詳細な説明
本開示の実施には、別段の指定のない限り、細胞生物学、毒性学、分子生物学、生化学、細胞培養、免疫学、腫瘍学、組換えDNAの分野および当技術分野の技術の範囲内の関連する分野における標準の方法および従来の技法が使用される。そのような技法は、文献に記載されており、それにより、当業者が利用可能である。例えば、Alberts, B.ら、「Molecular Biology of the Cell」、第5版、Garland Science、New York、NY、2008年;Voet, D.ら、「Fundamentals of Biochemistry: Life at the Molecular Level」、第3版、John Wiley & Sons、Hoboken、NJ、2008年;Sambrook, J.ら、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年; Ausubel, F.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、New York、1987年および定期的更新版; Freshney, R.I.、「Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique」、第4版、John Wiley & Sons、Somerset、NJ、2000年;および「Methods in Enzymology」シリーズ、Academic Press、San Diego、CAを参照されたい。例えば、「Current Protocols in Immunology」、(R. Coico、シリーズ編集者)、Wiley、2010年8月に最新更新されたものも参照されたい。
特定のMMPの異常な活性が腫瘍の成長、転移、炎症、自己免疫、および血管疾患において役割を果たす。例えば、Huら(2007年)Nature Reviews:Drug Discovery 6巻:480〜498頁を参照されたい。MMP9の1つの注目すべき供給源は腫瘍関連マクロファージ(TAM)であり、これは、複合体同時活性化ループにおいて、原発腫瘍細胞とのパラ分泌相互作用を介して転移および浸潤を支持する。この、細胞浸潤のための物理的関門のタンパク質分解による破壊と、成長および血管新生を活性化する因子の遊離との組合せにより、腫瘍の増大の道が開かれ、それに付随して、新血管形成が生じて腫瘍の増生が支持される。
MMP9は、RAS/RAF、PI3K/AKT/NFkB、およびWNT/ベータカテニンなどの発がんシグナル伝達経路の標的であり、インテグリンおよび受容体チロシンキナーゼ機能を調節することにより、これらの経路の上流の調節因子として機能する。MMP9は、多種多様な腫瘍型において上昇しており、MMP9レベルは、胃がん、肺がん、および結腸直腸がんを含めた多くのがんにおける予後不良と相関する。MP9は、化学療法抵抗性にも関係づけられ、いくつかの腫瘍抑制因子が失われると上方制御される。MMP9は多くの多様な腫瘍型において上方制御され、がん性細胞の原発性成長および遠位への浸潤を促進し得る。
特定の治療的状況において1種または複数のMMPの活性を阻害することが望ましい場合がある。しかし、特定の他のMMP、例えばMMP2の活性は、多くの場合、正常な機能のために必要であり、かつ/または疾患を防止する。大多数のMMP阻害剤は保存された触媒ドメインを標的とし、結果として、いくつもの異なるMMPを阻害するので、利用可能なMMP阻害剤を使用することにより、必須な、病原として関連しないMMPが阻害されることに起因する副作用が引き起こされている。
特定のMMPに特異的な阻害剤を開発すること、またはMMPを選択することに伴う難題は、酵素活性を阻害するためには、一般に、阻害剤が触媒ドメインを標的とすることが必要であるという事実に関連する。MMP触媒ドメインの相同性により、阻害剤が2種以上のMMPと反応することになり得る。提供される実施形態としては、治療的試薬、例えば、単一のMMPの触媒活性を特異的に阻害する、または複数のMMP、例えば、MMP9を選択し、特定の他のMMPや任意の他のMMPとは反応しないまたはそれを阻害しない抗体およびその抗原結合断片を含めた作用剤が挙げられる。提供される実施形態としては、がん、および自己免疫性疾患および炎症性疾患を含めた種々の疾患を処置するための方法およびその使用も挙げられる。
MMP9結合タンパク質
MMP9により、基底膜コラーゲンおよび他の細胞外マトリックス(ECM)構成成分が分解される。Kessenbrock Kら、「Matrix metalloproteinases: regulators of the tumor microenvironment」、Cell(2010年);141巻(1号):52〜67頁。マトリックス分解は、関節炎、がん、および潰瘍性大腸炎を含めた複数の疾患における病理に寄与する。Roy Rら、「Matrix metalloproteinases as novel biomarkers and potential therapeutic targets in human cancer」、J Clin Oncol (2009年);27巻(31号):5287〜97頁。炎症およびがんの動物モデルでは、マリマスタットなどの広範囲にわたるマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤が効果的である(Watson SAら、「Inhibition of tumour growth by marimastat in a human xenograft model of gastric cancer: relationship with levels of circulating CEA」、Br J Cancer (1999年);81巻(1号):19〜23頁;Sykes APら、「The effect of an inhibitor of matrix metalloproteinases on colonic inflammation in a trinitrobenzenesulphonic acid rat model of inflammatory bowel disease」、Aliment Pharmacol Ther (1999年);13巻(11号):1535〜42頁)。しかし、そのような汎阻害剤により、一般には、ヒトでは、マリマスタットの効果的な用量レベルまたはその付近で、集合的に筋骨格症候群(MSS)と称される手、腕、および肩の関節の凝り、炎症、および疼痛を含めた筋骨格の副作用が引き起こされる恐れがある。Peterson JT. 「The importance of estimating the therapeutic index in the development of matrix metalloproteinase inhibitors」、Cardiovasc Res (2006年);69巻(3号):677〜87頁;Tierney GMら 「A pilot study of the safety and effects of the matrix metalloproteinase inhibitor marimastat in gastric cancer」、Eur J Cancer (1999年);35巻(4号):563〜8頁;Wojtowicz−Praga Sら、「Phase I trial of Marimastat、a novel matrix metalloproteinase inhibitor, administered orally to patients with advanced lung cancer」、J Clin Oncol (1998年);16巻(6号):2150〜6頁。症状は用量依存性かつ時間依存性であり、汎MMP阻害剤を用いた処置を休止したすぐ後には可逆的である。Wojtowicz−Praga S、1998年;Nemunaitis Jら、「Combined analysis of studies of the effects of the matrix metalloproteinase inhibitor marimastat on serum tumor markers in advanced cancer: selection of a biologically active and tolerable dose for longer−term studies」、Clin Cancer Res (1998年);4巻(5号):1101〜9頁;Hutchinson JWら、「Dupuytren’s disease and frozen shoulder induced by treatment with a matrix metalloproteinase inhibitor」、The Journal of bone and joint surgery. British volume (1998年);80巻(5号):907〜8頁。マリマスタットおよび他の同じクラスの汎MMP阻害剤は亜鉛キレート化剤である。Peterson JT、2006年。ホモ接合性MMP9ノックアウトマウスは、MSS様症状もMSS様組織変化も示さない。Vu THら、「MMP−9/gelatinase B is a key regulator of growth plate angiogenesis and apoptosis of hypertrophic chondrocytes」、Cell (1998年);93巻(3号):411〜22頁。
本開示は、マトリックスメタロプロテイナーゼ−9(MMP9)タンパク質(MMP9は、ゼラチナーゼ−Bとしても公知である)に結合する結合タンパク質、例えば、抗体およびその断片(例えば、抗原結合断片)、例えば、配列番号27または配列番号28に記載のアミノ酸配列を有するヒトMMP9などのヒトMMP9を提供する。本開示の結合タンパク質は、一般には、免疫グロブリン(Ig)重鎖(またはその機能性断片)およびIg軽鎖(またはその機能性断片)を含む。
本開示は、さらに、MMP9に特異的に結合し、MMP1、MMP2、MMP3、MMP7、MMP9、MMP10、MMP12、およびMMP13などの他のマトリックスメタロプロテイナーゼには結合しないMMP9結合タンパク質を提供する。したがって、そのような特異的なMMP9結合タンパク質は、一般に、非MMP9マトリックスメタロプロテイナーゼとは有意にまたは検出可能に交差反応しない。MMP9に特異的に結合するMMP9結合タンパク質は、例えば、他のマトリックスメタロプロテイナーゼの活性には直接影響を及ぼすことなく、MMP9の特異的な調節(例えば、阻害)を得ることが必要である、またはそれが望ましい適用において使用される。
本開示のある特定の実施形態では、抗MMP9抗体は、MMP9の活性の阻害剤であり、MMP9の特異的な阻害剤であってよい。具体的には、本明細書に開示されているMMP9結合タンパク質は、MMP9の阻害に有用である一方で、他の、関連するマトリックスメタロプロテイナーゼの正常な機能を可能にする。「MMPの阻害剤」または「MMP9活性の阻害剤」とは、これだけに限定されないが、酵素的プロセシング(enzymatic processing)、MMP9のその基質に対する作用の阻害(例えば、基質の結合、基質の切断などを阻害することによる)などを含め、直接的に、または間接的にMMP9の活性を阻害する抗体またはその抗原結合断片であってよい。
いくつかの実施形態では、本明細書の実施例において実証されている通り、汎MMP阻害剤、例えばマリマスタットなどの小分子汎阻害剤などを使用して処置することにより、歩行、姿勢および動く意欲に対する実質的な影響を含めた、筋骨格症候群(MSS)などの筋骨格疾患の症状が生じるが、MMP9の特異的な阻害、例えば、本出願における抗体またはその抗原結合断片などでは、そのような症状は引き起こされず、MSSは誘導されない。
本開示は、ヒトMMP9、カニクイザルMMP9、およびラットMMP9などの非マウスMMP9に特異的に結合するMMP9結合タンパク質も提供する。
本開示は、非競合的な阻害剤としての機能を果たすMMP9結合タンパク質(例えば、抗MMP9抗体およびその機能性断片)も提供する。「非競合的な阻害剤」とは、酵素の基質結合部位から離れた部位に結合する、したがって、酵素がその基質と結合するか否かにかかわらず酵素に結合し、阻害活性に影響を及ぼすことができる阻害剤を指す。そのような非競合的な阻害剤により、例えば、基質濃度に実質的に非依存性であり得る阻害のレベルをもたらすことができる。
本開示のMMP9結合タンパク質(例えば、抗体およびその機能性断片)は、MMP9、特にヒトMMP9に結合し、本明細書に開示されている重鎖ポリペプチドに対して少なくとも約80%、85%、90%、95%またはそれ超のアミノ酸配列同一性を有する重鎖ポリペプチド(またはその機能性断片)を有するものを包含する。一部の例では、本開示のMMP9結合タンパク質(例えば、抗体およびその機能性断片)は、MMP9、特にヒトMMP9に結合し、本明細書に開示されている重鎖ポリペプチドに対して少なくとも約90%、95%、97%、98%、99%またはそれ超のアミノ酸配列同一性を有する重鎖ポリペプチド(またはその機能性断片)を有するものを包含する。
本開示のMMP9結合タンパク質(例えば、抗体およびその機能性断片)は、MMP9、特にヒトMMP9に結合し、本明細書に開示されている重鎖ポリペプチドに対して少なくとも約80%、85%、90%、95%またはそれ超のアミノ酸配列同一性を有する軽鎖ポリペプチド(light polypeptide)(またはその機能性断片)を有するものを包含する。
本開示のMMP9結合タンパク質(例えば、抗体およびその機能性断片)は、MMP9、特にヒトMMP9に結合し、本明細書に開示されている重鎖ポリペプチドの相補性決定領域(「CDR」)を有する重鎖ポリペプチド(またはその機能性断片)および軽鎖ポリペプチド(またはその機能性断片)のCDRを有するものを包含する。
「相同性」または「同一性」または「類似性」とは、本明細書において核酸およびポリペプチドに関して使用される場合、それぞれ、アミノ酸配列または核酸配列のアラインメントに基づいた2つのポリペプチド間または2つの核酸分子間の関係を指す。相同性および同一性は、それぞれ比較するためにアラインメントすることができる各配列内の位置を比較することによって決定することができる。比較する配列内の同等の位置が同じ塩基またはアミノ酸によって占有されていれば、それらの分子はその位置において同一であり、同等の部位が同じまたは類似したアミノ酸残基(例えば、立体的本質および/または電子的本質が類似している)によって占有されていれば、その分子は、その位置において相同である(類似した)と称することができる。相同性/類似性または同一性の百分率としての表示とは、比較される配列によって共有される位置における同一のまたは類似したアミノ酸の数の関数を指す。2つの配列の比較において、残基(アミノ酸または核酸)が存在しないことまたは余分の残基が存在することによっても、同一性および相同性/類似性が低下する。
本明細書で使用される場合、「同一性」とは、配列をアラインメントして配列マッチングを最大にした場合、すなわち、ギャップおよび挿入を考慮に入れた場合に、2つ以上の配列内の対応する位置にある同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の百分率を意味する。配列は、一般に、指定の領域、例えば、少なくとも約20、約25、約30、約35、約40、約45、約50、約55、約60、約65またはそれ超のアミノ酸長またはヌクレオチド長の領域にわたって、および参照アミノ酸またはヌクレオチドの全長に至ってよい領域にわたって一致が最大になるようにアラインメントされる。配列比較のために、一般には、1つの配列が、試験配列が比較される参照配列として作用する。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列および参照配列をコンピュータプログラムにインプットし、必要であれば部分配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。次いで、配列比較アルゴリズムにより、試験配列(複数可)について、指定されたプログラムパラメータに基づいて参照配列と比較してパーセント配列同一性を算出する。
パーセント配列同一性を決定するために適したアルゴリズムの例はBLASTアルゴリズムおよびBLAST2.0アルゴリズムであり、これらは、それぞれAltschulら(1990年)J. Mol. Biol. 215巻:403〜410頁およびAltschulら(1977年)Nucleic Acids Res. 25巻:3389〜3402頁に記載されている。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(www.ncbi.nlm.nih.gov)を通じて公的に入手可能である。別の例示的なアルゴリズムとしては、www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw/index.htmlにおいて入手可能なClustalW(Higgins D.ら(1994年)Nucleic Acids Res 22巻:4673〜4680頁)が挙げられる。
同一でない残基の位置は保存的アミノ酸置換によって異なり得る。保存的アミノ酸置換とは、類似した側鎖を有する残基の互換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンであり、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の群はセリンおよびトレオニンであり、アミドを含有する側鎖を有するアミノ酸の群はアスパラギンおよびグルタミンであり、芳香族側鎖を有するアミノ酸の群はフェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンであり、塩基性側鎖を有するアミノ酸の群はリシン、アルギニン、およびヒスチジンであり、硫黄を含有する側鎖を有するアミノ酸の群は、システインおよびメチオニンである。
2つの核酸の間の配列同一性を、2つの分子の、ストリンジェントな条件下での互いとのハイブリダイゼーションに関して記載することもできる。ハイブリダイゼーション条件は当技術分野における標準の方法に従って選択される(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版(1989年)Cold Spring Harbor、N.Y.を参照されたい)。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、50℃以上、0.1×SSC(15mMの塩化ナトリウム/1.5mMのクエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーションである。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の別の例は、溶液:50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%デキストラン硫酸、および20mg/mlの変性せん断サケ精子DNA中、42℃で一晩インキュベートし、その後、フィルターを0.1×SSC中、約65℃で洗浄することである。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、少なくとも上記の代表的な条件と同様にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件であり、条件は、上記の特定のストリンジェントな条件と少なくとも約80%同様にストリンジェント、一般には、少なくとも90%同様にストリンジェントであれば、少なくとも同様にストリンジェントであるとみなされる。
したがって、本開示は、例えば、本明細書に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列(例えば、配列番号1または配列番号5〜8)に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ超のアミノ酸配列同一性を有する重鎖可変領域ポリペプチド、および本明細書に記載の軽鎖ポリペプチド(例えば、配列番号2または配列番号9〜12)のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ超のアミノ酸配列同一性を有する可変軽鎖ポリペプチドを含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
本開示の抗MMP9抗体の例を、以下により詳細に記載する。
抗体
MMP9結合タンパク質は、MMP9に特異的に結合するものなどの抗体およびその機能性断片を含む。本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、抗原エピトープに特異的に結合するペプチド配列(例えば、可変領域の配列)を含む、単離された、または組換え型のポリペプチド結合作用剤を意味する。この用語は、その最も広範な意味で使用され、特にモノクローナル抗体(全長のモノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ナノボディ、ダイアボディ(diabody)、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、ならびに、所望の生物活性を示す限りは、これだけに限定されないが、Fv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFab2を含めた抗体断片を包含する。「ヒト抗体」という用語は、可能な非ヒトCDR領域以外はヒト起源の配列を含有する抗体を指し、また、免疫グロブリン分子の完全な構造が存在することを意味するものではなく、抗体が、ヒトにおいて最小の免疫原性作用を有する(すなわち、それ自体に対する抗体の産生を誘導しない)ことのみを意味する。
「抗体断片」とは、全長の抗体の一部、例えば、全長の抗体の抗原結合領域または可変領域を含む。そのような抗体断片は、本明細書では、「機能性断片」または「抗原結合断片」とも称することができる。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFv断片;ダイアボディ;直鎖抗体(Zapataら(1995年)Protein Eng. 8巻(10号):1057〜1062頁);単鎖抗体分子;ならびに抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。抗体のパパイン消化により、「Fab」断片と称される、それぞれが単一の抗原結合部位を有する2つの同一の抗原結合断片、および残りの、容易に結晶化することができることが名称に反映された「Fc」断片が生じる。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位を有し、なお抗原と架橋することができるF(ab’)2断片がもたらされる。
「Fv」とは、完全な抗原認識部位および抗原結合部位を含有する最小の抗体断片である。この領域は、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインが密接に非共有結合で会合した二量体からなる。この立体配置では、各可変ドメインの3つの相補性決定領域(CDR)が相互作用してVH−VL二量体の表面上に抗原結合部位が確定される。集合的に、6つのCDRにより抗原との結合の特異性が抗体に付与される。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な6つのCDRのうちの3つしか含まない単離されたVH領域またはVL領域)でさえ、抗原を認識し、それに結合することができるが、一般に親和性はFv断片全体よりも低い。
「Fab」断片は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域に加えて、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)も含有する。Fab断片は、抗体のパパイン消化後に最初に観察された。Fab’断片は、F(ab’)断片が重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に抗体ヒンジ領域由来の1つまたは複数のシステインを含めたいくつかの追加の残基を含有するという点でFab断片とは異なる。F(ab’)2断片は、ヒンジ領域の近くでジスルフィド結合によってつながった2つのFab断片を含有し、また、抗体のペプシン消化後に最初に観察された。Fab’−SHとは、本明細書では、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が遊離型のチオール基を担持するFab’断片に対する名称である。抗体断片の他の化学的カップリングも公知である。
任意の脊椎動物種由来の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパおよびラムダと称される2つの明白に異なる種類の一方に割り当てることができる。それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンを5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMに割り当てることができ、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分けることができる。
「単鎖Fv」または「sFv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖に存在する。いくつかの実施形態では、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これにより、sFvが抗原と結合するための所望の構造を形成することが可能になる。sFvの概説については、Pluckthun、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、113巻(RosenburgおよびMoore編)Springer−Verlag、New York、269〜315頁(1994年)を参照されたい。
「ダイアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片を指し、この断片は、同じポリペプチド鎖内で接続した重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)(VH−VL)を含む。同じ鎖上の2つのドメイン間の対合が可能になるには短すぎるリンカーを使用することによって、ドメインを別の鎖の相補的なドメインと対合させ、それにより、2つの抗原結合部位を作製する。ダイアボディは、さらに、例えば、EP404,097;WO93/11161、およびHollingerら(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90巻:6444〜6448頁に記載されている。
「単離された」抗体とは、その天然の環境の構成成分から同定され、分離および/または回収された抗体である。その天然の環境の構成成分は、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性溶質または非タンパク質性溶質を含み得る。いくつかの実施形態では、単離された抗体は、(1)Lowry法によって決定したところ、抗体の95重量%超、例えば、99重量%超まで、(2)例えば、スピニングカップシークエネーターを使用することによって少なくとも15残基のN末端または内部のアミノ酸配列を得るために十分な程度まで、または(3)クーマシーブルー(Coomassie blue)または銀染色による検出を用いた、還元条件下または非還元条件下でのゲル電気泳動(例えば、SDS−PAGE)によって均一になるまで、精製される。組換え細胞内のin situ抗体は、抗体の天然の環境の少なくとも1つの構成成分が存在しないので、「単離された抗体」という用語に包含される。ある特定の実施形態では、単離された抗体は、少なくとも1つの精製ステップによって調製される。
本明細書で使用される場合、「免疫反応性の」とは、他のペプチド/タンパク質に対して交差反応性であっても、アミノ酸残基の配列(「結合部位」または「エピトープ」)に特異的であって、ヒトへの使用のために投与するために製剤化されるレベルにおいて毒性でない抗体またはその断片を指す。「エピトープ」とは、抗体またはその抗原結合断片との結合相互作用を形成することができる抗原の部分を指す。エピトープは、直鎖ペプチド配列(すなわち、「連続的」)であってもよく、連続していないアミノ酸配列で構成されてもよい(すなわち、「立体構造」または「不連続」)。「優先的に結合する」という用語は、結合作用剤が、結合部位に、無関係のアミノ酸配列に結合するよりも大きな親和性で結合することを意味する。
抗MMP9抗体は、重鎖および軽鎖のCDRに関して記載することができる。本明細書で使用される場合、「CDR」または「相補性決定領域」という用語は、重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域において見出される連続していない抗原結合部位を意味するものとする。これらの特定の領域は、Kabatら、J. Biol. Chem. 252巻:6609〜6616頁(1977年);Kabatら、U.S. Dept. of Health and Human Services、「Sequences of proteins of immunological interest」(1991年);Chothiaら、J. Mol. Biol. 196巻:901〜917頁(1987年);およびMacCallumら、J. Mol. Biol.262巻:732〜745頁(1996年)によって記載されており、定義は、互いに比較した場合にアミノ酸残基のオーバーラップまたはサブセットを含む。それにもかかわらず、いずれの定義を適用して抗体または移植抗体またはその変異体のCDRについて言及することも、本明細書において定義され、使用されるこの用語の範囲内であるものとする。上で引用された参考文献のそれぞれによって定義されるCDRを包含するアミノ酸残基は以下の表1Aに比較として記載されている。
本明細書で使用される場合、「フレームワーク」という用語は、抗体可変領域に関して使用される場合、抗体の可変領域内のCDR領域の外側の全てのアミノ酸残基を意味するものとする。可変領域フレームワークは、一般に、長さが約100アミノ酸から約120アミノ酸の間の不連続なアミノ酸配列であるが、CDRの外側のアミノ酸のみを指すものとする。本明細書で使用される場合、「フレームワーク領域」という用語は、CDRによって分離されているフレームワークの各ドメインを意味するものとする。
いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト化抗体またはヒト抗体である。ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラットまたはウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基で置き換えられているヒト免疫グロブリン(immununoglobulin)(レシピエント抗体)を包含する。したがって、非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小の配列を含有するキメラ免疫グロブリンである。非ヒト配列は、主に可変領域、特に相補性決定領域(CDR)に位置する。いくつかの実施形態では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が対応する非ヒト残基で置き換えられている。ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも移入されたCDRやフレームワーク配列にも見出されない残基も含んでよい。ある特定の実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、一般には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、CDRの全てまたは実質的に全てが、非ヒト免疫グロブリンのCDRに対応し、フレームワーク領域の全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のフレームワーク領域に対応する。本開示の目的に関して、ヒト化抗体は、免疫グロブリン断片、例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、または他の抗体の抗原結合部分配列も含んでよい。
ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、一般には、ヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)も含んでよい。例えば、Jonesら(1986年)Nature 321巻:522〜525頁;Riechmannら(1988年)Nature 332巻:323〜329頁;およびPresta(1992年)Curr.
Op. Struct. Biol. 2巻:593〜596頁を参照されたい。
非ヒト抗体をヒト化するための方法は当技術分野で公知である。一般に、ヒト化抗体には、非ヒトである供給源から1つまたは複数のアミノ酸残基が導入されている。これらの非ヒトアミノ酸残基は、多くの場合、「移入」または「ドナー」残基と称され、一般には、「移入」または「ドナー」可変ドメインから得られる。例えば、ヒト化は、基本的にWinterおよび共同研究者の方法に従って、げっ歯類CDRまたはCDR配列で対応するヒト抗体の配列を置換することによって実施することができる。例えば、Jonesら、上記;Riechmannら、上記およびVerhoeyenら(1988年)Science 239巻:1534〜1536頁を参照されたい。したがって、そのような「ヒト化」抗体は、実質的にインタクトなヒト可変ドメイン未満が非ヒト種由来の対応する配列で置換されているキメラ抗体(米国特許第4,816,567号)を包含する。ある特定の実施形態では、ヒト化抗体は、いくつかのCDR残基、および必要に応じていくつかのフレームワーク領域残基がげっ歯類抗体(例えば、マウスモノクローナル抗体)の類似の部位由来の残基で置換されているヒト抗体である。
ヒト抗体は、例えば、ファージディスプレイライブラリーを使用することによっても産生することができる。Hoogenboomら(1991年)J. Mol. Biol、227巻:381頁;Marksら(1991年)J. Mol. Biol. 222巻:581頁。ヒトモノクローナル抗体を調製するための他の方法は、Coleら(1985年)「Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy」、Alan R. Liss、77頁およびBoernerら(1991年)J. Immunol. 147巻:86〜95頁に記載されている。
ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を、内在性免疫グロブリン遺伝子が部分的に、または完全に不活性化されたトランスジェニック動物(例えば、マウス)に導入することによって作製することができる。免疫学的に攻撃するとヒト抗体産生が観察され、これはヒトにおいて見られるものと、遺伝子再構成、集合、および抗体レパートリーを含めたあらゆる点でよく似ている。この手法は、例えば、米国特許第5,545,807号;同第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,661,016号、および以下の科学的刊行物に記載されている:Marksら(1992年)Bio/Technology 10巻:779〜783頁(1992年);Lonbergら(1994年)Nature 368巻:856〜859頁;Morrison(1994年)Nature 368巻:812〜813頁;Fishwaldら(1996年)Nature Biotechnology 14巻:845〜851頁;Neuberger(1996年)Nature Biotechnology 14巻:826頁;およびLonbergら(1995年)Intern. Rev. Immunol. 13巻:65〜93頁。
抗体は、上記の公知の選択方法および/または変異誘発方法を使用して親和性成熟させることができる。いくつかの実施形態では、親和性成熟した抗体は、成熟抗体を調製する出発抗体(一般にマウス、ウサギ、ニワトリ、ヒト化またはヒト)の親和性よりも5倍以上、10倍以上、20倍以上、または30倍以上の親和性を有する。
抗体は二重特異性抗体であってもよい。二重特異性抗体はモノクローナルであり、少なくとも2種の異なる抗原に対して結合特異性を有するヒト抗体またはヒト化抗体であってよい。この場合、2つの異なる結合特異性は、2つの異なるMMP、または単一のMMP(例えば、MMP9)上の2つの異なるエピトープに対するものであってよい。
本明細書に開示されている抗体は、免疫コンジュゲートであってもよい。そのような免疫コンジュゲートは、第2の分子、例えば、レポーターにコンジュゲートした抗体(例えば、MMP9に対する)を含む。免疫コンジュゲートは、細胞傷害性薬剤、例えば、化学療法剤、毒素(例えば、細菌起源、真菌起源、植物起源、もしくは動物起源の酵素的に活性な毒素、またはその断片)、または放射性同位元素(すなわち、放射性コンジュゲート(radioconjugate))とコンジュゲートした抗体も含んでよい。
特定のポリペプチドまたはエピトープに「特異的に結合する」または「特異的な」抗体とは、抗体と標的抗原またはエピトープの選択的結合を指し、これらの用語および特異的な結合を決定するための方法は当技術分野においてよく理解されている。抗体は、標的抗原またはエピトープと、他の物質よりも大きな親和性、アビディティで、より容易に、かつ/またはより長い持続時間で結合する場合に、特定の標的抗原またはエピトープに対する「特異的な結合」を示す。いくつかの実施形態では、ポリペプチドまたはエピトープに特異的に結合する抗体とは、他のポリペプチドまたはポリペプチドエピトープのいずれにも実質的に結合することなく特定のポリペプチドまたはエピトープに結合する抗体である。いくつかの実施形態では、提供される抗体は、ヒトMMP9に、約4℃、25℃、37℃または42℃の温度で測定して、モノクローナル抗体、scFv、Fabの形態、または抗体の他の形態で、100nM以下、必要に応じて10nM未満、必要に応じて1nM未満、必要に応じて0.5nM未満、必要に応じて0.1nM未満、必要に応じて0.01nM未満、または必要に応じて0.005nM未満、特定の例では、0.1nMから0.2nMまでの間、または0.1pMから10pMの間、例えば、0.4pMから9pMの間、例えば、0.4pMから8.8pMの間の解離定数(Kd)で特異的に結合する。
ある特定の実施形態では、本開示の抗体は、MMP9の1つまたは複数のプロセシング部位(例えば、タンパク質分解的切断の部位)に結合し、それにより、プロ酵素またはプレプロ酵素がプロセシングされて触媒として活性な酵素になることを有効に遮断し、したがって、MMP9のタンパク質分解活性を低下させる。
ある特定の実施形態では、本開示による抗体は、MMP9に、別のMMPに対するその結合親和性よりも少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも25倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍大きな親和性で結合する。結合親和性は、当技術分野で公知の任意の方法によって測定することができ、例えば、会合速度(on−rate)、解離速度(off−rate)、解離定数(Kd)、平衡定数(Keq)または当技術分野における任意の用語として表すことができる。
ある特定の実施形態では、本開示による抗体は、MMP9の酵素(すなわち、触媒)活性を阻害する抗体、例えば、MMP9の触媒活性の非競合的な阻害剤である。ある特定の実施形態では、本開示による抗体は、MMP9の触媒ドメイン内に結合する。さらなる実施形態では、本開示による抗体は、MMP9の触媒ドメインの外側に結合する。
本明細書に記載の抗MMP9抗体またはその抗原結合断片の任意の1つまたは複数と、MMP9との結合について競合する抗体またはその抗原結合断片も提供される。したがって、本開示は、例えば、配列番号1または配列番号5〜8のいずれかの重鎖ポリペプチド、配列番号2または配列番号9〜12の軽鎖ポリペプチド、またはそれらの組合せを有する抗体との結合について競合する抗MMP9抗体およびその機能性断片を意図している。一実施形態では、抗MMP9抗体またはその機能性断片は、本明細書においてAB0041と記載されている抗体と、ヒトMMP9との結合について競合する。
本明細書に記載の抗体の任意の1つまたは複数と同じエピトープ、例えば、MMP9エピトープに結合する抗体およびその断片も提供される。MMP9のエピトープに特異的に結合する抗体および断片も提供され、エピトープは、MMP9の特定の領域またはMMP9の複数の領域内のアミノ酸残基を含む。そのような領域は、例えば、MMP9の構造ループおよび/または他の構造ドメイン、例えば、本明細書に記載の例示的な抗体と結合するために重要であることが示されているものを含んでよい。一般には、領域は、全長のMMP9配列、例えば、配列番号27におけるアミノ酸残基の位置に従って定義される。一部の例では、エピトープは、配列番号27のアミノ酸残基104〜202を含有する。一例では、エピトープは、配列番号27の残基104〜119、残基159〜166、または残基191〜202である領域内のアミノ酸残基(すなわち、1つまたは複数のアミノ酸残基)を含有する。一部の態様では、エピトープは、配列番号27の残基104〜119であるMMP9の領域内のアミノ酸残基(すなわち、1つまたは複数のアミノ酸残基)、配列番号27の残基159〜166であるMMP9の領域内のアミノ酸残基、および配列番号27の残基191〜202であるMMP9の領域内のアミノ酸残基を含む。一部の場合には、エピトープは、配列番号27のE111、D113、R162、またはI198を含む。一部の場合には、エピトープは配列番号27のR162を含む。一部の場合には、エピトープは、配列番号27のE111、D113、R162、およびI198を含む。
MMP9配列
ヒトMMP9タンパク質のアミノ酸配列は以下の通りである:
タンパク質ドメインは、図3に概略的に示されており、また、以下に示されている:
アミノ酸番号 特徴
1〜19 シグナルペプチド
38〜98 ペプチドグリカン結合ドメイン
R98/C99 システインスイッチ活性ポケット
112〜445 Zn依存性メタロプロテイナーゼドメイン
223〜271 フィブロネクチンII型ドメイン(ゼラチン結合ドメイン)
281〜329 フィブロネクチンII型ドメイン(ゼラチン結合ドメイン)
340〜388 フィブロネクチンII型ドメイン(ゼラチン結合ドメイン)
400〜411 Zn結合領域
521〜565 ヘモペキシン様ドメイン
567〜608 ヘモペキシン様ドメイン
613〜659 ヘモペキシン様ドメイン
661〜704 ヘモペキシン様ドメイン
成熟全長ヒトMMP9のアミノ酸配列(シグナルペプチドを伴わない配列番号27のプロポリペプチドのアミノ酸配列である)は:
である。
シグナルペプチドのアミノ酸配列はMSLWQPLVLVLLVLGCCFA(配列番号29)である。
ミュータントMMP9ポリペプチドを含めた、MMP9ポリペプチドも提供される。そのようなペプチドは、例えば、本明細書において提供される抗体および断片を生成および選択することにおいて有用である。例示的なポリペプチドとしては、配列番号27の残基111〜198を含有するアミノ酸配列を有するポリペプチド、および配列番号27の残基111〜198を含有するアミノ酸配列を有し、配列番号27の残基111、113、162、もしくは198にアミノ酸置換を有する、またはそのような残基全てにアミノ酸置換を有するポリペプチドが挙げられる。そのようなポリペプチドは、例えば、本明細書に記載のものなどの、そのような残基を含有するエピトープおよび/またはMMP9のそのような残基が結合のために重要であるエピトープに結合する抗体を選択することにおいて使用が見出される。
本開示は、MMP9、例えば、ヒトMMP9の任意の部分に結合するMMP9結合タンパク質を意図しており、他のMMPと比較してMMP9に優先的に結合するMMP9結合タンパク質が特に興味深い。
抗MMP9抗体およびその機能性断片は、当技術分野で周知の方法に従って生成することができる。例示的な抗MMP9抗体が以下に提供される。
マウスモノクローナル抗MMP9抗体
ヒトMMP9に対するマウスモノクローナル抗体を同様に得た。この抗体は、マウスIgG2b重鎖およびマウスカッパ軽鎖を含有し、AB0041と称される。
AB0041重鎖のアミノ酸配列は以下の通りである:
シグナル配列に下線が引かれており、IgG2b定常領域の配列がイタリック体で示されている。
AB0041軽鎖のアミノ酸配列は以下の通りである:
シグナル配列に下線が引かれており、カッパ定常領域の配列がイタリック体で示されている。
以下のアミノ酸配列は、AB0041のIgG2b重鎖の可変領域のフレームワーク領域および相補性決定領域(CDR)を含む(CDRに下線が引かれている):
以下のアミノ酸配列は、AB0041のカッパ軽鎖の可変領域のフレームワーク領域および相補性決定領域(CDR)を含む(CDRに下線が引かれている):
他の例示的なマウス抗ヒトMMP9抗体(例えば、M4およびM12)が本明細書に記載されている。例示的な抗マウスMMP9抗体(AB0046)が本明細書に記載されている。いくつかの実施形態では、そのような抗マウス抗体の、本明細書において提供されるMMP9−阻害方法、例えば、処置方法を試験し、評価するための代理抗体としての使用が提供される。
重鎖変異体
AB0041重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を、重鎖可変領域および軽鎖可変領域のフレームワーク領域の配列を変更することによって、別々に改変した。これらの配列変更の効果は、ヒトT細胞エピトープの抗体を枯渇させ、それにより、ヒトにおけるその免疫原性を低下させるまたは無効にすることであった(Antitope、Babraham、UK)。
ヒンジドメインを安定化するS241Pアミノ酸変化(Angalら(1993年)Molec. Immunol. 30巻:105〜108頁)を含有するヒトIgG4重鎖バックグラウンドで、4種の重鎖変異体を構築し、VH1、VH2、VH3およびVH4と名付けた。それらのフレームワーク領域およびCDRのアミノ酸配列は、以下の通りである:
図1に、ヒト化重鎖の可変領域のアミノ酸配列のアラインメントが示され、4種の変異体の間のフレームワーク領域内のアミノ酸配列の差異が示されている。
軽鎖変異体
ヒトカッパ鎖バックグラウンドで、4種の軽鎖変異体を構築し、Vk1、Vk2、Vk3およびVk4と名付けた。それらのフレームワーク領域およびCDRのアミノ酸配列は以下の通りである:
図2に、ヒト化軽鎖の可変領域のアミノ酸配列のアラインメントが示され、4種の変異体の間のフレームワーク領域内のアミノ酸配列の差異が示されている。
ヒト化重鎖および軽鎖を、可能性のある対組合せの全てに組み合わせて、いくつもの機能的なヒト化抗MMP9抗体を生成する。例えば、配列番号3、5、6、7、および8のいずれかに記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変(VH)領域を有する抗体;配列番号4、9、10、11、および12のいずれかに記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変(VL)領域を有する抗体;および配列番号3、5、6、7、および8のいずれかに記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変(VH)領域および配列番号4、9、10、11、および12のいずれかに記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変(VL)領域を有する抗体、ならびにそのような抗体とMMP9との結合について競合する抗体、およびそのような抗体に対して少なくとも約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%またはそれ超の配列同一性を有する抗体が提供される。一例では、抗体は、配列番号7に対して少なくとも約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%またはそれ超の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するVH領域および配列番号12と少なくとも約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%またはそれ超の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するVL領域、または配列番号7のVH領域および配列番号12のVL領域を有する。
本明細書に開示されている重鎖可変領域の配列に対して75%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または99%以上の相同性を有する追加の重鎖可変領域アミノ酸配列も提供される。さらに、本明細書に開示されている軽鎖可変領域の配列に対して75%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または99%以上の相同性を有する追加の軽鎖可変領域アミノ酸配列も提供される。
本明細書に開示されている重鎖可変領域の配列に対して75%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または99%以上の配列同一性を有する追加の重鎖可変領域アミノ酸配列も提供される。さらに、本明細書に開示されている軽鎖可変領域の配列に対して75%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または99%以上の配列同一性を有する追加の軽鎖可変領域アミノ酸配列も提供される。
相補性決定領域(CDR)
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されている例示的な提供される抗MMP9抗体の重鎖のCDRは以下のアミノ酸配列を有する:
CDR1:GFSLLSYGVH(配列番号13)
CDR2:VIWTGGTTNYNSALMS(配列番号14)
CDR3:YYYGMDY(配列番号15)
したがって、提供される抗MMP9抗体としては、配列番号13に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1領域を有する抗体、配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR2領域を有する抗体、および配列番号15に記載のアミノ酸配列を有する重鎖CDR3領域を有する抗体、およびMMP9上のそのような抗体と同じエピトープとの結合について競合する、またはそれに結合する抗体が挙げられる。一部の場合には、抗体は、配列番号15に記載の配列を有するVH CDRを含有する。一部の場合には、抗体は、配列番号13および14に記載の配列を有するVH CDRを含有する。一部の場合には、抗体は、配列番号13および15に記載の配列を有するVH CDRを含有する。一部の場合には、抗体は、配列番号14および15に記載の配列を有するVH CDRを含有する。一部の場合には、抗体は、配列番号13、14および15に記載の配列を有するVH CDRを含有する。
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されている例示的な抗MMP9抗体の軽鎖のCDRは以下のアミノ酸配列を有する:
CDR1:KASQDVRNTVA(配列番号16)
CDR2:SSSYRNT(配列番号17)
CDR3:QQHYITPYT(配列番号18)
したがって、提供される抗MMP9抗体としては、配列番号16に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1領域を有する抗体、配列番号17に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2領域を有する抗体、および配列番号18に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3領域を有する抗体、およびMMP9上のそのような抗体と同じエピトープとの結合について競合する、またはそれに結合する抗体が挙げられる。一部の場合には、抗体は、配列番号18に記載の配列を有するVL CDRを含有する。一部の場合には、抗体は、配列番号16および17に記載の配列を有するVL CDRを含有する。一部の場合には、抗体は、配列番号16および18に記載の配列を有するVL CDRを含有する。一部の場合には、抗体は、配列番号17および18に記載の配列を有するVL CDRを含有する。一部の場合には、抗体は、配列番号16、17および18に記載の配列を有するVL CDRを含有する。
例示的なヒト化変異体抗MMP9抗体AB0045(ヒト化、改変IgG4(S241P))は、ヒト化AB0041重鎖変異体VH3(配列番号7
に記載の配列を有する)およびヒト化AB0041軽鎖変異体VH4(Vk4(配列番号12
に記載の配列を有する)に記載の軽鎖配列を有する)を含有する。
AB0045抗体は、2つの重鎖および2つの軽鎖で構成される1312アミノ酸長を含有し、理論的pIは約7.90であり、吸光係数は1g/Lについて280nmにおいて約1.50AU/cmであり、分子量は約144kDaであり、密度は製剤緩衝液中約1g/mL(製品濃度50〜100mg/mL)である。
AB0045抗体の重鎖は、配列番号49(
(シグナル配列に下線が引かれており、定常領域の配列がイタリック体で示されている))に記載の配列を有し、AB0045抗体の軽鎖は配列番号50(
(シグナル配列に下線が引かれており、定常領域の配列がイタリック体で示されている))に記載の配列を有する。
抗体は、M4と称される、ハイブリドーマによって産生された抗体、すなわち、重鎖(IgG2b)配列:
(配列番号30)(シグナルペプチドが、下線が引かれたテキストで記載されており、可変領域がプレーンテキストで記載されており、定常領域がイタリック体で記載されている)、および軽鎖(カッパ)配列:
(シグナルペプチドが、下線が引かれたテキストで記載されており、可変領域がプレーンテキストで記載されており、定常領域がイタリック体で記載されている)(配列番号31)を含有する抗体をさらに含む。M4抗体は、アミノ酸配列:
(CDR1、CDR2、およびCDR3(それぞれ配列番号34、35、および36)下線が引かれている)(配列番号32)を有する可変重鎖およびアミノ酸配列
(CDR1、CDR2、およびCDR3(それぞれ配列番号37、38、および39)、下線が引かれている)(配列番号33)を有する可変軽鎖を有する。
抗体は、M12と称される、ハイブリドーマによって産生された抗体、すなわち、配列:
(シグナルペプチドが、下線が引かれたテキストで記載されており、可変領域がプレーンテキストで記載されており、定常領域がイタリック体で記載されている)(配列番号40)を有するカッパ鎖のみを有する抗体をさらに含む。M12抗体は、アミノ酸配列
(CDR1、CDR2、およびCDR3(それぞれ配列番号42、43、および44)、下線が引かれている)(配列番号41)を有する可変軽鎖を有する。
抗体は、アミノ酸配列
(配列番号45)(シグナルペプチドが、下線が引かれたテキストで記載されており、可変領域がプレーンテキストで記載されており、定常領域がイタリック体で記載されている)を有するカッパ軽鎖およびアミノ酸配列
(配列番号46)(シグナルペプチドが、下線が引かれたテキストで記載されており、可変領域がプレーンテキストで記載されており、定常領域がイタリック体で記載されている)を有するIgG1重鎖を有するAB0046と称されるマウス抗体をさらに含む。
以下のアミノ酸配列は、AB0046のIgG1重鎖の可変領域のフレームワーク領域および相補性決定領域(CDR)を含む(CDRに下線が引かれている):
以下のアミノ酸配列は、AB0046のカッパ軽鎖の可変領域のフレームワーク領域および相補性決定領域(CDR)を含む(CDRに下線が引かれている):
現在提供される方法、組成物、および組合せと共に使用するための抗体は、種々の例示されている重鎖および軽鎖、重鎖可変領域および軽鎖可変領域、およびCDRの任意の組合せを含有するものを含めた抗体および抗体断片を含めた本明細書に記載の抗体のいずれを含んでもよい。
抗MMP9抗体をコードする核酸
本開示は、抗MMP9抗体およびその機能性断片をコードする核酸を提供する。したがって、本開示は、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片をコードする単離されたポリヌクレオチド(核酸)、そのようなポリヌクレオチドを含有するベクター、ならびにそのようなポリヌクレオチドをポリペプチドへと転写し、翻訳するための宿主細胞および発現系を提供する。
本開示は、上記の少なくとも1つのポリヌクレオチドを含むプラスミド、ベクター、転写カセットもしくは発現カセットの形態の構築物も意図している。
本開示は、上記の1つまたは複数の構築物を含む組換え宿主細胞、ならびに本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片を産生する方法も提供し、該方法は、組換え宿主細胞において重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドをコードする核酸を発現させること(同じ宿主細胞において、または異なる宿主細胞において、同じ構築物から、または異なる構築物から)を含む。発現は、核酸を含有する組換え宿主細胞を適切な条件下で培養することによって達成することができる。発現によって産生した後、抗体または抗原結合断片を、任意の適切な技法を使用して単離し、かつ/または精製し、次いで適切に使用することができる。
種々の異なる宿主細胞においてポリペプチドをクローニングし、発現させるための系が周知である。適切な宿主細胞としては、細菌、哺乳動物の細胞、酵母およびバキュロウイルス系が挙げられる。異種ポリペプチドを発現させるために当技術分野において利用可能な哺乳動物の細胞系としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、NSOマウスメラノーマ細胞およびその他の多くの細胞が挙げられる。一般的な細菌宿主はE.coliである。
作動可能に連結したプロモーター配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子および/または適宜他の配列を含めた適切な調節配列を含有する適切なベクターを選択または構築することができる。ベクターは、適宜、プラスミド、ウイルス性の例えばファージまたはファージミドであってよい。さらなる詳細については、例えば、Molecular Cloning: a Laboratory Manual:第2版、Sambrookら、1989年、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。例えば核酸構築物の調製、変異誘発、配列決定、DNAの細胞への導入および遺伝子発現、ならびにタンパク質の分析において核酸を操作するための多くの公知の技法およびプロトコールは、Short Protocols in Molecular Biology、第2版、Ausubelら編、John Wiley & Sons、1992年に詳しく記載されている。SambrookらおよびAusubelらの開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
対象のポリペプチドをコードする核酸は、宿主細胞のゲノムに組み込むか、あるいは安定なまたは一過性のエピソームエレメントとして維持することができる。
多種多様な発現制御配列−作動可能に連結したDNA配列の発現を制御する配列−のいずれも、DNA配列を発現させるためにこれらのベクターに使用することができる。例えば、対象のポリペプチドをコードする核酸は、プロモーターに作動可能に連結させ得、組換えMMP9タンパク質またはその一部を産生する方法において使用するための発現構築物中に提供することができる。
本明細書に開示されている抗体鎖をコードする核酸を分子生物学における標準の知識および手順を使用して合成することができることは、当業者には知られている。
本明細書に開示されている重鎖および軽鎖のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の例は、以下の通りである:
可変領域内のCDRおよびフレームワーク領域の近位(juxtaposition)、フレームワーク領域の構造および重鎖定常領域および軽鎖定常領域の構造を含めた抗体の構造は当技術分野で周知であるので、抗MMP−9抗体をコードする関連する核酸を得ることは、十分に当技術分野の技術の範囲内である。したがって、本明細書に開示されているヌクレオチド配列のいずれかに対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%および少なくとも99%の相同性を有する核酸配列を含むポリヌクレオチドも提供される。したがって、本明細書に開示されているヌクレオチド配列のいずれかに対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%および少なくとも99%同一性を有する核酸配列を含むポリヌクレオチドも提供される。一例では、ポリヌクレオチドは、配列番号21に対して少なくとも約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%またはそれ超の配列同一性を有するか、または配列番号21を含むもしくは配列番号21であり、かつ/または配列番号26に対して少なくとも約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%またはそれ超の配列同一性を有する、または配列番号26を含むもしくは配列番号26である。
医薬組成物
MMP9結合タンパク質、ならびにMMP9結合タンパク質をコードする核酸(例えば、DNAまたはRNA)は、例えば、薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤と組み合わせた医薬組成物として提供することができる。そのような医薬組成物は、例えば、被験体にin vivoまたはex vivoで投与するため、および、被験体を、例えば本明細書において提供される処置方法または診断方法のいずれにおいてもMMP9結合タンパク質を使用して診断し、かつ/または処置するために有用である。
薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤は、投与される患者に生理的に許容され、一緒に投与される抗体またはペプチドの治療的性質を保持する。薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤およびそれらの製剤は、一般に、例えば、Remington’ pharmaceutical Sciences(第18版、A. Gennaro編、Mack Publishing Co.、Easton、PA 1990年)に記載されている。1つの例示的な医薬キャリアは生理食塩水である。キャリアまたは賦形剤のそれぞれは、製剤の他の成分と適合し、患者に対して実質的に傷害性ではないという意味で「薬学的に許容される」。
医薬組成物は、全身的または局所的な特定の投与経路と適合するように製剤化することができる。したがって、医薬組成物は、種々の経路によって投与するために適したキャリア、希釈剤、または賦形剤を含む。
医薬組成物は、薬学的に許容される添加剤を含んでよい。添加剤の例としては、これだけに限定されないが、マンニトール、ソルビトール、グルコース、キシリトール、トレハロース、ソルボース、スクロース、ガラクトース、デキストラン、ブドウ糖、フルクトース、ラクトースならびにそれらの混合物などの糖が挙げられる。薬学的に許容される添加剤は、ブドウ糖などの薬学的に許容されるキャリアおよび/または賦形剤と組み合わせることができる。添加剤は、ポリソルベート20またはポリソルベート80などの界面活性物質も包含する。
製剤および送達方法は、一般に、処置される部位および疾患に応じて適合させる。例示的な製剤としては、これだけに限定されないが、非経口投与、例えば、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、もしくは皮下投与、または経口投与に適した製剤が挙げられる。
非経口的送達用の医薬組成物としては、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ハンクス液、リンゲル液、ブドウ糖/食塩水、およびグルコース溶液が挙げられる。製剤は、生理的条件に近づけるための補助的な物質、例えば、緩衝剤、張度調整剤、湿潤剤、界面活性剤などを含有してよい。添加剤は、殺菌剤または安定剤などの追加の活性成分も含んでよい。例えば、液剤は、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレートまたはオレイン酸トリエタノールアミンを含有してよい。追加の非経口的な製剤および方法は、Bai(1997年)J. Neuroimmunol.80巻:65〜75頁;Warren(1997年)J. Neurol. Sci. 152巻:31〜38頁;およびTonegawa(1997年)J. Exp. Med. 186巻:507〜515頁に記載されている。非経口的調製物は、ガラス製またはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは複数回投薬バイアルに封入することができる。
静脈内投与、皮内投与または皮下投与用の医薬組成物は滅菌した希釈剤、例えば、水、食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、グルタチオンまたは亜硫酸水素ナトリウム;キレート化剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸;緩衝剤、例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩、および張度を調整するための作用剤、例えば、塩化ナトリウムまたはブドウ糖を含んでよい。
注射用の医薬組成物としては、滅菌注射用溶液または分散液を即時調製するための水性液剤(水溶性の場合)または分散製剤および滅菌粉剤を含む。静脈内投与に関して、適切なキャリアとしては、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF、Parsippany、N.J.)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)が挙げられる。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール(polyetheylene glycol)など)、およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒であってよい。流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散製剤の場合では必要な粒度を維持することによって、および界面活性物質を使用することによって維持することができる。抗細菌剤および抗真菌剤としては、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸およびチメロサールが挙げられる。等張化剤、例えば、糖、マンニトール(manitol)、ソルビトールなどの多価アルコール、および塩化ナトリウムを組成物に含めることができる。生じた溶液は、そのまま使用するために包装することもでき、凍結乾燥させることもできる。凍結乾燥した調製物は、後で投与する前に滅菌溶液と組み合わせることができる。
薬学的に許容されるキャリアは、吸収またはクリアランスを安定化する、増加させるまたは遅延させる化合物を含有してよい。そのような化合物としては、例えば、炭水化物、例えば、グルコース、スクロース、またはデキストラン;低分子量のタンパク質;ペプチドのクリアランスまたは加水分解を減少させる組成物;または賦形剤または他の安定剤および/もしくは緩衝剤が挙げられる。吸収を遅延させる作用剤としては、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンが挙げられる。医薬組成物の吸収を安定化するため、または増加もしくは減少させるために、リポソームキャリアを含めた界面活性剤も用いることができる。化合物を消化から保護するために、組成物と複合体化させて(complexed)、酸性および酵素による加水分解に対して抵抗性にすることもできるか、または化合物をリポソームなどの適切に抵抗性のキャリアに複合体化させることもできる。化合物を消化から保護する手段は当技術分野で公知である(例えば、Fix(1996年)Pharm Res. 13巻:1760〜1764頁;Samanen(1996年)J. Pharm. Pharmacol. 48巻:119〜135頁;および治療剤を経口送達するための脂質組成物が記載されている米国特許第5,391,377号を参照されたい)。
本発明の組成物は、本明細書において提供される他の治療用部分またはイメージング/診断用部分と組み合わせることができる。治療用部分および/またはイメージング用部分は、別々の組成物として、またはMMP9結合タンパク質上に存在するコンジュゲートした部分として提供することができる。
in vivo投与用の製剤は、一般に、無菌である。一実施形態では、医薬組成物は、発熱物質を含まず、したがってヒト患者への投与が許容されるように製剤化される。
種々の他の医薬組成物およびそれらを調製および使用するための技法は、本開示を考慮すると当業者に公知である。適切な薬理学的組成物および関連する管理技法の詳細な一覧については、本明細書における詳細な教示を参照することができ、これは、Remington: The Science and Practice of Pharmacy 第20版(Lippincott、Williams & Wilkins 2003年)などのテキストによってさらに補充することができる。
医薬組成物は、処置を必要としている患者/被験体の身体特性、投与経路などに基づいて製剤化することができる。そのような医薬組成物は、病院および診療所に配布するために適切なラベルを伴う適切な医薬用パッケージに包装することができ、ラベルは、被験体における本明細書に記載の障害の処置を表示するためのものである。医薬品は、単一単位として包装することもでき、複数の単位として包装することもできる。本発明の医薬組成物の投与量および投与についての指示を医薬用パッケージおよび下記のキットに含めることができる。
使用方法
本開示の抗MMP9抗体およびその断片を含めたMMP9結合タンパク質は、例えば、治療方法および診断方法、例えば、試料中のMMP9を検出する方法、処置の方法(例えば、血管新生を阻害する方法など)、ならびに診断および予後判定の方法において使用することができる。したがって、診断方法および治療方法ならびに抗MMP9抗体の使用が提供される。使用方法の例は下に記載されている。
処置の方法
本明細書では、がんおよび炎症性疾患および自己免疫疾患および関連する状態を含めたMMP9の発現および/または活性に関連する疾患および障害の処置の方法を含めた処置の方法、ならびにそのような方法における、提供される抗体および組成物の使用が提供される。疾患および障害としては、これだけに限定されないが、がん、例えば、腫瘍(例えば、原発性腫瘍または転移性腫瘍)、例えば、MMP9を発現する組織において発現するまたは配置されるもの、例えば、結腸直腸がんおよび他のがん、例えば、胃腺癌、結腸直腸腺癌、肝細胞癌、および他の腫瘍型、ならびに炎症性の疾患および状態ならびに自己免疫性の疾患および状態、例えば、UC、クローン病を含めたIBD、膠原性大腸炎、関節リウマチ、および炎症およびMMP9媒介性組織破壊に関連する他の障害が挙げられる。
一部の場合には、疾患または状態は、進行性の膵臓腺癌または食道胃腺癌、非小細胞肺がん、肺扁平上皮癌、肺腺癌、胃腺癌、結腸直腸癌、膵臓腺癌、頭頸部扁平上皮癌、または肝細胞癌である。
実施例において実証されている通り、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)およびMMP9の発現は、特に、炎症性疾患を含めた種々の疾患病理および腫瘍学に関連づけられる。MMP9は、基底膜および他の構造タンパク質の破壊的なリモデリングを通じて、かつ/または増殖因子およびサイトカイン、例えば、TGFβ、VEGF、TNFα、IL−6、およびIL−1βの血管透過性および生物学的利用能を増大させることによって疾患を促進し得る。MMP9は、ECMにより隔離されたVEGFおよびFGF−2、ならびに膜につながれたEGFの生物学的利用能を調節する。実施例に記載の通り、本明細書に記載の抗体を使用してMMP9を特異的に阻害することは、がんおよび炎症性疾患、例えば、関節リウマチ、原発性結腸直腸がんおよび転移性結腸直腸がん、ならびに潰瘍性大腸炎(UC)の認められたマウスモデルのモデルにおいて効果的であった。
本明細書で使用される場合、「処置する(treat)」または「処置(treatment)」とは、本明細書に記載の疾患または障害に関連する1つまたは複数の症状の発生を停滞もしくは延期させること、または現存する制御されていないまたは望ましくない症状を改善すること、さらなる症状を予防すること、または症状の根底にある代謝的原因を改善もしくは予防することを意味する。したがって、この用語は、疾患もしくは症状を有する、またはそのような疾患もしくは症状が発生する潜在性がある哺乳動物の被験体に有益な結果が付与されたことを示す。応答は、患者が、特に、これだけに限定することなく、生存の延長を含めた、疾病の徴候または症状の部分的もしくは完全な緩和、または低減を経験したときに達成される。予測無増悪生存時間は、再発の数、疾患の病期、および他の因子を含めた予後因子に応じて、数か月から数年の単位で測定することができる。
そのような方法と併せて使用するための医薬組成物、例えば、本明細書に記載の抗体またはその断片のいずれかを含有する医薬組成物も提供される。組成物は、任意の適切な経路によって局所的または全身的に投与するために適したものであってよい。
一般に、MMP9結合タンパク質は、治療有効量、例えば、被験体における腫瘍の成長の阻害に影響を及ぼす量、転移を阻害する量、MMP9活性を阻害する量、またはがん、炎症性の疾患もしくは状態、または自己免疫性の疾患もしくは状態などの特定の疾患または状態を処置する量で投与される。
本明細書で使用される場合、別段の指定がない限り、「治療有効量」または「有効量」という用語は、被験体に投与されると(単独で、または別の治療剤と組み合わせてのいずれかで、場合により指定の通り)疾患の状態または疾患の進行を予防または改善するために有効である、または症状の改善、例えば、関連性のある医学的状態の処置、治癒、予防もしくは改善、またはそのような状態の処置、治癒、予防または改善の割合の増大をもたらす作用剤または化合物または組成物の量を指す。単独で投与される個々の活性成分に適用する場合、治療有効用量とは、その成分単独を指す。組合せに適用する場合、治療有効用量とは、組み合わせて投与されるか、段階的に投与されるか、または同時に投与されるかにかかわらず、治療効果をもたらす、活性成分を組み合わせた量を指す。一例では、抗MMP9抗体のin vivo投与を使用する場合、正常な投与量は、投与経路に応じて、1日当たり哺乳動物の体重1kg当たり約10ngから約100mgもしくはそれ超に至るまで、好ましくは1日当たり1kg当たり約1μg〜1日当たり1kg当たり50mg、必要に応じて1日当たり1kg当たり約100μg〜1日当たり1kg当たり20mg、1日当たり1kg当たり500μg〜1日当たり1kg当たり10mg、または1日当たり1kg当たり1mg〜1日当たり1kg当たり10mgの範囲であり得る。
いくつかの例では、抗体またはその断片を、例えば、約1mg/kgから約30mg/kgまでの用量で静脈内投与する。いくつかの例では、抗体または断片を、例えば、約2mg/kg〜約28mg/kgの用量で静脈内投与する。いくつかの例では、抗体または断片を、例えば、約4mg/kg〜約28mg/kgの用量で静脈内投与する。他の例では、抗体または断片を、約1mg/kg〜約14mg/kg、例えば、約2mg/kgから約14mg/kgまでの用量で、q14d、14日ごとに1回静脈内投与する。いくつかの実施形態では、有効投与量を7日〜28日ごとに1回投与する。一実施形態では、有効投与量を7日ごとに1回投与する。別の実施形態では、有効投与量を28日ごとに1回投与する。
一実施形態では、抗体またはその断片を、例えば、約1mg/kgから約30mg/kgまでの用量で皮下投与する。他の実施形態では、皮下投与量は、14日ごとに1回、約1mg/kgから約28mg/kgまで、例えば、約2mg/kgから約28mg/kgまでにわたる。他の例では、抗体または断片を14日ごとに1回、約1mg/kg〜約14mg/kg、例えば、約2mg/kgから約14mg/kgまでの用量で皮下投与する。いくつかの実施形態では、有効投与量を7日〜28日ごとに1回投与する。一実施形態では、有効投与量を7日ごとに1回投与する。別の実施形態では、有効投与量を28日ごとに1回投与する。
いくつかの例では、抗体を、例えば、静脈内に、体重1kg当たり50mg、75mg、100mg、125mg、150mg、175mg、200mg、225mg、250mg、275mg、300mg、325mg、350mg、375mg、400mg、425mg、450mg、475mg、500mg、525mg、550mg、570mg、600mg、625mg、650mg、675mg、700mg、725mg、750mg、775mg、800mg、825mg、850mg、875mg、900mg、925mg、950mg、975mg、または1000mgの用量で投与する。他の例では、抗体を、例えば、静脈内に、1100mg/Kg、1200mg/Kg、1300mg/Kg、1400mg/Kg、1500mg/Kg、1600mg/Kg、1700mg/Kg、または1800mg/Kgの投与量で投与する。いくつかの例では、抗体を、例えば、静脈内に、体重1kg当たり100mg、200mg、400mg、600mg、1200mg、または1800mgの用量で投与し、いくつかの例では、133mg/Kg、267mg/Kg、400mg/Kg、600mg/Kgまたは1200mg/Kgの投与量で投与する。いくつかの例では、抗体を1週間、2週間または3週間の間隔、または1週間ごと、2週間ごと、または3週間ごとに1回投与する。いくつかの例では、適切な投与量は、0.9%塩化ナトリウムを使用して作製する。
選択された投与レジメンは、MMP9結合タンパク質の活性、投与経路、投与の時間、使用されている特定の化合物の排出速度、処置の持続時間、使用する特定の組成物と組み合わせて使用する他の薬物、化合物および/または材料、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、全体的な健康ならびに以前の病歴、ならびに同様に医学の分野で周知の因子を含めた種々の因子に依存する。
いくつかの実施形態では、標的媒介性体内動態(target−mediated disposition)を示す抗体についての薬物動態モデルに基づいて投与量を決定する。可溶性受容体標的を対象とする抗体について観察される比較的線形の薬物動態とは対照的に、組織に基づく標的受容体を対象とする抗体では、非線形薬物動態が頻繁に実証される。Mager, D. E.(2006年)、Adv Drug Deliv Rev 58巻(12〜13号):1326〜1356頁。非線形体内動態についての基礎は、抗体と標的の高親和性結合および結合の程度(用量と比較して)に関し、したがって、相互作用が抗体の薬物動態特性に反映される。Mager, D. E.およびW. J. Jusko(2001年)、J Pharmacokinet Pharmacodyn 28巻(6号):507〜532頁。抗体−受容体複合体の受容体媒介性エンドサイトーシス(内部移行)が標的媒介性薬物体内動態に含まれる。Wang, W.、E.
Q. Wangら(2008年)、Clin Pharmacol Ther 84巻(5号):548〜558頁。
薬物(抗体)の不在下で標的媒介性体内動態を有する抗体についての薬物動態モデルでは、標的受容体は一定の速度で合成され、一次プロセスによって排除される。結果として、標的受容体は、薬物(抗体)の不在下では定常状態の濃度で存在する。薬物を体に加える場合、薬物を標的受容体と2分子反応で相互作用させること、あまりよく灌流されない組織に分布させること、または一次プロセスによって排除することができる。低薬物濃度で、薬物は、高親和性結合に起因して受容体上を優勢に移動する。体に進入する薬物の量が利用可能な受容体の塊に結合するために十分になるに従い、薬物は、組織内外に分布し、排除される。薬物濃度が低下し、薬物が組織と平衡化するに従い、新しく合成された受容体に結合する追加のレザバーがもたらされる。
当技術分野における通常の技術を有する臨床医は、必要な医薬組成物の有効量(ED50)を容易に決定し、処方することができる。例えば、医師または獣医師は、医薬組成物に使用する本発明の化合物の用量を、所望の治療効果を達成するために必要なレベルよりも低いレベルで開始し、投与量を所望の効果が達成されるまで徐々に上昇させることができる。
一部の場合には、処置の方法は、作用剤、例えば、抗MMP9抗体またはそれを含有する組成物を非経口投与、例えば、静脈内投与、動脈内投与、皮内投与、筋肉内投与、もしくは皮下投与すること、または経口投与することを含む。
本明細書で使用される場合、「被験体」という用語は、哺乳動物の被験体を意味する。例示的な被験体としては、これだけに限定されないが、ヒト、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ヤギおよびヒツジが挙げられる。いくつかの実施形態では、被験体は、がん、炎症性の疾患もしくは状態、または自己免疫性の疾患もしくは状態を有し、下記の通り本発明の作用剤を用いて処置することができる。ある特定の実施形態では、被験体は、がん、炎症性の疾患もしくは状態、または自己免疫性の疾患もしくは状態を有するヒトであり、下記の通り本発明の作用剤を用いて処置することができる。
必要であれば、処置のために、方法は、追加の療法、例えば、がんの場合では、MMP9結合タンパク質に加えて、がんの外科的除去および/または抗がん剤の投与または処置をさらに含んでよい。そのような抗がん剤の投与または処置は、本明細書に開示されている組成物の投与と同時であっても逐次的であってもよい。
いくつかの実施形態では、抗体を単独で、単独療法として投与する。他の実施形態では、抗体を、併用療法の一部として、1種または複数の他の治療剤と一緒に投与する。治療剤としては、これだけに限定されないが、炎症、自己免疫疾患、線維性疾患、またはがんを処置するために適した作用剤が挙げられる。治療剤は、化学療法剤、免疫療法剤、抗がん剤、抗炎症剤、または抗線維化剤であってよい。併用療法では、本出願の抗体を、それを必要とする患者の処置において、一次的なまたは第一線の作用剤として使用することもでき、二次的なまたは追加の作用剤として使用することもできる。炎症性疾患、線維性疾患または自己免疫疾患、例えば、IBD、UC、クローン病、がん、または関節リウマチを処置するための一部の態様では、抗体を単独で、または、アポトーシスシグナル調節キナーゼ、脾臓チロシンキナーゼ、ホスファチジルイノシチド3−キナーゼ、またはJanusキナーゼ、またはリジルオキシダーゼ、LOXL2などのリジルオキシダーゼ様(LOXL)タンパク質、および/またはDDR1などのジスコイジンドメイン受容体(DDR)などのキナーゼの活性を阻害または調節する他の治療剤と一緒に投与する。例として、LOXL2およびDDR1の活性を阻害または調節する治療剤は、LOXL2および/またはDDR1に特異的に結合する抗体である。一態様では、US2009/0104201、US2009/0053224およびUS2011−0200606に記載の抗LOXL2抗体および米国仮出願第61/705,044号に記載の抗DDR1抗体が併用療法において使用されている;これらの文書は全て、参照により本明細書に組み込まれる。がんを有する患者を処置するための他の態様では、抗体を単独で、または、1種または複数の化学療法剤または抗悪性腫瘍剤、例えば、ゲムシタビン、ナブパクリタキセル、mFOLFOX6、フォリン酸、フルオロウラシル(5−FU)およびオキサリプラチンからなるmFOLFOX6、フォリン酸、フルオロウラシル(5−FU)およびイリノテカンからなるFOLFIRI、カルボプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセドおよび/またはベバシズマブと組み合わせて投与する。膵臓腺癌に対するものでは、抗体を単独で2週間の間隔で、またはゲムシタビンおよび/もしくはナブパクリタキセルの28日サイクルの化学療法と一緒に投与する。一例では、食道胃腺癌に対して、抗体を単独で2週間の間隔で、または28日サイクルで投与されるmFOLFOX6の28日サイクルの化学療法と一緒に投与する。一例では、非小細胞肺がんに対して、抗体を単独で3週間の間隔で、またはカルボプラチンおよびパクリタキセルの21日サイクルの化学療法と一緒に、またはペメトレキセドおよび/もしくはベバシズマブと一緒に投与する。一例では、結腸直腸がんに対して、抗体を単独で2週間の間隔で、またはFOLFIRIの14日サイクルの化学療法と一緒に投与する。併用処置では、化学療法は、公知の投与量および手順で施行することができる。
いくつかの実施形態では、抗体、例えばAB0045を、進行性の膵臓腺癌または食道胃腺癌、非小細胞肺がん、潰瘍性大腸炎、結腸直腸がん、クローン病、または関節リウマチを有する患者の処置において使用する。そのような実施形態の一部の態様では、患者に、抗体を、体重1kg当たり100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、800mg、900mg、1000mg、1100mg、1200mg、1300mg、1400mg、1500mg、1600mg、1700mg、または1800mgの投与量で、1週間、2週間または3週間の間隔で静脈内投与する。一部の態様では、適切な投与量は、0.9%塩化ナトリウムを使用して作製する。一部の態様では、患者は、抗体、例えばAB0045を、単独療法としてまたは他の治療剤との併用療法の一部として受ける。
UC、がん、例えば、結腸直腸がん、膵がん、胃がん、クローン病、炎症性の疾患もしくは障害または線維性の疾患もしくは障害、または関節リウマチを処置するためのいくつかの実施形態では、抗体、例えばAB0045を、単独でまたはLOXL2(リジルオキシダーゼ様2)および/もしくはDDR1(ジスコイジンドメイン受容体1)に対する抗体を含めた他の免疫療法剤と一緒に投与する。
いくつかの実施形態では、膵臓腺癌に対して、抗体を、単独で2週間の間隔で、またはゲムシタビンおよび/もしくはナブパクリタキセルの28日サイクルの化学療法と一緒に投与する。
いくつかの実施形態では、食道胃腺癌に対して、抗体を、単独で2週間の間隔で、または28日サイクルで投与されるmFOLFOX6の28日サイクルの化学療法と一緒に投与する。
いくつかの実施形態では、非小細胞肺がんに対して、抗体を、単独で3週間の間隔で、またはカルボプラチンおよびパクリタキセルの21日サイクルの化学療法と一緒に、またはペメトレキセドおよび/もしくはベバシズマブと一緒に投与する。
一例では、結腸直腸がんに対して、抗体を、単独で2週間の間隔で、またはFOLFIRIの14日サイクルの化学療法と一緒に投与する。併用処置の一部の態様では、化学療法剤または免疫療法剤を、公知の投与量および手順を用いて投与する。
一部の態様では、MMP9抗体の投与量を調整し、体重1kg当たり133mg、267mg、400mg、600mgまたは1200mgで投与することができる。各治療サイクルの後に、患者をMMP9抗体、MMP9、または他の適切なバイオマーカーのレベルについてモニタリングする。
併用療法における作用剤は、上記の適切な経路によって、同時に(同じ組成物中で、もしくは別々に)、または逐次的に、任意の順序で投与することができる。
いくつかの実施形態では、処置方法は、有効性または活性、例えば、薬力学的活性をモニタリングするためのステップを含めた、処置をモニタリングするためのステップを含む。いくつかの例では、そのような方法は、該方法および組成物を使用して処置されている被験体から得た生物学的試験試料中の、処置の効力を示すサイトカインおよび他の炎症性マーカーなどのマーカーの存在、非存在、レベル、および/または発現を検出または測定することを含む。試料は、一般には、血液試料または血清試料であるが、本明細書に記載の他の生体試料を含んでよい。そのような方法において使用するためのマーカーとしては、組織メタロプロテイナーゼ阻害物質1(TIMP−1)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−アルファ)、マクロファージ炎症性タンパク質−2(MIP−2)、インターロイキン−17A(IL−17A)、CXCL10、リンホタクチン、マクロファージ炎症性タンパク質−1ベータ(MIP−1ベータ)、オンコスタチン−M(OSM)、インターロイキン−6(IL−6)、単球走化性タンパク質3(MCP−3)、血管内皮増殖因子A(VEGF−A)、単球走化性タンパク質−5(MCP−5)、インターロイキン−1アルファ(IL−1アルファ)、マクロファージコロニー刺激因子−1(M−CSF−1)、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、成長調節アルファタンパク質(KC/GRO)、インターロイキン−7(IL−7)、白血病抑制因子(LIF)、アポリポタンパク質A−I(Apo A−I)、C反応性タンパク質(CRP)、顆粒球走化性タンパク質−2(GCP−2)、インターロイキン−11(IL−11)、単球走化性タンパク質1(MCP−1)、フォン・ヴィルブランド因子(vWF)、および幹細胞因子(SCF)遺伝子産物が挙げられる。いくつかの実施形態では、マーカーは、例えば、疾患がUCなどのIBDである場合、KC/GRO、LIF、CXCL10、MPO、MIP−2、およびMCP−5遺伝子産物の中から選択される。
いくつかの実施形態では、各処置サイクルの後に、患者をMMP9抗体、MMP9、または他の適切なバイオマーカーのレベルについてモニタリングする。
提供される方法としては、利用可能な処置および治療レジメンと比較して改善された安全性プロファイルおよび/またはそのような疾患および状態の処置における持続的な長期有効性をもたらす方法が挙げられる。
炎症性の疾患および状態ならびに自己免疫性の疾患および状態
いくつかの実施形態では、該方法および組成物、例えば、抗体およびその断片は、炎症性疾患および自己免疫疾患を、例えば、そのような疾患または状態を有する被験体におけるMMP9を阻害することによって処置することに使用される。炎症性疾患および自己免疫疾患としては、炎症性腸疾患(IBD)(クローン病、潰瘍性大腸炎(UC)、および分類不能大腸炎を含む)、膠原性大腸炎、関節リウマチ、敗血症、多発性硬化症、筋ジストロフィー、ループス、アレルギー、敗血症、および喘息が挙げられる。
実施例に記載の通り、MMP9および他のMMPは炎症性疾患および自己免疫疾患に関与する。
マトリックスメタロプロテイナーゼ−9(MMP9)は、RA患者の血清、滑液、および滑膜において誘導され、また、MMP9/TIMP−1比がタンパク質分解活性の上昇に有利になるように変更される。MMP9は、疾患媒介性破骨細胞および活性化された単球/マクロファージ系列の細胞から分泌される。抗体誘発性関節炎疾患表現型に対する抵抗性がMMP9ノックアウトマウス系統において観察される。MMP9は、MMP8などのコラゲナーゼの切断活性によって生じた、ほどけたII型コラーゲンを分解し、それにより、関節軟骨の破壊に寄与する。
しかし、他のMMPの重要な役割を考慮すると、そのような疾患を処置するためには、特異的なMMP9阻害剤が必要である。本明細書の実施例において示されているように、本発明の抗体は、認められた動物モデルを使用して、IBD、関節リウマチ(RA)、および敗血症を含めた種々の炎症性疾患および自己免疫疾患において有効であることが実証された。したがって、いくつかの実施形態では、該方法、組成物、および使用により、炎症性疾患および自己免疫疾患を有する被験体を処置する。いくつかの実施形態では、阻害剤、方法、および使用により、他のMMPを阻害することなく、例えば、MMP2を阻害することなく、またはそのような他のMMPを実質的な程度に阻害することなく、MMP9を阻害する。一実施形態では、該方法により、そのような疾患または状態を有する被験体における組織傷害、全身性炎症、および/または局所的炎症を防止または減少し、いくつかの例では、組織傷害および炎症の両方を該方法によって処置する。別の実施形態では、該方法には、マリマスタットなどの汎MMP阻害剤を用いて観察されるものと比較して毒性の低下および/または筋骨格症候群(MSS)または類似した症状の誘導の低下が伴う。いくつかの例では、被験体が、炎症性疾患に対する別の療法、例えば、TNF−アンタゴニスト、例えば、抗TNF抗体、例えば、インフリキシマブに対して不十分な応答を有する、すなわち、TNF−アンタゴニスト不応疾患を有する。したがって、提供される方法としては、そのような被験体の炎症を処置することにおいて有効な方法が挙げられる。
炎症性腸疾患
炎症性腸疾患(IBD)としては、クローン病、潰瘍性大腸炎(UC)、および分類不能大腸炎が挙げられる。潰瘍性大腸炎(UC)は、2つの主要なIBDのうちの1つであり、結腸のびまん性粘膜炎症、および関連する潰瘍形成を特徴とする。UCの慢性経過は、間欠的な疾患増悪、その後の寛解の期間を含む。多くの患者が、抗TNFα標的化治療薬などの作用剤に対する応答が不十分であり、疾患に関連する症状を被り続ける。UCの患者では、8〜10年の疾患活動性後に結腸がんのリスクが有意に上昇する。
炎症性腸疾患(IBD)治療薬により、疾患部位への炎症細胞の動員および接近を予防すること、疾患部位における細胞の活性化を予防すること、および/または細胞活性化の下流の影響を阻害することによって疾患を調節することができる。
UCの薬理学的処置は、一般に、疾患の重症度および疾患の場所または程度に基づいて「厳密に(by line)」進行する。疾患の重症度は、患者の症状、内視鏡所見、および検査結果に基づいて軽度、中程度または重度と特徴付けられ、臨床試験の状況では、多くの場合、表1Bに示されているMayoスコアによって定義される。
実施例に記載の通り、証拠により、潰瘍性大腸炎(UC)および他の炎症性腸疾患(IBD)の病理におけるMMP9の役割が裏付けられる。大腸炎のTNBSモデルおよびDSSモデルにおいて広範囲にわたるMMP阻害剤が効果的である(NaitoおよびYoshikawa 2005年;MedinaおよびRadomski 2006年)。MMP9およびMMP2は、類似した基質特異性を有する2つの最も密接に関連するMMPであるが、MMP9タンパク質および活性は、IBDおよび前臨床的な大腸炎の動物モデルにおいて大きな程度で誘導され、また、ヒトUCにおける進行性疾患をより強力に誘導し、それに関連する。MMP2は、より遍在的に発現され、その役割は、非疾患組織の恒常性のために重要である。MMP9の欠如により、マウスデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発モデルにおける大腸炎が防止されるが、MMP2は結腸に対して保護的な機能を果たす。DSSモデルにおける好中球およびリンパ球の蓄積はMMP9依存性であり、上皮細胞由来のMMP9が組織傷害に寄与するという証拠が存在する。
MMP9はヒトUC組織において、健康な結腸陰窩(IV型コラーゲン染色の明確なリングによりインタクトな基底膜が特徴づけられる)ではなく、組織が乱されたIV型コラーゲンの領域において検出され、これにより、基底膜の完全性の損失が示される。MMP9は、IV型コラーゲンおよび他のECM構成成分を分解し、それにより炎症細胞の浸潤を可能にする。大腸炎では、粘膜におけるMMP9活性により、陰窩の下にある基底膜の分解、および粘膜損傷および粘膜下組織の管腔内細菌への曝露がもたらされ得る。血管周囲の基底膜のMMP9による分解により、疾患部位への白血球の血管外遊走が促進され得る。細胞外マトリックスにおけるMMP9活性により、疾患の進行に寄与するTNFα、IL−6、およびIL1−Bなどの炎症性サイトカインが活性化し、放出され得る。
利用可能なUC療法は、完全に満足すべきものになっていない。例えば、種々の処置は、一般に、疾患の重症度、場所および/または程度に基づいて施される。重症度の低い疾患に対しては、処置は、5’−アミノサリチル酸(5’−ASA)浣腸、コルチコステロイド浣腸および経口5’−ASA調製物を含む。より重症度が高い疾患の患者、および/または第一選択療法に応答しない患者は、一般に、経口コルチコステロイドのコースを用いて処置される。被験体がステロイドを絶つことを補助するため、および寛解を維持するために、アザチオプリンおよび6−メルカプトプリン(6−MP)などの免疫調節物質を使用する。抗TNFα療法、例えば、キメラ抗体Remicade(登録商標)(インフリキシマブ)が、より重症度が高い疾患の患者に、およびコルチコステロイドに対して不応性またはそれに依存性である患者において一般に使用される。インフリキシマブ処置では、一般に、長期にわたってステロイドを用いない寛解を誘導し維持することができない。8週までに寛解が達成され、54週を通して寛解のままであるのは患者の20%のみであり、大多数の患者は、30週までに再発する。コルチコステロイドを完全に用いない長期寛解が達成されるのは患者の26%のみであった。寛解の代わりに、応答の低ストリンジェントなエンドポイントを評価した場合(症状の完全ではない低減を示す)、患者のおよそ60%が30週または54週にわたってこの軽減の程度を維持できない。
シクロスポリンは、劇症UCで入院した患者の外科手術の必要性を遅らせる助けとなっているが、維持療法としてのその有効性は確立されていない。結腸全摘除術と回腸嚢肛門吻合術(IPAA)の二段階からなる外科手術が治癒的である。しかし、結腸全摘除術は、多くの患者にとって、生涯にわたる頻繁な便通、性機能障害の高リスク、ならびに直腸出血を伴うまたは伴わない下痢、テネスムス、切迫、疼痛、失禁および発熱を生じる炎症性J嚢(inflamed J pouch)−回腸嚢炎の発生の50%リスクが付される望ましくない転帰である。さらに、IPAA外科手術の後には女性不妊症のリスクが高度に上昇する。
本明細書における実施例において実証されている通り、本発明の特異的な抗MMP9抗体は、一般に認められたUC動物モデルにおいて有効であり、組織破壊および異常な組織リモデリングを有効に防止すること、ならびに局所的および全身的な炎症促進性因子の下方制御が実証された。該抗体は、UCの処置について検討されている作用剤を評価するために使用されるよく確立された前臨床モデルであるマウスにおけるDSS誘発性大腸炎の処置において、多数のエンドポイントに対してロバストな有効性を有した。したがって、いくつかの実施形態では、潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病、または分類不能大腸炎などの炎症性腸疾患の被験体を処置するために該方法および組成物を使用する。いくつかの実施形態では、該方法および抗体により、MMP2などの他のMMPが阻害されることなく、MMP9が阻害される。
いくつかの例では、該方法および組成物により、基底膜の破壊、粘膜損傷、管腔内細菌への粘膜下組織の曝露、炎症、サイトカイン活性化および白血球血管外遊走が防止される。いくつかの実施形態では、被験体は、中程度〜重度のUCを有し、例えば、重度のUCを有する。いくつかの実施形態では、被験体はステロイド依存性UCを有する。一部の態様では、該処置方法は、コルチコステロイド処置に取って代わる、またはそれに対する代替として施行される。
いくつかの実施形態では、被験体は、他のUC療法、例えば、TNF(例えば、TNF−アルファ)アンタゴニスト、例えば、抗TNF抗体(例えば、インフリキシマブおよび/またはアダリムマブ)に応答しなかった、すなわち、TNFアンタゴニスト不応性の患者である。例えば、いくつかの実施形態では、被験体は、インフリキシマブ療法または他のTNF−アルファターゲティング処置では長期寛解が達成できなかった患者である。他の場合では、被験体は、別のUC療法、例えば、経口または直腸適用の処置、例えば、浣腸、坐剤および泡沫剤)、5−アミノサリチル酸(5−ASA)、経口および直腸適用のコルチコステロイド、免疫抑制剤、例えば、6−メルカプトプリン、アザチオプリン、メトトレキセート、および/またはシクロスポリンに応答しなかった。一部の態様では、該方法により、このような処置と比較して安全性プロトコールが改善された処置がもたらされる、または有効性がより持続的で長期にわたる処置がもたらされる。
一部の場合には、該方法により、他のMMPまたは特定の他のMMP、例えば、MMP2が影響を受けることなく、MMP9が阻害される。
いくつかの実施形態では、UCに関連して、処置に対する「応答」は、Mayoスコアが少なくとも3点および30%低下し、同時に直腸出血サブスコアが少なくとも1点低下する、または絶対的な直腸出血サブスコアが0〜1である場合に達成される。いくつかの実施形態では、「寛解」とは、Mayoスコアが2以下であり、個々のサブスコアが1より大きくないことと定義される。いくつかの実施形態では、「粘膜治癒」とは、内視鏡サブスコアが1以下であると定義される。いくつかの実施形態では、「ステロイド節約」とは、ステロイドで開始した患者に対して、進行中のステロイド使用の非存在下での寛解と定義される。いくつかの実施形態では、生活の質がエンドポイントであり、これは、IBD−QoLまたはSF−36などの検証された生活の質の尺度などの公知の方法を使用して評価される。
クローン病(CD)は、瘻孔形成、膿瘍、または狭窄などの合併症への進行を伴う再発および寛解エピソードによって定義される、胃腸管の慢性炎症性障害である。腸管外での顕在化、例えば、ぶどう膜炎、関節炎、皮膚病変、および腎結石が患者の40%超で起こる。軽度〜中程度のクローン病(Crohn’s)に対する処置パラダイムは、シプロフロキサシンおよびフラジールなどの抗生物質、5−ASA、ブデソニド、または全身性コルチコステロイドであるが、全身性ステロイド薬の長期の副作用により、それらの有用性が著しく抑えられる。これらの第一選択療法が働かない軽度〜中程度の疾患を有する患者は、多くの場合、アザチオプリンを受け1年の時点で寛解のままである。アザチオプリンがうまくいかない患者または重症度がより高い疾患を有する患者に対しては、インフリキシマブなどの作用剤を用いたTNFα遮断が最後の選択肢として残る。外科的切除が治癒的であるUCとは対照的に、そのような療法は、クローン病患者には、2つの理由で難しい:1)疾患が胃腸管全体を通して拡散し、隔離された疾患(例えば、回腸末端部)の例では、切除は切除部位における再発疾患が頻繁に伴う、2)この疾患は経壁であるので、外科的切除により、患者が将来狭窄および/または瘻孔が発生するリスクにさらされる。
アザチオプリンおよびインフリキシマブを使用した併用療法は、いずれの療法単独よりも、26週における寛解および粘膜治癒の誘導について優れている可能性があるが、そのような作用剤を同時に使用することにより、感染および悪性腫瘍(肝脾のT細胞リンパ腫)のリスクが増加し、これによりそれらの有用性が限定される。UCと同様に、応答、寛解、粘膜治癒、ステロイド節約および生活の質は全て重要なエンドポイントであるが、CDでは、一般に、クローン病活動性指標(CDAI)が検証された選り抜きの転帰手段(instrument)であり、表1Cに記載されている:
いくつかの実施形態では、被験体は、中程度〜重度のCDを有し、例えば、重度のCDを有する。いくつかの実施形態では、被験体はステロイド依存性CDを有する。一部の態様では、処置方法は、コルチコステロイド処置に取って代わる、またはそれに対する代替として施行される。
いくつかの実施形態では、被験体は、他のCD療法、例えば、TNFアンタゴニスト、例えば、抗TNF抗体(例えば、インフリキシマブおよび/またはアダリムマブ)に応答しなかった、すなわち、TNFアンタゴニスト不応性の患者である。例えば、いくつかの実施形態では、被験体は、インフリキシマブ療法または他のTNF−アルファターゲティング処置で長期寛解が達成できなかった患者である。他の場合では、被験体は、別のCD療法に応答しなかった。一部の態様では、該方法により、このような処置と比較して安全性プロトコールが改善された処置がもたらされる、または有効性がより持続的で長期にわたる処置がもたらされる。
がん
いくつかの実施形態では、該方法および組成物、例えば、抗体およびその断片はがんおよび腫瘍ならびに関連する疾患および状態の処置において使用される。例示的ながんとしては、結腸直腸がん、胃腺癌、結腸直腸腺癌、および肝細胞癌が挙げられる。TNFαは悪性腫瘍のサーベイランスにおいて重要な役割を果たし、したがって、抗TNFα作用剤を用いると、腫瘍形成が増加するリスクがある。本願の実施例において本明細書で実証されている通り、抗MMP9モノクローナル抗体療法は、結腸直腸の腫瘍形成を防止することにより、抗TNF−アルファ療法とさらに区別される。MMP9は細胞の浸潤、転移、血管新生、および脈管形成において役割を果たす。炎症性疾患における知見と同様に、IHC分析により、MMP9およびMMP2が結腸直腸がんを含めたヒトの腫瘍組織において別個の染色パターンを有し、MMP−9について、より一貫した腫瘍に関連する陽性が観察されることが示される。
MMP9の検出方法
本開示は、被験体におけるMMP9を検出する方法、例えば、MMP9を発現している腫瘍もしくは腫瘍に関連する組織、または自己免疫疾患または炎症性疾患などの本明細書に記載の疾患に関連する組織もしくは体液もしくは他の生体試料を検出するための、方法も意図している。したがって、MMP9活性を有する腫瘍を診断する、モニタリングする、病期分類するまたは検出する方法が提供される。
被験体(例えば、MMP9発現と関連する腫瘍を有する疑いがある、もしくはそれを有することが分かっている個体、または本明細書に記載の炎症性疾患または自己免疫疾患などの別の疾患または状態を有する疑いがある、もしくはそれを有することが分かっている個体)由来の試料(例えば、試験生体試料)を、MMP9の存在、非存在、発現、および/またはレベルについて分析することができる。例えば、そのような試料を収集し、本明細書に記載の抗体または断片などのMMP9結合タンパク質と試料中の物質(例えば、タンパク質)との結合が存在するかしないかを検出することによって分析することができる。いくつかの例では、該方法は、検出された結合の量を対照試料との結合の量と比較すること、またはMMP9の検出レベルをMMP9の対照レベルと比較することをさらに含む。一部の場合には、該方法により、本明細書に記載の疾患または状態の存在、非存在、または重症度が示される。
この分析は、本明細書に記載のMMP9結合タンパク質を使用した処置を開始する前に実施することができ、がん処置の進行のモニタリングの一部として行うこともできる。いくつかの実施形態では、検出アッセイを実施し、例えば、診断アッセイの結果に基づいて被験体の処置を開始、変更、または中止することによって行われる処置の方法が提供される。そのような診断分析は、これだけに限定されないが、組織、そのような組織から単離された細胞などを含めた任意の試料を使用して実施することができる。一部の場合には、該方法を、血液、血漿、血清、全血、唾液、尿、または精液などの液体試料に対して実施する。組織試料としては、例えば、ホルマリン固定したまたは凍結させた組織切片が挙げられる。
MMP9を検出および分析するための任意の適切な方法を使用することができる。当技術分野で公知の種々の診断アッセイ技法、例えば、競合結合アッセイ、直接または間接サンドイッチアッセイおよび不均一相または均一相のいずれかで行われる免疫沈降アッセイが、そのような目的に適し得る。
検出方法において使用するためのMMP9結合タンパク質は、検出可能部分を用いて標識することができる。検出可能部分により、直接的に、または間接的に、検出可能なシグナルが生じる。例えば、検出可能部分は、例えば、放射性同位元素、例えば、3H、14C、32P、35S、もしくは125I、蛍光化合物もしくは化学発光化合物、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、Texas Red、シアニン、フォトシアン、ローダミン、もしくはルシフェリン、または酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼなどの本明細書に記載のもののいずれであってもよい。
検出は、MMP9結合タンパク質とMMP9との結合に適した条件下で試料を接触させ、MMP9結合タンパク質−MMP9複合体が存在すること(例えば、レベル)または存在しないことを評価することによって達成することができる。参照試料のレベルと比較した試料中のMMP9のレベルにより、MMP9活性を有する腫瘍または腫瘍に関連する組織が存在することが示され得る。参照試料は、被験体から以前に取得した試料であっても別の個体由来の試料であってもよい。
一部の態様では、MMP9 mRNAを、例えば、ハイブリダイゼーションによって、例えば、発色in situハイブリダイゼーション(CISH)によって検出する。一部の態様では、高レベルの炎症細胞由来のMMP9が、他の検出方法による所望の細胞型におけるシグナル、例えばIHCによる、例えば腫瘍上皮におけるシグナルを不明瞭にする場合に、そのような検出方法を使用する。
本発明の種々の態様が、以下のいくつかの実施例を介してさらに記載され、例示されており、これはいずれも本発明の範囲を限定するものではない。
(実施例1)
免疫原性
結果により、AB0045とAB0041が同等の結合性および阻害性を有すること、およびAB0046が、例えば、ヒト疾患のマウスモデルにおいて関連するマウス代理抗体としての機能を果たし得ることが確認された。
キメラMMP9抗体AB0041およびヒト化MMP9抗体AB0045の潜在的な臨床的免疫原性を評価した。ex vivoにおけるヒトT細胞活性化アッセイ、EpiScreen(Antitope,Ltd.、Cambridge、UK)を使用した。EpiScreenアッセイにおけるT細胞活性化は、患者における抗体/タンパク質治療応答と相関している。種々のHLAハプロタイプを示す20人の健康なドナーにおけるCD4+T細胞の応答を検査した。結果により、AB0045抗体では、いずれのドナーにおいても応答が誘導されなかったこと、および、AB0041により、ドナーの20%において2.29+/−0.36(平均値+/−標準偏差)の大きさで応答が誘導されたことが示された。KLHの陽性対照により、ドナーの95%において、6.34+/−2.77(平均値+/−標準偏差)の大きさで応答が誘導された。結果により、AB0045抗体は免疫原性ではなさそうであることが示された。
(実施例2)
疾患結腸試料および健康な結腸試料におけるMMP9発現
潰瘍性大腸炎(UC)のヒト患者および健康な個体由来の生検試料を、MMP9特異的抗体を使用した免疫組織化学的検査(IHC)によって検査した。ミエロペルオキシダーゼ(MPO、好中球マーカー;Wirtz 2007年)、IV型コラーゲン(COLIV、基底膜)およびCD31(内皮細胞)に対する抗体を使用して、疾患の重症度および組織基盤を評価した。TIMP1およびMMP2の染色パターンも検査した。PMK2(マクロファージマーカー)も評価した。
健康な試料では、粘膜固有層および粘膜下領域内の移動している組織球、好中球およびリンパ球の小サブセットにおいてのみ、MMP9免疫反応性が検出された。対照的に、7つのUC試料全てにおいて、より強く、かつ疾患に関連するシグナルが検出された。この試料の中で、5つは急速凍結方法により調製したものであり、2つはホルマリン固定し、パラフィン包埋したものであった。
膿瘍が生じた陰窩および壊死陰窩ならびに好中球性浸潤物を含有する陰窩炎領域を含めた急性疾患領域においてMMP9シグナルの増加が検出された。粘膜固有層内に広範囲にわたる炎症性浸潤物(大部分は組織球)において、より分散したMMP9シグナルが明らかであった。MMP9タンパク質は組織球、好中球、および顆粒球に局在しており、疾患陰窩および血管構造の基底膜に関連する細胞外マトリックス(ECM)においても検出された。さらに、陰窩膿瘍、潰瘍形成の領域において、ならびに管腔および陰窩の上皮細胞においてMMP9免疫反応性が観察された。多くの場合、MMP9と共発現するTIMP1タンパク質も、疾患陰窩および炎症性浸潤物に関連したが、MMP9よりも程度が低かった。少数のリンパ球を例外として、UC試料においてMMP2タンパク質は検出されなかった。
膿瘍が生じた陰窩および壊死陰窩ならびに好中球性浸潤物を含有する陰窩炎の領域を含めた急性疾患の領域において、ならびに疾患領域内の上皮細胞において、強いMMP9発現が観察された。MMP9発現は、粘膜固有層内の広範囲にわたる炎症性浸潤物においても明らかであり、主に組織球および好中球に局在した。IV型コラーゲン染色の明確なリングにより健康な陰窩のインタクトな基底膜が特徴づけられるが、組織が乱されたIV型コラーゲンにより、疾患陰窩における基底膜の完全性の損失が示される。MMP9染色が基底膜破壊の領域と共局在化した。TIMP1タンパク質も疾患陰窩および炎症性浸潤物に関連したが、MMP9よりも程度が低かった。クローン病試料では、MMP9シグナルは疾患領域にも関連した。MMP9は肉芽腫、間質性組織球において検出され、血管基底膜およびECMのIV型コラーゲンと共局在化した。さらに、MMPはリンパ球および管腔の上皮細胞において検出された。いくつかのMMP2反応性が観察されたが、あまり顕著ではなかった。
MMP9シグナルは、健康な結腸陰窩では検出されなかったが、基底膜の完全性の損失を示す組織が乱されたIV型コラーゲンを有する領域では強かった。これにより、潰瘍性大腸炎の病理におけるMMP9の役割が示される。
治療用抗TNF−アルファ抗体であるRemicade(登録商標)(インフリキシマブ)を用いて積極的に処置されているUC患者由来の結腸組織においてMMP9発現を評価し、これにより評価された他のUC患者の結腸組織と同様の染色パターンが実証された。この観察は、この試験では、抗TNF−アルファ療法ではUCにおけるMMP9の誘導が防止されなかったという結論と一致する。
IHC分析により、ヒト化変異体抗MMP9抗体AB0045が、UC患者の結腸組織において、検証されたIHC抗MMP9抗体を用いて観察されたものと同様の染色パターンでMMP9に結合したことが確認された。
(実施例3)
正常組織におけるMMP9発現
ヒト、ラット、およびカニクイザルの正常な健康な組織におけるMMP9タンパク質のレベルをIHCによって分析した。リンパ節、骨格筋、前立腺、腎臓、肝臓、肺、胃、食道、心臓、結腸、小腸、脳、卵巣、膵臓、胎盤、皮膚、脊髄、脾臓、骨格筋、睾丸、甲状腺、および子宮の細胞型由来の22のヒト急速凍結組織を3人の個体から得た。IHCを、IHCにおいてうまく機能した2つの異なる抗MMP9抗体:ウサギモノクローナル抗体(Abcam、カタログ番号ab76003)およびウサギポリクローナル抗体(Sigma、カタログ番号HPA001238)を使用して行った。どちらの抗体を使用しても同様の染色パターンが検出された。ヒト胸腺、扁桃、および骨髄においてもMMP9が検出された。健康なカニクイザル(Macaca fascicularis、1個体の動物)およびラット(スプラーグドーリー(Sprague−Dawley)系統、2個体の動物)由来のいくつかの急速凍結組織に対して追加の特徴付けを行った。
心臓、骨格筋、前立腺、腎臓、末梢神経、小脳、大脳、唾液腺、尿管、および子宮頸部ではMMP9は検出されなかった。試験した残りの臓器では、マクロファージ、組織球、リンパ球、肥満細胞、および好中球などの免疫細胞の細胞質染色でMMP9が検出された。検査したヒト組織、カニクイザル組織、およびラット組織の全てにおいて同様のMMP9タンパク質の発現のパターンが検出された。分析した組織では、カニクイザルリンパ節、胸腺および扁桃において検出されたMMP9陽性炎症細胞が少なかった。全ての種において、MMP9染色は細胞外マトリックスに分泌または局在化されず、細胞内にあった。
(実施例4)
UCのマウスモデルにおける抗MMP9抗体
大腸炎のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発モデルは、炎症性腸疾患の治療薬を評価するための一般に認められたモデルである。このモデルでは、DSSをマウスまたはラットに経口投与することにより、結腸粘膜を損傷させる。DSSを受けた動物では血性下痢が発生し、体重が減少する。このモデルにおいて観察される炎症および組織分解は粘膜に限られ、一般に、結腸全体が影響を受ける。DSS誘発大腸炎は、ヒトUCにおいて認められるものと同じ炎症−異形成−腺癌疾患進行を特徴とする。このモデルにおいて観察される疾患の局在化および病理は、同様の炎症細胞の浸潤、潰瘍形成、および陰窩膿瘍を含め、ヒト潰瘍性大腸炎(UC)とよく似ていると考えられる。UCを処置するために承認されている薬物、例えば、ステロイド、メトロニダゾール、5−アミノサルチル酸(aminocalicylate)、シクロスポリン、および抗TNFα免疫療法は、DSSモデルで疾患の重症度を低下させることにおいて有効性が実証されている。
DSS大腸炎モデル(14日の処置モデル)においてAB0046を使用した。以下の実験計画に従って、飲料水中3%DSSに5日間経口曝露させた後に処置を開始した:3%DSSを用いた疾患の誘発を0日目に開始して5日目まで行い、処置を6日目に開始し(1群〜5群の動物に対する処置の詳細は以下の表2に示されている);動物を14日目に屠殺した。エタネルセプト(商品名ENBREL(登録商標)の下で販売されている)をこのモデルにおける抗TNFα療法の治療効果についての参照化合物として使用した。アイソタイプ(IgG1)がマッチした無関連の抗体であるAC−1を対照として使用した。
疾患の過程を、ビデオ内視鏡検査(6日目、10日目、および14日目)、動物の体重測定、便の硬さの観察、および結腸の試験後病理組織検査分析によって評価した。
試験開始の14日後(DSS中止の9日後)に疾患の程度を評価するため、およびこのモデルにおけるMMP9の発現を確認するために、DSS処置した結腸からの急速凍結組織切片において免疫組織化学的検査を実施した。図5に結果が示されている。示されているように、疾患領域は組織、結腸上皮境界および陰窩構造の破壊、ならびに炎症細胞の浸潤を示した。MMP9についての強い染色が疾患結腸の粘膜固有層において観察され、浸潤好中球(MPO IHC)およびマクロファージと関連した。MMP9免疫反応性は、陰窩および血管構造の周辺の基底膜IV型コラーゲン染色の領域にも共局在化し、これは、この既知のECMタンパク質基質の活性な分解が疾患の進行の一因となったことを示唆していた。MMP2発現は強力には誘導されなかった。図6に示されている通り、DSSに曝露させた動物の結腸上皮細胞におけるMMP9の発現も観察された。
下部結腸のビデオ内視鏡検査を、小動物内視鏡を使用して盲検式で実施し、大腸炎を、潰瘍形成、脆弱性、および組織に存在する血管分布の程度に基づいて1〜4のスケールで視覚的にスコア化した。各マウスに、検査した結腸の長さ全体を通して観察された最も重度の損傷に対応する単一のスコアを割り当てた。図7に結果が示されている。示されているように、試験終了時(14日目)に、AB0046で処置した動物では、ビヒクル群およびAC−1アイソタイプ対照群と比較して平均内視鏡検査スコアに有意な改善が示された。ENBREL(登録商標)処置によっても内視鏡検査スコアに有意な改善がもたらされ、これは10日目に著しく、14日目では程度が低かった。
試験終了時に、組織学的検査のために、各動物から大部分の遠位結腸を切除し、ホルマリン固定し、次いで、パラフィンに包埋し、切片作製した。スライドをヘマトキシリン・エオシンで染色し、正式認可を受けた獣医病理学者により、処置群に関して盲検で検査した。組織を、炎症、浮腫、および粘膜壊死について、各パラメータについて1〜4のスコアリングスケールによってスコア化した。3つの個々のパラメータスコア平均値(炎症、浮腫および壊死)を合計することによって合計病理スコアを算出した。図8に結果が示されている。
図8に示されている通り、組織学的評価により、DSS投与により、無処置の対照動物と比較して、実質的な炎症細胞の浸潤(主に好中球で構成され、それよりも少数のマクロファージが伴う)、浮腫、および粘膜組織壊死が誘導されたことが決定された。粘膜壊死は不定に存在し、表面上皮および陰窩の部分的または完全な損失を特徴とし、多くの場合、周辺の粘膜表面のおよそ25%が影響を受けた。AB0046またはENBREL(登録商標)のいずれかを用いた治療的処置により、疾患病理の3つの態様全てが、ビヒクル処置と比較して有意に低下した。抗MMP9抗体(AB0046)の有効性はビヒクルと比較して有意であり、また、ENBREL(登録商標)によって達成されたものと同様であった。
平均病理組織検査スコアおよび平均内視鏡検査スコアが反映されるように選択された各試験群からの3つの結腸の免疫組織学的分析により、抗MMP9抗体(AB0046)処置後に、これらの組織において明白な疾患の低減と相関したMMP9発現の減少が明らかになり(図9参照)、これにより、MMP9の阻害によって代償的な誘導はもたらされなかったことが示される。一般に、MMP9タンパク質が存在することは、疾患領域とよく相関した。MMP9の減少はENBREL(登録商標)処置にも伴ったが、それにもかかわらず、有意な量のMMP9タンパク質が検出された。この結果により、MMP9の減少が全体的な疾患の低減と相関することが実証される。
試験のコースの間、体重および下痢の発生を毎日記録した。台形則法を用いて曲線下面積(AUC)を算出することによって、体重の変化の評価を実施した。便の硬さについての同様のAUCの算出を、下痢の発生スコア100および下痢の欠如スコア0を割り当てることによって実施した。図10に結果が示されている。示されているように、抗MMP9抗体(AB0046)処置により、体重減少がAC−1アイソタイプ対照またはビヒクルと比較して有意に防止された。AB0046処置により、下痢の発生も約30%低下し、これは、ENBREL(登録商標)処置の効果と同様であったが、効果はいずれの療法についても統計的有意には到達しなかった。
DSSモデルでは、参照化合物の投与では、内視鏡的疾患および組織学的疾患の50%超の低減はめったになく、典型的な応答は25〜30%の範囲内に入る。この状況において、AB0046を用いた有効性の程度を考察した。組織学的疾患の低減について統計的有意性に到達することにおけるAB0046の有効性、および評価した全てのパラメータ間の相関がこの試験において特に注目すべきでものあった。(限られた投薬および最初に投薬した際の組織−シンクの影響(tissue−sink effect)の証拠を考慮すると)抗体投薬レジメンでは最適な治療レベルが達成されなかったが、有効性は観察された。
内視鏡エンドポイント、病理組織学的エンドポイント、および体重エンドポイントを用いて観察された有効性と一致して、確立された疾患の処置モデルからの終末血清試料の多検体酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)分析により、抗MMP9(AB0046)処置により、DSSモデルにおいて上方制御されたUCにおける炎症過程の多くの公知のメディエーターおよびマーカーの全身的な減少がもたらされることが明らかになった。図11Aに示されている通り、これらのメディエーターは、好中球化学誘引因子KC/GRO、単球および活性化T細胞化学誘引分子CXCL10(UCにおける治療標的)、好中球マーカーMPO、IL−6クラス炎症性サイトカインLIF、好中球化学誘引物質MIP−2、および単球化学誘引分子MCP−5(ヒトMCP−1と相同性を有するマウス因子)を含んだ。AB0046による全身的な疾患に関連するサイトカインの減少の傾向が観察された。図11Bに示されている通り、IL−17A(AB0046処置群の平均値において減少の傾向が観察された)およびTNFα(群間で差を評価するためにはシグナルが少なすぎた)を含めたいくつかのサイトカインは、定量化または検出のレベル付近またはそれよりも低かった。AB0046処置ではIL−6の減少も観察されたが、非特異的な活性が実証された抗体であるAC−1アイソタイプ対照とは区別されなかった。血清中MMP−9レベルは誘導されなかった(すなわち、DSSなし群とビヒクル群との間で差はなく、MMP9血清中レベルの測定値に関して薬物抗体による干渉を排除することはできなかった)。抗MMP9抗体(AB0046)で処置した動物において観察されたMCP−5レベルの低下に加えて、MCP−1およびMCP−3の疾患に関連する増加も、この処置により、エオタキシンと同様に低下した。
追加のマウスDSS大腸炎処置試験を、独立したハイブリドーマによって生成された抗MMP9抗体であるAB0047を使用して行った。図12Aに示されている通り、結果により、内視鏡的疾患の低減について、抗MMP9 AB0047およびENBREL(登録商標)と同様の傾向が実証された。また、図12Bに示されている通り、AB0047処置により、病理組織学的所見において、AB0046を用いた試験と同様の傾向がもたらされた。
(実施例5)
大腸炎のマウスDSSモデルにおける抗MMP9抗体
予防的な状況におけるAB0046の有効性を評価し、参照作用剤プレドニゾロンと比較した。表3に処置群が示されている。1日目に、示されている投薬スケジュールを用いて、示されている処置を与えた。3%DSSを用いた疾患の誘発を0日目に上記の通り開始した。動物を14日目に屠殺した。
図13に示されている通り、10日目の内視鏡評価においてAB0046予防的処置の有効性が観察された。
図14に示されている通り、試験終了時に、予防的抗MMP9(AB0046)処置により、炎症、浮腫、および壊死、したがって病理合計スコアが低下した。図15に示されている通り、AB0046の予防的投与により下痢の発生が低下した。
(実施例6)
結腸直腸がんの同所性モデルにおける抗MMP9抗体
結腸直腸がんの異種移植マウスモデルにおいてAB0046とAB0041のカクテルを使用して特異的なMMP9阻害の有効性をさらに示した。ヒト結腸直腸がん細胞系(HCT−116;KRAS G13Dミュータント)に由来する皮下腫瘍の断片を、ヌードマウスの結腸に外科的に埋め込み、処置を開始する前に約100mm3まで成長させた。図16に示されている通り、抗体カクテルにより、腫瘍体積の変化が減少し、処置の開始後32日目の最終の腫瘍重量が減少した(図16)。また、抗体カクテルにより、転移の発生頻度が低下した(データは示していない)。この結果により、抗体カクテルを使用したMMP9の阻害により、原発腫瘍の成長のどちらも有意に減少したことが示される。
(実施例7)
関節リウマチモデルにおける抗MMP9抗体
抗MMP9抗体AB0041は、確立された疾患の、アジュバント誘発関節炎およびコラーゲン誘発関節炎(AIA、CIA)ラット関節リウマチモデルの両方における炎症および関節損傷の両方の処置において効果的であった。結果が図17Aに示されている。抗MMP9モノクローナル抗体AB0041を使用して処置することにより、関節炎の臨床スコアが、治療モデル(確立された疾患における処置)において、確立された療法であるENBREL(登録商標)およびメトトレキセート(MTX)を用いて観察されたものと同様の程度まで低下した。目的の関節の測定値および疾患の病理組織学的評価(炎症および関節破壊の多数のパラメータの合計スコア、50mg/kg群)について同様の所見が観察された。図17Aに示されている通り、50mg/kg、10mg/kgおよび2mg/kg、週2回(全部で4回の投薬)の用量のAB0041で関節炎の臨床スコアの低下が観察された。
図17Bに示されている通り、ラットCIAにおいて、曝露を確認するために試験終了時(EOS)に抗体価を取得し、また、処置の10日目にも取得した。AB0046は2mg/kgの用量レベルでは血清において検出不可能であった。
AB0041処置は、同様にヒト炎症性腸疾患において特徴付けられた疾患駆動因子(driver)であるTNFα、IL−6、およびIL−17Aなどの重要な炎症性サイトカインの血清中レベルを低下させることにおいても効果的であった。図18Aに結果が示されている。図19Aにはこの試験において観察された追加の血清マーカーが示されている。
関節リウマチのCIAマウスモデルにおいて、マウス代理抗体AB0046を使用して、抗MMP−9処置の臨床的および病理組織学的疾患の低減ならびに全身的な抗炎症効果について同様の結果が観察された。サイトカインの結果が図18B示されており、図19Bにはこの試験において観察された追加の血清マーカーが示されている。
(実施例8)
LPS誘発敗血症モデルにおける抗MMP9抗体
全身的な炎症性疾患の別のモデルにおいて、抗MMP9抗体AB0041処置により、ラット敗血症モデル(Aragen Biosciences、Gilroy、CA)におけるリポ多糖(LPS)誘発の動物の死亡が防止され、AB0041で処置した動物の70%が4日後に生存し、それと比較してアイソタイプ対照処置群では20%が生存した。図20に結果が示されている。
(実施例9)
筋骨格症候群(MSS)試験
AB0041の安全性について、Lewisラットにおいて28日試験で汎MMP阻害剤であるマリマスタットと比較して評価した。
マリマスタットなどの小分子汎MMP阻害剤を臨床的投与することにより、疼痛および肩関節の非可動性、関節痛、手の拘縮、および患者の生活の質の低下を特徴とする障害である筋骨格症候群(MSS)が生じることが示されている。汎MMP阻害剤を用いて処置したラットは、MSS(後足で静止する能力が損なわれること、移動することができないこと、および高いステッピング歩行(high−stepping gait)を含めた症状を伴う)も示し、この障害についてのモデル系として使用される。これらの動物の関節は、ヒト疾患において観察される病理組織像と類似した滑膜過形成および細胞充実性の増加を示す。この筋骨格症候群(MSS)のラットモデル(Renkiewicz Rら、「Broad spectrum matrix metalloproteinase inhibitor marimastat−induced musculoskeletal side effects in rats.」 Arthritis Rheum(2003年);48巻(6号):1742〜9頁に記載されている)を使用して、マリマスタット処置をMSSの誘発についての陽性対照として使用した。
群当たりラット6匹に、50mg/kgのAB0041またはビヒクルA(10mMのリン酸ナトリウム、pH6.5、140mMの塩化ナトリウム、0.01%Tween20)のいずれかを週2回静脈内投与した。さらに、群当たりラット6匹を、外科的に埋め込んだ皮下Alzetポンプ(Alzet、Cupertino、CA)を通じてマリマスタットまたはビヒクルM(50%DMSO/50%水)を1時間当たり2.5μlの速度で28日間にわたって送達して処置した。マリマスタット放出速度は1日当たり1kg当たり6.8〜5.7mgであった。
動物を、移動することに対する抵抗および後足の使用の回避などのMSSの徴候について毎日観察し、スコア化した。以下のシステムを使用して静止姿勢、歩行および移動する意欲をスコア化した:静止姿勢を0(正常)、1(1本の足で静止)または2(1本の足でも2本の足でも静止していない)としてスコア化した。歩行を、0(正常)、1(後足の片方の使用回避)または2(後足の両方の使用回避)のいずれかとしてスコア化した。刺激に際して移動する意欲を0(正常に移動する)、1(移動することに対していくらか抵抗)、2(移動することに対して中程度に抵抗)または3(移動することに対して非常に抵抗)のいずれかとしてスコア化した。さらに、体重を週2回記録した。
各動物について、総スコアを歩行スコア、静止姿勢スコアおよび移動する意欲スコアの合計として算出した。群当たりの平均総スコアを、1日当たり群当たりの個々の動物全てからの総スコアの平均として算出した。
投与の1日前および1日後、7日後、10日後、14日後、17日後、21日後、24日後、28日後に、血清を全てのラットから収集した。血清を10,000×gで10分遠心分離し、−20℃で保管するために収集した。血清を多検体血清タンパク質分析に供した(RodentMAPv2.0、IDEXX Laboratories)。
ラットから組織および肢を採取し、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)を使用した病理組織学的分析のために10%中性緩衝ホルマリン中に固定した。
標準の等級付けシステムを使用して、顕微鏡レベルの変化をビヒクル群と比較した:0(変化なし)、1(最小の変化)、2(軽度の変化)、3(中程度の変化)、および4(重度の変化)。
ラット血清中のAB0041のレベルを間接結合ELISAによって測定した。ELISAプレートを、50mMのホウ酸ナトリウム中2μg/mlのAB0041を用いて4℃で一晩コーティングした。プレートを、リン酸緩衝食塩水、pH7.4(PBS)中5%ウシ血清アルブミン(BSA)を用いてブロッキングし、PBS中0.05%のTween20(PBST)で洗浄した。標準曲線を、AB0041をPBST中に段階希釈して、3,000ng/mlから1.5ng/mlまでにわたる一組を生成することによって調製した。血清試料をPBST中少なくとも1:100に希釈し、次いで、予めコーティングしたELISAプレートに加えた。1時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、ポリクローナルヤギ抗マウスIgG−HRP検出抗体(Thermo Scientific、Fair Lawn、NJ)をプレートに0.5%BSA/PBS中1:10,000の希釈度で加えた。プレートを洗浄し、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)(Sigma Aldrich、St. Louis、MO)を2分間にわたって加えることによってシグナルを検出した。1Mの塩酸(HCl)を加えることによって反応を停止させ、450nmにおける吸光度を測定した。血清中のAB0041レベルを、SoftMaxソフトウェアパッケージ(Molecular Devices)において4−パラメータカーブフィッティングを使用して逆算した。
結果
いずれの処置群においても体重減少の徴候は観察されず、全ての動物で試験全体を通して体重が増加し続けた。
各群についての毎日のMSSスコアの平均値±標準偏差が図21に要約されている。AB0041で処置したラットでは試験全体を通してMSSの徴候は得点されなかった。試験の12日目に、マリマスタットで処置したラット5匹で、片方の後足の使用の回避を伴うわずかな跛行(歩行スコア=1)が示された。AB0041、ビヒクルA、またはビヒクルMを用いて処置した動物のいずれにおいても症状は検出されなかった。13日目に、ビヒクルM群の動物4匹がわずかな跛行(歩行スコア=1)を示し、これは、包埋したポンプの重さに起因したものである可能性があった。18日目に、マリマスタットで処置したラットでは毎日の総スコアの平均が4.0を上回ったが、ビヒクルMで処置したラットではスコアが低かった。25日目まで、マリマスタット群についての平均スコアは5.8であり、AB0041群についての平均スコアは、ゼロのままであった。マリマスタット群とビヒクルM群との間の1日当たりの総スコアの平均値の差は、Alzetポンプを埋め込んだ後14日目以降、統計的に有意であり(p<0.05)、20日目から28日目の試験終結まではp値<0.0001であった。AB0041を用いて処置したラットも、ビヒクルAを用いて処置したラットも、試験の過程中、いかなる筋骨格疾患の症状も示さなかった。
図22は、AB0041で処置したラットにおいて、1日目、7日目、10日目、14日目、17日目、21日目、24日目、および28日目にELISAによって測定されたAB0041の血清中レベル(血清中力価)を示す。定常状態のレベルの平均値は、0日目から28日目まで、2〜4mg/mlにわたり、これにより、ラットが試験の過程中、抗体に曝露されたことが示された。
AB0041処置の効果を、血清化学検査パネルおよび病理組織学的分析により、ビヒクルA処置と比較して評価した。血清化学検査パネルは、アルカリホスファターゼ、血清グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼおよびオキサロ酢酸トランスアミナーゼ、クレアチンホスホキナーゼ、アルブミン、総タンパク質、グロブリン、総ビリルビン、血中尿素窒素、クレアチニン、コレステロール、グルコース、カルシウム、リン、炭酸水素塩、塩化物、カリウム、およびナトリウムを含有した。両群で、血清化学検査パネルのレベルは同様であり、正常範囲内にあり、同様であった(データは示していない)。これにより、AB0041処置では正常な恒常性に対するいかなる実質的な撹乱も生じなかったことが示される。
さらに、AB0041群およびビヒクルA群由来の主要臓器に対して病理組織学的分析を実施した。心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓、リンパ節、胃、腸、皮膚、筋肉、および胸骨由来の組織を収集し、H&Eを用いて染色し、顕微鏡法で検査した。AB0041群やビヒクルA群において処置に関連する異常は観察されなかった(データは示していない)。
さらに、AB0041で処置したラットおよびマリマスタットで処置したラット由来の肢を、軟部組織変化について、ならびに骨および関節変化について評価した。線維症および滑膜炎がマリマスタット群では観察されたが、AB0041群では確認されなかった。マリマスタットで処置したラットでは、線維症は軽度〜重度にわたり、一般に、足首(ankle)および手首(wrist)において観察された。また、滑膜炎がマリマスタットで処置したラットの大多数の関節において見出され、軽度であり、滑膜細胞増殖、滑液の増加、および炎症細胞の浸潤を特徴とした。
両群のラット由来の後部膝関節のH&E染色で同様の結果が観察された。滑膜炎や線維症はAB0041で処置したラットでは観察されなかったが、マリマスタットで処置したラットでは線維増殖の病理組織学的証拠が認められた。この所見は、AB0041処置群のラットにおいてMSS臨床症状がないことと一致する。
したがって、Lewisラットを処置することにより、全ての動物において、歩行、姿勢および移動する意欲に対する実質的な影響を含めたMSSの特徴的な徴候を含めた複数の筋骨格疾患の症状が生じ、これは最初の処置の12日後に始まった。対照的に、Lewisラットを、AB0041を用いて、またはビヒクル単独で処置することでは、MSSのいかなる臨床的症状、身体的症状、組織学的症状も誘導されなかった。AB0041群やビヒクル群における血清生化学パラメータおよび組織学的パラメータにおいて注目すべき差や異常は検出されなかった。AB0041処置群にMSS症状がないことは、血清中力価分析により、AB0041への曝露は試験期間全体を通して高いままであることが示されたので、薬物の生物学的利用能が不十分であることに起因するものではなかった。マリマスタットによる汎MMP阻害に反して、AB0041によるMMP9の特異的な阻害では、MSSは誘発されなかった。
(実施例10)
同所性異種移植モデルにおける抗MMP9抗体
AB0041およびAB0046の活性を、実施例6に記載の同所性異種移植マウスCRCモデルにおいて検査した。異種移植モデルの免疫組織化学的分析により、MMP9が間質炎症細胞および腫瘍上皮細胞に存在することが示された。
試験I(移植後17日)、試験II(移植後14日)、および試験III(移植後14日)において、処置前に腫瘍を約70mm3まで成長させた。試験Iでは、群当たりマウス15匹を、ビヒクル、対照IgG AC−1(AC−1)、AB0041(h)、またはAB0041とAB0046の1:1混合物(m+h)のいずれかを用いて処置した。AC−1群、h群、およびm+h群では、マウスに、各抗体を週2回、15mg/kgで腹腔内投与した。m+h群では、処置の1日目に、マウスにAB0046を50mg/kgで前投与した。ビヒクル群では、マウスに、週2回ビヒクルを腹腔内投与した。
試験IIでは、群当たりマウス15匹を、ビヒクル、AC−1、AB0041(h)、AB0041とAB0046の1:1混合物(m+h)、5−フルオロウラシル(5−FU)、または5−FUおよびAB0041とAB0046の1:1混合物の組合せ(5−FU+m+h)のいずれかを用いて処置した。AC−1群、h群、m+h群、および5−FU+m+h群では、マウスに、各抗体を週2回、15mg/kgで腹腔内投与した。m+h群および5−FU+m+h群では、処置の1日目に、マウスにAB0046を50mg/kgで前投与した。5−FU群および5−FU+m+h群では、マウスに、週2回、5−FUを20mg/kgで腹腔内投与した。ビヒクル群では、マウスに、週2回ビヒクルを腹腔内投与した。
試験IIIでは、群当たり5匹の、試験IIのマウスと比較して平均で20%体重が重いマウスを、ビヒクルまたはAB0041とAB0046の1:1混合物(m+h)のいずれかを用いて処置した。マウスに、試験IIに記載の通り投与した。
試験の間にAB0041およびAB0046の力価を測定した。原発腫瘍サイズおよび体重を週に1回、それぞれカリパスおよび電子はかりを使用して測定した。カリパスに基づくサイズ推定値を、触診した腫瘍の直交する小さい方の寸法(W)および大きい方の寸法(L)を測定することによって得た。おおよその腫瘍体積(mm3)を式(W2×L)/2によって算出した。ノンパラメトリックなマンホイットニー順位和検定を使用してp値を決定した(*=0.05〜0.01、**=0.01〜0.001、***≦0.001)。RodentMAP分析のために、偽発見率(FDR)分析を使用して、q値も決定した。最大の許容できる偽発見率を0.05に設定した。正規化された腫瘍体積を以下の通り算出した:各測定時点における個々のマウスの腫瘍体積をその「0日目」の腫瘍体積(すなわち、処置開始時の腫瘍体積)に対して正規化し、次いで、群内の各マウスからのこれらの正規化された値を平均して、群の正規化された体積の平均値を各時点について出した。
最大の腫瘍量が観察された試験終了時に、血清、原発結腸腫瘍および転移を伴う任意の臓器を収集し、検査した。
ヒトMMP9を標的とする抗体とマウスMMP9を標的とする抗体の1:1混合物を用いて処置することにより、実施例6におけるものと同様の有効性がもたらされた(図16および図23)。試験IIでは、m+h群における処置の効力は5−FU群における処置の効力に匹敵した(図23C、図23D)。5−FUは、代謝拮抗薬として機能し、抗新生物的活性を有するピリミジン類似体である。
試験Iでは、hMMP9単独の阻害の効果は、腫瘍の成長を制限することにおいて、MMP9を阻害すること(m+h)による阻害と同様であった(図24)。表4および表5には、試験Iおよび試験IIについて測定した腫瘍の体積および重量についてのマンホイットニーp値が要約されている。
対照群と比較して、hMMP9およびmMMP9の複合阻害により、試験Iにおける転移の発生率が低下した。また、腫瘍由来のMMP9のみを阻害することの有効性は低かった。この結果は、遠隔転移を生じる浸潤プロセスにおいて間質MMP9の役割が大きいこと(腫瘍由来のMMP9に対して)と一致する。
試験IIIでは、2つの群における正規化された腫瘍体積間の差は有意であった(図23Eおよび図23F)。ビヒクル群対m+h群のp値は移植の36日後または処置の21日後に0.0362であった。
試験Iにおけるビヒクルで処置したマウス由来の腫瘍の免疫組織化学的(IHC)分析により、腫瘍細胞により産生されるMMP9のレベルが常在マクロファージ、線維芽細胞および内皮細胞などの間質性供給源由来のMMP9よりも低いことが実証された。異種移植(xenograph)モデル腫瘍におけるMMP9発現のパターンは、ヒトCRCのものと同様であった。MMP9の腫瘍細胞による発現は不均一であり、発現レベルは腫瘍塊の所与の領域内で広範に変動し得た。
試験Iにおいて、腫瘍切片のH&E染色および壊死組織の百分率についての視覚的評価では、対照と、抗MMP9で処置した動物において壊死の程度にいかなる有意差も示されなかった。腫瘍を最終の重量によって別々の群にビニングし(binned)、次いで、分析した場合、最終の重量が0.4g以下の腫瘍(対照腫瘍全てのおよそ11%およびMMP9抗体で処置した腫瘍全ての7%)について、抗MMP9処置群において壊死が増加するわずかな傾向があった(対照群に対して)が、この差では統計的有意性に達しなかった(p=0.146;マンホイットニー分析)。
実施例6に記載の試験について追加の血清分析を行った。58の検体のパネルにおける血清タンパク質をRodentMAPによって評価した。有意性をマンホイットニー検定、その後偽発見率分析によって評価してq値を得た。図25に示されている通り、C反応性タンパク質(炎症のマーカー)、CXCL2/MIP−2(好中球誘引物質および活性化因子)、VEGF−A、およびCCL7/MCP−3(大部分の白血球型を活性化し、単球からのMMP9の放出を刺激するケモカイン)、T−リンパ球、およびNK細胞が、抗MMP9(m+h)群においてビヒクル群と比較して有意に減少した。
試験Iおよび試験IIの最後に収集した血清においてAB0041(抗hMMP9抗体)およびAB0046(抗mMMP9抗体)の力価を測定した。平均で、AB0041およびAB0046の終末血清中濃度は100μg/mL〜300μg/mLにわたった(データは示していない)。
これらの試験の結果により、マウス異種移植モデルにおいてヒト特異的モノクローナル抗体およびマウス特異的モノクローナル抗体のカクテルを用いてMMP9をターゲティングすることにより、4つの独立した試験において原発腫瘍の成長が低下し、転移の発生率も低下したことが実証される。
抗ヒト−MMP9抗体を単独で用いた処置により、抗ヒト−MMP9および抗マウス−MMP9抗体の両方を用いた処置と同様の腫瘍の成長の低下がもたらされた。これは、この異種移植モデルにおいて、腫瘍由来のヒトMMP9(間質由来のマウスMMP9ではなく)が腫瘍細胞の増殖のより優勢な駆動因子であることを示唆している。抗ヒトMMP9と抗マウスMMP9のカクテルを用いて処置したマウスにおけるマウス血清タンパク質レベルの変化(ビヒクルを用いて処置したマウスと比較した)により、血管新生因子VEGFおよび炎症性因子C反応性タンパク質、CXCL2、およびCCL7が、抗MMP9で処置したマウスにおいてビヒクルを用いて処置したマウスと比較して有意に減少したことが実証され、これは炎症および血管新生におけるMMP9の役割と一致した。また、腫瘍上皮由来のMMP9は原発腫瘍の増生に関与し、間質MMP9をターゲティングすることにより、転移の発生率に対する有効性が増大する。
(実施例11)
抗MMP9抗体を使用した治療的処置
AB0045を、進行性膵臓または食道胃腺癌、非小細胞肺がん、潰瘍性大腸炎、クローン病、または関節リウマチを有する患者の処置において使用する。患者に、抗体を体重1kg当たり100mg、200mg、400mg、600mg、1200mg、または1800mgの投与量で、1週間、2週間または3週間の間隔で静脈内投与する。適切な投与量は、0.9%塩化ナトリウムを使用して作製する。患者は、AB0045を単独療法としてまたは他の治療剤との併用療法の一部として受ける。
UC、クローン病、または関節リウマチを処置するために、AB0045を単独で、またはLOXL2(リジルオキシダーゼ様2)に対する抗体および/もしくはDDR1(ジスコイジンドメイン受容体1)に対する抗体を含めた他の免疫療法剤と一緒に投与する。
膵臓腺癌に対して、抗体を、単独で2週間の間隔で、またはゲムシタビンおよび/もしくはナブパクリタキセルの28日サイクルの化学療法と一緒に投与する。
食道胃腺癌に対して、抗体を、単独で2週間の間隔で、または28日サイクルで投与されるmFOLFOX6の28日サイクルの化学療法と一緒に投与する。
非小細胞肺がんに対して、抗体を、単独で3週間の間隔で、またはカルボプラチンおよびパクリタキセルの21日サイクルの化学療法と一緒に、またはペメトレキセドおよび/もしくはベバシズマブと一緒に投与する。
併用処置では、化学療法を公知の投与量および手順を用いて投与する。
MMP9抗体の投与量は、調整し、体重1kg当たり133mg、267mg、400mg、600mgまたは1200mgで投与することができる。各治療サイクルの後に、患者をMMP9抗体、MMP9、または他の適切なバイオマーカーのレベルについてモニタリングする。
(実施例12)
関節リウマチモデルにおける抗MMP9抗体
実施例7により、ラットおよびマウスにおける関節リウマチの処置におけるAB0041の有効性が示された。この実施例は、ビヒクル、2mg/Kg、10mg/Kg、または50mg/KgのAB0041(ラットモデルにおいて)またはAB0046(マウスモデルにおいて)、10mg/KgのEnbrel、または0.5mg/Kgのメトトレキセート(MTX)のいずれかを用いて処置した実施例7の動物に関する追加の特徴付けを提供する。
実施例7において行った表6の臨床的なスコア化に加えて、処置した動物の足の腫脹、足首の直径および体重を測定した。測定を、無作為化する前に週に1回、およびその後週に3回行った。図26(ラット)および図29(マウス)に示されているように、ラットにおけるAB0041の投与およびマウスにおけるAB0046の投与では、全ての用量において、臨床疾患の定性的測定値および定量的測定値の有意な逆転/軽減がもたらされた。結果により、AB0041またはAB0046を50mg/kgで用いた処置により、軟部組織疾患、関節損傷および破壊の全ての尺度が減少したことも示された。抗MMP9抗体の有効性はEnbrelおよびメトトレキセート(MTX)を用いて観察された有効性に匹敵した。
さらに、後肢を、軟部組織変化(浮腫、組織/血管壊死、炎症細胞浸潤、および線維増殖)ならびに軟骨および骨の変化(軟骨びらん、骨びらん、骨膜性骨形成、滑膜炎、パンヌス形成、および関節破壊)について顕微鏡法で検査した。標準の重症度スコアを使用した:0=有意な変化なし、1=最小、2=軽度、3=中程度および4=重度。重症度スコアは各肢における全体的な変化に基づいた。
免疫組織化学的検査(IHC)分析を実施して、MMP9、TNF−アルファ、CD68、およびカテプシンKのレベルを評価した。抗TNF−アルファ染色および抗CD68のスコア化を、0が非疾患関節のレベルであり4がビヒクルで処置した肢において観察された最も高い発現である0〜4にわたる定性的なスケールで行った。抗TNF−アルファスコア化については、肢の前部から足根中足骨関節の領域全体をスコア化した。抗CD68染色を、肢当たり3〜4枚の、距骨によって形成される関節の滑膜の画像を使用して評価し、各膜のスコアを平均し、値を全体的な炎症スコアとして割り当てた。IHCからの結果により、軟骨損傷および骨びらんの前部ならびにパンヌス組織を含めた活性な疾患範囲の領域におけるMMP9発現が示された。また、MMP9を発現している細胞が破骨細胞および単球/マクロファージ系列の細胞と同定された。
50mg/kgのAB0041を用いて処置したラットにおいてCD68およびTNF−アルファを定量化した。IHCによる結果により、この群におけるCD68およびTNF−アルファの両方ともビヒクルで処置した群と比較して有意に減少したことが明らかになった(図27)。結果により、骨および軟骨分解性細胞型(破骨細胞および単球/マクロファージ系列の細胞)ならびに炎症および関節炎の全身的なメディエーター(TNF−アルファ)の減少が示されている。
さらに、終末血清試料の血清パネル分析を、ELISAを使用して特徴付けた。図18Aおよび図28(ラット)ならびに図18Bおよび図19B(マウス)に要約されている結果により、炎症および疾患の進行のメディエーターの一貫した減少が示された。図28に示されている通り、ラットにおけるAB0041処置により、内在性MMP9阻害物質の組織メタロプロテイナーゼ阻害物質(TIMP)−1、白血球マイトジェンの顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、好中球誘引物質および活性化因子のマクロファージ炎症性タンパク質(MIP)−2、ナチュラルキラー細胞および単球化学誘引物質のMIP−1β、造血幹細胞分化誘導因子(differentiator)のマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)−1、IL−6ファミリーサイトカインのオンコスタチンM(OSM)、化学誘引物質のC−X−Cモチーフケモカイン(CXCL)10および単球化学誘引物質タンパク質(MCP)−5、ナチュラルキラーおよびT細胞活性化因子のIL−12p70、ならびに免疫系修飾物質のインターフェロン(INF)−γ、IL−12、およびIL−7の統計的に有意な減少がもたらされた。Enbrelで処置したラットでは血清マーカーの減少は観察されなかったが、メトトレキセート処置により、これらのマーカーの一貫した増加がもたらされた。図19Bに示されている通り、マウスにおけるAB0046処置により、好中球誘引物質および/または活性化因子のKC/GRO、MIP−2、およびGCP−2;NKおよびT細胞誘引物質のリンホタクチン;単球化学誘引物質のMCP−1およびMCP−3;リンパ球および樹状細胞化学誘引物質のCXCL−10;IL−6様サイトカインのOSM;顆粒球活性化因子のMIP−1βおよびMIP−1γ;ならびにアポリポタンパク質(Apo)A−1の統計的に有意な減少がもたらされた。AB0046の力価を終末血清試料において測定した。さらに、10mg/kgおよび50mg/kgの投薬レジメンにより、測定可能な薬物レベルがもたらされた。
これらのデータにより、ラットCIA処置モデルにおける阻害性の抗MMP9モノクローナル抗体を用いた処置により、関節の炎症の臨床的知見および客観的測定値の軽減および逆転、関節の炎症および破壊の病理組織学的顕在化の減少、ならびに疾患媒介性細胞型および因子の減少がもたらされたことが示されている。治療効果は参照化合物であるEnbrelおよびメトトレキセートに匹敵した。広範な全身的な抗炎症効果が抗MMP9処置では観察されたが、Enbrelまたはメトトレキセートのいずれの投与でも観察されなかった。
(実施例13)
ヒト腫瘍におけるMMP9の発現
MMP9およびMMP2のタンパク質レベルおよびmRNAレベルを、免疫組織化学的検査(IHC)によって、および発色in situハイブリダイゼーションによって検査した。ヒト肺扁平上皮癌、肺腺癌、胃腺癌、結腸直腸腺癌、膵臓腺癌、肝細胞癌、および頭頸部の扁平上皮癌由来の組織を特徴付けた。
IHC分析において、試料を、2つの別個のMMP9特異的抗体:ポリクローナル抗体Sigma HPA001238およびモノクローナル抗体Abcam(ab76003)を使用して染色した。所与の腫瘍試料についてのMMP9陽性腫瘍上皮の百分率を視覚的評価によってスコア化した。IHC分析のために使用する抗MMP9抗体の特異性を、免疫ブロットにおいてMMPのパネルに対して試験することによって評価した。いずれの抗体も、MMP9以外の試験したMMPのいずれに対しても、いかなる注目すべき交差反応性も示さなかった。
調査した全ての腫瘍において、組織球(組織−常在マクロファージ)、好中球、内皮細胞、および線維芽細胞のサブセットにおいて、ならびに非新生物性上皮および腫瘍上皮においてMMP9免疫反応性が認められた。分泌されたMMP9タンパク質は細胞外マトリックスにおいても見出され、一般に、腫瘍内の炎症性浸潤物と関連した。MMP9発現の検出は、多くの場合、がん試料全てにわたる壊死領域に関連した。
腫瘍全体に分散し、腫瘍微小環境の反応性平滑筋、内皮細胞、小動脈の平滑筋、および非新生物性上皮に存在する組織球のサブセットにおいてMMP2シグナルが検出された。大部分の腫瘍上皮がMMP2について陽性であったが、染色パターンがMMP9について観察されたものよりも拡散していた。MMP2発現は、より不均一なMMP9の発現と比較して組織(新生物性および非新生物性)にわたってより広範に存在した。
図30には、この試験において観察されたMMP9陽性腫瘍上皮の百分率が要約されている。間質MMP9陽性も全ての試料中に存在したが、スコア化しなかった。各「陽性(positivity)」カテゴリーに入る所与の腫瘍型についての試料の百分率が図30のx軸上に示されている。分析により、MMP9陽性の程度および供給源に関して、各がん型に特徴的な腫瘍の型およびパターン全てにわたって発現が示された。
CISH分析により、免疫細胞(特にマクロファージおよび好中球)ならびに内皮細胞などの他の間質構成物のサブセットによる腫瘍上皮細胞におけるMMP9 mRNAが検出された。CISH分析の結果により、MMP9 mRNAがマクロファージ/組織球、好中球、および腫瘍上皮細胞に存在したことが示された。また、MMP9 mRNAの発現は腫瘍型内および腫瘍型の間で変動した。分析した全ての腫瘍において、MMP9 mRNAを発現している細胞型は組織球、好中球、および腫瘍細胞のサブセットを含んだ。IHC分析における不均一性と同様に、MMP9 mRNAの発現のレベルは変動した。
図31には、腫瘍上皮に関連するMMP9 mRNAのCISH分析が要約されている。各「陽性」カテゴリーに入る所与の腫瘍型についての組織試料の百分率がx軸上に示されている。分析により、MMP9陽性の程度および供給源に関して、各がん型に特徴的な腫瘍の型およびパターン全てにわたって発現が明らかになった。
CISHおよびIHC分析からの結果により、腫瘍上皮におけるMMP9の発現が示される。いくつかの試料では、CISHにより、タンパク質シグナルが検出されなかった場合にMMP9 mRNAが検出された。腫瘍由来のMMP9は炎症細胞由来のMMP9よりも豊富ではないことが多いので、CISH分析は、腫瘍上皮由来のMMP9のIHCシグナルを不明瞭にする、高レベルの炎症細胞由来のMMP9を有する試料においてMMP9発現を検出するために適している。