JP2017066497A - 熱間プレス鋼部品およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】部品全体にわたって、優れた塗膜密着性と耐食性を示す熱間プレス鋼部品を提供する。【解決手段】亜鉛めっき鋼板を用いて得られる熱間プレス鋼部品であって、該部品全体にわたり最大高さRyが10μm未満であることを特徴とする熱間プレス鋼部品。【選択図】なし
Description
本発明は、熱間プレス鋼部品およびその製造方法に関する。特に、塗膜密着性と耐食性に優れる熱間プレス鋼部品およびその製造方法に関し、より詳細には、部品全体にわたって優れた塗膜密着性と耐食性を示す熱間プレス鋼部品と、この熱間プレス鋼部品の製造方法に関する。
近年、自動車軽量化のためにボディへの高強度鋼の適用が進んでいる。具体的には自動車用部品として、引張強度が980MPaを超える鋼板を用いた部品が多く適用されている。一方、鋼板の高強度化につれて、部品加工時の金型寿命低下やスプリングバックによる部品形状のばらつき拡大が問題として挙げられる。
そこで熱間プレス、またはホットスタンプといわれる工法が開発された。該工法は、低強度の鋼板を、プレス成形前にAc1点以上、即ち約900℃以上に加熱してオーステナイト化し、高温域で成形する方法である。該方法によれば、変形抵抗を低減でき、その結果スプリングバックを低減でき、更には成形と同時に焼き入れを行うことで高強度を確保できる。この工法は、特に引張強度1470MPa以上の部品の工法として広まりつつある。
ところで自動車用部品のうち、高耐食性が求められるサイドメンバ、サイドシル、クロスメンバ、ピラー下部などは、犠牲防食効果を発揮することが必須である。よって、これらの部品の製造には、亜鉛めっき鋼板が用いられる。従来より、この亜鉛めっき鋼板に冷間加工を施して上記部品が製造されてきた。しかし近年では、亜鉛めっき鋼板を用い、上記熱間プレスにより成形することで、上記サイドメンバ等に適用可能な高強度かつ高耐食性を示す部品が製造されつつある。
しかしながら亜鉛めっき鋼板を熱間プレスに用いると、加熱によりめっきの亜鉛が酸化し、部品の塗膜密着性が悪化する、といった問題が生じうる。これまでに、亜鉛めっき鋼板を熱間プレスに用いた技術であって、部品の塗膜密着性を改善した技術として、次の特許文献1や特許文献2の技術が挙げられる。
上記特許文献1には、塗装後の耐食性および塗膜密着性が確保された亜鉛系めっき熱処理鋼材と、その製造方法が提案されている。具体的には、加圧ロールによって、亜鉛系めっき鋼材の表面に残存するめっき層の表面粗度を、表面の中心線平均粗さが1.5〜5μmとなるように調整する方法が提案されている。しかしながら、この特許文献1は管形状の鋼材を対象とするものであって、自動車用鋼部品の様に複雑形状の部品を対象とした場合、特許文献1の方法では、部品表面全体に渡って均一にロールや金型で加圧することができず、部品全体の塗膜密着性等を確保することは難しいと思われる。また、後述するように、腐食環境での塗膜密着性は、平均粗さよりも最大高さRyが支配的であり、最大高さRyを制御することが必要であると考える。
また特許文献2には、熱間プレス成形品およびその製造方法として、亜鉛系めっき鋼材に熱間プレスをして鉄−亜鉛固溶相を含む亜鉛系めっき層およびその上に酸化亜鉛層を備えた熱間プレス成形品とする工程、および、得られた熱間プレス成形品の最表層の酸化亜鉛層の平均膜厚が2μm以下となるように当該酸化亜鉛層の一部または全部を除去する工程を含むことを特徴とする熱間プレス成形品の製造方法が提案されている。より具体的には、ショットブラストや液体ホーニングにより、得られた熱間プレス成形品の最表層の酸化亜鉛層の平均膜厚が2μm以下となるように当該酸化亜鉛層の一部または全部を除去することが示されている。しかしながら後に詳述する通り、上記酸化亜鉛層を十分に除去しても、必ずしも十分に優れた塗膜密着性は確保できない。
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、自動車用部品の様な複雑形状の部品であっても、部品全体に渡って、優れた塗膜密着性と耐食性を発揮する熱間プレス鋼部品を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明の熱間プレス鋼部品は、亜鉛めっき鋼板を用いて形成された熱間プレス鋼部品であって、該鋼部品全体にわたり最大高さRyが10μm未満であるところに特徴を有する。上記熱間プレス鋼部品は、例えば自動車用部品として有用である。
また上記課題を解決し得た本発明の熱間プレス鋼部品の製造方法は、亜鉛めっき鋼板を用いて熱間プレス後、部品の全面に対しショットブラスト処理を下記(1)および(2)の条件を全て満たすように行うところに特徴を有する。
(1)ブラスト材を噴射するノズルと部品表面との距離は3〜12cmとする。
(2)単位面積あたりの投射時間は0.40秒/cm2以上とする。但し、前記単位面積あたりの投射時間は、ブラスト処理時間(秒)をt、部品の処理面積(cm2)をSとしたときのt/Sから求められる。
(1)ブラスト材を噴射するノズルと部品表面との距離は3〜12cmとする。
(2)単位面積あたりの投射時間は0.40秒/cm2以上とする。但し、前記単位面積あたりの投射時間は、ブラスト処理時間(秒)をt、部品の処理面積(cm2)をSとしたときのt/Sから求められる。
本発明によれば、自動車用部品の様に複雑形状の部品の場合であっても、部品全体にわたって優れた塗膜密着性と耐食性を発揮する熱間プレス鋼部品とその製造方法を提供することができる。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。上述した特許文献2では酸化亜鉛層を十分に除去することによって塗膜密着性の確保を図っているが、本発明者らが調査検討を行ったところ、この酸化亜鉛層を十分に除去した場合であっても、優れた塗膜密着性が得られないことがわかった。上記調査の詳細は、後記の実施例で説明する。
本発明者らは、上記特許文献2とは視点を変えて、優れた塗膜密着性と耐食性を併せ持つ熱間プレス鋼部品を得るべく、次の通り検討を行った。尚、以下では、熱間プレス鋼部品を「鋼部品」または「部品」ということがある。
塗膜形成後の鋼部品の塗膜の剥離は、塗膜と亜鉛めっきの界面で生じる。また塗膜形成後の鋼部品の腐食は、塗膜と亜鉛めっきの界面、または亜鉛めっきと素地鋼板の界面で生じる。本発明者らは、これら塗膜の剥離や腐食が、塗膜の最も薄い箇所を起点として生じていると考えた。そして、塗膜形成後の塗膜の最も薄い箇所の発生を抑制すべく、塗膜形成のベースである鋼部品の表面性状について検討を行った。その結果、上記塗膜の最も薄い箇所の発生を抑制するには、表面粗さの種々の制御因子のうちの、例えば算術平均粗さ等よりも最大高さRyが支配的であり、この最大高さRyを、鋼部品の全体にわたり一定以下に抑えることが重要であることをまず見出した。
詳細には、熱間プレス鋼部品の塗膜密着性と耐食性を併せて高めるには、該部品の表面全域、即ち、熱間プレス時に金型が直接接しない箇所も含めた部品の全表面において、後記の実施例に記載の方法で測定する最大高さRyを10μm未満とする必要があることがわかった。上記最大高さRyは、好ましくは8μm以下である。尚、上記最大高さRyの下限値は特に規定しない。尚、本発明は、上記部品が自動車用部品の様に複雑形状のものであっても、部品全体にわたり均一に、塗膜密着性と耐食性の向上を図ることができる。
本発明の熱間プレス鋼部品は、亜鉛めっき鋼板を用いて形成された熱間プレス鋼部品であって、特徴は上記表面性状にある。本発明の熱間プレス鋼部品を構成する素地鋼板や亜鉛めっき、熱間プレスの条件等として、次に記載のものを採用することができる。
素地鋼板
本発明では、使用する素地鋼板の成分や強度、板厚を特に規定するものではないが、熱間プレスを行い、金型で冷却することによって焼き入れを行い、高強度の部品を製造する観点から、素地鋼板の成分等を下記の通りとすることが推奨される。鋼部品の素地鋼板相当部分も下記の成分組成を満たす。尚、本発明において「素地鋼板」には、めっき処理に供する熱延鋼板、冷延鋼板およびこれらの焼鈍を施したものの他、めっき鋼板の母材に相当する鋼板が含まれる。以下では、この素地鋼板を単に鋼板ということがある。
本発明では、使用する素地鋼板の成分や強度、板厚を特に規定するものではないが、熱間プレスを行い、金型で冷却することによって焼き入れを行い、高強度の部品を製造する観点から、素地鋼板の成分等を下記の通りとすることが推奨される。鋼部品の素地鋼板相当部分も下記の成分組成を満たす。尚、本発明において「素地鋼板」には、めっき処理に供する熱延鋼板、冷延鋼板およびこれらの焼鈍を施したものの他、めっき鋼板の母材に相当する鋼板が含まれる。以下では、この素地鋼板を単に鋼板ということがある。
素地鋼板の成分組成
素地鋼板の成分として、上記高強度の部品を得る等の観点から、一般に、Cに加えてBやMnなど、焼き入れ性を向上させる元素を含む。例えば下記成分組成の素地鋼板とすることができる。尚、下記成分組成における「%」は「質量%」を意味する。
素地鋼板の成分として、上記高強度の部品を得る等の観点から、一般に、Cに加えてBやMnなど、焼き入れ性を向上させる元素を含む。例えば下記成分組成の素地鋼板とすることができる。尚、下記成分組成における「%」は「質量%」を意味する。
C:0.15〜0.40%
Cは、熱間成形により得られる部品の強度を得るために重要な元素である。よってC量は0.15%以上とすることが好ましい。C量は、より好ましくは0.18%以上、更に好ましくは0.20%以上である。一方、C量が過剰であると部品の溶接性や部品製造時の延性の確保が困難となる。よってC量は、0.40%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.35%以下、更に好ましくは0.30%以下である。
Cは、熱間成形により得られる部品の強度を得るために重要な元素である。よってC量は0.15%以上とすることが好ましい。C量は、より好ましくは0.18%以上、更に好ましくは0.20%以上である。一方、C量が過剰であると部品の溶接性や部品製造時の延性の確保が困難となる。よってC量は、0.40%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.35%以下、更に好ましくは0.30%以下である。
Si:0%超3.0%以下
Siは、焼入れ時に残留オーステナイトを形成させる作用を発揮する。また、固溶強化によって、延性をあまり劣化させずに強度を高める作用も発揮する。該効果を発揮させるには、Si量を0.5%以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0%以上、更に好ましくは1.2%以上である。一方、Si量が過剰になると、熱間プレス後の靭性等の劣化を招く。よってSi量は、3.0%以下とすることが好ましく、より好ましくは2.5%以下、更に好ましくは2.0%以下である。
Siは、焼入れ時に残留オーステナイトを形成させる作用を発揮する。また、固溶強化によって、延性をあまり劣化させずに強度を高める作用も発揮する。該効果を発揮させるには、Si量を0.5%以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0%以上、更に好ましくは1.2%以上である。一方、Si量が過剰になると、熱間プレス後の靭性等の劣化を招く。よってSi量は、3.0%以下とすることが好ましく、より好ましくは2.5%以下、更に好ましくは2.0%以下である。
Mn:0.5〜3.0%
Mnは、焼入れ性を高め、加熱後の冷却中に、フェライト、パーライト、ベイナイトの形成を抑制し、高強度の確保に寄与する元素である。こうした効果を発揮させるには、Mnを0.5%以上含有させることが好ましい。Mn量は、より好ましくは0.8%以上、更に好ましくは1.0%以上である。一方、熱間圧延の負荷等を考慮すると、Mn量は、3.0%以下とすることが好ましく、より好ましくは2.8%以下、更に好ましくは2.5%以下である。
Mnは、焼入れ性を高め、加熱後の冷却中に、フェライト、パーライト、ベイナイトの形成を抑制し、高強度の確保に寄与する元素である。こうした効果を発揮させるには、Mnを0.5%以上含有させることが好ましい。Mn量は、より好ましくは0.8%以上、更に好ましくは1.0%以上である。一方、熱間圧延の負荷等を考慮すると、Mn量は、3.0%以下とすることが好ましく、より好ましくは2.8%以下、更に好ましくは2.5%以下である。
Al:0%超0.10%以下
Alは、脱酸元素として有用な元素である。この観点から、Alを0%超、更には0.01%以上含みうる。しかしながら、Al量が過剰になるとAl2O3の生成により延性等の劣化が生じうる。よってAl量は、0.10%以下であることが好ましく、より好ましくは0.08%以下、更に好ましくは0.05%以下である。
Alは、脱酸元素として有用な元素である。この観点から、Alを0%超、更には0.01%以上含みうる。しかしながら、Al量が過剰になるとAl2O3の生成により延性等の劣化が生じうる。よってAl量は、0.10%以下であることが好ましく、より好ましくは0.08%以下、更に好ましくは0.05%以下である。
B:0.0002〜0.01%
Bは、鋼板の焼入れ性を向上させるために重要な元素である。よってB量は、0.0002%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.0003%以上、更に好ましくは0.0005%以上である。一方、0.01%を超えて過剰に含有させても効果が飽和するため、B量は0.01%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.0080%以下、更に好ましくは0.0070%以下である。
Bは、鋼板の焼入れ性を向上させるために重要な元素である。よってB量は、0.0002%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.0003%以上、更に好ましくは0.0005%以上である。一方、0.01%を超えて過剰に含有させても効果が飽和するため、B量は0.01%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.0080%以下、更に好ましくは0.0070%以下である。
本発明の素地鋼板の成分組成として、上記元素を含み、残部が鉄および不可避不純物であるものが挙げられる。上記不可避不純物には、PやSが含まれる。PやSは、部品の溶接性や靭性の確保、表面疵防止の観点から抑制する必要がある。これらの観点から、P量は0.020%以下に抑えることが好ましく、より好ましくは0.010%以下である。S量は0.010%以下に抑えることが好ましく、より好ましくは0.005%以下である。いずれの元素も、ゼロとすることは困難であるため下限は0%超である。
また、上記元素に加えて更に、下記に示す通りTi等を適量含有させることにより、部品の耐遅れ破壊性や部品製造時に必要な焼き入れ性等を更に高めることができる。以下、これらの元素について詳述する。
Ti:0%超0.10%以下
Tiは、Nを固定して、Bによる焼入れ効果を確保する役割を持つ元素である。また、ミクロ組織を微細化する効果があり、部材の靭性を改善する効果も有する。これらの効果を発揮させるには、Tiを0.02%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.03%以上である。一方、Ti量が過剰になると、素地鋼板の強度が大きくなり過ぎて、熱間プレス成形前にブランクを所定の形状に切断することが困難となる。よってTi量は0.10%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.08%以下である。
Tiは、Nを固定して、Bによる焼入れ効果を確保する役割を持つ元素である。また、ミクロ組織を微細化する効果があり、部材の靭性を改善する効果も有する。これらの効果を発揮させるには、Tiを0.02%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.03%以上である。一方、Ti量が過剰になると、素地鋼板の強度が大きくなり過ぎて、熱間プレス成形前にブランクを所定の形状に切断することが困難となる。よってTi量は0.10%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.08%以下である。
MoとCrのうちの少なくとも1種の元素:合計で、0%超0.50%以下
MoとCrは、焼入れ性を向上させることのできる元素である。該効果を発揮させるには、MoとCrのうちの少なくとも1種の元素を、合計で0%超含有させることが好ましく、より好ましくは合計で0.01%以上である。上記「合計で」とは、単独の場合は単独量を示し、複数元素を含む場合は合計量であることを意味する。以下同じである。
MoとCrは、焼入れ性を向上させることのできる元素である。該効果を発揮させるには、MoとCrのうちの少なくとも1種の元素を、合計で0%超含有させることが好ましく、より好ましくは合計で0.01%以上である。上記「合計で」とは、単独の場合は単独量を示し、複数元素を含む場合は合計量であることを意味する。以下同じである。
一方、これらの元素が過剰に含まれると、鋼板強度が上昇するため、MoとCrのうちの少なくとも1種の元素の含有量は、合計で0.50%以下とすることが好ましく、より好ましくは合計で0.40%以下である。
CuとNiのうちの少なくとも1種の元素:合計で、0%超0.50%以下
CuとNiは、部品の耐遅れ破壊特性の改善に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる。上記効果を発揮させるには、CuとNiのうちの少なくとも1種の元素を、合計で0%超含有させることが好ましく、より好ましくは合計で0.01%以上である。しかし、これらの元素が過剰に含まれると、鋼板表面、最終的には部品の表面疵の発生要因となる。よって、CuとNiのうちの少なくとも1種の元素は、合計で0.50%以下とすることが好ましく、より好ましくは合計で0.30%以下である。
CuとNiは、部品の耐遅れ破壊特性の改善に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる。上記効果を発揮させるには、CuとNiのうちの少なくとも1種の元素を、合計で0%超含有させることが好ましく、より好ましくは合計で0.01%以上である。しかし、これらの元素が過剰に含まれると、鋼板表面、最終的には部品の表面疵の発生要因となる。よって、CuとNiのうちの少なくとも1種の元素は、合計で0.50%以下とすることが好ましく、より好ましくは合計で0.30%以下である。
Nb、VおよびZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を、合計で、0%超0.10%以下
Nb、VおよびZrは、Tiと同様にミクロ組織を微細化する効果を有している。この観点から、Nb、VおよびZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素は、合計で0.005%以上含有させることが好ましく、より好ましくは合計で0.010%以上である。一方、これらの元素が過剰に含まれると、熱間プレス前の素地鋼板の強度が上昇するため、Nb、VおよびZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素の含有量は、合計で0.10%以下とすることが好ましく、より好ましくは合計で0.050%以下である。
Nb、VおよびZrは、Tiと同様にミクロ組織を微細化する効果を有している。この観点から、Nb、VおよびZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素は、合計で0.005%以上含有させることが好ましく、より好ましくは合計で0.010%以上である。一方、これらの元素が過剰に含まれると、熱間プレス前の素地鋼板の強度が上昇するため、Nb、VおよびZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素の含有量は、合計で0.10%以下とすることが好ましく、より好ましくは合計で0.050%以下である。
素地鋼板の製造方法
亜鉛めっき処理に供する素地鋼板として、熱延鋼板、冷延鋼板、またはこれらに対して焼鈍を施した鋼板が挙げられる。熱延鋼板の製造方法は限定されず、例えば熱間圧延前の加熱温度:約1100〜1300℃、仕上げ圧延温度:800〜950℃、巻取り温度:500〜700℃等の条件を採用して製造することができる。冷延鋼板は、前記熱延鋼板に対し、例えば冷延率10%〜65%の冷間圧延を施して得ることができる。必要に応じて、焼鈍を行ってもよい。焼鈍することにより、素地鋼板の硬さを調節し、製造性、通板安定性を改善することができる場合がある。
亜鉛めっき処理に供する素地鋼板として、熱延鋼板、冷延鋼板、またはこれらに対して焼鈍を施した鋼板が挙げられる。熱延鋼板の製造方法は限定されず、例えば熱間圧延前の加熱温度:約1100〜1300℃、仕上げ圧延温度:800〜950℃、巻取り温度:500〜700℃等の条件を採用して製造することができる。冷延鋼板は、前記熱延鋼板に対し、例えば冷延率10%〜65%の冷間圧延を施して得ることができる。必要に応じて、焼鈍を行ってもよい。焼鈍することにより、素地鋼板の硬さを調節し、製造性、通板安定性を改善することができる場合がある。
素地鋼板の板厚
素地鋼板の板厚として、熱延鋼板の場合、例えば2.3〜3.5mm、冷延鋼板の場合、例えば0.8〜2.3mmとすることが挙げられる。
素地鋼板の板厚として、熱延鋼板の場合、例えば2.3〜3.5mm、冷延鋼板の場合、例えば0.8〜2.3mmとすることが挙げられる。
亜鉛めっき鋼板
本発明の部品の製造には、上記素地鋼板、即ち、熱延鋼板、冷延鋼板、またはこれらに対して更に焼鈍を施した鋼板の、少なくとも片面に亜鉛めっき処理の施された亜鉛めっき鋼板を用いる。本発明の亜鉛めっき鋼板には、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板が含まれる。いずれの亜鉛めっき鋼板においても、亜鉛めっきの片面あたりの付着量は、概ね30g/m2以上、好ましくは65g/m2以上にすることで十分な耐食性を得ることができる。上記付着量の上限は、おおよそ120g/m2以下である。
本発明の部品の製造には、上記素地鋼板、即ち、熱延鋼板、冷延鋼板、またはこれらに対して更に焼鈍を施した鋼板の、少なくとも片面に亜鉛めっき処理の施された亜鉛めっき鋼板を用いる。本発明の亜鉛めっき鋼板には、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板が含まれる。いずれの亜鉛めっき鋼板においても、亜鉛めっきの片面あたりの付着量は、概ね30g/m2以上、好ましくは65g/m2以上にすることで十分な耐食性を得ることができる。上記付着量の上限は、おおよそ120g/m2以下である。
上記亜鉛めっき処理の方法として、溶融めっき法や電気めっき法が挙げられる。めっき条件は特に問わず、一般的に行われている方法を採用することができる。前記めっき処理後に更に合金化処理を行ってもよい。該合金化処理は、例えば大気雰囲気または窒素雰囲気下、470〜580℃で20秒〜10分間保持して行うことができる。前記合金化温度から室温までの冷却は特に問わない。
熱間プレスの条件
上記亜鉛めっき鋼板に熱間プレスを行って熱間プレス鋼部品を得る。上記熱間プレス鋼部品を得るにあたり、熱間プレスの条件は限定されず、通常、用いられる条件を採用することができる。熱間プレス工程は、加熱工程、プレス加工工程および冷却工程を含む。優れた塗膜密着性と耐食性と共に、靭性や延性等も具備した鋼部品を得るには、各工程において下記条件を採用することが好ましい。
上記亜鉛めっき鋼板に熱間プレスを行って熱間プレス鋼部品を得る。上記熱間プレス鋼部品を得るにあたり、熱間プレスの条件は限定されず、通常、用いられる条件を採用することができる。熱間プレス工程は、加熱工程、プレス加工工程および冷却工程を含む。優れた塗膜密着性と耐食性と共に、靭性や延性等も具備した鋼部品を得るには、各工程において下記条件を採用することが好ましい。
熱間プレス工程における加熱工程
加熱工程では、亜鉛めっき鋼板を加熱する。加熱温度はAc1点以上とすることが好ましく、より好ましくは{Ac1点+(Ac3点−Ac1点)/4}℃以上、更に好ましくは{Ac1点+(Ac3点−Ac1点)/2}℃以上、より更に好ましくは{Ac1点+(Ac3点−Ac1点)×3/4}℃以上である。また、上記加熱温度の上限は、好ましくは(Ac3点+180)℃以下、より好ましくは(Ac3点+150)℃以下である。加熱温度を制限することにより、鋼部品を構成するミクロ組織の粗大化を抑制し、延性や曲げ性を高めることができる。
加熱工程では、亜鉛めっき鋼板を加熱する。加熱温度はAc1点以上とすることが好ましく、より好ましくは{Ac1点+(Ac3点−Ac1点)/4}℃以上、更に好ましくは{Ac1点+(Ac3点−Ac1点)/2}℃以上、より更に好ましくは{Ac1点+(Ac3点−Ac1点)×3/4}℃以上である。また、上記加熱温度の上限は、好ましくは(Ac3点+180)℃以下、より好ましくは(Ac3点+150)℃以下である。加熱温度を制限することにより、鋼部品を構成するミクロ組織の粗大化を抑制し、延性や曲げ性を高めることができる。
前記Ac1点、前記Ac3点、および後記のMs点は、「レスリー鉄鋼材料化学」(丸善株式会社、1985年5月31日発行、273頁)に記載されている、それぞれ下記式(1)、下記式(2)、下記式(3)から算出できる。下記式(1)〜(3)において、[元素]は鋼板の各元素の含有量(質量%)を示しており、鋼板に含まれない元素の含有量は0質量%として計算すればよい。
Ac1点(℃)=723−10.7×[Mn]−16.9×[Ni]+29.1×[Si]+16.9×[Cr]・・・(1)
Ac3点(℃)=910−203×([C]0.5)−15.2×[Ni]+44.7×[Si]+31.5×[Mo]−30×[Mn]−11×[Cr]−20×[Cu]+700×[P]+400×[Al]+400×[Ti]・・・(2)
Ms点(℃)=561−474×[C]−33×[Mn]−17×[Ni]−17×[Cr]−21×[Mo]・・・(3)
Ac1点(℃)=723−10.7×[Mn]−16.9×[Ni]+29.1×[Si]+16.9×[Cr]・・・(1)
Ac3点(℃)=910−203×([C]0.5)−15.2×[Ni]+44.7×[Si]+31.5×[Mo]−30×[Mn]−11×[Cr]−20×[Cu]+700×[P]+400×[Al]+400×[Ti]・・・(2)
Ms点(℃)=561−474×[C]−33×[Mn]−17×[Ni]−17×[Cr]−21×[Mo]・・・(3)
上記加熱工程において、亜鉛めっき鋼板の温度を常に測定する必要はなく、予備実験で亜鉛めっき鋼板の温度を測定しておき、温度制御に必要な条件を制御することができれば、鋼部品の製造の際に温度を測定しなくてもよい。加熱時の最高温度までの昇温速度は特に問わない。加熱の方法として、炉加熱、通電加熱、誘導加熱等を採用することができる。
亜鉛めっき鋼板の温度が上記加熱温度に到達した後、該加熱温度での保持時間の下限値は特に限定されず、例えば15秒間以上、更には30秒間以上、より更には60秒間以上とすることができる。一方、オーステナイトの粒成長を抑制し、鋼部品の靭性などの特性向上の観点からは、上記保持時間の上限を、30分以下とすることが好ましく、より好ましくは15分以下、更に好ましくは7分以下である。更に、より良い塗膜密着性を確保する観点から、上記保持時間は、より更に好ましくは6分以下、最も好ましくは5分以下である。
また、加熱雰囲気はめっきが発火しない条件であれば特に限定されない。めっき表面に酸化膜が形成されれば発火を抑えることが可能となるため、たとえば大気雰囲気が好ましいが、酸化性雰囲気、還元性雰囲気でも、表面が酸化膜で覆われる条件であればよい。
熱間プレス工程におけるプレス加工工程
プレス加工工程では、上記加熱工程で加熱された亜鉛めっき鋼板にプレス加工を施す。プレス加工の開始温度は特に限定されない。例えば前記加熱温度以下Ms点以上とすることによって加工を容易に行うことができ、かつプレス加工時の荷重を十分に低減させることができる。プレス加工の開始温度の下限は、より好ましくは450℃以上、さらに好ましくは500℃以上である。また、プレス加工の開始温度の上限は、たとえば750℃以下であり、より好ましくは700℃以下、更に好ましくは650℃以下である。
プレス加工工程では、上記加熱工程で加熱された亜鉛めっき鋼板にプレス加工を施す。プレス加工の開始温度は特に限定されない。例えば前記加熱温度以下Ms点以上とすることによって加工を容易に行うことができ、かつプレス加工時の荷重を十分に低減させることができる。プレス加工の開始温度の下限は、より好ましくは450℃以上、さらに好ましくは500℃以上である。また、プレス加工の開始温度の上限は、たとえば750℃以下であり、より好ましくは700℃以下、更に好ましくは650℃以下である。
前記プレス加工の終了温度は、特に問わず、Ms点以上であってもよいし、Ms点以下かつ(Ms点−150)℃以上の範囲内であってもよいが、部品として求められる十分な硬さ、例えば引張強度1370MPa以上を達成できる条件で行う。
前記熱間プレスは、1回のみの場合の他、上記加熱後に複数回続けて行ってもよい。
熱間プレス工程における冷却工程
加熱工程の直後から亜鉛めっき鋼板の冷却が開始する。該冷却の方法は特に限定されず、金型内に保持し、この金型によって冷却する方法;水、油もしくはミストなどで冷却する方法;空冷;またはこれらの組み合わせ;などが挙げられる。なお、ここでの冷却には自然冷却も含まれる。
加熱工程の直後から亜鉛めっき鋼板の冷却が開始する。該冷却の方法は特に限定されず、金型内に保持し、この金型によって冷却する方法;水、油もしくはミストなどで冷却する方法;空冷;またはこれらの組み合わせ;などが挙げられる。なお、ここでの冷却には自然冷却も含まれる。
上記冷却工程での冷却速度は特に限定されない。たとえば上述した加熱温度からMs点までの温度域における平均冷却速度を2℃/秒以上とすることができる。該平均冷却速度は、より好ましくは5℃/秒以上、さらに好ましくは7℃/秒以上である。また、上記の平均冷却速度は、好ましくは70℃/秒以下、より好ましくは60℃/秒以下、さらに好ましくは50℃/秒以下である。
熱間プレス後のショットブラスト処理
前述した表面粗さの熱間プレス鋼部品を得るには、熱間プレス後、部品の全面に対しショットブラスト処理を下記(1)および(2)の条件を全て満たすように行うことが重要である。特に、部品の表面全域に渡って優れた塗膜密着性を確保するには、均一に処理することが重要である。また、鋼部品の亜鉛めっきの過剰な損耗を抑制して耐食性を確保する観点からも、下記の通り条件を制御する必要がある。
(1)ブラスト材を噴射するノズルと部品表面との距離は3〜12cmである。
(2)単位面積あたりの投射時間は0.40秒/cm2以上とする。但し、前記投射時間は、ブラスト処理時間(秒)をt、部品の処理面積(cm2)をSとしたときのt/Sから求められる。
前述した表面粗さの熱間プレス鋼部品を得るには、熱間プレス後、部品の全面に対しショットブラスト処理を下記(1)および(2)の条件を全て満たすように行うことが重要である。特に、部品の表面全域に渡って優れた塗膜密着性を確保するには、均一に処理することが重要である。また、鋼部品の亜鉛めっきの過剰な損耗を抑制して耐食性を確保する観点からも、下記の通り条件を制御する必要がある。
(1)ブラスト材を噴射するノズルと部品表面との距離は3〜12cmである。
(2)単位面積あたりの投射時間は0.40秒/cm2以上とする。但し、前記投射時間は、ブラスト処理時間(秒)をt、部品の処理面積(cm2)をSとしたときのt/Sから求められる。
まず制御すべき1つ目の処理条件はノズルと部品表面の間の距離である。該距離はノズルと部品表面の間の最短距離をいう。一般に、金属部品にショットブラストを行う場合、目的は錆や酸化物を除去することであり、処理後の外観から均一に処理できていると確認できれば十分である。よってこの場合、ノズルと部品表面の間の距離は比較的短い。これに対して本発明では、表面粗さを均一に処理することが目的であるため、ノズル−サンプル間距離をある程度離し、処理の均一性を確保することが重要となる。
本発明では、上記ノズルと部品表面の間の距離が3cmを下回ると、処理が不均一になり、部品表面に局所的に表面粗さが大きい箇所が残り、塗膜密着性が劣位になるといった不具合を有する。よって上記距離を3cm以上とする必要がある。該距離は好ましくは3.5cm以上である。前述の特許文献2では、ノズルと供試材間の距離20mm、即ち2cmの条件でショット処理を行っているが、上述の通りノズルと供試材の間の距離が近すぎると、砥粒の投射が不均一となり、部品全体にわたって平滑な表面が得られないと考えられる。一方、該距離が12cmを超えると、処理が不十分となり、最大高さRyを規定以下とすることが難しい。よって該距離は12cm以下とする。好ましくは10cm以下である。
制御すべき2つ目の処理条件は単位面積あたりの投射時間である。これはブラスト処理時間(秒)をt、部品の処理面積(cm2)をSとしたときの、t/Sにより求める。この単位面積あたりの投射時間が短すぎると、最大高さRyを規定以下とすることが困難である。よって、単位面積あたりの投射時間は0.40秒/cm2以上とする必要があり、好ましくは0.80秒/cm2以上、より好ましくは1.2秒/cm2以上、更に好ましくは1.5秒/cm2以上である。一方、単位面積あたりの投射時間の上限は特に設けないが、該投射時間が長すぎると部品製造の生産性が低下するため、10秒/cm2以下とすることが好ましい。また、部品の各箇所において、単位面積あたりの投射時間が一定になるように処理することで、より安定な塗膜密着性を確保できる。
ショットブラスト処理において、上記(1)および(2)の条件以外は、特に限定されないが、本発明の熱間プレス鋼部品を効率よく得るための条件として、下記条件が挙げられる。
装置は、金属材の表面処理に一般的に使用されるものを適用できる。投射材、即ちブラスト材を投射する空気圧は通常5〜10kgf/cm2程度である。ブラスト材としては、硬度がビッカース硬さで390〜510の鋼球であることが好ましく、例えばSUS304、SUS420等を用いることができる。角状のブラスト材を用いるグリッドブラストではめっき層が損耗して耐食性が悪化するため好ましくない。
前記ブラスト材のサイズは、平均粒径で150〜400μm程度であることが好ましい。平均粒径の小さすぎるブラスト材を用いると、最大粗さRyを規定以下とすることが難しくなる。よって前記ブラスト材のサイズは、平均粒径150μm以上であることが好ましく、より好ましくは平均粒径200μm以上である。一方、平均粒径の大きすぎるブラスト材を用いると、表面の性状が粗面化しやすく最大粗さRyを規定以下とすることが却って困難となる。よって前記ブラスト材のサイズは、平均粒径400μm以下であることが好ましい。またブラスト材の噴射量は、150kg/hr以上であることが好ましく、より好ましくは300kg/hr以上であり、1500kg/hr以下であることが好ましく、より好ましくは1000kg/hr以下である。
上記ノズルの内径は、小さすぎるとノズル内損耗による径変化が著しく、処理条件が安定しないため、3mm以上が好ましい。より好ましくは4mm以上である。一方、ノズルの内径が大き過ぎると、表面粗さを抑制する効果が得られ難くなるため、上記ノズルの内径は、10mm以下であることが好ましく、より好ましくは8mm以下である。
投射角度は、投射による表面粗さの抑制効果を十分得るため、投射している面に対して直角±45°の範囲内が好ましい。より好ましい投射角度は、直角±30°の範囲内である。
上記ショットブラスト処理して得られる本発明の熱間プレス鋼部品は、更に化成処理および電着塗装が施されうる。該化成処理や電着塗装は一般的に行われている方法を採用することができる。本発明の熱間プレス鋼部品は、上記電着塗装で優れた塗膜密着性を発揮する。また上記電着塗装後には優れた耐食性も発揮する。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
(i)供試材の作製
(i−1)亜鉛めっき鋼板の作製
表1に示す化学成分組成を満たす鋼を溶製し、鋳造してスラブを得た後、熱間圧延を行って板厚3.2mmの熱延鋼板を得た。更に冷間圧延を行って板厚1.4mmの冷延鋼板を作製した。該冷延鋼板に対して、溶融亜鉛めっき処理、更には合金化処理を施して、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。以下、この合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、単に、亜鉛めっき鋼板という。
(i−1)亜鉛めっき鋼板の作製
表1に示す化学成分組成を満たす鋼を溶製し、鋳造してスラブを得た後、熱間圧延を行って板厚3.2mmの熱延鋼板を得た。更に冷間圧延を行って板厚1.4mmの冷延鋼板を作製した。該冷延鋼板に対して、溶融亜鉛めっき処理、更には合金化処理を施して、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。以下、この合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、単に、亜鉛めっき鋼板という。
前記溶融亜鉛めっき処理と合金化処理は、雰囲気制御が可能で加熱冷却機構と亜鉛めっき浴となる坩堝を備え、めっき処理、合金化処理が一貫工程で可能な実験炉を用いて行った。前記めっき処理は460℃の0.13%Al−Zn浴に3秒間浸漬した。前記合金化処理は5%H2−N2、露点−45℃の雰囲気で550℃×20秒間保持することで行い、その後Arガスの吹き付けにより冷却した。前記合金化温度から室温までの平均冷却速度は15℃/secであった。
合金化亜鉛めっき鋼板の片面あたりのめっき付着量は、ICP(Inductively Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)発光分光分析により測定した。
(i−2)熱間プレスを模擬した加熱および冷却の実施
上記の様にして得られた亜鉛めっき鋼板から大きさが約50mm×200mmの短冊状試験片を切り出し、熱間プレスを模擬した加熱と冷却を実施した。
上記の様にして得られた亜鉛めっき鋼板から大きさが約50mm×200mmの短冊状試験片を切り出し、熱間プレスを模擬した加熱と冷却を実施した。
加熱方式は通電による電気抵抗加熱方式とし、12秒かけて室温から900℃まで加熱した後、大気ガスによりガス急冷した。ガス急冷を実施する理由は以下の通りである。上述の通り、実際のプレスでは、金型との接触した箇所では表面粗さが低減されるが、鋼板の全面にわたって亜鉛めっき鋼板と金型が均一に接触するわけではなく、亜鉛めっき鋼板と金型が接触しない部分が生じる。亜鉛めっき鋼板の金型と接触しない部分は、表面粗さが低減されない。よってその後に電着塗装を行ったとき、塗膜密着性が劣る部分が生じると考えられる。このため本実施例では、金型と接触させずにガス冷却することにより、実際のプレス成形時に金型が接触しない部分、即ち、熱間プレス鋼部品の塗膜密着性が最も確保しにくい箇所を再現した。
(i−3)前記加熱・冷却後のブラスト処理
上記加熱・冷却後の供試材に対しブラスト処理を実施した。表2−1および表2−2に示す「ブラスト処理方法」のうちショットブラストは次の様にして行った。即ち、厚地鉄工株式会社製のブラストキャビネット、型番:BA−2型のブラスト処理装置を用いた。ブラスト処理条件は次の通りである。即ち、ブラスト材として三昌研磨材株式会社製の品番:SB−5を用い、空気圧:6〜7kgf/cm2、ノズルの内径:5mm、噴射量:460kg/hrとした。また、投射角度については、垂直から傾斜角45°以内を保って行った。下記表2に示す通り、ノズルとサンプルの間の距離を2.0〜12.0cm、単位面積あたりの投射時間を0.08〜8.0秒/cm2の間で変化させた。尚、この単位面積あたりの投射時間は「サンプルのブラスト処理時間/サンプル面積」から求めたものである。
上記加熱・冷却後の供試材に対しブラスト処理を実施した。表2−1および表2−2に示す「ブラスト処理方法」のうちショットブラストは次の様にして行った。即ち、厚地鉄工株式会社製のブラストキャビネット、型番:BA−2型のブラスト処理装置を用いた。ブラスト処理条件は次の通りである。即ち、ブラスト材として三昌研磨材株式会社製の品番:SB−5を用い、空気圧:6〜7kgf/cm2、ノズルの内径:5mm、噴射量:460kg/hrとした。また、投射角度については、垂直から傾斜角45°以内を保って行った。下記表2に示す通り、ノズルとサンプルの間の距離を2.0〜12.0cm、単位面積あたりの投射時間を0.08〜8.0秒/cm2の間で変化させた。尚、この単位面積あたりの投射時間は「サンプルのブラスト処理時間/サンプル面積」から求めたものである。
尚、比較例として、上記ブラスト処理を行わない、即ち、表2−1および表2−2に示す「ブラスト処理方法」が「なし」のサンプルと、前記ブラスト材として鋼材角状のグリッド材を用いた以外は、上記と同条件でブラスト処理を行ったサンプル、即ち、表2−1および表2−2に示す「ブラスト処理方法」が「グリッドブラスト」であるサンプルを用意した。
(ii)特性の評価
(ii−1)部品強度の測定
前記加熱および冷却後であって、前記ブラスト処理前のサンプルを用い、引張強度を測定した。詳細には、上記サンプルをJIS 5号 試験片に加工し、JIS Z 2241に基づき測定した。その結果を表1の「加熱後の引張強度」に示す。この引張強度は部品の強度に相当する。
(ii−1)部品強度の測定
前記加熱および冷却後であって、前記ブラスト処理前のサンプルを用い、引張強度を測定した。詳細には、上記サンプルをJIS 5号 試験片に加工し、JIS Z 2241に基づき測定した。その結果を表1の「加熱後の引張強度」に示す。この引張強度は部品の強度に相当する。
(ii−2)表面粗さの評価
上記各条件でブラスト処理したサンプルの表面粗さを、JISB0601(1994)に基づいて測定し、最大高さRyを求めた。測定は、先端径が5μmの株式会社東京精密製の触針式粗度計を用いて走査速度0.3mm/sで測定した。表面粗さの測定条件は、基準長さ0.8mm、評価長さ25.4mmとした。上記サンプルの任意の10箇所で行い、その最大値を測定値とした。
上記各条件でブラスト処理したサンプルの表面粗さを、JISB0601(1994)に基づいて測定し、最大高さRyを求めた。測定は、先端径が5μmの株式会社東京精密製の触針式粗度計を用いて走査速度0.3mm/sで測定した。表面粗さの測定条件は、基準長さ0.8mm、評価長さ25.4mmとした。上記サンプルの任意の10箇所で行い、その最大値を測定値とした。
(ii−3)酸化膜厚の測定
上記サンプルの酸化膜厚を測定した。該測定は、グロー放電発光分析装置(GD−OES、Glow Discharge−Optical Emission Spectroscopy)として、株式会社リガク製のGDA750を用い、材料表面から酸化膜の膜厚深さ方向の酸素濃度分布を測定した。そして酸化膜の最表面から酸素濃度5質量%以上を満たす位置までの深さを酸化膜厚とした。
上記サンプルの酸化膜厚を測定した。該測定は、グロー放電発光分析装置(GD−OES、Glow Discharge−Optical Emission Spectroscopy)として、株式会社リガク製のGDA750を用い、材料表面から酸化膜の膜厚深さ方向の酸素濃度分布を測定した。そして酸化膜の最表面から酸素濃度5質量%以上を満たす位置までの深さを酸化膜厚とした。
(ii−4)塗膜密着性と耐食性の評価
次に各鋼板に対し、日本ペイント株式会社製のSD6350を用い、リン酸塩の付着量が3g/m2となるようにリン酸塩処理を行った。更に、該リン酸塩処理をした各めっき鋼板に対し、関西ペイント株式会社製のカチオンEDGT10HTグレーを用いて、200Vの通電下で電着させ、150℃で20分焼き付けることにより、厚さ15μmの上塗り塗膜を形成し、サンプルを得た。
次に各鋼板に対し、日本ペイント株式会社製のSD6350を用い、リン酸塩の付着量が3g/m2となるようにリン酸塩処理を行った。更に、該リン酸塩処理をした各めっき鋼板に対し、関西ペイント株式会社製のカチオンEDGT10HTグレーを用いて、200Vの通電下で電着させ、150℃で20分焼き付けることにより、厚さ15μmの上塗り塗膜を形成し、サンプルを得た。
以上の方法で作製したサンプルを用い、塗膜密着性と耐食性を下記の方法で評価した。
塗膜密着性の評価
塗膜密着性は、上記供試材を、水温が50℃である5質量%の塩水に500時間浸漬させた後、100mm×150mmの評価面全面に、セロハンテープとしてニチバン株式会社製のセロテープ(登録商標)CT405AP−24を貼り付け、すぐに手で剥がし、塗膜が剥離した部分の面積率、即ち塗膜剥離面積率を求めた。そして、下記の基準で塗膜密着性を評価し、AおよびBを合格、塗膜密着性に優れると評価した。特にAの場合を塗膜密着性により優れると評価した。一方、CおよびDを不合格、耐食性に劣ると評価した。
塗膜密着性の評価基準
A:塗膜剥離面積率が5面積%以下
B:塗膜剥離面積率が5面積%超10面積%以下
C:塗膜剥離面積率が10面積%超25面積%以下
D:塗膜剥離面積率が25面積%超
塗膜密着性は、上記供試材を、水温が50℃である5質量%の塩水に500時間浸漬させた後、100mm×150mmの評価面全面に、セロハンテープとしてニチバン株式会社製のセロテープ(登録商標)CT405AP−24を貼り付け、すぐに手で剥がし、塗膜が剥離した部分の面積率、即ち塗膜剥離面積率を求めた。そして、下記の基準で塗膜密着性を評価し、AおよびBを合格、塗膜密着性に優れると評価した。特にAの場合を塗膜密着性により優れると評価した。一方、CおよびDを不合格、耐食性に劣ると評価した。
塗膜密着性の評価基準
A:塗膜剥離面積率が5面積%以下
B:塗膜剥離面積率が5面積%超10面積%以下
C:塗膜剥離面積率が10面積%超25面積%以下
D:塗膜剥離面積率が25面積%超
耐食性の評価
前記電着塗装後に塗装にクロスカットを設けた。クロスカットは、荷重を一定にしてナイフで実施した。カット部の断面を顕微鏡観察し、切り込みが電着塗装最下部、即ち鋼板表面にまで到達していることを確認した。このクロスカットサンプルをJASOM610で規定の複合サイクル試験を行った。詳細には、
塩水噴霧:5%NaClの塩水を35℃にて2時間噴霧
→乾燥:60℃、RH20〜30%で4時間
→湿潤:50℃×95%以上RHの雰囲気下で2時間
を1サイクルとし、200サイクル繰り返した。
前記電着塗装後に塗装にクロスカットを設けた。クロスカットは、荷重を一定にしてナイフで実施した。カット部の断面を顕微鏡観察し、切り込みが電着塗装最下部、即ち鋼板表面にまで到達していることを確認した。このクロスカットサンプルをJASOM610で規定の複合サイクル試験を行った。詳細には、
塩水噴霧:5%NaClの塩水を35℃にて2時間噴霧
→乾燥:60℃、RH20〜30%で4時間
→湿潤:50℃×95%以上RHの雰囲気下で2時間
を1サイクルとし、200サイクル繰り返した。
その後、上記クロスカットのカットラインに沿って10区間の侵食深さ、詳細には、2本のラインをそれぞれ5等分して得られる10区間それぞれにおける侵食深さを接触式のニードルで測定し、その平均値を侵食深さとした。
そして下記の基準で耐食性を評価し、AおよびBを合格、耐食性に優れると評価した。特にAの場合を耐食性により優れると評価した。一方、Cを不合格、耐食性に劣ると評価した。
耐食性の評価基準
A:侵食深さ0.1mm未満
B:侵食深さ0.1mm以上0.2mm未満
C:侵食深さ0.2mm以上
耐食性の評価基準
A:侵食深さ0.1mm未満
B:侵食深さ0.1mm以上0.2mm未満
C:侵食深さ0.2mm以上
表1、表2−1および表2−2から次のことがわかる。No.3〜7、13〜17、23〜27、33〜37、42および46は、部品表面のRyが規定の通り抑えられているため、塗膜密着性に優れておりかつ耐食性にも優れている。またこれらの例で用いた鋼種a〜fのいずれも、部品の強度に相当する加熱後の引張強度は1370MPa以上であり、部品の強度も高いことがわかる。
これに対し、No.1、11、21、31、41および45は、熱間プレス後にショットブラストを行っておらず、Ryが大きいため、塗膜密着性に劣る結果となった。
No.2、12、22および32は、ショットブラストを行っているが、単位面積あたりの投射時間が短すぎるためRyが大きく、塗膜密着性に劣る結果となった。
No.8、18、28および38は、ショットブラストを行っているが、ノズル−サンプル間の距離が短すぎるためRyが大きく、塗膜密着性に劣る結果となった。
No.9、10、19、20、29、30、39、40、43、44、47および48は、グリッドブラストを行った比較例である。これらの例では、Ryが大きくなり、塗膜密着性、耐食性の少なくともいずれかが劣る結果となった。
上記比較例のうち、No.9、19、29、39、43および47は、特許文献2の技術に相当する例であり、酸化膜厚、即ち酸化亜鉛層の厚さを極力抑えた例である。これらの例から、ブラスト処理で、亜鉛めっき層を損耗させずに耐食性を確保しつつ酸化膜厚を十分に低減させた場合であっても、最大高さRyが本発明の規定範囲を超えていると、優れた塗膜密着性は得られないことがわかる。
またNo.10、20、30、40、44および48の通り、グリッドブラストで単位面積あたりの投射時間を0.80秒/cm2とした場合には、亜鉛めっき層の損耗が著しく、耐食性にも劣る結果となった。
尚、No.9と10、No.19と20をそれぞれ比較すると、グリッドブラストを長く行ったNo.10やNo.20の方が塗膜密着性は改善されている。これは、グリッドブラストにより酸化膜が除去されたためと思われる。しかしNo.10とNo.20はいずれも、上述の通りグリッドブラストにより亜鉛めっき層が損耗して耐食性に劣る結果となった。
Claims (3)
- 亜鉛めっき鋼板を用いて形成された熱間プレス鋼部品であって、該鋼部品全体にわたり最大高さRyが10μm未満であることを特徴とする熱間プレス鋼部品。
- 自動車用部品として用いられる請求項1に記載の熱間プレス鋼部品。
- 請求項1または2に記載の熱間プレス鋼部品の製造方法であって、
亜鉛めっき鋼板を用いて熱間プレス後、部品の全面に対しショットブラスト処理を下記(1)および(2)の条件を全て満たすように行うことを特徴とする熱間プレス鋼部品の製造方法。
(1)ブラスト材を噴射するノズルと部品表面との距離は3〜12cmとする。
(2)単位面積あたりの投射時間は0.40秒/cm2以上とする。但し、前記単位面積あたりの投射時間は、ブラスト処理時間(秒)をt、部品の処理面積(cm2)をSとしたときのt/Sから求められる。
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JP2020143354A (ja) * | 2019-03-08 | 2020-09-10 | Jfeスチール株式会社 | 熱間プレス部材およびその製造方法 |
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