次に、本発明の実施の形態の一例であるセンサ素子101を備えたガスセンサ100の概略構成について説明する。図1は、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した斜視図である。図2は、図1のA−A断面図である。なお、ガスセンサ100は、例えば自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの所定のガスの濃度を、センサ素子101により検出するものである。また、センサ素子101は長尺な直方体形状をしており、このセンサ素子101の長手方向(図1の左右方向)を前後方向とし、センサ素子101の厚み方向(図1の上下方向)を上下方向とする。また、センサ素子101の幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向とする。なお、図1は、センサ素子101を右上前方からみた様子を示している。また、図2は、センサ素子101の左右方向の中心に沿った断面図である。
図2に示すように、センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性を有するジルコニア(ZrO2)を主成分とする固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
センサ素子101の一先端部(前方向の端部)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位をガス流通部とも称する。
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
大気導入層48は、多孔質セラミックスからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるように可変電源25のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定用ポンプセル41の動作によりNOx濃度が測定される。
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
測定用ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
第4拡散律速部45は、セラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護膜としても機能する。測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された制御電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75と、を備えている。
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
また、センサ素子101は、図1,2に示すように、一部が多孔質保護層91により被覆されている。多孔質保護層91は、センサ素子101の6個の表面のうち5面にそれぞれ形成された多孔質保護層91a〜91eを備えている。多孔質保護層91aは、センサ素子101の上面の一部を被覆している。多孔質保護層91bは、センサ素子101の下面の一部を被覆している。多孔質保護層91cは、センサ素子101の左面の一部を被覆している。多孔質保護層91dは、センサ素子101の右面の一部を被覆している。多孔質保護層91eは、センサ素子101の前端面の全面を被覆している。なお、多孔質保護層91a〜91dの各々は、自身が形成されているセンサ素子101の表面のうち、センサ素子101の前端面から後方に向かって距離L(図2参照)までの領域を全て覆っている。また、多孔質保護層91aは、外側ポンプ電極23が形成された部分も被覆している。多孔質保護層91eは、ガス導入口10も覆っているが、多孔質保護層91eが多孔質体であるため、被測定ガスは多孔質保護層91eの内部を流通してガス導入口に到達可能である。多孔質保護層91は、センサ素子101の一部(センサ素子101の前端面から距離Lまでの部分)を被覆して、その部分を保護するものである。多孔質保護層91は、例えば被測定ガス中の水分等が付着することによる熱衝撃でセンサ素子101にクラックが生じるのを抑制する役割を果たす。また、多孔質保護層91aは、被測定ガスに含まれるオイル成分等が外側ポンプ電極23に付着するのを抑制して、外側ポンプ電極23の劣化を抑制する役割を果たす。なお、距離Lは、ガスセンサ100においてセンサ素子101が被測定ガスに晒される範囲や、外側ポンプ電極23の位置などに基づいて、(0<距離L<センサ素子の長手方向の長さ)の範囲で定められている。
なお、本実施形態では、図1に示すように、センサ素子101は前後方向の長さと、左右方向の幅と、上下方向の厚さとがそれぞれ異なっており、長さ>幅>厚さとなっている。また、距離Lはセンサ素子101の幅及び厚さよりも大きい値であるものとした。そのため、多孔質保護層91a〜91eのうち、多孔質保護層91a,91bの形成面積(=距離L×センサ素子101の幅)が最も広く、次に多孔質保護層91c,91dの形成面積(=距離L×センサ素子101の厚さ)が広く、多孔質保護層91eの形成面積(=センサ素子101の幅×厚さ)が最も狭い。
多孔質保護層91は、アルミナを主成分とする多孔質焼結体からなるものである。また、多孔質保護層91には、ジルコニア成分も含まれている。特に限定するものではないが、多孔質保護層91の気孔率は例えば10%〜60%である。また、多孔質保護層91の膜厚t(図2参照)は例えば300μm〜700μmとすることが好ましい。なお、多孔質保護層91a〜91eの膜厚tはそれぞれ異なっていてもよいが、いずれの膜厚tも300μm〜700μmの範囲内にあることが好ましい。
次に、こうしたガスセンサ100の製造方法について説明する。ガスセンサ100の製造方法は、(a)センサ素子101を用意する工程と、(b)アルミナとジルコニアとを含み且つアルミナとジルコニアとの合計体積に占めるジルコニアの体積比率Rが3%〜27%であるスラリー190を用いて、センサ素子101の固体電解質層(層1〜6)の表面の少なくとも一部を被覆する工程と、(c)スラリー190(被膜191)を焼成して多孔質保護層91を形成する工程と、を含む。図3は、ガスセンサ100を製造する様子を示す説明図である。図4は、工程(b)においてスラリー190を用いてセンサ素子101を被膜191で被覆する様子を示す説明図である。
最初に、工程(a)について説明する。工程(a)では、多孔質保護層91を形成する前のセンサ素子101を製造することで、焼成前又は焼成後のセンサ素子101を用意する(図3(a))。まず、6枚の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。セラミックスグリーンシートは、ジルコニアを含むセラミックス粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合し、テープ成形により成形することができる。セラミックス粒子としては、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子(安定化ジルコニア粒子とも称する)を用いることができる。そして、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6のそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに電極や絶縁層、抵抗発熱体等のパターンを印刷する。各種のパターンを形成したあと、各グリーンシートを乾燥する。その後、それらを積層して積層体とする。こうして得られた積層体は、複数個のセンサ素子101を包含したものである。その積層体を切断してセンサ素子101の大きさに切り分け、所定の焼成温度で焼成して、センサ素子101を得る。なお、複数のグリーンシートを積層してセンサ素子101を製造する方法は公知であり、例えば特開2009−175099号公報,特開2012−201776号公報などに記載されている。なお、工程(a)では、センサ素子101を製造する代わりに、製造済みのセンサ素子101を用意してもよい。また、工程(a)では、焼成後のセンサ素子101のうち層1〜6の表面をサンドブラストなどで荒らすことで、センサ素子101の表面の算術平均粗さRaを2.0μm〜5.0μmとしてもよい。センサ素子101の表面のうち少なくとも工程(c)で多孔質保護層91を形成する領域の算術平均粗さRaを2.0〜5.0μmとしておくことで、多孔質保護層91とセンサ素子101の表面とが密着しやすくなる。
工程(b)では、まず、焼成後に多孔質保護層91となるスラリー190(図4参照)を用意する。スラリー190は、多孔質保護層91の原料粉末であるアルミナとジルコニアとを溶媒に分散させたものである。なお、原料粉末中のアルミナ及びジルコニアの合計体積に占めるジルコニアの体積比率Rは3%〜27%である。体積比率Rは5%以上とすることが好ましい。体積比率Rは25%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましい。なお、体積比率Rは20%未満としてもよい。また、スラリー190には、焼結助剤(バインダー)と造孔材との少なくとも一方を添加することが好ましい。焼結助剤としては、例えば二酸化珪素,炭酸カルシウムなどが挙げられる。造孔材としては、焼結時に消失する材料を用いることができ、例えばテオブロミン,アクリル樹脂などが挙げられる。造孔材の粒径や添加量は、例えば多孔質保護層91の気孔率に応じて適宜調整する。また、工程(c)で形成される多孔質保護層91の膜厚tに応じて、スラリー190の粘度を適宜調整する。なお、膜厚tを300μm〜700μmにするためには、例えばスラリー190の粘度を1〜200[Pa・s]に調整する。なお、工程(b)のディッピング(ディッピング及びその後の乾燥)の回数を増やすことで膜厚tを調整してもよい。スラリー190に用いる溶媒は、有機溶媒(例えばアセトンなど)としてもよいし、無機溶媒(例えば水など)としてもよい。
続いて、スラリー190を用いて、センサ素子101の固体電解質層(層1〜6)の表面の少なくとも一部を被覆する被膜191をディッピングにより形成する(図3(b))。本実施形態では、図4に示すようにディッピングを行うものとした。まず、センサ素子101を前方(図4の下方向)に動かして(図4(a))、スラリー190の表面に対して垂直にセンサ素子101をスラリー190内に浸漬する(図4(b))。このとき、センサ素子101の前端から距離Lまでの領域をスラリー190に浸漬する。そして、センサ素子101を後方(図4の上方向)に動かしてスラリー190からゆっくりと引き上げる(図4(c))。これにより、センサ素子101の前端から後方に距離Lまでの領域が、スラリー190からなる被膜191で被覆される。なお、ディッピング前に、センサ素子101のうち被膜191で被覆しない領域をテーピング等で覆っておき、スラリー190の付着を防いでもよい。また、ディッピングの方法(センサ素子101を動かす向きなど)はこれに限らず、例えば上述した特許文献1などに記載された公知の方法を用いることができる。例えばセンサ素子101の前端がセンサ素子101の後端を中心として円弧を描くように動かして、センサ素子101をスラリー190に浸漬してもよい。なお、工程(b)では、工程(c)の焼成前に被膜191を予め乾燥させることが好ましい。また、乾燥中はセンサ素子101の上面又は下面(センサ素子101の表面のうち、被膜191の被覆面積が最も大きい面)を鉛直下方向に向けておくことが好ましい。
以上のように工程(b)を行うと、次に、工程(c)で被膜191を所定の焼成温度で焼成する。これにより、被膜191が焼結して多孔質保護層91a〜91eを備えた多孔質保護層91となり、ガスセンサ100を得る(図3(c))。
なお、工程(c)の焼成前後で、被膜191(多孔質保護層91)の体積比率Rは変化しない。また、焼成後の体積比率Rは、例えばXPS(X線光電子分光)分析により測定することができる。
以上詳述した本実施形態のガスセンサ100の製造方法では、焼成後に多孔質保護層91となるスラリー190として、体積比率Rが3%〜27%であるスラリー190を用いる。このようなスラリー190でセンサ素子101の固体電解質層(層1〜6)の表面の少なくとも一部を被覆してスラリー190(被膜191)を焼成することで、形成された多孔質保護層91の剥離をより抑制することができる。より具体的には、体積比率Rが3%以上であることで、多孔質保護層91の剥離をより抑制する効果が得られる。また、体積比率Rが27%以下であることで、多孔質保護層91がセンサ素子101のクラックをより抑制できる。これらの理由は以下のように考えられる。まず、体積比率Rが3%以上であることで、層1〜6の主成分と同じジルコニア成分が被膜191中に存在することにより、被膜191と層1〜6とが焼成時に密着しやすくなっていると考えられる。また、層1〜6の主成分と同じジルコニア成分が被膜191中に存在することにより、焼成時の被膜191と層1〜6との熱膨張係数とが近くなり、焼成後(特に焼成後に温度が低下する時)の多孔質保護層91に生じる熱応力が小さくなっていると考えられる。これらにより、焼成後の多孔質保護層91の剥離がより抑制されていると考えられる。なお、体積比率Rが大きいほど剥離を抑制する効果は高まる傾向にある。一方、ジルコニアはアルミナよりも熱伝導率が低いため、体積比率Rが高い(アルミナの割合が少ない)ほど、多孔質保護層91の熱伝導率は低くなる。ここで、水の付着などにより多孔質保護層91の温度が部分的に低下した場合、多孔質保護層91の熱伝導率が高いほど多孔質保護層91内の温度分布が均一化しやすいため、センサ素子101自体の温度の低下(熱衝撃)はより抑制される傾向にある。そのため、体積比率Rが27%以下であることで、多孔質保護層91の熱伝導率が十分高くなり、センサ素子101のクラックをより抑制できると考えられる。なお、体積比率Rが小さいほどクラックを抑制する効果は高まる傾向にある。
また、多孔質保護層91の膜厚tが300μm以上であることで、センサ素子101への熱衝撃をより緩和して、クラックの発生をより抑制することができる。また、膜厚tが700μm以下であることで、センサ素子101の検出感度の低下をより抑制することができる。さらに、体積比率Rを20%以下とすることで、センサ素子101のクラックをより抑制できる。さらにまた、焼結助剤を含むスラリー190を用いることで、例えば焼成時の被膜191の焼結の促進や安定化を図ることができる。また、造孔材を含むスラリー190を用いることで、焼成後の被膜191に気孔が形成されやすくなり、より確実に多孔質保護層91を形成できる。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
上述した実施形態では、距離Lはセンサ素子101の幅及び厚さよりも大きい値であるものとしたが、これに限られない。例えば距離Lがセンサ素子101の幅と厚さとの少なくとも一方より小さくてもよい。
上述した実施形態では、焼成後の多孔質保護層91の膜厚tが300μm〜700μmとなるようにスラリー190の粘度を調整するものとしたが、これに限られない。例えば、工程(c)で被膜191を焼成したあとに、焼成後の被膜191の表面を加工(研磨など)することにより、多孔質保護層91の膜厚tを300μm〜700μmとしてもよい。
上述した実施形態では、工程(b)においてディッピングによりセンサ素子101を被膜191で被覆するものとしたが、これに限られない。スラリー190を用いてセンサ素子101を被覆し、その後に焼成することで多孔質保護層91を形成するものであればよい。例えば、スクリーン印刷によりセンサ素子101の表面をスラリー190(被膜191)で被覆してもよい。この場合、センサ素子101の前端から後方に距離Lまでの領域を被覆する場合に限らず、センサ素子101の表面のうち少なくともいずれかの面を被覆すればよい。例えばセンサ素子101の上面のみを被覆してもよい。また、工程(b)では、公知のゲルキャスト法によりセンサ素子101を被覆してもよい。なお、ゲルキャスト法は、スラリーを、スラリー自身の化学反応により固化して成形体とする方法である。例えば、工程(b)において、成形型の内部に形成される空間にセンサ素子101の一部(被覆したい部分)を露出させ、成形型とセンサ素子101との隙間にスラリーを流し込み、固化させる。これにより、上述した実施形態と同様に、スラリー190(被膜191)でセンサ素子101を被覆することができる。なお、ゲルキャスト法を用いる場合、スラリーには、上述した材料に加えてさらに分散媒及びゲル化剤を添加することが好ましい。ゲル化剤及び分散媒は、互いに化学反応することで固化反応を引き起こすものであり、これによりスラリーが固化する。分散媒としては、例えばエーテル,トルエンが挙げられる。ゲル化剤としては、例えばポリビニルアルコール,フェノールが挙げられる。
工程(b)でスラリーを用いてゲルキャスト法によりセンサ素子101を被覆する場合の一例について詳細に説明する。図5は、工程(b)でゲルキャスト法を用いる場合のガスセンサ100の製造工程図である。この場合の工程(b)は、(b1)成形型210の内部にゲルキャスト法で用いられるゲル化剤を含むスラリーSが入れられ、かつ、成形型210の内部の所定位置に焼成前又は焼成後のセンサ素子101が配置された状態とする工程と、(b2)ゲル化剤の重合反応によってスラリーSを成形・固化することにより、焼成前又は焼成後のセンサ素子101の固体電解質層(層1〜6)の表面の少なくとも一部を未焼成膜291(固化したスラリーS)で被覆する工程と、を含む。
工程(b1)では、まず、所定の成形型210の矩形凹部212の予め定められた位置にセンサ素子101の先端部位を位置決めする(図5(a),(b)参照)。成形型210は、コップ状の型であり、成形型210を縦割りした形状の2つの半割体210a,210bを隙間なく密着させたものである。この成形型210の矩形凹部212に工程(a)で用意したセンサ素子101の先端部位を配置する。先端部位とは、センサ素子101のうち図2で多孔質保護層91に被覆される部位である。センサ素子101の固定は、センサ素子101を図示しないクランプで挟んだり、吸引したり、図示しない粘着性のテープで貼り付けることにより行う。クランプは、金属製や樹脂製でもよいが、弾性素材(例えばシリコーンゴムなど)で行うのが好ましい。また、ゲルキャストに用いるスラリーSを用意し、このスラリーSをセンサ素子101が位置決めされた矩形凹部212へ投入する(図5(c)参照)。スラリーSの成分については後述するが、ゲル化剤を含むものである。
工程(b2)では、矩形凹部212内でスラリーSをゲル化剤の重合反応によってゲル化させてセンサ素子101の先端部位に未焼成膜(被膜)291を形成する。そして、成形型210を2つに割ることで未焼成膜291が形成されたセンサ素子101を離型して乾燥する(図5(d)参照)。通常、この工程(b2)は大気圧、常温下で行う。成形型210の材質は、金属(例えばアルミニウム、SUS等)や樹脂(例えばPP、POM等)、ガラスなどが使用可能である。離型のタイミングは、特に限定されず、ゲル化反応が十分に進行し、離型作業のハンドリングが可能な程度となっていればよい。離型後の乾燥方法は、特に限定されるものではなく、例えば加熱乾燥、送風乾燥などが使用可能である。なお、離型後に乾燥してもよいし、乾燥後に離型してもよいし、乾燥しながら離型を行ってもよい。また、離型性の向上を考慮して、矩形凹部212の内面に潤滑剤(例えばフッ素系離型剤など)を塗布してもよい。
工程(b2)の後、工程(c)では、未焼成膜291を所定の焼成温度で焼成することにより、未焼成膜291を多孔質保護層91にして、ガスセンサ100を得る(図5(e)参照)。
なお、工程(b)でスラリーを用いてゲルキャスト法によりセンサ素子101を被覆する場合、図5を用いて説明した工程とは異なる工程で行ってもよい。図6は、工程(b)でゲルキャスト法を用いる場合の変形例のガスセンサ100の製造工程図である。この場合の工程(b)は、(b3)成形型210の内部にゲルキャスト法で用いられるゲル化剤を含むスラリーSを入れ、前記ゲル化剤の重合反応によって前記スラリーSを成形・固化することにより、凹み部又は貫通孔を有する未焼成体391(固化したスラリーS)を作製する工程と、(b4)前記未焼成体391の凹み部又は貫通孔に焼成前又は焼成後のセンサ素子101を挿入して、焼成前又は焼成後のセンサ素子101の固体電解質層(層1〜6)の表面の少なくとも一部を未焼成体391で被覆する工程と、を含む。
この工程(b3)では、まず、所定の成形型210の矩形凹部212の予め定められた位置にセンサ素子101を模した中子201の先端部位を位置決めする(図6(a)参照)。なお、矩形凹部212内の中子201の位置決めは、図5を用いて説明した矩形凹部212内のセンサ素子101の位置決めと同様にして行うことができる。また、ゲルキャストに用いるスラリーSを用意し、このスラリーSを中子201が位置決めされた矩形凹部212へ投入し、矩形凹部212内でスラリーSをゲル化させて中子201の先端部位にキャップ状の未焼成体391を形成する(図6(b)参照)。その後、未焼成体391が形成された中子201を成形型210から離型し、未焼成体391から中子201を抜き去る(図6(c)参照)。なお、離型前後や離型中に未焼成体391の乾燥を行ってもよい。また、離型性や成形治具(成形型210,中子201)の洗浄性の向上を考慮して、スラリーSが接触する部分(例えば矩形凹部212の内面や中子201の外面、成形型210など)に潤滑剤(例えばフッ素系離型剤など)を塗布してもよい。
工程(b4)では、未焼成体391の凹み部391aに工程(a)で用意したセンサ素子101の先端部位を挿入し(図6(d)参照)、そのあと乾燥することにより構造体102を得る(図6(e)参照)。乾燥条件は、特に限定するものではないが、例えば温度60〜200℃、時間0.5〜24時間で行えばよい。これにより、未焼成体391は乾燥収縮してセンサ素子101に固定される。こうして得られた構造体102では、センサ素子101の表面の少なくとも一部が未焼成体391で被覆された状態になっている。なお、未焼成体391とセンサ素子101とのクリアランス量及びスラリーSにおける分散媒(有機溶媒)の体積割合を予め調整しておけば、乾燥収縮量を適正な量に調整することができる。
工程(b4)の後、工程(c)では、未焼成体391を所定の焼成温度で焼成することにより、未焼成体391を多孔質保護層91にして、ガスセンサ100を得る(図6(f)参照)。
なお、工程(b3)では未焼成体391は凹み部391aを有するものとしたが、凹み部391aの代わりに、凹み部391aの底面を貫通させた貫通孔を有するものとしてもよい。この場合、貫通孔にセンサ素子101が差し込まれることになる。図5の工程(b1),工程(b2)においても同様に、センサ素子101が未焼成膜291を貫通するようにしてもよい。
ここで、スラリーSについて詳説する。ゲルキャスト法に用いるスラリーSは、上述した実施形態のスラリーの材料(原料粉末,焼結助剤)に加えて有機溶媒、分散剤及びゲル化剤を含むものである。有機溶媒としては、分散剤及びゲル化剤を溶解するものであれば特に限定されないが、例えばエステル系溶媒(酢酸ブチル、グルタル酸ジメチル、トリアセチン等)が挙げられる。特に、多塩基酸エステル(グルタル酸ジメチル等)や多価アルコールの酸エステル(トリアセチン等)等の2以上のエステル結合を有する溶媒を使用することが好ましい。分散剤としては、原料粉末を有機溶媒中に均一に分散するものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩等を使用することが好ましい。
ゲル化剤としては、重合可能な少なくとも2種類の有機化合物を含むものであれば、特に限定されないが、例えば、ウレタン反応が可能な2種類の有機化合物を含むものなどが挙げられる。このような2種類の有機化合物としては、イソシアネート類とポリオール類が挙げられる。イソシアネート類としては、イソシアネート基を官能基として有する物質であれば特に限定されないが、例えばトリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)又はこれらの変性体などが挙げられる。なお、分子内にイソシアネート基以外の反応性官能基を有していてもよく、更には、ポリイソシアネートのようにイソシアネート基を複数有していてもよい。ポリオール類としては、イソシアネート基と反応し得る水酸基を2以上有する物質であれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール(EG)、ポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール(PG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリヘキサメチレングリコール(PHMG)、ポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられる。ゲル化剤は、重合を促進する触媒を含んでいてもよい。例えば、イソシアネート類とポリオール類とのウレタン反応を促進させる触媒としては、トリエチレンジアミン、ヘキサンジアミン、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノール等が挙げられる。
スラリーSを調製するに当たっては、まず、原料粉末、焼結助剤、有機溶媒及び分散剤を所定の割合で添加して所定時間に亘ってこれらを混合することによりスラリー前駆体を調製する。そして、スラリーを使用する直前に、そのスラリー前駆体にゲル化剤を添加して混合することによりスラリーとする。なお、スラリー前駆体に、ゲル化剤を構成するイソシアネート類、ポリオール類及び触媒のいずれか1つか2つを添加しておき、その後、スラリーを調製する際に、残りの成分を添加してもよい。スラリー前駆体にゲル化剤を添加したあとのスラリーは、時間経過に伴いゲル化剤の化学反応(ウレタン反応)が進行し始めるため、速やかに成形型210内に流し込むことが好ましい。
上述した本実施形態では、工程(a)で焼成後のセンサ素子101を用意するものとし、工程(c)でセンサ素子101がさらに焼成温度で加熱されるものとした。これに限らず、工程(a)で焼成前のセンサ素子101(本実施形態の工程(a)で積層体から切り出された後且つ焼成前の状態のセンサ素子101)を用意してもよい。この場合、工程(c)でセンサ素子101と被膜191とをまとめて焼結すればよい。工程(b)でゲルキャスト法により未焼成膜291又は未焼成体391でセンサ素子101を被覆する場合も、同様に工程(a)で焼成前のセンサ素子101を用意してもよい。
上述した実施形態では、工程(b)で用いるスラリーの体積比率Rは3%〜27%としたが、これに限られない。体積比率Rが3%以上であれば、多孔質保護層91の剥離をより抑制する効果が得られる。そのため、体積比率Rは27%以下に限られない。例えば、体積比率を77%以下としてもよい。また、工程(b)でゲルキャスト法を用いる場合、体積比率Rが77%以下であればセンサ素子101のクラックをより抑制できる効果が十分得られる。工程(b)でゲルキャスト法を用いる場合、多孔質保護層91の剥離を抑制する効果が高まるため、体積比率Rは5%以上とすることが好ましく、7%以上,10%以上とすることがより好ましい。
以下には、ガスセンサを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例2〜7,9〜20,24〜29が本発明の実施例に相当し、実験例1,8,21,22,23が比較例に相当する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
[実験例1]
実験例1として、上述した実施形態のガスセンサ100の製造方法により、ガスセンサを作製した。まず、工程(a)として、前後方向の長さが67.5mm、左右方向の幅が4.25mm、上下方向の厚さが1.45mmのセンサ素子101を作製した。なお、センサ素子101を作製するにあたり、セラミックスグリーンシートは、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合し、テープ成形により成形した。
工程(b)として、最初に、焼成後に多孔質保護層となるスラリーを作成した。まず、原料粉末としてアルミナ粉末を用意した。アルミナ粉末の平均粒径は1.0μmであった。アルミナ粉末の体積は10cm3とした。この原料粉末を100℃,2時間乾燥した。また、焼結助剤である二酸化珪素0.5gと、造孔材であるテオブロミン5g(粒径5μm)と、を溶媒であるアセトン,酢酸n−ブチル60gに溶解してバインダー液とした。このバインダー液に、乾燥後の原料粉末をポットミル混合機で回転数200rpm〜250rpmで混合することで、スラリーを作成した。なお、スラリーの粘度は10〜15[Pa・s]であった。このように、実験例1では、ジルコニアを含まないスラリーを作成した(体積比率R=0%)。
次に、上述した実施形態と同様に、スラリーを用いたディッピングによりセンサ素子101の表面に被膜を形成した。なお、距離Lは10mmとした。また、センサ素子101をスラリーから引き抜くときの引き上げ速度は5mm/sとした。そして、連続乾燥炉を用いて80℃〜90℃で15分×2回の乾燥を行い、センサ素子101の被膜を乾燥させた。なお、乾燥時には、図3におけるセンサ素子101の下面を鉛直下向きにしておいた。
工程(c)では、被膜を焼成した。具体的には、100℃/hの昇温速度で1100℃まで昇温し、1100℃で3時間経過した後、常温まで自然冷却した。冷却速度は、1100℃〜1000℃までが131.4℃/hであり、1000℃〜常温までが250℃/hであった。これにより、被膜が焼結して多孔質保護層が形成され、実験例1のガスセンサを得た。形成された多孔質保護層の膜厚tは約450μmであった。実験例1のガスセンサを20本作製したところ、20本全てで多孔質保護層の剥離が生じていた。
[実験例2]
工程(b)におけるスラリーの原料粉末としてアルミナ粉末だけでなく平均粒径1.0μmのジルコニア粉末も用いることで体積比率Rを5%とした点以外は、実験例1と同様にして実験例2のガスセンサを得た。なお、スラリーの原料粉末におけるジルコニア粉末とアルミナ粉末との合計体積は実験例1のアルミナ粉末の体積と同じ10cm3とした。また、実験例2におけるスラリーの粘度は10.4[Pa・s]であった。また、形成された多孔質保護層の膜厚tは約450μmであった。実験例2のガスセンサを20本作製したところ、いずれも多孔質保護層の剥離は生じていなかった。
[実験例3]
スラリーの原料粉末におけるジルコニア粉末とアルミナ粉末との合計体積を変えずに体積比率Rを15%とした点以外は、実験例2と同様にして実験例3のガスセンサを得た。なお、実験例3におけるスラリーの粘度は12.0[Pa・s]であった。また、形成された多孔質保護層の膜厚tは約450μmであった。実験例3のガスセンサを20本作製したところ、いずれも多孔質保護層の剥離は生じていなかった。
[実験例4]
スラリーの原料粉末におけるジルコニア粉末とアルミナ粉末との合計体積を変えずに体積比率Rを20%とした点以外は、実験例2と同様にして実験例4のガスセンサを得た。なお、実験例4におけるスラリーの粘度は10.0[Pa・s]であった。また、形成された多孔質保護層の膜厚tは約450μmであった。実験例4のガスセンサを20本作製したところ、いずれも多孔質保護層の剥離は生じていなかった。
[実験例5]
スラリーの原料粉末におけるジルコニア粉末とアルミナ粉末との合計体積を変えずに体積比率Rを25%とした点以外は、実験例2と同様にして実験例5のガスセンサを得た。なお、実験例5におけるスラリーの粘度は12.5[Pa・s]であった。また、形成された多孔質保護層の膜厚tは約450μmであった。実験例5のガスセンサを20本作製したところ、いずれも多孔質保護層の剥離は生じていなかった。
[実験例6]
スラリーの原料粉末におけるジルコニア粉末とアルミナ粉末との合計体積を変えずに体積比率Rを30%とした点以外は、実験例2と同様にして実験例6のガスセンサを得た。なお、実験例6におけるスラリーの粘度は12.4[Pa・s]であった。また、形成された多孔質保護層の膜厚tは約450μmであった。実験例6のガスセンサを20本作製したところ、いずれも多孔質保護層の剥離は生じていなかった。
[実験例7]
スラリーの原料粉末におけるジルコニア粉末とアルミナ粉末との合計体積を変えずに体積比率Rを50%とした点以外は、実験例2と同様にして実験例7のガスセンサを得た。なお、実験例7におけるスラリーの粘度は11.3[Pa・s]であった。また、形成された多孔質保護層の膜厚tは約450μmであった。実験例7のガスセンサを20本作製したところ、いずれも多孔質保護層の剥離は生じていなかった。
[耐被水強度の評価]
実験例1〜7のガスセンサについて、多孔質保護層の性能(耐被水強度)を評価した。具体的には、まず、ヒータ72に通電して温度を800℃とし、センサ素子101を加熱した。この状態で、大気雰囲気中で主ポンプセル21,補助ポンプセル50,主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80,補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81等を作動させて、第1内部空所内20内の酸素濃度を所定の一定値に保つように制御した。そして、ポンプ電流Ip0が安定するのを待った後、多孔質保護層に0.5μLの水滴をたらし、ポンプ電流Ip0が所定の閾値を超えた値に変化したか否かに基づいて、センサ素子101のクラックの有無を判定した。なお、水滴による熱衝撃でセンサ素子101にクラックが生じると、クラック部分を通過して第1内部空所内20内に酸素が流入しやすくなるため、ポンプ電流Ip0の値が大きくなる。そのため、ポンプ電流Ip0が実験で定められる所定の閾値を超えている場合に、水滴でセンサ素子101にクラックが生じたと判定した。実験例1〜5では、20本のいずれについてもクラックは生じなかった。また、実験例6では、20本のうち5本のガスセンサにおいて、センサ素子101にクラックが生じた。実験例7では、20本のうち10本のガスセンサにおいて、センサ素子101にクラックが生じた。
実験例1〜7における体積比率R、多孔質保護層が剥離した本数、センサ素子101にクラックが生じた本数を表1にまとめて示す。実験例1〜7の結果から、体積比率Rが3%以上,5%以上であれば、多孔質保護層の剥離をより抑制できることが確認できた。また、体積比率Rが27%以下,25%以下であれば、多孔質保護層がセンサ素子のクラックをより抑制できることが確認できた。
[実験例8]
実験例8として、工程(b)でスラリーを用いてゲルキャスト法によりセンサ素子101を被覆する製造方法により、ガスセンサを作製した。まず、実験例1と同様に工程(a)を行ってセンサ素子101を作製した。
次に、工程(b)(工程(b1),(b2))として、センサ素子101の外側ポンプ電極23を含む先端部位に、ゲルキャスト法で未焼成膜291を形成した。ここでは、成形型210として、矩形凹部212に設計値どおりの外形を備えたセンサ素子101(基準素子)を配置したときにセンサ素子101の長手方向で12mmの領域が未焼成膜291で被覆され、未焼成膜291の厚みが450μmとなるように設計したものを用いた。センサ素子101の固定は、粘着テープを介して把持することにより行った。こうすることで、センサ素子101が設計値どおりの外形を備えていなくても、センサ素子101を固定することが可能となった。スラリーSは、以下のようにして調製した。原料粉末としてのアルミナ粉末(平均粒径2μm,純度99.9%)93質量部に、焼結助剤として酸化珪素を7質量部添加した。これらを、有機溶媒として多塩基酸エステルを24質量部、分散剤としてポリカルボン酸系共重合体を4質量部、ポリオール類としてエチレングリコールを0.2質量部混合した混合液へ投入した。その混合液を玉石と共にポットに入れ、12時間混合し、スラリー前駆体とした。このスラリー前駆体に、イソシアネート類としてポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートをスラリー前駆体に対して5体積%添加し、更に、触媒として6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノールを0.1質量部添加し、自公転式撹拌機で90秒混合し、スラリーSを得た。このように、実験例8では、ジルコニアを含まないスラリーを作成した(体積比率R=0%)。このスラリーSを矩形凹部212に注入し、1時間経過後、離型可能な程度までスラリーSが硬化したため、成形型210を2つに分割して未焼成膜291(スラリーS)の離型作業を行った。
次に、工程(c)として、未焼成膜291で被覆されたセンサ素子101をセッターに並べ、100℃/hrで所定温度1100℃まで昇温し、その温度で2時間保持したあと室温まで自然冷却した。これにより、未焼成膜291は多孔質保護層91になった。多孔質保護層91がセンサ素子101を被覆する領域の距離Lは12mm、多孔質保護層91の膜厚tが約450μmであった。実験例8のガスセンサを20本作製したところ、20本全てで多孔質保護層の剥離が生じていた。
[実験例9〜22]
工程(b)におけるスラリーSの原料粉末としてアルミナ粉末だけでなく平均粒径1.0μm,純度90%のジルコニア粉末も用いることで体積比率Rを種々変更した点以外は、実験例8と同様にして実験例9〜22のガスセンサを得た。なお、実験例9〜22では、スラリーSの原料粉末におけるジルコニア粉末とアルミナ粉末との合計体積は実験例8のアルミナ粉末の体積と同じとした。実験例9では、体積比率Rを5%とした。実験例10では、体積比率Rを10%とした。実験例11では、体積比率Rを15%とした。実験例12では、体積比率Rを20%とした。実験例13では、体積比率Rを25%とした。実験例14では、体積比率Rを30%とした。実験例15では、体積比率Rを40%とした。実験例16では、体積比率Rを50%とした。実験例17では、体積比率Rを60%とした。実験例18では、体積比率Rを65%とした。実験例19では、体積比率Rを70%とした。実験例20では、体積比率Rを75%とした。実験例21では、体積比率Rを80%とした。実験例22では、体積比率Rを85%とした。
実験例9〜22の多孔質保護層の膜厚tはいずれも約450μmであった。実験例9〜22のガスセンサをそれぞれ20本作製したところ、実験例9では20本中15本で多孔質保護層の剥離が生じていた。また、実験例10〜22では、いずれも多孔質保護層の剥離は生じていなかった。
[耐被水強度の評価]
実験例8〜22のガスセンサについて、実験例1〜7と同様に、多孔質保護層の性能(耐被水強度)を評価した。実験例8〜20では、20本のいずれについてもクラックは生じなかった。また、実験例21では、20本のうち10本のガスセンサにおいて、センサ素子101にクラックが生じた。実験例22では、20本のうち15本のガスセンサにおいて、センサ素子101にクラックが生じた。
実験例8〜22における体積比率R、多孔質保護層が剥離した本数、センサ素子101にクラックが生じた本数を表2にまとめて示す。実験例8〜22の結果から、工程(b)でスラリーを用いてゲルキャスト法によりセンサ素子101を被覆する場合、体積比率Rが3%以上,5%以上であれば、多孔質保護層の剥離をより抑制できることが確認できた。また、体積比率Rが7%以上,10%以上であれば、多孔質保護層の剥離をさらに抑制できることが確認できた。また、体積比率Rが77%以下,75%以下であれば、多孔質保護層がセンサ素子のクラックをより抑制できることが確認できた。
なお、表1,2からわかるように、工程(b)でディッピングによりセンサ素子101を被膜(スラリー)で被覆した場合と、ゲルキャスト法によりセンサ素子101を未焼成膜291(スラリーS)で被覆した場合とでは、多孔質保護層の剥離本数が0本となる体積比率Rの下限や、クラックの発生本数が0本となる体積比率Rの上限が異なっていた。これは、スラリーの組成がディッピングとゲルキャスト法とで異なることで(例えばゲル化剤の有無など)、多孔質保護層の微構造が異なっているためと考えられる。また、工程(b)でスクリーン印刷によりセンサ素子101の被覆を行う場合は、スクリーン印刷ではディッピングと同じスラリーを利用できる(ゲル化剤が必要ない)ことから、表1と同様の結果になると考えられる。
[実験例23]
実験例23では、工程(b)で用いるスラリーの材料を一部変更した点以外は、実験例1と同様にしてガスセンサを作製した。工程(b)で用いるスラリーは、実験例1の有機溶媒の代わりに無機溶媒(水)を用いて作製した。具体的には、まず、原料粉末としては実験例1と同じ平均粒径1.0μmのアルミナ粉末を実験例1と同じ体積(10cm3)用意し、実験例1と同様に100℃,2時間乾燥した。また、焼結助剤であるアルキルアセタール化ポリビニルアルコール((C6H10O2)l(C4H6O2)m(C2H4O)n,l,m,nは任意の整数)5gと、造孔材であるテオブロミン5g(粒径5μm)と、を無機溶媒である水に溶解してバインダー液とした。このバインダー液に、乾燥後の原料粉末をポットミル混合機で回転数200rpm〜250rpmで混合することで、スラリーを作成した。なお、スラリーの粘度は10〜15[Pa・s]であった。このように、実験例23では、ジルコニアを含まないスラリーを作成した(体積比率R=0%)。実験例23で形成された多孔質保護層の膜厚tは約450μmであった。実験例23のガスセンサを20本作製したところ、20本全てで多孔質保護層の剥離が生じていた。
[実験例24〜29]
工程(b)におけるスラリーの原料粉末としてアルミナ粉末だけでなく平均粒径1.0μm,純度90%のジルコニア粉末も用いることで体積比率Rを種々変更した点以外は、実験例23と同様にして実験例24〜29のガスセンサを得た。なお、実験例24〜29では、スラリーの原料粉末におけるジルコニア粉末とアルミナ粉末との合計体積は実験例23のアルミナ粉末の体積と同じとした。実験例24〜29の体積比率Rは、それぞれ実験例2〜7の体積比率Rと同じとした。実験例24〜29のいずれも、スラリーの粘度は10〜15[Pa・s]であった。また、形成された多孔質保護層の膜厚tはいずれも約450μmであった。実験例24〜29のガスセンサをそれぞれ20本作製したところ、いずれも多孔質保護層の剥離は生じていなかった。
[耐被水強度の評価]
実験例23〜29のガスセンサについて、実験例1〜22と同様に、多孔質保護層の性能(耐被水強度)を評価した。実験例23〜27では、20本のいずれについてもクラックは生じなかった。また、実験例28では、20本のうち5本のガスセンサにおいて、センサ素子101にクラックが生じた。実験例29では、20本のうち10本のガスセンサにおいて、センサ素子101にクラックが生じた。
実験例23〜29における体積比率R、多孔質保護層が剥離した本数、センサ素子101にクラックが生じた本数を表3にまとめて示す。実験例23〜29の結果は、実験例1〜7と同様であった。すなわち、焼成後に多孔質保護層となるスラリーの作製に無機溶媒(水)を用いた場合でも、有機溶媒を用いた場合と同様の結果が得られた。実験例23〜29の結果から、体積比率Rが3%以上,5%以上であれば、多孔質保護層の剥離をより抑制できることが確認できた。また、体積比率Rが27%以下,25%以下であれば、多孔質保護層がセンサ素子のクラックをより抑制できることが確認できた。