JP2019110767A - 細胞培養装置の制御方法及び制御システム - Google Patents

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Abstract

【課題】培養工程で生産される目的物質の品質性状をリアルタイムに推定し、培養制御にフィードバックでき、これによって高品質な目的物質を製造できる細胞培養装置の制御方法及び制御システムを提供する。【解決手段】本発明に係る細胞培養装置の制御方法は、培養槽1と、計測手段6と、個別制御手段22と、ソフトセンサ23と、を備えた細胞培養装置101の制御方法であり、前記ソフトセンサ23は、前記個別制御手段22による個別の制御値が入力された後、当該制御値と前記統計的数値演算モデルとを用いて前記培養槽1内における前記目的物質の品質性状を推定し、当該品質性状が予め設定した基準値を下回る場合に前記制御目標値を修正する。【選択図】図1

Description

本発明は、細胞培養装置の制御方法及び制御システムに関する。
バイオ医薬品の生産には、微生物、細胞、菌類等の生体細胞を培養する培養法が用いられている。培養槽には生体細胞と培養液が収容され、攪拌器によって培養液が混合される。培養槽の外部に設置する攪拌駆動装置とシャフトを介して培養槽の内部に設けた攪拌翼を回転させる場合、培養槽内を無菌状態に維持するために、培養槽の上部や底部に、精緻に構成された軸封装置(メカニカルシール)が設けられる。さらに、好気性の微生物や細胞の培養では、呼吸に必要な酸素を供給するために、培養槽の上部気相部や培養液中に空気、又は酸素付加空気を含有するガスの通気手段が設けられる。また、培養槽内を当該生体細胞に好適なpHに維持するために、二酸化炭素付加空気を通気したり、pH調整用添加剤を添加したりすることが行われる。
さらに、バイオ医薬品の生産では、目的物質の生産性向上のために生体細胞を高密度で培養することが望まれており、これを達成する培養手法として流加培養法や連続培養法がある。流加培養法は、細胞の培養期間を長期化して生産性を向上する目的で、細胞が消費した培地中の栄養成分を新鮮培地として供給する。連続培養法は、培養液量を概ね一定に維持するために、培養槽から抜き出した培養液中の細胞を分離して培養槽に戻し、液成分のみを抜き出して新たな培地を供給する。前記したいずれの培養法も、細胞の増殖速度や代謝速度は、培養液中の特定培地成分(基質)の濃度による影響を受けるため、添加する培地の組成及び添加率を効率的に制御することが重要となる。このような制御に関する技術が、例えば、特許文献1、2に記載されている。
特許文献1には、細胞培養制御方法に関する技術が記載されている。当該方法は、細胞を培養している系から所定の観測パラメータを測定する工程と、当該工程で測定した観測パラメータ、及び細胞内代謝フラックスの値と代謝反応式とから推定観測パラメータを算出する工程とを含んでいる。また、特許文献1には、培養液の状態を示す観測パラメータとして、例えば、生細胞数、グルコース、グルタミン等のアミノ酸、乳酸、アンモニア、生成タンパク質(抗体等)、pH、酸素、二酸化炭素、温度及び浸透圧といった細胞の代謝に関与する因子が挙げられている。
また、特許文献2には、医薬品製造制御装置に関する技術が記載されている。当該装置は、製造工程に置かれた医薬品の状態を非破壊且つリアルタイムに測定可能な測定機器から、当該測定機器が測定した測定データを取得する測定データ取得手段を備えている。また、当該装置は、当該測定データ取得手段により取得された測定データに対して、予め設定されている検量線モデルを適用することにより、前記医薬品の粒子径、水分値、フレーク密度、硬度、含量のうち少なくとも一部を含む中間製品重要品質特性を推定する推定手段を備えている。また、当該装置は、当該推定手段により推定された中間製品重要品質特性が、前記医薬品の溶出、製剤均一性、含量、類縁物質のうち少なくとも一部を含む重要品質特性が安定して得られるように予め設定された目標値又は目標値軌道に沿うように、前記医薬品の製造工程における制御量をフィードバック制御する制御手段を備えている。
特開2013−85516号公報 特開2013−29323号公報
生体細胞の培養においては培養状況が刻々と変化し、培養初期の生体細胞の濃度が低い状況では良好に制御されていたものが、生体細胞の濃度が高まることによって目標とする培養環境を維持できない状況が生じ得る。生体細胞の培養に適切な培養環境を維持するために、生体細胞の培養が進行するに伴って適切な培養制御を行う必要がある。
バイオ医薬品として生体細胞の培養によって生産する高分子タンパク質などの目的物質は、細胞内や培養液中で生じる酵素反応や物理化学的相互作用等により、自身の分子構造が変化した変異体(以下、「分子変異体」という)を生成する。特に、培養後期において一部の細胞が死滅して生存率が低下する場合、細胞内に存在した各種の酵素が培養液中に散逸され、これらの酵素反応によって、目的物質が分解、変性、修飾されることがある。例えば、抗体医薬品(抗体タンパク質)における分子変異体として、凝集体、切断体、糖鎖非修飾体、グリケーション体、ジスルフィド結合形成不全体、シグナルペプチド残存体、H鎖C末端リシン残基の欠失体、メチオニン残基の酸化体、アスパラギンの脱アミド体、アスパラギン酸残基の異性化体等が知られている。これらの分子変異体は、バイオ医薬品としての生理活性も変化していることがあるため、培養工程の後工程となる精製工程において各種の手段を組み合わせることによって除去される。従って、培養工程で目的物質の生産収率を向上するには、分子変異体が生じることのないよう、又は最少量に抑制されるよう、適正な培養制御を行うことが望ましい。
適正な培養制御を行うためには、培養槽内における培養液の状態を把握する必要がある。培養槽内における培養液の状態を把握するため、例えば、pH、酸素、二酸化炭素、温度などが、これらを計測可能な各種電極やセンサ類によってオンラインで計測されている。また、培養槽内における培養液の状態を把握するため、例えば、生細胞数、グルコース、グルタミンなどのアミノ酸、乳酸、アンモニア、生成タンパク質(抗体等)といった細胞の代謝に関与する因子については、必要に応じて培養液の一部を無菌的にサンプリングし、サンプリングした培養液を用いて培養槽の外部において各種の計測機器によって測定されている。
しかしながら、細胞の代謝に関与する因子の測定は容易ではない。例えば、総タンパク質濃度の測定においては、分光光度計を用いた紫外吸収法、比色法などによって測定している。また、培養液中の特定のタンパク質を選定して分析、測定する場合、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)のほか、目的物質に対する抗体又は親和性のある物質を保持するセンシング部を備えた酵素結合免疫吸着検定(ELISA)法や、電気化学発光(ECL)法、表面プラズモン共鳴(SPR)法など各種の分析法が用いられている。さらに、前述した高分子タンパク質などの分子変異体を分析するには、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)のほか、等電点電気泳動法、キャピラリー電気泳動法などを用いる必要がある。このように、前記した細胞の代謝に関与する因子の測定には、高価で大型の専用装置を使用し、分析試料の前処理等を含めると測定に要する時間が数時間を必要とする。そのため、測定結果をリアルタイムに(即時に)培養制御へフィードバックすることは困難である。
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、培養工程で生産される目的物質の品質性状をリアルタイムに推定し、培養制御にフィードバックでき、これによって高品質な目的物質を製造できる細胞培養装置の制御方法及び制御システムを提供することを課題とする。
前記課題を解決した本発明に係る細胞培養装置の制御方法は、培養液を封入して細胞を培養することによって目的物質を生産する培養槽と、前記培養槽の運転状態を計測する計測手段と、前記計測手段による計測値が、予め設定された制御目標値に一致するように、各種通気ガス供給手段、pH調整用添加剤供給手段、温度調節手段、攪拌手段及び添加用培地供給手段を個別に制御する個別制御手段と、前記個別制御手段と双方向通信可能に接続されているとともに、予め構築した統計的数値演算モデルを有するソフトセンサと、を備えた細胞培養装置の制御方法であり、前記ソフトセンサは、前記個別制御手段による個別の制御値が入力された後、当該制御値と前記統計的数値演算モデルとを用いて前記培養槽内における前記目的物質の品質性状を推定し、当該品質性状が予め設定した基準値を下回る場合に前記制御目標値を修正する。
また、本発明に係る細胞培養装置の制御システムは、培養液を封入して細胞を培養することによって目的物質を生産する培養槽と、前記培養槽の運転状態を計測する計測手段と、前記計測手段による計測値が、予め設定された制御目標値に一致するように、各種通気ガス供給手段、pH調整用添加剤供給手段、温度調節手段、攪拌手段及び添加用培地供給手段を個別に制御する個別制御手段と、前記個別制御手段と双方向通信可能に接続されているとともに、予め構築した統計的数値演算モデルを有しており、入力された前記個別制御手段による個別の制御値と前記統計的数値演算モデルとを用いて前記培養槽内における前記目的物質の品質性状を推定するとともに、推定された当該品質性状が予め設定された条件を満たさない場合に前記制御目標値を修正するソフトセンサと、を備えている。
本発明によれば、培養工程で生産される目的物質の品質性状をリアルタイムに推定し、培養制御にフィードバックすることによって高品質な目的物質を製造できる細胞培養装置の制御方法及び制御システムを提供することができる。
本実施形態に係る制御システムの構成を説明する概略図である。 本実施形態における制御装置の構成の一例を説明する概略図である。 統計的数値演算モデルの一例による計算値と、等電点電気泳動による実測値とをプロットしたグラフである。同図中、横軸は、運転データから式(1)に基づいて算出した目的とする抗体タンパク質のメインピークの計算値(%)である。縦軸は、等電点電気泳動で分析した目的とする抗体タンパク質のメインピークが、全抗体タンパク質(目的とする抗体タンパク質、酸性異性体及び塩基性異性体)の総ピークに対して占める割合の実測値(%)である。 本実施形態における制御目標値の修正例を示す概要図である。同図中、横軸が通気量であり、縦軸が攪拌速度である。 培養時間と品質性状の関係を示すグラフである。同図中、横軸が培養時間であり、縦軸が品質性状である。同図中、白丸(○)は、等電点電気泳動等により分析した抗体タンパク質のうち、目的とするメイン抗体の割合を示す実測値であり、細い実線は、式(1)に基づくソフトセンサの予測値である。
以下、適宜図面を参照して本発明に係る細胞培養装置の制御方法及び制御システム(以下、それぞれ単に「制御方法」及び「制御システム」ということがある)の一実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、まず、制御システムについて説明し、次いで、制御方法について説明する。
[制御システム]
図1は、本実施形態に係る制御システムの構成を説明する概略図である。
図1に示すように、制御システム100は、細胞培養装置101及び制御装置21を含んで構成されている。細胞培養装置101は、培養槽1に計測手段6、攪拌翼4で攪拌するための駆動用モータ3、培養槽1内に酸素含有ガスなどを通気する制御バルブ7、8、貯留槽10からpH調整用添加剤を供給する制御バルブ9、培養液2の一部を採取する試料採取ライン11などを設けたものである。制御装置21は、少なくとも個別制御手段22とソフトセンサ23とを含んでおり、記憶手段24、表示手段25、警報手段26及び入力手段27を備えているのが好ましい。
具体的には、制御システム100は、培養槽1と、計測手段6と、個別制御手段22と、ソフトセンサ23とを備えている。
なお、図1中には図示していないが、制御システム100は、培養設備には不可欠である、空気、酸素、窒素、炭酸ガスなどのガス供給設備、温水冷水供給設備、蒸気供給設備、給排水設備などを備えている。
制御システム100は、医薬品や健康食品などの主原料となる目的物質を生産する微生物や動植物の細胞を培養する際に適用することができる。制御システム100で用いることのできる細胞としては、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)やベイビーハムスター腎臓細胞、マウス骨髄腫細胞などが挙げられる。なお、付着性細胞を用いる場合は、マイクロキャリアなどの担体に付着させて浮遊化させることにより、攪拌培養を行うことができる。本実施形態においては、動物由来の細胞だけでなく、植物細胞、光合成細菌、微細藻類、ラン藻類、昆虫細胞、細菌、酵母、真菌及び藻類、及び大腸菌や酵母などの微生物細胞も用いることができる。
本実施形態における目的物質としては、例えば、生理活性物質が挙げられ、特に抗体タンパク質が挙げられる。抗体には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、免疫グロブリンが含まれる。また、生理活性物質は抗体に限定されず、血栓溶解剤として利用される組織型プラスミノーゲン活性化因子やエリスロポエチン、インターフェロンなどのバイオ医薬品、その他工業的に有用なタンパク質も対象となる。また、目的物質としては、例えば、β−カロテンやアスタキサンチンなどのカロチノイド、クロロフィルやバクテリオクロロフィルなどの色素、また、これらの色素を結合した色素タンパク質なども対象となる。さらに、目的物質としては、例えば、食品や化粧品などの着色などに使用されるフィコシアニンなどのフィコビリンタンパク質なども挙げることができる。
培養に用いる培地については特に限定されるものではなく、培養対象となる細胞の増殖、目的物質の生産に有効なものであれば、従来のあらゆる培地が使用可能である。
培養槽1は、培養液2を封入して細胞を培養することによって目的物質を生産する容器である。培養槽1には、通気ガスを供給する制御バルブ7及び制御バルブ8が設けられている。また、培養槽1には、貯留槽10からpH調整用添加剤などを供給する制御バルブ9が設けられている。さらに、培養槽1には、図1には図示していない貯留槽から添加用培地を供給する制御バルブが設けられている。
計測手段6は、培養槽1の運転状態を計測する検出器である。この計測手段6及び前記した個別制御手段22については、実装置では検出項目毎又は制御項目毎に1つ設けられているが、図1中には簡略化のためそれぞれ1つのみ図示している。計測手段6は、例えば、培養液2の濁度、pH、溶存酸素(DO)濃度、溶存二酸化炭素(DCO)濃度、温度、攪拌速度、培養槽1の上部気相部及び培養液2中における空気、酸素ガス、炭酸ガス、窒素ガスの各通気量、pH調整用添加剤の供給量並びに添加用培地の供給量などを計測する電極又はセンサ類である。
培養槽1は、図1では断面で示している。培養槽1内に張り込まれた培養液2は、駆動用モータ3により駆動される攪拌翼4で攪拌され、均一に混合される。培養に必要な酸素は、培養槽1の底部に配置されたスパージャなどの散気手段5から制御バルブ7の開閉によって液中に酸素含有ガスを供給する液中通気法と、制御バルブ8の開閉によって培養槽1の上部気相部に酸素含有ガスを通気する上面通気法の二つの方法により供給される。これらの制御バルブ7、8の開閉(操作)は、個別制御手段22によって操作される。また、各々の制御バルブを介して供給される通気ガス量は、図示しないマスフロー流量計によって、オンラインで計測される。
培養槽1には、培養液2の一部を採取する試料採取ライン11を設けてあり、培養中に無菌的に培養液2の一部を分析用試料(培養液試料)として採取することができる。分析用試料は各種の分析手段12に供されて、細胞濃度、細胞生存率、グルコース濃度、乳酸濃度、アンモニア濃度、グルタミン濃度、乳酸脱水素酵素活性濃度、目的物質の濃度及び目的物質の異性体の濃度のうちの1つ以上を分析するのが好ましいが、これらに限定するものではない。これらを分析することによって培養液2の性状を適切に把握することができる。各種の分析手段12によって得られた各分析値は入力手段27によってソフトセンサ23に入力され、ハードディスクドライブなどの記憶手段24に記録される。
各種の分析手段12としては、例えば、分光光度計、HPLC、ELISA装置、ECL測定装置、SPR測定装置、LC/MS、等電点電気泳動装置、キャピラリー電気泳動装置などが挙げられるが、これらに限定されない。
図2は、制御装置21の構成の一例を説明する概略図である。図2に示すように、制御装置21は、少なくとも個別制御手段22及びソフトセンサ23を含んで成り、当該個別制御手段22及びソフトセンサ23によって本実施形態に係る制御方法を実施する。なお、制御装置21は、前記したように、記憶手段24、表示手段25、警報手段26及び入力手段27を備えているのが好ましい。
制御装置21は、計測手段6によって計測された計測値が、予め設定された制御目標値の範囲に収まるように(制御目標値に一致するように)制御する。制御目標値に一致していないと判断された場合には、制御目標値に収束するよう、それぞれの個別制御手段22によって操作される供給手段28(例えば、制御バルブ7、8など)に対して動作信号を送信し、操作量を変更する。なお、個別制御手段22は、制御バルブ7、8、9や駆動用モータ3などの供給手段28を個別に制御した場合、それぞれの操作量に関する個別の制御値をソフトセンサ23に向けて出力する。
それぞれの個別制御手段22における制御手法としては、例えば、ON/OFF制御法、比例制御法、PID制御法などの公知の手法を用いることができる。なお、個別制御手段22によって操作される手段の操作量としては、下記のものが用いられる。
・pH:通気ガス中の炭酸ガス供給量の増減、酸性溶液又はアルカリ性溶液の注入量の増減。
・溶存酸素濃度:通気ガス中の酸素供給量の増減、培養液攪拌速度の増減、培養槽圧力の増減。
・温度:培養槽1内の培養液2の温度を調節するためのジャケット供給水温度の増減、冷却水供給速度の増減、加熱用電気ヒーター供給電力量の増減、加熱用蒸気供給量の増減。
前記[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、バイオ医薬品として生体細胞の培養によって生産する高分子タンパク質は、細胞内や培養液2中で生じる酵素反応や物理化学的相互作用等により、自身の分子が変化した分子変異体を生成する。分子変異体が生成すると、目的物質の性質が変化する。例えば、目的物質が抗体タンパク質である場合、抗体タンパク質の等電点が変化する。そのため、分子変異体が生成した抗体タンパク質を等電点電気泳動で分析すると、培養の経過に伴って、目的とする抗体タンパク質のメインピークが減少して、酸性の分子異性体(酸性異性体)及び塩基性の分子異性体(塩基性異性体)の割合(ピーク)が増加する。これらの分子異性体は、バイオ医薬品としての生理活性も変化していることがある。そのため、培養工程の後工程である精製工程において各種の手段を組み合わせて分子変異体を除去している。従って、本実施形態では、培養工程で目的物質の生産収率を向上するため、分子変異体が生じることのないように、又は最少量に抑制するように、適正な培養制御を行う。
本実施形態においては、前記適正な培養制御をソフトセンサ23で行う。ここで、本実施形態における「ソフトセンサ」とは、実際には測定できない又は測定していない変量を計算により推算し、あたかもハードセンサが設置されているかのように処理する解析装置を意味する。本実施形態においては後記するように、リアルタイムに測定可能な温度、pHなどのデータから、統計的手法を用いて目的物質の品質性状を推定する。なお、ハードセンサとは、pH計や温度計などのように実際に測定できるセンサをいう。
本実施形態におけるソフトセンサ23は、予め構築した統計的数値演算モデルを有しており、当該統計的数値演算モデルを用いることにより、前記適正な培養制御を行う。
具体的には、ソフトセンサ23は、個別制御手段22による個別の制御値が入力された後、当該制御値と前記統計的数値演算モデルとを用いて培養槽1内における目的物質の品質性状を推定する。なお、「個別の制御値」とは、適正な培養制御を行うために個別制御手段22から各手段に対して発信された操作量をいう。
そして、ソフトセンサ23は、推定された当該品質性状が、予め設定した基準値を下回る場合(基準値未満である場合)に、個別制御手段22において予め設定されている制御目標値を修正する。なお、この「予め設定されている制御目標値」には、例えば、前回(N−1回)ソフトセンサ23で修正して設定した制御目標値が含まれている。つまり、複数回、前記ソフトセンサ23で演算して修正し、制御目標値を設定する場合において、前回設定した制御目標値を今回(N回)の演算で修正して再設定することができる。また、「予め設定した基準値」は、目的物質やその品質性状に応じて任意に設定することができる。制御目標値の修正について詳しくは後記するが、例えば、攪拌速度を増減したり、通気ガス中の炭酸ガス供給量を増減したりすることが挙げられる。
ソフトセンサ23の有する統計的数値演算モデルについて以下に説明する。
前記したように、抗体タンパク質の等電点電気泳動を行うと、培養の初期、対数増殖期、目的物質の収穫期で抗体タンパク質のメインピークの割合が変化する。そこで、培養中における抗体タンパク質のメインピークの割合に対し、通気制御によって培養槽1の上部気相部及び培養液2中に通気された各種ガスの累積通気量と、pH調整のために培養槽1に供給されたpH調整用添加剤の累積添加量、さらに流加培養において添加した添加培地の累積添加量をパラメータとして、統計解析を行った結果、式(1)に示す相関式が得られた。本実施形態におけるソフトセンサ23は、統計的数値演算モデルとして、式(1)に示す相関式を用いることができる。

y=a0+a11+a22+a33+… (1)

ただし、
y:目的物質(例えば、抗体タンパク質)のメインピークの割合
1、x2、x3…:培養プロセス変数
0、a1、a2、a3…:係数
なお、前記培養プロセス変数とは、例えば、培養液2中CO2累積通気量、pH調整用添加剤の累積添加量、添加培地の累積添加量などである。
また、前記係数は、事前に実験等を行うことにより求められる任意の数である。なお、前記係数は、同じ培養細胞で培養を行った場合、例えば、容量2Lと50Lとでは最適値は変わり得るものの、得られる値はほぼ同じものになる。本実施形態においては、個別制御手段22によって制御される各種通気ガスの供給量、pH調整用添加剤の供給量、温度、攪拌速度及び添加用培地の供給量(例えば、今回の個別の制御値)と、入力手段27によって入力された分析結果とを、培養データベースとして記憶手段24に記憶し、当該培養データベースに記憶された過去の培養データにおける個別の制御値、目的物質の濃度及び目的物質の異性体濃度に基づき、統計的数値演算モデルの係数を修正して再構築するのが好ましい。このようにすると、統計的数値演算モデルの精度を向上させることができる。
統計的数値演算モデルの一例として、通気制御によって培養槽1の上部気相部及び培養液2中に通気された各種ガスの累積通気量と、pH調整のために培養槽1に供給されたpH調整用添加剤の累積添加量、さらに流加培養において添加培地の累積添加量によって、目的とする抗体タンパク質のメインピークの割合をリアルタイムで推定するモデルを構築した。図3は、このようにして構築した統計的数値演算モデルの一例による計算値と、等電点電気泳動による実測値とをプロットしたグラフである。図3中、横軸は、運転データから式(1)に基づいて算出した目的とする抗体タンパク質のメインピークの計算値(%)である。縦軸は、等電点電気泳動で分析した目的とする抗体タンパク質のメインピークが、全抗体タンパク質(目的とする抗体タンパク質、酸性異性体及び塩基性異性体)の総ピークに対して占める割合の実測値(%)である。なお、図3は、2Lから200Lという異なる容量の培養槽1でそれぞれ複数回、14日間培養した際の日々のサンプリングデータをプロットしたものである。これらの培養にあたり、初回の培養については、試運転培養時に係数を決定し、その際はソフトセンサ23による制御を行わなかった。2回目以降の培養から、ソフトセンサ23による前記した制御を行い、運転データと分析値を蓄積していくことで統計的数値演算モデルの係数を修正して再構築し、精度を向上させた。
図3に示すように、式(1)における係数に同一の値を用いても、目的とする抗体タンパク質のメインピークの計算値が、等電点電気泳動による実測値と良好に一致し、一定の範囲にプロットされている。このことから、例えば、容量が2Lなどの小型の培養槽1を用いて構築した統計的数値演算モデルを大型の培養槽1に対して適用できることが分かる。また、前記係数は、例えば、対象とする培養装置を用いた培養工程で生産される目的物質の品質性状について、培養槽1から試料採取ライン11により培養期間中に採取した培養液2に対して行う等電点電気泳動等で分析した目的物質のメインピークの割合の実測値と、各試料採取の時点における個別制御手段22による培養制御の運転データ(個別の制御値)とから事前に決定することで、本発明の意図するフィードバック制御への適用が可能である。さらに、同一の培養槽1における培養データを蓄積し、前記式(1)の係数を修正することによって、統計的数値演算モデルを再構築することができる。これによって、目的とする制御の精度を向上すること、つまり、制御の振れ幅を小さくすることができる。制御の精度は、培養データベースの蓄積量が増えるのに従って向上する。なお、前記式(1)の係数の修正は、例えば、培養期間中に採取した培養液2について、等電点電気泳動等により分析した目的物質のメインピークの割合の実測値と、各試料採取の時点における個別制御手段22による培養制御の運転データ(個別の制御値)から抽出した、式(1)に示す各培養プロセス変数との相関性を統計的に解析することによって各係数を再決定することで行うことができる。また、例えば、前記式(1)の係数の修正は、式(1)におけるデータセット(実測値y、培養プロセス変数x1、x2、x3…)の点数を増やして培養データベースに保存し、当該保存されたデータセットの中から任意に再決定することでも行うことができる。
ここで、例えば、前記各種ガスの通気及びpH調整用添加剤の供給量はそれぞれ培養液2の溶存酸素濃度及びpHを調整する目的で、予め設定された制御目標値に一致するように個別制御手段22によって個別に制御されている。なお、図4は、本実施形態における制御目標値の修正例を示す概要図である。図4に示すように、培養槽1における総括酸素移動容量係数kLaは、培養槽1に通気されるガスの通気量(横軸)と、攪拌速度(縦軸)によって特性付けられている。図4に示すAのケースでは、培養に伴って細胞が増殖して酸素消費量が増大した場合、通気量を増大することによってkLaを増加させ、溶存酸素濃度を目標値に維持するように制御が行われる。このような制御を行うに際して、前記式(1)によって演算した抗体タンパク質のメインピークの割合が、当初の基準値を下回る推定値となった場合、通気量の増大を抑制することが望ましい。このためには、図4に示すBのケースのように、攪拌速度を増加させることによって達成することができる。この場合において、図4中の曲線Sが示す培養細胞に応じた攪拌せん断応力の上限範囲を超えない許容範囲内で操業する。本実施形態におけるソフトセンサ23は、このように、予め構築した統計的数値演算モデルを有しており、個別制御手段22が制御する各種ガスの通気、攪拌速度、pH調整用添加剤の添加量などに対して、目的物質の品質性状を推定することができる。これによって、前記図4のAのケースからBのケースとしたように、個別制御手段22の制御目標値を修正する。また、例えば、pH調整の制御目標値に対して、COガスの通気又はpH調整用添加剤の添加量を制御する場合、培養によって許容されるpH範囲内において、これらの制御目標値を修正する。これらのようにすることにより、目的物質の品質性状を推定することができる。
[制御方法]
本実施形態に係る制御方法は、前記した培養槽1と、計測手段6と、個別制御手段22と、ソフトセンサ23と、を備えた本実施形態に係る細胞培養装置101の制御方法である。制御方法の説明にあたって、細胞培養装置101や制御システム100などに関して既に説明している事項についての詳細な説明は省略する。
本実施形態に係る制御方法において、ソフトセンサ23はコンピュータ及び当該コンピュータを次のような所定の手段として機能させるソフトウェア(プログラム)によって、所定の機能を果たすことができる。
ソフトセンサ23は、まず、個別制御手段22による、各種通気ガス供給手段などに対する個別の制御値が入力される(制御値入力手段)。次に、ソフトセンサ23は、前記制御値入力手段によって個別の制御値が入力されたら、当該制御値と前記した統計的数値演算モデルとを用いて培養槽1内における目的物質の品質性状を推定する(推定手段)。そして、ソフトセンサ23は、前記推定手段によって推定された目的物質の品質性状が予め設定した基準値を下回る場合、個別制御手段22に予め設定されている制御目標値(前回修正された制御目標値を含む)を修正する(修正手段)。
その後、細胞培養装置101は、このようにして修正された制御目標値に一致するように、各種通気ガス供給手段(例えば、制御バルブ7、8)、pH調整用添加剤供給手段(例えば、制御バルブ9)、温度調節手段(例えば、加熱用電気ヒーター(図示せず))、攪拌手段(例えば、駆動用モータ3)、添加用培地供給手段(図示せず)などを個別に制御して培養を継続する。
[制御システムの具体的な一態様]
以上、制御システム100及び制御方法について説明した。以下では、より具体的な一態様を示して、制御システム100や制御システム100の使用手順、つまり、これを用いた細胞培養の手順についてさらに詳細に説明する。以下の説明をするにあたり、必要に応じて図1などを参照する。
図1に示すように、培養槽1の内部には、目的物質を生産する細胞と初期培地を懸濁した培養液2を充填する。培養槽1は、駆動用モータ3を備え、攪拌翼4を回転駆動することによって、培養液2を攪拌混合する。
攪拌速度は、培養液2を均一に攪拌混合でき、細胞に対する攪拌せん断応力によるダメージを生じない範囲で設定されている。図1には記載していないが、培養槽1の外壁部にはヒーター又は温水ジャケットが設けられており、培養液2の液温を細胞の増殖、及び目的物質の生産に適する温度に維持している。
培養槽1とそれに関連する配管設備等は、図1中には図示していない給排水設備によって予め洗浄され、蒸気供給設備によって滅菌されている。
培養槽1の内部に対象とする細胞に応じた初期培地を充填した後、駆動用モータ3と攪拌翼4を回転駆動する。また、外壁部のヒーター又は温水ジャケットを稼動させて、充填した初期培地の液温を予め設定した温度に昇温、維持する。この後、目的物質を生産する対象の細胞を所定の細胞濃度で播種することにより培養液2を調製して、培養を開始する。なお、図1には記載していない初期培地貯留槽と培地供給管とは、培養槽1と無菌的に接続されることは言うまでもない。また、培養に用いる培地については特に限定されるものではなく、対象とする細胞の培養において実績を有する、従来のあらゆる培地が使用可能である。
細胞が呼吸代謝することによって消費される溶存酸素は、酸素含有ガスを散気手段5に通気して酸素含有気泡を培養液2中に拡散させることによって供給される。溶存酸素は、通気ガス中の酸素濃度又は通気ガス量を制御することによって、培養液2の溶存酸素濃度を所定の値に維持している。なお、散気手段5は、培養液2へ酸素を供給するための気泡を発生できればよく、特に限定するものではないが、公知のリングスパージャ、プラスチック多孔質材、金属多孔質材、無機多孔質材のいずれか又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。散気手段5で発生させる気泡の大きさは、目的とする細胞に応じて適宜選択することができる。液中通気の場合、気泡径が小さいほど体積当たりの気液界面が大きくなって必要な酸素供給量を得るための通気量が少なくなる。このことから酸素供給のためには、主として、散気手段5によって形成される小さな気泡を用いて液中通気を行うことが望ましい。この場合、多孔質材料から形成された筒状部材を有するものを例示することができ、約10〜200μmの内径を有する細孔が形成された材料を使用することが好ましい。このような多孔質材料としては、例えば、金属焼結体、有機高分子多孔質体、四フッ化エチレン樹脂、ステンレス、シラス多孔質ガラスなどを使用することができる。また、散気手段5に通気するガスとしては、酸素に空気やCOガスを混合して用いてもよいが、酸素分圧が低下することにより通気量の増加を招き、結果的に培養液2の液面に生じる泡沫層を拡大させて培養細胞の増殖効率が低下するため、対象とする細胞の酸素耐性に応じて純酸素ガスを用いる方が好ましい。
培養液2のpHは、培養槽1の気相部に通気するCO含有空気のCO濃度と、pH調整用添加剤の添加量を制御することによって所定の値に維持されている。培養槽1には、前述した培養液2の温度、DO、pHなどを個別に計測する複数の計測手段6が設けられており、個別制御手段22によって制御バルブ7、8、9を動作させて個別に制御する。
制御バルブ7、8は、空気、窒素、酸素及びCOの各ガスについての流量制御機能と供給量計測機能とを具備しており、それぞれ培養槽1に通気するガスの供給装置、及びこれをON/OFF操作する弁開閉装置などを備えている。個別制御手段22は、制御バルブ7を制御することで、散気手段5からの酸素含有気泡の供給を制御する。また、制御バルブ8により、培養液2の上面部に通気する空気混合ガスのガス組成及び通気量を制御する。
貯留槽10は、培養液2に添加するpH調整溶液(pH調整用添加剤)を無菌的に貯留している。制御バルブ9は、貯留槽10のpH調整用添加剤を培養槽1に供給する溶液ポンプ(図示せず)、及びこれをON/OFF操作する弁開閉装置(図示せず)、及び液流量計(図示せず)を備え、流量制御機能と供給量計測機能とを具備している。また、制御システム100は、図示しない貯留槽に特定の培地成分を含む添加培地溶液を無菌的に貯留しており、pH調整用添加剤について記載したのと同様の構成で培養槽1に供給することができる。また、pH調整用添加剤と添加培地溶液の供給配管は、その一部を共用することも可能である。
さらに、培養槽1には、培養液2の状態を計測するための計測手段6が設けられている。計測手段6は、培養液2中の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素濃度測定器、培養液2中の溶存二酸化炭素濃度を測定する溶存二酸化炭素濃度測定器、及び培養液2のpHを測定するpH測定器、培養細胞濃度を計測する光学濁度計、培養液2中の特定の成分濃度を短時間でオンライン計測できる培養モニタなどのうちいずれか1つ以上の計測機器を備える。培養モニタとしては、例えば、近赤外光分光器又は表面プラズモン共鳴(SPR)の原理を用いたSPRセンサなどが挙げられる。これらの機器は、それぞれ別個に培養槽1に取り付けられていてもよい。また、培養液2の温度を測定する温度計や、その他の培養液2の状態を測定するための各種機器を備えていてもよい。
計測手段6からの計測値は、出力信号として個別制御手段22に信号入力される。個別制御手段22は、入力された計測値に基づいて、駆動用モータ3のほか、制御バルブ7、8、9などを制御する。当該制御によって、培養液2の均一混合状態を維持する。また、個別制御手段22は、入力された計測値に基づいて、培養細胞の増殖及び目的物質における代謝反応が良好に行われるように、pHのほか、溶存酸素濃度、溶存二酸化炭素濃度、培地成分濃度などの培養液2の状態を適正に維持する。
培養液2の適正な状態は、対象とする培養細胞及び目的物質に応じて異なるが、温度、pH、溶存酸素濃度、溶存二酸化炭素濃度、特定の培地成分濃度などについて、予め制御目標値として設定しておくことが望ましい。例えば、抗体などの高分子タンパク質を製造する際に用いられるCHO(チャイニーズハムスター卵巣)系の細胞においては、培養温度を37℃、pHを7.0から7.3、溶存酸素濃度を空気飽和の30%から50%、溶存二酸化炭素濃度を20%から50%などの範囲で適宜、制御目標値として設定され、個別制御手段22によって制御される。
特定の培地成分濃度としては、例えば、細胞が代謝によって消費するグルコースやグルタミンなどの濃度における下限値を制御目標値として設定することができ、図1において図示しない制御バルブを駆動させて添加培地溶液を添加する。オンライン計測が可能な計測手段6がない場合は、制御バルブによって培養液2に添加する添加培地溶液の供給速度又は供給量を予め設定し、この範囲で適宜、制御目標値を設定できる。
駆動用モータ3による攪拌翼4の回転攪拌速度は、培養槽1及び攪拌翼4の形状、培養液2の粘度などの性状、及び培養する細胞に応じて、細胞が沈降しない下限攪拌速度と、細胞にダメージを生じない上限攪拌速度とを予め設定し、この範囲で適宜、制御目標値を設定できる。
培養槽1の上部気相部及び培養液2中に通気するガスの組成に応じた各ガスの通気量の制御目標値は、前記のpH、溶存酸素濃度、溶存二酸化炭素濃度の目標値を維持するように、個別制御手段22によって適宜設定される。例えば、培養初期に細胞濃度が低い場合は、細胞の呼吸代謝で消費される酸素消費量が少なく、溶存酸素濃度の制御目標値を維持するために、通気ガスの酸素濃度又は通気量が低くなるように、制御バルブ7、8は、空気、窒素、酸素及びCOの各ガスについての流量制御を行う。また、培養の進行にともなって細胞濃度が増加した場合は、細胞の呼吸代謝で消費される酸素消費量が増大するため、通気ガスの酸素濃度又は通気量が高くなるように、各ガスについての流量制御を行う。培養液2のpHが、予め設定した制御目標値を上回る場合は、制御バルブ7又は制御バルブ8を制御して、培養液2に通気するガス中のCO濃度を増大するか、制御バルブ9を制御して、貯留槽10の酸性pH調整溶液(pH調整用添加剤)を添加する。また、培養液2のpHが、予め設定した制御目標値を下回る場合は、制御バルブ7又は制御バルブ8を制御して、培養液2に通気するガス中のCO濃度を減少させるか、制御バルブ9を制御して、貯留槽10の塩基性pH調整溶液(pH調整用添加剤)を添加する。上記の制御により、培養液2における細胞濃度とともに、目的物質の濃度が増加する。
培養中に細胞が消費した特定の培地成分を補充するために、流加培養では、培養液2に添加培地溶液を添加しながら培養を継続し、10日から20日ほどの期間で培養を行う。培養後期、すなわち、目的物質の収穫期になると、細胞は増殖するとともに一部の細胞が死滅して生存率が低下する。そのため、細胞内に存在した各種の酵素が培養液2中に散逸され、培養液2中に分泌された高分子タンパク質などの目的物質が分解、変性、修飾されて、品質性状が低下する。例えば、図5において白丸(○)で示す実測値は、培養槽1における試料採取ライン11から無菌的に採取した培養液2について、等電点電気泳動等により分析した全抗体タンパク質のうち、目的とする抗体タンパク質のメインピークの割合を示す。細胞の生存率の低下に伴い、酸性変異体及び塩基性変異体を生じて、目的物質の品質性状が低下する。
なお、図5中には採取した培養時間における実測値としてプロットしたが、実際に分析結果が数値として得られる迄には、採取してから数時間を要する。このため従来は、品質性状をプロセス変数として培養の制御に用いることは困難であった。つまり、従来は、培養工程で生産される目的物質の品質性状をリアルタイムに推定し、培養制御にフィードバックして高品質な目的物質を製造することはできなかった。
これに対し、図5において細い実線で示す曲線は、前述した式(1)に基づくソフトセンサ23による予測値を示す。この予測値は、個別制御手段22が、制御バルブ7、8を用いた通気制御によって培養槽1の上部気相部及び培養液2中に通気された各種ガスの累積通気量と、制御バルブ9を用いてpH調整のために培養槽1に供給されたpH調整溶液の累積添加量と、流加培養において培養液2に添加された添加培地溶液の累積添加量とを、本実施形態で述べたソフトセンサ23に予め組み込んだ統計的数値演算モデルによって、培養の経過にともない逐次、算出したものである。ソフトセンサ23は、表示手段25により、図5と同様の画面表示を行うことができる。さらに、図5中、t1で示す培養時間までの推定値に基づき、培養時間t1以降の品質性状が、太実線Cで示されるように、所定の培養期間tm以内において目標とする品質性状の下限値Qを下回ることが推定された場合、ソフトセンサ23は、警報手段26により、警告音又は発光等の手段により異常警報を発するとともに、表示手段25の画面上に異常状態を表示する。このようにすると、操作者が異常状態に対して迅速な対応をとることが可能となる。
なお、細胞は培養時間の経過に伴って目的物質を生産するため、培養期間を短縮して、品質性状の目標値Qを下回った段階で培養を停止すると、目的とする生産物質の総量が低下する。培養工程の後工程である精製工程において、各種の手段を組み合わせることにより、培養液2に含まれる分子変異体を除去して目的物質を精製するが、このときの精製収率が100%であるとすると、精製工程で得られる目的物質の量は、(培養終了時における生産物質の総量)×(培養終了時における品質性状(%))となる。
培養期間の終了可否については、上記を考慮して操作者が判断する。この判断をサポートするために、ソフトセンサ23は、記憶手段24に培養データベースとして蓄積してある以前の培養ケースを呼出し、複数の培養データを比較、表示することができる。このようにすると、操作者が培養期間の終了可否の判断を行い易くなる。なお、複数の培養データの操作者への比較、表示は、前記した表示手段25で行うことができる。
培養が継続される場合、本実施形態におけるソフトセンサ23は、個別制御手段22によって散気手段5に通気されている混合ガス中の酸素濃度を算出する。算出した酸素濃度が100%未満である場合、ソフトセンサ23は、酸素ガス以外の通気量を減少させるように、個別制御手段22が設定する各ガス通気量の目標値を変更する。これにより、液中通気量を維持したままで溶存酸素濃度を増大させることができ、細胞の増殖に伴う酸素消費量の増大に対応することができる。一方、上記で算出した混合ガス中の酸素濃度が既に100%である場合、ソフトセンサ23は、個別制御手段22が設定する駆動用モータ3の攪拌速度の制御目標値を増大させる。これにより、図4で示すケースBのように、攪拌速度を増加させることで培養槽1における総括酸素移動容量係数kLaが増大して溶存酸素の供給速度が増大する。その結果、液中通気量の増大を抑えながら、細胞の増殖に伴う酸素消費量の増大に対応することができる。これにより、図5に点線Dで示すように、目的物質の品質性状の低下を抑制でき、所定の培養期間tm以内で、目標とする品質性状の下限値Qを下回ることなく、培養を継続することができる。
さらに、本実施形態におけるソフトセンサ23は、個別制御手段22が、培養期間中に制御バルブ7、8を用いた通気制御によって培養槽1の上部気相部及び培養液2中に通気した各種ガスの通気量、及び制御バルブ9を用いてpH調整のために培養槽1に供給されたpH調整用添加剤の添加量、さらに流加培養において培養液2に添加された添加培地溶液の添加量を入力手段27により、操作者による手入力又は各分析機器からの出力信号を受けて、記憶手段24に培養データベースとして記録する。
また、本実施形態におけるソフトセンサ23は、試料採取ライン11から採取した培養液2について分析した細胞濃度、細胞生存率、グルコース濃度、乳酸濃度、アンモニア濃度、グルタミン濃度、細胞が生産する目的物質の濃度、目的物質の異性体(分子異性体)の濃度などの分析値を入力手段27により、操作者による手入力又は各分析機器からの出力信号を受けて、記憶手段24に培養データベースとして記録する。
ソフトセンサ23は、培養データベースとして記憶手段24に記録したこれらのデータを参照して統計的数値演算モデルにおける前記式(1)の係数を修正し、当該統計的数値演算モデルを再構築することができる。これにより、例えば、図5に示した目的物質における品質性状の予測精度を向上することができる。
以上に説明したように、本実施形態に係る細胞培養装置101の制御方法及び制御システム100は、前記したソフトセンサ23が、個別制御手段22による個別の制御値が入力された後、当該制御値と統計的数値演算モデルとを用いて培養槽1内における目的物質の品質性状を推定し、当該品質性状が予め設定した基準値を下回る場合に予め設定された制御目標値(前回修正された制御目標値を含む)を修正する。つまり、本実施形態に係る細胞培養装置101の制御方法及び制御システム100は、培養工程で生産される目的物質の品質性状をリアルタイムに推定し、培養制御にフィードバックすることができる。そのため、本実施形態に係る細胞培養装置101の制御方法及び制御システム100は高品質な目的物質を製造できる。
上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明してきたが、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
100 細胞培養装置の制御システム(制御システム)
101 細胞培養装置
21 制御装置
1 培養槽
6 計測手段
22 個別制御手段
23 ソフトセンサ
24 記憶手段
27 入力手段

Claims (7)

  1. 培養液を封入して細胞を培養することによって目的物質を生産する培養槽と、前記培養槽の運転状態を計測する計測手段と、前記計測手段による計測値が、予め設定された制御目標値に一致するように、各種通気ガス供給手段、pH調整用添加剤供給手段、温度調節手段、攪拌手段及び添加用培地供給手段を個別に制御する個別制御手段と、前記個別制御手段と双方向通信可能に接続されているとともに、予め構築した統計的数値演算モデルを有するソフトセンサと、を備えた細胞培養装置の制御方法であり、
    前記ソフトセンサは、前記個別制御手段による個別の制御値が入力された後、当該制御値と前記統計的数値演算モデルとを用いて前記培養槽内における前記目的物質の品質性状を推定し、推定された当該品質性状が予め設定した基準値を下回る場合に前記制御目標値を修正する
    ことを特徴とする細胞培養装置の制御方法。
  2. 請求項1において、
    前記ソフトセンサが、推定した前記目的物質の品質性状が予め設定した基準値を下回る場合に異常警報を出力する警報手段と接続されていることを特徴とする細胞培養装置の制御方法。
  3. 請求項1において、
    前記計測手段が、培養液の濁度、pH、溶存酸素濃度、溶存二酸化炭素濃度、温度、攪拌速度、培養槽の上部気相部及び培養液中における空気、酸素ガス、炭酸ガス、窒素ガスの各通気量、pH調整用添加剤の供給量並びに添加用培地の供給量のうちの一つ以上をオンラインで計測することを特徴とする細胞培養装置の制御方法。
  4. 請求項1において、
    前記培養槽から採取した培養液試料を分析して得られた、細胞濃度、細胞生存率、グルコース濃度、乳酸濃度、アンモニア濃度、グルタミン濃度、乳酸脱水素酵素活性濃度、前記目的物質の濃度及び前記目的物質の異性体の濃度のうちの一つ以上の分析結果を前記ソフトセンサに入力する入力手段を有することを特徴とする細胞培養装置の制御方法。
  5. 請求項4において、
    前記個別制御手段によって制御される各種通気ガスの供給量、pH調整用添加剤の供給量、温度、攪拌速度及び添加用培地の供給量と、前記入力手段によって入力された前記分析結果とを、培養データベースとして記憶する記憶手段を備え、
    当該培養データベースに記憶された過去の培養データにおける前記個別の制御値、前記目的物質の濃度及び前記目的物質の異性体濃度に基づき、前記統計的数値演算モデルの係数を修正することによって前記統計的数値演算モデルを再構築することを特徴とする細胞培養装置の制御方法。
  6. 請求項5において、
    前記培養データベースに記憶された複数の培養データを比較、表示する表示手段を備えることを特徴とする細胞培養装置の制御方法。
  7. 培養液を封入して細胞を培養することによって目的物質を生産する培養槽と、
    前記培養槽の運転状態を計測する計測手段と、
    前記計測手段による計測値が、予め設定された制御目標値に一致するように、各種通気ガス供給手段、pH調整用添加剤供給手段、温度調節手段、攪拌手段及び添加用培地供給手段を個別に制御する個別制御手段と、
    前記個別制御手段と双方向通信可能に接続されているとともに、予め構築した統計的数値演算モデルを有しており、入力された前記個別制御手段による個別の制御値と前記統計的数値演算モデルとを用いて前記培養槽内における前記目的物質の品質性状を推定するとともに、推定された当該品質性状が予め設定した基準値を下回る場合に前記制御目標値を修正するソフトセンサと、
    を備えることを特徴とする細胞培養装置の制御システム。
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