以下、図面を参照して、本発明に係る橋梁点検装置10の実施形態について詳細に説明する。
≪第1実施形態≫
まず、図1〜図15を参照して第1実施形態を説明する。図1は、橋梁1に取り付けられ、点検可能な状態とされた実施形態に係る橋梁点検装置10を示す側面図であり、横断面で示される橋梁1に橋梁点検装置10が取り付けられている。橋梁1は、略水平に延在する下床版2と、下床版2の橋軸直交方向の両端部から立ち上がる一対のウェブ3と、一対のウェブ3の上端に連結して略水平に延在する上床版4とから構成される鉄筋コンクリートからなる単一箱桁橋である。一対のウェブ3は、下床版2の左右の両端から上方に向けて開く向きに傾斜している。上床版4は、一対のウェブ3の上端同士を連結して下床版2と協働して箱形断面を形成する。また、上床版4は、ウェブ3のそれぞれから側方に張り出す左右の張出部5を有しており、これにより橋梁1の幅員を増大させている。張出部5の張り出し端には、上方に向けて突出する鉄筋コンクリートからなる高欄6が設けられている。
張出部5は、片持ち支持されたウェブ3の上端部近傍で最も厚く、張り出し端側ほど薄くなるテーパ形状とされている。張出部5の下面は水平面に対して傾斜している。高欄6は、略鉛直に延在する外面と上方に向けて外方へ傾斜する内面とを有するテーパ形状とされている。本明細書では、水平面に対して45°以下の傾斜角をもって下方に向く面を橋梁1の下面とし、水平面に対して45°よりも大きな傾斜角をもって外側方に向く面を橋梁1の外側面とする。また、水平面に対して45°以下の傾斜角をもって上方に向く面を橋梁1の上面とし、水平面に対して45°よりも大きな傾斜角をもって内側方に向く面を橋梁1の内側面とする。従って、張出部5の下面及び下床版2の下面は橋梁1の下面であり、ウェブ3の外面及び高欄6の外面は橋梁1の外側面である。また、上床版4の上面及び高欄6の上面は橋梁1の上面であり、高欄6の内面は橋梁1の内側面である。
橋梁1の下面は、特別な足場等を用いないと人が目視で点検することができない。そこで、橋梁1の下面を撮影するために橋梁点検装置10が用いられる。以下、橋梁点検装置10について説明する。なお、橋梁点検装置10は、これを操作する操作者が上床版4上で操作するものであるため、橋梁1の外側方に向く操作者を基準として前後左右の方向を定める。図示の例では、橋梁点検装置10が橋梁1の右側に取り付けられており、橋梁1の右外方が橋梁点検装置10の前方となり、橋梁1の内方が橋梁点検装置10の後方となる。
図2は、橋梁点検装置10の要部拡大図である。図1及び図2に示されるように、橋梁点検装置10は、高欄6に取り付けられる台車ユニット11を有している。台車ユニット11は、高欄6を前後方向(橋軸直角方向)に跨ぐように高欄6の上部に取り付けられる台車12と、台車12に取り付けられるアーム保持装置13とを有している。台車12は、高欄6の上方に前後方向に張り出すように設けられる車体上部14U及び車体上部14Uの前端から下方へ垂下する車体前部14Fを有するL字形状の車体本体14を有している。車体本体14の後部には、車体上部14Uから下方へ垂下する車体後部15が前後方向に移動可能且つ所望の位置で固定可能に取り付けられている。車体後部15は、車体前部14Fと協働して高欄6を前後から挟み込む。
車体上部14Uには、前後に延びる回転軸を有し、高欄6の上面に転接する上車輪16が左右に離間する2ヶ所に取り付けられている。車体前部14Fには、鉛直に延びる回転軸を有し、高欄6の外面に転接する前車輪17が、上下に2段且つ各段において左右に2ヶ所の合計4ヶ所に取り付けられている。車体後部15には、鉛直に延びる回転軸を有し、高欄6の内面に転接する後車輪18が、左右に離間する2ヶ所に取り付けられている。後車輪18は、上段の前車輪17よりも若干低い位置に配置されている。以下、上車輪16、前車輪17及び後車輪18を総称して、車輪16〜18という。これらの車輪16〜18によって台車12は高欄6上を走行可能になっている。上車輪16は台車12に搭載された駆動源19によって駆動される駆動輪となっており、上車輪16が駆動されることにより、台車12は高欄6上を橋軸方向に自走する。なお、全ての車輪16〜18が高欄6に常時転接している必要はない。
台車12は、これらの車輪16〜18によって左右方向(橋軸方向)に移動可能とされると共に、左右方向の所定の位置に固定されるように走行ブレーキ機構を備えている。走行ブレーキ機構は、台車12が手動である場合に、車輪16〜18の回転を阻止するブレーキ部材により構成されてもよく、台車12が電動である場合に、駆動輪の動力伝達機構に組み込まれた逆入力防止機構により構成されてもよい。或いは、高欄6に挟み込む力を加えるように当接する当接機構によって走行ブレーキ機構が構成されてもよい。
車体上部14Uの上方には連結機構20が設けられている。連結機構20は、車体上部14Uに固定されたフレーム部21と、フレーム部21に前後方向に移動可能に支持されたスライダ部22とを有している。スライダ部22の後端にはアーム保持装置13を左右方向の軸線回りに回動可能且つ着脱可能に支持する枢支部23が形成されている。即ち、連結機構20は、ベース部31を橋軸方向の軸線回りに回動可能に台車12に連結すると共に、アーム保持装置13を橋軸直角方向にスライド可能且つ着脱可能に台車12に連結する。また、フレーム部21の前端には、フレーム部21から前方及び上方へ突出するように配置され、橋軸方向の回転軸を有するガイドローラー24が設けられている。ガイドローラー24の機能については後に説明する。
アーム保持装置13は、台車12の上方で前後方向に延在するベース部31と、ベース部31の前端(橋軸直角方向の外端)に一体に設けられ、高欄6の外側に高欄6の側面に沿って鉛直に配置されるアームホルダ32とを有している。アーム保持装置13は、ベース部31の後端が連結機構20の枢支部23に左右方向の軸線回りに回動可能に取り付けられることによって連結機構20を介して台車12に連結される。
アームホルダ32は、鉛直アーム40を保持すると共に鉛直アーム40を回転させる電動回転機構33と、鉛直アーム40を昇降させる電動ウィンチ34とを備えている。これにより、アームホルダ32は、高欄6の外側に鉛直に配置される鉛直アーム40を昇降可能且つ鉛直軸線回りに回転可能に保持する。電動回転機構33は、鉛直アーム40を保持する保持部を回転させることによって鉛直アーム40を回転させる。電動ウィンチ34は、電動回転機構33が鉛直アーム40の保持を解除した状態で、鉛直アーム40の先端部に係止されたワイヤ35の巻き上げ及び送り出しを行うことによって鉛直アーム40を昇降させる。また、アームホルダ32には、電動回転機構33を上下に昇降させることで鉛直アーム40を昇降させるアーム昇降装置36が設けられている。アーム昇降装置36は、制御装置37により駆動制御され、後述する台車ユニット11の走行時に、ワイヤ35を介して電動ウィンチ34が鉛直アーム40を支持していない状態で、鉛直アーム40を保持した電動回転機構33をアームホルダ32の高さの範囲で昇降させる。即ち、アーム昇降装置36と制御装置37とにより、鉛直アーム40を昇降駆動するアーム駆動装置38が構成される。
図1に示されるように、鉛直アーム40は、アーム保持装置13により保持された状態で、下端が下床版2の下面よりも所定寸法(後述する束部42の高さ)以上下方に位置する長さに伸長するように構成されている。鉛直アーム40は、継ぎ足し式で伸長しても伸縮式で伸長してもよい。鉛直アーム40の、アーム保持装置13よりも下方の中間部には、鉛直アーム40の軸力(引張力)を検出する軸力センサ39が設けられている。軸力センサ39は、後述する第2滑車47よりも高い位置に設けられており、検出した鉛直アーム40の軸力を制御装置37に送出する。
鉛直アーム40の下端には、橋軸直角方向に概ね水平に延在する水平アーム41が設けられている。水平アーム41は、その長手方向の中間部を左右方向(橋軸方向)の軸線回りに回動可能に鉛直アーム40に結合されている。鉛直アーム40は、水平アーム41の長手方向の中央よりも前方(橋軸直角方向外方)の位置で水平アーム41に結合している。つまり、水平アーム41における、鉛直アーム40との結合部に対して後方側(橋軸直角方向内方側)の第1部分41Aは、前方側(橋軸直角方向外方側)の第2部分41Bよりも長くなっている。
水平アーム41の第1部分41Aは、橋梁1の下方に配置され、下床版2の下方に至る長さを有している。水平アーム41の第1部分41Aには、橋梁1を下方から点検するために橋梁1の下面を撮影する点検カメラ45が取り付けられている。点検カメラ45は、遠隔操作によって撮影方向(アングル)や撮影倍率の変更、撮像(シャッター操作)、或いは撮影開始や撮影停止を操作できるように構成されている。点検カメラ45は、水平アーム41の第1部分41Aを長手方向に移動可能に構成されていてもよい。
水平アーム41の第1部分41Aの長手方向の中間部には、上方へ突出する束部42が設けられている。束部42は、水平アーム41の第1部分41Aのうち、鉛直アーム40との結合部から後方へ第2部分41Bの長さよりも大きく離れた位置に固定されている。束部42の先端には橋軸直角方向に延びる回転軸を有するローラー43が取り付けられている。図1に示されるように橋梁点検装置10が点検可能に橋梁1に取り付けられた状態では、ローラー43は下床版2の下面に転接している。
一方、水平アーム41の第2部分41Bは橋梁1の外方に配置されており、その先端には左右方向の回転軸を有する第1滑車46が取り付けられている。また、鉛直アーム40の水平アーム41との結合部よりも高い位置には第2滑車47が設けられている。第1滑車46には、その下方に配置されたカウンタウェイト48に一端を連結された第1吊り材49が巻き掛けられている。第1吊り材49は、カウンタウェイト48から、ガイド部として機能する第1滑車46及び第2滑車47をこの順に通った後、水平アーム41の第1部分41Aに張設されている。より詳細には、第1吊り材49の他端は、水平アーム41における束部42が設けられた部分に連結されている。これにより、第1吊り材49は、カウンタウェイト48の荷重を上方斜め前方に向く力に変換して水平アーム41の第1部分41Aに作用させることで、第1部分41Aを上方に付勢する。
水平アーム41の第1部分41Aが第2部分41Bよりも長く、且つ第1部分41Aに点検カメラ45や束部42が設けられている。そのため、カウンタウェイト48が設けられていない場合には、水平アーム41は第1部分41Aが下方へ回動するようなバランス状態にある(重心が鉛直アーム40との結合部よりも後方にある)。本実施形態では、カウンタウェイト48の荷重が上方斜め前方に向く力となって水平アーム41の第1部分41Aに作用する。そして、水平アーム41が第1部分41Aを上方へ回動させるようなバランス状態になるように、第1滑車46の位置及びカウンタウェイト48の荷重が設定されている。
図3は、図1中のIII矢視図であり、橋梁点検装置10の下部(鉛直アーム40と水平アーム41との結合部周辺)の正面図を示している。図1及び図3に示されるように、第1滑車46は水平アーム41の軸線上に配置されている。一方、第2滑車47は、鉛直アーム40の橋軸方向の両側に左右対称に一対に設けられている。第1吊り材49は2本で1組とされ、第2滑車47のそれぞれに1本の第1吊り材49が巻き掛けられ、2本の第1吊り材49は共に第1滑車46に巻き掛けられている。
一対の第2滑車47は共通の支持部材50によって軸支されている。共通の支持部材50は、鉛直アーム40の前面に鉛直に形成されたスリット40aを通って鉛直アーム40の内部に延びており、鉛直アーム40の内部に配置された図示しないケーブルによって上下動可能に懸吊されている。つまり、一対の第2滑車47は、共通の支持部材50がケーブルによって上下駆動されることにより、鉛直アーム40における高さ位置を変更可能な可動滑車として構成されている。第1滑車46及び第2滑車47は、第2滑車47が上下動した際に相対移動する第1吊り材49を案内するガイド部としても機能する。
図1に示されるように、カウンタウェイト48が水平アーム41の第1部分41Aを上方に付勢する力は、第1吊り材49の張設角度に応じて変化する。即ち、第1吊り材49を伝わって水平アーム41の第1部分41Aに作用する力は、第1部分41Aを長手方向(長軸直角方向)に圧縮する分力と第1部分41Aを上方へ回動させる分力とに分かれる。そして、水平アーム41に対する第1吊り材49の角度が大きくなるほど、第1部分41Aを上方へ回動させる分力が大きくなることで、第1部分41Aの曲げモーメントが小さくなり、撓みも小さくなる。一方、軸力センサ39が設けられた位置の鉛直アーム40の軸力は、第1吊り材49の張設角度が変化しても、外力が加わらない限り変化しない。
図4は、図1中のIV部(鉛直アーム40と水平アーム41との結合部周辺)を示す拡大図であり、図4(A)は図1の状態を、図4(B)は、(A)から動作した状態を示している。図1及び図4(A)に示されるように、鉛直アーム40の下端部には、前方に延出し、水平アーム41が前方の第2部分41Bを上方へ移動させる向きに回動することを阻止する第1ストッパ部材51が固定されている。
鉛直アーム40の下端部には、水平アーム41の第1部分41Aに上方から当接する第2ストッパ部材52が水平アーム41の支持軸を中心として回動可能に設けられている。第2ストッパ部材52は、遠隔操作される図示しない駆動力源によって図4(A)に示す状態と図4(B)に示す状態とを取り得るように回動駆動される。図4(A)に示される状態では、第2ストッパ部材52が水平アーム41の第1部分41Aを押し下げ、水平アーム41の第2部分41Bが第1ストッパ部材51に当接している。この状態では、水平アーム41は鉛直アーム40に剛結合されて概ね水平に延在しており、水平アーム41の鉛直アーム40に対する回動が規制されている(以下、この状態を回動規制状態という)。
図4(B)では、第2ストッパ部材52が水平アーム41との当接面52aを上方に移動させるように回動駆動されている。なお、水平アーム41は第1部分41Aを下方へ回動させるようなバランス状態にあるが、図4(B)では、束部42が下床版2の下面に当接していることによって水平アーム41の回動が阻止され、第2ストッパ部材52の当接面52aと水平アーム41の上面との間に隙間が形成されている。一方、束部42が下床版2の下面に当接していない場合には、水平アーム41は想像線で示す位置まで時計回りに回動し、第1部分41Aを第2ストッパ部材52に当接させる。そのような状態で第2ストッパ部材52が反時計回りに回動駆動されると、第2ストッパ部材52が第1部分41Aを押し下げることで水平アーム41は図4(A)に示される回動位置に駆動される。
即ち、図4(B)に示される状態では、水平アーム41の鉛直アーム40に対する回動が、第1ストッパ部材51に当接する回動角度(実線)と第2ストッパ部材52に当接する回動角度(想像線)との間の角度範囲で許容されている(以下、この状態を回動許容状態という)。言い換えれば、第1ストッパ部材51及び第2ストッパ部材52が、水平アーム41の鉛直アーム40に対する回動角度を所定の角度範囲に規制するストッパを構成している。そして、第2ストッパ部材52が、回動駆動されることによって回動規制状態と回動許容状態とを切り替える切替機構を構成している。
このように構成された橋梁点検装置10は、作業者が次のような典型的な操作を行うことによって橋梁1の点検を行う。
まず、作業者は、橋梁点検装置10を概ね図1に示されるような状態にセットする。具体的には、台車ユニット11が高欄6に取り付けられ、アーム保持装置13によって鉛直アーム40が保持され、鉛直アーム40の下端から水平アーム41が橋軸直角方向の両方に延びた状態にセットする。この状態では、橋梁点検装置10が第2ストッパ部材52によって水平アーム41の回動を規制された回動規制状態となっている。一方、第2滑車47が上側に配置されていることで、水平アーム41は第1部分41Aを上方へ回動させる比較的大きな力を第1吊り材49から受けている。また、この状態では、束部42のローラー43が橋梁1の下面に当接しない高さにとなるように、鉛直アーム40がアーム保持装置13によって保持されている。なお、水平アーム41の延在方向は、アーム保持装置13に備えられた電動回転機構33によってアームホルダ32を回転駆動することで調整可能である。
この状態から、作業者は当接面52aが上方に移動するように第2ストッパ部材52を回動駆動して、橋梁点検装置10を回動許容状態にする。すると、水平アーム41が第1部分41Aを上方へ移動させる向きに回動し、束部42のローラー43が橋梁1の下面に当接する。束部42(ローラー43)が橋梁1の下面に当接することにより、点検カメラ45の揺れは早期に収まる。点検カメラ45の揺れが収まった後、作業者は遠隔操作によって点検カメラ45による橋梁1の下方からの点検(撮影)を行う。
1つの点検スパン(点検カメラ45が撮影可能な橋軸方向範囲)の点検が終わると、作業者は、そのままの状態で台車ユニット11を走行させて橋梁点検装置10を次の点検スパンに移動させる。この際、点検カメラ45が揺れることがあるが、水平アーム41は束部42(ローラー43)を橋梁1の下面に当接させており、束部42から点検カメラ45までの距離が短いため、揺れは早期に収束する。
或いは、1つの点検スパンの点検後、作業者は、第2ストッパ部材52を図4(A)に示される位置に駆動して橋梁点検装置10を回動規制状態にしてもよい。具体的には、作業者は、橋梁点検装置10を回動規制状態にした後、束部42が橋梁1の下面から離間するように水平アーム41を回動させた後に台車ユニット11を走行させて橋梁点検装置10を次の点検スパンに移動させてもよい。
このようにすると、台車ユニット11の走行時に束部42のローラー43が橋梁1の下面に転接していないため、ローラー43の移動距離が台車ユニット11の移動距離よりも短くなること、つまり水平アーム41の延在方向が水平面内でずれることが防止できる。
一方、このようにすると、ローラー43を橋梁1に転接させたまま移動する場合に比べ、橋梁点検装置10の移動時に水平アーム41及び点検カメラ45が大きく揺れることがある。しかしながら、作業者が第2ストッパ部材52を操作して橋梁点検装置10を回動許容状態にすることで、水平アーム41が回動して束部42が橋梁1の下面に当接するため、水平アーム41及び点検カメラ45の揺れは早期に収束する。
台車ユニット11が高欄6を走行している時には高欄6から橋梁1の下面までの高さが変化することがある。水平アーム41の撓みによる上向きのばね力を加えて束部42のローラー43を橋梁1の下面に当接させた状態で台車ユニット11を走行させている時に、この高さが小さくなった場合、高さ変化が小さいうちは、水平アーム41の撓みが小さくなって鉛直アーム40の軸力(引張力)が小さくなり、高さ変化が大きくなると、束部42のローラー43が橋梁1の下面から離れて水平アーム41が揺れ易くなる。逆に、この高さが大きくなった場合には、水平アーム41の撓みが大きくなって鉛直アーム40の軸力が大きくなってしまう。
そこで、制御装置37は、台車ユニット11の走行時に、ローラー43が橋梁1の下面に当接する所定の軸力範囲RPに軸力センサ39の値が収まるように、軸力センサ39の検出値が大きくなった時に台車ユニット11から水平アーム41の中間部までの長さを長くし、軸力センサ39の検出値が小さくなった時に台車ユニット11から水平アーム41の中間部までの長さを短くするように、鉛直アーム40を駆動する。以下、制御装置37について具体的に説明する。
図5は、制御装置37の機能ブロック図である。制御装置37には、入力操作部60において作業者が行った操作の操作信号SIが入力インターフェース61を介して入力される。操作信号SIには、制御のオン・オフ信号の他、水平アーム41や点検カメラ45、カウンタウェイト48等の重量に応じて設定される設定荷重Psが含まれる。入力インターフェース61は、無線によるものであってもよく、有線によるものであってもよい。また、制御装置37の入力インターフェース61には、軸力センサ39が検出した鉛直アーム40の軸力Pが入力されると共に、台車ユニット11から、高欄6上を走行している(駆動源19が駆動輪を駆動している)ことを示す走行駆動信号Sdが入力される。
入力インターフェース61を介して入力された設定荷重Psは、上下限値設定部62において、鉛直アーム40の上限軸力Pmax及び下限軸力Pminの演算に利用される。例えば、上下限値設定部62は、入力された設定荷重Psに対し、設定荷重Psに1.1を乗算することにより上限軸力Pmaxを算出し、設定荷重Psに0.9を乗算することにより下限軸力Pminを算出する。或いは、上下限値設定部62は、入力された設定荷重Psに対し、所定の許容軸力変化量を加算することにより上限軸力Pmaxを算出し、所定の許容軸力変化量を減算することにより下限軸力Pminを算出してもよい。即ち、上下限値設定部62は、上限軸力Pmax及び下限軸力Pminを算出することで、所定の軸力範囲RPを設定する。
入力インターフェース61を介して入力された台車ユニット11の走行駆動信号Sdは、走行判定部63において、台車ユニット11が高欄6上を走行していることの判定に利用される。具体的は、走行判定部63は、走行方向に関わらず、駆動源19が駆動輪の駆動を開始した時に、台車ユニット11の走行開始を判定し、駆動源19が駆動輪の駆動を停止した時に、台車ユニット11の走行開始を判定する。走行判定部63は、台車ユニット11が走行を継続している間、走行信号Srを生成する。
軸力差演算部64は、走行信号Srが生成されている時に、軸力センサ39からの軸力Pと所定の軸力範囲RPとに基づいて軸力差ΔPを算出する。具体的には、軸力差演算部64は、軸力Pが上限軸力Pmaxよりも大きい場合に、軸力Pから上限軸力Pmaxを減算して軸力差ΔPを算出し、軸力Pが下限軸力Pminよりも小さい場合に、軸力Pから下限軸力Pminを減算して負値の軸力差ΔPを算出する。
軸力差演算部64において算出された軸力差ΔPは、昇降量演算部65において、鉛直アーム40の昇降量Dの演算に利用される。昇降量演算部65は、軸力差ΔPに基づいて、例えば軸力差ΔPに所定の係数を乗算することにより、昇降量Dを算出する。正の軸力差ΔPに基づいて算出される正の昇降量Dは鉛直アーム40を下降させるべき下降量を示し、負の軸力差ΔPに基づいて算出される負の昇降量Dは鉛直アーム40を上昇させるべき上昇量を示す。
昇降量演算部65において算出された昇降量Dは、出力インターフェース66を介してアーム昇降装置36に向けて駆動信号Smとして出力される。即ち、制御装置37は、駆動信号Smが示す昇降量Dだけ鉛直アーム40を下降(昇降量Dが負の値の場合は上昇)させるようにアーム昇降装置36を駆動制御する。
図6は、制御装置37が上記のように鉛直アーム40を昇降させる鉛直アーム昇降制御のフローチャートを示している。制御装置37は、入力操作部60からオン信号が入力されることにより、図6に示される鉛直アーム昇降制御を開始する。以下、図6を参照して、制御装置37による鉛直アーム昇降制御の手順を説明する。
制御装置37は、入力操作部60からオン信号が入力されると、まず、設定荷重Psが入力されているか否かを判定する(ステップST1)。設定荷重Psは、入力操作部60から入力されて記憶されていた値であってもよく、新たに入力される値でもよい。設定荷重Psが入力されていない場合(ステップST1:No)、制御装置37は設定荷重Psが入力されるまでステップST1の処理を繰り返す。この際、ディスプレイや音声等によって操作者に設定荷重Psの入力を促す処理を制御装置37が行ってもよい。
設定荷重Psが入力されている場合(ステップST1:No)、制御装置37は、設定荷重Psに基づいて、鉛直アーム40の上限軸力Pmax及び下限軸力Pminを算出する。即ち、所定の軸力範囲RPを設定する(ステップST2)。
次に、制御装置37は、台車ユニット11が高欄6上の走行を開始したか否か、即ち走行信号Srが生成されているか否かを判定する(ステップST3)。台車ユニット11が走行を開始していない場合(ステップST3:No)、制御装置37は上記ステップST3の判定を繰り返す。台車ユニット11が走行を開始した場合(ステップST3:Yes)、制御装置37は、軸力センサ39が検出する軸力Pが、下限軸力Pmin以上且つ上限軸力Pmax以下であるか否か、即ち所定の軸力範囲RP内にあるか否かを判定する(ステップST4)。軸力Pが下限軸力Pmin以上且つ上限軸力Pmax以下である場合(ステップST4:Yes)、制御装置37は鉛直アーム40の昇降量Dを算出することなくステップST8の処理に進む。
一方、ステップST4で軸力Pが下限軸力Pmin以上且つ上限軸力Pmax以下でないと判定された場合(No)、制御装置37は、軸力Pが下限軸力Pmin未満であるか否かを判定する(ステップST5)。軸力Pが下限軸力Pmin未満である場合(ステップST5:Yes)、制御装置37は鉛直アーム40の昇降量Dとして負の値である上昇量を算出して、鉛直アーム40を上昇させるようにアーム昇降装置36を駆動制御する(ステップST6)。他方、軸力Pが上限軸力Pmaxを超えている場合(ステップST5:No)、制御装置37は鉛直アーム40の昇降量Dとして正の値である下降量を算出して、鉛直アーム40を下降させるようにアーム昇降装置36を駆動制御する(ステップST7)。即ち、ステップST4で軸力Pが下限軸力Pmin以上且つ上限軸力Pmax以下でないと判定された場合(No)、制御装置37は、ローラー43が橋梁1の下面に当接する所定の軸力範囲RPに軸力センサ39の値が収まるように、軸力センサ39の検出値が大きくなった時に台車ユニット11から水平アーム41の中間部までの長さを長くし、軸力センサ39の検出値が小さくなった時に台車ユニット11から水平アーム41の中間部までの長さを短くするように、鉛直アーム40を駆動する。
その後、制御装置37は、台車ユニット11が高欄6上の走行を停止したか否かを判定する(ステップST8)。台車ユニット11が高欄6上の走行を停止していない場合(ステップST8:No)、制御装置37は上記ステップST4以降の手順を繰り返す。台車ユニット11が高欄6上の走行を停止した場合(ステップST8:Yes)、制御装置37は入力操作部60からオフ信号が入力されたか否かを判定する(ステップST9)。オフ信号が入力されていない場合(ステップST9:No)、制御装置37は上記ステップST3以降の手順を繰り返す。オフ信号が入力された場合(ステップST9:Yes)、制御装置37は鉛直アーム昇降制御を終了する。
このように、台車ユニット11の走行時に高欄6から橋梁1の下面までの高さが変化しても、アーム駆動装置38は、ローラー43が橋梁1の下面に当接する所定の軸力範囲RP(Pmax〜Pmin)に軸力センサ39の値が収まるように鉛直アーム40を駆動するし、台車ユニット11から水平アーム41の中間部までの長さが変更されるため、鉛直アーム40の軸力変化が小さくなり、所定の値を超えて鉛直アーム40に軸力が加わることが防止されると共に、ローラー43が橋梁1の下面から離れることも防止される。
橋梁点検装置10の移動後、上記同様に点検カメラ45による橋梁1の下方からの点検を行う。以上の手順を繰り返すことにより、橋梁点検装置10による複数の点検スパンの点検を短時間で終わらせることができる。
このように構成され、このように操作される橋梁点検装置10によれば、次のような作用効果を得ることができる。
即ち、図1に示されるように、第2滑車47を上側に配置することで、鉛直アーム40によって回動可能に支持される水平アーム41がカウンタウェイト48によって付勢されて束部42のローラー43を橋梁1の下面に当接させる。これにより、鉛直アーム40や水平アーム41が高剛性に構成されていなくても、水平アーム41の第1部分41Aの揺れが抑制され、第1部分41Aに設けられた点検カメラ45の揺れも抑制される。そのため、点検カメラ45の揺れが収まる時間が短縮され、点検カメラ45による点検作業(撮影作業)を短時間に行うことができる。また、鉛直アーム40や水平アーム41を高剛性の構成にしなくても、束部42と第1吊り材49とによって点検カメラ45の揺れが抑制されるため、橋梁点検装置10の大型化及び重量化を抑制できる。
ここで、本実施形態に係る橋梁点検装置10の力学的有利性について詳細に説明する。
図7(A)は、本発明に係る橋梁点検装置10の構造モデルを、図7(B)〜(E)は、比較例に係る点検装置の構造モデルをそれぞれ示している。図7(A)に示されるように、本発明に係る橋梁点検装置10は、鉛直アーム40の上端が固定され、鉛直アーム40の下端に水平アーム41がヒンジ結合され、水平アーム41の第1部分41Aの中間部に束部42が設けられ、水平アーム41の第1部分41Aの中間部に一端が固定された第1吊り材49が、鉛直アーム40の中間部に設けられた第2滑車47及び水平アーム41の第2部分41Bの先端に設けられた第1滑車46を経由してカウンタウェイト48を支持する第1構造を有している。
図7(B)に示される第2構造は、水平アーム41に束部42が設けられず、水平アーム41が鉛直アーム40に剛結合している点で第1構造と異なっている。図7(C)に示される第3構造は、第1吊り材49が設けられず、カウンタウェイト48が水平アーム41の第2部分41Bの先端に直接支持されている点で第1構造と異なっている。図7(D)に示される第4構造は、水平アーム41の第2部分41Bの長さが短くなっている点で第1構造と異なっている。図7(E)に示される第5構造は、鉛直アーム40に設けられる第2滑車47の位置が低くなっている点で第1構造と異なっている。
これらのモデルについて、鉛直アーム40及び水平アーム41の構造(断面積や断面二次モーメント、単位重量等)を同一にして、水平アーム41の曲げモーメントと、鉛直アーム40及び水平アーム41の変位とをそれぞれ計算した。なお、第1構造では、鉛直アーム40と水平アーム41との結合点(以下、アーム結合点という。)から束部42及び第1吊り材49の結合部までの距離を3m、第2滑車47までの距離を3.5m、第1滑車46までの距離を2.91mとした。第4構造では、アーム結合点から第1滑車46までの距離を0.97mとし、第5構造では、アーム結合点から第2滑車47までの距離を0.875mとした。
図8(A)は、本発明に係る第1構造の(1)曲げモーメントを上段に、(2)変位を下段に示し、図8(B)は、比較例に係る第2構造の(1)曲げモーメントを上段に、(2)変位を下段に示している。カウンタウェイト48の重量は、(A)に示す第1構造の束部42に圧縮軸力が生じるよう、0.2kNに設定した。この時の束部42の軸力は0.01kNである。カウンタウェイト48の重量は、(B)の第2構造においても同じ値(0.2kN)に設定した。
図8(A)の第1構造では、水平アーム41が鉛直アーム40にヒンジ結合されているため、鉛直アーム40に変位は生じず、束部42が水平アーム41をバランスさせている。一方、(B)の第2構造では、束部42がないことから、水平アーム41はバランスせず、鉛直アーム40に変位が生じている。曲げモーメントは、第1吊り材49が連結された点において第1構造及び第2構造共に−0.18kN・mであり、アーム結合点においては、第1構造では−0.31kN・mであり、第2構造では−0.26kN・mである。本発明に係る第1構造では、アーム結合点の曲げモーメント(の絶対値)は第2構造に比べて若干大きくなるが、束部42が橋梁1の下面に当接するため、水平アーム41を揺れ難くすることができる。なお、アーム結合点においる曲げモーメントは、第2構造においてカウンタウェイト48を設けない場合(図示しない)の−0.72kN・mに比べれば、第1構造であっても36%低減する。
図9(A)は、本発明に係る第1構造の(1)曲げモーメントを上段に、(2)変位を下段に示し、図9(C)は、比較例に係る第3構造の(1)曲げモーメントを上段に、(2)変位を下段に示している。カウンタウェイト48の重量は、(A)の第1構造では、図8の比較例と同じ0.2kNであり、(C)の第3構造においても同じ値(0.2kN)に設定した。
図9(C)の第3構造においても、束部42には(A)と同じ0.01kNの圧縮軸力が生じるが、第1吊り材49が設けられていないことから、アーム結合点と第1滑車46との間の曲げモーメントが非常に大きくなる。即ち、第1構造のように傾斜配置した第1吊り材49によりカウンタウェイト48を支持することで、アーム結合点と第1滑車46との間の曲げモーメントを非常に小さくできることがわかる。
図10(A)は、本発明に係る第1構造の(1)曲げモーメントを上段に、(2)変位を下段に示し、図10(D)は、比較例に係る第4構造の(1)曲げモーメントを上段に、(2)変位を下段に示し、図10(E)は、比較例に係る第5構造の(1)曲げモーメントを上段に、(2)変位を下段に示している。カウンタウェイト48の重量は、(A)の第1構造では、図8及び図9の比較例と同じ0.2kNである。
図10(D)の第4構造では、(A)に比べ、アーム結合点と第1滑車46との間の曲げモーメントが小さくなっている。但しこれは、(D)の第4構造において束部42に(A)と同じ0.01kNの圧縮軸力が生じるようにするために、カウンタウェイト48の重量を0.586kNに設定したことに起因する。即ち、水平アーム41の第2部分41Bの長さを短くするほど、カウンタウェイト48を重くしなければならない。
図10(E)の第5構造では、カウンタウェイト48の重量を0.234kNに設定している。この時の束部42の軸力は0.03kN(圧縮)である。(E)の第5構造では、第1吊り材49の傾斜角度が小さいため、水平アーム41の右端の変位が大きく、且つアーム結合点と第1滑車46との間の曲げモーメントが大きくなっている。即ち、アーム結合点から第2滑車47までの距離が短いと、水平アーム41に高い曲げ剛性を持たせなければならない。
以上のことから、鉛直アーム40の下端部に水平アーム41を回動可能に設け、カウンタウェイト48を支持する第1吊り材49を、第1滑車46及び第2滑車47を通して水平アーム41の第1部分41Aを上方に付勢し、束部42を橋梁1の下面に当接させることにより、高剛性の構成にしなくても、水平アーム41の揺れを抑制できることがわかる。なお、カウンタウェイト48を軽くするためには、第1滑車46をアーム結合部からできるだけ離れた位置に配置するのが好ましく、水平アーム41に求められる剛性を低くするためには、第2滑車47をアーム結合部からできるだけ離れた高い位置に配置するのが好ましい。
続けて、橋梁点検装置10の作用効果を説明する。図4に示されるように、第2ストッパ部材52は、水平アーム41の鉛直アーム40に対する回動を許容する回動許容状態と、水平アーム41の鉛直アーム40に対する回動を規制する回動規制状態とを切り替える切替機構として機能する。そのため、第2ストッパ部材52の操作により、点検を行う時には橋梁点検装置10を回動許容状態にし、橋梁点検装置10の高欄6への取付時や高欄6からの撤去時、移動時等に橋梁点検装置10を回動規制状態にすることができるため、取り扱いが容易である。
図1及び図4に示されるように、第1ストッパ部材51及び第2ストッパ部材52は、水平アーム41の鉛直アーム40に対する回動角度を所定の角度範囲に規制するストッパとして機能する。そのため、水平アーム41が所定の回動角度を超えて鉛直アーム40に対して傾斜することがなく、橋梁1の点検部等が操作ミスによって損傷することが抑制される。
図1に示されるように、束部42は橋梁1の下面に転接するローラー43を上端に有している。そのため、束部42を橋梁1の下面に当接させたまま、鉛直アーム40を鉛直軸線回りに回動させて点検カメラ45を移動させることや、台車ユニット11を走行させて橋梁点検装置10を移動することができる。
鉛直アーム40には、その引張軸力を検出する軸力センサ39が設けられている。アーム駆動装置38の制御装置37は、図6に示されるように、台車ユニット11の走行時に(ステップST3:Yes)、軸力センサ39の検出値が大きくなった時に(ステップST5:No)台車ユニット11から水平アーム41の中間部までの長さを長くし(ステップST7)、軸力センサ39の検出値が小さくなった時に(ステップST5:Yes)台車ユニット11から水平アーム41の中間部までの長さを短くする(ステップST6)ように、鉛直アーム40を駆動するアーム昇降装置36を制御する。そのため、台車ユニット11の走行時に高欄6から橋梁1の下面までの高さが変化しても、台車ユニット11から水平アーム41の中間部までの長さが変更されるため、鉛直アーム40の軸力変化を小さくすることができる。
また、アーム駆動装置38は、ローラー43が橋梁1の下面に当接する所定の軸力範囲RPに軸力センサ39の値が収まるように鉛直アーム40を駆動する(ステップST4〜ステップST7)。そのため、所定の値を超えて鉛直アーム40に軸力が加わることを防止できると共に、ローラー43が橋梁1の下面から離れることも防止できる。
図1に示されるように、アーム駆動装置38が台車ユニット11に設けられて鉛直アーム40を昇降可能に支持する。そのため、台車ユニット11により支持される鉛直アーム40以下の点検ユニット部の重量増大を防止できる。
第1吊り材49は、水平アーム41における束部42が設けられた部分に連結されている。そのため、水平アーム41の第1部分41Aを持ち上げる力が束部42に直接的に作用することにより、水平アーム41の曲げモーメントが抑制される。
水平アーム41の第2部分41Bに設けられた第1吊り材49のガイド部及び鉛直アーム40の水平アーム41との結合部よりも高い位置に設けられた第1吊り材49のガイド部は、第1滑車46及び第2滑車47によって構成されている。そのため、カウンタウェイト48の荷重が第1吊り材49を介して確実に水平アーム41の第1部分41Aに伝達される。これにより、カウンタウェイト48の重量増大を抑制できる。
図1及び図2に示されるように、鉛直アーム40の水平アーム41との結合部よりも高い位置に設けられた第1吊り材49のガイド部をなす第2滑車47は、鉛直アーム40に上下動可能に設けられた可動滑車である。そのため、水平アーム41の第1部分41Aに作用する上向きの分力の大きさを適宜変更できる。或いは、橋梁1の断面形状や橋梁点検装置10の取付状況に応じて第2滑車47の位置を適宜変更できる。
第2滑車47が鉛直アーム40の橋軸方向の両側に設けられ、第1吊り材49は、鉛直アーム40の橋軸方向の両側に設けられて対応する側の第2滑車47に案内される。そのため、鉛直アーム40にねじりの力が作用することが抑制される。従って、鉛直アーム40を高剛性にしなくてよい。
次に、図11〜図15を参照して、橋梁点検装置10の高欄6への取付手順を説明する。なお、図12〜図14では、鉛直アーム40や水平アーム41に取り付けられている束部42や点検カメラ45、第1滑車46、第2滑車47、カウンタウェイト48、支持部材50、第1ストッパ部材51、第2ストッパ部材52を省略し、橋梁点検装置10を簡略化して示す。
図11に示されるように、作業者は、連結機構20が一体に取り付けられた台車12を高欄6にセットする。この際、車体後部15を車体本体14に対して前方へスライドさせ、前車輪17と後車輪18とによって高欄6を前後から挟み込み、がたつきが生じないようにする。
次に、作業者は、図12に示されるように、連結機構20のスライダ部22を後方に引き出し、アーム保持装置13のベース部31の後端をスライダ部22の枢支部23に連結する。これにより、アーム保持装置13が連結機構20を介して台車12に装着される。この状態では、アーム保持装置13は、アームホルダ32を台車12の上方で斜めに配置した着脱用の姿勢をとっている。また、この状態では、アームホルダ32の下端後部がガイドローラー24の後方で連結機構20の前部の上に載置されており、アーム保持装置13の前方への移動がガイドローラー24によって規制されている。
なお、アーム保持装置13には短縮された鉛直アーム40が保持され、鉛直アーム40の下端には水平アーム41が橋軸方向に延在する向きに連結されている。また、橋梁点検装置10は、第2ストッパ部材52(図4)が水平アーム41を鉛直アーム40に剛結合する図4(A)に示される回動規制状態とされている。
図13に示されるように、作業者は、連結機構20のスライダ部22を前方へ若干量移動させ、アームホルダ32の下端後部を、ガイドローラー24を乗り越えるように前方移動させることで、アーム保持装置13の前方への移動規制を解除する。この際、ガイドローラー24は、これを乗り越えるアームホルダ32の下面に転接していた状態から、転接位置をアームホルダ32の後面に変化させ、それ以降も続けてアームホルダ32をガイドする。
作業者は、続けて連結機構20のスライダ部22を前方へ移動させることで、アーム保持装置13を図14に示される姿勢まで姿勢変化させる。この状態では、アーム保持装置13は、アームホルダ32を橋梁1の高欄6の外側で鉛直に配置した点検用の姿勢をとっている。つまり、アーム保持装置13は、連結機構20によって点検用の姿勢と着脱用の姿勢との間で姿勢変更可能に台車12に連結されている。その後、作業者は、アームホルダ32に電動ウィンチ34を取り付け、ワイヤ35(図1)を鉛直アーム40の下端に連結する。
次に、図15に示されるように、作業者は、アームホルダ32に備えられた電動回転機構33による鉛直アーム40の保持を解除し、電動ウィンチ34を操作してワイヤ35を送り出して鉛直アーム40を伸長させる。これにより、水平アーム41を下床版2の下面よりも束部42の高さ寸法以上下方に配置する。その後、作業者は、電動回転機構33に鉛直アーム40を保持させ、電動回転機構33を回転操作することで水平アーム41を橋軸直角方向に延在するように回動させる。
最後に、作業者は、第2滑車47を上方へ移動させることで、水平アーム41に作用する曲げモーメントを小さくする。これと共に、作業者は、第2ストッパ部材52の当接面52aが水平アーム41から離れるように第2ストッパ部材52を操作し、橋梁点検装置10を図4(B)に示される回動許容状態にする。なお、これら2つの作業はどちらを先に行ってもよい。これにより、橋梁点検装置10は、図1に示されるように束部42のローラー43が橋梁1の下面に当接し、点検カメラ45の揺れを早期に収束させ得る状態になる。
橋梁1の下方からの点検が完了した後、橋梁点検装置10を高欄6から取り外す際には、上記手順と逆の手順をとればよい。また、橋脚に対して橋軸方向一方側の橋梁1の点検を終え、続けて橋軸方向他方側の橋梁1の点検を行う場合には、橋梁点検装置10を高欄6から取り外すことなく、次の手順をとればよい。即ち、電動回転機構33を回転操作して水平アーム41を橋軸方向に延在させた状態で台車12を走行させた後に、電動回転機構33を再度回転操作して水平アーム41を橋軸直角方向に延在させればよい。
このように、本実施形態の橋梁点検装置10では、図1に示されるように、台車ユニット11が、高欄6に走行可能に取り付けられる台車12と、アーム保持装置13と、連結機構20とを備えている。そして、アーム保持装置13は、台車12の上方に橋軸直角方向に配置されるベース部31と、ベース部31の橋軸直角方向の外端に一体に設けられ、高欄6の外側に鉛直に配置されて鉛直アーム40を昇降可能に保持するアームホルダ32とを有する。また、連結機構20は、ベース部31の後端を橋軸方向の軸線回りに回動可能且つ着脱可能に台車12に連結すると共に、ベース部31を橋軸直角方向にスライド可能に台車12に連結する。そして、アーム保持装置13が、アームホルダ32を橋梁1の外側で鉛直に配置した点検用の姿勢(図1)と、アームホルダ32を台車12の上方で斜めに配置した着脱用の姿勢(図12)との間で姿勢変更可能である。そのため、アーム保持装置13を台車12に取り付ける作業及び台車12から取り外す作業が容易且つ安全に行える。
また、図1及び図12に示されるように、連結機構20の橋軸直角方向の外端には、アーム保持装置13が点検用の姿勢(図1)と着脱用の姿勢(図12)との間で姿勢変更する時にアームホルダ32をガイドするガイドローラー24が設けられている。そして、ガイドローラー24は、アーム保持装置13が着脱用の姿勢にある時にアームホルダ32の橋軸直角方向外方への移動を規制する。これにより、着脱用の姿勢にあるアーム保持装置13が点検用の姿勢側へ姿勢変更することが規制され、アーム保持装置13の着脱作業がより容易且つ安全に行える。
≪第2実施形態≫
次に、図16及び図17を参照して、第2実施形態を説明する。図16は、第2実施形態に係る橋梁点検装置110の取付状態を示す側面図であり、図1に対応している。第1実施形態と共通する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図16に示されるように、本実施形態の橋梁点検装置110では、第2滑車47が鉛直アーム40に移動不能に且つ着脱可能に取り付けられており、第2滑車47の下方には、第2吊り材149を巻き付けるためのサドル147が鉛直アーム40に固定されている。サドル147は、第2吊り材149のガイド部として機能する。第2吊り材149は、カウンタウェイト48から、ガイド部として機能する第3滑車146及びサドル147をこの順に通った後、水平アーム41の第1部分41Aに張設されている。第3滑車146は、第1滑車46と同じ大きさとされて第1滑車46と同軸に設けられている。第1吊り材49及び第2吊り材149は、橋梁1の点検時に第1吊り材49がカウンタウェイト48を支持し、橋梁点検装置110の取付時及び撤去時に第2吊り材149がカウンタウェイト48を支持するように盛り替えて選択的に使用される。
図17は、図16に示されるサドル147の(A)第1ワイヤを張った状態、(B)第1ワイヤを緩めた状態を示す概略構成図である。図17(A)に示されるように、サドル147は、2つのサドル半体147a、147bと、2つのサドル半体147a、147bを、互いの距離を変更可能に連結する連結部147cとを有している。サドル147には、2つのサドル半体147a、147bを全周に亘って取り囲むように第2吊り材149が巻き掛けられている。
連結部147cは、遠隔操作によって2つのサドル半体147a、147bの距離を変更する。連結部147cは、橋梁点検装置110の取付時及び撤去時には、図17(A)に示されるように2つのサドル半体147a、147bを離間させ、橋梁1の点検時には、図17(B)に示されるように2つのサドル半体147a、147bを近づけるように操作される。連結部147cが2つのサドル半体147a、147bを図17(A)の位置から図17(B)の位置に変位させることにより、第2吊り材149の経路長が短くなる。即ち、連結部147cは、第2吊り材149の経路長を変更させる経路長変更手段を構成する。第1吊り材49は、サドル147が図17(A)の状態の時にはカウンタウェイト48を支持せず、サドル147が図17(B)の状態の時にカウンタウェイト48を支持する長さに設定される。これにより、連結部147cが第2吊り材149の経路長を短くすることにより、カウンタウェイト48の支持が第2吊り材149から第1吊り材49に盛り替えられる。
カウンタウェイト48の支持の盛り替えは、具体的には次のように行われる。即ち、図14に示されるように、アーム保持装置13が橋梁1の高欄6の外側にセットされ、水平アーム41が比較的高い位置にある時には、第2吊り材149のみが設けられている。その後、作業者は、鉛直アーム40を伸長させながら水平アーム41を降下させ、第2滑車47の取付部がアームホルダ32よりも低くなった後、第2滑車47を鉛直アーム40に取り付けると共に、上記の長さに設定された第1吊り材49を第2滑車47に巻き掛ける。更に鉛直アーム40を伸長させ、水平アーム41を図15に示される高さまで降下させた後、作業者は、鉛直アーム40を回動させる前に、サドル147を図17(A)の状態から図17(B)の状態に変化させる。これにより、カウンタウェイト48の支持が第2吊り材149から第1吊り材49に盛り替えられる。その後、作業者は、鉛直アーム40を回動させ、図15の状態とする。橋梁点検装置110を撤去する際には、逆の手順を行えばよい。
このように構成された本実施形態の橋梁点検装置110では、次のような作用効果が得られる。即ち、図16に示されるように、橋梁点検装置110は、カウンタウェイト48から、水平アーム41の第2部分41Bに設けられた第3滑車146及び鉛直アーム40の第2滑車47よりも低い位置に設けられたサドル147を通って水平アーム41の第1部分41Aに張設され、第1吊り材49と協働して第1部分41Aを上方に付勢する第2吊り材149を更に備えている。そのため、第1吊り材49が第1滑車46又は第2滑車47から外れたとしても、カウンタウェイト48が第2吊り材149により支持されるため、作業ミスによるカウンタウェイト48の落下が防止される。より正確には、落下によって水平アーム41や鉛直アーム40に加わる衝撃荷重が大きくなることが抑制される。
図17に示されるように、サドル147が、カウンタウェイト48を支持する第2吊り材149の経路長を変更させる連結部147cを有し、連結部147cにより第2吊り材149の経路長が短くされることにより、カウンタウェイト48の支持が第2吊り材149から第1吊り材49に盛り替えられる。そのため、橋梁点検時には、より高い位置を通る第1吊り材49によりカウンタウェイト48を支持し、橋梁点検装置110の高欄6への取付時や高欄6からの撤去時には、より低い位置を通る第2吊り材149によりカウンタウェイト48を支持できる。従って、点検時の水平アーム41の曲げ応力を低減し、取付・撤去作業を容易にできる。
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、一例として鉄筋コンクリートからなる単一箱桁橋に本発明に係る橋梁点検装置10を適用したが、多主桁箱桁橋や、多重箱桁橋、T桁橋101、中空床版桁橋、版桁橋、鈑桁橋(プレートガーダー橋)、吊床版橋等、他の構造の橋梁上部工にも広く適用することができる。図18は、本発明に係る橋梁点検装置10をT桁橋101に適用した例を示す橋梁点検装置10の側面図である。T桁橋101は、複数の桁102と、複数の桁102の上部を連結する床版103とにより構成される。橋梁点検装置10を用いてT桁橋101を点検する際には、束部42を1つの桁102の下面に当接させるとよい。
また、上記実施形態では、点検カメラ45による撮影によって橋梁1の下方からの点検を行っているが、クラックゲージによる点検やハンマによる打撃点検を行うように構成された点検部を橋梁点検装置10が有していてもよい。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、角度など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。