(配列表の説明)
配列番号1 ヒトMAp19cDNA
配列番号2 ヒトMAp19タンパク質(リーダー配列を含む)
配列番号3 ヒトMAp19タンパク質(成熟)
配列番号4 ヒトMASP−2cDNA
配列番号5 ヒトMASP−2タンパク質(リーダー配列を含む)
配列番号6 ヒトMASP−2タンパク質(成熟)
配列番号7 ヒトMASP−2gDNA(エキソン1−6)
抗原:(MASP−2成熟タンパク質を参照)
配列番号8 CUBI配列(aa1−121)
配列番号9 CUBEGF配列(aa1−166)
配列番号10 CUBEGFCUBII(aa1−293)
配列番号11 EGF領域(aa122−166)
配列番号12 セリンプロテアーゼドメイン(aa429−671)
配列番号13 不活性型セリンプロテアーゼドメイン(Ser618がAlaに変異しているaa610−625)
配列番号14 TPLGPKWPEPVFGRL(CUB1ペプチド)
配列番号15 TAPPGYRLRLYFTHFDLELSHLCEYDFVKLSSGAKVLATLCGQ(CUBIペプチド)
配列番号16 TFRSDYSN(MBL結合領域コア)
配列番号17 FYSLGSSLDITFRSDYSNEKPFTGF(MBL結合領域)
配列番号18 IDECQVAPG(EGFペプチド)
配列番号19 ANMLCAGLESGGKDSCRGDSGGALV(セリンプロテアーゼ結合コア)詳細な説明
ペプチドインヒビター:
配列番号20 MBL完全長cDNA
配列番号21 MBL完全長タンパク質
配列番号22 OGK−X−GP(コンセンサス結合)
配列番号23 OGKLG
配列番号24 GLRGLQGPOGKLGPOG
配列番号25 GPOGPOGLRGLQGPOGKLGPOGPOGPO
配列番号26 GKDGRDGTKGEKGEPGQGLRGLQGPOGKLGPOG
配列番号27 GAOGSOGEKGAOGPQGPOGPOGKMGPKGEOGDO(ヒトh−フィコリン)
配列番号28 GCOGLOGAOGDKGEAGTNGKRGERGPOGPOGKAGPOGPNGAOGEO(ヒトフィコリンp35)
配列番号29 LQRALEILPNRVTIKANRPFLVFI(C4切断部位)
発現インヒビター:
配列番号30 CUBI−EGFドメインのcDNA(配列番号4のヌクレオチド22〜680)
配列番号31 5’CGGGCACACCATGAGGCTGCTGACCCTCCTGGGC3’ MASP−2翻訳開始部位(センス)を含む、配列番号4のヌクレオチド12〜45
配列番号32 5’GACATTACCTTCCGCTCCGACTCCAACGAGAAG3’ MASP−2 MBL結合部位(センス)を含む領域をコードする、配列番号4のヌクレオチド361〜396
配列番号33 5’AGCAGCCCTGAATACCCACGGCCGTATCCCAAA3’ CUBIIドメインを含む領域をコードする、配列番号4のヌクレオチド610〜642
クローニングプライマー:
配列番号34 CGGGATCCATGAGGCTGCTGACCCTC(CUB用の5’PCR)
配列番号35 GGAATTCCTAGGCTGCATA(CUB用の3’PCR)
配列番号36 GGAATTCCTACAGGGCGCT(CUBIEGF用の3’PCR)
配列番号37 GGAATTCCTAGTAGTGGAT(CUBIEGFCUBII用の3’PCR)
配列番号38〜47は、ヒト化抗体用のクローニングプライマーである。
配列番号48は、9aaペプチド結合である:
発現ベクター
配列番号49は、MASP−2ミニ遺伝子挿入断片である
配列番号50は、マウスMASP−2 cDNAである
配列番号51は、マウスMASP−2タンパク質(リーダー配列を含む)である
配列番号52は、成熟マウスMASP−2タンパク質である
配列番号53は、ラットMASP−2cDNAである
配列番号54は、ラットMASP−2タンパク質(リーダー配列を含む)である
配列番号55は、成熟ラットMASP−2タンパク質である
配列番号56〜59は、ヒトMASP−2Aを作製するために使用したヒトMASP−2の部位特異的突然変異誘発用のオリゴヌクレオチドである
配列番号60〜63は、マウスMASP−2Aを作製するために使用したマウスMASP−2の部位特異的突然変異誘発用のオリゴヌクレオチドである
配列番号64〜65は、ラットMASP−2Aを作製するために使用したラットMASP−2の部位特異的突然変異誘発用のオリゴヌクレオチドである
(詳細な説明)
本発明は、MASP−2が補体の副経路活性化を開始するために必要であるという、本発明者らによる驚くべき発見に基づく。MASP−2−/−のノックアウトマウスモデルを使用することによって、本発明者らは、古典経路を損なわないままで、レクチン媒介性MASP−2経路を介して補体の副経路活性化を阻害することができることを示し、それによって、古典経路を除外したときの補体副経路の活性化に対する必要条件としてレクチン依存性のMASP−2活性化が確立された。本発明はまた、免疫系の古典(C1q依存性)経路の成分を損なわないままで、レクチン媒介性の補体の副経路活性化に関連する細胞の損傷を阻害するための治療的な標的としてMASP−2を使用することについても記載する。
(I.定義)
本明細書中で特に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての用語は、本発明の分野における当業者が理解する意味と同じ意味を有する。以下の定義は、本発明を説明する明細書および特許請求の範囲において使用される用語に関して明確にするために提供される。
本明細書中で使用されるとき、用語「MASP−2依存性の補体活性化」とは、レクチン依存性MASP−2活性化を介して生じる補体副経路の活性化のことをいう。
本明細書中で使用されるとき、用語「副経路」とは、例えば、真菌および酵母の細胞壁由来のザイモサン、グラム陰性外膜由来のリポ多糖(LPS)およびウサギ赤血球によって、ならびに、多くの純粋な多糖類、ウサギ赤血球、ウイルス、細菌、動物腫瘍細胞、寄生生物および損傷細胞から引き起こされる補体活性化、および、従来、補体因子C3からの自発的なタンパク分解性の生成によるC3bから生じると考えられている、補体活性化のことをいう。
本明細書中で使用されるとき、用語「レクチン経路」とは、マンナン結合レクチン(MBL)およびフィコリンを含む、血清および非血清の炭水化物結合タンパク質の特異的な結合を介して生じる補体活性化のことをいう。
本明細書中で使用されるとき、用語「古典経路」とは、外来性粒子に結合した抗体によって引き起こされ、認識分子C1qの結合を必要とする補体活性化のことをいう。
本明細書中で使用されるとき、用語「MASP−2阻害薬剤」とは、MASP−2に結合するか、またはMASP−2と直接相互作用し、そして、MASP−2依存性の補体活性化を効果的に阻害する任意の薬剤のことをいい、そのような薬剤としては、抗MASP−2抗体およびそのMASP−2結合フラグメント、天然ペプチドおよび合成ペプチド、低分子、可溶性MASP−2レセプター、発現インヒビターならびに単離された天然インヒビターが挙げられ、レクチン経路において別の認識分子(例えば、MBL、H−フィコリン、M−フィコリンまたはL−フィコリン)への結合についてMASP−2と競合するペプチドも包含するが、そのような他の認識分子に結合する抗体を包含しない。本発明の方法において有用なMASP−2阻害薬剤は、MASP−2依存性の補体活性化を20%よりも大きく(例えば、50%よりも大きく(例えば、90%よりも大きく))低下させ得る。1つの実施形態において、MASP−2阻害薬剤は、MASP−2依存性の補体活性化を90%よりも大きく低下させる(すなわち、10%以下のMASP−2補体活性化しかもたらさない)。
本明細書中で使用されるとき、用語「抗体」は、任意の抗体産生哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギおよび霊長類(ヒトを含む))由来の、MASP−2ポリペプチドまたはその部分に特異的に結合する抗体およびその抗体フラグメントを包含する。代表的な抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体および組換え抗体;多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体);ヒト化抗体;マウス抗体;キメラモノクローナル抗体、マウス−ヒトモノクローナル抗体、マウス−霊長類モノクローナル抗体、霊長類−ヒトモノクローナル抗体;および抗イディオタイプ抗体が挙げられ、それらは、任意のインタクトな分子またはそのフラグメントであり得る。
本明細書中で使用されるとき、用語「抗体フラグメント」とは、完全長抗MASP−2抗体(一般に、抗原結合領域またはその可変領域を含む)から得られた部分またはそれらに関連する部分のことをいう。抗体フラグメントの実例としては、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab)2フラグメント、F(ab’)2フラグメントおよびFvフラグメント、scFvフラグメント、ダイアボディ(diabody)、鎖状抗体、一本鎖抗体分子および抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が挙げられる。
本明細書中で使用されるとき、「一本鎖Fv」または「scFv」抗体フラグメントは、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含み、ここで、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖に存在する。一般に、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間のポリペプチドリンカーをさらに含み、このポリペプチドリンカーは、scFvが、抗原に結合するのに望ましい構造を形成することができる。
本明細書中で使用されるとき、「キメラ抗体」は、非ヒト種(例えば、げっ歯類)抗体由来の可変ドメインおよび相補性決定領域を含み、その抗体分子の残りの部分は、ヒト抗体由来である、組換えタンパク質である。
本明細書中で使用されるとき、「ヒト化抗体」は、ヒト抗体フレームワークに移植される、非ヒト免疫グロブリン由来の特異的な相補性決定領域と一致する最小配列を含むキメラ抗体である。ヒト化抗体は、代表的には、その抗体の相補性決定領域だけが非ヒト起源である組換えタンパク質である。
本明細書中で使用されるとき、用語「マンナン結合レクチン」(「MBL」)は、マンナン結合タンパク質(「MBP」)と等価である。
本明細書中で使用されるとき、「細胞膜傷害複合体」(「MAC」)とは、膜に挿入し、膜を破壊する、最後の5つの補体成分(C5−C9)の複合体のことをいう。C5b−9とも呼ばれる。
本明細書中で使用されるとき、「被験体」には、すべての哺乳動物(ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウサギ、ブタおよびげっ歯類が挙げられるが、これらに限定されない)が含まれる。
本明細書中で使用されるとき、アミノ酸残基は、以下のとおり省略して記載される:アラニン(Ala;A)、アスパラギン(Asn;N)、アスパラギン酸(Asp;D)、アルギニン(Arg;R)、システイン(Cys;C)、グルタミン酸(Glu;E)、グルタミン(Gln;Q)、グリシン(Gly;G)、ヒスチジン(His;H)、イソロイシン(Ile;I)、ロイシン(Leu;L)、リシン(Lys;K)、メチオニン(Met;M)、フェニルアラニン(Phe;F)、プロリン(Pro;P)、セリン(Ser;S)、トレオニン(Thr;T)、トリプトファン(Trp;W)、チロシン(Tyr;Y)およびバリン(Val;V)。
最も広い意味において、天然に存在するアミノ酸は、各アミノ酸の側鎖の化学的特性に基づいて群に分けることができる。「疎水性」アミノ酸とは、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr、Val、Ala、CysまたはProのいずれかを意味する。「親水性」アミノ酸とは、Gly、Asn、Gln、Ser、Thr、Asp、Glu、Lys、ArgまたはHisのいずれかを意味する。この群のアミノ酸は、さらに以下のとおり分類され得る。「電荷を有しない親水性」アミノ酸とは、Ser、Thr、AsnまたはGlnのいずれかを意味する。「酸性」アミノ酸とは、GluまたはAspのいずれかを意味する。「塩基性」アミノ酸とは、Lys、ArgまたはHisのいずれかを意味する。
本明細書中で使用されるとき、用語「保存的アミノ酸置換」は、以下の各群内におけるアミノ酸間の置換と説明される:(1)グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン、(2)フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン、(3)セリンおよびトレオニン、(4)アスパラギン酸およびグルタミン酸、(5)グルタミンおよびアスパラギンならびに(6)リシン、アルギニンおよびヒスチジン。
用語「オリゴヌクレオチド」とは、本明細書中で使用されるとき、リボ核酸(RNA)もしくはデオキシリボ核酸(DNA)またはそれらの模倣物(mimetic)のオリゴマーまたはポリマーのことをいう。この用語は、天然に存在するヌクレオチド、糖およびヌクレオシド間の共有結合(骨格)から構成されるオリゴ核酸塩基ならびに天然に存在しない修飾を有するオリゴヌクレオチドも網羅する。
(II.副経路:新しい知見)
補体の副経路は、酵母細胞壁から生成されたザイモサンを使用して補体を活性化させる研究に基づいて、1950年代初めにLouis Pillemerおよびその共同研究者らによって初めて記載された(Pillemer,L.ら、J.Exp.Med.103:1−13,1956;Lepow,I.H.,J.Immunol.125:471−478,1980)。それ以後、ザイモサンは、ヒト血清およびげっ歯類血清における副経路の特異的なアクチベーターの基準の例と考えられている(Lachmann,P.J.ら、Springer Semin.Immunopathol.7:143−162,1984;Van Dijk,H.ら、J.Immunol.Methods 85:233−243,1985;Pangburn,M.K.,Methods in Enzymol.162:639−653,1988)。副経路活性化のための便利で広く使用されているアッセイは、プラスチックウェル上にコーティングされたザイモサンと血清とをインキュベートして、インキュベート後に固相上のC3b沈着の量を測定するものである。予想されるように、正常マウス血清とのインキュベート後に、ザイモサンでコーティングされたウェル上にはかなりのC3b沈着がみられる(図7B)。しかしながら、ザイモサンでコーティングされたウェルと、ホモ接合性のMASP−2欠損マウス由来の血清とをインキュベートすると、正常な血清の場合と比べてC3b沈着がかなり減少する。さらに、このアッセイにおいてMASP2遺伝子がヘテロ接合性で欠損しているマウス由来の血清を使用することにより、ホモ接合性のMASP−2欠損マウス由来の血清で得られたレベルと正常マウス血清で得られたレベルの中間のC3b沈着レベルがもたらされる。副経路を活性化することが知られている別の多糖であるマンナンでコーティングされたウェルを使用することにより、対応する結果も得られる(図7A)。正常マウスとMASP−2欠損マウスは、MASP2遺伝子を除いては同じ遺伝的背景を共有するので、これらの予期しない結果から、MASP−2が、副経路の活性化に不可欠な役割を果たすことが証明される。
これらの結果は、本質的にすべての現在の医学分野の教科書および補体に関する最近の総論において説明されているように副経路が補体活性化の独立したスタンドアロンの経路ではないという強力な証明をもたらす。現在の広く支持されている科学的観点は、副経路は、自発的な「チックオーバー」C3活性化の増幅によって、ある特定の粒上の標的(微生物、ザイモサン、ウサギ赤血球)の表面上で活性化されるということである。しかしながら、MASP−2ノックアウトマウス由来の血清では副経路の周知の2つの「アクチベーター」による重要な副経路活性化が起きないことによって、「チックオーバー理論」が補体活性化にとって重要な生理学的機構であるとの説明は見込みがなくなる。
MASP−2プロテアーゼは、レクチン補体カスケードの開始に関与する酵素として特異的かつ詳細に明らかにされた役割を有することが知られているので、これらの結果は、当然、その後に続く副経路の活性化のための決定的な第1段階としてザイモサンおよびマンナンによるレクチン経路の活性化を意味する。C4bは、副経路ではなくレクチン経路によって生成される活性化産物である。この概念と一致して、ザイモサンまたはマンナンでコーティングされたウェルと正常マウス血清とのインキュベートによって、そのウェル上へのC4b沈着がもたらされ、このC4b沈着は、そのコーティングされたウェルがMASP−2欠損マウス由来の血清とインキュベートされるとき実質的に減少する(図6A、6Bおよび6C)。
副経路は、補体活性化のための独立した経路としてその広く認知されている役割に加えて、最初に古典経路およびレクチン経路を介して引き起こされる補体活性化のための増幅ループももたらし得る(Liszewski,M.K.and J.P.Atkinson,1993,Fundamental Immunology,Third Edition,W.E.Paul編,Raven Press,Ltd.,New York;Schweinie,J.E.ら、J.Clin.Invest.84:1821−1829,1989)。この副経路媒介性増幅機構では、古典補体カスケードまたはレクチン補体カスケードのいずれかの活性化によって生成されるC3コンバターゼ(C4b2b)が、C3をC3aおよびC3bに切断し、それによって、副経路のC3コンバターゼであるC3bBbの形成に関与し得るC3bをもたらす。MASP−2ノックアウト血清において副経路が活性化されないことについての可能性のある説明は、レクチン経路が、ザイモサン、マンナンおよび副経路の他の推定「アクチベーター」による最初の補体活性化に必要である一方で、副経路は、補体活性化を増幅するために重大な役割を果たすということである。換言すれば、副経路は、独立した直線的なカスケードではなく、活性化のためにレクチン補体経路および古典補体経路に依存したフィードフォワード増幅ループである。
補体カスケードが、以前に構想されていたような3つの別々の経路(古典経路、副経路およびレクチン経路)を介して活性化されるのではなく、補体とは、第1近似として、補体免疫防御系の先天性(レクチン)部門および後天性(古典)部門に相当する2つの主要な系から構成されると考えることがより正確であると、本発明者らの結果は示唆している。レクチン(MBP、M−フィコリン、H−フィコリンおよびL−フィコリン)は、先天性の補体系を引き起こす特異的な認識分子であり、この系は、レクチン経路および関連する副経路増幅ループを含む。C1qは、後天性の補体系を引き起こす特異的な認識分子であり、この系は、古典経路および関連する副経路増幅ループを含む。本発明者らは、これらの2つの主要な補体活性化の系を、それぞれレクチン依存性補体系およびC1q依存性補体系と呼ぶ。
補体系は、免疫防御におけるその不可欠な役割に加えて、多くの臨床的な状態における組織損傷に関与する。従って、これらの有害作用を予防する治療的に有効な補体インヒビターを開発することが急務である。補体が2つの主要な補体活性化の系から構成されるという認識とともに、補体の免疫防御能力を完全に停止することなく、特定の病態を引き起こす補体活性化の系だけを特異的に阻害することが、非常に望ましいと理解される。例えば、補体活性化がレクチン依存性の補体系によって主に媒介される疾患状態では、この系だけを特異的に阻害することが有益であり得る。このことは、C1q依存性補体活性化の系を損なわずに、免疫複合体のプロセシングを取り扱い、そして感染症に対する宿主防御に役立ち得る。
レクチン依存性の補体系を特異的に阻害する治療薬の開発の際に標的化するのに好ましいタンパク質成分は、MASP−2である。レクチン依存性の補体系のすべてのタンパク質(MBL、H−フィコリン、M−フィコリン、L−フィコリン、MASP−2、C2−C9、B因子、D因子およびプロパージン)のうち、MASP−2だけが、レクチン依存性の補体系に固有であり、かつ、その系が機能するために必要である。レクチン(MBL、H−フィコリン、M−フィコリンおよびL−フィコリン)もまた、レクチン依存性の補体系における固有の成分である。しかしながら、レクチン成分のいずれか1つが喪失することによっては、レクチン重複性に起因して、必ずしもその系の活性化を阻害しない。レクチン依存性の補体活性化の系の阻害を保証するためには、4種すべてのレクチンを阻害する必要がある。さらに、MBLおよびフィコリンは、補体とは無関係のオプソニン活性を有することが知られているので、レクチン機能の阻害によって、感染に対するこの有益な宿主防御機構の喪失がもたらされ得る。対照的に、この補体非依存性レクチンオプソニン活性は、MASP−2が阻害性標的であったとしても、損なわれないままであり得る。レクチン依存性の補体活性化の系を阻害する治療的な標的としてのMASP−2に加えられる利点は、MASP−2の血漿濃度が、任意の補体タンパク質のうち最も低い(約500ng/ml)ことである;したがって、このことに対応して、完全な阻害をもたらすために必要なMASP−2の高親和性インヒビターは、低濃度であり得る(Moller−Kristensen,M.ら、J.Immunol Methods 282:159−167,2003)。
(III.様々な疾患および状態におけるMASP−2の役割ならびにMASP−2阻害薬剤を使用した治療的な方法)
虚血再灌流損傷
虚血再灌流損傷(I/R)は、長期間にわたる虚血の後に血流が元に戻るときに生じる。これは、幅広い疾患における罹患率および死亡率の共通の起源である。外科の患者は、大動脈瘤修復術、心肺バイパス術、例えば、臓器移植片(例えば、心臓、肺、肝臓、腎臓)と接続する血管再吻合および端/指の再移植、脳卒中、心筋梗塞ならびにショック後および/または外科的手技後の血流力学的蘇生の後、無防備である。アテローム硬化性疾患を有する患者は、心筋梗塞、脳卒中ならびに塞栓誘発性の腸管虚血および下肢虚血になる傾向がある。外傷を有する患者は、一時的に肢が虚血になることが多い。さらに、任意の原因の大量の血液の喪失により、全身のI/R反応がもたらされる。
I/R損傷の病態生理学は、複雑であり、少なくとも2つの主要な因子:酸素ラジカル媒介性損傷に付随する補体活性化および好中球刺激が、このプロセスに関与している。I/R損傷において、補体活性化は、30年以上前に心筋梗塞において初めて報告され、補体系のI/R組織損傷への関与について数多くの研究がなされている(Hill,J.H.ら、J.Exp.Med.133:885−900,1971)。集積された証拠は、現在、I/R損傷における中心的なメディエーターとして補体を指摘している。補体を阻害することによって、I/Rのいくつかの動物モデルにおける損傷を制限することに成功した。最近の研究では、コブラ毒因子の注入後にC3枯渇が達成され、これは、腎臓および心臓でのI/Rにおいて有益であると報告された(Maroko,P.R.ら、1978,J.Clin Invest.61:661−670,1978;Stein,S.H.ら、Miner Electrolyte Metab.11:256−61,1985)。しかしながら、可溶型の補体レセプター1(sCR1)は、心筋のI/R損傷の予防に利用される第1の補体特異的インヒビターであった(Weisman,H.F.ら、Science 249:146−51,1990)。心筋のI/RにおけるsCR1処置によって、冠状動脈内皮に沿ったC5b−9複合体沈着の減少および再灌流後の白血球浸潤の減少に関連する梗塞が減弱される。
実験的な心筋のI/Rでは、再灌流の前に投与されるC1エステラーゼインヒビター(C1 INH)が、C1qの沈着を予防し、心筋壊死の領域が有意に減少した(Buerke,M.ら、1995,Circulation 91:393−402,1995)。遺伝的にC3が欠損した動物は、骨格筋または腸管の虚血後の局所的な組織壊死が少ない(Weiser,M.R.ら、J.Exp.Med.183:2343−48,1996)。
細胞膜傷害複合体は、補体特異的損傷の最終的なビヒクルであり、C5欠損動物における研究により、I/R損傷モデルにおいて局所的な損傷および離れた損傷を低減した(Austen,W.G.Jr.ら、Surgery 126:343−48,1999)。可溶性Crry(補体レセプター関連遺伝子Y)である補体活性化のインヒビターは、マウスの腸管再灌流の開始の前後において投与するとき、そのインヒビターは、損傷に対して有効であることが示されている(Rehrig,S.ら、J.Immunol.167:5921−27,2001)。骨格筋虚血モデルでは、可溶性補体レセプター1(sCR1)を再灌流の開始後に投与して、sCR1を使用することによってもまた、筋肉損傷が低減した(Kyriakides,Cら、Am.J.Physiol.Cell Physiol.281:C244−30,2001)。心筋のI/Rのブタモデルでは、再灌流の前にアナフィラトキシンC5aに対するモノクローナル抗体(「MoAb」)で処置した動物では、梗塞が減弱したことが示された(Amsterdam,E.A.ら、Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.268:H448−57,1995)。C5 MoAbで処置されたラットによって、心筋層における梗塞サイズ、好中球浸潤およびアポトーシスが減弱したことが証明された(Vakeva,A.ら、Circulation 97:2259−67,1998)。これらの実験的な結果は、I/R損傷の病原における補体活性化の重要性を強調するものである。
どの補体経路(古典経路、レクチン経路または副経路)が、I/R損傷における補体活性化に主に関与するかは不明である。Weiserらは、C3ノックアウトマウスまたはC4ノックアウトマウスが、血管透過性の有意な低下に基づいてI/R損傷から保護されていたことを示すことによって骨格のI/Rにおけるレクチン経路および/または古典経路の重要な役割を証明した(Weiser,M.R.ら、J.Exp.Med.183:2343−48,1996)。対照的に、C4ノックアウトマウスを用いた腎臓のI/R実験により、有意な組織保護は認められなかったのに対し、C3−、C5−およびC6−ノックアウトマウスは、損傷から保護されたことから、腎臓のI/R損傷における補体活性化が副経路を介して生じることが示唆される(Zhou,W.ら、J.Clin.Invest.105:1363−71,2000)。Stahlらは、最近、D因子欠損マウスを使用して、マウスの腸管のI/Rにおける副経路の重要な役割についての証拠を示した(Stahl,G.ら、Am.J.Pathol.162:449−55,2003)。対照的に、Williamsらは、C4およびIgM(Ragl−/−)欠損マウスにおけるC3に対する臓器の染色の減少および損傷からの保護を示すことによって、マウスの腸におけるI/R損傷の開始に対する古典経路の主な役割を示唆した(Williams,J.P.ら、J.Appl.Physiol.86:938−42,1999)。
心筋のI/Rモデルにおいて、ラットマンナン結合レクチン(MBL)に対するモノクローナル抗体によるラットの処置によって、虚血後の再灌流損傷の低下がもたらされた(Jordan,J.E.ら、Circulation 104:1413−18,2001)。MBL抗体もまた、酸化ストレス後のインビトロにおいて内皮細胞上への補体沈着を減少させたことから、心筋のI/R損傷におけるレクチン経路の役割が示唆される(Collard,C.D.ら、Am.J.Pathol.156:1549−56,2000)。いくつかの臓器において、I/R損傷は、自然抗体と呼ばれるIgMの特定のカテゴリーおよび古典経路の活性化によって媒介され得るという証拠も存在する(Fleming,S.D.ら、J.Immunol.169:2126−33,2002;Reid,R.R.ら、J.Immunol.169:5433−40,2002)。
補体活性化のいくつかのインヒビターは、心筋のI/R合併症から生じる罹患率および死亡率を予防する潜在的な治療薬として開発されている。これらの2つのインヒビター、sCR1(TP10)およびヒト化抗C5scFv(パキセリズマブ(Paxalizumab))は、第II相臨床試験を完了している。パキセリズマブは、さらに第III相臨床試験を完了している。TP10は、初期の第I/II相治験において患者に十分に許容され、有益であったが、2002年2月に終了した第II相治験からの結果は、その主要エンドポイントを満たさなかった。しかしながら、開心術を経験している高リスク集団における男性患者からのデータのサブグループ解析によって、死亡率および梗塞サイズが有意に低下したことが証明された。ヒト化抗C5scFvの投与によって、COMAおよびCOMPLYの第II相治験において急性心筋梗塞に関連する患者の死亡率全体が低下したが、主要エンドポイントを満たさなかった(Mahaffey,K.W.ら、Circulation 108:1176−83,2003)。冠状動脈バイパス術後に外科的に誘導される結果を改善するための、最近の第III相抗C5scFv臨床試験(PRIMO−CABG)の結果は、最近公開された。この研究に対する主要エンドポイントは、到達されなかったが、この研究から、手術後の患者の罹患率および死亡率の全体的な低下が証明された。
Walsh博士および共同研究者らは、MBLが欠損し、ゆえにMBL依存性レクチン経路活性化を欠いているが、完全に活性な古典補体経路を有するマウスが、心臓の再灌流損傷から保護され、その結果、心機能が保存されることを証明した(Walshら、J.Immunol.175:541−46,2005)。重大なことには、古典補体経路の認識成分であるC1qを欠くが、インタクトなMBL補体経路を有するマウスは、損傷から保護されない。これらの結果から、レクチン経路が、心筋の再灌流虚血性損傷の病原において主要な役割を果たすことが示唆される。
補体活性化は、胃腸の虚血再灌流(I/R)に関連する組織損傷において重要な役割を果たすことが知られている。GI/Rのマウスモデルを使用した、Hartおよび共同研究者らによる最近の研究では、MBLが遺伝的に欠損したマウスは、胃腸のI/R後の腸の損傷から保護されることを報告している(Hartら、J.Immunol.174:6373−80,2005)。MBL欠損マウスに対して組換えMBLを加えることにより、胃腸のI/R後、未処置のMBL欠損マウスよりも有意に損傷が増大した。対照的に、古典経路の認識成分であるC1qを遺伝的に欠くマウスは、胃腸のI/R後の組織損傷から保護されない。
腎臓のI/Rは、急性腎不全の重要な原因である。補体系は、腎臓のI/R損傷に本質的に関与するとみられる。最近の研究において、de Vriesおよび共同研究者は、実験的ならびに臨床上の腎臓のI/R損傷の過程において、レクチン経路が活性化されることを報告している(de Vriesら、Am.J.Path.165:1677−88,2004)。さらに、腎臓のI/Rの過程において、レクチン経路の後に、補体C3、C6およびC9の沈着が生じ、レクチン経路は、それらの沈着と共存する。これらの結果は、補体活性化のレクチン経路が、腎臓のI/R損傷に関与することを示唆する。
従って、本発明の1つの態様は、虚血性再灌流を経験している被験体を、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤で処置することによる、虚血再灌流損傷の処置に関する。MASP−2阻害薬剤は、動脈内、静脈内、頭蓋内、筋肉内、皮下または他の非経口投与によって、そして、潜在的には、非ペプチド作動性インヒビターについては経口的に、上記被験体に投与され得るが、動脈内投与または静脈内投与が最も適している。本発明のMASP−2阻害性組成物の投与は、虚血再灌流事象の直後またはできるだけすぐに適当に開始する。再灌流が、制御された環境において起きる場合(例えば、大動脈瘤修復術、臓器移植または切断されたかもしくは傷つけられた肢もしくは指の再付着の後)、MASP−2阻害薬剤は、再灌流の前および/または最中および/または後に投与され得る。投与は、最適な治療的効果のために医師が決定するとおりに定期的に繰り返され得る。
アテローム性動脈硬化症
補体活性化が、ヒトにおいてアテローム発生に関与するというかなりの証拠がある。多くの研究が、著しい補体活性化は、正常な動脈において生じないが、補体は、アテローム硬化性病変において大規模に活性化され、脆弱性かつ破裂性のプラークにおいて特に強いということを、説得力をもって示している。補体経路の最後の成分は、しばしばヒトアテロームにおいて見られる(Niculescu,F.ら、Mol.Immunol.36:949−55.10−12,1999;Rus,H.G.ら、Immunol.Lett.20:305−310,1989;Torzewski,M.ら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.18:369−378,1998)。動脈の病変におけるC3およびC4の沈着もまた証明されている(Hansson,G.K.ら、Acta Pathol.Microbiol.Immunol.Scand.(A)92:429−35,1984)。C5b−9沈着の程度は、その病変の重症度と相関することが見出されている(Vlaicu,R.ら、Atherosclerosis 57:163−77,1985)。C5b−9ではなく補体iC3bの沈着は、破裂性でありかつ脆弱なプラークにおいて特に強かったことから、補体活性化が、急性冠動脈症候群における因子であり得ることが示唆される(Taskinen S.ら、Biochem.J.367:403−12,2002)。ウサギにおける実験的なアテロームでは、補体活性化が病変の進行を進めることが見出されている(Seifer,P.S.ら、Lab Invest.60:747−54,1989)。
アテローム硬化性病変において、補体は、古典経路および副経路を介して活性化されるが、今のところ、レクチン経路を介した補体活性化の証拠はほとんどない。動脈壁のいくつかの成分は、補体活性化を引き起こし得る。補体の古典経路は、酵素的に分解されたLDLに結合しているC反応性タンパク質(CRP)によって活性化され得る(Bhakdi,S.ら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.19:2348−54,1999)。この観点と一致するものは、最後の補体タンパク質が、初期のヒト病変の内膜においてCRPと共存するという知見である(Torzewski,J.ら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.18:1386−92,1998)。同様に、病変内の酸化型LDLに特異的な免疫グロブリンMまたはIgG抗体は、古典経路を活性化し得る(Witztum,J.L.,Lancet 344:793−95,1994)。ヒトアテローム硬化性病変から単離された脂質は、高含有量の非エステル化コレステロールを有し、副経路を活性化することができる(Seifert P.S.ら、J.Exp.Med.172:547−57,1990)。アテローム硬化性病変に関与することが多いグラム陰性菌であるChlamydia pneumoniaeもまた、補体の副経路を活性化し得る(Campbell L.A.ら、J.Infect.Dis.172:585−8,1995)。アテローム硬化性病変中に存在する他の潜在的な補体アクチベーターとしては、コレステロール結晶および細胞片が挙げられ、その両方が、副経路を活性化し得る(Seifert,P.S.ら、Mol.Immunol.24:1303−08,1987)。
補体活性化の副産物は、アテローム硬化性病変の進行に影響し得る多くの生物学的特性を有することが知られている。局所的な補体活性化は、細胞溶解を誘導し得、そして進行した病変の壊死性のコアに見られる少なくともいくらかの細胞片を生成し得る(Niculescu,F.ら、Mol.Immunol.36:949−55.10−12,1999)。半分解性の補体活性化は、平滑筋細胞増殖およびアテローム発生中の動脈内膜への単球浸潤に関与する重大な因子であり得る(Torzewski J.ら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.18:673−77,1996)。持続的な補体活性化は、炎症を引き起こし得、また、炎症を維持し得るので、有害であり得る。血漿からの補体成分の浸潤に加えて、動脈細胞は、補体タンパク質に対するメッセンジャーRNAを発現し、様々な補体成分の発現が、アテローム硬化性病変においてアップレギュレートされる(Yasojima,K.ら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.21:1214−19,2001)。
アテローム発生に対する補体タンパク質欠損の影響に関する限られた数の研究が報告されている。実験動物モデルにおける結果は、矛盾している。ラットでは、補体枯渇動物において、中毒量のビタミンDによって誘導されるアテローム硬化様病変の形成は減少した(Geertinger P.ら、Acta.Pathol.Microbiol.Scand.(A)78:284−88,1970)。さらに、コレステロール食が給餌されたウサギでは、遺伝的C6欠損(Geertinger,P.ら、Artery 1:177−84,1977;Schmiedt,W.ら、Arterioscl.Thromb.Vasc.Biol.18:1790−1795,1998)または抗補体薬剤K−76COONa(Saito,E.ら、J.Drug Dev.3:147−54,1990)のいずれかによる補体阻害によって、血清コレステロールレベルに影響を及ぼさずにアテローム性動脈硬化症の発生が抑制された。対照的に、最近の研究では、C5欠損が、アポリポタンパク質E(ApoE)欠損マウスにおいてアテローム硬化性病変の発生を低下させないと報告されている(Patel,S.ら、Biochem.Biophys.Res.Commun.286:164−70,2001)。しかしながら、別の研究において、C3欠損があってもなくてもLDLR欠損(Idlr−)マウスにおけるアテローム硬化性病変の発生が評価された(Buono,Cら、Circulation 105:3025−31,2002)。その研究者らは、アテローム硬化様病変へのアテロームの成熟が、インタクトな補体系の存在の一部に依存することを見出した。
従って、本発明の1つの態様は、アテローム性動脈硬化症に罹患しているか、またはその傾向がある被験体を、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤で処置することによって、アテローム性動脈硬化症を処置または予防することに関する。MASP−2阻害薬剤は、動脈内投与、静脈内投与、くも膜下腔内投与、頭蓋内投与、筋肉内投与、皮下投与または他の非経口投与によって、そして、潜在的には、非ペプチド作動性インヒビターについては経口的に、被験体に投与され得る。MASP−2阻害性組成物の投与は、アテローム性動脈硬化症の診断後に被験体において開始し得るか、またはそのような状態を発症するリスクの高い被験体において予防的に開始され得る。投与は、最適な治療的効果のために医師が決定するとおりに定期的に繰り返され得る。
他の血管性の疾患および状態
内皮は、たいてい免疫系に曝露されており、血漿中に存在する補体タンパク質に対して特に脆弱である。補体媒介性の血管の損傷は、心臓血管系のいくつかの疾患(アテローム性動脈硬化症(Seifert,P.S.ら、Atherosclerosis 73:91−104,1988)、虚血−再灌流損傷(Weisman,H.F.,Science 249:146−51,1990)および心筋梗塞(Tada,T.ら、Virchows Arch 430:327−332,1997)を含む)の病態生理学に関与することが示されている。証拠は、補体活性化が、他の血管状態にまで及び得ることを示唆する。
例えば、補体活性化は、ヘノッホ−シェーンライン紫斑病性腎炎、全身性エリテマトーデス関連血管炎、関節リウマチ(悪性関節リウマチとも呼ばれる)に関連する血管炎、免疫複合体血管炎および高安病を含む多くの形態の血管炎の病原に寄与するという証拠がある。ヘノッホ−シェーンライン紫斑病性腎炎は、病原が免疫である小血管の全身性血管炎の1形態であり、ここで、C5b−9誘導性の内皮損傷をもたらす、レクチン経路を介した補体活性化は、重要な機構として認識されている(Kawana,S.ら、Arch.Dermatol.Res.282:183−7,1990;Endo,M.ら、Am J.Kidney Dis.35:401−7,2000)。全身性エリテマトーデス(SLE)は、皮膚、腎臓、関節、漿膜表面および中枢神経系を含む複数の臓器に影響を及ぼす全身性自己免疫疾患の例であり、重篤な血管炎に関連することが多い。内皮細胞に結合することができるIgG抗内皮抗体およびIgG複合体は、活性なSLEを有する患者の血清中に存在し、IgG免疫複合体および補体の沈着は、SLE血管炎を有する患者の血管壁において見られる(Cines,D.B.ら、J.Clin.Invest.73:611−25,1984)。血管炎に関連する関節リウマチ(悪性関節リウマチとも呼ばれる)(Tomooka,K.,Fukuoka Igaku Zasshi 80:456−66,1989)、免疫複合体血管炎、肝炎Aに関連する血管炎、白血球破砕性血管炎および高安病として知られる動脈炎は、内皮および他の細胞型に対する補体依存性細胞傷害性が、証明された役割を果たすヒト疾患の別の多形性群を形成する(Tripathy,N.K.ら、J.Rheumatol.28:805−8,2001)。
証拠はまた、補体活性化が拡張型心筋症に関与することも示唆する。拡張型心筋症は、心拡大および心臓の収縮機能の障害を特徴とする症候群である。最近のデータから、心筋層における進行中の炎症がこの疾患の発症に関与し得ることが示唆されている。補体の最後の細胞膜傷害複合体であるC5b−9は、免疫グロブリン沈着および心筋でのTNF−アルファの発現と有意に相関することが知られている。28人の拡張型心筋症を有する患者由来の心筋バイオプシーにおいて、心筋へのC5b−9の蓄積が証明されたことから、心筋層における慢性的な免疫グロブリン媒介性の補体活性化が拡張型心筋症の進行に部分的に関与し得ることが示唆される(Zwaka,T.P.ら、Am.J.Pathol.161(2):449−57,2002)。
従って、本発明の1つの態様は、心臓血管状態、脳血管状態、末梢の(例えば、筋骨格の)血管状態、腎血管状態および腸間膜/腸管の血管状態を含む血管状態を、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物を投与することによって処置することに関する。本発明が適していると考えられる状態としては:血管炎(ヘノッホ−シェーンライン紫斑病性腎炎、全身性エリテマトーデス関連血管炎、関節リウマチ(悪性関節リウマチとも呼ばれる)に関連する血管炎、免疫複合体血管炎および高安病を含む);拡張型心筋症;糖尿病性血管障害;川崎病(動脈炎);および静脈ガス塞栓(VGE)が挙げられるが、これらに限定されない。また、補体活性化が、心血管介入性手技に関連する、管腔の外傷および異物炎症性反応の結果として生じる場合、本発明のMASP−2阻害性組成物は、単独か、または他の再狭窄阻害薬剤(例えば、Demopulosに対する米国特許第6,492,332号に開示されている薬剤)と併用して、ステント留置後、回転性アテレクトミー後および/または経皮的経管的冠状動脈形成術(PTCA)後の再狭窄の阻害においても使用され得ると考えられる。
MASP−2阻害薬剤は、動脈内、静脈内、筋肉内、くも膜下腔内、頭蓋内、皮下または他の非経口投与によって、そして、潜在的には、非ペプチド作動性インヒビターについては経口的に、被験体に投与され得る。投与は、最適な治療的効果のために医師が決定するとおりに定期的に繰り返され得る。再狭窄を阻害するために、MASP−2阻害性組成物は、ステント留置もしくはアテレクトミーもしくは血管形成術の前および/または最中および/または後に投与され得る。あるいは、MASP−2阻害性組成物は、ステント上にコーティングされ得るか、またはステントの中に組み込まれ得る。
胃腸障害
潰瘍性大腸炎およびクローン病は、炎症性腸疾患(IBD)に該当する腸の慢性炎症性障害である。IBDは、起源が不明な、自然発症型で慢性の再発性の炎症を特徴とする。ヒトと実験動物の両方においてこの疾患に対する広範囲の研究がなされているにもかかわらず、正確な病理機構は、いまだ解明されていない。しかしながら、補体系が、IBDを有する患者において活性化されていると考えられており、また、疾患の病原に関与していると考えられている(Kolios,G.ら、Hepato−Gastroenterology 45:1601−9,1998;Elmgreen,J.,Dan.Med.Bull.33:222,1986)。
C3bおよび他の活性化された補体産物が、IBD患者の管腔面の表面の上皮細胞ならびに筋粘膜および粘膜下の血管において見られると示されている(Halstensen,T.S.ら、Immunol.Res.10:485−92,1991;Halstensen,T.S.ら、Gastroenterology 98:1264,1990)。さらに、通常C5a生成の結果である多形核細胞浸潤は、炎症性の腸において特徴的に見られる(Kohl,J.,Mol.Immunol.38:175,2001)。多機能性の補体インヒビターK−76はまた、小規模な臨床研究(Kitano,A.ら、Dis.Colon Rectum 35:560,1992)ならびにカラギナン誘発性大腸炎ウサギモデル(Kitano,A.ら、Clin.Exp.Immunol.94:348−53,1993)において潰瘍性大腸炎の症候性の改善がもたらされると報告されている。
新規ヒトC5aレセプターアンタゴニストは、IBDのラットモデルにおいて疾患病状から保護することが示されている(Woodruff,T.M.ら、J.Immunol.171:5514−20,2003)。膜補体制御タンパク質である崩壊促進因子(DAF)を遺伝的に欠損したマウスをIBDのモデルに使用することにより、DAF欠損が、組織損傷の顕著な増加および炎症促進性サイトカイン産生の増加をもたらすことが証明された(Lin,F.ら、J.Immunol.172:3836−41,2004)。したがって、補体の調節は、腸のホメオスタシスの制御において重要であり、IBDの発症に関与する主要な病原機構であり得る。
従って、本発明は、薬学的キャリア中に治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物を、炎症性胃腸障害(膵炎、憩室炎および腸障害(クローン病、潰瘍性大腸炎および過敏性腸症候群を含む)が挙げられるが、これらに限定されない)に罹患している患者に投与することによって、そのような障害に罹患している被験体において、MASP−2依存性の補体活性化を阻害するための方法を提供する。MASP−2阻害薬剤は、動脈内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、くも膜下腔内投与、頭蓋内投与または他の非経口投与によって、そして、潜在的には、非ペプチド作動性インヒビターについては経口的に、上記被験体に投与され得る。投与は、処置される障害の症状を管理するために医師が決定するとおりに定期的に繰り返され得る。
肺の状態
補体は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)(Ware,I.ら、N.Engl.J.Med.342:1334−49,2000);輸血関連急性肺損傷(TRALI)(Seeger,W.ら、Blood 76:1438−44,1990);虚血/再灌流急性肺損傷(Xiao,F.ら、J.Appl.Physiol.82:1459−65,1997);慢性閉塞性肺疾患(COPD)(Marc,M.M.ら、Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.(印刷に先行した電子出版),March 23,2004);喘息(Krug,N.ら、Am.J.Respir.Crit.Care Med.164:1841−43,2001);ウェゲナー肉芽腫症(Kalluri,R.ら、J.Am.Soc.Nephrol.8:1795−800,1997);および抗糸球体基底膜疾患(グッドパスチャー病(Goodpasture’s disease))(Kondo,Cら、Clin.Exp.Immunol.124:323−9,2001)を含む多くの肺の炎症性障害の病原に関わっている。
ARDSのほとんどの病態生理学が、感染または他の誘発事象に対する正常な応答として開始するが、究極的には宿主に対して著しい自己傷害(autoinjury)を引き起こす調節不全の炎症性カスケードを含むことが、現在、十分に認知されている(Stanley,T.P.,Emerging Therapeutic Targets 2:1−16,1998)。ARDSを有する患者は、広範な補体活性化(補体成分C3aおよびC5aの血漿レベルの上昇)のエビデンスをほぼ例外なく示し、補体活性化の程度は、ARDSの発症および結果と相関する(Hammerschmidt,D.F.ら、Lancet 1:947−49,1980;Solomkin,J.S.ら、J.Surgery 97:668−78,1985)。
様々な実験データおよび臨床データから、ARDSの病態生理学における補体活性化の役割が示唆される。動物モデルでは、補体の全身性の活性化により、ヒトARDSにおいて見られる組織病理と同様の組織病理を有する急性肺損傷がもたらされる(Till,G.O.ら、Am.J.Pathol.129:44−53,1987;Ward,P.A.,Am.J.Pathol.149:1081−86,1996)。全般的な補体枯渇によってまたはC5aの特異的な阻害によって補体カスケードを阻害することは、急性肺損傷の動物モデルにおいて保護をもたらす(Mulligan,M.S.ら、J.Clin.Invest.98:503−512,1996)。ラットモデルでは、sCR1は、補体媒介性および好中球媒介性の肺損傷において保護作用を有する(Mulligan,M.S.,Yehら、J.Immunol.148:1479−85,1992)。さらに、実質的にすべての補体成分が、II型肺胞細胞、肺胞マクロファージおよび肺線維芽細胞によって肺において局所的に生成され得る(Hetland,G.ら、Scand.J.Immunol.24:603−8,1986;Rothman,B.I.ら、J.Immunol.145:592−98,1990)。従って、補体カスケードは、肺の炎症およびその結果としてARDSにおける肺損傷に対して有意に関与すると十分に位置づけられている。
喘息は、本質的には炎症性疾患である。アレルギー性喘息の主要な特徴としては、種々の特異的および非特異的な刺激に対する気道の反応性亢進、過剰な気道の粘液産生、肺好酸球増加症および血清IgE濃度の上昇が挙げられる。喘息は、起源が多因子性であるが、一般に、遺伝的に感受性の個体において、通常の環境抗原に対する不適当な免疫学的応答の結果として生じると認識されている。補体系がヒト喘息肺において高度に活性化されているという事実は、十分に実証されている(Humbles,A.A.ら、Nature 406:998−01,2002;van de Graf,E.A.ら、J.Immunol.Methods 147:241−50,1992)。さらに、動物モデルおよびヒトからの最近のデータは、補体活性化が、疾患の病原に関与する重要な機構であるという証拠をもたらしている(Karp,C.L.ら、Nat.Immunol.1:221−26,2000;Bautsch,W.ら、J.Immunol.165:5401−5,2000;Drouin,S.M.ら、J.Immunol.169:5926−33,2002;Walters,D.M.ら、Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.27:413−18,2002)。喘息におけるレクチン経路の役割は、慢性真菌喘息のマウスモデルを使用した研究によって支持されている。この喘息モデルにおいて、マンナン結合レクチンが遺伝的に欠損したマウスは、正常な動物と比べて、変化した気道の反応性亢進を示す(Hogaboam,C.M.ら、J.Leukoc.Biol.75:805−14,2004)。
補体は、(a)アレルゲン−抗体複合体形成の結果としての古典経路を介した活性化;(b)アレルゲン表面上での副経路の活性化;(c)アレルゲン上の炭水化物構造の関与を介したレクチン経路の活性化;および(d)炎症細胞から放出されたプロテアーゼによるC3およびC5の切断を含むいくつかの経路を介して喘息において活性化され得る。喘息において補体によって果たされる複合体の役割についての多くがいまだ突き止められないままであるが、アレルギー性喘息の発症に関与する補体活性化経路の特定は、このますます重要な疾患に対する新規の治療的ストラテジーの発展に対する焦点を提供し得る。
動物モデルを使用した多くの研究は、アレルギー性表現型の発症において、C3およびその切断産物であるC3aに対する重大な役割を証明した。Drouinおよび共同研究者は、オバルブミン(OVA)/Aspergillus fumigatus喘息モデルにおいてC3欠損マウスを使用した(Drouinら、J.Immunol.167:4141−45,2001)。Drouinらは、C3欠損マウスは、アレルゲンに曝露されるとき、対応する野生型コントロールマウスと比べてAHRおよび肺好酸球増加症の著しい低減を示すことを見出した。さらに、これらのC3欠損マウスにおいて、IL−4産生細胞の数が劇的に減少し、Ag特異的なIgEおよびIgG1の応答が減弱した。Taubeおよび共同研究者は、マウス補体レセプターCrryの可溶性組換え型を使用し、C3およびC4のレベルにおいて補体活性化を遮断することによって、喘息のOVAモデルにおいて同様の結果を得た(Taubeら、Am.J.Respir.Crit.Care Med.168:1333−41,2003)。Humblesおよび共同研究者は、好酸球機能におけるC3aの役割を検証するためにマウスにおいてC3aRを欠失させた(Humblesら、Nature 406:998−1001,2000)。Humblesらは、喘息のOVAモデルを使用してエアロゾル化メタコリンに対するAHRの発症のほぼ完全な保護を観察した。Drouinおよび共同研究者(2002)は、OVA/A.fumigatus喘息モデルにおいてC3aR欠損マウスを使用し、そしてAHR、好酸球動員、TH2サイトカイン産生および肺における粘液分泌が低下し、ならびにAg特異的なIgEおよびIgG1の応答が減少したC3欠損動物と非常に類似したアレルギー性応答の減弱を証明した(Drouinら、J.Immunol.169:5926−33,2002)。Bautschおよび共同研究者は、C3aRが天然に欠失しているモルモットの1系統を使用して研究を行った(Bautschら、J.Immunol.165:5401−05,2000)。Bautschらは、アレルギー性喘息のOVAモデルを使用して抗原曝露後の気道の気管支収縮からの著しい保護を観察した。
動物モデルを使用した多くの最近の研究から、アレルギー性表現型の発症におけるC5およびその切断産物であるC5aに対する重大な役割が実証されている。Abeおよび共同研究者は、C5aR活性化と、気道の炎症、サイトカイン産生および気道の反応性とを結びつける証拠を報告した(Abeら、J.Immunol.167:4651−60,2001)。Abeらの研究では、可溶性CR1、フサン(futhan)(補体活性化のインヒビター)または合成ヘキサペプチドのC5aアンタゴニストによる補体活性化の阻害が、メタコリンに対する炎症性反応および気道の反応性を阻止した。遮断抗C5モノクローナル抗体を使用した研究において、Pengおよび共同研究者は、C5活性化が、喘息のOVAモデルにおいて気道の炎症とAHRの両方に対して実質的に関与することを見出した(Pengら、J.Clin.Invest.115:1590−1600,2005)。また、Baelderおよび共同研究者は、C5aRの遮断によって、喘息のA.fumigatusモデルにおけるAHRが実質的に減少することを報告した(Baelderら、J.Immunol.174:783−89,2005)。さらに、C3aRとC5aRの両方を遮断することにより、BALにおける好中球数および好酸球数の減少によって証明されるように、気道の炎症が有意に低下した。
先に列挙した研究は、実験的なアレルギー性喘息の病原における補体因子C3およびC5ならびにそれらの切断産物の重要性を強調するものであるが、C3およびC5は、3つすべての活性化経路に共通するので、これらの研究は、3つの補体活性化経路の各々の関与についての情報を提供していない。しかしながら、Hogaboamおよび共同研究者による最近の研究は、レクチン経路が、喘息の病原において主要な役割を有し得ることを示唆している(Hogaboamら、J.Leukocyte Biol.75:805−814,2004)。これらの研究では、レクチン補体経路の活性化に対する認識成分として機能する炭水化物結合タンパク質であるマンナン結合レクチン−A(MBL−A)が遺伝的に欠損したマウスを使用していた。慢性真菌喘息のモデルでは、MBL−A(+/+)およびMBL−A(−/−)のA.fumigatus感作マウスを、A.fumigatus分生子によるi.t.曝露の4日後および28日後に調べた。感作MBL−A(−/−)マウスにおけるAHRは、分生子曝露後の両方の時点において、感作MBL−A(+/+)群と比べて有意に減弱した。Hogaboamらは、肺のTH2サイトカインレベル(IL−4、IL−5およびIL−13)が、分生子曝露の4日後における野生型群よりも、A.fumigatus感作MBL−A(−/−)マウスにおけるレベルのようが有意に低いことを見出した。Hogaboamらの結果は、MBL−Aおよびレクチン経路が、慢性真菌喘息におけるAHRの発症および維持において主要な役割を有することを示唆する。
最近の臨床研究からの結果によって、特異的なMBL多型と喘息の発症との関連から、レクチン経路が、この疾患において重要な病理学的な役割を果たし得るというさらなる証拠がもたらされる(Kaurら、,Clin.Experimental Immunol.143:414−19,2006)。MBLの血漿濃度は、個体ごとに大きく異なり、このことは、第1にMBL遺伝子内の遺伝的多型に寄与し得る。彼らは、MBL発現を2倍から4倍アップレギュレートする特異的なMBL多型を少なくとも1コピー有する個体では、気管支喘息の発症のリスクがほぼ5倍高いことを見出した。このMBL多型を有する気管支喘息患者における疾患マーカーの重症度もまた増大した。
従って、本発明の1つの態様は、肺の障害(急性呼吸窮迫症候群、輸血関連急性肺損傷、虚血/再灌流急性肺損傷、慢性閉塞性肺疾患、喘息、ウェゲナー肉芽腫症、抗糸球体基底膜疾患(グッドパスチャー病)、胎便吸引症候群、閉塞性細気管支炎症候群、特発性肺線維症、熱傷に続発する急性肺損傷、非心原性肺浮腫、輸血関連呼吸抑制および気腫が挙げられるが、これらに限定されない)に罹患している被験体に、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物を投与することによって、肺の障害を処置するための方法を提供する。MASP−2阻害薬剤は、全身的に(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、吸入、経鼻、皮下または他の非経口投与によって)または、潜在的には非ペプチド作動性薬剤については経口投与によって、上記被験体に投与され得る。MASP−2阻害薬剤組成物は、抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、コルチコステロイドまたは抗菌剤を含む1つ以上のさらなる治療薬と併用してもよい。投与は、その状態が回復するまで、医師が決定するとおりに定期的に繰り返され得る。
体外循環
患者の循環器系から血液を迂回させる数多くの医学的手技(体外循環システムまたはECC)が存在する。そのような手技としては、血液透析、プラスマフェレーシス、白血球フェレーシス、体外膜型肺(ECMO)、ヘパリン誘導性体外膜型肺LDL沈降法(HELP)および心肺バイパス術(CPB)が挙げられる。これらの手技では、血液または血液製剤を、正常な細胞機能および止血を変化させ得る異質の表面に曝露する。先駆的な研究において、Craddockらは、補体活性化を血液透析中の顆粒球減少症の考えられる原因と同定した(Craddock,P.R.ら、N.Engl.J.Med.296:769−74,1977)。1977年から現在に至るまでの数多くの研究の結果から、血液透析またはCPBを受けている患者が経験する有害事象の多くは、補体系の活性化によって引き起こされることが示唆されている(Chenoweth,D.E.,Ann.N.Y.Acad.Sci.516:306−313,1987;Hugli,T.E.,Complement 3:111−127,1986;Cheung,A.K.,J.Am.Soc.Nephrol.1:150−161,1990;Johnson,R.J.,Nephrol.Dial.Transplant 9:36−45 1994)。例えば、補体を活性化させる可能性は、腎不全を有する患者の腎機能の回復、感染症に対する感受性、肺の機能不全、罹患率および生存率について、血液透析器の生体適合性の決定における重要な判定基準であることが示されている(Hakim,R.M.,Kidney Int.44:484−4946,1993)。
血液透析膜による補体活性化は、弱いC4a生成に起因して副経路の機構によって生じると広く考えられている(Kirklin,J.K.ら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.86:845−57,1983;Vallhonrat,H.ら、ASAIO J.45:113−4,1999)が、最近の研究では、古典経路も関与し得ると示唆されている(Wachtfogel,Y.T.ら、Blood 73:468−471,1989)。しかしながら、医用高分子を含む人工物の表面上において補体活性化を開始および制御する因子について未だ不適当な見解が存在する。例えば、血液透析に使用されるCuprophan膜は、非常に強力な補体アクチベーターとして分類されている。理論に拘束するつもりはないが、本発明者らは、このことは、おそらくその多糖の性質によって部分的に説明され得るとの理論を立てている。本特許において同定されるMASP−2依存性の補体活性化の系は、レクチン経路の活性化によって副経路活性化が引き起こされる機構を提供する。
CPB中にECCを受けている患者は、全身性の炎症性反応を受け、その反応は、体外循環路の人工物の表面に血液が曝露されることによってだけでなく、外科的外傷および虚血−再灌流損傷のような、その表面とは無関係の因子によっても部分的に引き起こされる(Butler,J.ら、Ann.Thorac.Surg.55:552−9,1993;Edmunds,L.H.,Ann.Thorac.Surg.66(Suppl):S12−6,1998;Asimakopoulos,G.,Perfusion 14:269−77,1999)。CPBが誘発する炎症性反応によって、一般に「体外循環後症候群」と呼ばれる手術後の合併症が生じ得る。これらの術後の事象は、認知障害(Fitch,J.ら、Circulation 100(25):2499−2506,1999)、呼吸不全、出血性障害、腎機能障害および最も重篤な場合は多臓器不全(Wan,S.ら、Chest 112:676−692,1997)である。CPBを用いた冠状動脈バイパス手術によって、CPBは用いないが同程度の外科的外傷を伴う外科術と対照的に、補体の著明な活性化がもたらされる(E.Fosse,1987)。したがって、これらのCPB関連の問題の主に疑われる原因は、バイパス手技中の補体の不適当な活性化である(Chenoweth,K.ら、N.Engl.J.Med.304:497−503,1981;P.Haslamら、Anaesthesia 25:22−26,1980;J.K.Kirklinら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.86:845−857,1983;Moore,F.D.ら、Ann.Surg 208:95−103,1988;J.Steinbergら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg 106:1901−1918,1993)。CPB回路では、補体副経路は、血液とCPB回路の人工物の表面との相互作用から生じる、補体活性化において主な役割を果たす(Kirklin,J.K.ら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.,86:845−57,1983;Kirklin,J.K.ら、Ann.Thorac.Surg.41:193−199,1986;Vallhonrat H.ら、ASAIO J.45:113−4,1999)。しかしながら、CPB中に補体古典経路が活性化されるという証拠も存在する(Wachtfogel,Y.T.ら、Blood 73:468−471,1989)。
アナフィラトキシンC3aおよびC5a、オプソニンC3bおよび細胞膜傷害複合体C5b−9を含む主な炎症性物質は、補体系の活性化後に生成される。C3aおよびC5aは、好中球、単球および血小板の強力な刺激物質である(Haeffner−Cavaillon,N.ら、J.Immunol.,139:794−9,1987;Fletcher,M.P.ら、Am.J.Physiol.265:H1750−61,1993;Rinder,C.S.ら、J.Clin.Invest.96:1564−72,1995;Rinder,C.S.ら、Circulation 100:553−8,1999)。これらの細胞の活性化によって、炎症促進性サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−8、TNFアルファ)、酸化性フリーラジカルおよびプロテアーゼの放出がもたらされる(Schindler,R.ら、Blood 76:1631−8,1990;Cruickshank,A.M.ら、Clin Sci.(Lond)79:161−5,1990;Kawamura,T.ら、Can.J.Anaesth.40:1016−21,1993;Steinberg,J.B.ら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.106:1008−1,1993;Finn,A.ら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.105:234−41,1993;Ashraf,S.S.ら、Cardiothorac.Vasc.Anesth.11:718−22,1997)。C5aは、多形核細胞(PMN)においてMac−1の接着分子CD11bおよびCD18をアップレギュレートすることおよびPMNの脱顆粒を誘導することにより炎症促進性酵素を放出することが示されている。Rinder,Cら、Cardiovasc Pharmacol.27(Suppl 1):S6−12,1996;Evangelista,V.ら、Blood 93:876−85,1999;Kinkade,J.M.,Jr.ら、Biochem.Biophys.Res.Commun.114:296−303,1983;Lamb,N.J.ら、Crit.Care Med.27:1738−44,1999;Fujie,K.ら、Eur.J.Pharmacol.374:117−25,1999。C5b−9は、血小板上での接着分子P−セレクチン(CD62P)の発現を誘導する(Rinder,C.S.ら、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.118:460−6,1999)のに対し、C5aとC5b−9の両方は、内皮細胞上でP−セレクチンの表面発現を誘導する(Foreman,K.E.ら、J.Clin.Invest.94:1147−55,1994)。これらの接着分子は、白血球と血小板と内皮細胞との相互作用に関与する。活性化された内皮細胞上での接着分子の発現は、活性化された白血球の隔離に関与し、その白血球は、組織の炎症および損傷を媒介する(Evangelista,V.,Blood 1999;Foreman,K.E.,J.Clin.Invest.1994;Lentsch,A.B.ら、J.Pathol.190:343−8,2000)。それは、CPB後に生じる様々な問題をもたらし得る、好中球上、単球上、血小板上および他の循環細胞上における、これらの補体活性化産物の作用である。
いくつかの補体インヒビターは、CPBにおける潜在的な応用法について研究されている。それらの補体インヒビターとしては、組換え可溶性補体レセプター1(sCR1)(Chai,P.J.ら、Circulation 101:541−6,2000)、ヒト化一本鎖抗C5抗体(h5G1.1−scFvまたはパキセリズマブ)(Fitch,J.C.K.ら、Circulation 100:3499−506,1999)、ヒトメンブレンコファクタープロテインとヒト崩壊促進因子との組換え融合ハイブリッド(CAB−2)(Rinder,C.S.ら、Circulation 100:553−8,1999)、13残基のC3結合環状ペプチド(コンプスタチン(Compstatin))(Nilsson,B.ら、Blood 92:1661−7,1998)および抗D因子MoAb(Fung,M.ら、J.Thoracic Cardiovasc.Surg.122:113−22,2001)が挙げられる。SCR1およびCAB−2は、C3およびC5の活性化の工程において古典経路および補体副経路を阻害する。コンプスタチンは、C3活性化の工程において両方の補体経路を阻害するのに対し、h5G1.1−scFvは、C5活性化の工程においてのみ両方の補体経路を阻害する。抗D因子MoAbは、C3およびC5の活性化の工程において副経路を阻害する。しかしながら、これらの補体インヒビターは、本特許において同定されたMASP−2依存性の補体活性化の系を特異的に阻害しないだろう。
冠状動脈バイパス術(CABG)において周術期のMIおよび死亡率を低下させる際のヒト化一本鎖抗C5抗体(h5G1.1−scFv、パキセリズマブ)の有効性および安全性を調べる大規模な前向き第3相臨床研究からの結果が報告されている(Verrier,E.D.ら、JAMA 291:2319−27,2004)。プラセボと比べて、パキセリズマブは、CABG外科術を受けていた2746人の患者において死亡またはMIの複合エンドポイントのリスクの有意な低下に関与しなかった。しかしながら、弁外科術を伴うかまたは伴わないCABG外科術を受けている3099人すべての患者の間においてその手技の30日後に統計学的に有意な低下が認められた。パキセリズマブは、C5活性化の工程において阻害するので、パキセリズマブは、C5aおよびsC5b−9の生成を阻害するが、C3aおよびオプソニンC3b(他の2つの強力な補体炎症性物質であり、CPBを引き起こす炎症性反応に関与することも知られている)の生成に影響しない。
従って、本発明の1つの態様は、血液透析、プラスマフェレーシス、白血球フェレーシス、体外膜型肺(ECMO)、ヘパリン誘導性体外膜型肺LDL沈降法(HELP)および心肺バイパス術(CPB)を受けている患者を含む、体外循環手技を受けている被験体を、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物で処置することによって、体外曝露によって引き起こされる炎症性反応を予防または処置することに関する。本発明の方法に従うMASP−2阻害薬剤処置は、CPB手技によって時折もたらされる認知性の機能不全の低減または予防に有用であると考えられている。MASP−2阻害薬剤は、手技前におよび/または手技中におよび/または手技後に、例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、皮下または他の非経口投与によって上記被験体に投与され得る。あるいは、MASP−2阻害薬剤は、例えば、MASP−2阻害薬剤を、血液が循環する管組織もしくは膜に注射することによって、または、血液をMASP−2阻害薬剤でコーティングされた表面(例えば、管組織の内壁、膜またはCPBデバイスなどのその他の表面)に接触させることによって、体外循環中に被験体の血流に導入され得る。
炎症性および非炎症性の関節炎ならびにその他の筋骨格疾患
補体系の活性化は、関節リウマチ(Linton,S.M.ら、Molec.Immunol.36:905−14,1999)、若年性関節リウマチ(Mollnes,T.E.ら、Arthritis Rheum.29:1359−64,1986)、変形性関節症(Kemp,P.A.ら、J.Clin.Lab.Immunol.37:147−62,1992)、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosis)(SLE)(Molina,H.,Current Opinion in Rheumatol.14:492−497,2002)、ベーチェット症候群(Rumfeld,W.R.ら、Br.J.Rheumatol.25:266−70,1986)およびシェーグレン症候群(Sanders,M.E.ら、J.Immunol.138:2095−9,1987)を含む多岐にわたるリウマチ学的疾患の病原に関わっている。
免疫複合体が引き起こす補体活性化が、関節リウマチ(RA)における組織の損傷に関与する主要な病理学的な機構であるという有力な証拠がある。補体活性化産物が、RA患者の血漿中で上昇すると実証している数多くの刊行物が存在する(Morgan,B.P.ら、Clin.Exp.Immunol,73:473−478,1988;Auda,G.ら、Rheumatol.Int.10:185−189,1990;Rumfeld,W.R.ら、Br.J.Rheumatol.25:266−270,1986)。補体活性化産物(例えば、C3a、C5aおよびsC5b−9)もまた、炎症性のリウマチ性の関節内で認められ、そして補体活性化の程度とRAの重症度との間に正の相関が証明されている(Makinde,V.A.ら、Ann.Rheum.Dis.48:302−306,1989;Brodeur,J.P.ら、Arthritis Rheumatism 34:1531−1537,1991)。成人性と若年性の両方の関節リウマチにおいて、C4d(古典経路活性化についてのマーカー)よりも、副経路の補体活性化産物Bbの血清レベルおよび滑液レベルが高いことから、補体活性化は、主に副経路によって媒介されることが示唆される(El−Ghobarey,A.F.ら、J.Rheumatology 7:453−460,1980;Agarwal,A.ら、Rheumatology 39:189−192,2000)。補体活性化産物は、直接、組織を損傷し得る(C5b−9を介して)か、またはアナフィラトキシンのC3aおよびC5aによって炎症細胞の動員を介して炎症を間接的に媒介し得る。
実験的な関節炎の動物モデルは、RAの病原における補体の役割を調べるために広く使用されている。RAの動物モデルにおけるコブラ毒因子による補体枯渇は、関節炎の発症を予防する(Morgan,K.ら、Arthritis Rheumat.24:1356−1362,1981;Van Lent,P.L.ら、Am.J.Pathol.140:1451−1461,1992)。RAのラットモデルにおいて、補体インヒビターである可溶型の補体レセプター1(sCR1)の関節内注射によって炎症が抑制された(Goodfellow,R.M.ら、Clin.Exp.Immunol.110:45−52,1997)。さらに、sCR1は、ラットコラーゲン誘発性関節炎の発症および進行を阻害する(Goodfellow,R.M.ら、Clin Exp.Immunol.119:210−216,2000)。可溶性CR1は、副経路と古典経路の両方におけるC3およびC5の活性化の工程において古典経路および補体副経路を阻害し、それによって、C3a、C5aおよびsC5b−9の生成が阻害される。
1970年代後半に、異種性のII型コラーゲン(CII;ヒト関節軟骨の主要なコラーゲン成分)でげっ歯類を免役することによって、ヒトRAに著しく類似した自己免疫性関節炎(コラーゲン誘発性関節炎またはCIA)が発症することが認識された(Courtenay,J.S.ら、Nature 283:666−68(1980),Bandaら、J.of Immunol.171:2109−2115(2003))。感受性の動物における自己免疫性応答は、特異的な主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatability complex)(MHC)分子、サイトカインならびにCII特異的なB細胞およびT細胞の応答を含む因子の複雑な組み合わせに関与する(Myers,L.K.ら、Life Sciences 61:1861−78,1997によって概説されている)。ほぼ40%の近交系マウスが補体成分C5を完全に欠失しているという観察結果(Cinader,B.ら、J.Exp.Med.120:897−902,1964)から、C5欠損系統とC5が十分な系統とのCIAを比較することによってこの関節炎モデルにおける補体の役割を探索する間接的な機会がもたらされた。そのような研究からの結果は、C5が十分な状態は、CIAの発症に絶対必要条件であることを示唆する(Watsonら、1987;Wang,Y.ら、J.Immunol.164:4340−4347,2000)。RAにおけるC5および補体の重要性のさらなる証拠は、抗C5モノクローナル抗体(MoAb)を使用することによってもたらされた。CIAのマウスモデルにおける抗C5 MoAbの予防的な腹腔内投与によって、疾患の発症がほぼ完全に予防され、活性な関節炎中の処置によって、有意な臨床上の利点と、より軽度の組織学的疾患の両方がもたらされた(Wang,Y.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:8955−59,1995)。
疾患の病原における補体活性化の潜在的な役割に関するさらなる見識は、最近開発された炎症性関節炎のモデルであるK/BxN T細胞レセプタートランスジェニックマウスを使用した研究によってもたらされた(Korganow,A.S.ら、Immunity 10:451−461,1999)。すべてのK/BxN動物は、ヒトにおけるRAのほとんどの(すべてではないが)臨床的、組織学的および免疫学的な特徴を有する自己免疫疾患を自然発症的に発症する。さらに、関節炎のK/BxNマウス由来の血清を健常な動物に移すことにより、関節炎を発症させる免疫グロブリンの移入によって数日以内に関節炎が誘発される。疾患の発症に必要な特異的な補体活性化工程を同定するために、関節炎のK/BxNマウス由来の血清を、特定の補体経路産物が遺伝的に欠損した様々なマウスに移入した(Ji,H.ら、Immunity 16:157−68,2002)。興味深いことに、この研究の結果は、副経路の活性化が重大であるのに対し、古典経路の活性化は無くても済むことを証明した。さらに、C5欠損マウスとC5aR欠損マウスの両方が、疾患の発症から保護されたので、C5aの生成は、重大である。これらの結果と一致して、以前の研究では、C5aレセプター発現の遺伝的除去によって、関節炎からマウスが保護されると報告された(Grant,E.P.ら、J.Exp.Med.196:1461−1471,2002)。
ヒト補体成分C5がその炎症促進性成分に切断されることを妨害するヒト化抗C5 MoAb(5G1.1)が、RA用の潜在的な処置としてAlexion Pharmaceuticals,Inc.,New Haven,Connecticutによって開発中である。
2つの研究グループは、独立して、レクチン経路が、MBLと特定のIgGグリコフォームとの相互作用を介してRA患者における炎症を促進すると提案している(Malhotraら、Nat.Med.1:237−243,1995;Cuchacovichら、J.Rheumatol.23:44−51,1996)。RAは、IgG分子のFc領域においてガラクトースを欠くIgGグリコフォーム(IgG0グリコフォームとも呼ばれる)の著明な増加に関連する(Ruddら、Trends Biotechnology 22:524−30,2004)。IgG0グリコフォームのパーセンテージは、疾患の進行とともに増加し、患者が緩解の状態に入ると正常値に戻る。インビボにおいて、IgG0は、滑膜組織上に沈着し、MBLは、RAを有する個体の滑液中に高レベルで存在する。RAに関連する、密集したIgG上に凝集した無ガラクトシル(agalactosyl)IgG(IgG0)は、マンノース結合レクチン(MBL)に結合し得、補体のレクチン経路を活性化し得る。さらに、RA患者におけるMBLの対立遺伝子改変体を調べた最近の臨床研究からの結果は、MBLが、その疾患において炎症を促進する役割を有し得ることを示唆している(Garredら、J.Rheumatol.27:26−34,2000)。したがって、レクチン経路は、RAの病原において重要な役割を有し得る。
全身性エリテマトーデス(SLE)は、自己抗体の産生、循環免疫複合体の生成および制御されていない一時的な補体系の活性化をもたらす、病因が不明確な自己免疫疾患である。SLEにおける自己免疫の起源は、わかりにくいままであるが、現在、この疾患における血管の損傷に関与する重要な機構として補体活性化を関連づけるかなりの情報が、入手可能である(Abramson,S.B.ら、Hospital Practice 33:107−122,1998)。補体の古典経路と副経路の両方の活性化が、この疾患に関与し、また、C4dとBbの両方が、中等度から重篤な狼瘡疾患活性の感受性マーカーである(Manzi,S.ら、Arthrit.Rheumat.39:1178−1188,1996)。補体副経路の活性化は、妊娠中の全身性エリテマトーデスにおける疾患発赤を併発する(Buyon,J.P.ら、Arthritis Rheum.35:55−61,1992)。さらに、最近、MBLに対する自己抗体が、SLE患者由来の血清中で同定されたので、レクチン経路は、疾患の発症に関与し得る(Seelen,M.A.ら、Clin Exp.Immunol.134:335−343,2003)。
古典経路を介した免疫複合体媒介性の補体活性化は、SLE患者において組織損傷が起きる1つの機構であると考えられている。しかしながら、古典経路の補体成分の遺伝的な欠損によって、狼瘡および狼瘡様疾患のリスクが増加する(Pickering,M.C.ら、Adv.Immunol.76:227−324,2000)。C1q、C1r/C1s、C4またはC3が完全に欠損している人のうち80%を超える人において、SLEまたは関連症候群が起きる。これは、狼瘡における補体の有害な作用と保護的な作用とを調和させる際の明らかな逆説を表している。
古典経路の重要な活性は、単核の食細胞系によって循環および組織からの免疫複合体の除去を促進することであるとみられる(Kohler,P.F.ら、Am.J.Med.56:406−11,1974)。さらに、補体は、アポトーシス小体の除去および処分において重要な役割を有すると最近見出された(Mevorarch,D.ら、J.Exp.Med.188:2313−2320,1998)。古典経路機能の欠損により、免疫複合体またはアポトーシス細胞が組織に蓄積し、炎症および自己抗原の放出を引き起こす(その後、自己抗体およびより多くの免疫複合体の産生を刺激し、それによって自己免疫性応答を惹起する)サイクルが開始するのを可能にすることによって、被験体がSLEを発症しやすくなり得る(Botto,M.ら、Nat.Genet.19:56−59,1998;Botto,M.,Arthritis Res.3:201−10,2001)。しかしながら、これらの古典経路成分の「完全な」欠損状態は、SLEを有する患者100人のうち約1人に存在するだけである。したがって、圧倒的多数のSLE患者では、古典経路成分における補体の欠損は、この疾患の病因に関与せず、また、補体活性化は、SLE病原に関与する重要な機構であり得る。古典経路成分が永続して遺伝的に欠損した珍しい個体が、生存中の同じ時点においてしばしばSLEを発症するという事実は、この疾患を引き起こすことができる機構の冗長性を証明する。
SLEの動物モデルからの結果は、この疾患の病原における補体活性化の重要な役割を支持する。遮断抗C5 MoAbを使用してC5の活性化を阻害することによって、SLEのマウスモデルであるNZB/NZW F1マウスにおいて、タンパク尿および腎臓の疾患が低減した(Wang Y.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:8563−8,1996)。さらに、抗DNA抗体を分泌する細胞が移植された重症複合免疫不全疾患を有するマウスの抗C5 MoAbを用いて処置することによって、未処置コントロールと比べて、生存に関連する利点とともにタンパク尿および腎臓の組織像の改善がもたらされる(Ravirajan,C.T.ら、Rheumatology
43:442−7,2004)。B因子欠損マウスをSLEのMRL/lprモデルに戻し交雑させることによって、B因子の欠損が、他の自己抗体のレベルは変化させずに、このモデルにおいて代表的に見られる血管炎、糸球体疾患、C3消費およびIgG3 RFレベルを低下させるということが明らかになったので、副経路はまた、自己免疫疾患のSLEの症状発現において重要な役割を有する(Watanabe,H.ら、J.Immunol.164:786−794,2000)。ヒト化抗C5 MoAbは、SLEに対する潜在的な処置として研究中である。この抗体は、C5のC5aおよびC5bへの切断を妨害する。第I相臨床試験において、重篤な有害作用は示されず、SLEにおける有効性を決定するために、さらなるヒトでの治験が進行中である(Strand,V.,Lupus 10:216−221,2001)。
ヒトと動物での試験の両方からの結果は、補体系が、筋ジストロフィの病原に直接関与するという可能性を支持する。ヒトのジストロフィバイオプシーの研究から、ジストロフィの筋肉における壊死性と非壊死性の両方の線維上にC3およびC9が沈着することが示された(Cornelio and Dones,Ann.Neurol.16:694−701,1984;Spuler and Engel,A.G.,Neurology 50:41−46,1998)。DNAマイクロアレイ法を使用して、Porterおよび共同研究者は、ジストロフィン欠損(mdx)マウスにおいて、ジストロフィの疾患の発症と一致して数多くの補体関連mRNAの遺伝子発現が著明に増大していることを見出した(Porterら、Hum.Mol.Genet.11:263−72,2002)。
膜貫通型筋肉タンパク質であるジスフェリン(dysferlin)をコードするヒト遺伝子の変異は、2つの型の骨格筋疾患、すなわち、肢帯筋ジストロフィ(LGMD)および三好ミオパチーに対する主要な危険因子として同定されている(Liuら、Nat.Genet.20:31−6,1998)。ジスフェリンの変異を有するいくつかのマウスモデルが開発されており、また、そのマウスモデルは、進行性の筋ジストロフィも発症する。補体カスケードの活性化は、LGMDを有する数人の患者において非壊死性筋肉線維の表面上で同定されている(Spuler and Engel.,Neurology 50:41−46,1998)。最近の研究において、Wenzelおよび共同研究者は、マウスとヒトの両方のジスフェリン欠損筋肉線維が、C5b−9 MAC(細胞膜傷害複合体)の特異的なインヒビターである補体阻害性因子CD33/DAFを有しないことを示した(Wenzelら、J.Immunol.175:6219−25,2005)。結果として、ジスフェリン欠損非壊死性筋細胞は、補体媒介性の細胞溶解に対してより感受性である。Wenzelおよび共同研究者は、骨格筋細胞の補体媒介性溶解が、患者におけるLGMDおよび三好ミオパチーの発症に関与する主要な病理学的な機構であり得ることを示唆している。Connollyおよび共同研究者は、先天性のジストロフィの重篤なモデル(ラミニンα2欠損であるdy−/−マウス)の病原における補体C3の役割について研究した(Connollyら、J.Neuroimmunol.127:80−7,2002)。Connollyらは、C3とラミニンα2の両方が遺伝的に欠損した動物を作製し、そして筋ジストロフィのdy−/−モデルにおいてC3が長く残存しないことを見出した。さらに、ダブルノックアウト(C3−/−、dy−/−)マウスは、dy−/−マウスよりも高い筋力を示した。この研究から、補体系が、この型の先天性のジストロフィの病原に直接関与し得ることが示唆される。
従って、本発明の1つの態様は、炎症性および非炎症性の関節炎ならびに他の筋骨格障害(変形性関節症、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、痛風、神経障害性関節症、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎もしくは他の脊椎関節症および結晶性関節症、筋ジストロフィまたは全身性エリテマトーデス(SLE)が挙げられるが、これらに限定されない)に罹患している被験体に、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物を投与することによって、そのような障害を予防または処置することに関する。MASP−2阻害薬剤は、全身的に(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、皮下または他の非経口投与によって)または、潜在的には非ペプチド作動性薬剤については経口投与によって、上記被験体に投与され得る。あるいは、投与は、局所送達(例えば、関節内注射)によってであり得る。MASP−2阻害薬剤は、慢性状態の処置または管理に対して長期間にわたって定期的に投与され得るか、または関節に対して行われる外科的手技を含む急性の外傷または損傷の前、最中および/もしくは後の時期において、単回投与または反復投与によってであり得る。
腎臓の状態
補体系の活性化は、メサンギウム増殖性糸球体腎炎(IgA−腎症、ベルガー病)(Endo,M.ら、Clin.Nephrology 55:185−191,2001)、膜性糸球体腎炎(Kerjashki,D.,Arch B Cell Pathol.58:253−71,1990;Brenchley,P.E.ら、Kidney Int.,41:933−7,1992;Salant,D.J.ら、Kidney Int.35:976−84,1989)、膜性増殖性糸球体腎炎(メサンギウム毛細血管性糸球体腎炎)(Bartlow,B.G.ら、Kidney Int.15:294−300,1979;Meri,S.ら、J.Exp.Med.175:939−50,1992)、急性感染後糸球体腎炎(レンサ球菌感染後糸球体腎炎)、クリオグロブリン血症性糸球体腎炎(Ohsawa,I.ら、Clin Immunol.101:59−66,2001)、ループス腎炎(Gatenby,P.A.,Autoimmunity 11:61−6,1991)およびヘノッホ−シェーンライン紫斑病性腎炎(Endo,M.ら、Am.J.Kidney Dis.35:401−407,2000)を含む多岐にわたる腎臓の疾患の病原に関わる。腎臓の疾患における補体の関与は、数十年間にわたって理解されてきたが、腎臓の疾患の発症、進行および回復相における正確な役割について、未だ大きな議論の余地がある。正常な条件下では、補体の寄与は、宿主にとって有益であるが、補体の不適当な活性化および沈着は、組織損傷の一因となり得る。
糸球体の炎症である糸球体腎炎は、糸球体または尿細管構造上への免疫複合体の沈着によって開始することが多く、その後、補体活性化、炎症および組織の損傷が引き起こされるという実質的な証拠がある。KahnおよびSinniahは、様々な型の糸球体腎炎を有する患者から採取したバイオプシーの尿細管基底膜においてC5b−9の沈着が増大していたことを証明した(Kahn,T.N.ら、Histopath.26:351−6,1995)。IgA腎臓病学による患者の研究において(Alexopoulos,A.ら、Nephrol.Dial.Transplant 10:1166−1172,1995)、尿細管上皮/基底膜構造におけるC5b−9沈着は、血漿クレアチニンレベルと相関した。膜性腎症の別の研究からは、臨床成績と尿中sC5b−9レベルとの関係性が証明された(Kon,S.P.ら、Kidney Int.48:1953−58,1995)。sC5b−9レベルの上昇は、不良な予後と正の相関を示した。Lehtoらは、膜性糸球体腎炎を有する患者由来の原形質膜における細胞膜傷害複合体を阻害する補体制御因子であるCD59のレベルならびに尿中のC5b−9のレベルの上昇を測定した(Lehto,T.ら、Kidney Int.47:1403−11,1995)。これらの同じ患者から採取したバイオプシーサンプルの病理組織学的解析から、糸球体におけるC3およびC9タンパク質の沈着が証明されたのに対し、これらの組織のCD59の発現は、正常な腎臓組織のCD59の発現よりも低かった。これらの様々な研究から、進行中の補体媒介性の糸球体腎炎が、組織損傷および疾患予後の程度と相関する補体タンパク質の尿中排出をもたらすことが示唆される。
糸球体腎炎の様々な動物モデルにおける補体活性化の阻害によってもまた、この疾患の病因における補体活性化の重要性が証明された。膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)のモデルにおいて、C6欠損ラット(C5b−9を形成することができない)に抗Thy1抗血清を注入することによって、糸球体細胞の増殖が90%少なくなり、血小板およびマクロファージ浸潤が80%低下し、IV型コラーゲン合成(メサンギウム基質の増殖についてのマーカー)が減少し、そしてタンパク尿がC6+正常ラットよりも50%少なくなった(Brandt,J.ら、Kidney Int.49:335−343,1996)。これらの結果は、C5b−9を、このラット抗胸腺細胞血清モデルにおける補体による組織の損傷の主要なメディエーターとして関係づける。糸球体腎炎の別のモデルにおいて、ウサギ抗ラット糸球体基底膜の段階的用量の注入によって、コブラ毒因子(補体を消費する)による前処置によって減弱した多形核白血球(PMN)の用量依存的流入がもたらされた(Scandrett,A.L.ら、Am.J.Physiol.268:F256−F265,1995)。コブラ毒因子で処置したラットは、組織病理の低下、長期間にわたるタンパク尿の減少およびコントロールラットよりも低いクレアチニンレベルも示した。ラットにおけるGNの3つのモデル(抗胸腺細胞血清、ConA抗ConAおよび受動(passive)ヘイマン腎炎)を使用して、Couserらは、組換えsCR1タンパク質を使用することによって補体を阻害するアプローチの潜在的な治療的有効性を証明した(Couser,W.G.ら、J.Am.Soc.Nephrol.5:1888−94,1995)。sCR1で処置したラットは、コントロールラットに対して、PMNの有意な減少、血小板およびマクロファージ流入、メサンギウム融解およびタンパク尿の減少を示した。糸球体腎炎における補体活性化の重要性のさらなる証拠は、NZB/W F1マウスモデルにおける抗C5 MoAbの使用によって提供されている。抗C5 MoAbは、C5の切断を阻害するので、C5aおよびC5b−9の生成を遮断する。6ヶ月間にわたる継続的な抗C5 MoAbによる治療によって、糸球体腎炎の経過の有意な回復がもたらされた。ヒト補体成分C5をその炎症促進性成分に切断することを妨害するヒト化抗C5 MoAbモノクローナル抗体(5G1.1)が、糸球体腎炎に対する潜在的な処置としてAlexion Pharmaceuticals,Inc.,New Haven,Connecticutによって開発中である。
腎臓の損傷における補体の病理学的な役割についての直接的な証拠は、特定の補体成分が遺伝的に欠損した患者の研究によってもたらされる。多くの報告が、腎臓の疾患と補体制御因子Hの欠損との関連を実証している(Ault,B.H.,Nephrol.14:1045−1053,2000;Levy,M.ら、Kidney Int.30:949−56,1986;Pickering,M.C.ら、Nat.Genet.31:424−8,2002)。H因子の欠損により、血漿中の低レベルのB因子およびC3ならびにC5b−9の消費がもたらされる。非定型膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)と特発性溶血性尿毒症症候群(HUS)の両方が、H因子欠損に関連する。H因子欠損ブタ(Jansen,J.H.ら、Kidney Int.53:331−49,1998)およびH因子ノックアウトマウス(Pickering,M.C,2002)は、MPGN様症状を示すことから、補体制御におけるH因子の重要性が確認される。他の補体成分の欠損は、全身性エリテマトーデス(SLE)の進行に続発する腎臓の疾患に関連する(Walport,M.J.,Daviesら、Ann.N.Y.Acad.Sci.815:267−81,1997)。C1q、C4およびC2に対する欠損は、免疫複合体およびアポトーシス材料の不完全なクリアランスに関係する機構を介してSLEに進行しやすくする。これらのSLE患者の多くにおいて、糸球体全体への免疫複合体の沈着を特徴とするループス腎炎が起きる。
補体活性化と腎臓の疾患とを結び付けるさらなる証拠は、補体成分に対して産生された自己抗体の、患者における同定によってもたらされ、その自己抗体の一部は、腎臓の疾患に直接関係している(Trouw,L.A.ら、Mol.Immunol.38:199−206,2001)。多くのこれらの自己抗体は、腎臓の疾患と非常に高い程度の相関を示すので、この活性を指摘するために腎炎因子(NeF)という用語を導入した。臨床研究では、腎炎因子が陽性である患者の約50%がMPGNを発症した(Spitzer,R.E.ら、Clin.Immunol.Immunopathol.64:177−83,1992)。C3NeFは、副経路C3コンバターゼ(C3bBb)に対して産生された自己抗体であり、このコンバターゼを安定化することによって、副経路の活性化を促進する(Daha,M.R.ら、J.Immunol.116:1−7,1976)。同様に、C4NeFと呼ばれる古典経路C3コンバターゼ(C4b2a)に対する特異性を有する自己抗体は、このコンバターゼを安定化することによって、古典経路の活性化を促進する(Daha,M.R.ら、J.Immunol.125:2051−2054,1980;Halbwachs,L.ら、J.Clin.Invest.65:1249−56,1980)。抗C1q自己抗体は、SLE患者における腎炎に関係することが報告されており(Hovath,L.ら、Clin.Exp.Rheumatol.19:667−72,2001;Siegert,Cら、J.Rheumatol.18:230−34,1991;Siegert,Cら、Clin.Exp.Rheumatol.10:19−23,1992)、また、これらの抗C1q自己抗体の力価の上昇が、腎炎の発赤を予測すると報告された(Coremans,I.E.ら、Am.J.Kidney Dis.26:595−601,1995)。SLE患者の死後の腎臓から溶出された免疫沈着物は、これらの抗C1q自己抗体の蓄積を明らかにした(Mannick,M.ら、Arthritis Rheumatol.40:1504−11,1997)。これらすべての事実は、これらの自己抗体に対する病理学的な役割を指摘するものである。しかしながら、抗C1q自己抗体を有するすべての患者が、腎臓の疾患を発症するわけではなく、一部の健常な個体も低力価の抗C1q自己抗体を有する(Siegert,C.E.ら、Clin.Immunol.Immunopathol.67:204−9,1993)。
補体活性化の副経路および古典経路に加えて、レクチン経路も、腎臓の疾患における重要な病理学的な役割を有し得る。ヘノッホ−シェーンライン紫斑病性腎炎(Endo,M.ら、Am.J.Kidney Dis.35:401−407,2000)、クリオグロブリン血症性糸球体腎炎(Ohsawa,I.ら、Clin.Immunol.101:59−66,2001)およびIgAニューロパシー(Endo,M.ら、Clin.Nephrology 55:185−191,2001)を含むいくつかの異なる腎臓の疾患と診断された患者から得られた腎臓のバイオプシー材料上において、MBL、MBL関連セリンプロテアーゼおよび補体活性化産物のレベルの上昇が免疫組織化学的手法によって検出されている。したがって、数十年間、補体と腎臓疾患との関連が知られていたという事実があるにもかかわらず、正確には補体がこれらの腎臓の疾患にどのように影響するのかに関するデータは、完全には程遠い。
従って、本発明の1つの態様は、腎臓状態(メサンギウム増殖性糸球体腎炎、膜性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎(メサンギウム毛細血管性糸球体腎炎)、急性感染後糸球体腎炎(レンサ球菌感染後糸球体腎炎)、クリオグロブリン血症性糸球体腎炎、ループス腎炎、ヘノッホ−シェーンライン紫斑病性腎炎またはIgA腎症が挙げられるが、これらに限定されない)に罹患している被験体に、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物を投与することによって、そのような障害を処置することに関する。MASP−2阻害薬剤は、全身的に(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、皮下または他の非経口投与によって)または、潜在的には非ペプチド作動性薬剤については経口投与によって、上記被験体に投与され得る。MASP−2阻害薬剤は、慢性状態の処置もしくは管理のために長期間にわたって定期的に投与され得るか、または急性の外傷もしくは損傷の前、最中または後の時期において、単回投与もしくは反復投与によってであり得る。
皮膚障害
乾癬は、何百万人もが発症し、遺伝的要因と環境要因の両方が原因である、慢性で消耗性の皮膚状態である。一般に、局所的な薬剤ならびにUVBおよびPUVA光線療法が、乾癬に対して最も重要な処置であると考えられている。しかしながら、全身的またはより広範な疾患に対しては、全身性治療が、主要な処置であるか、またはいくつかの場合においては、UVBおよびPUVA治療を強化すると示唆されている。
乾癬などの様々な皮膚疾患の根底にある病因は、補体系の関与を含む免疫および炎症促進性のプロセスに対する役割を支持する。さらに、補体系の役割は、重要な非特異的皮膚防御機構として証明されている。その活性化によって、正常な宿主防御の維持を補助するだけでなく、炎症および組織損傷を媒介する産物が生成される。補体の炎症促進性産物としては、オプソニン活性および細胞刺激活性を有するC3の大フラグメント(C3bおよびC3bi)、低分子量アナフィラトキシン(C3a、C4aおよびC5a)および細胞膜傷害複合体が挙げられる。それらのうち、C5aまたはその分解産物であるC5a des Argは、炎症細胞に対して強力な走化性作用を発揮するので、最も重要なメディエーターであるとみられる。C5aアナフィラトキシンの皮内投与により、免疫複合体媒介性の補体活性化によって起きる皮膚の過敏性血管炎において観察されるものとかなり類似した、皮膚の変化が誘導される。補体活性化は、自己免疫性水疱性皮膚疾患における炎症性変化の病原に関与する。表皮における天疱瘡抗体による補体活性化は、好酸球性海綿状態と呼ばれる特徴的な炎症性変化の発症に関与するとみられる。水疱性類天疱瘡(BP)では、基底膜領域の抗原とBP抗体との相互作用によって、真皮表皮接合部に並ぶ白血球に関連するとみられる補体活性化がもたらされる。結果として生じるアナフィラトキシンは、浸潤性の白血球を活性化するだけでなく、マスト細胞の脱顆粒を誘導し、それによって、真皮表皮の分離および好酸球浸潤が促進される。同様に、補体活性化は、後天性表皮水疱症および妊娠性疱疹における著明な真皮表皮の分離において、より直接的な役割を果たすとみられる。
乾癬における補体の関与についての証拠は、乾癬および関連疾患における炎症性変化についての病態生理学的機構に関連する文献に記載されている最近の実験による知見によってもたらされる。ますます多くの証拠によって、T細胞性免疫が、乾癬性病変を引き起こし、そして維持する際の重要な役割を果たすことが示唆されている。乾癬性病変における活性化T細胞によって産生されるリンフォカインは、表皮の増殖に対して強い影響を有することが明らかにされている。角質層の下への特徴的な好中球の蓄積が、乾癬性病変の炎症の強い領域において観察され得る。好中球は、刺激されたケラチノサイトによって放出されるケモカインとIL−8とGro−アルファとの相乗作用によって、および、特に補体の副経路活性化を介して生成されるC5a/C5a des−argによって、走化的に誘引され、そして活性化される(Terui,T.,Tahoku J.Exp.Med.190:239−248,2000;Terui,T.,Exp.Dermatol.9:1−10,2000)。
乾癬性板状鱗屑抽出物は、周期的な表皮を通過する白血球走化性の誘導に関与する可能性がある固有の走化性ペプチド画分を含む。最近の研究では、この画分中の2つの無関係な走化性ペプチド、すなわち、C5a/C5a des Argおよびインターロイキン8(IL−8)ならびにその関連サイトカインの存在が同定された。表皮を通過する白血球遊走ならびに乾癬性病変におけるそれらの相互関係に対するそれらの相対的な関与を調べるために、乾癬性損傷性板状鱗屑抽出物における免疫反応性C5a/C5a desArgおよびIL−8の濃度ならびに関連する無菌性膿疱性皮膚疾患からのそれらの濃度を定量化した。C5a/C5a desArgおよびIL−8の濃度は、非炎症性正常角化皮膚からの角質組織抽出物における濃度よりも損傷性皮膚からの角質組織抽出物における濃度のほうが著しく高いことが見出された。C5a/C5a desArg濃度の上昇は、損傷性板状鱗屑抽出物に特異的であった。これらの結果に基づいて、C5a/C5a desArgは、補体活性化を優先的に支持する特定の状況下の炎症性の損傷性皮膚においてのみ産生されるとみられる。このことから、乾癬性病変を寛解させるために補体活性化のインヒビターを使用することの理論的根拠がもたらされる。
補体系の古典経路が、乾癬において活性化されることが示されているが、乾癬における炎症性反応において副経路の関与に関する報告は少ない。補体活性化経路の従来の見解では、補体フラグメントであるC4dおよびBbは、それぞれ古典経路および副経路が活性化されるときに放出される。したがって、C4dまたはBbフラグメントの存在は、古典経路および/または副経路を介して進む補体活性化を示す。1つの研究では、酵素免疫測定法を使用して、乾癬性板状鱗屑抽出物中のC4dおよびBbのレベルを測定した。これらの皮膚疾患の板状鱗屑は、非炎症性皮膚の角質層におけるレベルよりも高いレベルの、酵素免疫測定法によって検出可能なC4dおよびBbを含んでいた(Takematsu,H.ら、Dermatologica 181:289−292,1990)。これらの結果は、副経路が、補体の古典経路に加えて、乾癬性損傷性皮膚において活性化されることを示唆する。
乾癬およびアトピー性皮膚炎における補体の関与についてのさらなる証拠は、アトピー性皮膚炎(AD)を有する35人の患者および軽度から中等度の段階における乾癬を有する24人の患者の末梢血中の正常な補体成分および活性化産物を測定することによって得られた。C3、C4およびC1不活性化因子(C1 INA)のレベルは、放射状免疫拡散法によって血清において測定されたのに対して、C3aおよびC5aのレベルは、ラジオイムノアッセイによって測定された。健常な非アトピー性コントロールとの比較において、C3、C4およびC1 INAのレベルは、両方の疾患において有意に増加していたことが見出された。ADでは、C3aレベルの上昇の傾向があったのに対し、乾癬では、C3aレベルは、有意に上昇した。この結果は、ADと乾癬の両方において、補体系が炎症性プロセスに関与することを示唆する(Ohkonohchi,K.ら、Dermatologica 179:30−34,1989)。
乾癬性損傷性皮膚における補体活性化もまた、表皮内への最後の補体複合体の沈着をもたらし、その沈着は、乾癬性患者の血漿および角質の組織におけるSC5b−9のレベルを測定することによって定義される。乾癬性血漿中のSC5b−9のレベルは、コントロール患者またはアトピー性皮膚炎を有する患者のレベルよりも有意に高いことが見出された。損傷性皮膚からの全タンパク質抽出物の研究から、SC5b−9は、非炎症性角質の組織において検出され得ないが、乾癬の損傷性角質の組織において高レベルのSC5b−9が存在することが示された。C5b−9新抗原に対するモノクローナル抗体を使用した免疫蛍光法によって、乾癬性皮膚の角質層にのみ、C5b−9の沈着が観察された要約すれば、乾癬性損傷性皮膚において、補体系が活性化され、そしてその補体活性化は、細胞膜傷害複合体を生成する最後の工程まで進む。
免疫系を選択的に標的化する新規の生物学的薬物が、最近、乾癬を処置するために利用可能になった。現在FDAが承認しているか、または第3相試験中である4つの生物学的薬物は:アレファセプト(alefacept)(Amevive(登録商標))およびエファリツ(efalizu)MoAb(Raptiva(登録商標))(これら2つはT細胞調節因子(modulator)である);可溶性TNF−レセプターであるエタネルセプト(Enbrel(登録商標));および抗TNFモノクローナル抗体であるインフリキ(inflixi)MoAb(Remicade(登録商標))である。Raptivaは、免疫応答修飾因子(modifier)であり、ここで、標的化される作用機構は、リンパ球上のLFA−1と抗原提示細胞上および血管内皮細胞上のICAM−1との相互作用の遮断である。RaptivaがCD11aに結合することによって、リンパ球上の利用可能なCD11aの結合部位が飽和し、そして、リンパ球上の細胞表面でのCD11a発現が抑制的に調節される。この作用機構は、T細胞の活性化、真皮および表皮への細胞の輸送ならびにT細胞の再活性化を阻害する。従って、複数の科学的証拠から、皮膚の炎症性疾患状態における補体の役割が示唆され、最近の薬学的アプローチから、免疫系または特定の炎症性プロセスが標的化される。しかしながら、誰もMASP−2を標的アプローチとして同定していない。補体活性化におけるMASP−2の役割に関する本発明者らの新しい知見に基づいて、本発明者らは、MASP−2が、乾癬および他の皮膚障害の処置に対する有効な標的であると考えている。
従って、本発明の1つの態様は、乾癬、自己免疫性水疱性皮膚疾患、好酸球性海綿状態、水疱性類天疱瘡、後天性表皮水疱症、アトピー性皮膚炎、妊娠性疱疹および他の皮膚障害、ならびに、熱的および化学的熱傷によって引き起こされる毛細血管漏出に罹患している被験体に、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物を投与することによって、そのような皮膚障害を処置することに関する。MASP−2阻害薬剤は、MASP−2阻害薬剤を含むスプレー、ローション、ゲル、ペースト、軟膏(salve)もしくは洗浄溶液の適用によって局所的に、または、全身的に(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、皮下または他の非経口投与によって)、あるいは、潜在的には非ペプチド作動性薬剤については経口投与によって、上記被験体に投与され得る。処置は、急性状態に対しては単回投与または反復適用もしくは反復投薬、または、慢性状態の管理に対しては定期的な適用もしくは投薬を含み得る。
移植
補体系の活性化は、固形臓器移植後の炎症性反応に大いに関与する。同種移植では、補体系は、虚血/再灌流およびおそらくは移植片に対して産生された抗体によって活性化され得る(Baldwin,W.M.ら、Springer Seminol Immunopathol.25:181−197,2003)。非霊長類から霊長類への異種移植では、補体に対する主要なアクチベーターは、既存の抗体である。動物モデルにおける研究から、補体インヒビターの使用によって、移植片の生存が有意に延長し得ることが示されている(以下を参照のこと)。このように、臓器移植後の臓器損傷における補体系の役割が確立されており、したがって、本発明者らは、MASP−2に対する補体インヒビターの使用によって、同種移植後または異種移植後の移植片への損傷が予防され得ると考えている。
先天性免疫機構、特に補体は、移植片に対する炎症性応答および免疫応答において、これまで認識されていたよりも大きな役割を果たす。例えば、補体の副経路活性化は、腎虚血/再灌流損傷を媒介すると見られ、また、近位尿細管細胞は、この場合における補体成分の攻撃起源と攻撃部位の両方であり得る。腎臓において局所的に産生される補体はまた、移植片に対する細胞媒介性と抗体媒介性の両方の免疫応答の発生に関与する。
C4dは、古典経路およびレクチン依存性経路の成分である、活性化された補体因子C4の分解産物である。C4d染色は、急性と慢性の両方の設定における液性拒絶の有用なマーカーとして出現し、それによって、新たに抗ドナー抗体形成の重要性が興味深くなった。C4dと急性細胞性拒絶の形態学的徴候との関連は、統計学的に有意である。24〜43%のI型エピソード、45%のII型拒絶および50%のIII型拒絶において、C4dが見られる(Nickeleit,V.ら、J.Am.Soc.Nephrol.13:242−251,2002;Nickeleit,V.ら、Nephrol.Dial.Transplant 18:2232−2239,2003)。移植後の臨床成績の改善を達成する手段として、補体を阻害するか、または補体の局所的な合成を減少させる多くの治療が、開発中である。
補体カスケードの活性化は、移植中の多くのプロセスの結果として生じる。現在の治療は、細胞性拒絶を制限することにおいて有効であるが、直面するすべての障壁に完全に対処していない。これらとしては、液性拒絶および慢性同種移植片の腎症または機能不全が挙げられる。移植された臓器に対するすべての応答が、宿主の一部分における多くのエフェクター機構の結果であるが、補体は、これらのうちのいくつかにおいて重要な役割を果たし得る。腎臓の移植の場合は、近位尿細管細胞による補体の局所的な合成が、特に重要であるとみられる。
補体の特定のインヒビターの有効性によって、臓器移植後の臨床成績を改善するための機会が提供され得る。補体の攻撃を遮断する機構によって作用するインヒビターは、すでに免疫無防備状態のレシピエントにおいて、有効性が高いと見込まれ、全身性の補体枯渇を回避するので、特に有用であり得る。
補体はまた、異種移植片拒絶において重大な役割を果たす。したがって、有効な補体インヒビターは、潜在的な治療薬として非常に興味深い。ブタから霊長類への臓器移植では、抗体の沈着および補体活性化が原因で超急性拒絶(HAR)がもたらされる。ブタと霊長類との組み合わせにおいて、超急性異種移植片拒絶を予防するために複数のストラテジーおよび標的が試験されてきた。これらのアプローチは、自然抗体の除去、コブラ毒因子を用いた補体枯渇または可溶性補体インヒビターsCR1を用いたC3活性化の予防によって達成された。さらに、ヒト崩壊促進因子(DAF)およびメンブレンコファクタープロテインから得られた組換え可溶性キメラタンパク質である補体活性化遮断物−2(CAB−2)は、古典経路と副経路の両方のC3およびC5コンバターゼを阻害する。CAB−2は、ヒト血液によるエキソビボでのブタ心臓灌流の補体媒介性組織損傷を減少させる。CAB−2の有効性に関する研究において、ブタの心臓が、免疫抑制を受けていないアカゲザルに異所性移植されるとき、移植片の生存は、CAB−2を投与されたサルにおいて著明に延長することが示された(Salerno,C.T.ら、Xenotransplantation 9:125−134,2002)。CAB−2は、C3aおよびSC5b−9の生成を大きく減少させたことによって示されるように、補体活性化を著明に阻害した。移植片拒絶において、iC3b、C4およびC9の組織沈着は、コントロールと同様であったか、またはわずかに減少し、IgG、IgM、C1qおよびフィブリンの沈着は、変わらなかった。このように、補体阻害に対するこのアプローチは、アカゲザルに移植されたブタ心臓の超急性拒絶を排除した。これらの研究から、生存に対する補体阻害の有益な作用が証明され、本発明者らは、MASP−2阻害は、異種移植においても有用であり得ると考えている。
別のアプローチは、抗補体5(C5)モノクローナル抗体が、ラットから前感作マウスへの心臓移植モデルにおいて超急性拒絶(HAR)を予防し得るか否か、およびこれらのMoAbが、シクロスポリンおよびシクロホスファミドと併用して、長期間にわたって移植片生存を達成し得るか否かの決定に焦点を当てている。抗C5 MoAbは、HARを予防することが見出された(Wang,H.ら、Transplantation 68:1643−1651,1999)。従って、本発明者らは、補体カスケードにおける他の標的(例えば、MASP−2)もまた、将来の臨床での異種移植においてHARおよび急性血管性拒絶の予防に役立ち得ると考えている。
異種移植片において見られる超急性拒絶における補体の中心的役割は、十分に確立されているが、より細かい役割が同種移植において明らかになってきている。補体と獲得免疫応答との関連は、補体枯渇動物が、抗原性の刺激の後に正常以下の抗体応答を開始するという知見とともに、長い間知られている。補体分割産物C3dによる抗原のオプソニン化は、B細胞に対する抗原提示の効率を大きく上昇させると示されており、また、ある特定のB細胞上の2型補体レセプターの関与を介して作用すると示されている。この研究は、マウスの皮膚移植片モデルにおける移植の設定にまで拡張されており、ここで、C3欠損およびC4欠損マウスは、高親和性IgGにクラススイッチできないために、同種抗体産生を著しく欠いていた。抗ドナー抗体および液性拒絶が重大であるので、腎臓の移植におけるこれらの機構の重要性は、大きくなっている。
以前の研究において、腎臓の移植後の同種移植片拒絶中の近位尿細管細胞によるC3合成のアップレギュレーションがすでに実証されている。局所的に合成される補体の役割は、マウスの腎臓移植モデルにおいて調べられた。C3が十分なレシピエントに移植されたC3陰性ドナーからの移植片は、C3陽性ドナーからのコントロール移植片(14日以内に拒絶された)と比べて、生存が延びた(100日超)ことが証明された。さらに、C3陰性移植片のレシピエントにおける抗ドナーT細胞の増殖応答は、コントロールの応答と比べて著明に減少したことから、T細胞プライミングに対する、局所的に合成されるC3の影響が示唆される。
これらの観察結果から、ドナー抗原のオプソニン化、または、抗原提示細胞とT細胞の両方に対するさらなるシグナルの提供のいずれかによって、移植片において初めてT細胞にドナー抗原が曝露される可能性、および、局所的に合成された補体が、抗原提示を増大する可能性が示唆される。腎臓の移植の場合、補体を産生する尿細管細胞は、それらの細胞表面上への補体沈着も証明する。
従って、本発明の1つの態様は、全臓器(例えば、腎臓、心臓、肝臓、膵臓、肺、角膜など)または移植片(例えば、弁、腱、骨髄など)の同種移植または異種移植を受けたことがある被験体を含む移植レシピエントに、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物を投与することによって、組織または固形臓器の移植から生じる炎症性反応の予防は処置することに関する。MASP−2阻害薬剤は、動脈内、静脈内、筋肉内、皮下もしくは他の非経口投与によって、または、潜在的には非ペプチド作動性薬剤については経口投与によって、上記被験体に投与され得る。投与は、移植後の急性期の間および/または長期間にわたる移植後の治療の間に行われ得る。さらに、または、移植後投与の代わりに、被験体は、移植の前および/もしくは移植手技中にMASP−2阻害薬剤で処置され得、そして/または、MASP−2阻害薬剤とともに移植するために臓器または組織を前処理することによって処置され得る。臓器または組織の前処理は、MASP−2阻害薬剤を含んでいる溶液、ゲルまたはペーストを臓器または組織の表面に噴霧または灌注することによって、その表面への適用が必要であり得るものであるか、またはその臓器もしくは組織を、MASP−2インヒビターを含んでいる溶液中に浸漬し得るものである。
中枢神経系および末梢神経系の障害および損傷
補体系の活性化は、種々の中枢神経系(CNS)または末梢神経系(PNS)の疾患または損傷(多発性硬化症(MS)、重症筋無力症(MG)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ギランバレー症候群、脳卒中後の再灌流、変性円板、大脳外傷、パーキンソン病(PD)およびアルツハイマー病(AD)が挙げられるが、これらに限定されない)の病原に関わっている。補体タンパク質が、ニューロン、アストロサイトおよびミクログリアを含むCNS細胞において合成されるという最初の決定、ならびに、補体活性化後にCNSにおいて生成されるアナフィラトキシンが、神経機能を変化させ得るという認識が、CNS障害における補体の潜在的な役割を解明するきっかけになった(Morgan,B.P.ら、Immunology Today 17(10)461−466,1996)。現在、C3aレセプターおよびC5aレセプターは、ニューロン上において見出されており、感覚系、運動系および脳辺縁系の異なる部分において広範な分布を示すことが示されている(Barum,S.R.,Immunologic Research 26:7−13,2002)。さらに、アナフィラトキシンC5aおよびC3aは、げっ歯類において飲食行動を変化させると示されており、また、ミクログリアおよびニューロンにおけるカルシウムシグナル伝達を誘導し得る。これらの知見から、大脳外傷、脱髄、髄膜炎、脳卒中およびアルツハイマー病を含む種々のCNS炎症性疾患において補体活性化を阻害する治療的な有用性に関する可能性が生じる。
脳の外傷または出血は、よくある臨床上の問題であり、それによって補体活性化が起き得、結果として生じる炎症および浮腫を悪化させ得る。補体を阻害する効果は、ラットにおける脳外傷モデルにおいて研究された(Kaczorowskiら、J.Cereb.Blood Flow Metab.15:860−864,1995)。脳損傷の直前にsCR1を投与することによって、損傷領域への好中球浸潤が著明に阻害されたことから、補体が、食細胞の動員にとって重要であることが示唆された。同様に、血漿と脳脊髄液(CSF)の両方において複数の補体活性化産物が高レベルで存在することから、大脳出血後の患者における補体活性化が、明らかに関連付けられる。補体活性化およびC5b−9複合体の染色の増大が、隔絶された椎間板組織において証明されており、また、椎間板ヘルニア組織誘発性坐骨神経痛の一因であると示唆され得る(Gronblad,M.ら、Spine 28(2):114−118,2003)。
MSは、CNS内の軸索を鞘で覆い、絶縁しているミエリンの進行性の喪失を特徴とする。一次的原因は不明であるが、免疫系が関係している証拠が多く存在する(Prineas,J.W.ら、Lab Invest.38:409−421,1978;Ryberg,B.,J.Neurol.Sci.54:239−261,1982)。MS、ギランバレー症候群およびミラー−フィッシャー症候群を含むCNSまたはPNSの脱髄性疾患の病態生理学において、補体が顕著な役割を果たすという明らかな証拠もある(Gasque,P.ら、Immunopharmacology 49:171−186,2000;Bondy S.ら(eds.)中のBarnum,S.R.Inflammatory events in neurodegeneration,Prominent Press 139頁〜156頁,2001)。補体は、組織の破壊、炎症、ミエリン残骸のクリアランスおよび軸索の再ミエリン化までにも関与する。補体が関与するという明らかな証拠があるにもかかわらず、現在のところ、補体の治療的標的の同定は、多発性硬化症の動物モデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)において評価されるだけである。C3またはB因子が欠損したEAEマウスが、EAEコントロールマウスと比べて脱髄の減弱を示したという研究が証明された(Barnum,Immunologic Research 26:7−13,2002)。「sCrry」という新しく作った名称の可溶型の補体インヒビターならびにC3−/−およびB因子−/−を使用したEAEマウスの研究によって、補体が、いくらかのレベルで疾患モデルの発症および進行に関与することが証明された。さらに、B因子−/−マウスにおけるEAEの重症度の著明な低下から、EAEにおける補体副経路の役割に対するさらなる証明がもたらされる(Natafら、J.Immunology 165:5867−5873,2000)。
MGは、アセチルコリンレセプターを喪失していて、終板が破壊された神経筋接合部の疾患である。sCR1は、MGの動物モデルにおいて非常に有効であることから、この疾患における補体の役割がさらに示唆される(Piddelesdenら、J.Neuroimmunol.1997)。
神経変性疾患であるADの組織学的な特徴は、老人斑および神経原線維変化である(McGeerら、Res.Immunol.143:621−630,1992)。これらの病理学的なマーカーもまた、補体系の成分に対して強く染色する。証拠は、神経細胞死および認知性の機能不全をもたらす局所的な神経炎症性状態を示す。老人斑は、異常なアミロイド−βペプチド(Aβ、アミロイド前駆体タンパク質から得られるペプチドを含む。Aβは、C1と結合すると示されており、補体活性化を引き起こし得る(Rogersら、Res.Immunol.143:624−630,1992)。さらに、ADの顕著な特徴は、老人斑に高度に局在すると見出されている、C1qからC5b−9までの補体古典経路の活性化されたタンパク質との関連性である(Shen,Y.ら、Brain
Research 769:391−395,1997;Shen,Y.ら、Neurosci.Letters 305(3):165−168,2001)。従って、Aβは、古典経路を開始するだけでなく、結果として生じる継続的な炎症性状態は、神経細胞死にも関与し得る。さらに、ADにおける補体活性化が、最後のC5b−9相に進行するという事実から、補体系の制御機構は、補体活性化プロセスを停止することができていないことが示唆される。
C1Q結合のインヒビターとしてのプロテオグリカン、C3コンバターゼのインヒビターとしてのNafamstatおよびC5aレセプターのC5活性化の遮断剤またはインヒビターを含む、補体経路のいくつかのインヒビターが、ADに対する潜在的な治療的なアプローチとして提案されている(Shen,Y.ら、Progress in Neurobiology 70:463−472,2003)。先天的な補体経路の最初の段階としてのMASP−2の役割ならびに副経路活性化に対するMASP−2の役割は、潜在的な新規治療的アプローチを提供し、また、ADにおける補体経路の関与を示唆する大量のデータによって支持される。
他のCNS変性疾患と同様にPD患者の脳における損傷した領域において、グリア反応(特にミクログリア)ならびにHLA−DR抗原、サイトカインおよび補体成分の発現の増加を特徴とする炎症の証拠がある。これらの観察結果から、免疫系機構が、PDにおける神経損傷の病原に関与することが示唆される。PDにおける主な損傷の細胞機構は、明らかにされていないが、ミトコンドリアの変異、酸化ストレスおよびアポトーシスが一因となる可能性がある。さらに、PDにおける線条体および実質的な黒質(substantial nigra)における神経損傷によって開始される炎症は、疾患の経過を悪化させ得る。これらの観察結果は、補体阻害薬物による処置が、PDの進行を遅延させるように作用し得ることを示唆する(Czlonkowska,A.ら、Med.Sci.Monit.8:165−177,2002)。
従って、本発明の1つの態様は、末梢神経系(PNS)および/もしくは中枢神経系(CNS)の障害または損傷に罹患している被験体を、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物で処置することによって、そのような障害または損傷を処置することに関する。本発明に従って処置され得るCNSおよびPNSの障害および損傷としては、多発性硬化症(MS)、重症筋無力症(MG)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ギランバレー症候群、脳卒中後の再灌流、変性円板、大脳外傷、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、ミラー−フィッシャー症候群、大脳の外傷および/または出血、脱髄ならびにおそらく髄膜炎が挙げられると考えられるが、これらに限定されない。
CNS状態および大脳外傷の処置のために、MASP−2阻害薬剤は、くも膜下腔内、頭蓋内、脳室内、動脈内、静脈内、筋肉内、皮下または他の非経口投与によって、および、潜在的には非ペプチド作動性薬剤については経口投与によって、上記被験体に投与され得る。PNS状態および大脳外傷は、全身性の投与経路によって、あるいは、機能不全部位または外傷部位への局所投与によって処置され得る。本発明のMASP−2阻害性組成物の投与は、有効な軽減または症状の管理が達成されるまで、医師が決定するとおりに定期的に繰り返され得る。
血液障害
敗血症は、侵入微生物に対する患者の極度の反応によって引き起こされる。補体系の主な機能は、侵入してくる細菌および他の病原体に対する炎症性反応を調整することである。この生理学的役割と一致して、補体活性化は、敗血症の病原における主な役割を有すると数多くの研究において示されている(Bone,R.C.,Annals.Internal.Med.115:457−469,1991)。敗血症の臨床症状の定義は、は、絶えず発展している。敗血症は、通常、感染に対する全身性の宿主応答として定義される。しかしながら、多くの場合において、感染に対する臨床上の証拠(例えば、細菌が陽性である血液培養物)が、敗血症の症状を有する患者において見られない。この矛盾は、1992年のConsensus Conferenceにおいて初めて着眼され、そのときに細菌感染を定義できる存在を必要としない用語「全身性炎症反応症候群」(SIRS)が確立された(Bone,R.C.ら、Crit.Care Med.20:724−726,1992)。現在、敗血症およびSIRSは、炎症性反応を制御することができないことを伴うと一般に認識されている。この簡単な概説の目的で、本発明者らは、敗血症の臨床上の定義に、重篤な敗血症、敗血症性ショックおよびSIRSも含むとみなす。
1980年代後半より前は、敗血症の患者における感染の主な起源は、グラム陰性菌であった。グラム陰性菌の細胞壁の主成分であるリポ多糖(LPS)は、動物に注射されると、様々な細胞型からの炎症性メディエーターの放出を刺激し、急性の感染性の症状を誘導することが知られていた(Haeney,M.R.ら、Antimicrobial Chemotherapy 41(Suppl.A):41−6,1998)。興味深いことに、関与する微生物の範囲が、1970年代後半および1980年代は主にグラム陰性細菌であったのが、現在では主にグラム陽性細菌に変化したとみられており、その理由は現在のところ明らかではない(Martin,G.S.ら、N.Eng.J.Med.348:1546−54,2003)。
多くの研究が、炎症の媒介ならびにショック、特に敗血性および出血性のショックの特徴への関与における補体活性化の重要性を示している。グラム陰性生物とグラム陽性生物の両方が、一般に敗血症性ショックを誘発する。LPSは、主に副経路を介した補体の強力なアクチベーターであるが、抗体によって媒介される古典経路の活性化も起こす(Fearon,D.T.ら、N.Engl.J.Med.292:937−400,1975)。グラム陽性細胞壁の主成分は、ペプチドグリカンおよびリポテイコ酸であり、この両方の成分が、補体副経路の強力なアクチベーターであるが、特定の抗体の存在下では、それらは、補体古典経路も活性化し得る(Joiner,K.A.ら、Ann.Rev.Immunol.2:461−2,1984)。
補体系が初めて敗血症の病原と結びつけられたのは、アナフィラトキシンC3aおよびC5aが、敗血症の間に生じ得る種々の炎症性反応を媒介することが研究者によって記述されたときである。これらのアナフィラトキシンは、敗血症性ショックにおける中心的役割を果たす事象である血管拡張および微小血管透過性の増大を誘起する(Schumacher,W.A.ら、Agents Actions 34:345−349,1991)。さらに、アナフィラトキシンは、気管支痙攣、マスト細胞からのヒスタミン放出および血小板の凝集を誘導する。さらに、アナフィラトキシンは、顆粒球上で数多くの作用(例えば、走化性、凝集、接着、リソソーム酵素の放出、有毒なスーパーオキシドアニオンの生成およびロイコトリエンの形成)を発揮する(Shin,H.S.ら、Science 162:361−363,1968;Vogt,W.,Complement 3:177−86,1986)。これらの生物学的作用は、敗血症の合併症(例えば、ショックまたは急性呼吸窮迫症候群(ARDS))の発症の一因であると考えられている(Hammerschmidt,D.E.ら、Lancet 1:947−949,1980;Slotman,G.T.ら、Surgery 99:744−50,1986)。さらに、高レベルのアナフィラトキシンC3aは、敗血症における致命的な結果と関連する(Hack,C.E.ら、Am.J.Med.86:20−26,1989)。ショックのいくつかの動物モデルにおいて、ある特定の補体欠損系統(例えば、C5欠損系統)が、LPS注入の作用に対してより抵抗性である(Hseuh,W.ら、Immunol.70:309−14,1990)。
げっ歯類での敗血症の発症中における抗体によるC5a生成の遮断は、生存を大きく改善すると示されている(Czermak,B.J.ら、Nat.Med.5:788−792,1999)。抗体または低分子インヒビターのいずれかを用いてC5aレセプター(C5aR)を遮断するときに、同様の知見がもたらされた(Huber−Lang,M.S.ら、FASEB J.16:1567−74,2002;Riedemann,N.C.ら、J.Clin.Invest.110:101−8,2002)。サルにおける初期の実験的研究から、C5aの抗体遮断によって、E.coli誘発性敗血症性ショックおよび成人呼吸窮迫症候群が減弱されると示唆される(Hangen,D.H.ら、J.Surg.Res.46:195−9,1989;Stevens,J.H.ら、J.Clin.Invest.77:1812−16,1986)。敗血症を有するヒトでは、重症度の低い敗血症の患者および生存者と比べて、C5aは、上昇し、そして多臓器不全を伴う有意に低い生存率と関連する(Nakae,H.ら、Res.Commun.Chem.Pathol.Pharmacol.84:189−95,1994;Nakaeら、Surg.Today 26:225−29,1996;Bengtson,A.ら、Arch.Surg.123:645−649,1988)。C5aが敗血症中に有害な作用を発揮する機構は、まだ詳細には研究されていないが、最近のデータでは、敗血症中のC5aの生成によって、血中の好中球の先天性免疫機能(Huber−Lang,M.S.ら、J.Immunol.169:3223−31,2002)、呼吸バーストを現す能力およびサイトカインを生成する能力(Riedemann,N.C.ら、Immunity 19:193−202,2003)が有意に損なわれることが示唆されている。さらに、敗血症中のC5a生成は、凝血促進作用を有するとみられる(Laudes,I.J.ら、Am.J.Pathol.160:1867−75,2002)。補体調節タンパク質CI INHはまた、敗血症およびARDSの動物モデルにおいても有効性が示された(Dickneite,G.,Behring Ins.Mitt.93:299−305,1993)。
レクチン経路もまた、敗血症の病原の一因であり得る。MBLは、グラム陰性細菌とグラム陽性細菌の両方を含む一連の臨床的に重要な微生物に結合することおよびレクチン経路を活性化することが示されている(Neth,O.ら、Infect.Immun.68:688,2000)。リポテイコ酸(LTA)は、次第にLPSのグラム陽性の対応物としてみなされてきている。リポテイコ酸は、単核食細胞および全血からのサイトカインの放出を誘導する強力な免疫賦活剤である(Morath,S.ら、J.Exp.Med.195:1635,2002;Morath,S.ら、Infect.Immun.70:938,2002)。最近、L−フィコリンが、Staphylococcus aureusを含む数多くのグラム陽性細菌種から単離されたLTAに特異的に結合することおよびレクチン経路を活性化することが証明された(Lynch,N.J.ら、J.Immunol.172:1198−02,2004)。MBLはまた、ポリグリセロホスフェート鎖がグリコシル基で置換されている)Enterococcus spp由来のLTAに結合するが、S.aureusを含む9つの他の種由来のLTAには結合しないことも示された(Polotsky,V.Y.ら、Infect.Immun.64:380,1996)。
従って、本発明の1つの態様は、敗血症または敗血症から生じる状態(重篤な敗血症、敗血症性ショック、敗血症から生じる急性呼吸窮迫症候群および全身性炎症反応症候群が挙げられるが、これらに限定されない)に罹患している被験体に、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物を投与することによって、敗血症または敗血症から生じる状態を処置するための方法を提供する。出血性ショック、溶血性貧血、自己免疫性の血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)または他の骨髄/血液破壊性状態を含む他の血液障害に罹患している被験体に、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物を投与することによって、そのような状態を処置するための関連方法が提供される。MASP−2阻害薬剤は、全身的に(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、吸入(特にARDSの場合)、皮下または他の非経口投与によって)または、潜在的には非ペプチド作動性薬剤については経口投与によって、上記被験体に投与される。MASP−2阻害薬剤組成物は、敗血症および/またはショックの続発症に対抗するために1つ以上のさらなる治療薬と併用され得る。進行した敗血症もしくはショックまたはそれらから生じる苦痛状態に対して、MASP−2阻害性組成物は、速効性の剤形で(例えば、MASP−2阻害薬剤組成物を含む溶液のボーラスの静脈内送達または動脈内送達によって)適当に投与され得る。その状態が回復するまで医師が判断するとおりに、反復投与が行われ得る。
泌尿生殖器状態
補体系は、有痛性膀胱疾患、感覚性膀胱疾患、非細菌性慢性膀胱炎および間質性膀胱炎(Holm−Bentzen,M.ら、J.Urol.138:503−507,1987)、不妊症(Cruzら、Biol.Reprod.54:1217−1228,1996)、妊娠(Xu,C.ら、Science 287:498−507,2000)、胎児母体間寛容(fetomaternal tolerance)(Xu,Cら、Science 287:498−507,2000)および子癇前症(Haeger,M.,Int.J.Gynecol.Obstet.43:113−121,1993)を含むいくつかの異なる泌尿生殖器障害に関わっている。
有痛性膀胱疾患、感覚性膀胱疾患、非細菌性慢性膀胱炎および間質性膀胱炎は、病因および病原が不明である明確に定義されていない状態であり、したがって、それらは、いかなる合理的な治療もない。膀胱を覆っている上皮および/または粘膜表面における欠陥に関する病原論および免疫学的障害に関する理論が優勢である(Holm−Bentzen,M.ら、J.Urol.138:503−507,1987)。間質性膀胱炎を有する患者を免疫グロブリン(IgA、G、M)、補体成分(C1q、C3、C4)およびC1−エステラーゼインヒビターに対して試験したことが報告された。補体成分C4の血清レベルが非常に有意に枯渇し(0.001未満のp)、免疫グロブリンGは、著明に上昇した(0.001未満のp)。この研究から、補体系の古典経路の活性化が示唆され、慢性の局所的な免疫学的プロセスがこの疾患の病原に関与する可能性が支持される(Mattila,J.ら、Eur.Urol.9:350−352,1983)。さらに、膀胱の粘膜における抗原に自己抗体が結合した後、補体活性化は、組織傷害の発生およびこの疾患に特有である慢性の自己永続的な炎症に関与し得る(Helin,H.ら、Clin.Immunol.Immunopathol.43:88−96,1987)。
泌尿生殖器の炎症性疾患における補体の役割に加えて、生殖機能も補体経路の局所的な制御によって影響を受け得る。天然に存在する補体インヒビターは、身体の補体系を管理する必要がある宿主細胞を保護するように進化した。ヒト補体インヒビターであるMCPおよびDAFに構造的に類似した、天然に存在するげっ歯類の補体インヒビターであるCrryを研究することにより、胎仔の発育における補体の制御管理が明らかになった。興味深いことに、Crry−/−マウスを作製する試みは失敗に終わった。その代わり、ホモ接合性のCrry−/−マウスは、子宮内で死亡することが発見された。Crry−/−胚は、交尾の約10日後まで生存したが、生存時間は急激に低下し、死亡は発育停止からもたらされるものであった。Crry−/−胚の胎盤組織への炎症細胞の著明な侵入もみとめられた。対照的に、Crry+/+胚では、胎盤上にC3が沈着するとみられた。このことから、補体活性化は、胎盤レベルで生じ、そして補体が制御されない状況においては、胚が死亡することが示唆される。確認の研究では、C3欠損のバックグラウンドにCrry変異の導入について調べた。このレスキューストラテジーは成功した。それとともに、これらのデータから、胎仔母体間の補体相互作用は、制御されなければならないことが証明された。胎盤内での補体制御におけるわずかな変更は、胎盤機能不全および流産に関与し得る(Xu,Cら、Science 287:498−507,2000)。
子癇前症は、補体系の活性化が関わるが、未だ議論の余地のある妊娠誘発性の高血圧性障害である(Haeger,M.,Int.J.Gynecol.Obstet.43:113−127,1993)。体循環における補体活性化は、子癇前症における確立された疾患に緊密に関連するが、臨床上の症状が現れる前には上昇は見られず、したがって、補体成分を子癇前症の前兆として使用することができない(Haegerら、Obstet.Gynecol.78:46,1991)。しかしながら、胎盤床の局所的な環境における補体活性化の増大によって、局所的な管理機構が克服され得、それにより、高レベルのアナフィラトキシンおよびC5b−9が生じる(Haegerら、Obstet.Gynecol.73:551,1989)。
抗精子抗体(ASA)に関係する不妊症の提案されている1つの機構は、生殖管における補体活性化の役割を介するものである。補体レセプターを介した食細胞による精子の結合ならびに精子表面上での最後のC5b−9複合体の形成を増強し得ることによって、精子の運動性を低下させるC3bおよびiC3bオプソニンの生成は、受胎能の低下に関連する潜在的な原因である。C5b−9レベルの上昇もまた、不妊の女性の卵巣卵胞液中で証明されている(D’Cruz,O.J.ら、J.Immunol.144:3841−3848,1990)。他の研究では、補体が関連し得る精子の遊走の障害および精子/卵の相互作用の低下が示されている(D’Cruz,O.J.ら、J.Immunol.146:611−620,1991;Alexander,N.J.,Fertil.Steril.41:433−439,1984)。最後に、sCR1を用いた研究からは、ヒト精子に対するASA媒介性および補体媒介性の損傷に対する保護的な作用が証明された(D’Cruz,O.J.ら、Biol.Reprod.54:1217−1228,1996)。これらのデータから、泌尿生殖器の疾患および障害の処置における補体インヒビターの使用についてのいくつかの一連の証拠がもたらされる。
従って、本発明の1つの態様は、泌尿生殖器の障害に罹患している被験体に、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物を投与することによって、そのような障害に罹患している患者においてMASP−2依存性の補体活性化を阻害するための方法を提供する。本発明の方法および組成物を用いた治療的な処置に供されるべきであると考えられる泌尿生殖器の障害としては、有痛性膀胱疾患、感覚性膀胱疾患、非細菌性慢性膀胱炎および間質性膀胱炎、男性および女性の不妊症、胎盤機能不全ならびに流産および子癇前症が挙げられるが、これらに限定されない。MASP−2阻害薬剤は、全身的に(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、吸入、皮下または他の非経口投与によって)または、潜在的には非ペプチド作動性薬剤については経口投与によって、上記被験体に投与され得る。あるいは、MASP−2阻害性組成物は、泌尿生殖管に局所的に(例えば、液体の溶液またはゲル組成物を用いて膀胱内への灌注または点滴注入によって)送達され得る。反復投与は、その状態を管理または回復させるように医師が決定するとおりに行われ得る。
糖尿病および糖尿病性状態
糖尿病性の網膜微小血管障害は、毛細血管細胞の透過性、白血球停滞、微小血栓症およびアポトーシスの増大(これらすべてが、補体活性化によって引き起こされ得るか、または促進され得る)を特徴とする。糖尿病を有する患者の糸球体構造および神経内膜の微小血管は、補体活性化の徴候を示す。インビトロでの高グルコースが、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型膜タンパク質である2つのインヒビターCD55およびCD59の内皮細胞表面での発現を選択的に低下させるという知見、ならびに、CD59が、その補体阻害性機能を妨げる非酵素的なグリケーションを起こすという知見によって、糖尿病における補体インヒビターの利用能または有効性の低下が示唆されている。
Zhangらによる研究(Diabetes 51:3499−3504,2002)では、ヒトの非増殖性の糖尿病性網膜症の特徴としての補体活性化および阻害性分子の変化と補体活性化との関連が調べられた。補体活性化の最後の生成物であるC5b−9の沈着が、2型糖尿病を有するヒトの眼のドナーの網膜血管壁において生じるが、同年齢の非糖尿病性のドナーの血管では生じないことが見出された。古典経路に固有の補体成分であるC1qおよびC4は、糖尿病性網膜において検出されなかったことから、C5b−9は、副経路を介して生成されたことが示唆される。糖尿病性ドナーは、GPIアンカーによって原形質膜に結合した2つの補体インヒビターであるCD55およびCD59の網膜のレベルの顕著な低下を示した。網膜血管における同様の補体活性化ならびに網膜でのCD55およびCD59のレベルの選択的な低下が、ストレプトゾトシン誘発性の糖尿病が10週間持続したラットにおいて観察された。従って、糖尿病は、糖尿病性の網膜微小血管障害の他の症状発現に最も先行する、補体インヒビターの不完全な制御および補体活性化が原因であるとみられる。
Gerlら(Investigative Ophthalmology and Visual Science 43:1104−08,2000)は、糖尿病性網膜症に罹患した眼において活性化された補体成分の存在を確定した。免疫組織化学的研究により、50個すべての糖尿病性網膜症検体において、ブルッフ膜のすぐ下に位置し、毛細血管を高密度に包囲する脈絡毛細管板において検出される補体C5b−9複合体の広範な沈着が見出された。C3dに対する染色が、C5b−9染色と正の相関を示したことは、補体活性化が、インサイチュで起きたという事実を示す。さらに、ポジティブ染色は、細胞外のC5b−9と安定な複合体を形成するビトロネクチンに対して見出された。対照的に、C反応性タンパク質(CRP)、マンナン結合レクチン(MBL)、C1qまたはC4に対するポジティブ染色は見られなかったことから、補体活性化が、C4依存性経路を介して生じなかったことが示唆される。従って、C3d、C5b−9およびビトロネクチンの存在は、補体活性化が、おそらく、糖尿病性網膜症に罹患している眼の脈絡毛細管板における副経路を介して、完了するまで起きることを示唆する。補体活性化は、眼球組織の疾患および視覚的障害に関与し得る病理的な続発症において原因となる因子であり得る。したがって、補体インヒビターの使用は、糖尿病を起こす微小血管に対する損傷を低減するか、または阻止するために有効な治療法であり得る。
インスリン依存性糖尿病(IDDM、I型糖尿病とも呼ばれる)は、様々なタイプの自己抗体の存在と関連する自己免疫疾患である(Nicoloffら、Clin.Dev.Immunol.11:61−66,2004)。循環中にこれらの抗体および対応する抗原が存在することによって、長期間にわたって血液中に残存することが知られている循環免疫複合体(CIC)が形成される。小血管にCICが沈着することによって、消耗性の臨床的結果とともに微小血管障害をもたらす可能性がある。糖尿病性の小児では、CICと微小血管の合併症の発症との間に相関がある。これらの知見から、高レベルのCIC
IgGが、初期の糖尿病性腎症の発症に関連すること、および補体経路のインヒビターが、糖尿病性腎症の阻止に有効であり得ることが示唆される(Kotnikら、Croat.Med.J.44:707−11,2003)。さらに、下流の補体タンパク質の形成および副経路の関与は、IDDMにおける膵島細胞の機能全体において関与する因子である可能性があり、また、潜在的な損傷を低下するか、または細胞死を制限するために補体インヒビターを使用することが考えられる(Caraherら、J.Endocrinol.162:143−53,1999)。
1型糖尿病を有する患者における循環MBL濃度は、健常コントロールと比べて有意に高く、これらのMBL濃度は、尿中アルブミン排出と正の相関を有する(Hansenら、J.Clin.Endocrinol.Metab.88:4857−61,2003)。最近の臨床研究では、高発現および低発現のMBL遺伝子型の頻度は、1型糖尿病を有する患者と健常コントロールとの間で類似することが見出された(Hansenら、Diabetes 53:1570−76,2004)。しかしながら、糖尿病患者間で腎症を有するリスクは、高MBL遺伝子型を有する場合に有意に高かった。このことから、高MBLレベルおよびレクチン経路の補体活性化は、糖尿病性腎症の発症に関与し得ることが示唆される。この結論は、新しく診断された1型糖尿病患者のコホートにおけるMBLレベルとアルブミン尿の発生との関連を調べた最近の前向きな研究によって支持されている(Hovindら、Diabetes 54:1523−27,2005)。1型糖尿病の経過の初期における高レベルのMBLが、後期における持続性のアルブミン尿の発生と有意に関連することが見出された。これらの結果は、MBLおよびレクチン経路が、単に既存の変化の加速をもたらすだけでなく、糖尿病性の血管合併症の特異的な病原に関与し得ることを示唆する。最近の臨床研究(Hansenら、Arch.Intern.Med.166:2007−13,2006)では、15年超にわたって経過観察を受けている2型糖尿病を有する患者の十分特徴付けられたコホートのMBLレベルをベースラインにおいて測定した。MBLレベルが低い(<1000μg/L)患者よりもMBL血漿レベルが高い(>1000μg/L)患者のほうが公知の交絡因子について調整した後でさえも、死亡リスクは、有意に高いことが見出された。
本発明の別の態様において、非肥満糖尿病(IDDM)あるいはIDDMまたは成人発症型(2型)糖尿病の血管障害、ニューロパシーもしくは網膜症合併症に罹患している被験体において、薬学的キャリア中に治療有効量のMASP−2インヒビターを含んでいる組成物を投与することによってMASP−2依存性の補体活性化を阻害するための方法が提供される。MASP−2阻害薬剤は、全身的に(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、皮下または他の非経口投与によって)または、潜在的には非ペプチド作動性薬剤については経口投与によって、上記被験体に投与され得る。あるいは、投与は、血管障害、神経障害または網膜障害の症状の部位への局所送達であり得る。MASP−2阻害薬剤は、慢性状態の処置または管理に対して長期間にわたって定期的に投与され得るか、または急性状態の処置のために、単回投与または一連の投与によってであり得る。
化学療法付近での投与および悪性腫瘍の処置
補体系の活性化はまた、悪性腫瘍の病原に関わり得る。最近、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体およびストレプトアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ手法を用いて、C5b−9補体複合体、IgG、C3、C4、S−タンパク質/ビトロネクチン、フィブロネクチンおよびマクロファージの新抗原を、乳癌の17個のサンプル上および良性の乳房腫瘍の6つのサンプル上に局在化させた。各TNMステージの癌腫を有する組織サンプルすべてにおいて、腫瘍細胞の膜上にC5b−9沈着、細胞レムナント上にまばらな顆粒および壊死領域に広汎性の沈着が存在した(Niculescu,F.ら、Am.J.Pathol.140:1039−1043,1992)。
さらに、補体活性化は、化学療法または放射線治療の結果であり得るので、補体活性化の阻害は、医原性の炎症を低減するために悪性腫瘍の処置における補助として有用であり得る。化学療法および放射線治療が外科術の前に行われるとき、C5b−9沈着は、より強く、広範であった。良性の病変では、すべてのサンプルにおいてC5b−9沈着が無かった。S−タンパク質/ビトロネクチンは、結合組織マトリックスにおける線維性沈着として、および腫瘍細胞の周辺に広汎性の沈着として、フィブロネクチンよりも強くなく、かつ広範に存在した。IgG、C3およびC4沈着は、癌腫サンプルにおいてのみ認められた。C5b−9沈着の存在は、乳癌において補体活性化およびそれに続く病原的な作用を示唆する(Niculescu,F.ら、Am.J.Pathol.140:1039−1043,1992)。
パルスチューナブルダイレーザー(Pulsed tunable dye laser)(577nm)(PTDL)治療は、ヘモグロビンの凝集および組織壊死を誘導し、これは、主に血管に限定される。PTDL照射された正常皮膚の研究における主な知見は以下のとおりであった:1)C3フラグメント、C8、C9およびMACは、血管壁に沈着した;2)これらの沈着は、赤血球の凝集の部位におけるトランスフェリンの即時的な沈着とは違って、照射の7分後にのみ明らかとなっていたので、その沈着は、それらのタンパク質の変性に起因するものではなかった;3)組織壊死自体が、特異的な反応である副経路による補体活性化の増幅をもたらさなかったので、C3沈着が、そのような増幅をもたらすと示された;および4)これらの反応は、多形核の白血球の局所的な蓄積より前に起きた。組織壊死は、血管腫においてより顕著であった。壊死の中心におけるより大きな血管腫の血管は、補体を有意に固定しなかった。対照的に、末梢に位置している血管における補体沈着は、1つの例外(MACの構築が、C5コンバターゼの形成なしに直接生じるということと一致する知見である、C8、C9およびMACが、レーザー処置の直後にいくつかの血管において検出されたこと)とともに、正常な皮膚において観察されたものと同様であった。これらの結果は、補体が、PTDL誘発性の血管壊死において活性化され、そしてその後の炎症性反応に関与し得ることを示唆する。
腫瘍の光線力学的療法(PDT)は、強い宿主免疫応答を誘発し、その症状発現の1つは、著明な好中球増加である。PDT誘発性の補体活性化の結果として放出される補体フラグメント(直接的なメディエーター)に加えて、少なくとも12種の二次メディエーター(これらはすべて補体活性の結果として生じる)が存在する。後者としては、サイトカインIL−1ベータ、TNF−アルファ、IL−6、IL−10、G−CSFおよびKC、トロンボキサン、プロスタグランジン、ロイコトリエン、ヒスタミンならびに凝固因子が挙げられる(Cecic,I.ら、Cancer Lett.183:43−51,2002)。
最終的には、MASP−2依存性の補体活性化のインヒビターの使用は、癌の処置のための標準的な治療的レジメンと組み合わせて構想され得る。例えば、キメラ抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブによる処置は、特に循環腫瘍細胞数が多い患者において、中等度から重篤な初回投与副作用に関連し得る。リツキシマブの最初の注入における最近の研究では、5人の再発した低悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)患者において、補体活性化産物(C3b/cおよびC4b/c)およびサイトカイン(腫瘍壊死因子アルファ(TNF−アルファ)、インターロイキン6(IL−6)およびIL−8)を測定した。リツキシマブの注入によって、TNF−アルファ、IL−6およびIL−8の放出の前に迅速な補体活性化が誘導された。研究群は、小さかったが、補体活性化のレベルは、注入前の循環B細胞数と副作用の重症度の両方と相関したとみられる(r=0.85;P=0.07)。これらの結果から、補体が、リツキシマブ処置の副作用の病原において中心的役割を果たすことが示唆される。補体活性化が、コルチコステロイドによって予防され得ないので、リツキシマブの初回投与における補体インヒビターの可能性のある役割を研究することが、今日的な意味があり得る(van der Kolk,L.E.ら、Br.J.Haematol.115:807−811,2001)。
本発明の別の態様において、化学療法および/または放射線治療(癌の状態を処置するためが挙げられるが、これらに限定されない)を用いて処置されている被験体において、MASP−2依存性の補体活性化を阻害するための方法が提供される。この方法は、化学療法付近で、すなわち、化学療法および/または放射線治療の適用の前および/または最中および/または後に、薬学的キャリア中に治療有効量のMASP−2インヒビターを含んでいる組成物を患者に投与する工程を含む。例えば、標的化されていない健常な組織における化学療法および/または放射線治療の有害な作用を低減するために、本発明のMASP−2インヒビター組成物の投与を、化学療法または放射線治療の適用前または適用と同時に開始し得、そして、治療の適用中の全期間にわたって継続し得る。さらに、MASP−2インヒビター組成物は、化学療法および/または放射線治療の後に投与され得る。化学療法および放射線治療のレジメンが、反復処置を必要とすることが多いので、MASP−2インヒビター組成物の投与もまた、繰り返され、化学療法および放射線照射処置と相対的に一致させることが可能であることが理解される。MASP−2阻害薬剤が、悪性腫瘍に罹患している患者を処置するために、化学療法剤として単独で、または、他の化学療法剤および/または放射線治療と併用して使用され得ることも考えられる。投与は、経口的に(非ペプチド作動性薬剤の場合)、静脈内、筋肉内または他の非経口経路によって適切に行われ得る。
内分泌障害
補体系はまた、最近、下垂体からのプロラクチン、成長因子またはインスリン様成長因子およびアドレノコルチコトロピンの制御された放出に関与する、橋本甲状腺炎(Blanchin,S.ら、Exp.Eye Res.73(6):887−96,2001)、ストレス、不安および他の潜在的なホルモン障害(Francis,K.ら、FASEB J.17:2266−2268,2003;Hansen,T.K.,Endocrinology 144(12):5422−9,2003)を含むいくつかの内分泌の状態または障害と関連している。
ホルモンおよびサイトカインなどの分子を用いた2方向コミュニケーションが、内分泌系と免疫系との間に存在する。最近、補体由来のサイトカインであるC3aが、前下垂体のホルモン放出を刺激し、そしてストレス応答および炎症の調節の中心となる反射である視床下部−下垂体−副腎軸を活性化する新しい経路が解明された。C3aレセプターは、下垂体のホルモン分泌細胞および非ホルモン分泌(濾胞星状)細胞において発現する。C3aおよびC3adesArg(非炎症性代謝産物)は、下垂体の細胞培養物を刺激することにより、プロラクチン、成長ホルモンおよびアドレノコルチコトロピンを放出する。副腎性コルチコステロンとともにこれらのホルモンの血清レベルは、インビボにおける組換えC3aおよびC3adesArg投与によって用量依存的に増加する。これは、補体経路が、内分泌脳下垂体とのコミュニケーションによって組織特異的および全身性の炎症性反応を調節することを意味する(Francis,K.ら、FASEB J.17:2266−2268,2003)。
動物およびヒトにおける多くの研究から、成長ホルモン(GH)およびインスリン様成長因子−I(IGF−I)が、免疫機能を調節することが示唆される。GH治療は、危篤状態の患者において死亡率を上昇させた。過度の死亡率は、ほぼ完全に敗血症性ショックまたは多臓器不全に起因し、これは、免疫および補体の機能のGH誘発性の調節が関与することを示唆し得る。マンナン結合レクチン(MBL)は、炭水化物構造に結合した後の、補体カスケードの活性化および炎症を介した先天免疫において重要な役割を果たす血漿タンパク質である。証拠から、MBLレベルに対する成長ホルモンからの著しい影響が支持されるので、潜在的にレクチン依存性補体活性化に対する影響も支持される(Hansen,T.K.,Endocrinology 144(12):5422−9,2003)。
甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)は、自己免疫性の甲状腺疾患に関与する主要な自己抗原の1つである。TPOは、大きなN末端のミエロペルオキシダーゼ様モジュールそして補体制御タンパク質(CCP)様モジュールおよび上皮成長因子様モジュールからなる。CCPモジュールは、C4補体成分の活性化に関与する分子の構成要素であり、C4が、自己免疫性状態においてTPOに結合し、補体経路を活性し得るか否かを調べる研究が行われた。Igによるいかなる媒介も無く、TPOは、CCPモジュールを介して補体を直接活性化する。さらに、橋本甲状腺炎を有する患者において、甲状腺細胞は、C4および補体経路の下流の成分のすべてを過剰発現する。これらの結果から、補体経路の活性化に関係する他の機構とともにTPOが、橋本甲状腺炎において観察された広範な細胞破壊に関与し得ることが示唆される(Blanchin,S.ら、2001)。
従って、本発明の1つの態様は、内分泌障害に罹患している被験体に、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物を投与することによって、内分泌障害を処置するために、MASP−2依存性の補体活性化を阻害するための方法を提供する。本発明に従って処置に供される状態としては、下垂体からのプロラクチン、成長因子またはインスリン様成長因子およびアドレノコルチコトロピンの制御された放出に関与する、橋本甲状腺炎、ストレス、不安および他の可能性のあるホルモン障害が挙げられるが、これらに限定されない。MAS−2阻害薬剤は、全身的に(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、吸入、経鼻、皮下または他の非経口投与によって)または、潜在的には非ペプチド作動性薬剤については経口投与によって、上記被験体に投与され得る。MASP−2阻害薬剤組成物は、1つ以上のさらなる治療薬と併用され得る。投与は、その状態が回復するまで医師が決定するとおりに反復され得る。
眼科学的状態
加齢性黄斑変性症(AMD)は、何百万人もの成人を悩ます失明に至る疾患であるが、AMDの発症をもたらす生化学的な、細胞性および/または分子性のイベントの続発症は、あまり理解されていない。AMDによって、黄斑、黄斑周辺、網膜の後ろおよび網膜色素上皮(RPE)と脈絡膜との間に位置する、ドルーゼンと呼ばれる細胞外沈着の形成と相関する、黄斑の進行性の破壊がもたらされる。最近の研究によって、炎症と関連するタンパク質および免疫媒介性プロセスが、ドルーゼン関連成分の間で優勢であることが明らかになった。多くのこれらの分子をコードする転写物は、網膜細胞、RPE細胞および脈絡膜細胞において検出されている。これらのデータはまた、強力な抗原提示細胞である樹状細胞が、ドルーゼンの発生に本質的に関連すること、および補体活性化が、ドルーゼン内とRPE−脈絡膜界面沿いの両方において活性である重要な経路であることを証明している(Hageman,G.S.ら、Prog.Retin.Eye Res.,20:705−732,2001)。
いくつかの独立した研究によって、AMDと補体H因子(CFH)についての遺伝子の遺伝的多型との間に強い関連が示されており、リスク対立遺伝子は、ホモ接合性の個体においてAMDの可能性を7.4倍増加させる(Klein,R.J.ら、Science,308:362−364,2005;Hainesら、Science 308:362−364.2005;Edwardsら、Science 308:263−264,2005)。CFH遺伝子は、6つの独立した連鎖スキャンによってAMDに関わっている領域である染色体1q31にマッピングされた(例えば、D.W.Schultzら、Hum.Mol.Genet.12:3315,2003を参照のこと)。CFHは、補体系の重要な制御因子であることが知られている。細胞上および循環中のCFHは、C3をC3aおよびC3bに活性化することを阻害することによって、および既存のC3bを不活性化させることによって補体活性を制御していることが示されている。C5b−9の沈着は、AMDを有する患者におけるブルッフ(Brusch’s)膜、毛細血管間の柱(intercapillary pillar)およびドルーゼン内において観察されている(Kleinら)。免疫蛍光法実験から、AMDにおいて、CFHの多型は、脈絡膜の(chorodial)毛細血管および脈絡膜の血管において補体沈着を生じさせ得ることが示唆される(Kleinら)。
補体レセプター1である膜関連補体インヒビターも、ドルーゼンに局在するが、免疫組織化学的にはRPE細胞において検出されていない。対照的に、メンブレンコファクタープロテインである第2の膜関連補体インヒビターは、ドルーゼン関連RPE細胞ならびにドルーゼン内の小さい球状の下部構造のエレメントに存在する。これらのこれまで同定されていないエレメントもまた、補体活性化の部位に特徴的に沈着する補体成分C3のタンパク分解性フラグメントに対して強い免疫反応性を示す。これらの構造は、補体攻撃の標的である変性RPE細胞からの残留残骸に相当すると提案されている(Johnson,L.V.ら、Exp.Eye Res.73:887−896,2001)。
これらの複数の補体制御因子ならびに補体活性化産物(C3a、C5a、C3b、C5b−9)の同定および局在性から、研究者らは、慢性の補体活性化が、ドルーゼン発生のプロセスおよびAMDの病因において重要な役割を果たすと結論づけている(Hagemanら、Progress Retinal Eye Res.20:705−32,2001)。ドルーゼンにおいてC3およびC5の活性化産物が同定されても、C3とC5の両方が、3つすべての経路に共通であるので、本発明に従って理解されるとき、補体が、古典経路、レクチン経路または副経路の増幅ループを介して活性化されているか否かについての見識はもたらされない。しかしながら、2つの研究では、古典経路の活性化に必須の認識成分であるC1qに特異的な抗体を使用してドルーゼン免疫標識が探された(Mullinsら、FASEB J.14:835−846,2000;Johnsonら、Exp.Eye Res.70:441−449,2000)。両方の研究は、ドルーゼンにおけるC1q免疫標識は、広く観察されないと結論付けた。C1qを用いたこれらの否定的な結果から、ドルーゼンにおける補体活性化は、古典経路を介して起こっていないことが示唆される。さらに、免疫複合体成分(IgG軽鎖、IgM)に対するドルーゼンの免疫標識は、Mullinsらの2000年の研究において、弱く、変わりやすいと報告されており、このことから、古典経路が、この疾患プロセスにおいて生じる補体活性化において小さい役割を果たすことがさらに示唆される。
2つの最近の公開された研究では、ヒトCNVのモデルであるマウスのレーザー誘発脈絡膜新生血管(CNV)の発生において補体の役割が評価された。免疫組織学的な方法を用いて、Boraおよび共同研究者ら(2005)は、レーザー処置後の新生血管複合体において補体活性化産物C3bおよびC5b−9(MAC)の有意な沈着を見出した(Boraら、J.Immunol.174:491−7,2005)。重要なことには、CNVは、すべての補体活性化経路において必要とされる必須の成分であるC3が遺伝的に欠損したマウス(C3−/−マウス)において発症しなかった。CNVに関わる3つの血管新生因子であるVEGF、TGF−β2およびβ−FGFに対するRNAメッセージレベルは、レーザー誘発CNV後のマウス由来の眼組織において上昇していた。重大なことには、補体枯渇によって、これらの血管新生因子のRNAレベルの著明な低下がもたらされた。
Nozakiおよび共同研究者らは、強力なアナフィラトキシンC3aおよびC5aが、レーザー誘発CNVの経過の早期において生成されることを、ELISA法を用いて証明した(Nozakiら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.103:2328−33,2006)。さらに、C3およびC5のこれらの2つの生物活性のフラグメントは、野生型マウスにおける硝子体内注射後にVEGF発現を誘導した。これらの結果と一致して、Nozakiおよび共同研究者らはまた、C3aおよびC5aに対するレセプターの遺伝子の除去によって、レーザー損傷後にVEGF発現およびCNV形成が低減すること、ならびに、C3aもしくはC5aの抗体媒介性の中和またはそれらのレセプターの薬理学的遮断もまた、CNVを低減することを示した。以前の研究から、白血球の動員およびマクロファージが、特に、レーザー誘発CNVにおいて中心的役割を果たすことが確立されている(Sakuraiら、Invest.Opthomol.Vis.Sci.44:3578−85,2003;Espinosa−Heidmannら、Invest.Opthomol.Vis.Sci.44:3586−92,2003)。Nozakiおよび共同研究者は、2006年の論文において、C3aR(−/−)マウスおよびC5aR(−/−)マウスにおいてレーザー損傷後に白血球動員が著明に低下することを報告している。
従って、本発明の1つの態様は、加齢性黄斑変性症または他の補体媒介性眼科学的状態に罹患している被験体に、薬学的キャリア中の治療有効量のMASP−2阻害薬剤を含む組成物を投与することによって、そのような状態または他の補体媒介性眼科学的状態を処置するために、MASP−2依存性の補体活性化を阻害するための方法を提供する。MASP−2阻害性組成物は、眼に対して局所的に(例えば、ゲル、軟膏または点眼剤の形態の組成物の灌注または塗布によって)投与され得る。あるいは、MASP−2阻害薬剤は、全身的に(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、吸入、経鼻、皮下または他の非経口投与によって)または、潜在的には非ペプチド作動性薬剤については経口投与によって、上記被験体に投与され得る。MASP−2阻害薬剤組成物は、1つ以上のさらなる治療薬(例えば、米国特許出願公開番号2004−0072809−A1に開示されているもの)と併用され得る。投与は、その状態が回復するまで、または管理されるまで、医師が決定するとおりに反復され得る。
凝血異常
播種性血管内凝固(「DIC」)(例えば、重大な肉体の外傷に続発するDIC)における補体系の役割についての証拠が明らかにされてきた。
以前の研究では、C4−/−マウスが腎再灌流損傷から保護されないことが示された(Zhou,W.ら“Predominant role for C5b−9 in renal ischemia/reperfusion injury”,J Clin Invest 105:1363−1371(2000))。C4−/−マウスがなおも、古典経路またはレクチン経路のいずれかを介して補体を活性化することができ得るか否かを調べるために、C4−/−血漿中のC3の代謝回転を、古典経路またはレクチン経路のいずれかの活性化経路に特異的なアッセイにおいて測定した。古典経路を介して活性化を誘発するときには、C3の切断を観察することができなかったが、C4欠損血清中では、高度に効率的なレクチン経路依存性のC3活性化が観察された(図30)。副経路の活性化に関する以前に公開された多くの論文によれば、3つすべての経路に対して許容的であるはずの実験条件下でさえも、マンナン上およびザイモサン上のC3b沈着は、MASP−2−/−マウスにおいて激しく損なわれると理解することができる。マンナンまたはザイモサンの代わりに免疫グロブリン複合体でコーティングされたウェルにおいて同じ血清を用いるとき、C3bの沈着およびB因子の切断が、MASP−2+/+マウス血清中およびMASP−2−/−血清中で見られるが、C1q枯渇血清中では見られない。これは、最初のC3bが古典経路の活性を介して提供されるとき、別の経路の活性化がMASP−2−/−血清中で促進されることを示唆する。図30Cは、C3が、C4欠損血漿中においてレクチン経路依存性の様式で効率的に活性化され得るという驚くべき知見を表している。
この「C4バイパス」は、血漿を予め可溶性マンナンまたはマンノースとインキュベートすることによるレクチン経路活性化の阻害によって無くなる。
補体系の異常な非免疫性の活性化は、ヒトにとって潜在的に有害であり、また、血液学的な経路の活性化、特に、炎症性の経路および血液学的な経路の両方が活性化される重篤な外傷の状況において重要な役割を果たし得る。正常な健康状態では、C3変換は、全血漿C3タンパク質の<5%である。敗血症および免疫複合体病を含む激しい感染症では、使用の増加およびプール分布の変化に起因して正常よりも低いことが多い補体レベルで、C3変換は約30%に再定着する。30%を超える即時型のC3経路活性化は、一般に、血管拡張および組織への体液喪失の明白な臨床上の証拠をもたらす。C3変換が30%を超えるとき、開始機構は、主に非免疫性であり、結果として生じる臨床症状は、患者にとって有害である。健康な状態および制御された疾患における補体C5レベルは、C3よりもいっそう安定であるとみられる。C5レベルの有意な減少およびまたは変換は、異常な多発外傷(例えば、道路交通事故)に対する患者の反応およびショック肺症候群を発症する可能性と関連する。したがって、血管プールの30%を超える補体C3活性化もしくは任意のC5の関与のいずれかまたはその両方の任意の証拠は、おそらく、患者における有害な病理学的変化の前触れであると考えられ得る。
C3およびC5の両方が、血管拡張性化学物質を放出するマスト細胞および好塩基球に対して作用するアナフィラトキシン(C3aおよびC5a)を遊離する。それらは、多形核細胞(PMN)を免疫学的障害の中心に導く走化性の勾配を築く(有益な応答)が、C5aは、これらの食細胞に対する特異的なクランピング(凝集)作用を有し、反応部位から離れるそれらのランダムな動きを妨げるので、本明細書中では、それらは異なる。通常の感染制御では、C3は、C5を活性化する。しかしながら、多発外傷では、C5は、広く活性化されるとみられ、C5aアナフィラトキシンが全身的に生成される。この制御されない活性は、血管系内の凝集塊に多形を引き起こし、次いで、これらの凝集塊は、肺の毛細血管に押し流され、それにより、その毛細血管は閉塞し、スーパーオキシド遊離の結果として局所的な損傷作用をもたらす。理論に限定する意図はないが、その機構は、おそらく急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の病原において重要であるが、この見解は、最近、異議が唱えられている。インビトロにおけるC3aアナフィラトキシンは、強力な血小板凝集物質(platelet aggregators)であると示され得るが、インビボでのそれらの関与は、それほど定義されておらず、創傷修復における血小板物質およびプラスミンの放出が、二次的に補体C3と関与し得るだけである。C3活性化の長期間の上昇が、DICをもたらすために必要である可能性がある。
上で概説された外傷とDICとの関連を説明し得る活性化された補体成分の細胞性および血管性の作用に加えて、新たに出現した科学的発見では、補体と凝固系との間の直接的な分子リンクおよび機能的なクロストークが同定された。C3欠損マウスにおける研究から、支持するデータが得られた。C3は、補体経路の各々にとって共有される成分であるので、C3欠損マウスは、すべての補体機能を欠くと予測される。しかしながら、驚いたことに、C3欠損マウスは、完全に最終(terminal)補体成分を活性化することができる(Huber−Lang,M.ら、“Generation of C5a in the absence of C3:a new complement activation pathway”,Nat.Med 12:682−687(2006))。徹底的な研究から、最終補体成分のC3非依存性の活性化が、凝固カスケードの律速酵素であるトロンビンによって媒介されることが明らかになった(Huberら、2006)。最初の補体活性化後のトロンビン活性化を媒介する分子成分は、見つからないままだった。
本発明者らは、何が補体と血液凝固カスケードとの間のクロストークに対する分子基盤であると考えられるかを解明し、それらの2つの系を結びつける制御点の中心としてMASP−2を同定した。MASP−2の基質特異性に対する生化学的研究によって、周知のC2およびC4補体タンパク質に加えて可能性のある基質としてプロトロンビンが同定された。MASP−2は、機能的に意味のある部位においてプロトロンビンを特異的に切断して、凝固カスケードの律速酵素であるトロンビンを生成する(Krarup,A.ら、“Simultaneous Activation of Complement and Coagulation by MBL−Associated Serine Protease 2”,PLoS.ONE.2:e623(2007))。MASP−2によって生成されるトロンビンは、再構成された規定のインビトロの系においてフィブリン沈着を促進することができることから、MASP−2切断の機能的関連性が証明される(Krarupら、2007)。下の本明細書中の実施例において考察されるように、本発明者らは、レクチン経路活性化後の正常なげっ歯類血清中におけるトロンビン活性化を実証することによってこの発見の生理学的意義をさらに裏付け、そのプロセスがMASP−2モノクローナル中和抗体によって阻止されることを証明した。
MASP−2は、補体および凝固系の両方の活性化を促進することができる、レクチン経路における分岐点の中心であり得る。レクチン経路の活性化は、多くのタイプの外傷性損傷に対する生理学的反応であるので、本発明者らは、全身性炎症(補体成分によって媒介される)と播種性の凝固(血液凝固経路を介して媒介される)との同時発生が、両方の経路をMASP−2が活性化する能力によって説明され得ると考えている。これらの知見は、DIC発生におけるMASP−2の役割、およびDICの処置または予防におけるMASP−2阻害の治療的な利点を明らかに示唆している。MASP−2は、補体と凝固系との間の分子リンクを提供し得、外傷の状況において起きるレクチン経路の活性化は、MASP−2−トロンビンの軸を介して血液凝固系の活性化を直接開始し得ることから、外傷とDICとの間の機構的なリンクが提供される。本発明の態様によれば、MASP−2の阻害は、レクチン経路の活性化を阻害し得、アナフィラトキシンC3aおよびC5aの両方の生成を減少させ得る。C3活性化の長期間の上昇が、DICをもたらすために必要であると考えられる。
したがって、本発明の態様は、薬学的キャリア中に治療有効量のMASP−2阻害薬剤(例えば、抗MASP−2抗体もしくはそのフラグメント、ペプチドインヒビターまたは小分子インヒビター)を含む組成物を、播種性血管内凝固もしくは他の補体媒介性の凝固障害に罹患しているかまたはそれを発症するリスクがある被験体に投与することによって、そのような状態を処置するためにMASP−2依存性の補体活性化を阻害するための方法を提供する。いくつかの実施形態において、そのMASP−2阻害薬剤は、すでに活性化されているMASP−2を阻止し得る。そのMASP−2阻害性組成物は、全身的に(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、吸入、経鼻、皮下または他の非経口投与によって)または潜在的には非ペプチド作動性薬剤については経口投与によって、上記被験体に適当に投与される。投与は、その状態が消散するかまたは制御されるまで、医師が決定するとおりに繰り返され得る。本発明のこの態様の方法は、敗血症、重篤な外傷(神経学的な外傷(例えば、急性頭部損傷、Kumura,E.ら、Acta Neurochirurgica 85:23−28(1987)を参照のこと)を含む)、感染症(細菌、ウイルス、真菌、寄生生物)、癌、産科合併症、肝疾患、重篤な中毒反応(例えば、蛇咬傷、虫刺され、輸血反応)、ショック、熱射病、移植片拒絶、血管動脈瘤(vascular aneurysm)、肝不全、化学療法または放射線治療による癌処置、熱傷、不慮の放射線被曝、および他の原因に続発するDICを処置するために利用され得る。例えば、Becker J.U.and Wira C.R.“Disseminated Intravascular Coagulation”emedicine.medscape.com/9/10/2009を参照のこと。外傷または他の急性の事象に続発するDICの場合、MASP−2阻害性組成物は、外傷性損傷の直後に投与されてもよいし、外傷を誘導する損傷または状況(例えば、DICのリスクがあると考えられる患者における外科術)の前、その最中、その直後、またはその1〜7日以内もしくはそれ以降(例えば、24時間〜72時間以内)に予防的に投与されてもよい。いくつかの実施形態において、MASP−2阻害性組成物は、速効性の剤形で(例えば、MASP−2阻害薬剤組成物を含む溶液のボーラスの静脈内送達または動脈内送達によって)適当に投与され得る。
(IV.MASP−2阻害薬剤)
1つの態様において、本発明は、MASP−2依存性の補体活性化の有害作用を阻害する方法を提供する。MASP−2阻害薬剤は、生存被験体においてMASP−2依存性の補体活性化を阻害するのに有効な量で投与される。本発明のこの態様の実施において、代表的なMASP−2阻害薬剤としては:MASP−2の生物学的活性を阻害する分子(例えば、低分子インヒビター、抗MASP−2抗体、または、MASP−2と相互作用するか、もしくはタンパク質−タンパク質相互作用を干渉する遮断ペプチド)およびMASP−2の発現を低下させる分子(例えば、MASP−2アンチセンス核酸分子、MASP−2特異的RNAi分子およびMASP−2リボザイム)が挙げられ、これらによって、MASP−2が補体副経路の活性化を妨害する。MASP−2阻害薬剤は、一次療法として単独で、または他の医学的処置の治療的な利点を強める補助療法として他の治療法と併用しても使用され得る。
MASP−2依存性の補体活性化の阻害は、本発明の方法に従ってMASP−2阻害薬剤が投与された結果として生じる補体系の成分のその後の変化のうちの少なくとも1つ:MASP−2依存性の補体活性化の系の産物であるC4b、C3a、C5aおよび/もしくはC5b−9(MAC)の生成または産生の阻害(例えば、実施例2に記載される通りに測定される)、非感作のウサギまたはモルモットの赤血球を使用する溶血アッセイにおいて評価される副補体活性化の低下、C4切断およびC4b沈着の減少(例えば、実施例2に記載される通りに測定される)あるいはC3切断およびC3b沈着の減少(例えば、実施例2に記載されている通りに測定される)を特徴とする。
本発明によれば、MASP−2依存性の補体活性化の系を阻害する際に有効であるMASP−2阻害薬剤を利用する。本発明のこの態様の実施において有用なMASP−2阻害薬剤としては、例えば、抗MASP−2抗体およびそのフラグメント、MASP−2阻害性ペプチド、低分子、MASP−2可溶性レセプターならびに発現インヒビターが挙げられる。MASP−2阻害薬剤は、MASP−2の生物学的機能を遮断することによってMASP−2依存性の補体活性化の系を阻害し得る。例えば、阻害薬剤は、MASP−2タンパク質とタンパク質との相互作用を効果的に遮断し得るか、MASP−2の二量体化または構築を干渉するか、Ca2+結合を遮断するか、MASP−2セリンプロテアーゼ活性部位を干渉するか、または、MASP−2タンパク質発現を低下させ得る。
いくつかの実施形態において、MASP−2阻害薬剤は、MASP−2の補体活性化を選択的に阻害することによって、C1q依存性の補体活性化の系を機能的に損なわないままにする。
1つの実施形態において、本発明の方法において有用なMASP−2阻害薬剤は、補体系における他の抗原に対する親和性よりも少なくとも10倍高い親和性で、配列番号6を含むポリペプチドに特異的に結合する特異的なMASP−2阻害薬剤である。別の実施形態において、MASP−2阻害薬剤は、補体系における他の抗原に対する結合親和性よりも少なくとも100倍高い結合親和性で配列番号6を含むポリペプチドに特異的に結合する。MASP−2阻害薬剤の結合親和性は、適当な結合アッセイを用いて測定され得る。
MASP−2ポリペプチドは、MASP−1、MASP−3ならびにC1補体系のプロテアーゼであるC1rおよびC1sに類似の分子構造を示す。配列番号4に示されるcDNA分子は、MASP−2の代表例(配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる)をコードし、そして分泌後に切断されてヒトMASP−2の成熟型(配列番号6)がもたらされる、リーダー配列を有するヒトMASP−2ポリペプチド(aa1−15)を提供する。図2に示される通りに、ヒトMASP2遺伝子は、12個のエキソンを包含する。ヒトMASP−2 cDNAは、エキソンB、C、D、F、G、H、I、J、KおよびLによってコードされる。選択的スプライシングによって、図2に示される通りに、エキソンB、C、DおよびEから生じる(配列番号1)によってコードされるMBL関連タンパク質19(「MAp19」、「sMAP」とも呼ばれる)(配列番号2)と呼ばれる20kDaのタンパク質がもたらされる。配列番号50に示されるcDNA分子は、マウスMASP−2(配列番号51に示されるアミノ酸配列からなる)をコードし、分泌後に切断されて、マウスMASP−2の成熟型(配列番号52)をもたらす、リーダー配列を含むマウスMASP−2ポリペプチドを提供する。配列番号53に示されるcDNA分子は、ラットMASP−2(配列番号54に示されるアミノ酸配列からなる)をコードし、分泌後に切断されて、ラットMASP−2の成熟型(配列番号55)をもたらす、リーダー配列を含むラットMASP−2ポリペプチドを提供する。
当業者は、配列番号4、配列番号50および配列番号53に開示される配列が、それぞれヒト、マウスおよびラットのMASP−2の単一の対立遺伝子であること、ならびに、対立遺伝子バリエーションおよび選択的スプライシングが生じると予想されることを認識するだろう。サイレント変異を含む配列および変異によってアミノ酸配列が変化する配列を含む、配列番号4、配列番号50および配列番号53に示されるヌクレオチド配列の対立遺伝子改変体は、本発明の範囲内である。MASP−2配列の対立遺伝子改変体は、標準的な手順に従って、様々な個体由来のcDNAライブラリーまたはゲノムライブラリーを探索することによってクローニングされ得る。
ヒトMASP−2タンパク質のドメイン(配列番号6)を、図3Aに示し、そのドメインとしては、N末端のC1r/C1s/ウニVegf/骨形態形成タンパク質(CUBI)ドメイン(配列番号6のaa1−121)、上皮成長因子様ドメイン(aa122−166)、第2のCUBIドメイン(aa167−293)ならびにタンデム型の補体制御タンパク質ドメインおよびセリンプロテアーゼドメインが挙げられる。MASP2遺伝子の選択的スプライシングによって、図3Bに示されるMAp19がもたらされる。MAp19は、図2に示される通りにエキソンE由来の4つのさらなる残基(EQSL)を有するMASP−2のN末端のCUB1−EGF領域を含む非酵素的なタンパク質である。
いくつかのタンパク質は、MASP−2に結合するか、またはタンパク質とタンパク質との相互作用によってMASP−2を干渉することが示されている。例えば、MASP−2は、レクチンタンパク質であるMBL、H−フィコリンおよびL−フィコリンに結合し、そしてそれらとCa2+依存性複合体を形成することが知られている。各MASP−2/レクチン複合体は、タンパク質C4およびC2のMASP−2依存性切断によって補体を活性化することが示されている(Ikeda,K.ら、J.Biol.Chem.262:7451−7454,1987;Matsushita,M.ら、J.Exp.Med.176:1497−2284,2000;Matsushita,M.ら、J.Immunol.168:3502−3506,2002)。研究によって、MASP−2のCUB1−EGFドメインは、MASP−2とMBLとの会合に不可欠であることが示されている(Thielens,N.M.ら、J.Immunol.166:5068,2001)。CUB1EGFCUBIIドメインが、活性なMBL複合体の形成に必要なMASP−2の二量体化を媒介することも示されている(Wallis,R.ら、J.Biol.Chem.275:30962−30969,2000)。したがって、MASP−2依存性の補体活性化にとって重要であることが知られているMASP−2標的領域に結合するか、または、それを干渉するMASP−2阻害薬剤は、同定され得る。
抗MASP−2抗体
本発明のこの態様のいくつかの実施形態において、MASP−2阻害薬剤は、MASP−2依存性の補体活性化の系を阻害する抗MASP−2抗体を含む。本発明のこの態様において有用な抗MASP−2抗体としては、任意の抗体産生哺乳動物から得られるポリクローナル抗体、モノクローナル抗体または組換え抗体が挙げられ、そして、多特異的抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、抗イディオタイプ抗体および抗体フラグメントであり得る。抗体フラグメントとしては、本明細書中でさらに記載するような、Fab、Fab’、F(ab)2、F(ab’)2、Fvフラグメント、scFvフラグメントおよび一本鎖抗体が挙げられる。
いくつかの抗MASP−2抗体は、文献に記載されており、そのうちのいくつかを以下の表1に列挙する。これらの以前に報告された抗MASP−2抗体は、本明細書中に記載されるアッセイを用いて、MASP−2依存性の補体活性化の系を阻害する能力についてスクリーニングされ得る。例えば、本明細書中の実施例24および25に詳細に記載するように、MASP−2依存性の補体活性化を遮断する抗ラットMASP−2 Fab2抗体が同定された。一旦、MASP−2阻害薬剤として機能する抗MASP−2抗体が同定されると、それを用いて、抗イディオタイプ抗体を作製することができ、また、以下にさらに記載されるような他のMASP−2結合分子を同定することができる。
エフェクター機能の低い抗MASP−2抗体
本発明のこの態様のいくつかの実施形態において、補体古典経路の活性化から生じ得る炎症を低減するために、抗MASP−2抗体は、低いエフェクター機能を有する。IgG分子が補体古典経路を開始する能力は、その分子のFc部の内部に存在することが知られている(Duncan,A.R.ら、Nature 332:738−740 1988)。その分子のFc部が酵素的切断によって除去されたIgG分子は、このエフェクター機能を欠いている(Harlow,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New
York,1988を参照のこと)。従って、エフェクター機能の低い抗体は、エフェクター機能を最小限にする遺伝的に操作されたFc配列を有することによって、その分子のFc部を有しない結果として生成され得るか、または、ヒトIgG2もしくはIgG4アイソタイプのいずれかである結果として生成され得る。
エフェクター機能の低い抗体は、本明細書中の実施例9に記載される通りに、そしてJolliffeら、Int’l Rev.Immunol.10:241−250,1993およびRodriguesら、J.Immunol.151:6954−6961,1998にも記載されている通りに、IgG重鎖のFc部の標準的な分子生物学的操作によって作製され得る。エフェクター機能の低い抗体はまた、補体を活性化する能力および/またはFcレセプターと相互作用する能力が低いヒトIgG2およびIgG4アイソタイプを含む(Ravetch,J.V.ら、Annu.Rev.Immunol.9:457−492,1991;Isaacs,J.D.ら、J.Immunol.148:3062−3071,1992;van de Winkel,J.G.ら、Immunol.Today 14:215−221,1993)。IgG2またはIgG4アイソタイプを含む、ヒトMASP−2に特異的であるヒト化抗体または完全なヒト抗体は、Vaughan,T.J.ら、Nature Biotechnical 16:535−539,1998に記載されている通りに、当業者に公知のいくつかの方法のうちの1つによって作製され得る。
抗MASP−2抗体の作製
抗MASP−2抗体は、MASP−2ポリペプチド(例えば、完全長MASP−2)を使用するか、または抗原性のMASP−2エピトープを有するペプチド(例えば、MASP−2ポリペプチドの一部)を使用して作製され得る。免疫原性のペプチドは、5アミノ酸残基くらい小さくてもよい。例えば、配列番号6のアミノ酸配列全体を含むMASP−2ポリペプチドを使用して、本発明の方法に有用な抗MASP−2抗体を誘導し得る。タンパク質−タンパク質相互作用に関与することが知られている特定のMASP−2ドメイン(例えば、CUBIおよびCUBIEGFドメインならびにセリン−プロテアーゼ活性部位を包含する領域)は、実施例5に記載される通りに組換えポリペプチドとして発現され得、そして抗原として使用され得る。さらに、MASP−2ポリペプチド(配列番号6)の一部の少なくとも6アミノ酸を含むペプチドもまた、MASP−2抗体を誘導するのに有用である。MASP−2抗体を誘導するのに有用なMASP−2由来の抗原のさらなる例を、以下の表2に提供する。抗体を産生するために使用されるMASP−2ペプチドおよびポリペプチドは、天然のポリペプチドまたは組換えペプチドもしくは合成ペプチドおよび触媒的に不活性な組換えポリペプチド(例えば、実施例5〜7にさらに記載するようなMASP−2A)として単離され得る。本発明のこの態様のいくつかの実施形態において、抗MASP−2抗体は、実施例8および9ならびに以下にさらに記載される通りに、トランスジェニックマウス系統を使用して得られる。
抗MASP−2抗体を作製するために有用な抗原としては、融合ポリペプチド(例えば、MASP−2またはその一部と、免疫グロブリンポリペプチドまたはマルトース結合タンパク質との融合物)もまた挙げられる。そのポリペプチド免疫原は、完全長分子であってもよいし、その一部であってもよい。上記ポリペプチドの一部が、ハプテン様である場合、そのような一部は、免疫化のために高分子キャリア(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)または破傷風トキソイド)と有利に結合され得るか、または連結され得る。
ポリクローナル抗体
MASP−2に対するポリクローナル抗体は、当業者に周知の方法を使用して、MASP−2ポリペプチドまたはその免疫原性部分を用いて動物を免役することによって調製され得る。例えば、Greenら、「Production of Polyclonal Antisera」Immunochemical Protocols(Manson,ed.),page 105および実施例6にさらに記載される部分を参照のこと。MASP−2ポリペプチドの免疫原性は、無機物のゲル(例えば、水酸化アルミニウムまたはフロイントアジュバント(完全または不完全))を含むアジュバント、リゾレシチンなどの表面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニンおよびジニトロフェノールを使用することによって増大され得る。ポリクローナル抗体は、代表的には、動物(例えば、ウマ、ウシ、イヌ、ニワトリ、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ヤギまたはヒツジ)において産生される。あるいは、本発明において有用な抗MASP−2抗体は、ヒトに近い霊長類に由来してもよい。ヒヒにおいて診断的かつ治療的に有用な抗体を産生するための通常の手法は、例えば、Goldenbergら、国際特許公開番号WO91/11465およびLosman,M.J.ら、Int.J.Cancer 46:310,1990に見出され得る。次いで、免疫学的に活性な抗体を含む血清を、当該分野で周知の標準的な手順を使用して、そのような免役された動物の血液から得る。
モノクローナル抗体
いくつかの実施形態において、MASP−2阻害薬剤は、抗MASP−2モノクローナル抗体である。抗MASP−2モノクローナル抗体は、非常に特異的であり、単一のMASP−2エピトープに対して産生されたものである。本明細書中で使用されるとき、修飾語「モノクローナル」とは、実質的に同種の抗体集団から得られた抗体の特性のことを示し、任意の特定の方法による抗体の作製を必要とすると解釈されるべきでない。モノクローナル抗体は、継続的に培養中の細胞株による抗体分子の産生をもたらす任意の手法(例えば、Kohler,G.ら、Nature 256:495,1975に記載されているハイブリドーマ法)を使用して得ることができるか、または組換えDNA法(例えば、Cabillyに対する米国特許第4,816,567号を参照のこと)によって作製され得る。モノクローナル抗体はまた、Clackson,T.ら、Nature 352:624−628,1991およびMarks,J.D.ら、J.Mol.Biol.222:581−597,1991に記載されている手法を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離され得る。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDおよびそれらの任意のサブクラスを含む任意の免疫グロブリンクラスであり得る。
例えば、モノクローナル抗体は、適当な哺乳動物(例えば、BALB/cマウス)に、MASP−2ポリペプチドまたはその一部を含む組成物を注射することによって得ることができる。所定の期間が経過した後、脾細胞をそのマウスから取り出し、そして細胞培養培地中に懸濁する。次いで、その脾細胞を不死細胞株と融合することにより、ハイブリドーマを形成する。形成されたハイブリドーマを細胞培養で増殖させ、MASP−2に対するモノクローナル抗体を産生する能力についてスクリーニングする。抗MASP−2モノクローナル抗体の作製をさらに説明している例を実施例7に提供する。(Current
Protocols in Immunology,Vol.1.,John Wiley & Sons,pages 2.5.1−2.6.7,1991もまた参照のこと)。
ヒトモノクローナル抗体は、抗原チャレンジに応答して特異的なヒト抗体を産生するように操作されたトランスジェニックマウスを使用することによって得てもよい。この手法では、内在性の免疫グロブリン重鎖および軽鎖の遺伝子座が標的破壊されている胚性幹細胞系統由来のマウスの系統にヒト免疫グロブリン重鎖および軽鎖の遺伝子座のエレメントを導入する。そのトランスジェニックマウスは、ヒト抗原(例えば、本明細書中に記載されるMASP−2抗原)に特異的なヒト抗体を合成することができ、実施例7にさらに記載される通りに従来のKohler−Milstein技術を使用して、そのマウスを使用することにより、そのような動物由来のB細胞と適当な骨髄腫細胞株とを融合することによって、ヒトMASP−2抗体分泌ハイブリドーマを作製することができる。ヒト免疫グロブリンゲノムを有するトランスジェニックマウスは、市販されている(例えば、Abgenix,Inc.,Fremont,CAおよびMedarex,Inc.,Annandale,N.Jから)。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得るための方法は、例えば、Green,L.L.ら、Nature Genet.7:13,1994;Lonberg,N.ら、Nature 368:856,1994;およびTaylor,L.D.ら、Int.Immun.6:579,1994に記載されている。
モノクローナル抗体は、種々の十分に確立された手法によってハイブリドーマ培養物から単離および精製され得る。そのような単離手法としては、プロテインAセファロースを用いたアフィニティークロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィおよびイオン交換クロマトグラフィが挙げられる(例えば、Coligan 2.7.1−2.7.12頁および2.9.1−2.9.3頁;Bainesら、「Purification of Immunoglobulin G(IgG),」Methods in Molecular Biology,The Humana Press,Inc.,Vol.10,pages 79−104,1992を参照のこと)。
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体またはファージ由来抗体は、一旦作製されると、まず、特異的なMASP−2結合性について試験される。当業者に公知の種々のアッセイが、MASP−2に特異的に結合する抗体を検出するために利用され得る。代表的なアッセイとしては、標準的な方法によるウエスタンブロットまたは免疫沈降解析(例えば、Ausubelらに記載されているような)、免疫電気泳動、酵素結合免疫吸着測定法、ドットブロット、阻害アッセイもしくは競合アッセイおよびサンドイッチアッセイが挙げられる(Harlow and Land,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1988に記載されているような)。一旦、MASP−2に特異的に結合する抗体が同定されると、その抗MASP−2抗体は、いくつかのアッセイのうちの1つ(例えば、レクチン特異的C4切断アッセイ(実施例2に記載)、C3b沈着アッセイ(実施例2に記載)またはC4b沈着アッセイ(実施例2に記載))においてMASP−2阻害薬剤として機能する能力について試験される。
抗MASP−2モノクローナル抗体の親和性は、当業者によって容易に決定され得る(例えば、Scatchard,A.,NY Acad.Sci.51:660−672,1949を参照のこと)。1つの実施形態において、本発明の方法に有用な抗MASP−2モノクローナル抗体は、100nM未満、好ましくは10nM未満および最も好ましくは2nM未満の結合親和性でMASP−2に結合する。
キメラ/ヒト化抗体
本発明の方法において有用なモノクローナル抗体としては、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種由来の抗体または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応配列と同一あるいは同種であり、それらの鎖の残りの部分が、別の種由来かまたは別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応配列と同一または同種であるキメラ抗体ならびにそのような抗体のフラグメントが挙げられる(Cabillyに対する米国特許第4,816,567号およびMorrison,S.L.ら、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 87:6851−6855,1984)。
本発明において有用なキメラ抗体の1つの形態は、ヒト化モノクローナル抗MASP−2抗体である。非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化型は、キメラ抗体であり、それは非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含む。ヒト化モノクローナル抗体は、マウス免疫グロブリンの可変重鎖および可変軽鎖からヒト可変ドメインに非ヒト(例えば、マウス)相補性決定領域(CDR)を移植することによって作製される。そして、ヒト抗体の残りの部分を、代表的には非ヒト対応物のフレームワーク領域で置換する。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体に見られない残りの部分を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに洗練させるためになされる。通常、ヒト化抗体は、少なくとも1つの可変ドメインおよび代表的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、ここで、超可変ループのすべてまたは実質的にすべては、非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、そしてFvフレームワーク領域のすべてまたは実質的にすべては、ヒト免疫グロブリン配列のFvフレームワーク領域である。ヒト化抗体はまた、必要に応じて、免疫グロブリン定常領域(Fc)、代表的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含む。さらなる詳細については、Jones,P.T.ら、Nature 321:522−525,1986;Reichmann,L.ら、Nature 332:323−329,1988;およびPresta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596,1992を参照のこと。
本発明において有用なヒト化抗体としては、少なくともMASP−2結合CDR3領域を含むヒトモノクローナル抗体が挙げられる。さらに、Fc部は、IgAまたはIgMならびにヒトIgG抗体を作製するために置換され得る。そのようなヒト化抗体は、ヒトMASP−2を特異的に認識するが、ヒトにおいてその抗体自体に対して免疫応答を誘発しないので、特定の臨床的有用性を有する。その結果として、そのようなヒト化抗体は、特に、反復投与または長期間にわたる投与が必要なときに、ヒトにおけるインビボ投与により適している。
マウス抗MASP−2モノクローナル抗体からのヒト化抗MASP−2抗体の作製の例は、本明細書中の実施例10に提供される。ヒト化モノクローナル抗体を作製するための手法は、例えば、Jones,P.T.ら、Nature 321:522,1986;Carter,P.ら、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 89:4285,1992;Sandhu,J.S.,Crit.Rev.Biotech.12:437,1992;Singer,I.I.ら、J.Immun.150:2844,1993;Sudhir(ed.),Antibody Engineering Protocols,Humana Press,Inc.,1995;Kelley,「Engineering Therapeutic Antibodies,」Protein Engineering:Principles and Practice,Clelandら(eds.),John Wiley & Sons,Inc.,pages 399−434,1996;およびQueenに対する米国特許第5,693,762号,1997にも記載されている。さらに、特定のマウス抗体領域からヒト化抗体を合成する商業的団体が存在する(例えば、Protein Design Labs(Mountain View,CA))。
組換え抗体
抗MASP−2抗体は、組換え法を使用しても作製することができる。例えば、ヒト免疫グロブリン発現ライブラリー(例えば、Stratagene,Corp.,La Jolla,CAから入手可能)を用いてヒト抗体を作製することにより、ヒト抗体のフラグメント(VH、VL、FV、Fd、FabまたはF(ab’)2)を作製することができる。次いで、これらのフラグメントは、キメラ抗体を作製するための手法と同様の手法を用いてヒト抗体全体を構築するために使用される。
抗イディオタイプ抗体
一旦、所望の阻害性活性を有する抗MASP−2抗体が同定されると、これらの抗体を使用することにより、当該分野で周知の手法を用いてMASP−2の一部に似た抗イディオタイプ抗体を作製することができる。例えば、Greenspan,N.S.ら、FASEB J.7:437,1993を参照のこと。例えば、MASP−2に結合し、そして補体活性化に必要なMASP−2タンパク質相互作用を競合的に阻害する抗体を使用して、MASP−2タンパク質上のMBL結合部位に似ているがゆえに、MASP−2の結合リガンド(例えば、MBL)に結合して中和する抗イディオタイプを作製することができる。
免疫グロブリンフラグメント
本発明の方法において有用なMASP−2阻害薬剤は、インタクトな免疫グロブリン分子だけでなく、Fab、Fab’、F(ab)2、F(ab’)2およびFvフラグメント、scFvフラグメント、ダイアボディ、鎖状抗体、一本鎖抗体分子ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体を含む周知のフラグメントも包含する。
抗体分子のほんの小さな一部であるパラトープが、エピトープに対する抗体の結合性に関与することは、当該分野で周知である(例えば、Clark,W.R.,The Experimental Foundations of Modern Immunology,Wiley & Sons,Inc.,NY,1986を参照のこと)。抗体のpFc’およびFc領域は、補体古典経路のエフェクターであるが、抗原の結合性には関与しない。pFc’領域が酵素的に切断されているか、またはpFc’領域なしに作製された抗体は、F(ab’)2フラグメントと命名され、インタクトな抗体の抗原結合部位の両方を保持する。単離されたF(ab’)2フラグメントは、2つの抗原結合部位を有するので、二価モノクローナルフラグメントと呼ばれる。同様に、Fc領域が、酵素的にされているか、またはFc領域なしに作製された抗体は、Fabフラグメントと命名され、インタクトな抗体分子の抗原結合部位のうちの1つを保持する。
抗体フラグメントは、タンパク分解性の加水分解(例えば、従来の方法によって抗体全体をペプシン消化またはパパイン消化することによって)得ることができる。例えば、抗体フラグメントは、F(ab’)2という5Sフラグメントをもたらすために、ペプシンによる抗体の酵素的切断によって作製され得る。このフラグメントを、チオール還元剤を用いてさらに切断することにより、3.5SFab’一価フラグメントが作製され得る。必要に応じて、この切断反応は、ジスルフィド結合の切断によって生じるスルフヒドリル基に対する保護基を用いて行われ得る。別の方法として、ペプシンを用いた酵素的切断によって、2つの一価FabフラグメントおよびFcフラグメントが直接生成される。これらの方法は、例えば、Goldenbergに対する米国特許第4,331,647号;Nisonoff,A.ら、Arch.Biochem.Biophys.89:230,1960;Porter,R.R.,Biochem.J.73:119,1959;Edelmanら、Methods in Enzymology,1:422,Academic Press,1967;およびColiganによる2.8.1−2.8.10ページおよび2.10.−2.10.4記載されている。
いくつかの実施形態において、FcがFcγレセプターに結合することによって開始される補体古典経路の活性化を回避するために、Fc領域を有しない抗体フラグメントを使用することが好ましい。Fcγレセプター相互作用を回避するMoAbを作製することができるいくつかの方法が存在する。例えば、モノクローナル抗体のFc領域を、タンパク分解性酵素(例えば、フィシン消化)による部分的な消化を用いて化学的に除去することによって、例えば、抗原結合抗体フラグメント(例えば、FabまたはF(ab)2フラグメント)が生成され得る(Mariani,M.ら、Mol.Immunol.28:69−71,1991)。あるいは、本明細書中に記載されるようなヒト化抗体の構築において、Fcγレセプターに結合しないヒトγ4 IgGアイソタイプが使用され得る。Fcドメインを有しない抗体、一本鎖抗体および抗原結合ドメインは、本明細書中に記載される組換え手法を用いることによっても操作され得る。
一本鎖抗体フラグメント
あるいは、重鎖および軽鎖のFv領域が連結された、MASP−2に特異的な分子に結合する一本鎖ペプチドを作製することができる。Fvフラグメントを、ペプチドリンカーによって連結することにより、一本鎖抗原結合タンパク質(scFv)が形成され得る。これらの一本鎖抗原結合タンパク質は、オリゴヌクレオチドによって連結された、VHドメインおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって調製される。その構造遺伝子を発現ベクターに挿入し、それを続いてE.coliなどの宿主細胞に導入する。組換え宿主細胞は、2つのVドメインを繋ぐリンカーペプチドを有する一本鎖ポリペプチドを合成する。scFvを作製するための方法は、例えば、Whitlowら、「Methods:A Companion to Methods in Enzymology」2:97,1991;Birdら、Science 242:423,1988;Ladnerに対する米国特許第4,946,778号;Pack,P.ら、Bio/Technology 11:1271,1993に記載されている。
代表例としては、MASP−2に特異的なscFvは、インビトロにおいてリンパ球をMASP−2ポリペプチドに曝露し、そしてファージまたは類似のベクターにおける抗体ディスプレイライブラリーを選択することによって(例えば、固定化または標識されたMASP−2タンパク質またはペプチドを使用することによって)得ることができる。潜在的なMASP−2ポリペプチド結合ドメインを有するポリペプチドをコードする遺伝子は、ファージ上またはE.coliなどの細菌上にディスプレイされるランダムペプチドライブラリーをスクリーニングすることによって得ることができる。これらのランダムペプチドディスプレイライブラリーを使用することにより、MASP−2と相互作用するペプチドについてスクリーニングすることができる。そのようなランダムペプチドディスプレイライブラリーを作製およびスクリーニングするための手法は、当該分野で周知であり(Lardnerに対する米国特許第5,223,409号;Ladnerに対する米国特許第4,946,778号;Lardnerに対する米国特許第5,403,484号;Lardnerに対する米国特許第5,571,698号;およびKayら、Phage Display of Peptides and Proteins Academic Press,Inc.,1996)、ランダムペプチドディスプレイライブラリーおよびそのようなライブラリーをスクリーニングするためのキットは、例えばCLONTECH Laboratories,Inc.(Palo Alto,Calif.)、Invitrogen Inc.(San Diego,Calif.)、New England Biolabs,Inc.(Beverly,Mass.)およびPharmacia LKB Biotechnology Inc.(Piscataway,N.J.)から市販されている。
本発明のこの態様において有用な抗MASP−2抗体フラグメントの別の形態は、MASP−2抗原上のエピトープに結合し、そしてMASP−2依存性の補体活性化を阻害する単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識単位」)は、目的の抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することによって得ることができる。そのような遺伝子は、例えば、抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成するポリメラーゼ連鎖反応を使用することによって調製される(例えば、Larrickら、Methods:A Companion to Methods in Enzymology 2:106,1991;Courtenay−Luck,「Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies,」Monoclonal Antibodies:Production,Engineering and Clinical Application,Ritterら、(eds.),page 166,Cambridge University Press,1995;およびWardら、「Genetic Manipulation and Expression of Antibodies」Monoclonal Antibodies:Principles and Applications,Birchら(eds.),page 137,Wiley−Liss,Inc.,1995を参照のこと)。
本明細書中に記載されるMASP−2抗体は、MASP−2依存性の補体活性化を阻害するために、そのような必要がある被験体に投与される。いくつかの実施形態において、MASP−2阻害薬剤は、エフェクター機能が低い、高親和性のヒトモノクローナル抗MASP−2抗体またはヒト化モノクローナル抗MASP−2抗体である。
ペプチドインヒビター
本発明のこの態様のいくつかの実施形態において、MASP−2阻害薬剤は、MASP−2依存性の補体活性化の系を阻害する単離天然ペプチドインヒビターおよび合成ペプチドインヒビターを含む単離MASP−2ペプチドインヒビターを含む。本明細書中で使用されるとき、用語「単離MASP−2ペプチドインヒビター」とは、MASP−2に結合することによって、および/または、レクチン経路における別の認識分子(例えば、MBL、H−フィコリン、M−フィコリンまたはL−フィコリン)に対する結合性に対してMASP−2と競合することによって、および/またはMASP−2依存性の補体活性化を阻害するようにMASP−2と直接相互作用することによって、MASP−2依存性の補体活性化を阻害するペプチドであって、実質的に純粋であり、実際的かつ意図される用途に適切な、天然において見られ得る程度で本質的には他の物質を含まないペプチドのことをいう。
ペプチドインヒビターは、タンパク質−タンパク質相互作用および触媒部位を干渉するためにインビボにおいて首尾よく使用されている。例えば、LFA−1と構造的に関係する接着分子に対するペプチドインヒビターが、最近、凝固障害における臨床上の使用が承認された(Ohman,E.M.ら、European Heart J.16:50−55,1995)。短い直鎖状ペプチド(<30アミノ酸)が、インテグリン依存性接着を妨害または干渉すると報告されている(Murayama,O.ら、J.Biochem.120:445−51,1996)。25〜200アミノ酸残基の長さの範囲の長いペプチドもまた、インテグリン依存性接着を遮断するために首尾よく使用されている(Zhang,L.ら、J.Biol.Chem.271(47):29953−57,1996)。通常、長いペプチドインヒビターは、短いペプチドよりも高い親和性および/または遅い分解速度(off−rate)を有し、それゆえより強力なインヒビターであり得る。環状ペプチドインヒビターはまた、ヒト炎症性疾患を処置するためのインビボにおけるインテグリンの有効なインヒビターであることが示されている(Jackson,D.Y.ら、J.Med.Chem.40:3359−68,1997)。環状ペプチドを作製する1つの方法は、ペプチドの末端のアミノ酸がシステインであり、それによって、末端のアミノ酸の間をジスルフィド結合させることによって、そのペプチドを環状の形態にすることが可能であるペプチドの合成を含み、その環状ペプチドは、造血性新生物を処置するためにインビボでの親和性および半減期が改善されることが示されている(例えば、Larsonに対する米国特許第6,649,592号)。
合成MASP−2ペプチドインヒビター
本発明のこの態様の方法において有用なMASP−2阻害性ペプチドは、MASP−2機能にとって重要な標的領域を模倣するアミノ酸配列によって例示される。本発明の方法の実施において有用な阻害性ペプチドは、約5アミノ酸〜約300アミノ酸の範囲の大きさである。表3は、本発明のこの態様の実施において有用であり得る代表的な阻害性ペプチドのリストである。MASP−2阻害性ペプチド候補は、例えば、レクチン特異的C4切断アッセイ(実施例2に記載)およびC3b沈着アッセイ(実施例2に記載)を含むいくつかのアッセイのうちの1つにおいてMASP−2阻害薬剤として機能する能力について試験され得る。
いくつかの実施形態において、MASP−2阻害性ペプチドは、MASP−2ポリペプチドから得られ、そして、完全長成熟MASP−2タンパク質(配列番号6)またはMASP−2タンパク質の特定のドメイン(例えば、CUBIドメイン(配列番号8)、CUBIEGFドメイン(配列番号9)、EGFドメイン(配列番号11)およびセリンプロテアーゼドメイン(配列番号12))から選択される。先に記載した通りに、CUBEGFCUBII領域は、二量体化およびMBLとの結合に必要であることが示されている(Thielensら、,前出)。特に、MASP−2のCUBIドメインにおけるペプチド配列TFRSDYN(配列番号16)は、Asp105がGly105になったホモ接合性の変異を有する結果、MBL複合体からMASP−2が喪失しているヒトを同定した研究においてMBLとの結合に関与することが示されている(Stengaard−Pedersen,K.ら、New England J.Med.349:554−560,2003)。
MASP−2阻害性ペプチドは、MAp19(配列番号3)から得てもよい。実施例30に記載するように、MAp19(配列番号3)(sMAPとも呼ばれる)は、MBL複合体によって活性化されるレクチン経路をダウンレギュレートする能力を有する。Iwakiら、J.Immunol.177:8626−8632,2006。理論に拘束する意図はないが、sMAPは、MBLにおけるMASP−2/sMAP結合部位をふさぎ、MASP−2がMBLに結合するのを妨害することができる可能性がある。sMAPが、フィコリンAに会合してMASP−2と競合し、フィコリンA/MASP−2複合体による補体活性化を阻害することも報告されている。Endo Y.ら、Immunogenetics 57:837−844(2005)。
いくつかの実施形態において、MASP−2阻害性ペプチドは、MASP−2に結合し、レクチン補体経路に関与するレクチンタンパク質から得られる。マンナン結合レクチン(MBL)、L−フィコリン、M−フィコリンおよびH−フィコリンを含むこの経路に関与するいくつかの異なるレクチンが同定されている。(Ikeda,K.ら、J.Biol.Chem.262:7451−7454,1987;Matsushita,M.ら、J.Exp.Med.176:1497−2284,2000;Matsushita,M.ら、J.Immunol.168:3502−3506,2002)。これらのレクチンは、ホモ三量体のサブユニット(各々が、炭水化物認識ドメインを含むN末端にコラーゲン様繊維を有する)のオリゴマーとして血清中に存在する。これらの様々なレクチンがMASP−2に結合することおよびレクチン/MASP−2複合体がタンパク質C4およびC2の切断によって補体を活性化することが示されている。H−フィコリンは、24アミノ酸のアミノ末端領域、11個のGly−Xaa−Yaaリピートを含むコラーゲン様ドメイン、12アミノ酸のneckドメインおよび207アミノ酸のフィブリノゲン様ドメインを有する(Matsushita,M.ら、J.Immunol.168:3502−3506,2002)。H−フィコリンは、GlcNAcに結合し、S.typhimurium、S.minnesotaおよびE.coli由来のLPSで被覆されたヒト赤血球を凝集させる。H−フィコリンは、MASP−2およびMAp 19と関連し、レクチン経路を活性化させることが示されている。同文献。L−フィコリン/P35はまた、GlcNAcに結合し、そして、ヒト血清中でMASP−2およびMAp19と会合すると示されており、この複合体は、レクチン経路を活性化することが示されている(Matsushita,M.ら、J.Immunol.164:2281,2000)。従って、本発明において有用なMASP−2阻害性ペプチドは、MBLタンパク質(配列番号21)、H−フィコリンタンパク質(Genbankアクセッション番号NM_173452)、M−フィコリンタンパク質(Genbankアクセッション番号O00602)およびL−フィコリンタンパク質(Genbankアクセッション番号NM_015838)から選択される少なくとも5アミノ酸の領域を含み得る。
より詳細には、科学者らは、MBLに対するMASP−2結合部位がMBPのコラーゲン様ドメインのC末端部におけるヒンジと首状部分(neck)との間に存在する12個のGly−X−Yトリプレット「GKDGRDGTKGEKGEPGQGLRGLQGPOGKLGPOGNOGPSGSOGPKGQKGDOGKS」(配列番号26)内に存在すると同定した(Wallis,R.ら、J.Biol.Chem.279:14065,2004)。このMASP−2結合部位領域はまた、ヒトH−フィコリンおよびヒト L−フィコリンにおいて高度に保存されている。アミノ酸配列「OGK−X−GP」(配列番号22)(ここで、文字「O」はヒドロキシプロリンを表し、文字「X」は疎水性残基である)を含む、3つすべてのレクチンタンパク質において存在するコンセンサス結合部位が報告されている(Wallisら、2004,前出)。従って、いくつかの実施形態において、本発明のこの態様において有用なMASP−2阻害性ペプチドは、少なくとも6アミノ酸長であり、配列番号22を含む。アミノ酸配列「GLRGLQGPOGKLGPOG」(配列番号24)を含むMBLから得られるペプチドは、インビトロにおいてMASP−2に結合することが示されている(Wallisら、2004,前出)。MASP−2への結合性を増大させるために、ネイティブMBLタンパク質において見られるような三重らせんの形成を向上させる、各末端において2つのGPOトリプレットに隣接するペプチド(「GPOGPOGLRGLQGPOGKLGPOGGPOGPO」配列番号25)を合成することができる(Wallis,R.ら、J.Biol.Chem.279:14065,2004にさらに記載されている)。
MASP−2阻害性ペプチドはまた、H−フィコリンにおけるコンセンサスMASP−2結合領域からの配列「GAOGSOGEKGAOGPQGPOGPOGKMGPKGEOGDO」(配列番号27)を含むヒトH−フィコリンから得てもよい。L−フィコリンにおけるコンセンサスMASP−2結合領域からの配列「GCOGLOGAOGDKGEAGTNGKRGERGPOGPOGKAGPOGPNGAOGEO」(配列番号28)を含むヒトL−フィコリンから得られるペプチドもまた含まれる。
MASP−2阻害性ペプチドはまた、C4切断部位(例えば、アンチトロンビンIIIのC末端部分に連結されたC4切断部位である「LQRALEILPNRVTIKANRPFLVFI」(配列番号29))(Glover,G.I.ら、Mol.Immunol.25:1261(1988))から得てもよい。
C4切断部位ならびにMASP−2セリンプロテアーゼ部位を阻害する他のペプチドから得られるペプチドは、不可逆性のプロテアーゼインヒビターとなるように化学的に修飾され得る。例えば、適切な修飾としては、C末端、AspもしくはGluにおけるまたは機能性側鎖に付加されたハロメチルケトン(Br、Cl、I、F);アミノ基もしくは他の機能性側鎖上のハロアセチル(または他のα−ハロアセチル)基;アミノ末端上もしくはカルボキシ末端上または機能性側鎖上のエポキシドあるいはイミン含有基;あるいは、アミノ末端上もしくはカルボキシ末端上または機能性側鎖上のイミデートエステルが挙げられ得るが、必ずしもこれらに限定されない。そのような修飾は、そのペプチドとの共有結合によって上記酵素を持続的に阻害するという利点をもたらし得る。このことから、そのペプチドインヒビターがより少ない有効用量で済み得、そして/または、必要とされるそのペプチドインヒビターの投与頻度が低くて済み得る。
上に記載された阻害性ペプチドに加えて、本発明の方法において有用なMASP−2阻害性ペプチドとしては、本明細書中に記載される通りに得られる抗MASP−2 MoAbの、MASP−2に結合するCDR3領域を含むペプチドが挙げられる。そのペプチドを合成する際に使用するためのCDR領域の配列は、当該分野で公知の方法によって決定され得る。重鎖可変領域は、一般に100〜150アミノ酸長のペプチドである。軽鎖可変領域は、一般に80〜130アミノ酸長のペプチドである。重鎖および軽鎖の可変領域内のCDR配列は、当業者によって容易に配列決定され得る約3〜25アミノ酸配列だけを含む。
当業者は、上に記載されたMASP−2阻害性ペプチドの実質的に相同性のバリエーションもまた、MASP−2阻害性活性を示すことを認識するだろう。代表的なバリエーションとしては、対象ペプチドのカルボキシ末端部上またはアミノ末端部上においてアミノ酸の挿入、欠失、置換および/または付加を有するペプチドならびにそれらの混合物が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。従って、MASP−2阻害性活性を有するそれらの相同性ペプチドは、本発明の方法において有用であると考えられる。記載されたペプチドはまた、二重のモチーフおよび保存的に置換された他の修飾を含み得る。保存的改変体は、本明細書中の別の部分に記載されており、その保存的改変体としては、電荷、大きさまたは疎水性などが類似した別のアミノ酸で交換したものが挙げられる。
MASP−2阻害性ペプチドは、インタクトなタンパク質におけるセグメントにより近く似せるために、溶解性を増大させ、そして/または正電荷もしくは負電荷を最大にするように修飾され得る。その派生物が、MASP−2阻害の所望の特性を機能的に保持する限り、その派生物は、本明細書中に開示されるペプチドの正確な1次アミノ酸構造を有していてもよいし、有していなくてもよい。上記修飾としては、通常知られている20個のアミノ酸のうちの1つもしくは別のアミノ酸によるアミノ酸置換、補助的な望ましい特徴(例えば、酵素的分解に対する抵抗性)を有する誘導体化アミノ酸もしくは置換アミノ酸によるアミノ酸置換またはD−アミノ酸によるアミノ酸置換、あるいは、上記アミノ酸(単数または複数)またはペプチドの天然の確証および機能に類似している別の分子または化合物(例えば、炭水化物)による置換;アミノ酸欠失;通常知られている20個のアミノ酸のうちの1つもしくは別のアミノ酸によるアミノ酸挿入、補助的な望ましい特徴(例えば、酵素的分解に対する抵抗性)を有する誘導体化アミノ酸もしくは置換アミノ酸によるアミノ酸挿入またはD−アミノ酸によるアミノ酸挿入、あるいは、上記アミノ酸(単数または複数)またはペプチドの天然の確証および機能に類似している別の分子または化合物(例えば、炭水化物)による置換;あるいは親ペプチドの天然の立体配座、電荷分布および機能に類似している別の分子または化合物(例えば、炭水化物または核酸モノマー)による置換が挙げられ得る。ペプチドはまた、アセチル化またはアミド化によって修飾されてもよい。
派生的な阻害性ペプチドの合成は、ペプチド生合成、炭水化物生合成などの公知の手法に頼り得る。出発点として、当業者は、目的のペプチドの立体配座を決定するために適当なコンピュータプログラムに頼り得る。一旦、本明細書中に開示されるペプチドの立体配座がわかると、次に、当業者は、親ペプチドの基本的な立体配座および電荷分布を保持するが、親ペプチドに存在しないか、または親ペプチドに見られる特徴よりも向上した特徴を有し得る派生物を形成するために、1つ以上の部位においてどのような置換を行うことができるかを合理的設計様式で決定することができる。一旦、派生的分子の候補が同定されると、その派生物は、本明細書中に記載されるアッセイを用いてMASP−2阻害薬剤として機能するか否かを決定するために試験され得る。
MASP−2阻害性ペプチドに対するスクリーニング
MASP−2の重要な結合領域の分子構造を模倣していて、MASP−2の補体活性を阻害するペプチドを作製およびスクリーニングするために、分子モデリングおよび合理的な分子設計を使用してもよい。モデリングに使用される分子構造としては、抗MASP−2モノクローナル抗体のCDR領域、ならびに、二量体化に必要な領域、MBLとの結合に関与する領域および先に記載したようなセリンプロテアーゼ活性部位を含むMASP−2機能にとって重要であると知られている標的領域が挙げられる。特定の標的に結合するペプチドを同定するための方法は、当該分野で周知である。例えば、分子インプリンティングが、高分子構造(例えば、特定の分子に結合するペプチド)のデノボ構築に使用され得る。例えば、Shea,K.J.,「Molecular Imprinting of Synthetic Network Polymers:The De Novo synthesis of Macromolecular Binding and Catalytic Sties」TRIP 2(5)1994を参照のこと。
代表例として、MASP−2結合ペプチドの模倣物を調製する1つの方法は、以下のとおりである。MASP−2阻害を示す、公知のMASP−2結合ペプチドの機能的モノマーまたは抗MASP−2抗体の結合領域(鋳型)を重合させる。次いで、鋳型を除去した後、その鋳型によって残された空隙において第2のクラスのモノマーを重合させることにより、鋳型と類似の1つ以上の所望の特性を示す新しい分子がもたらされる。この様式でのペプチドの調製に加えて、MASP−2阻害薬剤である他のMASP−2結合分子(例えば、多糖類、ヌクレオシド、薬物、核タンパク質、リポタンパク質、炭水化物、糖タンパク質、ステロイド、脂質および他の生物学的に活性な材料)もまた調製され得る。天然の対応物よりも安定な多岐にわたる生物学的模倣物が、代表的には、機能モノマーのフリーラジカル重合によって調製され、非生物分解性骨格を有する化合物がもたらされるので、この方法は、それらを設計するために有用である。
ペプチド合成
MASP−2阻害性ペプチドは、当該分野で周知の手法(例えば、Merrifield,J.Amer.Chem.Soc.85:2149−2154,1963によって初めて報告された固相合成法)を使用して調製され得る。自動化された合成は、例えば、Applied Biosystems 431A Peptide Synthesizer(Foster City,Calif.)を製造業者が提供する指示書に従って使用することによって達成され得る。他の手法は、例えば、Bodanszky,M.ら、Peptide Synthesis,second edition,John Wiley & Sons,1976ならびに当業者に公知の他の参考資料に見られ得る。
上記ペプチドは、当業者に公知の標準的な遺伝子操作手法を使用して調製することもできる。例えば、上記ペプチドは、そのペプチドをコードする核酸を発現ベクターに挿入して、そのDNAを発現させ、そして、必要なアミノ酸の存在下でそのDNAをペプチドに翻訳させることによって酵素的に生成され得る。次いで、そのペプチドは、クロマトグラフィ的手法もしくは電気泳動的手法を使用するか、または、キャリアタンパク質をコードする核酸配列をペプチドコード配列とともに一致して発現ベクターに挿入することによって、そのペプチドに融合され得、後にそのペプチドから切断され得るキャリアタンパク質を用いて、精製される。融合タンパク質−ペプチドは、クロマトグラフィ的手法、電気泳動的手法または免疫学的手法(例えば、キャリアタンパク質に対する抗体を介して樹脂に結合すること)を使用して単離され得る。そのペプチドは、化学的方法を使用するか、または酵素的に、例えば、加水分解酵素によって、切断され得る。
本発明の方法において有用なMASP−2阻害性ペプチドはまた、従来の手法に従って組換え宿主細胞において産生され得る。MASP−2阻害性ペプチドのコード配列を発現させるためには、そのペプチドをコードする核酸分子を、発現ベクターにおいて転写性の発現を制御する制御配列に作動可能に連結しなければならないし、次いで、宿主細胞に導入しなければならない。転写制御性の配列(例えば、プロモーターおよびエンハンサー)に加えて、発現ベクターは、発現ベクターを有する細胞のセレクションに適した翻訳の制御配列およびマーカー遺伝子を含み得る。
MASP−2阻害性ペプチドをコードする核酸分子は、プロトコル(例えば、ホスホルアミダイト法)を使用して「遺伝子機械(gene machine)」を用いて合成され得る。化学的に合成された二本鎖DNAが、ある適用(例えば、遺伝子または遺伝子フラグメントの合成)に必要とされる場合、各相補鎖は、別々に作製される。短い遺伝子(60〜80塩基対)の作製は、技術的に容易であり、相補鎖を合成し、次いで、それらをアニーリングすることによって達成され得る。それよりも長い遺伝子の作製については、合成遺伝子(二本鎖)を、20〜100ヌクレオチド長である一本鎖フラグメントからモジュール形式で組み立てる。ポリヌクレオチド合成に関する概説については、例えば、Glick and Pasternak,「Molecular Biotechnology,Principles and Applications of Recombinant DNA」ASM Press,1994;Itakura,K.ら、Annu.Rev.Biochem.53:323,1984;およびClimie,S.ら、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 87:633,1990を参照のこと。
低分子インヒビター
いくつかの実施形態において、MASP−2阻害薬剤は、低分子量を有する天然物質および合成物質(例えば、ペプチド、ペプチド模倣物および非ペプチドインヒビター(オリゴヌクレオチドおよび有機化合物を含む))を含む低分子インヒビターである。MASP−2の低分子インヒビターは、抗MASP−2抗体の可変領域の分子構造に基づいて作製され得る。
低分子インヒビターはまた、コンピュータによるドラッグデザインを用いてMASP−2結晶構造に基づいて設計および作製され得る(Kuntz I.D.ら、Science 257:1078,1992)。ラットMASP−2の結晶構造が報告されている(Feinberg,H.ら、EMBO J.22:2348−2359,2003)。Kuntzらによって報告されている方法を使用して、MASP−2結晶構造座標を、MASP−2に結合すると予想される低分子構造のリストを出力するコンピュータプログラム(例えば、DOCK)に対する入力として使用する。そのようなコンピュータプログラムの使用は、当業者に周知である。例えば、HIV−1プロテアーゼインヒビターの結晶構造を使用することにより、プログラムDOCKを使用して、Cambridge Crystallographicデータベース中に見られる化合物とその酵素の結合部位との適合を評価することによってHIV−1プロテアーゼインヒビターである、特有の非ペプチドリガンドが同定された(Kuntz,I.D.ら、J.Mol.Biol.161:269−288,1982;DesJarlais,R.L.ら、PNAS 87:6644−6648,1990)。
コンピュータによる方法によって潜在的なMASP−2インヒビターと同定される低分子構造のリストを、実施例7に記載されるようなMASP−2結合アッセイを使用してスクリーニングする。次いで、MASP−2に結合すると見出された低分子が、MASP−2依存性の補体活性化を阻害するか否かを決定するために、実施例2に記載されるような機能的なアッセイにおいて上記低分子をアッセイされる。
MASP−2可溶性レセプター
他の適当なMASP−2阻害薬剤は、当業者に公知の手法を使用して作製され得るMASP−2可溶性レセプターを含むと考えられる。
MASP−2の発現インヒビター
本発明のこの態様の別の実施形態において、MASP−2阻害薬剤は、MASP−2依存性の補体活性化を阻害することができるMASP−2発現インヒビターである。本発明のこの態様の実施において、代表的なMASP−2発現インヒビターとしては、MASP−2アンチセンス核酸分子(例えば、アンチセンスmRNA、アンチセンスDNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド)、MASP−2リボザイムおよびMASP−2 RNAi分子が挙げられる。
アンチセンスRNA分子およびアンチセンスDNA分子は、MASP−2 mRNAにハイブリダイズし、そしてMASP−2タンパク質の翻訳を妨害することによって、MASP−2 mRNAの翻訳を直接遮断するように作用する。アンチセンス核酸分子は、MASP−2の発現を干渉することができるならば、様々な多くの方法において構築してもよい。例えば、アンチセンス核酸分子は、MASP−2 cDNAのコード領域(またはその一部)(配列番号4)の相補体の転写を可能にするために、正常な転写方向に対して、それを反転することによって構築され得る。
そのアンチセンス核酸分子は、通常、標的遺伝子(単数または複数)の少なくとも一部と実質的に同一である。しかしながら、その核酸は、発現を阻害するために完全に同一である必要はない。一般に、相同性が高いことを用いて、より短いアンチセンス核酸分子の使用を補償することができる。最小の同一性パーセントは、代表的には、約65%を超えるが、より高い同一性パーセントによって、内在性配列の発現の一層有効な抑制が発揮され得る。約80%を超える実質的に高い同一性パーセントが代表的には好ましいが、約95%から完全に同一であることが、代表的には最も好ましい。
上記のアンチセンス核酸分子は、標的遺伝子と同じイントロンまたはエキソンのパターンを有する必要はなく、標的遺伝子の非コーディングセグメントは、標的遺伝子発現のアンチセンス抑制を達成する際に、コーディングセグメントと同等に有効であり得る。少なくとも約8またはそれくらいのヌクレオチドのDNA配列は、アンチセンス核酸分子として使用され得るが、もっと長い配列が好ましい。本発明において、MASP−2の有用な阻害薬剤の代表例は、配列番号4に示される核酸配列からなるMASP−2 cDNAの相補体に少なくとも90パーセント同一であるアンチセンスMASP−2核酸分子である。配列番号4に示される核酸配列は、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるMASP−2タンパク質をコードする。
MASP−2 mRNAに結合するアンチセンスオリゴヌクレオチドの標的化は、MASP−2タンパク質合成のレベルを低下させるために使用され得る別の機構である。例えば、ポリガラクツロナーゼおよびムスカリン2型アセチルコリンレセプターの合成は、それらの各々のmRNA配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによって阻害される(Chengに対する米国特許第5,739,119号およびShewmakerに対するに対する米国特許第5,759,829号)。さらに、アンチセンス阻害の例は、核タンパク質サイクリン、多剤耐性遺伝子(MDG1)、ICAM−1、E−セレクチン、STK−1、線条体GABAAレセプターおよびヒトEGFを用いて証明されている(例えば、Baracchiniに対する米国特許第5,801,154号;Bakerに対する米国特許第5,789,573号;Considineに対する米国特許第5,718,709号;およびReubensteinに対する米国特許第5,610,288号を参照のこと)。
どのオリゴヌクレオチドが本発明において有用であるかを当業者が決定することを可能にする系が報告されており、その系は、転写物内の配列の到達性についての指標としてRnase H切断を用いた標的mRNAにおける適当な部位についての探索を含む。Scherr,M.ら、Nucleic Acids Res.26:5079−5085,1998;Lloydら、Nucleic Acids Res.29:3665−3673,2001。RNAseHに対して脆弱な部位を作製するために、MASP−2転写物のある特定の領域に相補性であるアンチセンスオリゴヌクレオチドの混合物を、MASP−2を発現する細胞(例えば、肝細胞)抽出物に加え、ハイブリダイズさせる。この方法は、宿主細胞における標的mRNAに対する特異的な結合を低減し得るか、または妨げ得る、二量体、ヘアピンまたは他の二次構造を形成する相対的な能力に基づいて、アンチセンス組成物に対する最適な配列選択を予測することができるコンピュータ支援配列選択と併用され得る。これらの二次構造解析および標的部位選択についての検討は、OLIGOプライマー解析ソフトウェア(Rychlik,I.,1997)およびBLASTN2.0.5アルゴリズムソフトウェア(Altschul,S.F.ら、Nucl.Acids Res.25:3389−3402,1997)を用いて行われ得る。標的配列に対するアンチセンス化合物は、好ましくは、約8〜約50ヌクレオチド長を含む。約9〜約35またはそれくらいのヌクレオチドを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドが特に好ましい。本発明者らは、9〜35ヌクレオチドの範囲のすべてのオリゴヌクレオチド組成物(すなわち、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34もしくは35またはそれくらいの塩基長のオリゴヌクレオチド組成物)が、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドベースの方法を実施するために非常に好ましいことを企図している。MASP−2 mRNAの非常に好ましい標的領域は、AUG翻訳開始コドンにおける領域またはその付近における領域であり、そのmRNAの5’領域に実質的に相補的な配列(例えば、MASP−2遺伝子ヌクレオチド配列(配列番号4)の−10と+10領域の間)である。代表的なMASP−2発現インヒビターを表4に示す。
上で述べたように、用語「オリゴヌクレオチド」とは、本明細書中で使用されるとき、リボ核酸(RNA)もしくはデオキシリボ核酸(DNA)またはそれらの模倣物のオリゴマーまたはポリマーのことをいう。この用語は、天然に存在するヌクレオチド、糖および共有結合性のヌクレオシド間(internucleoside)(骨格)結合ならびに天然に存在しない修飾を有するオリゴヌクレオチドから構成されるオリゴ核酸塩基も網羅する。これらの修飾によって、天然に存在するオリゴヌクレオチドによってはもたらされないある特定の望ましい特性(例えば、毒性特性の低下、ヌクレアーゼ分解に対する安定性の増大および細胞の取り込みの向上)を導入することができる。例示的な実施形態において、本発明のアンチセンス化合物は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの寿命を延長するホスホジエステル骨格の修飾(リン酸置換基が、ホスホロチオエートで置換されている)によってネイティブDNAと異なる。同様に、オリゴヌクレオチドの一方または両方の末端を、1本の核酸内で隣接する塩基対間に入り込む1つ以上のアクリジン誘導体で置換してもよい。
アンチセンスとは別の選択肢は、「RNA干渉」(RNAi)の使用である。二本鎖RNA(dsRNA)は、哺乳動物のインビボにおいて遺伝子サイレンシングを誘発し得る。RNAiおよびコサプレッションの天然の機能は、可動性遺伝因子(mobile genetic element)(例えば、レトロトランスポゾン)および活性になるとき宿主細胞において異所性のRNAまたはdsRNAを生成するウイルスによる侵入に対するゲノムの保護であるとみられる(例えば、Jensen,J.ら、Nat.Genet.21:209−12,1999を参照のこと)。この二本鎖RNA分子は、二本鎖RNA分子を形成することができる2本のRNA鎖(各々が約19〜25(例えば、19〜23ヌクレオチド)の長さを有する)を合成することによって調製され得る。例えば、本発明の方法において有用なdsRNA分子は、表4に列挙される配列およびその相補体に対応するRNAを含み得る。好ましくは、RNAの少なくとも1本の鎖が、1〜5ヌクレオチドの3’オーバーハングを有する。合成されたRNA鎖は、二本鎖分子を形成する条件下で組み合わされる。そのRNA配列は、配列番号4の少なくとも8ヌクレオチドの部分を含み、全体で25ヌクレオチド以下の長さを有し得る。所与の標的に対するsiRNA配列の設計は、当業者の範囲内である。siRNA配列を設計し、少なくとも70%の発現ノックダウンを保証する商業的サービス(Qiagen,Valencia,Calif)が利用可能である。
dsRNAは、薬学的組成物として投与され得、それは公知の方法によって行われ得るが、ここで、核酸は、所望の標的細胞に導入される。通常使用される遺伝子導入法としては、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションおよびウイルスを用いた方法が挙げられる。そのような方法は、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,1993において教示されている。
リボザイムもまた、MASP−2の量および/または生物学的活性を低下させるために利用され得る(例えば、MASP−2 mRNAを標的化するリボザイム)。リボザイムは、そのリボザイムの配列に完全にまたは部分的に相同である配列を有する核酸分子を切断することができる触媒性のRNA分子である。標的RNAと特異的に対をなし、そして特異的な位置でホスホジエステル骨格を切断することによって、標的RNAを機能的に不活性化するRNAリボザイムをコードするリボザイム導入遺伝子を設計することが可能である。この切断を行うとき、そのリボザイムは、それ自体は変化しないので、再利用することができ、また、他の分子を切断することができる。アンチセンスRNA内にリボザイム配列を含めることにより、そのアンチセンスRNAに対してRNA切断活性が付与され、それによって、アンチセンス構築物の活性が増加する。
本発明の実施において有用なリボザイムは、代表的には、少なくとも約9ヌクレオチドのハイブリダイズ領域(ヌクレオチド配列において標的MASP−2 mRNAの少なくとも一部に相補的な領域)および標的MASP−2 mRNAを切断するように適応されている触媒性領域を含む(一般に、EPA No.0321201;WO88/04300;Haseloff,J.ら、Nature 334:585−591,1988;Fedor,M.J.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1668−1672,1990;Cech,T.R.ら、Ann.Rev.Biochem.55:599−629,1986を参照のこと)。
リボザイムは、リボザイム配列を組み込んだRNAオリゴヌクレオチドの形態で細胞に対して直接標的化され得るか、または所望のリボザイム(ribozymal)RNAをコードする発現ベクターとして細胞に導入され得る。リボザイムは、アンチセンスポリヌクレオチドについて説明した方法とほぼ同じ方法で使用および適用され得る。
本発明の方法において有用なアンチセンスRNAおよびアンチセンスDNA、リボザイムおよびRNAi分子は、DNA分子およびRNA分子を合成するための当該分野で公知の任意の方法によって調製され得る。これらとしては、当該分野で周知のオリゴデオキシリボヌクレオチドおよびオリゴリボヌクレオチドを化学的に合成するための手法(例えば、固相ホスホルアミダイト化学合成)が挙げられる。あるいは、アンチセンスRNA分子をコードするDNA配列のインビトロおよびインビボにおける転写によってRNA分子が生成され得る。そのようなDNA配列は、適当なRNAポリメラーゼプロモーター(例えば、T7またはSP6ポリメラーゼプロモーター)を組み込んだ多岐にわたるベクターに組み込まれ得る。あるいは、使用するプロモーターに応じて、アンチセンスRNAを構成的または誘導的に合成するアンチセンスcDNA構築物を細胞株に安定的に導入し得る。
DNA分子の様々な周知の修飾が、安定性および半減期を増大させる手段として導入され得る。有用な修飾としては、その分子の5’末端および/もしくは3’末端へのリボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオチドのフランキング配列の付加、または、オリゴデオキシリボヌクレオチド骨格内のホスホジエステラーゼ結合ではなくホスホロチオエートもしくは2’O−メチルの使用が挙げられるが、これらに限定されない。
V.薬学的組成物および送達方法
投薬
別の態様において、本発明は、治療有効量のMASP−2阻害薬剤および薬学的に許容可能なキャリアを含む、MASP−2依存性の補体活性化の有害作用を阻害するための組成物を提供する。そのMASP−2阻害薬剤は、MASP−2依存性の補体活性化に関連する状態を処置または寛解させるために、治療的に有効な用量で、そのような必要がある被験体に投与され得る。治療的に有効な用量とは、その状態の症状の回復がもたらされるのに十分なMASP−2阻害薬剤の量のことをいう。
MASP−2阻害薬剤の毒性および治療的な有効性は、実験動物モデル(例えば、実施例3に記載されるヒトMASP−2トランスジーンを発現するマウスMASP−2−/−マウスモデル)を使用して、標準的な薬学的手順によって測定され得る。そのような動物モデルを使用し、標準的な方法を用いて、NOAEL(無毒性量)およびMED(最小有効用量)が測定され得る。NOAEL効果とMED効果との用量比は、比NOAEL/MEDとして表される治癒比である。大きな治癒比または指標を示すMASP−2阻害薬剤が、最も好ましい。細胞培養アッセイおよび動物試験から得られるデータは、ヒトにおいて使用するための一連の投与量を製剤化する際に使用することができる。MASP−2阻害薬剤の投与量は、好ましくは、少し毒性があるかまたは毒性がないMEDを含む一連の循環濃度内に設定する。その投与量は、使用する剤形および利用する投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。
任意の化合物の製剤化のために、動物モデルを使用して、治療的に有効な用量を推定することができる。例えば、用量は、MEDを含む循環血漿濃度範囲を達成するように、動物モデルにおいて製剤化され得る。MASP−2阻害薬剤の血漿中の量的レベルを、例えば、高速液体クロマトグラフィによって測定してもよい。
毒性研究に加えて、有効な投与量もまた、生存被験体中に存在するMASP−2タンパク質の量およびMASP−2阻害薬剤の結合親和性に基づいて推定され得る。正常なヒト被験体におけるMASP−2レベルが、500ng/mlの範囲の低レベルで血清中に存在すること、および、特定の被験体におけるMASP−2レベルが、Moller−Kristensen M.ら、J.Immunol.Methods 282:159−167,2003に記載されているMASP−2に対する定量的アッセイを用いて測定され得ることが示されている。
一般に、MASP−2阻害薬剤を含む投与組成物の投与量は、被験体の年齢、体重、身長、性別、全般的な病状およびそれまでの病歴などの因子に応じて変動する。実例として、MASP−2阻害薬剤(例えば、抗MASP−2抗体)は、約0.010〜10.0mg/kg被験体体重、好ましくは0.010〜1.0mg/kg被験体体重、より好ましくは0.010〜0.1mg/kg被験体体重の範囲の投与量で投与され得る。いくつかの実施形態において、組成物は、抗MASP−2抗体およびMASP−2阻害性ペプチドとの併用物を含む。
所与の被験体における本発明のMASP−2阻害性組成物およびMASP−2阻害性方法の治療的な有効性ならびに適切な投与量は、当業者に周知の補体アッセイに従って決定され得る。補体は、数多くの特異的な産物を生成する。最近10年間で、感度が高く、かつ特異的なアッセイが開発され、また、小さな活性化フラグメントC3a、C4aおよびC5aならびに大きな活性化フラグメントiC3b、C4d、BbおよびsC5b−9を含む、これらの活性化産物のほとんどに対して市販されている。これらのアッセイのほとんどは、新しい抗原(新抗原)を形成するネイティブタンパク質上には露出していないが上記フラグメント上に露出しているその新抗原と反応するモノクローナル抗体を利用するものであり、それにより、これらのアッセイが非常に単純かつ特異的になる。これらのほとんどが、ELISA技術に依存しているが、なおも時折C3aおよびC5aに対してラジオイムノアッセイが使用される。これらの後者のアッセイは、プロセシングされていないフラグメントと循環中に見られる主要な形態であるそれらの「desArg」フラグメントの両方を測定する。プロセシングされていないフラグメントおよびC5adesArgは、細胞表面レセプターに結合することによって迅速に浄化され、それゆえ非常に低濃度で存在するのに対し、C3adesArgは、細胞に結合せず、血漿中に蓄積する。C3aの測定は、感度が高く経路に依存しない、補体活性化の指標をもたらす。副経路の活性化は、Bbフラグメントを測定することによって評価され得る。膜攻撃経路の活性化の流体相産物sC5b−9の検出は、補体活性化が完了している証拠をもたらす。レクチン経路および古典経路の両方が、C4aおよびC4dという同じ活性化産物を生成するので、これらの2つのフラグメントを測定しても、これらの2つの経路のうちのどちらがその活性化産物を生成したのかについて何の情報ももたらさない。
さらなる薬剤
MASP−2阻害薬剤を含む組成物および方法は、必要に応じて、MASP−2阻害薬剤の活性を増強し得るか、または付加的または相乗的な様式で関連する治療的機能をもたらす1つ以上のさらなる治療薬を含み得る。例えば、1つ以上のMASP−2阻害薬剤は、1つ以上の抗炎症薬および/または鎮痛剤と併用して投与され得る。さらなる薬剤を含めることおよび選択することは、所望の治療的な結果を達成するように決定される。適当な抗炎症薬および/または鎮痛剤としては:セロトニンレセプターアンタゴニスト;セロトニンレセプターアゴニスト;ヒスタミンレセプターアンタゴニスト;ブラジキニンレセプターアンタゴニスト;カリクレインインヒビター;ニューロキニン1およびニューロキニン2レセプターサブタイプアンタゴニストを含むタキキニンレセプターアンタゴニスト;カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)レセプターアンタゴニスト;インターロイキンレセプターアンタゴニスト;PLA2アイソフォームインヒビターおよびPLCγアイソフォームインヒビターを含むホスホリパーゼインヒビター、シクロオキシゲナーゼ(COX)インヒビター(COX−1、COX−2または非選択的なCOX−1およびCOX−2インヒビターのいずれかであり得る)、リポキシゲナーゼ(lipooxygenase)インヒビターを含むアラキドン酸代謝産物に対する合成経路において活性な酵素のインヒビター;エイコサノイドEP−1レセプターサブタイプアンタゴニストおよびエイコサノイドEP−4レセプターサブタイプアンタゴニストならびにトロンボキサンレセプターサブタイプアンタゴニストを含むプロスタノイドレセプターアンタゴニスト;ロイコトリエンB4レセプターサブタイプアンタゴニストおよびロイコトリエンD4レセプターサブタイプアンタゴニストを含むロイコトリエンレセプターアンタゴニスト;μ−オピオイド、δ−オピオイドおよびκ−オピオイドレセプターサブタイプアゴニストを含むオピオイドレセプターアゴニスト;P2XレセプターアンタゴニストおよびP2Yレセプターアゴニストを含むプリン受容体アゴニストならびにプリン受容体アンタゴニスト;アデノシン三リン酸(ATP)感受性カリウムチャネルオープナー;MAPキナーゼインヒビター;ニコチン性アセチルコリンインヒビター;ならびに、アルファアドレナリン作動性レセプターアゴニスト(アルファ−1、アルファ−2ならびに非選択的なアルファ−1アゴニストおよび非選択的なアルファ−2アゴニストを含む)が挙げられる。
再狭窄の予防または処置において使用されるとき、本発明のMASP−2阻害薬剤は、同時投与のために1つ以上の抗再狭窄剤と併用され得る。適当な抗再狭窄剤としては:トロンビンインヒビターおよびトロンビンレセプターアンタゴニスト、アデノシン二リン酸(ADP)レセプターアンタゴニスト(プリン受容体1レセプターアンタゴニストとしても知られる)、トロンボキサンインヒビターおよびトロンボキサンレセプターアンタゴニストおよび血小板膜糖タンパク質レセプターアンタゴニストを含む抗血小板薬;セレクチンインヒビターおよびインテグリンインヒビターを含む、細胞接着分子のインヒビター;抗走化性剤;インターロイキンレセプターアンタゴニスト;ならびに、タンパク質キナーゼC(PKC)インヒビターおよびタンパク質チロシンホスファターゼ、細胞内のタンパク質チロシンキナーゼインヒビターの調節因子、srcホモロジー2(SH2)ドメインのインヒビターおよびカルシウムチャネルアンタゴニストを含む細胞内シグナル伝達インヒビターが挙げられる。
本発明のMASP−2阻害薬剤はまた、1つ以上の他の補体インヒビターと併用して投与され得る。現在、補体インヒビターは、ヒトにおける使用は承認されていないが、いくつかの薬理学的物質が、インビボにおいて補体を遮断することが示されている。これらの薬剤の多くは、有毒であるか、または部分的なインヒビターであるだけで(Asghar,S.S.,Pharmacol.Rev.36:223−44,1984)、これらを研究ツールとして使用するための用途は、限られている。K76COOHおよびメシル酸ナファモスタット(nafamstat mesilate)は、移植の動物モデルにおいていくらかの有効性を示す2つの薬剤である(Miyagawa,S.ら、Transplant Proc.24:483−484,1992)。低分子量ヘパリンもまた、補体活性の制御に有効であることが示されている(Edens,R.E.ら、Complement Today,pp.96−120,Basel:Karger,1993)。これらの低分子インヒビターは、本発明のMASP−2阻害薬剤と併用して使用する薬剤として有用であり得ると考えられている。
他の天然に存在する補体インヒビターは、本発明のMASP−2阻害薬剤と併用して有用であり得る。補体の生物学的インヒビターとしては、可溶性補体因子1(sCR1)が挙げられる。これは、ヒト細胞の外膜上に見ることができる、天然に存在するインヒビターである。他の膜インヒビターとしては、DAF、MCPおよびCD59が挙げられる。インビトロおよびインビボにおいて、組換え型を抗補体活性について試験した。sCR1は、異種移植(xenotransplantation)において有効であることが示されており、ここで、補体系(副経路および古典経路の両方)は、新しく移植された臓器を通る血液灌流の数分以内に機能亢進性拒絶症候群に対する誘発をもたらす(Platt
J.L.ら、Immunol.Today 11:450−6,1990;Marino I.R.ら、Transplant Proc.1071:6,1990;Johnstone,P.S.ら、Transplantation 54:573−6,1992)。sCR1を使用することによって、移植された臓器が保護され、その生存時間が延長することから、補体経路は、臓器生存の病原と関係づけられる(Leventhal,J.R.ら、Transplantation 55:857−66,1993;Pruitt,S.K.ら、Transplantation 57:363−70,1994)。
本発明の組成物と併用して使用するのに適したさらなる補体インヒビターとしては、例としては、MoAb(例えば、Alexion Pharmaceuticals,Inc.,New Haven,Connecticutによって開発されたもの)および抗プロパージンMoAbも挙げられる。
本発明のMASP−2阻害薬剤は、関節炎(例えば、変形性関節症および関節リウマチ)の処置において使用されるとき、1つ以上の軟骨保護剤(軟骨同化の1つ以上の促進剤および/または軟骨異化の1つ以上のインヒビターならびに同時投与に適した同化剤と異化阻害薬剤の両方が挙げられ得る)と併用され得る。適当な同化促進軟骨保護剤としては、IL−4、IL−10、IL−13、rhIL−4、rhIL−10およびrhIL−13ならびにキメラIL−4、IL−10またはIL−13を含むインターロイキン(IL)レセプターアゴニスト;TGF−β、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3を含むトランスフォーミング成長因子−βスーパーファミリーアゴニスト、BMP−2、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7(OP−1)およびOP−2/BMP−8を含む骨形態形成タンパク質、GDF−5、GDF−6およびGDF−7を含む成長分化因子、組換えTGF−βおよびBMPならびにキメラTGF−βおよびBMP;IGF−Iを含むインスリン様成長因子;およびbFGFを含む線維芽細胞成長因子が挙げられる。適当な異化阻害性軟骨保護剤としては、可溶性ヒトIL−1レセプター(shuIL−1R)、rshuIL−1R、rhIL−1ra、抗IL1−抗体、AF11567およびAF12198を含むインターロイキン−1(IL−1)レセプターアンタゴニスト(IL−1ra);sTNFR1およびsTNFRII、組換えTNF可溶性レセプターを含む可溶性レセプターならびにキメラrhTNFRを含むキメラTNF可溶性レセプターを含む腫瘍壊死因子(TNF)レセプターアンタゴニスト(TNF−α):Fc、Fc融合可溶性レセプターおよび抗TNF抗体;DuP697、SC−58451、セレコキシブ、ロフェコキシブ、ニメスリド、ジクロフェナク、メロキシカム、ピロキシカム、NS−398、RS−57067、SC−57666、SC−58125、フロスリド(flosulide)、エトドラク、L−745,337およびDFU−T−614を含むシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2特異的)インヒビター;ERK1、ERK2、SAPK1、SAPK2a、SAPK2b、SAPK2d、SAPK3のインヒビターを含み、SB203580、SB203580iodo、SB202190、SB242235、SB220025、RWJ67657、RWJ68354、FR133605、L−167307、PD98059、PD169316を含む、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)インヒビター;コーヒー酸フェニルエチルエステル(CAPE)、DM−CAPE、SN−50ペプチド、ヒメニアルジシン(hymenialdisine)およびピロリドンジチオカルバメートを含む核因子κB(NFκB)のインヒビター;NG−モノメチル−L−アルギニン、1400W、ジフェニレンヨージウム、S−メチルイソチオ尿素、S−(アミノエチル)イソチオ尿素、L−N6−(1−イミノエチル)リシン、1,3−PBITU、2−エチル−2−チオプソイド尿素、アミノグアニジン、Nω−ニトロ−L−アルギニンおよびNω−ニトロ−L−アルギニンメチルエステルを含む一酸化窒素シンターゼ(NOS)インヒビター、MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−7、MMP−8、MMP−9、MMP−10、MMP−11、MMP−12、MMP−13、MMP−14およびMMP−15のインヒビターを含むマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)のインヒビターならびにU−24522、ミノサイクリン、4−Abz−Gly−Pro−D−Leu−D−Ala−NHOH、Ac−Arg−Cys−Gly−Val−Pro−Asp−NH2、rhuman TIMP1、rhuman TIMP2およびホスホラミドン;αVβ3 MoAb LM609およびエキスタチンを含むインテグリンアゴニストおよびインテグリンアンタゴニストを含む細胞接着分子;F−Met−Leu−Pheレセプター、IL−8レセプター、MCP−1レセプターおよびMIP1−I/RANTESレセプターを含む抗走化性剤;(a)(i)カルフォスチンC、G−6203およびGF109203Xを含むタンパク質キナーゼC(PKC)インヒビター(アイソザイム)と(ii)タンパク質チロシンキナーゼインヒビターの両方を含むタンパク質キナーゼインヒビター;(b)細胞内タンパク質チロシンホスファターゼ(PTPアーゼ)の調節因子;および(c)SH2ドメイン(srcホモロジー2ドメイン)のインヒビターを含む細胞内シグナル伝達インヒビターが挙げられる。
いくつかの適用については、痙攣阻害薬剤と併用して本発明のMASP−2阻害薬剤を投与することが有益である場合がある。例えば、泌尿生殖器への適用に対しては、少なくとも1つの平滑筋痙攣阻害薬剤および/または少なくとも1つの抗炎症剤を含めることが有益であり得、血管の手技に対しては、少なくとも1つの血管痙攣インヒビターならびに/または少なくとも1つの抗炎症剤および/もしくは少なくとも1つの抗再狭窄剤を含めることが有用であり得る。痙攣阻害薬剤の適当な例としては:セロトニン2レセプターサブタイプアンタゴニスト;タキキニンレセプターアンタゴニスト;一酸化窒素供与体;ATP感受性カリウムチャネルオープナー;カルシウムチャネルアンタゴニスト;およびエンドセリンレセプターアンタゴニストが挙げられる。
薬学的キャリアおよび送達ビヒクル
通常、他の任意の選択された治療薬と併用する本発明のMASP−2阻害薬剤組成物は、薬学的に許容可能なキャリア中に適当に含まれる。そのキャリアは、無毒性で、生体適合性であり、MASP−2阻害薬剤(およびそれと併用される他の任意の治療薬)の生物学的活性に悪影響を及ぼさないように選択される。ペプチドに対する代表的な薬学的に許容可能なキャリアは、Yamadaに対する米国特許第5,211,657号に記載されている。本発明において有用な抗MASP−2抗体および阻害性ペプチドは、固体、半固体、ゲル、液体またはガス状の形態(例えば、錠剤、カプセル、散剤、顆粒剤、軟膏剤(ointment)、溶液、堆積物(depositories)、吸入剤および経口、非経口または外科的投与用の注射)の調製物に製剤化され得る。本発明はまた、医療デバイスなどをコーティングすることによる本組成物の局所投与も企図する。
注射可能物質を介する非経口送達、注射または注入および局所的送達に適したキャリアとしては、蒸留水、生理学的リン酸緩衝化食塩水、通常のリンガー溶液もしくは乳酸加リンガー溶液、デキストロース溶液、ハンクス溶液またはプロパンジオールが挙げられる。さらに、無菌不揮発性油が溶媒または懸濁媒質として使用され得る。この目的で、合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリドを含む任意の生体適合性の油が使用され得る。さらに、オレイン酸などの脂肪酸は、注射可能物質の調製における用途が見出される。上記のキャリアおよび薬剤は、液体、懸濁液、重合可能ゲルもしくは非重合可能ゲル、ペーストまたは軟膏として調合され得る。
上記キャリアはまた、上記薬剤の送達を保持する(すなわち、延長するか、遅延させるか、または制御する)ためか、またはその治療薬の送達、取り込み、安定性または薬物動態を向上させるために、送達ビヒクルを含み得る。そのような送達ビヒクルとしては、タンパク質、リポソーム、炭水化物、合成の有機化合物、無機化合物、重合体のヒドロゲルまたは共重合体のヒドロゲルおよび重合体のミセルから構成される、微小粒子、ミクロスフェア、ナノスフェアまたはナノ粒子が挙げられ得るが、これらに限定されない。適当なヒドロゲル送達系およびミセル送達系としては、WO2004/009664A2に開示されている、PEO:PHB:PEO共重合体および共重合体/シクロデキストリン複合体ならびに米国特許出願公開第2002/0019369号に開示されているPEOおよびPEO/シクロデキストリン複合体が挙げられる。そのようなヒドロゲルを、意図される作用部位に局所的に、または皮下にもしくは筋肉内に注射することにより、徐放デポーが形成され得る。
関節内送達については、MASP−2阻害薬剤は、注射可能な上記の液体もしくはゲルキャリア、注射可能な上記の徐放送達ビヒクル、または、ヒアルロン酸もしくはヒアルロン酸誘導体中に保持され得る。
非ペプチド作動性薬剤の経口投与については、MASP−2阻害薬剤は、不活性な充填剤もしくは希釈剤(例えば、スクロース、コーンスターチまたはセルロース)中に保持され得る。
局所的投与については、MASP−2阻害薬剤は、軟膏剤、ローション、クリーム、ゲル、点眼剤、坐剤、スプレー剤、液体もしくは散剤中に、または、経皮的パッチを介するゲル送達系もしくはマイクロカプセル送達系中に保持され得る。
エアロゾル、定量吸入器、乾燥粉末吸入器および噴霧器を含む様々な経鼻送達系および肺送達系が、開発中であり、それらは、それぞれエアロゾル送達ビヒクル、吸入送達ビヒクルまたは噴霧送達ビヒクルでの本発明の送達に適当に適応され得る。
くも膜下腔内(IT)送達または脳室内(ICV)送達については、適切に滅菌された送達系(例えば、液体;ゲル、懸濁液など)を使用して、本発明を投与することができる。
本発明の組成物は、生体適合性の賦形剤(例えば、分散剤または湿潤剤、懸濁剤、希釈剤、緩衝液、浸透促進剤、乳化剤、結合剤、増粘剤、着香料(経口投与用))も含み得る。
抗体用およびペプチド用の薬学的キャリア
抗MASP−2抗体および阻害性ペプチドに関してより詳細には、代表的な製剤は、滅菌液体(例えば、水、油、食塩水、グリセロールまたはエタノール)であり得る薬学的キャリアを含む生理的に許容可能な希釈剤中の本化合物の溶液または懸濁液の注射可能な投与量として非経口的に投与され得る。さらに、補助剤(例えば、湿潤剤または乳化剤、界面活性物質、pH緩衝物質など)が、抗MASP−2抗体および阻害性ペプチドを含む組成物中に存在し得る。薬学的組成物のさらなる成分としては、石油(例えば、動物起源、植物起源または合成起源のもの)、例えば、ダイズ油および鉱油が挙げられる。通常、グリコール(例えば、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール)は、注射可能な溶液にとって好ましい液体キャリアである。
抗MASP−2抗体および阻害性ペプチドはまた、活性な薬剤の持続性放出または拍動性放出を可能にするように、そのような様式で製剤化され得る、蓄積注射または埋込調製物の形態で投与され得る。
発現インヒビター用の薬学的に許容可能なキャリア
本発明の方法において有用な発現インヒビターに関してより詳細には、上で記載したような発現インヒビターおよび薬学的に許容可能なキャリアまたは希釈剤を含む組成物が提供される。この組成物は、コロイド分散系をさらに含み得る。
発現インヒビターを含む薬学的組成物としては、溶液、エマルジョンおよびリポソーム含有製剤が挙げられ得るが、これらに限定されない。これらの組成物は、種々の成分(予め形成された液体、自己乳化固体および自己乳化半固体が挙げられるが、これらに限定されない)から作製され得る。そのような組成物の調製は、代表的には、発現インヒビターと以下の1つ以上との組み合わせを含む:緩衝液、酸化防止剤、低分子量ポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、炭水化物(グルコース、スクロースまたはデキストリンを含む)、EDTAなどのキレート剤、グルタチオンならびに他の安定剤および賦形剤。中性緩衝食塩水または非特異的な血清アルブミンと混合した食塩水は、適当な希釈剤の例である。
いくつかの実施形態において、上記組成物は、代表的には、液滴の形態で別の液体に分散された1つの液体の不均一な系であるエマルジョンとして調製および製剤化され得る(Idson,Pharmaceutical Dosage Forms,Vol.1,Rieger and Banker(eds.),Marcek Dekker,Inc.,N.Y.,1988を参照のこと)。エマルジョン製剤において使用される天然に存在する乳化剤の例としては、アラビアゴム、蜜ろう、ラノリン、レシチンおよびホスファチドが挙げられる。
1つの実施形態において、核酸を含む組成物は、マイクロエマルジョンとして製剤化され得る。マイクロエマルジョンとは、本明細書中で使用されるとき、単一の光学的等方で、熱力学的に安定な液体の溶液である、水、油および両親媒性物質の系のことをいう(Rosoff,Pharmaceutical Dosage Forms,Vol.1を参照のこと)。本発明の方法はまた、所望の部位にアンチセンスオリゴヌクレオチドを運搬および送達するためにリポソームを使用し得る。
局所的投与用の発現インヒビターの薬学的組成物および製剤は、経皮的パッチ、軟膏剤、ローション、クリーム、ゲル、点眼剤、坐剤、スプレー、液体および散剤を含み得る。従来の薬学的キャリアならびに水性、粉末または油状の基剤および増粘剤などを使用してもよい。
投与様式
MASP−2阻害薬剤を含む薬学的組成物は、局所的または全身性の投与様式が、処置される状態に最も適しているか否かに応じて、多くの方法で投与され得る。また、体外再灌流手技に関して、本明細書の上で記載した通りに、MASP−2阻害薬剤は、再循環血液または血漿への本発明の組成物の導入を介して投与され得る。さらに、本発明の組成物は、埋込可能な医療デバイス上または医療デバイス中に本組成物をコーティングまたは組み込むことによって送達され得る。
全身性送達
本明細書中で使用されるとき、用語「全身性送達」および「全身性投与」は、治療的効果が意図される単一の部位または複数の部位に送達される薬剤の分散を効率的にもたらす、筋肉内(IM)、皮下、静脈内(IV)、動脈内、吸入、舌下、頬側、局所的、経皮的、経鼻、直腸、膣および他の投与経路を含む、経口経路および非経口経路を含むがこれらに限定されないことを意図する。本組成物に対する全身性送達の好ましい経路としては、静脈内、筋肉内、皮下および吸入が挙げられる。本発明の特定の組成物において利用される選択された薬剤にとって的確な全身性投与経路は、所与の投与経路に関連する代謝変換経路に対するその薬剤の感受性を明らかにするために部分的に決定されることが理解されるだろう。例えば、ペプチド作動性薬剤は、経口以外の経路によって最も適当に投与され得る。
MASP−2阻害性抗体およびMASP−2阻害性ポリペプチドは、任意の適当な手段によって、そのような阻害の必要がある被験体に送達され得る。MASP−2抗体およびポリペプチドの送達方法としては、経口、肺、非経口(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内(IV)または皮下注射)、吸入(例えば、微粉製剤を介する吸入)、経皮的、経鼻、膣、直腸または舌下の投与経路による投与が挙げられ、各投与経路に適した剤形に製剤化され得る。
例示目的で、MASP−2阻害性抗体およびMASP−2阻害性ペプチドは、そのポリペプチドを吸収することができる身体の膜(bodily membrane)、例えば、鼻、消化管および直腸の膜への適用によって生存中の身体に導入され得る。そのポリペプチドは、代表的には、透過促進剤と組み合わせて吸収性の膜に適用される(例えば、Lee,V.H.L.,Crit.Rev.Ther.Drug Carrier Sys.5:69,1988;Lee,V.H.L.,J.Controlled Release 13:213,1990;Lee,V.H.L.,Ed.,Peptide and Protein Drug Delivery,Marcel Dekker,New York(1991);DeBoer,A.G.ら、J.Controlled Release,13:241,1990を参照のこと)。例えば、STDHFは、胆汁酸塩の構造に類似しているステロイド性の界面活性物質であるフシジン酸の合成誘導体であり、経鼻送達のための透過促進剤として使用されている(Lee,W.A.,Biopharm.22,Nov./Dec.1990.)
MASP−2阻害性抗体およびMASP−2阻害性ポリペプチドは、酵素的分解からそのポリペプチドを保護する脂質などの別の分子と併せて導入され得る。例えば、共有結合のポリマー(特にポリエチレングリコール(PEG))は、身体における酵素的加水分解からある特定のタンパク質を保護し、それにより半減期を延長するために使用されている(Fuertges,F.ら、J.Controlled Release 11:139,1990)。多くのポリマー系が、タンパク質送達のために報告されている(Bae,Y.H.ら、J.Controlled Release 9:271,1989;Hori,R.ら、Pharm.Res.6:813,1989;Yamakawa,I.ら、J.Pharm.Sci.79:505,1990;Yoshihiro,I.ら、J.Controlled Release 10:195,1989;Asano,M.ら、J.Controlled Release 9:111,1989;Rosenblatt,J.ら、J.Controlled Release 9:195,1989;Makino,K.,J.Controlled Release 12:235,1990;Takakura,Y.ら、J.Pharm.Sci.78:117,1989;Takakura,Y.ら、J.Pharm.Sci.78:219,1989)。
近年、血清中の安定性および循環中の半減時間が改善されたリポソームが開発されている(例えば、Webbに対する米国特許第5,741,516号を参照のこと)。さらに、潜在的な薬物キャリアとしてのリポソームおよびリポソーム様の調製物の様々な方法が、概説されている(例えば、Szokaに対する米国特許第5,567,434号;Yagiに対する米国特許第5,552,157号;Nakamoriに対する米国特許第5,565,213号;Shinkarenkoに対する米国特許第5,738,868号;およびGaoに対する米国特許第5,795,587号を参照のこと)。
経皮的適用については、MASP−2阻害性抗体およびMASP−2阻害性ポリペプチドは、他の適当な成分(例えば、キャリアおよび/または補助剤)と併用され得る。意図される投与に対して薬学的に許容可能でなければならないこと、および組成物の活性成分の活性を低下させ得ないことを除いては、そのような他の成分の性質に関して制限はない。適当なビヒクルの例としては、精製コラーゲンを含むかまたは含まない、軟膏剤、クリーム、ゲルまたは懸濁液が挙げられる。MASP−2阻害性抗体およびMASP−2阻害性ポリペプチドはまた、好ましくは、液体または半液体の形態で、経皮的パッチ、硬膏剤および包帯に浸透され得る。
本発明の組成物は、所望のレベルの治療的効果を維持するように決定された間隔で周期的に全身性に投与され得る。例えば、組成物は、例えば、2〜4週間ごとまたはそれよりも少ない間隔で皮下注射によって投与され得る。その投与レジメンは、併用する薬剤の作用に影響を及ぼし得る様々な因子を考慮して医師が決定する。これらの因子としては、処置される状態の進行の程度、患者の年齢、性別および体重ならびにその他の臨床上の因子が挙げられる。個別の薬剤についての投与量は、組成物中に含まれるMASP−2阻害薬剤ならびに任意の薬物送達ビヒクル(例えば、徐放送達ビヒクル)の存在および性質の関数として変動し得る。さらに、投与量は、送達される薬剤の投与の頻度および薬物動態学的な挙動における変動を埋め合わせるように調整され得る。
局所送達
本明細書中で使用されるとき、用語「局所」は、意図される局在化作用の部位におけるかまたはその部位周辺における薬物の適用を包含し、例えば、皮膚または他の罹患組織への局所的送達、眼への送達、くも膜下腔内(IT)、脳室内(ICV)、関節内、腔内、頭蓋内もしくは小嚢内(intravesicular)への投与、留置または灌注が挙げられ得る。局所投与は、低用量の投与によって、全身性副作用を回避することを可能にするために、ならびに、局所送達の部位における活性薬剤の送達のタイミングおよび濃度をより正確に管理するために、好ましい場合がある。局所投与によって、代謝、血流などにおける患者間変動にかかわらず、標的部位において既知の濃度がもたらされる。直接的な送達様式によって、投与量管理の改善もまた、もたらされる。
MASP−2阻害薬剤の局所送達は、疾患または状態を処置するための外科的方法という状況(例えば、手技(例えば、動脈のバイパス手術、アテレクトミー、レーザー手技、超音波手技、バルーン血管形成術およびステント留置)中)において達成され得る。例えば、MASP−2インヒビターは、バルーン血管形成術手技と組み合わせて被験体に投与され得る。バルーン血管形成術手技は、収縮したバルーンを有するカテーテルの動脈への挿入を含む。その収縮したバルーンは、動脈硬化巣の近位に置かれ、そしてプラークが血管壁に対して圧縮されるようにそのバルーンを膨らませる。結果として、そのバルーンの表面は、血管の表面上で血管内皮細胞層と接触する。MASP−2阻害薬剤は、動脈硬化巣の部位においてその薬剤を放出できる様式でバルーン血管形成術カテーテルに付着され得る。その薬剤は、当該分野で公知の標準的な手順に従って、バルーンカテーテルに付着され得る。例えば、その薬剤が局所的な環境に放出される位置においてそのバルーンを膨らませるまで、その薬剤は、バルーンカテーテルのコンパートメント内に保存され得る。あるいは、バルーンを膨らませるときに、その薬剤が動脈壁の細胞に接触するように、その薬剤をバルーン表面上に含浸させてもよい。その薬剤はまた、Flugelman,M.Y.ら、Circulation 85:1110−1117,1992に開示されているような穴のあるバルーンカテーテルにおいて送達され得る。治療的タンパク質をバルーン血管形成術用カテーテルに付着させるための代表的な手順については、公開されたPCT出願WO95/23161も参照のこと。同様に、MASP−2阻害薬剤は、ステントに塗布されるゲルまたは重合体コーティング中に含められてもよいし、ステントが血管に留置された後にMASP−2阻害薬剤を溶出するようにステントの材料中に組み込まれてもよい。
関節炎および他の筋骨格障害の処置において使用されるMASP−2阻害性組成物は、関節内注射によって局所的に送達され得る。そのような組成物は、徐放送達ビヒクルを適当に含み得る。局所送達が望まれ得る場合のさらなる例として、尿生殖器状態の処置において使用されるMASP−2阻害性組成物は、膀胱内または別の泌尿生殖器の構造内に適当に点滴注入され得る。
医療デバイス上のコーティング
MASP−2阻害薬剤(例えば、抗体および阻害性ペプチド)は、埋込可能または取付可能な医療デバイスの表面上(またはその内部)に固定化され得る。その改変された表面は、代表的には、動物の体内に埋め込まれた後に生存組織と接触する。「埋込可能または取付可能な医療デバイス」とは、デバイス(例えば、ステントおよび埋込可能な薬物送達デバイス)の通常の手術の間に、動物の身体の組織内に埋め込まれるか、または組織に付着される任意のデバイスのことを意図する。そのような埋込可能または取付可能な医療デバイスは、例えば、ニトロセルロース、ジアゾセルロース、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、セファロース、寒天、デンプン、ナイロン、ステンレス鋼、チタンならびに生分解性および/または生体適合性のポリマーから作製され得る。デバイスとのタンパク質の結合は、例えば、そのタンパク質のN−C−末端残基の一方または両方をそのデバイスに付着させることによって、その結合されるタンパク質の生物学的活性を破壊しない任意の手法によって達成され得る。付着は、そのタンパク質における1つ以上の内部部位においても行われ得る。複数の付着(そのタンパク質の内部と末端の両方)もまた使用され得る。埋込可能または取付可能な医療デバイスの表面は、その表面へのタンパク質固定化のための官能基(例えば、カルボキシル、アミド、アミノ、エーテル、ヒドロキシル、シアノ、ニトリド、スルファンアミド、アセチリン性(acetylinic)、エポキシド、シラン性(silanic)、無水性(anhydric)、スクシニム性(succinimic)、アジド)を含むように改変され得る。カップリング化学としては、MASP−2抗体またはMASP−2阻害性ペプチド上で利用可能な官能基に対する、エステル、エーテル、アミド、アジドおよびスルファンアミド誘導体、シアネートならびに他の結合の形成が挙げられるが、これらに限定されない。MASP−2抗体またはMASP−2阻害性フラグメントはまた、そのタンパク質への親和性タグ配列(例えば、GST(D.B.Smith and K.S.Johnson,Gene 67:31,1988)、ポリヒスチジン(E.Hochuliら、J.Chromatog.411:77,1987)またはビオチン)の付加によって非共有結合的に付着され得る。そのような親和性タグは、デバイスへのタンパク質の可逆的な付着に使用され得る。
タンパク質はまた、例えば、医療デバイスの表面の共有結合性の活性化によって、デバイス本体の表面に共有結合的に付着され得る。代表例として、マトリクス細胞のタンパク質が、以下の反応基対(その対の一方のメンバーは、デバイス本体の表面上に存在し、その対のもう一方のメンバーは、マトリクス細胞のタンパク質上に存在する):エステル結合をもたらすヒドロキシル/カルボン酸;エステル結合をもたらすヒドロキシル/無水物;ウレタン結合をもたらすヒドロキシル/イソシアネートのいずれかによってデバイス本体に付着され得る。有用な反応基を有しないデバイス本体の表面は、マトリクス細胞のタンパク質の沈着を可能にするために、高周波放電プラズマ(RFGD)エッチングを用いて処理されること(例えば、酸素含有基を導入するための酸素プラズマを用いた処理;アミン基を導入するためのプロピルアミノプラズマを用いた処理)により、反応基が生成され得る。
核酸分子(例えば、アンチセンス、RNAiをコードするかまたはDNAをコードするペプチドインヒビター)を含むMASP−2阻害薬剤は、デバイス本体に付着している多孔性マトリックス内に包埋され得る。表面の層を形成するために有用な代表的な多孔性マトリックスは、種々の商業的供給源(例えば、SigmaおよびCollagen Corporation)から入手され得るような、腱もしくは皮膚のコラーゲンから調製された多孔性マトリックス、または、Jefferiesに対する米国特許第4,394,370号およびKoezukaに対する同第4,975,527号に記載されている通りに調製されたコラーゲンマトリックスである。1つのコラーゲン性材料は、UltraFiberTMという名称のものであり、Norian Corp.(Mountain View,California)から入手可能である。
ある特定の重合体マトリックスもまた、所望であれば使用してもよく、それらとしては、例えば、Uristに対する米国特許第4,526,909号およびUristに対する同第4,563,489号に開示されるような、アクリルエステルポリマーおよび乳酸ポリマーが挙げられる。有用なポリマーの特定の例は、オルトエステル、無水物、プロピレン−コフマレート(cofumarate)のポリマーまたは1つ以上のα−ヒドロキシカルボン酸モノマー(例えば、α−ヒドロキシ酢酸(グリコール酸)および/またはα−ヒドロキシプロピオン酸(乳酸))のポリマーである。
処置レジメン
予防的な適用では、上記薬学的組成物は、MASP−2依存性の補体活性化に関連する状態に感受性であるかまたは別途その状態の危険性のある被験体に、その状態の症状を排除するかまたはその症状の発症の危険性を低下させるのに十分な量で投与される。治療的な適用では、上記薬学的組成物は、MASP−2依存性の補体活性化に関連する状態の疑いがあるか、またはその状態にすでに罹患している被験体に、その状態の症状を軽減するかまたは少なくとも部分的に減少させるのに十分な治療有効量で投与される。予防的レジメンと治療的レジメンの両方において、MASP−2阻害薬剤を含む組成物は、その被験体において十分な治療結果が達成されるまでいくつかの投与量で投与され得る。本発明のMASP−2阻害性組成物の適用は、急性状態、例えば、再灌流損傷または他の外傷性の損傷を処置するために、その組成物の単回投与または限られた一連の投与によって行われ得る。あるいは、その組成物は、慢性状態、例えば、関節炎または乾癬を処置するために、長期間にわたって周期的な間隔で投与され得る。
本発明の方法および組成物は、代表的には診断的および治療的な医学的手技および外科的手技からもたらされる炎症および関連プロセスを阻害するために使用され得る。そのようなプロセスを阻害するために、本発明のMASP−2阻害性組成物は、手技付近で(periprocedurally)適用され得る。本明細書中で使用されるとき、「手技付近で」とは、手技前および/または手技中および/または手技後に、すなわち、手技前、手技前および手技中、手技前および手技後、手技前、手技中および手技後、手技中、手技中および手技後、または手技後に、阻害性組成物を投与することをいう。手技付近での適用は、外科的部位または手技的部位にその組成物の局所投与によって(例えば、その部位の注射またはその部位の連続的もしくは間欠的な灌注によって、あるいは全身性投与によって)行われ得る。MASP−2阻害薬剤溶液の局所的な周術期の送達に適した方法は、Demopulosに対する米国特許第6,420,432号およびDemopulosに対する同第6,645,168号に開示されている。MASP−2阻害薬剤を含む軟骨保護性組成物の局所送達に適した方法は、国際PCT特許出願WO01/07067A2に開示されている。MASP−2阻害薬剤を含む軟骨保護性組成物の標的化全身性送達に適した方法および組成物は、国際PCT特許出願WO03/063799A2に開示されている。
VI.実施例
以下の実施例は、本発明を実施するために企図される最良の形態を単に例示したものであり、本発明を限定すると解釈されるべきでない。本明細書中のすべての引用文献は、参考として明示的に援用される。
(実施例1)
この実施例では、MASP−2が欠損している(MASP−2−/−)がMAp19は十分である(MAp19+/+)マウス系統の作製を説明する。
材料および方法:図4に示されるようなセリンプロテアーゼドメインをコードするエキソンを含む、マウスMASP−2のC末端をコードする3つのエキソンを破壊する標的化ベクターpKO−NTKV1901を設計した。PKO−NTKV1901を使用して、マウスES細胞株E14.1a(SV129 Ola)をトランスフェクトした。ネオマイシン耐性かつチミジンキナーゼ感受性のクローンを選抜した。600個のESクローンをスクリーニングし、これらのうちの4つの異なるクローンを同定し、図4に示されるような、予想される選択的標的事象および組換え事象を含んでいることをサザンブロットによって確認した。これらの4つのポジティブクローンから胚移植によってキメラを作製した。次いで、このキメラを遺伝的背景C57/BL6に戻し交雑させることにより、トランスジェニック雄を作製した。そのトランスジェニック雄を雌と交雑させることにより、F1が作製された(子孫の50%は、破壊されたMASP−2遺伝子がヘテロ接合性を示した)。そのヘテロ接合性マウスを相互に交雑させることにより、ホモ接合性のMASP−2欠損子孫が作製された(ホモ接合性とヘテロ接合性と野生型のマウスは1:2:1の比)。
結果および表現型:得られたホモ接合性のMASP−2−/−欠損マウスは、生存可能であり、繁殖可能であることが見出され、また、妥当な標的化事象を確証するサザンブロットによって、MASP−2 mRNAが存在しないことを確証するノーザンブロットによって、そしてMASP−2タンパク質が存在しないことを確証するウエスタンブロットによって、MASP−2欠損であることが確認された(データ示さず)。MAp19 mRNAが存在することおよびMASP−2 mRNAが存在しないことが、LightCycler機における時間分解型(time−resolved)RT−PCRを用いてさらに確認された。MASP−2−/−マウスは、予想されるとおり、MAp19、MASP−1およびMASP−3のmRNAおよびタンパク質を発現し続ける(データ示さず)。MASP−2−/−マウスにおける、プロパージン、B因子、D因子、C4、C2およびC3についてのmRNAの存在および存在量が、LightCycler解析によって評価され、野生型同腹仔コントロールの結果と同一であることが見出された(データ示さず)。実施例2にさらに記載するように、ホモ接合性のMASP−2−/−マウス由来の血漿は、レクチン経路媒介性の補体の活性化および副経路の補体の活性化が完全に無くなる。
純粋なC57BL6バックグラウンドのMASP−2−/−系統の作製:MASP−2−/−系統を実験動物モデルとして使用する前に、9世代にわたってMASP−2−/−マウスを純粋なC57BL6系統と戻し交雑させる。
(実施例2)
この実施例では、MASP−2が、副経路およびレクチン経路を介した補体の活性化に必要であることを説明する。
方法および材料:
レクチン経路特異的C4切断アッセイ:L−フィコリンに結合するS.aureus由来のリポテイコ酸(LTA)から生じるレクチン経路活性化を測定するC4切断アッセイは、Petersenら、J.Immunol.Methods 257:107(2001)によって報告されている。以下に記載するように、MASP−2−/−マウス由来の血清を加える前に、LPSおよびマンナンまたはザイモサンでプレートをコーティングすることによってMBLを介するレクチン経路活性化を測定するために、実施例11に記載されるアッセイを適応させた。また、このアッセイを、古典経路によるC4切断の可能性を排除するために改変した。これは、レクチン経路認識成分とそれらのリガンドとの高親和性の結合を可能にするが、内在性のC4の活性化を妨害する1M NaClを含むサンプル希釈緩衝液を使用することにより、C1複合体を解離することによって古典経路の関与を排除することによって達成された。簡潔に説明すると、改変アッセイでは、血清サンプル(高塩(1M NaCl)緩衝液中に希釈されたもの)を、リガンドでコーティングされたプレートに加え、その後、生理学的塩濃度の緩衝液中の一定量の精製C4を加える。MASP−2を含む結合した認識複合体は、C4を切断し、その結果、C4b沈着が生じる。
アッセイ方法:
1)Nunc Maxisorbマイクロタイタープレート(Maxisorb,Nunc,Cat.No.442404,Fisher Scientific)を、コーティング緩衝液(15mM Na2CO3、35mM NaHCO3,pH9.6)中に希釈された1μg/mlのマンナン(M7504 Sigma)または他の任意のリガンド(例えば、以下に列挙するリガンド)でコーティングした。
以下の試薬をこのアッセイに使用した:
a.マンナン(100μ1コーティング緩衝液中の1μg/ウェルのマンナン(M7504 Sigma)):
b.ザイモサン(100μlコーティング緩衝液中の1μg/ウェルのザイモサン(Sigma));
c.LTA(100μlコーティング緩衝液中の1μg/ウェルまたは20μlメタノール中の2μg/ウェル)
d.コーティング緩衝液中の1μgのH−フィコリン特異的Mab 4H5
e.Aerococcus viridans由来のPSA(100μlコーティング緩衝液中の2μg/ウェル)
f.コーティング緩衝液中の、100μl/ウェルのホルマリン固定されたS.aureus DSM20233(OD550=0.5)。
2)上記プレートを4℃で一晩インキュベートした。
3)一晩インキュベートした後、そのプレートを0.1%HSA−TBSブロッキング緩衝液(10mM Tris−CL、140mM NaCl、1.5mM NaN3,pH7.4中の0.1%(w/v)HSA)と1〜3時間インキュベートすることによって、残余タンパク質結合部位を飽和させた。次いで、そのプレートをTBS/tween/Ca2+(0.05% Tween 20および5mM CaCl2、1mM MgCl2を含むTBS,pH7.4)で3回洗浄した。
4)試験される血清サンプルをMBL結合緩衝液(1M NaCl)中に希釈し、そして、その希釈したサンプルを上記プレートに加え、4℃で一晩インキュベートした。緩衝液のみが加えられるウェルをネガティブコントロールとして使用した。
5)4℃で一晩インキュベートした後、そのプレートをTBS/tween/Ca2+で3回洗浄した。次いで、ヒトC4(BBS(4mMバルビタール、145mM NaCl、2mM CaCl2、1mM MgCl2,pH7.4))中に希釈された1μg/mlの100μl/ウェル)をそのプレートに加え、37℃で90分間インキュベートした。そのプレートを再度、TBS/tween/Ca2+で3回洗浄した。
6)アルカリホスファターゼ結合体化ニワトリ抗ヒトC4c(TBS/tween/Ca2+中に1:1000希釈)をそのプレートに加え、室温で90分間インキュベートしてC4b沈着を検出した。次いで、そのプレートを再度、TBS/tween/Ca2+で3回洗浄した。
7)100μlのp−ニトロフェニルリン酸基質溶液を加え、室温で20分間インキュベートし、そして、マイクロタイタープレートリーダーにおいてOD405を読むことによって、アルカリホスファターゼを検出した。
結果:図6A〜Bは、MASP−2+/+(十字)、MASP−2+/−(黒丸)およびMASP−2−/−(黒三角)由来の血清希釈物中のマンナン(図6A)上およびザイモサン(図6B)上のC4b沈着の量を示している。図6Cは、野生型血清に対して正規化された、C4b沈着の量の測定値に基づいて、野生型マウス(n=5)に対する、MASP−2−/+マウス(n=5)およびMASP−2−/−マウス(n=4)由来のザイモサン(白柱)またはマンナン(斜線柱)でコーティングされたプレート上での相対的なC4コンバターゼ活性を示している。エラーバーは、標準偏差を表している。図6A〜Cに示される通りに、MASP−2−/−マウス由来の血漿は、マンナンでコーティングされたプレートおよびザイモサンでコーティングされたプレート上においてレクチン経路媒介性の補体活性化が完全になくなっている。これらの結果から、MASP−1またはMASP−3ではなくMASP−2が、レクチン経路のエフェクター成分であることが明らかに証明される。
C3b沈着アッセイ:
1)Nunc Maxisorbマイクロタイタープレート(Maxisorb,Nunc,cat.No.442404,Fisher Scientific)を、コーティング緩衝液(15mM Na2CO3、35mM NaHCO3,pH9.6)中に希釈された1μg/ウェルのマンナン(M7504 Sigma)または他の任意のリガンドでコーティングし、そして4℃で一晩インキュベートする。
2)そのプレートを、0.1% HSA−TBSブロッキング緩衝液(10mM Tris−CL、140mM NaCl、1.5mM NaN3中の0.1%(w/v)HSA、pH7.4)と1〜3時間インキュベートすることによって、残余タンパク質結合部位を飽和させる。
3)プレートをTBS/tw/Ca++(0.05% Tween 20および5mM CaCl2を含むTBS)中で洗浄し、希釈したBBSを血清サンプルに加える(4mMバルビタール、145mM NaCl、2mM CaCl2、1mM MgCl2,pH7.4)。緩衝液のみが加えられるウェルをネガティブコントロールとして使用する。野生型またはMASP−2−/−マウス由来の血清サンプルのコントロールセットを、アッセイにおいて使用する前にC1q枯渇させる。供給業者の指示書に従ってウサギ抗ヒトC1q IgG(Dako,Glostrup,Denmark)でコーティングされたプロテインA結合Dynabeads(Dynal Biotech,Oslo,Norway)を使用して、C1q枯渇マウス血清を調製した。
4)4℃で一晩インキュベートし、TBS/tw/Ca++でさらに洗浄した後、1:1000でTBS/tw/Ca++中に希釈されたポリクローナル抗ヒトC3c抗体(Dako A062)を用いて、転換され、結合したC3を検出する。2次抗体は、TBS/tw/Ca++中に1:10,000希釈された、アルカリホスファターゼ(Sigma Immunochemicals A−3812)に結合体化されたヤギ抗ウサギIgG(全分子)である。補体副経路(AP)の存在は、100μlの基質溶液(Sigma Fast p−Nitrophenyl Phosphate tablet sets,Sigma)を加えて、室温にてインキュベートすることによって決定する。マイクロタイタープレートリーダーにおいて405nmにおける吸収を測定することによって、加水分解を定量的にモニターする。血漿/血清サンプルの段階希釈を使用して各解析について、検量線を作成する。
結果:図7Aおよび7Bに示される結果は、数匹のマウス由来のプールされた血清からのものである。十字は、MASP−2+/+血清を表し、黒丸は、C1q枯渇MASP−2+/+血清を表し、白四角は、MASP−2−/−血清を表し、そして白三角は、C1q枯渇MASP−2−/−血清を表す。図7A〜Bに示される通りに、C3b沈着アッセイにおいて試験されたMASP−2−/−マウス由来の血清は、マンナン(図7A)およびザイモサン(図7B)でコーティングされたプレート上で、非常に低いレベルのC3活性化を示す。この結果から、MASP−2が、C3から最初にC3bが生成されて、補体副経路を開始することに関与するために必要であることが明らかに証明される。これは、補体因子C3、B因子、D因子およびプロパージンが、独立した機能的副経路を形成し、その経路では、C3が、自発的に「C3b様」型に立体配座変化を起こし、次いで、その「C3b様」型は、流体相コンバターゼiC3Bbを生成し、そして活性化表面(例えば、ザイモサン)上にC3b分子を沈着させ得るという広く受け入れられている観点に照らすと、驚くべき結果である。
組換えMASP−2は、MASP−2−/−マウス由来の血清中でレクチン経路依存性C4活性化を再構成する
MASP−2が存在しないことが、MASP−2−/−マウスにおけるレクチン経路依存性C4活性化の喪失の直接原因であることを立証するために、組換えMASP−2タンパク質を血清サンプルに加えることの効果を、上に記載したC4切断アッセイにおいて調べた。機能的に活性なマウスMASP−2および触媒的に不活性なマウスMASP−2A(セリンプロテアーゼドメインにおける活性部位のセリン残基が、アラニン残基で置換されている)組換えタンパク質を、以下の実施例5に記載するように作製し、精製した。4匹のMASP−2−/−マウス由来のプールされた血清を、段階的に上げたタンパク質濃度の組換えマウスMASP−2または不活性な組換えマウスMASP−2Aと予めインキュベートし、C4コンバターゼ活性を上に記載した通りにアッセイした。
結果:図8に示される通りに、機能的に活性なマウス組換えMASP−2タンパク質(白三角として示す)をMASP−2−/−マウスから得られた血清に加えることによって、タンパク質濃度依存性様式でレクチン経路依存性C4活性化が回復したのに対し、触媒的に不活性なマウスMASP−2Aタンパク質(星印として示す)は、C4活性化を回復させなかった。図8に示される結果は、プールされた野生型マウス血清(点線で示される)において観察されたC4活性化に対して正規化されている。
(実施例3)
この実施例では、マウスMASP−2−/−、MAp19+/+であり、ヒトMASP−2トランスジーンを発現するトランスジェニックマウス系統(マウスMASP−2ノックアウトおよびヒトMASP−2ノックイン)の作製を説明する。
材料および方法:図5に示されるような、ヒトMASP2遺伝子のプロモーター領域を含み、第1の3つのエキソン(エキソン1〜エキソン3)に続いて、その後の8つのエキソンのコード配列を表すcDNA配列を含むことにより、その内在性プロモーターによって駆動される完全長MASP−2タンパク質をコードするヒトMASP−2をコードするミニ遺伝子(「ミニhMASP−2」と呼ばれる)(配列番号49)を構築した。欠損マウスのMASP2遺伝子を、遺伝子導入的に発現されるヒトMASP−2で置換するために、このミニhMASP−2構築物をMASP−2−/−の受精卵に注入した。
(実施例4)
この実施例では、ヒト血清からのプロ酵素型としてのヒトMASP−2タンパク質の単離を説明する。
ヒトMASP−2単離の方法:ヒト血清からMASP−2を単離するための方法は、Matsushitaら、J.Immunol.165:2637−2642,2000に記載されている。簡潔には、ヒト血清を、0.2M NaCl、20mM CaCl2、0.2mM NPGB、20μM p−APMSFおよび2%マンニトールを含む10mMイミダゾール緩衝液(pH6.0)を使用して、酵母マンナン−セファロースカラムに通す。MASP−1プロ酵素およびMASP−2プロ酵素は、MBLと複合体を形成し、0.3Mマンノースを含む上記緩衝液で溶出される。MBLからプロ酵素MASP−1およびプロ酵素MASP−2を分離するために、上記複合体を含む調製物を抗MBL−セファロースに適用し、次いで、MASPを、20mM EDTAおよび1M NaClを含むイミダゾール緩衝液で溶出する。最後に、抗MBL−セファロースに使用したものと同じ緩衝液中の抗MASP−1−セファロースに通すことによって、プロ酵素MASP−1およびプロ酵素MASP−2を互いから分離する。MASP−2は、溶出物中に回収されるのに対し、MASP−1は、0.1Mグリシン緩衝液(pH2.2)で溶出される。
(実施例5)
この実施例では、組換え完全長のヒト、ラットおよびマウスのMASP−2、MASP−2由来ポリペプチドおよび触媒的に不活性化された変異型のMASP−2の組換え発現およびタンパク質生成を説明する。
完全長ヒト、マウスおよびラットのMASP−2の発現:
ヒトMASP−2(配列番号4)の完全長cDNA配列を、CMVエンハンサー/プロモーター領域の制御下で真核生物発現を駆動する哺乳動物発現ベクターpCI−Neo(Promega)内にサブクローニングした(Kaufman R.J.ら、Nucleic Acids Research 19:4485−90,1991;Kaufman,Methods in Enzymology,185:537−66(1991)に記載)。完全長マウスcDNA(配列番号50)およびラットMASP−2 cDNA(配列番号53)を各々pED発現ベクター内にサブクローニングした。次いで、MASP−2発現ベクターを、Maniatisら、1989に記載されている標準的なリン酸カルシウムトランスフェクション手順を使用して、付着性チャイニーズハムスター卵巣細胞株DXB1にトランスフェクトした。これらの構築物でトランスフェクトした細胞は、非常にゆっくりと増殖したことから、コードされたプロテアーゼが細胞傷害性であることが意味される。
別のアプローチでは、その内在性プロモーターによって駆動されるMASP−2のヒトcDNAを含む上記ミニ遺伝子構築物(配列番号49)を、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)に一過性にトランスフェクトする。ヒトMASP−2タンパク質は、培養培地中に分泌され、そのタンパク質を以下に記載するように単離する。
触媒的に不活性な完全長MASP−2の発現:
論理的根拠:認識小成分のMBLまたはフィコリン(L−フィコリン、H−フィコリンまたはM−フィコリンのいずれか)が各々の炭水化物パターンに結合した後、MASP−2は、自己触媒的切断によって活性化される。MASP−2の活性化をもたらす自己触媒的切断が、血清からのMASP−2の単離手順中または組換え発現後の精製中に起きることが多い。抗原として使用するために、より安定なタンパク質調製物を得るために、プロテアーゼドメインの触媒的な三つ組中に存在するセリン残基を、ラット(配列番号55 Ser617をAla617に置換);マウス(配列番号52 Ser617をAla617に置換);またはヒト(配列番号3 Ser618をAla618に置換)においてアラニン残基で置換することによって、MASP−2Aと称される触媒的に不活性な形態のMASP−2を作製した。
触媒的に不活性なヒトおよびマウスのMASP−2Aタンパク質を作製するために、表5に示すオリゴヌクレオチドを使用して、部位特異的突然変異誘発を行った。表5中のオリゴヌクレオチドは、酵素的に活性なセリンをコードするヒトおよびマウスのcDNAの領域にアニールするように、および、セリンコドンをアラニンコドンに変化させるためにオリゴヌクレオチドがミスマッチを含むように設計した。例えば、PCRオリゴヌクレオチド配列番号56〜59を、ヒトMASP−2 cDNA(配列番号4)と組み合わせて使用することにより、開始コドンから酵素的に活性なセリンまでの領域およびそのセリンから終止コドンまでの領域を増幅し、Ser618からAla618への変異を含む変異MASP−2Aから完全なオープンリーディングを作製した。アガロースゲル電気泳動およびバンド調製後に、そのPCR産物を精製し、そして標準的なテイリング(tailing)手順を使用して単一のアデノシンオーバーラップを作製した。次いで、アデノシンテイル化MASP−2AをpGEM−Tイージーベクターにクローニングし、E.coliに形質転換した。
配列番号64および配列番号65を等モル量で混合して、これらの2つのオリゴヌクレオチドをリン酸化(kinasing)し、アニールし、2分間100℃に加熱し、そしてゆっくりと室温まで冷却することによって、触媒的に不活性なラットMASP−2Aタンパク質を作製した。生じたアニールしたフラグメントは、Pst1およびXba1に適合性の末端を有し、野生型ラットMASP−2 cDNA(配列番号53)のPst1−Xba1フラグメントの代わりに挿入することにより、ラットMASP−2Aを作製した。
5’GAGGTGACGCAGGAGGGGCATTAGTGTTT3’(配列番号64)
5’CTAGAAACACTAATGCCCCTCCTGCGTCACCTCTGCA3’(配列番号65)
ヒト、マウスおよびラットのMASP−2Aの各々を、哺乳動物発現ベクターpEDまたはpCI−Neoのいずれかにさらにサブクローニングし、以下に記載するようにチャイニーズハムスター卵巣細胞株DXB1にトランスフェクトした。
別のアプローチでは、Chenら、J.Biol.Chem.,276(28):25894−25902,2001に記載されている方法を使用して、触媒的に不活性な形態のMASP−2を構築する。簡潔には、完全長ヒトMASP−2 cDNAを含むプラスミド(Thielら、Nature 386:506,1997に記載されているもの)をXho1およびEcoR1で消化し、そしてMASP−2 cDNA(本明細書中に配列番号4として記載されるもの)を、pFastBac1バキュロウイルストランスファーベクター(Life Technologies,NY)の対応する制限酵素認識部位にクローニングする。次いで、Ser618におけるMASP−2セリンプロテアーゼ活性部位を、ペプチド領域アミノ酸610〜625をコードする二本鎖オリゴヌクレオチド(配列番号13)をネイティブ領域アミノ酸610〜625で置換することによって、Ala618に変更することにより、不活性なプロテアーゼドメインを有するMASP−2完全長ポリペプチドを作製する。ヒトMasp−2由来のポリペプチド領域を含む発現プラスミドの構築。
MASP−2の様々なドメインを分泌させるために、MASP−2シグナルペプチド(配列番号5の残基1〜15)を使用して以下の構築物を作製する。ヒトMASP−2 CUBIドメイン(配列番号8)を発現する構築物を、MASP−2(配列番号6)の残基1〜121をコードする領域(N末端のCUB1ドメインに対応する)を増幅するPCRによって作製する。ヒトMASP−2 CUBIEGFドメイン(配列番号9)を発現する構築物を、MASP−2(配列番号6)の残基1〜166をコードする領域(N末端のCUB1EGFドメインに対応する)を増幅するPCRによって作製する。ヒトMASP−2 CUBIEGFCUBIIドメイン(配列番号10)を発現する構築物を、MASP−2(配列番号6)の残基1〜293をコードする領域(N末端のCUBIEGFCUBIIドメインに対応する)を増幅するPCRによって作製する。上記のドメインを、VentRポリメラーゼおよび鋳型としてのpBS−MASP−2を使用して、確立されたPCR方法に従ってPCRによって増幅する。センスプライマーの5’プライマー配列(5’−CGGGATCCATGAGGCTGCTGACCCTC−3’ 配列番号34)を、PCR産物の5’末端におけるBamHI制限酵素認識部位(下線部)に導入する。以下の表5に示されるMASP−2ドメインの各々に対するアンチセンスプライマーを、各PCR産物の末端において終止コドン(太字)の後ろにEcoRI部位(下線部)を導入するように設計する。増幅した後に、そのDNAフラグメントをBamHIおよびEcoRIで消化し、pFastBaclベクターの対応する部位にクローニングする。得られた構築物は、制限マッピングによって特徴づけられ、dsDNA配列決定によって確かめられる。
MASP−2の組換え真核生物発現ならびに酵素的に不活性なマウス、ラットおよびヒトのMASP−2Aのタンパク質生成。
上に記載したMASP−2発現構築物およびMASP−2A発現構築物を、標準的なリン酸カルシウムトランスフェクション手順(Maniatisら、1989)を使用して、DXB1細胞にトランスフェクトした。調製物中に他の血清タンパク質が混入しないことを確実にするために、MASP−2Aを、無血清培地中で生成した。2日毎に培地をコンフルエントな細胞から回収した(合計4回)。3つの種の各々についての組換えMASP−2Aのレベルは、培養培地1リットルあたり平均約1.5mgであった。
MASP−2Aタンパク質の精製:MASP−2A(上に記載したSer−Ala変異体)を、MBP−A−アガロースカラム上でのアフィニティークロマトグラフィによって精製した。このストラテジーによって、外来性のタグを使用することなく迅速な精製が可能になった。MASP−2A(等体積の充填緩衝液(150mM NaClおよび25mM CaCl2を含む50mM Tris−Cl,pH7.5)で希釈した100〜200mlの培地)を、10mlの充填緩衝液で予め平衡化しておいたMBP−アガロースアフィニティーカラム(4ml)上に充填した。さらに10mlの充填緩衝液で洗浄した後、タンパク質を、1.25M NaClおよび10mM EDTAを含む50mM Tris−Cl,pH7.5を用いて1mlずつの画分に溶出した。MASP−2Aを含む画分をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって同定した。必要であれば、MASP−2Aを、MonoQカラム(HR5/5)におけるイオン交換クロマトグラフィによってさらに精製した。タンパク質を、50mM NaClを含む50mM Tris−Cl pH7.5で透析し、そして同じ緩衝液で平衡化したカラムに充填した。洗浄後、0.05〜1MのNaCl勾配を用いて10mlにわたって、結合したMASP−2Aを溶出した。
結果:200mlの培地から0.25〜0.5mgのMASP−2Aタンパク質の収量が得られた。MALDI−MSによって測定された77.5kDaという分子量は、グリコシル化に起因して、無修飾ポリペプチドの計算値(73.5kDa)よりも大きい。N−グリコシル化部位の各々におけるグリカンの結合によって、観察された質量が説明される。MASP−2Aは、SDS−ポリアクリルアミドゲル上を単一のバンドとして移動することから、生合成中にタンパク分解性にプロセシングされないことが示される。平衡超遠心分離によって測定される重量平均分子量は、グリコシル化されたポリペプチドのホモ二量体に対する計算値と一致する。
組換えヒトMASP−2ポリペプチドの生成
組換えMASP−2由来ポリペプチドおよび組換えMASP2A由来ポリペプチドを作製するための別の方法は、Thielens,N.M.ら、J.Immunol.166:5068−5077,2001に記載されている。簡潔には、Spodoptera frugiperda昆虫細胞(Novagen,Madison,WIから入手したReady−Plaque Sf9細胞)を、50IU/mlペニシリンおよび50mg/mlストレプトマイシン(Life Technologies)を補充したSf900II無血清培地(Life Technologies)中で増殖させ、維持する。Trichoplusia ni(High Five)昆虫細胞(Jadwiga Chroboczek,Institut de Biologie Structurale,Grenoble,Franceから提供)を、50IU/mlペニシリンおよび50mg/mlストレプトマイシンを補充した10%FCS(Dominique Dutscher,Brumath,France)含有TC100培地(Life Technologies)中で維持する。Bac−to−Bacシステム(Life Technologies)を使用して組換えバキュロウイルスを作製する。Qiagenミニプレップ精製システム(Qiagen)を使用してバクミドDNAを精製し、それを、製造業者のプロトコルに記載されている通りにSf900II SFM培地(Life Technologies)中のセルフェクチン(cellfectin)を用いるSf9昆虫細胞のトランスフェクトに使用する。組換えウイルス粒子を4日後に回収し、ウイルスプラークアッセイによって力価測定し、そしてKing and Possee,The Baculovirus Expression System:A Laboratory Guide,Chapman and Hall Ltd.,London,pp.111−114,1992によって記載されている通りに増幅する。
High Five細胞(1.75×107細胞/175cm2組織培養フラスコ)を、28℃において96時間、Sf900II SFM培地中にて2感染効率で、MASP−2ポリペプチドを含む組換えウイルスで感染させる。遠心分離により上清を回収し、ジイソプロピルホスホロフルオリデートを最終濃度1mMとなるように加える。
MASP−2ポリペプチドは、培養培地中に分泌される。培養上清を50mM NaCl、1mM CaCl2、50mMトリエタノールアミン塩酸塩,pH8.1に対して透析し、同じ緩衝液で平衡化したQ−Sepharose Fast Flowカラム(Amersham Pharmacia Biotech)(2.8×12cm)に1.5ml/分で充填する。1.2リットルの線形勾配を同じ緩衝液中の350mM NaClに適用することによって溶出を行う。組換えMASP−2ポリペプチドを含む画分を、ウエスタンブロット解析によって同定し、(NH4)2SO4を60%(w/v)まで加えることによって沈殿させ、そして4℃で一晩放置する。ペレットを145mM NaCl、1mM CaCl2、50mMトリエタノールアミン塩酸塩,pH7.4中に再懸濁し、そして同じ緩衝液で平衡化したTSK G3000 SWGカラム(7.5×600mm)(Tosohaas,Montgomeryville,PA)に適用する。次いで、精製されたポリペプチドを、Microsep微量濃縮器(m.w.カットオフ=10,000)(Filtron,Karlstein,Germany)を用いる限外濾過によって0.3mg/mlに濃縮する。
(実施例6)
この実施例では、MASP−2ポリペプチドに対するポリクローナル抗体を作製する方法を説明する。
材料および方法:
MASP−2抗原:ウサギを以下の単離MASP−2ポリペプチドで免疫することによってポリクローナル抗ヒトMASP−2抗血清が産生される:実施例4に記載されるような血清から単離されるヒトMASP−2(配列番号6);実施例4〜5に記載されるような、組換えヒトMASP−2(配列番号6)、不活性なプロテアーゼドメインを含むMASP−2A(配列番号13);ならびに上の実施例5において記載されたように発現される、組換えCUB1(配列番号8)、CUBEGFI(配列番号9)およびCUBEGFCUBII(配列番号10)。
ポリクローナル抗体:BCG(カルメットゲラン菌ワクチン)で初回刺激を受けた6週齢のウサギを、滅菌食塩水溶液中100μg/mlのMASP−2ポリペプチド100μgを注射することによって免疫する。注射を4週毎に行い、実施例7に記載される通りに、抗体価をELISAアッセイによってモニターする。プロテインAアフィニティークロマトグラフィによる抗体精製のために、培養上清を回収する。
(実施例7)
この実施例では、ラットまたはヒトのMASP−2ポリペプチドに対するマウスモノクローナル抗体を作製するための方法を説明する。
材料および方法:
8〜12週齢の雄A/Jマウス(Harlan,Houston,Tex.)の皮下に、200μlのリン酸緩衝化食塩水(PBS)pH7.4中のフロイント完全アジュバント(Difco Laboratories,Detroit,Mich.)における100μgのヒトまたはラットのrMASP−2ポリペプチドまたはrMASP−2Aポリペプチド(実施例4または実施例5に記載される通りに作製したもの)を注射する。2週間の間隔で、そのマウスの皮下に、フロイント不完全アジュバントにおける50μgのヒトまたはラットのrMASP−2ポリペプチドまたはrMASP−2Aポリペプチドを2回注射する。第4週目に、マウスに、PBS中の50μgのヒトまたはラットのrMASP−2ポリペプチドまたはrMASP−2Aポリペプチドを注射し、4日後に融合する。
各融合のために、免疫マウスの脾臓から単一の細胞懸濁液を調製し、Sp2/0骨髄腫細胞との融合に使用する。5×108個のSp2/0細胞および5×108個の脾臓細胞を、50%ポリエチレングリコール(M.W.1450)(Kodak,Rochester,N.Y.)および5%ジメチルスルホキシド(Sigma Chemical Co.,St.Louis,Mo.)を含む培地中で融合する。次いで、10%ウシ胎仔血清、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、0.1mMヒポキサンチン、0.4μMアミノプテリンおよび16μMチミジンを補充したIscove培地(Gibco,Grand Island,N.Y.)中の懸濁液200μlあたり1.5×105個の脾臓細胞の濃度となるように細胞を調整する。200マイクロリットルの上記細胞懸濁液を、約20枚の96ウェルマイクロ培養プレートの各ウェルに加える。約10日後に、精製された因子MASP−2との反応性について、ELISAアッセイにおいてスクリーニングするために培養上清を取り出す。
ELISAアッセイ:Immulon2(Dynatech Laboratories,Chantilly,Va.)マイクロ試験プレートのウェルを、50ng/mlにおける50μlの精製hMASP−2または50μlのラットrMASP−2(またはrMASP−2A)を加えることによって室温で一晩コーティングする。コーティングのための低濃度のMASP−2によって、高親和性抗体の選択が可能になる。プレートをはじく(flick)ことによってコーティング溶液を除去した後、PBS中のBLOTTO(脱脂粉乳)200μlを1時間各ウェルに加えて、非特異的な部位をブロッキングする。1時間後、ウェルを緩衝液PBST(0.05% Tween 20を含むPBS)で洗浄する。各融合ウェルの50マイクロリットルの培養上清を回収し、50μlのBLOTTOと混合し、次いで、マイクロ試験プレートの個別のウェルに加える。インキュベートの1時間後、ウェルをPBSTで洗浄する。次いで、BLOTTO中に1:2,000で希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合体化ヤギ抗マウスIgG(Fc特異的)(Jackson ImmunoResearch Laboratories,West Grove,Pa.)と反応させることによって、結合したマウス抗体を検出する。発色展開のために、0.1%の3,3,5,5テトラメチルベンジジン(Sigma,St.Louis,Mo.)および0.0003%の過酸化水素(Sigma)を含むペルオキシダーゼ基質溶液を30分間ウェルに加える。1ウェルあたり50μlの2M H2SO4を加えることによって反応を終結させる。反応混合物の450nmにおける光学濃度を、BioTek ELISA Reader(BioTek Instruments,Winooski,Vt.)を用いて読む。
MASP−2結合アッセイ:
MASP−2阻害薬剤がMASP−2に対して有する結合親和性を測定するために、上に記載したMASP−2 ELISAアッセイにおいて陽性と決定される培養上清を、結合アッセイにおいて試験することができる。同様のアッセイを使用して、その阻害薬剤が補体系における他の抗原に結合するか否かを決定することもできる。
ポリスチレンマイクロタイタープレートウェル(96ウェル中型結合プレート、Corning Costar,Cambridge,MA)を、リン酸緩衝化食塩水(PBS)pH7.4中のMASP−2(20ng/100μl/ウェル,Advanced Research Technology,San Diego,CA)で、4℃にて一晩コーティングする。MASP−2溶液を吸引した後、1%ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma Chemical)を含むPBSを用いて室温で2時間、ウェルをブロッキングする。MASP−2コーティングされていないウェルは、バックグラウンドコントロールとして作用する。ハイブリドーマ上清のアリコートまたはブロッキング溶液中の様々な濃度における精製抗MASP−2 MoAbをウェルに加える。室温にて2時間インキュベートした後、ウェルを大規模にPBSですすぐ。ブロッキング溶液中のペルオキシダーゼ結合体化ヤギ抗マウスIgG(Sigma Chemical)を加えて、それを室温で1時間インキュベートすることによって、MASP−2に結合した抗MASP−2 MoAbを検出する。そのプレートをPBSで再び徹底的にすすぎ、100μlの3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)基質(Kirkegaard and
Perry Laboratories,Gaithersburg,MD)を加える。TMBの反応を100μlの1Mリン酸を加えることによってクエンチし、そのプレートを、マイクロプレートリーダー(SPECTRA MAX 250,Molecular Devices,Sunnyvale,CA)において450nmにて読む。
次いで、陽性ウェルからの培養上清を、機能的アッセイ(例えば、実施例2に記載したようなC4切断アッセイ)において、補体の活性化を阻害する能力について試験する。次いで、陽性ウェル中の細胞を限界希釈によってクローニングする。MoAbを、上で記載したようなELISAアッセイにおいてhMASP−2との反応性について再度試験する。選択したハイブリドーマをスピナーフラスコ中で増殖させ、そして時間が経過した培養上清を、プロテインAアフィニティークロマトグラフィによる抗体精製のために回収する。
(実施例8)
この実施例では、MASP−2阻害薬剤についてスクリーニングするためのモデルとして使用するための、ヒトMASP−2を発現するMASP−2−/−ノックアウトマウスの作製を説明する。
材料および方法:実施例1に記載したようなMASP−2−/−マウスと、実施例3に記載したようなヒトMASP−2トランスジーン構築物を発現するMASP−2−/−マウス(ヒトMASP−2ノックイン)を交雑させ、そしてマウスMASP−2−/−、マウスMAp19+、ヒトMASP−2+である子孫を使用して、ヒトMASP−2阻害薬剤を同定する。
そのような動物モデルは、MASP−2阻害薬剤(例えば、ヒト抗MASP−2抗体、MASP−2阻害性ペプチドおよびMASP−2阻害性非ペプチドならびにMASP−2阻害薬剤を含む組成物)の同定および有効性についての被験物(test substrate)として使用され得る。例えば、この動物モデルを、MASP−2依存性の補体活性化を引き起こすことが知られている化合物または薬剤に曝露し、そしてMASP−2阻害薬剤を、曝露動物において疾患症状の低減を誘発するのに十分な回数および濃度でこの動物モデルに投与する。
さらに、マウスMASP−2−/−マウス、マウスMAp19+マウス、ヒトMASP−2+マウスは、MASP−2関連疾患に関与する1つ以上の細胞型を含む細胞株(その障害に対する細胞培養モデルとして使用され得る)を作製するために使用され得る。トランスジェニック動物からの持続的な細胞株の作製は、当該分野で周知であり、例えば、Small,J.A.ら、Mol.Cell Biol,5:642−48,1985を参照のこと。
(実施例9)
この実施例では、ヒトMASP−2およびヒト免疫グロブリンを発現するMASP−2ノックアウトマウスにおいて、ヒトMASP−2に対するヒト抗体を作製する方法を説明する。
材料および方法:
実施例1に記載した通りに、MASP−2−/−マウスを作製した。次いで、実施例3に記載した通りに、ヒトMASP−2を発現するマウスを構築した。ホモ接合性のMASP−2−/−マウスおよびヒトMASP−2を発現するMASP−2−/−マウスを各々、内在性の免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖の遺伝子座が標的化破壊され、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の少なくとも1セグメントが発現するように操作された胚性幹細胞株由来のマウスと交雑させる。好ましくは、ヒト免疫グロブリン遺伝子座のセグメントは、重鎖成分および軽鎖成分の再構成されていない配列を含む。内在性免疫グロブリン遺伝子の不活性化と外来性免疫グロブリン遺伝子の導入の両方が、標的化された相同組換えによって達成され得る。このプロセスから生じるトランスジェニック哺乳動物は、免疫グロブリン成分配列を機能的に再構成することができ、また、内在性免疫グロブリン遺伝子を発現することなく、ヒト免疫グロブリン遺伝子によってコードされる様々なアイソタイプの抗体のレパートリーを発現することができる。これらの特性を有する哺乳動物の作製および特性は、記載されており、例えば、Thomson,A.D.,Nature 148:1547−1553,1994およびSloane,B.F.,Nature
Biotechnology 14:826,1996を参照のこと。マウス抗体遺伝子が不活性化され、かつ、ヒト抗体遺伝子で機能的に置き換えられている遺伝的に操作されたマウスの系統は、市販されている(例えば、XenoMouse(登録商標)、Abgenix,Fremont CAから入手可能)。得られるマウスの子孫は、ヒト治療における使用に適したヒトMASP−2に対するヒトMoAbを産生することができる。
(実施例10)
この実施例では、ヒト化マウス抗MASP−2抗体およびヒト化マウス抗MASP−2抗体フラグメントの作製および産生を説明する。
マウス抗MASP−2モノクローナル抗体は、実施例7に記載した通りに、雄A/Jマウスにおいて産生される。次いで、その免疫原性を低下させるために以下に記載する通りに、マウス定常領域をそれらのヒト対応物で置換することによってこのマウス抗体をヒト化して、その抗体のキメラIgGおよびキメラFabフラグメントを作製し、本発明によれば、そのフラグメントは、ヒト被験体におけるMASP−2依存性の補体活性化の有害作用の阻害に有用である。
1.マウスハイブリドーマ細胞からの抗MASP−2可変領域遺伝子のクローニング。
抗MASP−2 MoAbを分泌するハイブリドーマ細胞(実施例7に記載した通りに得たもの)から、製造業者(Biotech,Houston,Tex.)のプロトコルに従ってRNAzolを使用して全RNAを単離する。オリゴdTをプライマーとして使用して全RNAから第1鎖(First strand)cDNAを合成する。免疫グロブリン定常C領域由来3’プライマーおよび5’プライマーとしてマウスVH遺伝子もしくはマウスVK遺伝子のリーダーペプチド由来または第1フレームワーク領域由来の縮重プライマーセットを使用してPCRを行う。ChenおよびPlatsucas(Chen,P.F.,Scand.J.Immunol.35:539−549,1992)によって記載されているようなアンカーPCRを行う。VK遺伝子をクローニングするために、Not1−MAK1プライマー(5’−TGCGGCCGCTGTAGGTGCTGTCTTT−3’ 配列番号38)を使用して二本鎖cDNAを調製する。アニールしたアダプターであるAD1(5’−GGAATTCACTCGTTATTCTCGGA−3’ 配列番号39)およびAD2(5’−TCCGAGAATAACGAGTG−3’ 配列番号40)をその二本鎖cDNAの5’末端および3’末端の両方に連結する。3’末端におけるアダプターをNot1消化によって除去する。次いで、その消化された生成物を、5’プライマーとしてAD1オリゴヌクレオチドおよび3’プライマーとしてMAK2(5’−CATTGAAAGCTTTGGGGTAGAAGTTGTTC−3’ 配列番号41)を用いるPCRにおいて鋳型として使用する。約500bpのDNAフラグメントをpUC19にクローニングする。クローニングされた配列が予想されるマウス免疫グロブリン定常領域を包含することを確認する配列解析のために、いくつかのクローンを選択する。Not1−MAK1オリゴヌクレオチドおよびMAK2オリゴヌクレオチドは、VK領域から得られ、Cκ遺伝子の第1塩基対から下流のそれぞれ182bpおよび84bである。完全なVKおよびリーダーペプチドを含むクローンを選択する。
VH遺伝子をクローニングするために、Not1 MAG1プライマー(5’−CGCGGCCGCAGCTGCTCAGAGTGTAGA−3’ 配列番号42)を使用して二本鎖cDNAを調製する。アニールしたアダプターのAD1およびAD2をその二本鎖cDNAの5’末端および3’末端の両方に連結する。3’末端におけるアダプターをNot1消化によって除去する。その消化された生成物を、プライマーとしてAD1オリゴヌクレオチドおよびMAG2(5’−CGGTAAGCTTCACTGGCTCAGGGAAATA−3’ 配列番号43)を用いるPCRにおいて鋳型として使用する。500〜600bp長のDNAフラグメントをpUC19にクローニングする。Not1−MAG1オリゴヌクレオチドおよびMAG2オリゴヌクレオチドは、マウスCγ.7.1領域から得られ、マウスCγ.7.1遺伝子の第1bpから下流のそれぞれ180bpおよび93bpである。完全なVHおよびリーダーペプチドを含むクローンを選択する。
2.キメラMASP−2 IgGおよびキメラMASP−2 Fabのための発現ベクターの構築。上に記載した、クローニングされたVH遺伝子およびVK遺伝子を、Kozakコンセンサス配列をそのヌクレオチド配列の5’末端に付加し、かつ、スプライスドナーを3’末端に付加するためのPCR反応における鋳型として使用する。配列を解析してPCRエラーが存在しないことを確認した後に、VH遺伝子およびVK遺伝子を、それぞれヒトC.γ1およびC.κを含む発現ベクターカセットに挿入してpSV2neoVH−huCγ1およびpSV2neoV−huCγを得る。重鎖ベクターおよび軽鎖ベクターのCsCl勾配精製されたプラスミドDNAを使用して、エレクトロポレーションによってCOS細胞をトランスフェクトする。48時間後に、培養上清をELISAによって試験して、約200ng/mlのキメラIgGが存在することを確認する。その細胞を回収し、全RNAを調製する。その全RNAから、プライマーとしてオリゴdTを使用して第1鎖cDNAを合成する。このcDNAを、FdおよびκDNAフラグメントを作製するPCRにおいて鋳型として使用する。Fd遺伝子に対しては、5’プライマーとして5’−AAGAAGCTTGCCGCCACCATGGATTGGCTGTGGAACT−3’(配列番号44)およびCH1由来3’プライマー(5’−CGGGATCCTCAAACTTTCTTGTCCACCTTGG−3’ 配列番号45)を使用してPCRを行う。そのDNA配列は、ヒトIgG1の完全なVHおよびCH1ドメインを含むと確認される。適正な酵素を用いた消化の後、Fd DNAフラグメントを発現ベクターカセットpSV2dhfr−TUSのHindIII制限酵素認識部位およびBamHI制限酵素認識部位に挿入して、pSV2dhfrFdを得る。pSV2プラスミドは、市販されており、様々な起源由来のDNAセグメントからなる:pBR322 DNA(細線)は、pBR322起源のDNA複製(pBR ori)およびラクタマーゼアンピシリン耐性遺伝子(Amp)を含み;広い網掛けおよび標識によって表わされるSV40 DNAは、SV40起源のDNA複製(SV40 ori)、初期プロモーター(dhfrおよびneo遺伝子に対して5’)およびポリアデニル化シグナル(dhfrおよびneo遺伝子に対して3’)を含む。SV40由来ポリアデニル化シグナル(pA)はまた、Fd遺伝子の3’末端に配置される。
κ遺伝子については、PCRを、5’プライマーとして5’−AAGAAAGCTTGCCGCCACCATGTTCTCACTAGCTCT−3’(配列番号46)およびCK由来3’プライマー(5’−CGGGATCCTTCTCCCTCTAACACTCT−3’ 配列番号47)を使用して行う。DNA配列は、完全なVK領域およびヒトCK領域を含むと確認される。適正な制限酵素を用いて消化した後、κDNAフラグメントを発現ベクターカセットpSV2neo−TUSのHindIII制限酵素認識部位およびBamHI制限酵素認識部位に挿入して、pSV2neoKを得る。Fd遺伝子およびκ遺伝子の両方の発現は、HCMV由来のエンハンサーエレメントおよびプロモーターエレメントによって駆動される。Fd遺伝子は鎖内ジスルフィド結合に関与するシステインアミノ酸残基を含まないので、この組換えキメラFabは、非共有結合的に結合した重鎖および軽鎖を含む。このキメラFabは、cFabと命名される。
重鎖内および軽鎖内のジスルフィド結合を有する組換えFabを得るために、上記Fd遺伝子を、ヒトIgG1のヒンジ領域由来のさらなる9アミノ酸(EPKSCDKTH 配列番号48)に対するコード配列を含むように延長してもよい。Fd遺伝子の3’末端における30アミノ酸をコードするBstEII−BamHI DNAセグメントは、延長されたFdをコードするDNAセグメントで置換され得、その結果、pSV2dhfrFd/9aaがもたらされる。
3.キメラ抗MASP−2 IgGの発現および精製
キメラ抗MASP−2 IgGを分泌する細胞株を作製するために、pSV2neoVH−huC.γ1およびpSV2neoV−huCκの精製プラスミドDNAを用いるエレクトロポレーションにより、NSO細胞をトランスフェクトする。トランスフェクトされた細胞を0.7mg/mlのG418の存在下で選抜する。細胞を250mlのスピナーフラスコ内で血清含有培地を使用して増殖させる。
100mlの撹拌培養物の培養上清を10mlのPROSEP−Aカラム(Bioprocessing,Inc.,Princeton,N.J.)に充填する。そのカラムを10総容積のPBSで洗浄する。結合した抗体を、50mMクエン酸緩衝液(pH3.0)を用いて溶出する。等容積の1M Hepes(pH8.0)を、精製された抗体を含む画分に加えて、pHを7.0に調整する。Millipore膜限外濾過(M.W.カットオフ:3,000)によって緩衝液をPBSに交換することによって、残留塩を除去する。精製された抗体のタンパク質濃度をBCA法(Pierce)によって測定する。
4.キメラ抗MASP−2 Fabの発現および精製
キメラ抗MASP−2 Fabを分泌する細胞株を作製するために、pSV2dhfrFd(またはpSV2dhfrFd/9aa)およびpSV2neoκの精製プラスミドDNAを用いるエレクトロポレーションによりCHO細胞をトランスフェクトする。トランスフェクトされた細胞を、G418およびメトトレキサートの存在下で選抜する。漸増濃度のメトトレキサートにおいて、選抜された細胞株を増幅する。限界希釈によって、細胞を単一細胞サブクローニングする。次いで、高産生性の単一細胞サブクローニング細胞株を、無血清培地を使用して100mlの撹拌培養において増殖させる。
キメラ抗MASP−2 Fabを、MASP−2 MoAbに対するマウス抗イディオタイプMoAbを使用するアフィニティークロマトグラフィによって精製する。抗イディオタイプMASP−2 MoAbは、マウスをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)結合体化マウス抗MASP−2 MoAbで免疫し、そして、ヒトMASP−2と競合し得る特異的なMoAb結合性についてスクリーニングすることによって、作製することができる。精製のために、cFabまたはcFab/9aaを産生するCHO細胞の撹拌培養物からの100mlの上清を、抗イディオタイプMASP−2 MoAbと結合したアフィニティーカラムに充填する。次いで、そのカラムをPBSで徹底的に洗浄した後、結合しているFabを50mMジエチルアミン(pH11.5)を用いて溶出する。上に記載した通りに緩衝液を交換することによって残留塩を除去する。精製されたFabのタンパク質濃度をBCA法(Pierce)によって測定する。
キメラMASP−2 IgG、cFabおよびcFAb/9aaがMASP−2依存性の補体経路を阻害する能力は、実施例2に記載した阻害性アッセイを使用することによって測定され得る。
(実施例11)
この実施例では、L−フィコリン/P35、H−フィコリン、M−フィコリンまたはマンナンを介するMASP−2依存性の補体活性化を阻止することができるMASP−2阻害薬剤を同定するための機能的スクリーニングとして使用されるインビトロC4切断アッセイを説明する。
C4切断アッセイ:C4切断アッセイは、Petersen,S.V.ら、J.Immunol.Methods 257:107,2001によって記載されており、このアッセイでは、L−フィコリンに結合するS.aureus由来のリポテイコ酸(LTA)から生じるレクチン経路活性化を測定する。
試薬:ホルマリン固定されたS.aureous(DSM20233)を以下の通りに調製する:細菌をトリプシンダイズ(tryptic soy)血液培地中で37℃にて一晩増殖させ、PBSで3回洗浄し、次いで、PBS/0.5%ホルマリン中で室温にて1時間固定し、そしてPBSでさらに3回洗浄し、その後、コーティング緩衝液(15mM Na2CO3、35mM NaHCO3、pH9.6)中に再懸濁する。
アッセイ:Nunc MaxiSorbマイクロタイタープレート(Nalgene Nunc International,Rochester,NY)のウェルを、コーティング緩衝液中に1μgのL−フィコリンを含むコーティング緩衝液中の100μlのホルマリン固定されたS.aureus DSM20233(OD550=0.5)でコーティングする。一晩インキュベートした後、TBS(10mM Tris−HCl、140mM NaCl、pH7.4)中の0.1%ヒト血清アルブミン(HSA)でウェルをブロッキングし、次いで、0.05% Tween 20および5mM CaCl2を含むTBS(洗浄緩衝液)で洗浄する。内在性C4の活性化を妨害し、C1複合体(C1q、C1rおよびC1sから構成される)を解離する20mM Tris−HCl、1M
NaCl、10mM CaCl2、0.05%TritonX−100、0.1%HSA、pH7.4中にヒト血清サンプルを希釈する。抗MASP−2 MoAbおよび阻害性ペプチドを含むMASP−2阻害薬剤を、様々な濃度でその血清サンプルに加える。希釈したサンプルをプレートに加え、4℃で一晩インキュベートする。24時間後、そのプレートを洗浄緩衝液で徹底的に洗浄し、次いで、100μlの4mMバルビタール、145mM NaCl、2mM CaCl2、1mM MgCl2、pH7.4中の0.1μgの精製されたヒトC4(Dodds,A.W.,Methods Enzymol.223:46,1993に記載されているように得るもの)を各ウェルに加える。37℃にて1.5時間後、そのプレートを再度洗浄し、アルカリホスファターゼ結合体化ニワトリ抗ヒトC4c(Immunsystem,Uppsala,Swedenから入手)を使用してC4b沈着を検出し、そして比色定量の基質p−ニトロフェニルリン酸を使用して測定する。
マンナンに対するC4アッセイ:プレートをLSPおよびマンナンでコーティングした後、様々なMASP−2阻害薬剤と混合した血清を加えることによって、MBLを介するレクチン経路活性化を測定するために上に記載したアッセイを適合させる。
H−フィコリン(Hakata Ag)に対するC4アッセイ:プレートをLSPおよびH−フィコリンでコーティングした後、様々なMASP−2阻害薬剤と混合した血清を加えることによって、H−フィコリンを介するレクチン経路活性化を測定するために上に記載したアッセイを適合させる。
(実施例12)
以下のアッセイによって、野生型マウスおよびMASP−2−/−マウスにおける古典経路の活性化の存在が示される。
方法:マイクロタイタープレート(Maxisorb,Nunc,cat.No.442404,Fisher Scientific)を10mM Tris、140mM NaCl、pH7.4中の0.1%ヒト血清アルブミンで室温にて1時間コーティングし、その後、TBS/tween/Ca2+中に1:1000希釈したヒツジ抗全血清抗血清(Scottish Antibody Production Unit,Carluke,Scotland)と4℃で一晩インキュベートすることによって、免疫複合体をインサイチュにおいて作製した。血清サンプルを野生型マウスおよびMASP−2−/−マウスから得て、上記コーティングプレートに加えた。野生型およびMASP−2−/−の血清サンプルからC1qが枯渇したコントロールサンプルを調製した。供給業者の指示書に従って、ウサギ抗ヒトC1q IgG(Dako,Glostrup,Denmark)でコーティングされたプロテインA結合Dynabeads(Dynal Biotech,Oslo,Norway)を使用して、C1q枯渇マウス血清を調製した。そのプレートを37℃で90分間インキュベートした。1:1000でTBS/tw/Ca++中に希釈したポリクローナル抗ヒトC3c抗体(Dako A062)を用いて、結合しているC3bを検出した。2次抗体は、ヤギ抗ウサギIgGである。
結果:図9は、野生型血清、MASP−2−/−血清、C1q枯渇野生型血清およびC1q枯渇MASP−2−/−血清中のIgGでコーティングされたプレート上の相対的なC3b沈着レベルを示している。これらの結果は、古典経路が、MASP−2−/−マウス系統においてインタクトであることを示す。
(実施例13)
以下のアッセイを使用して、古典経路が免疫複合体によって開始される条件下でMASP−2阻害薬剤の作用を解析することによって、MASP−2阻害薬剤が古典経路を遮断するか否かを試験する。
方法:補体活性化の状態(古典経路は、免疫複合体によって開始される)に対するMASP−2阻害薬剤の作用を試験するために、90%NHSを含む3つ組の50μlサンプルを10μg/mlの免疫複合体(IC)またはPBSの存在下で37℃にてインキュベートし、そしてまた、37℃インキュベート中に200nM抗プロパージンモノクローナル抗体を含む対応する3つ組サンプル(+/−IC)を、含める。37℃で2時間インキュベートした後、13mM EDTAをすべてのサンプルに加えることにより、さらなる補体活性化を停止させ、そのサンプルを直ちに5℃に冷却する。次いで、製造業者の指示書に従ってELISAキット(Quidel,カタログ番号A015およびA009)を使用して補体活性化産物(C3aおよびsC5b−9)についてアッセイするまで、そのサンプルを−70℃で保存する。
(実施例14)
この実施例では、レクチン依存性のMASP−2補体活性化系が、腹大動脈瘤修復術後の虚血/再灌流期において活性化されることを説明する。
実験の理論的根拠および設計:腹大動脈瘤(AAA)修復術を経験している患者を、補体活性化によって広く媒介される虚血−再灌流損傷に供する。本発明者らは、AAA修復術を経験している患者において虚血−再灌流損傷における補体活性化のMASP−2依存性レクチン経路の役割を調べた。血清中のマンナン結合レクチン(MBL)の消費を使用して、再灌流中に起きたMASP−2依存性のレクチン経路活性化の量を測定した。
患者の血清サンプルの単離:選択的な腎臓下AAA修復術を経験している合計23人の患者および主要な腹部の外科術を経験している8人のコントロール患者を、この研究に含めた。
AAA修復術を経験している患者については、その手技中の4つの規定された時点において各患者の橈骨動脈から全身の血液サンプルを採取した(動脈ラインを介して):時点1:麻酔導入時;時点2:大動脈クランピングの直前;時点3:大動脈クランプ除去の直前;および時点4:再灌流中。
主要な腹部の外科術を経験しているコントロール患者については、全身の血液サンプルを、麻酔の導入時および手技開始の2時間後に採取した。
MBLレベルについてのアッセイ:マンナン結合レクチン(MBL)のレベルについてELISA技術を使用して各患者の血漿サンプルをアッセイした。
結果:この研究の結果を図10に示し、図10は、様々な時点(x軸)の各々におけるMBLレベルの変化パーセンテージの平均値(y軸)を示すグラフを表している。MBLについての出発値を100%とし、その後の相対的な低下を示す。図10に示される通りに、AAA患者(n=23)は、血漿MBLレベルの有意な低下を示し、AAA後の虚血/再灌流時において平均で約41%低下した。対照的に、主要な腹部の外科術を経験しているコントロール患者(n=8)においては、血漿サンプル中のMBLの僅かばかりの消費が観察された。
示されるデータは、補体系のMASP−2依存性レクチン経路がAAA修復術後の虚血/再灌流期において活性化されることを強く示唆する。クランプされた主要血管が手術終了後に再灌流されると、MBLレベルが有意かつ迅速に低下するので、MBLレベルの低下は、虚血−再灌流損傷と関連するようである。対照的に、主な虚血−再灌流傷害を伴わない、主要な腹部の外科術を経験している患者のコントロール血清は、わずかなMBL血漿レベルの低下を示すだけである。再灌流損傷における補体活性化の十分に確立された関与を考慮して、本発明者らは、虚血性内皮細胞上でのMASP−2依存性レクチン経路の活性化が、虚血/再灌流損傷の病理における主要な因子であると結論づける。したがって、補体活性化のMASP−2依存性レクチン経路の特異的で一過性の遮断または低下が、臨床的手技の結果ならびに一過性の虚血性傷害、例えば、心筋梗塞、腸の梗塞、熱傷、移植および脳卒中を含む疾患を改善するために著しく有益な治療的影響を有すると期待される。
(実施例15)
この実施例では、関節リウマチの処置に有用なMASP−2阻害薬剤を試験するための動物モデルとしてのMASP−2−/−系統の使用を説明する。
背景および理論的根拠:マウスの関節炎モデル:K/BxN T細胞レセプター(TCR)トランスジェニック(tg)マウスは、近年開発された炎症性関節炎のモデルである(Kouskoff,V.ら、Cell 87:811−822,1996;Korganow,A.S.ら、Immunity 10:451−461,1999;Matsumoto,I.ら、Science 286:1732−1735,1999;Maccioni M.ら、J.Exp.Med.195(8):1071−1077,2002)。このK/BxNマウスは、ヒトにおけるRAの臨床的、組織学的および免疫学的な特徴のほとんどを有する自己免疫疾患を自然発症的に発症する(Ji,H.ら、Immunity 16:157−168,2002)。このマウスの障害は、関節特異的であるが、惹起されると、遍在的に発現されている抗原であるグルコース−6−リン酸イソメラーゼ(「GPI」)に対するT細胞自己反応性およびB細胞自己反応性によって永続される。さらに、関節炎K/BxNマウス由来の血清(または精製された抗GPI Ig)の健常な動物への移入は、数日以内に関節炎を誘発する。ポリクローナル抗GPI抗体またはIgG1アイソタイプの抗GPIモノクローナル抗体のプールが、健常なレシピエントに注射されると関節炎を誘発することも示されている(Maccioniら、2002)。RA患者由来の血清もまた、正常な個体には見られない抗GPI抗体を含むことが見出されているので、このマウスモデルは、ヒトRAに関連する。この系においてC5欠損マウスが試験され、関節炎の発症を阻止することが見出された(Ji,H.ら、2002,前出)。副経路が関係しているC3ヌルマウスにおける関節炎の強力な阻害もまた存在したが、MBP−Aヌルマウスは、関節炎を発症しなかった。しかしながら、マウスにおいては、MBP−Cの存在が、MBP−Aの喪失を補い得る。
MASP−2がレクチン経路と副経路の両方の開始に不可欠な役割を果たすという本明細書中に記載される観察結果に基づいて、K/BxN関節炎モデルは、RAを処置する治療薬として使用するために有効であるMASP−2阻害薬剤のスクリーニングに有用である。
方法:関節炎K/BxNマウス由来の血清を生後60日に得て、プールし、そしてMASP−2−/−レシピエント(実施例1に記載される通りに得たもの);およびMASP−2阻害薬剤(本明細書中に記載されるようなMoAb、阻害性ペプチドなど)を0日目および2日目に投与されているか、または投与されていないコントロール同腹仔に注射する(150〜200μl i.p.)。正常マウスの群はまた、血清の注射を受ける前の2日間、MASP−2阻害薬剤で前処置される。マウスのさらなる群は、0日目に血清の注射を受け、その後、6日目にMASP−2阻害薬剤を受ける。臨床上の指標を経時的に評価し、罹患した各足に対しては、1点のスコアを付け、わずかに軽度の腫脹を有する足に対しては、1/2点のスコアを付ける。足首の厚さもまた、カリパスによって測定する(厚さは、0日目の測定値との差として定義する)。
(実施例16)
この実施例では、ヒト血漿で灌流されたウサギ心臓のエキソビボモデルにおける補体媒介性の組織損傷の阻害についてのアッセイを説明する。
背景および理論的根拠:補体系の活性化は、異種移植片の超急性拒絶に関与する。以前の研究は、超急性拒絶が副経路の活性化を介する抗ドナー抗体の欠如において起こり得ることを示した(Johnston,P.S.ら、Transplant Proc.23:877−879,1991)。
方法:単離された抗MASP−2阻害薬剤(例えば、実施例7に記載される通りに得られた抗MASP−2抗体)が組織の損傷において補体経路を阻害し得るか否かを決定するために、単離されたウサギ心臓を希釈ヒト血漿で灌流するエキソビボモデルを使用して、抗MASP−2 MoAbおよび抗体フラグメントを試験することができる。このモデルは、補体副経路の活性化に起因してウサギ心筋層に対する損傷を引き起こすことが以前に示された(Gralinski,M.R.ら、Immunopharmacology 34:79−88,1996)。
(実施例17)
この実施例では、本発明の方法に従ってレクチン依存性経路と関連する状態を処置するためのMASP−2阻害薬剤の有効な用量の尺度として有用である好中球活性化を測定するアッセイを説明する。
方法:好中球エラスターゼを測定するための方法は、Gupta−Bansal,R.ら、Molecular Immunol.37:191−201,2000に記載されている。簡潔には、エラスターゼおよびα1−抗トリプシンの両方に対する抗体を利用する2部位サンドイッチアッセイを用いて、エラスターゼと血清α1−抗トリプシンとの複合体を測定する。ポリスチレンマイクロタイタープレートを、PBS中の1:500希釈の抗ヒトエラスターゼ抗体(The Binding Site,Birmingham,UK)で、4℃にて一晩コーティングする。抗体溶液を吸引した後、0.4% HASを含むPBSでウェルを室温にて2時間ブロッキングする。MASP−2阻害薬剤で処理されたかまたは処理されていない血漿サンプルのアリコート(100μl)を上記ウェルに加える。室温にて2時間インキュベートした後、ウェルをPBSで広範にすすぐ。ブロッキング溶液中の1:500希釈のペルオキシダーゼ結合体化α1−抗トリプシン抗体を加えて、室温にて1時間インキュベートすることによって、結合しているエラスターゼ−α1−抗トリプシン複合体を検出する。そのプレートをPBSで洗浄した後、TMB基質の100μlアリコートを加える。100μlのリン酸を加えることによってTMBの反応をクエンチし、そしてマイクロプレートリーダーにおいて、そのプレートを450nmにおいて読む。
(実施例18)
この実施例では、心筋の虚血/再灌流の処置に有用なMASP−2阻害薬剤を試験するための動物モデルを説明する。
方法:心筋の虚血−再灌流モデルは、Vakevaら、Circulation 97:2259−2267,1998およびJordanら、Circulation 104(12):1413−1418,2001によって記載されている。この記載されているモデルを、以下の通りに、MASP−2−/−マウスおよびMASP−2+/+マウスにおいて使用するために改変し得る。簡潔には、成体の雄マウスを麻酔する。頸静脈および気管にカニューレ挿入し、そして吐き出されるCO2が3.5%〜5%を維持するように調節されたげっ歯類用換気装置を用いて、換気を100%酸素で維持する。左開胸術を行い、左冠状動脈の起点から3〜4mmに縫合糸を配置する。虚血の5分前に、動物にMASP−2阻害薬剤(例えば、抗MASP−2抗体(例えば、0.01〜10mg/kgの投与量の範囲))を投与する。次いで、冠状動脈の周りを縫合糸で締めることによって虚血を開始し、30分間維持し、その後、4時間再灌流する。縫合糸を締めずに等しく偽手術された動物を用意する。
補体C3沈着の解析:再灌流後、免疫組織化学用のサンプルを、左心室の中央の領域から得て、固定し、そして処理するまで−80℃で保存する。組織切片をHRP結合体化ヤギ抗ラットC3抗体とインキュベートする。組織切片を、抗MASP−2阻害薬剤の存在下で染色して、偽手術されたコントロール動物およびMASP−2−/−動物と比較してC3の存在について解析して、インビボにおいてC3沈着を低下させるMASP−2阻害薬剤を同定する。
(実施例19)
この実施例では、MASP−2阻害薬剤が移植された組織を虚血/再灌流損傷から保護する能力について試験するための動物モデルとしてのMASP−2−/−系統の使用を説明する。
背景/理論的根拠:移植中のドナー臓器に虚血/再灌流損傷が起きることが公知である。組織の損傷の程度は、虚血の長さに関係し、そして虚血の様々なモデルにおいて証明されているように補体、および、補体阻害薬剤(例えば、可溶性レセプター1型(CR1))の使用によって媒介される(Weismanら、Science 249:146−151,1990;Mulliganら、J.Immunol.148:1479−1486,1992;Prattら、Am.J.Path.163(4):1457−1465,2003)。移植についての動物モデルは、Prattら、Am.J.Path.163(4):1457−1465によって記載されており、このモデルは、MASP−2−/−マウスモデルとともに使用するため、および/または、移植された組織を虚血/再灌流損傷から保護する能力についてMASP−2阻害薬剤をスクリーニングするためにMASP−2+/+モデル系として使用するために、改変され得る。移植する前にドナー腎臓を灌流液で洗うことは、抗MASP−2阻害薬剤をドナー腎臓に導入する機会を提供する。
方法:MASP−2−/−マウスおよび/またはMASP−2+/+マウスを麻酔する。ドナーの左腎臓を切開し、大動脈を腎臓の動脈に対して頭側および尾方に結紮する。portexチューブカテーテル(Portex Ltd,Hythe,UK)を結紮間に挿入し、少なくとも5分間にわたって、MASP−2阻害薬剤(例えば、抗MASP−2モノクローナル抗体(0.01mg/kg〜10mg/kgの投与量の範囲))を含む5mlのSoltran腎臓灌流液(Baxter Health Care,UK)でその腎臓を灌流する。次いで、腎臓移植を行い、マウスを経時的にモニターする。
移植レシピエントの解析:腎臓移植片を様々な時間間隔で回収し、C3沈着の程度を測定するために抗C3を使用して組織切片を解析する。
(実施例20)
この実施例では、関節リウマチ(RA)の処置に有用なMASP−2阻害薬剤を試験するためのコラーゲン誘発性関節炎(CIA)動物モデルの使用を説明する。
背景および理論的根拠:コラーゲン誘発性関節炎(CIA)は、ネイティブII型コラーゲンを用いた免疫後に、げっ歯類および霊長類の感受性系統において誘導可能な自己免疫性の多発性関節炎を示し、ヒト関節リウマチ(RA)に対して関連性のあるモデルとして認識される(Courtneyら、Nature 283:666(1980);Trenthanら、J.Exp.Med.146:857(1977)を参照のこと)。RAおよびCIAの両方は、関節の炎症、パンヌス形成ならびに軟骨および骨のびらんによって特徴付けられる。CIA感受性マウス系統DBA/1LacJは、マウスがウシのII型コラーゲンで免疫された後に臨床的に重篤な関節炎を発症する、CIAの開発モデルである(Wangら、J.Immunol.164:4340−4347(2000))。C5欠損マウス系統をDBA/1LacJと交雑させ、得られた系統は、CIA関節炎の発症に抵抗性であることが見出された(Wangら、2000,前出)。
MASP−2が、レクチン経路および副経路の両方の開始に不可欠な役割を果たすという本明細書中に記載される観察結果に基づいて、CIA関節炎モデルは、RAを処置する治療薬として使用するのに有効なMASP−2阻害薬剤のスクリーニングに有用である。
方法:MASP−2−/−マウスを、実施例1に記載される通りに作製する。次いで、MASP−2−/−マウスを、DBA/1LacJ系統由来のマウス(The Jackson Laboratory)と交雑させる。F1およびその後の子孫を相互に交雑させて、DBA/1LacJ系統におけるホモ接合性MASP−2−/−を産生する。
Wangら、2000,前出に記載されている通りにコラーゲン免疫を行う。簡潔には、4mg/mlの濃度で0.01M酢酸中に溶解された、ウシII型コラーゲン(BCII)またはマウスII型コラーゲン(MCII)(Elastin Products,Owensville,MOから入手)を用いて、野生型DBA/1LacJマウスおよびMASP−2−/−DBA/1LacJマウスを免疫する。各マウスの尾の基部の皮内に、200μgのCIIおよび100μgのミコバクテリアを注射する。21日後に再度マウスを免疫し、関節炎の出現について毎日調べる。関節炎の指標を、罹患した各足において関節炎の重症度に関して経時的に評価する。
コラーゲン免疫する時点において、MASP−2阻害薬剤(例えば、抗MASP−2モノクローナル抗体(0.01mg/kg〜10mg/kgの投与量の範囲))を全身的かまたは1つ以上の関節において局所的に注射することによって、野生型DBA/1LacJ CIAマウスにおいてMASP−2阻害薬剤をスクリーニングし、そして関節炎の指標を上に記載した通りに経時的に評価する。治療薬としての抗hMASP−2モノクローナル抗体は、MASP−2−/−、hMASP−+/+ノックインDBA/1LacJ CIAマウスモデルにおいて容易に評価され得る。
(実施例21)
この実施例では、免疫複合体媒介性の糸球体腎炎の処置に有用なMASP−2阻害薬剤を試験するための(NZB/W)F1動物モデルの使用を説明する。
背景および理論的根拠:ニュージーランドブラック×ニュージーランドホワイト(NZB/W)F1マウスは、ヒト免疫複合体媒介性の糸球体腎炎と顕著に類似した自己免疫性症候群を自然発症的に発症する。NZB/W F1マウスは、必ず12月齢までに糸球体腎炎によって死亡する。上で述べたように、補体活性化が、免疫複合体媒介性の糸球体腎炎の病原において重大な役割を果たすことが示されている。さらに、NZB/W F1マウスモデルにおける抗C5 MoAbの投与は糸球体腎炎(glomerulonepthritis)の経過の著しい回復をもたらしたことが、示されている(Wangら、Proc.Natl.Acad.Sci.93:8563−8568(1996))。MASP−2が、レクチン経路および副経路の両方の開始において不可欠な役割を果たすという本明細書中に記載される観察結果に基づいて、NZB/W F1動物モデルは、糸球体腎炎を処置する治療薬として使用するのに有効なMASP−2阻害薬剤のスクリーニングに有用である。
方法:MASP−2−/−マウスを、実施例1に記載される通りに作製する。次いで、MASP−2−/−マウスを、NZB系統由来のマウスとNZW系統由来のマウス(The Jackson Laboratory)の両方と別々に交雑させる。F1およびその後の子孫を相互に交雑させて、NZBおよびNZWの両方の遺伝的背景におけるホモ接合性MASP−2−/−を産生する。このモデルにおいて糸球体腎炎の病原におけるMASP−2の役割を決定するために、野生型NZB×NZWマウスまたはMASP−2−/−NZB×MASP−2−/−NZWマウスのいずれかの交雑から得られるF1個体におけるこの疾患の発症を比較する。1週間間隔で、MASP−2+/+F1マウスおよびMASP−2−/−F1マウスから尿サンプルを採取し、抗DNA抗体の存在について尿タンパク質レベルをモニターする(Wangら、1996,前出に記載されている通りに)。メサンギウム基質沈着の量および糸球体腎炎の発症をモニターするために、腎臓の病理組織学的解析も行う。
NZB/W F1動物モデルもまた、糸球体腎炎を処置するための治療薬として使用するのに有効なMASP−2阻害薬剤のスクリーニングに有用である。18週齢の野生型NZB/W F1マウスの腹腔内に抗MASP−2阻害薬剤(例えば、抗MASP−2モノクローナル抗体(0.01mg/kg〜10mg/kgの投与量の範囲))を毎週または隔週の頻度で注射する。上で述べた糸球体腎炎の病理組織学的および生化学的なマーカーを使用して、マウスにおける疾患の発症を評価し、そして、この疾患の処置に有用なMASP−2阻害薬剤を同定する。
(実施例22)
この実施例では、体外循環(ECC)(例えば、心肺バイパス(CPB)回路)から生じる組織の損傷の予防に有用なMASP−2阻害薬剤を試験するためのモデルとしてのチュービングループ(tubing loop)の使用を説明する。
背景および理論的根拠:上で述べたように、CPB中にECCを経験している患者は、体外循環路の人工物表面への血液の曝露だけでなく、外科的外傷および虚血−再灌流損傷のような表面とは無関係の因子によっても部分的に引き起こされる全身性炎症反応に罹患する(Butler,J.ら、Ann.Thorac.Surg.55:552−9,1993;Edmunds,L.H.,Ann.Thorac.Surg.66(Suppl):S12−6,1998;Asimakopoulos,G.,Perfusion 14:269−77,1999)。さらに補体副経路が、血液とCPB回路の人工物表面との相互作用から生じる、CPB回路における補体活性化において優勢な役割を果たすことが示されている(Kirklinら、1983,1986,前に記載を参照のこと)。したがって、MASP−2が、レクチン経路および副経路の両方の開始において不可欠な役割を果たすという本明細書中に記載される観察結果に基づいて、チュービングループモデルは、体外曝露によって引き起こされる炎症性反応を予防または処置する治療薬として使用するのに有効なMASP−2阻害薬剤のスクリーニングに有用である。
方法:Gupta−Bansalら、Molecular Immunol.37:191−201(2000)に記載されている通りに、心肺バイパス回路用の先に記載されたチュービングループモデルの改変を、利用する(Gongら、J.Clinical Immunol.16(4):222−229(1996)を参照のこと)。簡潔には、7mlヴァキュテーナー(vacutainer)管(全血1mlあたり7単位のヘパリンを含む)中に健常な被験体から血液を新鮮に回収する。CPB手技中に使用されるものと類似のポリエチレン管状物(例えば、I.D.2.92mm;O.D.3.73mm、長さ:45cm)を1mlの血液で満たし、そして短いシリコーン管状物を備えたループに接続する。10mM EDTAとともにヘパリン処理された血液を含むコントロール管状物を、バックグラウンドコントロールとして研究に含めた。サンプルおよびコントロール管状物を37℃で1時間、水浴中において垂直に回転させた。インキュベートした後、血液サンプルを、EDTAを含む1.7mlのマイクロチューブに移し、最終濃度20mM EDTAを得る。そのサンプルを遠心分離し、そして血漿を回収した。MASP−2阻害薬剤(例えば、抗MASP−2抗体)を、ヘパリン処理した血液に遠心分離の直前に加える。次いで、Gupta−Bansalら、2000,前出に記載されている通りにC3aおよび可溶性C5b−9の濃度を測定するために、その血漿サンプルをアッセイに供する。
(実施例23)
この実施例では、敗血症または敗血症から生じる状態(重篤な敗血症、敗血症性ショック、敗血症から生じる急性呼吸窮迫症候群および全身性炎症反応症候群を含む)の処置に有用なMASP−2阻害薬剤を試験するためのげっ歯類盲腸の結紮および穿刺(CLP)モデル系の使用を説明する。
背景および理論的根拠:上で述べたように、補体活性化が、敗血症の病原において主要な役割を有することは数多くの研究において示されている(Bone,R.C.,Annals.Internal.Med.115:457−469,1991を参照のこと)。CLPげっ歯類モデルは、ヒトにおける敗血症の臨床経過に類似し、そして、ヒトにおける敗血症に対する合理的な代理モデルであると見なされる、認められたモデルである(Ward,P.,Nature Review Immunology Vol 4:133−142(2004)を参照のこと)。最近の研究は、抗C5a抗体によるCLP動物の処置が菌血症の減少および生存の大幅な改善をもたらしたことが示された。Huber−Langら、J.of Immunol.169:3223−3231(2002)。故に、MASP−2がレクチン経路および副経路の両方の開始において不可欠な役割を果たすという本明細書中に記載される観察結果に基づいて、CLPげっ歯類モデルは、敗血症または敗血症から生じる状態を予防または処置する治療薬として使用するのに有効なMASP−2阻害薬剤のスクリーニングに有用である。
方法:以下の通り、Huber−Langら、2004,前出に記載されているモデルをCLPモデルに適合させる。MASP−2−/−動物およびMASP−2+/+動物を麻酔する。腹部正中を2cm切開し、盲腸を回盲弁の下できつく結紮することにより、腸閉塞を回避する。次いで、その盲腸を21ゲージ針で穿刺する。次いで、腹部切開を絹縫合糸およびスキンクリップ(Ethicon,Summerville,NJ)を用いて層状に閉じた。CLPの直後に、動物にMASP−2阻害薬剤(例えば、抗MASP−2モノクローナル抗体(0.01mg/kg〜10mg/kgの投与量の範囲))の注射を行う。治療薬としての抗hMASP−2モノクローナル抗体は、MASP−2−/−、hMASP−+/+ノックインCLPマウスモデルにおいて容易に評価され得る。次いで、Huber−Langら、2004,前出に記載されているアッセイを使用して、マウスの血漿を補体由来のアナフィラトキシンおよび呼吸バーストのレベルについて解析する。
(実施例24)
この実施例では、MASP−2活性を遮断する高親和性の抗MASP−2 Fab2抗体フラグメントの同定を説明する。
背景および理論的根拠:MASP−2は、多くの別個の機能的ドメインを有する複合体タンパク質であり、その機能的ドメインとしては、MBLおよびフィコリンに対する結合部位、セリンプロテアーゼ触媒性部位、タンパク分解性基質C2に対する結合部位、タンパク分解性基質C4に対する結合部位、MASP−2チモーゲンの自己活性化に対するMASP−2切断部位および2つのCa++結合部位が挙げられる。高親和性でMASP−2に結合するFab2抗体フラグメントを同定し、それらがMASP−2機能活性を遮断することができるか否かを決定するためにその同定されたFab2フラグメントを機能的アッセイにおいて試験した。
MASP−2機能活性を遮断するために、抗体またはFab2抗体フラグメントは、MASP−2機能活性に必要なMASP−2上の構造的エピトープに結合しなければならず、かつその構造的エピトープを干渉しなければならない。したがって、高親和性で結合する抗MASP−2 Fab2の多くまたはすべてが、MASP−2機能活性に直接関与するMASP−2上の構造的エピトープに結合しない限り、それらは、MASP−2機能活性を阻害しないかもしれない。
レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定する機能的アッセイを使用して、抗MASP−2 Fab2の「遮断活性」を評価した。レクチン経路におけるMASP−2の主要な生理学的役割は、レクチン媒介性補体経路の次なる機能的成分、すなわち、レクチン経路C3コンバターゼを生成することが公知である。レクチン経路C3コンバターゼは、C3をタンパク分解性にC3aおよびC3bに切断する重要な酵素的複合体(C4bC2a)である。MASP−2は、レクチン経路C3コンバターゼ(C4bC2a)の構造的成分ではない;しかしながら、MASP−2機能活性は、レクチン経路C3コンバターゼを含む2つのタンパク質成分(C4b、C2a)を生成するために必要とされる。さらに、上に列挙したMASP−2の別個の機能活性のすべては、MASP−2がレクチン経路C3コンバターゼを生成するために必要とされるようである。これらの理由のために、抗MASP−2 Fab2の「遮断活性」を評価する際に使用するのに好ましいアッセイは、レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定する機能的アッセイであると考えられる。
高親和性Fab2の作製:ヒト可変軽鎖抗体配列およびヒト可変重鎖抗体配列のファージディスプレイライブラリーならびに目的の選択されたリガンドと反応するFab2を同定するための自動化された抗体選択技術を使用して、ラットMASP−2タンパク質(配列番号55)に対する高親和性Fab2を作製した。既知量のラットMASP−2(約1mg、>85%の純度)タンパク質を抗体スクリーニングに利用した。最善の親和性を有する抗体を選択するために3回の増幅を利用した。抗体フラグメントを発現する約250種の異なるヒットをELISAスクリーニングのために選定した。次いで、高親和性ヒットを配列決定して、様々な抗体の特有性を決定した。
50種の特有な抗MASP−2抗体を精製し、250μgの精製された各Fab2抗体を、以下に詳細に記載するようにMASP−2結合親和性の特徴付けおよび補体経路の機能性試験に使用した。
抗MASP−2 Fab2の阻害(遮断)活性を評価するために使用したアッセイ
1.レクチン経路C3コンバターゼ形成の阻害を測定するアッセイ:
背景:レクチン経路C3コンバターゼは、C3を2つの強力な炎症促進性フラグメント(アナフィラトキシンC3aおよびオプソニンのC3b)へとタンパク分解性に切断する酵素的複合体(C4bC2a)である。C3コンバターゼの形成は、炎症の媒介に関してレクチン経路における重要な工程であるらしい。MASP−2は、レクチン経路C3コンバターゼ(C4bC2a)の構造的成分ではない;したがって、抗MASP−2抗体(またはFab2)は、既存のC3コンバターゼの活性を直接阻害しない。しかしながら、MASP−2セリンプロテアーゼ活性は、レクチン経路C3コンバターゼを含む2つのタンパク質成分(C4b、C2a)を生成するために必要とされる。したがって、MASP−2機能活性を阻害する抗MASP−2 Fab2(すなわち、遮断抗MASP−2 Fab2)は、レクチン経路C3コンバターゼのデノボ形成を阻害する。C3は、その構造の一部として、反応性の高い独特のチオエステル基を含む。このアッセイにおいてC3コンバターゼがC3を切断する際に、C3b上のチオエステル基は、プラスチックウェルの底面上に固定化された高分子上のヒドロキシル基またはアミノ基とエステル結合またはアミド結合を介して共有結合を形成することができ、ELISAアッセイにおけるC3bの検出を容易にし得る。
酵母マンナンは、レクチン経路の公知のアクチベーターである。C3コンバターゼの形成を測定する以下の方法において、マンナンでコーティングされたプラスチックウェルを、希釈ラット血清と一緒に37℃にて30分間インキュベートしてレクチン経路を活性化した。次いで、そのウェルを洗浄し、ウェル上に固定化されたC3bについて標準的なELISA法を使用してアッセイする。このアッセイにおいて生成されたC3bの量は、レクチン経路C3コンバターゼのデノボ形成を直接反映するものである。選択された濃度における抗MASP−2 Fab2を、C3コンバターゼ形成およびそれに続くC3b生成を阻害する能力についてこのアッセイにおいて試験した。
方法:
96ウェルCostar Medium Bindingプレートを、50mM炭酸塩緩衝液(pH9.5)に希釈されたマンナンと一緒に1μg/50μl/ウェルで5℃にて一晩インキュベートした。一晩インキュベートした後、各ウェルを200μlのPBSで3回洗浄した。次いで、そのウェルを、100μl/ウェルのPBS中1%ウシ血清アルブミンを用いてブロッキングし、そして穏やかに混合しながら室温にて1時間インキュベートした。次いで、各ウェルを200μlのPBSで3回洗浄した。5℃において、抗MASP−2 Fab2サンプルを、Ca++とMg++とを含むGVB緩衝液(4.0mMバルビタール、141mM NaCl、1.0mM MgCl2、2.0mM CaCl2、0.1%ゼラチン,pH7.4)中に選択された濃度まで希釈した。5℃において、0.5%ラット血清を上記サンプルに加え、そして100μlを各ウェルに移した。プレートに蓋をし、37℃の水浴において30分間インキュベートして補体を活性化させた。そのプレートを37℃の水浴から氷水混合物を含む容器に移すことによって、反応を停止させた。各ウェルをPBS−Tween 20(PBS中0.05%のTween 20)200μlで5回洗浄し、次いで、200μlのPBSで2回洗浄した。2.0mg/mlウシ血清アルブミンを含むPBS中の1次抗体(ウサギ抗ヒトC3c、DAKO
A0062)の1:10,000希釈物を、100μl/ウェルで加え、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで5回洗浄した。2.0mg/mlウシ血清アルブミンを含むPBS中の2次抗体(ペルオキシダーゼ結合体化ヤギ抗ウサギIgG,American Qualex A102PU)の1:10,000希釈物を、100μl/ウェルで加え、振盪機上で穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで5回洗浄した。100μl/ウェルのペルオキシダーゼ基質TMB(Kirkegaard & Perry Laboratories)を加え、室温で10分間インキュベートした。100μl/ウェルの1.0M H3PO4を加えることによって、ペルオキシダーゼ反応を停止させ、そしてOD450を測定した。
2.MASP−2依存性C4切断の阻害を測定するアッセイ
背景:MASP−2のセリンプロテアーゼ活性は、非常に特異的であり、MASP−2に対する2つのタンパク質基質;C2およびC4だけが同定されている。C4の切断は、C4aおよびC4bを生成する。抗MASP−2 Fab2は、C4切断に直接関与するMASP−2上の構造的エピトープ(例えば、C4に対するMASP−2結合部位;MASP−2セリンプロテアーゼ触媒部位)に結合し得、したがってMASP−2のC4切断機能活性を阻害する。
酵母マンナンは、レクチン経路の公知のアクチベーターである。MASP−2のC4切断活性を測定する以下の方法において、レクチン経路を活性化するために、マンナンでコーティングされたプラスチックウェルを希釈ラット血清と一緒に37℃で30分間インキュベートした。このELISAアッセイにおいて使用される1次抗体は、ヒトC4のみを認識するので、希釈ラット血清にヒトC4(1.0μg/ml)を補充した。次いで、そのウェルを洗浄し、ウェル上に固定化されたヒトC4bについて標準的なELISA法を使用してアッセイした。このアッセイにおいて生成されるC4bの量は、MASP−2依存性C4切断活性の尺度である。このアッセイでは、選択された濃度における抗MASP−2 Fab2を、それがC4切断を阻害する能力について試験した。
方法:96ウェルCostar Medium Bindingプレートを、50mM炭酸塩緩衝液(pH9.5)中に希釈されたマンナンと1.0μg/50μl/ウェルで5℃にて一晩インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで3回洗浄した。次いで、そのウェルを、100μl/ウェルのPBS中1%ウシ血清アルブミンを用いてブロッキングし、そして穏やかに混合しながら室温にて1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで3回洗浄した。5℃において、抗MASP−2 Fab2サンプルを、Ca++とMg++とを含むGVB緩衝液(4.0mMバルビタール、141mM NaCl、1.0mM MgCl2、2.0mM CaCl2、0.1%ゼラチン,pH7.4)中に選択された濃度まで希釈した。1.0μg/mlヒトC4(Quidel)をまた、これらのサンプル中に含めた。5℃において、0.5%ラット血清を上のサンプルに加え、そして100μlを各ウェルに移した。プレートに蓋をして、37℃の水浴において30分間インキュベートして補体を活性化させた。そのプレートを37℃の水浴から氷水混合物を含む容器に移すことによって、反応を停止させた。各ウェルをPBS−Tween 20(PBS中0.05%のTween 20)200μlで5回洗浄し、次いで、各ウェルを200μlのPBSで2回洗浄した。2.0mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBS中のビオチン結合体化ニワトリ抗ヒトC4c(Immunsystem AB,Uppsala,Sweden)の1:700希釈物を、100μl/ウェルで加え、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで5回洗浄した。2.0mg/mlのBSAを含むPBS中の0.1μg/mlのペルオキシダーゼ結合体化ストレプトアビジン(Pierce Chemical#21126)を、100μl/ウェルで加え、振盪機上で穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで5回洗浄した。100μl/ウェルのペルオキシダーゼ基質TMB(Kirkegaard & Perry
Laboratories)を加え、室温で16分間インキュベートした。100μl/ウェルの1.0M H3PO4を加えることによってペルオキシダーゼ反応を停止させ、そしてOD450を測定した。
3.「ネイティブ」ラットMASP−2に対する抗ラットMASP−2 Fab2の結合アッセイ
背景:MASP−2は、通常、特異的なレクチン分子(マンノース結合タンパク質(MBL)およびフィコリン)も含むMASP−2二量体複合体として血漿中に存在する。したがって、MASP−2の生理的に関連性のある形態に対する抗MASP−2 Fab2の結合性の研究を目的とする場合、Fab2と、精製された組換えMASP−2ではなく血漿中の「ネイティブ」MASP−2との相互作用を使用する結合アッセイを開発することが重要である。この結合アッセイでは、最初に、10%ラット血清由来の「ネイティブ」MASP−2−MBL複合体をマンナンコーティングされたウェル上に固定化する。次いで、その固定化された「ネイティブ」MASP−2に対する様々な抗MASP−2 Fab2の結合親和性を、標準的なELISA法を用いて研究した。
方法:96ウェルCostar High Bindingプレートを、50mM炭酸塩緩衝液(pH9.5)中に希釈されたマンナンと1μg/50μl/ウェルで5℃にて一晩インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで3回洗浄した。そのウェルを、100μl/ウェルのPBST(0.05% Tween 20を含むPBS)中0.5%脱脂粉乳を用いてブロッキングし、そして穏やかに混合しながら室温にて1時間インキュベートした。各ウェルを、200μlのTBS/Tween/Ca++洗浄緩衝液(Tris緩衝化食塩水、0.05% Tween 20、5.0mM CaCl2,pH7.4を含む)で3回洗浄した。高塩結合緩衝液(20mM Tris、1.0M NaCl、10mM CaCl2、0.05% Triton−X100,0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン、pH7.4)中の10%ラット血清を氷上で調製した。100μl/ウェルを加え、そして5℃において一晩インキュベートした。ウェルを、200μlのTBS/Tween/Ca++洗浄緩衝液で3回洗浄した。次いで、ウェルを、200μlのPBSで2回洗浄した。Ca++およびMg++を含むGVB緩衝液(4.0mMバルビタール、141mM NaCl、1.0mM MgCl2、2.0mM CaCl2、0.1%ゼラチン、pH7.4)中に希釈された、選択された濃度の抗MASP−2
Fab2を、100μl/ウェルで加え、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで5回洗浄した。PBS中2.0mg/mlウシ血清アルブミンに1:5000希釈したHRP結合体化ヤギ抗Fab2(Biogenesis Cat No 0500−0099)を、100μl/ウェルで加え、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。各ウェルを200μlのPBSで5回洗浄した。100μl/ウェルのペルオキシダーゼ基質TMB(Kirkegaard
& Perry Laboratories)を加え、室温で70分間インキュベートした。100μl/ウェルの1.0M H3PO4を加えることによってペルオキシダーゼ反応を停止させ、そしてOD450を測定した。
結果:
ラットMASP−2タンパク質と高親和性で反応する約250種の異なるFab2を、ELISAスクリーニングのために選定した。これらの高親和性Fab2を配列決定して、様々な抗体の特有性を決定し、50種の独特の抗MASP−2抗体をさらなる解析のために精製した。250μgの各精製Fab2抗体をMASP−2結合親和性の特徴付けおよび補体経路の機能性試験に使用した。この解析の結果を下記の表6に示す。
上の表6に示される通りに、試験された50種の抗MASP−2 Fab2のうち、10nM Fab2以下のIC50でC3コンバターゼ形成を強力に阻害するMASP−2遮断Fab2として17種のFab2を同定した(34%の陽性ヒット率)。同定された17種のFab2のうち8種は、nM以下の範囲のIC50を有する。さらに、表6に示されるMASP−2遮断Fab2の17種すべてが、レクチン経路C3コンバターゼアッセイにおいてC3コンバターゼ形成の本質的に完全な阻害をもたらした。図11Aは、Fab2抗体#11についてのC3コンバターゼ形成アッセイの結果をグラフで図示しており、Fab2抗体#11は、試験された他のFab2抗体の代表例であり、その結果は、表6に示されている。これは、各MASP−2分子が「遮断」Fab2に結合しているときでさえも、そのFab2がわずかしかMASP−2機能を阻害することができないことが理論的にあり得るので、重要な検討材料である。
マンナンは、レクチン経路の公知のアクチベーターであるが、ラット血清中に抗マンナン抗体が存在することによってもまた、古典経路が活性化され得、そして、古典経路C3コンバターゼを介してC3bを生成し得ることが理論的にあり得る。しかしながら、この実施例において列挙された17種の遮断抗MASP−2 Fab2の各々は、C3b生成を強力に阻害する(>95%)ので、このアッセイのレクチン経路C3コンバターゼに対する特異性を示す。
各々に対する見かけのKdを計算するために、結合アッセイをまた遮断Fab2の17種すべてを用いて行った。その遮断Fab2のうちの6種については、ネイティブラットMASP−2に対する抗ラットMASP−2 Fab2の結合アッセイの結果をまた、表6に示す。図11Bは、Fab2抗体#11を用いた結合アッセイの結果をグラフで図示している。他のFab2に対して同様の結合アッセイをまた行い、その結果を表6に示す。概して、「ネイティブ」MASP−2に対する6種のFab2の各々の結合性について得られた見かけのKdは、C3コンバターゼ機能的アッセイにおけるFab2に対するIC50と合理的に十分対応する。MASP−2が、そのプロテアーゼ活性の活性化時に「不活性型」から「活性型」に変化する立体配座の変化を起こすという証拠がある(Feinbergら、EMBO J 22:2348−59(2003);Galら、J.Biol.Chem.280:33435−44(2005))。C3コンバターゼ形成アッセイに使用される正常なラット血漿では、MASP−2は、主に「不活性な」チモーゲン立体配座で存在する。対照的に、結合アッセイにおいて、MASP−2は、固定化マンナンに結合したMBLとの複合体の一部として存在する;したがって、MASP−2は、「活性な」立体配座であり得る(Petersenら、J.Immunol Methods 257:107−16,2001)。その結果として、Fab2は、各アッセイにおいて異なる立体配座の形態のMASP−2に結合性であり得るので、これらの2つの機能的アッセイにおいて試験された17種の遮断Fab2の各々についてのIC50とKdとの正確な対応は、必ずしも予想されない。それにもかかわらず、Fab2#88を除いては、2つのアッセイにおいて試験された他の16種のFab2の各々についてのIC50と見かけのKdとの間において合理的に近い対応が存在するようである(表6を参照のこと)。
MASP−2媒介性のC4切断の阻害について、遮断Fab2のいくつかを評価した。図11Cは、IC50=0.81nMでFab2#41を用いた阻害を示すC4切断アッセイの結果をグラフで図示している(表6を参照のこと)。図12に示される通りに、試験されたFab2のすべては、C3コンバターゼアッセイにおいて得られるものと同様のIC50でC4切断を阻害することが見出された(表6を参照のこと)。
マンナンは、レクチン経路の公知のアクチベーターであるが、ラット血清中に抗マンナン抗体が存在することによってもまた、古典経路が活性化され得、それによって、C4のC1s媒介性切断によってC4bが生成されることが理論的にあり得る。しかしながら、C4b生成を強力に阻害(>95%)するいくつかの抗MASP−2 Fab2が同定され、したがってこのアッセイのMASP−2媒介性C4切断に対する特異性が示される。C3と同様にC4は、その構造の一部として、反応性の高い独特のチオエステル基を含む。このアッセイにおいてMASP−2がC4を切断するとき、C4b上のチオエステル基は、プラスチックウェルの底面上に固定化された高分子上のヒドロキシル基またはアミノ基とエステル結合またはアミド結合を介して共有結合を形成することができ、したがってELISAアッセイにおけるC4bの検出を容易にし得る。
これらの研究によって、C4とC3の両方のコンバターゼ活性を機能的に遮断するラットMASP−2タンパク質に対する高親和性FAB2が生成され、それによって、レクチン経路の活性化が妨害されることが明らかに証明された。
(実施例25)
この実施例では、実施例24に記載されている通りに作製された遮断抗ラットMASP−2 Fab2抗体のいくつかに対するエピトープマッピングを説明する。
方法:
図13に示される通りに、pED4ベクターを使用して、以下のタンパク質(すべてがN末端に6×Hisタグを有する)をCHO細胞において発現させた:
活性中心におけるセリンをアラニンに変化させる(S613A)ことによって不活性化された完全長MASP−2タンパク質であるラットMASP−2A;
自己活性化を減少させるように変化させた(R424K)完全長MASP−2タンパク質であるラットMASP−2K;
CUBIドメイン、EGF様ドメインおよびCUBIIドメインのみを含むラットMASP−2のN末端フラグメントであるCUB1−II;ならびに
CUBIおよびEGF様ドメインのみを含むラットMASP−2のN末端フラグメントであるCUBI/EGF様。
先に報告されているように(Chenら、J.Biol.Chem.276:25894−02(2001))ニッケルアフィニティークロマトグラフィによって、これらのタンパク質を培養上清から精製した。
ラットMASP−2のCCPIIおよびセリンプロテアーゼドメインを含むC末端ポリペプチド(CCPII−SP)を、pTrxFus(Invitrogen)を使用して、チオレドキシン融合タンパク質としてE.coliにおいて発現させた。Thiobond親和性樹脂を使用して、タンパク質を細胞可溶化物から精製した。ネガティブコントロールとして空のpTrxFusからチオレドキシン融合パートナーを発現させた。
すべての組換えタンパク質をTBS緩衝液に透析し、それらの濃度を、280nmにおけるODを測定することによって決定した。
ドットブロット解析:
上に記載し、そして図13に示される5つの組換えMASP−2ポリペプチド(およびCCPII−セリンプロテアーゼポリペプチドに対するネガティブコントロールとしてのチオレドキシンポリペプチド)の段階希釈物をニトロセルロース膜上にスポットした。スポットしたタンパク質の量は、5倍の段階で100ng〜6.4pgの範囲であった。後の実験では、スポットしたタンパク質の量は、50ngに低下させた量から再度5倍の段階で16pgまでの範囲であった。膜をTBS中の5%スキムミルク粉末(ブロッキング緩衝液)でブロッキングし、次いで、ブロッキング緩衝液(5.0mM Ca2+を含む)中1.0μg/ml抗MASP−2 Fab2とともにインキュベートした。HRP結合体化抗ヒトFab(AbD/Serotec;1/10,000希釈)およびECL検出キット(Amersham)を使用して、結合しているFab2を検出した。1枚の膜を、ポジティブコントロールとしてポリクローナルウサギ抗ヒトMASP−2Ab(Stoverら、J Immunol 163:6848−59(1999)に記載されているもの)とインキュベートした。この場合、HRP結合体化ヤギ抗ウサギIgG(Dako;1/2,000希釈)を使用して、結合しているAbを検出した。
MASP−2結合アッセイ
ELISAプレートを、炭酸塩緩衝液(pH9.0)中の組換えMASP−2AまたはCUBI−IIポリペプチドを1.0μg/ウェルで4℃において一晩コーティングした。ウェルをTBS中1%BSAでブロッキングし、次いで、5.0mM Ca2+を含むTBS中の抗MASP−2 Fab2の段階希釈物を加えた。そのプレートを室温で1時間インキュベートした。TBS/tween/Ca2+で3回洗浄した後、TBS/Ca2+中に1/10,000希釈したHRP結合体化抗ヒトFab(AbD/Serotec)を加え、そのプレートを室温でさらに1時間インキュベートした。TMBペルオキシダーゼ基質キット(Biorad)を使用して、結合している抗体を検出した。
結果:
様々なMASP−2ポリペプチドとFab2との反応性を証明するドットブロット解析の結果を、以下の表7に提供する。表7に提供される数値は、最大半量のおよそのシグナル強度を得るのに必要とされる、スポットされたタンパク質の量を示す。示されるように、これらのポリペプチドのすべて(チオレドキシン融合パートナーのみを除く)は、ポジティブコントロールAb(ウサギにおいて産生されたポリクローナル抗ヒトMASP−2血清)によって認識された。
NR=無反応。ポジティブコントロール抗体は、ウサギにおいて産生されたポリクローナル抗ヒトMASP−2血清である。
上記のFab2のすべてが、MASP−2AならびにMASP−2K(データ示さず)と反応した。大部分のFab2が、CCPII−SPポリペプチドを認識したが、そのN末端フラグメントを認識しなかった。2つの例外は、Fab2#60およびFab2#57である。Fab2#60は、MASP−2AおよびCUBI−IIフラグメントを認識するが、CUBI/EGF様ポリペプチドまたはCCPII−SPポリペプチドを認識しないことから、Fab2#60が、CUBIIにおけるエピトープに結合するか、またはCUBIIとEGF様ドメインとにわたるエピトープに結合することが示唆される。Fab2#57は、MASP−2Aを認識するが、試験されたMASP−2フラグメントのいずれも認識せず、このことは、おそらく、このFab2がCCPIにおけるエピトープを認識することが示唆される。Fab2#40および#49は、完全なMASP−2Aにのみ結合した。図14に示されるELISA結合アッセイでは、Fab2#60もまた、わずかに低い明らかな親和性ではあるがCUBI−IIポリペプチドに結合した。
これらの知見は、MASP−2タンパク質の複数の領域に対する独特の遮断Fab2の同定を示す。
(実施例26)
この実施例では、マウス腎虚血/再灌流モデルにおけるMASP−2−/−マウスの解析を説明する。
背景/理論的根拠:体温での腎臓における虚血−再灌流(I/R)損傷は、血液量減少性ショック、腎臓の動脈閉塞およびクロスクランピング(cross−clamping)手技を含む多くの臨床的状態との関連性を有する。
腎臓虚血−再灌流(I/R)は、最大50%の死亡率に関連する急性腎不全の重要な原因である(Levyら、JAMA 275:1489−94,1996;Thadhaniら、N.Engl.J.Med.334:1448−60,1996)。移植後の腎不全は、腎臓の移植後によくある脅威の合併症である(Nicholsonら、Kidney Int.58:2585−91,2000)。腎臓のI/R損傷に対する有効な処置は、現在、利用できず、血液透析が、利用できる唯一の処置である。腎臓のI/R損傷の病態生理学は、複雑である。最近の研究では、補体活性化のレクチン経路が、腎臓のI/R損傷の病原において重要な役割を有し得ると示されている(de Vriesら、Am.J.Path.165:1677−88,2004)。
方法:
MASP−2(−/−)マウスを、実施例1に記載される通りに作製し、少なくとも10世代にわたってC57Bl/6と戻し交雑させた。体重が22〜25gの6匹の雄MASP−2(−/−)および6匹の野生型(+/+)マウスに、Hypnovel(6.64mg/kg;Roche products Ltd.Welwyn Garden City,UK)を腹腔内注射により投与し、続いてイソフルラン(Abbott Laboratories Ltd.,Kent,UK)の吸入により麻酔した。イソフルランは、最も低い肝臓毒性を有する穏やかな吸入麻酔薬であり;濃度が正確に生産されており、長時間の麻酔の後でさえも動物が迅速に回復するので、イソフルランを選択した。Hypnovelは、動物において神経遮断性鎮痛の状態をもたらし、投与する必要があるイソフルランがより少なくて済むので、Hypnovelを投与した。体温を一定に保つために、温かいパッドを動物の真下に敷いた。次に、腹部正中切開を行い、そして1対の開創器を用いて体腔を開いたままで保持した。結合組織を左右の両方の腎臓の静脈および動脈の上下にずらし、微細動脈瘤クランプを適用することによって、55分間にわたって腎臓の茎をクランプで締めた。この虚血の時間は、まず、本研究室において行った以前の研究に基づいた(Zhouら、J.Clin.Invest.105:1363−71(2000))。さらに、虚血の力価測定の後、55分間という標準的な虚血の時間を選択し、55分間の虚血によって、低死亡率(5%未満)かつ可逆的な一貫した損傷をもたらすことが見出された。閉塞後、0.4mlの温かい食塩水(37℃)を腹腔内に入れ、次いで、虚血の時間の間、腹部を閉じた。微細動脈瘤クランプを除去した後、血液が腎臓に再度流れることを示唆する色の変化が生じるまで腎臓を観察した。さらなる0.4mlの温かい食塩水を腹腔内に入れ、開口部を縫合したうえで、動物をケージに戻した。尾血液サンプルをクランプ除去の24時間後に採取し、48時間後にマウスを屠殺して、さらなる血液サンプルを回収した。
腎臓損傷の評価:6匹の雄MASP−2(−/−)マウスおよび6匹のWT(+/+)マウスにおいて、再灌流の24時間および48時間後に腎機能を評価した。血中クレアチニン測定値を、腎機能の再現性のある指標をもたらす質量分析(感度<1.0μmol/L)によって測定した。図15は、再灌流の24時間後および48時間後の、野生型C57Bl/6コントロールおよびMASP−2(−/−)に対する血中尿素窒素クリアランスをグラフで図示している。図15に示される通りに、MASP−2(−/−)マウスが、野生型コントロールマウスと比較して、24時間および48時間において、血中尿素の量の有意な低下を示し、このことは、虚血再灌流損傷モデルにおいて腎臓の損傷から保護する機能的作用を示唆する。
全般的に見れば、外科的手技および虚血性傷害の24時間および48時間後に、WT(+/+)マウスとMASP−2(−/−)マウスの両方において血中尿素の増加が見られた。非虚血性WT(+/+)外科手術動物における血中尿素のレベルは、5.8mmol/Lであると単独で測定された。図15に示されるデータに加えて、1匹のMASP−2(−/−)動物は、虚血性傷害からのほぼ完全な保護を示し、24時間および48時間においてそれぞれ6.8mmol/Lおよび9.6mmol/Lの値であった。この動物を虚血性損傷が存在しなかったかもしれない潜在的な域外値としてこの群の解析から除外した。ゆえに、図15に示される最終的な解析には、5匹のMASP−2(−/−)マウスおよび6匹のWT(+/+)マウスが含まれ、MASP−2(−/−)マウスにおいて血中尿素の統計学的に有意な低下が24時間および48時間において見られた(スチューデントのt検定p<0.05)。これらの知見から、MASP−2活性の阻害が、虚血性損傷が原因の腎臓の損傷からの保護的または治療的な効果を有すると予想され得ることが示唆される。
(実施例27)
この実施例では、マウス心筋虚血/再灌流モデルにおけるMASP−2(−/−)マウスの解析を説明する。
背景/理論的根拠:
マンノース結合レクチン(MBL)は、多岐にわたる炭水化物構造に応答して、免疫複合体とは無関係の様式において補体活性化を開始する循環分子である。これらの構造物は、感染性物質または特に壊死細胞、腫脹細胞もしくはアポトーシス細胞の内部の変化した内在性炭水化物部分の成分であり得る。これらの細胞死の形態は、再灌流された心筋層において生じ、補体の活性化は、虚血が再灌流によって終結するときに存在する境界を越えて損傷を広げ得る。補体の活性化が、心筋の再灌流を悪化させるという有力な証拠が存在するが、そのような活性化の機構は、十分に理解されておらず、すべての公知の経路の阻害が、容認し得ない有害作用を有し得る。最近の研究では、梗塞が、MBL(A/C)ヌルマウスにおいて減少したが、C1qヌルマウスでは減少しなかったので、活性化は、古典経路または副経路の増幅ループ(本発明において定義されるような)ではなくMBLに関与し得ることが示唆されている(Walsh M.C.ら、Jour of Immunol.175:541−546(2005))。しかしながら、これらのマウスは、有望ではあるが、レクチン経路を介して補体を活性化できる循環成分(例えば、フィコリンA)を依然として有する。
この研究では、MASP−2(−/−)は、心筋の虚血および再灌流損傷に対する感受性が低いか否かを決定するために、野生型(+/+)コントロールに対してMASP−2(−/−)マウスを調べた。MASP−2(−/−)マウスを領域性の虚血に供し、そして梗塞のサイズをその野生型同腹仔と比較した。
方法:以下のプロトコルは、Marberら、J.Clin Invest.95:1446−1456(1995))によって先に記載された、虚血/再灌流損傷を誘導するための手順に基づくものであった。
MASP−2(−/−)マウスを、実施例1に記載される通りに作製し、少なくとも10世代にわたってC57Bl/6と戻し交雑させた。7匹のMASP−2(−/−)マウスおよび7匹の野生型(+/+)マウスを、ケタミン/メデトミジン(それぞれ100mg/kgおよび0.2mg/kg)を用いて麻酔し、直腸温度を37±0.3℃に保つために自動温度制御の加温パッド上に仰臥位で配置した。そのマウスを直視下で挿管し、呼吸数110/分および一回換気量225μl/分で室内空気により換気した(Ventilator−Hugo Sachs Elektronic MiniVent Type 845,Germany)。
剃毛し、前外側の皮膚切開を左腋窩から剣状突起まで行った。大胸筋を、切開し、胸骨の縁にて切断し、腋窩に移動させた。小胸筋を、その頭側の縁にて切断し、尾側に移動させた。その後、その筋肉を、冠状動脈閉塞中に心臓を覆う筋肉弁として使用した。第5肋間腔および壁側胸膜の筋肉を、左肺の縁に対してわずかに中央の位置においてピンセットを用いて穿通することにより、肺または心臓の損傷を回避した。胸膜の穿通の後、ピンセットを、心臓に触れることなく慎重に胸骨のほうに胸膜の上に向け、電池式焼灼機(Harvard Apparatus,UK)を用いて胸膜および肋間筋を切開した。いかなる出血も回避するために特に注意した。同じ手法を使用して、腋窩中線まで開胸を延長した。胸骨の縁において第4肋骨を切断することによって、心臓全体が基部から尖まで露出するまで肋間腔を広げた。2つの小さい動脈鉗子を用いて、心膜を開き、心臓がわずかに前に移動するように心臓周囲に離被架を適合させた。左前下行枝(LAD)を露出させ、次いで、丸針を備えた8−0モノフィラメント縫合糸をLADの下に通した。LADの結紮部位は、房室性の稜(atrioventricular crest)から左心室の先端にかけての線に沿って約1/4だけ左心房の先端の尾側である。
すべての実験を盲検様式で行い、研究者は、各動物の遺伝子型を知らなかった。器具使用および外科的手技の終了後、マウスに15分間の平衡時間を与えた。次いで、マウスを30分間の冠状動脈閉塞および120分間の再灌流時間に供した。
冠状動脈閉塞および再灌流モデル
冠状動脈閉塞は、以前に報告されているように(Eckleら、Am J Physiol Heart Circ Physiol 291:H2533−H2540,2006)懸垂加重(hanging weight)系を使用して達成された。モノフィラメント結紮糸の両端をポリテンPE−10管状物の2mm長の片に通し、そしてシアノアクリレート接着剤を用いてある長さの5−0縫合糸に接着させた。次いで、その縫合糸を水平に載せられた2本の可動性金属棒の上に置き、各1gの塊をその縫合糸の両端に接着させた。その棒を持ち上げることによって、その塊が吊され、規定された定圧でLADを閉塞させるように制御された張力のもとで縫合糸が配置した。危険領域(area at
risk)が蒼白になること、すなわち、LAD灌流帯域の色が鮮赤色から紫色に変化し、血流の中断が示唆されることによって、LAD閉塞を確かめた。上記塊が手術パッド上に置かれ、そして結紮糸の張力が解放されるまでその棒を下げることによって、再灌流を達成した。閉塞を確かめるのに使用したのと同じ3つの基準によって再灌流を確かめた。それぞれ冠状動脈閉塞の開始時または再灌流の15分以内に3つすべての基準が満たされない場合は、マウスをさらなる解析から排除した。冠状動脈閉塞中は、心臓を小胸筋弁で覆い、そして0.9%食塩水に湿られたガーゼで開胸を塞ぐことによって、心臓表面の温度および湿度を維持した。
心筋の梗塞サイズの測定:
梗塞サイズ(INF)および危険領域(AAR)をプラノメトリー(planometry)によって測定した。500I.U.ヘパリンをi.v.注射した後、LADを再度閉塞し、300μlの5%(w/vol)Evans Blue(Sigma−Aldrich,Poole,UK)をゆっくりと頸静脈に注射することによって、危険領域(AAR)を明確にした。これは、左心室の非虚血性領域に色素が入ることによって生じ、虚血性AARは染色されないままである。マウスを頸椎脱臼によって安楽死させた後、心臓を迅速に取り出す。その心臓を氷上で冷却し、5%アガロースの塊の上に載せ、次いで、8枚の800μm厚の横断切片に切断する。pH7.4に調節された0.1M Na2HPO4/NaH2PO4緩衝液中に溶解した3%2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム(Sigma Aldrich,Poole,UK)とともに37℃で20分間、すべての切片をインキュベートした。切片を10%ホルムアルデヒド中で一晩固定した。切片を2枚のカバーガラスの間に置き、各切片の側面を、高分解能の光学的スキャナーを用いて、デジタル方式で撮像した。次いで、そのデジタル画像を、SigmaScanソフトウェア(SPSS,US)を用いて解析した。梗塞領域(蒼白色)、左心室(LV)危険領域(赤色)および正常に灌流されていたLV領域(青色)のサイズの概要を、それらの色の外観および色の境界を同定することによって、各切片において概説した。面積を各切片の両側面において数値化し、研究者が平均した。各動物の危険帯域の%として梗塞サイズを計算した。
結果:梗塞領域(蒼白色)、LV危険領域(赤色)および正常に灌流されていたLV帯域(青色)のサイズの概要を、それらの色の外観および色の境界を同定することによって、各切片においてとらえた。面積を各切片の両側面において数値化し、研究者が平均した。各動物の危険帯域の%として梗塞サイズを計算した。図16Aは、上に記載した冠状動脈閉塞および再灌流手法を経験した後の7匹のWT(+/+)マウスおよび7匹のMASP−2(−/−)マウスの梗塞サイズの測定についての評価を示している。図16Aに示される通りに、MASP−2(−/−)マウスは、野生型(+/+)マウスに対して、梗塞サイズの統計学的に有意な減少(p<0.05)を示したことから、虚血再灌流損傷モデルにおける損傷からの保護的な心筋の作用が示唆される。図16Bは、試験された個別の動物の分布を示しており、MASP−2(−/−)マウスに対しての明らかな保護的作用が示唆される。
(実施例28)
この実施例では、マウス黄斑変性症モデルにおけるMASP−2−/−の結果を説明する。
背景/理論的根拠:加齢性黄斑変性症(AMD)は、工業世界において55歳を超えた後の失明の主要な原因である。AMDには、血管新生(滲出型)AMDおよび萎縮性(非滲出型)AMDという2つの主な形態がある。血管新生型(滲出型)は、AMDに関連する重篤な視力喪失の90%を占めるが、AMDを有する個体の約20%だけが滲出型を発症する。AMDの臨床上の顕著な特徴としては、複数のドルーゼン、地図状萎縮および脈絡膜新生血管(CNV)が挙げられる。2004年12月に、FDAは、滲出型(血管新生)のAMDを処置するための、血管内皮成長因子(VEGF)を特異的に標的化し、その作用を遮断する新しいクラスの眼科薬物であるMacugen(ペガプタニブ(pegaptanib))を承認した(Ngら、Nat Rev.Drug Discov 5:123−32(2006))。Macugenは、AMD患者サブグループに対する有望な新しい治療的な選択肢であるが、この複雑な疾患に対するさらなる処置を開発することが急務である。複数の独立した系統の研究が、AMDの病原における補体の活性化に対する中心的な役割を関係付けている。AMDの最も重篤な形態である脈絡膜新生血管(CNV)の病原は、補体経路の活性化に関与し得る。
25年前に、Ryanは、動物におけるCNVのレーザー誘発損傷モデルを報告した(Ryan,S.J.,Tr.Am.Opth.Soc.LXXVII:707−745,1979)。このモデルは、最初にアカゲザルを使用して開発されたが、マウスを含む種々の研究動物において同様のCNVのモデルを開発するために同じ技術が使用された(Tobeら、Am.J.Pathol.153:1641−46,1998)。このモデルでは、CNV様膜の形成をもたらす作用であるレーザー光凝固術を使用して、ブルッフ膜を破壊する。レーザー誘発モデルは、ヒトの状態の重要な特徴の多くを捕らえる(最近の概説については、Ambatiら、Survey Ophthalmology 48:257−293,2003を参照のこと)。このレーザー誘発マウスモデルは、現在、十分に確立されており、大規模かつますます多くの研究プロジェクトにおいて実験的基礎として使用されている。このレーザー誘発モデルは、このモデルを使用した病原および薬物阻害に関する前臨床試験が、ヒトにおけるCNVと関連するのに十分な程度でヒトにおけるCNVと生物学的類似性を共有することが一般に認められている。
方法:
MASP−2−/−マウスを、実施例1に記載される通りに作製し、10世代にわたってC57Bl/6と戻し交雑させた。現在の研究では、MASP−2(−/−)およびMASP−2(+/+)の雄マウスをレーザー誘発CNVの経過において評価するときの結果(組織損傷の尺度として走査型レーザー共焦点顕微鏡によるレーザー誘発CNVの体積に注目した血管新生AMDの加速されたモデル、および、レーザー損傷後の網膜色素上皮(RPE)/脈絡膜における、CNVに関わる強力な血管新生因子であるVEGFのレベルのELISAによる測定)を比較した。
脈絡膜新生血管(CNV)の誘導:レーザー光凝固術(532nm、200mW、100ms、75μm;Oculight GL,Iridex,Mountain View,CA)を、薬物群の割り当てについてマスクされた1人の人物が0日目に各動物の両眼に対して行った。細隙灯送達系およびコンタクトレンズとしてカバーガラスを使用して、視神経の周辺において標準化された様式でレーザースポットを適用した。レーザー損傷の形態的なエンドポイントは、ブルッフ膜の破壊と相関すると考えられている徴候であるキャビテーション気泡の出現であった。詳細な方法および評価したエンドポイントは、以下のとおりである。
フルオレセイン血管造影法:レーザー光凝固術の1週間後に、カメラおよび結像系(TRC 50 1Aカメラ;ImageNet 2.01システム;Topcon,Paramus,NJ)を用いてフルオレセイン血管造影法を行った。0.1mlの2.5%フルオレセインナトリウムを腹腔内注射した後に、眼底カメラレンズと接触した20−Dレンズを用いて写真を捕捉した。レーザー光凝固術または血管造影法に関係のない網膜の専門家が、マスク化様式で単一の着座時間(sitting time)においてそのフルオレセイン血管造影図を評価した。
脈絡膜新生血管(CNV)の体積:レーザー損傷の1週間後に、眼を摘出し、そして4℃で30分間,4%パラホルムアルデヒドを用いて固定した。前側セグメントを除去することによってアイカップを得て、PBS中で3回洗浄した後、メタノール系列に通して脱水および再水和した。室温において30分間、緩衝液(1%ウシ血清アルブミンおよび0.5% TritonX−100を含むPBS)で2回ブロッキングした後、0.2%BSAおよび0.1%TritonX−100を含むPBSで希釈した0.5%FITC−イソレクチンB4(Vector laboratories,Burlingame,CA)(内皮細胞の表面上の末端のβ−D−ガラクトース残基に結合し、マウスの脈管構造を選択的に標識する)とともにアイカップを4℃で一晩インキュベートした。0.1%TritonX−100を含むPBSで2回洗浄した後、感覚神経の網膜を丁寧に剥離し、そして視神経から切断した。4つの弛緩させる放射状の切開を行い、残ったRPE−脈絡膜−強膜複合体を退色防止剤(antifade medium)(Immu−Mount Vectashield Mounting Medium;Vector Laboratories)中に平らに載せ、そしてカバーガラスを載せた。
走査型共焦点レーザー顕微鏡(TCS SP;Leica,Heidelberg,Germany)を用いて平らに載せたものを調べた。青色のアルゴン波長(488nm)で励起させ、そして515〜545nmの発光を捕捉することによって血管を可視化した。すべての撮像研究について、40×油浸対物レンズを使用した。RPE−脈絡膜−強膜複合体の表面から水平な光学切片(1μm段階)を得た。病変に接続されている周囲の脈絡膜の血管網を同定することができる最も深い焦平面を、病変の底であると判断した。この参照平面の表面にある、レーザーが標的化する領域における任意の血管をCNVと判断した。各切片の像をデジタル的に保存した。CNVに関連した蛍光の領域を、顕微鏡ソフトウェア(TCS SP;Leica)を用いて、コンピュータ化された画像解析によって測定した。各水平切片における蛍光の領域全体の総和をCNVの体積についての指標として使用した。処置群の割り当てについてマスクされた操作者が撮像を行った。
CNVを発症する各レーザー病変を起こす確率は、それが属する群(マウス、眼およびレーザースポット)によって影響を受けるので、分割プロット反復測定デザインを用いる線形混合モデルを使用して平均病変体積を比較した。全体のプロット因子は、その動物が属する遺伝群であったのに対し、分割プロット因子は、眼であった。0.05水準で統計的有意性を決定した。多重比較に対するボンフェローニの調整を用いて、平均値の事後比較を構築した。
VEGF ELISA。12個のレーザースポットによる損傷の3日後に、溶解緩衝液(プロテアーゼインヒビターを含む、20mMイミダゾールHCl、10mM KCl、1mM MgCL2、10mM EGTA、1%TritonX−100、10mM NaF、1mMモリブデン酸Naおよび1mM EDTA)中において、氷上で15分間、RPE−脈絡膜複合体を超音波処理した。450〜570nm(Emax;Molecular Devices,Sunnyvale,CA)においてすべてのスプライス改変体を認識するELISAキット(R&D Systems,Minneapolis,MN)によって、上清中のVEGFタンパク質レベルを測定し、そして全タンパク質に対して正規化した。光凝固術、撮像または血管造影法に関係のない操作者が、マスク化様式で2つ組の測定を行った。VEGFの数値を、少なくとも3回の独立した実験の平均値+/−SEMとして表し、マン・ホイットニーU検定を使用して比較した。帰無仮説は、P<0.05において棄却された。
結果:
VEGFレベルの評価:
図17Aは、0日目のC57Bl6野生型マウスおよびMASP−2(−/−)マウスから単離されたRPE−脈絡膜複合体におけるVEGFタンパク質レベルをグラフで図示している。図17Aに示される通りに、VEGFレベルの評価は、C57bl野生型コントロールマウスに対してMASP−2(−/−)マウスにおけるVEGFに対するベースラインレベルの低下を示唆する。図17Bは、レーザー誘発性損傷の3日後に測定されたVEGFタンパク質レベルをグラフで図示している。図17Bに示される通りに、VEGFレベルは、レーザー誘発性損傷の3日後に、野生型(+/+)マウスにおいて有意に上昇し、このことは、公開されている研究(Nozakiら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:2328−33(2006))と一致する。しかしながら、驚いたことに、MASP−2(−/−)マウスにおいて非常に低いレベルのVEGFが見られた。
脈絡膜新生血管(CNV)の評価:
レーザー誘発性黄斑変性症の後のVEGFレベルの低下に加えて、レーザー損傷の前後においてCNV領域を測定した。図18は、レーザー誘発性損傷の7日後にC57bl野生型マウスおよびMASP−2(−/−)マウスにおいて測定されたCNV体積をグラフで図示している。図18に示される通りに、MASP−2(−/−)マウスは、野生型コントロールマウスと比較して、レーザー誘発性損傷の7日後にCNV領域の約30%の減少を示した。
これらの知見から、野生型(+/+)コントロールに対してMASP(−/−)マウスにおいて見られたようなVEGFおよびCNVの減少、ならびに、インヒビターを用いたMASP−2の遮断が黄斑変性症の処置において予防的または治療的な効果を有し得ることが示唆される。
(実施例29)
この実施例では、マウスモノクローナル抗体誘導性関節リウマチモデルにおけるMASP−2(−/−)の結果を説明する。
背景/理論的根拠:関節リウマチ(RA)で最もよく使用される動物モデルは、コラーゲン誘発性関節炎(CIA)である(最近の概説については、Linton and Morgan,Mol.Immunol.36:905−14,1999を参照のこと)。II型コラーゲン(CII)は、関節の基質タンパク質の主な構成要素の1つであり、アジュバント中のネイティブCIIで免疫すると、関節軟骨におけるCIIに対する交差反応性の自己免疫性応答によって自己免疫性の多発性関節炎が誘導される。RAにおいてみられるように、CIAに対する感受性は、ある特定のクラスII MHC対立遺伝子の発現と関連付けられている。C57Bl/6系統を含むマウスのいくつかの系統は、適切なMHCハプロタイプを欠いており、故に、高い抗CII抗体価をもたらさないので、従来のCIAに抵抗性である。しかしながら、II型コラーゲンに対する4つの特異的なモノクローナル抗体の混合物をマウスにi.v.投与またはi.p.投与することによって、すべてのマウスの系統において一貫した関節炎が誘導され得ることが見出されている。これらの関節炎惹起(arthridogenic)モノクローナル抗体は、市販されている(Chondrex,Inc.,Redmond,WA)。CIAのこの受動伝達モデルは、C57Bl/6マウス系統を用いた、多くの最近公開された報告において首尾よく使用されている(Kagariら、J.Immunol.169:1459−66,2002;Katoら、J.Rheumatol.30:247−55,2003;Bandaら、J.Immunol.177:1904−12,2006)。以下の研究では、CIAの受身伝達モデルを使用した関節炎の発症に対する野生型(+/+)(WT)マウスおよびMASP−2(−/−)マウス(両方が、C57Bl/6遺伝的背景を共有する)の感度を比較した。
方法:
動物:MASP−2(−/−)マウスを、実施例1に記載される通りに作製し、10世代にわたってC57Bl/6と戻し交雑させた。抗体注射の時点で7〜8週齢であった14匹の雄および雌のC57BL/6野生型マウス、ならびに、抗体注射の時点で7〜8週齢であった10匹の雄および雌のMASP−2(−/−)および野生型(+/+)のC57Bl/6マウスをこの研究に使用した。20匹のマウスにモノクローナル抗体混合物を注射し、20匹の確かな反応体(10匹の2群)を得た。その動物(10匹/群)を5匹/ケージで収容し、研究を開始する前に5〜7日間順化させた。
0日目および1日目にモノクローナル抗体混合物(Chondrex,Redmond
WA)(5mg)をマウスの静脈内に注射した。その試験薬剤は、モノクローナル抗体+Chondrex製のLPSであった。2日目に、マウスにLPSをip投薬した。0日目、2日目、4日目、6日目、8日目、10日目、12日目および14日目の終了前にマウスの体重を測定した。14日目に、マウスをイソフルランで麻酔し、そして最後に血清を得るために出血させた。血液を回収した後、マウスを安楽死させ、膝を含む前肢と後肢の両方を取り出し、それを今後の処理のためにホルマリン中に入れた。
処置群:
群1(コントロール):系統C57/BL/6 WT(+/+)の4匹のマウス;
群2(試験):系統C57/BL/6 WT(+/+)の10匹のマウス(mAb混合物+LPSが投与された);および
群3(試験):系統C57/BL/MASP−2KO/6Ai(−/−)の10匹のマウス(mAb混合物+LPSが投与された)
以下のスコア付けシステムを用いて、臨床上の関節炎のスコアを毎日評価した:0=正常;1=後足または前足のうちの1つの関節が罹患;2=後足または前足のうちの2つの関節が罹患;3=後足または前足のうちの3つの関節が罹患;4=中等度(紅斑および中等度の腫脹または4つの指関節が罹患);5=重篤(びまん性紅斑および足全体の重篤な腫脹、指を曲げることができない)。
結果:
図19は、2週間までにわたって毎日の臨床上の関節炎スコアの平均値についてプロットした群データを示す。CoL2 MoAb処置を受けなかったコントロール群において臨床上の関節炎スコアは、見られなかった。MASP(−/−)マウスは、9日目〜14日目において、より低い臨床上の関節炎スコアを有した。曲線下面積解析(AUC)による臨床上の関節炎スコア全体は、MASP−2(−/−)群において、WT(+/+)マウスに対して21%の減少を示した。しかしながら、先に述べたようなC57Bl6マウスのバックグラウンドは、全体的に頑健な関節炎臨床スコアをもたらさなかった。発生率が低く、群のサイズが小さいことに起因して、もたらされたデータは、正の傾向を示したが、僅かな傾向を示すだけで(p=0.1)、p<0.05レベルにおいて統計学的に有意ではなかった。統計的有意性を示すためには、処置群のさらなる動物が必要であった。関節炎の発生率が低かったので、罹患した足のスコアを重症度に対して評価した。3より大きい臨床上の関節炎スコアの単一発生は、MASP−2(−/−)マウスのいずれにおいても見られなかったが、WT(+/+)マウスの30%に見られたことから、(1)関節炎の重症度が、補体経路の活性化に関連し得ること、および(2)MASP−2の遮断によって、関節炎における有益な効果がもたらされ得ることがさらに示唆される。
(実施例30)
この実施例では、低分子マンノース結合レクチン関連タンパク質(Map 19またはsMAP)が、MASP−2依存性の補体活性化のインヒビターであることを説明する。
背景/理論的根拠:
要約:
マンノース結合レクチン(MBL)およびフィコリンは、先天免疫において作用するパターン認識タンパク質であり、MBL関連セリンプロテアーゼ(MASP)を介してレクチン補体経路の活性化を引き起こす。レクチン経路の活性化の際に、MASP−2は、C4およびC2を切断する。MASP−2の切断型である低分子MBL関連タンパク質(sMAP)は、MBL/フィコリン−MASP複合体とも関連する。sMAPの役割を明らかにするために、本発明者らは、sMAP特異的エキソンの標的破壊によってsMAP欠損(sMAP−/−)マウスを作製した。遺伝子破壊に起因して、MASP−2の発現レベルは、sMAP−/−マウスにおいて低下した。組換えsMAP(rsMAP)および組換えMASP−2(rMASP−2)が、欠損血清中でMBL−MASP−sMAP複合体を再構成するとき、MBLに対するこれらの組換え体の結合性は、競合し、そしてrMASP−2を加えることによってMBL−MASP−sMAP複合体のC4切断活性が回復したのに対し、rsMAPを加えることによってその活性は減弱した。したがって、C4およびsMAPの活性化にとって不可欠であるMASP−2は、レクチン経路の活性化において調節性の役割を果たす。
導入:
補体系は、タンパク質複合体のタンパク質分解および構築の連鎖反応を媒介し、先天免疫系と適応性免疫系の両方の一部として生体防御において主要な役割を果たしている。哺乳動物の補体系は、3つの活性化経路、すなわち、古典経路、副経路およびレクチン経路からなる(Fujita,Nat.Rev.Immunol.2:346−353(2002);Walport,N Engl J Med 344:1058−1066(2001))。レクチン経路は、侵入病原体に対する防御の主要な第1線を提供する。この経路の病原体認識成分であるマンノース結合レクチン(MBL)およびフィコリンは、細菌、ウイルスおよび寄生生物の表面上の炭水化物の配列に結合し、MBL関連血清プロテアーゼ(MASP)を活性化することにより、下流の反応カスケードを誘発する。先天性の免疫防御に対するレクチン経路の重要性は、MBL欠損と、特に適応性免疫系が確立される前の幼児期において種々の感染症に対する高い感受性とを関連づける多くの臨床研究によって強調されている(Jackら、Immunol Rev 180:86−99(2001);Nethら、Infect Immun 68:688−693(2000);Summerfieldら、Lancet 345:886−889(1995);Superら、Lancet 2:1236−1239(1989))。しかしながら、レクチン経路は、心臓および腎臓における虚血/灌流損傷を含む多くの病理学的な状態における炎症および組織の損傷に関与する補体の望ましくない活性化にも関与する(de Vriesら、Am J Pathol 165:1677−1688(2004);Fianeら、Circulation 108:849−856(2003);Jordanら、Circulation 104:1413−1418(2001);Walshら、J Immunol 175:541−546(2005))。
上で述べたように、レクチン経路は、MBLおよびフィコリンによる炭水化物認識を含み(Fujitaら、Immunol Rev 198:185−202(2004);Holmskovら、Annu Rev Immunol 21:547−578(2003);Matsushita and Fujita,Immunobiology 205:490−497(2002))、そして、これらのレクチンは、MASP−1(Matsushita and Fujita,J Exp Med 176:1497−1502(1992);Satoら、Int Immunol 6:665−669(1994);Takadaら、Biochem Biophys Res Commun 196:1003−1009(1993))、MASP−2(Thielら、Nature 386:506−510(1997))、MASP−3(Dahlら、Immunity 15:127−135(2001))およびMASP−2の切断型タンパク質(低分子MBL関連タンパク質;sMAPまたはMAp19)(Stoverら、J Immunol 162:3481−3490(1999);Takahashiら、Int Immunol 11:8590863(1999))と複合体を形成する。MASPファミリーメンバーは、6つのドメイン;2つのC1r/C1s/Uegf/骨形態形成タンパク質(CUB)ドメイン、上皮成長因子(EGF)様ドメイン、2つの補体制御タンパク質(CCP)ドメインまたは短いコンセンサスリピート(SCR)ドメインおよびセリンプロテアーゼドメインからなる(Matsushitaら、Curr Opin Immunol 10:29−35(1998))。MASP−2およびsMAPは、単一の構造遺伝子から選択的スプライシングによって生成され、sMAPは、第1のCUB(CUB1)ドメイン、EGF様ドメインおよびsMAP特異的エキソンによってコードされるC末端における追加の4アミノ酸からなる。MASP−1およびMASP−3もまた、単一遺伝子から選択的スプライシングによって生成される(Schwaebleら、Immunobiology 205:455−466(2002))。MBLおよびフィコリンが、微生物の表面上の炭水化物に結合すると、MASPのプロ酵素型が、第2のCCPとプロテアーゼドメインとの間で切断され、重鎖(H)および軽鎖(L)と呼ばれる2つのポリペプチドからなる活性型が生じ、補体成分に対するタンパク分解活性を獲得する。MASP−2が、C4およびC2を切断し(Matsushitaら、J.Immunol 165:2637−2642(2000))、それによってC3コンバターゼ(C4bC2a)の形成がもたらされることを、蓄積された証拠は示している。本発明者らは、MASP−1が、C3を直接切断し、続いて増幅ループを活性化すると提案した(Matsushita and Fujita,Immunobiology 194:443−448(1995))が、この機能は、議論の余地がある(Ambrusら、J.Immunol 170:1374−1382(2003))。MASP−3も、L鎖においてセリンプロテアーゼドメインを含み、合成の基質に対してタンパク分解活性を示す(Zundelら、J Immunol 172:4342−4350(2004))が、その生理学的基質は、同定されていない。セリンプロテアーゼドメインを有しないsMAPの機能は、不明なままである。
本研究では、補体レクチン経路の活性化におけるsMAPの役割を明らかにするために、本発明者らは、sMAPのC末端において4アミノ酸残基(EQSL)をコードするsMAP特異的エキソンを破壊し、そしてsMAP−/−マウスを作製した。本発明者らは、ここで、sMAPがレクチン経路の活性化をダウンレギュレートする能力を初めて報告する。
材料および方法
マウス
129/SvマウスMASP−2遺伝子のエキソン1〜4およびエキソン6の一部ならびにエキソン5の代わりにネオマイシン耐性遺伝子カセットを含む標的化ベクターを構築した(図20A)。このベクターの3’末端にDT−A遺伝子を挿入し、後でネオマイシンカセットおよびプロモーター領域を除去するために3つのlox p部位を挿入することにより、条件的な標的化を行った。この標的化ベクターを129/Sv ES細胞にエレクトロポレーションした。標的化されたESクローンをC57BL/6J胚盤胞にマイクロインジェクションし、それを子宮に移植し、ICR母体を育成した。雄キメラマウスを雌C57BL/6Jマウスと交雑させて、ヘテロ接合性(+/−)マウスを産生した。図20Aに示されるプローブを用いた、BamHIで消化したテイルDNAのサザンブロット解析によって、ヘテロ接合性(+/−)マウスをスクリーニングした。サザンブロット解析は、ヘテロ接合性(+/−)マウス由来のDNAにおいて6.5kbpおよび11kbpのバンドを示した(図20B)。ヘテロ接合性(+/−)マウスをC57BL/6Jマウスと戻し交雑させた。ホモ接合性(−/−)マウスを得るために、ヘテロ接合性(+/−)マウスを相互に交雑させた。テイルDNAのPCRベースの遺伝子型分類(genotyping)によって、ホモ接合性(−/−)マウス(C57BL/6Jバックグラウンド)を同定した。エキソン4特異的センスプライマーおよびneo遺伝子特異的センスプライマーの混合物ならびにエキソン6特異的アンチセンスプライマーを使用して、PCR解析を行った。ホモ接合性(−/−)マウス由来のDNAにおいて、単一の1.8kbpバンドが得られた(図20C)。すべての実験において、福島県立医科大学の動物実験の指針に従って8〜12週齢のマウスを使用した。
ノーザンブロット解析
野生型(+/+)マウスおよびホモ接合性(−/−)マウスの肝臓由来のポリ(A)+RNA(1μg)を電気泳動により分離し、ナイロン膜に転写し、そして、sMAP、MASP−2 H鎖、MASP−2 L鎖またはneo遺伝子に特異的な32P標識cDNAプローブとハイブリダイズさせた。その同じ膜をストリップし、そしてグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)に特異的なプローブと再度ハイブリダイズさせた。
定量的RT−PCR
LightCycler System(Roche Diagnostics)を用いてリアルタイムPCRを行った。野生型(+/+)マウスおよびホモ接合性(−/−)マウスの肝臓由来の60ngのポリ(A)+RNAから合成されたcDNAを、リアルタイムPCRの鋳型として使用し、そしてMASP−2 H鎖およびMASP−2 L鎖およびsMAPのcDNAフラグメントを増幅し、モニターした。
免疫ブロット法
そのサンプルを10%または12%のSDS−ポリアクリルアミドゲルにおいて還元性条件下で電気泳動し、そしてタンパク質をポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜に転写した。その膜上のタンパク質を、MASP−1のL鎖に対して産生された抗MASP−1抗血清またはMASP−2のH鎖由来のペプチドに対して産生された抗MASP−2/sMAP抗血清を用いて検出した。
MBL−MASP−sMAP複合体におけるMASPおよびsMAPの検出
0.1%(w/v)BSA(TBS−Ca2+/BSA)を含む480μlのTBS−Ca2+緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.4)、0.15M NaClおよび5mM CaC12)にマウス血清(20μl)を加え、TBS−Ca2+/BSA緩衝液中の40μlの50%マンナン−アガロースゲルスラリー(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)とともに4℃で30分間インキュベートした。インキュベートした後、各ゲルをTBS−Ca2+緩衝液で洗浄し、SDS−PAGE用のサンプリング緩衝液をそのゲルに加えた。そのゲルを煮沸し、上清をSDS−PAGEに供し、その後、免疫ブロット法を行って、MBL複合体中のMASP−1、MASP−2およびsMAPを検出した。
C4沈着アッセイ
マウス血清を、TBS−Ca2+/BSA緩衝液を用いて100μlまで希釈した。その希釈サンプルをマンナンでコーティングされたマイクロタイターウェルに加え、室温で30分間インキュベートした。そのウェルを、冷却した洗浄緩衝液(0.05%(v/v)Tween 20を含むTBS−Ca2+緩衝液)で洗浄した。洗浄後、ヒトC4を各ウェルに加え、氷上で30分間インキュベートした。そのウェルを、冷却した洗浄緩衝液で洗浄し、そしてHRP結合体化抗ヒトC4ポリクローナル抗体(Biogenesis,Poole,England)を各ウェルに加えた。37℃で30分間インキュベートした後、そのウェルを洗浄緩衝液で洗浄し、そして3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)溶液を各ウェルに加えた。現像後、1M H3PO4を加えて、450nmにおける吸光度を測定した。
C3沈着アッセイ
マウス血清を、0.1%(w/v)HSAを含むBBS緩衝液(4mMバルビタール、145mM NaCl、2mM CaC12および1mM MgC12,pH7.4)を用いて100μlまで希釈した。その希釈サンプルをマンナンでコーティングされたマイクロタイターウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした。そのウェルを洗浄緩衝液で洗浄した。洗浄後、HRP結合体化抗ヒトC3cポリクローナル抗体(Dako,Glostrup,Denmark)を各ウェルに加えた。室温で1時間インキュベートした後、そのウェルを洗浄緩衝液で洗浄し、TMB溶液を各ウェルに加えた。上に記載した通りに、色を測定した。
組換え体
組換えマウスsMAP(rsMAP)、rMASP−2およびセリンプロテアーゼドメインにおける活性部位のセリン残基がアラニン残基で置換されている不活性なマウスMASP−2変異体(MASP−2i)を、先に記載されている(Iwaki and Fujita,2005)ように調製した。
MBL−MASP−sMAP複合体の再構成
ホモ接合性(−/−)マウス血清(20μl)ならびに様々な量のMASP−2iおよび/またはrsMAPを、TBS−Ca2+緩衝液中で総容積40μlにおいて、氷上で一晩インキュベートした。その混合物をマンナン−アガロースゲルスラリーとインキュベートし、そしてゲルに結合しているMBL−MASP複合体におけるMASP−2iおよびrsMAPを、「Detection of MASPs and sMAP in the MBL−MASP−sMAP complex」に記載されている通りに検出した。
C4沈着活性の再構成
ホモ接合性(−/−)マウス血清(0.5μl)ならびに様々な量のrMASP−2および/またはrsMAPを、TBS−Ca2+中で総容積20μlにおいて、氷上で一晩インキュベートした。その混合物を80μlのTBS−Ca2+/BSA緩衝液で希釈し、マンナンコーティングされたウェルに加えた。この後のすべての手順は、「C4沈着アッセイ」に記載した通りに行った。
結果
図20:sMAP遺伝子の標的破壊。(A)MASP−2/sMAP遺伝子、標的化ベクターおよび標的化された対立遺伝子の部分的な制限酵素地図。sMAP特異的エキソン(エキソン5)をneo遺伝子カセットで置換した。(B)雄キメラマウスを雌C57BL/6Jマウスと交雑させることによって得られた子孫由来のゲノムDNAのサザンブロット解析。テイルDNAをBamHIで消化し、(A)に示されたプローブとハイブリダイズさせた。野生型対立遺伝子から11kbpのバンドが得られ、標的化された対立遺伝子から6.5kbpのバンドが得られた。(C)PCR遺伝子型分類解析。エキソン4特異的センスプライマーおよびneo遺伝子特異的センスプライマーの混合物ならびにエキソン6特異的アンチセンスプライマーを使用して、テイルDNAを解析した。野生型対立遺伝子からは2.5kbpのバンドが得られ、標的化された対立遺伝子からは1.8kbのバンドが得られた。
図21:ホモ接合性(−/−)マウスにおけるsMAPおよびMASP−2のmRNAの発現。(A)ノーザンブロット解析。野生型(+/+)マウスおよびホモ接合性(−/−)マウスの肝臓由来のポリ(A)+RNAを電気泳動し、ナイロン膜に転写し、そしてsMAP、MASP−2 H鎖、MASP−2 L鎖またはneo遺伝子に特異的な32P標識プローブとハイブリダイズさせた。ホモ接合性(−/−)マウスにおいてneoに特異的なバンド(2.2kb)が観察された。(B)定量的RT−PCR。MASP−2
H鎖およびMASP−2 L鎖およびsMAPのcDNAフラグメントを、LightCycler装置(Roche Diagnostics)において、リアルタイムPCRによって増幅した。野生型(+/+)マウスおよびホモ接合性(−/−)マウスの肝臓由来のポリ(A)+RNAから合成されたcDNAを鋳型として使用した。示されているデータは、2回の実験の平均値である。
図22:ホモ接合性(−/−)マウス血清におけるMASP−2の欠損。(A)マウス血清におけるMASP−2およびsMAPの免疫ブロット法。野生型(+/+)マウス血清またはホモ接合性(−/−)マウス血清(2μl)を免疫ブロット法に供し、抗MASP−2/sMAP抗血清を用いて検出した。(B)MBL−MASP−sMAP複合体におけるMASPおよびsMAPの検出。マウス血清をマンナン−アガロースゲルとともにインキュベートし、そしてゲルに結合したMBL複合体におけるsMAP、MASP−1およびMASP−2を、材料および方法に記載した通りに検出した。
図23:ホモ接合性(−/−)マウス血清におけるC4およびC3の切断の減少。(A)マンナンコーティングされたウェル上でのC4の沈着。マウス血清を2倍希釈し、マンナンコーティングされたウェル中において、室温で30分間インキュベートした。ウェルを洗浄した後、ヒトC4を各ウェルに加え、氷上で30分間インキュベートした。HRP結合体化抗ヒトC4ポリクローナル抗体を使用して、ウェル上に沈着したヒトC4の量を測定した。(B)マンナンコーティングされたウェル上でのC3の沈着。希釈されたマウス血清をマンナンコーティングされたウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした。ウェル上での内在性C3の沈着を、HRP結合体化抗ヒトC3cポリクローナル抗体を用いて検出した。
図24:MBLに対するsMAPおよびMASP−2の競合的結合。(A)ホモ接合性(−/−)マウス血清中でのMBL−MASP−sMAP複合体の再構成。MASP−2iおよび/またはrsMAP(4μg)をホモ接合性(−/−)マウス血清(20μl)とインキュベートした。その混合物をマンナン−アガロースゲルとさらにインキュベートし、そのゲルに結合しているその画分中のrsMAPおよびMASP−2iを免疫ブロット法によって検出した。(B)様々な量のMASP−2i(0〜5μg)および一定量のrsMAP(5μg)をホモ接合性(−/−)マウス血清(20μl)とインキュベートし、マンナン−アガロースゲルとさらにインキュベートした。(C)一定量のMASP−2i(0.5μg)および様々な量のrsMAP(0〜20μg)をホモ接合性(−/−)マウス血清(20μl)とインキュベートした。(D)様々な量のrsMAP(0〜20μg)を野生型(+/+)マウス血清(20μl)とインキュベートした。
図25:rMASP−2の添加によるC4沈着活性の回復。様々な量のrsMAP(0〜5μg)(A)またはrMASP−2(0〜1.5μg)(B)を、TBS−Ca2+緩衝液中で総容積20μlにおいて0.5μlのホモ接合性(−/−)マウス血清と氷上で一晩インキュベートした。次いで、その混合物を80μlのTBS−Ca2+/BSA緩衝液で希釈し、マンナンコーティングされたウェルに加え、そして、ウェル上に沈着したC4の量を測定した。
図26:sMAPの添加によるC4沈着活性の低下。(A)rMASP−2(1μg)および様々な量のrsMAP(0〜0.5μg)を0.5μlのホモ接合性(−/−)マウス血清とインキュベートした。その混合物をマンナンコーティングされたウェルに加え、ウェル上に沈着したC4の量を測定した。(B)rsMAP(0〜0.7μg)を野生型血清(0.5μl)とインキュベートし、マンナンコーティングされたウェル上に沈着したC4の量を測定した。
結果:
ホモ接合性(−/−)マウスにおけるsMAPおよびMASP−2の発現
インビボにおけるsMAPの役割を明らかにするために、本発明者らは、sMAPを欠く標的化されたマウスの遺伝子を確立した。標的化ベクターを、sMAP(エキソン5)に特異的なエキソンをネオマイシン耐性遺伝子カセットで置換するために構築した(図20A)。陽性ESクローンをC57BL/6胚盤胞に注入し、創始者キメラをC57BL/6J雌と繁殖させた。アグーチ色の仔由来のテイルDNAのサザンブロット解析は、標的化された対立遺伝子の胚の伝達を示した(図20B)。図20Aに示されるプローブを使用した、BamHIで消化されたテイルDNAのサザンブロット解析によって、ヘテロ接合性(+/−)マウスをスクリーニングした。サザンブロット解析は、ヘテロ接合性(+/−)マウス由来のDNAにおいて6.5kbpおよび11kbpのバンドを示した(図20B)。ヘテロ接合性(+/−)マウスをC57BL/6Jマウスと戻し交雑させた。ホモ接合性(−/−)マウスを得るために、ヘテロ接合性(+/−)マウスを相互交雑させた。テイルDNAのPCRベースの遺伝子型分類によって、単一の1.8kbpのバンドをもたらすホモ接合性(−/−)マウス(C57BL/6Jバックグラウンド)を同定した(図20C)。
ホモ接合性(−/−)マウスは、正常に発達し、野生型(+/+)マウスと体重の有意差は示さなかった。それらの間で形態学的な差はなかった。ノーザンブロット解析において、sMAPに特異的なプローブが、野生型(+/+)マウスにおいて単一の0.9kbのバンドを検出したのに対し、ホモ接合性(−/−)マウスでは、特異的なバンドは検出されなかった(図21A)。MASP−2 H鎖またはMASP−2 L鎖に特異的なプローブを使用するとき、先に報告されているように(Stoverら、1999)、野生型(+/+)マウスにおいていくつかの特異的なバンドが検出され、H鎖特異的プローブはまた、sMAP特異的なバンドを検出した。しかしながら、ホモ接合性(−/−)マウスでは、対応するバンドは、非常に弱く、いくつかの余分なバンドが検出された。本発明者らは、sMAPおよびMASP−2のmRNAの発現レベルを確認するために定量的RT−PCR解析も行った。ホモ接合性(−/−)マウスでは、sMAP mRNAの発現は、完全に無くなっており、MASP−2の発現もまた、顕著に減少していた:それは、リアルタイムPCRにより、H鎖およびL鎖の両方において野生型(+/+)マウスの発現の約2%と定量化された(図21B)。さらに、本発明者らは、MASP−2の発現をタンパク質レベルで調べた。免疫ブロット法(図22A)によって、sMAPおよびMASP−2の両方が、ホモ接合性(−/−)マウス血清において検出不可能であった。ホモ接合性(−/−)マウス血清をマンナン−アガロースゲルとインキュベートした後、ゲルに結合した画分中においてsMAPおよびMASP−2の両方が検出不可能であったが、MASP−1は、その複合体において検出された(図22B)。
ホモ接合性(−/−)マウス血清におけるレクチン経路を介したC4およびC3の切断活性
マンナンコーティングされたウェルにおいてホモ接合性(−/−)マウス血清をインキュベートするとき、そのウェル上に沈着したヒトC4の量は、1/400〜1/50の範囲の希釈において、正常な血清中における量の約20%であった(図23A)。本発明者らは、ホモ接合性(−/−)マウス血清におけるレクチン経路のC3沈着活性も調べた。マウス血清をマンナンコーティングされたウェルに加え、そのウェル上に沈着した内在性C3の量を測定した。その量は、欠損血清において減少しており、1/10の希釈において正常な血清における量の21%であった(図23B)。
ホモ接合性(−/−)マウス血清におけるMBL−MASP−sMAP複合体の再構成
組換えマウスsMAP(rsMAP)または不活性なマウスMASP−2変異体(MASP−2i)をホモ接合性(−/−)マウス血清に加えるとき、両方の組換え体が、MBLに結合することができた(図24A,レーン3および4)。rsMAPおよびMASP−2iを上記血清と同時にインキュベートするとき(図24A、レーン5)、両方の組換え体がMBL−MASP−sMAP複合体において検出された。しかしながら、その複合体に結合したsMAPの量は、rsMAPのみをその血清とインキュベートしたときの量よりも少なかった。次いで、本発明者らは、MBLに対するsMAPおよびMASP−2の競合的結合性をさらに調査した。一定量のrsMAPおよび様々な量のMASP−2iを欠損血清に加えた。rsMAPの結合性は、MASP−2iの量が増えるにつれて用量依存的様式で低下した(図24B)。逆に、MBLに結合したMASP−2iの量は、rsMAPを加えることによって減少した(図24C)。rsMAPを野生型血清に加えるとき、MBLに対する内在性sMAPとMASP−2の両方の結合性は、用量依存的様式で低下した(図24D)。
ホモ接合性(−/−)マウス血清におけるC4沈着活性の再構成
本発明者らは、組換え体を使用して、マンナンコーティングされたウェル上でC4の沈着の再構成実験を行った。rsMAPを欠損血清に加えるとき、沈着したC4の量は、実際に用量依存的様式で基礎的なレベルまで減少した(図25A)。rMASP−2を上記血清に加えるとき、C4の量は、用量依存的様式で野生型血清の量の46%まで回復し、プラトーに達した(図25B)。次に、本発明者らは、C4沈着に対するsMAPの効果を調査した。一定量のrMASP−2および様々な量のrsMAPを欠損血清に加えるとき、沈着したC4の量は、用量依存的様式でrsMAPの添加によって減少し(図26A)、野生型血清にrsMAPを加えることによっても、沈着するC4の量が減少した(図26B)ことから、sMAPが、レクチン経路の活性化において調節性の役割を果たすことが示唆される。
考察
本発明者らは、sMAP特異的エキソンの標的破壊によってsMAP−/−マウスを作製した。これらのマウスにおいては、MASP−2の発現レベルも、mRNAレベルとタンパク質レベルの両方において極度に減少した(図21および22)。MASP−2プローブを用いたノーザンブロット解析では、sMAP−/−マウス由来のポリ(A)+RNAにおいて余分なバンドのみが示されたことから、MASP−2遺伝子の正常なスプライシングが、sMAP遺伝子の標的化によって変化し、したがって、MASP−2の発現レベルが著明に低下することが示唆された。結果として、欠損血清中のMBL−MASP複合体によるC4の切断は、正常な血清における切断と比べて80%減少した(図23A)。再構成実験では、rMASP−2を加えることによってC4切断活性が回復したが、rsMAPを加えても回復しなかった(図25)。欠損血清中で観察されたC4の沈着の減少は、MBL−MASP複合体におけるMASP−2の欠損が原因であるはずである(図22B)。したがって、MASP−2が、MBL−MASP複合体によるC4の活性化に不可欠であることが明らかである。しかしながら、rMASP−2を加えても切断活性は完全に回復せず、C4の沈着は、プラトーに達した。以前に報告されているように(Csehら、J Immunol 169:5735−5743(2002);Iwaki and Fujita,J Endotoxin Res 11:47−50(2005))、ほとんどのrMASP−2は、精製手順中に自己活性化によって活性型に変換され、いくつかは、そのプロテアーゼ活性を喪失していた。MASP−2の活性な状態または不活性な状態が、MBLとの会合に有意な影響を有しないので(Zundelら、J Immunol 172:4342−4350(2004))、そのプロテアーゼ活性を喪失したrMASP−2は、MBLに結合し、活性型の会合を競合的に妨害することによって、C4沈着の不完全な回復をもたらすことがあり得る。欠損血清では、レクチン経路のC3切断活性も減弱した(図23B)。沈着したC3の量の低下は、おそらく、MASP−2によって生成されるC4bおよびC2aフラグメントからなるC3コンバターゼの非常に低い活性レベルに起因するものである。
MASPおよびsMAPは、各々、ホモ二量体として会合し、それらのN末端のCUBドメインおよびEGF様ドメインを介してMBLまたはL−フィコリンと複合体を形成した(Chen and Wallis,J Biol Chem 276:25894−25902(2001);Csehら、J Immunol 169:5735−5743(2002);Thielensら、J Immunol 166:5068−5077(2001);Zundelら、J Immunol 172:4342−4350(2004))。sMAPおよびMASP−2のCUB1−EGF−CUB2セグメントの結晶構造によって、それらのホモ二量体構造が明らかになっている(Feinbergら、EMBO J 22:2348−2359(2003);Gregoryら、J Biol Chem 278:32157−32164(2003))。MBLのコラーゲン様ドメインは、MASPとの会合に関与し(Wallis and Cheng,J Immunol 163:4953−4959(1999);Wallis and Drickamer,J Biol Chem 279:14065−14073(1999))、また、そのドメインに導入されるいくつかの変異によって、MASP−1およびMASP−2のCUB1−EGF−CUB2セグメントに対するMBLの結合性が低下した(Wallis and Dodd,J Biol Chem 275:30962−30969(2000))。MASP−2およびMASP−1/3に対する結合部位は、重複しているが、同一ではない(Wallisら、J Biol Chem 279:14065−13073(2004))。MBLのsMAP結合部位は、まだ同定されていないが、sMAPおよびMASP−2においてCUB1−EGF領域が同じであるので、sMAPおよびMASP−2に対する結合部位は、おそらく同一である。従って、sMAPおよびMASP−2が、MBL−MASP−sMAP複合体の再構成において、MBLに結合するのに互いに競合することは、妥当なことである(図24)。MBLに対するsMAPの親和性は、MASP−2の親和性よりも低い(Csehら、J Immunol 169:5735−5743(2002);Thielensら、J Immunol 166:5068−5077(2001))。マウス血清中のsMAPの濃度は、測定されていない。しかしながら、図22Aに示される通りに、野生型血清中のsMAPの量は、MASP−2の量よりもかなり多い。ゆえに、sMAPは、MASP−2/sMAP結合部位を占領することができ、また、MASP−2がMBLと結合するのを妨害でき、その結果として、MBL−MASP複合体のC4切断活性が、低下する。レクチン経路におけるsMAPの調節機構は、まだ研究されていない。sMAPが、その調節性の役割を果たすのが補体の活性化の前なのか後なのかは、未だ不明である。sMAPは、微生物の感染の前のMBL−MASP複合体の偶然の活性化を妨害し得るか、または、活性化された後のレクチン経路の過剰な活性化を抑制し得る。レクチン経路には、別の潜在的な制御因子が存在する。MASP−3も、MBLへの結合におけるMASP−2の競合相手であり、MASP−2のC4およびC2切断活性をダウンレギュレートする(Dahlら、Immunity 15:127−135(2001))。sMAPとMASP−3との相互作用は、研究されていないが、それらが協同的にレクチン経路の活性化をダウンレギュレートすることが可能であることはあり得ることである。
この報告において、本発明者らは、sMAPとMASP−2とが、MBLへの結合に対して競合し、sMAPが、MBL−MASP複合体によって活性化されるレクチン経路をダウンレギュレートする能力を有することを証明した。sMAPが、フィコリン−MASP複合体によって活性化されるレクチン経路の他の経路も制御することは、妥当なことである。MASP−2およびsMAPは、マウスフィコリンAへの結合に対しても競合し、そして、フィコリンA−MASP複合体のC4切断活性をダウンレギュレートする(Y Endoら、出版準備中)。MBLヌルマウスの研究が、最近報告された(Shiら、J
Exp Med 199:1379−1390(2004))。MBLヌルマウスは、MBLレクチン経路においてC4切断活性を有さず、Staphylococcus aureus感染に対して感受性である。本研究において、MASP−2も欠損しているsMAP−/−マウスは、レクチン経路におけるC4切断活性に加えて、C3切断活性の低下を示した。それらのオプソニン化活性が損なわれるために、sMAP欠損マウスは、細菌感染に対して感受性であり得る。sMAP欠損マウスのさらなる研究によって、感染症に対する保護におけるレクチン経路の機能が明らかになるだろう。
別の重要な知見は、rsMAPを正常な血清に加えることによって、C4の活性化が低下することである(図26B)。レクチン経路は、いくつかの臓器において炎症および組織の損傷を制御するとも証明されている(de Vriesら、Am J Pathol
165:1677−1688(2004);Fianeら、Circulation 108:849−856(2003);Jordanら、Circulation 104:1413−1418(2001);Walshら、J Immunol 175:541−546(2005))。胸部腹部大動脈瘤に対する処置を経験しているMBL欠損患者では、補体は、活性化されず、炎症促進性マーカーのレベルは、外科術後に低下した(Fianeら、Circulation 108:849−856(2003))。蓄積された証拠が、種々の血管床における虚血および再灌流の状態中のMBLの潜在的な病態生理学的役割を証明している。ゆえに、MBLの特異的な遮断またはレクチン補体経路の阻害は、虚血/灌流関連損傷を予防するための、治療的に関連があるストラテジーであり得る。従って、sMAPが、レクチン経路の活性化を減弱させるものとして作用するので、sMAPは、そのようなインヒビターの候補の1つであり得る。
(実施例31)
この実施例では、MASP−2が、C3のC4バイパス活性化に関与することを説明する。
背景/理論的根拠:最近、副経路の阻害によって、虚血性急性不全から腎臓が保護されることが証明された(Thurmanら、J.Immunol 170:1517−1523(2003))。本明細書中に記載されるデータは、レクチン経路が、副経路の活性化を指示し、その後、補体の活性化を相乗的に増幅することを意味している。本発明者らは、レクチン経路の一過性の阻害によっても、副経路の活性化が影響を受け得るので、補体媒介性の移植片の損傷および炎症を制限すると、臓器移植において長期間にわたる結果が改善され、また、移植片に対する適応性免疫応答の望まれない誘導が緩和され得、そして適応性免疫系を介する2次的な移植片拒絶のリスクが低下し得るという仮説を立てている。このことは、遺伝性MBL欠損(ヒト集団の約30%に存在する)から生じる、レクチン経路の部分的な障害が、ヒトにおける腎臓の同種移植片の生存時間の延長に関与することを示す最近の臨床データによって支持されている(Berger,Am J Transplant 5:1361−1366(2005))。
虚血−再灌流(I/R)損傷における補体成分C3およびC4の関与は、遺伝子標的化マウス系統を用いる一過性の腸管および筋肉の虚血モデルにおいて十分に確立されたものである(Weiserら、J Exp Med 183:2342−2348(1996);Williamsら、J Appl Physiol 86:938−42,(1999))。C3が、腎臓のI/R損傷および2次的な移植片拒絶において顕著な役割を有することは、十分確立されたことである(Zhouら、J Clin Invest 105:1363−1371(2000);Prattら、Nat Med 8:582−587(2002);Farrarら、Am J.Pathol 164:133−141(2004))。ゆえに、C4欠損に対する表現型が、マウス腎臓同種移植片拒絶の公開されたモデルにおいて観察されなかったことは、驚くべきことであった(Lin,2005 印刷中)。しかしながら、これらのC4欠損マウスの血清および血漿のその後の解析から、これらのマウスが、残留した機能活性を保持しており、それによって、C3のLP依存性切断およびさらに下流の補体の活性化が示されることが示唆された(図27Cを参照のこと)。
機能的なC4バイパス(およびC2バイパス)の存在は、数人の研究者によって以前に報告された(しかし、完全には特徴付けられていない)現象であり(Millerら、Proc Natl Acad Sci 72:418−22(1975);Knutzen Steuerら、J Immunol 143(7):2256−61(1989);Wagnerら、J Immunol 163:3549−3558(1999))、C4(およびC2)欠損血清中で副経路とは無関係のC3代謝と関連する。
方法:C3沈着に対するレクチン経路および古典経路の作用。マウス血漿(抗凝血剤としてEGTA/Mg2+を含む)を希釈し、4.0mMバルビタール、145mM NaCl、2.0mM CaCl2、1.0mM MgCl2,pH7.4中で再石灰化し、次いで、マンナン(図27Aおよび27Cに示される通りに)またはザイモサン(図27Bに示される通りに)でコーティングされたマイクロタイタープレートに加え、そして、37℃で90分間インキュベートした。そのプレートを10mM Tris−Cl、140mM NaCl、5.0mM CaCl2、0.05% Tween 20,pH7.4で3回洗浄し、次いで、抗マウスC3c抗体を使用して、C3b沈着を測定した。
結果:図27A〜Cに示される結果は、3回の独立した実験の代表例である。マンナンまたはザイモサンの代わりに免疫グロブリン複合体でコーティングされたウェルにおいて同じ血清を使用するとき、WT(+/+)マウス血清およびプールされたMASP−2(−/−)血清においてC3b沈着およびB因子切断が見られるが、C1q枯渇血清においては見られない(データ示さず)。このことは、最初のC3bがCP活性を介して提供されるとき、副経路の活性化がMASP−2−/−血清中で回復され得ることを示唆している。図27Cは、C3が、C4(−/−)欠損血漿においてレクチン経路依存性の様式で効率的に活性化され得るという驚くべき知見を表している。この「C4バイパス」は、血漿を予め可溶性マンナンまたはマンノースとインキュベートすることによるレクチン経路活性化の阻害によって無くなる。
副経路の活性化に関する以前に公開された多くの論文によれば、3つすべての経路に対して許容的であるはずの実験条件下でさえも、マンナン上およびザイモサン上のC3b沈着は、MASP−2(−/−)欠損マウスにおいて激しく損なわれると理解され得る。図27A〜Cに示される通りに、MASP−2(−/−)欠損マウス血漿は、レクチン経路を介してC4を活性化せず、また、レクチン経路を介しても、副経路を介しても、C3を切断しない。ゆえに、本発明者らは、MASP−2が、このC4バイパスに必要であるという仮説を立てている。レクチン経路依存性C4バイパスに関与する可能性がある成分の同定のさらなる進歩が、Teizo Fujita教授によって最近報告された。FujitaのMASP−1/3欠損マウス系統と交雑させたC4マウスの血漿は、残っていた、C4欠損血漿がレクチン経路を介してC3を切断する能力を喪失している。これは、組換えMASP−1をC4とMASP−1/3欠損血漿との混合物に加えることによって回復した(Takahashi,Mol Immunol 43:153(2006))ことから、MASP−1が、C4の非存在下でC3を切断するレクチン経路由来の複合体の形成に関与することが示唆される(組換えMASP−1は、C3を切断しないが、C2を切断する;Rossiら、J Biol Chem 276:40880−7(2001);Chenら、J Biol Chem 279:26058−65(2004))。本発明者らは、MASP−2が、形成されるこのバイパスに必要であることを見出した。
より機能的および定量的なパラメータおよび組織診断が、このパイロット研究を強化するのに必要であるが、その予備的な結果から、MASP−2−/−マウスが一層迅速な腎機能の回復を示すので、レクチン経路を介する補体の活性化が、腎臓のI/R損傷の病態生理学に有意に寄与するという仮説に対して強力な支持を与える。
実施例32
この実施例では、生理学的条件下におけるレクチン経路の活性化後にトロンビン活性化が生じ得ることを証明し、MASP−2関与の程度を証明する。正常ラット血清では、レクチン経路が活性化されると、補体活性化(C4の沈着として評価される)と同時にトロンビン活性化(トロンビンの沈着として評価される)が生じる。図28Aおよび28Bに見られるように、この系におけるトロンビン活性化は、MASP−2遮断抗体(Fab2形式)によって阻害され、それは、補体活性化に対する阻害濃度反応曲線(図28A)に近似する阻害濃度反応曲線(図28B)を示す。これらのデータは、外傷の際に起きるレクチン経路の活性化が、完全にMASP−2に依存するプロセスにおいて補体および凝固系の両方を活性化することを示唆している。推論の結果として、MASP2遮断抗体が、過度の全身性凝固、例えば、大外傷の場合に死亡に至る特徴の1つである播種性血管内凝固の症例を緩和する際に有効だと判明し得る。
実施例33
この実施例は、播種性血管内凝固(「DIC」)におけるレクチン経路の役割を評価するための、MASP−2−/−欠損およびMASP−2+/+十分(sufficient)マウスにおけるDICの限局性シュワルツマン反応モデルを用いてもたらされた結果を提供する。
背景/論理的根拠:
前に記載されたように、MASP−2の遮断は、レクチン経路の活性化を阻害し、アナフィラトキシンC3aおよびC5aの両方の生成を減少させる。C3aアナフィラトキシンは、インビトロでは強力な血小板凝集物質であると示され得るが、インビボでのそれらの関与は、それほど十分に定義されておらず、創傷修復における血小板物質およびプラスミンの放出は、二次的にだけ補体C3と関与し得る。この実施例では、C3活性化の長期間の上昇が播種性血管内凝固をもたらすために必要であるか否かに応えるために、レクチン経路の役割をMASP−2(−/−)およびWT(+/+)マウスにおいて解析した。
方法:
本研究において使用されるMASP−2(−/−)マウスを実施例27に記載した通りに作製した。この実験では、限局性シュワルツマン反応モデルを用いた。その限局性シュワルツマン反応(LSR)は、先天免疫系の細胞性および液性構成要素からの十分特徴付けられた寄与による、リポ多糖(LPS)誘発反応である。補体に対するLSRの依存性は十分確立されている(Polak,L.ら、Nature 223:738−739(1969);Fong J.S.ら、J Exp Med 134:642−655(1971))。このLSRモデルでは、マウスを、TNFアルファ(500ng,陰嚢内)で4時間初回刺激(prime)し、次いで、そのマウスを麻酔し、精巣挙筋の生体顕微鏡検査に向けて準備した。血流の良い(1〜4mm/s)後毛細管小静脈(直径15〜60μm)のネットワークを観察のために選択した。好中球または血小板を選択的に標識する蛍光抗体で動物を処置した。その血管のネットワークを逐次スキャンし、すべての血管の画像を後の解析のためにデジタル的に記録した。微小循環の基礎的状態を記録した後、LPS(100μg)を、単独でまたは下に列挙される薬剤とともに、マウスに1回、静脈内注射した。次いで、1時間にわたって10分ごとに同じ血管のネットワークをスキャンした。フルオロフォアの特異的な蓄積を、バックグラウンドの蛍光を引き算することによって特定し、その画像を閾値処理する(thresholding)ことによって画質を向上させた。その反応の大きさを、記録された画像から測定した。シュワルツマン反応の主要な尺度は、凝集物データ(aggregate data)だった。
これらの研究は、公知の補体経路枯渇剤であるコブラ毒因子(CVF)または最終経路インヒビター(C5aRアンタゴニスト)のいずれかに曝露されたMASP−2+/+十分マウスまたは野生型マウスを比較した。結果(図29A)は、CVFならびにC5aRアンタゴニストの両方が、脈管構造内に凝集物が出現するのを防いだことを証明している。さらに、MASP−2−/−欠損マウス(図29B)もまた、限局性シュワルツマン反応の完全な阻害も示したことから、レクチン経路の関与が支持される。これらの結果は、DIC発生におけるMASP−2の役割を明らかに証明し、DICの処置および予防のためにMASP−2インヒビターを使用することを支持する。
実施例34
この実施例では、マウス心筋虚血/再灌流モデルにおけるMASP−2(−/−)マウスの解析を説明する。
背景/論理的根拠:
冠状動脈に対する虚血性傷害後の炎症性の再灌流損傷に対するMASP−2の寄与を評価するために、Marberら、J.Clin Invest.95:1446−1456(1995)によって記載されているようなマウス虚血/再灌流(MIRP)モデル、およびランゲンドルフ単離灌流マウス心臓モデルにおいて、MASP−2(−/−)およびMASP−2(+/+)マウスを比較した。
方法:
本研究において使用されるMASP−2(−/−)マウスを実施例27に記載した通りに作製した。左心室に対する虚血性傷害を、実施例27に記載した方法を用いて、8匹のWT(MASP−2(+/+)マウスおよび11匹のMASP−2(−/−)マウスにおいて行った。梗塞サイズ(INF)および危険領域(AAR)を、実施例27に記載したようなプラノメトリーによって測定した。
ランゲンドルフ単離灌流マウス心臓モデル:ランゲンドルフ単離灌流マウス心臓モデルのためにマウスから心臓を調製する方法を、F.J.Sutherlandら、Pharmacol Res 41:613(2000)に記載されたように行った。A.M.Kabirら、Am J Physiol Heart Circ Physiol 291:H1893(2006);Y.Nishinoら、Circ Res 103:307(2008)およびI.G.Webbら、Cardiovasc Res(2010))もまた参照のこと。
簡潔に説明すると、6匹の雄WT(+/+)および9匹の雄MASP−2(−/−)マウスを、腹腔内へのペントバルビタール(300mg/kg)およびヘパリン(150単位)で麻酔した。急いで心臓を単離し、氷冷した改変Krebs−Henselit緩衝液(KH,118.5mmol/l NaCl、25.0mmol/l NaHCO3、4.75mmol KCl、KH2PO41.18、MgSO41.19、D−グルコース11.0およびCaCl21.41中に入れた。その切除された心臓を、水ジャケットを備えたランゲンドルフ装置上に乗せ、80mmHgの定圧において、95%O2および5%CO2と平衡に達したKH緩衝液で逆行性灌流した。灌流液の温度を37℃に維持した。左心室に挿入された、流体で満たされたバルーンで収縮機能をモニターした。拡張末期圧が1〜7mmHgになるまで、そのバルーンを徐々に膨張させた。0.075mmの銀線(Advent)を用いて、580bpmで心房ペーシング(atrial pacing)を行った。指定時刻に行われる灌流液の回収によって、冠血流を測定した。
インビトロにおける梗塞の評価
逆行性灌流を開始した後、30分間、心臓を安定させた。含めるためには、すべての心臓が、以下の基準を満たしていなければならなかった:冠血流が1.5〜4.5mL/分であること、心拍数が>300bpm(ペーシングなし)であること、左心室が>55mmHgの圧力を発生させること、開胸術から大動脈カニューレ挿入までの時間が<3分であること、および安定化中に持続的な律動異常がないこと。次いで、血清の非存在下において全虚血および再灌流を行った。次いで、すべての心臓において、大動脈の流入管をクランプすることによって30分間の全虚血を行った後、2時間の再灌流を行った。
虚血中に収縮がやんだら、電気的ペーシングを停止し、再灌流中まで30分間再開した。再灌流の2時間後。心臓を、KH中の5mlの1%塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)で1分間灌流し、次いで、37℃の同一の溶液中に10分間入れた。次いで、心房を取り出し、心臓を吸い取り紙で乾かし(blotted dry)、計量し、最長1週間、−20℃で保存した。
次いで、心臓を解凍し、2.5%グルタルアルデヒド中に1分間入れ、5%アガロース内に収めた。次いで、ビブラトーム(Agar Scientific)を用いて、そのアガロース心臓ブロックを尖から基部に向かって0.7mm切片に切片作成した。切片作成した後、切片を室温の10%ホルムアルデヒド中に一晩入れた後、さらに1日間、4℃のPBSに移した。次いで、Perspexプレート(0.57mm離れている)の間で切片に圧力を加え、スキャナー(EpsonモデルG850A)を用いてその切片を撮像した。拡大した後、画像解析ソフトウェア(SigmaScan Pro 5.0,SPSS)を用いてプラニメトリを行い、左心室の心筋層全体および左心室のTTC陰性の心筋層の表面積に組織厚を掛け算することによって、それらの表面積を体積に変換した。各心臓内において、個々の切片を合計した後、TTC陰性梗塞体積を、左心室の体積に対するパーセンテージとして表すか、または左心室の体積に対してプロットした。
結果:
梗塞領域(蒼白色)、左心室(LV)の危険領域(赤色)および正常に灌流されていたLV帯域(青色)のサイズの概要を、それらの色の外観および色の境界を同定することによって、各切片においてとらえた。面積を各切片の両側面において定量化し、研究者によって平均化した。各動物の危険帯域の%(%RZ)として梗塞体積を計算した。
図31Aは、上に記載された冠状動脈閉塞および再灌流の手法を経験した後の梗塞サイズの測定についての8匹のWT(+/+)マウスおよび11匹のMASP−2(−/−)マウスの評価を示している。図31Aは、心筋の総体積に対するパーセンテージとして、平均危険領域(AAR,虚血に影響された領域の尺度)および梗塞体積(INF,心筋層に対する損傷の尺度)をグラフで図示している。図31Aに示されるように、2群間にAARの差はないが、INF体積は、WT同腹仔と比べて、MASP−2(−/−)マウスにおいて有意に減少しているので、MIRPのこのモデルにおいてMASP−2の非存在下における心筋の損傷からの保護作用が示唆される。
図31Bは、左心室(LV)の心筋の体積に対する%として、AARに対してプロットされたINFの関係性をグラフで図示している。図31Bに示されるように、任意の所与のAARについて、MASP−2(−/−)動物は、WT同腹仔と比較して、梗塞サイズの高度に有意な減少を示した。
図31Cおよび31Dは、血清の非存在下において全虚血および再灌流が行われたランゲンドルフ単離灌流マウス心臓モデルに従って調製されたWT(+/+)およびMASP−2(−/−)マウスの緩衝液灌流心臓における心筋梗塞の結果を示している。図31Cおよび31Dに示されるように、MASP−2(−/−)マウスの心臓とWT(+/+)マウスの心臓との間には、結果として生じた梗塞体積(INF)に差が観察されなかったことから、図31Aおよび31Bに示された梗塞サイズの差が、MASP−2(−/−)マウスの心筋組織の、虚血性損傷に対するより低い感受性ではなく、血漿因子によって引き起こされることが示唆される。
まとめると、これらの結果は、MASP−2欠損が、マウス心筋虚血/再灌流モデルにおいて虚血心の再灌流の際の心筋の損傷を有意に減少させることを証明し、虚血/再灌流損傷を処置するためおよび予防するためにMASP−2インヒビターを使用することを支持する。
実施例35
この実施例では、マウス腎移植モデルにおけるMASP−2(−/−)マウスの解析を説明する。
背景/論理的根拠:
腎臓移植の機能的帰結におけるMASP−2の役割を、マウスモデルを用いて評価した。
方法:
腎臓移植の機能的帰結を、一側性腎摘出されたレシピエントマウス(6匹のWT(+/+)移植レシピエント(B6)および6匹のMASP−2(−/−)移植レシピエント)への単一の腎臓同系移植片を用いて評価した。移植された腎臓の機能を評価するために、残っている生得の腎臓を、移植の5日後にレシピエントから取り出し、24時間後に血中尿素窒素(BUN)レベルの測定によって腎機能を評価した。
結果:
図32は、WT(+/+)レシピエントおよびMASP−2(−/−)レシピエントにおける腎臓移植の6日後の腎臓の血中尿素窒素(BUN)レベルをグラフで図示している。図32に示されるように、強く上昇したBUNレベルが、WT(+/+)(B6)移植レシピエントにおいて観察され(マウスにおける正常なBUNレベルは<5mMである)、腎不全が示唆された。対照的に、MASP−2(−/−)同系移植片レシピエントマウスは、実質的により低いBUNレベルを示し、腎機能の改善が示唆された。これらの結果は、WT(+/+)腎臓ドナー由来の移植片を用いて得られたことから、治療的な利点を達成するには、機能的なレクチン経路が移植レシピエント単独には存在しないことで十分であると示唆されることに留意されたい。
まとめると、これらの結果は、MASP−2阻害を介したレクチン経路の一過性の阻害が、腎移植における罹患率および腎臓移植における移植片の機能の遅延を減少させる方法を提供すること、ならびにこのアプローチが、他の移植の状況においても有用である可能性があることを示唆する。
実施例36
この実施例では、マウス多菌性敗血症性腹膜炎モデル(Murine Polymicrobial Septic Peritonitis Model)においてMASP−2(−/−)マウスが敗血症性ショックに対して抵抗性であることを証明する。
背景/論理的根拠:
感染におけるMASP−2(−/−)の潜在的な作用を評価するために、多菌性敗血症性腹膜炎のモデルである盲腸の結紮および穿刺(CLP)モデルを評価した。このモデルは、ヒトの敗血症性腹膜炎の経過を最も正確に模倣すると考えられている。この盲腸の結紮および穿刺(CLP)モデルは、盲腸を結紮し、針で穿刺することにより、細菌を腹腔内に連続して漏出させて、それがリンパドレナージによって血液に到達し、次いで、腹部器官のすべてに分配されることにより、多臓器不全および敗血症性ショックをもたらす、モデルである(Eskandariら、J Immunol 148(9):2724−2730(1992))。このCLPモデルは、患者において観察される敗血症の経過を模倣し、早期の高炎症反応に続いて顕著に低い炎症相を誘導する。この相の間、その動物は、細菌曝露に対して高度に感受性である(Wichtermanら、J.Surg.Res.29(2):189−201(1980))。
方法:
盲腸の結紮および穿刺(CLP)モデルを用いたときの複数菌感染に関する死亡率を、実施例23に記載したように、WT(+/+)(n=18)およびMASP−2(−/−)マウス(n=16)において測定した。簡潔に説明すると、MASP−2欠損マウスおよびそれらの野生型同腹仔を麻酔し、盲腸を露出させ、遠位末端より30%上で結紮した。その後、その盲腸を直径0.4mmの針で1回穿刺した。次いで、その盲腸を腹腔に戻し、皮膚をクランプで閉じた。CLPに供したマウスの生存を、CLP後の14日間にわたってモニターした。細菌量(bacterial load)を測定するために、CLPの16時間後のマウスの腹腔洗浄液を回収した。その腹腔洗浄液の段階希釈物をPBS中で調製し、Mueller Hintonプレートに接種し、続いて、37℃の嫌気的条件下において24時間インキュベートし、その後、細菌量を測定した。
この細菌感染に対するTNF−アルファサイトカイン応答もまた、WT(+/+)およびMASP−2(−/−)マウスにおいて、CLPの16時間後に肺および脾臓における定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT−PCR)によって測定した。また、WT(+/+)およびMASP−2(−/−)マウスにおけるCLPの16時間後のTNF−アルファの血清レベルをサンドイッチELISAによって定量化した。
結果:
図33は、CLP手技後の日数の関数としての、CLP処置された動物の生存パーセンテージをグラフで図示している。図33に示されるように、MASP−2(−/−)マウスにおけるレクチン経路の欠損は、盲腸の結紮および穿刺モデルを用いたとき、WT(+/+)マウスと比べて複数菌感染後のマウスの死亡率を増加させない。しかしながら、図34に示されるように、MASP−2(−/−)マウスは、そのWT(+/+)同腹仔と比べて、CLP後の腹腔洗浄液中の有意に多い細菌量(細菌数の約1000倍の増加)を示した。これらの結果は、MASP−2(−/−)欠損マウスが敗血症性ショックに対して抵抗性であることを示唆する。C3沈着がMASP−2依存性であると証明されたので、このモデルにおけるMASP−2欠損マウスの細菌クリアランスが低いのは、C3b媒介性のファゴサイトーシスが損なわれていることに起因し得る。
細菌感染に対するTNF−アルファサイトカイン応答が、WT(+/+)コントロールと比べて、MASP−2(−/−)マウスにおいて上昇しないことが測定された(データ示さず)。TNF−アルファの血清レベルがほぼ変化しないままだったMASP−2(−/−)マウスと対照的に、CLPの16時間後のWT(+/+)マウスにおけるTNF−アルファの血清濃度が有意に高かったことも測定された。これらの結果から、敗血症の状態に対する強い炎症反応が、MASP−2(−/−)マウスにおいて和らぎ、その動物がより多い細菌数の存在下において生存することを可能にしたことが示唆される。
まとめると、これらの結果は、敗血症の症例におけるレクチン経路の補体活性化の潜在的に有害な作用、および極度の敗血症を有する患者における高い死亡率を証明する。これらの結果はさらに、MASP−2欠損が、炎症性免疫応答を調節し、敗血症の間において炎症性メディエーターの発現レベルを低下させることを証明する。したがって、MASP−2に対する阻害性モノクローナル抗体の投与によるMASP−2(−/−)の阻害が、敗血症性ショックに罹患している被験体において炎症反応を減少させるために有効であり得ると考えられる。
実施例37
この実施例では、マウス鼻腔内感染性モデルにおけるMASP−2(−/−)マウスの解析を説明する。
背景/論理的根拠:
Pseudomonas aeruginosaは、特に免疫無防備状態の個体において、多岐にわたる感染症を引き起こす、ヒトのグラム陰性日和見細菌病原体である。それは、後天的な院内感染症、特に、院内感染性肺炎の主な起源である。それはまた、嚢胞性線維症(CF)患者における有意な罹患率および死亡率の原因である。P.aeruginosaの肺感染は、広範な組織損傷をもたらす激しい好中球動員および有意な肺の炎症を特徴とする(Palanki M.S.ら、J.Med.Chem 51:1546−1559(2008))。
この実施例では、MASP−2(−/−)マウスにおけるレクチン経路の除去が、そのマウスの細菌感染に対する感受性を高めるか否かを決定する研究を行った。
方法:
22匹のWT(+/+)マウス、22匹のMASP−2(−/−)マウスおよび11匹のC3(−/−)マウスに、P.aeruginosa細菌株の鼻腔内投与によって曝露を行った。それらのマウスを感染後6日間にわたってモニターし、生存パーセントを示すKaplan−Mayerプロットを構築した。
結果:
図35は、感染後6日間のWT(+/+)、MASP−2(−/−)またはC3(−/−)マウスの生存パーセントのKaplan−Mayerプロットである。図35に示されるように、MASP−2(−/−)マウス対WT(+/+)マウスに差は観察されなかった。しかしながら、C3(−/−)マウスにおける古典(C1q)経路の除去により、細菌感染に対する重大な感受性がもたらされた。これらの結果は、MASP−2阻害は細菌感染に対する感受性を高めないことを証明しており、補体古典経路を用いて感染症と戦う患者の能力を損なわずにMASP−2を阻害することによって、外傷患者における望ましくない炎症性の合併症を減少させることが可能であることが示唆される。
実施例38
この実施例では、実施例24に記載されたように同定された代表的な高親和性抗MASP−2 Fab2抗体の薬力学的解析を説明する。
背景/論理的根拠:
実施例24に記載されたように、ラットのレクチン経路を阻止する高親和性抗体を同定するために、ラットMASP−2タンパク質を利用して、ファージディスプレイライブラリーをパニング(pan)した。このライブラリーは、高い免疫学的多様性を提供するように設計され、完全なヒト免疫グロブリン(immunoglobin)遺伝子配列を用いて構築された。実施例24に示されたように、ELISAスクリーニングによって、ラットMASP−2タンパク質に高親和性で結合した約250種の個別のファージクローンを同定した。これらのクローンの配列決定によって、50種の独特のMASP−2抗体をコードするファージが同定された。これらのクローンからFab2タンパク質を発現させ、精製し、MASP−2結合親和性およびレクチン補体経路の機能阻害について解析した。
実施例24の表6に示されたように、この解析の結果として、機能遮断活性を有する17種の抗MASP−2 Fab2が同定された(遮断抗体について34%のヒット率)。Fab2によるレクチン補体経路の機能阻害は、MASP−2によるC4切断の直接的な尺度であるC4沈着のレベルにおいて明らかだった。重要なことには、C3コンバターゼ活性を評価したときも、阻害は、等しく明らかだったことから、レクチン補体経路の機能遮断が証明された。実施例24に記載されたように同定された17種のMASP−2遮断Fab2は、10nM以下のIC50値でC3コンバターゼの形成を強力に阻害する。同定された17種のFab2のうち8種が、nM以下の範囲のIC50値を有する。図11A〜Cに示され、実施例24の表6に要約されているように、さらに、そのMASP−2遮断Fab2の17種すべてが、レクチン経路C3コンバターゼアッセイにおいてC3コンバターゼ形成の本質的に完全な阻害をもたらした。さらに、表6に示された17種の遮断抗MASP−2Fab2の各々は、C3b生成を強力に阻害する(>95%)ので、このアッセイのレクチン経路C3コンバターゼに対する特異性が証明される。
ラットIgG2cおよびマウスIgG2aの完全長抗体アイソタイプ改変体は、Fab2#11に由来した。この実施例では、これらのアイソタイプの薬力学的パラメータについてのインビボにおける特徴づけを説明する。
方法:
実施例24に記載されたように、ラットMASP−2タンパク質を利用して、Fab2#11が同定されたFabファージディスプレイライブラリーをパニングした。ラットIgG2cおよびマウスIgG2a完全長抗体アイソタイプ改変体は、Fab2#11に由来した。ラットIgG2cおよびマウスIgG2a完全長抗体アイソタイプの両方を、以下の通り、薬力学的パラメータについてインビボにおいて特徴づけた。
マウスにおけるインビボ研究:
インビボにおける血漿レクチン経路活性に対する抗MASP−2抗体投薬の作用を調べるために、マウスにおいて薬力学的研究を行った。本研究では、レクチン経路アッセイにおいて、0.3mg/kgまたは1.0mg/kgのマウス抗MASP−2MoAb(Fab2#11由来のマウスIgG2a完全長抗体アイソタイプ)の皮下(sc)および腹腔内(ip)投与後の様々な時点でC4沈着をエキソビボで測定した。
図36は、0.3mg/kgまたは1.0mg/kgのマウス抗MASP−2MoAbの皮下投薬後の様々な時点においてマウス(n=3匹のマウス/群)から採取された無希釈の血清サンプル中の、エキソビボで測定されたレクチン経路特異的なC4b沈着をグラフで図示している。抗体投薬前に回収されたマウスからの血清サンプルは、ネガティブコントロール(100%活性)として働き、インビトロにおいて100nMの同じ遮断抗MASP−2抗体が補充された血清をポジティブコントロール(0%活性)として使用した。
図36に示される結果は、1.0mg/kgの用量のマウス抗MASP−2MoAbの皮下投与後のC4b沈着の迅速かつ完全な阻害を証明している。0.3mg/kgの用量のマウス抗MASP−2MoAbの皮下投与後には、C4b沈着の部分的な阻害しか見られなかった。
マウスにマウス抗MASP−2MoAbを0.6mg/kgで単回ip投与した後の3週間にわたって、レクチン経路の回復の時間経過を追跡した。図37に示されるように、抗体投薬後にレクチン経路活性の急激な低下が生じ、それに続いて、ip投与後の約7日間にわたって完全なレクチン経路の阻害が続いた。レクチン経路の活性は、第2週および第3週にわたってゆっくりと回復し、レクチン経路はそのマウスにおいて抗MASP−2MoAb投与の17日後までに完全に回復した。
これらの結果から、Fab2#11由来のマウス抗MASP−2Moabが、全身的に送達されるとき、用量反応様式でマウスのレクチン経路を阻害することが証明される。
実施例39
この実施例では、加齢性黄斑変性症に対するマウスモデルにおける有効性についての、Fab2#11由来のマウス抗MASP−2Moabの解析を説明する。
背景/論理的根拠:
実施例24に記載されたように、ラットMASP−2タンパク質を利用して、機能的に活性な抗体としてFab2#11が同定されたFabファージディスプレイライブラリーをパニングした。Fab2#11から、ラットIgG2cおよびマウスIgG2aアイソタイプの完全長抗体を作製した。そのマウスIgG2aアイソタイプの完全長抗MASP−2抗体は、実施例38に記載されたような薬力学的パラメータについて特徴付けられた。この実施例では、Fab2#11由来のマウス抗MASP−2完全長抗体を、Bora
P.S.ら、J Immunol 174:491−497(2005)によって記載されている加齢性黄斑変性症(AMD)のマウスモデルにおいて解析した。
方法:
実施例38に記載されたようなFab2#11由来のマウスIgG2a完全長抗MASP−2抗体アイソタイプを、以下の改変を加えて、実施例28に記載されたような加齢性黄斑変性症(AMD)のマウスモデルにおいて試験した。
マウス抗MASP−2MoAbの投与
アイソタイプコントロールMoAb処置とともに、2つの異なる用量(0.3mg/kgおよび1.0mg/kg)のマウス抗MASP−2MoAbを、CNV誘発の16時間前にWT(+/+)マウス(n=8匹のマウス/群)にip注射した。
脈絡膜新生血管(CNV)の誘導
脈絡膜新生血管(CNV)の誘導およびCNVの体積の測定を、実施例28に記載されたようなレーザー光凝固術を用いて行った。
結果:
図38は、アイソタイプコントロールMoAbまたはマウス抗MASP−2MoAb(0.3mg/kgおよび1.0mg/kg)のいずれかで処置されたマウスにおける、レーザー損傷の7日後に測定されたCNV領域をグラフで図示している。図38に示されるように、1.0mg/kgの抗MASP−2MoAbで前処置されたマウスでは、レーザー処置の7日後に統計学的に有意(p<0.01)な約50%のCNVの減少が観察された。さらに図38に示されるように、0.3mg/kgの用量の抗MASP−2MoAbは、CNVを減少させる際に有効でないことが観察された。実施例38に記載され、図36に示されたように、0.3mg/kgの用量の抗MASP−2MoAbは、皮下投与後にC4b沈着の部分的および一過性の阻害を有することが示されたことに留意されたい。
この実施例に記載された結果から、抗MASP−2MoAbなどのインヒビターによるMASP−2の遮断が、黄斑変性症の処置において予防的効果および/または治療的効果を有することが証明される。これらの結果は、実施例28に記載されたMASP−2(−/−)マウスにおいて行われた研究において観察された結果(レーザー処置の7日後に、野生型コントロールマウスと比較してCNVの30%の減少がMASP−2(−/−)マウスにおいて観察された)と一致することに留意されたい。さらに、この実施例における結果はさらに、全身的に送達された抗MASP−2抗体が、眼における局所的な治療的利点を提供することを証明し、それにより、AMD患者を処置するための全身性の投与経路の可能性が強調される。要約すれば、これらの結果は、AMDの処置においてMASP−2 MoAbを使用することを支持する証拠を提供する。
実施例40
この実施例では、MASP−2欠損マウスが、N.meningitidisに感染した後のNeisseria meningitidisによって誘導される死亡から保護され、野生型コントロールマウスと比べて高い菌血症のクリアランスを有することを証明する。
論理的根拠:Neisseria meningitidisは、髄膜炎および他の形態の髄膜炎菌性疾患(例えば、髄膜炎菌血症)における役割について知られている従属栄養性グラム陰性双球菌である。N.meningitidisは、小児期の罹患率および死亡率の主な原因である。重篤な合併症としては、敗血症、ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群、副腎機能不全および播種性血管内凝固(DIC)が挙げられる。例えば、Rintala E.ら、Critical Care Medicine 28(7):2373−2378(2000)を参照のこと。この実施例では、MASP−2欠損マウスがN.meningitidisによって誘導される死亡に感受性であり得るか否かに応えるために、レクチン経路の役割をMASP−2(−/−)およびWT(+/+)マウスにおいて解析した。
方法:
実施例27に記載した通り、MASP−2ノックアウトマウスを作製した。400mg/kgデキストラン鉄中の5×108cfu/100μl、2×108cfu/100μlまたは3×107cfu/100μlの投与量のNeisseria meningitidis血清群A Z2491の静脈内注射によって、10週齢のMASP−2KOマウス(n=10)および野生型C57/B6マウス(n=10)に接種した。感染後のマウスの生存を72時間にわたってモニターした。血液サンプルを感染後1時間間隔でマウスから採取し、感染を確かめるためおよび血清からの細菌のクリアランス速度を測定するために、そのサンプルを解析することによりN.meningitidisの血清レベル(log cfu/ml)を測定した。
結果:
図39Aは、5×108/100μl cfuという感染量のN.meningitidisを投与した後のMASP−2KOマウスおよびWTマウスの生存パーセントをグラフで図示している。図39Aに示されるように、最高量の5×108/100μl cfuのN.meningitidisに感染した後、MASP−2KOマウスの100%が、感染後72時間を通して生存した。対照的に、WTマウスの20%だけしか、感染の24時間後に生存していなかった。これらの結果は、MASP−2欠損マウスが、N.meningitidisによって誘導される死亡から保護されることを証明している。
図39Bは、5×108cfu/100μlのN.meningitidisに感染したMASP−2KOマウスおよびWTマウスから採取した血液サンプル中の、異なる時点において回収したN.meningitidisのlog cfu/mlをグラフで図示している。図39Bに示されるように、WTマウスでは、血液中のN.meningitidisのレベルは、感染の24時間後に約6.5log cfu/mlのピークに達し、感染の48時間後までにゼロに低下した。対照的に、MASP−2KOマウスでは、N.meningitidisのレベルは、感染の6時間後に約3.5log cfu/mlのピークに達し、感染の36時間後までにゼロに低下した。
図40Aは、2×108cfu/100μlのN.meningitidisに感染した後のMASP−2KOマウスおよびWTマウスの生存パーセントをグラフで図示している。図40Aに示されるように、2×108cfu/100μlという用量のN.meningitidisに感染した後、MASP−2KOマウスの100%が、感染後72時間を通して生存した。対照的に、WTマウスの80%だけしか、感染の24時間後に生存していなかった。図39Aに示された結果と一致して、これらの結果はさらに、MASP−2欠損マウスが、N.meningitidisによって誘導される死亡から保護されることを証明している。
図40Bは、2×108cfu/100μlのN.meningitidisに感染したWTマウスから採取した血液サンプル中の、異なる時点において回収したN.meningitidisのlog cfu/mlをグラフで図示している。図40Bに示されるように、2×108cfuに感染したWTマウスの血液中のN.meningitidisのレベルは、感染の12時間後に約4log cfu/mlのピークに達し、感染の24時間後までにゼロに低下した。図40Cは、2×108cfu/100μlのN.meningitidisに感染したMASP−2KOマウスから採取した血液サンプル中の、異なる時点において回収したN.meningitidisのlog cfu/mlをグラフで図示している。図40Cに示されるように、2×108cfuに感染したMASP−2KOマウスの血液中のN.meningitidisのレベルは、感染の2時間後に約3.5log cfu/mlのピークレベルに達し、感染の3時間後にゼロに低下した。図39Bに示された結果と一致して、これらの結果は、MASP−2KOマウスが、WTマウスと同じ用量のN.meningitidisに感染したにもかかわらず、MASP−2KOマウスは、WTと比べて高い菌血症のクリアランスを有することを証明している。
3×107cfu/100μlという最低量のN.meningitidisに感染した後のMASP−2KOマウスおよびWTマウスの生存パーセントは、72時間後において100%だった(データ示さず)。
考察
これらの結果から、MASP−2欠損マウスが、N.meningitidisによって誘導される死亡から保護され、WTマウスと比べて高い菌血症のクリアランスを有することが示される。したがって、これらの結果に照らすと、MASP−2MoAbなどのMASP−2インヒビターの治療的な適用が、N.meningitidis細菌への感染(すなわち、敗血症およびDIC)を処置するため、予防するため、またはその作用を緩和するために有効であると予想され得ると予想される。さらに、これらの結果から、MASP−2MoAbなどのMASP−2インヒビターの治療的な適用が、被験体のN.meningitidisに感染するリスクを高くする素因になることはないだろうと示唆される。
例示的な実施形態を、図示および説明してきたが、様々な変更が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく本明細書中でなされ得ることが理解されるだろう。
排他的な特性または特権を主張する本発明の実施形態が、以下の通り定義される。