以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る全体のシステム構成例を示す図である。図1を用いて、本実施形態の概要を説明する。図1のシステムは、無線通信装置1と、ホストシステム70とを備える。図1では無線通信装置1とホストシステム70の台数はそれぞれ1台であるが、2台以上であってもよい。
無線通信装置1は、例えばIEEE802.11シリーズまたはその後継規格の無線LAN(Local Area Network)規格や、IEEE802.16シリーズまたはその後継規格の移動体通信規格や、Bluetoothなどの無線PAN規格などにより無線通信を行う。無線PAN規格には、例えばBluetooth、Bluetooth Low Energy、ZigBee、Z−Wave、Wireless USBまたはこれらの後継規格などがある。これらの規格は例示であり、無線通信装置1はその他の無線通信方式による通信を行ってもよい。
無線通信装置1は1種類の規格に限らず、複数の規格に対応した装置であってもよい。例えば、IEEE802.11n、IEEE802.11ac、IEEE802.11axの複数の無線LAN規格と、Bluetoothによる無線通信を行う装置などが挙げられる。
無線通信装置1は、アンテナ5と、RF部10と、ベースバンド部100とを備えている。
アンテナ5はRF部10と電気的に接続されており、アンテナ5は、RF部10が出力する電気的な信号を電波として送信する。また、アンテナ5が受信する電波はRF部10へ電気的な信号として入力される。
図1ではアンテナ5の1本のみが示されているが、無線通信装置1は複数のアンテナを備えてもよい。この場合、無線通信装置1は、複数のアンテナを用いて、MIMO(Multiple Input,Multiple Output)を行うものであってもよい。また、送信用のアンテナと、受信用のアンテナを、別々に備える構成であってもよい。
アンテナ5の大きさと形状は特に限定されない。また、アンテナ5は無線通信装置1に内蔵されるものであっても、外付けされるものであってもよい。アンテナ5としてアレイアンテナを用いてもよい。
RF部10は、低雑音増幅器(LNA)11と、ミキサ12と、局部発振器13と、セレクタ14と、RFアンプ15と、ミキサ16とを備えている。RF部10はベースバンド部100から入力された信号を、ベースバンド周波数から無線周波数に変換し、アンテナ5を用いて送信する。RF部10は、アンテナ5が受信した信号を無線周波数からベースバンド周波数に変換し、ベースバンド部100に転送する。
局部発振器13と、ミキサ12、16とは、周波数変換に用いられる。低雑音増幅器11は受信された信号を増幅する。RFアンプ15は送信時の信号を増幅する。セレクタ14により、アンテナ5の用途を、信号の受信と送信との間で切り替えることができる。
ベースバンド部100は、符号器101と、変調回路102と、D/Aコンバータ(DAC)103と、A/Dコンバータ(ADC)104と、復調回路105と、復号器106と、アクセス制御部107と、ホストインタフェース108と、補正部109と、メモリ部110と、制御部111と、信号検出部200とを備えている。
符号器101は、送信するデータを一定のビット数ごとに符号化することにより、複数のフレームを生成する。符号化方式には、各種のブロック符号や畳み込み符号などがあるが、どの方式であってもよい。符号化により、一定のビット数ごとに、データ系列が生成される。生成されたデータ系列ごとに、誤り検出(誤り訂正)用の検査ビットが付加される。検査ビットの長さと、生成されるデータ系列のサイズは、符号化率により決められる。
変調回路102は、符号器101の出力するフレームのビット系列を変調する。変調回路102が使う変調方式としては、例えばASK(amplitude shift keying)、BPSK(binary phase shift keying)、FSK(frequency shift keying)、QAM(quadrature amplitude modulation)などがあるが、その他の方式であってもよい。
変調回路102は更にOFDM(orthogonal frequency−division multiplexing)などの2次変調を行ってもよい。2次変調方式としては、他にDS(direct sequence)、FH(frequency hopping)、TDMA(time division multiple access)、FDMA(frequency division multiple access)、CDMA(code division multiple access)などがあるが、どの方式であってもよい。
D/Aコンバータ103は、変調回路102が出力したデジタル信号をアナログ信号に変換する。D/Aコンバータの回路方式には電流出力型、抵抗ラダー型、デルタシグマ型などがあるが、その他の方式のものであってもよい。
D/Aコンバータ103はRF部10にアナログ信号を出力する。RF部10は無線周波数へのアップコンバートと電力増幅を行った後、アンテナ5より当該信号を送信する。
A/Dコンバータ104は、受信信号(アナログ信号)を、サンプリング周波数で標本化し、その振幅を量子化する。これによりアナログ信号がデジタル信号へ変換される。A/Dコンバータの方式としては、フラッシュ型やパイプライン型のものがあるが、その他の方式のものを使ってもよい。
復調回路105は、受信信号を復調する。復調回路105は送信機で使われた変調方式に対応した方式で復調を行う。例えば送信側でOFDM変調をした場合、復調回路105はOFDM復調をする。復調回路105でさらにチャネル補正(等化処理)を行ってもよい。
復号器106は、受信信号を復号し、受信データを得る。復号器106は、復号結果より受信データの誤り検出をすることができる。ビット誤りが訂正可能なビット数のものである場合、復号器106は受信データの誤り訂正をする。
復号後のデータに訂正できないビット誤りが存在する場合、アクセス制御部107は、データを破棄し、送信機に再送要求を送信する。無線LANの場合、再送要求は否定応答(Negative Acknowledge:NACK)の送信にあたる。送信機に明示的な再送要求をせず、送信機が再送信をするまで待機してもよい。復号後の受信データにビット誤りが存在しないか、ビット誤りがすべて訂正された場合、アクセス制御部107は受信データをホストインタフェース108に転送する。ホストインタフェース108は、転送されたデータを所定のプロトコルに従ってホストシステム70に転送する。無線LANの場合、一例として、受信データにビット誤りがないとき、もしくはビット誤りがすべて訂正された場合は、送信機へ肯定応答(Acknowledge:ACK)が送信される。
ホストインタフェース108は、無線通信装置1とホストシステム70との間での電気信号の送受信を行う手段を提供する。ホストインタフェース108の例としては、PCI Express、USB、UART、SPI、SDIOなどがあるが、その他の規格によるインタフェースを用いてもよい。
補正部109は、A/Dコンバータ104がデジタル化した受信信号に対してノイズ除去処理を行う。局部発振器13の位相雑音やミキサ12の熱雑音のため、受信信号は周波数領域と振幅の双方においてノイズ成分を含む。位相雑音がある場合、OFDMサブキャリア間の干渉や位相回転が発生するおそれがある。このようなノイズ成分を取り除くために、補正部109は時間領域または周波数領域における信号処理を行う。受信機で生じたノイズを除去することにより、正確な受信信号の波形が再現される。
また、補正部109で受信信号の直流(DC)成分を補正し、受信信号の電圧を信号検出部200での信号検出に適した範囲に調整してもよい。例えば、受信信号を正規化し、中心電圧を0[V]、振幅が±x[V]の範囲に入るようスケーリングすることができる。ここで、xは信号検出部200へ入力可能な信号電圧をもとに決定される。
信号検出部200は、周期的なサイクルで一定の時間幅の時間領域の信号を周波数領域の信号に変換し、各サイクルにおける受信信号の強度と周波数帯域に関する情報(受信信号情報)を取得する。信号検出部200が取得した受信信号情報は、メモリ部110に保存される。ホストシステム70は受信信号情報を取得することができる。受信信号情報をもとに無線通信装置1の使う無線周波数や変調方式を変更することも可能である。信号検出部200の詳細な処理については後述する。
メモリ部110は、ホストシステム70や制御部111が受信信号情報を参照できるよう、受信信号情報を保持する。メモリ部110は、SRAM、DRAM等の揮発性メモリでも、NAND、MRAM、FRAM等の不揮発性メモリでもよい。またハードディスク、SSD等のストレージ装置でもよい。
制御部111は、メモリ部110に保存された受信信号情報を参照し、無線通信装置1の送受信する信号を、干渉の発生しにくいものに変更する。例えば、無線LANの場合は、受信信号の周波数帯を参照し、受信信号と重複しない周波数帯やOFDMサブキャリア(チャネル)を使うように設定することができる。
無線通信装置1が使う変調方式を干渉に強い方式に変更してもよい。例えばBluetoothやBluetooth Low Energyなど、周波数ホッピングを利用している通信規格の場合には、受信信号の周波数帯を考慮してホッピングパターンを変更してもよい。直接シーケンス・スペクトラムを使っている場合には、受信信号の周波数帯と重複が少ない拡散符号に変更することができる。
図1のRF部10およびRF部10内の各要素、ベースバンド部100およびベースバンド部100内の各要素、およびホストシステム70は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサで動作するソフトウェア(プログラム)によって構成されてもよいし、FPGAやASICなどのハードウェアまたは回路によって構成されてもよいし、これらの組み合わせによって構成されてもよい。図1の無線通信装置は、ソフトウェアを実行するプロセッサと、ソフトウェアおよびデータを記憶するメモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記憶媒体を備えていてもよい。
図2は、本実施形態に係る信号検出部の構成例を示す図である。以下では図2を参照しながら説明をする。
信号検出部200は、時間周波数解析部201と、ピーク検出部202と、ピーク記憶部202aと、信号推定部205とを備えている。信号推定部205は、パルス検出部203と、信号範囲推定部204とを備えている。また、パルス検出部203は、パルス更新部203aと、パルス登録部203bと、パルス記憶部203cとを含む。
補正部109が出力した補正後の受信信号は、時間周波数解析部201に入力される。ここで、補正後の受信信号を信号120と呼ぶことにする。信号120は複素信号であり、実部と虚部を持つ。図3は信号120の例を表したグラフである。図3上段は信号120の実部であり、図3下段は信号120の虚部である。グラフの縦軸は電圧であり、横軸はサンプル番号(時刻に比例)である。
時間周波数解析部201は入力された信号120に対しフーリエ変換を行い、周波数領域信号を生成する。すなわち、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する。なお、変換時に窓関数処理を行ってもよい。時間領域の信号120は一定周期ごとに(一定時間毎のサイクルで)フーリエ変換される。これにより、時間領域の信号120は、周波数領域の信号121に変換される。フーリエ変換は、離散フーリエ変換(DFT)でもよいし、高速フーリエ変換(FFT)でもよい。図4は周波数領域の信号121の例を表したグラフである。グラフの縦軸はdBm単位の電力であり、横軸は周波数ビン番号であり、周波数分解能の単位である。このような周波数領域の信号から、受信信号の使用する周波数帯域に関する情報を得ることができる。時間周波数解析部201は周波数領域の信号121をピーク検出部202に入力する。なお、ピーク検出部202へローパスフィルタを通した周波数領域の信号121を入力してもよい。
ピーク検出部202は、信号121から、電力値が閾値以上となる信号部分であるピークを検出する。図4には、ピーク検出部202によるピーク検出処理の第1のステップの例が示されている。この例では、第1の閾値が−60dBmに設定されている。ここで、−60dBmは一例であり、他の値であってもよい。また、第1の閾値の決め方については特に問わない。例えば無線LANであれば、キャリアセンスに使われている信号強度の閾値をそのまま用いてもよいし、補正部109で受信信号が正規化されているのであれば、スケーリング後の閾値を使ってもよい。
図4では、信号121のうち、連続して第1の閾値以上となる範囲をプライマリピークと呼んでいる。図4の例では、プライマリピークは周波数ビン番号82番から150番の範囲に該当する。RF部10で実行された周波数変換処理の設定から、プライマリピークの無線周波数における範囲を特定することができる。例えば無線LANの場合、2.4GHz帯や5GHz帯の中にある特定の帯域と対応付けを行うことができる。図4の例では1つのプライマリピークが検出されているが、2つ以上のプライマリピークが検出される場合もありうる。
図5はピーク検出部202によるピーク検出処理の第2ステップの例を示している。ピーク検出処理の第2ステップでは、プライマリピーク内の最大電力値をとるサンプルが探索される。探索の結果、サンプル122がプライマリピーク内の最大電力値をとることが判明したとする。第2の閾値は、プライマリピークの最大電力値から所定の値(図の符号123)を引いた値と定義される。図5の例で値123は20dBmに設定されている。値123は例えば信号の有無を検出する際に用いられる閾値をもとに求めてもよいし、補正部109で受信信号が正規化されているのであれば、スケーリング後の値を使ってもよい。
図5では、信号122のうち、連続して第2の閾値以上となる範囲をセカンダリピークと呼んでいる。図5ではセカンダリピークA、セカンダリピークBの2つのセカンダリピークが検出されている。セカンダリピークAは、サンプル122Aから、サンプル122Bの直前のサンプルまでの範囲であり、セカンダリピークBは、サンプル122Bの直後のサンプルからサンプル122Cまでの範囲である。図5のセカンダリピークAとセカンダリピークBのようなピークの分裂は例えば、フーリエ変換のタイミングが信号の開始に同期しないことや、フーリエ変換のタイミングがシンボルタイミングに同期しないことがある。図5の例では2つのセカンダリピークが検出されているが、3つ以上のセカンダリピークが検出される場合もありうる。
ピーク検出部202で検出するピークは、プライマリピークとセカンダリピークのいずれを用いてもよい。ここで述べた以外の方法でピークを検出してもよい。プライマリピークまたはセカンダリピークの選択は、検出対象となっている受信信号で用いられている通信規格や変調方式に合わせて行ってもよい。ピーク検出部202で検出されたピークは、例えば中心周波数、最低周波数、最高周波数、帯域幅、電力値などで特定することができる。以降では、これらのうちの少なくとも1つに基づく条件を満たすピーク(例えば所定の帯域幅以上の帯域幅を有するピーク)を、有効ピークと呼ぶことにする。
有効ピークの情報は、対応する時間(フーリエ変換周期(FFTサイクル))に関する情報とともにピーク記憶部202aに保存される。時間(FFTサイクル)は、一例として、その時間の開始時刻と終了時刻によって特定されることができる。ピーク記憶部202aは、SRAM、DRAM等の揮発性メモリでも、NAND、MRAM、FRAM等の不揮発性メモリでもよい。またハードディスク、SSD等のストレージ装置でもよい。
これまで、図4および図5に示された信号121の波形を例に、時間周波数解析処理とピーク検出処理を説明した。信号121の周波数領域における波形は明確にピークが現れている例である。しかし、このような明確なピークが検出されない場合もある。
図6はフーリエ変換の実行周期と、信号またはシンボルの開始タイミングとの関係を示している。グラフの縦軸は複素信号の振幅であり、横軸は10−5秒単位の時間となっている。周期的に引かれている上下方向の破線L1は、フーリエ変換が実行される周期を示している。以降ではフーリエ変換が実行される周期をFFTサイクルと呼ぶことにする。図6の例ではFFTサイクルが0.32x10−5秒となっている。タイミング125は、信号またはシンボルの開始タイミングである。
図6の例では、開始タイミング125は、FFTサイクル124の途中から始まっている。このため、FFTサイクル124においては信号またはシンボルの開始前のホワイトノイズの部分と。受信信号と混在する。したがって、FFTサイクル124でフーリエ変換を実行すると、受信信号部分の正確な周波数スペクトルを得ることができない。
図7はフーリエ変換の周期と、シンボル切り替えタイミングとの関係を示している。図7でもグラフの縦軸は複素信号の振幅であり、横軸は10−5秒単位の時間となっている。周期的に引かれている上下方向のピッチの細かい破線L1は、FFTサイクルを示している。図7の例でもFFTサイクルが約0.3x10−5秒となっている。一方、周期的に引かれている上下方向のピッチの粗い破線L2は受信信号のシンボル切り替え周期である。ここでは受信信号のシンボル切り替え周期を、シンボル周期と呼ぶことにする。
図7で示されているように、FFTサイクル127はシンボル周期126よりも短くなっており、FFTサイクル127とシンボル周期126は一致していない。このため、FFTサイクルによっては複数のシンボルが混在する可能性がある。図7の例ではシンボルが混在しているFFTサイクルがあるため、フーリエ変換を実行すると、周波数スペクトルの形が崩れる場合がある。
図8は受信信号のシンボルと、時間領域での信号波形との関係を示している。図8上側の各々の長方形は受信信号のシンボルを表している。図8下側は、時間領域での信号波形を表したグラフである。縦軸は信号の電力を、横軸は時刻を示している。図8上側のそれぞれの長方形の幅は、その直下にある信号波形に対応している。例えば、「L−SIG」の直下に位置する信号波形はシンボル「L−SIG」に係る信号波形であり、「VHT−SIG―A1」の直下に位置する信号波形はシンボル「VHT−SIG―A1」に係る信号波形である。
図8下側のグラフにおいて、周期的に上下方向に引かれている直線はFFTサイクルを示している。FFTサイクル128は、全期間がシンボル「L−STF」に含まれるFFTサイクルである。FFTサイクル129は全期間がシンボル「L−SIG」に含まれるFFTサイクルである。FFTサイクル130は、シンボル「L−SIG」に係る期間と、シンボル「VHT−SIG―A1」に係る期間とにまたがるFFTサイクルである。FFTサイクル131は、シンボル「VHT−LTF1」に係る期間と、シンボル「VHT−SIG−B」に係る期間とにまたがるFFTサイクルである。
図9は、図8で例示されている4つのFFTサイクルに対応する、フーリエ変換後の周波数領域の波形を示している。図9には4つのグラフが示されている。いずれのグラフも縦軸がdBm単位の電力であり、横軸が周波数ビン番号である。グラフ128aがFFTサイクル128に、グラフ129aがFFTサイクル129に、グラフ130aがFFTサイクル130に、グラフ131aがFFTサイクル131に、それぞれ対応している。
図9の各グラフの波形を確認する。全期間が単一のシンボルに含まれるFFTサイクル128、129に対応するグラフ128a、129aは方形のピークが現れている。一方、複数のシンボルをまたがるFFTサイクル130、131に対応するグラフ130a、131aは方形性が崩れている。図9Aには、FFTサイクル129に対応する、横軸を周波数とするグラフ129bと、FFTサイクル130に対応する横軸を周波数とするグラフ130bが示されている。こちらのグラフでみても、全期間が単一シンボルに含まれるグラフでは、方形のピークが現れているが、複数シンボルにまたがるFFTサイクルに係るグラフでは、方形のピークは現れていない。
フーリエ変換の実行周期は、シンボル切り替えのタイミング(信号開始のタイミングを含む)と同期しておらず、互いに一致しているとは限らない。このようなタイミングの不一致があるため、すべてのFFTサイクルにおいて、適正な周波数スペクトルを得るのは難しい。このため、上述の時間周波数解析処理とピーク検出処理を実行しても、FFTサイクルによっては、受信信号の周波数帯域に係る情報を適正に検出できない可能性がある。
FFTサイクルによってはこのように受信信号の周波数帯域に係る情報を適正に検出できなくても、全体として単一信号の周波数帯域と受信時間を簡単な処理で推定する処理を、信号推定部205(パルス検出部203と信号範囲推定部204)が行う。
信号推定部205は、パルス検出部203と信号範囲推定部204を用いて、アンテナで受信される受信信号から、同一信号源から送信された単一信号、例えばパケットまたはフレームの信号の周波数帯域と受信時間とを推定する(信号範囲推定処理)。具体的には、信号推定部205は、FFTサイクル間で有効ピークの周波数帯域と有効ピークの電力量とに基づいて、単一信号に属する有効ピーク群を特定し、特定した有効ピーク群に基づき、単一信号の周波数帯域と受信時間とを推定する。
以下、パルス検出部203について説明する。前述したピーク検出部202の処理により、各FFTサイクルにおける有効ピークが特定される。ある周波数帯域において、有効ピークが複数のFFTサイクルにわたって継続している場合、当該複数のFFTサイクルの期間の間、単一信号が当該特定の周波数帯域を継続して使用していると考えることができる。ある周波数帯域において、ある期間(時間)の間の信号継続使用を表す情報として、パルスを定義する。パルス検出部203では各FFTサイクルにおける有効ピークに関する情報を用いて、パルスの検出処理を実行する。
図10は、関連技術によるパルスの検出方法の一例を示している。以下では図10を参照しながら、関連技術によるパルス検出について説明する。関連技術では、基準値としてピークの中心周波数fc、帯域幅Δf、電力pを用いて、2つのFFTサイクルをまたがってピークが継続しているか否かの判定を行っている。例えば、帯域幅Δfとしては上述のプライマリピークの幅を用いることができる。中心周波数fcとしては、例えばプライマリピークの中心周波数を使うことができる。電力pとしては、例えばプライマリピークに含まれるサンプルの信号強度の平均値が使える。
最新のFFTサイクルにおける基準値の変動が、直前のFFTサイクルにおける基準値からみて一定比率の範囲内におさまっている場合、ピークが継続していると判定する。例えば、最新のFFTサイクルにおける各基準値が、直前のFFTサイクルにおける各基準値の95%から105%の範囲内の値をとる場合、最新のFFTサイクルで直前のFFTサイクルと同一のピークが継続していると判定することができる。
図10の例では、上段にm番目のFFTサイクルにおけるピークが示されており、下段にm+1番目のFFTサイクルにおけるピークが示されている。m+1番目のFFTサイクルにおけるピークの中心周波数fc等はすべてm番目のFFTサイクルにおけるピークの中心周波数fc等から所定の範囲内におさまっている。このため、関連技術では、m+1番目のFFTサイクルにおけるピークとm番目のFFTサイクルにおけるピークは継続しており、ひとつのパルスを形成していると判定される。
1つのピークが複数の有効ピークに分裂していたり、一部がかけていたりすると、ピークの中心周波数fcとピークの帯域幅Δfの値が大幅に変動する可能性がある。図10Aはこのような場合の例を示している。図10A上段のような波形が得られれば関連技術によるパルス検出でも問題ないが、図10B下段のような波形の場合、パルス検出を正しく行うことができない。このように、関連技術によるパルス検出では、本来、ひとつのパルスに属する複数のピークが、それぞれ異なるパルスに分類されてしまうことがある。この場合、これらのピークは単一の信号に属さないと解釈される可能性、すなわち、異なる信号源からの信号に属する、または異なる種類の信号に属すると解釈される可能性がある。
本実施形態に係るパルス検出処理について説明する。図11は、有効ピークと、パルスとの対応関係を示している。まずパルス検出部203はピーク検出部202から転送される有効ピーク情報132を受け取る。有効ピーク情報132の例が、図11左下に表されている。
有効ピーク情報132は、有効ピークに対応するデータサンプル群137と、ピーク周波数幅(周波数帯域)134とを含む。データサンプル群137に含まれるそれぞれのサンプルは、少なくとも周波数fiと電力piに関する情報を有する。ピーク周波数幅(周波数帯域)134として、有効ピークの両端にあるサンプルの周波数の差を使ってもよいし、サンプルの補間を行って求めた値を使ってもよい。また、サンプルの補間方法については特に問わない。
データサンプル群137に含まれるサンプルの電力piを使って、各FFTサイクルにおける有効ピークの電力量(エネルギー)Pjを求めることができる。電力量は複数の方法により定義することができる。例えば、電力量として、データサンプル群137に含まれるサンプルの電力値の和を用いることができる。この場合、電力量はPj=Σpiと定義される。ここで、添え字iは各フーリエ変換サンプルを示しており、添え字jは、FFTサイクルの番号を示している。ここでは有効ピーク全体の電力量を計算する例を示したが、有効ピークのうち、特定の周波数帯域に属するピーク部分の電力量を計算する場合は、有効ピークの周波数範囲をW1,特定の周波数範囲をW2(W2はW1の一部または全部)とすると、Pj=Σpi(i⊆W2)によって、当該ピーク部分の電力量を計算できる。
また、電力量Pjを、データサンプル群137に含まれるサンプルの電力piの平均値とピーク周波数幅134との積により計算することもできる。この場合、電力量はPj=(Σpi)Δf/nと定義される。ここで、Δfはピーク周波数幅134であり、nはデータサンプル群137に含まれるサンプルの数である。
また、データサンプル群137に含まれるサンプルを関数近似し、線分133と関数との間の面積を積分法または区分求積法により求めることもできる。この場合、求められた面積が電力量Pjになる。
上述の電力量Pjの求め方は例示であり、その他の定義を用いることを妨げるものではない。
パルス検出部203は、各FFTサイクルにおける有効ピークの周波数帯域と電力量Pjを用いて、パルス検出処理を行う。
図11右側で、破線で囲まれた矩形によって表されたパルスが示されている。縦軸は周波数であり、横軸は時刻(FFTサイクル)である。例えば、横軸方向の幅135に相当する範囲は、FFTサイクルjに対応しており、横軸方向の幅136に相当する範囲は、次のFFTサイクルj+1に対応している。線分134aは、有効ピーク情報132におけるピーク周波数幅(周波数帯域)134に相当する。なお、線分133は、ピークを特定するための閾値を表す線である。
図11右側におけるPj,Pj+1は、それぞれFFTサイクルj、j+1における電力量を示している。電力量PjはFFTサイクルjの有効ピークの電力量であり、図の線分134aの周波数帯域に位置する各サンプルの電力値piを用いて算出される。電力量Pj+1はFFTサイクルj+1の有効ピークのうち、線分134aと同じ周波数帯域に属するピーク部分の電力量である。この電力量は、FFTサイクルj+1の有効ピークの周波数範囲のうち、線分138の周波数範囲に位置する各サンプルの電力値piを用いて算出される。
図12は、FFTサイクルごとの有効ピーク(有効ピークの時間遷移)を示す。縦軸は周波数であり、横軸は時刻(FFTサイクル)である。横軸では左から順に、FFTサイクルj−1、j、j+1、j+2、j+3、j+4が示されている。各FFTサイクルにおいて長方形状に塗りつぶされた箇所は有効ピークに相当する。FFTサイクルj、j+1、j+2をまたがっている破線で囲まれた矩形領域139はパルスに相当する。複数の時間(FFTサイクル)をまたがって存在する2つ以上の有効ピークに基づき、パルスが検出されている。
パルスの検出処理は、信号受信時にFFTサイクルごとにリアルタイムに逐次実行してもよい。あるいは、信号受信が完了した後で、バッチ処理として行ってもよい。
パルス検出処理は、パルスの登録と、継続判定と、パルスの終端処理とを含む。ある有効ピークに基づき、信号受信が始まったことを検出したら、パルス検出部203は、当該有効ピークの周波数領域に対応する周波数範囲を有し、当該FFTサイクルから開始する新たなパルスを登録する。つまり、FFTサイクルの時間幅(つまりサイクルの開始時刻から終了時刻までの時間幅)をもち、当該開始時刻から開始する新たなパルスを登録する。パルス検出部203は、以降のFFTサイクルごとに、当該パルスの継続判定を行う。すなわち、パルスが隣接するFFTサイクル(時間)に継続するかを判断する。次のFFTサイクルに継続することを、パルスは継続状態にあるという。この場合、パルスを次のFFTサイクルまで拡張する(より詳細には、パルスの末尾を次のFFTサイクルの終了時刻まで延ばす)。パルスが次のFFTサイクルへは継続しないことを検出した場合、パルス検出部203は、パルスを終端することを決定し、当該FFTサイクルで、パルスを終端する。
図12の例では、パルス139が、FFTサイクルjで始まっている。パルス139は、開始のトリガーとなった有効ピーク146の周波数帯域に対応する周波数範囲を有する。有効ピーク146の電力量はP´jである。FFTサイクルj+1の有効ピーク147の電力量はP´j+1である。FFTサイクルj+2では3つの有効ピークが存在し、有効ピーク148aの電力量はP´a,j+2、有効ピーク148bの電力量はP´b,j+2、有効ピーク148cの電力量はP´c,j+2である。FFTサイクルj+3の有効ピーク149の電力量はP´j+3であるとする。
有効ピーク146の電力量と、有効ピーク147のうち当該有効ピーク146の周波数帯域(150)に属するピーク部分の電力量との関係(比または差)に基づき、FFTサイクルjとj+1の間のパルスの継続性が判定される。ここではパルスは継続状態にあると判断されている。有効ピーク146と有効ピーク147間でパルスが継続しているということは、有効ピーク146と有効ピーク147とが同じ単一信号に属することを意味している。ただし、後述する信号範囲推定部204の説明で述べるように、本実施形態では、異なるパルスに属する有効ピークであっても、パルス同士を結合することにより、結合されるパルスに含まれる有効ピーク群が、単一信号に属すると推定する処理が行われる。
有効ピーク147のうち有効ピーク146の周波数帯域(150)に属する部分の電力量と、有効ピーク148a、148b、148cのうち有効ピーク146の周波数帯域(150)に属するピーク部分の電力量の合計との関係に基づき、FFTサイクルj+1とj+2の間のパルスの継続性が判定される。ここでは、パルスは継続状態にあると判断されている。すなわち、有効ピーク147と有効ピーク148a、148b、148cとが同じ単一信号に属することを意味している。
有効ピーク148a、148b、148cのうち有効ピーク146の周波数帯域(150)に属する部分の電力量の合計と、有効ピーク149のうち有効ピーク146の周波数帯域(150)に属する部分の電力量との関係に基づき、FFTサイクルj+2とj+3の間のパルスの継続性が判定される。ここでは、パルスは継続状態にないと判断されている。よってパルスはFFTサイクルj+2の終了時刻で終端している。後述するように、有効ピーク149に対して、FFTサイクルj+3から開始する新たなパルスが登録され、FFTサイクルj+4以降の有効ピークの状況に応じて、当該パルスが拡張されることとなる。図12で述べた判定の詳細については後述する。
ここで、パルスの登録処理は、以下の複数のケースで行われ得る。
(1)信号受信時、ひとつめのパルスを登録する場合
(2)既存のパルス(継続状態にあるパルス)の終端の決定時に、当該パルスの周波数帯域内に有効ピークが検出されている場合の処理
(3)既存のパルスの周波数帯域と一部重複する有効ピークが検出されている場合の処理
(4)既存のパルスの周波数帯域を包含する有効ピークが検出されている場合の処理
(5)既存のパルスの周波数帯域と重複しない有効ピークが検出されている場合の処理
以下の説明では、(2)〜(5)の登録処理を、“その他のパルス登録処理”と呼ぶ場合がある。これらの処理の詳細については後述する。
図13は、本実施形態に係る無線通信装置のパルス検出処理を表したフローチャートである。以下では図13のフローチャートに沿って本実施形態に係るパルス検出処理を説明する。説明では適宜、図12の例を参照する。
まず、ステップS101では、継続状態にあるパルスの有無を確認する。パルス更新部203aは、パルス記憶部203cに保存されている、パルス情報を参照する。パルス情報は、一例として、パルスの周波数帯域、パルスが始まったFFTサイクル、各FFTサイクルにおける有効ピークの電力量、各FFTサイクルにおいて有効ピークのうち当該周波数帯域に属するピーク部分の電力量、パルス状態(継続/終端/破棄)などを含む。
ステップS101で、パルス記憶部203cにパルス情報が存在しないか、パルス情報があっても継続状態のパルスがない場合、現在対象としているFFTサイクルにおいて、有効ピークが検出されているか否かを確認する(ステップS103)。すなわち、パルス更新部203aは、ピーク記憶部202aを参照し、対象のFFTサイクルにおける有効ピークの有無を確認する。
ステップS101で、継続状態にあるパルスが存在した場合、パルスの継続判定処理とその他のパルス登録処理が実行される(ステップS102)。図12の例では、タイミング142またはタイミング143にステップS101が実行されると、継続状態にあるパルスが存在すると判定され、パルスの継続判定処理に進む。パルス継続判定処理と、その他のパルスの登録処理の詳細については後述する。
ステップS103で有効ピークが見つかった場合、パルス更新部203aは、新たなパルスを登録する。パルス登録部203bは、パルス記憶部203cに、当該パルスに関するパルス情報を保存する(ステップS104)。新しいパルスが登録されるとき、そのパルスの周波数範囲は、該当する有効ピークの周波数帯域となる。また、当該有効ピークの電力量が、当該パルスの対象のFFTサイクルにおける電力量となる。パルス状態は、デフォルトで継続状態に設定される。
ステップS103で、対象のFFTサイクルにおいて、有効ピークが検出されていない場合、パルス検出処理は終了する。
図12の例では、タイミング141にステップS101が実行された場合、信号受信後に初めて行うパルス検出処理、または以前のパルス検出処理で検出されたパルスがすべて終端してしまったため、継続状態のパルスは存在しないと判定され、ステップS103に進む。ステップS103で、FFTサイクルjにおける有効ピーク146が検出される。次のステップS104では、有効ピーク146に基づき、パルス139に関するパルス情報が登録される。FFTサイクルjの開始時刻は、パルス139の開始時刻(先頭)となる。つまり、パルス139はFFTサイクルjに始まったと記録される。パルス状態は「継続状態」に設定される。また、パルス139の周波数帯域は、有効ピーク146の周波数帯域150に等しく設定される。FFTサイクルjにおけるパルスの電力量は、有効ピーク146の電力量P´jとなる。
ステップS103の判定で、有効ピークの電力量を閾値と比較し、電力量が閾値以上である場合に限って、パルスを登録してもよい。有効ピークの電力量が閾値より小さい場合、ノイズである可能性があるため、パルス登録の対象から除外することができる。
なお、図12の例では1つのパルスしかないが、複数の有効ピークがステップS103で見つかった場合、複数の有効ピークを、それぞれパルスとして登録することができる(ステップS104)。また、ステップS101の実行時に複数のパルスが継続状態にある場合、それぞれのパルスについて継続判定処理を実行する。(ステップS102)
図14A、図14B、図14Cは、パルスの継続判定処理と、その他のパルス登録処理を表したフローチャートである。図14A、図14B、図14Cは、図13のステップS102で実行される処理を詳細に表したものである。パルスの継続判定処理と、その他のパルス登録処理は、継続状態にあるそれぞれのパルスについて実行される。以下では図14A、図14B、図14Cのフローチャートに沿って説明する。
以下の説明において、2つの値X、Yの比について述べた場合、比X/Yとその逆数Y/Xだけでなく、デシベル換算された比である10log10(X/Y)や10log10(Y/X)なども含むものとする。
ステップS201では、継続状態にあるパルスの周波数帯域について、対象のFFTサイクルにおける有効ピークの電力量を求める。パルス更新部203aは、ステップS201で得られた電力量をパルス記憶部203cに保存する。
タイミング142でステップS201が実行された場合、有効ピーク147の周波数帯域すべてが、パルスの周波数範囲に含まれるため、有効ピーク147の電力量P´j+1が、対象のFFTサイクルにおける有効ピークの電力量となる。タイミング143でステップS201が実行された場合も、有効ピーク148aの電力量P´a,j+2と、有効ピーク148bの電力量P´b,j+2と、有効ピーク148cの電力量P´c,j+2の和である電力量P´j+2が、対象のFFTサイクルにおける有効ピークの電力量となる。
ステップS202では、1つ前のFFTサイクルにおけるパルスの電力量を取得する。ステップS202でパルス更新部203aは1つ前のFFTサイクルにおけるパルスの電力量をパルス記憶部203cに保存されたパルス情報から取得できる。以下では図12の例でステップS202が実行された場合の処理について説明する。
タイミング142でステップS202が実行された場合、有効ピーク146の電力量P´jが1つ前のFFTサイクルにおける有効ピークの電力量となる。タイミング143でステップS202が実行された場合、有効ピーク147の電力量P´j+1が、1つ前のFFTサイクルにおける有効ピークの電力量となる。
ステップS203では、1つ前のFFTサイクルにおけるパルスの電力量と、対象のFFTサイクルにおけるパルスの電力量との比が閾値以上であるかが判定される。例えば、閾値をT、1つ前のFFTサイクルにおけるパルスの電力量をDy−1、対象のFFTサイクルにおけるパルスの電力量をDyとすると、Dy/Dy−1>=Tが満たされる場合に電力量の比が、所定の範囲内(すなわちT以上1以下の閾値範囲内)であると判定される。閾値としては例えば0.8や0.9などの値が考えられるが、これらと異なる値を用いてもよい。この判定では、対象のFFTサイクルにおける電力量の低下が、一定範囲内であるか否かの確認を行っている。
ここで、判定には、下限閾値と上限閾値の2つの閾値を用いてもよい。例えば、判定で10%未満の電力量の変動を許容する場合、下限閾値を0.9、上限閾値を1.1に設定できる。この場合、ステップS203では電力量の比が0.9以上,1.1以下の閾値範囲(所定の範囲)内にあるか否かが判定される。ここで挙げた下限閾値と上限閾値は例であり、これらと異なる値を用いることを妨げるものではない。
電力量の比が閾値未満の場合(所定の範囲内でない場合)、パルスの終端を決定する。(ステップS206)
電力量の比が閾値以上である場合(所定の範囲内である場合)、ステップS204で、パルスの時間長が上限値を超えていないかが判定される。パルスの時間長が上限値以下である場合、パルスは継続していると判定される(ステップS205)。パルスの時間長が上限値を超えている場合、パルスの終端を決定する(ステップS206)。パルス時間長の上限値は例えば、通信規格で定められた最長の信号送信時間などを用いることができる。パルスの時間長を確認することにより、異なるパルスやノイズを誤って同一のパルスと判定することを防げる。
以下では図12の例でステップS203が実行された場合の処理について説明する。ここでは、ふたつの閾値を用いて判定したものとする。
タイミング142でステップS203が実行された場合、電力量の比P´j+1/P´jは閾値T以上である。さらにパルスの時間長は上限値以下であるため、パルスは継続していると判定される(ステップS205)。タイミング143でステップS203が実行された場合も、電力量の比P´j+2/P´j+1は閾値以上である。パルスの時間長は上限値以下であるため、パルスは継続していると判定される(ステップS205)。
タイミング144でステップS203が実行された場合、電力量の比P´j+3/P´j+2は閾値より小さい値となる。したがって、パルスは終端していると決定される(ステップS206)。
ステップS203における閾値は固定された値である必要はなく、条件によって異なる閾値を用いてもよい。他の無線通信装置から無線通信装置1に至るまでの伝搬路においてフェージングやマルチパスがある場合、受信信号の強度や位相が変動する可能性がある。例えば、受信信号の品質が良好である場合には、電力量の変動が5%未満であればパルスが継続していると判定し、受信信号にノイズが多い場合には、電力量の変動が15%未満であればパルスが継続していると判定することもできる。
また、ステップS203の判定は、他の方法により行ってもよい。例えば、PjとPj+1の差(減算値)の絶対値が、所定の範囲内にある場合は、パルスが継続していると判定してもよい。このように、FFTサイクルの電力量値の比または差を比較してパルスの継続判定を行うのであれば、方法は特に問わない。
ステップS206では、パルスの終端を決定した場合に、パルスの時間長を確認する。パルスの時間長が下限値未満である場合、パルスを破棄する。パルス更新部203aはパルスを破棄する場合、パルス記憶部203cにおける当該パルスのパルス状態を「破棄」に設定する。また、パルスを破棄する場合、当該パルスに係るパルス情報を削除してもよい。パルスの時間長の下限値は、通信規格で定められた信号送信の最短時間などを用いることができる。これにより、誤ってノイズをパルスと誤判定することを防止する。
ステップS207では、対象のFFTサイクルにおいて、終端されたパルスの周波数範囲内に、有効ピークが検出されている場合、当該有効ピークを新たなパルスとして登録する。なお、有効ピークが周波数範囲外にある場合は、後述する図14B、図14Cの処理の対象となる。図12の例では、タイミング144でステップS207が実行された場合、周波数帯域150内の有効ピーク149が新たなパルスとして登録される。
このとき、パルス更新部203aは有効ピーク149に関する情報をパルス登録部203bに転送する。パルス登録部203bはパルス記憶部203cにパルス情報を保存する。
なお、ステップS207では、有効ピークの電力量が閾値以上である場合にのみパルスの新規登録を行ってもよい。これにより、ノイズに係る有効ピークが誤ってパルスとして登録されることを防ぐことができる。
図15は、その他のパルス登録処理の具体例を示した図である。以下では図14B、図14Cのフローチャートの説明を、図15を用いて説明する。
図14AのステップS201〜S207で実行されていたパルスの継続判定処理では、特定の周波数帯域内に位置する有効ピークの電力量のみを参照して判定を行っていた。具体的には、図12の例では周波数帯域150内に属する有効ピークのピーク部分の電力量、図11の例では、線分138で示す周波数帯域内に属する有効ピークのピーク部分の電力量が判定に用いられていた。ここでは、周波数帯域外にあるパルスの検出処理を行うため、着目しているパルスの周波数帯域外に位置する有効ピークのピーク部分の電力量をパルス検出時の判定に用いる。
図14BのステップS208では、対象のFFTサイクルにおいて、1つ以上の既存のパルスの周波数帯域を包含した有効ピークが存在しているか否かの判定が行われる。包含するとは、既存のパルスの中での最大周波数よりも上側周波数が大きく、既存のパルスの中での最小周波数よりも下側の周波数が小さいことを意味する。また、既存のパルスとは、ステップS208の実行時に継続状態にあるパルスを意味する。該当する条件の有効ピークが存在する場合、ステップS209に進む。
図15の例では、対象のFFTサイクルk+3に検出された、有効ピーク166の周波数帯域161が、既存のパルス(パルス157、158)の周波数帯域(周波数帯域160a、160b)を包含した広い範囲に及んでいる。したがって、図15の例では、タイミング155にFFTサイクルk+3に対してステップS208が実行された場合、既存のパルスの周波数帯域を包含した有効ピークが存在していると判定される。
なお、タイミング155にFFTサイクルk+3に対してパルス継続判定処理が実行される際は、有効ピーク166の一部は、既存のパルスの継続条件(比と閾値とに基づく条件)を満たす。例えば、有効ピーク166のうち、周波数帯域160bに相当する範囲の電力量が、継続条件を満たすと判断される(ステップS203〜S205)。同様に、有効ピーク166のうち、周波数帯域160aに相当する範囲については、別のパルス158の継続条件を満たすと判断される(ステップS203〜S205)。
このように、本発明の実施形態では同一の有効ピークが、複数のパルスの継続条件を満たすと判定される場合がある。これにより、互いに重なり合うパルスが検出され得る。
既存のパルスの周波数帯域を包含した有効ピークが存在すると判定された場合、対象のFFTサイクルにおいて、当該有効ピーク全体の電力量が計算される(ステップS209)。図15の例では、タイミング155にFFTサイクルk+3に対してステップS209が実行される場合、有効ピーク166全体の電力量R3が求められる。
ステップS208で既存のパルスの周波数帯域を包含した有効ピークが存在しない場合、ステップS212に進む。
次のステップS210では、有効ピーク全体の電力量と、既存の他のすべてのパルスに係る電力量の和との比が閾値以上であるかを判定する。電力量の比が閾値以上である場合、有効ピーク全体に基づき、新たなパルスを登録する(ステップS211)。
図15の例では、タイミング155にFFTサイクルk+3に対してステップS210が実行された場合、有効ピーク166全体の電力量はR3となる。有効ピーク166のうち、既存のパルス158に係る周波数帯域160aに属する部分の電力量R2と、有効ピーク166のうち、既存のパルス157に係る周波数帯域160bに属する部分の電力量R1との和が、既存のパルスに係る電力量の和になる。比R3/(R1+R2)は閾値以上であるため、ステップS211で有効ピーク166全体の周波数帯域に対応する周波数範囲を有するパルス159が、新規に登録される。具体的に、パルス登録部203bが、パルス記憶部203cに該当するパルス159に係るパルス情報を保存する。パルス159は、既存のパルス(パルス157、158)の周波数帯域(周波数帯域160a、160b)を包含するパルスである。
タイミング156でFFTサイクルk+4に対してパルス検出処理が実行された場合、パルス157、158、159の3つのパルスがパルス継続判定の対象となる。このように、本実施形態では、複数のパルスを検出して、複数のパルスの継続判定を実行することができる。
続くステップS212〜S215は、既存のパルスの周波数帯と重複した有効ピークが検出された場合に実行される処理である。ここで、既存のパルスとは、処理の実行時に継続状態に設定されているパルスを意味する。以下では、図15のタイミング152にFFTサイクルkに対してステップS212〜S215が実行された場合を例に、処理を説明する。
ステップS212では、対象のFFTサイクルにおいて、既存のパルスの周波数帯域に重複する有効ピークが存在しているか否かの判定が行われる。ここでは、「既存のパルスの周波数帯域に重複する有効ピーク」に、「既存のパルスの周波数帯域をすべて包含した有効ピーク」は含まれない。該当する条件の有効ピークが存在している場合、ステップS213に進む。
図15のタイミング152では、FFTサイクルkにおいて、既存のパルス157と重複する範囲に有効ピーク167が検出されている。FFTサイクルkには2つの有効ピークが存在するが、そのうちの1つが有効ピーク167である。したがって、タイミング152でステップS212が実行された場合、既存のパルスの周波数帯域に重複する有効ピークが存在すると判定される。
ステップS212で、対象のFFTサイクルにおいて、既存のパルスの周波数帯域に重複する有効ピークが存在しない場合、ステップS216に進む。
次のステップS213では、対象のFFTサイクルにおいて、有効ピーク全体の電力量と、当該有効ピークのうち、既存のパルスの周波数帯域にある部分の電力量を求める。図15のタイミング152の例では、有効ピーク167全体の電力量S2と、有効ピーク167のうち、周波数帯域160bに含まれる部分の電力量S1とを求める。
図14CのステップS214では、有効ピーク全体の電力量の、当該有効ピークのうち、既存のパルスの周波数帯域にある部分の電力量に対する比を求める。当該比が閾値以上であった場合、当該有効ピークに基づく新たなパルスを登録する(ステップS215)。これにより、既存のパルスと周波数帯域に重なりがあっても、パルスの新規登録は実行される。新しいパルスの登録後、ステップS216に進む。
図15の例では、タイミング152でFFTサイクルkに対して、電力量の比S2/S1が閾値未満となるため、有効ピーク167に対する新たなパルスは登録されない。新しいパルスが登録されない場合も、ステップS216に進む。
なお、2つ以上の継続状態のパルスと周波数帯域が重複する有効ピークがある場合には、すべてのパルスについて上述の判定を行ってもよいし、いずれかのパルスについて上述の判定を行ってもよい。
続くステップS216〜219では、既存のパルスの周波数帯域と重複しない有効ピークが存在する場合に、パルスの検出処理を実行する。ここで既存のパルスは、処理の実行時に継続状態に設定されているパルスを意味する。以下では図15のタイミング153でFFTサイクルk+1に対してステップS216〜219が実行された場合を例に、処理を説明する。
ステップS216では、対象のFFTサイクルにおいて、既存のパルスと重複しない範囲に有効ピークが存在するか判定する。図15のタイミング153では、対象のFFTサイクルk+1に既存のパルスと重複しない周波数帯域に有効ピークが検出されている。具体的には、有効ピーク162と、有効ピーク164が検出されている。有効ピークが存在する場合、ステップS217に進む。
既存のパルスと重複しない範囲に有効ピークが存在しない場合、パルス検出処理は終了する(ステップS216のNO)。
ステップS217では、対象のFFTサイクルにおいて、検出された有効ピークの電力量が計算される。電力量の計算は、それぞれの有効ピークごとに行う。例えば、図15のタイミング153では、有効ピーク162の電力量Q2と、有効ピーク163の電力量Q3が求められる。
次のステップS218では、検出された有効ピークの電力量を閾値と比較する。電力量が閾値以上である場合、当該有効ピークに基づく新たなパルスを登録する(ステップS219)。パルスの登録後、パルス検出処理は終了する。検出された有効ピークの電力量が閾値未満である場合、当該有効ピークに対して、新たなパルスは登録されない。
図15のタイミング153の例では、対象のFFTサイクルk+1において、有効ピーク162の電力量Q2が閾値以上であるため、有効ピーク162に対して、新たなパルス158が登録される(ステップS219)。このときパルス登録部203bはパルス158に係るパルス情報をパルス記憶部203cに保存する。
ステップS218における閾値は、例えば、ノイズと実信号とを区別できる電力値を基準に決定することができる。通信規格で最小の信号電力が決められている場合、その値をもとに閾値を決めてもよい。閾値は固定値である必要はなく、条件によって変更されるものであってもよい。例えば、FFTサイクルが長くなった場合、閾値を大きくする必要がある。ノイズが少ない環境では閾値を小さくし、ノイズが多い環境では閾値を大きく調整することもできる。
ステップS218の判定では、既存パルスの周波数帯域内の電力量と帯域外にある電力量の比を閾値と比較してもよい。この方法を用いる場合、図15のタイミング153では、比Q2/Q1と、比Q3/Q1が閾値と比較される。
ステップS218で、検出された有効ピークの電力量が閾値より小さい場合、当該有効ピークはパルスとして登録されない。図15のタイミング153の例では、対象のFFTサイクルk+1において、有効ピーク164の電力量Q3は閾値未満であるため、有効ピーク164に対して、パルスは登録されない。
パルス検出処理では、複数のパルスについて継続判定処理を行うことができる。図15の例では、タイミング153で、パルス157、158の2つのパルスに係るパルス情報がパルス記憶部203cに登録される。さらにタイミング155で、パルス159に係るパルス情報もパルス記憶部203cに保存される。これらのパルスはいずれも継続状態に設定される。
タイミング154において、FFTサイクルk+2に対してパルス検出処理が実行された場合、継続状態にあるパルス157、158が見つかる(ステップS101)。その後、パルス157、158の両方についてパルス継続判定処理が実行される(ステップS102)。タイミング156において、FFTサイクルk+4に対してパルス検出処理が実行された場合、継続状態にあるパルス157、158、159が見つかる(ステップS101)。その後、パルス157、158、159の3つのパルスについてパルス継続判定処理が実行される(ステップS102)。
このように、本実施形態では複数のパルスが継続状態にある場合、パルスの集合を構成する各々のパルスについて継続判定を実行することができる。複数のパルスが継続状態にある場合、これらのパルスの周波数帯域外にある有効ピークについて、新たなパルスの登録処理が実行することもできる。
図16は、関連技術による有効ピークとパルスの検出結果の一例を示した図である。一方、図18は本実施形態による有効ピークとパルスの検出結果を示した図である。いずれの図においても、縦軸は周波数を示しており、横軸は時刻(FFTサイクル)を示している。ハッチングされた範囲が有効ピークであり、破線で囲まれた範囲が検出されたパルスである。
図17は、関連技術による有効ピークとパルスの検出処理のシミュレーション結果の一例である。図19は、本実施形態による有効ピークとパルスの検出処理のシミュレーション結果の一例である。図17、図19のいずれにおいても、内側の領域の信号強度が強く、外側の領域の信号強度は弱くなっている。破線で囲まれた箇所は、それぞれ検出されたパルスに該当する。
図16および図17から分かるように、関連技術によるパルス検出を行うと、本来1つであるべき同一のパルスが複数のパルスに分割されていることがわかる。また、パルスの検出漏れが発生していることも確認できる。誤検出や検出漏れがある場合、パルスの検出結果を利用した精度の高い推定が困難となる。例えば、信号を送信している無線通信機の台数を推定する場合や、送信されている信号の種類を推定する場合、あるいは、無線LANのチャネルなど周波数帯域の使用状況を推定する場合など、正確な情報が得られなくなってしまう。
一方、本実施形態によるパルス検出を行うと、図18および図19から分かるように、周波数帯域について、重なり合うパルスが検出されていることがわかる。これにより、同一のパルスが分割されて検出されたり、パルスの検出漏れが発生したりする可能性が軽減される。関連技術に比べて精度の高いパルス検出が実現される。
関連技術では、検出された各々のパルスがそれぞれ独立して送信された信号であるという前提のもとで信号検出を行っていた。したがって、検出処理においてパルスと信号は区別されず、図17においては、検出されたパルスがそれぞれ別々の受信信号に対応すると解釈されていた。
しかし検出したパルスを独立した信号として検出すると、問題が発生する場合がある。無線通信機が信号を送信するとき、必ず連続した周波数帯域を用いているとは限らない。同一の無線通信機から受信した信号をフーリエ変換し、周波数領域の信号に変換した場合、有効ピークが複数の周波数帯域において存在することがある。例えば、OFDM変調が行われている場合、未使用のサブキャリアがあるため、有効ピークが離散的に分布する場合がある。このような状況で関連技術による信号検出を行った場合、本来は同一の単一信号に属するパルスが別々の信号として検出されてしまうおそれがある。
そこで、本実施形態に係る無線通信装置では、複数のパルスを結合(マージ)することで、単一信号の周波数範囲および受信時間を推定する処理を実行する。具体的には、図2の信号検出部200内部の構成要素である信号範囲推定部204が、複数のパルスを結合して、単一信号の周波数帯域(周波数範囲)および受信時間(時間範囲)を推定する処理を実行する。
パルス更新部203aは、検出された全パルスが終端状態になってから一定期間経過すると、信号範囲推定部204に信号範囲推定指令を出す。本実施形態の処理をリアルタイムに行う場合、全パルスが終端してから、信号範囲推定指令が出されるまでの期間を、通信規格で定められた信号の最小送信間隔時間をもとに決めるなどしてもよい。
信号範囲推定指令を受けた信号範囲推定部204は、パルス記憶部203cのパルス情報を参照し、結合対象とするパルスを選択する。結合対象とするパルスの選択方法の例を説明する。
図20は結合対象とするパルスの選択方法の一例を示している。互いに重なり合うパルスを結合する。互いに重なり合うとは、少しでもお互いの領域が重なり合うことでもよいし、それぞれ一定割合以上の面積が互いに重なり合うことでもよいし、ここで述べた以外の例でもよい。
図20(1)では最初にパルス250が選択されている。例えば最も早く登録されたパルスを選択する。あるいは、所望周波数に最も近いパルスを選択する。選択方法については特に問わない。ランダムにパルスを選択してもよい。パルス250の範囲に重なっているパルスを探索したところ、パルス251が見つかったとする。パルス251はパルス250と組み合わされてパルスの集合を構成する。
図20(2)ではパルス251の範囲に重なっているパルスを探索する。探索の結果、パルス251と重なるパルス252が見つかったとする。パルス252はパルスの集合に追加される。
図20(3)ではパルス252の範囲に重なっているパルスを探索する。探索の結果、パルス252と重なるパルス253が見つかったとする。パルス253はパルスの集合に追加される。
図20(4)ではパルス253の範囲に重なっているパルスを探索する。探索の結果、パルス253と重なるパルス254が見つかったとする。パルス254はパルスの集合に追加される。各パルスと重なり合うパルスがこれ以上見つからない場合、その時点でのパルスの集合を結合対象のパルスとする。図20(4)の時点でパルスの集合はパルス250〜254であるため、パルス250〜254が結合対象のパルスとして選択される。
図20の例では、パルスの集合にパルスが1つずつ追加されていたが、ひとつのパルスに重なり合うパルスが複数見つかる場合には、重なるパルスのすべてをパルスの集合に追加してもよい。
図21は結合対象とするパルスの選択方法の別の例を示している。パルスから一定の距離の範囲(探索範囲)内に位置するパルスを順次パルスの集合に追加していくことにより、結合対象とするパルスを選ぶ。一定の距離の範囲内に位置するとは、中心(重心)が位置するパルスでもよいし、一定割合以上の面積が当該範囲内に含まれることでもよいし、少しでも当該範囲に重複する領域が存在することでもよいし、ここで述べた以外の例でもよい。
図21(1)では最初にパルス260が選択されている。最初のパルスの選択方法については特に問わないが、乱数を使ってランダムにパルスを選んでもよい。パルス260の中心から半径rの範囲(探索範囲)内にあるパルスを探索する。探索の結果、パルス261が見つかったとする。パルス261はパルス260と組み合わされてパルスの集合を構成する。
図21(2)では、パルス261の中心から半径rの範囲内にあるパルスを探索する。探索の結果、パルス262が新たに見つかったとする。パルス262はパルスの集合に追加される。
図21(3)では、パルス262の中心から半径rの範囲内にあるパルスを探索する。探索の結果、パルス263が新たに見つかったとする。パルス263はパルスの集合に追加される。パルス263の中心から半径rの範囲内に新たなパルスが見つからない場合、その時点におけるパルスの集合を結合対象のパルスとする。図21(4)の時点でパルスの集合はパルス260〜263であるため、パルス260〜263が結合対象のパルスとして選択される。
図21の例では、全ステップで同じ距離rを使い続けていたが、途中のステップから距離r+Δrを使って、最初より広い範囲を探索してもよい。また、探索範囲の中心点は、パルスの中心でなくてもよい。例えば、パルスの集合に属する全パルスの重心を求め、重心を中心とした円の内側と探索してもよい。
図21の方法を使えば、パルス同士の重なりがなくても、結合対象のパルスを選び出すことができる。図20の方法と図21の方法を組み合わせてもよい。例えば、パルスの分布が密な箇所には図20の方法を使い、パルスの分布が疎な箇所には図21の方法を使うことができる。
信号範囲推定部204は、選択された複数のパルスを結合し、結合したパルスを用いて、単一信号の周波数範囲および受信時間を推定する。図22と図23は信号範囲推定部204による信号範囲推定の例を示す。いずれの図においても、縦軸は周波数に、横軸は時刻(FFTサイクル)に対応している。ハッチングされた部分は有効ピークである。細い破線で囲まれた部分は、検出されたパルスであり、太い破線で表された部分が、信号範囲推定部204により推定された信号である。
信号範囲推定部204は、一例として結合されたパルス群の外周を囲む矩形領域を決定することで、信号の範囲を推定する。具体的には、信号範囲推定部204は、結合されたパルス群の周波数帯域の上限周波数を探索する。探索により周波数帯域の上限周波数の最大値fhを見つける。信号範囲推定部204は、結合されたパルス群の周波数帯域の下限周波数も探索する。探索により周波数帯域の下限周波数の最小値flを見つける。周波数fh、flは信号検出処理において検出される信号に係る周波数の上限と下限である。
図22と図23には、周波数fh、flが示されている。fhは矩形領域上部の高さ、flは矩形領域下部の高さに相当する。
信号範囲推定部204は、結合されたパルス群の最も早い時刻と、最も遅い時刻とを探索する。探索の結果、最も早い時刻であるtlと、最も遅い時刻であるthを見つける。パルス記憶部203cでの記録形式がFFTサイクルの識別子である場合には、FFTサイクルの識別子から時刻を特定してもよい。
図22と図23には、時刻tl、thが示されている。thは矩形領域の右端、tlは矩形領域の左端に相当する。
図24は、先に説明した図19のシミュレーション結果に対して、信号範囲の推定処理を行った結果を示している。縦軸は周波数、横軸は時刻に対応している。内側の領域の信号強度が強く、外側の領域の信号強度は弱くなっている。破線で囲まれた箇所は、検出されたパルスである。パルスの集合を実線で囲んだ矩形領域170が、推定された信号の範囲に相当する。
信号範囲推定部204は、信号範囲の推定結果を受信信号情報として、メモリ部110に保存する。受信信号情報は、周波数の上限および下限ならびに信号の開始時刻および終了時刻を含む。メモリ部110は複数の受信信号情報を保持することができる。メモリ部110に保存された複数の受信信号情報を参照することにより、周波数帯域の利用状況の時間遷移を確認することができる。
信号範囲推定部204は、受信信号情報をフィルタリングし、条件を満たしていない信号に係る受信信号情報を破棄してもよい。受信信号情報をフィルタリングする基準として、時間長、中心周波数、帯域幅、チャネル情報などを用いることができる。例えば、規格上無線LANのチャネルとして使われていない範囲の周波数帯に信号が検出された場合には、受信信号情報を破棄してもよい。受信信号情報を破棄する場合、受信信号情報をメモリ部110に保存しなくてもよい。検出された信号の時間長が基準より短い場合や帯域幅が基準より狭い場合には、ノイズが検出されている可能性がある。これらの場合にも、受信信号情報を破棄してもよい。
ホストシステム70は、ホストインタフェース108を経由してメモリ部110にアクセスすることができる。したがってホストシステム70は、メモリ部110より受信信号情報を取得できる。ホストシステム70は、受信信号情報をデータベースに保存してもよいし、無線の使用状況を提供するウェブサイトに検出された信号に関する概要を表示してもよい。ホストシステム70は、取得した受信信号情報を参照して、他の無線通信装置が利用する通信規格、周波数帯域、変調方式を、干渉の少ないものに変更することもできる。
制御部111も、メモリ部110にアクセスして受信信号情報を取得することができる。制御部111は、受信信号情報を利用し、無線通信装置1のRF部10が利用する無線周波数を変更することができる。例えば、受信信号情報より、周囲の無線通信装置の多くが特定の周波数帯域やOFDMサブキャリアを利用していることがわかったら、他の無線通信装置と重複しない周波数帯域に係る無線周波数を使うことができる。また、制御部111は変調回路102、復調回路105を設定し、無線通信装置1が使う復変調方式を干渉の少ないものに変更してもよい。予想される干渉の程度から、符号器101、復号器106を設定して、データ送信時の符号化率を変更してもよい。例えば、強い干渉が予想される場合には符号化率を高くし、干渉が軽減される場合には符号化率を下げることができる。
互いに重複するパルスを囲むように、信号の範囲を推定することにより、複数の周波数帯域やサブキャリアを含む信号においても、正確な信号検出を行うことができる。同一の信号に属するパルスが別々の信号として検出されることを低減でき、また、パルスの検出漏れが発生する確率を低減することができる。
図25は、本実施形態に係る信号検出処理全体のフローチャートである。
ステップS301では、受信信号の補正処理が実行される。受信信号の補正処理は必須ではないが、信号検出の精度を高めるために実施するのが望ましい。受信信号の補正処理の詳細については補正部109の説明で述べた通りである。
ステップS302では、補正された受信信号をフーリエ変換して、周波数領域信号を計算する。フーリエ変換処理は一定の周期で(すなわち周期的なFFTサイクルで)実行される。すなわち、FFTサイクルが1〜Nまであるとすると、第1のFFTサイクル、第2のFFTサイクル・・・、第NのFFTサイクルについてフーリエ変換を行う。任意のFFTサイクルを、第XのFFTサイクルを表してもよい。フーリエ変換の実行周期は短く設定した方が各シンボルについての正しい周波数スペクトルを得られる確率が高まるが、処理にかかる負荷が増大する。処理負荷の上限は、A/Dコンバータの性能など装置の処理能力によって決まる。したがって、フーリエ変換の実行周期は要求される検出精度と、装置の性能などの制約条件の双方を考慮して設定する。フーリエ変換を伴う時間周波数解析処理の詳細については、時間周波数解析部201の説明で述べた通りである。
ステップS303では、第1のFFTサイクルから第NのFFTサイクルまでの各FFTサイクルで得られた周波数領域信号を用いてピーク検出を行う。検出されたピークは、周波数領域信号のうち、閾値以上の電力値を有する部分信号であり、有効ピークと呼ばれる。ピーク検出処理の詳細についてはピーク検出部202の説明で述べた通りである。
ステップS304では、パルス検出処理を実行する。パルスの検出処理では、一例として、ピーク検出で得られた各FFTサイクルにおける有効ピークの情報を使って、パルスを検出する。パルスの検出処理は、パルスの登録処理と、パルスの継続判定処理、パルスの終端処理とを含む。
パルスの登録処理では、対象のFFTサイクルで検出された有効ピークに対し新規のパルスを登録するか否かの判定を行い、パルスの登録条件のいずれかに該当する場合には、パルスを新規登録する。パルスの継続判定処理では、継続状態となっているパルスに対して継続条件を満たす有効ピークが存在する場合には、当該有効ピークに対応するFFTサイクルまでパルスを延ばすようにパルス情報を更新する。継続条件を満たす有効ピークがない場合には、パルスを終端する(パルスの終了時刻は、直前のFFTサイクルの終了時刻に一致する)。
パルス検出処理の詳細については、図13、図14A、図14B、図14Cの各フローチャートの説明で述べた通りである。
ステップS305では、信号範囲の推定処理が実行される。具体的には、パルス検出処理で検出されたパルスの集合を結合(マージ)し、単一信号の周波数帯域(周波数範囲)および受信時間を推定する。複数のパルスを結合して信号検出を行うことにより、離散的な周波数スペクトルがある信号が送信されている場合においても正確な信号検出をすることができる。信号範囲の推定処理の詳細については、信号範囲推定部204の説明で述べた通りである。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、データの送信機能と受信機能の両方を備えた無線通信装置に、本実施形態に係る信号検出部が組み込まれていた。信号検出部は、送信機能を備えない、受信機能のみを備えた無線通信装置に組み込まれていてもよい。
図26は、第2の実施形態に係るシステム構成例を示す図である。図26のシステムは、無線通信装置2と、ホストシステム71とを備える。図26では無線通信装置2とホストシステム71の台数はそれぞれ1台であるが、2台以上であってもよい。ホストシステム71は、ノートパソコン、タブレットのような他の無線通信装置が組み込まれた計算機であっても、サーバなどであってもよい。
無線通信装置2は、アンテナ6と、RF部20と、ベースバンド部60とを備えている。このうち、RF部20とベースバンド部60は内部に構成要素を有する。RF部20は、低雑音増幅器(LNA)21と、ミキサ22と、局部発振器23とを備えている。ベースバンド部60は、A/Dコンバータ(ADC)61と、補正部62と、メモリ部63と、ホストインタフェース64と、制御部65と、信号検出部200aとを備えている。
無線通信装置2は、無線信号の受信ができればよい。したがって、無線通信装置2はレシーバーのように無線信号の送信機能がない装置であってもよい。さらに第2の実施形態に係る無線通信装置2は汎用的な受信機ではなく、信号検出の用途に特化した装置であってもよい。したがって無線通信装置2は汎用的なデータ受信を行うための復調回路や復号器などの構成要素を備えていなくてもよい。
補正部62と信号検出部200aの機能は、第1の実施形態に係る補正部109と信号検出部200と同様である。したがって無線通信装置2の信号検出機能は、第1の実施形態に係る無線通信装置1と同等である。
無線通信装置2が検出した信号範囲の推定結果は、メモリ部63に保存される。ホストシステム71は、ホストインタフェース64を経由してメモリ部63に格納された信号範囲の推定結果を取得することができる。ホストシステム71は取得した情報を用いて、他の無線通信装置が無線信号の送受信に用いる周波数を変更したり、変調方式を変更したりすることができる。これにより、干渉の発生が抑制される。
また、制御部65はメモリ部63に格納された信号範囲の推定結果を参照して、RF部20が受信対象とする周波数帯域を変更することができる。例えば、これまで信号検出が行われたことがない周波数帯を、新たに受信対象の周波数帯に設定することができる。こうして、無線通信装置2は幅広い周波数帯において信号検出を行うことができる。
本実施形態の無線通信装置を用いることにより、信号検出機能を備えた装置の小型化と省電力化をはかることができる。装置が低コスト化されると、多数の無線通信装置を用意して、複数地点において信号検出を行うことができる。無線通信装置2はホストシステム71の拡張カードなどに搭載されていてもよい。拡張カードを挿入することにより、ホストシステム71に信号検出機能を追加することができる。ホストシステム71が他の無線通信装置を備えた計算機である場合、信号検出機能を追加して、他の無線通信装置が使用する周波数や変調方式を、干渉の少ないものに変更できるようになる。
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって種々の発明を形成できる。また例えば、各実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除した構成も考えられる。さらに、異なる実施形態に記載した構成要素を適宜組み合わせてもよい。