JP2016058566A - 電子半透鏡デバイス - Google Patents

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【課題】固体中の電子に対して、光子に対するハーフミラーと等価な作用を与える簡易な構造の電子半透鏡デバイスを提供する。【解決手段】電子半透鏡デバイスは、二次元電子ガス中に一次元方向に延びる、二次元電子ガスの最低エネルギーから0.5〜1eV程度のポテンシャル高の壁である。この一次元のポテンシャルの壁に、ポテンシャル障壁の高さエネルギーと同じエネルギーの電子が入射すると、図示するように、入射電子が、数十%の透過確率をもち、互いの位相差がπ/2である反射電子と透過電子に分かれる。従って、電子に対する半透鏡がなかったために従来は実現できなかった光学系と等価な動作を行う電子系回路が、本発明により実現可能となる。【選択図】図1

Description

本発明は光に対する半透明鏡(ハーフミラー)に相当する電子に対する半透鏡デバイスに関する。
量子電子デバイスのために電子の波動的性質を利用するには、伝導電子の位相操作は鍵となる技術である。電子の位相制御のための従来のデバイスとしてアハラノフ・ボーム(Aharanov-Bohm、AB)干渉計(非特許文献1〜4)が一般に知られている。しかし、ABリングを通って電子が移動する際、しばしばマルチパスの存在による悪影響を受ける(非特許文献5,6)。このため、電子が他端に到着するまでに量子情報の損失がもたらされる。この問題は出入り口にトンネル細線を設けることにより干渉の可視度が15%程度まで改善されたが、いまだ十分満足できるものとは言えない。更には、ABリングを利用するために必要な環境として、熱擾乱により決まるコヒーレンス長を長くするため、AB干渉計の動作温度は通常数10mK以下である上に、適切な磁界を印加する必要がある。従って、実際に使用するためには、AB干渉計とは別の、ABリングを用いない量子メカニズムであり、構造が単純で高いスケーラビリティを有する位相操作システムが必要とされる。
伝導電子に関する原子スケールのポテンシャル散乱には位相シフトが伴う(非特許文献7)。具体的には、二次元電子ガス(2-demensional electron gas、2DEG)系中(例えば清浄なAu(111)表面のショックレー状態(非特許文献8,9)や化合物半導体ヘテロ構造中に形成されるサブバンド状態(非特許文献10))では、この散乱現象は局所電子状態密度(LDOS)の定在波パターンとして現れる。これは走査トンネル電子顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope、STM)で観察できる量子力学干渉パターンである。先行研究である非特許文献8〜11では、散乱位相シフト値を見積もっているが、これらの値はそれらの測定されたエネルギーの範囲全体で一定であった。これはこれらの研究が「硬質壁モデル」体系、すなわち散乱ポテンシャル高は入射する電子のエネルギーに比べて充分に大きいという環境条件に基づいて行われたからである。それ故、先行する研究では散乱ポテンシャル半径及びその高さという散乱パラメーターの詳細を決定することができなかった。
本願発明者は、2Dサブバンド状態(非特許文献12〜15)にある電子が単一の表面点欠陥が誘起するポテンシャルにより散乱される際の、位相シフトの入射エネルギー依存性を明らかにした。サブバンド状態がこの欠陥から幾何学的に分離していることにより、実効的なポテンシャル高は入射電子エネルギーとほとんど同等となる。従って、散乱位相シフト値は電子エネルギーに強く依存し、また、その挙動は適切なパラメーターが与えられた1D散乱問題によって良く説明できることが確認された。量子力学に基づけば、散乱パラメーターを指定すれば、反射電子の位相シフトだけでなく、ポテンシャル障壁を透過する電子の位相シフト及び透過確率も求めることができる。それ故、本願発明者の知見により、表面点欠陥は、それが誘起するポテンシャルによる散乱によりサブバンド状態中の電子にとって「位相操作手段」として働くことが判る。本発明の課題は、上記本願発明者の新規な知見を応用して「電子ハーフミラー」というべき新規な量子デバイス、すなわち電子半透鏡デバイスを提供することにある。
本発明の一側面によれば、二次元電子ガス中に一次元方向に延びる低いポテンシャル高のポテンシャル障壁を設け、前記一次元のポテンシャル障壁に、前記ポテンシャル障壁の高さのエネルギーと同じエネルギーで入射した電子が、互いの位相差がπ/2である反射電子と透過電子に分かれる、電子半透鏡デバイスが与えられる。
ここで、前記ポテンシャル高は、前記二次元電子ガスの最低エネルギーから0.5〜1eVの高さであってよい。
また、前記一次元方向に延びるポテンシャル障壁の厚さは1.2nm以下であってよい。
また、前記ポテンシャル障壁はステップエッジ、カーボンナノチューブ等の一次元ナノ構造体により形成されてよい。
また、前記ポテンシャル障壁は点状のポテンシャル障壁を一次元に配列して形成され、
前記一次元のポテンシャル障壁の高さが一様となるように前記点状のポテンシャル障壁を密に配列してよい。
また、前記点状のポテンシャル障壁はp型Si基板上に形成された

上の表面点欠陥であってよい。
本発明は従来実現できなかった電子半透鏡を提供するため、電子の波動性を利用したデバイスの基本要素の一つとして非常に有用である。また、本発明の電子半透鏡は以下に説明するように本質的に非常に小さな領域で動作し、また構造が単純であるため、高集積化に適し、またサイズが非常に小さいことからコヒーレンス長を大きく取る必要がないため、ABリングなどの従来の電子位相制御デバイスに比べて大幅に高い温度で動作させることができる。
本発明の半透鏡を概念的に説明する図。 Si基板の表面近くに形成された電子ガス中の電子の、表面点欠陥による反射/透過現象を説明する図。 p型Si基板の空間電荷層中に形成された2Dサブバンド状態を示すエネルギーダイヤグラム。 サブバンド中の電子ガスとその中の電子の表面点欠陥によるポテンシャル散乱を示す図。 (a)
の原子構造(上面図及び側面図)を示す図。(b)V=+1.0V、I=0.5nAでの

の高分解能STM定電流像(5×5nm)。(b)中のひし形は(a)中のひし形に対応する。(c)Vs=1.4Vでの点欠陥周囲のSTM像(10×10nm)。(d)同時に得られた

像。(c)中の破線はBi三量体上に引いたものである。これらの線は点欠陥位置で交わる。この位置は(d)中の定在波の中心点と一致する。
バイアス電圧をパラメータと点欠陥の周囲の
像(20×20nm)。
左側の図中の差し込み図は表面点欠陥の周囲12×12nmのVs=1.4VにおけるLDOS像。左側の図は差し込み図中の破線に沿ったLDOS強度の空間依存性であって、点欠陥からの距離rの関数として測定した結果(多数の小円)及び式(1)を測定データにフィッティングさせた理論値(r=0で大きく負側に振れている双峰状カーブ)のグラフ。右側の図は差し込み図中の破線に沿ったLDOS輝度の絶対値を|r|に対して両対数プロットしたグラフ。 LDOSラインスキャンデータへ式(1)をフィッティングしたものから抽出した、実験で求められた2Dサブバンド状態分散を示すグラフ。図中の実験値を結ぶ連続曲線はこの状態についての有効質量を抽出するための双曲線フィッティング結果を示す。また、横方向の直線状の破線は試料のバルク伝導帯最低レベルのエネルギー位置を示す。 式(1)をLDOSラインスキャンデータにフィッティングして求めた、サブバンドの底からのエネルギーの関数としての散乱位相シフト分散の実験値及び実験データに式(2)をフィッティングした理論値のグラフ。 入射エネルギーに対する散乱位相シフト分散を表す1D散乱ポテンシャルモデルを示す図。 散乱位相シフトが0の点で電子半透鏡動作が実現できることを示す図。
図1に本発明の電子半透鏡デバイスの概念図を示す。入射光を反射/透過するハーフミラーでは、透過確率が数十%であり、透過光と反射光の位相がπ/2だけずれる。本発明の電子半透鏡デバイスでも入射する電子は量子力学的に反射電子と透過電子の二つに分けられ、両者の間には量子力学的な波動としての位相差が、ハーフミラーの場合の反射光と透過光との間の位相差と同じくπ/2だけある。より具体的には、電子半透鏡デバイスは、二次元電子ガス中に一次元方向に延びる、比較的低いポテンシャル高、具体的には二次元電子ガスの最低エネルギーから0.5〜1eV程度のポテンシャル高の壁である。この一次元のポテンシャルの壁に、ポテンシャル障壁の高さエネルギーと同じエネルギーの電子が入射すると、上述のように、入射電子が、数十%の透過確率をもち、互いの位相差がπ/2である反射電子と透過電子に分かれる。
このようなポテンシャルの壁は、これに限定するものではないが、例えば表面点欠陥(原子欠陥)の列、ステップエッジ、カーボンナノチューブ等の一次元ナノ構造体等が挙げられる。以下で表面点欠陥に例を取って説明するが、この特定の例を用いて説明しても一般性を失うものではない。なお、表面点欠陥はゼロ次元、すなわち点状の存在であるため、図2に示すように、表面点欠陥一つの点が誘起するポテンシャル障壁に入射した電子だけが上述の半透鏡での反射/透過の作用を受ける。そのため、表面点欠陥を図1に示すように列状に配置することで、一次元ナノ構造を形成する。ここで、表面点欠陥の配列が形成する一次元ポテンシャル障壁の高さが一様になる必要があるため、配列中には点欠陥を密に並べる必要がある。
Si基板上に室温でBiの単原子層(ML)(1ML=7.84×1014原子/cm)を蒸着した後、620〜670Kで10分間アニールすることによって
(以下
と称する)を作成した。p型ドーピング極性とn型ドーピング極性の両方のSi基板について試してみたが、p型極性が基板の空間電荷層中に、図3のエネルギーダイヤグラムに示す2Dサブバンド状態を形成するのに非常に重要であった。それ故、本願で以下で説明する全てのデータはp型基板で取得したものである。図4に示すように、二次元自由電子であるこのサブバンド中の電子が、表面点欠陥によるポテンシャル障壁によって散乱されると、電子の波動性により量子干渉現象を起こす。
超高真空中で77KにおいておこなったSTM測定により、表面原子構造及び局所的な電子構造が得られた。サンプルバイアス電圧(V)に1000Hz、10〜20mVの電圧を重畳することで駆動される交流トンネル電流のロックイン検出(lock-in detection)によって、トンネル伝導度(
)像を測定した。
図5(a)は
の原子構造を示す。この構造の第1層は第2層のSi原子に結合したBi三量体(Bi-trimer)から成る(非特許文献16)。V=1.0Vにおける
のSTM定電流像を図5(b)に示す。Vが1.0V〜+2.0Vの範囲では、図5(b)に示すようにハニカム構造が得られた。同図中で明るい点は4つのSi原子に結合している第3層のSi原子に対応する。このウエハーのバルク伝導帯最低(CBM)レベルはフェルミエネルギー(E)よりも1.15eVだけ上にあるが(非特許文献21)、ここでは77Kにおける熱によるエネルギー広がり(thermal broadening energy)を考慮に入れて、予期されるCBMのエネルギー付近で0.05eVのVの刻みでV依存STM像取得を行った。V=1.0Vにおいて、原子解像度を有するSTM像が得られた。他方、V=0.95Vでは安定したSTM像取得を行うことはできず、プローブ先端がしばしばサンプルに衝突した。それ故、界面におけるバンド曲がり値はほぼ−0.15eVであると見積もることができる(図8のm差し込み図も参照のこと)。言い換えれば、量子壁のポテンシャル深さは約0.15eVである。実際、0.15eVというバンド曲がり値は純古典的な計算によって定められた値(非特許文献22)と非常によく一致する。
図5(c)は
表面上の点欠陥の近傍のSTM定電流像である。この欠陥は上述した像の解釈から、おそらく三量体欠損による欠陥である。また、図5(d)は図5(c)と同時に得られた
像である。エネルギー
における局所状態密度(LDOS)の空間的な変動はバイアス電圧Vにおける
を測定することによって正確に表すことができる。ただし、この解釈の誤差の一つの原因は
測定の間のプローブ先端の高さの変動によるものである。点欠陥から円形に広がるこの強度振動は定在波パターンとして説明される(非特許文献8、9)。この定在波パターンはp型Siウエハーを基板として使用した場合だけ確認された。これはこの定在波パターンがSiの空間電荷層中の2Dサブバンド状態の電子により形成されることを示すものである(非特許文献12)。
図6(a)〜図6(f)は、ある表面点欠陥の周りの
像を、バイアス電圧の関数として示している。その振動の波長はVが増加するにつれて減少し、V=1.7Vになったところで定在波パターンは消失する。原子スケールの凹凸形状を
像中に見ることができる。この形状は図5(b)中の形状を反転したものと同じである。この凹凸形状はブロッホ(Bloch)状表面電子状態を反映したものではなく、走査中のSTM探針高の変動によるアーティファクトによるものである。それ故に、LDOS振動の精密な解析により、ここに関わる散乱現象を洞察するため、このアーティファクトを、一種のローパスフィルタ処理である2Dデコンボリューションにより除去した。
かくして得られたLDOSマップを図7中の左側のグラフの差し込み図に示し、またこのLDOSマップ中の破線に沿ったLDOS振動プロファイルを図7の左側のグラフに示す。ここでrは散乱中心からの距離である。図7の右側のグラフはこのLDOS振動の絶対値を|r|に対して両対数プロットしたものである。このプロットはLDOS振動が1/rに比例して減少することを明確に示している。
バルクバンドギャップ中に存在している2DEG表面状態の場合は、LDOSの振幅は1/rに比例して減衰する(非特許文献8,9,23)。これは、バルクバンド状態への散乱の遷移が禁止されているために面内散乱が支配的だからである。しかし、サブバンド状態の場合には、バルクCBMよりも上にある電子に関してはバルクバンド状態への散乱遷移が禁止されていない。それ故に、その振幅は1/rに比例して減衰する。
散乱の次元での相違に加えて、急速な減衰の他の考えられる起源としては、電子−フォノン散乱及び位相散逸プロセス(dephasing process)がある(非特許文献23)。しかしながら、これらの可能性は以下に説明するように無視できるものである。第一に、電子−フォノン散乱については、その減衰係数は
で与えられる。ここでlは平均自由行程(MFP)である。77KにおけるバルクSi中のMFPはほぼ100〜200nmであり(MFPは温度に比例すると想定している)、これは今測定の対象となっているスケールに比べてはるかに大きいので、電子−フォノン散乱による影響は無視できる程度に小さい。同様に、位相散逸プロセスはコヒーレンス長:
によって支配される。ここでΔEは熱によるエネルギーの広がり(thermal energy spread)、mは有効質量である(サブバンド状態については、m/m=0.29が適用される。これは、後述するように、サブバンド状態についての電子エネルギー分散への最良フィッティングが実現されるからである。)。この系についてのコヒーレンス長は30〜50nmであって、これも今測定しているスケールよりも大きいので、位相散逸プロセスの影響もまた小さい。
従って、サブバンドについての減衰率の相違はちょうど1/rの係数となるはずである。点欠陥上でのLDOS振動についての理論カーブは、2DEG系についてのカーブを修正することによって、以下の式に示すように与えられる:
ここで、kは定在波の波数であり、またδは散乱位相シフトであるが、これは散乱ポテンシャルのエネルギー高さ及び空間的広がりによって決まる。
式(1)を空間LDOS振動データのフィッティングに使用した。フィッティング結果として得られたカーブを図7の2つのグラフ中に実線として示す。式(1)は測定されたLDOSの減衰し、また振動するという挙動と良く一致している。
しかしながら、|r|が小さい領域では両者の食い違いは大きい。これは、走査中のプローブ先端高の変動によるものとして、以下のように説明される。図5(c)は同時に得られたSTM像である。点欠陥の近傍、つまり2>|r|>1nmでは、像の輝度が平坦領域の輝度に比べて僅かに高く、高さの違いは見掛け上約0.1Åであった。先端高の増大のため、欠陥近傍での
の強度は理論カーブと比べて3〜4倍小さくなる。他方、欠陥の中心近く、つまり|r|<1nmでは、先端位置は約1Å低くなり、従って
強度は大きくなる。
フィッティングから抽出されたk値をエネルギーに対してプロットして、図8に示すように2Dサブバンド状態の実験的な分散曲線を規定することができる。同図中の実線はサブバンド状態の有効電子質量及びバンド下端を求めるために使用する放物線フィッティングである。この手順からm/mとしてバルクSiの0.26(非特許文献21)と同等の値0.29が得られ、またEよりも1.04eV上のバンド下端エネルギー値が得られる。
ここで、式(1)のLDOS振動のフィッティングにより、波数だけではなく、散乱位相シフト値ももたらされる。図9は入射エネルギーについての電子散乱位相シフトの分散を示す。同図の実線は、図9の差し込み図に示される、s波近似(非特許文献7)の下での単純な1Dモデルから導かれる理論カーブである。ここで、Vは障壁高であり、aは散乱ポテンシャルの半径である。
シュレーディンガー方程式をその連続性条件の下に解けば、以下の反射係数A(図10)がもたらされる:
なお、図10で、A及びFはそれぞれポテンシャル障壁における電子の反射率及び透過率である。ここで確率が保存されることは理論的に保証されているので、反射率がわかれば透過率もわかる。
Zが実数であるとき、Θは散乱位相シフトについての理論式に対応する。ポテンシャル場中に侵入した電子の減衰定数であるαは、静止電子質量(rest electron mass)mについて
で与えられるので、理論カーブは以下の二つの散乱パラメーター、すなわちポテンシャル障壁高V及びポテンシャル半径a、によって定められる。
図9は式(2)を実験で得られた散乱位相シフトにフィッティングした結果を示す。最良フィッティングはポテンシャル高が0.62eVでポテンシャル半径が0.59nmの場合に得られた。すぐわかるように、実験結果と理論計算との一致度はエネルギー範囲全体について非常に良好である。
散乱パラメーターについてのこれらの値は、以下の二つの事実から見て妥当であると考えられる。第一の事実は、Eより上の障壁高の総計は1.66eVと見積もられたが、この値は図6(e)に示すところの定在波パターンを観察するためのバイアス電圧の上限値1.6Vと一致していることである。第二には、得られたポテンシャル半径は地形像(図5(c))中の暗い領域の半径とほぼ同じであることである。更には、これらの散乱パラメーターから単一表面点欠陥の最大散乱断面積、2.2nmが導かれるが、この値は半径0.59nmの半球の表面積に対応する。
s波近似に基づく単純な1Dモデルにもかかわらず、実験でもたらされた散乱位相シフト分散を非常によく再現することができた。このことから、詳細な散乱パラメーターを指定すれば、散乱位相シフトに加えて障壁を通り抜けるトンネリング確率及び伝達される電子の位相シフトも導出することができる。これらは単一点欠陥ポテンシャルによる散乱における波の性質を指定しまた記述する基本的なデータセットである。従って、上述の結果は、単一点欠陥による原子スケールのポテンシャル散乱を利用することで、Si中の伝導電子の位相操作が可能となったことを実験的に証明している。
ここで、図9からわかるように、従来の硬質壁モデルでは電子のエネルギーを変化させても散乱位相シフト量が一定であったのに対して、上で説明したようにポテンシャルの壁が入射電子エネルギーと同程度の場合には、電子のエネルギーを大きくしていくにつれて位相シフトが増大し、図11に示すように、あるエネルギー(上の例では0.62eV)において位相シフトがゼロに到達する。このとき、図11の差し込み図に示すように、障壁に対して右側から入射する電子が障壁で反射された際の位相変位はゼロであり、反射の確率は65%となる。これに対して障壁を透過する電子の位相変位はπ/2であり、透過確率は35%となる。つまり、この条件下では障壁に入射する電子の65%が反射し、35%が透過するとともに、反射電子と透過電子との位相差はπ/2となり、先に述べたように電子半透鏡動作が実現される。ここで、反射と透過との分配比率が65%:35%であるとしたが、この比率はポテンシャル障壁の厚さで変化する。透過量が反射量に比べて大幅に少なくならないようにするためには、ポテンシャル障壁を原子スケールの厚さとする必要があり、上の例ではこの厚さが1.2nmとなっている。実際上、ポテンシャル障壁の厚さはこの程度の厚さ、あるいはこれ以下とすることが必要である。なお、既に述べたように一点では「鏡」としては極めて使いにくいため、ポテンシャル障壁厚さが原子オーダーで一様になるように点欠陥を一次元に配列することにより、幅を持った電子半透鏡を構成する。点欠陥の一次元配列は、これに限定するものではないが、例えば上述した走査トンネル顕微鏡もしくはその類似装置である原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope、AFM)を用いて、個々の原子を原子レベルで位置操作(水平操作)、表面からの引き抜き走査(垂直操作)を行う(非特許文献24〜28)ことにより実現することができる。
なお、上ではSi基板上にBi薄膜を成長させるという特定の材料・構成により2Dサブバンド状態を形成し、これによって二次元電子ガス中に比較的低いポテンシャル高の壁を実現したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、Si基板上にInやPb等の薄膜を成長させた場合(非特許文献29)や、GaAs基板上にInAs薄膜を成長させた場合(非特許文献30)、更にはMOSFETに適当なゲートバイアスを印加した場合にも2Dサブバンド状態を界面に形成できるので、これを利用して本発明のデバイスを提供することも可能である。
以上説明したように、本発明により、従来存在しなかったところの、固体中の電子に対して、光子に対するハーフミラーと等価な作用を与える簡易なデバイスが提供される。従って、電子に対する半透鏡がなかったために従来は実現できなかった光学系と等価な動作を行う電子系回路が本発明により実現可能となる。そのような回路としては例えば光子のあり/なしを量子ビットとして利用する場合に、半透鏡を量子ビットの入出力に用いるアダマールゲートデバイスと等価の電子用ゲートデバイスが、本発明の電子半透鏡を使用して実現可能となる。このように本発明は量子コンピュータなどの多くの分野に利用可能である。
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Claims (6)

  1. 二次元電子ガス中に一次元方向に延びる低いポテンシャル高のポテンシャル障壁を設け、
    前記一次元のポテンシャル障壁に、前記ポテンシャル障壁の高さのエネルギーと同じエネルギーで入射した電子が、互いの位相差がπ/2である反射電子と透過電子に分かれる、
    電子半透鏡デバイス。
  2. 前記ポテンシャル高は、前記二次元電子ガスの最低エネルギーから0.5〜1eVの高さである、請求項1に記載の電子半透鏡デバイス。
  3. 前記一次元方向に延びるポテンシャル障壁の厚さは1.2nm以下である、請求項1または2に記載の電子半透鏡デバイス。
  4. 前記ポテンシャル障壁はステップエッジ、カーボンナノチューブ等の一次元ナノ構造体により形成される、請求項1から3の何れかに記載の電子半透鏡デバイス。
  5. 前記ポテンシャル障壁は点状のポテンシャル障壁を一次元に配列して形成され、
    前記一次元のポテンシャル障壁の高さが一様となるように前記点状のポテンシャル障壁を密に配列した、
    請求項1から3の何れかに記載の電子半透鏡デバイス。
  6. 前記点状のポテンシャル障壁はp型Si基板上に形成された

    上の表面点欠陥である、請求項5に記載の電子半透鏡デバイス。
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JP2003109974A (ja) * 2001-10-01 2003-04-11 Fujitsu Ltd カーボンナノチューブゲート電界効果トランジスタとその製造方法、及び微細パターン形成方法

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KATSUMI NAGAOKA, SHIN YAGINUMAZ, TOMONOBU NAKAYAMA: "STS Study of 2D Subband State Formed in the Space Charge Layer ofSi(111)-β√3×√3-Bi", E-JOURNAL OF SURFACE SCIENCE AND NANOTECHNOLOGY, vol. Vol. 12, JPN6018004652, 10 May 2014 (2014-05-10), JP, pages 217 - 220 *
KATSUMI NAGAOKAY, SHIN YAGINUMAZ, TOMONOBU NAKAYAMA: "STS Study of 2D Subband State Formed in the Space Charge Layer ofSi(111)-β√3×√3-Bi", E-JOURNAL OF SURFACE SCIENCE AND NANOTECHNOLOGY, vol. Vol. 12, JPN6018004652, 10 May 2014 (2014-05-10), JP, pages 217 - 220 *

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