JP2015008230A - 希土類磁石用材料、積層磁石、ボンド磁石、圧縮磁石、焼結磁石、希土類磁石用材料の製造方法、ボンド磁石の製造方法、及び圧縮磁石の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】希土類磁石の原料に好適に利用でき、希土類磁石の生産性の向上に寄与できる希土類磁石用材料及びその製造方法、磁気特性に優れる上に生産性にも優れる積層磁石、ボンド磁石、圧縮磁石、焼結磁石、ボンド磁石の製造方法、及び圧縮磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】希土類磁石用材料1は、以下の特性を備える。(1)希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成された薄板である。(2)前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、前記アスペクト比L/tが1.5以上である。(3)前記薄板の表面1fにおける前記希土類−鉄系合金の結晶のX線回折の最大ピーク強度をImaxとし、前記希土類−鉄系合金の結晶格子のc軸におけるX線回折のピーク強度をIcとし、Ic/Imaxをピーク強度比とするとき、前記ピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上である。
【選択図】図1
【解決手段】希土類磁石用材料1は、以下の特性を備える。(1)希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成された薄板である。(2)前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、前記アスペクト比L/tが1.5以上である。(3)前記薄板の表面1fにおける前記希土類−鉄系合金の結晶のX線回折の最大ピーク強度をImaxとし、前記希土類−鉄系合金の結晶格子のc軸におけるX線回折のピーク強度をIcとし、Ic/Imaxをピーク強度比とするとき、前記ピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上である。
【選択図】図1
Description
本発明は、希土類磁石の原料に用いられる希土類磁石用材料、希土類磁石(積層磁石、ボンド磁石、圧縮磁石、焼結磁石)、希土類磁石用材料の製造方法、ボンド磁石の製造方法、及び圧縮磁石の製造方法に関するものである。特に、磁気特性に優れる希土類磁石を容易に製造可能な希土類磁石用材料、及び磁気特性に優れる上に生産性にも優れる希土類磁石(上記積層磁石など)に関する。
モータや発電機などに利用される永久磁石には、希土類磁石が広く利用されている。希土類磁石は、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、硼素(B)を含む合金からなるネオジム磁石(特許文献1,2)が代表的である。従来のネオジム磁石として、原料のNd−Fe−B合金粉末を成形した後、粉末成形体を焼結した焼結磁石、原料のNd−Fe−B合金粉末と樹脂とを混合して成形したボンド磁石がある(特許文献1)。特許文献2では、原料のNd−Fe−B系合金粉末を水素化した後、加圧圧縮し、得られた粉末成形体に脱水素処理を施した圧粉磁石を開示している。
原料に用いるNd−Fe−B合金粉末の製造には、特許文献1に記載されるように高速回転する冷却用ロールに溶融金属を噴出して急冷凝固させる手法、代表的にはストリップキャスト法や、特許文献2に記載されるアトマイズ法などが利用される。ストリップキャスト法などで作製された薄帯材(代表的には、厚さが数百ミクロン)は、結晶のサイズが数ミクロンの多結晶体であり、通常、微細に粉砕したものが原料粉末に用いられる。そして、焼結磁石やボンド磁石では、強磁場(代表的には1T以上)を印加しながら成形することで(特許文献1)、微細な原料粉末の粒子を構成する各結晶を配向させて、結晶磁気異方性を高めることが行われている。特許文献2では、脱水素処理時に大きな磁場を印加することで、結晶の配向性を高められることを開示している。
磁気特性に優れる希土類磁石の生産性の向上が望まれている。
上述のように結晶を配向させた異方性磁石は、磁気特性に優れる。しかし、従来の異方性磁石の製造方法では、結晶の磁化容易軸を配列させるために、平均粒径が10μm以下といった微細な原料粉末を用いると共に、強磁場を印加して成形する必要がある。従って、原料を微細に粉砕する工程のために、工程数が多い。また、成形時や脱水素時に強磁場を印加する場合、制御が煩雑であり、作業性に劣る。これらの点から、希土類磁石の生産性を向上することが難しい。更に、強磁場の発生には、大きな電力が必要であり、製造コストの増大も招く。加えて、微細に粉砕した原料粉末では、粉末粒子が酸化し易く、酸化物の介在によって磁気特性の低下を招く。酸化防止のために非酸化雰囲気とすると、雰囲気制御が必要となり、作業性の低下を招く。この点からも、磁気特性に優れる希土類磁石を生産性よく製造することが難しい。
そこで、本発明の目的の一つは、磁気特性に優れる希土類磁石を容易に製造可能な希土類磁石用材料を提供することにある。
本発明の他の目的は、磁気特性に優れ、生産性にも優れる積層磁石、ボンド磁石、圧縮磁石、及び焼結磁石を提供することにある。
本発明の他の目的は、磁気特性に優れる希土類磁石を容易に製造可能な希土類磁石用材料を製造できる希土類磁石用材料の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、磁気特性に優れるボンド磁石を生産性よく製造できるボンド磁石の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、磁気特性に優れる圧縮磁石を生産性よく製造できる圧縮磁石の製造方法を提供することにある。
本発明の希土類磁石用材料は、以下の特性を備える。
(1) 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成された薄板である。
(2) 前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、前記アスペクト比L/tが1.5以上である。
(3) 前記薄板の表面における前記希土類−鉄系合金の結晶のX線回折の最大ピーク強度をImaxとし、前記希土類−鉄系合金の結晶格子のc軸におけるX線回折のピーク強度をIcとし、Ic/Imaxをピーク強度比とするとき、前記ピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上である。
(1) 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成された薄板である。
(2) 前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、前記アスペクト比L/tが1.5以上である。
(3) 前記薄板の表面における前記希土類−鉄系合金の結晶のX線回折の最大ピーク強度をImaxとし、前記希土類−鉄系合金の結晶格子のc軸におけるX線回折のピーク強度をIcとし、Ic/Imaxをピーク強度比とするとき、前記ピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上である。
本発明の積層磁石は、前記本発明の希土類磁石用材料が前記薄板の厚さ方向に積層された積層体と、前記積層体を固定する接着剤とを含む。
本発明のボンド磁石は、前記本発明の希土類磁石用材料と、前記希土類磁石用材料に混合されて、前記希土類磁石用材料を前記薄板の厚さ方向に積層された状態で固定する樹脂とを含む。
本発明の圧縮磁石は、前記本発明の希土類磁石用材料が前記薄板の厚さ方向に積層された状態で前記薄板の厚さ方向に圧縮されている。
本発明の焼結磁石は、前記本発明の希土類磁石用材料を前記薄板の厚さ方向に積層した積層体を焼結した後、熱処理を施して製造されたものである。
本発明の希土類磁石用材料の製造方法は、以下の工程を備える。
(i)希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する工程。
(ii)前記原料薄板に、前記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理を施す工程。
(i)希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する工程。
(ii)前記原料薄板に、前記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理を施す工程。
本発明のボンド磁石の製造方法は、以下の工程を備える。
(i)希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する工程。
(ii)前記原料薄板に、前記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理を施す工程。
(iii)前記熱処理が施された原料薄板を粗粉砕して前記原料薄板よりも長さが短く、かつ前記アスペクト比が1.5以上である薄板片を製造する工程。
(iv)前記薄板片と、平均粒径が前記薄板片の厚さの1/5以下である樹脂の粉末とを混合した混合物を金型に充填して成形して磁石素材を製造する工程。
前記金型に前記混合物を充填するとき、前記混合物に0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を与えて、複数の前記薄板片をその厚さ方向に積層させ、この積層状態を前記樹脂によって固定する。
(i)希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する工程。
(ii)前記原料薄板に、前記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理を施す工程。
(iii)前記熱処理が施された原料薄板を粗粉砕して前記原料薄板よりも長さが短く、かつ前記アスペクト比が1.5以上である薄板片を製造する工程。
(iv)前記薄板片と、平均粒径が前記薄板片の厚さの1/5以下である樹脂の粉末とを混合した混合物を金型に充填して成形して磁石素材を製造する工程。
前記金型に前記混合物を充填するとき、前記混合物に0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を与えて、複数の前記薄板片をその厚さ方向に積層させ、この積層状態を前記樹脂によって固定する。
本発明の圧縮磁石の製造方法は、以下の工程を備える。
(i)希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する工程。
(ii)前記原料薄板に、前記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理を施す工程。
(iii)前記熱処理が施された原料薄板に、水素化処理を施して多相薄板を製造する工程。
(iv)前記多相薄板を粗粉砕して前記多相薄板よりも長さが短く、かつ前記アスペクト比が1.5以上である多相薄板片を製造する工程。
(v)前記多相薄板片を金型に充填した後、加圧圧縮して圧縮成形体を製造する工程
(vi)前記圧縮成形体に脱水素処理を施して、磁石素材を製造する工程。
前記金型に前記多相薄板片を充填するとき、前記多相薄板片に0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を与えて、複数の前記多相薄板片をその厚さ方向に積層させ、積層された前記多相薄板片の集合体をその厚さ方向に加圧圧縮する。
(i)希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する工程。
(ii)前記原料薄板に、前記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理を施す工程。
(iii)前記熱処理が施された原料薄板に、水素化処理を施して多相薄板を製造する工程。
(iv)前記多相薄板を粗粉砕して前記多相薄板よりも長さが短く、かつ前記アスペクト比が1.5以上である多相薄板片を製造する工程。
(v)前記多相薄板片を金型に充填した後、加圧圧縮して圧縮成形体を製造する工程
(vi)前記圧縮成形体に脱水素処理を施して、磁石素材を製造する工程。
前記金型に前記多相薄板片を充填するとき、前記多相薄板片に0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を与えて、複数の前記多相薄板片をその厚さ方向に積層させ、積層された前記多相薄板片の集合体をその厚さ方向に加圧圧縮する。
本発明の希土類磁石用材料は、磁気特性に優れる希土類磁石を容易に製造できる。
本発明の積層磁石、ボンド磁石、圧縮磁石、及び焼結磁石は、磁気特性に優れる上に、生産性にも優れる。
本発明の希土類磁石用材料の製造方法は、磁気特性に優れる希土類磁石を容易に製造可能な希土類磁石用材料を製造できる。
本発明のボンド磁石の製造方法は、磁気特性に優れるボンド磁石を生産性よく製造できる。
本発明の圧縮磁石の製造方法は、磁気特性に優れる圧縮磁石を生産性よく製造できる。
[本発明の実施の形態の説明]
結晶磁気異方性を有する原料を用い、原料の結晶磁気異方性を維持するように希土類磁石を製造することができれば、原料を微細に粉砕する工程や成形時などで強磁場を印加する工程を省略しても、異方性磁石が得られるといえる。そこで、結晶磁気異方性を有し、かつこの結晶磁気異方性を維持した状態で希土類磁石を製造可能な希土類磁石用材料を検討した。例えば、薄い板状の材料、即ち厚さに対する長さの比(アスペクト比)が大きな材料を考える。この材料の最も安定した配置状態は、板表面が鉛直方向に直交する状態(板厚方向が鉛直方向に平行な平置き状態)であるため、複数の板をその厚さ方向に積層することが容易である、金型に充填したときに自然に上記安定した配置状態をとる上に、自動的に積み重ねられる、と考えられる。そして、積み重ねられた積層体の結晶磁気異方性は、各板の結晶磁気異方性を維持し易く、このような積層体を磁石素材とすれば、異方性磁石が得られる、と考えられる。そこで、結晶磁気異方性を有する薄板(多結晶体)を作製して積層し、得られた積層体の磁気特性を調べたところ、磁気特性に優れていた。本発明は、この知見に基づくものである。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
結晶磁気異方性を有する原料を用い、原料の結晶磁気異方性を維持するように希土類磁石を製造することができれば、原料を微細に粉砕する工程や成形時などで強磁場を印加する工程を省略しても、異方性磁石が得られるといえる。そこで、結晶磁気異方性を有し、かつこの結晶磁気異方性を維持した状態で希土類磁石を製造可能な希土類磁石用材料を検討した。例えば、薄い板状の材料、即ち厚さに対する長さの比(アスペクト比)が大きな材料を考える。この材料の最も安定した配置状態は、板表面が鉛直方向に直交する状態(板厚方向が鉛直方向に平行な平置き状態)であるため、複数の板をその厚さ方向に積層することが容易である、金型に充填したときに自然に上記安定した配置状態をとる上に、自動的に積み重ねられる、と考えられる。そして、積み重ねられた積層体の結晶磁気異方性は、各板の結晶磁気異方性を維持し易く、このような積層体を磁石素材とすれば、異方性磁石が得られる、と考えられる。そこで、結晶磁気異方性を有する薄板(多結晶体)を作製して積層し、得られた積層体の磁気特性を調べたところ、磁気特性に優れていた。本発明は、この知見に基づくものである。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)実施形態に係る希土類磁石用材料は、以下の特性(a)〜(c)を備える。
(a) 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成された薄板である。
(b) 上記薄板の厚さをtとし、上記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、上記アスペクト比L/tが1.5以上である。
(c) 上記薄板の表面における上記希土類−鉄系合金の結晶のX線回折の最大ピーク強度をImaxとし、上記希土類−鉄系合金の結晶格子のc軸におけるX線回折のピーク強度をIcとし、Ic/Imaxをピーク強度比とするとき、上記ピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上である。
(a) 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成された薄板である。
(b) 上記薄板の厚さをtとし、上記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、上記アスペクト比L/tが1.5以上である。
(c) 上記薄板の表面における上記希土類−鉄系合金の結晶のX線回折の最大ピーク強度をImaxとし、上記希土類−鉄系合金の結晶格子のc軸におけるX線回折のピーク強度をIcとし、Ic/Imaxをピーク強度比とするとき、上記ピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上である。
実施形態の希土類磁石用材料を用いることで、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる。この理由は以下のように考えられる。実施形態の希土類磁石用材料は、ピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上であり、c軸が強く配向した結晶磁気異方性を有する希土類−鉄系合金から構成されている。このような実施形態の希土類磁石用材料を用いて得られた希土類磁石は、上述のc軸配向した薄板がその厚さ方向に積層された積層体を主体とすることで、上記積層体が薄板の結晶磁気異方性を実質的に維持するからである。かつ、実施形態の希土類磁石用材料を用いることで、上記磁気特性に優れる希土類磁石を容易に製造できる。この理由は以下のように考えられる。実施形態の希土類磁石用材料は、アスペクト比L/tが1.5以上を満たす比較的大きな薄板であるため、例えば、この薄板を積層して接着剤などで固定したり、積層して焼結したりといった単純な工程によって希土類磁石を製造できるからである。また、上述のように固定などした積層体を適宜切断することで、種々の大きさ、形状の異方性磁石も容易に製造できるからである。更に、アスペクト比L/tが1.5以上を満たす範囲で薄板を軽く粉砕した場合には、金型への充填時に弱磁場を印加したり、振動を与えたりすることで、金型内の複数の薄板片を容易に積層させた状態にできる。そのため、薄板片を構成する結晶の整列状態を金型内でも保持でき、c軸配向したボンド磁石などの成形磁石を製造できるからである。従って、実施形態の希土類磁石用材料は、微細な粉砕工程、強磁場を印加する成形工程を省略でき、磁気特性に優れる希土類磁石の生産性の向上に寄与することができる。また、製造コストの低減も期待できる。更に、微細な粉砕を行っていない原料を用いると、原料の酸化も防止し易く、酸化物の介在に起因する磁気特性の低下が生じ難いことからも、実施形態の希土類磁石用材料によって磁気特性により優れる希土類磁石が得られる。
(2)実施形態の希土類磁石用材料の一例として、上記薄板の厚さが50μm以上500μm以下である形態が挙げられる。
上記形態の希土類磁石用材料を用いることで、磁気特性により優れる希土類磁石が得られる。この理由は以下のように考えられる。上記形態の希土類磁石用材料は、後述するように上記の範囲の厚さを有する素材を利用することで製造できる。厚さが500μm以下となるように素材を製造すると、素材の原料である溶融金属の冷却速度を速められて、微細な結晶組織を有する素材を製造できる。このような素材を用いて得られた上記形態の希土類磁石用材料も微細な結晶組織を維持し易い。そして、微細な結晶組織を有する上記希土類磁石用材料を用いて得られた希土類磁石も、微細組織を有することで保磁力などを高められるからである。かつ、上記形態の希土類磁石用材料を用いることで、希土類磁石の生産性をより向上できる。この理由は以下のように考えられる。厚さが50μm以上となるように素材を製造すると、製造し易い上に素材を取り扱い易いことから、希土類磁石用材料自体も製造し易い上に取り扱い易い。その結果、薄板の積層作業などが行い易いため、希土類磁石を容易に製造できるからである。
(3)実施形態の希土類磁石用材料の一例として、上記薄板の長さが300μm以上である形態が挙げられる。
上記形態の希土類磁石用材料を用いることで、種々の大きさ、形状の希土類磁石を容易に製造できる。上記形態の希土類磁石用材料は、薄板の大きさが300μm以上と十分に大きいため、このような薄板を積層することで大型の希土類磁石を製造でき、大型の積層体を適宜切断すれば、種々の大きさ、形状の希土類磁石も製造できるからである。
(4)実施形態の希土類磁石用材料の一例として、上記希土類−鉄系合金における希土類元素の含有量が28質量%以上36質量%未満である形態が挙げられる。
上記形態の希土類磁石用材料を用いることで、特に保磁力(iHc)が高く、角形性がよい(換言すれば最大エネルギー積(BH)maxが大きい)希土類磁石を製造できる。上記形態の希土類磁石用材料は、希土類元素を28質量%以上含むため、希土類−鉄系合金を構成する結晶粒界に希土類元素のリッチ相を存在させられ、このリッチ相によって各結晶を磁気的に孤立でき、かつ希土類元素の含有量が36質量%未満であることで、上記リッチ相を極薄くすることができるからである。
(5)実施形態に係る積層磁石は、上述の実施形態の希土類磁石用材料が上記薄板の厚さ方向に積層された積層体と、上記積層体を固定する接着剤とを含む。
実施形態の積層磁石は、製造性に優れる。実施形態の積層磁石は、実施形態の希土類磁石用材料である薄板を積層して接着剤で接合することで容易に製造できるからである。従って、実施形態の積層磁石は、磁石の製造時に磁場の印加を省略したり、薄板が大きいほど積層作業を行い易いため実施形態の希土類磁石用材料を微細に粉砕する工程を省略したりできる。かつ、実施形態の積層磁石は、磁気特性に優れる。実施形態の積層磁石は、以下のようなc軸配向した薄板の積層体を主体とするからである。上記積層体は、c軸が板表面に直交する方向に配向した複数の薄板が、その表面が平行するように重ねられて構成されている。そのため、各薄板のc軸は、積層方向(薄板の厚さ方向)に平行するように配向しているといえる。つまり、積層体全体のc軸は、積層体を構成する各薄板のc軸と同様に、板表面に直交する方向に配向しているといえる。また、この積層体は、その積層状態を接着剤で固定されているため、c軸配向を維持できるといえる。
(6)実施形態に係るボンド磁石は、上述の実施形態の希土類磁石用材料と、上記希土類磁石用材料に混合されて、上記希土類磁石用材料を上記薄板の厚さ方向に積層された状態で固定する樹脂とを含む。
実施形態のボンド磁石は、製造性に優れる。実施形態のボンド磁石は、実施形態の希土類磁石用材料と樹脂とを混合して成形することで容易に製造できるからである。特に、実施形態の希土類磁石用材料は、アスペクト比が大きい薄板であるため、各薄板を金型に充填すると、薄板の表面が鉛直方向に直交するように薄板が自然に配置され易く、複数の薄板が鉛直方向に直交する方向に容易に積み重なり、薄板の積層集合体を容易に形成できる点からも、実施形態のボンド磁石は製造性に優れる。かつ、実施形態のボンド磁石は、磁気特性に優れる。実施形態のボンド磁石は、以下のようなc軸配向した薄板の積層集合体を主体とするからである。上記積層集合体は、複数の薄板が、その表面が平行するように重ねられて構成されたものの組物である。この組物を構成する各薄板のc軸は、板表面に直交する方向に配向している。そのため、各薄板のc軸は、積層方向(薄板の厚さ方向)に平行するように配向しているといえる。つまり、積層集合体の全体のc軸は、各薄板のc軸と同様に、板表面に直交する方向に配向しているといえる。また、この積層集合体は、その積層状態を樹脂で固定されているため、c軸配向を維持できるといえる。
(7)実施形態に係る圧縮磁石は、上述の実施形態の希土類磁石用材料が上記薄板の厚さ方向に積層された状態で上記薄板の厚さ方向に圧縮されている。
実施形態の圧縮磁石は、製造性に優れる。実施形態の圧縮磁石は、実施形態の希土類磁石用材料を金型に充填して薄板の厚さ方向に加圧圧縮して成形することで容易に製造できるからである。特に、実施形態の希土類磁石用材料は、アスペクト比が大きい薄板であるため、各薄板を金型に充填すると、薄板の表面が鉛直方向に直交するように薄板が自然に配置され易く、複数の薄板が鉛直方向に直交する方向に容易に積み重なる点、圧縮に伴う薄板の塑性変形によって圧縮後の各薄板(以下、圧縮板と呼ぶ)が相互に噛み合うことによって積層状態を固定できるため、樹脂や接着剤などの固定剤が不要であり、混合工程や塗布工程、硬化工程などを省略できる点からも、実施形態の圧縮磁石は製造性に優れる。かつ、実施形態の圧縮磁石は、磁気特性に優れる。実施形態の圧縮磁石は、以下のようなc軸配向した圧縮物を主体とするからである。上記圧縮物は、複数の薄板が、その表面が平行するように重ねられた状態で、その厚さ方向に圧縮されたものである。各薄板のc軸は、板表面に直交する方向に配向しており、圧縮後に薄板の厚さが薄くなったとしても、各圧縮板のc軸は、圧縮前の薄板のc軸配向を維持している。そのため、圧縮前の各薄板のc軸や圧縮後の各圧縮板のc軸は、積層方向(圧縮板の厚さ方向)に平行するように配向しているといえる。つまり、複数の圧縮板から構成される圧縮物全体のc軸は、各圧縮板のc軸と同様に、板表面に直交する方向に配向しているといえる。また、この圧縮物は、その積層状態を板同士の噛み合いによって固定されているため、c軸配向を維持できるといえる。かつ、実施形態の圧縮磁石は、樹脂や接着剤などの介在物も実質的に含まない、即ちバインダレス磁石である点から、磁気特性により優れる。
(8)実施形態に係る焼結磁石は、上述の実施形態の希土類磁石用材料を上記薄板の厚さ方向に積層した積層体を焼結した後、熱処理を施して製造されている。
実施形態の焼結磁石は、製造性に優れる。実施形態の焼結磁石は、実施形態の希土類磁石用材料である薄板を積層することで焼結前の成形体を容易に製造できるからである。従って、実施形態の焼結磁石は、磁石の製造時に磁場の印加を省略したり、薄板が大きいほど積層作業を行い易いため実施形態の希土類磁石用材料を微細に粉砕する工程を省略したりできる。かつ、実施形態の焼結磁石は、磁気特性に特に優れる。実施形態の焼結磁石は、以下のようなc軸配向した焼結体を主体とするからである。上記焼結体は、複数の薄板が、その表面が平行するように重ねられた積層体を焼結したものである。この積層体を構成する各薄板のc軸は、板表面に直交する方向に配向している。そのため、各薄板のc軸は、積層方向(薄板の厚さ方向)に平行するように配向しているといえる。つまり、積層体全体のc軸は、積層体を構成する各薄板のc軸と同様に、板表面に直交する方向に配向しているといえる。そして、焼結前の各薄板のc軸配向は焼結によって実質的に変化しないため、上記焼結体は、焼結前の積層体のc軸配向と同様に、c軸が表面に直交する方向に強く配向した面を有するといえる。また、焼結後に熱処理を施して結晶粒界に希土類元素のリッチ相(以下、希土類元素のリッチ相を結晶粒界相と呼ぶことがある)を形成する点、樹脂や接着剤などの介在物を実質的に含まない点、焼結によって緻密化されている点から、実施形態の焼結磁石は、磁気特性により優れる。
(9)実施形態に係る希土類磁石用材料の製造方法は、以下の原料準備工程と、磁場アニール工程とを備える。
原料準備工程 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、上記薄板の厚さをtとし、上記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する。
磁場アニール工程 上記原料薄板に、上記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理(以下、この熱処理を磁場アニールと呼ぶ)を施す。
原料準備工程 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、上記薄板の厚さをtとし、上記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する。
磁場アニール工程 上記原料薄板に、上記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理(以下、この熱処理を磁場アニールと呼ぶ)を施す。
実施形態の希土類磁石用材料の製造方法は、以下の点から、結晶磁気異方性を有する薄板形状の希土類磁石用材料(例えば、上述の実施形態の希土類磁石用材料)を生産性よく製造できる。
・原料薄板を微細(特に平均粒径が10μm以下)に粉砕する必要が無く、微細に粉砕するための工程を省略できる点。
・原料薄板が比較的大きいため、原料薄板を取り扱い易い点。
・複数の原料薄板を積層させた状態で上記磁場アニールを施すことで、一度に大量の原料薄板に熱処理を施すことができる点。
・強磁場を印加しながら成形する場合と比較して、特殊な設備や複雑な制御が不要である点。
・原料薄板を微細(特に平均粒径が10μm以下)に粉砕する必要が無く、微細に粉砕するための工程を省略できる点。
・原料薄板が比較的大きいため、原料薄板を取り扱い易い点。
・複数の原料薄板を積層させた状態で上記磁場アニールを施すことで、一度に大量の原料薄板に熱処理を施すことができる点。
・強磁場を印加しながら成形する場合と比較して、特殊な設備や複雑な制御が不要である点。
(10)実施形態に係るボンド磁石の製造方法は、以下の原料準備工程と、磁場アニール工程と、粗粉砕工程と、成形工程とを備える。
原料準備工程 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、上記薄板の厚さをtとし、上記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する。
磁場アニール工程 上記原料薄板に、上記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理(磁場アニール)を施す。
粗粉砕工程 上記熱処理が施された原料薄板を粗粉砕して上記原料薄板よりも長さが短く、かつ上記アスペクト比が1.5以上である薄板片を製造する。
成形工程 上記薄板片と、平均粒径が上記薄板片の厚さの1/5以下である樹脂の粉末とを混合した混合物を金型に充填して成形して磁石素材を製造する。
上記金型に上記混合物を充填するとき、上記混合物に0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を与えて、複数の上記薄板片をその厚さ方向に積層させ、この積層状態を上記樹脂によって固定する。
原料準備工程 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、上記薄板の厚さをtとし、上記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する。
磁場アニール工程 上記原料薄板に、上記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理(磁場アニール)を施す。
粗粉砕工程 上記熱処理が施された原料薄板を粗粉砕して上記原料薄板よりも長さが短く、かつ上記アスペクト比が1.5以上である薄板片を製造する。
成形工程 上記薄板片と、平均粒径が上記薄板片の厚さの1/5以下である樹脂の粉末とを混合した混合物を金型に充填して成形して磁石素材を製造する。
上記金型に上記混合物を充填するとき、上記混合物に0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を与えて、複数の上記薄板片をその厚さ方向に積層させ、この積層状態を上記樹脂によって固定する。
実施形態のボンド磁石の製造方法は、以下の点から、c軸配向したボンド磁石(例えば、上述の実施形態のボンド磁石)を生産性よく製造できる。
・原料薄板を微細(特に平均粒径が10μm以下)に粉砕する必要が無く、微細に粉砕するための工程を省略できる点。
・粗粉砕を行うものの、ある程度大きな薄板片とするため粉砕時間を短くできる点。
・原料薄板が比較的大きいため、原料薄板を取り扱い易い点。
・複数の原料薄板を積層させた状態で上記磁場アニールを施すことで、一度に大量の原料薄板に熱処理を施すことができる点。
・粗粉砕した薄板片を利用することで、特定の大きさの樹脂の粉末と混合し易い点。
・粗粉砕した薄板片と特定の大きさの樹脂の粉末とを用いることで、金型に混合物を充填し易い点。
・粗粉砕を行うものの、アスペクト比が1.5以上の薄板片を利用することで、弱磁場の印加や振動の付与によって薄板片を容易に積層できる点。
・成形時に磁場を印加する場合でも、弱磁場でよく、作業性に優れる点。
・原料薄板を微細(特に平均粒径が10μm以下)に粉砕する必要が無く、微細に粉砕するための工程を省略できる点。
・粗粉砕を行うものの、ある程度大きな薄板片とするため粉砕時間を短くできる点。
・原料薄板が比較的大きいため、原料薄板を取り扱い易い点。
・複数の原料薄板を積層させた状態で上記磁場アニールを施すことで、一度に大量の原料薄板に熱処理を施すことができる点。
・粗粉砕した薄板片を利用することで、特定の大きさの樹脂の粉末と混合し易い点。
・粗粉砕した薄板片と特定の大きさの樹脂の粉末とを用いることで、金型に混合物を充填し易い点。
・粗粉砕を行うものの、アスペクト比が1.5以上の薄板片を利用することで、弱磁場の印加や振動の付与によって薄板片を容易に積層できる点。
・成形時に磁場を印加する場合でも、弱磁場でよく、作業性に優れる点。
(11) 実施形態の圧縮磁石の製造方法は、以下の原料準備工程と、磁場アニール工程と、水素化工程と、粗粉砕工程と、成形工程と、脱水素工程とを備える。
原料準備工程 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、上記薄板の厚さをtとし、上記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する。
磁場アニール工程 上記原料薄板に、上記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理(磁場アニール)を施す。
水素化工程 上記熱処理が施された原料薄板に、水素化処理を施して多相薄板を製造する。
粗粉砕工程 上記多相薄板を粗粉砕して上記多相薄板よりも長さが短く、かつ上記アスペクト比が1.5以上である多相薄板片を製造する。
成形工程 上記多相薄板片を金型に充填した後、加圧圧縮して圧縮成形体を製造する。
脱水素工程 上記圧縮成形体に脱水素処理を施して、磁石素材を製造する。
上記金型に上記多相薄板片を充填するとき、上記多相薄板片に0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を与えて、複数の上記多相薄板片をその厚さ方向に積層させ、積層された上記多相薄板片の集合体をその厚さ方向に加圧圧縮する。
原料準備工程 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、上記薄板の厚さをtとし、上記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する。
磁場アニール工程 上記原料薄板に、上記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理(磁場アニール)を施す。
水素化工程 上記熱処理が施された原料薄板に、水素化処理を施して多相薄板を製造する。
粗粉砕工程 上記多相薄板を粗粉砕して上記多相薄板よりも長さが短く、かつ上記アスペクト比が1.5以上である多相薄板片を製造する。
成形工程 上記多相薄板片を金型に充填した後、加圧圧縮して圧縮成形体を製造する。
脱水素工程 上記圧縮成形体に脱水素処理を施して、磁石素材を製造する。
上記金型に上記多相薄板片を充填するとき、上記多相薄板片に0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を与えて、複数の上記多相薄板片をその厚さ方向に積層させ、積層された上記多相薄板片の集合体をその厚さ方向に加圧圧縮する。
実施形態の圧縮磁石の製造方法は、以下の点から、c軸配向した圧縮磁石(例えば、上述の実施形態の圧縮磁石)を生産性よく製造できる。
・原料薄板や多相薄板を微細(特に平均粒径が10μm以下)に粉砕する必要が無く、微細に粉砕するための工程を省略できる点。
・粗粉砕を行うものの、ある程度大きな薄板片(多相薄板片)とするため粉砕時間を短くできる点。
・原料薄板や上記磁場アニールを施した原料薄板が比較的大きいため、これらを取り扱い易い点。
・複数の原料薄板を積層させた状態で上記磁場アニールや、水素化処理を施すことで、一度に大量の原料薄板などに熱処理(磁場アニール及び水素化処理)を施すことができる点。
・粗粉砕した多相薄板片を利用することで、金型に充填し易い点。
・粗粉砕を行うものの、アスペクト比が1.5以上の多相薄板片を利用することで、弱磁場の印加や振動の付与によって多相薄板片を容易に積層できる点。
・成形時に磁場を印加する場合でも、弱磁場でよく、作業性に優れる点。
・多相薄板片はFeなどの金属成分と希土類元素の水素化合物との複数相で構成されており、金属成分が塑性加工性に優れるため、容易に圧縮できる点。
また、実施形態の圧縮磁石の製造方法では、原料薄板に複数回の加熱が与えられたり、圧縮に伴う塑性変形が行われたりするものの、磁場アニール工程後のc軸配向が後工程後にも実質的に維持される点、水素化処理及び脱水素処理によって結晶を微細化できる点、加圧圧縮によって緻密化できる点などから、磁気特性により優れる圧縮磁石を製造できる。
・原料薄板や多相薄板を微細(特に平均粒径が10μm以下)に粉砕する必要が無く、微細に粉砕するための工程を省略できる点。
・粗粉砕を行うものの、ある程度大きな薄板片(多相薄板片)とするため粉砕時間を短くできる点。
・原料薄板や上記磁場アニールを施した原料薄板が比較的大きいため、これらを取り扱い易い点。
・複数の原料薄板を積層させた状態で上記磁場アニールや、水素化処理を施すことで、一度に大量の原料薄板などに熱処理(磁場アニール及び水素化処理)を施すことができる点。
・粗粉砕した多相薄板片を利用することで、金型に充填し易い点。
・粗粉砕を行うものの、アスペクト比が1.5以上の多相薄板片を利用することで、弱磁場の印加や振動の付与によって多相薄板片を容易に積層できる点。
・成形時に磁場を印加する場合でも、弱磁場でよく、作業性に優れる点。
・多相薄板片はFeなどの金属成分と希土類元素の水素化合物との複数相で構成されており、金属成分が塑性加工性に優れるため、容易に圧縮できる点。
また、実施形態の圧縮磁石の製造方法では、原料薄板に複数回の加熱が与えられたり、圧縮に伴う塑性変形が行われたりするものの、磁場アニール工程後のc軸配向が後工程後にも実質的に維持される点、水素化処理及び脱水素処理によって結晶を微細化できる点、加圧圧縮によって緻密化できる点などから、磁気特性により優れる圧縮磁石を製造できる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、実施形態に係る希土類磁石用材料、及び希土類磁石用材料の製造方法、希土類磁石(積層磁石、ボンド磁石、圧縮磁石、焼結磁石)、及び希土類磁石の製造方法を、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、後述する試験例について希土類−鉄系合金の組成、薄板や薄板片の大きさ(厚さ、長さ、アスペクト比)、接着剤や樹脂の材質・含有量、樹脂粉末の大きさ、製造条件(印加磁場、熱処理温度、熱処理時間、雰囲気、成形圧力など)を適宜変更することができる。
以下、実施形態に係る希土類磁石用材料、及び希土類磁石用材料の製造方法、希土類磁石(積層磁石、ボンド磁石、圧縮磁石、焼結磁石)、及び希土類磁石の製造方法を、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、後述する試験例について希土類−鉄系合金の組成、薄板や薄板片の大きさ(厚さ、長さ、アスペクト比)、接着剤や樹脂の材質・含有量、樹脂粉末の大きさ、製造条件(印加磁場、熱処理温度、熱処理時間、雰囲気、成形圧力など)を適宜変更することができる。
(希土類磁石用材料)
実施形態1の希土類磁石用材料1は、希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成される。希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、及びアクチノイドから選択される1種以上の元素が挙げられる。特に、Ndを含むことが好ましい。鉄族元素は、Fe、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)から選択される1種以上の元素が挙げられる。Feを主体(60質量%以上)とする形態が代表的である。その他、例えば、FeとCoとの双方を含む形態が挙げられる。希土類元素及び鉄族元素以外の元素として、B、炭素(C)、及び窒素(N)から選択される1種以上の元素を含む形態が代表的である。その他の添加元素として、ガリウム(Ga)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)及びニオブ(Nb)から選択される1種以上の元素が挙げられる。具体的な希土類−鉄系合金の組成は、Nd−Fe−B、Nd−Fe−Co−B、Nd−Fe−C、Nd−Fe−Co−Cなどが挙げられる。後述する回転ロールを用いた凝固法によって製造された原料薄板を用いて希土類磁石用材料1を製造する場合、希土類磁石用材料1を構成する希土類−鉄系合金は、最終製品である希土類磁石を構成する合金と実質的に同じであるものが好ましい。なお、この場合、希土類磁石用材料1が所望の組成となるように原料薄板の組成を調整する。
実施形態1の希土類磁石用材料1は、希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成される。希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、及びアクチノイドから選択される1種以上の元素が挙げられる。特に、Ndを含むことが好ましい。鉄族元素は、Fe、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)から選択される1種以上の元素が挙げられる。Feを主体(60質量%以上)とする形態が代表的である。その他、例えば、FeとCoとの双方を含む形態が挙げられる。希土類元素及び鉄族元素以外の元素として、B、炭素(C)、及び窒素(N)から選択される1種以上の元素を含む形態が代表的である。その他の添加元素として、ガリウム(Ga)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)及びニオブ(Nb)から選択される1種以上の元素が挙げられる。具体的な希土類−鉄系合金の組成は、Nd−Fe−B、Nd−Fe−Co−B、Nd−Fe−C、Nd−Fe−Co−Cなどが挙げられる。後述する回転ロールを用いた凝固法によって製造された原料薄板を用いて希土類磁石用材料1を製造する場合、希土類磁石用材料1を構成する希土類−鉄系合金は、最終製品である希土類磁石を構成する合金と実質的に同じであるものが好ましい。なお、この場合、希土類磁石用材料1が所望の組成となるように原料薄板の組成を調整する。
希土類元素(特にNd)の含有量は、28質量%以上36質量%未満(10.5原子%以上13.5原子%未満)が好ましく、35質量%以下がより好ましい。Nd2Fe14Bなどの化学量論比である28質量%以上であると、希土類−鉄系合金の結晶粒界に希土類元素のリッチ相が存在し、好ましくは希土類元素のリッチ相が均一的に分散した結晶組織をとることができる。このような結晶組織は、結晶粒が希土類元素のリッチ相によって磁気的に孤立された組織といえる。希土類元素の含有量が36質量%未満であると、希土類元素のリッチ相が結晶粒界に極薄く存在できる。このような結晶組織を有する希土類磁石用材料1を用いることで、磁気特性に優れる希土類磁石、特に保磁力が高く角形性に優れる希土類磁石が得られる。
鉄族金属のうち、Feの含有量は63質量%以上71質量%以下、更に66質量%以上69質量%以下が好ましい。Feに加えてCoを含む場合、Coの含有量は、1質量%以上15質量%以下、更に1質量%以上5質量%以下が好ましい。Gaなどの添加元素の含有量(複数の場合は合計の含有量)は、0.1質量%以上5質量%以下、更に0.1質量%以上2質量%以下が好ましい。
希土類磁石用材料1を構成する希土類−鉄系合金の組織は、微細な結晶組織であることが好ましい。結晶が微細であるほど、保磁力が高い希土類磁石を製造可能な希土類磁石用材料1となる。希土類磁石の保磁力を考慮すると、上記希土類−鉄系合金の平均結晶粒径は、10μm以下、更に5μm以下、特に3μm以下が好ましい。また、上記希土類−鉄系合金の組織は、上述のように結晶粒界に希土類元素のリッチ相が極薄く(平均厚さが0.005μm(5nm)以上0.05μm(50nm)以下程度)、かつ全体に亘って均一的に分散している組織が好ましい。特に、各結晶の周囲を覆うように膜状に希土類元素のリッチ相が存在する組織が好ましい。平均厚さは、例えば、2次元断面像をSEM観察することによって厚さ(幅)を測定し、その平均を用いることが挙げられる。
希土類磁石用材料1は、図1に示すように平たい薄板である。即ち、希土類磁石用材料1は、対向する二つの平面(薄板の表面1f)が平行に配置されて、これら二つの平面間が薄板の側面1sで連結された形状である。図1では、薄板の表面1fが矩形状のものを示すが、希土類磁石用材料1の表面形状は種々の形状とすることができる。後述する原料薄板を適宜切断や破砕することで、種々の表面形状の希土類磁石用材料1が得られる。具体的な表面形状として、例えば、矩形状、多角形状、円形状などが挙げられる。表面形状が矩形であると、取り扱い易く、積層作業などが行い易いと期待される。なお、原料薄板の製造時、原料薄板の脆性によって自然に破砕された場合、種々の異形の表面形状を取り得る。希土類磁石用材料1は、表面形状が異形であったり、側面1sが一様に平滑な平面でなかったり、側面1sが表面1fに直交しない部分を有したりすることを許容する。
希土類磁石用材料1は、薄板である点を特徴の一つとする。薄板とは、上記対向する二つの平面間の距離、即ち厚さtと、平面の長さLとを用いて、長さLに対する厚さtの比L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上を満たす形状とする。長さLとは、例えば、図1に示すような矩形板では、一辺の長さL1と他辺の長さL2のうち、長い方とする。表面形状が円形の場合の長さLとは直径とし、多角形の場合の長さLとは最も長い対角線とし、異形の場合の長さLとはその異形を内包する包絡円の直径とする。
希土類磁石用材料1(薄板)の厚さtは、薄い方が好ましい。ここで、薄板の厚さtは、研磨などで調整を行わない限り、後述する原料薄板の厚さを実質的に維持することができる。原料薄板を薄く製造すると、結晶を微細にし易い上に、結晶粒の大きさが揃った均一的な組織にし易い。このような原料薄板を用いることで希土類磁石用材料1も微細で均一的な結晶組織になり易い。しかし、原料薄板が薄過ぎると、製造時に過度に破砕されて小片となったり、結晶の優先成長方位(例えば、c軸に直交する方位である<410>)が板の厚さ方向に平行するように(板表面に直交するように)結晶が配列されたりして、板表面に直交する方向にc軸が強く配向した希土類磁石用材料1を製造し難くなる。一方、原料薄板をある程度厚くすると、ある程度厚い希土類磁石を製造するにあたり、薄板の積層数を低減できる、即ち積層工程における所要時間を低減できるため、希土類磁石の生産性の向上に寄与できる。従って、微細な結晶組織を有し、c軸が板表面に直交する方向に強く配向した希土類磁石用材料1とし、希土類磁石の生産性を向上できるようにするには、希土類磁石用材料1(薄板)の厚さtは、50μm以上500μm以下が好ましい。特に、希土類磁石用材料1(薄板)の厚さtは、100μm以上、更に200μm以上が好ましく、500μm以下、更に300μm以下が好ましい。なお、希土類磁石用材料1(薄板)の厚さtとは、希土類磁石用材料1について、30個以上の任意の点を測定点とし、各測定点の厚さの平均とする。又は、希土類磁石用材料1(薄板)の厚さtとは、長さLの全域又は長さLに沿って10mm以上に亘って厚さを測定し、この測定値の平均とする。厚さtの測定には、例えば、厚さが1mm以下程度の板の厚さを測定可能な装置(例えば、レーザ式計測器など)を適宜利用できる。
希土類磁石用材料1(薄板)の長さLは、長いほど、板表面の面積が大きなものになり易い。板表面の面積が大きい大型の薄板は、(1)取り扱い易く、積層作業などが行い易い、(2)大型の希土類磁石を容易に製造できる、(3)大型の積層体を適宜切断することで種々の大きさ、形状の希土類磁石を容易に製造できる、といった利点を有する。即ち、長さLがより長い形態は、形状に基づく利点(積層することで希土類磁石を容易に形成できる点、鉛直方向に直交する方向に配置し易い点)をより効果的に活用できる。具体的な希土類磁石用材料1(薄板)の長さLとしては、10mm以上、更に15mm以上、30mm以上、特に50mm以上が挙げられる。例えば、薄板は、A4サイズ(長さLが297mm、幅210mm)などでも構わない。一方、長さLがある程度小さい場合、金型成形が必要な希土類磁石を製造するときに、金型に充填し易い。従って、この場合、希土類磁石用材料1(薄板)の長さLは300μm以上、更に500μm以上が好ましい。また、この場合、上記長さLは、1000μm(1mm)以下、更に700μm以下が好ましい。希土類磁石用材料1の表面形状が矩形状である場合、長さLをとる一辺と、長さLをとらない他辺が存在し得る(正方形では四辺全てが長さLをとる)。この場合、他辺の長さ(幅)は、例えば、0.3mm以上1.0mm以下、更に0.5mm以上0.7mm以下が挙げられる。長さLの測定には、例えば、一辺の長さが100μm程度である板の長さを測定可能な適宜な装置を利用できる。
希土類磁石用材料1(薄板)のアスペクト比L/tも、大きいほど、板表面の面積が大きなものになり易いことから、上述の利点(取り扱い易く積層し易い、大型の磁石を製造できる、種々の大きさ、形状の磁石を製造できる)を有する。希土類磁石用材料1(薄板)のアスペクト比L/tが、2以上、更に5以上、特に10以上であると、積層作業などが行い易い。長さLに上限を設けないことから、長さLに依存するアスペクト比L/tも特に上限を設けない。上述のように粗粉砕などした場合でも、希土類磁石用材料1(薄板)は、アスペクト比L/tが1.5以上を満たすものとする。
希土類磁石用材料1(薄板)は、その表面に対してc軸が直交するように配向している点(=c軸が厚さ方向に平行するよう配向している点)を特徴の一つとする。具体的には、薄板の表面のX線回折について、ピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上を満たす。ピーク強度比Ic/Imaxは、以下のように求める。薄板の表面をX線回折して、薄板を構成する希土類−鉄系合金の結晶の最大ピーク強度Imaxと、結晶格子のc軸におけるX線回折のピーク強度Icとを求める。そして、最大ピーク強度Imaxに対するc軸のピーク強度Icの比Ic/Imaxを求める。ピーク強度比Ic/Imaxが大きいほど、薄板の表面に直交する方向にc軸が強く配向していることになることから、ピーク強度比Ic/Imaxは0.85以上、更に0.90以上、特に0.95以上が好ましく、1.0が最も好ましい。
(希土類磁石用材料の製造方法)
薄板形状の希土類磁石用材料1を製造するには、まず、原料薄板を用意する(原料準備工程)。原料薄板は、上述の希土類−鉄系合金から構成され、上述のアスペクト比が1.5以上を満たすものとする。好ましくは、原料薄板は、結晶の<410>が原料薄板の表面に平行に配向しており、かつ原料薄板の表面に平行するように結晶が層状に積層した組織を有するものを用意する。より好ましくは上記に加えて結晶粒界に希土類元素のリッチ相が存在するものを用意する。
薄板形状の希土類磁石用材料1を製造するには、まず、原料薄板を用意する(原料準備工程)。原料薄板は、上述の希土類−鉄系合金から構成され、上述のアスペクト比が1.5以上を満たすものとする。好ましくは、原料薄板は、結晶の<410>が原料薄板の表面に平行に配向しており、かつ原料薄板の表面に平行するように結晶が層状に積層した組織を有するものを用意する。より好ましくは上記に加えて結晶粒界に希土類元素のリッチ相が存在するものを用意する。
このような原料薄板は、例えば、薄板を成形可能な金型を用いた鋳造によって製造することが考えられる。特に、原料薄板の製造に、一つの回転ロールを鋳型に用いる単ロール法、二つの回転ロールを鋳型に用いる双ロール法といった凝固法を利用すると、量産性に優れて好ましい。より具体的な単ロール法として、ストリップキャスト法、メルトスパン法といった急冷凝固が可能な方法が挙げられる。急冷凝固が可能な方法を利用すると、微細な結晶組織を有する原料薄板を製造できる。微細な結晶組織を有する原料薄板を利用することで、上述のように微細な結晶組織を有する希土類磁石用材料1を製造できて好ましい。ストリップキャスト法などでは、回転ロールの回転速度を速めることで冷却速度を容易に速められる。また、回転ロールの材質を銅などの熱伝導性に優れたものとすると、冷却速度を速め易い。特に、ストリップキャスト法は、層状又は平板状といった結晶を得易い、比較的広幅の素材(例えば、最大幅が100mm以上、更に200mm以上、特に250mm以上)を製造し易い、といった利点を有する。なお、スパッタリング法などの成膜法によってある程度の厚膜を形成できるが、成膜法は製造コストが高く、工業的な量産に利用し難い。
原料薄板の厚さtを薄くする、好ましくは500μm以下とすると、上述のストリップキャスト法などの凝固法を用いた場合、厚さが薄いことで、厚さ方向の冷却速度(原料薄板における回転ロールとの接触面から、回転ロールに接触しない外側面に向かって冷却される速度)を速められて好ましい。厚さ方向の冷却速度を速められる結果、上記回転ロールとの接触面から上記外側面に向かって均一的な冷却を行えて、結晶の大きさのばらつきが少なく、均一的な大きさの結晶組織とすることができる。原料薄板の表裏面のいずれも、同様な大きさの結晶組織とすることが好ましい。特に、ストリップキャスト法を利用すると、微細で、かつ均一的な大きさの結晶組織を有する原料薄板を製造し易い。微細で、かつ均一的な大きさの結晶組織を有する原料薄板を利用することで、微細で、かつ均一的な大きさの結晶組織を有する希土類磁石用材料1を製造し易い。このような希土類磁石用材料1を利用することで、微細組織によって、保磁力が高く、均一的な結晶組織によって、磁気特性のばらつきが少ない希土類磁石が得られる。
原料薄板の厚さtが薄いほど、微細で、均一的な組織とし易いが、薄過ぎると、過度に破砕されて小片となり、アスペクト比が1.5以上を満たさなくなったり、大きな原料薄板を製造し難かったりする。また、原料薄板が薄過ぎると、結晶の優先成長方位(例えば、<410>)が厚さ方向に平行したような層状組織となり、後述する磁場アニール工程を経ても、結晶磁気異方性を有する組織を十分に形成できない、又は実質的に形成できないと考えられる。従って、原料薄板の製造性や希土類磁石用材料1の製造性を考慮すると、原料薄板の厚さtは、50μm以上が好ましい。また、原料薄板の厚さtは、上述の結晶状態や製造性を考慮すると、100μm以上、更に200μm以上、500μm以下、更に300μm以下が好ましい。
原料薄板の長さLを長くする、例えば、10mm以上とすると、表面の面積が大きく、取り扱い易い希土類磁石用材料1を得易く好ましい。原料薄板の長さLを15mm以上、更に30mm以上、特に50mm以上などとすると、より大型の希土類磁石用材料1が得られる。アスペクト比が1.5以上を満たせば、例えば、上述の回転ロールを用いた凝固法によって得られたままのものを原料薄板としてもよいし、上記凝固法によって得られたものを適宜切断して表面形状を整えたり、側面を平滑な平面(切断面)としたり、長さLを調整したりしたものを原料薄板としてもよい。
原料薄板の厚さt及び長さL、アスペクト比L/tが所望の大きさとなるように製造条件を調整するとよい。上述のように切断するなどして、アスペクト比L/tを調整してもよいが、調整後もアスペクト比L/tが1.5以上となるように調整する。
用意した原料薄板に、特定の大きさの強磁場を印加しながら、特定の温度で加熱する熱処理(磁場アニール)を施して、板表面に直交する方向にc軸が強く配向した薄板(希土類磁石用材料1)を製造する(磁場アニール工程)。以下に、磁場アニールによって板表面に直交する方向にc軸が配向した薄板が得られるメカニズムを詳細に説明する。
図2(B)に示すように、ストリップキャスト法などの回転ロール200を用いた凝固法では、金属100Bの凝固時に、結晶10Bが回転ロール200の表面に平行するように生成される。凝固が進むと、結晶10Cが回転ロール200の表面に平行するように層状に積層した結晶組織をとる金属100Cが得られる(図2(C))。
Nd−Fe−B系合金を例に説明すると、凝固初期(1450℃〜1300℃程度)では、金属100A中に融点が高いγ−Feが生成される。回転ロール200による冷却方向は、回転ロール200の表面から金属100Aの外側面(図2(A)では上面)に向かう方向(図2(A)では下方から上方に向かう方向)であるため、γ−Feは、回転ロール200の表面から金属100Aの外側面に向かって延びるように層状に生成される。γ−Fe間には、適宜な間隔w(例えば、50μm〜200μm程度)が設けられる。このγ−Fe間に液体状のNd−Fe−B系合金100Lが存在する。なお、γ−Feは、Nd,Bなどが十分に存在する場合、Nd,Bなどが溶け込み、最終的にNd−Fe−B系合金になる。
冷却が進んだ凝固中期(1300℃〜1200℃程度)になると、液体状のNd−Fe−B系合金100Lから、図2(B)に示すようにNd2Fe14Bといった所定の組成のNd−Fe−B系合金の結晶10Bが生成される。結晶10Bは、層状又は平板状になる傾向にある。また、Nd−Fe−B系合金は、結晶の優先成長方位が<410>であり、この優先成長方位が回転ロール200の表面に平行するように結晶10Bが成長する傾向にある(ここでは左右方向に結晶10Bが成長する傾向にある)。金属100Bでは、結晶10Bの周囲を囲むように、希土類元素(ここではNd)の含有量が相対的に多い希土類元素のリッチ相100RL(液相)が存在している。なお、金属100Bにおける回転ロール200の極近傍の領域では、優先成長方位<410>が回転ロール200に直交するように成長した結晶、即ち、優先成長方位<410>が厚さ方向に平行するように成長した結晶(図2(B)において回転ロール200の表面に直交するように存在する短い結晶)が存在し得る。金属100A(100B,100C)の厚さtが50μm以上であれば、上述の回転ロール200の表面に直交するように存在する短い結晶の割合を相対的に少なくすることができる。
更に冷却が進んだ凝固後期(1200℃〜800℃程度)になると、結晶10Bが十分に成長して、図2(C)に示すようにある程度厚く、かつある程度長くなった結晶10C(例えば、厚さt10が3μm〜10μm程度、長さL10が10〜50μm程度)が生成される。また、組成によっては、結晶10Cの周囲を囲むように希土類元素のリッチ相100Rs(固相)が存在し得る。即ち、金属100Cは、薄く平たい結晶10Cが層状に積み重ねられ、好ましくはこれら積層された結晶10C間を希土類元素のリッチ相100Rsが磁気的に分断するように存在する組織になる。そして、これら結晶10Cの多くは、優先成長方位<410>及びa軸が回転ロール200の表面に平行するように存在する。
一方、Nd−Fe−B系合金では磁化容易軸であるc軸が、優先成長方位<410>に直交する方向に存在する。そのため、各結晶10C(セル結晶10S)を構成する複数の単位格子10cのc軸はそれぞれ、優先成長方位<410>を軸として、360°の任意の方向をとり得る(図3(A)参照)。即ち、各単位格子10cのc軸は、平板状のセル結晶10Sの表面に対して、必ずしも直交方向に配向していない。その結果、ストリップキャスト法などの回転ロール200を用いた凝固法によって製造した原料薄板の表面と、回転ロール200の表面に平行するように積層された平板状の各結晶10C(セル結晶10S)の表面とが平行するように各結晶10Cが存在することで、上記原料薄板は、その表面に直交するようにc軸が配向しているとは言えない。
このような原料薄板に対して、例えば、室温(20℃〜25℃程度)で、原料薄板の表面に平行な方向に強磁場を印加する場合を考える。この場合、磁化困難軸であるa軸も板表面に平行するように配置されているため、c軸を板表面に直交する方向に配向させることが非常に困難である。例えば、室温(20℃〜25℃程度)で、原料薄板の表面に直交する方向に強磁場を印加する場合を考える。この場合、上述のようにc軸が板表面に対してランダムに配向しているため、c軸を板表面に直交する方向に効果的に配向させることが難しい。一方、ある程度加熱する、特に、再結晶化を起こし易い温度域(Nd−Fe−B系合金では、共晶点である650℃程度)に加熱した状態で、強磁場を印加すれば、磁場のエネルギーによって、再結晶時に結晶を配列することができる。Nd−Fe−B系合金では、上述の共晶点近傍の温度域とすると、410方向は原子密度が最大であるため、<410>を軸に再結晶させ易い。その結果、磁化困難軸であるa軸が磁場方向に配列し易くなるといえる。従って、上述のように特定の温度に加熱した状態で、原料薄板の表面に平行な方向に強磁場を印加すれば、a軸を磁場方向に配列させられる結果、<410>及びa軸の双方に直交するc軸を板表面に直交する方向に配向させられる、と考えられる。実際、後述する試験例に示すように、特定の温度下で、原料薄板の表面に平行な方向に強磁場を印加して作製した薄板のc軸配向を調べた結果、薄板の表面に直交する方向にc軸が強く配向していること(薄板の厚さ方向にc軸が強く配向していること)を確認している。そこで、磁場アニールの条件を特定のものとする。
磁場アニールにおける加熱温度は、600℃以上700℃以下とする。650℃近傍がより好ましい。700℃超といった高温にすると、結晶粒界に存在し得る上述の希土類元素のリッチ相が拡散し粗大化や局所偏析し易くなり、結晶粒界に存在する希土類元素のリッチ相の量が低下する。この結果、磁気特性に劣る薄板(特に保磁力が小さい薄板)が得られる。更に900℃以上といった高温とすると、結晶自体が成長して粗大な結晶組織になることで、磁気特性に劣る薄板(特に保磁力が小さい薄板)が得られる。保持時間は、0.5時間以上10時間以下が挙げられる。
磁場アニールにおける印加磁場は、3T以上とする。印加磁場が大きいほど、c軸配向性を高められるため、4T以上、更に5T以上が好ましい。このような強磁場の形成には、常電導コイルを備える常電導磁石を用いてもよいが、超電導コイルを備える超電導磁石が好適に利用できる。磁場の印加は、加熱を行っている間中(上述の保持時間の間中)、行うことが好ましい。また、磁場アニール中は、一定の大きさの磁場を連続して印加することが好ましく、途中で磁場を変調したり、断続的に磁場を印加させたりすることは、配列を乱す恐れがあり、好ましくないと考えられる。
磁場の印加方向は、原料薄板の表面に平行な方向、つまり原料薄板の厚さ方向に直交する方向とする。特に、上述の回転ロールを用いた凝固法によって製造した原料薄板を用いる場合、磁場の印加方向は、回転ロールの幅方向に平行な方向とすることが好ましい。この理由は以下のように考えられる。回転ロールを用いた凝固法によって製造される原料薄板は、その厚さ方向に冷却が進行することから、回転ロールの幅方向には、冷却が均一的に進行するといえる。そのため、上述のように薄く平たい結晶の多くは、優先成長方位が回転ロールの幅方向に延びるように存在し得る。その結果、a軸も、回転ロールの幅方向に平行するように存在し得る。従って、磁場の印加方向を、原料薄板において回転ロールの接線方向ではなく、回転ロールの幅方向に平行な方向とすると、a軸を揃え易くなる結果、c軸を板表面に直交するように配向させ易くなるからである。
なお、原料薄板の製造から連続して磁場アニールを行う場合、原料薄板において回転ロールの幅方向を判別し易い。しかし、連続して磁場アニールを行わない場合、原料薄板の表面が一様な平面であると、原料薄板における回転ロールの幅方向を判別し難い。そこで、回転ロールの幅方向を判別可能な印を設けた原料薄板を用意してもよい。例えば、回転ロールの表面に、その幅方向(軸方向)に沿って、又は周方向に沿って凸部又は凹部を設けたものを利用することで、原料薄板の表面に、回転ロールの幅方向(原料薄板の幅方向)に沿って延びる凹部又は凸部が設けられた原料薄板、又は原料薄板の長手方向(原料薄板の進行方向)に沿って延びる凹部又は凸部が設けられた原料薄板を製造できる。この凹部や凸部の延びる方向によって、磁場の印加方向を設定することができる。
磁場アニールにおける雰囲気は、不活性雰囲気や減圧雰囲気(真空度は1×10−3Pa以下)が好ましい。不活性雰囲気や減圧雰囲気とすると、酸化による劣化を防止できる。
磁場アニール工程後に、粗粉砕(軽い粉砕)を行って、アスペクト比L/tがより小さいもの(薄板片)とすることができる。但し、アスペクト比L/tが1.5以上を満たす薄板片が得られるように、粉砕条件を調整する。アスペクト比L/tが比較的小さい希土類磁石用材料1(例えば、L/tが1.5以上5以下程度、長さLが1mm以下程度)は、圧縮磁石やボンド磁石などの金型成形が必要な希土類磁石の原料に好適に利用できる。
その他、希土類磁石用材料1は、薄板の表面に絶縁被覆を備える形態とすることができる。絶縁被覆によって積層された薄板同士を絶縁できるため、このような被覆付き希土類磁石用材料を用いることで、渦電流損が低い希土類磁石が得られる。絶縁被覆の材質は、例えば、シリコーン樹脂などが挙げられる。
(積層磁石)
希土類磁石用材料1は、例えば、以下の積層磁石の原料に利用することができる。積層磁石は、複数の希土類磁石用材料1(薄板)がその厚さ方向に積層された積層体を主体とし、薄板同士を接合する接着剤によって積層体が固定されている。積層磁石を構成する各薄板は、その表面が平行するように積層されているため、各薄板のc軸は、積層体の表面に直交するように配向しているといえる。その結果、積層磁石全体でみれば、薄板の積層方向にc軸が強く配向しているといえる。また、積層磁石を構成する各薄板は、希土類磁石用材料1のc軸配向を実質的に維持していることから、例えば、積層磁石の最表面を構成する薄板について、ピーク強度比Ic/Imaxを測定した場合、0.83以上を満たす。積層磁石から接着剤を除去することで、各薄板のピーク強度比Ic/Imaxも測定可能である。
希土類磁石用材料1は、例えば、以下の積層磁石の原料に利用することができる。積層磁石は、複数の希土類磁石用材料1(薄板)がその厚さ方向に積層された積層体を主体とし、薄板同士を接合する接着剤によって積層体が固定されている。積層磁石を構成する各薄板は、その表面が平行するように積層されているため、各薄板のc軸は、積層体の表面に直交するように配向しているといえる。その結果、積層磁石全体でみれば、薄板の積層方向にc軸が強く配向しているといえる。また、積層磁石を構成する各薄板は、希土類磁石用材料1のc軸配向を実質的に維持していることから、例えば、積層磁石の最表面を構成する薄板について、ピーク強度比Ic/Imaxを測定した場合、0.83以上を満たす。積層磁石から接着剤を除去することで、各薄板のピーク強度比Ic/Imaxも測定可能である。
積層磁石の形状、大きさは、適宜選択することができる。所望の形状、大きさの積層磁石が得られるように、希土類磁石用材料1(薄板)の形状、大きさ、積層数を選択するとよい。また、大型の希土類磁石用材料1を用いて大型の積層体を製造し、所望の形状、大きさとなるように切断してもよい。
希土類磁石用材料1を用いて得られた積層磁石は、磁気特性に優れる。例えば、積層体の積層方向に平行な方向(積層体の最表面を構成する薄板の表面に直交する方向)における飽和磁束密度(Bs)が0.95T以上、残留磁束密度(Br)が0.95T超、固有保磁力(iHc)が650kA/m以上、及び最大エネルギー積(BH)maxが120kJ/m3以上の少なくとも一つ、好ましくは少なくとも三つ、より好ましくは全て満たす積層磁石とすることができる。
積層磁石に含有される接着剤は、エポキシ系接着剤に代表される熱硬化性接着剤、常温硬化性接着剤(例えば、2液性エポキシ樹脂など)などを利用できる。熱硬化性接着剤は、耐熱性に優れるものが多く、使用可能な温度を高く設定でき、使用温度の範囲が広い積層磁石とすることができる。熱硬化性接着剤を用いる場合には、所定の硬化温度に加熱して、接着剤を硬化する。積層磁石中の接着剤の含有量は、少ないほど積層磁石中における希土類−鉄系合金の占有量が多くなり、磁気特性に優れることから、20質量%以下、更に10質量%以下、特に5質量%以下が好ましい。なお、上述の接着剤が電気絶縁材料である場合、薄板間に存在することで薄板間を電気的に絶縁でき、例えば、渦電流損の低減に寄与すると期待される。
(積層磁石の製造方法)
積層磁石は、所望の形状、大きさの希土類磁石用材料1(薄板)を用意する工程、用意した各薄板に接着剤を塗布する工程、接着剤を塗布した薄板を積層して積層体を形成する工程、適宜、接着剤を硬化する工程、着磁工程を経ることで容易に製造できる。又は、積層磁石は、上述のようにして薄板の積層体を作製した後、液体状の接着剤に積層体を含浸させることで薄板間に接着剤を介在させ、接着剤を硬化した後、着磁することでも製造できる。いずれにしても、結晶磁気異方性を有する希土類磁石の製造にあたり、原料を微細に粉砕したり(特に平均粒径10μm以下に粉砕したり)、成形時などに強磁場の印加が不要であったりするため、上述のような磁気特性に優れる希土類磁石を容易に製造できる。希土類磁石用材料1は、代表的には、上述の原料準備工程と、磁場アニール工程とを経ることで製造できる。積層体の形成にあたり、容器に薄板を収納するという手法を用いれば、薄板の積層状態を容器によって簡単に保持でき、作業性に優れる。
積層磁石は、所望の形状、大きさの希土類磁石用材料1(薄板)を用意する工程、用意した各薄板に接着剤を塗布する工程、接着剤を塗布した薄板を積層して積層体を形成する工程、適宜、接着剤を硬化する工程、着磁工程を経ることで容易に製造できる。又は、積層磁石は、上述のようにして薄板の積層体を作製した後、液体状の接着剤に積層体を含浸させることで薄板間に接着剤を介在させ、接着剤を硬化した後、着磁することでも製造できる。いずれにしても、結晶磁気異方性を有する希土類磁石の製造にあたり、原料を微細に粉砕したり(特に平均粒径10μm以下に粉砕したり)、成形時などに強磁場の印加が不要であったりするため、上述のような磁気特性に優れる希土類磁石を容易に製造できる。希土類磁石用材料1は、代表的には、上述の原料準備工程と、磁場アニール工程とを経ることで製造できる。積層体の形成にあたり、容器に薄板を収納するという手法を用いれば、薄板の積層状態を容器によって簡単に保持でき、作業性に優れる。
(ボンド磁石)
希土類磁石用材料1は、例えば、以下のボンド磁石の原料に利用することができる。ボンド磁石は、希土類磁石用材料1(薄板、粗粉砕された薄板片でもよい)と、希土類磁石用材料1に混合された樹脂とを含む。特に、このボンド磁石は、複数の薄板又は薄板片がその厚さ方向に積層された状態が樹脂によって固定されている。ボンド磁石中に存在する各薄板や各薄板片は、その表面が平行するように積層されているため、各薄板のc軸や各薄板片のc軸は、積層された積層体の表面に直交するように配向しているといえる。その結果、ボンド磁石全体でみれば、薄板又は薄板片の積層方向にc軸が強く配向しているといえる。また、ボンド磁石を構成する各薄板や各薄板片は、希土類磁石用材料1のc軸配向を実質的に維持していることから、例えば、ボンド磁石から樹脂を除去して、各薄板や各薄板片についてピーク強度比Ic/Imaxを測定した場合、0.83以上を満たす。
希土類磁石用材料1は、例えば、以下のボンド磁石の原料に利用することができる。ボンド磁石は、希土類磁石用材料1(薄板、粗粉砕された薄板片でもよい)と、希土類磁石用材料1に混合された樹脂とを含む。特に、このボンド磁石は、複数の薄板又は薄板片がその厚さ方向に積層された状態が樹脂によって固定されている。ボンド磁石中に存在する各薄板や各薄板片は、その表面が平行するように積層されているため、各薄板のc軸や各薄板片のc軸は、積層された積層体の表面に直交するように配向しているといえる。その結果、ボンド磁石全体でみれば、薄板又は薄板片の積層方向にc軸が強く配向しているといえる。また、ボンド磁石を構成する各薄板や各薄板片は、希土類磁石用材料1のc軸配向を実質的に維持していることから、例えば、ボンド磁石から樹脂を除去して、各薄板や各薄板片についてピーク強度比Ic/Imaxを測定した場合、0.83以上を満たす。
ボンド磁石の形状、大きさは、適宜選択することができる。所望の形状、大きさのボンド磁石が得られるように、金型の形状、大きさ、薄板や薄板片及び樹脂の量を選択するとよい。また、大型のボンド磁石を製造し、所望の形状、大きさとなるように切断してもよい。
ボンド磁石に含有される樹脂は、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などが挙げられる。列挙した樹脂を1種又は2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。ボンド磁石中の樹脂の含有量は、少ないほどボンド磁石中における希土類−鉄系合金の占有量が多くなり、磁気特性に優れることから、0.5質量%以上10質量%以下、更に5質量%以下、特に3質量%以下が好ましい。
希土類磁石用材料1を用いて得られたボンド磁石は、磁気特性に優れる。例えば、ボンド磁石を構成する薄板や薄板片の積層方向(成形時の加圧方向)における飽和磁束密度(Bs)が0.95T以上、残留磁束密度(Br)が0.87T超、保磁力(iHc)が670kA/m超、及び最大エネルギー積(BH)maxが110kJ/m3以上の少なくとも一つ、好ましくは少なくとも三つ、より好ましくは全て満たすボンド磁石とすることができる。
(ボンド磁石の製造方法)
ボンド磁石は、所望の形状、大きさの希土類磁石用材料1(薄板)を用意する工程、薄板と樹脂の粉末とを混合した混合物を金型に充填して成形し、磁石素材を製造する工程、着磁工程を経ることで容易に製造できる。希土類磁石用材料1は、代表的には、上述の原料準備工程と、磁場アニール工程とを経ることで製造できる。特に、磁場アニール工程を経て得られた薄板を粗粉砕して、薄板の長さよりも短い薄板片を製造し、この薄板片を用いると、樹脂の粉末と混合し易い上に、混合物を金型に充填し易く好ましい。粗粉砕は、薄板片のアスペクト比L/tが1.5以上を満たすように行う。例えば、篩目サイズが上記磁場アニール工程を経て得られた薄板の厚さの1.5倍以上この薄板のアスペクト比以下である篩を用いることで、アスペクト比L/tが1.5以上の薄板片を容易に製造できる。
ボンド磁石は、所望の形状、大きさの希土類磁石用材料1(薄板)を用意する工程、薄板と樹脂の粉末とを混合した混合物を金型に充填して成形し、磁石素材を製造する工程、着磁工程を経ることで容易に製造できる。希土類磁石用材料1は、代表的には、上述の原料準備工程と、磁場アニール工程とを経ることで製造できる。特に、磁場アニール工程を経て得られた薄板を粗粉砕して、薄板の長さよりも短い薄板片を製造し、この薄板片を用いると、樹脂の粉末と混合し易い上に、混合物を金型に充填し易く好ましい。粗粉砕は、薄板片のアスペクト比L/tが1.5以上を満たすように行う。例えば、篩目サイズが上記磁場アニール工程を経て得られた薄板の厚さの1.5倍以上この薄板のアスペクト比以下である篩を用いることで、アスペクト比L/tが1.5以上の薄板片を容易に製造できる。
樹脂の粉末は、小さい方が、薄板や薄板片と混合し易く好ましい。具体的には、樹脂の粉末は、その平均粒径が薄板(薄板片)の厚さの1/5以下であることが好ましく、上記厚さの1/10以下、更に1/15以下、特に1/20以下とすることができる。具体的な平均粒径は、50μm未満、更に40μm以下、特に10μm以下が挙げられる。小さ過ぎると樹脂の粉末が扱い難いことから、樹脂の粉末の平均粒径は、薄板(薄板片)の厚さの1/200以上、更に1/100以上、又は0.5μm以上、更に1μm以上が好ましい。
更に、金型に上記混合物を充填するとき、弱磁場を印加する、又は振動を与えることで、各薄板や各薄板片をその表面が金型の底面に平行するように配置することができる。即ち、複数の薄板や薄板片をその厚さ方向に積層させられる。特に、粗粉砕した薄板片とすると、弱磁場の印加や振動の付与によって積層状態をより形成し易いと期待される。
上記弱磁場について印加磁場の大きさは、0.01T以上0.1T以下が挙げられる。また、この磁場の印加方向は、金型の底面に平行な方向、即ち成形時の加圧方向に直交する方向とする。ここで、薄板や薄板片は、金型内において、薄板片などの表面の法線が成形時の加圧方向に平行になる平置き状態が安定な状態である。このような薄板片などを複数用意して、金型内に自然落下などによって充填した場合、少なくとも一部の薄板片などは、その表面の法線が成形時の加圧方向に交差した状態、即ち薄板片などの表面が金型底面に対して斜めになった状態で金型内に存在し得る。一方、複数の薄板片などを金型に充填するときに、上述の弱磁場を成形時の加圧方向に直交する方向に印加すると、薄板片などは、薄板片間に、磁力線方向(磁場の印加方向)に対して磁気的なギャップができるだけ存在しない状態が安定する。即ち、薄板片などの長手方向が磁力線方向に平行するように薄板片などが整列する。そのため、充填過程における弱磁場の印加は、平置き状態を安定化することができる。従って、自然落下などによって薄板片などを金型内に充填する場合でも、上記弱磁場の印加によって、最終的に、金型中に充填された薄板や薄板片の表面の法線が、成形時の加圧方向に平行するにように、薄板片などの表面が上記加圧方向に向いた平置き状態を実現できる。
上記弱磁場の印加磁場が小さ過ぎると、平置き状態が安定化し難い。逆に印加磁場が大き過ぎると、薄板や薄板片の表面の法線方向に配向する磁石結晶の磁化容易軸であるc軸が磁場に対して整列しようとする力が、上述の磁気的なギャップを最小化しようとする力よりも大きくなる。すると、薄板や薄板片の表面の法線が磁場の印加方向に平行するように薄板片などが存在したり(縦並び状態になったり)、薄板片などが上述の斜めになった状態に存在したりし易くなる。その結果、平置き状態の積層体が得られなくなる。印加磁場の大きさ(強度)は、上述のc軸の整列が生じない範囲であれば、印加磁場の大きさが大きいほど、積層状態を形成し易く、その結果、磁気特性に優れるボンド磁石を製造できる。従って、上記弱磁場の印加磁場は、0.02T以上、更に0.03T以上が好ましい。上述のc軸の整列(ひいては縦並び状態)が生じないようにするためには、上記弱磁場の印加磁場は0.1T以下が好ましい。印加磁場の大きさを0.09T以下、更に0.08T以下にすると、磁場発生エネルギーを低減でき、製造コストの低減を図ることができる。
振動の付与には、種々の装置を利用できる。例えば、超音波振動装置、ピエゾ素子振動装置、電磁式振動装置などが挙げられる。超音波振動装置といった金型に非接触で振動を付与可能な装置であると、振動装置を金型近傍に配置し易く、製造設備を構築し易い。上述の磁場の印加時間や振動の付与時間は、薄板や薄板片を十分に積層できる範囲で選択するとよい。
混合物を単に金型に充填したり、弱磁場を印加しながら混合物を金型に充填したり、振動を与えながら混合物を金型に充填したりすることで、金型内では、複数の薄板や複数の薄板片がその厚さ方向に積層され、適宜、薄板間や薄板片間、薄板の周囲や薄板片の周囲に樹脂の粉末粒子が介在した状態となる。この状態で加圧成形する。成形時の加圧圧力は、例えば、6ton/cm2以上15ton/cm2以下(588MPa以上1470MPa以下)が挙げられる。成形時の雰囲気は、大気雰囲気とすると、雰囲気制御が容易であり作業性に優れ、非酸化性雰囲気とする薄板片などの酸化を防止できて好ましい。加圧成形によって樹脂の粉末粒子を変形させることで、薄板同士や薄板片同士が樹脂で接合されると共に、薄板片などが積層された状態を樹脂によって固定でき、このような積層体を主体とするボンド磁石用の素材を製造できる。薄板片を用いた場合、上記ボンド磁石用の素材やボンド磁石は、複数の薄板片の積層体が樹脂によって固定された集合体ともいえる。そして、上記積層体は、上述のように積層方向にc軸配向している。このようなボンド磁石の製造方法でも、結晶磁気異方性を有する希土類磁石の製造にあたり、原料を微細に粉砕したり(特に平均粒径10μm以下に粉砕したり)、成形時などに強磁場の印加が不要であったりするため、上述のような磁気特性に優れる希土類磁石を容易に製造できる。なお、熱硬化性樹脂を用いる場合、成形後、樹脂の硬化を行う。
(圧縮磁石)
希土類磁石用材料1は、例えば、以下の圧縮磁石の原料に利用することができる。圧縮磁石は、希土類磁石用材料1(薄板、粗粉砕された薄板片でもよい)が薄板(薄板片)の厚さ方向に積層され、薄板(薄板片)の厚さ方向に圧縮されたものである。複数の薄板や複数の薄板片がその厚さ方向に積層された状態でその厚さ方向(積層方向)に圧縮されていることで、薄板同士や薄板片同士は、圧縮に起因する塑性変形による噛み合いによって、積層状態が維持されている。圧縮磁石中に存在する各薄板(原料の各薄板が圧縮されたもの)や各薄板片(原料の各薄板片が圧縮されたもの)は、その表面が平行するように積層されている。ここで、原料に用いた薄板や薄板片は、圧縮によって厚さが薄くなっているものの、圧縮によってc軸の配向状態は実質的に変化しない。そのため、圧縮磁石中の各薄板のc軸や各薄板片のc軸は、積層された積層体の表面に直交するように配向しているといえる。その結果、圧縮磁石全体でみれば、薄板又は薄板片の積層方向にc軸が強く配向しているといえる。また、圧縮磁石の表面を構成する薄板や薄板片は、原料に用いた希土類磁石用材料1のc軸配向を実質的に維持していることから、例えば、圧縮磁石の表面を構成する薄板や薄板片について、ピーク強度比Ic/Imaxを測定した場合、0.83以上を満たす。
希土類磁石用材料1は、例えば、以下の圧縮磁石の原料に利用することができる。圧縮磁石は、希土類磁石用材料1(薄板、粗粉砕された薄板片でもよい)が薄板(薄板片)の厚さ方向に積層され、薄板(薄板片)の厚さ方向に圧縮されたものである。複数の薄板や複数の薄板片がその厚さ方向に積層された状態でその厚さ方向(積層方向)に圧縮されていることで、薄板同士や薄板片同士は、圧縮に起因する塑性変形による噛み合いによって、積層状態が維持されている。圧縮磁石中に存在する各薄板(原料の各薄板が圧縮されたもの)や各薄板片(原料の各薄板片が圧縮されたもの)は、その表面が平行するように積層されている。ここで、原料に用いた薄板や薄板片は、圧縮によって厚さが薄くなっているものの、圧縮によってc軸の配向状態は実質的に変化しない。そのため、圧縮磁石中の各薄板のc軸や各薄板片のc軸は、積層された積層体の表面に直交するように配向しているといえる。その結果、圧縮磁石全体でみれば、薄板又は薄板片の積層方向にc軸が強く配向しているといえる。また、圧縮磁石の表面を構成する薄板や薄板片は、原料に用いた希土類磁石用材料1のc軸配向を実質的に維持していることから、例えば、圧縮磁石の表面を構成する薄板や薄板片について、ピーク強度比Ic/Imaxを測定した場合、0.83以上を満たす。
圧縮磁石の形状、大きさは、適宜選択することができる。所望の形状、大きさの圧縮磁石が得られるように、金型の形状、大きさ、薄板や薄板片の量を選択するとよい。また、大型の圧縮磁石を製造し、所望の形状、大きさとなるように切断してもよい。
圧縮磁石は、接着剤や樹脂を含有せず、実質的に希土類−鉄系合金で構成されるため、磁気特性に優れる。例えば、圧縮磁石を構成する薄板や薄板片の積層方向(成形時の加圧方向)における飽和磁束密度(Bs)が1.10T超、残留磁束密度(Br)が0.95T以上、保磁力(iHc)が940kA/m以上、及び最大エネルギー積(BH)maxが130kJ/m3以上の少なくとも一つ、好ましくは少なくとも三つ、より好ましくは全て満たす圧縮磁石とすることができる。
(圧縮磁石の製造方法)
圧縮磁石は、所望の形状、大きさの希土類磁石用材料1(薄板)を用意する工程、薄板に水素化処理を施して多相薄板を製造する工程、多相薄板を金型に充填した後、加圧圧縮して圧縮成形体を製造する工程、圧縮成形体に脱水素処理を施して、磁石素材(合金材)を製造する工程、着磁工程を経ることで容易に製造できる。この製造方法は、端的に言うと、特許文献2に記載される、成形前に水素化処理を行い、成形後に脱水素処理を行う製造方法に対して、特定の原料(アスペクト比が大きな薄板)を用いた方法、といえる。希土類磁石用材料1は、代表的には、上述の原料準備工程と、磁場アニール工程とを経ることで製造できる。特に、磁場アニール工程を経て得られた薄板を粗粉砕して、薄板の長さよりも短い薄板片(多相薄板片)を製造し、この多相薄板片を用いると、金型に充填し易く好ましい。粗粉砕は、多相薄板片のアスペクト比L/tが1.5以上を満たすように行う。例えば、篩目サイズが上記磁場アニール工程を経て得られた薄板の厚さの1.5倍以上この薄板のアスペクト比以下である篩を用いることで、アスペクト比L/tが1.5以上の多相薄板片を容易に製造できる。
圧縮磁石は、所望の形状、大きさの希土類磁石用材料1(薄板)を用意する工程、薄板に水素化処理を施して多相薄板を製造する工程、多相薄板を金型に充填した後、加圧圧縮して圧縮成形体を製造する工程、圧縮成形体に脱水素処理を施して、磁石素材(合金材)を製造する工程、着磁工程を経ることで容易に製造できる。この製造方法は、端的に言うと、特許文献2に記載される、成形前に水素化処理を行い、成形後に脱水素処理を行う製造方法に対して、特定の原料(アスペクト比が大きな薄板)を用いた方法、といえる。希土類磁石用材料1は、代表的には、上述の原料準備工程と、磁場アニール工程とを経ることで製造できる。特に、磁場アニール工程を経て得られた薄板を粗粉砕して、薄板の長さよりも短い薄板片(多相薄板片)を製造し、この多相薄板片を用いると、金型に充填し易く好ましい。粗粉砕は、多相薄板片のアスペクト比L/tが1.5以上を満たすように行う。例えば、篩目サイズが上記磁場アニール工程を経て得られた薄板の厚さの1.5倍以上この薄板のアスペクト比以下である篩を用いることで、アスペクト比L/tが1.5以上の多相薄板片を容易に製造できる。
更に、金型に上記多相薄板や上記多相薄板片を充填するとき、ボンド磁石の製造方法の項で述べたように、弱磁場を印加する、又は振動を与えると、各多相薄板や各多相薄板片を、その表面が金型の底面に平行するように配置でき、積層できる。特に、粗粉砕した多相薄板片とすると、弱磁場の印加や振動の付与によって積層状態をより形成し易いと期待される。印加磁場の大きさ、磁場の印加方向、磁場の印加時間、振動の付与装置、振動の付与時間は、ボンド磁石の製造方法の項で述べた事項と同様にすることができる。成形時の加圧圧力は、例えば、6ton/cm2以上15ton/cm2以下(588MPa以上1470MPa以下)が挙げられる。成形時の雰囲気は、大気雰囲気とすると、雰囲気制御が容易であり作業性に優れ、非酸化性雰囲気とする多相薄板片などの酸化を防止できて好ましい。また、金型の内面には、潤滑剤を塗布すると、摩擦を低減できる。
水素化処理の条件は、例えば、以下が挙げられる。雰囲気は、水素元素を含む雰囲気、具体的には、水素(H2)のみの単一雰囲気、水素(H2)とアルゴン(Ar)や窒素(N2)といった不活性ガスとの混合雰囲気が挙げられる。加熱温度は、希土類−鉄系合金の水素不均化温度以上(Nd−Fe−B系合金では650℃以上)、1100℃以下が挙げられる。加熱温度は、水素不均化温度+100℃以上が好ましい。特に、Nd−Fe−B系合金では、加熱温度は750℃以上900℃以下が好ましい。保持時間は、0.5時間以上5時間以下が挙げられる。公知のHD(Hydrogenation Decomposition)処理の条件や、特許文献2に記載される条件を適宜利用できる。
脱水素処理の条件は、例えば、以下が挙げられる。雰囲気は、不活性雰囲気(例えば、ArやN2といった不活性ガス雰囲気)、減圧雰囲気(標準の大気圧よりも圧力が低い真空雰囲気)といった非水素雰囲気が挙げられる。特に、減圧雰囲気は、希土類元素の水素化合物が残存し難くて好ましい。減圧雰囲気とする場合、真空度は100Pa以下、最終真空度は、10Pa以下、更に1Pa以下が挙げられる。加熱温度は、希土類−鉄系合金の再結合温度以上(代表的には700℃以上)が挙げられる。加熱温度を1000℃以下とすると、結晶の成長を抑制して、微細な結晶組織が得られて好ましい。保持時間は、10分以上600分(10時間)以下が挙げられる。公知のDR(Desorption Recombination)処理の条件や、特許文献2に記載される条件を適宜利用できる。例えば、脱水素処理を、圧縮成形体に磁場(例えば、4T以上)を印加した状態で行うことができる。
多相薄板や多相薄板片を単に金型に充填したり、弱磁場を印加しながら多相薄板や多相薄板片を金型に充填したり、振動を与えながら多相薄板や多相薄板片を金型に充填したりすることで、金型内では、複数の多相薄板や複数の多相薄板片がその厚さ方向に積層される。この厚さ方向を成形時の加圧方向とすることで、上述のように相互の噛み合いによって積層状態を固定できる。加圧圧縮後に得られた圧縮成形体に脱水素処理を施しても、上記積層状態を実質的に維持でき、このような積層体を主体とする圧縮磁石用の素材を製造できる。そして、上記積層体は、上述のように積層方向にc軸配向している。このような圧縮磁石の製造方法でも、結晶磁気異方性の希土類磁石の製造にあたり、原料を微細に粉砕したり(特に平均粒径10μm以下に粉砕したり)、成形時などに強磁場の印加が不要であったり、樹脂や接着剤などの固定剤が不要であり、塗布工程や混合工程、硬化工程などを省略できたりするため、上述のような磁気特性に優れる希土類磁石を生産性よく製造できる。
(焼結磁石、及び焼結磁石の製造方法)
希土類磁石用材料1は、例えば、以下の焼結磁石の原料に利用することができる。焼結磁石は、希土類磁石用材料1(薄板)をその厚さ方向に積層した積層体を作製し、この積層体を焼結した後、熱処理を施し、その後に着磁することで製造される。板表面に直交する方向にc軸配向している希土類磁石用材料1を積層した積層体は、積層磁石の項で述べたように、積層方向にc軸が強く配向している。このような積層体を焼結することで、焼結体のc軸配向は、焼結前の積層体のc軸配向を実質的に維持する。そのため、焼結後熱処理前の焼結体や焼結磁石の外表面について、ピーク強度比Ic/Imaxを測定した場合、0.83以上を満たす面が存在し得る。また、焼結後に別途熱処理を施すことで、希土類元素のリッチ相(結晶粒界相)が存在する組織とすることができる。つまり、この焼結磁石は、c軸配向した組織であって、かつ結晶粒界相が存在する組織から構成されることから、磁気特性に優れる。また、焼結磁石は、接着剤や樹脂を含有しておらず実質的に希土類−鉄系合金から構成され、かつ焼結によって上述の圧縮磁石よりも更に緻密化されているため、磁気特性により優れる。例えば、焼結磁石について上述のピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上を満たす面に直交する方向(成形時の加圧方向、焼結前の積層体の積層方向)における飽和磁束密度(Bs)が1.20T以上、残留磁束密度(Br)が1.20T以上、保磁力(iHc)が800kA/m超、及び最大エネルギー積(BH)maxが250kJ/m3以上の少なくとも一つ、好ましくは全て満たす焼結磁石とすることができる。
希土類磁石用材料1は、例えば、以下の焼結磁石の原料に利用することができる。焼結磁石は、希土類磁石用材料1(薄板)をその厚さ方向に積層した積層体を作製し、この積層体を焼結した後、熱処理を施し、その後に着磁することで製造される。板表面に直交する方向にc軸配向している希土類磁石用材料1を積層した積層体は、積層磁石の項で述べたように、積層方向にc軸が強く配向している。このような積層体を焼結することで、焼結体のc軸配向は、焼結前の積層体のc軸配向を実質的に維持する。そのため、焼結後熱処理前の焼結体や焼結磁石の外表面について、ピーク強度比Ic/Imaxを測定した場合、0.83以上を満たす面が存在し得る。また、焼結後に別途熱処理を施すことで、希土類元素のリッチ相(結晶粒界相)が存在する組織とすることができる。つまり、この焼結磁石は、c軸配向した組織であって、かつ結晶粒界相が存在する組織から構成されることから、磁気特性に優れる。また、焼結磁石は、接着剤や樹脂を含有しておらず実質的に希土類−鉄系合金から構成され、かつ焼結によって上述の圧縮磁石よりも更に緻密化されているため、磁気特性により優れる。例えば、焼結磁石について上述のピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上を満たす面に直交する方向(成形時の加圧方向、焼結前の積層体の積層方向)における飽和磁束密度(Bs)が1.20T以上、残留磁束密度(Br)が1.20T以上、保磁力(iHc)が800kA/m超、及び最大エネルギー積(BH)maxが250kJ/m3以上の少なくとも一つ、好ましくは全て満たす焼結磁石とすることができる。
焼結磁石の形状、大きさは、適宜選択することができる。所望の形状、大きさの焼結磁石が得られるように、希土類磁石用材料1(薄板)の形状、大きさ、積層数を選択するとよい。また、大型の希土類磁石用材料1を用いて大型の焼結磁石や焼結体を製造し、所望の形状、大きさとなるように切断してもよい。更に、積層体の形成にあたり、金型成形を行うことができる。この場合、上述のボンド磁石の製造方法の項で述べたように、粗粉砕を行った薄板片を用いて、金型への充填時、弱磁場を印加する又は振動を与えたりすることができる。薄板片の大きさ、粉砕条件、印加磁場の大きさ、磁場の印加方向、磁場の印加時間、振動の付与装置、振動の付与時間は、ボンド磁石の製造方法の項で述べた事項と同様にすることができる。成形時の加圧圧力は、例えば、10MPa以上1000MPa以下が挙げられる。
焼結条件は、例えば、以下が挙げられる。雰囲気は、減圧雰囲気(真空度は100Pa以下、最終真空度は10Pa以下)が挙げられる。加熱温度は、1000℃以上1200℃以下が挙げられる。保持時間は、0.5時間以上10時間以下が挙げられる。焼結時、積層体に荷重を加えることができる。この荷重は、1MPa以上50MPa以下程度が挙げられる。荷重を加えることで、より緻密化し易いと考えられる。
焼結後に施す熱処理は、希土類元素のリッチ相(結晶粒界相)の形成を目的とした時効処理といえる。この熱処理の条件は、例えば、以下が挙げられる。雰囲気は、不活性雰囲気(例えば、ArやN2といった不活性ガス雰囲気)、減圧雰囲気(真空度は100Pa以下、最終真空度は、10Pa以下)が挙げられる。加熱温度は、500℃以上700℃以下が挙げられる。保持時間は、1分以上600分(10時間)以下が挙げられる。
[試験例1]
薄板状のNd−Fe−B合金材に、磁場を印加しながら加熱する熱処理(磁場アニール)を施し、磁場アニール後の薄板について、結晶の配向状態を調べた。
薄板状のNd−Fe−B合金材に、磁場を印加しながら加熱する熱処理(磁場アニール)を施し、磁場アニール後の薄板について、結晶の配向状態を調べた。
ここでは、原料として、32質量%Nd−Fe−1質量%Bという組成の溶湯を用いて、ストリップキャスト法によって、平均厚さが200μmの合金薄板を作製した。得られた合金薄板を3cm角に切断した。切断して得られた合金薄板、即ち、厚さtが200μm、長さLが3cm(30000μm)、アスペクト比L/tが150であるものを原料薄板とした。得られた原料薄板の組成を調べたところ、実質的にNd2Fe14Bであった。組成の分析は、SEM−EDX(エネルギー分散型X線分光法)やEPMA法(電子線マイクロアナライザ)を用いた。この原料薄板(後述する磁場アニールを施していないもの)を試料No.1−100とする。
用意した原料薄板に、その表面に平行な方向に5Tの強磁場を印加した状態で、真空中(減圧雰囲気、真空度が1×10−3Pa)、加熱温度が650℃、保持時間が3時間という条件で磁場アニールを施した。磁場アニール後に得られた薄板の組成を上述の方法と同様にして調べたところ、実質的にNd2Fe14Bであった。また、磁場アニール後に得られた薄板は、原料薄板の厚さt、長さLを実質的に維持しており、アスペクト比L/tが150であった。この熱処理後に得られた薄板を試料No.1−1とする。
図4(A)、図5(A)は、試料No.1−100の原料薄板の表面のSEM写真(500倍)である。図4(A)、図5(A)に示すようにストリップキャスト法によって得られた原料薄板は、多結晶構造であり、各結晶は薄く平たい形状であり(ここでは平均幅が5μm、平均長さが15μm)、層状に重ねられていることが分かる。また、細長く延びる結晶が、原料薄板の表面に概ね平行していることが分かる。更に、各結晶の幅が小さく、微細な結晶組織を有していることが分かる。各結晶は、その周囲を囲むように別の相が存在していることが分かる。この別の相、即ち結晶粒界に存在する相の組成を上述の方法と同様にして調べたところ、理論組成よりもNdの含有量が多いNdのリッチ相が確認できた。なお、平均幅及び平均長さは、SEM写真を画像処理して、画像処理像を用いて求めた。
図4(C)、図5(C)は、原料薄板の表面のSEM−EBSDによる方位マップであり、左にカラースケールを示す。ここでは、結晶の(100)面が強く配向しているほど緑色になり、(001)面が強く配向しているほど、即ちc軸配向しているほど赤色になり、(110)面が強く配向しているほど青色になる(後述する試料No.1−1についても同様である)。
図4(C)は、原料薄板の表面をその表面に平行な方向、即ち側面に直交する方向で評価した(以下、側面評価と呼ぶ)。図4(C)に示すように、側面評価では、原料薄板の表面は、緑色が多く、赤色が実質的に存在しないことが分かる。
図5(C)は、原料薄板の表面をその表面に直交する方向、即ち厚さ方向で評価した(以下、表面評価と呼ぶ)。図5(C)に示すように、表面評価では、原料薄板の表面は、赤色が多くみられることが分かる。
図4(C)及び図5(C)の結果から、試料No.1−100の原料薄板は、その表面に平行な方向にc軸が実質的に配向しておらず、その表面に直交する方向にc軸が配向している、といえる。
図4(B)、図5(B)は、原料薄板に磁場アニールを施した試料No.1−1の薄板の表面のSEM写真(500倍)である。図4(B)、図5(B)に示すように、この薄板は、多結晶構造であり、平均結晶粒径が小さく(ここでは7μm〜10μm)、微細な結晶組織を有していることが分かる。このことから、磁場アニールでは、結晶の成長を抑制して、原料薄板の微細組織を維持できるといえる。また、各結晶は、その周囲を囲むように別の相が存在していることが分かる。この別の相、即ち結晶粒界に存在する相の組成を上述の方法と同様にして調べたところ、Ndのリッチ相が確認できた。なお、平均結晶粒径は、SEM像を画像処理して、画像処理像を用いて求めた。
図4(D)、図5(D)は、原料薄板に磁場アニールを施した試料No.1−1の薄板の表面のSEM−EBSDによる方位マップである。図4(D)は、試料No.1−1の薄板の表面を側面評価した方位マップである。図4(D)に示すように、側面評価では、試料No.1−1の薄板の表面は、緑色が多く、赤色が実質的に存在しないことが分かる。つまり、側面評価では、試料No.1−1の薄板の表面は、原料薄板と実質的に同じ配向状態であることが分かる。
図5(D)は、試料No.1−1の薄板の表面を表面評価した方位マップである。図5(D)に示すように、表面評価では、試料No.1−1の薄板の表面は、赤色が多くみられることが分かる。特に、磁場アニールを施していない試料No.1−100の原料薄板の表面評価(図5(C))と、試料No.1−1の薄板の表面評価とを比較すると、試料No.1−1の薄板の表面は、赤色が増加していることが分かる。
図4(D)及び図5(D)の結果から、磁場アニール後に得られた薄板も、その表面に平行な方向にc軸が実質的に配向しておらず、その表面に直交する方向にc軸が配向しているといえる。また、特定の条件の磁場アニールを施すことで、磁場アニール後に得られた薄板は、その表面に直交する方向にc軸の配向を強められることが分かる。
図6は、試料No.1−1の薄板(磁場アニール有り)の表面、及び試料No.1−100の原料薄板(磁場アニール前)の表面をそれぞれX線回折したときの結晶の各面のピーク強度の分布を示す回折パタンである。横軸は、回折角(2θ)、縦軸は回折強度(cps)を示す。図6に示すように、試料No.1−1は、結晶の(00n)面(ここではn=4,6,8,10)のピーク強度が大きいことが分かる。特に、特定の条件の磁場アニールを施すことで、この磁場アニール前に比較して、結晶の(00n)面のピーク強度を効果的に高められることが分かる。このことから、特定の条件の磁場アニールを施すことで、磁場アニール後に得られた薄板は、その表面に直交する方向にc軸を強く配向できるといえる。
この試験から、回転ロールを用いた凝固法によって得られた合金薄板に特定の条件の磁場アニールを施すことで、板表面に直交する方向にc軸が強く配向した薄板が得られることが確認できた。このような薄板を積層することで、薄板の積層方向にc軸が配向した積層体が得られると期待される。また、この積層体は、希土類磁石の素材に好適に利用できると期待される。
[試験例2]
種々の組成のNd−Fe−B合金薄板を用意し、種々の条件で熱処理を施した薄板を作製し、得られた薄板の表面についてc軸の配向状態を調べた。また、得られた薄板を積層して、積層体を作製し、積層体の磁気特性を調べた。
種々の組成のNd−Fe−B合金薄板を用意し、種々の条件で熱処理を施した薄板を作製し、得られた薄板の表面についてc軸の配向状態を調べた。また、得られた薄板を積層して、積層体を作製し、積層体の磁気特性を調べた。
ここでは、原料として、x質量%Nd−(93.5−x)質量%Fe−5質量%Co−0.5質量%Ga−1.0質量%Bという組成の溶湯を用いて、ストリップキャスト法によって、平均厚さ(設計厚さ)が200μmの合金薄板(原料薄板)を作製した。各試料のNdの含有量x(質量%)を表1に示す。得られた合金薄板の厚さを市販の厚さ測定装置によって測定したところ、200μmであった(測定点30個の平均厚さ)。得られた合金薄板は、長さL及び幅のいずれもが15mm以上である。つまり、合金薄板のアスペクト比L/tは、75以上である。
得られた合金薄板(原料薄板)に、真空中(減圧雰囲気、真空度が0.5×10−3Pa〜1.0×10−3Pa)、表2に示す加熱温度(℃)、表2に示す印加磁場(T)及び印加方向、保持時間が2時間という条件で熱処理を施した。磁場の印加方向が「平行」とは、合金薄板の表面に平行方向に磁場を印加したことを意味する。特に、ここでは、合金薄板の表面において、ストリップキャスト法に用いた回転ロールの幅方向に平行な方向に磁場を印加した。磁場の印加方向が「直交」とは、合金薄板の表面に直交する方向(厚さ方向)に磁場を印加したことを意味する。磁場の印加には、超電導磁石を用いた。
上記熱処理後に得られた各薄板の表面をX線回折して、最大ピーク強度Imaxと、c軸のピーク強度Icとを調べ、ピーク強度比Ic/Imaxを調べた。その結果を表1に示す。ここでは、c軸のピーク強度Icとして、(006)面のピーク強度を調べた。
表1に示すように、試料No.2−4〜No.2−6,No.2−15,No.2−16,No.2−21〜No.2−23はいずれも、c軸が板表面に直交する方向に強く配向していること、具体的にはピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上であることが分かる。
表1の試料No.2−1〜No.2−11に注目すると、試料No.2−1〜No.2−11のうち、希土類−鉄系合金から構成され、アスペクト比L/tが1.5以上である薄板に、その表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理(磁場アニール)を施した試料No.2−4〜No.2−6は、ピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上を満たすことが分かる。また、印加する磁場が大きいほど、ピーク強度比Ic/Imaxが大きく(ここでは、Ic/Imax=1.00)、磁場アニール後に得られた薄板のc軸は、薄板の表面に直交する方向により強く配向することが分かる。このような結果となった理由として、磁場アニール時に、磁化困難軸であるa軸が磁場方向に配列した結果、a軸に直交するc軸が磁場方向に直交する方向(ここでは薄板の表面に直交する方向=厚さ方向)に配向したため、と考えられる。
一方、板表面に平行な方向に磁場を印加した場合でも、磁場の大きさが3T未満と小さければ、c軸が板表面に直交する方向に十分に配向せず、磁場を印加しない場合(試料No.2−1)と同程度の配向状態であることが分かる(試料No.2−2,No.2−3)。他方、板表面に直交する方向に磁場を印加した場合(試料No.2−7〜No.2−11)、印加磁場を大きくしても、c軸が板表面に直交する方向に十分に配向しないことが分かる(ここでは試料No.2−1と同程度の配向状態)。
表1の試料No.2−12〜No.2−19に注目すると、熱処理の加熱温度を600℃以上とした試料No.2−15〜No.2−19は、ピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上を満たし、c軸が、板表面に直交する方向に強く配向していることが分かる。一方、600℃未満であると、ピーク強度比Ic/Imaxが0.60未満であり(試料No.2−12〜No.2−14)、c軸が板表面に直交する方向に十分に配向しているとはいえない。このような結果となった理由として、熱処理時に加熱温度を600℃以上とすると再結晶化し易くなり、磁場エネルギーを受けて、磁化困難軸であるa軸が磁場方向に十分に配列できたため、と考えられる。
表1の試料No.2−20〜No.2−25に注目すると、Ndの含有量を27質量%超とした試料No.2−21〜No.2−25は、ピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上を満たし、c軸が、板表面に直交する方向に強く配向していることが分かる。これらの試料の組成を調べたところ、結晶粒界に希土類元素のリッチ相の存在が確認できた。一方、27質量%以下である試料No.2−20は、ピーク強度比Ic/Imaxが0.70未満であり、c軸が板表面に直交する方向に十分に配向しているとはいえない。試料No.2−20の組成を調べたところ、結晶粒界に希土類元素のリッチ相を実質的に確認できなかった。このような結果となった理由として、Ndの含有量を27質量%超(特に28質量%以上)とすることで、希土類元素のリッチ相が結晶の粒界相として十分に存在できたため、と考えられる。
表2に示す条件の熱処理を施した各試料の薄板(平均厚さ200μm)を15mm角に切断して、正方形状の薄板(アスペクト比L/tは75)とし、これら正方形状の薄板を複数積層して積層体を作製した。ここでは、正方形状の薄板にエポキシ系接着剤を塗布した後、順次、積層していき、積層後、所定の温度に加熱して接着剤を硬化させた。積層体中のエポキシ系接着剤の含有量は、1.5質量%程度である。この積層体に3Tのパルス磁場で着磁した後、各試料の磁気特性を調べた。測定は、BHトレーサ(理研電子株式会社製DCBHトレーサ)を用いて行った。また、測定の評価方向は、着磁後の積層体について、最上又は最下に位置する薄板の表面に直交する方向とした。その結果を表2に示す。ここでは、磁気特性として、飽和磁束密度Bs(T)、残留磁束密度Br(T)、固有保磁力iHc(kA/m)、磁束密度Bと減磁界の大きさHとの積の最大値、即ち最大エネルギー積(BH)max(kJ/m3)を求めた。
表2に示すように、試料No.2−4〜No.2−6,No.2−15,No.2−16,No.2−21〜No.2−23の積層体はいずれも、飽和磁束密度Bs、残留磁束密度Br、固有保磁力iHc、最大エネルギー積(BH)maxのいずれも高く、磁気特性に優れ、角形性にも優れることが分かる。ここでは、Bsは0.95T以上(更に1.00T以上、特に1.05T以上)、Brは0.95T超(更に1.00T以上)、iHcは680kA/m以上、(BH)maxは120kJ/m3以上(更に130kJ/m3以上、特に140kJ/m3以上)である。また、ピーク強度比Ic/Imaxが大きいほど、Br,iHc,(BH)maxのいずれも高くなる傾向にあることが分かる。試料No.2−4〜No.2−6,No.2−15,No.2−16,No.2−21〜No.2−23の積層体を観察したところ、上述の正方形状の薄板がその厚さ方向に積層され、この積層状態が接着剤により固定されていた。従って、積層体を構成する各薄板は、積層前の薄板の厚さt、長さL、アスペクト比L/tを実質的に維持する。また、試料No.2−4〜No.2−6,No.2−15,No.2−16,No.2−21〜No.2−23の積層体の平均結晶粒径を調べたところ、7μm〜10μmであり、10μm以下であった。平均結晶粒径は、各試料の積層体において、最上又は最下に位置する薄板の表面をSEM観察し、SEM像を画像処理して求めた。
表2の試料No.2−1〜No.2−11に注目すると、上述の特定の条件(3T以上、板表面に平行に磁場印加、600℃〜700℃)で熱処理を施した薄板を用いた試料No.2−4〜No.2−6の積層体は、飽和磁束密度Bs、残留磁束密度Br、固有保磁力iHc、最大エネルギー積(BH)maxのいずれも高く、磁気特性に優れ、角形性にも優れることが分かる。
表2の試料No.2−12〜No.2−19に注目すると、熱処理の加熱温度を600℃以上700℃以下とした試料No.2−15,No.2−16は、上述の試料No.2−4〜No.2−6と同様に、飽和磁束密度Bs、残留磁束密度Br、固有保磁力iHc、最大エネルギー積(BH)maxのいずれも高いことが分かる。一方、700℃超とした試料No.2−17〜No.2−19では、試料No.2−15,No.2−16に比較して、特に保磁力及び最大エネルギー積が低くなっている。この理由は、試料No.2−17〜No.2−19の積層体では、積層体を構成する各薄板の結晶が、熱処理時の温度が高過ぎて粗大化したため、と考えられる。試料No.2−17〜No.2−19の積層体の平均結晶粒径を上述と同様にして測定したところ、15μm〜20μmであり、10μm超であった。
表2の試料No.2−20〜No.2−25に注目すると、Ndの含有量を28質量%以上36質量%未満とした試料No.2−21〜No.2−23は、上述の試料No.2−4〜No.2−6と同様に、飽和磁束密度Bs、残留磁束密度Br、固有保磁力iHc、最大エネルギー積(BH)maxのいずれも高いことが分かる。一方、Ndの含有量を36質量%以上とした試料No.2−24,No.2−25では、試料No.2−21〜No.2−23に比較して、保磁力が高いものの、最大エネルギー積が低くなっている。この理由は、試料No.2−24,No.2−25の成形体では、用いた薄板の結晶粒界に希土類元素のリッチ相が過剰に存在したため、と考えられる。
試験例2の結果から、試料No.2−4〜No.2−6,No.2−15,No.2−16,No.2−21〜No.2−23の積層体(着磁後)は、磁気特性に優れ、角形性にも優れることから、永久磁石などに利用される希土類磁石(積層磁石)に好適であるといえる。
[試験例3]
試験例2で作製した試料No.2−5の薄板を用意し、この薄板を粉砕して薄板片を作製し、薄板片と樹脂の粉末とを混合して成形体を作製し、試験例2と同様にして成形体の磁気特性を調べた。
試験例2で作製した試料No.2−5の薄板を用意し、この薄板を粉砕して薄板片を作製し、薄板片と樹脂の粉末とを混合して成形体を作製し、試験例2と同様にして成形体の磁気特性を調べた。
用意した試料No.2−5の薄板は、組成が31質量%Nd−62.5質量%Fe−5質量%Co−0.5質量%Ga−1.0質量%Bであり、厚さが200μmであり、アスペクト比L/tが75以上であり、熱処理条件が、印加磁場:4T,磁場の印加方向:板表面に平行,650℃×2時間,真空中(0.5×10−3Pa〜1.0×10−3Pa)であり、ピーク強度比Ic/Imaxが1.0である。この薄板を、磁器乳鉢を用いて粉砕し、篩で分級した。粉砕及び分級は、窒素雰囲気(酸素濃度が体積割合で2000ppm以下)で行った。用いた篩について、篩目サイズの下限値を表3に示す。ここでは、篩目サイズの下限値よりも大きな薄板片を成形体に用いる。成形体に用いる薄板片のアスペクト比L/tの下限値を表3に示す。薄板片の厚さtは、粉砕前の薄板の厚さtを実質的に維持しており、200μmである。
樹脂の粉末は、PEEK樹脂の粉末であって、表3に示す平均粒径(μm)のものを用意した。樹脂の混合量は、粉砕した薄板片と樹脂の粉末との合計量に対して、3.5質量%となるように調整した。そして、粉砕した薄板片と樹脂の粉末とを十分に混練し、得られた混合物を金型に充填して、加圧圧力を7ton/cm2(686MPa)として成形し、直径10mmφ×高さ10mmの円柱状の成形体を得た。特に、金型に混合物を充填するとき、表3に示す大きさの磁場を印加すること、又は振動を与えることを行った。充填時の条件を表3に示す。磁場の印加方向は、成形時の加圧方向に直交する方向とした。振動の付与は、市販の超音波振動装置を用いて行った。なお、試料No.3−13は、磁場を印加せず、かつ振動も与えずに金型に混合物を充填した試料である。
作製した円柱状の成形体に、3Tのパルス磁場で着磁した後、各試料の磁気特性(飽和磁束密度Bs(T)、残留磁束密度Br(T)、固有保磁力iHc(kA/m)、最大エネルギー積(BH)max(kJ/m3))を調べた。その結果を表3に示す。測定には、試験例2と同じBHトレーサを用いた。測定の評価方向は、着磁後の成形体の加圧面(成形時のパンチが接していた面、ここでは円柱の端面)に直交する方向とした。この評価方向は、ここでは加圧成形時の加圧方向に平行な方向であり、金型への充填時の磁場の印加方向に直交する方向である。
表3に示すように、試料No.3−4〜No.3−9,No.3−15〜No.3−18,No.3−22の成形体はいずれも、飽和磁束密度Bs、残留磁束密度Br、固有保磁力iHc、最大エネルギー積(BH)maxのいずれも高く、磁気特性に優れ、角形性にも優れることが分かる。ここでは、Bsは0.95T以上、Brは0.87T超(更に0.88T以上)、iHcは680kA/m以上、(BH)maxは110kJ/m3以上(更に120kJ/m3以上、特に130kJ/m3以上)である。試料No.3−4〜No.3−9,No.3−15〜No.3−18,No.3−22の成形体を観察したところ、上述のアスペクト比L/tの薄板片と樹脂とが混合された成形体であり、上記薄板片がその厚さ方向に積層された状態(円柱の高さ方向に積層された状態)が上記樹脂によって固定された積層体が複数存在し、これら複数の積層体の集合体(組物)であった。また、この積層された薄板片の表面は、成形体の加圧面(円柱の端面)に実質的に平行に存在していることを確認した。更に、試料No.3−4〜No.3−9,No.3−15〜No.3−18,No.3−22の成形体から薄板片を取り出し、試験例2と同様にして平均結晶粒径を調べたところ、6μm〜10μmであり、10μm以下であった。抜き出した薄板片は、樹脂の粉末に混合する前の薄板片の厚さt、長さL、アスペクト比L/tを実質的に維持する。
表3の試料No.3−1〜No.3−6に注目すると、上述した特定の条件で熱処理(磁場アニール)を施した薄板を粗粉砕し、アスペクト比L/tが1.5以上の薄板片と、平均粒径gが薄板片の厚さtの1/5以下(0.2以下)である樹脂の粉末とを用い、薄板片と樹脂の粉末との混合物を金型に充填するときに、0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を与えた試料No.3−4〜No.3−6の成形体は、飽和磁束密度Bs、残留磁束密度Br、固有保磁力iHc、最大エネルギー積(BH)maxのいずれも高く、磁気特性に優れ、角形性にも優れることが分かる。この理由は、弱磁場を印加する又は振動を付与することで、金型内で薄板片がその厚さ方向に積層された状態となり、この積層状態が樹脂によって固定されたため、と考えられる。一方、アスペクト比L/tが1.5未満の薄板片を用いた試料No.3−1〜No.3−3では、試料No.3−4〜No.3−6に比較して、特に最大エネルギー積が低くなっている。この理由は、試料No.3−1〜No.3−3の成形体では、c軸配向した薄板片を用いていても、各薄板片の表面が成形体の加圧面に非平行に存在する薄板片が多くなったため、と考えられる。また、薄板片の表面が加圧面に非平行に存在する薄板片が多くなった理由は、以下のように考えられる。これらの薄板片は、アスペクト比が小さく、長手方向の大きさと厚さとが等しい立方体状又は立方体に近い直方体状であり、安定した立体形状であることから、重力による影響を受け易い。また、このような形状の薄板片は、その長手方向でも厚さ方向でも磁気的なギャップの存在状態が大きく変化しない。そのため、弱磁場の印加によって、薄板片の長手方向が磁場の印加方向に平行するように薄板片が揃う力よりも、c軸が磁場の印加方向に揃う力が小さくなるような状態が存在せず、c軸が磁場に対して整列しようとする力が大きな状態になる。これらの理由によって、立方体状などの薄板片はその表面が加圧方向に平行する状態に配置され難くなる結果、上述の積層状態が形成し難かったため、と考えられる。
表3の試料No.3−7〜No.3−12に注目すると、混合する樹脂の粉末の平均粒径を薄板片の厚さtの1/5以下とした試料No.3−7〜No.3−9は、上述の試料No.3−4〜No.3−6と同様に、飽和磁束密度Bs、残留磁束密度Br、固有保磁力iHc、最大エネルギー積(BH)maxのいずれも高いことが分かる。一方、樹脂の粉末の平均粒径を薄板片の厚さtの1/5超(0.2超)とした試料No.3−10〜No.3−12では、試料No.3−7〜No.3−9に比較して、特に飽和磁束密度及び最大エネルギー積が低くなっている。この理由は、飽和磁束密度については、試料No.3−10〜No.3−12の成形体では、成形時、粗大な樹脂の粉末を起点して薄板片が回転して、薄板片の表面が加圧方向に対して斜めになった状態で成形されるなどして、配向が乱れたため、と考えられる。最大エネルギー積については、試料No.3−10〜No.3−12の成形体では、非磁性材である樹脂の粉末粒子が大き過ぎて、薄板片間に介在する樹脂厚さが大きくなり、磁性材である薄板片間の距離が大きくなったため、と考えられる。試料No.3−7〜No.3−12の薄板片間の距離を測定したところ、試料No.3−7〜No.3−9では、5μm〜30μmであった。試料No.3−10〜No.3−12では、40μm〜80μmであり、試料No.3−7〜No.3−9よりも大きかった。
表3の試料No.3−13〜No.3−22に注目すると、成形時に0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を付与する、といういずれかの操作を行った試料No.3−15〜No.3−18,No.3−22は、上述の試料No.3−4〜No.3−6と同様に、飽和磁束密度Bs、残留磁束密度Br、固有保磁力iHc、最大エネルギー積(BH)maxのいずれも高いことが分かる。一方、成形時に弱磁場の印加及び振動の付与の双方を行っていない試料No.3−13、印加した磁場が0.01T未満である試料No.3−14では、試料No.3−15〜No.3−18に比較して、最大エネルギー積が低くなっている。この理由は、試料No.3−13,No.3−14の成形体では、上述のようにc軸配向した薄板片を用いていても、金型内に自然落下などして積み重なったときに各薄板片の表面が成形体の加圧面に非平行に存在する薄板片がが生じることを避けられなかったため、と考えられる。他方、成形時に0.1T超の磁場を印加した試料No.3−19〜No.3−21も、試料No.3−15〜No.3−18に比較して、最大エネルギー積が低くなっている。この理由は、印加磁場が大き過ぎることで、薄板片がその形状に基づき最も安定した配置状態(ここでは、薄板片の表面が鉛直方向に向く平置き状態)となるように作用する重力によって平置き状態となったり、磁気的なギャップを最小にしようとしたりする作用よりも、c軸を整列する作用が大きくなり、一部の薄板片がここでの目的とする角度に対して90°異なる方向(ここでは薄板片の表面が鉛直方向に直交する方向に向く縦並び状態)に配列されたため、と考えられる。
試験例3の結果から、試料No.3−4〜No.3−9,No.3−15〜No.3−18,No.3−22の薄板片と樹脂との成形体(着磁後)は、磁気特性に優れ、角形性にも優れることから、永久磁石などに利用される希土類磁石(ボンド磁石)に好適であるといえる。また、この試験結果から、成形時に磁場を印加する場合、0.1T以下といった弱磁場がよいこと、又は磁場の印加に代えて振動の付与でもよいことが確認できた。
[試験例4]
試験例2で作製した試料No.2−5の薄板を用意し、この薄板に水素化処理を施してから、粉砕して薄板片(多相薄板片)を作製し、薄板片を成形した圧縮成形体に脱水素処理を施して合金材を作製し、試験例2と同様にして合金材の磁気特性を調べた。
試験例2で作製した試料No.2−5の薄板を用意し、この薄板に水素化処理を施してから、粉砕して薄板片(多相薄板片)を作製し、薄板片を成形した圧縮成形体に脱水素処理を施して合金材を作製し、試験例2と同様にして合金材の磁気特性を調べた。
用意した試料No.2−5の薄板は、組成が31質量%Nd−62.5質量%Fe−5質量%Co−0.5質量%Ga−1.0質量%Bであり、厚さが200μmであり、アスペクト比L/tが75以上であり、熱処理条件が、印加磁場:4T,磁場の印加方向:板表面に平行,650℃×2時間,真空中(真空度が0.5×10−3Pa〜1.0×10−3Pa)であり、ピーク強度比Ic/Imaxが1.0である。この薄板に、水素のフロー雰囲気中、850℃×2時間の条件で水素化処理を施して、Fe含有成分とNdの水素化合物とが存在する多相組織からなる多相薄板を作製した。
得られた多相薄板を、磁器乳鉢を用いて粉砕し、篩で分級した。粉砕及び分級は、窒素雰囲気(酸素濃度が体積割合で2000ppm以下)で行った。用いた篩について、篩目サイズの下限値を表4に示す。ここでは、篩目サイズの下限値よりも大きな多相薄板片を成形に供する。成形に用いる多相薄板片のアスペクト比L/tの下限値を表4に示す。多相薄板片の厚さtは、水素化処理前の薄板の厚さtを実質的に維持しており、200μmである。
粉砕した多相薄板片を金型に充填して、加圧圧力を10ton/cm2(980MPa)として加圧圧縮し、直径10mmφ×高さ10mmの円柱状の圧縮成形体を得た。特に、金型に多相薄板片を充填するとき、表4に示す大きさの磁場を印加すること、又は振動を与えることを行った。充填時の条件を表4に示す。磁場の印加方向は、成形時の加圧方向に直交する方向とした。振動の付与は、市販の超音波振動装置を用いて行った。なお、試料No.4−7は、磁場を印加せず、かつ振動も与えずに金型に多相薄板片を充填した試料である。各試料の多相薄板片はいずれも、厚さが200μm、長さが100μm以上であったが、Fe含有成分を有することで良好に成形することができた。
作製した円柱状の圧縮成形体を水素雰囲気中に曝し、この水素雰囲気中で820℃まで昇温し、その後、真空引きして(水素雰囲気の圧力を1気圧(0.1MPa)から1×10−7気圧(0.01Pa)まで減圧)、この真空雰囲気で820℃×2時間の条件で脱水素処理を施した。
脱水素処理後に得られた合金材を3Tのパルス磁場で着磁した後、各試料の磁気特性(飽和磁束密度Bs(T)、残留磁束密度Br(T)、固有保磁力iHc(kA/m)、最大エネルギー積(BH)max(kJ/m3))を調べた。その結果を表4に示す。測定には、試験例2と同じBHトレーサを用いた。測定の評価方向は、着磁後の合金材において、成形時にパンチが接していた加圧面(ここでは円柱の端面)に直交する方向とした。この評価方向は、ここでは加圧成形時の加圧方向に平行な方向であり、金型への充填時の磁場の印加方向に直交する方向である。
表4に示すように、試料No.4−4〜No.4−6,No.4−9〜No.4−12,No.4−16の合金材はいずれも、飽和磁束密度Bs、残留磁束密度Br、固有保磁力iHc、最大エネルギー積(BH)maxのいずれも高く、磁気特性に優れ、角形性にも優れることが分かる。ここでは、Bsは1.10T超(更に1.15T以上)、Brは0.95T以上、iHcは940kA/m以上、(BH)maxは130kJ/m3超である。試料No.4−4〜No.4−6,No.4−9〜No.4−12,No.4−16の合金材を観察したところ、複数の薄板片がその厚さ方向に積層され、この積層状態が積層方向の上下に隣り合う薄板片の塑性変形による噛み合いによって固定されていた。このことから、成形に用いた多相薄板片が加圧圧縮によって、各多相薄板片の厚さ方向(円柱の高さ方向)に圧縮されて、この圧縮された状態で脱水素化処理が施されたことが分かる。また、合金材を構成する各薄板片の表面は、円柱の端面(成形時にパンチが接していた加圧面)に実質的に平行に存在していること、合金材を構成する薄板片の積層方向は円柱の高さ方向に平行であることを確認した。更に、合金材を構成する各薄板片はいずれも、成形前に用いた多相薄板片よりも厚さが薄くなっていた。そのため、合金材を構成する各薄板片のアスペクト比は、多相薄板片のアスペクト比よりも大きくなっていた。その他、試料No.4−4〜No.4−6,No.4−9〜No.4−12,No.4−16の合金材について、円柱の端面の平均結晶粒径を試験例2と同様にして調べたところ、4μm〜10μmであり、10μm以下であった。
表4の試料No.4−1〜No.4−6に注目すると、上述した特定の条件で熱処理(磁場アニール)を施した後、水素化処理を施した多相薄板を粗粉砕し、アスペクト比L/tが1.5以上の多相薄板片を金型に充填するときに、0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を与えた試料No.4−4〜No.4−6の合金材は、飽和磁束密度Bs、残留磁束密度Br、固有保磁力iHc、最大エネルギー積(BH)maxのいずれも高く、磁気特性に優れ、角形性にも優れることが分かる。一方、アスペクト比L/tが1.5未満の多相薄板片を用いた試料No.4−1〜No.4−3では、試料No.4−4〜No.4−6に比較して、特に最大エネルギー積が低くなっている。この理由は、試料No.4−1〜No.4−3の合金材では、c軸配向した多相薄板片を用いていても、試験例3と同様に磁気的なギャップを最小にしようとする作用が小さく、c軸配向する作用が大きいことで、多相薄板片の表面がランダムに向いて充填された状態がそのまま維持されり、多相薄板片が縦置き状態又は縦置き状態に近い状態となったりしたままで加圧圧縮したことで、合金材の円形状の端面(上述の加圧面)に非平行に存在する薄板片が多くなったため、と考えられる。
表4の試料No.4−7〜No.4−16に注目すると、成形時に0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を付与する、といういずれかの操作を行った試料No.4−9〜No.4−12,No.4−16は、上述の試料No.4−4〜No.4−6と同様に、飽和磁束密度Bs、残留磁束密度Br、固有保磁力iHc、最大エネルギー積(BH)maxのいずれも高いことが分かる。一方、成形時に弱磁場の印加及び振動の付与の双方を行っていない試料No.4−7、印加した磁場が0.01T未満である試料No.4−8では、試料No.4−9〜No.4−12に比較して、最大エネルギー積が低くなっている。この理由は、試料No.4−7,No.4−8の合金材では、上述のようにc軸配向した多相薄板片を用いていても、金型内に自然落下などして積み重なったときに各多相薄板片の表面が加圧面に非平行に存在する多相薄板片が生じることを避けられなかったため、と考えられる。他方、成形時に0.1T超の磁場を印加した試料No.4−13〜No.4−15も、試料No.4−9〜No.4−12に比較して、最大エネルギー積が低くなっている。この理由は、印加磁場が大き過ぎることで、多相薄板片がその形状に基づき最も安定した配置状態(ここでは、多相薄板片の表面が加圧方向に向く平置き状態)となるように作用する重力によって平置き状態となったり、磁気的なギャップを最小にしようとしたりする作用よりも、c軸を整列する作用が大きくなり、一部の多相薄板片がここでの目的とする角度に対して90°異なる方向(ここでは多相薄板片が加圧方向に直交する方向に向く縦並び状態)に配列されたため、と考えられる。
この試験例4の結果から、試料No.4−4〜No.4−6,No.4−9〜No.4−12,No.4−16の合金材(着磁後)は、磁気特性に優れ、角形性にも優れることから、永久磁石などに利用される希土類磁石(圧縮磁石)に好適であるといえる。また、この試験結果から、成形時に磁場を印加する場合、0.1T以下といった弱磁場がよいこと、又は磁場の印加に代えて振動の付与でもよいことが確認できた。
[試験例5]
試験例2で作製した試料No.2−5の薄板を用意し、この薄板の積層体を焼結した後、熱処理を施して焼結合金材を作製し、試験例2と同様にして磁気特性を調べた。
試験例2で作製した試料No.2−5の薄板を用意し、この薄板の積層体を焼結した後、熱処理を施して焼結合金材を作製し、試験例2と同様にして磁気特性を調べた。
用意した試料No.2−5の薄板は、組成が31質量%Nd−62.5質量%Fe−5質量%Co−0.5質量%Ga−1.0質量%Bであり、厚さが200μmであり、アスペクト比L/tが75以上であり、熱処理(磁場アニール)条件が、印加磁場:4T,磁場の印加方向:板表面に平行,650℃×2時間,真空中(真空度が0.5×10−3Pa〜1.0×10−3Pa)であり、ピーク強度比Ic/Imaxが1.0である。この薄板を試験例2と同様に15mm角に切断して、正方形状の薄板(アスペクト比L/tは75)とした。正方形状の薄板を複数用意して積層し、積層体を作製した。ここでは、各薄板がその厚さ方向に積層された状態を保持できるように、内寸が15mm角の容器に薄板を収納していき、積層体を得た。
得られた積層体を真空中(減圧雰囲気、真空度が1×10−3Pa)、1100℃×1時間という条件で焼結を施した。得られた焼結体に、真空中(減圧雰囲気、真空度が1×10−3Pa)、600℃×1時間という条件で熱処理(結晶粒界相の形成を目的とする時効処理)を施した。
上記熱処理(結晶粒界相の形成を目的とする時効処理)後に得られた焼結合金材を3Tのパルス磁場で着磁した後、磁気特性(飽和磁束密度Bs(T)、残留磁束密度Br(T)、固有保磁力iHc(kA/m)、最大エネルギー積(BH)max(kJ/m3))を調べた。その結果を表5に示す。測定には、試験例2と同じBHトレーサを用いた。測定の評価方向は、着磁後の焼結合金材において、円柱の端面に直交する方向とした。この評価方向は、ここでは上記積層体の積層方向に平行な方向である。
表5に示すように試料No.5−1の焼結合金材(着磁後)は、試験例2で作製した積層体(着磁後)よりも、飽和磁束密度Bs(T)、残留磁束密度Br(T)、固有保磁力iHc(kA/m)、及び最大エネルギー積(BH)max(kJ/m3)のいずれも高く、磁気特性に優れていることが分かる。特に、試料No.5−1の焼結合金材(着磁後)は、保磁力及び最大エネルギー積が非常に高く、角形性にも非常に優れることが分かる。従って、試料No.5−1の焼結合金材(着磁後)は、このような磁気特性が求められる永久磁石などに利用される希土類磁石(焼結磁石)に好適であるといえる。
本発明の積層磁石、本発明のボンド磁石、本発明の圧縮磁石、本発明の焼結磁石はいずもれ、永久磁石、例えば、各種のモータ、特に、ハイブリッド自動車やハードディスクドライブなどに具備される高速モータに用いられる永久磁石に好適に利用することができる。本発明の希土類磁石用材料は、上述の永久磁石に利用される希土類磁石の原料に好適に利用することができる。本発明の希土類磁石用材料の製造方法は、上記希土類磁石用材料の製造に利用することができる。本発明のボンド磁石の製造方法は、ボンド磁石の製造に利用することができる。本発明の圧縮磁石の製造方法は、希土類−鉄系合金を水素化したものを加圧圧縮した後、脱水素処理を施して得られる圧縮磁石の製造に利用することができる。
1 希土類磁石用材料 1f 薄板の表面 1s 薄板の側面
10B,10C 結晶 10S セル結晶 10c 単位格子
100A,100B,100C 金属
100L 液体状のNd−Fe−B系合金
100RL 希土類元素のリッチ相(液相)
100Rs 希土類元素のリッチ相(固相)
200 回転ロール
10B,10C 結晶 10S セル結晶 10c 単位格子
100A,100B,100C 金属
100L 液体状のNd−Fe−B系合金
100RL 希土類元素のリッチ相(液相)
100Rs 希土類元素のリッチ相(固相)
200 回転ロール
Claims (11)
- 以下の特性を備える希土類磁石用材料。
(1) 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成された薄板である。
(2) 前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、前記アスペクト比L/tが1.5以上である。
(3) 前記薄板の表面における前記希土類−鉄系合金の結晶のX線回折の最大ピーク強度をImaxとし、前記希土類−鉄系合金の結晶格子のc軸におけるX線回折のピーク強度をIcとし、Ic/Imaxをピーク強度比とするとき、前記ピーク強度比Ic/Imaxが0.83以上である。 - 前記薄板の厚さは、50μm以上500μm以下である請求項1に記載の希土類磁石用材料。
- 前記薄板の長さは、300μm以上である請求項1又は請求項2に記載の希土類磁石用材料。
- 前記希土類−鉄系合金における希土類元素の含有量は、28質量%以上36質量%未満である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の希土類磁石用材料。
- 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の希土類磁石用材料が前記薄板の厚さ方向に積層された積層体と、前記積層体を固定する接着剤とを含む積層磁石。
- 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の希土類磁石用材料と、前記希土類磁石用材料に混合されて、前記希土類磁石用材料を前記薄板の厚さ方向に積層された状態で固定する樹脂とを含むボンド磁石。
- 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の希土類磁石用材料が前記薄板の厚さ方向に積層された状態で前記薄板の厚さ方向に圧縮されている圧縮磁石。
- 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の希土類磁石用材料を前記薄板の厚さ方向に積層した積層体を焼結した後、熱処理を施して製造された焼結磁石。
- 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する工程と、
前記原料薄板に、前記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理を施す工程とを備える希土類磁石用材料の製造方法。 - 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する工程と、
前記原料薄板に、前記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理を施す工程と、
前記熱処理が施された原料薄板を粗粉砕して前記原料薄板よりも長さが短く、かつ前記アスペクト比が1.5以上である薄板片を製造する工程と、
前記薄板片と、平均粒径が前記薄板片の厚さの1/5以下である樹脂の粉末とを混合した混合物を金型に充填して成形して磁石素材を製造する工程とを備え、
前記金型に前記混合物を充填するとき、前記混合物に0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を与えて、複数の前記薄板片をその厚さ方向に積層させ、この積層状態を前記樹脂によって固定するボンド磁石の製造方法。 - 希土類元素と鉄族元素とを含む希土類−鉄系合金から構成され、回転ロールを用いた凝固法によって製造された薄板であり、前記薄板の厚さをtとし、前記薄板の長さをLとし、L/tをアスペクト比とするとき、アスペクト比L/tが1.5以上である原料薄板を用意する工程と、
前記原料薄板に、前記原料薄板の表面に平行な方向に3T以上の強磁場を印加しながら、加熱温度を600℃以上700℃以下とする熱処理を施す工程と、
前記熱処理が施された原料薄板に、水素化処理を施して多相薄板を製造する工程と、
前記多相薄板を粗粉砕して前記多相薄板よりも長さが短く、かつ前記アスペクト比が1.5以上である多相薄板片を製造する工程と、
前記多相薄板片を金型に充填した後、加圧圧縮して圧縮成形体を製造する工程と、
前記圧縮成形体に脱水素処理を施して、磁石素材を製造する工程とを備え、
前記金型に前記多相薄板片を充填するとき、前記多相薄板片に0.01T以上0.1T以下の弱磁場を印加する、又は振動を与えて、複数の前記多相薄板片をその厚さ方向に積層させ、積層された前記多相薄板片の集合体をその厚さ方向に加圧圧縮する圧縮磁石の製造方法。
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-
2013
- 2013-06-25 JP JP2013133186A patent/JP2015008230A/ja active Pending
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