JP2014043609A - 時効硬化型軟窒化用鋼 - Google Patents

時効硬化型軟窒化用鋼 Download PDF

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Abstract

【課題】成形段階では優れた被削性を有し、軟窒化処理後は高い曲げ疲労強度と優れた耐摩耗性を備える、Mo非添加又はMo含有量を低減した時効硬化型軟窒化用鋼を提供する。
【解決手段】C:0.05〜0.25%、Si:0.10〜0.40%、Mn:1.55〜2.20%、P≦0.08%、S≦0.10%、Al:0.002〜0.05%、Cr:0.02〜0.30%、V:0.10〜0.40%、Ti:0.005〜0.10%及びN≦0.015%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、〔−75+11.6×C+29.3×Mn+75.0×Cr+170×V≧0〕且つ〔0.35+0.55×C−0.25×Cr−2.5×|0.20−V|≧0〕である化学組成を有する。Feの一部に代えて、Mo<0.10%、Cu≦0.30%、Ni≦0.20%のうちの1種以上を含んでもよい。
【選択図】図1

Description

本発明は、熱間鍛造および切削加工により部品形状に成形した後、時効熱処理を施して母材である芯部の強度を向上させ、その後に軟窒化処理を施して使用される、例えば自動車、建設機械などのクランク軸のような機械構造部品の素材として用いられる鋼(以下、「時効硬化型軟窒化用鋼」という。)に関する。詳しくは、本発明は、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後においては良好な被削性を有し、且つ軟窒化処理した後の最終製品段階においては、高い曲げ疲労強度および優れた耐摩耗性を備える、時効硬化型軟窒化用鋼に関する。
自動車や建設機械に用いられるクランク軸には、高い曲げ疲労強度が要求される。
クランク軸に高い曲げ疲労強度が要求される場合には、摺動部の面圧が高くなるため、良好な耐摩耗性も要求される。
高い曲げ疲労強度と優れた耐摩耗性の双方が要求される機械構造部品の表面硬化処理として、これまでは、高周波焼入れ処理または浸炭焼入れ処理が採用されることが殆どであった。
しかしながら、前述の高周波焼入れ処理と浸炭焼入れ処理は、いずれも熱処理ひずみが大きい。このため、熱処理ひずみが少ない表面硬化処理として、軟窒化処理の採用が望まれ、例えば、Moを多く含む鋼が用いられてきた。
一方、表面硬化処理として軟窒化処理を採用するために、高価なMoを多く含む鋼を素材として用いることは、経済性の観点から好ましいとはいえない。そのため、軟窒化処理を採用した場合でも上記の要求特性を満足し、且つ高価なMoの含有量を低減した、経済性に優れた鋼が求められている。
軟窒化処理はAc1点以下の温度でN(窒素)とC(炭素)を拡散浸透処理するものであり、上述の理由から、近年適用される機械構造部品が増えている。
軟窒化処理を施した部品の表面には、ナイタル腐食により白く観察される10〜30μm程度の深さの化合物層(主にFe3N等の窒化物からなる層)が、また、上記の化合物層と母材(生地)の間には、拡散浸透したNにより硬化された数100μm深さの拡散層が形成される。
化合物層は、500HV以上の高い硬さを有する層であり、耐摩耗性を高める効果を有する。
しかし、摺動部の面圧が高くなると、摺動部の化合物層は、拡散層に達するほど大きく剥離する。その結果、剥離した化合物層の破片が摺動部において研磨剤のごとく作用して、摺動部の摩耗が著しく進むことがある。
したがって、表面硬化処理として軟窒化処理が施される機械構造部品には、所望の耐摩耗性を確保するため、化合物層の耐剥離性にも優れることが求められる。
また、クランク軸は一般に、熱間鍛造により成形され、その後、切削加工によって所定の製品形状に仕上げられる。このため、その素材となる鋼には、最終製品段階において高い疲労強度および優れた耐摩耗性を具備するだけでなく、成形段階での良好な被削性を備えることが求められる。
そこで、軟窒化処理した後の最終製品段階においては、高い疲労強度と優れた耐摩耗性を確保でき、且つ時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後においては、良好な被削性を確保するために硬さを低く抑えることができる技術が、特許文献1および特許文献2に開示されている。
具体的には、特許文献1に、質量比にして、C:0.15〜0.45%、Si:0.50%以下、Mn:0.50〜2.00%、Cr:0.50〜2.00%、Mo:0.10〜1.00%、V:0.02〜0.50%、Al:0.030%以下、N:0.0080〜0.0200%、O:0.0020%以下を含有し、必要に応じて、S:0.30%以下、Pb:0.30%以下、Ca:0.0005〜0.0050%のうち1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不純物元素からなることを特徴とする「軟窒化用鋼」が開示されている。
特許文献2に、質量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.01〜0.3%、Mn:0.01〜0.5%、Cr:0.01〜0.5%、Mo:1〜3%、Al:0.001〜0.3%およびN:0.005〜0.025%を含有し、必要に応じて、Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Pb:0.30%以下、S:0.20%以下、Ca:0.01%以下、Bi:0.30%以下、Ti:0.02%以下、Zr:0.02%以下、Mg:0.01%以下およびV:0.1%未満のうちの1種以上を含有し、残部がFeおよび不純物からなる合金組成を有し、(ただし、C量とMo量の間に、〔Mo/10≧C≧Mo/16〕で表される関係が成り立ち、)且つ、〔Bs=830−270C−90Mn−37Ni−70Cr−83Mo〕により決定されるベイナイト変態開始温度Bs(℃)が540℃以上であることを特徴とする「高強度軟窒化鋼」および、上述した合金組成をもつ高強度軟窒化鋼を、950℃以下の温度における熱間鍛造によりクランクシャフトの形状に成形し、焼きならし後空冷して[フェライト+ベイナイト]組織とすることによって、焼きならし後の芯部硬さが300HV以下のクランクシャフト素材を得、軟窒化処理の後、必要な仕上げ加工を施してなる「クランクシャフト」が開示されている。
特開平6−25797号公報 特開2004−332018号公報
特許文献1に開示されている軟窒化用鋼は、実施例に記載されているとおり、軟窒化層の深さは高々0.25mmであって浅い。したがって、上記の鋼では、最終製品段階で高い疲労強度を達成することはできない。また、Moを多く含有量させる場合には、経済性の観点から必ずしも好ましい鋼とはいえない。
特許文献2に開示されている高強度軟窒化鋼を素材としたクランクシャフトは、耐摩耗性について何ら言及されていない。さらに、上記の高強度軟窒化鋼は、Moの含有量が1〜3%と極めて多いため、経済性の観点から望ましい鋼ではない。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、成分コスト低減のために、Moを非添加またはその含有量を極力低減し、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後においては優れた被削性を有し、且つ軟窒化処理した後の最終製品段階においては高い曲げ疲労強度および優れた耐摩耗性を備え、自動車、建設機械などの軟窒化クランク軸等の機械構造部品の素材として用いるのに好適な、時効硬化型軟窒化用鋼を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記した課題を解決するために、種々の検討を行った。その結果、先ず下記(a)〜(d)の事項が明らかになった。
(a)軟窒化処理後の最終製品段階における曲げ疲労強度を向上させるためには、前述した化合物層と母材(生地)の間の、表層に形成される「拡散層」の硬さを高めることが有効である。しかし、いたずらに拡散層の硬さ、すなわち表層硬さのみを高めても、例えば、硬さが芯部と同等となる軟窒化層直下のような、内部を起点とした破壊が生じるようになるので、曲げ疲労強度の向上効果は飽和する。そのため、軟窒化処理後に高い曲げ疲労強度を確保させる場合、拡散層の硬さ、すなわち表層硬さに加え、芯部硬さおよび軟窒化層深さを併せて高める必要がある。
(b)一方、軟窒化処理した後の最終製品段階での芯部硬さを高め、且つ時効熱処理前である部品形状への成形段階において良好な被削性を確保するためには、時効熱処理前の硬さを軟窒化処理後の芯部硬さに比べて低くすることが望ましい。そのためには、時効熱処理中に析出して硬化に寄与する元素であるVを、時効熱処理前にマトリックス中に十分固溶させておく必要がある。しかし、Vは、オーステナイトがフェライトへ変態する際に、相界面でVCとして析出しやすい。このため、熱間鍛造後の冷却中に初析フェライトが多量に生成した場合には、時効熱処理によって鋼を所望の硬さに硬化するのに必要な量の固溶Vが確保できなくなる。上記の問題を回避するためには、熱間鍛造後の組織におけるベイナイトの面積率を高める必要がある。
(c)摺動部の面圧が高い使用環境においては、軟窒化処理した機械構造部品の摺動摩耗は、拡散層に達するほど深く剥離した化合物層によって進行する。したがって、このような摩耗を抑制するために、化合物層の耐剥離性を高める必要がある。
(d)軟窒化処理すると、化合物層の表面近傍には、緻密度が低い、スポンジ状のいわゆる「ポーラス層」が形成され、化合物層の剥離は、強度が低いポーラス層を起点として発生する。そのため、化合物層の耐剥離性を高めるためには、化合物層の緻密度を向上させることが効果的であり、緻密度が高い化合物層は、緻密度が低い化合物層と比較して硬さが高い。したがって、化合物層の耐剥離性を高めるためには、化合物層の硬さを高めることが有効である。
そこで、本発明者らは、上記(a)〜(d)をベースにして、詳細な検討を重ねた。その結果、下記(e)〜(g)の事項が明らかになった。
(e)最終製品段階において、高い曲げ疲労強度を達成するためには、軟窒化処理後、表層硬さを420HV以上、芯部硬さを220HV以上、且つ軟窒化層深さを0.35mm以上とする必要がある。なお、「表層硬さ」とは、表面から0.05mmの深さ位置の硬さを指す。また、「軟窒化層深さ」とは、生地と比較して硬さの差違が区別できない点に至るまでの表面からの距離を指す。
(f)最終製品に対して、高い曲げ疲労強度が要求される使用環境下で、実用上問題とならない耐摩耗性を確保するためには、化合物層の硬さを785HV以上とする必要がある。
(g)軟窒化処理後の芯部硬さを220HV以上に高め、且つ部品形状への成形段階において良好な被削性を確保するためには、時効熱処理前の硬さを軟窒化処理後の芯部硬さに比べて、少なくとも20HV低くすることが望ましい。そのためには、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の組織におけるベイナイトの面積率を40%以上とする必要がある。なお、ベイナイトの「面積率」とは、後述の方法により、鋼材の断面の二次元写真から同定したベイナイトが鋼の組織中で占める割合を意味する。
そこでさらに、本発明者らは詳細な検討を加えた。その結果、下記(h)〜(m)の知見を得た。
(h)Vは、軟窒化処理後の表層硬さ、化合物層の硬さおよび、時効熱処理前と軟窒化処理後との芯部硬さの差を大きくするだけでなく、軟窒化層の深さ方向の硬さ分布にも著しい影響を及ぼす極めて重要な元素である。Cr、Ti、Alなどの元素の含有量が比較的少なく、且つ特定量のVを含有する鋼は、Vを含有しない鋼と比較して、軟窒化層深さが深くなり、さらに軟窒化層の芯部側の硬さがより高くなる。しかし、Vの含有量が多すぎると、表層硬さはさらに高くなるものの、軟窒化層の深さについては逆に浅くなってしまう。したがって、所望の疲労強度を得るために必要な軟窒化層深さと表層硬さの双方を具備させるためには、Vの含有量を適切な範囲に制御することが求められる。
(i)Tiは、鋼中のNと結合し、窒化物として析出することで、鋼中の固溶N量を減少させ、熱間鍛造中、およびその後の冷却時に固溶VがVNとして析出することを抑制する。その結果、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の硬さの過度な上昇が抑制される。しかし、Tiの含有量が過剰な場合には、Tiは、時効熱処理後も母材に固溶した状態となり、軟窒化処理時にVとの複合窒化物を形成することで、表層硬さを高めるものの、軟窒化層深さを浅くする。
(j)Crは、鋼の焼入れ性を高めることで、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の組織におけるベイナイトの面積率を増加させる。また、Crは、含有量の増加に伴って、軟窒化処理後の表層硬さおよび化合物層の硬さを高める。一方、Crは、軟窒化層深さを著しく浅くさせてしまう。そのため、Crの含有量が過剰になると、曲げ疲労強度の低下を招く。
(k)Mnは、鋼の焼入れ性を高めることで、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の組織におけるベイナイトの面積率を増加させる。さらに、Mnは、その含有量の増加に伴い芯部硬さおよび軟窒化処理後の表層硬さを高めることによって曲げ疲労強度の向上に寄与するとともに、化合物層の硬さを高めることによって、化合物層の耐剥離性の向上に寄与する。ただし、Mnの軟窒化層深さに及ぼす影響は小さい。
(l)Cは、鋼の焼入れ性を高めることで時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の組織におけるベイナイトの面積率を増加させる。また、Cは、時効熱処理後の芯部硬さを高めることによって、曲げ疲労強度の向上に寄与する。さらに、Cは、特定の化学組成を有する鋼において、僅かではあるが、化合物層の硬さおよび軟窒化層深さを高める作用を有する。しかし、Cの含有量が過剰になると、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の硬さが高くなって、被削性の低下をきたす。
(m)C、Mn、CrおよびVの含有量を適正な範囲に制御することによって、従来、軟窒化用鋼に含まれていたMoを非添加とした場合でも、軟窒化処理後に高い曲げ疲労強度および優れた耐摩耗性備える軟窒化用鋼を得ることができる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)および(2)に示す時効硬化型軟窒化用鋼にある。
(1)質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0.10〜0.40%、Mn:1.55〜2.20%、P:0.08%以下、S:0.10%以下、Al:0.002〜0.05%、Cr:0.02〜0.30%、V:0.10〜0.40%、Ti:0.005〜0.10%およびN:0.015%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、さらに、下記の、〈1〉式で表されるfn1が0以上、且つ〈2〉式で表されるfn2が0以上である化学組成を有することを特徴とする、時効硬化型軟窒化用鋼。
fn1=−75+11.6×C+29.3×Mn+75.0×Cr+170×V・・・〈1〉
fn2=0.35+0.55×C−0.25×Cr−2.5×|0.20−V|・・・〈2〉
上記の式における各元素記号は、その元素の含有量(質量%)を意味する。
(2)Feの一部に代えて、質量%で、Mo:0.10%未満、Cu:0.30%以下およびNi:0.20%以下のうちの1種以上を含有することを特徴とする、上記(1)に記載の時効硬化型軟窒化用鋼。
残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものを指す。
本発明の時効硬化型軟窒化用鋼は、Moを非添加またはその含有量を低減した低コスト鋼であって、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後においては優れた被削性を有し、且つ軟窒化処理した後の最終製品段階においては高い曲げ疲労強度および優れた耐摩耗性を備える。このため、本発明の低コスト時効硬化型軟窒化用鋼は、自動車、建設機械などの軟窒化クランク軸等の機械構造部品の素材として好適に用いることができる。
質量%で、0.15%C−0.20%Si−1.60%Mn−0.050%P−0.070%S−0.05%Cr−0.010%Al−0.010%Ti−0.009%Nで、残部がFe、Vおよび不純物の鋼において、軟窒化処理後の表層近傍の硬さ推移曲線の形状とV含有量の相関を示す図である。 時効熱処理した直径50mmの棒鋼のR/2部(「R」は丸棒の半径を表す。)から採取した角柱試験片の形状を示す図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 鋼A〜Fについて、軟窒化処理後の化合物層の硬さとfn1(=−75+11.6×C+29.3×Mn+75.0×Cr+170×V)との関係を整理して示す図である。なお、図には、化合物層の硬さを「y」、fn1を「x」として、最小二乗法による線形近似の式(y=0.9934x+785.06)を併記した。 鋼A〜Fについて、軟窒化処理後の軟窒化層深さとfn2(=0.35+0.55×C−0.25×Cr−2.5×|0.20−V|)との関係を整理して示す図である。なお、図には、軟窒化層深さを「y」、fn2を「x」として、最小二乗法による線形近似の式(y=0.9755x+0.3558)を併記した。 実施例で用いた小野式回転曲げ疲労試験片の形状を示す図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 実施例で用いたスクラッチ試験片の形状を示す図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 走査電子顕微鏡で観察して得られた、スクラッチ試験により生じた溝の縁の化合物層の剥離状況の一例を示す図である。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、以下の説明における各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
C:0.05〜0.25%
Cは、焼入れ性を高めることで時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の組織におけるベイナイトの面積率を高める作用を有する。Cは、時効熱処理後の芯部硬さを高めることによって、曲げ疲労強度の向上にも寄与する。こうした効果を得るために、0.05%以上のCを含有させる。しかしながら、Cの含有量が多くなりすぎると、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の硬さが高くなって、被削性の低下をきたす。したがって、Cの含有量を0.05〜0.25%とした。なお、Cの含有量は0.08%以上とすることが望ましく、0.23%以下とすることが望ましい。
Si:0.10〜0.40%
Siは、鋼の溶製時の脱酸剤として必要な元素であり、この効果を得るために0.10%以上のSiを含有させる。しかしながら、Siの含有量が多くなりすぎると、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の硬さが高くなって、被削性の低下をきたす。したがって、Siの含有量を0.10〜0.40%とした。なお、Siの含有量は、0.15%以上とすることが望ましく、0.30%以下とすることが望ましい。
Mn:1.55〜2.20%
Mnは、焼入れ性を高めることで、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の組織におけるベイナイトの面積率を高める作用を有する。Mnは、軟窒化処理後の芯部硬さおよび表層硬さを高めることによって、曲げ疲労強度の向上にも寄与する。こうした効果を得るために、1.55%以上のMnを含有させる。一方、Mnを過度に含有させると経済性の低下を招く。したがって、Mnの含有量を1.55〜2.20%とした。なお、Mnの含有量は、1.70%以上とすることが望ましく、2.10%以下とすることが望ましい。
P:0.08%以下
Pは、不純物として鋼に混入する元素であり、曲げ疲労強度を低下させる。特に、その含有量が0.08%を超えると、曲げ疲労強度の著しい低下をきたす。したがって、Pの含有量を0.08%以下とした。なお、Pの含有量は、0.04%以下とすることが望ましい。
S:0.10%以下
Sは、不純物として鋼に混入する元素である。また、Sを積極的に含有させると、被削性向上効果が得られる。しかし、Sの含有量が高くなって0.10%を超えると、曲げ疲労強度の低下をきたす。したがって、Sの含有量を0.10%以下とした。なお、Sの含有量は、0.08%以下とすることが望ましい。一方、被削性向上効果を必要とする場合には、0.01%以上のSを含有させることが望ましい。
Al:0.002〜0.05%
Alは、鋼の溶製時の脱酸剤として有用な元素であり、この効果を得るために0.002%以上のAlを含有させる。しかし、Alの含有量が高くなって0.05%を超えると、軟窒化層深さが浅くなる。したがって、Alの含有量を0.002〜0.05%とした。なお、Alの含有量は、0.005%以上とすることが望ましく、0.04%以下とすることが望ましい。
Cr:0.02〜0.30%
Crは、焼入れ性を高めることで、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の組織におけるベイナイトの面積率を高める作用を有する。さらに、Crは、軟窒化処理後に、表層硬さを高めることによって曲げ疲労強度を高める作用および化合物層の硬さを高めることによって化合物層の剥離を抑止し、高い曲げ疲労強度が要求される使用環境下での耐摩耗性を確保する作用も有する。こうした効果を得るために、0.02%以上のCrを含有させる。しかし、Crの含有量が0.30%を超えると、軟窒化層深さが著しく浅くなり、曲げ疲労強度の低下をきたす。このため、Crの含有量を0.02〜0.30%とした。なお、Crの含有量は、0.20%以下とすることが望ましい。
V:0.10〜0.40%
Vは、本発明において極めて重要な元素である。Vを時効熱処理の前にマトリックス中に十分固溶させておき、時効熱処理の際にVCとして析出させることができれば、部品形状への成形段階において、良好な被削性を確保することができる。しかも、軟窒化処理した後の最終製品段階においては、芯部硬さおよび表層硬さを高めることができるので曲げ疲労強度が向上し、また、化合物層の硬さが高くなることによって化合物層の剥離が抑止されて、高い曲げ疲労強度が要求される使用環境下での耐摩耗性も確保することができる。さらに、Vは、CrおよびAlの含有量を前述の範囲とし、Tiの含有量を後述の範囲とした鋼において、軟窒化層深さを深くして、最終製品段階における曲げ疲労強度を向上させる作用も有する。上述した効果を得るためには、Vの含有量を0.10%以上とする必要がある。しかしながら、Vの含有量が0.40%を超えると、逆に軟窒化層深さが浅くなることとなって、曲げ疲労強度の低下をきたす。したがって、Vの含有量を0.10〜0.40%とした。なお、Vの含有量は0.15%以上とすることが望ましく、0.20%以上とすれば一層望ましい。また、Vの含有量は0.30%以下とすることが望ましい。
Ti:0.005〜0.10%
Tiは、鋼中のNと結合し、窒化物として析出することで、鋼中の固溶N量を減少させ、熱間鍛造中、およびその後の冷却時に固溶VがVNとして析出することを抑制する。その結果、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の硬さの過度な上昇を抑制することができる。上記の効果を得るためには、0.005%以上のTiを含有させる必要がある。しかし、Tiの含有量が過剰な場合には、Tiは、時効熱処理後も母材に固溶した状態となり、軟窒化処理時にVとの複合窒化物を形成することで、表層硬さを高めるものの、軟窒化層深さが浅くなる。特に、Tiの含有量が0.10%を超えると、軟窒化層深さが浅くなることによって、最終製品段階での曲げ疲労強度の低下が著しくなる。したがって、Tiの含有量を0.005〜0.10%とした。なお、Tiの含有量は、0.010%以上とすることが望ましく、0.05%以下とすることが望ましい。
N:0.015%以下
Nは、不純物として鋼に混入する元素であり、固溶状態のNは、鋼中の固溶Vと結合し、VNとして析出することで、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の硬さを上昇させる。このため、鋼中のNの含有量が高いと、良好な被削性を得ることができない。したがって、Nの含有量を0.015%以下とした。なお、Nの含有量は0.010%以下とすることが望ましい。
本発明の時効硬化型軟窒化用鋼の一つは、上述のCからNまでの元素を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、且つ後述するfn1およびfn2についての条件を満足する化学組成を有するものである。なお、既に述べたように、「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものを指す。
本発明の時効硬化型軟窒化用鋼の他の一つは、上述のFeの一部に代えて、Mo、CuおよびNiのうちの1種以上の元素を含有し、且つfn1およびfn2についての条件を満足する化学組成を有するものである。
Mo、CuおよびNiは、いずれも、芯部硬さを高めて曲げ疲労強度を高める作用を有する。このため、上記の効果を得るために、これらの元素を含有させてもよい。
以下、任意元素である上記のMo、CuおよびNiについて詳しく説明する。
Mo:0.10%未満
Moは、芯部硬さを高めて曲げ疲労強度を高める作用を有する。Moには、焼入れ性を向上させることで、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の組織におけるベイナイトの面積率を高める効果もある。したがって、こうした効果を得るためにMoを含有させてもよい。しかしながら、Moの含有量が多くなると、経済性を著しく損なう。このため、含有させる場合のMoの量に上限を設け、0.10%未満とした。含有させる場合のMoの量は、0.08%以下であることが望ましい。
一方、前記したMoの効果を安定して得るためには、含有させる場合のMoの量は0.03%以上であることが望ましい。
Cu:0.30%以下
Cuは、芯部硬さを高めて曲げ疲労強度を高める作用を有するので、上記の効果を得るためにCuを含有させてもよい。しかし、いたずらにCuの含有量を増加させると経済性が損なわれる。このため、含有させる場合のCuの量に上限を設け、0.30%以下とした。含有させる場合のCuの量は、0.20%以下であることが望ましい。
一方、前記したCuの効果を安定して得るためには、含有させる場合のCuの量は0.05%以上であることが望ましい。
Ni:0.20%以下
Niは、芯部硬さを高めて曲げ疲労強度を高める作用を有する。Niには、焼入れ性を向上させることで、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後の組織におけるベイナイトの面積率を高める効果もある。したがって、こうした効果を得るためにNiを含有させてもよい。しかし、いたずらにNiの含有量を増加させると経済性が損なわれる。このため、含有させる場合のNiの量に上限を設け、0.20%以下とした。含有させる場合のNiの量は、0.15%以下であることが望ましい。
一方、前記したNiの効果を安定して得るためには、含有させる場合のNiの量は0.05%以上であることが望ましい。
上記のMo、CuおよびNiは、そのうちのいずれか1種のみ、または、2種以上の複合で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、0.60%に近い値であってもよいが、0.43%以下であることが望ましい。
fn1:0以上
本発明の時効硬化型軟窒化用鋼は、
fn1=−75+11.6×C+29.3×Mn+75.0×Cr+170×V・・・〈1〉
で表されるfn1が0以上でなければならない。
ただし、〈1〉式におけるC、Mn、CrおよびVは、その元素の質量%での含有量を意味する。
上述した範囲のCからNまでの元素を含有し、必要に応じて、上述した範囲のMo、CuおよびNiのうちの1種以上を含み、残部がFeおよび不純物からなる鋼において、軟窒化処理後の化合物層の硬さは上記のfn1で整理できる。そして、fn1が0以上である場合に、最終製品に対して、高い曲げ疲労強度が要求される使用環境下で、実用上問題とならない耐摩耗性を確保することが可能な、785HV以上の化合物層の硬さが得られる。
fn1は10以上であることが望ましい。またfn1は、C、Mn、CrおよびVの各含有量が上限となる場合の82.86であってもよいが、60以下であることが望ましい。
fn2:0以上
本発明の時効硬化型軟窒化用鋼は、
fn2=0.35+0.55×C−0.25×Cr−2.5×|0.20−V|・・・〈2〉
で表されるfn2が0以上でなければならない。
ただし、〈2〉式におけるC、CrおよびVは、その元素の質量%での含有量を意味する。
上述した範囲のCからNまでの元素を含有し、必要に応じて、上述した範囲のMo、CuおよびNiのうちの1種以上を含み、残部がFeおよび不純物からなる鋼において、軟窒化処理後の軟窒化層深さは上記のfn2で整理できる。そして、fn2が0以上である場合に、最終製品段階において、高い曲げ疲労強度を達成するのに必要な0.35mm以上の軟窒化層深さを得ることができる。
fn2は0.05以上であることが望ましい。またfn2は、大きいほど好ましく、Cの含有量が上限の0.25%、Crの含有量が下限の0.02%、且つVの含有量が0.20%となる場合の0.4825であってもよい。
以下、上記のfn1およびfn2について、さらに詳しく説明する。
図1は、Vを除いた元素の各含有量が既に述べた本発明で規定する範囲にあり、残部がFeおよび不純物からなる鋼の一例として、質量%で、0.15%C−0.20%Si−1.60%Mn−0.050%P−0.070%S−0.05%Cr−0.010%Al−0.010%Ti−0.009%Nの鋼を選び、上記成分系の鋼について、軟窒化処理後の表層近傍の硬さ推移曲線に及ぼすV含有量の影響を整理した図である。V含有量の「−」と「0.45%」は本発明で規定するV含有量の範囲から外れている。
なお、図1の硬さ推移曲線は、JIS Z 2244(2009)に記載の「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、深さ0.05mmから1.00mmまでの連続する位置のビッカース硬さを、試験力2.94N、深さ方向の測定間隔0.05mmの条件で測定して作成した。
図1におけるV含有量が「−」と「0.20%」の場合の比較から、Vは、上記成分系のように、窒化物を形成するCr、Ti、Alなどの元素の含有量が比較的少ない鋼において、軟窒化層深さを深くする作用を有することが明らかである。一方、V含有量が「0.20%」と「0.45%」の場合の比較から、Vの含有量が過剰となった場合には、逆に軟窒化層深さを浅くすることも明らかである。つまり、軟窒化層深さは、V含有量の増加に伴って一旦深くなるが、さらにV含有量を増加した場合には逆に浅くなってしまう。
そこで、Vを除いた元素の各含有量が既に述べた本発明で規定する範囲にあり、残部がFeおよび不純物からなる種々の成分系の鋼で調査した結果、軟窒化層深さが最大となる場合のV含有量が0.20%であることが明らかとなり、また、軟窒化層深さが各鋼のCおよびCrの含有量、ならびにV含有量と0.20%との差の絶対値(つまり、|0.20−V|)で表される〈2〉式と関係することも明らかになった。
そこでさらに、表1に示す化学組成を有する鋼A〜Fを70トン転炉で溶製し、断面の寸法が180mm×180mmの鋼片に分塊圧延した。
上記の鋼を直径90mmの棒鋼に熱間圧延し、さらに、加熱温度1200℃、仕上温度1000〜1050℃の条件で直径50mmの棒鋼に熱間鍛造した。熱間鍛造後は大気中で放冷して室温まで冷却した。
上記のようにして得た直径50mmの各棒鋼について、先ず、620℃で120分の時効熱処理を施し、その後大気中で空冷した。次いで、各棒鋼のR/2部(「R」は棒鋼の半径を表す。)から、図2に示す形状の角柱試験片を採取し、NH3ガス:RXガス=1:1の雰囲気中にて600℃で90分の軟窒化処理を施し、その後水冷した。なお、図2に示した角柱試験片における寸法の単位は全て「mm」である。
上記のようにして得た角柱試験片について、長手方向の中央部を、いわゆる「横断」、すなわち、軸方向(長さ方向)に対して垂直に切断した。その後、切断面が被検面となるようにして樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、ナイタルで腐食して組織を現出させた。次いで、400倍の倍率で光学顕微鏡を用いて、任意の3視野について化合物層の厚さを測定し、それらの算術平均値を「化合物層厚さ」とした。
化合物層厚さを併記した表1から明らかなように、いずれの場合も化合物層厚さは0.015mm以上であった。
このため、上記の鏡面研磨した後、ナイタルで腐食した各試料を用いて、任意の10箇所について、JIS Z 2244(2009)に準拠して、表面から0.010mmの深さのビッカース硬さを、試験力0.098Nの条件で測定し、その値を算術平均して「化合物層の硬さ」とした。
また、上記の各試料を用いて、任意の3箇所について、JIS Z 2244(2009)に準拠して、深さ0.05mmから1.00mmまでの連続する位置のビッカース硬さを試験力2.94N、深さ方向の測定間隔0.05mmの条件で測定して、硬さ推移曲線を作成した。次いで、硬さ推移曲線から、硬さが芯部と同等となる深さを調査し、それらの算術平均値を「軟窒化層深さ」とした。なお、芯部のビッカース硬さ測定も上記2.94Nの試験力で行った。
表1に、上記の化合物層の硬さと軟窒化層深さを併せて示す。また、図3にfn1と化合物層の硬さの関係を、図4にfn2と軟窒化層深さの関係をそれぞれ示す。
図3に示すように、fn1が0以上である場合に、785HV以上の化合物層の硬さが得られる。また、図4に示すように、fn2が0以上である場合に、0.35mm以上の軟窒化層深さを得ることができる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表2に示す化学組成を有する鋼D1〜D13を70トン転炉で溶製し、断面の寸法が180mm×180mmの鋼片に分塊圧延した。
表2における鋼D1〜D7は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。一方、鋼D8〜D13は、化学組成が本発明で規定する条件から外れた鋼である。
上記の鋼を直径90mmの棒鋼に熱間圧延し、さらに、加熱温度1200℃、仕上温度1000〜1050℃の条件で直径50mmの棒鋼に熱間鍛造した。熱間鍛造後は大気中で放冷して室温まで冷却した。
上記のようにして得た直径50mmの棒鋼について、先ず、ベイナイトの面積率を調査した。具体的には、直径50mmの各棒鋼の端部を横断し、切断面が被検面になるようにして樹脂に埋め込み、鏡面研磨した後、ナイタールで腐食して組織を現出させた。その後、100倍の倍率で光学顕微鏡によってR/2部に相当する位置を、任意に5箇所観察して、観察領域の相を同定し、ベイナイトの面積率を調査した。
次に、端部を切断した直径50mmの各棒鋼について、620℃で120分の時効熱処理を施し、その後大気中で空冷した。次いで、各棒鋼のR/2部から、図5に示す形状の小野式回転曲げ疲労試験片と、図6に示す形状のスクラッチ試験片を採取し、NH3ガス:RXガス=1:1の雰囲気中にて600℃で90分の軟窒化処理を施し、その後水冷した。なお、図5および図6に示した各試験片における寸法の単位は全て「mm」である。
上記のようにして得た小野式回転曲げ疲労試験片を用いて、先ず、軟窒化層深さを調査した。具体的には、小野式回転曲げ疲労試験片の溝底部位が切断面になるように中心軸を通っていわゆる「縦断」、すなわち、長さ方向に平行に切断した。その後、切断面が被検面となるようにして樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、任意の3箇所について、JIS Z 2244(2009)に準拠して、深さ0.05mmから1.00mmまでの連続する位置のビッカース硬さを試験力2.94N、深さ方向の測定間隔0.05mmの条件で測定して、硬さ推移曲線を作成した。次いで、硬さ推移曲線から、硬さが芯部と同等となる深さを調査し、それらの算術平均値を「軟窒化層深さ」とした。なお、芯部のビッカース硬さ測定も上記2.94Nの試験力で行った。また、上記任意の3箇所における深さ0.05mmの位置の硬さを算術平均して「表層硬さ」を求めた。
軟窒化層深さの目標は0.35mm以上である。表層硬さの目標は420HV以上である。また、芯部硬さの目標は220HV以上である。
さらに、上記のようにして得た小野式回転曲げ疲労試験片を用いて、室温、大気雰囲気にて、回転数3000rpmの両振りの条件で疲労試験を行い、曲げ疲労強度を調査した。
一方、上記のようにして得たスクラッチ試験片について、先ず、長手方向の中央部を横断し、切断面が被検面となるようにして樹脂に埋め込み、鏡面研磨した後、ナイタルで腐食して組織を現出させた。次いで、400倍の倍率で光学顕微鏡を用いて、任意の3視野について化合物層の厚さを測定し、それらの算術平均値を「化合物層厚さ」とした。その結果、いずれの試験番号の場合も化合物層厚さは0.015mm以上であった。
このため、上記の鏡面研磨した後、ナイタルで腐食した各試料を用いて、任意の10箇所について、JIS Z 2244(2009)に準拠して、表面から0.01mmの深さのビッカース硬さを、試験力0.098Nの条件で測定し、その値を算術平均して「化合物層の硬さ」とした。化合物層の硬さの目標は785HV以上である。
また、上記のようにして得たスクラッチ試験片を用いてスクラッチ試験を実施し、化合物層の耐剥離性を評価した。具体的には、スクラッチ試験片の表面を、70Nの荷重をかけたビッカース圧子で直径20mmの円状に1周スクラッチし、得られた溝を走査電子顕微鏡(以下、「SEM」という。)にて詳細に観察した。図7に、スクラッチ試験により生じた溝の縁の化合物層の剥離状況の一例を示す。なお、上記のSEMによる観察で、溝の縁から100μmを超えるサイズの化合物層の剥離が認められない場合に、化合物層の耐剥離性に優れるとし、これを目標とした。
表3に、上記の各試験結果を併せて示す。なお、表3において、曲げ疲労強度は小野式回転曲げ疲労試験の結果を公称応力により整理したものであり、スクラッチ試験結果は、SEMによる観察で、溝の縁から100μmを超えるサイズの化合物層の剥離が認められなかった場合を「○」、認められた場合を「×」で表記した。
表3から、本発明で規定する条件を満たす「本発明例」に係る試験番号1〜7は、高い曲げ疲労強度と優れた耐摩耗性を有することが明らかである。
これに対して、比較例の試験番号8は、鋼D8のC含有量が0.04%と低く、本発明で規定する条件から外れている。このため、熱間鍛造後の組織におけるベイナイトの面積率が31%と低くなり、さらに軟窒化処理後の芯部硬さも211HVと低くなって、曲げ疲労強度は試験番号1〜7に比べ劣っている。
試験番号9は、鋼D9のMn含有量が1.43%と低く、本発明で規定する条件から外れている。このため、熱間鍛造後の組織におけるベイナイトの面積率が36%と低くなり、さらに軟窒化処理後の芯部硬さも215HVと低くなって、曲げ疲労強度は試験番号1〜7に比べ劣っている。
試験番号10は、鋼D10のCr含有量が0.72%と高く、本発明で規定する条件から外れている。そのため、軟窒化処理後の軟窒化層深さが0.30mmと浅くなって、曲げ疲労強度は試験番号1〜7に比べ劣っている。
試験番号11は、鋼D11のV含有量が0.093%と低く、本発明で規定する条件から外れている。そのため、軟窒化処理後の表層硬さは419HVと低く、芯部硬さも208HVと低くなって、曲げ疲労強度は試験番号1〜7に比べ劣っている。
試験番号12は、鋼D12のfn1が−1.72と低く、本発明で規定する条件から外れている。そのため、軟窒化処理後の化合物層の硬さが780HVと低く、化合物層の耐剥離性に劣るので、スクラッチ試験結果は「×」である。
試験番号13は、鋼D13のfn2が−0.06と低く、本発明で規定する条件から外れている。そのため、軟窒化処理後の軟窒化層深さが0.32mmと浅くなって、曲げ疲労強度は試験番号1〜7に比べ劣っている。
なお、上記の試験番号1〜7については、熱間鍛造して得た直径50mmの棒鋼を送り速度0.25mm、切削速度2.67m/sの条件の旋削加工に供し、被削性を評価した結果、いずれも良好な被削性を有していることを確認した。
本発明の時効硬化型軟窒化用鋼は、Moを非添加またはその含有量を低減した低コスト鋼であって、時効熱処理前である部品形状への成形段階、すなわち熱間鍛造後においては優れた被削性を有し、且つ軟窒化処理した後の最終製品段階においては高い曲げ疲労強度および優れた耐摩耗性を備える。このため、本発明の低コスト時効硬化型軟窒化用鋼は、自動車、建設機械などの軟窒化クランク軸等の機械構造部品の素材として好適に用いることができる。



Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0.10〜0.40%、Mn:1.55〜2.20%、P:0.08%以下、S:0.10%以下、Al:0.002〜0.05%、Cr:0.02〜0.30%、V:0.10〜0.40%、Ti:0.005〜0.10%およびN:0.015%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、さらに、下記の、〈1〉式で表されるfn1が0以上、且つ〈2〉式で表されるfn2が0以上である化学組成を有することを特徴とする、時効硬化型軟窒化用鋼。
    fn1=−75+11.6×C+29.3×Mn+75.0×Cr+170×V・・・〈1〉
    fn2=0.35+0.55×C−0.25×Cr−2.5×|0.20−V|・・・〈2〉
    上記の式における各元素記号は、その元素の含有量(質量%)を意味する。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、Mo:0.10%未満、Cu:0.30%以下およびNi:0.20%以下のうちの1種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の時効硬化型軟窒化用鋼。



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