ここで、エンジン温度が低い場合やエンジン負荷が低い場合などにおいては、エンジン温度が高い場合やエンジン負荷が高い場合などのように、オイルをピストンやシリンダライナに多量に供給する必要はなく、要求される冷却性能や潤滑性能に応じた量のオイルを供給すればよい。また、場合によってはオイルの供給を一時的に停止してもよい。しかしながら、特許文献1の構成では、ピストンの往復動に連動して動作するロータに一定幅の冷却用出口もしくは潤滑用出口の溝が形成されているため、オイルの噴射期間を可変とすることはできなかった。従って、例えば、オイルの噴射期間を、エンジン温度が高い場合やエンジン負荷が高い場合に必要なオイルが供給されるような期間に設定すると、エンジンの温度が低い場合やエンジン負荷が低い場合に必要以上のオイルが供給されることとなり、オイルを供給するためのポンプが無駄に動作して、結果的にエンジンの燃費を悪化させてしまうという虞があった。
このような問題に鑑み本発明の課題は、エンジンの動きに合わせて間欠的にエンジンにオイルを供給する装置において、エンジンの要求に応じて必要な量のオイル供給を行うことができるエンジンのオイル供給装置を提供することにある。
第1発明は、エンジンの所定部位にオイルを供給する噴射ノズルと、前記噴射ノズルにオイル通路を介してオイルを供給するオイルポンプと、前記オイル通路に介挿され、エンジン作動に同期して開閉される同期開閉弁とを備えるエンジンのオイル供給装置である。前記同期開閉弁は、エンジン作動に同期して回転する回転軸と、前記回転軸を回転自在に支持する軸受と、前記回転軸に形成され、前記オイルの通路を成す回転軸側通路と、前記軸受に形成され、前記オイルの通路を成す軸受側通路と、エンジンの運転状態に基づいて、前記所定部位の前記オイルによる冷却又は潤滑の必要性を判定し、冷却又は潤滑の必要性に応じて前記回転軸を軸方向に移動させるアクチュエータとを備える。前記回転軸側通路及び前記軸受側通路は、前記回転軸の全回転角度範囲の一部である第1角度範囲において互いに連通して前記オイル通路の一部を成し、前記回転軸の全回転角度範囲の第1角度範囲を除く第2角度範囲においては連通されず、前記回転軸側通路又は前記軸受側通路は、前記回転軸の前記アクチュエータによる軸方向への移動に応じて前記第1角度範囲及び前記第2角度範囲間の比率を変更するように形成されている。
第1発明において、エンジンの所定部位は、冷却又は潤滑の必要な各種部位である。例えば、ピストン、シリンダライナ、カムシャフト、タイミングチェーン等である。なお、噴射ノズルによる所定部位へのオイルの供給形態は、所定部位に応じて適宜設定される。回転軸は、ピストンの往復動と同期して回転するように、クランクシャフトと同一回転数で回転させることができる。回転軸側通路は、軸受側通路に対して相対回転するが、内部に相対回転しない固定部分を含む構成とされてもよい。アクチュエータは、回転軸を移動させるものであればよく、各種のものを採用できる。例えば、ステップモータ、サーボモータ、油圧モータ、空気圧モータ、電磁ソレノイド等である。また、アクチュエータは、連続的に移動するものでも、階段状に移動するものでもよい。回転軸がアクチュエータにより移動された際の第1角度範囲及び第2角度範囲間の比率の変更は、冷却又は潤滑の必要性が高まるのに応じて第2角度範囲に対する第1角度範囲の比率が大きくされ、冷却又は潤滑の必要性が低くなるのに応じて第2角度範囲に対する第1角度範囲の比率が小さくされる。第1角度範囲及び第2角度範囲間の比率の変更は、連続的に行われるものでも、階段状に行われるものでもよい。更に、アクチュエータにおいて所定部位の冷却又は潤滑の必要性を判定する際の基になるエンジンの運転状態としては、エンジン負荷を採用することができる。その他、所定部位の冷却又は潤滑の必要性に影響するエンジンパラメータであれば、エンジン回転数、燃料噴射量等の各種のものを、所定部位の冷却又は潤滑の必要性を判定するために採用することができる。
第1発明によれば、回転軸が軸方向の所定位置にあるとき、回転軸の第1角度範囲において、噴射ノズルからオイルが噴射され、第2角度範囲において噴射が停止される。従って、オイルはエンジンの作動に同期して間欠的に噴射される。一方、アクチュエータの作動により回転軸の軸方向の位置が変化すると、回転軸の回転軸側通路の軸受側通路に対する位置が変化して噴射ノズルにオイルを供給する第1角度範囲の比率が変更される。そのため、噴射ノズルからのオイルを受ける所定部位は、冷却又は潤滑の必要性に応じてオイルを供給される。このように、所定部位は必要なオイルを供給されるが、必要以上にオイルを供給されることはなく、オイルポンプも必要なだけ作動される。従って、第1発明によれば、エンジンの所定部位に必要な冷却又は潤滑を行いつつ、無駄なエネルギの消費を排除することができる。
第2発明は、上記第1発明において、前記アクチュエータが作動される前の初期状態においては、前記回転軸の回転に係わらず、前記回転軸側通路と前記軸受側通路とが連通されない状態とされ、前記アクチュエータが作動されて前記回転軸が軸方向における連通開始位置に移動されると、前記回転軸の前記第1角度範囲において、前記回転軸側通路と前記軸受側通路とが連通可能な状態とされ、前記回転軸の前記連通開始位置からの軸方向への移動量が増加するのに応じて、前記回転軸側通路と前記軸受側通路との連通期間が長くなるように前記第2角度範囲に対する前記第1角度範囲の比率が大きくされる。
第2発明によれば、アクチュエータによる回転軸の移動により、回転軸側通路と軸受側通路との連通状態を、両者が連通されない状態から両者が連通され、且つ連通期間が回転軸の移動に応じて増加する状態を実現することができる。
第3発明は、上記第1又は第2発明において、前記回転軸側通路は、前記回転軸の外周面の一部を窪ませて形成された溝である回転軸側溝を備える。そして、該回転軸側溝は、前記回転軸の周方向及び軸方向に広がりを持って形成され、且つ前記回転軸側溝は、前記軸方向の両端部における周方向寸法が互いに異なる大きさとされ、しかも前記回転軸側溝の周方向寸法が前記両端部の一方側から他方側に向けて漸次大きくされている。一方、前記軸受側通路は、前記軸受の内周面で前記回転軸外周面の前記回転軸側溝に対向して開口する一対の通路を備える。そして、前記一対の通路の開口は、オイルを噴射する際の最低噴射期間に対応する回転角度だけ互いに離間して配置されている。また、前記一対の通路の一方は、前記オイルポンプに連通され、他方は、前記噴射ノズルに連通されている。
第3発明によれば、回転軸側通路を成す回転軸側溝の形状と軸受側通路を成す一対の通路の開口位置の設定により、回転軸側通路と軸受側通路との連通状態を、両者が連通されない状態から両者が連通され、且つ連通期間が回転軸の移動に応じて増加する状態までを、簡単な構成で実現することができる。
第4発明は、上記第1又は第2発明において、前記回転軸側通路は、前記回転軸の外周面上の2箇所間で貫通し、その2箇所は前記回転軸の回転方向で互いにずれた位置とされた貫通孔を備える。一方、前記軸受側通路は、前記軸受の内周面で前記回転軸外周面における前記貫通孔に対向して開口する一対の通路と、前記一対の通路に対応する位置で、互いに独立して、前記軸受の内周面の一部を窪ませて形成された溝である一対の軸受側溝とを備える。そして、前記各軸受側溝は、前記回転軸の周方向及び軸方向に広がりを持って形成され、且つ前記各軸受側溝は、前記軸方向の両端部における周方向寸法が互いに異なる大きさとされ、しかも前記軸受側溝の周方向寸法が前記両端部の一方側から他方側に向けて漸次大きくされている。また、前記一対の通路の一方は、前記オイルポンプに連通され、他方は、前記噴射ノズルに連通されている。
第4発明において、回転軸側通路を成す貫通孔は、回転軸の軸芯に交差して配置され、軸芯を通り、回転軸を貫通する貫通孔により構成することができる。但し、貫通孔は、回転軸の軸芯を通らずに回転軸の内部を延びるものとされてもよい。また、貫通孔は、直線状に形成されても、湾曲、又は屈曲形成されてもよい。
第4発明によれば、軸受側通路に形成される軸受側溝を一対の通路に対応して一対備え、各軸受側溝に対向する位置で、回転軸に形成された貫通孔が回転されるため、噴射ノズルからオイルを間欠的に噴射する期間を、回転軸の1回転当り2回とすることができる。また、回転軸側通路は回転軸を貫通する貫通孔によって形成されているため、回転軸側通路が回転軸の外周面に形成されるものに比べて回転軸の強度低下を抑制することができる。なぜなら、回転軸にかかる曲げ応力は、回転軸外周面に溝が形成されていると、そこに集中することが考えられる。第4発明では、軸受側溝は軸受側通路に形成され、回転軸の外周面には形成されないため、係る応力集中は回避することができる。
第5発明は、上記第1又は第2発明において、前記回転軸は、その軸芯に沿って設けられ、軸方向には前記アクチュエータによって移動可能とされ、周方向には前記軸受と共に非回転とされた固定軸と、該固定軸の外周上で、軸方向には前記アクチュエータによって移動されず、周方向には前記軸受及び前記固定軸に対して回転自在とされた環状部とを備える。前記回転軸側通路は、前記環状部の回転中心に交差して配置され、回転中心側から外周側に向けて複数方向に延びて前記環状部を貫通する複数の貫通孔と、前記固定軸の外周面で前記複数の貫通孔に対向して形成され、前記固定軸の外周面を窪ませて形成された溝である第1溝とを備える。前記第1溝は、前記固定軸の周方向及び軸方向に広がりを持って形成され、且つ前記第1溝は、前記軸方向の両端部における周方向寸法が互いに異なる大きさとされ、しかも前記第1溝の周方向寸法が前記両端部の一方側から他方側に向けて漸次大きくされている。一方、前記軸受側通路は、前記軸受の内周面で前記環状部外周面の前記複数の貫通孔に対向して開口する一対の通路と、前記一対の通路に対応する位置で、互いに独立して、前記軸受の内周面の一部を窪ませて形成された溝である一対の第2溝とを備える。前記各貫通孔の周方向での配置、及び前記各第2溝の周方向の長さは、前記環状部の回転角度の前記第1角度範囲において、前記貫通孔を介して前記第1溝と前記第2溝とを連通させるように設定されている。また、前記一対の通路の一方は、前記オイルポンプに連通され、他方は、前記噴射ノズルに連通されている。
第5発明において、複数の貫通孔は、2つでも、3つでも、それ以上でもよい。また、複数の貫通孔は、環状部上で周方向に互いに均等配置されていても均等配置されてなくてもよい。
第5発明によれば、所定部位の冷却又は潤滑を、その必要性に応じて行うため、アクチュエータにより回転軸を軸方向に移動させるが、この移動を回転軸の軸芯に沿って備えられた固定軸に対して行うことができる。そのため、アクチュエータと固定軸との結合構造は相対回転可能にする必要がなく、構成を簡略化することができる。また、回転軸として軸芯周りに回転される環状部は、アクチュエータによって軸方向には移動されないため、エンジン作動に同期して回転する回転部材と兼ねることができる。例えば、回転軸をエンジンのバランスシャフトとして兼用することができる。
第6発明は、上記第1ないし第5発明のいずれかにおいて、前記アクチュエータは、エンジン負荷とエンジン回転数とに基づいてピストンの冷却の必要性を判定し、エンジン負荷が大きく、且つエンジン回転数が高いほど冷却の必要性は高くされ、エンジン負荷が小さく、且つエンジン回転数が低いほど冷却の必要性は低くされる。また、前記噴射ノズルは、ピストンの冷却用通路に向けてオイルを噴射するものである。
エンジン負荷が小さく、エンジン回転数が低い間は、ピストンの冷却の必要性は小さい。一方、エンジン負荷が大きく、エンジン回転数が高くなると、ピストンの冷却の必要性は大きくなる。第6発明によれば、エンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて冷却の必要性を判定してアクチュエータを作動する。従って、エンジン負荷が小さく、エンジン回転数が低い間は、オイルの噴射は行われないか、少なくされる。一方、エンジン負荷が大きく、エンジン回転数が高くなると、オイルの噴射量は多くされる。そのため、ピストンの冷却が必要性に応じて行われつつ、無駄なエネルギの消費は排除することができる。
図1は、本発明の第1実施形態を示す。第1実施形態は、ディーゼルエンジンのピストン冷却装置に本発明を適用した例を示す。
図1のように、ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)1は、シリンダ11内でピストン12が往復運動され、そのピストン12の往復運動をコンロッド125を介してクランク機構14に伝達し、クランク機構14によりクランクシャフト13の回転運動に変換している。ピストン12には、その頂面にキャビティ121が形成され、そのキャビティ121の周りを冷却するように環状冷却路(本発明における冷却用通路に相当)122がキャビティ121を取り囲んで形成されている。環状冷却路122には、下方に向けてオイル流入路123とオイル流出路124が形成され、オイル流入路123とオイル流出路124は、環状冷却路122に繋がる位置で、互いに離間して配置されている。
シリンダ11の下方で、オイル流入路123に対向する位置には、オイルを噴射する噴射ノズル3が設けられている。噴射ノズル3は、オイル流入路123に向けてオイルを噴射するように構成され、噴射ノズル3から噴射されたオイルは、オイル流入路123から環状冷却路122内に供給され、オイル流出路124から流出される。その間に、オイルは、ピストン12のキャビティ121周りを冷却する。なお、環状冷却路122は、本発明における所定部位に相当する。
噴射ノズル3は、オイル通路31を介してオイルポンプ2に接続され、オイル通路31には、エンジン作動、即ち、ピストンの上下動に同期して間欠的に開閉される同期開閉弁4が介挿されている。従って、噴射ノズル3は、同期開閉弁4の開閉に応じて間欠的にオイルポンプ2からのオイルをオイル流入路123に向けて噴射する。
同期開閉弁4は、アクチュエータ43によって作動されて、間欠的にオイルを供給するか供給を停止するように切り換えられている。しかも、間欠的にオイルを供給する期間の長さもアクチュエータ43の作動により変更可能とされている。アクチュエータ43は、ステップモータ430及び作動回路435を備えて成り、作動回路435からの指令に基づいてステップモータ430は作動される。作動回路435は、エンジン制御回路15中に設けられている。作動回路435の構成及び作動については後述する。
図2は、同期開閉弁4の構成を示している。同期開閉弁4は、エンジン1のクランクシャフト13によって同一回転数で回転される回転軸41と、回転軸41を回転自在に支持する軸受42とを備えて構成されている。軸受42は、エンジン1の各気筒に対応して、シリンダブロック(図示省略)に固定して設けられ、ここでは、エンジン1が4気筒であるため、軸受42も4個とされている。回転軸41は、軸受42に対して軸方向にも移動自在に構成されており、アクチュエータ43のステップモータ430により移動可能とされている。そのため、回転軸41の端部にはステップモータ430の出力ロッド431が結合されており、ステップモータ430により出力ロッド431が回転軸41の軸方向に移動されると、出力ロッド431により回転軸41が軸方向に移動される。図3は、出力ロッド431により回転軸41が矢印で示すように図にて左方向に移動された様子を示している。
図4は、出力ロッド431と回転軸41との結合構造を示す。出力ロッド431の回転軸41側端部には、先端が拡径されたフランジ部432が形成されており、回転軸41の出力ロッド431側端部には、フランジ部432を受け入れる空洞413が形成されている。回転軸41の空洞413内に出力ロッド431のフランジ部432を嵌合させて、両者間にベアリング433、434を介挿して、出力ロッド431と回転軸41とは結合されている。ベアリング433は、フランジ部432の先端側面と空洞413の奥側面との間に介挿され、ベアリング434は、フランジ部432のステップモータ430側面と空洞413の端部側面との間に介挿されている。それにより、回転軸41は、その回転を阻害されることなく、出力ロッド431により軸方向に移動可能とされている。
図5は、回転軸41の各軸受42に対応する位置の外周面に形成された回転軸側通路410を示している。回転軸側通路410は、回転軸41の外周面の一部を窪ませて形成された溝である回転軸側溝411を備える。回転軸側溝411は、回転軸41の周方向及び軸方向に広がりを持って形成されている。即ち、回転軸側溝411は、軸方向の両端部411a、411bにおける周方向寸法が互いに異なる大きさとされており、周方向寸法が両端部の一方側411aから他方側411bに向けて漸次大きくされている。そのため、回転軸側溝411は、回転軸41の外周面上に概ね台形形状に形成されている。ここで、回転軸側溝411は、図6のように、その輪郭部を外周面から回転軸芯に向けて直角に彫り込んだ形状とされている。しかし、図7のように、回転軸側溝411を、回転軸41の軸芯に対して中心をオフセットした円弧形状によって形成し、回転軸側溝411の輪郭部を外周面に対して傾斜面によって形成してもよい。回転軸側溝411の形状を、図7のようにした場合は、図6のようにした場合に比べて、回転軸側溝411の機械加工を容易にすることができる。
一方、図1に示すように、各軸受42の内周面には、回転軸41の回転軸側溝411に対向して軸受側通路420が形成されている。軸受側通路420は、一対の通路421、422により構成され、各通路421、422は、各軸受42の内周面上に開口しており、回転軸41が回転するとき回転軸側溝411と連通するように構成されている。各通路421、422の各軸受42内周面上の開口は、噴射ノズル3からオイルを噴射する際の最低噴射期間に対応する回転角度だけ、互いに離間して配置されている。そして、一対の通路の一方421は、オイル通路31を介してオイルポンプ2に連通され、一対の通路の他方422は、オイル通路31を介して噴射ノズル3に連通されている。
図8は、作動回路435の具体例を示している。この場合、作動回路435は、エンジン制御回路15内のマイクロコンピュータ(図示省略)のプログラムを実行することにより、その機能を実現するように構成されている。なお、マイクロコンピュータは、そのプログラムの実行によりエンジン1の燃料噴射等の制御を行うものとされている。
作動回路435を成すオイル噴射量決定ルーチンが実行されると、ステップS1において、エンジン回転数が取り込まれる。また、ステップS2では、エンジン1の燃料噴射量に相当するエンジン負荷が算出される。更に、次のステップS3では、噴射ノズル3から噴射するための冷却用オイルの量が算出(本発明における冷却の必要性を判定することに相当)される。係る算出は、図9に示すマップに基づいて行われる。即ち、ステップS1にて取り込まれたエンジン回転数とステップS2にて算出されたエンジン負荷とからオイル量が求められる。オイル量は、エンジン回転数が高く、エンジン負荷が大きいほど多くなるように設定されている。図9では、オイル量が「多」、「中」、「少」の3つの特性を代表的に示したが、更に細分化して多数の特性データをマップとして設定してもよい。なお、オイル量を求めるためのマップとしては、この他のパラメータを用いたものとすることもできる。また、演算式により求めることもできる。この場合のエンジン回転数及びエンジン負荷が、本発明におけるエンジンの運転状態を表している。
このようにステップS3において冷却用オイル量が算出されると、ステップS4では、アクチュエータ43の位置を指令する。即ち、算出されたオイル量に応じてアクチュエータ43におけるステップモータ430の駆動ステップ数を指令する。従って、ステップモータ430は、駆動ステップ数に応じて回転され、回転軸41の軸方向位置が定められる。即ち、ステップS3において算出されたオイル量が少ない場合は、アクチュエータ43による回転軸41の移動量は少なく、噴射ノズル3から噴射されるオイル量は少なくされる。一方、ステップS3において算出されたオイル量が多い場合は、アクチュエータ43による回転軸41の移動量は多くされ、噴射ノズル3から噴射されるオイル量は多くされる。
図10は、同期開閉弁4における回転軸41の回転角度と、噴射ノズル3によるオイル噴射状態とによるマトリックス図で、各状態における同期開閉弁4の開閉の様子を示している。ここで、「オイル噴射停止」の状態は、アクチュエータ43が作動されず、回転軸41の回転軸側溝411の周方向長さが最も短い位置に軸受側通路420を構成する一対の通路421、422の開口が対向した初期状態を示している。そのため、回転軸41の回転中、回転軸側溝411を通じて一対の通路421、422が連通されることはなく、回転軸41の回転角が0度でも180度でも噴射ノズル3からオイルは噴射されない。
一方、図10の「オイル間欠噴射」の状態は、図3のようにアクチュエータ43の作動により回転軸41が軸方向に所定量移動されて、噴射ノズル3からオイルが間欠的に噴射されるように切り換わった状態を示している。このとき、回転軸41の回転軸側溝411の周方向長さが長い位置に一対の通路421、422の開口が対向している。そのため、回転軸41の回転中、回転軸側溝411を通じて一対の通路421、422が連通され、回転軸41の回転角が0度付近を通過する際に噴射ノズル3からオイルが噴射される。しかし、回転軸41の回転角が0度付近以外では、「回転角180度」で示すように回転軸側溝411を通じて一対の通路421、422が連通されず、噴射ノズル3からオイルは噴射されない。従って、噴射ノズル3からオイルは間欠的に噴射されることになる。そして、アクチュエータ43による回転軸41の移動量に応じて、回転軸側溝411により一対の通路421、422が連通される期間が変更されるため、オイル噴射期間が変更される。
換言すれば、アクチュエータ43により回転軸41が移動され始めて、その移動量が増大すると、次第に一対の通路421、422が回転軸側溝411の周方向長さの長い領域に対向するようになる。そして、回転軸側溝411が一対の通路421、422の各回転軸側開口部に同時に対向する状態になると、一対の通路421、422が回転軸側溝411により連通される。その結果、回転軸41の回転角が0度付近を通過する毎に間欠的に噴射ノズル3からオイルが噴射される。アクチュエータ43による回転軸41の移動開始後、初めて噴射ノズル3からオイルが噴射される回転軸41の軸方向位置が連通開始位置である。この連通開始位置では、回転軸側溝411による一対の通路421、422の連通期間が最短期間となる。その後、アクチュエータ43による回転軸41の移動が継続して、一対の通路421、422の各回転軸側開口部に同時に対向する回転軸側溝411の周方向長さが長くなることで連通期間が長くなる。アクチュエータ43により回転軸41が最大限引き寄せられて移動されたとき、一対の通路421、422は回転軸側溝411の端部の他方側411bに最も接近した位置となり、オイルの噴射期間は最大とされる。ここで、回転軸側溝411により一対の通路421、422が連通される期間は、本発明における第1角度範囲に相当し、回転軸側溝411により一対の通路421、422が連通されない期間は、本発明における第2角度範囲に相当する。即ち、第1角度範囲は、アクチュエータ43による回転軸41の移動量に応じて変更される。
従って、図9のマップに示すように、エンジン回転数とエンジン負荷との関係に基づいて決まるピストン12の冷却の必要性に応じて噴射ノズル3から間欠的にオイルの噴射が行われる。また、オイル噴射の必要性がないときには、オイル噴射は停止される。従って、オイルは必要量だけ噴射され、必要以上には噴射されず、オイルの無駄な消費が防止される。
また、オイルの噴射の制御は、同期開閉弁4のみで行うことができ、オイル噴射において通常用いられるチェック弁、電磁弁などを不要とすることができる。しかも、同期開閉弁4の作動は、一本の回転軸41と一つのアクチュエータ43によって行うことができ、構成を簡素化することができる。
図11は、本発明の第2実施形態を示す。第2実施形態が第1実施形態に対して特徴とする点は、回転軸41が1回転する間に噴射ノズル3からのオイル噴射回数を1回から2回に増やした点である。また、噴射ノズル3からのオイルの供給先をピストン12ではなく、カムシャフト(図示省略)とした点である。その他の点は両者同一であり、再度の説明は省略する。
図11は、図10と同様に、同期開閉弁4における回転軸41の回転角度と、噴射ノズル3によるオイル噴射状態とによるマトリックス図で、各状態における同期開閉弁4の開閉の様子を示す図である。また、同時に、同期開閉弁4の回転軸側通路410及び軸受側通路420の構造も示している。
回転軸側通路410は貫通孔412によって構成され、この貫通孔412は、回転軸41の軸芯に交差して配置され、且つ、軸芯を通り、回転軸41を貫通して構成されている。また、軸受側通路420は、一対の通路423、424と一対の溝である軸受側溝425、426とを備えて構成されている。一対の通路423、424は、軸受42の内周面で回転軸41外周面における貫通孔412に対向して開口されている。また、一対の軸受側溝425、426は、一対の通路423、424に対応する位置で、軸受42の内周面の一部を窪ませて形成されている。各軸受側溝425、426は、第1実施形態における回転軸41の回転軸側溝411と同様、回転軸41の周方向及び軸方向に沿って広がりを持って、互いに独立して形成されている。即ち、各軸受側溝425、426は、軸受42の内周面上に概ね台形形状に形成されている。また、各軸受側溝425、426は、それらの間に貫通孔412が位置したとき、共に貫通孔412から離間した位置となるように配置されている。そして、一対の通路の一方423は、オイル通路31を介してオイルポンプ2に連通され、一対の通路の他方424は、オイル通路31を介して噴射ノズル3に連通されている。なお、貫通孔412は、回転軸41の軸芯を通らずに回転軸41の内部を延びるものとされてもよい。また、貫通孔412は、直線状に形成されず、湾曲、又は屈曲形成されてもよい。
図11において、「オイル噴射停止」の状態は、アクチュエータ43が作動されず、回転軸41の貫通孔412の開口位置に、一対の軸受側溝425、426の周方向長さが最も短い位置が対向した初期状態を示している。そのため、回転軸41の回転中、貫通孔412を通じて一対の軸受側溝425、426が連通されることはなく、回転軸41の回転角が0度、45度、225度のいずれでも噴射ノズル3からオイルは噴射されない。
一方、図11の「オイル間欠噴射」の状態は、図3のようにアクチュエータ43の作動により回転軸41が軸方向に所定量移動されて、噴射ノズル3からオイルが間欠的に噴射されるように切り換わった状態を示している。このとき、回転軸41の貫通孔412の開口位置に、一対の軸受側溝425、426の周方向長さが長い位置に対向している。そのため、回転軸41の回転中、貫通孔412を通じて一対の軸受側溝425、426が連通され、回転軸41の回転角が0度付近など、45度及び225度付近を除く位置において、噴射ノズル3からオイルが噴射される。なお、回転軸41の回転角が90度及び270度付近でも、貫通孔412の位置が破線で示す位置となってオイルは噴射される。しかし、回転軸41の回転角が45度及び225度付近では、「回転角45度、225度」で示すように貫通孔412を通じて一対の軸受側溝425、426が連通されず、噴射ノズル3からオイルは噴射されない。従って、噴射ノズル3からのオイルは、回転軸41の回転角が45度及び225度付近を除く各位置を通過する際に1回ずつ、回転軸41の1回転当り2回間欠的に噴射されることになる。そして、アクチュエータ43による回転軸41の移動量に応じて、貫通孔412を通じて一対の軸受側溝425、426が連通される期間が変更されるため、オイル噴射期間が変更される。なお、アクチュエータ43により回転軸41が移動され始めてから、貫通孔412を通じて一対の軸受側溝425、426が連通開始される連通開始位置は、次の位置である。即ち、貫通孔412が図11にて仮想線で示すように左右方向に向く位置(回転軸41の回転角が135度及び315度の位置)で、貫通孔412が軸受側溝425に対して連通終了直前となり、貫通孔412が軸受側溝426に対して連通開始直後となるように、一対の軸受側溝425、426の周方向長さが設定される位置である。ここで、貫通孔412を通じて一対の軸受側溝425、426が連通される期間は、本発明における第1角度範囲に相当し、貫通孔412を通じて一対の軸受側溝425、426が連通されない期間は、本発明における第2角度範囲に相当する。第2実施形態の場合、第1角度範囲及び第2角度範囲は、回転軸41の全回転角度範囲内に2箇所ずつある。
第2実施形態によれば、噴射ノズル3からオイルを間欠的に噴射する期間を、回転軸41の1回転当り2回として、クランクシャフトの潤滑及び冷却を効果的に行うことができる。また、第1実施形態のように、回転軸側通路410が回転軸41の外周面に形成されるものに比べて回転軸41の強度低下を抑制することができる。なぜなら、回転軸側通路410を、回転軸41の外周面に形成される溝ではなく、回転軸41を貫通する貫通孔412としたため、回転軸41にかかる曲げ応力が回転軸41の溝部分に集中する現象を回避することができる。
図12は、本発明の第3実施形態を示す。第3実施形態が第2実施形態に対して特徴とする点は、回転軸41を二重構造として、回転軸41の外周側のみを周方向に回転させ、回転軸41の軸芯部分のみを軸方向に移動させるようにした点である。また、回転軸41が1回転する間に噴射ノズル3からのオイル噴射回数を2回から3回に増やした点である。その他の点は両者同一であり、再度の説明は省略する。
図12は、図10と同様に、同期開閉弁4における回転軸41の回転角度と、噴射ノズル3によるオイル噴射状態とによるマトリックス図で、各状態における同期開閉弁4の開閉の様子を示す図である。また、同時に、同期開閉弁4の回転軸側通路410及び軸受側通路420の構造も示している。
ここでは、回転軸41が二重構造とされており、回転軸41の軸芯側は固定軸414とされ、回転軸41の外周側は環状部415とされている。固定軸414は、軸方向にはアクチュエータ43によって移動可能とされ、周方向には軸受42と共に非回転とされている。また、環状部415は、固定軸414の外周上で、軸方向にはアクチュエータ43によって移動されず、周方向には軸受42及び固定軸414に対して回転自在とされている。そして、回転軸側通路410は、環状部415を貫通して形成された3つの貫通孔416と、固定軸414の外周面に形成された第1溝417とを備えている。3つの貫通孔416は、環状部415の回転中心に交差して、回転中心側から外周側に向けて3方向に均等間隔で放射状に延びて形成されている。また、第1溝417は、固定軸414の外周面で3つの貫通孔416に対向して、固定軸414の外周面を窪ませて形成されている。第1溝417は、第1実施形態における回転軸41の回転軸側溝411と同様、固定軸414の周方向及び軸方向に広がりを持って形成されている。即ち、第1溝417は、固定軸414の外周面上に概ね台形形状に形成されている。
また、軸受側通路420は、一対の通路423、424と、軸受42の内周面に形成された一対の第2溝427、428とを備えている。一対の通路423、424は、軸受42の内周面で環状部415外周面の3つの貫通孔416に対向して開口している。また、一対の第2溝427、428は、一対の通路423、424に対応する位置で、互いに独立して、軸受42の内周面の一部を窪ませて形成されている。各第2溝427、428は、環状部415の回転中、3つの貫通孔416のうちの1つと必ず連通されるように周方向の寸法が設定されている。また、一対の通路の一方423は、オイルポンプ2に連通され、他方424は、噴射ノズル3に連通されている。
図12において、「オイル噴射停止」の状態は、アクチュエータ43が作動されず、環状部415の貫通孔416の開口が、固定軸414の第1溝417の周方向長さが最も短い位置に対向した初期状態を示している。そのため、環状部415の回転中、貫通孔416を通じて第1溝417が一対の第2溝427、428に連通されることはなく、回転軸41の回転角に係わらず噴射ノズル3からオイルは噴射されない。
一方、図12の「オイル間欠噴射」の状態は、図3のようにアクチュエータ43の作動により固定軸414が軸方向に所定量移動されて、噴射ノズル3からオイルが間欠的に噴射されるように切り換わった状態を示している。このとき、環状部415の貫通孔416の開口は、固定軸414の第1溝417の周方向長さが長い位置に対向している。そのため、環状部415の回転中、「回転角30度、150度、270度」で示すように貫通孔416を通じて第1溝417が一対の第2溝427、428に連通され、回転軸41の回転角が0度、120度及び240度付近を除く位置を通過する際に噴射ノズル3からオイルが噴射される。しかし、「回転角0度、120度、240度」で示すように回転軸41の回転角が0度、120度及び240度付近では、貫通孔416を通じて第1溝417が一対の第2溝427、428に連通されず、噴射ノズル3からオイルは噴射されない。従って、噴射ノズル3からのオイルは、回転軸41の回転角が0度、120度及び240度付近を除く各位置を通過する際に1回ずつ、回転軸41の1回転当り3回間欠的に噴射されることになる。そして、アクチュエータ43による回転軸41の移動量に応じて、貫通孔416を通じて第1溝417と一対の第2溝427、428とが連通される期間が変更されるため、オイル噴射期間が変更される。なお、アクチュエータ43により固定軸414が移動され始めてから、貫通孔416を介して第1溝417と各第2溝427、428とが連通開始される連通開始位置は、貫通孔416が対向する第1溝417の周方向長さが各貫通孔416間の周方向距離と等しくなる位置である。ここで、貫通孔416を通じて第1溝417と一対の第2溝427、428とが連通される期間は、本発明における第1角度範囲に相当し、貫通孔416を通じて第1溝417と一対の第2溝427、428が連通されない期間は、本発明における第2角度範囲に相当する。第3実施形態の場合、第1角度範囲及び第2角度範囲は、回転軸41の全回転角度範囲内に3箇所ずつある。
第3実施形態によれば、アクチュエータ43による回転軸41の軸方向への移動は、回転軸41の軸芯に沿って備えられた固定軸414に対して行うことができる。そのため、アクチュエータ43の出力ロッド431と固定軸414との結合構造は、第1、2実施形態の回転軸41の場合のように、相対回転可能にする必要がなく、構成を簡略化することができる。また、回転軸41として軸芯周りに回転される環状部415は、軸方向には移動されないため、エンジン作動に同期して回転する回転部材と兼ねることができる。例えば、回転軸41をエンジンのバランスシャフトとして兼用することができる。
第3実施形態では、環状部415の貫通孔416を3つとして噴射ノズル3からのオイル噴射回数を回転軸41の1回転当り3回としたが、貫通孔416を2つとしてオイル噴射回数を回転軸41の1回転当り2回とすることもできる。その場合、各貫通孔416の周方向での配置、及び各第2溝427、428の周方向の長さは、希望する角度範囲において、貫通孔416を介して第1溝417と各第2溝427、428とを連通させるように設定される。
以上、特定の実施形態について説明したが、本発明は、それらの外観、構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、上記実施形態では、ディーゼルエンジンに本発明を適用したが、ガソリンエンジン等にも適用可能である。また、上記実施形態では、エンジンは4気筒とされたが、気筒数は限定されない。更に、上記実施形態では、回転軸41は、クランクシャフトと同一回転数で回転されるものとしたが、同一回転数に限定されない。