%含む反応溶液に浸漬し、室温で1時間反応させる2重の処理を行なう点を除き、実施例7と同様の抗血栓処理を行い、実施例8である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、実施例8の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。実施例8の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、105.8mIU/cm2であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、実施例8の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。比較例と比較して有意にvWF吸着が抑制されることを確認した。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例8の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、7.8原子数%であり、上記式1を満たす結果となった。
実施例8の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例8の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面から検出される、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、6.6原子数%であり、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、3.1原子数%であった。この場合、上記式2において、Sratio/Nratioは0.47であり、上記式2を満たす結果となった。
(実施例9)
PETメッシュに変えて、PET繊維からなる人工血管(内径3mm)を用いた点を除き、実施例7と同様の抗血栓処理を行い、実施例9である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、実施例9の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。実施例9の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、検量線の上限値である200mIU/cm2以上であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
LDH Cytotoxicity Detection Kit(タカラバイオ社製)を用い、ブタ血小板多血漿(PRP)を30分間循環させた後の、実施例9の抗血栓性材料表面への血小板付着数を評価した。結果を図1に示す。比較例に対して有意に血小板付着が抑制されることが確認された。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例9の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、9.0原子数%であり、上記式1を満たす結果となった。
実施例9の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例9の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面から検出される、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、8.2原子数%であり、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、2.8原子数%であった。この場合、上記式2において、Sratio/Nratioは0.34であり、上記式2を満たす結果となった。
(実施例10)
PETメッシュに変えて、PET繊維からなる人工血管(内径3mm)を用いた点を除き、実施例8と同様の抗血栓処理を行い、実施例10である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、実施例10の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。実施例10の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、検量線の上限値である200mIU/cm2以上であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
LDH Cytotoxicity Detection Kit(タカラバイオ社製)を用い、ブタPRPを30分間循環させた後の、実施例10の抗血栓性材料表面への血小板付着数を評価した。結果を図1に示す。比較例に対して有意に血小板付着が抑制されることが確認された。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例10の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、9.4原子数%であり、上記式1を満たす結果となった。
実施例10の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、実施例10の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面から検出される、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、7.8原子数%であり、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、2.6原子数%であった。この場合、上記式2において、Sratio/Nratioは0.33であり、上記式2を満たす結果となった。
(比較例1)
未処理のPETメッシュを比較例1とする。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、比較例1の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例1の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
(比較例2)
第1の結合工程において、参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンに変えて、ポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製、重量平均分子量10,000)を用いた点を除き、実施例1と同様の抗血栓処理を行い、比較例2である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、比較例2の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。比較例2の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、83.1mIU/cm2であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、比較例2の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例2の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
比較例2の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例2の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
(比較例3)
国際公開2015/080177号の実施例1に記載のサンプル2と同様の方法による、比較例3である抗血栓性材料の製造方法を以下に記載する。
硫酸を0.6mol/L、過マンガン酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)を5.0重量%含む水溶液にPETメッシュ(繊維径:27μm;繊維間距離:100μm)を浸漬し、60℃で3時間反応させてPETメッシュの表面を加水分解及び酸化した(加水分解及び酸化する工程)。反応後に水溶液を除去し、塩酸及び蒸留水で洗浄した。
続いて、DMT−MM(和光純薬工業株式会社製)を0.5重量%、ポリエチレンイミン(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製、重量平均分子量750,000)を5.0重量%含む水溶液にPETメッシュを浸漬し、30℃で2時間反応させてPETメッシュにポリエチレンイミンを縮合反応により共有結合させた(第1の結合工程)。反応後に水溶液を除去し、蒸留水等で洗浄した。
続いて、臭化エチルを1重量%、メタノールを30重量%含む水溶液にPETメッシュを浸漬し、35℃で1時間反応させた後、50℃に加温して4時間反応させ、ポリエチレンイミンを第4級アンモニウム化した。反応後の水溶液を除去し、メタノールや蒸留水で複合材料を洗浄した。
最後に、ヘパリンナトリウム(Organon API社製)を0.75重量%、塩化ナトリウムを0.1mol/L含む水溶液(pH=4に調整)に浸漬し、70℃で6時間反応させて、第4級アンモニウム化ポリエチレンイミンとイオン結合させた。水溶液を除去し、蒸留水で洗浄後、真空乾燥して比較例3の抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、比較例3の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。比較例3の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、81.8mIU/cm2であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、比較例3の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例3の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
比較例3の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例3の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
(比較例4)
PETメッシュに変えて、PET繊維からなる人工血管(内径3mm)を用いた点を除き、比較例3と同様の抗血栓処理を行い、比較例4である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、比較例4の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。比較例4の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、検量線の上限値である200mIU/cm2以上であり、抗血栓性を発揮するのに十分なヘパリンを担持していることを確認した。
LDH Cytotoxicity Detection Kit(タカラバイオ株式会社製)を用い、ブタPRPを30分間循環させた後の、比較例4の抗血栓性材料表面への血小板付着数を評価した。結果を図1に示す。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例4の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
比較例4の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例4の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
(比較例5)
第1の結合工程において、参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンに変えて、参考例2のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを用いた点を除き、実施例1と同様の抗血栓処理を行い、比較例5である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、比較例5の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。比較例5の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、6.8mIU/cm2であった。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、比較例5の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例5の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
比較例5の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例5の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
(比較例6)
第1の結合工程において、参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンに変えて、参考例3のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを用いた点を除き、実施例1と同様の抗血栓処理を行い、比較例6である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、比較例6の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。比較例6の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、4.4mIU/cm2であった。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、比較例6の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例6の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
比較例6の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例6の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
(比較例7)
第1の結合工程において、参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンに変えて、参考例6のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを用いた点を除き、実施例1と同様の抗血栓処理を行い、比較例7である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、比較例7の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。比較例6の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、5.2mIU/cm2であった。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、比較例7の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例7の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
比較例7の抗血栓性材料を0.6M、ホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温、各10分)、室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例7の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
(比較例8)
第1の結合工程において、参考例1のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンに変えて、参考例9のアルキルスルホン酸化ポリエチレンイミンを用いた点を除き、実施例1と同様の抗血栓処理を行い、比較例8である抗血栓性材料を得た。
“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”を用い、抗ファクターXa活性を定量することで、比較例8の抗血栓性材料のヘパリン担持量を評価した。結果を表3に示す。比較例6の抗血栓性材料を生理食塩水に30分浸漬した後のヘパリン担持量は、3.6mIU/cm2であった。
ヒト血漿(SIGMA Aldrich社製)に24時間浸漬後に、後述のELISA法を用いて、比較例8の抗血栓性材料の表面に付着したvWF量を評価した。結果を表3に示す。
光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例8の抗血栓性材料の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
比較例8の抗血栓性材料を0.6Mホウ酸緩衝液(NaOHでpH9.0に調製)へ浸漬し、37℃で24時間振とうすることでヘパリンを溶出させた。続いて、十分量のイオン交換水で5回以上洗浄し(室温;各洗浄時間を10分とした。)た。室温の真空乾燥器内で12時間以上真空乾燥後の表面を、光電子の検出角度を90°に設定してX線光電子分光法(XPS)で測定することで、比較例8の抗血栓性材料について、アニオン性の抗凝固活性を有する有機硫黄化合物が溶出した後の表面の原子組成を評価した。結果を表2に示す。
上記の抗血栓性材料の抗血栓性及びvWF吸着性能を評価するために、評価1:抗ファクターXa活性による表面量、評価2:ヒト血漿浸漬後のvWF吸着量及び評価3:ブタPRP循環後の血小板付着量を行った。それぞれの評価方法を下記に示す。
(評価1:抗ファクターXa活性による表面量)
各実施例及び比較例の抗血栓性材料を口径5mmの生検トレパンで打ち抜き、生理食塩水を用いて37℃で30分間洗浄した。洗浄後のPETメッシュを“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”(積水メディカル株式会社製)の操作手順に従って反応させ、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダ(MTP−300;コロナ電気株式会社製)で測定して、テストチーム ヘパリンSの操作手順に従って抗ファクターXa活性による表面量を算出した。表面量は高い程よく、20mIU/cm2以上であることが好ましい。
(評価2:ヒト血漿浸漬後のvWF付着量)
各実施例及び比較例の抗血栓性材料を0.5×0.5cmのサイズにカットし、0.1mLのヒト血漿に37℃で24時間浸漬し、PBS−Tで5回洗浄した。洗浄した抗血栓性材料は、あらかじめ0.1mL/wellの1%ブロックエース液を分注し37℃で60分振とうした96wellプレートに移し、室温で30分振とう後にPBS―Tで5回洗浄した。各wellへAnti vWF Polyclonal Antibody(Bioss社製)を添加し、30分振とう後にPBS−Tで5回洗浄した。続いて、各WwellにAanti Rabbit IgG A(H+L)―HRP(SouthernBiotech社製)を添加し、30分振とう後にPBS−Tで5回洗浄した。抗血栓性材料を新しいwellに移動後にTMB One solutionを添加し、所定時間経過後に1N HClを添加して発色反応を停止させた。上清を別のwellに移し、450/595nmの吸光度を測定した。
(評価3:ブタ血小板多血漿循環後の血小板付着量)
クエン酸を添加した新鮮ブタ血を遠心分離し、ブタ血小板多血漿(PRP)を得た。各実施例及び比較例の抗血栓性材料を回路に接続し、ブタPRPを200mL/分で30分循環した。循環後の抗血栓性材料を回路から取り外し、口径4mmの生検トレパンでサンプリング後にリン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄した。洗浄した抗血栓性材料を1%Triton溶液に浸漬し、37℃で30分振とうすることで、抗血栓性材料の表面に付着した血小板が溶解した抽出液を得た。得られた抽出液をLDH Cytotoxicity Detection Kit(タカラバイオ株式会社製)で評価することで、抗血栓性材料に付着した血小板由来のLDH活性が得られる。希釈PRPから得られる検量線を用いて、抗血栓性材料への付着血小板数を算出した。