JP2018109222A - 高強度鋼板および高強度電気亜鉛めっき鋼板 - Google Patents
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Abstract
【課題】曲げ性とともに、耐遅れ破壊性にも優れた高強度鋼板を提供する。【解決手段】本発明の高強度鋼板は、C:0.10質量%以上0.35質量%以下、Si:0質量%以上0.6質量%以下、Mn:0質量%超1.5質量%以下、Al:0質量%超0.15質量%以下、N:0質量%超0.01質量%以下、P:0質量%超0.02%以下、およびS:0質量%超0.01質量%以下を夫々含有し、残部が鉄および不可避不純物であり、全組織中に占めるマルテンサイトの面積率が95%以上であり、且つ前記マルテンサイト中の固溶C量が0.05質量%以下であるとともに、長径が200nm以上の炭化物の個数密度が50個/μm3以下であり、引張強度が1270MPa以上である。【選択図】なし
Description
本発明は、高強度鋼板および高強度電気亜鉛めっき鋼板に関する。
近年、自動車の軽量化と衝突安全性を両立させるため、自動車用鋼板の高強度化が進んでいる。自動車用鋼板は、形状の複雑な骨格部品に加工するために、優れたプレス成形性が要求される。例えばバンパーに代表される自動車用部品は、主に曲げ加工によって成形されるため、プレス成形性の中でも特に曲げ加工性(以下、「曲げ性」と呼ぶことがある)に優れていることが求められる。また高強度化による課題の一つとして、使用中の鋼板の腐食に起因して発生する水素が、鋼中に侵入することで生じる水素脆化に基づく遅れ破壊の発生の懸念が高まるという問題がある。
また、自動車用鋼部品には、耐食性の観点から、表面に電気亜鉛めっき(以下、「EG」と表記することがある)、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっきを施した鋼板(以下、これらの鋼板を「亜鉛めっき鋼板」と総称することがある)が用いられることがある。これら亜鉛めっき鋼板においても、上記高強度鋼板と同様、高強度化により水素脆化に基づく遅れ破壊の発生の懸念が高まるという問題がある。
この遅れ破壊は、ボルトでの発生事例が報告されており、耐遅れ破壊性を改善する技術が様々検討されているものの、薄鋼板はプレス成形によって大きな塑性歪みが導入されるという点でボルトとは異なっている。一般に、塑性歪みは遅れ破壊を助長すると言われており、塑性歪みの影響を考慮した耐遅れ破壊性改善技術が必要とされている。
遅れ破壊に影響を与える鋼材因子として、鋼材組織、強度もしくは硬さ、結晶粒径、各種合金元素等が挙げられるが、遅れ破壊の抑制策はいまだ十分に確立されているとは言いがたい状況である。こうしたことから、様々な観点から耐遅れ破壊性を向上させる技術の試みがなされている。
耐水素脆化を改善して耐遅れ破壊性を向上させる技術として、例えば特許文献1には、「ベイナイト又はマルテンサイトを最大の相として、粒内のNb,Cr,Ti,Moの酸化物、硫化物、窒化物、複合晶出物および複合析出物のいずれか1種以上を、平均粒子径、密度、分布等の形態制御を行い、これらを水素トラップサイトとしての機能を発揮させることによって、耐水素脆化に優れた高強度鋼板とする。」技術が提案されている。しかしながら、上記の形態制御による水素トラップだけでは、優れた耐遅れ破壊性を発揮させる上で不十分である。
また特許文献2には、全組織に占めるマルテンサイトが95面積%以上である鋼板であって、旧オーステナイト粒径、転移密度、マルテンサイト中の固溶C濃度を規定するとともに、旧オーステナイト長さに対する旧オーステナイト粒界に析出した炭化物の長さの割合を所定の関係式で規定することによって、耐遅れ破壊性を優れたものとする技術が提案されている。
特許文献2の技術においては、耐遅れ破壊性の評価が、低歪み速度引張試験であるSSRT試験で行われている。すなわち、この技術においては、導入される塑性歪みが比較的小さい部位での耐遅れ破壊性を向上させる技術であり、大きな塑性歪みが導入された鋼板の耐遅れ破壊を向上させるには不十分である。
一方、特許文献3には、高強度鋼板の一例として、「化学成分組成を調整するとともに、Ceq1=C+Mn/5+Si/13で規定されるCeq1が0.5%以下であり、鋼組織がマルテンサイト単相組織であり、且つ引張強度が1180MPa以上であるシーム溶接性に優れた高強度鋼板。」が提案されている。しかしながら、この技術では、耐遅れ破壊性向上に関する検討はされておらす、耐遅れ破壊性改善という観点からすれば、化学成分組成を制御するだけで十分とは言えない。
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、曲げ性に優れるとともに、耐遅れ破壊性にも優れた高強度鋼板を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記高強度鋼板の表面に電気亜鉛めっき層を有する高強度電気亜鉛めっき鋼板を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明の高強度鋼板は、
C :0.10質量%以上0.35質量%以下、
Si:0質量%以上0.6質量%以下、
Mn:0質量%超1.5質量%以下、
Al:0質量%超0.15質量%以下、
N :0質量%超0.01質量%以下、
P :0質量%超0.02質量%以下、および
S :0質量%超0.01質量%以下
を夫々含有し、残部が鉄および不可避不純物であり、
全組織中に占めるマルテンサイトの面積率が95%以上であり、且つ前記マルテンサイト中の固溶C量が0.05質量%以下であるとともに、長径が200nm以上の炭化物の個数密度が50個/μm3以下であり、引張強度が1270MPa以上であることを特徴とする。
C :0.10質量%以上0.35質量%以下、
Si:0質量%以上0.6質量%以下、
Mn:0質量%超1.5質量%以下、
Al:0質量%超0.15質量%以下、
N :0質量%超0.01質量%以下、
P :0質量%超0.02質量%以下、および
S :0質量%超0.01質量%以下
を夫々含有し、残部が鉄および不可避不純物であり、
全組織中に占めるマルテンサイトの面積率が95%以上であり、且つ前記マルテンサイト中の固溶C量が0.05質量%以下であるとともに、長径が200nm以上の炭化物の個数密度が50個/μm3以下であり、引張強度が1270MPa以上であることを特徴とする。
本発明の高強度鋼板には、必要によって更に、(a)Cr:0質量%超1.0質量%以下およびB:0質量%超0.01質量%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種、(b)Cu:0質量%超0.5質量%以下およびNi:0質量%超0.5質量%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種、(c)V:0質量%超0.1質量%以下、Nb:0質量%超0.1質量%以下、Mo:0質量%超0.5質量%以下およびTi:0質量%超0.2質量%以下よりなる群から選択される少なくとも1種、(d)Ca:0質量%超0.005質量%以下およびMg:0質量%超0.005質量%以下よりなる群から選択される少なくとも1種等を含有することも有効であり、含有させる元素の種類に応じて高強度鋼板の特性が更に改善される。
本発明には、上記高強度鋼板の表面に電気亜鉛めっき層を有する高強度電気亜鉛めっき鋼板も包含される。
本発明によれば、1270MPa以上の高強度を示し、且つ曲げ性および耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼板および高強度電気亜鉛めっき鋼板が実現できる。こうした高強度鋼板および高強度電気亜鉛めっき鋼板は、例えばバンパー等の自動車用部品、自動車の構造材や補強材等のように高強度が要求される部品の素材として有用である。
本発明者らは、前記課題を解決するために、引張強度が1270MPa以上の高強度を達成することのできるマルテンサイト主体の鋼板を対象に、曲げ性と耐遅れ破壊性を改善するために鋭意研究を重ねた。
その結果、鋼板中の炭化物のサイズが大きく更にアスペクト比が大きい場合には、曲げ成形時に炭化物周囲にボイドが形成され、破壊の起点となって曲げ性が劣化するいう知見が得られた。また鋼板の強化機構として知られている、結晶粒微細化強化、粒子分散強化、転位強化および固溶強化のうち、Cによる固溶強化を活用して引張強度を高めた場合には、鋼板素地であるマルテンサイト中に存在する固溶Cが靱性を低下させ、耐遅れ破壊性を著しく劣化させることを突き止めた。
一方、粒子分散強化のうち、炭化物による析出強化は、炭化物サイズが微細であれば、曲げ性や耐遅れ破壊性を劣化させることなく、高強度化と曲げ性や耐遅れ破壊性とのバランス向上に寄与することを明らかにした。また転位強化については、耐遅れ破壊性への悪影響は小さいことが判明した。
Cによる固溶強化に比べ相対的に転位強化による影響が小さいのは、曲げ加工を施した鋼板表面での転位密度と、初期転位密度の相関が小さいためであると考えられる。これは曲げ加工部では転位の増殖が顕著であるが、転位密度が飽和状態まで増大できるためであると考えられる。
すなわち、耐遅れ破壊性を向上させるためには、マルテンサイト中の炭化物の分散状態、固溶C量、転位密度を適正な範囲に制御することが重要であり、鋼板の化学成分組成を適切に調整することに加え、焼入れ−焼戻し処理を適切に制御することが必要であることを見出した。
具体的には、全組織中に占めるマルテンサイトの面積率が95%以上であるような、マルテンサイトを主体とする単相組織であり、このマルテンサイト中の固溶C量を0.05質量%以下とし、更に長径が200nm以上の炭化物の個数密度を50個/μm3以下に制御することが重要であることを見出し、本発明を完成した。
本発明の高強度鋼板において、上記各要件を規定した理由は、下記の通りである。なお、本発明では「転位密度」は規定していないが、これはCが固溶状態で存在するマルテンサイトの転位密度を測定することが困難であることに加え、C量が0.10質量%以上0.35質量%以下の範囲であり、且つマルテンサイト単相組織であるとともに、炭化物の分散状態が、長径が200nm以上の炭化物の個数密度が50個/μm3以下であるような場合には、制御すべき転位密度が達成できていると考えられるためである。
[全組織中に占めるマルテンサイトの面積率が95%以上]
本発明の鋼板は、より高い強度、例えば引張強度で1270MPa以上、好ましくは1360MPa以上を示すものである。この様な高強度は、例えば自動車用鋼板、特にバンパーやボディ骨格部材等に適用される部品の特性として要求される。
本発明の鋼板は、より高い強度、例えば引張強度で1270MPa以上、好ましくは1360MPa以上を示すものである。この様な高強度は、例えば自動車用鋼板、特にバンパーやボディ骨格部材等に適用される部品の特性として要求される。
上記のような高強度を達成するにあたり、フェライトが多い鋼組織になると、鋼板強度が低下する傾向にあり、強度確保のために合金元素を多量に添加する必要があるため、結果として溶接性が劣化する。またフェライトが多い組織では、自動車用鋼板に対して行われるような厳しい加工を受けたときに、軟質相のフェライトに加工歪みが集積しやすく、耐遅れ破壊性が劣化することがある。こうしたことから本発明の鋼板では、マルテンサイトの単相組織とし、合金元素の添加量を抑えている。
上記マルテンサイトの単相組織とは、全組織中の占めるマルテンサイトの面積率が95%以上である組織の意味である。全組織中に占めるマルテンサイトの面積率は、1270MPa以上の高強度を達成する上からも、95%以上とする必要がある。マルテンサイトの面積率は、好ましくは97%以上であり、100%であってもよい。
本発明の鋼板には、上記マルテンサイト以外に、製造工程で不可避的に含まれる相、例えばフェライト相、ベイナイト相、残留オーステナイト相等を、5面積%以下まで含まれていてもよい。しかしながら、その量が5面積%を超えると、マルテンサイトの面積率が相対的に95%未満となり、1270MPa以上の強度が達成されなくなる。
[マルテンサイト中の固溶C量:0.05質量%以下]
マルテンサイト中の固溶Cを低減することで、組織自体の歪み低減により靱性を改善し、耐遅れ破壊性を改善することができる。特に、マルテンサイト中の固溶C量を0.05質量%以下とすることで、優れた耐遅れ破壊性を達成することができる。マルテンサイト中の固溶C量は、好ましくは0.04質量%以下であり、より好ましくは0.03質量%以下である。ただし、マルテンサイト中の固溶C量の下限は、焼戻しが進めば固溶Cは全て炭化物として析出するという観点から、概ね0質量%以上である。
マルテンサイト中の固溶Cを低減することで、組織自体の歪み低減により靱性を改善し、耐遅れ破壊性を改善することができる。特に、マルテンサイト中の固溶C量を0.05質量%以下とすることで、優れた耐遅れ破壊性を達成することができる。マルテンサイト中の固溶C量は、好ましくは0.04質量%以下であり、より好ましくは0.03質量%以下である。ただし、マルテンサイト中の固溶C量の下限は、焼戻しが進めば固溶Cは全て炭化物として析出するという観点から、概ね0質量%以上である。
[長径が200nm以上の炭化物の個数密度:50個/μm3以下]
炭化物の長径が大きくなると、曲げ成形時に炭化物周囲にボイドが形成され、破壊の起点となって曲げ性を劣化させる。したがって、炭化物は、その大きさと個数が非常に重要となる。具体的には、曲げ性を劣化させる長径200nm以上の粗大な炭化物の個数密度を規定する。長径が200nm未満であるような微細な炭化物では、曲げ性にほとんど影響を与えない。
炭化物の長径が大きくなると、曲げ成形時に炭化物周囲にボイドが形成され、破壊の起点となって曲げ性を劣化させる。したがって、炭化物は、その大きさと個数が非常に重要となる。具体的には、曲げ性を劣化させる長径200nm以上の粗大な炭化物の個数密度を規定する。長径が200nm未満であるような微細な炭化物では、曲げ性にほとんど影響を与えない。
長径が200nm以上の炭化物の個数密度が多いと、曲げ性を劣化させるため、50個/μm3以下とする必要がある。この個数密度は、好ましくは40個/μm3以下であり、より好ましくは30個/μm3以下であり、特には10個/μm3以下であることが最も好ましい。
本発明における成分組成、および製造条件で析出し、更に長径が200μm以上、アスペクト比が2以上の析出物は、実質的にFeおよびCを主成分とする炭化物であり、具体的にはFeおよびCの合計含有量が90質量%を超えるような炭化物を意味する。このような炭化物は、Fe3Cは勿論のこと、これにV、Nb、Mo、Ti等を、炭化物全体に占める割合で10質量%未満で含有している炭化物をも含む趣旨である。なお本発明における成分組成、および製造条件によってはFeおよびCを主体としない、具体的にはV、Nb、Mo、TiとCを主体とする炭化物が生成することもあるが、FeおよびCを主体とした炭化物と比べて極わずかな量であるため、曲げ性や耐遅れ破壊性に悪影響を及ぼさない。
本発明では、上記固溶C量の制御によって優れた耐遅れ破壊性を示すものとなるが、鋼板として要求される溶接性、靱性および延性等の基本的な特性を確保するためには、鋼板における各元素の含有量も、下記の通り制御する必要がある。
[C:0.10質量%以上0.35質量%以下]
Cは、鋼板の焼入れ性を高めて高強度を確保するのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、C量は0.10質量%以上とする必要がある。好ましくは0.12質量%以上であり、より好ましくは0.15質量%以上である。しかしながら、C量が過剰になると、鋼板の溶接性が劣化する。よってC量は0.35質量%以下とする必要があり、好ましくは0.34質量%以下、より好ましくは0.33質量%以下である。
Cは、鋼板の焼入れ性を高めて高強度を確保するのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、C量は0.10質量%以上とする必要がある。好ましくは0.12質量%以上であり、より好ましくは0.15質量%以上である。しかしながら、C量が過剰になると、鋼板の溶接性が劣化する。よってC量は0.35質量%以下とする必要があり、好ましくは0.34質量%以下、より好ましくは0.33質量%以下である。
[Si:0質量%以上0.6質量%以下]
Siは、鋼板の焼戻し軟化抵抗を向上させるのに有効な元素であり、また固溶強化による強度向上にも有効な元素であり、必要により含有させる。これらの効果を発揮させる観点からは、Siを0.002%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以上であり、更に好ましくは0.010質量%以上である。しかしながら、Siはフェライト生成元素であるため、Si量が過剰になると焼入れ性が損なわれて高強度を確保することが難しくなる。よってSi量は0.6質量%以下とする必要がある。好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下である。
Siは、鋼板の焼戻し軟化抵抗を向上させるのに有効な元素であり、また固溶強化による強度向上にも有効な元素であり、必要により含有させる。これらの効果を発揮させる観点からは、Siを0.002%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以上であり、更に好ましくは0.010質量%以上である。しかしながら、Siはフェライト生成元素であるため、Si量が過剰になると焼入れ性が損なわれて高強度を確保することが難しくなる。よってSi量は0.6質量%以下とする必要がある。好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下である。
[Mn:0質量%超1.5質量%以下]
Mnは、鋼板の焼入れ性を高めて高強度を確保するのに有効な元素である。こうした効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、上記効果を有効に発揮させるためには、0.1質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上である。しかしながら、Mn量が過剰になると、耐遅れ破壊性および溶接性が劣化する。よってMn量は1.5質量%以下とする必要がある。好ましくは、1.4質量%以下であり、より好ましくは1.3質量%以下である。
Mnは、鋼板の焼入れ性を高めて高強度を確保するのに有効な元素である。こうした効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、上記効果を有効に発揮させるためには、0.1質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上である。しかしながら、Mn量が過剰になると、耐遅れ破壊性および溶接性が劣化する。よってMn量は1.5質量%以下とする必要がある。好ましくは、1.4質量%以下であり、より好ましくは1.3質量%以下である。
[Al:0質量%超0.15質量%以下]
Alは、脱酸剤として添加される元素であり、また鋼の耐食性を向上させる効果もある。これらの効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、上記効果を有効に発揮させるためには、0.04質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.06%以上である。しかしながら、Al量が過剰になると、介在物が多量に生成して表面疵の原因となるので、その上限を0.15質量%以下とする。好ましくは0.10質量%以下であり、より好ましくは0.07質量%以下である。
Alは、脱酸剤として添加される元素であり、また鋼の耐食性を向上させる効果もある。これらの効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、上記効果を有効に発揮させるためには、0.04質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.06%以上である。しかしながら、Al量が過剰になると、介在物が多量に生成して表面疵の原因となるので、その上限を0.15質量%以下とする。好ましくは0.10質量%以下であり、より好ましくは0.07質量%以下である。
[N:0質量%超0.01%質量以下]
Nは、不可避的に混入してくる不純物であり、このNの量が過剰になると、窒化物の析出量が増大し、鋼板の靱性に悪影響を与える。よってN量は、0.01質量%以下とする必要がある。好ましくは0.008質量%以下であり、より好ましくは0.006質量%以下である。なお、製鋼上のコスト等を考慮すると、N量は概ね0.001質量%以上となる。
Nは、不可避的に混入してくる不純物であり、このNの量が過剰になると、窒化物の析出量が増大し、鋼板の靱性に悪影響を与える。よってN量は、0.01質量%以下とする必要がある。好ましくは0.008質量%以下であり、より好ましくは0.006質量%以下である。なお、製鋼上のコスト等を考慮すると、N量は概ね0.001質量%以上となる。
[P:0質量%超0.02質量%以下]
Pは、不可避的に混入してくる不純物である。P量が過剰になると、脆性が増大して鋼板の延性を低下させるので、0.02質量%以下に抑える必要がある。好ましくは0.01質量%以下であり、より好ましくは0.006質量%以下である。
Pは、不可避的に混入してくる不純物である。P量が過剰になると、脆性が増大して鋼板の延性を低下させるので、0.02質量%以下に抑える必要がある。好ましくは0.01質量%以下であり、より好ましくは0.006質量%以下である。
[S:0質量%超0.01質量%以下]
Sは、不可避的に混入してくる不純物である。Sは、硫化物系の介在物を生成し、鋼板の加工性や溶接性を劣化させる。またMnと結合してMnSを形成することで局部腐食起点となり、水素発生および水素侵入を促進するため耐遅れ破壊性を劣化させる。そのためS量は少ないほどよく、本発明では0.01質量%以下に抑える。好ましくは0.005質量%以下であり、より好ましくは0.003質量%以下に抑えるのがよい。
Sは、不可避的に混入してくる不純物である。Sは、硫化物系の介在物を生成し、鋼板の加工性や溶接性を劣化させる。またMnと結合してMnSを形成することで局部腐食起点となり、水素発生および水素侵入を促進するため耐遅れ破壊性を劣化させる。そのためS量は少ないほどよく、本発明では0.01質量%以下に抑える。好ましくは0.005質量%以下であり、より好ましくは0.003質量%以下に抑えるのがよい。
本発明で規定する化学成分組成は上記の通りであり、残部は鉄、および上記N、P、S以外の不可避不純物である。この不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素の混入が許容され得る。
上記元素に加えて、必要によって更に、(a)Cr:0質量%超1.0質量%以下およ
びB:0質量%超0.01質量%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種、(b)Cu:0質量%超0.5質量%以下およびNi:0質量%超0.5質量%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種、(c)V:0質量%超0.1質量%以下、Nb:0質量%超0.1質量%以下、Mo:0質量%超0.5質量%以下およびTi:0質量%超0.2質量%以下よりなる群から選択される少なくとも1種、(d)Ca:0質量%超0.005質量%以下およびMg:0質量%超0.005質量%以下よりなる群から選択される少なくとも1種等を含有することも有効であり、含有させる元素の種類に応じて高強度鋼板の特性が改善される。
びB:0質量%超0.01質量%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種、(b)Cu:0質量%超0.5質量%以下およびNi:0質量%超0.5質量%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種、(c)V:0質量%超0.1質量%以下、Nb:0質量%超0.1質量%以下、Mo:0質量%超0.5質量%以下およびTi:0質量%超0.2質量%以下よりなる群から選択される少なくとも1種、(d)Ca:0質量%超0.005質量%以下およびMg:0質量%超0.005質量%以下よりなる群から選択される少なくとも1種等を含有することも有効であり、含有させる元素の種類に応じて高強度鋼板の特性が改善される。
[Cr:0質量%超1.0質量%以下およびB:0質量%超0.01質量%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種]
CrおよびBは、鋼板の焼入れ性を向上させて強度をより高めるのに有効な元素である。またCrは、マルテンサイト組織鋼の焼戻し軟化抵抗を高めるのにも有効な元素である。これらの効果を有効に発揮させるには、Crで0.01質量%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上含有させる。またBは、0.0001質量%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.0005%以上含有させる。
CrおよびBは、鋼板の焼入れ性を向上させて強度をより高めるのに有効な元素である。またCrは、マルテンサイト組織鋼の焼戻し軟化抵抗を高めるのにも有効な元素である。これらの効果を有効に発揮させるには、Crで0.01質量%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上含有させる。またBは、0.0001質量%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.0005%以上含有させる。
しかしながら、Crが過剰に含まれると、鋼板の耐遅れ破壊性が劣化するため、上限は1.0質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.7質量%以下である。またBが過剰に含まれると鋼板の延性が低下するため、上限は0.01質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.008質量%以下であり、更に好ましくは0.0065質量%以下である。
[Cu:0質量%超0.5質量%以下およびNi:0質量%超0.5質量%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種]
CuおよびNiは、鋼板の耐食性を向上させることで水素脆化に関与する水素の発生を抑制し、耐遅れ破壊性を向上させるのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させるには、Cuで0.01質量%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上含有させる。またNiの場合も、0.01質量%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上含有させる。
CuおよびNiは、鋼板の耐食性を向上させることで水素脆化に関与する水素の発生を抑制し、耐遅れ破壊性を向上させるのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させるには、Cuで0.01質量%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上含有させる。またNiの場合も、0.01質量%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上含有させる。
しかしながら、Cu量が過剰になると、鋼板の酸洗性や化成処理性が劣化するため、その上限は0.5質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.4質量%以下である。またNi量が過剰になると、鋼板の延性や加工性が低下するため、その上限は0.5質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.4質量%以下である。
[V:0質量%超0.1質量%以下、Nb:0質量%超0.1質量%以下、Mo:0質量%超0.5質量%以下およびTi:0質量%超0.2質量%以下よりなる群から選択される少なくとも1種]
V、Nb、MoおよびTiは、いずれも鋼板の強度の向上、およびオーステナイト粒微細化による焼入れ後の靱性改善に有効な元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、V、Nb、MoおよびTiのいずれも、0.003質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.010質量%以上であり、更に好ましくは0.02質量%以上である。
V、Nb、MoおよびTiは、いずれも鋼板の強度の向上、およびオーステナイト粒微細化による焼入れ後の靱性改善に有効な元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、V、Nb、MoおよびTiのいずれも、0.003質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.010質量%以上であり、更に好ましくは0.02質量%以上である。
しかしながら、上記元素が過剰に含有されると、炭窒化物などの析出が増大し、鋼板のの加工性が低下する。よってVやNbを含有させるときには、いずれも0.1質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以下である。Moでは0.5質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.4質量%である。Tiでは0.2質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以下である。
[Ca:0質量%超0.005質量%以下およびMg:0質量%超0.005質量%以下よりなる群から選択される少なくとも1種]
CaはMnに代わってSと結合し、圧延方向に延伸するMnSの形態を制御し、また鋼板端面においてはMnSを分断することから、局部腐食起点の局在化を抑制でき、局部腐食起点でのpH低下を抑制することで水素発生および水素侵入を抑制する元素し、鋼板の耐遅れ破壊性を向上できる元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、Caは0.001質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.0015質量%以上である。しかしながら、Ca量が過剰になると、鋼板の加工性が劣化するため、0.005質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.003質量%以下である。
CaはMnに代わってSと結合し、圧延方向に延伸するMnSの形態を制御し、また鋼板端面においてはMnSを分断することから、局部腐食起点の局在化を抑制でき、局部腐食起点でのpH低下を抑制することで水素発生および水素侵入を抑制する元素し、鋼板の耐遅れ破壊性を向上できる元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、Caは0.001質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.0015質量%以上である。しかしながら、Ca量が過剰になると、鋼板の加工性が劣化するため、0.005質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.003質量%以下である。
一方、MgはOと結合しMgOを形成することで、腐食先端でのpH低下を抑制し、上記Caと同様に、局部腐食起点でのpH低下を抑制することで水素発生および水素侵入を抑制し、鋼板の耐遅れ破壊性を向上できる元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、Mgは0.001質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.0015質量%以上である。しかしながら、Mg量が過剰になると、鋼板の加工性が劣化するため、0.005質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.003質量%以下である。
上記のような本発明の高強度鋼板を製造するには、下記の手順に従えばよい。まず焼鈍処理以外は、一般的な条件を採用することができる。例えば、冷延鋼板を用いて下記条件の焼鈍処理を行う場合には、常法に従って溶製し、連続鋳造によりスラブ等の鋼片を得た後、1100℃〜1250℃程度に加熱し、次いで熱間圧延を行い、巻取った後に酸洗し、冷間圧延を施して冷延鋼板とする。そして、次いで行う焼鈍処理を下記条件で行うことが推奨される。
[焼鈍処理条件]
連続焼鈍ラインにて、Ac3変態点以上、950℃以下の温度域で加熱し、この温度域で30秒以上保持することが好ましい。この加熱温度がAc3変態点未満となると、熱間圧延鋼板の組織、例えばフェライト−パーライトの二相組織を引き継ぐことになり、その後に焼入れ処理を行ってもマルテンサイト主体の組織にならず、1270MPa以上の強度を達成するのが困難となる。
連続焼鈍ラインにて、Ac3変態点以上、950℃以下の温度域で加熱し、この温度域で30秒以上保持することが好ましい。この加熱温度がAc3変態点未満となると、熱間圧延鋼板の組織、例えばフェライト−パーライトの二相組織を引き継ぐことになり、その後に焼入れ処理を行ってもマルテンサイト主体の組織にならず、1270MPa以上の強度を達成するのが困難となる。
また加熱温度が950℃を超えるような過剰な高温での保持は、設備負荷や経済的に劣るので好ましくない。加熱温度の上限は、より好ましくは930℃以下である。加熱温度での滞留時間は、加熱温度に応じて適宜決定すれば良いが、鋼板のオーステナイト変態を完了させるためには、30秒以上加熱保持することが好ましい。より好ましくは100秒以上である。ただし、滞留時間があまり長くなると、結晶粒径が粗大になり、強度、靱性面で不利になるので、1000秒以下とすることが好ましい。より好ましくは900秒以下であり、更に好ましくは800秒以下である。また、高温、長時間保持は経済的に不利である。
[焼入れ処理]
次いで、600℃以上の温度域から水冷して焼入れを行うことによって、マルテンサイト単相組織を得る。上記水冷時の平均冷却速度は、概ね50℃/秒以上である。これより遅い冷却速度であると、冷却中にフェライトが析出してしまい、マルテンサイト単相組織が得られず、引張強度で1270MPa以上を確保することができなくなる。水冷時の平均冷却速度の下限は、より好ましくは100℃/秒以上である。
次いで、600℃以上の温度域から水冷して焼入れを行うことによって、マルテンサイト単相組織を得る。上記水冷時の平均冷却速度は、概ね50℃/秒以上である。これより遅い冷却速度であると、冷却中にフェライトが析出してしまい、マルテンサイト単相組織が得られず、引張強度で1270MPa以上を確保することができなくなる。水冷時の平均冷却速度の下限は、より好ましくは100℃/秒以上である。
水冷時の平均冷却速度を過度に速くしても、材質上では何ら問題は生じないが、過剰な設備投資が必要になるので、平均冷却速度は概ね1000℃/秒以下であることが好ましい。より好ましくは500℃/秒以下である。
冷却終了温度は、冷却方法が水冷のため概ね100℃以下である。冷却終了温度の下限については、何ら限定されないが、室温以下にすることは経済上負荷が大きいため、実質的には室温が下限である。
[焼戻し処理]
上記焼入れの後は焼戻しを行う。この焼戻し処理は2段階で行うことが好ましい。この焼戻し処理の温度域を適切に設定することによって、炭化物の析出や成長を制御することができる。鋼板の素地であるマルテンサイト中に、炭化物を析出させるに際して、炭化物が成長して粗大化しないようにするために、一段目の焼戻し温度T1を二段目の焼戻し温度T2よりも高く、すなわちT1>T2の関係を満足するように制御することが好ましい。焼戻し処理において、まず炭化物の析出核を積極的に作り出すために、焼戻し温度T1は、200〜240℃の温度域とし、50秒以上保持する熱処理を行うことが好ましい。
上記焼入れの後は焼戻しを行う。この焼戻し処理は2段階で行うことが好ましい。この焼戻し処理の温度域を適切に設定することによって、炭化物の析出や成長を制御することができる。鋼板の素地であるマルテンサイト中に、炭化物を析出させるに際して、炭化物が成長して粗大化しないようにするために、一段目の焼戻し温度T1を二段目の焼戻し温度T2よりも高く、すなわちT1>T2の関係を満足するように制御することが好ましい。焼戻し処理において、まず炭化物の析出核を積極的に作り出すために、焼戻し温度T1は、200〜240℃の温度域とし、50秒以上保持する熱処理を行うことが好ましい。
一段目の焼戻し温度T1が200℃未満になると、炭化物の析出核の生成が不十分となり、一方240℃を超えると、炭化物の析出が過剰になり、いずれも鋼板の曲げ性が低下する。この焼戻し温度T1は、より好ましくは210℃以上であり、230℃以下である。
上記焼戻し温度T1での保持時間t1が50秒未満になると、炭化物の析出核の形成が不十分になること、またマルテンサイト組織の固溶Cの吐き出しが不十分になるため、鋼板の靱性が低下する。保持時間t1は、より好ましくは70秒以上であり、更に好ましくは100秒以上である。
一方、焼戻し温度T1での保持時間t1が長くなり過ぎると、炭化物の成長が過剰になり、鋼板の靱性の劣化や曲げ性が低下する。また高温での長時間保持は炭化物が過剰に成長することになるため、200秒以下とすることが好ましい。保持時間t1は、より好ましくは180秒以下であり、更に好ましくは160秒以下である。
次いで、二段目の焼戻し処理を、焼戻し温度T2を100℃以上210℃以下の温度域で、保持時間t2を300秒以上で行うことが好ましい。焼戻し温度T2を、前記焼戻し温度T1よりも低くすることで、焼戻し温度T1で核生成した炭化物の成長速度を、焼戻し温度T1で保持したときに比べて低下させることができる。このように制御することで、微細で曲げ性へ悪影響の小さい炭化物を多量に析出させ、粗大な炭化物の個数密度を低下させることができ、且つマルテンサイト中に固溶するCを低減することが促進される。
焼戻し温度T2が210℃を超えると、炭化物の成長速度が大きくなり過ぎるため、粗大な炭化物が生成し、鋼板の曲げ性が低下する。より好ましくは190℃以下である。焼き戻し温度T2の下限は、固溶Cの吐き出しを十分に行うために、100℃以上とするのが好ましい。より好ましくは150℃以上である。
加熱温度T2での保持時間t2が300秒未満になると、固溶Cの吐き出しが十分に生じないため鋼板の靱性が低下する。保持時間t2は、より好ましくは320秒以上であり、更に好ましくは350秒以上である。
一方、焼戻し温度T2での保持時間t2が長くなり過ぎると、炭化物の析出と成長が過剰になり、鋼板の曲げ性が低下する。また高温での長時間保持は経済的にも不利になるため、1000秒以下とすることが好ましい。より好ましくは800秒以下であり、更に好ましくは600秒以下である。
上記焼戻し温度T1から焼戻し温度T2への冷却速度は、0.1℃/秒以上であることが好ましい。より好ましくは0.12℃/秒以上であり、更に好ましくは0.15℃/秒以上である。焼戻し温度T1から焼戻し温度T2への冷却速度は、速いほうが好ましいためその上限は設けないが、冷却する温度域を考慮すると、工業上での上限は100℃/秒程度となる。
本発明は、厚さが1〜3mm程度の薄鋼板を対象とするものであるが、製品形態は特に限定されない。例えば、熱間圧延した鋼板や冷間圧延した鋼板、或いは熱間圧延または冷間圧延を施した後に焼鈍を施した鋼板に対して、化成処理、電気亜鉛めっき、蒸着等のめっき処理や、各種塗装処理、塗装下地処理、有機皮膜処理等を施した表面処理鋼板等も含む趣旨である。
以上、本発明に係る高強度鋼板について説明した。
上述のごとく、本発明の高強度鋼板は、その表面に、電気亜鉛めっき層を有するものであっても良い。すなわち、本発明には、上記高強度鋼板の表面に電気亜鉛めっき層を有する電気亜鉛めっき鋼板(以下、「EG鋼板」と表記することがある)も包含する。
上記のようなEG鋼板は、焼戻し後、室温まで冷却して得られた本発明に係る高強度鋼板に、常法に従って電気亜鉛めっきを施すことによって得られる。
上記電気亜鉛めっきは、例えば、上記高強度鋼板を、50〜60℃の亜鉛溶液に浸漬しつつ通電し、電気亜鉛めっき処理を行うことによって形成される。このときのめっき付着量は、特に限定されず、例えば、片面あたり10〜100g/m2程度であればよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
(試験例1)
下記表1に示す化学成分組成の鋼種A〜Yを溶製した。詳細には、転炉で一次精錬後に、取鍋にて脱硫を実施した。また、必要に応じて取鍋精錬後に、RH法による真空脱ガス処理を実施した。なお、表1に示した化学成分組成において、残部は、鉄、およびN、P、S以外の不可避不純物である。また、下記表1に示した各鋼種のAc3変態点は、「レスリー鉄鋼材料学:1985年、William C.Leslie」の第273頁に記載されたVII−20式を参照した下記(1)式により計算した値である。
下記表1に示す化学成分組成の鋼種A〜Yを溶製した。詳細には、転炉で一次精錬後に、取鍋にて脱硫を実施した。また、必要に応じて取鍋精錬後に、RH法による真空脱ガス処理を実施した。なお、表1に示した化学成分組成において、残部は、鉄、およびN、P、S以外の不可避不純物である。また、下記表1に示した各鋼種のAc3変態点は、「レスリー鉄鋼材料学:1985年、William C.Leslie」の第273頁に記載されたVII−20式を参照した下記(1)式により計算した値である。
Ac3変態点(℃)=910−203×[C]1/2−15.2×[Ni]+44.7×[Si]+104×[V]+31.5×[Mo]+13.1×[W]−30×[Mn]−11×[Cr]−20×[Cu]+700×[P]+400×[Al]+120×[As]+400×[Ti]・・・(1)
ただし、上記[C]、[Ni]、[Si]、[V]、[Mo]、[W]、[Mn]、[Cr]、[Cu]、[P]、[Al]、[As]および[Ti]は、夫々C、Ni、Si、V、Mo、W、Mn、Cr、Cu、P、Al、AsおよびTiの鋼板中の質量%を意味する。
ただし、上記[C]、[Ni]、[Si]、[V]、[Mo]、[W]、[Mn]、[Cr]、[Cu]、[P]、[Al]、[As]および[Ti]は、夫々C、Ni、Si、V、Mo、W、Mn、Cr、Cu、P、Al、AsおよびTiの鋼板中の質量%を意味する。
その後、常法により連続鋳造を実施してスラブを得た。そして熱間圧延を行った後、常法により酸洗、冷間圧延を順次行って、板厚1.0mmの鋼板を得た。次いで、連続焼鈍を行った。
下記表2の試験No.1〜49に示す焼鈍温度および焼鈍時間で焼鈍を行った後、表2に示す焼入れ開始温度まで冷却速度10℃/秒で冷却した。次いで、焼入れ開始温度から室温まで下記表2に示す冷却速度で急冷して焼入れを行い、更に表2に示す焼戻し条件で処理を行った。ここで一段目の焼戻し温度T1から二段目の焼戻し温度T2への冷却速度は、0.2〜0.5℃/秒程度とした。なお、上記熱間圧延の条件は下記の通りである。
[熱間圧延の条件]
加熱温度:1250℃
仕上げ温度:880℃
巻取り温度:620℃
仕上げ厚さ:2.6mm
加熱温度:1250℃
仕上げ温度:880℃
巻取り温度:620℃
仕上げ厚さ:2.6mm
上記のようにして得られた鋼板を用い、下記に示す条件で各種特性の評価を行った。
[鋼組織の面積率の測定]
1.0mm×20mm×20mmの試験片を切り出し、圧延方向と平行な断面を研磨し、ナイタール腐食を行った後に、板厚の1/4部について、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)にて1000倍で観察を行った。
1.0mm×20mm×20mmの試験片を切り出し、圧延方向と平行な断面を研磨し、ナイタール腐食を行った後に、板厚の1/4部について、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)にて1000倍で観察を行った。
このとき、1視野のサイズを90μm×120μmとし、任意の10視野において、縦横の夫々に等間隔で10本の線を引き、その交点が、マルテンサイト組織である交点の数と、フェライト組織等のマルテンサイト以外の組織である交点の数の夫々を、全交点の数で割り、マルテンサイト組織の面積率、マルテンサイト以外の組織の面積率とした。その結果を下記表3に示す。
[引張特性の評価]
引張強度TSは、鋼板の圧延方向に垂直な方向が長手方向となるように、JIS5号引張試験片を鋼板から採取し、JIS Z 2241:2011に規定の方法に従って測定した。そして、引張強度TSが1270MPa以上のものを高強度であると評価した。その結果を下記表3に示す。このとき参考のために、鋼板の降伏強さYS(0.2%耐力に相当:ただし組織中にフェライトを含み降伏点を示すものは降伏点YPを測定)、および全伸びEL等の機械的特性についても下記表3に示している。
引張強度TSは、鋼板の圧延方向に垂直な方向が長手方向となるように、JIS5号引張試験片を鋼板から採取し、JIS Z 2241:2011に規定の方法に従って測定した。そして、引張強度TSが1270MPa以上のものを高強度であると評価した。その結果を下記表3に示す。このとき参考のために、鋼板の降伏強さYS(0.2%耐力に相当:ただし組織中にフェライトを含み降伏点を示すものは降伏点YPを測定)、および全伸びEL等の機械的特性についても下記表3に示している。
[曲げ性の評価]
鋼板の曲げ性については、下記の手順によって評価した。圧延方向と直角方向に長軸をとって幅:30mm×長さ:35mmの試験片を作製し、JIS Z 2248:2014に準拠したVブロック法で曲げ試験を行い、そのときの曲げ半径を0〜7mmまで種々変化させ、材料が破断せずに曲げ加工ができる最小の曲げ半径を求め、これを限界曲げ半径R(mm)として、限界曲げ半径R(mm)/板厚(mm)を算出した。そして、限界曲げ半径R(mm)/板厚(mm)が4.0以下となる例を曲げ性に優れるとして評価し、4.0を超える例を曲げ性に劣るとして評価した。下記表3には、曲げ性に優れる例を「○」で示し、曲げ性に劣る例を「×」で示した。
鋼板の曲げ性については、下記の手順によって評価した。圧延方向と直角方向に長軸をとって幅:30mm×長さ:35mmの試験片を作製し、JIS Z 2248:2014に準拠したVブロック法で曲げ試験を行い、そのときの曲げ半径を0〜7mmまで種々変化させ、材料が破断せずに曲げ加工ができる最小の曲げ半径を求め、これを限界曲げ半径R(mm)として、限界曲げ半径R(mm)/板厚(mm)を算出した。そして、限界曲げ半径R(mm)/板厚(mm)が4.0以下となる例を曲げ性に優れるとして評価し、4.0を超える例を曲げ性に劣るとして評価した。下記表3には、曲げ性に優れる例を「○」で示し、曲げ性に劣る例を「×」で示した。
[固溶C量の測定]
上記で得られた各鋼板から、圧延方向が長手となるように直径:0.3mm×長さ:30mmの棒状試験片を採取し、高輝度X線回折法にて固溶C量を測定した。このとき、高輝度X線回折法で得られた波形から、マルテンサイトの格子間距離を解析し、「Acta Mat. Vol.59:2011、5845−」に記載されたB.Hutchinsonらの式を参考にして固溶C量を求めた。
上記で得られた各鋼板から、圧延方向が長手となるように直径:0.3mm×長さ:30mmの棒状試験片を採取し、高輝度X線回折法にて固溶C量を測定した。このとき、高輝度X線回折法で得られた波形から、マルテンサイトの格子間距離を解析し、「Acta Mat. Vol.59:2011、5845−」に記載されたB.Hutchinsonらの式を参考にして固溶C量を求めた。
[炭化物の大きさ、個数密度の測定]
上記で得られた各鋼板における板厚の1/4部位から、切断、研磨(減厚)、打ち抜きにより直径:3mm×厚さ:0.1mmの円板状薄片を採取し、電解薄膜法にて試料の厚さを0.1μm以下まで研磨し、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope、商品名「H−800」日立製作所製)にて観察し、長径が200nm以上の炭化物の個数密度を測定した。TEM観察は、60000倍(1視野あたりの体積:約0.33μm3)の5視野で行った。この観察で得られた画像において、観察されたアスペクト比が2以上の第二相(析出物)を炭化物とし、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて長径が200nm以上の炭化物の個数を解析し、炭化物の個数密度をμm3あたりに換算して求めた。
上記で得られた各鋼板における板厚の1/4部位から、切断、研磨(減厚)、打ち抜きにより直径:3mm×厚さ:0.1mmの円板状薄片を採取し、電解薄膜法にて試料の厚さを0.1μm以下まで研磨し、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope、商品名「H−800」日立製作所製)にて観察し、長径が200nm以上の炭化物の個数密度を測定した。TEM観察は、60000倍(1視野あたりの体積:約0.33μm3)の5視野で行った。この観察で得られた画像において、観察されたアスペクト比が2以上の第二相(析出物)を炭化物とし、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて長径が200nm以上の炭化物の個数を解析し、炭化物の個数密度をμm3あたりに換算して求めた。
[鋼板の耐遅れ破壊性評価試験]
上記で得られた各鋼板から、幅:150mm×長さ:30mmの試験片を切り出し、切断端面をフライス加工した後に、試験片端部に応力付与のためのボルトを通す穴を開けた。さらにその後、ポンチ/ダイにより曲げ半径:10mmでU曲げ加工を行い、曲げ頭頂部に歪みゲージを貼り付け、曲げ試験片をボルト、ナットで締め付けることで鋼板の降伏強さYSに相当する応力を付与した。このU曲げ試験片を、0.1N−HCl溶液中に200時間で浸漬し、各3回の試験で1つも割れが発生しなかった例を耐遅れ破壊性に優れると評価し、1つでも割れが発生した例を耐遅れ破壊性が劣ると評価した。下記表3には、耐遅れ破壊性に優れる例を「○」で示し、耐遅れ破壊性に劣る例を「×」で示した。
上記で得られた各鋼板から、幅:150mm×長さ:30mmの試験片を切り出し、切断端面をフライス加工した後に、試験片端部に応力付与のためのボルトを通す穴を開けた。さらにその後、ポンチ/ダイにより曲げ半径:10mmでU曲げ加工を行い、曲げ頭頂部に歪みゲージを貼り付け、曲げ試験片をボルト、ナットで締め付けることで鋼板の降伏強さYSに相当する応力を付与した。このU曲げ試験片を、0.1N−HCl溶液中に200時間で浸漬し、各3回の試験で1つも割れが発生しなかった例を耐遅れ破壊性に優れると評価し、1つでも割れが発生した例を耐遅れ破壊性が劣ると評価した。下記表3には、耐遅れ破壊性に優れる例を「○」で示し、耐遅れ破壊性に劣る例を「×」で示した。
これらの結果から、次のように考察できる。まず試験No.1〜5、17〜21、33〜44は、本発明で規定する化学成分組成を満足する鋼板を用い、適切な製造条件で製造し、本発明で規定する要件を満足する例であり、引張強度が1270MPa以上の高強度を示しており、且つ曲げ性および耐遅れ破壊性に優れていることが分かる。
これに対し、本発明で規定するいずれかの要件を満足しない例では、引張強度、曲げ性および耐遅れ破壊性のいずれかにおいて劣化している。すなわち、試験No.6〜17、および試験No.22〜32は、本発明で規定する化学成分組成は満足しているが、好ましい製造条件で製造されなかったため、組織、固溶C量、炭化物の個数密度のいずれかが本発明で規定する範囲をはずれ、引張強度、曲げ性および耐遅れ破壊性の少なくともいずれかが劣化している。
具体的には、試験No.5および試験No.22は、焼入れ開始温度が低くマルテンサイト素地にフェライトが過剰に生成したため、耐遅れ破壊性が劣化した。また試験No.6および試験No.23は、焼鈍温度が低く、二相域での焼鈍となっており、フェライト−マルテンサイト組織の二相組織となっているため、引張強度および耐遅れ破壊性が低下
した。
した。
試験No.8および試験No.24は、焼鈍温度での保持時間が短くなった例であり、組織がオーステナイト単相化しておらず、フェライト−マルテンサイト組織の二相組織となっているため、鋼板の引張強度が低下するとともに耐遅れ破壊性が劣化している。
試験No.9および試験No.25は、一段目の焼戻し温度T1が低くなっている例であり、マルテンサイト中の固溶C量が過剰になったため靱性が低下し、耐遅れ破壊性が劣化している。試験No.10および試験No.26は、一段目の焼戻し温度T1が高くなっている例であり、粗大な炭化物が多量に生成したため、鋼板の引張強度が低下するとともに耐遅れ破壊性が劣化している。
試験No.11および試験No.27は、一段目の焼戻しにおける保持時間t1が短くなっている例であり、マルテンサイト中の固溶C量が過剰になったため鋼板の靱性が低下して耐遅れ破壊性が劣化している。試験No.12および試験No.28は、一段目の焼戻しにおける保持時間t1が長くなっている例であり、粗大な炭化物が多量に生成したため、鋼板の曲げ性が劣化している。
試験No.13および試験No.29は、二段目の焼戻しを行わなかった例であり、マルテンサイト中の固溶C量が過剰になったため鋼板の靱性が低下して耐遅れ破壊性が劣化している。試験No.14および試験No.30は、二段目の焼戻し温度T2が低くなっている例であり、マルテンサイト中の固溶C量が過剰になったため鋼板の靱性が低下して耐遅れ破壊性が劣化している。
試験No.15および試験No.31は、二段目の焼戻しにおける保持時間t2が短くなっている例であり、マルテンサイト中の固溶C量が過剰になったため鋼板の靱性が低下して耐遅れ破壊性が劣化している。試験No.16および試験No.32は、二段目の焼戻し温度T2が高くなっている例であり、粗大な炭化物が多量に生成したため、鋼板の曲げ性が劣化している。
一方、試験No.45〜49は、好ましい製造条件で製造されているが、本発明で規定する化学成分組成を満足しない鋼種U〜Yを用いた例であり、引張強度、曲げ性および耐遅れ破壊性の少なくともいずれかが劣化している。
具体的には、試験No.45は、C量が不足している鋼種Uを用いた例であり、焼入れ性が不十分となって、フェライト−マルテンサイト組織の二相組織となっているため、引張強度が不足し、更に多量に存在するフェライトに加工歪みが集中するため鋼板の耐遅れ破壊性が劣化している。試験No.46は、C量が過剰な鋼種Vを用いた例であり、マルテンサイト中の固溶C量が過剰になったため、耐遅れ破壊性が劣化している。
試験No.47は、Si量が過剰な鋼種Wを用いた例であり、鋼板の焼入れ性が不十分となっており、フェライト−マルテンサイト組織の二相組織となっているため、鋼板の引張強度が低くなっており、また耐遅れ破壊性が劣化している。
試験No.48は、Mn量が過剰な鋼種Xを用いた例であり、中心偏析部にMnSが多量に生成していることが予想され、鋼板の耐遅れ破壊性が劣化している。試験No.49は、S量が過剰な鋼種Yを用いた例であり、MnSが多量に生成していることが予想され、鋼板の耐遅れ破壊性が劣化している。
(試験例2)
上記表2に示した試験No.4、5、18、41、およびNo.48の高強度鋼板(冷延鋼板)について、下記の条件で電気亜鉛めっきを施し、各種EG鋼板を得た。
上記表2に示した試験No.4、5、18、41、およびNo.48の高強度鋼板(冷延鋼板)について、下記の条件で電気亜鉛めっきを施し、各種EG鋼板を得た。
[電気亜鉛めっき処理条件]
上記冷延鋼板を、55℃の亜鉛めっき浴に浸漬し、電気亜鉛めっき処理を施した後、水洗、乾燥して電気亜鉛めっき鋼板とした。このときの電気亜鉛めっき処理は、電流密度を40A/dm2として行った。また亜鉛めっき付着量は、片面あたり40g/m2とした。なお、上記電気亜鉛めっき処理では、適宜アルカリ水溶液浸漬脱脂、水洗、酸洗等の洗浄処理を行い、冷延鋼板の表面に電気亜鉛めっき層を有するEG鋼板を製造した。
上記冷延鋼板を、55℃の亜鉛めっき浴に浸漬し、電気亜鉛めっき処理を施した後、水洗、乾燥して電気亜鉛めっき鋼板とした。このときの電気亜鉛めっき処理は、電流密度を40A/dm2として行った。また亜鉛めっき付着量は、片面あたり40g/m2とした。なお、上記電気亜鉛めっき処理では、適宜アルカリ水溶液浸漬脱脂、水洗、酸洗等の洗浄処理を行い、冷延鋼板の表面に電気亜鉛めっき層を有するEG鋼板を製造した。
上記で得られたEG鋼板について、下記の耐食性評価試験を行い、耐食性を調査した(下記表4の試験No.50〜54)。このとき、各EG鋼板の素地鋼板である冷延鋼板についても(試験No.4、5、18、41、48)、同様の調査を行った。
[耐食性評価試験]
幅:70mm×長さ:150mmの試験片を切り出し、下記の複合サイクル腐食試験を1週間行い、鋼板の腐食減量(腐食による鋼板の単位面積あたりの質量減量)を測定し、耐食性を評価した。ここで、腐食減量:500g/m2以下を特に耐食性に優れる例として「◎」で示し、腐食減量:500g/m2を超え1000g/m2以下のものを耐食性に優れる例として「○」で示し、腐食減量:1000g/m2を超えのものを耐食性に劣る例のとして「×」で示した。
幅:70mm×長さ:150mmの試験片を切り出し、下記の複合サイクル腐食試験を1週間行い、鋼板の腐食減量(腐食による鋼板の単位面積あたりの質量減量)を測定し、耐食性を評価した。ここで、腐食減量:500g/m2以下を特に耐食性に優れる例として「◎」で示し、腐食減量:500g/m2を超え1000g/m2以下のものを耐食性に優れる例として「○」で示し、腐食減量:1000g/m2を超えのものを耐食性に劣る例のとして「×」で示した。
また上記で得られたEG鋼板について、下記の条件で耐遅れ破壊性試験を行い、耐遅れ破壊性を調査した(下記表4の試験No.50〜54)。
[耐遅れ破壊性試験]
幅:150mm×長さ:30mmの試験片を切り出し、切断端面をフライス加工した後に、試験片端部に応力付与のためのボルトを通す穴を開けた。さらにその後、ポンチ/ダイにより曲げ半径:10mmでU曲げ加工を行い、曲げ頭頂部に歪みゲージを貼り付け、曲げ試験片をボルト、ナットで締め付けることで鋼板の降伏強さYSに相当する応力を付与した。さらに母材鋼板とボルトの異種金属接触腐食を防止するためボルト部と穴部をシリコンシーラント(信越化学工業株式会社製信越シリコーンKE−45)でマスキングを行った。
幅:150mm×長さ:30mmの試験片を切り出し、切断端面をフライス加工した後に、試験片端部に応力付与のためのボルトを通す穴を開けた。さらにその後、ポンチ/ダイにより曲げ半径:10mmでU曲げ加工を行い、曲げ頭頂部に歪みゲージを貼り付け、曲げ試験片をボルト、ナットで締め付けることで鋼板の降伏強さYSに相当する応力を付与した。さらに母材鋼板とボルトの異種金属接触腐食を防止するためボルト部と穴部をシリコンシーラント(信越化学工業株式会社製信越シリコーンKE−45)でマスキングを行った。
上記試験片を下記の複合サイクル腐食試験に4週間供し、遅れ破壊の有無について調査した。複合サイクル腐食試験に4週間供した後に遅れ破壊が発生しなかった例を「○」で示し、遅れ破壊が発生した例を「×」で示した。
(複合サイクル腐食試験)
塩水噴霧(5質量%−NaCl、35℃×2時間)→乾燥(相対湿度:20〜30%、60℃×4時間)→湿潤(相対湿度:95%以上、50℃×2時間)を1サイクル(1サイクルは8時間)とし、一日に3サイクル行った。これを、耐食性評価試験については1週間、耐遅れ破壊性試験については4週間行い、耐食性、耐孔あき性、割れ発生の有無について調査を行った。
塩水噴霧(5質量%−NaCl、35℃×2時間)→乾燥(相対湿度:20〜30%、60℃×4時間)→湿潤(相対湿度:95%以上、50℃×2時間)を1サイクル(1サイクルは8時間)とし、一日に3サイクル行った。これを、耐食性評価試験については1週間、耐遅れ破壊性試験については4週間行い、耐食性、耐孔あき性、割れ発生の有無について調査を行った。
その結果を、下記表4に示す。なお、表4に示した冷延鋼板(試験No.4、5、18、41、48)における耐遅れ破壊性評価は、前記表3の結果を示したものである。
この結果から、次のように考察できる。まず試験No.50、51、52、53は化学成分組成を満足する鋼板を用い、適切な製造条件で製造した高強度鋼板に対し、電気亜鉛めっきを施した高強度電気亜鉛めっき鋼板の例であり、耐食性、および耐遅れ破壊性に優れていることが分かる。また上記試験No.50〜53における素地鋼板となる冷延鋼板(試験No.4、5、18、41、48)についても、耐食性に優れていることが分かる。
試験No.48は、Mn量が過剰な鋼種Xを用いた例であり、元々冷延鋼板の耐遅れ破壊性が劣化していたが(表3)、このような冷延鋼板に対して電気亜鉛めっきを施しても十分な耐遅れ破壊性を示さないことが分かる(試験No.54)。
Claims (6)
- C :0.10質量%以上0.35質量%以下、
Si:0質量%以上0.6質量%以下、
Mn:0質量%超1.5質量%以下、
Al:0質量%超0.15質量%以下、
N :0質量%超0.01質量%以下、
P :0質量%超0.02質量%以下、および
S :0質量%超0.01質量%以下
を夫々含有し、残部が鉄および不可避不純物であり、
全組織中に占めるマルテンサイトの面積率が95%以上であり、且つ前記マルテンサイトの固溶Cが0.05質量%以下であるとともに、長径が200nm以上の炭化物の密度が50個/μm3以下であり、引張強度が1270MPa以上であること特徴とする高強度鋼板。 - 更に、Cr:0質量%超1.0質量%以下およびB:0質量%超0.01質量%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1に記載の高強度鋼板。
- 更に、Cu:0質量%超0.5質量%以下およびNi:0質量%超0.5質量%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載の高強度鋼板。
- 更に、V:0質量%超0.1質量%以下、Nb:0質量%超0.1質量%以下、Mo:0質量%超0.5質量%以下およびTi:0質量%超0.2質量%以下よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の高強度鋼板。
- 更に、Ca:0質量%超0.005質量%以下およびMg:0質量%超0.005質量%以下よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の高強度鋼板。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の高強度鋼板の表面に、電気亜鉛めっき層を有することを特徴とする高強度電気亜鉛めっき鋼板。
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- 2017-09-25 JP JP2017183608A patent/JP2018109222A/ja active Pending
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