以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施の形態におけるシートパッド11が装着されたシート10の断面図である。なお、図1の矢印U−D,L−R,F−Bは、シート10の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。なお、シート10の左右方向、前後方向は、それぞれシート10が搭載された車両(図示せず)の左右方向、前後方向と必ずしも一致しない。
図1に示すように、シート10は、車両に搭載される座席である。シート10は、着座者40が着座するシートクッション12と、シートクッション12の後端部に傾倒可能に連結されるシートバック14と、シートバック14の上端部に連結されるヘッドレスト16とを備えている。
シートクッション12は、軟質ポリウレタンフォーム等の発泡体から構成されるクッションパッド20(シートパッド11の一部)をクッションフレーム13に支持させ、クッションパッド20を表皮材(図示せず)で覆って構成される。このクッションパッド20の表面21(着座者40側の面)によりシート10の座面が形成される。なお、図1では、クッションパッド20の裏面22(クッションフレーム13との接触面)を補強する補強布の図示、着座者40の側面に面するサイドサポート部の図示を省略する。
シートバック14は、軟質ポリウレタンフォーム等の発泡体から構成されるバックパッド30(シートパッド11の一部)をバックフレーム15に支持させ、バックパッド30を表皮材(図示せず)で覆って構成される。このバックパッド30によりシート10の背もたれが形成され、バックパッド30の表面31側に着座者40がもたれかかる。なお、図1では、バックパッド30の裏面32(バックフレーム15との接触面)を補強する補強布の図示、着座者40の側面に面するサイドサポート部の図示を省略する。
クッションフレーム13やバックフレーム15は、主に略四角形状の枠部材13a,15aの左右にばね13b,15bを架け渡して構成される。なお、枠部材13aの前後や枠部材15aの上下にばね13b,15bを架け渡しても良い。また、ばね13b,15bの代わりに板材を枠部材13a,15aと一体成形したり、線材等を介して板材を枠部材13a,15aに取り付けたりして、クッションフレーム13やバックフレーム15を構成しても良い。
クッションパッド20は、着座者40の臀部41を支持する尻下部23と、尻下部23の前部に連なって着座者40の大腿部42を支持する腿下部24とを備える。腿下部24の前端部は、着座者40の小腿部(ふくらはぎ)43に面している。腿下部24は、表面21を構成する腿表層部25と、腿表層部25の裏面22側(下方)に位置する腿下層部26とを備える。
バックパッド30は、着座者40の腰部44を支持する背下部33と、背下部33の上部に連なって着座者40の背中45を支持する背上部34とを備える。背上部34は、表面31を構成する背表層部35と、背表層部35の裏面32側(後方)に位置する背下層部36とを備える。
次に図2を参照して、クッションパッド20の尻下部23と腿下部24(腿表層部25及び腿下層部26)との関係について詳しく説明する。図2は、クッションパッド20の硬さ分布を示す図である。なお図2では、色が濃いほど硬さが大きいことを示している。
図2に示すように、クッションパッド20は、尻下部23の硬さより腿下部24の硬さが小さくなるように形成されている。また、腿下部24の密度および伸びは、腿下部24の密度および伸びより大きい。これらの関係は、尻下部23及び腿下部24をそれぞれ構成する各発泡体の配合などが異なるためである。
さらに、腿下部24の腿表層部25の硬さは、腿下層部26の硬さより小さい。腿下部24は同一配合の発泡体から構成されるが、その配合によって表面21から裏面22へ向かうにつれて徐々に硬さが大きくなるためである。
硬さは、プッシュプルゲージを用いて測定されたPP硬度である。プッシュプルゲージの加圧子は、直径20mmの球面状の部材である。尻下部23や腿下部24等の各部を構成する発泡体に加圧子を発泡体の厚さ方向に15mm押し込んだときに、プッシュプルゲージに表示される反力(単位N)をPP硬度という。なお、腿下部24及び腿表層部25の硬さを測定する場合には、発泡体の表面21側に加圧子を押し込む。一方、腿下層部26の硬さを測定する場合には、発泡体の裏面22側に加圧子を押し込む。
なお、発泡体の厚さが小さい程PP硬度は小さくなり、発泡体の密度が大きい程PP硬度は大きくなる。実際の製品である発泡体の各部を測定する場合には、各部の厚さが異なるが、各部の厚さが小さい程、各部の密度が大きくなるので、同一配合の発泡体であれば各部のPP硬度は略同一の値となる。クッションパッド20やバックパッド30の各部の厚さの差は約20〜50mmと比較的小さいので、その発泡体の厚さに係わらず、PP硬度を発泡体の配合に対して固有の値とする。また、比較する各部の厚さが同一となるように発泡体を形成または採取し、その厚さが同一の発泡体のPP硬度を測定して比較しても良い。
また、腿表層部25と腿下層部26とを(背表層部35と背下層部36とを)比較する場合の硬さは、PP硬度ではなく、JIS K6400−2(2012年版)に規定されるD法に準拠して測定される試験片の25%圧縮時の力(25%ILD)としても良い。より詳細な測定方法は、以下の通りである。まず、腿表層部25や腿下層部26を構成する発泡体から試験片を採取し、採取した試験片の中央が加圧版の中央となるように支持板の上に試験片を置く。片面にスキンをもつ試験片は、支持板にスキン側を向けて置く。加圧板(直径200mmの平らな円盤)で5Nの力を加えたときの加圧板の位置を初期位置とし、そのときの試験片の厚さを0.1mmまで読み取る。その後、速度100mm/分で試験片の厚さの75%まで加圧し、直ちに同じ速度で加圧板を初期位置に戻す(以上が予備圧縮)。予備圧縮後、20秒間放置した後、速度100mm/分で試験片の厚さの25%まで加圧板で加圧し、20秒間保持後の力を読み取り、これを硬さ(25%ILD、単位:N/314cm2)とする。
密度は、縦100mm、横100mm、高さ50mmの直方体の試験片を発泡体の中心部(スキンを除いたコア部分)から採取し、その試験片の質量を測定することにより算出される(単位:kg/m3)。但し、この試験片の寸法は、試験片を採取する前の発泡体が十分に大きい場合に限る。実際の製品から試験片を採取する場合には、その製品の厚み(クッションパッド20であれば上下寸法)に応じて試験片の寸法を決定する。
伸びは、JIS K6400−5(2012年版)に準拠する以下の方法で測定される。ダンベル状の打抜き型を使って発泡体から試験片を採取し、試験片の平行部分に試験片が変形しないよう中心から等間隔かつ長手方向と直角に平行な2本の標線を付ける。標線間距離は40mmとする。試験片の中央の断面に均一に引張力がかかるように、引張試験機のつかみ具を試験片に左右対称に取り付け、200mm/分の速度で引張試験を行い、破断時の最大力と標線間距離とを測定する。破断時の標線間距離から試験前の標線間距離を減じた距離を、試験前の標線間距離で除した値が伸び(単位:%)である。なお、破断時の最大力を試験前の試験片の断面積で除した値が引張強さ(単位:kPa)である。
次に図3を参照して、バックパッド30の背下部33と背上部34(背表層部35及び背下層部36)との関係について詳しく説明する。図3は、バックパッド30の硬さ分布を示す図である。なお図3では、色が濃いほど硬さが大きいことを示している。
図3に示すように、バックパッド30は、背下部33の硬さより背上部34の硬さが小さくなるように形成されている。また、背上部34の密度および伸びは、背下部33の密度および伸びより大きい。これらの関係は、背下部33及び背上部34をそれぞれ構成する各発泡体の配合などが異なるためである。
さらに、背上部34の背表層部35の硬さは、背下層部36の硬さより小さい。背上部34は同一配合の発泡体から構成されるが、その配合によって表面31から裏面32へ向かうにつれて徐々に硬さが大きくなるためである。
なお、本実施の形態では、背下部33と尻下部23とは異なる配合の発泡体から構成され、背上部34と腿下部24とも異なる配合の発泡体から構成される。背下部33の硬さよりも尻下部23の硬さが大きく、背上部34の硬さよりも腿下部24の硬さが大きく設定される。このように、着座者40から強い荷重を受けるクッションパッド20側(尻下部23及び腿下部24)の硬さを、バックパッド30側(背下部33及び背上部34)の硬さよりも大きくすることで、クッションパッド20により着座者40を確実に支持しつつ、バックパッド30によるソフト感を向上できる。
図1に戻って説明する。運転中などの緊張状態における着座者40(特に運転手)は、上半身(腰部44や背中45等)と大腿部42とが直角に近く、大腿部42に対して小腿部43が大きく曲がっている。このような姿勢では、臀部41や腰部44からシート10に大きな荷重が付与される。しかし、大腿部42や背中45がシート10に接触し難く、大腿部42や背中45からシート10へ付与される荷重が小さい。
一方、後部座席や助手席の着座者40は、足(大腿部42に対して小腿部43)を伸ばしたり、シートバック14に大きくもたれたりして、シート10に体全体を預けてリラックスした状態でシート10に着座することがある。また、自動運転中であれば、運転手もリラックス状態でシート10に着座することができる。
このようなリラックス状態に着座者40があるとき、着座者40の緊張状態に比べて、大腿部42や背中45から腿下部24や背上部34に荷重が付与され易い。特に、クッションパッド20やバックパッド30の形状は、緊張状態の着座者40に合わせて設定されているので、リラックス状態では大腿部42や背中45が腿下部24や背上部34に強く押し付けられ易い。
腿下部24の硬さが尻下部23の硬さよりも小さく、背上部34の硬さが背下部33の硬さよりも小さく設定されるので、リラックス状態で強く押し付けられ易い部位を柔らかくできる。これにより、リラックス状態の着座者40がシート10から受ける圧力を分散できる。その結果、リラックス状態の着座者40に対して乗り心地や座り心地などの快適性を向上できる。
なお、尻下部23の硬さ(PP硬度)は15N以上であることが好ましい。これにより、緊張状態の着座者40から特に大きな荷重が付与される尻下部23の硬さを確保できるので、尻下部23による着座者40の安定感を確保できる。また、背下部33の硬さは16N以下であることが好ましい。これにより、着座者40の腰部44に沿って背下部33を変形させ易くできるので、背下部33による腰部44の安定感を確保できる。
腿下部24や背上部34の硬さは10〜15Nの間にあることが好ましい。腿下部24や背上部34の硬さが10Nよりも小さい場合には、腿下部24や背上部34が柔らか過ぎて、腿下部24や背上部34に対して大腿部42や背中45が落ち込む。即ち、腿下部24や背上部34による腿下部24や背上部34の安定感を十分に確保できない。また、腿下部24や背上部34の硬さが15Nよりも大きい場合には、腿下部24や背上部34による腿下部24や背上部34のソフト感が不十分となり、リラックス状態の着座者40の快適性を十分に確保できない。
これに対して、腿下部24や背上部34の硬さを10〜15Nの間に設定することで、腿下部24や背上部34による腿下部24や背上部34の安定感を十分に確保できると共に、腿下部24や背上部34のソフト感を十分に確保できる。その結果、リラックス状態の着座者40の快適性を十分に確保できる。
腿下部24は、腿表層部25と腿下層部26とが同一配合の発泡体から構成されるが、大腿部42側の腿表層部25の硬さに対して、腿表層部25より下層(下方)の腿下層部26の硬さが大きい。これにより、リラックス状態の着座者40の大腿部42の安定感を向上できると共に、腿下部24のソフト感を向上できる。
同様に、背上部34は、背表層部35と背下層部36とが同一配合の発泡体から構成されるが、背中45側の背表層部35の硬さに対して、背表層部35より下層の背下層部36の硬さが大きい。これにより、リラックス状態の着座者40の背中45の安定感を向上できると共に、背上部34のソフト感を向上できる。
さらに、腿下部24の表面21から裏面22へ向かうにつれて徐々に硬さが大きくなるので、リラックス状態の着座者40の大腿部42の安定感をより向上できると共に、腿下部24のソフト感をより向上できる。同様に、背上部34の表面31から裏面32へ向かうにつれて徐々に硬さが大きくなるので、リラックス状態の着座者40の背中45の安定感をより向上できると共に、背上部34のソフト感をより向上できる。
腿表層部25の硬さに対する腿下層部26の硬さの比や、背表層部35の硬さに対する背下層部36の硬さの比(以下いずれも「硬度比」と称す)は、1.1〜1.5であることが好ましい。さらに、硬度比は1.2〜1.4であることがより好ましい。
硬度比が1.1よりも小さい場合には、腿表層部25と腿下層部26との硬度差や、背表層部35と背下層部36との硬度差が小さいので、腿下部24や背上部34による着座者40の安定感の向上と、腿下部24や背上部34のソフト感の向上との両立が難しくなる。硬度比が1.5よりも大きい場合には、硬い腿下層部26や背下層部36によって着座者40が底付き感を覚え易くなる。
これに対して、硬度比を1.1〜1.5に設定することで、腿下部24や背上部34による着座者40の安定感を十分に向上しつつ、腿下部24や背上部34のソフト感を十分に向上できると共に、底付き感を抑制できる。さらに、硬度比を1.2〜1.4に設定することで、安定感およびソフト感をより向上できると共に、底付き感をより抑制できる。
腿下部24の密度は、尻下部23の密度以上に設定される。好ましくは、腿下部24の密度は尻下部23の密度より大きく設定される。これにより、リラックス状態の着座者40から荷重が付与され易い腿下部24をへたり難くできると共に、腿下部24における底付き感を抑制できる。同様に、背上部34の密度は、背下部33の密度以上に(好ましくは背下部33の密度より大きく)設定されるので、背上部34をへたり難くできると共に、背上部34における底付き感を抑制できる。
また、詳しくは後述するが、発泡体の密度を大きくすることで、その発泡体の表面硬度を下げることができる。そのため、尻下部23や背下部33に対して腿下部24や背上部34の密度が大きく設定されるので、尻下部23や背下部33に対して腿下部24や背上部34の表面硬度を下げることができる。その結果、腿下部24や背上部34のソフト感を向上できる。
腿下部24の伸びが尻下部23の伸び以上に設定される。好ましくは、腿下部24の伸びは尻下部23の伸びより大きく設定される。これにより、足を伸ばした時の大腿部42と腿下部24との間のつっぱり感を緩和できると共に、足の動きに腿下部24を追従させ易くできる。その結果、着座者40の快適性を向上できる。同様に、背上部34の伸びが背下部33の伸び以上に(好ましくは背下部33の伸びより大きく)設定されるので、バックパッド30にもたれかかったときの背中45と背上部34とのつっぱり感を緩和できると共に、背中45の動きに背上部34を追従し易くできる。その結果、着座者40の快適性を向上できる。
腿下部24や背上部34の伸びは、110%以上であることが好ましく、120%以上であることがより好ましい。腿下部24や背上部34の伸びが110%より小さい場合には、着座者40が大腿部42や背中45につっぱり感を覚えることがあると共に、足や背中45の動かしたときに大腿部42や背中45と腿下部24や背上部34とが擦れ合い易くなる。
これに対して、腿下部24や背上部34の伸びを110%以上に設定することで、着座者40が大腿部42や背中45につっぱり感を覚え難くできると共に、足や背中45の動きに腿下部24や背上部34を追従させてそれらを擦れ合い難くできる。さらに、腿下部24や背上部34の伸びを120%以上に設定することで、大腿部42や背中45のつっぱり感をより緩和できると共に、腿下部24や背上部34の追従性を向上できる。
次に、クッションパッド20及びバックパッド30の製造方法について説明する。クッションパッド20の製造方法と、バックパッド30の製造方法とは同様である。そこで、クッションパッド20の製造方法について説明し、バックパッド30の製造方法の説明は省略する。なお、バックパッド30の製造方法は、クッションパッド20の製造方法のうち尻下部23、腿下部24を、それぞれ背下部33、背上部34に読み替えれば良い。
尻下部23及び腿下部24は、主にポリオール成分、イソシアネート成分、発泡剤(主に水)および触媒を含有する混合液(発泡原液)がそれぞれ成形型(図示せず)へ注入され、成形型内でそれぞれ軟質ポリウレタンフォームが発泡成形されて製造される。詳しくは、尻下部23用の発泡原液を成形型の尻下部23に相当する位置に注入し、腿下部24用の発泡原液を成形型の腿下部24に相当する位置に注入し、それらをそれぞれ発泡硬化させることで、尻下部23と腿下部24とが一体化されたクッションパッド20が製造される。尻下部23と腿下部24とは、発泡原液の成分の配合が異なるため、硬さ等の性質が異なる。
なお、発泡原液には、上述した成分に加え、水酸基を環状分子の官能基とするポリロタキサンや、ポリロタキサンの溶媒や分散材となる媒体を加えても良い。ポリオール成分やイソシアネート成分に対する親和性の高いポリロタキサン(ポリロタキサン変性体)を採用すれば、媒体を使うことなく、ポリオール成分やイソシアネート成分にポリロタキサンを均一に溶解または分散させることができる。
なお、ポリロタキサンを添加する場合に限らず、ポリロタキサンが互いに架橋した架橋ポリロタキサンを添加しても良い。また、ポリロタキサンや媒体を用いずに軟質ポリウレタンフォームを形成しても良い。
ポリオール成分は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ラクトン系ポリオール等のポリオールが挙げられ、このうちの1種または2種以上の混合物を使用することができる。この中でも、原料費が安価で耐水性に優れている点で、ポリエーテルポリオールが好ましい。
ポリオール成分は、必要に応じてポリマーポリオールを併用できる。ポリマーポリオールとしては、例えば、ポリアルキレンオキシドからなるポリエーテルポリオールにポリアクリルニトリル、アクリロニトリル−スチレン共重合体等のポリマー成分をグラフト共重合させたものが挙げられる。
ポリオール成分の重量平均分子量は3000〜10000であることが好ましい。重量平均分子量が3000未満の場合、得られるフォームの柔軟性が失われ、物性の悪化や弾性性能の低下が発生しやすい。重量平均分子量が10000を超える場合は、フォームの硬度が低下しやすい。
イソシアネート成分としては、公知の各種多官能性の脂肪族、脂環族および芳香族のイソシアネートを用いることができる。例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリフェニルジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、オルトトルイジンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等を挙げることができ、これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
ジフェニルメタンジイソシアネートに代表されるMDI系イソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(ピュアMDI)、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、これらのポリメリック体、これらのウレタン変性体、ウレア変性体、アロファネート変性体、ビウレット変性体、カルボジイミド変性体、ウレトンイミン変性体、ウレトジオン変性体、イソシアヌレート変性体、更にこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。
イソシアネート成分として、末端イソシアネートプレポリマーを用いることも可能である。末端イソシアネートプレポリマーは、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール等のポリオールとポリイソシアネート(TDI系イソシアネートやMDI系イソシアネート等)とを予め反応させたものである。末端イソシアネートプレポリマーを用いることにより、混合液(発泡原液)の粘度やポリマーの一次構造、相溶性を制御することができるので好適である。
本実施の形態では、イソシアネート成分として、TDI系イソシアネートによる弾性フォームに比べて反発弾性の小さい弾性フォームを成形できるMDI系イソシアネートが好適に用いられる。MDI系イソシアネートとTDI系イソシアネートとの混合物を用いる場合、その質量比はMDI系:TDI系=100:0〜75:25好ましくは100:0〜80:20とされる。イソシアネート成分中のTDI系の質量比が20/100より大きくなるにつれ、得られる製品(軟質ポリウレタンフォーム)のぐらつき感が低下する傾向がみられ、TDI系の質量比が25/100より大きくなると、その傾向が著しくなる。
イソシアネート成分のイソシアネートインデックス(活性水素基に対するイソシアネート基の等量比の百分率)は、例えば85〜130に設定される。イソシアネートインデックスは、ポリオール成分、ポリロタキサン、媒体および架橋剤等の内の全ての活性水素基に対して換算する。
ポリロタキサンは、環状分子が軸状分子に沿って自由に移動できるものである。軟質ポリウレタンフォームに引張力が加わった場合に、ポリロタキサンの架橋点(環状分子)が動くことで(滑車効果)、架橋構造内に局所的に応力が発生することを抑制できる。これにより軟質ポリウレタンフォームの引張応力(引張モジュラス)を低下させることができる。一方、ポリロタキサンは軟質ポリウレタンフォームの圧縮特性にほとんど影響を与えない。
ポリロタキサンの配合量は、ポリオール成分100質量部に対して0.9〜30質量部が好ましい。軟質ポリウレタンフォームの発泡をポリロタキサンが阻害することを防止すると共に、軟質ポリウレタンフォームの引張応力を低下させるためである。ポリオール成分100質量部に対するポリロタキサンの配合量が30質量部より多くなるにつれ、軟質ポリウレタンフォームの発泡が抑制される傾向がみられ、0.9質量部より少なくなるにつれ、軟質ポリウレタンフォームの引張応力が低下し難くなる傾向がみられる。
媒体は、ポリロタキサンの溶媒または分散媒となる化合物であり、ポリロタキサンに対する溶解度の大きい良溶媒、ポリロタキサンに対する溶解度の小さい貧溶媒(分散媒)が制限なく用いられる。ポリロタキサンを媒体に溶解または分散し、その媒体をポリオール成分やイソシアネート成分などに混合することにより、混合液(ポリオール組成物)にポリロタキサンが偏在することを抑制できる。その結果、軟質ポリウレタンフォームに対するポリロタキサンの均一性を向上できる。
媒体としては、例えば界面活性剤、アルコール等のヒドロキシル化合物が挙げられる。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。これら界面活性剤は、1種を単独または2種以上を混合して用いることができる。
発泡剤としては、主に水が用いられる。必要に応じて、少量のシクロペンタンやノルマルペンタン、イソペンタン、HFC−245fa等の低沸点有機化合物を併用することや、ガスローディング装置を用いて原液中に空気、窒素ガス、液化二酸化炭素等を混入溶解させて成形することもできる。発泡剤の好ましい添加量は、得られる製品の設定密度によるが、通常、ポリオール成分に対して0.5〜15質量%である。
発泡剤である水とイソシアネートとでウレア結合が生じる。このウレア結合量が多くなると、軟質ポリウレタンフォームの表面硬度が大きくなり、ソフト感が低下する。ここで、軟質ポリウレタンフォームの密度を大きくする方法として、水を減らし、それに合わせてイソシアネート成分を減らす方法がある。このように、軟質ポリウレタンフォームの密度を大きくするとき、合わせてウレア結合量を減少させて軟質ポリウレタンフォームの表面硬度を小さくすることができる。
触媒としては、当該分野において公知である各種ウレタン化触媒が使用できる。例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ジメチルベンジルアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N′,N′,N″−ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス−(2−ジメチルアミノエチル)エーテル等の反応性アミン、又は、これらの有機酸塩;酢酸カリウム、オクチル酸カリウム等のカルボン酸金属塩、スタナスオクトエート、ジブチルチンジラウレート、ナフテン酸亜鉛等の有機金属化合物等が挙げられる。また、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン等の活性水素基を有するアミン触媒も好ましい。触媒の好ましい添加量は、ポリオール成分に対して、0.01〜10質量%である。
必要に応じて、低分子量の多価活性水素化合物が架橋剤として使用される。架橋剤により、軟質ポリウレタンフォームのばね特性の調整が容易になる。架橋剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の多価アルコール類、並びにこれらの多価アルコール類を開始剤としてエチレンオキシドやプロピレンオキシドを重合させて得られる化合物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類等が挙げられる。これらの化合物は単独で、又は2種以上を混合して使用される。
また、必要に応じて整泡剤が使用される。整泡剤としては当該分野において公知である有機珪素系界面活性剤が使用可能である。整泡剤の好ましい添加量は、ポリオール成分に対して0.1〜10質量%である。さらに必要に応じて、難燃剤、可塑剤、セルオープナー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、各種充填剤、内部離型剤、その他の加工助剤が用いられる。
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。実施例における軟質ポリウレタンフォームを成形する混合液(ポリオール組成物)の配合を表1に示す。表1に示す数値は単位質量(質量比率)である。イソシアネートはイソシアネートインデックスが100になるように配合した。実施例1の軟質ポリウレタンフォームが腿下部24に用いられる。同様に、実施例2,3,4がそれぞれ尻下部23、背上部34、背下部33に用いられる。
ポリオール1:ポリエーテルポリオールEP828(三井化学株式会社製)、重量平均分子量6000
ポリオール2:ポリエーテルポリオールEL820(旭硝子株式会社製)、重量平均分子量5000
ポリオール3:ポリマーポリオールPOP3623(三井化学株式会社製)
ポリオール4:EP−3033(三井化学株式会社製)、重量平均分子量6500
ポリオール5:POP36−28(三井化学株式会社製)、重量平均分子量5000
媒体:非イオン性界面活性剤ET116B(第一工業製薬株式会社製)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(高級アルコール系)、重量平均分子量750、1分子中の水酸基数1
ポリロタキサン:SH1310Pアルキル化変性体(アドバンスト・ソフトマテリアル株式会社製)、ポリエチレングリコール(軸状分子)にシクロデキストリン(環状分子)が包接したSH1310Pの環状分子の水酸基の一部をブチルイソシアネートによりアルキル化したもの、軸状分子の分子量1.1万、水酸基価43mgKOH/g
架橋剤1:ジエタノールアミン
架橋剤2:EL980(旭硝子株式会社製)
セルオープナー:EP505S(三井化学株式会社製)
整泡剤1:L3625(モメンティブ株式会社製)
整泡剤2:SF2936F(東レダウコーニング株式会社製)
整泡剤3:B8736LF2(エボニック株式会社製)
整泡剤4:SF−2962(東レダウコーニング株式会社製)
触媒1:TEDA−L33(東ソー株式会社)
触媒2:ToyocatET(東ソー株式会社)
イソシアネート1:ポリメリックMDI 2,4′−MDI・4,4′−MDI混合物
イソシアネート2:TM20(三井化学株式会社製)。
これらの各成分を表1に示す質量比率で配合した。実施例1では、まず、媒体にポリロタキサンを加えて50℃で30分間撹拌した。媒体が均一な溶液になったことを確認した後、室温になるまで溶液を冷却した。冷却した溶液にポリオールを均一に混合した後、他の成分を均一に混合して混合液を得た。また実施例2〜4では、各成分を均一に混合して混合液を得た。次に、所定形状の軟質ポリウレタンフォームの成形型に混合液を所定量注入し、キャビティ内で発泡硬化させて実施例1〜4における軟質ポリウレタンフォームを得た。実施例1では、ポリロタキサンを媒体に溶解または分散させた後、他の成分を混合するので、ポリロタキサンを軟質ポリウレタンフォームに良く分散させることができる。
全ての軟質ポリウレタンフォームについて密度、PP硬度(硬さ)、伸びを求め、その結果を表1に記した。なお、密度、PP硬度、伸びは、上記実施の形態で説明した通りの方法で測定・算出した。PP硬度を測定した軟質ポリウレタンフォームの厚さは100mmである。
表1に示すように、PP硬度(硬さ)は、実施例2より実施例1が小さく、実施例4より実施例3が小さいことが確認された。さらに、PP硬度(硬さ)は、実施例3より実施例1が大きく、実施例4より実施例2が大きいことが確認された。また、密度および伸びは、実施例2より実施例1が大きく、実施例4より実施例3が大きいことが確認された。
よって、実施例1の軟質ポリウレタンフォームで腿下部24を形成し、実施例2の軟質ポリウレタンフォームで尻下部23を形成することで、尻下部23及び腿下部24が上述した特定の硬さ、密度および伸びの分布を有することが分かった。また、実施例3の軟質ポリウレタンフォームで背上部34を形成し、実施例4の軟質ポリウレタンフォームで背下部33を形成することで、背下部33及び背上部34が上述した特定の硬さ、密度および伸びの分布を有することが分かった。
なお、表1に示した実施例1,3の硬さは、軟質ポリウレタンフォームのうち成形型の下側で形成された部分の硬さである。従来から、イソシアネート成分としてMDI系イソシアネートの質量比を多くすることで、成形型の下側部分から上側部分へ向かうにつれて硬さが大きくなることが知られている。表1に示してはいないが、この硬さの分布が実施例1,3でも確認された。
腿表層部25や背表層部35が成形型の下側で形成され、腿下層部26や背下層部36が成形型の上側で形成されるように、実施例1,3の軟質ポリウレタンフォームでそれぞれ腿下部24、背上部34を形成することで、腿下部24や背上部34が上述した特定の硬さの分布を有することが分かった。
以上のように、各部位に適した実施例1〜4の軟質ポリウレタンフォームを用いることで、上述した特定の硬さ、密度および伸びの分布を有するシートパッド11が得られることが分かった。また、高密度が好ましい箇所のみを高密度となるように密度の分布を設定することで、シートパッド11を軽量化できる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた形状は一例であり、他の形状を採用することは当然可能である。
上記実施の形態では、車両(自動車)に搭載される軟質ポリウレタンフォーム製のシートパッド11(クッション材)について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。軟質ポリウレタンフォームを自動車以外の他の車両(例えば鉄道車両)や船舶、航空機等の乗物に装備される座席に適用することは当然可能である。
上記実施の形態では、尻下部23、腿下部24、背下部33、背上部34がいずれも所定形状の成形型で成形された軟質ポリウレタンフォーム(モールドウレタン)により形成される場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、他の材質を採用することは当然可能である。他の材質としては、例えば、成形された軟質ポリウレタンフォームを切断して形成されるスラブウレタン、軟質ポリウレタンフォームの製造工程で生じる端材等を粉砕して形成されたチップウレタン、3次元的に絡み合う複数の合成樹脂製繊維で構成される立体網状体、固綿等の繊維体、ウレタンゴムや熱可塑性エラストマー等の合成樹脂製の弾性体が挙げられる。これらを互いに接着や一体化することで、所定の硬さ分布や密度分布、伸びの分布を得ることができる。尻下部23や腿下部24、背下部33、背上部34の硬さや、硬さの分布、密度、形状は、材質を選択すると共に、成形型のキャビティ形状の設計や裁断、切削等により適宜設定できる。
上記実施の形態では、腿下部24や背上部34を構成する発泡体の配合によって、腿表層部25の硬度と腿下層部26の硬度とが異なったり、背表層部35の硬度と背下層部36の硬度とが異なったりする場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。腿表層部25と腿下層部26とでそれぞれ異なる配合の発泡体や繊維体などを積層して腿下部24を形成したり、背表層部35と背下層部36とでそれぞれ異なる配合の発泡体や繊維体などを積層して背上部34を形成したりしても良い。このように、2層の発泡体や繊維体などを積層する場合に限らず、3層以上の発泡体や繊維体などを積層しても良い。
上記実施の形態では、尻下部23や背下部33と、腿下部24や背上部34とにそれぞれ対応する2種類の発泡原液を成形型内で同時に発泡させてクッションパッド20やバックパッド30を一体成形する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。別々に成形された尻下部23と腿下部24とや、背下部33と背上部34とを接着剤で接着してクッションパッド20やバックパッド30を成形しても良い。また、成形済みの尻下部23や背下部33を成形型にセットした状態で、腿下部24や背上部34を発泡成形することが可能である。同様に、成形済みの腿下部24や背上部34、腿下層部26、背下層部36を成形型にセットした状態で、その他の部位を発泡成形することも可能である。
上記実施の形態では、腿下部24の硬さが尻下部23の硬さより小さい場合について説明した。但し、腿下部24のうち腿下層部26の硬さが尻下部23の硬さより小さくなくても良い。同様に、背下層部36の硬さが背下部33の硬さより小さくなくても良い。腿下層部26や背下層部36の硬さに関係なく、着座者40に近い部位である腿表層部25の硬さが尻下部23の硬さより小さく、背表層部35の硬さが背下部33の硬さより小さければ良い。
上記実施の形態では、腿下部24の伸びが尻下部23の伸び以上に設定され、背上部34の伸びが背下部33の伸び以上に設定される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。つっぱり感の緩和や追従性に主に影響を与えるのは、腿表層部25や背表層部35である。そのため、腿表層部25の伸びが尻下部23の伸び以上に設定されれば良い。また、背表層部35の伸びが背下部33の伸び以上に設定されれば良い。
上記実施の形態では、クッションパッド20やバックパッド30の硬さや密度、伸びの分布について説明したが、少なくとも硬さの分布が上述した通りであれば良い。密度や伸びの分布は、必ずしも上述した通りでなくても良い。クッションパッド20やバックパッド30の各部の密度や伸びを略同一にしても良い。また、クッションパッド20又はバックパッド30のいずれか一方の密度や伸びの分布を上述した通りにしても良い。
上記実施の形態では、尻下部23と背下部33とが、腿下部24と背上部34とが、それぞれ異なる発泡体(軟質ポリウレタンフォーム)から構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。尻下部23と背下部33とで、腿下部24と背上部34とで、それぞれ同一の発泡体を用いることは当然可能である。