以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が好適に適用される車両10を示す図である。車両10は、エンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた車両用動力伝達装置16(以下、動力伝達装置16という)とを備えている。動力伝達装置16は、流体式伝動装置であるトルクコンバータ(流体継手)18と、前後進切換装置20と、ベルト式無段変速機22と、減速歯車装置24と、差動歯車装置26等とを備えている。動力伝達装置16において、走行用の駆動力源であるエンジン12により発生させられた動力は、トルクコンバータ18、前後進切換装置20、ベルト式無段変速機22、減速歯車装置24、差動歯車装置26等を順次介して、左右1対の駆動輪14へ伝達される。
トルクコンバータ18は、エンジン12のクランク軸28に連結された入力部材に相当するポンプ翼車18pと、タービン軸30を介して前後進切換装置20に連結された出力部材に相当するタービン翼車18tとを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。それらポンプ翼車18pとタービン翼車18tとの間にはロックアップクラッチ18lが設けられており、ロックアップクラッチ18lが完全係合させられることによってポンプ翼車18pとタービン翼車18tとが一体回転させられるようになっている。すなわち、トルクコンバータ18では、ロックアップクラッチ18lの係合によりポンプ翼車18pおよびタービン翼車18tが直結可能である。ポンプ翼車18pには、ベルト式無段変速機22を変速制御したり、ベルト式無段変速機22におけるベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ18lの差圧(係合圧)ΔPを制御したり、前後進切換装置20における動力伝達経路を切り換えたり、車両10の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりするための作動油圧を、エンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ31が連結されている。
ロックアップクラッチ18lは、よく知られているように、後述する油圧制御回路100(図2参照)によって係合側油室18on内の油圧Ponと解放側油室18off内の油圧Poffとの差圧ΔP(=Pon−Poff)が制御されることによりフロントカバー18cに摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチである。トルクコンバータ18の作動状態としては、例えば差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ18lが解放される所謂ロックアップ解放状態(トルコン状態、ロックアップオフ)、差圧ΔPが零以上とされてロックアップクラッチ18lが滑りを伴って半係合される所謂フレックスロックアップ状態(半係合状態、スリップ状態)、及び差圧ΔPが最大値とされてロックアップクラッチ18lが完全係合される所謂完全ロックアップ状態(完全係合状態、ロックアップオン)の3状態に大別される。
前記完全ロックアップ状態においては、ロックアップクラッチ18lが完全係合させられることにより、ポンプ翼車18pとタービン翼車18tとが一体回転させられてエンジン12の動力がベルト式無段変速機22側へ直接的に伝達される。前記フレックスロックアップ状態においては、所定のスリップ状態で係合するように差圧ΔPが制御されることにより、例えばスリップ量(差回転)ΔN(rpm)がフィードバック制御されることにより、車両10の駆動(パワーオン)時には所定のスリップ量ΔNでタービン軸30をクランク軸28に対して追従回転させる一方、車両の非駆動(パワーオフ)時には所定のスリップ量ΔNでクランク軸28をタービン軸30に対して追従回転させられる。なお、上記スリップ量ΔNは、エンジン12(ポンプ翼車18p)の回転速度とタービン翼車18tの回転速度との差(エンジン回転速度Ne−タービン回転速度Nt)で表される。
前後進切換装置20は、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置20pとを備えており、トルクコンバータ18のタービン軸30はサンギヤ20sに一体的に連結され、ベルト式無段変速機22の入力軸32はキャリア20cに一体的に連結されている。一方、キャリア20cとサンギヤ20sとは前進用クラッチC1を介して選択的に連結されるようになっており、リングギヤ20rは後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング34に選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、好適には、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
上記のように構成された前後進切換装置20では、前進用クラッチC1が係合されると共に後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置20は一体回転状態とされることによりタービン軸30が入力軸32に直結され、前進用動力伝達経路が成立させられて、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機22側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合されると共に前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置20は後進用動力伝達経路が成立させられて、入力軸32はタービン軸30に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力がベルト式無段変速機22側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置20は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)とされる。
ベルト式無段変速機22は、入力軸32に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリであるプライマリプーリ(プライマリシーブ)36と、出力軸38に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリであるセカンダリプーリ(セカンダリシーブ)40(以下、特に区別しない場合には単に可変プーリ36、40という)と、1対の可変プーリ36、40の相互間に巻き掛けられた伝動ベルト42とを備えている。斯かる構成により、ベルト式無段変速機22においては、1対の可変プーリ36、40と伝動ベルト42との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。伝動ベルト42は、例えば、全体として無端環状を成しており、無端環状テープ状の1対のフープ(ベルト)と、その1対のフープに沿って互いに密接した状態で厚さ方向に重ね合わされた多数個のエレメント(コマ)とを備えている。このエレメントには、側方に開くように形成された1対のフープ係合溝が形成され、そのフープ係合溝に上記1対のフープが係合させられている。
プライマリプーリ36は、入力軸32に固定された入力側固定回転体としての固定回転体36aと、入力軸32に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた入力側可動回転体としての可動回転体36bと、それらの間のV溝幅を変更するためのプライマリプーリ36における入力側推力(プライマリ推力)Win(=プライマリ圧PPS×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータとしてのプライマリ側油圧シリンダ36cとを備えている。セカンダリプーリ40は、出力軸38に固定された出力側固定回転体としての固定回転体40aと、出力軸38に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた出力側可動回転体としての可動回転体40bと、それらの間のV溝幅を変更するためのセカンダリプーリ40における出力側推力(セカンダリ推力)Wout(=セカンダリ圧PSS×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータとしてのセカンダリ側油圧シリンダ40cとを備えている。
図2に示すように、プライマリ側油圧シリンダ36cの油室へ供給されるプライマリ圧PPS及びセカンダリ側油圧シリンダ40cの油室へ供給されるセカンダリ圧PSSは、車両10に備えられた油圧制御回路100によってそれぞれ独立に調圧制御されるようになっている。これにより、プライマリプーリ36における入力側推力Win及びセカンダリプーリ40における出力側推力Woutがそれぞれ直接的に或いは間接的に制御されることで、1対の可変プーリ36、40のそれぞれのV溝幅が変化して伝動ベルト42の掛かり径(有効径)が変更され、ベルト式無段変速機22の変速比(ギヤ比)γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられると共に、伝動ベルト42に滑りが生じないように1対の可変プーリ36、40とその伝動ベルト42との間の摩擦力(ベルト挟圧力)が制御される。
また、図2に示すように、油圧制御回路100は、オイルポンプ31と、プライマリ圧PPSを調圧するプライマリ圧コントロール弁110と、セカンダリ圧PSSを調圧するセカンダリ圧コントロール弁112と、第1ライン圧PL1を調圧するプライマリレギュレータ弁114と、モジュレータ圧PMを調圧するモジュレータ弁116と、第2ライン圧PL2を調圧するセカンダリレギュレータ弁118と、ロックアップクラッチ18lの差圧ΔPを調圧するロックアップコントロール弁120及びロックアップリレー弁122と、制御油圧PSLPを調圧するリニアソレノイド弁SLPと、制御油圧PSLSを調圧するリニアソレノイド弁SLSと、制御油圧PSLUを調圧するリニアソレノイド弁SLUと、切換用信号圧PSLを調圧するソレノイド弁SL等とを備えている。リニアソレノイド弁SLP、SLS、SLUは、何れも後述する電子制御装置(制御装置)50から供給される指令値に基づいて制御油圧を調圧する電磁制御弁である。ソレノイド弁SLは、電子制御装置50から供給される指令値に基づいて切換用信号圧PSLの出力(オン)乃至非出力(オフ)を切り換える電磁弁(オンオフ弁)である。
第1ライン圧PL1は、例えばオイルポンプ31から出力される作動油圧を元圧として、リリーフ型のプライマリレギュレータ弁114によりリニアソレノイド弁SLPの出力油圧である制御油圧PSLP、リニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLS、及びセカンダリレギュレータ弁118の出力油圧である第2ライン圧PL2等に基づいて調圧される。好適には、ベルト式無段変速機22への入力トルクTIN乃至エンジン負荷等に応じた値に調圧される。例えば、第1ライン圧PL1は、プライマリ圧PPS及びセカンダリ圧PSSの高い方の油圧に所定の余裕分(マージン)を加えた油圧が得られるように調圧される。従って、プライマリ圧コントロール弁110及びセカンダリ圧コントロール弁112の調圧動作において元圧である第1ライン圧PL1が不足するということが回避されると共に、第1ライン圧PL1が不必要に高くされないようにすることが可能である。
モジュレータ圧PMは、リニアソレノイド弁SLPの出力油圧である制御油圧PSLP、リニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLS、及びリニアソレノイド弁SLUの出力油圧である制御油圧PSLU等の各元圧となるものであって、例えばプライマリレギュレータ弁114の出力油圧である第1ライン圧PL1を元圧として、モジュレータ弁116により所定の油圧(一定圧)に調圧される。第2ライン圧PL2は、例えばプライマリレギュレータ弁114の出力油圧である第1ライン圧PL2を元圧として、リリーフ型のセカンダリレギュレータ弁118によりリニアソレノイド弁SLUの出力油圧である制御油圧PSLU等に基づいて調圧される。前述のように、第1ライン圧PL1は、リニアソレノイド弁SLPの出力油圧である制御油圧PSLP、リニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLS、及びセカンダリレギュレータ弁118の出力油圧である第2ライン圧PL2等に基づいて調圧される。従って、油圧制御回路100におけるライン圧は、リニアソレノイド弁SLPの出力油圧である制御油圧PSLP、リニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLS、及びリニアソレノイド弁SLUの出力油圧である制御油圧PSLUに基づいて調圧される。
プライマリ圧コントロール弁110は、例えばリニアソレノイド弁SLPの出力油圧である制御油圧PSLPをパイロット圧として第1ライン圧PL1を調圧制御してプライマリプーリ36のプライマリ側油圧シリンダ36cに供給する。これにより、プライマリ側油圧シリンダ36cに供給されるプライマリ圧PPSが制御される。例えば、プライマリ側油圧シリンダ36cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧PSLPが増大させられると、それに応じてプライマリ側油圧シリンダ36cへ供給されるプライマリ圧PPSが増大させられる。一方で、プライマリ側油圧シリンダ36cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧PSLPが低下させられると、それに応じてプライマリ側油圧シリンダ36cへのプライマリ圧PPSが低下させられる。
セカンダリ圧コントロール弁112は、例えばリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSをパイロット圧として第1ライン圧PL1を調圧制御してセカンダリプーリ40のセカンダリ側油圧シリンダ40cに供給する。これにより、セカンダリ側油圧シリンダ40cに供給されるセカンダリ圧PSSが制御される。例えば、セカンダリ側油圧シリンダ40cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧PSLSが増大させられると、それに応じてセカンダリ側油圧シリンダ40cへのセカンダリ圧PSSが増大させられる。一方で、セカンダリ側油圧シリンダ40cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧PSLSが低下させられると、それに応じてセカンダリ側油圧シリンダ40cへのセカンダリ圧PSSが低下させられる。
以上のように構成された油圧制御回路100において、セカンダリ圧PSSは、伝動ベルト42と可変プーリ36、40との間に滑りを発生させず且つ不必要に大きくならないベルト挟圧力を1対の可変プーリ36、40に発生させるように制御される。例えば、プライマリ圧PPSとセカンダリ圧PSSとの相互関係で、1対の可変プーリの36、40の推力比τ(=Wout/Win)が変更されることによりベルト式無段変速機22の変速比γが変更される。例えば、その推力比τが大きくされるほど変速比γが大きくされる(すなわち、ベルト式無段変速機22がダウンシフトされる)。
ロックアップリレー弁122は、ロックアップクラッチ18lの解放状態と係合或いはスリップ状態とを切り換える。すなわち、ソレノイド弁SLからの切換用信号圧PSLに応じてロックアップクラッチ18lを解放状態とする解放側位置(オフ側位置)とロックアップクラッチ18lを係合或いはスリップ状態とする係合側位置(オン側位置)とに切り換えられる。ソレノイド弁SLからの切換用信号圧PSLがオンである場合(供給されている場合)にはオン側位置に切り換えられるが、切換用信号圧PSLがオフである場合(供給されない場合)にはオフ側位置に切り換えられる。ロックアップコントロール弁120は、ロックアップリレー弁122によりロックアップクラッチ18lが係合或いはスリップ状態とされている場合には、リニアソレノイド弁SLUが出力する制御油圧PSLUに応じてロックアップクラッチ18lのスリップ量ΔNを制御したり、ロックアップクラッチ18lを完全係合させる。すなわち、制御油圧PSLUに応じてロックアップクラッチ18lの作動状態をスリップ状態乃至ロックアップオンの範囲で切り換える。
リニアソレノイド弁SLUは、ロックアップクラッチ18lのスリップ制御時(半係合制御時)におけるスリップ制御用のリニアソレノイド弁として機能するものであり、電子制御装置50から出力される指示信号すなわち後述するロックアップ指示圧Slu1に従って、ロックアップクラッチ18lの係合乃至スリップ係合時における差圧ΔPを制御する制御油圧PSLUを出力する。例えば、モジュレータ弁116から出力されるモジュレータ圧PMを元圧とし、モジュレータ圧PMを減圧して制御油圧PSLUを出力する電磁制御弁であって、電子制御装置50から出力される指示信号に応じた制御油圧PSLUを発生させる。
ソレノイド弁SLは、電子制御装置50から出力されるオンオフ信号すなわち後述する切替指示圧Slu2に従って所定の切換用信号圧PSLを出力するものである。例えば、非励磁状態(オフ状態)では切換用信号圧PSLをドレン圧とするが、励磁状態(オン状態)では切換用信号圧PSLをモジュレータ油圧PMとしてロックアップリレー弁122の油室に作用させることで、そのロックアップリレー弁122を係合状態であるオン側位置(ON)に移動させるように構成されている。
以上のように構成された油圧制御回路100により、ロックアップリレー弁122からトルクコンバータ18における係合側油室18on及び解放側油室18offへ供給される作動油圧の供給状態が切り換えられることで、ロックアップクラッチ18lの作動状態が切り換えられる。先ず、ロックアップクラッチ18lがスリップ状態乃至ロックアップオンとされた場合を説明する。ロックアップリレー弁122において、ソレノイド弁SLによって切換用信号圧PSLが供給されると、ロックアップリレー弁122がオン側位置とされ、ロックアップリレー弁122に供給された第2ライン圧PL2がトルクコンバータ18の係合側油室18onへ供給される。係合側油室18onへ供給される第2ライン圧PL2が油圧Ponとなる。同時に解放側油室18offは、ロックアップコントロール弁120における所定のポートに連通させられる。そして、解放側油室18off内の油圧Poffがロックアップコントロール弁120により調整されて(すなわちロックアップコントロール弁120により差圧ΔP(=Pon−Poff)すなわち係合圧が調整されて)、そのロックアップクラッチ18lの作動状態がスリップ状態乃至ロックアップオンの範囲で切り換えられる。ロックアップコントロール弁120から解放側油室18offへ供給される作動油の流量は、ロックアップコントロール弁120へ供給される制御油圧PSLUによって制御される。すなわち、差圧ΔPがリニアソレノイド弁SLUの制御油圧PSLUによって制御され、それによりロックアップクラッチ18lのスリップ状態(締結力)が制御される。
ロックアップリレー弁122において、ソレノイド弁SLによって切換用信号圧PSLが供給されているときに、ロックアップコントロール弁120において完全係合(ON)側位置とするための制御油圧PSLUがロックアップコントロール弁120に供給されると、ロックアップコントロール弁120から解放側油室18offへは第2ライン圧PL2が供給されず、解放側油室18offからの作動油がドレーンポートEXから排出される。これにより、差圧ΔPが最大とされてロックアップクラッチ18lが完全係合状態となる。ロックアップクラッチ18lがスリップ状態もしくは完全係合状態において、ロックアップリレー弁122はオン側位置に位置させられ、セカンダリレギュレータ弁118から流出させられた作動油が排出ポートから装置の潤滑等のために供給される。
一方、ロックアップリレー弁122において、ソレノイド弁SLからの切換用信号圧PSLが供給されない場合には、ロックアップリレー弁122がオフ側位置とされ、ロックアップリレー弁122に供給された第2ライン圧PL2が解放側油室18offへ供給される。そして、係合側油室18onを経て排出された作動油が装置の潤滑等のために供給される。すなわち、ロックアップリレー弁122において、ソレノイド弁SLからの切換用信号圧PSLが供給されない場合には、ロックアップクラッチ18lは解放状態とされ、リニアソレノイド弁SLU乃至ロックアップコントロール弁120を介してのスリップ乃至係合制御は行われない。換言すれば、リニアソレノイド弁SLUから出力される信号圧PSLUが変化させられた場合であっても、ロックアップリレー弁122がオフ側位置へ位置させられている限りにおいてその変化はロックアップクラッチ18lの係合状態(差圧ΔP)に反映されない。
車両10(図1参照)には、例えばロックアップクラッチ18lの差圧(係合圧)ΔPを制御するロックアップ係合制御等を油圧制御回路100を介して実行する電子制御装置50(図3参照)が備えられている。図3は、電子制御装置50の入出力系統を示す図であり、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロックである。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各制御を実行する。
電子制御装置50には、車両10が備える各種センサにより検出される各種入力信号が供給されるようになっている。例えば、スロットル弁開度センサ60により検出されるスロットル弁開度θth(%)を表す信号、車速センサ62により検出される車速V(km/h)を表す信号、エンジン回転センサ64により検出されるエンジン12のエンジン回転速度Ne(rpm)を表す信号、タービン回転センサ66により検出されるトルクコンバータ18のタービン翼車18tのタービン回転速度Nt(rpm)を表す信号、油温センサ68により検出されるトルクコンバータ18の例えば係合側油室18on内に供給される作動油の実際の油温Toil(℃)を表す信号、アクセル操作量センサ69により検出されるアクセルペダルの操作量Acc(%)を表す信号等、が電子制御装置50に入力される。また、電子制御装置50からは、ロックアップクラッチ18lの作動状態の切替制御のための、ロックアップ指示圧Slu1および切替指示圧Slu2等が出力される。なお、上記ロックアップ指示圧Slu1は、制御油圧PSLUを調圧するリニアソレノイド弁SLUを駆動する為の指示信号であり、油圧制御回路100のリニアソレノイド弁SLUへ出力される。また、上記切替指示圧Slu2は、切替用信号圧PSLをオンオフするソレノイド弁SLを駆動するための指令信号であり、油圧制御回路100のソレノイド弁SLへ出力される。
図3に示す電子制御装置50は、制御機能の要部として、ロックアップクラッチ制御部70と、ロックアップ係合制御実施中判定部72と、発熱量積算値計算部74と、保護制御実行判定部76と、保護制御選択部(選択部)78等とを含んでいる。図3に示すロックアップクラッチ制御部70は、完全ロックアップ制御部70aと、フレックスロックアップ制御部70bと、ロックアップ解放制御部70c等とを備えている。
図3に示すロックアップクラッチ制御部70は、車速Vおよびスロットル弁開度θthを変数として、ロックアップオフ領域、スリップ作動領域、ロックアップオン領域を有する予め定められた関係(ロックアップ領域線図)を用いて実際の車速Vおよびスロットル弁開度θthに基づいて、ロックアップオフ領域、スリップ作動領域、ロックアップオン領域の何れの領域であるかを判断し、その判断した領域に対応する作動状態にロックアップクラッチ18lの作動状態がなるように、指示信号であるロックアップ指示圧Slu1および切替指示圧Slu2を制御する。これらロックアップ指示圧Slu1および切替指示圧Slu2に従って、判断した領域に対応する作動状態にロックアップクラッチ18lの作動状態がなるように油圧制御回路100に設けられたリニアソレノイド弁SLUおよびソレノイド弁SLが駆動(作動)させられる。
完全ロックアップ制御部70aは、ロックアップクラッチ制御部70での前記ロックアップ領域線図で前記ロックアップオン領域であると判断されると、ソレノイド弁SLからの切換用信号圧PSLがロックアップリレー弁122に供給されるように切替指示圧Slu2がソレノイド弁SLに出力され、ロックアップクラッチ18lが完全係合するようにロックアップクラッチ18lのロックアップ係合圧PSLUのロックアップ指示圧Slu1が制御される完全ロックアップ制御を実施する。
フレックスロックアップ制御部70bは、ロックアップクラッチ制御部70での前記ロックアップ領域線図で前記スリップ作動領域であると判断されると、ソレノイド弁SLからの切換用信号圧PSLがロックアップリレー弁122に供給されるように切替指示圧Slu2がソレノイド弁SLに出力され、ロックアップクラッチ18lを完全係合させずにトルクコンバータ18においてポンプ翼車18pとタービン翼車18tとを予め設定された目標スリップ量ΔN*(rpm)にロックアップクラッチ18lの実際のスリップ量ΔN(rpm)が一致するように、ロックアップクラッチ18lの制御油圧PSLUのロックアップ指示圧Slu1を調節するフィードバック制御であるフレックスロックアップ制御、すなわちロックアップクラッチ18lを半係合させるようにロックアップクラッチ18lの差圧(Pon−Poff)ΔPすなわち制御油圧PSLUのロックアップ指示圧Slu1を制御するロックアップ係合制御(係合制御)を実施する。
ロックアップ解放制御部70cは、ロックアップクラッチ制御部70での前記ロックアップ領域線図で前記ロックアップオフ領域であると判断されると、ロックアップクラッチ18lを解放するように、例えばソレノイド弁SLからの切換用信号圧PSLがロックアップリレー弁122に供給されないように切替指示圧Slu2をソレノイド弁SLに出力せず、ロックアップクラッチ18lの制御油圧PSLUのロックアップ指示圧Slu1を調節しないロックアップ解放制御を実施する。
ロックアップ係合制御実施中判定部72は、ロックアップクラッチ制御部70すなわちフレックスロックアップ制御部70bでロックアップクラッチ18lを半係合させるようにロックアップクラッチ18lの差圧ΔPを制御するロックアップ係合制御が実施中であるか否かを判定する。例えば、ロックアップ係合制御実施中判定部72では、実際の車速Vおよびスロットル弁開度θthが、ロックアップクラッチ制御部70での前記ロックアップ領域線図において、前記スリップ作動領域である時にロックアップ係合制御が実施中であると判定する。
発熱量積算値計算部74は、ロックアップ係合制御実施中判定部72でロックアップ係合制御が実施中であると判定されると、そのロックアップ係合制御の実施中にロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量の積算値Qi(J)を、サンプリングタイム毎に次式(1)〜(4)を用いて計算する。
Qi=Qin−1+QLC−k・ΔT・・・(1)
QLC=TLC・(π/30)・ΔN・dt・・・(2)
Te=TLC+TTC・・・(3)
TTC=τ・(Ne/1000)2・・・(4)
但し、式(1)の上記Qin−1は、サンプリングタイム経過前の前回までにロックアップクラッチ18lで発熱した発熱量の積算値Qi(J)である。また、式(1)の上記QLCは、サンプリングタイム中にロックアップ係合制御によりロックアップクラッチ18lで発熱した発熱量である。また、式(1)の上記kは、トルクコンバータ18内の作動油による冷却率補正係数(J/(℃・sec))である。また、式(1)の上記ΔTは、ロックアップクラッチ18lの摩擦材の表面温度と油温Toilとの温度差(℃)であり、上記ロックアップクラッチ18lの摩擦材の表面温度は上記Qin−1をロックアップクラッチ18lの摩擦材の熱容量(J/℃)で割ることにより求められる。また、式(2)および式(3)の上記TLCは、ロックアップクラッチ伝達トルクである。また、式(3)の上記Teは、エンジン12の出力トルクであり、予め求められたアクセルペダルの操作量Accおよびエンジン回転数NeからなるエンジントルクTeの関係マップから、実際のアクセルペダルの操作量Accおよび実際のエンジン回転数Neに基いて求められる。また、式(3)および式(4)の上記TTCは、トルクコンバータ18の流体伝達トルクである。また、式(4)の上記τは、トルクコンバータ18の容量係数である。
保護制御実行判定部76は、ロックアップ係合制御実施中判定部72でロックアップ係合制御が実施中であると判定され、且つ発熱量積算値計算部74でロックアップ係合制御中にロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量の積算値Qiが計算されると、ロックアップクラッチ18lで発熱に対する保護をするために、前記ロックアップ係合制御からロックアップクラッチ18lを完全係合させる完全係合による保護制御(第1制御)と前記ロックアップ係合制御からロックアップクラッチ18lを解放させる解放による保護制御(第2制御)とのいずれかの保護制御を実行させる必要があるか否かを判定する。例えば、保護制御実行判定部76では、発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが予め定められた発熱量判定値A以上となると、前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定する。なお、上記発熱量判定値A(J)は、ロックアップクラッチ18lで発熱に対する保護が必要な程度の発熱量、すなわちロックアップクラッチ18lでの熱によってロックアップクラッチ18lに耐久性低下等の影響が発生する可能性が高まる発熱量である。
保護制御選択部78は、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定されると、前記ロックアップ係合制御の開始後に保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定して(前記ロックアップ係合制御の開始後に発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが予め定められた発熱量判定値A以上になって)からロックアップクラッチ18lを完全係合させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する完全係合時発熱量Qb(J)と、前記ロックアップ係合制御の開始後に保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定してからロックアップクラッチ18lを解放させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する解放時発熱量Qa(J)とのうち、ロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量が抑制される側の制御を選択する。なお、保護制御選択部78で前記完全係合による保護制御が選択されると、完全ロックアップ制御部70aで完全ロックアップ制御が実行されるようになっている。また、保護制御選択部78で前記解放による保護制御が選択されると、ロックアップ解放制御部70cでロックアップ解放制御が実行されるようになっている。
保護制御選択部78に備えられた発熱量推定部78aは、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定されると、完全係合時発熱量Qb(J)と解放時発熱量Qa(J)とを例えば図4〜図7のマップおよび次式(5)、(6)を用いて推定する。
Qa=Qa1+Qa2 ・・・(5)
Qb=Qb1+Qb2 ・・・(6)
例えば、発熱量推定部78aでは、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のスリップ量ΔN(rpm)から、図4のマップを用いて前記ロックアップ係合制御からロックアップクラッチ18lを完全係合させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する発熱量Qb1(J)を計算し、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のロックアップクラッチ18lの差圧ΔPすなわちロックアップ指示値Slu1から、図5のマップを用いて前記ロックアップ係合制御からロックアップクラッチ18lを完全係合させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する発熱量Qb2を計算して、それら発熱量Qb1、Qb2をたすこと(Qb1+Qb2)によって完全係合時発熱量Qb(J)を推定する。なお、図4のマップは、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のスリップ量ΔN(rpm)が大きくなるほど、完全係合時発熱量Qbすなわち発熱量Qb1が大きくなるように設定されている。すなわち、発熱量推定部78aでは、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のスリップ量ΔN(rpm)が大きくなるほど、完全係合時発熱量Qbが大きくなるように推定する。また、図5のマップは、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のロックアップ指示圧Slu1が大きくなるほど、完全係合時発熱量Qbすなわち発熱量Qb2が小さくなるように設定されている。すなわち、発熱量推定部78aでは、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のロックアップ指示圧Slu1が大きくなるほど、完全係合時発熱量Qbが小さくなるように推定する。
また、発熱量推定部78aでは、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のスリップ量ΔN(rpm)から、図6のマップを用いて前記ロックアップ係合制御からロックアップクラッチ18lを解放させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する発熱量Qa1(J)を計算し、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のロックアップクラッチ18lの差圧ΔPすなわちロックアップ指示値Slu1から、図7のマップを用いて前記ロックアップ係合制御からロックアップクラッチ18lを解放させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する発熱量Qa2を計算して、それら発熱量Qa1、Qa2をたすこと(Qa1+Qa2)によって解放時発熱量Qa(J)を推定する。なお、図6のマップは、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のスリップ量ΔN(rpm)が大きくなるほど、解放時発熱量Qaすなわち発熱量Qa1が小さくなるように設定されている。すなわち、発熱量推定部78aでは、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のスリップ量ΔN(rpm)が大きくなるほど、解放時発熱量Qaが小さくなるように推定する。また、図7のマップは、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のロックアップ指示圧Slu1が大きくなるほど、解放時発熱量Qaすなわち発熱量Qa2が大きくなるように設定されている。すなわち、発熱量推定部78aでは、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のロックアップ指示圧Slu1が大きくなるほど、解放時発熱量Qaが大きくなるように推定する。
また、保護制御選択部78は、発熱量推定部78aで完全係合時発熱量Qb(J)と解放時発熱量Qa(J)とが推定されると、その推定された完全係合時発熱量Qb(J)と解放時発熱量Qa(J)との大きさを比較して、前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのうちロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量が抑制される側の保護制御を選択する。例えば、保護制御選択部78では、発熱量推定部78aで推定された完全係合時発熱量Qb(J)と解放時発熱量Qa(J)との大きさを比較して、完全係合時発熱量Qb(J)が解放時発熱量Qa(J)以上であれば前記解放による保護制御を選択する。また、完全係合時発熱量Qb(J)が解放時発熱量Qa(J)未満であれば前記完全係合による保護制御を選択する。
図8は、電子制御装置50において、前記ロックアップ係合制御の実施中において前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御との選択制御の制御作動の一例を説明するフローチャートである。
先ず、ロックアップ係合制御実施中判定部72の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、ロックアップクラッチ18lを半係合させるようにロックアップクラッチ18lの差圧ΔPを制御するロックアップ係合制御が実施中であるか否かが判定される。S1の判定が否定される場合には、本ルーチンが終了させられるが、S1の判定が肯定される場合には、発熱量積算値計算部74の機能に対応するS2が実行される。S2では、前記ロックアップ係合制御の実施中にロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量の積算値Qi(J)が計算させられる。
次に、保護制御実行判定部76の機能に対応するS3において、前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があるか否かが、すなわち上記S2で計算された発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上であるか否かが判定される。S3の判定が否定される場合には、本ルーチンが終了させられるが、S3の判定が肯定される場合には、発熱量推定部78aの機能に対応するS4が実行される。S4では、完全係合時発熱量Qb(J)および解放時発熱量Qa(J)が例えば図4〜図7のマップおよび式(5)、式(6)を用いて推定される。
次に、保護制御選択部78の機能に対応するS5において、解放時発熱量Qa(J)が完全係合時発熱量Qb(J)以上であるか否かが判定される。S5の判定が肯定される場合すなわち解放時発熱量Qa(J)が完全係合時発熱量Qb(J)以上である場合には、完全ロックアップ制御部70aの機能に対応するS6が実行されるが、S5の判定が否定される場合すなわち解放時発熱量Qa(J)が完全係合時発熱量Qb(J)未満である場合には、ロックアップ解放制御部70cの機能に対応するS7が実行される。S6では、完全ロックアップ制御すなわち前記完全係合による保護制御が実行される。S7では、ロックアップ解放制御すなわち前記解放による保護制御が実行される。
上述のように、本実施例の動力伝達装置16の電子制御装置50によれば、発熱量積算値計算部74で計算されたロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上となった場合に、ロックアップ係合制御の開始後に発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが予め定められた発熱量判定値A以上になってからロックアップクラッチ18lを完全係合させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する完全係合時発熱量Qbと、前記ロックアップ係合制御の開始後に発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが予め定められた発熱量判定値A以上になってからロックアップクラッチ18lを解放させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する解放時発熱量Qaとのうち、ロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量が抑制される側の制御を選択する保護制御選択部78が備えられている。このため、保護制御選択部78によって、例えば、前記ロックアップ係合制御の開始後に発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが予め定められた発熱量判定値A以上になってからロックアップクラッチ18lを完全係合させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する完全係合時発熱量Qbよりも、前記ロックアップ係合制御の開始後に発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが予め定められた発熱量判定値A以上になってからロックアップクラッチ18lを解放させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する解放時発熱量Qaが大きい場合には、ロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量が前記解放による保護制御より抑制される前記完全係合による保護制御が選択される。また、保護制御選択部78によって、例えば、前記ロックアップ係合制御の開始後に発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが予め定められた発熱量判定値A以上になってからロックアップクラッチ18lを解放させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する解放時発熱量Qaよりも、前記ロックアップ係合制御の開始後に発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが予め定められた発熱量判定値A以上になってからロックアップクラッチ18lを完全係合させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する完全係合時発熱量Qbが大きい場合には、ロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量が前記完全係合による保護制御より抑制される前記解放による保護制御が選択される。これによって、ロックアップクラッチ18lにおいて前記ロックアップ係合制御からロックアップクラッチ18lを完全係合または解放させる際のロックアップクラッチ18lの温度上昇を好適に抑制させられる。
また、本実施例の動力伝達装置16の電子制御装置50によれば、保護制御選択部78は、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のスリップ量ΔN(rpm)と、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定された時における実際のロックアップ指示圧Slu1とを用いて、完全係合時発熱量Qbと解放時発熱量Qaとを推定する発熱量推定部78aが備えられており、保護制御選択部78は、発熱量推定部78aで推定された完全係合時発熱量Qbと解放時発熱量Qaとの大きさを比較して、前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのうちロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量が抑制される側の保護制御を選択する。このため、保護制御選択部78によって、例えば、発熱量推定部78aで推定された完全係合時発熱量Qbよりも、発熱量推定部78aで推定された解放時発熱量Qaが大きい場合には、ロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量が前記解放による保護制御よりも抑制される前記完全係合による保護制御が選択される。また、保護制御選択部78によって、例えば、発熱量推定部78aで推定された解放時発熱量Qaよりも、発熱量推定部78aで推定された完全係合時発熱量Qbが大きい場合には、ロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量が前記完全係合による保護制御よりも抑制される前記解放による保護制御が選択される。これによって、ロックアップクラッチ18lにおいて前記ロックアップ係合制御からロックアップクラッチ18lを完全係合または解放させる際のロックアップクラッチ18lの温度上昇を好適に抑制させられる。
また、本実施例の動力伝達装置16の電子制御装置50によれば、発熱量推定部78aは、発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるスリップ量ΔNが大きくなるほど、完全係合時発熱量Qbが大きくなるように推定し、発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるスリップ量ΔNが大きくなるほど、解放時発熱量Qaが小さくなるように推定する。このため、発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるスリップ量ΔNによって、ロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量を好適に推定することができる。
また、本実施例の動力伝達装置16の電子制御装置50によれば、発熱量推定部78aは、発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるロックアップクラッチ18lのロックアップ指示圧Slu1が大きくなるほど、完全係合時発熱量Qbが小さくなるように推定し、発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるロックアップクラッチ18lのロックアップ指示圧Slu1が大きくなるほど、解放時発熱量Qaが大きくなるように推定する。このため、発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるロックアップクラッチ18lのロックアップ指示圧Slu1によって、ロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量を好適に推定することができる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、前述の実施例1と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図9および図10は、本発明の他の実施例の電子制御装置(制御装置)80を説明する図である。本実施例の電子制御装置80は、実施例1の電子制御装置50に比較して、保護制御選択部(選択部)82の機能が異なる点で相違しており、その他は実施例1の電子制御装置50と略同じである。
図9は、電子制御装置80の入出力系統を示す図であり、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロックである。図9に示す保護制御選択部82は、保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定されると、前記ロックアップ係合制御の開始後に保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定して(前記ロックアップ係合制御の開始後に発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが予め定められた発熱量判定値A以上になって)からロックアップクラッチ18lを完全係合させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する完全係合時発熱量Qb(J)と、前記ロックアップ係合制御の開始後に保護制御実行判定部76で前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御とのいずれかの保護制御を実行させる必要があると判定してからロックアップクラッチ18lを解放させるまでにロックアップクラッチ18lで発生する解放時発熱量Qa(J)とのうち、ロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量が抑制される側の制御を選択する。なお、保護制御選択部82で前記完全係合による保護制御が選択されると、完全ロックアップ制御部70aで完全ロックアップ制御が実行されるようになっている。また、保護制御選択部82で前記解放による保護制御が選択されると、ロックアップ解放制御部70cでロックアップ解放制御が実行されるようになっている。
保護制御選択部82は、発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時における実際のスリップ量ΔN(rpm)が予め定められた差回転判定値Nsp(rpm)未満、または発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時における実際のロックアップクラッチ18lの差圧ΔPすなわちロックアップ指示圧Slu1が予め定められた係合圧判定値PA以上の場合に、前記完全係合による保護制御を選択する。また、保護制御選択部82は、発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時における実際のスリップ量ΔN(rpm)が差回転判定値Nsp(rpm)以上、且つ発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時における実際のロックアップクラッチ18lの差圧ΔPすなわちロックアップ指示圧Slu1が係合圧判定値PA未満の場合に、前記解放による保護制御を選択する。なお、上記差回転判定値Nspおよび係合圧判定値PAは、発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時における実際のスリップ量ΔN(rpm)が差回転判定値Nsp(rpm)未満、または発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時における実際のロックアップ指示圧Slu1が係合圧判定値PA以上の場合に、解放時発熱量Qaが完全係合時発熱量Qbよりも大きくなり、且つ、発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時における実際のスリップ量ΔN(rpm)が差回転判定値Nsp(rpm)以上且つ発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時における実際のロックアップ指示圧Slu1が係合圧判定値PA未満の場合に、完全係合時発熱量Qbが解放時発熱量Qaよりも大きくなるように、予め実験等により設定された差回転ΔNおよびロックアップ指示圧Slu1である。
図10は、電子制御装置80において、前記ロックアップ係合制御の実施中において前記完全係合による保護制御と前記解放による保護制御との選択制御の制御作動の一例を説明するフローチャートである。なお、図10のフローチャートのS1乃至S3は、実施例1における図8のフローチャートのS1乃至S3と同じ内容であるので、実施例2では上記S1乃至S3の説明を省略する。
保護制御選択部82の機能に対応するS10において、上記S3で前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時における実際のスリップ量ΔNが差回転判定値Nsp以上であるか否かが判定される。S10の判定が否定される場合すなわち実際のスリップ量ΔNが差回転判定値Nsp未満の場合には、完全ロックアップ制御部70aの機能に対応するS11が実行されるが、S10の判定が肯定される場合すなわち実際のスリップ量ΔNが差回転判定値Nsp以上の場合には、保護制御選択部82の機能に対応するS12が実行される。S11では、完全ロックアップ制御すなわち前記完全係合による保護制御が実行させられる。S12では、上記S3で前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時における実際のロックアップ指示圧Slu1が係合圧判定値PA未満であるか否かが判定される。S12の判定が否定される場合すなわちロックアップ指示圧Slu1が係合圧判定値PA以上の場合には、上記S11が実行されるが、S12の判定が肯定される場合すなわちロックアップ指示圧Slu1が係合圧判定値PA未満の場合には、ロックアップ解放制御部70cの機能に対応するS13が実行される。S13では、ロックアップ解放制御すなわち前記解放による保護制御が実行させられる。
上述のように、本実施例の動力伝達装置16の電子制御装置80によれば、保護制御選択部82は、発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるスリップ量ΔNが差回転判定値Nsp未満、または発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるロックアップ指示圧Slu1が係合圧判定値PA以上の場合に、前記完全係合による保護制御を選択し、発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるスリップ量ΔNが差回転判定値Nsp以上、且つ発熱量積算値計算部74で計算された前記発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるロックアップ指示圧Slu1が係合圧判定値PA未満の場合に、前記解放による保護制御を選択することにより、ロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量を抑制する。このため、保護制御選択部82によって、例えば、スリップ量ΔNが差回転判定値Nsp未満、またはロックアップ指示圧Slu1が係合圧判定値PA以上の場合、すなわち完全係合時発熱量Qbよりも解放時発熱量Qaが大きい場合には、ロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量が前記解放による保護制御より抑制される前記完全係合による保護制御が選択される。また、保護制御選択部82によって、例えば、スリップ量ΔNが差回転判定値Nsp以上、且つロックアップ指示圧Slu1が係合圧判定値PA未満の場合、すなわち解放時発熱量Qaよりも完全係合時発熱量Qbが大きい場合には、ロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量が前記完全係合による保護制御より抑制される前記解放による保護制御が選択される。これによって、ロックアップクラッチ18lにおいて前記ロックアップ係合制御からロックアップクラッチ18lを完全係合または解放させる際のロックアップクラッチ18lの温度上昇を好適に抑制させられる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述した実施例において、発熱量積算値計算部74では、上述した式(1)乃至式(4)を用いて、前記ロックアップ係合制御中にロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量の積算値Qiを計算したが、例えば上記式(1)乃至式(4)以外の積算値算出式でロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量の積算値Qiを計算しても良い。さらには、温度センサによってロックアップクラッチ18lの温度を直接測定してその測定した温度からロックアップクラッチ18lで発熱する発熱量の積算値Qiを計算しても良い。
また、前述した実施例において、発熱量推定部78aでは、発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるスリップ量ΔNおよびロックアップ指示圧Slu1と、図4〜図7のマップとを用いて、完全係合時発熱量Qb(J)および解放時発熱量Qa(J)を推定していたが、例えば、発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるスリップ量ΔNと、図4のマップおよび図6のマップとを用いて、完全係合時発熱量Qb(J)および解放時発熱量Qa(J)を推定しても良いし、また、発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるロックアップ指示圧Slu1と、図5のマップおよび図7のマップとを用いて、完全係合時発熱量Qb(J)および解放時発熱量Qa(J)を推定しても良い。さらには、上記した方法以外の方法、例えば発熱量積算値計算部74で計算された発熱量の積算値Qiが発熱量判定値A以上になった時におけるスリップ量ΔNおよびロックアップ指示圧Slu1からなる式等から完全係合時発熱量Qbおよび解放時発熱量Qaを推定しても良い。
また、前述の実施例では、車両10にはトルクコンバータ18が用いられていたが、トルクコンバータ18に替えて、トルク増幅作用のない流体継手などが用いられても良い。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。