以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
[アブレータの構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るアブレータの構成例を示す模式図である。図1Aはアブレータ100の外観を示す模式図である。図1Bは、アブレータ100の密度分布を示す模式図である。図1Cは、アブレータ100の構成例を示す模式図である。
図1Aには、直方体状のアブレータ100が模式的に図示されている。アブレータ100は、例えば惑星大気に突入する突入カプセル等の外表面に設置され、熱防御システム(TPS)として機能する。なお、アブレータ100の形状は、直方体形状に限定されず、任意の形状のアブレータ100に対して本発明は適用可能である。
アブレータ100は、繊維材料及び熱硬化性樹脂を含有する。すなわち、アブレータ100は、繊維材料を強化繊維とし、熱硬化性樹脂を母材とする繊維強化複合材料として構成されるとも言える。
繊維材料としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、金属繊維およびセラミック繊維などの無機繊維、ならびにポリアミド繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維およびノボロイド繊維(フェノール系繊維)などの有機合成繊維などが挙げられ、特に炭素繊維が用いられることが好ましい。例えば、連続繊維である炭素繊維の周りに所定の割合で隙間(気孔)を持つ材料が、繊維材料として用いられることが好ましい。炭素繊維を用いることで、軽量でありながら高温環境においても剛性を維持できるアブレータ100を実現することが可能である。なお、これらの繊維は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
熱硬化性樹脂は、加熱による硬化反応をへて硬化する樹脂である。熱硬化性樹脂は、繊維材料である炭素繊維の周りの隙間に含浸される。これにより、熱硬化性樹脂は連続繊維である炭素繊維により強化される。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。なお、ここに挙げられた樹脂に限定されず、任意の熱硬化性樹脂が用いられてよい。
本実施形態では、熱硬化性樹脂として、ポリイミド樹脂が用いられる。ポリイミド樹脂は、イミド化反応後、分子鎖の高い剛直性により、優れた剛性及び耐熱性を発揮する。これにより、例えば構造体としての強度を維持しつつ、耐熱性に優れたアブレータ100を実現することが可能である。
ポリイミド樹脂は、例えば本発明者らにより開発され特許文献8に開示されている末端変性イミドオリゴマーを含む樹脂組成物により形成される。なお、特許文献8に開示された内容も本明細書による開示の範囲に含まれる。
この末端変性イミドオリゴマーは、2−フェニル−4,4'−ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン類と1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類とを含む原料化合物から合成され、末端を4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸で変性した芳香族イミドオリゴマーである。
末端変性イミドオリゴマーは、優れた溶剤溶解性、高温での溶融流動性および成形性を示す。そして、その加熱硬化物であるポリイミド樹脂は優れた耐熱性と充分な機械的特性を発現することが可能である。
本実施形態では、ポリイミド樹脂のガラス転移温度は、300℃以上400℃以下であることが好ましい。これは、例えばフェノール樹脂のガラス転移温度と比べ、十分に高い温度である。このようなポリイミド樹脂を母材とすることで、高温環境においてもアブレータ100の剛性を十分に維持することが可能となる。なお、本明細書において、ガラス転移温度とは、ポリイミド樹脂の場合、フィルム状の形態で、動的粘弾性測定(DMA)装置を用いて昇温速度5℃/min、周波数1Hzの条件で測定したときの、貯蔵弾性率曲線が低下する前後における2つの接線の交点を意味する。また、アブレータの場合、アブレータを切削することで作製した試験片を、動的粘弾性測定(DMA)装置を用いて片持ち梁方式、0.1%のひずみ、1Hzの周波数、5℃/minの昇温速度により測定したときの、貯蔵弾性率曲線が低下する前後における2つの接線の交点を意味する。なお、ポリイミド樹脂については、後に詳しく説明する。
ポリイミド樹脂のガラス転移温度は、300℃以上400℃以下であることが好ましく、330℃以上400℃以下であることがより好ましく、350℃以上400℃以下であることがさらに好ましい。これにより、例えば高温環境におけるアブレータの強度が向上し、信頼性の高いTPSを提供することが可能である。
またガラス転移温度の下限値は、300℃であることが好ましく、330℃であることがより好ましい。アブレータ100は、上記した下限値以上のガラス転移温度を有するように適宜設計可能である。
図1Aに示すように、アブレータ100は、表面1と、表面1とは反対側の裏面2とを有する。表面1は、惑星大気に晒される面である。また裏面2は、突入カプセル等の外表面に接続される面である。例えばアブレータ100を搭載した突入カプセルが惑星大気に突入する際には、対流加熱等によりアブレータ100は表面1側から損耗することになる。以下では、表面1から裏面2に向かう方向をアブレータの厚さ方向と記載する。
図1Bには、厚さ方向に沿った断面でのアブレータ100の密度分布の一例がグレースケールを用いて模式的に図示されている。図中の上側が表面1に対応し、下側が裏面2に対応する。またグレーの濃度は密度に対応しており、グレーが濃いほど高い密度となる。
図1Bに示すように、アブレータ100は、厚さ方向(図中の上下方向)に沿って密度が変化する。すなわち、アブレータ100には、互いに異なる密度分布を持った密度層が形成される。なお本開示において、アブレータ100の密度とは、アブレータ100の単位体積あたりの重量である。すなわち、アブレータ100を構成する含有物(繊維材料及び熱硬化性樹脂等)の単位体積あたりの重量が、アブレータ100の密度となる。
図1Cには、図1Bに示す断面に対応するアブレータ100の構成例が模式的に図示されている。図1Cに示すように、アブレータ100は、中間層3と、高密度層4と、低密度層5とを有する。中間層3、高密度層4、及び低密度層5は、各々が繊維材料及び熱硬化性樹脂を含有する密度層である。
中間層3は、高密度層4と低密度層5との間に形成され、表面1側から裏面2側に向けて厚さ方向に沿って密度が漸減する密度層である。図1Bに示すように、アブレータ100の断面では、表面1側から裏面2側に向けて密度が徐々に減少(漸減)する領域(濃いグレーが薄いグレーに変化する領域)が存在する。このアブレータ100内部の領域が、中間層3となる。
中間層3は、第1の境界面6と、第1の境界面6とは反対側の第2の境界面7とを有する。ここで、第1の境界面6とは、例えば厚さ方向に沿って密度が減少し始める境界を表す面である。また第2の境界面7とは、例えば厚さ方向に沿った密度の減少が終了する境界を表す面である。すなわち、密度が徐々に減少する領域の表面1側の境界及び裏面2側の境界が、それぞれ第1の境界面6及び第2の境界面7となる。なお、図1Cに示す例では、第1の境界面6及び第2の境界面7を表す境界線が直線を用いて模式的に図示されている。
このように、中間層3では、第1の境界面6から第2の境界面7にかけて密度が漸減する。すなわち、中間層3は、第1の境界面6と第2の境界面7との間に形成された密度傾斜を持つ領域であるとも言える。本実施形態では、第1の境界面6は、第1の面に相当し、第2の境界面7は、第2の面に相当する。また中間層3は、密度傾斜部に相当する。
高密度層4は、中間層3の第1の境界面6側の密度と略同様の密度を有し、第1の境界面6に接する密度層である。ここで、第1の境界面6側の密度とは、例えば密度が減少し始める境界における密度である。従って別の観点では、高密度層4の密度が減少し始める境界が、第1の境界面6となるとも言える。なお、本開示において、略同様の密度とは、実質的に同様である密度を表し、同様の密度を含む。
図1Bに示すように、高密度層4の第1の境界面6に接する側とは反対の側は、アブレータ100の表面1となる。また高密度層4は、略一様な密度で構成される。すなわちアブレータ100の表面1を構成する略一様に高密度な領域が高密度層4となる。アブレータ100の表面1側に高密度層4を設けることで、対流加熱に伴う表面損耗等に対して、高い耐性を発揮することが可能である。
低密度層5は、中間層3の第2の境界面7側の密度と略同様の密度を有し、第2の境界面7に接する密度層である。ここで、第2の境界面7側の密度とは、例えば密度の減少が終了する境界における密度である。従って別の観点では、裏面2から表面1に向けて低密度層5の密度が増加し始める境界が、第2の境界面7となるとも言える。
図1Bに示すように、低密度層5の第2の境界面7に接する側とは反対の側は、アブレータ100の裏面2となる。また低密度層5は、略一様な密度で構成される。すなわちアブレータ100の裏面2を構成する略一様に低密度な領域が低密度層5となる。アブレータ100の裏面2側に低密度層5を設けることで、対流加熱に伴う熱流入等を抑制することが可能となり、高い耐熱性を発揮することが可能となる。
このように、アブレータ100には、表面1側から高密度層4、中間層3、低密度層5がこの順番で形成される。従って、図1B及び図1Cに示すように、アブレータ100は、密度の高い高密度層4と密度の低い低密度層5とが、緩やかに密度の変化する中間層3を介して接続された構成となる。
本実施形態では、中間層3の密度は、0.6g/cm3以上1.3g/cm3以下の範囲で漸減する。例えば中間層3の第1の境界面6側の密度、すなわち高密度層4の密度が、1.3g/cm3以下に設定される。また中間層3の第2の境界面7側の密度、すなわち低密度層5の密度が、0.6g/cm3以上でかつ高密度層4の密度以下に設定される。
高密度層4の密度を1.3g/cm3以下とすることで、はやぶさカプセルに採用されたCFRP(密度1.3g/cm3以上)や、Galileoの高密度CFRPアブレータ等の高密度アブレータと比べ、より軽量でかつ十分な損耗耐性のある表面構造を実現可能である。また低密度層5の密度を、0.6g/cm3以上とすることで、PICA(密度0.3g/cm3以下)やAVCOAT 5029−39HC/G(密度0.5g/cm3以下)等の低密度アブレータと比べ、熱防御性能に優れた内部構造を実現可能である。
このように本発明に係るアブレータ100の中間層3には、0.6g/cm3以上1.3g/cm3以下の範囲で設定される密度傾斜が設けられ、その範囲は低密度アブレータと高密度アブレータとの間の密度範囲となる。
中間層3(密度傾斜)の密度範囲は、0.6g/cm3以上1.3g/cm3以下であることが好ましい。また高加熱率な突入環境を想定した場合、中間層3における1.0g/cm3以上1.3g/cm3以下の領域が広い(厚い)方がより好ましく、軽量化もしくは断熱性能向上のためには、中間層3における0.6g/cm3以上0.8g/cm3以下の領域が広い(厚い)ことがより好ましい。
また中間層3の密度範囲の下限値は、0.8g/cm3であることが好ましく、0.6g/cm3であることがより好ましい。また中間層3の密度範囲の上限値は、1.0g/cm3であることが好ましく、1.3g/cm3であることがより好ましい。これにより、熱防御性能を有した状態で、軽量化が可能である。
なお、中間層3の密度範囲(高密度層4及び低密度層5の密度)は、上記した範囲に限定されない。例えば中間層3の密度範囲の上限値(高密度層4の密度)が1.3g/cm3よりも大きい値に設定されてもよい。また例えば中間層3の密度範囲の下限値(低密度層5の密度)が0.6g/cm3よりも小さい値に設定されてもよい。
また、高密度層4、中間層3、低密度層5の各密度層の厚さは限定されない。例えば惑星大気への突入時に想定される総加熱量等に応じて高密度層4の厚みを調整する、あるいは要求される剛性に応じて低密度層5の厚みを調整するといったことが可能である。また例えば、高密度層4及び低密度層5の密度差に応じて、中間層3の厚みを調整するといったことが可能である。
この他、高密度層4、中間層3、低密度層5の密度や厚さ等は限定されず、例えば想定されるミッションの内容等に応じて各密度層の密度や厚さ等が適宜設定されてよい。なお、各密度層の密度や厚さを調整する方法については、後に詳しく説明する。
図1Aに示すように、アブレータ100は、熱硬化性樹脂を形成する樹脂組成物と繊維材料とを含有するプリプレグを積層してなる。ここでプリプレグとは、アブレータ100を形成するためのシート状の中間材料であり、繊維材料に熱硬化性樹脂を形成する樹脂組成物を含浸して生成される。アブレータ100は、樹脂組成物が硬化したプリプレグ(硬化プリプレグ10)が互いに接着された状態で積層された構造を有する。図1Aでは、硬化プリプレグ10が積層された積層構造が点線を用いて模式的に図示されている。
アブレータ100には、繊維材料及び熱硬化性樹脂とは異なる他の材料等が含有されてもよい。例えば、SiC、ZB2、HfB2、ZrC、HfC、ZrO2、HfO2等の高融点かつ低密度なセラミックス粉末が含有されてもよい。
[プリプレグの構成]
図2は、アブレータ100を形成するためのプリプレグの外観を示す模式図である。図2には、図1に示すアブレータ100を形成するためのプリプレグ20が図示されている。プリプレグ20は、炭素繊維クロス30と、樹脂組成物とを有する。
炭素繊維クロス30は、炭素繊維をシート状に加工した材料であり、曲げ可能に構成される。炭素繊維クロス30に用いられる炭素繊維は、炭素の含有率が85〜100重量%の範囲にある材料であれば特に限定されないが、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系、およびフェノール系繊維(ノボロイド繊維またはカイノール繊維)を高温(1000〜2000℃等)で炭化した炭素繊維(カイノール炭素繊維)などが挙げられる。これらの中でも、熱伝導率が低いカイノール炭素繊維が好ましい。炭素繊維クロス30としては、例えばシート状に加工されたカイノール繊維を高温で炭化したカイノール炭素繊維等が用いられる。炭素繊維クロス30の種類等は限定されず、例えば、長繊維状または短繊維状の炭素繊維をシート状に加工した材料等が適宜用いられてよい。本実施形態では、炭素繊維クロス30は、シート状の繊維材料に相当する。
炭素繊維クロス30は厚さ方向に直交する第1のシート面31及び第1のシート面31と反対側の第2のシート面32を有する。第1のシート面31及び第2のシート面32の少なくとも一方は、他の炭素繊維クロス30と接着される接着面として機能する。また第1のシート面31(第2のシート面32)は、例えば10cm×10cmの正方形状である。この他、アブレータ100の形状等に応じた任意のサイズの炭素繊維クロス30が用いられてよい。
炭素繊維クロス30の厚さは、例えば1mm程度である。もちろんこれに限定されず、例えばアブレータ100のサイズや密度等に応じた厚さの炭素繊維クロス30が適宜用いられてよい。なお後述するように、炭素繊維クロス30の厚さは、アブレータ100を形成する際の加圧に伴い減少する。従って図1に示す硬化プリプレグ10の厚さは、図2に示すプリプレグ20の厚さよりも小さくなる。
樹脂組成物は、炭素繊維クロス30に含浸される。また樹脂組成物は、ポリイミド樹脂を形成する。従ってプリプレグ20は、炭素繊維クロス30の繊維の隙間に、ポリイミド樹脂を形成可能な樹脂組成物が含浸された材料と言える。
樹脂組成物は、樹脂組成物と溶媒と含むワニスを用いて炭素繊維クロス30に含浸される。ここで、ワニスとは、溶媒に樹脂組成物が溶解した液状の生成物である。液状のワニスを炭素繊維クロス30に含浸することにより、樹脂組成物が炭素繊維クロス30に含浸される。なお炭素繊維クロス30に含浸した有機溶媒は、炭素繊維クロス30を乾燥する工程を経て除去される。この点については、後に詳しく説明する。
このように、樹脂組成物が含浸され、有機溶媒が除去されて乾燥した炭素繊維クロス30が、プリプレグ20として用いられる。以下では図1に示す硬化プリプレグ10と区別するために、図2に示すプリプレグ20を同じ符号を用いて乾燥プリプレグ20と記載する場合がある。本実施形態では、乾燥プリプレグ20は、アブレータを形成するために用いられるプリプレグに相当する。
[樹脂組成物の構成]
以下では、樹脂組成物について具体的に説明する。
樹脂組成物は、下記一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーを含有する。
一般式(1)
(式中、R1およびR2は2−フェニル−4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン、1,3−ジアミノベンゼンから選択される少なくとも1種の2価の芳香族ジアミン残基を表し、R3およびR4は3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル二無水物から選択される少なくとも1種の4価の芳香族テトラカルボン酸類残基を表す。R5およびR6は水素原子又はフェニル基であって、いずれか一方がフェニル基を表す。mおよびnは、1≦m≦10、0≦n≦2、1≦m+n≦10および0.5≦m/(m+n)≦1の関係を満たし、繰り返し単位の配列はブロック的、ランダム的のいずれであってもよい。)
一般式(1)で表される2−フェニル−4,4'−ジアミノジフェニルエーテルを用いた可溶性末端変性イミドオリゴマーは、以下のものであることが好ましい。
すなわち、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、およびビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル酸二無水物から選ばれる1種または2種以上の芳香族テトラカルボン酸類、2−フェニル−4,4'−ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン類、およびイミドオリゴマーに不飽和末端基を導入するための4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸(以下、PEPAと略記することもある)を、ジカルボン酸基の全量と1級アミノ基の全量とがほぼ等しい量となるように仕込み、有機溶媒の存在下または非存在下で反応させて得られるイミドオリゴマーであることが好ましい。(なお隣接するジカルボン酸基の場合は、カルボキシル基2モル当たり1モルの酸無水基があるとみなす。)
従って、式中R3およびR4は、それぞれ独立に上記各種の芳香族テトラカルボン酸類に由来する残基から選択され、互いに同一であっても、異なっていても良い。また、m>1およびn>1の場合、R3(R4)は、互いに同一であっても、異なっていても良い。また、R5およびR6は水素原子又はフェニル基であって、いずれか一方がフェニル基を表し、m>1の場合は、R5がフェニル基でR6が水素原子である単位と、R5が水素原子でR6がフェニル基である単位とが任意に含まれていて良い。
このものは、主鎖にイミド結合を有するイミドオリゴマーであって、末端(好適には両
末端)に4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸に由来する付加重合可能な不飽和末
端基を持ち、1≦m+n≦10の関係を満たし、常温(23℃)で固体(粉末状)のもの
であることが好ましい。
前記一般式(1)では、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(PMDA)に代えて、他の1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類が用いられてもよい。すなわち、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸、あるいは1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸のエステルまたは塩などの酸誘導体が用いられてもよい。尚、R3およびR4が1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物の場合のイミドオリゴマーは下記一般式(1−2)で表わされる。
一般式(1−2)
前記一般式(1)では、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)に代えて、他の3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸類が用いられてもよい。すなわち、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸、あるいは3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸のエステルまたは塩などの酸誘導体が用いられてもよい。尚、R3およびR4が3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の場合のイミドオリゴマーは下記一般式(1−3)で表わされる。
一般式(1−3)
前記一般式(1)では、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル酸二無水物(s−ODPA)に代えて、他のビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル酸類が用いられてもよい。すなわち、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル、あるいはビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテルのエステルまたは塩などの酸誘導体が用いられてもよい。
本発明では、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類、あるいは、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸類、あるいは、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル類を、それぞれ単独で、あるいはそれらを併用することが基本ではあるが、本発明の効果を奏する限り、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類、あるいは、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸類、あるいはビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル類の一部を他の芳香族テトラカルボン酸類化合物に置換しても良い。例えば3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、2,2',3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i−BPDA)、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物などで置換することができ、それらを単独、あるいは2種以上を併用することができる。
本発明では、前記の2−フェニル−4,4'−ジアミノジフェニルエーテルの一部を、他の芳香族ジアミン化合物、例えば1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、4−フェノキシ−1,3−ジアミノベンゼン、2,6−ジエチル−1,3−ジアミノベンゼン、4,6−ジエチル−2−メチル−1,3−ジアミノベンゼン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(4,4'−ODA)、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル(3,4'−ODA)、3,3'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,3'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4'−メチレン−ビス(2,6−ジエチルアニリン)、ビス(2−エチル−6−メチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4'−メチレン−ビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3'−ジメチルベンジジン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス[4'−(4''−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)フルオレンなどで置換することができ、それらを単独、あるいは2種以上を併用することができる。特に、芳香族ジアミン化合物として、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンあるいは9,9−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)フルオレンあるいは1,3−ジアミノベンゼンが好適である。
なお、さらなる機械的強度が求められる用途においては、上記ジアミンを共重合するのが望ましく、ジアミンの合計量に対して、0−50モル%、好ましくは0−25モル%、さらに好ましくは0−10モル%で使用するのが望ましい。すなわち、前記一般式(1)の式中、0.50≦m/(m+n)<1が、さらなる機械的強度が求められる場合には好ましく、さらに、0.75≦m/(m+n)<1が好ましく、さらに、0.90≦m/(m+n)<1が好ましく、0.90≦m/(m+n)≦0.95が最も好ましい。また、共重合用ジアミンとしては、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンあるいは9,9−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)フルオレンあるいは1,3−ジアミノベンゼンが特に好ましい。これにより、高い溶解性を有すると同時に、機械的特性も高いという優れた効果を奏する。もちろん、用途に応じて、必ずしも共重合でなくても本発明は使用可能である。
本発明においては、末端変性(エンドキャップ)用の不飽和酸無水物として4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸を使用することが好ましい。前記の4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸は、酸類の合計量に対して5−200モル%、特に5−150モル%の範囲内の割合で使用することが好ましい。
一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーは、例えば、特許文献8に記載の方法により製造できる。すなわち、前記の3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、およびビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル酸二無水物から選ばれる1種あるいは2種以上の芳香族テトラカルボン酸類化合物と、2−フェニル−4,4'−ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン類、および4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸とが、全成分の酸無水基(隣接するジカルボン酸基の場合は、カルボキシル基2モル当たり1モルの酸無水基とみなす)の全量とアミノ基の全量とがほぼ等量になるように使用して、各成分を、後述の有機溶媒中で、約100℃以下、特に80℃以下の反応温度で重合させて、「アミド−酸結合を有するオリゴマー」を生成し、次いで、そのアミド酸オリゴマー(アミック酸オリゴマーともいう)を、約0〜140℃の低温でイミド化剤を添加する方法によるか、あるいは140〜275℃の高温に加熱する方法によるかして、脱水・環化させて、末端に4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸残基を有するイミドオリゴマーを得ることができる。
本発明の末端変性イミドオリゴマーの特に好ましい製法は、例えば以下の通りである。まず、2−フェニル−4,4'−ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン類を後述の有機溶媒中に均一に溶解後、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物もしくは1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、またはビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル類を含む芳香族テトラカルボン酸二無水物を溶液中に加えて均一に溶解後約5〜60℃の反応温度で1〜180分程度攪拌し、この反応溶液に、4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸を加えて均一に溶解後約5〜60℃の反応温度で1〜180分程度攪拌しながら反応させて前記の末端変性アミド酸オリゴマーを生成する。その後、その反応液を140〜275℃で5分〜24時間攪拌して前記のアミド酸オリゴマーをイミド化反応させて末端変性イミドオリゴマーを生成させ、必要ならば、反応液を室温付近まで冷却することにより本発明の末端変性イミドオリゴマーを得ることができる。前記の反応において、全反応工程あるいは一部の反応工程を窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性のガスの雰囲気あるいは真空中で行うことが好適である。
前記の有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルカプロラクタム、γ−ブチロラクトン(GBL)、シクロヘキサノンなどが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の選択に関しては可溶性ポリイミドについての公知技術を適用することができる。
このように、図2に示す乾燥プリプレグ20には、上記した末端変性イミドオリゴマーが含浸される。なお、乾燥プリプレグ20に含浸される末端変性イミドオリゴマーの具体的な化学構造等は、アブレータ100に要求される耐熱性や強度等に応じて適宜設定されてよい。
アブレータ100の母材となるポリイミド樹脂としては特に制限はないが、ポリイミド樹脂のガラス転移温度は300℃以上400℃以下である事が好ましい。より好ましくは330℃以上400℃以下であり、更に好ましくは350℃以上400℃以下である。このようなポリイミド樹脂を母材とすることで、例えば高温環境におけるアブレータ100の剛性及び強度を十分に維持することが可能となる。また、一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーを含有する樹脂組成物から合成されるポリイミド樹脂である事が好ましい。このようなポリイミド樹脂として、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と株式会社カネカとの共同開発品であるTriA−Xポリイミド樹脂が好ましく例示される。
上記TriA−Xポリイミド樹脂のガラス転移温度は、300〜400℃であり、これは、他の複合材料用樹脂と比べ非常に高いガラス転移温度で、例えば一般的なフェノール樹脂のガラス転移温度(200℃程度)に比べ100℃以上高い温度である。
上記TriA−Xポリイミド樹脂の最低溶融粘度は、0.1〜25000Pa・sであり、最低溶融温度は、320〜360℃である。またTriA−Xポリイミド樹脂の破断伸びは、10%以上である。これらは、TriA−Xポリイミド樹脂を形成する、一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーの化学構造等の設定により、適宜調整することが可能である。
TriA−Xポリイミド樹脂を形成するためのTriA−Xワニスには、上記した末端変性イミドオリゴマー(樹脂組成物)が含有されている。TriA−Xワニスに含有されている末端変性イミドオリゴマーは、上記の一般式(1)で表すことが可能である。本実施形態で用いたTriA−Xワニスの溶媒はNMPである。TriA−Xワニス中の末端変性イミドオリゴマーの含有量は、35質量%以下の範囲で、目的に応じて適宜調節できる。
[アブレータ用の乾燥プリプレグの製造方法]
図3は、アブレータ100用の乾燥プリプレグ20の製造フローチャート図である。以下では、乾燥プリプレグ20の製造方法について説明する。
まず、ポリイミド樹脂を形成する樹脂組成物と溶媒とを含むワニスを炭素繊維クロス30に含浸する(ステップ101)。本実施形態では、上記したTriA−Xポリイミド樹脂を形成する末端変性イミドオリゴマーがNMPに溶解したTriA−Xワニスが用いられる。
以下では、炭素繊維クロス30にワニスを含浸する工程の一例について説明する。始めに所定の枚数の炭素繊維クロス30を準備する。炭素繊維クロス30の枚数は、所望とするアブレータ100の密度及び厚さに応じて適宜設定される。また、所定の枚数の炭素繊維クロス30の総重量を予め測定し、炭素繊維クロス30一枚あたりの平均重量を算出しておく。もちろん、各炭素繊維クロス30の重量が個別に測定されてもよい。なお、炭素繊維クロス30の総重量は、アブレータ100に含まれる炭素繊維の重量Wfとなる。
ワニスを含浸するための含浸用の容器を準備する。含浸用の容器としては、例えば炭素繊維クロス30よりもサイズの大きい平底の金属バット等が用いられる。この時、含浸用の容器の重量を予め測定しておく。
含浸用の容器に所定の塗布重量でワニスを垂らし、容器上のワニスが炭素繊維クロス30の形状と同定度の面積になるように薄く広げる。薄く広げられたワニスの上に一枚の炭素繊維クロス30を置き、ワニスを繊維に浸み込ませる。炭素繊維クロス30を裏返し、反対側の面からもワニスを浸み込ませる。この工程を複数回繰り返し、炭素繊維クロス30の両面からワニスを浸みこませる。以下では、ワニスが含浸された炭素繊維クロス30を、含浸後の炭素繊維クロス30と記載する場合がある。
ワニスが浸み込んだ含浸後の炭素繊維クロス30を金網等の接着面の少ない容器に載置し、真空チャンバー内にて減圧下で静置する。含浸後の炭素繊維クロス30を減圧環境に置く事で、含浸後の炭素繊維クロス30内の繊維間の空間(気孔)から空気等が抜け、その空間にワニスが含浸する。これにより、炭素繊維クロス30内部に、ワニス(樹脂組成物及び溶媒)を均一に含浸することが可能となる。
含浸用の容器に残ったワニスの容器残存重量を算出する。例えば、ワニスが残った容器の重量とワニスを垂らす前の容器の重量との差から、ワニスの容器残存重量が算出される。また含浸用の容器に垂らされたワニスの塗布重量とワニスの容器残存重量との差から、炭素繊維クロス30に含浸されたワニスの含浸重量を算出する。これにより、例えば各炭素繊維クロス30に目標とする量のワニスが含浸されたかどうかを確認することが可能となり、精度の高い品質管理が可能となる。
一枚の炭素繊維クロス30に用いられる塗布重量は、所望とするアブレータ100の特性に応じて適宜設定される。本実施形態では、アブレータ100における繊維体積含有率Vfと樹脂体積含有率Vmとが1:X(X=1〜2)となるように、塗布重量が設定される。ここで繊維体積含有率Vf及び樹脂体積含有率Vmは、アブレータ100の体積に対する炭素繊維の体積及びポリイミド樹脂の体積の割合である。
例えば、炭素繊維クロス30に含浸されるワニスの体積とワニス中の溶媒の体積との差から、炭素繊維クロス30に含浸される樹脂組成物の体積を算出する。ここで、ワニスの体積は(ワニスの含浸重量)/(ワニスの比重)であり、ワニス中の溶媒(NMP)の体積は、(ワニスに含まれる溶媒の重量)/(溶媒の比重)である。また、ワニスが含浸される前の炭素繊維クロス30の平均重量と炭素繊維の密度とから炭素繊維クロス30に含まれる炭素繊維の体積を算出する。
この樹脂組成物の体積と炭素繊維の体積とが1:X(X=1〜2)になるように、塗布重量が決定される。もちろん1:2や2:3といった他の比率となるように塗布重量が決定されてもよい。また塗布重量は、含浸用の容器にワニスが残存することを想定した値に設定される。このように、炭素繊維とポリイミド樹脂とのバランスを高精度に制御することが可能である。この結果、耐熱性や剛性等のパラメータを詳細に設定することが可能となる。この他、塗布重量を設定する方法等は限定されず、任意の方法が用いられてよい。
炭素繊維クロス30にワニスを含浸した後、含浸後の炭素繊維クロス30を乾燥し溶媒を除去する(ステップ102)。含浸後の炭素繊維クロス30から溶媒を除去することで、乾燥プリプレグ20が生成される。以下では、溶媒を除去する工程である乾燥工程の一例として、2通りの乾燥工程(乾燥工程A及び乾燥工程B)について説明する。
乾燥工程Aでは、炭素繊維クロス30の一方の面から蒸発する溶媒の量が、炭素繊維クロス30の他方の面から蒸発する溶媒の量よりも大きくなるように、炭素繊維クロス30を乾燥して溶媒が除去される。ここで、炭素繊維クロス30の一方の面(他方の面)から蒸発する溶媒の量とは、一方の面(他方の面)を通過して炭素繊維クロス30の外側に気体として発散する溶媒の量である。
例えば、炭素繊維クロス30の他方の面上に、蒸発した溶媒の通過を規制する部材等を設けた状態で、炭素繊維クロス30が加熱される。この場合、他方の面から蒸発する溶媒の量が減少する。この結果、一方の面から蒸発する溶媒の量を他方の面から蒸発する溶媒の量よりも大きくすることが可能となる。
図4は、乾燥工程Aの一例を示す模式図である。図4A及び図4Bは、溶媒が除去される前及び後の炭素繊維クロス30を示す模式図である。
図4A及び図4Bでは、炭素繊維クロス30に含まれる樹脂組成物の含有量がグレーの濃度により表されている。グレーの濃度が濃いほど、樹脂組成物の含有量が大きい。なお樹脂組成物の含有量とは、例えば炭素繊維クロス30における樹脂組成物の体積の割合(体積%)や、重量の割合(重量%)により表される量である。
図4に示す例では、炭素繊維クロス30を支持する乾燥用の容器40が用いられる。乾燥用の容器40は、支持面41を有する。支持面41は、穴や溝等がない平面状であり、炭素繊維クロス30を支持する。また乾燥用の容器40は、高温環境で用いられるため、耐熱性のある素材で構成される。乾燥用の容器40としては、例えば金属製のバット等が用いられる。本実施形態では、乾燥用の容器40は、支持体に相当する。
また乾燥工程Aでは、真空オーブンが用いられる。真空オーブンは、対象を加熱するための加熱室を有し、当該加熱室を減圧した状態で動作することが可能である。加熱室を減圧することで、例えば蒸発した溶媒等を速やかに加熱室外に除去することが可能であり、溶媒等を安全に処理することが可能となる。
図4Aに示すように、炭素繊維クロス30は、乾燥用の容器40の支持面41に、炭素繊維クロス30の第2のシート面32が接するように配置される。従って、第2のシート面32は支持面41により覆われた状態となる。なお、乾燥前の炭素繊維クロス30では、樹脂組成物は略均一に分布しており、樹脂組成物の含有量は略一様となる。
炭素繊維クロス30が配置された乾燥用の容器40を、真空オーブンの加熱室に設置し、加熱室を減圧する。加熱室内の温度を上昇させ、炭素繊維クロス30を加熱する。
炭素繊維クロス30の加熱に伴い、炭素繊維クロス30に含まれる溶媒の蒸発量が増加する。炭素繊維クロス30の第2のシート面32は支持面41により覆われた状態であるため、溶媒は主に炭素繊維クロス30の第1のシート面31を通過して加熱室内に発散される。従って、第1のシート面31から蒸発する溶媒の量は、第2のシート面32から蒸発する溶媒の量よりも大きくなる。本実施形態では、第1のシート面31は、シート状の繊維材料の一方の面に相当し、第2のシート面32は、シート状の繊維材料の他方の面に相当する。
また、溶媒の移動に合わせて炭素繊維クロス30内を樹脂組成物が移動する。この結果、乾燥後の炭素繊維クロス30では、図4Bに示すように、第1のシート面31側には第2のシート面32側よりも樹脂組成物が多く含まれる(含有量が大きくなる)。この乾燥後の炭素繊維クロス30が、乾燥プリプレグ20として用いられる。
なお図4Bでは、第1のシート面31から第2のシート面32までの間を4等分する第1の層33a〜第4の層33dにより、樹脂組成物の含有量の分布が模式的に図示されている。樹脂組成物の含有量は、第4の層33d、第3の層33c、第2の層33b、及び第1の層33aの順番で増加する。例えば第1のシート面31側は、第1の層33a及び第2の層33bにより表される領域に相当し、第2のシート面32側は、第3の層33c及び第4の層33dにより表される領域に相当する。もちろんこれに限定されるわけではない。なお、実際の乾燥工程では、樹脂組成物の含有量は連続的に変化することになる。
このように、乾燥工程Aにより生成される乾燥プリプレグ20では、炭素繊維クロス30の第1のシート面31側は、炭素繊維クロス30の第2のシート面32側よりも樹脂組成物の含有量が大きい。すなわち、乾燥プリプレグ20は、第2のシート面32から第1のシート面31にかけて樹脂組成物の密度が増加する密度傾斜を持つとも言える。
乾燥工程Aにより生成される乾燥プリプレグ20を積層して積層体を生成する場合、ある乾燥プリプレグ20の第1のシート面31が、他の乾燥プリプレグ20の第2のシート面32と接するように積層される。後述するように、アブレータ100を形成する際には、積層体を加圧及び加熱する。この時、第1のシート面31側に含まれる樹脂組成物により、隣接する乾燥プリプレグ20の間の接着強度を十分に向上することが可能である。
例えば、加圧される圧力が小さい場合であっても、第1のシート面31側に含まれる樹脂組成物の密度(含有量)が大きいため、隣接する乾燥プリプレグ20を十分な強度で接着することが可能となる。すなわち、第1のシート面31側に含まれる樹脂組成物は、各乾燥プリプレグ20を接着するための接着作用を発揮する。この結果、信頼性の高いアブレータ100を形成することが可能となる。
図3に戻り、ステップ102に示す炭素繊維クロス30の乾燥は、所定の乾燥温度プロファイルに従って実行される。所定の乾燥温度プロファイルには、例えばある温度までの昇温にかける時間や、その温度を維持する時間等の情報が含まれている。例えば真空オーブンを乾燥温度プロファイルに従って制御することにより、炭素繊維クロス30の乾燥工程が実行される。
本実施形態では、溶媒であるNMPの沸点(202℃)よりも高く、ポリイミド樹脂の最低溶融温度(TriA−Xポリイミド樹脂では320℃)よりも低く且つ熱硬化反応が始まる温度(TriA−Xポリイミド樹脂では300℃)よりも低い乾燥温度まで、炭素繊維クロス30が加熱される。乾燥温度は例えば250℃程度に設定されるが、240℃や260℃といった他の値が用いられてもよい。
また乾燥温度プロファイルでは、例えば一晩程度の時間をかけて乾燥温度まで昇温される。このように、十分に時間をかけて昇温することにより、樹脂組成物の密度傾斜を精度良く実現することが可能となる。乾燥温度まで昇温されると、所定の時間だけ温度が保持され、その後室温まで自然冷却が行なわれる。
なお、乾燥温度プロファイルにおける乾燥温度や昇温時間等のパラメータは限定されず、例えば樹脂組成物の密度傾斜を実現可能な任意のパラメータが用いられてよい。また、昇温と温度保持とを数回に分けて行なう階段状の昇温プロセス等を含む乾燥温度プロファイル等が適宜用いられてよい。
自然冷却され室温に戻った炭素繊維クロス30の重量を測定して、溶媒が十分に除去され絶乾状態であるかどうかを確認する。まず乾燥プリプレグ20の重量とワニスが含浸される前の炭素繊維クロスの平均重量との差分から、乾燥プリプレグ20に含まれる樹脂組成物の重量を算出する。乾燥プリプレグ20に含まれる樹脂組成物の重量が、ワニスの含浸重量のうち樹脂組成物の重量(ワニスの含浸重量×質量%で表されるTriA−Xワニスに含まれる末端変性イミドオリゴマーの含有量×0.01)以下の場合、絶乾状態となる。一方で絶乾状態でない場合、炭素繊維クロス30内には溶媒が残っている可能性がある。本実施形態では、絶乾状態が確認された炭素繊維クロス30(乾燥プリプレグ20)が、アブレータ100の形成に用いられる。
乾燥プリプレグ20の絶乾状態を確認した後、ホットプレス装置60(図8参照)等を用いて乾燥プリプレグ20のしわを伸ばす。例えば、乾燥温度プロファイルの乾燥温度でプレスを行い、乾燥プリプレグ20を平面状に整える。これにより、乾燥プリプレグ20を精度良く積層することが可能となる。
なお、図4A及び図4Bでは、乾燥用の容器40に1枚の炭素繊維クロス30が配置されているが、例えば乾燥用の容器40のサイズ等に応じて、複数の炭素繊維クロス30が配置されてもよい。この場合、複数の炭素繊維クロス30は、各々の第2のシート面32が支持面41に接するようにそれぞれ配置される。これにより、複数の炭素繊維クロス30を同時に乾燥することが可能となり、乾燥プリプレグ20の製造効率が向上する。
乾燥工程Aを用いることで、例えば樹脂組成物の含浸量が少ない場合であっても、接着性の高い乾燥プリプレグ20を実現することが可能である。例えば乾燥工程Aにより、0.6g/cm3以上1.0g/cm3未満の密度範囲(中密度範囲)のアブレータ100用の乾燥プリプレグ20を生成することが可能である。もちろんこれに限定されず、例えば、他の密度用の乾燥プリプレグ20を生成する場合に乾燥工程Aが用いられてもよい。
次に、乾燥工程Bについて説明する。乾燥工程Bでは、炭素繊維クロス30の一方の面から蒸発する溶媒の量が、炭素繊維クロス30の他方の面から蒸発する溶媒の量と等しくなるように、炭素繊維クロス30を乾燥して溶媒が除去される。
例えば、炭素繊維クロス30の各面が他の部材等により覆われないような状態で、炭素繊維クロス30が加熱される。この場合、炭素繊維クロス30の各面を通って蒸発する溶媒の量を、実質的に等しくすることが可能である。
図5は、乾燥工程Bの一例を示す模式図である。図5に示すように、乾燥工程Bは、炭素繊維クロス30が吊るされた状態で行なわれる。この乾燥工程では、炭素繊維クロス30を吊るした状態で保持するためのクリップ43等が用いられる。例えば、炭素繊維クロス30の周縁をクリップ43で挟み、当該クリップ43を用いて炭素繊維クロス30を真空オーブンの加熱室内に設けられた支持棒44に吊るす。この時、炭素繊維クロス30の各面(第1のシート面31及び第2のシート面32)は、他の炭素繊維クロス30の各面と触れないように配置される。
このように、炭素繊維クロス30が吊るされた状態で、加熱室内を減圧し、所定の乾燥温度プロファイルに沿って炭素繊維クロス30を加熱する。なお乾燥工程Bで用いられる乾燥温度プロファイルは限定されず、例えば乾燥工程Aと同様の乾燥温度プロファイル等が適宜用いられる。
図5に示すように、炭素繊維クロス30を吊るすことで、第1のシート面31を通過して加熱室内に発散する溶媒の量と、第2のシート面32を通過して加熱室内に発散する溶媒の量とが実質的に等しくなる。この結果、乾燥後の炭素繊維クロス30(乾燥プリプレグ20)では、炭素繊維クロス30の第1のシート面31側の樹脂組成物の含有量と、炭素繊維クロス30の第2のシート面32側の樹脂組成物の含有量とが略等しくなる。
炭素繊維クロス30を吊るすことにより、加熱室内に配置可能な炭素繊維クロス30の数を増やすことが可能である。このように加熱室内の空間を有効に活用できるため、例えば1回の乾燥工程で生成される乾燥プリプレグ20の数を増やすことが可能となり、乾燥プリプレグ20の製造効率を向上することが可能となる。
乾燥工程の終了後、炭素繊維クロス30の絶乾状態を確認する。そして絶乾状態であることが確認された炭素繊維クロス30のしわ等を伸ばすプレス処理等を実行する。絶乾状態を確認する方法やプレス処理等は、例えば乾燥工程Aと同様に実行される。
乾燥工程Bを用いることで、例えば樹脂組成物が全体に略均一に含浸された乾燥プリプレグ20を実現することが可能である。乾燥工程Bにより、例えば1.0g/cm3以上1.3g/cm3以下の密度範囲(高密度範囲)のアブレータ100用の乾燥プリプレグ20を生成することが可能である。これに限定されず、例えば想定されるアブレータの密度や接着強度等に応じて、乾燥工程A及びBが適宜選択されてよい。もちろん、溶媒を除去するための他の乾燥工程が適宜実行されてもよい。
[アブレータの製造方法]
図6は、アブレータ100の製造フローチャート図である。以下では、アブレータ100の製造方法について説明する。
まず、熱硬化性樹脂を形成する樹脂組成物と繊維材料とを含有するプリプレグを積層して積層体を生成する(ステップ201)。具体的には、上記で説明した乾燥プリプレグ20(ポリイミド樹脂を形成する樹脂組成物が含浸された炭素繊維クロス30)が積層される。後述するように積層体50を加熱・加圧することで、アブレータ100が形成される。従って積層体50は、アブレータ100となる前の中間体であるとも言える。
図7は、積層体50の構成例を示す模式図である。図7には、側方から見た場合の積層体50の構成例が模式的に図示されている。積層体50では、乾燥プリプレグ20が積層される方向(図中の上下方向)が、アブレータ100の厚さ方向となる。
また図7では、上端に配置される乾燥プリプレグ20の上側の面がアブレータ100の表面1となり、下端に配置される乾燥プリプレグ20の下側の面がアブレータ100の裏面2となる。以下では、積層体50においてアブレータ100の表面1となる面を積層体50の表面1と記載し、アブレータ100の裏面2となる面を積層体50の裏面2と記載する。本実施形態では、積層体50の表面1は、積層体の一方の面に相当し、積層体50の裏面は、積層体の他方の面に相当する。
積層体50を生成する工程では、樹脂組成物の含有量が互いに等しい乾燥プリプレグもしくは樹脂組成物の含有量が互いに異なる複数種類の乾燥プリプレグ20が積層される。複数種類の乾燥プリプレグ20としては、典型的には、繊維材料(炭素繊維クロス30)の含有量を一定にして、樹脂組成物の含有量を変えた乾燥プリプレグ20が用いられる。すなわち、同様の炭素繊維クロス30に対して異なる量のワニス(樹脂組成物)を含浸して生成された乾燥プリプレグ20が用いられる。なお繊維材料の含有量等が異なる乾燥プリプレグ20が用いられる場合であっても本発明は適用可能である。
本実施形態では、樹脂組成物の含有量が高い第1の乾燥プリプレグ20aと、第1の乾燥プリプレグ20aよりも樹脂組成物の含有量が低い第2の乾燥プリプレグ20bとの2種類の乾燥プリプレグ20が用いられる。樹脂組成物の含有量は、例えば繊維体積含有率Vfと樹脂体積含有率Vmとの比率が所望の比率となるように適宜設定される。
第1の乾燥プリプレグ20aは、例えばVf:Vm=1:X(X=1.5〜2)となるように樹脂組成物が含浸された乾燥プリプレグであり、上記した乾燥工程B(図5参照)を用いて生成される。第1の乾燥プリプレグ20aは、樹脂組成物の割合が高く気孔の割合が低いプリプレグである。
また第2の乾燥プリプレグ20bは、例えばVf:Vm=1:1となるように樹脂組成物が含浸された乾燥プリプレグ20であり、上記した乾燥工程A(図4参照)を用いて生成される。第2の乾燥プリプレグ20bは、樹脂組成物の割合が低く気孔の割合が高いプリプレグである。この場合、第1の乾燥プリプレグ20aの樹脂組成物の含有量は、第2の乾燥プリプレグ20bと比べ1.5倍〜2倍となる。
なお、各乾燥プリプレグ20の樹脂組成物の含有量は上記した例に限定されない。例えばアブレータ100において要求される密度分布等が実現されるように、各乾燥プリプレグ20の樹脂組成物の含有量が適宜設定されてよい。また樹脂組成物の含有量に応じた乾燥工程が適宜選択されてよい。
本実施形態では、2種類の乾燥プリプレグ20のうち、積層体50の表面1側に、樹脂組成物の含有量が高い第1の乾燥プリプレグ20aを配置して積層体50が生成される。図7に示すように、積層体50の表面1側には、第1の乾燥プリプレグ20aが所定の枚数だけ積層される。第1の乾燥プリプレグ20aを積層する枚数は、例えばアブレータ100の高密度層4の厚さ(図1B及び図1C参照)が所望の厚さとなるように適宜設定される。
また積層体50の裏面2側には、第2の乾燥プリプレグ20bが所定の枚数だけ積層される。第2の乾燥プリプレグ20bを積層する枚数は、例えばアブレータ100全体の厚さが所望の厚さとなるように適宜設定される。なお、第2の乾燥プリプレグ20bは、第1のシート面31が、他の第2の乾燥プリプレグ20bの第2のシート面32と接するように積層される。
このように、積層体50は、一方の側(表面1側)に第1の乾燥プリプレグ20aを積層し、残りの部分(裏面2側)に第2の乾燥プリプレグ20bを積層した構造となっている。以下では第1及び第2の乾燥プリプレグ20a及び20bが積層された各領域の厚さをそれぞれLa0及びLb0と記載する。
なお、積層体50の具体的な構成は限定されない。例えば、樹脂組成物の含有量が高い第1の乾燥プリプレグ20aの間に、樹脂組成物の含有量が低い第2の乾燥プリプレグ20bを混ぜて積層体50が構成されてもよい。これにより、積層体50の表面1側の樹脂組成物の含有量等を細かく制御することが可能である。また樹脂組成物の含有量が互いに異なる2種類以上の乾燥プリプレグ20を用いて積層体50が構成されてもよい。
図6に戻り、積層体50を表面1及び裏面2から加熱して、各面の加熱温度を制御しながら積層体50を加圧する(ステップ202)。積層体50を加熱及び加圧することで、アブレータ100が形成される。
図8は、アブレータ100を形成する工程の一例を示す模式図である。図8Aは、積層体50が加圧される前の状態を示す模式図であり、図8Bは、積層体50が加圧及び加熱されている状態を示す模式図である。図8A及び図8Bに示すように、アブレータ100を形成する工程では、ホットプレス装置60が用いられる。
ホットプレス装置60は、台座61と、下部熱板62と、上部熱板63と、加圧部64とを有する。台座61は、ホットプレス装置60の下側に配置され装置全体を支持する。下部熱板62は、台座61に設置される。上部熱板63は、下部熱板62の上側に下部熱板62から所定の距離離れた位置に配置される。加圧部64は、上部熱板63に接続され当該上部熱板63を上下に移動可能に支持する。
ホットプレス装置60は、下部熱板62及び上部熱板63の温度をそれぞれ制御可能に構成される。またホットプレス装置60では、下部熱板62と上部熱板63との間に設置された対象物(積層体50)に対して、加圧部64により上部熱板63を介して圧力を加えることが可能である。
図8Aに示すように、積層体50は、裏面2を下側にして下部熱板62上に配置される。また上部熱板63は、積層体50の上部(表面1)に接する位置まで移動される。図8Aに示す状態では、ホットプレス装置60から積層体50に作用する圧力は略ゼロである。なお、乾燥プリプレグ20の枚数が多く積層体50が不安定な場合等には、圧力の表示値等が増加しない程度に上部熱板63を移動して積層体50を押さえつけてもよい。
ホットプレス装置60では、アブレータ100を形成するための加熱プロファイルに沿って、下部熱板62及び上部熱板63の温度がそれぞれ制御される。本実施形態では、下部熱板62及び上部熱板63は、別々の加熱プロファイルに沿って制御される。これらの加熱プロファイルは、熱硬化性樹脂(ポリイミド樹脂)の溶融粘度の温度特性に合わせて設定される。
一般に熱硬化性樹脂は、加熱された樹脂組成物が硬化反応をすることで形成される。本開示において、熱硬化性樹脂の溶融粘度とは、硬化される前の樹脂組成物の溶融粘度、硬化過程における樹脂組成物と熱硬化性樹脂とが混在している混合物の溶融粘度、及び硬化反応をへて形成された熱硬化性樹脂の溶融粘度を含む。
例えば熱硬化性樹脂の溶融粘度は、ある温度(以下では最低溶融温度Tminと記載する)までの上昇に対して対数的に減少する。また最低溶融温度Tminよりも高い温度では、温度の上昇に対して溶融粘度が対数的に増加する。すなわち溶融粘度は、最低溶融温度Tminで最も低くなり、その前後で急激に変化(減少・増加)することなる。
本発明者は、この熱硬化性樹脂の溶融粘度の温度特性に着目し、積層体50の表面1及び裏面2を加熱する加熱プロファイルをそれぞれ設定し、積層体50を加圧する温度条件を設定した。以下では、積層体50の加熱・加圧の条件について具体的に説明する。
図9は、アブレータ100を形成するための加熱プロファイルの一例を示すグラフである。グラフの横軸は時間であり、グラフの縦軸は上部熱板63及び下部熱板62の温度である。図9では、上部熱板63の加熱プロファイルが実線で示されており、下部熱板62の加熱プロファイルが点線で示されている。以下では、上部熱板63の温度をTupperと記載し、下部熱板62の温度をTlowerと記載する。
ホットプレス装置60では、積層体50が各熱板に挟まれた状態(図8Aに示す状態)で、上部熱板63及び下部熱板62の昇温が開始される。上部熱板63及び下部熱板62は、所定の昇温速度で加熱される。
まず上部熱板63は、樹脂の硬化反応が開始されない初期温度Ts(例えば250℃)まで加熱される。なお初期温度Tsは、ポリイミド樹脂の最低溶融温度Tminよりも低い温度に設定される。また下部熱板62は、初期温度Tsよりも低い調整温度Tc(例えば150℃)まで加熱される。図9には、上部熱板63が初期温度Tsまで加熱され、下部熱板62が調整温度Tcまで加熱された時刻t0以降の加熱プロファイルが示されている。
時刻t0以降、下部熱板62の温度Tlowerは、所定の期間にわたってTlower=Tcに維持される。一方で、下部熱板62の温度TlowerがTcに維持されている間、上部熱板63の温度Tupperは最終加熱温度Tfにむけて昇温される。すなわち積層体50の裏面2側の温度を一定値(Tc)に維持したまま、表面1側の温度が昇温される。
このように、上部熱板63の温度Tupperを下部熱板62の温度Tlowerよりも高く設定することで、積層体50内部には表面1側から裏面2側にかけて温度が徐々に低下する温度勾配が生じることになる。また上部熱板63の温度Tupperの上昇に伴い、温度勾配の傾斜が急になる。
積層体50の内部には、温度勾配に応じたポリイミド樹脂の溶融粘度の違いが生じる。例えば温度が高い領域では、溶融粘度が低くなり、樹脂組成物等が炭素繊維の間を流動し易くなる。この結果、温度が高い領域では積層体50(乾燥プリプレグ20)がつぶれ易い状態となる。一方で温度が低い領域では、溶融粘度が高く、温度が高い領域に比べ積層体50はつぶれ難い状態となる。
このように表面1側から裏面2側にかけて温度が低下する温度勾配を作り出すことで、積層体50は、表面1に近いほどつぶれ易い状態となり、裏面2に近いほどつぶれ難い状態となる。このように積層体50の内部には、温度勾配に応じた溶融粘度の勾配が生じることになる。
上部熱板63の温度Tupperが加圧温度Tpに到達したタイミング(時刻t1)で、積層体50が加圧される。すなわち、積層体50の表面1を加圧温度Tpで加熱し、裏面2を加圧温度Tpよりも低い調整温度Tcで加熱した状態で、積層体50を加圧する。本実施形態では、加圧温度Tpは、第1の温度に相当し、調整温度Tcは、第2の温度に相当する。
具体的には、Tupper=Tpとなったタイミングで、ホットプレス装置60の加圧部64により上部熱板63が所定の変位量だけ下方に移動される(図8B参照)。これにより積層体50の厚さは、L0からL1に減少する。また積層体50には所定の変位量(L0−L1)に応じた圧力が加えられる。所定の変位量は、例えば所望とするアブレータ100の密度及び厚さが実現されるように適宜設定される。
図10は、加圧された積層体50の構成例を示す模式図である。図10には、積層体50の表面1及び裏面2から加えられる熱が白抜きの矢印を用いて模式的に図示されている。矢印の大きさは、各面に加えられる熱量を表している。
積層体50(乾燥プリプレグ20)に圧力を加えて圧縮すると、積層体50の内部に存在する気孔の体積が減少する。従って積層体50の圧縮率(つぶれ度合い)を制御することで、単位体積あたりの重量(密度)を制御することが可能である。図10に示すように、積層体50は、表面1と裏面2とに温度差がある状態で加圧される。これにより、溶融粘度の違いを利用した密度分布の形成が可能となる。
本実施形態では、積層体50の加圧温度Tpは、熱硬化性樹脂の溶融粘度の温度特性に基づいて設定される。典型的には、加圧温度Tpは、熱硬化性樹脂の最低溶融温度Tminに設定される。すなわち、積層体50の表面1側におけるポリイミド樹脂の溶融粘度が最も低くなるタイミングで、積層体50が加圧されることになる。
最低溶融温度Tminよりも高い温度では、例えば付加重合反応(硬化反応)が盛んになり、溶融粘度が上昇する。従って、加圧温度Tpを最低溶融温度Tminに設定することで、硬化反応が支配的になる前の、最も圧縮が容易な状況で積層体50の表面1側を加圧することが可能となる。これにより、乾燥プリプレグ20間の接着及び積層体50の密度の制御を容易に実現することが可能となる。なお加圧温度Tpを最低溶融温度Tminに設定する場合に限定されず、例えば所望の溶融粘度が実現される温度に加圧温度Tpが設定されてもよい。
積層体50を加圧すると、表面1側の圧縮率(つぶれ度合い)は、裏面2側と比べ大きくなる。例えば第1の乾燥プリプレグ20aが積層された領域の厚さは、加圧前の厚さLa0から加圧後の厚さLa1に減少する。また第2の乾燥プリプレグ20bが積層された領域の厚さは、加圧前の厚さLb0から加圧後の厚さLb1に減少する。各領域の加圧前の厚みに対する加圧後の厚みの割合は、例えば(La1/La0)<(Lb1/Lb0)となる。すなわち、表面1側に積層された第1の乾燥プリプレグ20aは、裏面2側に積層された第2の乾燥プリプレグ20bと比べてつぶされる割合が大きくなるとも言える。なお個々の乾燥プリプレグ20の圧縮率は、例えば各々の温度(溶融粘度)に応じた値となる。
このように、積層体50の表面1側では、樹脂組成物の含有量が高い第1の乾燥プリプレグ20aが、高い圧縮率でつぶされることになる。また溶融粘度が十分に低い状態で圧縮されるため、樹脂組成物が積層体50の表面1側に略一様に広がることになる。この結果、積層体50の表面1側には、樹脂組成物の含有量が高く、略一様に高密度な密度層が形成される。この密度層が、図1B及び図1Cを参照して説明した高密度層4に対応する。
積層体50の表面1から離れるほどポリイミド樹脂の溶融粘度は増大する。従って、高密度層4となる密度層の下側(裏面2側)には、溶融粘度の勾配に応じて圧縮される領域が形成される。この領域では、溶融粘度が増大(温度が低下)するのに従って圧縮率が減少する。この結果、表面1から裏面2に向かう方向に密度が徐々に減少する密度層が形成される。この密度層が、図1B及び図1Cを参照して説明した中間層3に対応する。
溶融粘度が一定の値よりも大きくなると、積層体50の圧縮率はほとんど変化しなくなる。従って、中間層3となる密度層での密度(圧縮率)の減少は一定の深さで終了する。このため、中間層3となる密度層の下側(裏面2側)には、略一様な圧縮率でつぶされる領域が形成される。この圧縮率は、例えば高密度層4となる密度層の圧縮率と比べ小さく、かつ中間層3となる密度層の下側の圧縮率と略同様の値となる。この結果、積層体50の裏面2側には、略一様に低密度な密度層が形成される。この密度層が、図1B及び図1Cを参照して説明した低密度層5に対応する。
このように、表面1の加熱温度(Tp)を高く設定し、裏面2の加熱温度(Tc)を低く設定した状態で、積層体50を加圧することで、高密度層4、中間層3、及び低密度層5となる各密度層が同時に形成される。これにより、各密度層を張り合わせるといった工程が不要となり、アブレータ100の製造工程を簡素化することが可能である。
なお、上記で説明した密度分布は、例えば加圧時の下部熱板62の温度Tlowerである調整温度Tcを制御することで、容易に制御することが可能である。例えば調整温度Tcを低く設定し、温度差を大きくした場合、緩やかな密度傾斜を持つ中間層3等を形成することが可能である。また調整温度Tcを高く設定し、温度差を小さくした場合、急峻な密度傾斜を持つ中間層3等を形成することが可能である。この他、調整温度Tcを制御することで、高密度層4、中間層3、及び低密度層5の幅や深さ等を適宜調整することが可能である。これにより、所望の密度分布を持ったアブレータ100を形成することが可能となる。
図9に戻り、積層体50が加圧されると、積層体50を加圧した状態で、積層体50の表面1を加圧温度Tpよりも高い最終加熱温度Tfまで加熱する。すなわち、上部熱板63の昇温が、最終加熱温度Tfに到達するまで継続される。なお図9に示すように、積層体50が加圧される時刻t1の前後で、上部熱板63の昇温速度は変更されない。
積層体50を最終加熱温度Tfまで加熱することで、乾燥プリプレグ20に含まれている樹脂組成物である末端変性イミドオリゴマーの末端基が付加重合し、TriA−Xポリイミド樹脂が構成される。なお、この付加重合の反応では、水分等の低沸点の物質は生成されない。このように、TriA−Xポリイミド樹脂を母材とすることで、水分等の含有量が非常に低いアブレータ100を形成することが可能となる。すなわち最終加熱温度Tfは、樹脂組成物の硬化処理温度であるとも言える。
なおアブレータ100の最終加熱温度Tfは、例えばTriA−Xポリイミド樹脂のガラス転移温度以上の値(例えばガラス転移温度+10℃)に設定される。これにより積層体50に多少の温度むら等があった場合であっても、適正に熱硬化を行なうことが可能となる。本実施形態では、最終加熱温度Tfは、第3の温度に相当する。
上部熱板63(表面1)の温度Tupperが最終加熱温度Tfに到達すると、上部熱板63は、所定の期間にわたってTupper=Tfに維持される。また、Tupper=Tfとなったタイミング(時刻t2)に合わせて、最終加熱温度Tfに向けて下部熱板62の温度Tlowerの昇温が開始される。
時刻t2以降、表面1側では、樹脂組成物の硬化反応が継続される。このため下部熱板62の温度Tlowerが上昇する場合であっても、高密度層4等の密度は略維持される。一方で、裏面2側に配置された乾燥プリプレグ20では、Tlowerの上昇に伴い溶融粘度が増加する。この結果、裏面2側に配置された乾燥プリプレグ20間の接着等が進行することになる。
このように、本実施形態では、積層体50の表面1が最終加熱温度Tfに達するタイミングよりも後に積層体50の裏面2が最終加熱温度Tfに達するように、積層体50を加圧した状態で、積層体50の裏面2が加熱される。これにより、加圧時に形成された積層体50内部の密度分布等を略維持したまま、積層体50全体の硬化処理を行なうことが可能となる。これにより、所望の密度分布を持ったアブレータ100を精度よく形成することが可能となる。
下部熱板62(裏面2)の温度Tlowerが最終加熱温度Tfに到達する(時刻t3)と、下部熱板62は、Tlower=Tfに維持される。従って図9に示すように時刻t3以降、上部熱板63及び下部熱板62はともに最終加熱温度Tfで維持される。これにより、積層体50全体が最終加熱温度Tfに加熱され、むらなく硬化処理を行なうことが可能となる。時刻t4になると、上部熱板63及び下部熱板62の温度Tupper及びTlowerは、室温になるまで自然冷却される。
室温まで冷却された積層体50は、圧力が加えられた時の厚さL1を略維持して硬化することになる。また積層体50の内部では、圧力が加えられた時と略同様の密度分布を持った高密度層4、中間層3、及び低密度層5が形成される。このように、本実施形態では、高密度層4及び低密度層5が中間層3と一体的に形成される。各密度層が一体的に形成されることで、密度層間の接着性が高まり、機械的な強度を十分に高めることが可能である。
自然冷却された積層体50は、ホットプレス装置60から取り出され、アブレータ100として用いられる。なお加熱プロファイルで用いられるパラメータ(調整温度Tc、加圧温度Tp、及び最終加熱温度Tf等)や加圧を行なうタイミング等は上記で説明した例に限定されない。例えば、所望とするアブレータ100の密度、サイズ、形状等に応じて、積層体50の加圧及び加熱等が適宜実行されてよい。
上記で説明したアブレータ100の製造方法は、ポリイミド樹脂とは異なる他の熱硬化性樹脂が用いられる場合にも適用可能である。例えば、使用する熱硬化性樹脂の溶融粘度の温度特性等に基づいて、積層体50を加熱する加熱プロファイルや積層体50を加圧する温度条件等を適宜設定することで、内部に所望の密度分布が形成されたアブレータ100を生成することが可能である。このように、各種の熱硬化性樹脂が用いられる場合であっても、信頼性が高く軽量なアブレータ100を実現することが可能である。
以上、本実施形態に係るアブレータは、第1の境界面6から第2の境界面7にかけて減少する密度傾斜を有する。これにより、例えば構造体としての強度を維持しつつ重量を軽減することが可能である。また物理的な特性が連続的に変化するため、温度変化等に伴う熱応力等の負荷に対して優れた耐性を発揮する。この結果、信頼性が高く、軽量化に寄与することができるアブレータ100を提供することが可能となる。
アブレータの密度を決定する指標として、アブレータを備えるカプセルの突入環境における損耗厚みが挙げられる。アブレータの密度が高いほど、その対損耗性能は高く、より過酷な環境で損耗量を抑えることができる。一方でアブレータの密度が高いほど、カプセル全体の重量が増加する。
例えば、遠方惑星探査に用いられる数十cm級の小さなカプセルでは、高加熱率環境において大気へ突入するため、密度1.3g/cm3以上の高密度アブレータが使用される。はやぶさカプセルを例に取ると、この高密度アブレータは、カプセル全重量のおよそ50%を占めることになる。
また、アブレータの母材として、フェノール樹脂を用いる方法が考えられる。この場合、フェノール樹脂の熱硬化時に発生する水分等がアブレータに内包され、惑星大気への突入時に内圧が上昇する可能性がある。これにより、意図しない形状変形や層間剥離等が生じ、熱負荷時における熱変形量等の予測が難しくなる場合があり得る。例えば熱変形量等が予測値から外れた場合には、突入カプセルの軌道が変化してしまう等の問題が生じ、アブレータの信頼性を損ねてしまう可能性がある。
本実施形態では、アブレータ100の内部に密度傾斜を持った中間層3が形成される。また中間層3の密度が高い側(第1の境界面6)及び低い側(第2の境界面7)には高密度層4と低密度層5とが一体的に形成される。
高密度層4を設けることで、高密度アブレータの損耗特性を備えることが可能である。また低密度層5を設けることで、構造体としての剛性を維持しつつ、アブレータ100全体を十分に軽量化することが可能である。
上記したアブレータ100の製造方法を用いて生成されたアブレータ100の全体密度は、高密度アブレータと比較して十分に小さい値となった。一例として、表面1側(高密度層4)の密度が1.0〜1.3g/cm3であり、裏面2側(低密度層5)の密度が0.6〜0.65g/cm3である厚さ40mmのアブレータ100では、全体密度が0.7〜0.8g/cm3となった。これは、同様の厚さを持つ密度1.3g/cm3の高密度アブレータと比べて、重量が38〜46%低減されることを意味する。
このように、本実施形態に係るアブレータ100は、高加熱率環境にて再突入するカプセルに適用可能な十分な損耗耐性を発揮することが可能である。またカプセルの全重量を大幅に軽量化することが可能である。これにより、打ち上げコスト等を十分に抑制することが可能となる。
また本実施形態では、中間層3を形成することで、高密度層4から低密度層5までの密度変化を緩やかにつなぐことが可能である。これにより、例えば対流加熱によりアブレータ100が加熱された場合であっても、熱膨張に伴う熱応力はアブレータ100の厚さ方向に沿って徐々に変化することになる。この結果、意図しない形状変形や層間剥離等が生じ難くなり、熱応力等の機械的負荷に対する優れた耐性を発揮することが可能となる。
また高密度層4及び低密度層5と中間層3が一体的に形成されるため、各層間を十分な強度で結合することが可能である。これにより、大気突入する際の形状変形や層間剥離等を十分に抑制することが可能である。この結果、アブレータ100の信頼性を大幅に向上することが可能である。
また曲面形状に成形する場合であっても、プリプレグ方式を用いて高密度層4、中間層3、及び低密度層5を同時に形成することが可能である。このため、密度の異なるアブレータ同士を接着するといった工程が不要となり、製造工程を簡素化することが可能であり、所望の形状への成形や大型化を容易に実現することが可能となる。
本実施形態では、アブレータ100の母材としてポリイミド樹脂が用いられる。一般にポリイミド樹脂は、高いガラス転移温度を持つ。本実施形態で用いたTriA−Xポリイミド樹脂は、複合材料用樹脂として最高レベルのガラス転移温度(300℃以上)を有する。従ってアブレータ100は、例えばフェノール樹脂を母材とした場合と比べ、100℃以上高い温度であっても剛性を保つことが可能である。
またTriA−Xポリイミド樹脂は、硬化反応時に水分等の低沸点な物質を発生しない。従って、高温環境における内圧の上昇等が抑制され、意図しない形状変形や層間剥離等を十分に回避することが可能である。この結果、熱変形量等の予測値の信頼性が向上し、アブレータ100の信頼性を大幅に向上することが可能となる。
<その他の実施形態>
本発明は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態を実現することができる。
上記の実施形態では、高密度層4、低密度層5、及び中間層3を持つアブレータ100について説明した。これに限定されず、中間層のみが形成されたアブレータ100が用いられてもよい。例えば所定の密度傾斜を持った中間層に対して、中間層とは別に形成された高密度アブレータや低密度アブレータ等が接着される、このような構成が採用されてもよい。
また高密度層と中間層とを有するアブレータに、他の低密度アブレータを接着する構成や、中間層と低密度層とを有するアブレータに、他の高密度アブレータを接着する構成等が適宜用いられてよい。これにより、密度の異なるアブレータ同士を緩やかな密度傾斜を介して接続することが可能となり、熱応力等の機械的負荷に対する耐性を向上することが可能となる。
上記の実施形態では、ホットプレス装置60を用いてアブレータ100が形成された。これに限定されず、例えばオートクレーブ等を用いてアブレータ100が形成されてもよい。
オートクレーブは、加熱室内の圧力を上げて対象を加熱することが可能な装置である。オートクレーブを用いる方法では、例えばアブレータの形状に合わせた成形用の型が用いられる。成形用の型の形状等は限定されず、例えば曲面等を含む3次元形状を有する成形用の型を用いることが可能である。
例えば成形用の型に沿って乾燥プリプレグを積層し、オートクレーブの加熱室内にて加熱する。この時、成形用の型に冷却機構あるいは加熱機構等を設けることで、積層された乾燥プリプレグの厚み方向に沿って温度勾配を形成することが可能である。例えば成形用の型の温度と加熱室の温度とがそれぞれの設定値に到達したタイミングで、加熱室内が加圧される。これにより、溶融粘度の違いに応じた密度分布を持ったアブレータを形成することが可能である。
このように、成形用の型を用いた場合であっても、アブレータの密度分布等を十分に制御することが可能となる。また、乾燥プリプレグを中間体として用いることで、任意の形状のアブレータを形成することが可能となる。