JP2019077154A - 金属/樹脂複合構造体および金属/樹脂複合構造体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
そこで、本発明者らは、ポリアミド系樹脂組成物の溶融時の流動性を確保するために、射出時の樹脂部材の結晶化遅延が可能なようにポリアミド系樹脂成分の樹脂品質を設計することを鋭意検討した。その結果、ガラス転移温度に代表されるDSC熱特性が特定の範囲にあるポリアミド系樹脂部材を用いた場合に、ポリアミド系樹脂部材と金属部材との間の接合強度が公知技術を大幅に上回る金属/樹脂複合構造体が得られることを見出し本発明に到達した。
微細凹凸表面を有する金属部材(M)と、上記金属部材(M)に接合したポリアミド系樹脂部材(A)と、を備える金属/樹脂複合構造体であって、
上記ポリアミド系樹脂部材(A)が以下の要件〔A1〕および要件〔A2〕を共に満たすことを特徴とする金属/樹脂複合構造体。
〔A1〕示差走査熱量計(DSC)で観測されるガラス転移温度(Tg)が45℃超え100℃未満の範囲にある
〔A2〕示差走査熱量計(DSC)で観測される結晶化温度(Tc)が150℃以上190℃未満である
[2]
上記ポリアミド系樹脂部材(A)が、以下の要件〔A3〕および要件〔A4〕の少なくとも一つをさらに満たす上記[1]に記載の金属/樹脂複合構造体。
〔A3〕示差走査熱量計(DSC)にて測定される、195℃で等温保持した場合の半結晶化時間t1/2が150秒以上である
〔A4〕示差走査熱量計(DSC)測定の融解エンタルピーから求められる結晶化度(χc)が35%以下である
[3]
上記ポリアミド系樹脂部材(A)が無機フィラーを含む上記[1]または[2]に記載の金属/樹脂複合構造体。
[4]
上記ポリアミド系樹脂部材(A)中の上記無機フィラーの含有量が、上記ポリアミド系樹脂部材(A)の全体を100質量%としたとき、0質量%超え80質量%以下である上記[3]に記載の金属/樹脂複合構造体。
[5]
上記ポリアミド系樹脂部材(A)が半芳香族ポリアミド樹脂を含む上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の金属/樹脂複合構造体。
[6]
上記半芳香族ポリアミド樹脂がイソフタルアミド骨格含有ポリアミド樹脂を含む上記[5]に記載の金属/樹脂複合構造体。
[7]
引張試験機を用いて、23℃、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件で測定される、上記金属部材(M)と上記ポリアミド系樹脂部材(A)との接合面の引張りせん断強度が48MPa以上である上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の金属/樹脂複合構造体。
[8]
上記引張りせん断強度の試験後の破壊面が母材破壊を含む上記[7]に記載の金属/樹脂複合構造体。
[9]
上記金属部材(M)が、鉄、高張力鋼、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタンおよびチタン合金から選択される一種または二種以上を含む上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載の金属/樹脂複合構造体。
[10]
上記金属部材(M)の上記微細凹凸表面が、間隔周期が5nm以上500μm以下である凸部が林立した微細凹凸表面を含む上記[1]乃至[9]のいずれか一つに記載の金属/樹脂複合構造体。
[11]
上記[1]乃至[10]のいずれか一つに記載の金属/樹脂複合構造体を製造するための製造方法であって、
微細凹凸表面を有する上記金属部材(M)を射出成形金型にインサートする工程と、
インサートされた上記金属部材(M)の表面に、ポリアミド系樹脂組成物(a)を射出し、射出された上記ポリアミド系樹脂組成物(a)が上記微細凹凸表面の微細凹凸に侵入した後に固化することによって上記金属部材(M)の表面に上記ポリアミド系樹脂組成物(a)の成形体である上記ポリアミド系樹脂部材(A)を接合する工程と、
を含む金属/樹脂複合構造体の製造方法。
本実施形態の金属/樹脂複合構造体106は、微細凹凸表面を有する金属部材(M)(以下、金属部材103とも呼ぶ。)と、金属部材(M)に接合したポリアミド系樹脂部材(A)(以下、樹脂部材105とも呼ぶ。)と、を備える金属/樹脂複合構造体であって、ポリアミド系樹脂部材(A)が以下の要件〔A1〕および要件〔A2〕を共に満たす金属/樹脂複合構造体である。
〔A1〕示差走査熱量計(DSC)で観測されるガラス転移温度(Tg)が45℃超え100℃未満の範囲にある
〔A2〕示差走査熱量計(DSC)で観測される結晶化温度(Tc)が150℃以上190℃未満である
なお、本実施形態においては、金属/樹脂複合構造体106を構成する樹脂部材105をポリアミド系樹脂部材(A)と呼び、成形される前の原料としての樹脂部材をポリアミド系樹脂組成物(a)と呼ぶ。前者は成形時の熱履歴が加えられている点で後者と異なる。
ポリアミド系樹脂部材(A)は、示差走査熱量計(DSC)測定においてガラス転移温度(Tg)に起因する変曲点が観測され、その値は45℃超え100℃未満、好ましくは47℃以上90℃以下、より好ましくは50℃以上80℃以下、特に好ましくは52℃以上70℃以下である。ポリアミド系樹脂部材(A)がこの範囲を満たすTgを有することによって、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106の接合強度を強固にすることができる。
本実施形態において、ポリアミド系樹脂部材(A)に対して、昇温速度10℃/minにて30℃から300℃まで昇温(第1昇温)後、降温速度10℃/minにて0℃まで冷却(降温)し、再び昇温速度10℃/minにて300℃まで昇温(第2昇温)したときの、第2昇温時における変曲点をガラス転移温度(Tg)とする。
〔A2〕示差走査熱量計(DSC)で観測される結晶化温度(Tc)が150℃以上190℃未満である
すなわち、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106において、ポリアミド系樹脂部材(A)にはDSC測定において結晶化温度(Tc)に基づく発熱ピークが観測され、その値は150℃以上190℃未満、好ましくは155℃以上185℃以下、より好ましくは160℃以上180℃以下である。
結晶化温度(Tc)がこの範囲を満たすことによって、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106の接合強度を強固にすることができる。
本実施形態において、ポリアミド系樹脂部材(A)に対して、昇温速度10℃/minにて30℃から300℃まで昇温(第1昇温)後、降温速度10℃/minにて0℃まで冷却(第1降温)した際に検出されるピークを結晶化温度(Tc)とする。Tc測定時に、ピークが2つ以上存在する場合は、高温側のピークをTcとする。
〔A3〕示差走査熱量計(DSC)にて測定される、195℃で等温保持した場合の半結晶化時間t1/2が150秒以上である
〔A4〕示差走査熱量計(DSC)測定の融解エンタルピーから求められる結晶化度(χc)が35%以下である
本実施形態において、半結晶化時間t1/2は、以下の方法により測定することができる。まず、ポリアミド系樹脂部材(A)に対して、500℃/minの設定速度で30℃から300℃まで昇温し、5分間保持した後、降温速度500℃/minの設定速度で195℃まで一気に降温し、等温下での結晶化ピークを測定する。次いで、測定した結晶化ピークを用いて、結晶化が始まった時点から、結晶化が半分促進する時点(全体の結晶化ピーク面積に対して、面積が1/2になる時点)での時間を算出し、その時間をt1/2とすることができる。
本実施形態において、結晶化度(χc)は、DSC法によって求められる値であり、具体的にはポリアミド系樹脂部材(A)に対して、昇温速度10℃/minにて30℃から300℃まで昇温(第1昇温)後、降温速度10℃/minにて0℃まで冷却し、再び昇温速度10℃/minにて300℃まで昇温(第2昇温)した際の、第2昇温時の融解ピークから融解エンタルピー(ΔHf)を測定し、その測定値から求めることができる。
本実施形態において、結晶化度(χc)は、測定した融解熱量(ΔHf)を、ポリアミド66の完全結晶融解熱量ΔHf0(H.Luら、Bull.Master.Sci.,29(5),485(2006)に報告されている値195mJ/mgを用いる)で除することによって求めることができる(下記式1)。
結晶化度(%)=(ΔHf/ΔHf0)×100 (式1)
本実施形態に係るポリアミド系樹脂部材(A)中の無機フィラーの含有量は、ポリアミド系樹脂部材(A)の全体を100質量%としたとき、0質量%超え80質量%以下であることが好ましい。すなわち、ポリアミド系樹脂部材(A)は80質量%以下の無機フィラーと20質量%以上の樹脂成分から構成されることが好ましい。本実施形態に係るポリアミド系樹脂部材(A)中の無機フィラーの含有量は、ポリアミド系樹脂部材(A)の全体を100質量%としたとき、より好ましくは1質量%以上80質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以上70質量%以下である。ポリアミド系樹脂部材(A)中の無機フィラーの含有量は、ポリアミド系樹脂部材(A)を燃焼処理した後の灰分量を測定する方法等の公知分析法によって測定が可能である。
本実施形態に係る無機フィラーとしては、ガラス繊維やカーボン繊維等の繊維強化材;マイカ、炭酸カルシウム、タルク、ガラスビーズ等の充填材を例示できる。このような無機フィラーを含有させることによって、一般的にポリアミド系樹脂部材(A)の強度、弾性率、寸法安定性を向上させることが可能となり、無機フィラーの種類によっては、等方向成形収縮率を低減したり、ソリを防止したり、導電性を付与したりすることができる場合もある。
ΔHfr=ΔHf’/(1−無機フィラーの含有量(質量%)/100) (式2)
なお、上記式2中、ΔHfrは樹脂部由来の融解エンタルピー、ΔHf’はDSC測定によって得られた融解エンタルピーを示す。DSC測定に際しては、ポリアミド系樹脂部材(A)から無機フィラーを含んだ形で数mgのサンプルを切出し、DSC測定用のサンプルとすることができる。
本実施形態に係るポリアミド系樹脂部材(A)は、半芳香族ポリアミド樹脂を主成分として含むこともできる。
ポリアミド系樹脂部材(A)の樹脂分を溶剤抽出した後、溶剤留去後の残分の赤外線吸収スペクトル分析や核磁気共鳴スペクトル分析等の公知の分析法によって半芳香族ポリアミドの存在とその含有量の測定が可能である。なお、本実施形態において「主成分」とは、ポリアミド系樹脂部材(A)に占める樹脂成分中の50質量%を超える構成成分として定義される。
本実施形態において半芳香族ポリアミド樹脂とは、全脂肪族ポリアミド樹脂と全芳香族ポリアミド樹脂を除く全てのポリアミド樹脂として定義される。ここで全脂肪族ポリアミド樹脂は、アミド結合に連結した構成単位が全て飽和炭化水素骨格であるポリアミド樹脂として定義され、また全芳香族ポリアミド樹脂は、アミド結合に連結した構成単位が全て芳香族骨格(アリーレン基)であるポリアミド樹脂として定義される。
すなわち上記例示のポリアミド樹脂の中でも、ポリアミド6I、ポリアミド66/6I、ポリアミド6I/6、ポリアミド66/6T/6I、ポリアミド66/6/6I、ポリアミド6I/6T、およびポリアミドM5T/M5Iから選択される一種または二種以上の半芳香族ポリアミド樹脂が含まれていることが好ましい。なお、イソフタルアミド骨格の存在と含有量は、1H−NMRスペクトラムにおける8ppm付近に検出される、アミド基に挟まれた芳香族プロトンピークの定量によって確認・定量が可能である。
以下、本実施形態に係る金属部材(M)について説明する。
金属部材(M)を構成する金属材料は特に限定されないが、例えば、鉄、高張力鋼、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタンおよびチタン合金等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、軽量かつ高強度の点から、アルミニウム(アルミニウム単体)およびアルミニウム合金が好ましく、アルミニウム合金がより好ましい。また、高強度の観点から、鉄および高張力鋼が好ましい。アルミニウム合金としては、JIS H4000に規定された合金番号1050、1100、2014、2024、3003、5052、6061、6063、7075等が好ましく用いられる。
また、樹脂部材105と接合する接合部表面104の形状は、特に限定されないが、平面、曲面等が挙げられる。
必要な形状に加工された金属部材(M)は、長期間の自然放置で表面に酸化皮膜である錆の存在が明らかなものは研磨、化学処理等でこれを取り除くことが好ましい。
これにより、本実施形態に係る樹脂部材105が、金属部材(M)表面の上記微細凹凸に入り込むため、金属部材(M)と樹脂部材105との接合強度をより向上させることができる。凸部の間隔周期が上記下限値以上であると、上記微細凹凸表面の凹部に樹脂部材105が十分に進入することができ、その結果、金属部材(M)と樹脂部材105との接合強度をより向上させることができる。また、凸部の間隔周期が上記上限値以下であると、得られる金属/樹脂複合構造体106の金属―樹脂界面に隙間が生じるのをより抑制できる。その結果、金属―樹脂界面の隙間から水分等の不純物が浸入することを抑制できるため、金属/樹脂複合構造体106を高温、高湿下で用いた際、強度が低下することをより抑制できる。
具体的には、間隔周期が500nm未満の超微細な凹凸構造については電子顕微鏡により測定することが可能であり、間隔周期が500nmを超える微細凹凸構造についてはレーザー顕微鏡または表面粗さ測定装置を用いることによって求めることが可能であるがこの限りではない。なお、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡で撮影した写真から間隔周期を求める場合は、具体的には、金属部材(M)の表面110を撮影する。その写真から、任意の凸部を50個選択し、それらの凸部から隣接する凸部までの距離をそれぞれ測定する。凸部から隣接する凸部までの距離の全てを積算して50で除したものを間隔周期とする。
本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106は、ポリアミド系樹脂部材(A)と微細凹凸表面を有する金属部材(M)とを備え、引張試験機を用いて、23℃、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件で測定される、金属部材(M)とポリアミド系樹脂部材(A)との接合面の引張りせん断強度は、好ましくは48MPa以上であり、さらに引張りせん断強度の試験後の破壊面は母材破壊形態であることが好ましい。なお、母材破壊とは、金属/樹脂接合部分の界面の80面積%以上に樹脂残りが観測される破壊形態として定義される。上記引張りせん断強度は、より好ましくは50MPa以上、さらに好ましくは53MPa以上、特に好ましくは55MPa以上80MPa以下である。
(i)微細凹凸表面を有する金属部材(M)を金型にインサートするインサート工程
(ii)インサートされた金属部材(M)の少なくとも微細凹凸表面に、ポリアミド系樹脂組成物(a)を射出充填し、ポリアミド系樹脂組成物(a)の一部分を微細凹凸表面の微細凹凸構造に侵入させた後に、金型冷却してポリアミド系樹脂組成物(a)を固化させて金属部材(M)の表面にポリアミド系樹脂部材(A)を接合する接合工程
以下、具体的に説明する。なお、微細凹凸表面を有する金属部材(M)の調製方法は前述したため、ここでは説明を省略する。
これにより、ポリアミド系樹脂組成物(a)が流動できる状態に保ちながら、ポリアミド系樹脂組成物(a)を高圧でより長い時間接触させることができる。その結果、金属表面の凹凸に樹脂を流動・侵入させることができ、金属部材(M)の表面と樹脂部材105との間の接着性を向上でき、その結果、接合強度により一層優れた金属/樹脂複合構造体106をより安定的に得ることができる。本実施形態においては、上記工程(ii)におけるポリアミド系樹脂組成物(a)のシリンダー温度は、好ましくは220℃〜320℃、より好ましくは230〜300℃、さらに好ましくは240〜290℃の範囲にある。また、上記工程(ii)における金型温度は好ましくは60℃〜210℃、より好ましくは80℃〜200℃、さらに好ましくは100〜180℃の範囲にある。
上記時間が上記下限値以上であると、ポリアミド系樹脂組成物(a)を溶融させた状態に保ちながら、金属部材(M)の上記微細凹凸表面にポリアミド系樹脂組成物(a)を高圧でより長い時間接触させることができる。これにより、接合強度により一層優れた金属/樹脂複合構造体106をより安定的に得ることができる。
また、上記時間が上記上限値以下であると、金属/樹脂複合構造体106の成形サイクルを短縮できるため、金属/樹脂複合構造体106をより効率よく得ることができる。
冷却温度は、シリンダー温度やノズル温度にもよるが、好ましくは60℃〜210℃である。上記温度が60℃以上であると、ポリアミド系樹脂組成物(a)を溶融させた状態に保ちながら、金属部材(M)の上記微細凹凸表面にポリアミド系樹脂組成物(a)を高圧でより長い時間接触させることができる。これにより、接合強度により一層優れた金属/樹脂複合構造体106をより安定的に得ることができる。また、上記温度が210℃以下であると、金属/樹脂複合構造体106の成形サイクルを短縮できるため、金属/樹脂複合構造体106をより生産性良く得ることができる。
さらに、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106は、高い耐熱性、機械特性、耐摩擦性、摺動性、気密性、水密性が発現するので、これらの特性に応じた用途に好適に用いられる。
まず、ポリアミド系樹脂部材(A)の熱特性分析法、金属部材(M)表面上の微細凹凸形状の分析方法、および金属/樹脂複合構造体の接合強度測定法について述べる。
後述する接合強度評価試験後のポリアミド系樹脂部材(A)の一部を裁断して熱特性分析用の試料とした。この試料を真空オーブンにて110℃、12時間真空乾燥後、示差走査熱量計(SII社製 X−DSC7000)を用いて、ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、結晶化温度(Tc)、融解エンタルピー(ΔHf)、半結晶化時間(t1/2)および結晶化度(χc)をそれぞれ求めた。
なお、昇温速度10℃/minにて30℃から300℃まで昇温(第1昇温)後、降温速度10℃/minにて0℃まで冷却(第1降温)し、再び昇温速度10℃/minにて300℃まで昇温(第2昇温)した際の、第2昇温時における変曲点をガラス転移温度(Tg)とし、第1降温時におけるピークを結晶化温度(Tc)とし、第2昇温時の融解ピークを融点(Tm)とした。TcまたはTm測定時に、ピークが2つ以上存在する場合は、高温側に観察されるピークを各々Tc、Tmとみなした。また、Tm起因のピーク面積からΔHfまたはΔHf’を算出した。
t1/2は以下の方法により測定した。まず、500℃/minの設定速度で30℃から300℃まで昇温し、5分間保持した後、降温速度500℃/minの設定速度で195℃まで一気に降温し、等温下での結晶化ピークを測定した。次いで、測定した結晶化ピークを用いて、結晶化が始まった時点から、結晶化が半分促進する時点(全体の結晶化ピーク面積に対して、面積が1/2になる時点)での時間を算出し、その値をt1/2とした。
χcは、上記方法で得られた融解エンタルピー値(ΔHfまたはΔHfr)をポリアミド66の完全結晶融解熱量(195mJ/mg)で除することによって求められる値である。
・間隔周期
微細凹凸表面を有する金属部材(M)の表面上の間隔周期の測定方法について述べる。既に述べたように、間隔周期が500nm未満の超微細な凹凸構造については電子顕微鏡により測定する。本実施形態ではレーザー顕微鏡(KEYENCE社製VK−X100)または走査型電子顕微鏡(JEOL社製JSM−6701F)を用いて測定した。なお、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡で撮影した写真から間隔周期を求める場合は、具体的には、金属部材(M)の表面110を撮影する。その写真から、任意の凸部を50個選択し、それらの凸部から隣接する凸部までの距離をそれぞれ測定する。凸部から隣接する凸部までの距離の全てを積算して50で除したものを間隔周期とした。
表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」を使用し、JIS B0601(対応ISO 4287)に準拠して測定される十点平均粗さ(Rz)を測定した。なお、測定条件は以下のとおりである。
・触針先端半径:5μm
・基準長さ:0.8mm
・評価長さ:4mm
・測定速度:0.06mm/sec
測定は、金属部材(M)の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部についておこない、その平均値を求めた(図3参照)。
引張試験機「モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)」を使用し、引張試験機に専用の治具を取り付け、室温(23℃)にて、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件にて測定をおこなった。破断荷重(N)を金属/樹脂接合部分の面積で除することにより接合強度(引張りせん断強度)(MPa)を得た。
引張試験機による接合強度の測定後の金属部材側面を拡大鏡観察して、次の基準で判定した。すなわち、金属/樹脂接合部分の界面の80面積%以上に樹脂残りが観測される場合を母材破壊(「母破」と略称する場合あり)、界面の30面積%以上80面積%未満に樹脂残りが観測される場合を一部母材破壊1(「一部母破1」と略称する場合あり)、界面の30面積%未満に樹脂残りが観測される場合を一部母材破壊2(「一部母破2」と略称する場合あり)、そして界面に全く樹脂残りが観測されない場合を界面破壊とした。
ポリアミド系樹脂組成物(a)を調製するための市販ポリアミド樹脂としてPA6(商品名:GM1011G30、東レ株式会社製)、およびPA6I/6T(商品名:GRIVORYTM G16、EMS−CHEMIE AG社製)を用いた。
なお以下の説明では、GRIVORYTM G16を単にG16と略称する場合がある。
各ポリアミド樹脂の入荷時ペレット形態の分析値は以下の通りであった。
(GM1011G30)
・ガラス繊維含有量:30質量%
・Tg=42℃
・Tc=187℃
・Tm=214℃
・t1/2=132秒(195℃等温保持の場合)
・ΔHfr=70mJ/mg
・χc=36%
(G16)
・ガラス繊維:含まず
・Tg=121℃
・Tc=検出されず
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板(厚み:2.0mm)を、長さ45mm、幅18mmに切断した。このアルミニウム板を酸系エッチング剤(硫酸:8.2質量%、塩化第二鉄:7.8質量%(Fe3+:2.7質量%)、塩化第二銅:0.4質量%(Cu2+:0.2質量%)イオン交換水:残部)(30℃)中に80秒間浸漬し、揺動させることによってエッチングした。次いで、流水で超音波洗浄(水中、1分)を行い、乾燥させることにより表面処理金属部材(m−1)を得た。
また、得られた表面処理金属部材(m−1)の表面粗さを、表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」を使用して測定し、図3に例示した6直線部についての十点平均粗さ(Rz)、エッチング処理前後の金属部材の質量比から求めたエッチング率を算出した。得られた結果を以下に示す。
6直線部のRz値[μm]:19.2、20.8、20.1、23.5、18.4、19.6
Rz値の平均値[μm]:20.3
エッチング率[質量%]:2.9
日本製鋼所社製の射出成形機J55ADに小型ダンベル金属インサート金型102を装着した。次いで、金型102を160℃に加熱した後(図2)に、金型102内に表面処理金属部材(m−1)を設置した。
GM1011G30(100質量部)とG16(20質量部)をポリエチレン袋中に量り入れ、かかる袋を上下方向および左右方向に十分に回転させることにより、仕込み原料を均一にドライブレンドした。得られたドライブレンド体(DB−1)を射出ユニットのホッパーに投入し、表1に示したシリンダー温度と金型温度で、射出速度40mm/sec、保圧90MPa、射出保圧時間8秒の条件にて射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体106を得た(実験1〜実験6)。得られた金属/樹脂接合体106を用いて、引張試験を実施し、接合強度の測定および破断面の観察を行った。また、接合強度測定後のポリアミド系樹脂部材から切り取った試験片について熱特性分析を行った結果を表1に併記した。
実施例1において、ドライブレンド体(DB−1)の代わりにPA6(商品名:GM1011G30、東レ株式会社製)そのものを用い、表2に示したシリンダー温度と金型温度で、射出速度40mm/sec、保圧90MPa、射出保圧時間8秒の条件にて射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体106を得た(実験1’〜実験6’)。得られた金属/樹脂接合体106を用いて、引張試験を実施し、接合強度の測定および破断面の観察を行った。また、接合強度測定後のポリアミド系樹脂部材から切り取った試験片について熱特性分析を行った結果を表2に併記した。
102 金型
103 金属部材
104 接合部表面
105 樹脂部材
106 金属/樹脂複合構造体
107 ゲート/ランナー
110 表面
Claims (11)
- 微細凹凸表面を有する金属部材(M)と、前記金属部材(M)に接合したポリアミド系樹脂部材(A)と、を備える金属/樹脂複合構造体であって、
前記ポリアミド系樹脂部材(A)が以下の要件〔A1〕および要件〔A2〕を共に満たすことを特徴とする金属/樹脂複合構造体。
〔A1〕示差走査熱量計(DSC)で観測されるガラス転移温度(Tg)が45℃超え100℃未満の範囲にある
〔A2〕示差走査熱量計(DSC)で観測される結晶化温度(Tc)が150℃以上190℃未満である - 前記ポリアミド系樹脂部材(A)が、以下の要件〔A3〕および要件〔A4〕の少なくとも一つをさらに満たす請求項1に記載の金属/樹脂複合構造体。
〔A3〕示差走査熱量計(DSC)にて測定される、195℃で等温保持した場合の半結晶化時間t1/2が150秒以上である
〔A4〕示差走査熱量計(DSC)測定の融解エンタルピーから求められる結晶化度(χc)が35%以下である - 前記ポリアミド系樹脂部材(A)が無機フィラーを含む請求項1または2に記載の金属/樹脂複合構造体。
- 前記ポリアミド系樹脂部材(A)中の前記無機フィラーの含有量が、前記ポリアミド系樹脂部材(A)の全体を100質量%としたとき、0質量%超え80質量%以下である請求項3に記載の金属/樹脂複合構造体。
- 前記ポリアミド系樹脂部材(A)が半芳香族ポリアミド樹脂を含む請求項1乃至4のいずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体。
- 前記半芳香族ポリアミド樹脂がイソフタルアミド骨格含有ポリアミド樹脂を含む請求項5に記載の金属/樹脂複合構造体。
- 引張試験機を用いて、23℃、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件で測定される、前記金属部材(M)と前記ポリアミド系樹脂部材(A)との接合面の引張りせん断強度が48MPa以上である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体。
- 前記引張りせん断強度の試験後の破壊面が母材破壊を含む請求項7に記載の金属/樹脂複合構造体。
- 前記金属部材(M)が、鉄、高張力鋼、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタンおよびチタン合金から選択される一種または二種以上を含む請求項1乃至8のいずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体。
- 前記金属部材(M)の前記微細凹凸表面が、間隔周期が5nm以上500μm以下である凸部が林立した微細凹凸表面を含む請求項1乃至9のいずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体。
- 請求項1乃至10のいずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体を製造するための製造方法であって、
微細凹凸表面を有する前記金属部材(M)を射出成形金型にインサートする工程と、
インサートされた前記金属部材(M)の表面に、ポリアミド系樹脂組成物(a)を射出し、射出された前記ポリアミド系樹脂組成物(a)が前記微細凹凸表面の微細凹凸に侵入した後に固化することによって前記金属部材(M)の表面に前記ポリアミド系樹脂組成物(a)の成形体である前記ポリアミド系樹脂部材(A)を接合する工程と、
を含む金属/樹脂複合構造体の製造方法。
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