JP2017052660A - 窒化ガリウム結晶及びその製造方法、並びに、結晶成長装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】窒化ガリウム結晶は、結晶中のナノボイド密度が1×105[cm-2]未満である。結晶成長装置は、窒化ガリウム結晶を製造するための装置であって、結晶成長空間に曝される部材の内、温度が500℃以上となる部分に用いられる部材(高温用部材)として、少なくとも表層部分のB濃度が1ppm未満である部材が用いられている。このような結晶成長装置を用いると、結晶中のナノボイド密度が1×105[cm-2]未満である窒化ガリウム結晶が得られる。
【選択図】図3
Description
これまでにGaN結晶成長に用いられてきた手法は幾つかある。例えば、厚さ数ミクロン程度までの結晶の成長には、分子線エピタキシー(MBE)法や有機金属気相成長(MOCVD)法が用いられている。また、厚さが10ミクロンを超えるバルクGaN結晶の成長には、ハイドライド気相成長(HVPE)法などが用いられている。
(a)Si不純物濃度やO不純物濃度を上昇させると、ナノボイド密度が上昇するという現象が観察されること、及び、
(b)その際に明確な転位の増大は確認できないことから、不純物がナノボイドの形成に関連していること、
が述べられている。
一方、非特許文献3には、ナノボイドの中心部には中空らせん転位が存在しており、転位とナノボイドが関連していると報告されている。
特許文献3には、不純物濃度が高いと塑性変形しやすく、クラックが形成されやすいと記載されている。しかしながら、不純物の具体的物質名としては、MgやFeなどが記載されているのみであり、B不純物についての言及がない。また、不純物とナノボイドなどの欠陥との関連性についても検討されていない。
さらに、特許文献4には、「パイプ穴の観測には、結晶を酸、もしくはアルカリ溶液でエッチングを施すことにより、光学顕微鏡で確認可能な大ピットが形成される」と述べられている。一方、表面ピット及びナノボイドを含む結晶にエッチングを施すと、ナノボイド直上の表面ピットはエッチングにより消失し、観察することはできない。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このような窒化ガリウム結晶を製造することが可能な結晶成長装置、及びこれを用いた窒化ガリウム結晶の製造方法を提供することにある。
本発明に係る窒化ガリウム結晶を製造するための結晶成長装置であって、
結晶成長空間に曝される部材の内、温度が500℃以上となる部分に用いられる部材(高温用部材)として、少なくとも表層部分のB濃度が1ppm未満である部材を用いたことを要旨とする。
これに対し、高温用部材として、少なくとも表層部分のB濃度が1ppm未満である部材を用いると、GaN結晶の成長面上におけるB不純物の偏析、及びこれに起因する高指数面の発生を抑制することができる。その結果、従来に比べてナノボイド密度の低いGaN結晶が得られる。
[1. 窒化ガリウム結晶]
本発明に係る窒化ガリウム結晶は、結晶中のナノボイド密度が1×105[cm-2]未満であることを特徴とする。
[1.1.1. 定義]
本発明において、「ナノボイド」とは、c軸方向に伸びる中空欠陥であって、半径が1nm〜500nmであり、長さが1〜1000nmであり、かつ、アスペクト比が50以下であるものをいう。ナノボイドは、GaN結晶内でGaNが存在しない領域であって、結晶の周期性が成り立たない不連続領域である。
(a)c面(極性面)からなる成長面上にB不純物が偏析することによって、成長面上に部分的に高指数面(半極性面)が現れ、
(b)高指数面上には実質的に新たな結晶が成長せず、かつ、c面上において新たな結晶が優先的に成長するために、高指数面の直上に中空欠陥が生成し、
(c)中空欠陥がある程度成長したところで、中空欠陥の上部が閉塞する、
ことにより生成すると考えられる。
そのため、ナノボイドのアスペクト比は、50以下となる。また、成長過程においては高指数面の発生と中空欠陥の閉塞とが繰り返されるため、ナノボイドは、表面ピットの直下に断続的に発生する。アスペクト比が50以下であっても、ナノボイド部への電界集中が発生し、リーク電流の増大等の問題が発生する。
ナノボイド密度については、断面TEM観察を用いることによって算出できる。試料厚さ(紙面奥行き方向)が約100nmである場合、断面TEM観察によりc軸方向に沿って観察を行う。視野(例えば、横方向500nm×縦方向(c軸方向)500nm)の中で結晶のc軸方向に沿って任意の数十nmの領域を選ぶ。その領域の中でナノボイドが1つ観察されるとすると、その視野のナノボイド密度(以下、「視野密度」ともいう)は、おおよそ2×109[cm-2」と算出される。このようにしていくつかの視野で観察した視野密度の平均値により、ナノボイド密度を算出することができる。
[1.2.1. 定義]
「表面ピット(Surfactant Pit)」とは、成長面上にB不純物が偏析し、GaNの半極性面が安定化することにより、成長直後の成長面上に出現するピットをいう。表面ピットは、平坦な成長面をエッチングすることにより出現するピット、すなわち、エッチピットとは異なる。
表面ピットは、エッチピットとは形成メカニズムが異なる。そのため、特許文献4に記載されているように、窒化ガリウム結晶に対して、例えば、酸、アルカリなどの薬液によるエッチングを施す方法では、表面ピット密度を正確に測定することはできない。ナノボイドは成長終了直後の結晶の表面に存在するピット(半径:平均4nm程度)の直下に断続的に発生するものであり、その発生原因はB不純物による半極性面の安定化に起因している。そのため、成長終了直後の結晶表面をエッチングすると、通常の安定面であるc面から先にエッチングされ、表面ピットが消失する。
ここでは、2インチ(5.08cm)サイズのウェハを例に挙げる。また、表面ピットは、B不純物の偏析により面内でランダムに発生するため、面内分布はない(すなわち、面内での表面ピット密度は等しい)と仮定する。
(2)各測定エリアの表面をSEM等で観察する。視野の大きさは、5μm×7μmとする。また、各測定エリアにおいて、それぞれ、任意に選択した11視野をSEM等で観察し、各視野毎に表面ピットの数を測定する。
(3)各視野に現れた表面ピットの総数を各視野の総面積で除すことにより視野全体の平均値を求め、これを「表面ピット密度」と定義する。
よって、1視野当たりの表面ピット密度の分布に正規性を仮定すると、1視野当たりの表面ピット密度の平均値(すなわち、表面ピット密度)は、95%信頼区間で0以上8.6×104[cm-2]以下の範囲に存在することとなる。
このようにして、視野全体の平均値(すなわち、表面ピット密度)及びその95%信頼区間を求めることができる。
95%信頼区間=m±1.96×σ
但し、
mは、1視野当たりの表面ピット密度の平均値、
σは、1視野当たりの表面ピット密度の標準偏差。
結晶中のナノボイド密度と表面ピット密度との間には強い相関があり、両者はほぼ同等の値を示す。これは、結晶中のナノボイドが成長面の表面ピットから形成されることに起因すると考えられる。よって、AFMやSEMなどで表面ピット密度を算出することにより、結晶内のナノボイド密度を把握することができる。
Bは、GaNの半極性面を安定化させる作用がある。そのため、結晶中のナノボイド密度とB不純物濃度との間には強い相関がある。ナノボイド密度を1×105[cm-2]未満とするためには、結晶中のB不純物濃度は、3×1016[cm-3]以下にするのが好ましい。結晶中のB不純物濃度は、さらに好ましくは、1×1016[cm-2]以下である。また、B不純物の濃度を1×1014[cm-3]程度まで低減できれば、ナノボイドや表面ピットの存在しない結晶を作製できると考えられる。
結晶中のB不純物濃度(及び、後述するその他の不純物濃度)は、例えば、2次イオン質量分析法(D−SIMS)などによって測定できる。例えば、成長させた結晶のある点を深さ方向に対して、3μm厚さでSIMS分析を実施する。表面近傍の100nm程度は、表面汚染の影響があるため排除し、深さ100nmから3μmまでの不純物濃度の平均で算出する。
GaN結晶の製造方法によっては、B以外の不純物が結晶中に混入することがある。これらの内、ある種の不純物は、GaNの半極性面を安定化させる作用(すなわち、ナノボイド密度を増大させる作用)はないが、デバイス特性を低下させる作用を持つものがある。高性能なデバイスを得るためには、このような不純物は、少ない程良い。
また、可動イオンが含まれる結晶を取り扱う場合には、クロスコンタミネーション等の問題から、既存のSiプロセスライン等を使用することができず、専用のプロセスラインを構築する必要がある。そのため、作製コストが大幅に増大する。
同様に、NiやCrなどの重金属についても、Siデバイス等では深い準位を形成するため、リーク電流を増大させる懸念がある。そのため、重金属が含まれる結晶と含まれない結晶とを取り扱う場合には、同一のラインを使用することができない。
従って、可動イオン(Na不純物、K不純物)や重金属(Ni不純物、Cr不純物)は、それぞれ、検出限界以下である1×1014[cm-3]以下が好ましい。
本発明に係るGaN結晶は、例えば、ショットキーバリア(SB)ダイオード、PNダイオード、高電子移動度トランジスタ(HEMT)構造、金属−酸化物−半導体(MOS)構造、接合形電界効果トランジスタ(JFET)構造などの作製、及びこれらを用いたパワーデバイスの作製に用いることができる。本発明に係るGaN結晶はナノボイドや表面ピットが相対的に少ないため、これを用いると、耐圧が高く、かつオン抵抗の低いパワーデバイス、すなわち、理想的なGaN結晶の耐圧・オン抵抗のトレードオフ関係に近い特性を示すパワーデバイスを作製することができる。
さらに、後述する方法を用いると、高品質GaN結晶を容易に長尺成長させることができる。そのため、極性面であるc面成長のGaN基板だけでなく、m面({1−100}面)成長やa面({11−20}面)成長させたGaN基板、あるいは、長尺c面成長結晶から切り出したm面基板やa面基板を容易に作製できる。表面がm面やa面などの無極性面からなるGaNウェハを利用することで、高効率な光デバイス等を作製できる。
本発明に係る結晶成長装置は、
本発明に係る窒化ガリウム結晶を製造するための結晶成長装置であって、
結晶成長空間に曝される部材の内、温度が500℃以上となる部分に用いられる部材(高温用部材)として、少なくとも表層部分のB濃度が1ppm未満である部材を用いたことを特徴とする。
[2.1.1. 定義]
「高温用部材」とは、結晶成長空間に曝される部材の内、温度が500℃以上となる部分に用いられる部材をいう。
高温用部材であって、特にB不純物の混入源となりやすいものとしては、例えば、
(a)GaN結晶を成長させるための基板を保持するホルダー、
(b)Ga源(溶融Ga)を保持するためのルツボ、
(c)Ga源を所定の温度に加熱するためのヒーター、
(d)Ga源や基板を所定の温度に維持するための断熱材、
(e)キャリアガス、シースガス、反応ガスを装置内の適切な位置で混合させるためのガス穴付き容器などの装置部材、
(f)装置部材を固定する際に用いるネジ部材、
などがある。
上述したように、表面ピット及びその直下に形成されるナノボイドは、成長面上へのB不純物の偏析により発生する。この点は、本願発明者らによって初めて見出された知見であり、ナノボイドを低減するためにB不純物源となる高温用部材に着目した例は、従来にはない。
ナノボイドの発生を抑制するためには、高温用部材のB濃度は、少ないほど良い。ナノボイド密度が1×105[cm-2]未満であるGaN結晶を得るためには、高温用部材は、少なくとも表層部分のB濃度が1ppm未満であるものが好ましい。
ここで、「表層部分」とは、表面から深さ50μmまでの領域をいう。
(a)TaCコート黒鉛部材などのTaCコート部材、
(b)SiCコート黒鉛部材などのSiCコート部材、
(c)TaCからなるバルク部材、
(d)SiCからなるバルク部材、
などがある。
表層部分を構成するTaCやSiCは、通常、B濃度が1ppm未満であるため、B不純物の混入源となることはない。
これらの中でも、TaCコート部材は、高温還元雰囲気下における耐久性が高く、結晶へのB不純物の混入が少なく、しかも、任意の形状の部材を製造するのが容易であるので、高温用部材として特に好適である。
本発明に係る結晶成長装置において、GaN結晶を成長させるための手段は特に限定されない。成長手段としては、例えば、
(a)ハロゲンを用いない気相成長法(ハロゲンフリーVPE)法を用いた手段、
(b)有機金属化学気相成長(MOCVD)法を用いた手段、
(c)ハイドライド気相成長法(HVPE)法を用いた手段、
(d)分子線エピタキシー(MBE)法を用いた手段、
(e)液相成長法であるNaフラックス法を用いた手段、
(f)高圧法を用いた手段、
(g)アモノサーマル法を用いた手段
などがある。
「MOCVD法」とは、基板表面にトリメチルガリウムなどの有機金属化合物とNH3ガスとを供給してこれらを反応させ、基板表面にGaN結晶を成長させる方法をいう。
「HVPE法」とは、基板表面に塩化ガリウムとNH3ガスとを供給してこれらを反応させ、基板表面にGaN結晶を成長させる方法をいう。
「Naフラックス法」とは、800℃程度に加熱した金属Gaと金属Naの混合融液と数MPaに加圧された窒素とを接触させることで、混合融液に窒素を溶解させ、液相中でGaN結晶を成長させる方法をいう。
「高圧法」とは、数GPaで1500℃以上といった高温高圧の状態でGaに窒素を溶解させて、それを徐々に冷却してGaN結晶を成長させる方法をいうをいう。
「アモノサーマル法」とは、超臨界もしくは亜臨界(温度500℃程度、圧力0.1GPa程度)のNH3にGaN原料を溶解させて、再結晶化させることによりGaN結晶を成長させる方法をいう。
さらに、ハロゲンフリーVPE法を用いた手段は、他の方法を用いた手段に比べて高速成長や長時間成長が可能であり、かつ、可動イオンや重金属を実質的に含まない結晶を得ることができるため、成長手段として特に好適である。
図1に、本発明に係る結晶成長装置の断面模式図を示す。図1に示す結晶成長装置は、ハロゲンフリーVPE法を用いて窒化ガリウム結晶を成長させる成長手段を備えた装置(以下、「ハロゲンフリーVPE装置」という)である。
図1において、ハロゲンフリーVPE装置10は、結晶成長部20と、Ga蒸気発生部30と、反応ガス供給手段50とを備えている。
結晶成長部20は、第1反応管22と、基板24を保持するためのホルダー26とを備えている。基板24は、表面に窒化ガリウム結晶を成長させるための種結晶であり、基板24の裏面(成長面とは反対側の面)には、ホルダー26が接合されている。ホルダー26は、第1反応管22内のほぼ中央に設置されている。
第1反応管22の下部には、開口部が設けられており、Ga蒸気発生部30及び反応ガス供給手段50から供給される原料ガスを基板24の表面に供給できるようになっている。さらに、基板24は、加熱サセプタ台座(図示せず)上に固定されており、加熱サセプタにより所定の温度に加熱できるようになっている。
基板24には、通常、サファイア基板が用いられている。基板24は、結晶成長の前に、不純物等を取り除くために洗浄を行うのが好ましい。洗浄方法としては、例えば、キャロス洗浄、RCA洗浄、有機洗浄などがある。
ホルダー26は、B不純物の混入源となり得るので、ホルダー26には、TaCコート黒鉛部材が用いられている。
Ga蒸気発生部30は、基板24に向かって、Ga蒸気を供給するためのものであり、第2反応管32と、3重ルツボ34とを備えている。3重ルツボ34は、第2反応管32のほぼ中央に設置されている。3重ルツボ34は、第2反応管32の外側に配置されたヒータ(図示せず)により、所定の温度まで加熱できるようになっている。
第2反応管32の上部には、開口部が設けられており、3重ルツボ34から供給されるGa蒸気を第1反応管22に供給できるようになっている。
エバポレータ36は、ルツボ34a内にある溶融GaからのGa蒸気の発生を促進させるためのものである。エバポレータ36の一部を溶融Gaに接触させると、溶融Gaがエバポレータ36の表面を這い上がり、エバポレータ36の表面が溶融Gaで濡れる。エバポレータ36の表面が溶融Gaで濡れると、溶融Gaの見かけの表面積が増大する。その結果、エバポレータ36を用いない場合に比べて、Ga蒸気の供給速度が増大する。具体的には、エバポレータ36を用いることによって、Ga蒸気の蒸発量を1桁以上向上させることができる。
エバポレータ36には、その表面を溶融Gaが這い上がることが可能な材料を用いる。溶融Gaの這い上がり高さを高くするためには、エバポレータ36の材料は、相対密度が40%以上99%以下であり、平均細孔径が10nm以上200μm以下であり、かつ、溶融Gaの接触角が90°未満である材料が好ましい。このような条件を満たす材料としては、例えば、TaC、SiC、Al2O3などがある。特に、TaCは、他の材料に比べて溶融Gaの這い上がり高さが高いので、エバポレータ36の材料として好適である。
第2反応管32の外側には、反応ガスを流すための流路(図示せず)が形成されており、流路は、外部の反応ガス供給源(図示せず)に接続されている(反応ガス供給手段50)。反応ガス供給手段50は、基板24に向かって、Ga蒸気と反応させるための反応ガスを供給するためのものである。反応ガスは、第2反応管32の外側を通って、第1反応管22の下部に設けられた開口部に供給されるようになっている。反応ガスは、特に限定されないが、通常、N2ガスで希釈されたNH3ガスが用いられる。
本発明に係る窒化ガリウム結晶の製造方法は、本発明に係る結晶成長装置を用いて、窒化ガリウム結晶を製造することを特徴とする。以下に、ハロゲンフリーVPE装置10を用いた窒化ガリウム結晶の製造方法について説明する。
次に、エバポレータ36が設置されたルツボ34a内に、所定量の金属Gaを入れ、金属Gaを溶融させる。次いで、キャリアガス供給手段38を用いてルツボ34a内にキャリアガスを流し、かつ、シースガス供給手段40を用いてルツボ34aの開口部近傍にシースガスを流す。さらに、これと同時に、反応ガス供給手段50を用いて、結晶成長部20に反応ガスを供給する。これにより、ルツボ34aへの反応ガスの混入をシースガスで防ぎながら、Ga蒸気を含むキャリアガスと反応ガスとを結晶成長部20に供給することができる。
結晶成長部20にGa蒸気と反応ガスが供給されると、基板24の表面近傍においてこれらが反応し、基板24の表面にGaNが析出する。
これに対し、図1に示すハロゲンフリーVPE装置10は、シースガスを流すことが可能な3重ルツボ34を用いているので、ルツボ34a内への反応ガスの混入を防ぐことができる。そのため、ルツボ34a内でGaNを生成させることなく、Ga蒸気を安定して発生させることができる。
また、ハロゲンフリーVPE装置10を用いることで、HClガスを用いずにGaの供給量を増大させることができる。そのため、従来からHVPE法で問題となっているNH4Clによる配管の詰まりの問題は発生しない(参考文献2、3)。さらに、塩素系ガスによる部材の腐食等も抑えられるため、低コストで大口径の結晶成長を長時間行うことができる。
[参考文献1]D. Gogova et al., Phys. Status Solidi C8, 2120(2011)
[参考文献2]K. Fujito et al., J. Crist. Growth 311, 3011(2009)
[参考文献3]B. Schineller et al., CS MANTEC Conference (2007)
従来、GaN結晶内には、ナノボイドが存在することが知られていたが、その形成メカニズムについては完全に解明されていなかった。特に、B不純物とGaN結晶の欠陥との関連に関する知見がなかったため、結晶成長用の部材からB不純物が成長結晶中に混入していた。その結果、成長結晶中における一定密度のナノボイドや表面ピットの生成、あるいは、成長面における新たな核形成の促進などが起こり、結晶の高品質化の妨げとなっていた。
これらの要因となるB不純物は、pBNコート黒鉛からなる部材やヒータ、あるいは、黒鉛断熱材などから放出される。しかし、B不純物が結晶品質へ与える影響が不明確であったため、これまでB不純物が着目されることはなく、対策も取られていなかった。
また、例えば、新規の核が多数形成されると、新たな結晶核の僅かな方位ズレや核融合時に転位が発生するため、成長結晶の結晶性は低下する。結晶成長中に多数の核形成が発生すると、高品質な結晶成長が困難となるため、これらを防ぐ必要がある。
さらに、結晶中のナノボイドは、点欠陥や線欠陥と比較してもスケールの大きな結晶欠陥であり、結晶の光学特性の悪化やデバイス作製時の耐圧低下を引き起こす。そのため、ナノボイド密度は、できる限りゼロに近づける必要がある。
(a)B不純物が結晶表面の表面エネルギーを変化させること、及び、
(b)これが特定の結晶面(c面等)の不安定化、新規核形成の促進、成長結晶中のナノボイドの形成促進、成長結晶表面のピットの形成促進などに影響を与えること、
が明らかとなった。
そのため、B不純物を低減した環境、又は、B不純物の存在しない環境でGaN結晶の成長を行うことにより、上記のような現象の発生を抑制することが可能となり、高品質なGaN結晶を簡易に成長させることができる。
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1]
図1に示すハロゲンフリーVPE装置10を用いて、厚さ50μmのGaN結晶を成長させた。基板24には、サファイア基板を用いた。サファイア基板は、表面の不純物等を取り除くため、予めキャロス洗浄を行った。また、ルツボ34aに金属Ga及びTaC製エバポレータ36を配置した。
さらに、ホルダー26には、TaCコート黒鉛部材を用いた。3重ルツボ34の内、溶融Gaを保持するルツボ34aには高純度処理された黒鉛を用い、それ以外の部分には、TaCコート黒鉛を用いた。さらに、断熱材には、高純度処理によってB不純物濃度を低減させた黒鉛断熱材を用いた。
ルツボ34aとして、pBNコート黒鉛ルツボを用いた以外は、実施例1と同様にして、厚さ50μmのGaN結晶を成長させた。
[2.1. 成長速度]
ルツボ温度:1250℃、サセプタ温度:1100℃、反応管内の圧力:4kPa、NH3流量:3slm、NH3希釈用N2流量:2slm、キャリアガス流量:2slm、シースガス流量:5slmである場合、成長速度は約300μm/hであった。
ルツボ34aの材料が異なる以外は同じ条件であるにもかかわらず、ルツボ34aの材料の変更により結晶のモルフォロジ等が大きく異なっていた。pBNコート黒鉛ルツボを用いた結晶では、表面に多量の六角形のヒロックが形成されていた。これは、高指数面の安定化により、c面以外の面で結晶表面が形成されていること、及び、新規核形成が頻繁に起きていること、が要因と考えられる。
一方、高純度処理された黒鉛ルツボを用いた結晶では、c面成長が支配的であり、新たな核形成部は確認できなかった。このようにB不純物を含まないTaCコート黒鉛ルツボを用いることで、安定的に長時間、c面成長が実施できることが明らかとなった。
図2に、成長結晶内の表面ピット密度とナノボイド密度との関係を示す。図2より明らかなように、ナノボイド密度と表面ピット密度には相関があり、ほぼ同等の値を示した。これは、結晶中のナノボイドが成長表面のピットから形成されていることに起因すると考えられる。よって、AFMやSEMなどで表面ピット密度を測定すれば、結晶内のナノボイド密度を把握することができる。
例えば、2.9×104[cm-2]の表面ピット密度は、5×7μm角の99画像中に1個の表面ピットが確認されることに相当する。特に、デバイス応用において表面ピットが存在すると、電界集中が起きて逆方向リーク電流に大きく影響を与えることが分かっている。
図3に、成長結晶内のB不純物濃度とナノボイド密度との関係を示す。図3より、結晶中のナノボイド密度がB不純物濃度に依存していることが分かる。ナノボイド密度は低いほど良いが、好ましくは、1×105[cm-2]未満である。そのためには、B不純物濃度を、3×1016[cm-3]以下、好ましくは1×1016[cm-3]以下にすれば良いことがわかる。さらに、B不純物濃度を1×1014[cm-3]程度まで低減できれば、ナノボイドや表面ピットの存在しない結晶を作製できると考えられる。
図4に、ショットキーバリアダイオードを仮定して、1200Vの逆方向電圧(VR)をかけた際のリーク電流値(IR)が表面ピット密度によってどのように変化するかを示した。ここで、仕事関数差φB=1.2eV、表面ピット深さは断面TEM観察で観察されたピット深さである15nmとし、ピット角度は84°とした。通常使用できるデバイスの逆方向リーク電流の許容レベルは、Siデバイスを基準とすると、1×10-5[A/cm-2]である。図4より、許容できる表面ピット密度は、1×105[cm-2]未満であることが分かる。
Claims (11)
- 結晶中のナノボイド密度が1×105[cm-2]未満である窒化ガリウム結晶。
- 前記ナノボイド密度が1×104[cm-2]未満である請求項1に記載の窒化ガリウム結晶。
- 結晶中のB不純物の濃度が3×1016[cm-3]以下である請求項1又は2に記載の窒化ガリウム結晶。
- 結晶中のB不純物の濃度が1×1016[cm-3]以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載の窒化ガリウム結晶。
- 結晶中のNa不純物、K不純物、Ni不純物、及びCr不純物の濃度が、それぞれ、1×1014[cm-3]以下である請求項1から4までのいずれか1項に記載の窒化ガリウム結晶。
- 請求項1から5までのいずれか1項に記載の窒化ガリウム結晶を製造するための結晶成長装置であって、
結晶成長空間に曝される部材の内、温度が500℃以上となる部分に用いられる部材(高温用部材)として、少なくとも表層部分のB濃度が1ppm未満である部材を用いた結晶成長装置。 - 前記高温用部材として、pBNコート部材を用いない請求項6に記載の結晶成長装置。
- 前記高温用部材は、TaCコート部材、TaCバルク部材、SiCコート部材、SiCバルク部材、又は、コート無しの黒鉛部材である請求項6又は7に記載の結晶成長装置。
- ハロゲンを用いない気相成長法(ハロゲンフリーVPE)法、有機金属化学気相成長(MOCVD)法、又は、ハイドライド気相成長法(HVPE)法を用いて、前記窒化ガリウム結晶を成長させる成長手段を備えた請求項6から8までのいずれか1項に記載の結晶成長装置。
- 以下の構成をさらに備えた請求項9に記載の結晶成長装置。
(1)前記成長手段は、前記ハロゲンフリーVPE法を用いて前記窒化ガリウム結晶を成長させる手段である。
(2)前記成長手段は、
表面に前記窒化ガリウム結晶を成長させるための基板を保持するホルダーを備えた結晶成長部と、
前記基板に向かって、Ga蒸気を供給するGa蒸気発生部と、
前記基板に向かって、前記Ga蒸気と反応させるための反応ガスを供給する反応ガス供給手段と
を備えている。
(3)前記Ga蒸気発生部は、
溶融Gaを保持するためのルツボと、
前記ルツボ内にある前記溶融GaからのGa蒸気の発生を促進させるためのエバポレーターと、
前記ルツボにキャリアガスを流し、前記ルツボから前記基板に向かって前記Ga蒸気を供給するキャリアガス供給手段と、
前記基板に向かって供給される前記キャリアガスと前記反応ガスとの間にシースガスを流し、前記ルツボ内への前記反応ガスの混入を抑制するシースガス供給手段と
を備えている。 - 請求項6から10までのいずれか1項に記載の結晶成長装置を用いて、前記窒化ガリウム結晶を製造する窒化ガリウム結晶の製造方法。
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