以下、本発明の実施形態について実施例を交えて説明するが、本発明のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物及びその成形体は、下記の実施形態或いは実施例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは論をまたない。
本発明に係る熱可塑性樹脂は、熱可塑性の高分子化合物であれば特に限定されることなく、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエーテル系樹脂等の中から、用途に応じてセルロース繊維含有熱可塑性樹脂として適宜選択することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン系アイオノマー樹脂、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体、アクリロニトリル−EPDM−スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、1,2−ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアミド6、ポリアミド6−6、共重合ポリアミド6/6−6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアセタール、(変性)ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸−ヒドロキシ吉草酸共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート−アジペート、ポリブチレンサクシネート−テレフタレート、ポリブチレンサクシネート−カーボネート、ポリエチレンテレフタレート−サクシネート、ポリブチレンアジペート−テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート−テレフタレート、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。また、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、エチレン−プロピレン共重合エラストマー、エチレン−ブテン共重合エラストマー、エチレン−ヘキセン共重合エラストマー、エチレン−オクテン共重合エラストマー、エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン−プロピレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の水素添加物、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の水素添加物、ポリエステル−ポリエーテル共重合エラストマー、ポリアミド−ポリエーテル共重合エラストマー、メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン系コア・シェルグラフト共重合体、メタクリル酸エステル−アクリロニトリル−スチレン系コア・シェルグラフト共重合体、アクリル酸エステル系コア・シェルグラフト共重合体等の各種熱可塑性エラストマーを挙げることができる。
さらに、本発明においては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等の各種のゴム系素材も使用することができる。これらの熱可塑性樹脂は、単独でまたは2種類以上を混合して用いることができる。また、これらの重合体を主体とする共重合体もしくは混合物、およびこれらの樹脂を含有するポリマーアロイ等も挙げることができる。かかるポリマーアロイにおいて、非相溶性の樹脂を2種以上組み合わせる場合には、従来公知の相溶化剤を配合することができる。
これらの熱可塑性樹脂材料の中ではポリエチレン、ポリプロピレンなどポリオレフィン系材料が適用される場合が多い。なかでも地球環境に優しい熱可塑性樹脂として好ましいのは非石化原料を出発原料とするポリオレフィンおよびポリ乳酸である。サトウキビ、キャッサバのショ糖、グルコース、澱粉などを還元型発酵でエタノール発酵、プロパノール発酵、ブタノール発酵を通じてエチレン、プロピレンモノマーを生成するプロセス、または木質系バイオマスおよび空気とのガス化プロセスで水素および一酸化炭素を生成しメタノール、ジメチチルエーテルを通じてプロピレンモノマーを得るプロセスがある。現在サトウキビを出発原料とする低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンは市場展開が始まっている。またポリプロピレンも上市されると包装容器分野、自動車部品分野に適用されるものと思われる。これら非石化原料を出発原料とする熱可塑性樹脂を扱う場合においても、リサイクル、リユースされた上での最終焼却処分のことをも考慮すれば、本発明のセルロース複合材料は好ましい材料である。
本発明におけるセルロース繊維を主体とする紙とは、公知の製紙方法によって得られるセルロース繊維を主体とする紙であって、本発明におけるウェブとは、不織布の製造方法として公知の湿式法または乾式法によって形成されるセルロース繊維を主体とするウェブを圧搾及び/又は乾燥したもの、または該ウェブを基材として得られる不織布であって、かつ該紙およびウェブは共に、JIS P8113に規定される引張特性の試験方法により測定される引張強さが5〜1000N/mのものである。
ここで、セルロース繊維は、製紙または不織布用繊維として使用可能な天然由来のセルロース繊維であれば特に限定されることはない。かかる天然セルロース繊維としては、製紙用として最も使用量が多い針葉樹および広葉樹から抽出される木材繊維、綿、カポック等の種子から得られる種子毛繊維、亜麻、大麻、苧麻、黄麻、ケナフ、楮、三椏、雁皮等の靭皮から得られる靭皮繊維、マニラ麻、サイザル麻、パイナップル、バナナ、ネギ、ダイコン等の葉から得られる葉脈・葉柄繊維、麦藁、稲藁、イグサ、竹、葦、シュロ、バカス等の茎幹から得られる茎幹繊維、ココナツ椰子、ヘチマ等の果実から得られる果実繊維などを挙げることができる。また、酢酸菌等の微生物が産生するバクテリアセルロースやホヤの外皮から得られるセルロース繊維のような動物由来のセルロース繊維も包含する。これらのセルロース繊維は1種または2種以上の組み合わせであってもよい。
紙や不織布を製造する上で、その直接的な原料となるのはいわゆるパルプと呼ばれるセルロース繊維の集合体である。針葉樹および広葉樹木材から得られる木材パルプや綿の紡績から出る繊維や綿織物の屑から得られるラグパルプ、綿実の地毛(リンター)から得られるリンターパルプ、亜麻から得られるリネンパルプ、和紙の原料として使用されている楮・三椏・雁皮パルプ、また、近年、森林資源節約の観点から注目されているバカスパルプ、ケナフパルプ、藁パルプ、竹パルプ等の非木材パルプが紙や不織布の原料として用いられている。
その他、新聞、雑誌、ダンボール、損紙、雑紙(オフィス古紙等)などの古紙から得られる古紙パルプも再生紙等の原料に用いられている。さらに、結晶性が高く高剛性を有するバクテリアセルロース繊維やホヤセルロース繊維もスピーカーの音響用振動板(コーン紙)等の原料として用いられている。本発明においては、前記のセルロース繊維を主体とするパルプであれば特に限定されることはないが、生産性の観点から木材パルプを好適に使用することができる。また、非木材パルプとして、紙や不織布としての使用量は少ないものの、農作物として量産され、主に衣料用に利用されている綿繊維を主体とするパルプも好ましい。
製紙用の木材パルプは、その処理方法によって、機械木材パルプおよび化学木材パルプに分類される。機械木材パルプとは、針葉樹の丸太やチップなどを粉砕機等の機械的な力で破砕することによって得られるパルプで、製造コストが安価でパルプ収率が高いものの、繊維長が比較的短くパルプ強度が低い。また、繊維中にリグニンやヘミセルロースなどの木材成分を多く含むため、変色しやすい。粉砕方法によって、粉砕パルプ(SGW)、加圧式粉砕パルプ(PGW)、リファイナー砕木パルプ(RPM)、サーモメカニカルパルプ(TMP)などに分けられる。
化学木材パルプは、針葉樹や広葉樹のチップに化学薬品を加え高温で蒸解処理することによって得られるパルプで、化学反応によってリグニンその他の非繊維素成分が除去され繊維成分が抽出される。化学処理の方法は、使用される薬品によって、ソーダ法(水酸化ナトリウム)、硫酸塩法(水酸化ナトリウムと硫酸ナトリウムの混合物)、亜硫酸塩法(重亜硫酸カルシウムまたは重亜硫酸マグネシウム)などがあり、ソーダ法および硫酸塩法によるパルプはクラフトパルプ(KP)、亜硫酸塩法によるパルプはサルファイトパルプ(SP)と呼ばれている。化学木材パルプは、機械木材パルプより収率が低く高価であるが、同じ原材料から製造された機械木材パルプに比較して繊維長が長くかつセルロース繊維の含有量が多いため、紙にしたときの強度が高く変色しにくいという特徴をもつ。
木材パルプには、これらの他にも機械的なパルプ化工程と化学的なパルプ化工程との組み合わせで製造されるセミケミカルパルプ、ケミグランドパルプがある。さらに、これらの木材パルプは、脱色するために塩素漂白法、酸素漂白法、無塩素漂白法、完全無塩素漂白法等による公知の漂白処理が施されることがあり、漂白されたパルプは晒パルプと呼ばれる。漂白処理によってパルプ繊維は脱色されるが繊維は傷みやすく、一般的に晒パルプは未漂白パルプ(未晒パルプと呼ばれる)に比べ繊維強度は低下している。なお、非木材繊維においても、基本的に木材パルプと同様な機械的な破砕処理や化学的な蒸解処理等によってパルプが得られ、その処理方法は、植物の種類および繊維含有部位等によって適宜選択される。
本発明においては、前記の何れの木材パルプも、単独で又は必要に応じて混合して使用することができるが、セルロース繊維の強化材としての機能を効果的に発現させるため、また熱可塑性樹脂と混練する際の熱劣化や変色の防止のため、繊維長が長く不純物の少ない化学木材パルプが好ましく、中でも、環境、社会、経済の各面を考慮しつつ適切かつ計画的に管理された植林木チップを原料とするクラフトパルプ(KP)が好ましい。
農産物の綿花から得られる綿繊維は、綿の種子の表皮細胞が長く生長したもので、表皮細胞の分裂及び伸長生長する速度の違いから綿繊維に長さの差が生じ、種子の表面はリントと呼ばれる長い繊維とリンターと呼ばれる短い繊維(通常5mm以下)で覆われている。一般的に、リントは綿糸紡績の原料として、リンターはパルプ、銅アンモニア法のキュプラ繊維、火薬、セルロイドなどの原料として用いられるが、本発明においては、両者の何れかまたは両者を組み合わせて用いることができる。綿畑で手摘や綿摘機で収穫された綿花は、乾燥機で水分が取り除かれた後、葉ごみなどの異物が取り除かれ、さらに綿繰機にかけられ種子部が取り除かれる。このとき得られる綿繊維が長繊維のリント部で、種子側に取り残される短い繊維がリンター部である。この綿繰により得られたリント綿は、その殆どがベール状に強く圧縮されて国際貿易上の原綿となる。
この後、原綿は工場の混打綿工程(混打綿機)で粗解繊及び異物除去され綿繰工程に送られることになる。また種子に残った繊維を種子から分離して得られるリンターは、バラ積またはシート状若しくは厚板状に強く圧縮された状態で提供される。本発明においては、これらの原綿やシート等もパルプの一種とみなし、本発明の紙又はウェブの原料として用いることができる。綿繊維は、デシ綿(短繊維綿)、アプランド綿(中〜中長繊維綿)、エジプト綿、海島綿(長〜超長繊維綿)など品種によってその繊維長は異なるが、普通よく使われるものはリント部の長さが25〜35mmほどのアプランド綿である。綿繊維の太さ(径)は概ね10〜20μmほどであり、木材繊維(針葉樹:約20〜70μm、広葉樹:約10〜50μm)に比べ細めである。また綿繊維はセルロース含有量が高くリグニン成分を含まないため、変色しにくいという特徴を持ち、熱可塑性樹脂の強化材として好ましい繊維である。
本発明に使用できるパルプは、前記のパルプまたは該パルプを水中に分散させた懸濁液に対して、叩解機、粉砕機、高圧ホモジナイザー等を用いてさらなる機械的なせん断作用を加え、セルロース繊維をミクロフィブリル化させたものであってもよく、また、これらのパルプをマーセル化処理、高温・高圧水蒸気処理等によりセルロースの結晶形態を転移させたものや結晶性を高めたものであってもよい。
本発明において使用可能なセルロース繊維を主体とする紙は、上記のパルプを用いて、公知の製紙方法によって得ることができる。基本的な製紙工程は、木材等の植物から抽出したパルプを細かく砕いて水中に分散させるパルプ調成工程、これを竹や金属製のスクリーンで抄き取り、繊維を薄く平らに絡み合せて濡れた薄い繊維層を形成させ、これを脱水・乾燥する抄紙工程からなる。さらに、この基本工程の中および/またはこの工程の後で、使用目的に応じて、種々の薬品処理および/または加工が行われて最終的な紙製品が得られる(仕上げ加工)。
紙が形状と強さを保持しているのは、セルロース繊維間の絡み合いによる機械的な力によるものばかりではなく、近接したセルロース分子間に発現する水酸基を介した水素結合による化学的な力も作用するためである。この水素結合は、前記脱水・乾燥の工程で水分が除去されるにつれ形成され、セルロース繊維どうしの間隔が狭くなるほど強くなる。抄紙法には、紙抄き操作を一枚ずつ手で行ういわゆる手抄きと、紙抄き操作を機械で連続的に行う機械抄きがあり、本発明においてはどちらの方法であってもよいが、生産性の観点から機械抄きが好ましい。
ここで、機械抄きによる一般的な製紙方法について順次説明する。
(1)パルプの調成工程
木材等の植物から抽出したパルプ単独または2種類以上のパルプ混合物に対して、目的に応じて、填料、(内添)サイズ剤、紙力増強剤、染料などの各種薬品を加え、さらに、水で適当な濃度になるまで希釈し、コニカルリファイナー、ディスクリファイナー等の叩解機で機械的に叩解することによって、水中にパルプ繊維が分散したパルプ懸濁液が調成される。叩解処理によって、繊維は細かくなり、水がセルロース繊維の非晶領域まで浸透して繊維組織の結合が緩んで膨潤し柔軟になる。さらに、繊維表面はフィブリル化して表面積が増大し、水に懸濁しやすい状態になる。このようにフィブリル化した繊維を抄き取ると、繊維同士が絡み合い易くなるばかりでなく、これを圧搾脱水・乾燥したときに繊維同士の接触面積が増え、水素結合が形成されやすくなり、強度の高い紙を得ることができる。これに対し、未叩解パルプで抄造した紙は、毛羽立ちが多くふんわり感があるが、紙としての強度は低くなる。
(2)抄紙工程
機械抄きは、抄紙機を用いて行われるが、通常、ワイヤーパート、プレスパートおよびドライパートから構成され、抄紙から脱水・乾燥までの基本工程が連続的に行われる。最も一般的な抄紙機は長網式抄紙機である。所定の濃度に調整されたパルプ懸濁液はヘッドボックス(ストックインレット)に入り、スライスから人造繊維の単繊維製または黄銅製若しくは青銅製のワイヤーで出来たエンドレスバンド上に供給され、パルプはその保有する水分の大部分を重力により、或いはワイヤーの下側に沿って位置するテーブルロール、フォイルまたは内部吸引箱(サクションボックス)により除去され、繊維は湿ったウェブ状を呈してくる。スライスから噴出されるパルプ懸濁液の速度とワイヤーの回転速度を制御することによって繊維の密度、配向、厚さなどが調整される。ある種の機械においては、このウェブはさらに針金で覆ったロール(ダンディロール)の下を通り、均され平滑化される。また、この長網のかわりに、細針金製の金網を大きな円筒形の枠(モールド)に張り、パルプ懸濁液の中で回転させて円筒内に水を吸引することによってパルプ層を巻き上げ、クーチロールでフェルト上に吸い付けて紙層を形成させる抄紙機があり、これは円網式または丸網式抄紙機と呼ばれている。
その他の普及型抄紙機としてツインワイヤー式抄紙機がある。パルプ懸濁液がヘッドボックスを出た直後に、2枚のエンドレスワイヤー間に挟み込まれるギャップフォーマー型と、前記長網式抄紙機のワイヤーの途中または最後部の上にトップワイヤーを載せて、一部をツインワイヤー化したハイブリッドフォーマー型がある。この方式の抄紙機は高速抄紙が可能で、しかも形成される紙の地合は良好で両面は同一であり、長網式抄紙機によって製造される紙に特有のフェルト面とワイヤー面との区別は生じない。この機種には、さらなる高速化のニーズから、抄網部に短いワイヤーを用いた短網式や長網上に複数のワイヤーを載せた機種もある。その他ワイヤーを傾斜させた機種や、さらには、長網、短網、円網を組み合わせたコンビネーション抄紙機も実用化されている。なお、抄紙機で紙を抄くと、抄紙方向(マシンの流れ方向)に繊維が配列しやすく、そのため抄紙方向とその直角方向とでは紙の強度に違いが生じる。抄紙方向に沿った方向の方が紙の引張強さは高くなる。
ワイヤーパートから出てきた水分を含んだ紙(湿紙)は、フェルト製のエンドレスベルトに載せられてプレスパートへ送られ、数組のプレスロールの間を通って圧搾されながら脱水処理される(搾水)。プレスロールは、表面が滑らかなプレーンロール、表面に円周方向に溝をつけたグルーブドロール、ロール内部にサクションボックスを有するサクションロールなどがあり、これらが組み合わされて使用される。搾水と同時に、湿紙の密度が上がるため、紙の強度が増して断紙を減少させる効果がある。また、紙の組織を緻密にし、紙の面感を形成する作用も持つ。
プレスパートを経た湿紙はドライパートへ送られる。ここで用いられる一般的な乾燥機は多段式プレスドライヤーとヤンキードライヤーである。多段式プレスドライヤーは、プレス部を出た湿紙をカンバスで保持して数十本の金属製シリンダー表面に接触させ、水分を蒸発させるもので、シリンダーに低圧蒸気を吹き込み、凝縮水を排出する構造になっている。ヤンキードライヤーは、表面が鏡面仕上げされた1本の金属製シリンダーとそれを覆うフードから構成され、シリンダー側に湿紙を張り付けて蒸気加熱するとともに、フード側から熱風を当てて乾燥する構造になっている。
このドライパートの後段にサイズプレスが組み込まれた抄紙機があり、紙の表面強度並びに筆記用インクのような水溶液の浸透および滲みに対する抵抗性を増すため、筆記用、印刷用、製図用の紙の殆どは、ここでサイズ剤(澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等)が塗布される。サイズプレスは、2本のゴムロール間に紙を通して形成されるニップ部にサイズ液を供給し、塗液溜り(ポンド)を形成させ、紙の両面にサイズ液を塗布する表面サイジング装置である。サイズプレスはこの2ロール型が多いが、抄紙機の高速化にともない、塗液溜りの沸騰現象が防げるゲートロール型やメタードサイズプレス型が普及してきている。
ドライパートを出た紙は、表面が粗く荒れた状態になっているため、数本の加圧された金属ロール対の間を通して表面を平滑化し厚さを一様にするカレンダー加工が加えられる。カレンダー加工の後、紙はリールで巻き取られ、さらに巻き取った紙は、ワインダーで巻き直しながら不良部分を取り除き、所定の幅と長さに巻き取って製品(非塗工紙巻取り)となるか、若しくは、次工程のための加工用の原紙となる。カレンダー加工は、紙の片面又は両面に多少とも磨きまたは光沢を付与する効果もある。
(3)仕上げ加工工程
紙は、その使用目的に応じて、各種の表面加工が施される。塗工もその1つで、パルプ繊維が露出している凹凸のある原紙表面に、不透明な塗料を塗布してコーティングすることによって、インキ受理性が良好で表面が均一かつ平滑性の高い印刷適性の優れた紙面を得るために行われる。塗料は、顔料に分散剤を添加して水に分散し、これに接着剤および助剤を加えて成るもので、ロールコーター、ブレードコーターなどの塗工機により塗布される。塗工によって原紙の表面凹凸は均されるが、乾燥時の収縮により微小な凹凸が残存するため、塗工の後、紙面をさらに平滑化し光沢を付与するために、スーパーカレンダーやソフトカレンダーによる艶出し加工が施されるのが一般的である。スーパーカレンダーは、金属ロールと弾性ロールの組み合わせからなり、塗工紙はこの間を通りながら、加熱及び加圧されて、平滑で均一な厚さの高い光沢を有する紙面に仕上げられる。抄紙機もしくは塗工機で巻き取られた巻取紙は、スリッターやカッターで所定の寸法に裁断され巻取り製品や平判製品に仕上げられる。
本発明においては、前記の如何なる公知の抄紙機によって得られる紙であってもよいが、本発明に使用する紙は熱可塑性樹脂の強化材として使用することを目的としているため、基本的に、熱可塑性樹脂と混練するまではその繊維構造を保持し、混練がなされてからは繊維が切断することなく速やかに解繊して該熱可塑性樹脂の内部へ分散する特徴を有するものが好ましい。すなわち、本発明のセルロース繊維を主体とする紙は、薄くて強度の低いものかまたは紙を構成する繊維間の膠着力が弱いものであって、より具体的には、JIS P8113に規定される引張特性の試験方法により測定される引張強さが5〜1000N/mであるものであり、好ましくは、該引張強さが7〜800N/m、より好ましくは10〜600N/mの範囲のものである。該引張強さが5N/m未満であると、紙が切れ易くなるため混練機への供給が困難となり、1000N/mを超えると、熱可塑性樹脂と混練したとき繊維が解繊し難いことから、解繊までに長い時間を要しがちであり、熱可塑性樹脂の中に未解繊状態の塊として残存する可能性もあるため好ましくない。ここで、紙は、該引張強さがこの上限を超えない限りにおいて、1枚であっても2枚以上の多層構造からなるものであっても差し支えない。
本発明においては、この引張強さの範囲にある紙であれば、前記の公知の製紙方法で得られるものであってもよいが、筆記適性および印刷適性を付与する目的で行われる前記サイズプレスおよび塗工などの表面加工は施さないものが好ましい。また、前記パルプ調成工程における薬品類の添加および/または叩解処理も紙の強度に影響を及ぼすので、紙としての強度が前記の引張強さの範囲にある限りにおいては、特に行わなくてもよい。すなわち、本発明においては、パルプ100%のパルプ紙やバインダーで繊維間を軽く接着させた紙が好適に使用可能である。
本発明に好ましい上記の特徴を具備した紙製品として、ティッシュペーパー及びトイレットペーパーを挙げることができる。これらは、一般に1枚の坪量が10〜18g/m2ほどの衛生薄葉紙である。ティッシュペーパーは、使用時に水で濡れてもある程度の強さを保てるように、湿潤紙力増強剤が内添される場合が多く、さらに、その他の機能(しっとり感、ふんわり感、しなやかさ、抗菌性など)を付与するために、必要に応じて、保湿剤、油類、界面活性剤、防腐剤、抗炎症剤などが添加されることがある。ここで、該湿潤紙力増強剤は前記バインダーとしての機能を備えている。また、パルプは繊維長が長く強度のある針葉樹の割合を多くしたものが使用されている場合が多い(針葉樹繊維長は概ね2.0〜4.5mm程度)。一方、トイレットペーパーは、使用後に水に流され易くするため湿潤紙力増強剤は添加されず、パルプ繊維は針葉樹よりも短い広葉樹の割合を多くしたパルプで抄造されている場合が多い(広葉樹繊維長は概ね0.8〜1.8mm程度)。また、必要に応じて香料が添加されることがある。
このような特徴を持つティッシュペーパー及びトイレットペーパーは、熱可塑性樹脂と共に混練すると、この熱可塑性樹脂の中で容易に解繊してセルロース繊維として分散するため、熱可塑性樹脂の強化材としても好適に利用できる。さらに、このような衛生薄葉紙の製造ラインをそのまま利用して、熱可塑性樹脂用の強化材としてより適した紙を抄造することも可能である。ティッシュペーパー及びトイレットペーパー用の一般的な抄紙機は、高速抄紙が可能なギャップフォーマー型ツインワイヤー式抄紙機で、乾燥はヤンキードライヤー方式である。サイズプレスはなく、ヤンキードライヤーの後、クレーピングドクターで紙を掻き取りクレープをつけることがある。ドライヤーパートを出た紙はカレンダーパートを経てリールで巻き取られ原紙ロールとなる。
この後、ティッシュペーパーは、原紙ロール2本からそれぞれの原紙が引き出され、2枚重ねとして巻取りされた後、ティッシュ製品幅にスリットされ、加工工程へ送られ、入り数分並べられた巻取りからのシートを順に折り込んでいき、組み合わされたティッシュとなり、規定寸法にカットされた後、カートンに詰め込まれる。一方のトイレットペーパーは、原紙ロールから原紙が引き出され、ワインダーで巻き直されながら、必要に応じてエンボス加工および/またはミシン目加工が施され、製品長さの巻取り(ログ)が造られ、巻取りは製品幅にカットされ、入り数に合せて包装される。
本発明においては、前記の一般的な市販のティッシュペーパー及びトイレットペーパーを使用することができるが、原料パルプは、100%木材パルプからなるものが好ましく、中でも、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)および/または広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を用いたものが好適に使用できる。また、薬品類も無添加か若しくは極力少ないものが好ましく、ティッシュペーパーにおいては、湿潤紙力増強剤以外の薬品類は使用していないものが好ましい。なお、本発明においては、ティッシュペーパーと同様な衛生薄葉紙で平判製品であるちり紙もティッシュペーパーの一種として包含する。
本発明に好適な紙は、これらの衛生薄葉紙に限らず、既存の製紙工程の設備を使って容易に製造することができる。例えば、針葉樹クラフトパルプ或いはコットンリンターパルプ100%から抄造される紙であって、抄紙機のドライパート(サイズプレスなし)を出た紙をそのまままたはカレンダーに通して巻取り、これを使用する混練機に供給可能な幅にスリットして巻き取ったものを挙げることができる。このような100%パルプ紙の場合、抄造された紙は、繊維間の水素結合を主体とするものであって、パルプ調成工程の叩解処理の程度、抄紙時の紙厚の調整、プレスパートからドライパートに至る加圧ロールの数や加圧力の調整等によって、その紙力を前記引張強さの範囲に入るように適宜調整する。
本発明に使用可能なセルロース繊維を主体とするウェブは、前記のパルプを用いて、公知の不織布の製造方法に準じて得ることができる。不織布の製造法における基本的な工程は、ウェブの形成工程とウェブ繊維の結合工程であり、それに付加的な工程が加わる。本発明においては、紙以外のセルロース繊維からなる薄い集積層として、この不織布を製造する工程で形成される繊維ウェブを使用することができる。該ウェブの形成方法は、湿式法、乾式法、紡糸直結法に大別されるが、本発明においては、湿式法または乾式法によって得られるウェブを使用することができる。湿式法は通常の抄紙法と同様であって、木材パルプやリンターパルプのような長さが数mmオーダーの短繊維を希薄濃度で水中に均一分散させ、その繊維懸濁液をスクリーン上に抄き取って薄い濡れたシート状のウェブ(湿式ウェブ)を形成させるものである。紙の場合と同様に、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、傾斜短網式抄紙機等の公知の抄紙機が利用でき、抄き取られた湿式ウェブはプレスローラーで搾水され、その後加熱ドラムで乾燥した後巻き取られ、或いは搾水・乾燥せずにまたは乾燥後に巻取らずに、次の繊維間結合工程に送られる。本発明においては、この湿式ウェブを搾水・乾燥したもの(繊維間結合が水素結合によるもの)を好ましく使用することができる。
一方、乾式法にはカーディング法とエアレイド法とがある。カーディング法は主にリント綿のような長さが数cmオーダーの繊維のものに用いられる方法で、ローラーカード等のカード(梳綿機)を用いて繊維塊(原綿から混打綿工程を経たもの)をある一定方向に梳って薄いシート状のウェブを形成させる方法である。ローラーカードは、表面に鋸歯状のワイヤーの巻かれたメインシリンダーとその周囲にいくつもの刺ロールが配置された構造からなり、この回転するシリンダーとロールの間隙を繊維塊が通過することにより繊維が梳られ機械の流れ方向に繊維が配向されたウェブが形成される。エアレイド法は、湿式法と同じように、主に繊維長が数mmオーダーのものに用いられ、解繊した繊維を空気流で大気中に分散させ、それをスクリーン上に集積させてランダムな繊維配向のウェブを形成させる方法である。通常、不織布を得るためには乾式法によって得られたウェブはそのまま次の繊維間結合工程に送られるが、本発明においては、得られたウェブをそのまま或いはカレンダーロール等に通して巻き取ったものを使用することができる。
前記の湿式法および乾式法によって得られたウェブの強度が前記引張強さの下限に達しない場合は、該ウェブの強度が前記引張強さの上限に達しない限りにおいて、軽度な繊維間結合処理を施してもよい。この場合の繊維間結合処理方法としては、不織布の繊維間結合方法として公知のニードルパンチ法またはスパンレース法が好ましい。ニードルパンチ法は、乾式ウェブに特殊形状の針をパンチングして繊維を三次元的に交絡させる方法であり、スパンレース法は、湿式ウェブまたは乾式ウェブに高圧ジェット水流を柱状に噴射することにより繊維を三次元交絡させる方法である。それぞれ、パンチング回数、高圧水柱流処理回数および水圧等で交絡度合いを調整することができる。高圧水柱流によって交絡させた場合は、水分を除去させるために乾燥させる。また、該ウェブに対し、熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選ばれたバインダーを噴霧またはサイズプレス等によって含浸してカレンダーまたは熱カレンダーを通して繊維間を接着結合させる方法(ケミカルボンド法またはサーマルボンド法)も利用することができる。なお、かかるウェブにおいても、その引張強さが前記上限を超えない限りにおいて、1枚であっても2枚以上の多層構造からなるものであってもよい。
本発明のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂とセルロース繊維との分散性及び/又は親和性(濡れ性、接着性)のより一層の向上を図るために、セルロース繊維に従来公知の化合物による表面処理を施してもよい。分散剤としては、例えば、ロジンまたはその誘導体、オリーブ油、菜種油、コーン油、綿実油、リノール酸、オレイン酸等の食物油脂類またはそれらの誘導体、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル等のシリコーンオイルなどが挙げられる。
また、親和性向上剤としては、例えば、リグニンスルホン酸カルシウム、リグニンスルホン酸マグネシウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、変性リグニンスルホン酸カルシウム等のリグニン酸塩類、無水マレイン酸、アクリル酸カルシウム、アクリル酸マグネシウム、アクリルアミド−アクリル酸共重合体、ポリアクリルアミド等のアクリル酸塩類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリアセトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、β−シアノエチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルフェニルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のシラン系カップリング剤を挙げることができる。
これらの分散剤および親和性向上剤は2種以上併用してもよく、熱可塑性樹脂の種類および用途に応じて適宜選択すればよい。これらの化合物による表面処理の方法に特に限定はなく、例えばパルプ調成時にかかる化合物を内添する方法、また抄造時の乾燥後の紙又はウェブに化合物をそのまままたは分散液に調整して噴霧、或いはサイズプレスまたはスーパーカレンダーによって含浸・塗布する方法、熱可塑性樹脂との混練時に添加する方法などが挙げられる。なお、これらの表面処理剤の配合量は特に限定されるものではないが、一般的には、セルロース繊維100重量部に対し、0.01〜20重量部程度である。
また、熱可塑性樹脂とセルロース繊維との親和性を向上させる別の態様として、カルボン酸や酸無水物、エポキシ化合物等により変性された各種変性樹脂を配合してもよい。すなわち、セルロースと親和性のあるエポキシ基またはカルボキシル基の官能基を有し、かつ使用する熱可塑性樹脂と親和性の大なる部分を同一分子中に併せ有する重合体を配合することによって、熱可塑性樹脂とセルロース繊維との親和性向上を図ることができる。例えば使用する熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂の場合、グリシジルメタクリレート変性ポリオレフィン、無水マレイン酸変性ポリオレフィン等を例示することができる。これらの重合体の配合量は特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂100重量部に対し、1〜50重量部の範囲である。これらの化学的修飾による変性の外に熱可塑性樹脂に各種のガス環境下でのプラズマ照射、エキシマレーザー照射などによる物理化学変性も利用できる。
本発明においては、熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記セルロース繊維を主体とする紙及び/又はウェブを1〜450重量部、好ましくは3〜200重量部、より好ましくは5〜100重量部の範囲で配合することができる。該セルロース繊維を主体とする紙及び/又はウェブが1重量部未満では、セルロース繊維による補強効果が十分に発揮できず、450重量部を超えると、成形性が極端に低下し、成形品の外観が悪くなり、機械的性質、衝撃強度が著しく低下するため実用性に乏しい。
包装容器の場合には、ヒートシール性、ホットタック性が重要であり、450重量部を超えるとこれらの著しい低下を招くので好ましくない。フィルム、シート状態から延伸する場合には、セルロースの配合量は透過ガス、水分などの種類及び必要な時間の要求により変えることが好ましいが、450重量部を超えると延伸操作を加えたときにセルロース繊維の切断や界面の剥離、損傷等の割合が多くなり、ガス透過性が過度になり防水性が損なわれるので好ましくない。また、超臨界発泡のセルの均一性から配合されるセルロース繊維の量は1重量部未満では発泡の核剤としては有効であるものの、セル間を通じてのガス、水蒸気の透過の面では好ましくない。従って、1重量部以上が好ましく、450重量部を超えると発泡は困難になる。
レジ袋、ショッピングバッグ、ごみ袋などには内容物が見えにくいように光線遮蔽フィラーとして酸化チタンが配合されることが多い。酸化チタンは屈折率が高いため光線隠蔽力に優れ、アナタース型、ルチル型共に利用されるが耐光性の点からはルチル型が好まれる。但し、ルチル型であっても光活性が高く、ポリオレフィンおよびこれに添加剤として配合されているフェノール系酸化防止剤の水素引き抜き反応力が強いため、時として黄変トラブルを発生することがある。このため酸化チタンの配合量を削減して光線隠蔽力に劣るが、炭酸カルシウム、酸化亜鉛等との併用がなされることがある。当該顔料の光線隠蔽力は酸化チタンに比較して約20%程度であることから、相当量の配合量が必要となり、その結果、焼却処理による灰分量が問題となっている。
本発明者らは、セルロース繊維単独の配合により光遮蔽性は発揮するものの、セルロース繊維と酸化チタンを併用することで酸化チタン粒子間隙を内部に通過した光がセルロース繊維面で反射もしくは散乱することで光遮断性がさらに向上することを見いだした。なお、本発明における酸化チタンの配合量は、使用目的に見合った光線隠蔽性に応じて、セルロース繊維含有熱可塑性樹脂のセルロース含有量と共に適宜調合されるべきものである。
次に、本発明のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明に係る熱可塑性樹脂とセルロース繊維を主体とする紙及び/又はウェブとを混練するための混練機は特に限定されない。例えば、ラボプラストミル(ブラベンダー)、バンバリーミキサー、1軸または多軸の押出機、ニーダー、ミキシングロール等によって混練することができる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上の混練機を組み合わせて使用することもできるが、どの混練機を使用するかは、熱可塑性樹脂の種類・性質、組み合わせ、形状などによって適宜選択すればよい。
前記混練機を用いて熱可塑性樹脂とセルロース繊維を主体とする紙及び/又はウェブとを混練する方法に特に限定はなく、例えば、ラボプラストミル(ブラベンダー)、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどのバッチ式混練機を用いて混練する場合は、常法に従い、予め所定の温度に設定された混練機に、所望量の熱可塑性樹脂と紙及び/又はウェブとをそのまま一緒に供給して混練する方法を用いてもよいし、或いは熱可塑性樹脂を先入れして混練したのち紙及び/又はウェブをそのまま後入れして混練する方法を用いてもよい。
本発明における好ましい混練方法の一態様として、次のような方法を挙げることができる。まず、紙及び/又はウェブの縦横2辺の何れか一方の長さが、使用する混練機の原材料供給口のサイズよりも長い場合、その紙及び/又はウェブを原材料供給口に入る幅に予めカットする。オープンロールの場合はロール幅以内であればよい。紙及び/又はウェブの長辺方向の長さは特に限定なく有限長でも無限長(連続)でもよく、例えば、短冊状、帯状、巻取り状の何れの形態であってもよいが、生産効率の点で巻取り状のものが好適である。次に、所定の温度に設定した混練機に熱可塑性樹脂を先入れして混練した後、かかる短冊状、帯状または巻取り状の紙及び/又はウェブを1層または2層以上に重ね合せて1セットとし、その長辺方向を供給方向とし、かつ紙及び/又はウェブの面が混練機の回転軸に対して平行になるようにして該混練機の原材料供給口に供給する。このとき重ね合わせられる紙及び/又はウェブの層数(枚数)は、重ね合わせたときの前記引張強さが前記規定の上限を超えない範囲であればよいが、層数が増えると、層間でスリップして混練によるせん断力が作用し難くなることがあるため、通常は10層以下、好ましくは5層以下程度がよい。紙及び/又はウェブが短冊状もしくは帯状であれば、1セットずつ所定量に達するまで続けて供給する。紙及び/又はウェブが巻取り状であれば、この紙及び/又はウェブが混練中の熱可塑性樹脂と接触して該熱可塑性樹脂の中に巻き込まれると同時にロールから連続的に引き出されて、この紙及び/又はウェブのロールが途中で切れない限り、自動的に混練機内へ供給されることになる。さらに、この紙及び/又はウェブのロールが切断しない範囲内でその供給方向と逆向きの張力を加えることによって、紙及び/又はウェブが弛みの無い緊張状態で熱可塑性樹脂の中に取り込まれていくことになる。
その結果、熱可塑性樹脂の中に練り込まれた紙及び/又はウェブには、効率よくせん断力が作用し、それによって速やかに解繊がなされ、セルロース繊維として樹脂中に分散しやすくなる。また、紙及び/又はウェブが巻取り状の場合、該巻取りを数本用意して各々から紙及び/又はウェブを引き出して一緒に混練機に供給することも容易であって、異種のセルロース繊維を主体とする紙及び/又はウェブの巻取りを複数組み合わせることも可能である。
このような巻取りものは、混練機が2軸押出機のような連続式混練機において、さらに有利である。2軸押出機等の押出機においては、スクリュー、ニーディングディスク、ローター等の各種エレメント及びシリンダーの長さや形状、原材料の供給口の位置や数を自由に組み替えることができるため、熱可塑性樹脂と紙及び/又はウェブの種類および配合に応じて、適宜組み替えて使用することができる。例えば、2軸押出機を用いて、原材料供給口を最初のシリンダー上部(供給口1)と最初のシリンダーとダイヘッドとの中間のシリンダー上部(供給口2)の2箇所に設定し、供給口1と供給口2の間(上流部)および供給口2とダイヘッドの間(下流部)にニーディングディスクを適宜配置し、所定の温度に設定したのち、供給口1から熱可塑性樹脂を、供給口2から紙及び/又はウェブを供給する方法や、前記の供給口1とダイヘッドの間に供給口を2つ設け、それぞれ供給口2’および供給口3とし、供給口1と供給口2’の間および供給口2’と供給口3の間および供給口3とダイヘッドとの間にそれぞれニーディングディスクを適宜配置し、所定の温度に設定したのち、供給口1から熱可塑性樹脂を、供給口2’および供給口3から紙及び/又はウェブを供給する方法などを挙げることができる。後者は紙及び/又はウェブを複数箇所から供給する方式で、セルロース繊維を高配合する場合に適している。
紙及び/又はウェブを供給するには、例えば、張力が制御可能なダンサーロール等に取り付けた紙および/またはウェブの巻取りからガイドロールを通してそれぞれの供給口に導入する方法などが挙げられる。かくして、各供給口から連続的に供給されたそれぞれの原材料は押出機の内部で混練されて一体化し、ダイヘッドから連続したストランドとして押出され、その後ペレタイザー等の造粒装置を経てペレット状になる。
混練温度は、室温(20℃)以上、セルロース繊維の熱分解が加速する温度以下、好ましくは熱可塑性樹脂の軟化点以上、270℃以下であって、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは230℃以下の範囲である。但し、セルロース純度が高く、かつ高温・高圧水蒸気処理を施したセルロース繊維やバクテリアセルロース繊維等の高結晶性セルロース繊維からなる紙および/またはウェブを用いると300℃近傍でも混練できることがある。
なお、ここでいう熱可塑性樹脂の軟化点とは、前記の混練機で混練可能な下限の温度のことであって、使用する混練機の能力、熱可塑性樹脂の種類、形状、処理状態等によって変わってくる。例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)は親水性の熱可塑性樹脂で、エチレン成分の割合を低く重合することによってその融点を200℃近傍まで高めることが可能で、その場合、溶融混練するためには通常200℃を超える温度を加える必要がある。しかし、EVOHは含水処理を施すことによって柔軟化する性質があり、含水量によっては100℃未満の温度であっても溶融混練と同様な混練が可能になることがある。このような場合、100℃未満の温度で混練することによって、セルロース繊維の熱劣化や熱変色を抑制することができる。
本発明のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物のセルロース繊維の平均繊維長は、混練時の熱可塑性樹脂の溶融粘度、混練条件、添加物の種類などによって制御可能である。前記ティッシュペーパー、トイレットペーパー、コットンウェブなどを混練してなる本発明のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物およびその成形体のセルロース繊維の好ましい平均繊維長は50μm以上であり、より好ましくは100μm以上である。かかるセルロース繊維の平均繊維長が50μm未満であると、セルロース繊維による補強効果が十分ではなく実用的な機械的強度が得られない。なお、バクテリアセルロースや特殊な処理を施してミクロフィブリル化したような微細なセルロース繊維で初期平均繊維長が50μm未満のものを用いた場合においてはこの限りではない。
本発明のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物を包装容器やその他の用途に成形する方法に特に限定はなく、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形方法、すなわち射出成形、射出圧縮成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、真空成形、プラグアシスト圧空成形、フィルム成形、シート成形、回転成形、積層成形、延伸成形、発泡成形等の各種成形方法の中から、該熱可塑性樹脂組成物の配合処方や包装容器の用途などに応じて、適宜選択することができる。
本発明のセルロース繊維含有熱可塑性樹脂組成物には、所望に応じ、その特性を大きく損なわない範囲において、原材料の混合時または混練時に、もしくは成形時に、従来公知の各種成分、例えば、無機充填剤や他の有機充填剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性カーボン、滑剤、造核剤、発泡剤、架橋剤、ラジカル発生剤、離型剤、界面活性剤、抗菌・抗カビ剤、染料、顔料などを配合してもよい。
セルロース繊維による補強だけでは用途に見合う十分な機械的強度が得られない場合、タルク、マイカ、シリカ、クレー、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、チタン酸カリウム、窒化珪素、ホウ酸アルミニウム、塩基性硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、ワラストナイト、炭酸カルシウム等の無機充填剤との併用系が効果的である。セルロース繊維とケッチェンカーボン、ファーネスカーボン、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンとの併用系も好ましい配合処方のひとつであり、セルロース繊維と導電性カーボンとを組み合わせることにより、表面固有抵抗の安定した成形体を得ることができる。
超臨界発泡に使用される発泡性ガスの種類は公知のところであるが、ポリ乳酸、スチレン系樹脂においては炭酸ガスがポリオレフィン系樹脂においては窒素ガスが多く利用される。ここで、超臨界発泡によるセルはセルロース繊維と接触しておれば独立であっても、連通気泡であっても差し支えない。独立発泡のセルサイズは0.01〜10μmで、その形態は発泡セル中にセルロースが貫通している形態であっても、セルロースの表面に発泡セルが被覆した形態であってもよい。当該セルを得るための発泡倍率としては1〜50倍である。セルロース繊維含有量が少ない場合においては、フィルム、シートの表層が樹脂層になる可能性が高い。この場合はフィルム、シートを1軸もしくは2軸方向に延伸することで表層にミクロボイドを生成することができる。
セルロース繊維を主体とする紙として、市販のティッシュペーパー(商品名クリネックス、パルプ100%、187mm×235mm、(株)クレシア製)を用い、これを横目方向が長手方向になるように幅約38mmの短冊状(長さ187mm)に切断した。このティッシュペーパーのJIS P8113に準拠した横目方向の1枚当りの引張強さは18N/mであった。ミキサーブロック温度150℃、ローター回転数20min−1に設定したラボプラストミル(原材料共給口サイズ:48mm×12mm、(株)東洋精機製作所製)に、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(商品名ウルトゼックス1020L、MFR=2.0g/10min、(株)プライムポリマー製)100重量部を投入して溶融状態にした後、原材料供給口を開放した状態で前記短冊状に切断したティッシュペーパーを2枚重ねのまま5重量部に達するまで、その長手方向を投入方向として、かつ該短冊片が弛まないように順次供給を続けた。供給完了後、ローター回転数を30min−1に上げ、引き続き5分間混練を続けて、LLDPEとティッシュペーパーとの混練物を得た。この混練物の外観を観察すると共に、任意の箇所から採取した約1gの小片を150℃で熱プレスしてフィルムを作製し、このフィルムについてセルロース繊維の分散性を目視および光学顕微鏡で観察した。その結果、混練物の表面にはセルロースの凝集塊は見当たらず、プレスフィルムにおいてもセルロース繊維の凝集塊は無く、繊維が均一に分散していた。また、その繊維の平均長さは495μmであった。
セルロース繊維を主体とする紙として、市販のトイレットペーパー(商品名エリエールダブル、パルプ100%、大王製紙(株))を用いた以外は実施例1と同様にして混練を行いセルロース繊維の分散性を評価した。なお、トイレットペーパーは縦目方向(長手方向)に帯状に、巾は実施例1のティッシュペーパー短冊片の短辺とほぼ同じサイズ約38mmに、長さは5重量部に相当するサイズに切断して2枚重ね(ダブル)のままラボプラストミルに供給した(供給時間は実施例1とほぼ同じ)。このトイレットペーパーのJIS P8113に準拠した縦目方向(投入方向)の1枚当りの引張強さは47N/mであった。また、この混練物のセルロース繊維の分散性は実施例1と同様に非常に良好で、その繊維の平均長さは603μmであった。
セルロース繊維を主体とするウェブとして、市販の化粧用コットン(商品名エタリテコットン、コットンウェブ積層品、コットン100%、(株)シャルレ販売)を用いた以外は実施例1と同様にして混練を行いセルロース繊維の分散性を評価した。なお、化粧用コットンは実施例1のティッシュペーパー短冊片とほぼ同じ幅サイズの約38mmに切断したのち、5層に剥して1層ずつラボプラストミルに供給した(供給時間は、実施例1とほぼ同じになるように調整)。この1層当たりのJIS P8113に準拠した長手方向(投入方向)の引張強さは115N/mであった。得られた混練物の表面およびそのプレスフィルムにはセルロース繊維の凝集塊は無く、繊維も均一に分散していた。また、その繊維の平均長さは876μmであった。
熱可塑性樹脂としてブロック・ポリプロピレン(ブロックPP)(商品名J−762HP、MFR=13g/10min、(株)プライムポリマー製)を用い、またラボプラストミルのミキサーブロック温度を170℃とした以外は実施例1と同様にして混練を行いセルロース繊維の分散性を評価した(熱プレス温度は170℃)。得られた混練物の表面およびそのプレスフィルムにはセルロース繊維の凝集塊は無く、繊維もほぼ均一に分散していた。また、その繊維の平均長さは345μmであった。
ポリカーボネート(PC−1)(商品名ユーピロンS−3000、MFR=15g/10min、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)100重量部に対し、PC用流動性向上剤(商品名メタブレンTP003、三菱レイヨン(株)製)を10重量部配合し、ラボプラストミルのミキサーブロック温度を240℃、ローター回転数を40min−1に設定して3分間混練した。熱可塑性樹脂としてこの混練物を用い、ミキサーブロック温度を170℃、ティッシュペーパー供給後の混練時間を3分間とした以外は実施例1と同様にして混練を行いセルロース繊維の分散性を評価した(熱プレス温度は210℃)。混練中の最高樹脂温度は約190℃であった。混練物の外観はセルロース繊維の熱変色により若干着色(薄黄褐色)したが繊維の凝集塊は無く、プレスフィルムにおいても実施例1と同様にセルロース繊維の分散性は良好で、その繊維の平均長さは316μmであった。
〔比較例1〕
セルロース繊維を主体とする紙として、市販の情報用紙(三菱PPC用紙N A4、三菱製紙(株)製)を用いた以外は実施例1と同様にして混練を行い、セルロース繊維の分散性を評価した。なお、情報用紙は、実施例1のティッシュペーパー短冊片とほぼ同じ幅の約38mmで横目方向に切断して1枚ずつ5重量部に達するまでラボプラストミルに供給した(供給時間は実施例1とほぼ同じになるように調整)。この情報用紙のJIS P8113に準拠した横目方向(投入方向)の引張強さは3300N/mで、縦目方向の引張強さは7100N/mであった。得られた混練物はフィルム状にするまでもなく、その表面には情報用紙の紙片が多数残存したままであった。
〔比較例2〕
約5mm角のフレーク状に裁断した情報用紙5重量部をラボプラストミルに供給した以外は(供給時間は比較例1とほぼ同じになるように調整)、比較例1と同様に混練を行いセルロース繊維の分散性を評価した。得られた混練物の表面には解繊しきれず残存しているフレーク紙片が観察され、フィルム上でも、一部分散しているセルロース繊維も見られたが、未解繊の凝集塊が多数観察された。
〔比較例3〕
情報用紙供給後の混練時間を10分間とした以外は比較例2と同様に混練を行いセルロース繊維の分散性を評価した。得られた混練物の表面およびそのフィルムには、比較例2の場合よりは小さいものの、依然としてセルロース繊維の未解繊の凝集塊が散見された。
実施例1〜5から明らかなように、本発明のセルロース繊維を主体とする紙及び/又はウェブを用いることにより、熱可塑性樹脂と混練したときに、該紙及び/又はウェブの解繊が速やかに進み、分散性の良好な混練物を得ることができる。一方、比較例1のように本発明の引張り強さの範囲を超える紙を用いた場合は、紙の解繊が進み難く、セルロース繊維の分散性が良好な混練物を得ることは困難である。比較例2のように投入する紙の形状をフレーク状小片にしても、また、比較例3のように混練時間を2倍に延ばしても、実施例1や2のようなセルロース繊維の凝集塊が全く無くかつ分散性が均一な混練物を得ることは困難である。実施例3はセルロース繊維として繊維長の長い綿繊維を用いた場合であるが、セルロース繊維の分散性は良好であり、かつ実施例1及び2よりもその分散平均繊維長は長く維持されている。実施例4は、実施例1よりもセルロース繊維の分散状態においてやや濃淡のある部分が見られたが、全体的に繊維の分散性は良好であり凝集塊も見られなかった。実施例5はPCに流動性向上剤を加え混練温度を200℃未満に下げてティッシュペーパーと混練したものである。混練中の樹脂温度が200℃未満に抑制できるうえ、ティッシュペーパーを用いることによりセルロース繊維の良分散が得られるまでの混練時間が短縮できるため、セルロース繊維の熱変色度が小さくかつ繊維分散性に優れた混練物を得ることができた。実施例1〜5並びに比較例1〜3の実験観察結果を表1に示す。
実施例1で得られた混練物を160℃で熱プレスして厚さ4mmのシートを成形したのち、120mm×10mm×4mmのサイズの試験片を切り出し、JIS規格に準拠して、ノッチ付きシャルピー衝撃強さ(JIS K7111)、曲げ弾性率および曲げ強度(JIS K7171)、荷重たわみ温度(HDT)(JIS K7191)の測定を行った。これらの測定結果を表2に示す。なお、表2には実施例6〜13並びに比較例4〜8の物性測定結果を示している。
ティッシュペーパーの配合量をLLDPE100重量部に対して43重量部とした以外は、実施例1と同様に混練して混練物を得た。これを実施例6と同じ条件で混練および熱プレスした試験片について実施例6と同様の物性を測定した。測定結果を表2に示す。なお、この混練物の繊維の分散性は良好で、実施例1と同様のプレスフィルムで観察しても繊維の凝集塊は見られなかった。
〔比較例4〕
実施例1に用いたLLDPEのみを実施例6と同じ条件で混練および熱プレスした試験片について実施例6と同様の物性を測定した。物性測定結果を表2に示す。
熱可塑性樹脂としてエチレン−オクテン共重合体(商品名エンゲージ8842、MFR=1.0g/10min、ダウケミカル日本(株)製)を用い、トイレットペーパーの配合量をエチレン−オクテン共重合体100重量部に対して25重量部とした以外は、実施例2と同様に混練してエチレン−オクテン共重合体とトイレットペーパーとの混練物を得た。これを150℃で熱プレスして厚さ4mmのシートを成形したのち、実施例6と同様の測定を行った。物性測定結果を表2に示す。なお、この混練物の繊維の分散性は良好で、実施例1と同様のプレスフィルムで観察しても繊維の凝集塊は見られなかった。
トイレットペーパーの配合量を100重量部とした以外は実施例8と同様に行った。物性測定結果を表2に示す。なお、この混練物を実施例1と同様のプレスフィルムで観察したが、繊維の凝集塊は殆ど見られなかった。
〔比較例5〕
実施例8に用いたエチレン−オクテン共重合体のみを実施例8と同じ条件で混練および熱プレスした試験片について実施例6と同様の物性を測定した。物性測定結果を表2に示す。
熱可塑性樹脂としてホモ・ポリプロピレン(ホモPP)(商品名J−900GP、MFR=13g/10min、(株)プライムポリマー製)を用い、また混練温度を170℃とした以外は実施例1と同様にして混練物を得た。これを190℃で熱プレスして厚さ4mmのシートを成形したのち、実施例6と同様の物性を測定した。得られた混練物のセルロース繊維の分散状態および繊維長は実施例4とほぼ同様であった。
実施例4で得られた混練物を実施例10と同様に成形して物性を測定した。物性測定結果を表2に示す。
〔比較例6〕
実施例10に用いたホモPPのみを実施例10と同じ条件で混練及び熱プレスした試験片について実施例6と同様の物性を測定した。物性測定結果を表2に示す。
〔比較例7〕
実施例4に用いたブロックPPのみを実施例10と同じ条件で混練および熱プレスした試験片について実施例6と同様の物性を測定した。物性測定結果を表2に示す。
熱可塑性樹脂としてポリカーボネート(PC−2)(商品名ユーピロンH−4500、MFR=63g/10min、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)を用い、ティッシュペーパーの配合量をPC100重量部に対して25重量部とし、またミキサーブロック温度を185℃、混練時間を3分間とした以外は実施例1と同様にして混練物を得た。混練中の樹脂温度は約200℃であった。混練物の繊維の分散性は良好で実施例5と同様のプレスフィルムで観察しても繊維の凝集塊は見られなかった。これを210℃で熱プレスして厚さ4mmのシートを成形したのち、実施例6と同様の物性を測定した。混練物及び成形試験片はセルロース繊維の熱変色により黄褐色に着色した。物性測定結果を表2に示す。
セルロース繊維を主体とするウェブとして実施例3で使用したコットンウェブを用いた以外は実施例12と同様にして混練物を得た。混練中の樹脂温度は実施例12と同様の約200℃で、混練物の繊維の分散性も実施例12とほぼ同様であったが、混練物および成形試験片の着色度合いは実施例12よりも低く薄かった。物性測定結果を表2に示す。
〔比較例8〕
実施例12に用いたPC−2のみを実施例12と同じ条件で混練および熱プレスした試験片について実施例6と同様の物性を測定した。その結果を表2に示す。
LLDPE単体(比較例4)に対し、実施例6及び7はLLDPEにティシュペーパーを配合した成形体であるが、表2の物性測定結果に示すように、LLDPEのみの試験片に比べ、本発明のティッシュペーパーを配合した試験片は、実施例6のように、その配合量が5重量部という低配合量であっても、その曲げ弾性率、曲げ強度及びHDTが高く、ティシュペーパーすなわちセルロース繊維の補強効果が明確に現れていることが分る。そして、セルロース繊維の配合量が多いほどその補強効果も高くなることは、エチレン−オクテン共重合体を用いた場合(比較例5と実施例8および9との比較)も同様であり、また、用いた紙がティシュペーパーかトイレットペーパーかには係わらない。一般的に、繊維強化樹脂組成物においては、その繊維配合量が多くなるほど衝撃強度は低下する傾向にあり、その点において、繊維配合量の多い実施例7(43重量部配合)および実施例9(100重量部)の衝撃値は一般的な傾向と一致するが、ここで使用したLLDPEやエチレン−オクテン共重合体においては、繊維配合量が少ない領域での衝撃強度の低下は殆どなく、当該LLDPEを用いた場合においては(比較例4と実施例6との比較)、セルロース繊維を低配合した方がむしろ衝撃値は高めになっているほどである。ここで使用したLLDPEやエチレン−オクテン共重合体のように、耐衝撃強度が高くセルロース繊維の高配合が可能な熱可塑性樹脂についてはセルロース繊維を高配合してマスターバッチとし、他のポリオレフィン系熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物の弾性率と耐衝撃性のバランスを付与する改質剤として利用することもできる。
熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(PP)を用いた場合についても(実施例10および11)表2の物性測定結果に示すように、曲げ弾性率、曲げ強度及びHDTの明らかな向上が認められた。なかでも実施例10におけるHDTは、セルロース繊維の配合量が5重量部であるにもかかわらず、比較例6よりも35℃も高い。これは、セルロース繊維による補強効果に加え、セルロース繊維がここで用いたPPの造核剤として作用しているためと考えられる。示差走査熱量計による熱分析の結果、実施例10の混練物の結晶化温度は、比較例6の混練物の結晶化温度に比べ8℃高いことが分かった。結晶性熱可塑性樹脂の種類によっては、セルロース繊維が造核剤として働く場合もあることを示唆する結果である。
実施例12及び13はポリカーボネート(PC)に、本発明に従うセルロース繊維を主体とする紙及び/又はウェブとして、実施例12は木材繊維からなるティッシュペーパーを、実施例13は綿繊維からなるコットンウェブを配合混練した例である。低分子量のPCを用いているため、ミキサー設定温度が185℃でも混練することが可能であるが、混練中の樹脂温度はせん断発熱により約200℃に達するため、この温度条件下ではセルロース繊維の熱変色による混練物の着色現象が避けられず、混練時間が長くなるほど、またセルロース繊維の配合量が多くなるほど混練物の着色度合いも高まる。実施例13のように、同じセルロースからなる繊維でも、熱変色の一因となるリグニン成分を含まないコットン繊維を用いると、混練物の熱変色の度合いを低減することができる。また、この混練温度域では溶融粘度(混練トルク)も高いため、セルロース繊維の切断が生じるようになるが、それでも繊維長はまだ十分な長さを保っているため、良好な機械的強度を示した。
熱可塑性樹脂として、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)(商品名ソアノールD2908、融点188℃、日本合成化学工業(株)製)を用い、これを90℃の温水中(蒸留水使用)に48時間浸漬して含水量20wt%のEVOHペレットを得た。このEVOH100重量部(含有水分量除く)を、ミキサーブロック温度90℃、ローター回転数20min−1に設定したラボプラストミルに投入し、さらに蒸留水を加えながら一定トルクになるまで混練したのち、実施例1に用いたティッシュペーパーを11重量部供給して、ローター回転数を40min−1に上げ5分間混練した。引き続き2分おきに5℃ずつ120℃まで昇温しながら混練を続け水分を除去した。得られた混練物を120℃、6時間真空乾燥したのち、210℃で熱プレスして厚さ4mmのシートを成形した。このプレスシートから120mm×10mm×4mmの試験片を切り出し、JIS規格に準拠して、ノッチ付きシャルピー衝撃強さ(JIS K7111)、曲げ弾性率(JIS K7171)、荷重たわみ温度(HDT)(JIS K7191)、線膨張係数(JIS K7197)の測定を行った。これらの測定結果を表3に示す。なお、線膨張係数は昇温速度2℃/分で23℃から80℃までの平均線膨張率とした。なお、この混練物の熱変色は殆ど見られず(成形体においては若干黄変)、かつ繊維の分散性は良好で、実施例1と同様のプレスフィルムで観察しても繊維の凝集塊は見られなかった。実施例14、15並びに比較例9の物性測定結果を表3に示す。
ティッシュペーパーの配合量を43重量部とした以外は実施例14と同様にして混練物を得た。この混練物も熱変色は殆どなく、繊維の分散性も実施例14と同様に良好であった。得られた混練物から実施例14と同様の成形及び物性測定を行った。物性測定結果を表3に示す。
〔比較例9〕
実施例14に用いたEVOHのみを実施例14と同じ条件で混練及び熱プレスした試験片について実施例14と同様の物性を測定した。物性測定結果を表3に示す。
実施例14及び15は熱可塑性樹脂としてEVOHを用い、セルロース繊維の熱変色を避けるために、水によるEVOHの可塑化作用を利用し、水との共存下、100℃以下の温度でティッシュペーパーと混練した例である。このような混練手段を用いても、セルロース繊維の分散状態は良好であり、表3の物性測定結果に示すように、セルロース繊維の配合量が多いほど、成形体の曲げ弾性率および耐熱性が向上していることが分る。そして、線膨張係数においてもセルロース繊維による低減効果が現れていることが分る。
実施例8の組成物から40mm×40mm、厚み200μmのプレスシートを作成し、恒温槽一体式手動パンタグラフ型2軸延伸装置を用い95℃で延伸倍率3倍に延伸した。延伸後のフィルム厚みは26μmであった。このフィルムをJIS K7126A法に従ってGTR株式会社製ガス/水蒸気透過率測定器GTR―10Xにて水蒸気透過率を測定したところ、11ml/m2・日であった。実施例16並びに比較例10の測定結果を表4に示す。
〔比較例10〕
比較例5を実施例16同様に成形して2軸延伸したところ、その水蒸気透過率は3ml/m2・日であった。
実施例16および比較例10からセルロース繊維が均一に分散存在する条件下で延伸がなされた場合は水蒸気透過率が向上することが証明された。
超臨界発泡押出機(プラステコ社製 口径35mm超臨界ガス注入2軸混練機/口径50mm単軸押出機のタンデム発泡成形機)の2軸混練機のホッパーからポリ乳酸(PLA)(商品名REVODE 101−B、浙江海正生物材料公司製)の100重量部と実施例1記載のティッシュペーパー5重量部を混合し投入する。シリンダーブロック温度170℃、スクリュー回転数50min−1に設定し溶融混練した後、超臨界発生装置より炭酸ガスを温度190℃、圧力20MPaに設定し溶融したポリ乳酸とセルロース溶融混合物に圧入させた。次に2軸混練機から直結された冷却用単軸押出機に導入させシリンダーブロック温度を徐々に低下させるとともに圧力を低下させシート厚み150μmの発泡体を得た。この発泡体の平均セルサイズ5μmであった。次に実施例16と同様に水蒸気透過率を測定したところ、33ml/m2・日であった。実施例17並びに比較例11の測定結果を表5に示す。
〔比較例11〕
実施例17においてセルロース繊維を含まないポリ乳酸を実施例17と同条件で超臨界発泡をしたところ、平均セルズは22μmの発泡体がえられた。実施例16と同じく水蒸気透過率を測定したところ19ml/m2・日であった。
実施例17および比較例11では超臨界発泡においてセルロースが発泡核剤になっており、これが存在することで発泡セルが微細化することが判明した。さらにセルロース繊維の均一分散状態での存在により水蒸気透過率が著しく高くなることが確認された。
実施例1の組成物に酸化チタンTIOXIDE TR28(Huntsman社製)5重量部を追加配合して混練したのち(150℃、30min−1、5min)、160℃で熱プレスして100mm×100mm×4mmのシートを成形した。このプレスシートのHazeをヘイズメーターNDH4000(日本電色(株)を用いて測定したところ84%であった。実施例18並びに比較例12の測定結果を表6に示す。
〔比較例12〕
比較例4で用いた混練物(LLDPEのみ)に実施例18と同様にTIOXIDE TR28(Huntsman社製)5重量部を追加混練して、実施例18と同じ条件でプレスシートを作製した。このプレスシートについて実施例20と同様にヘイズを測定したところ、その結果は55%であった。
実施例18および比較例12からセルロース繊維の配合は機械的強度の維持もしくは向上を果たしつつ光線隠蔽力が高いことを証明している。
ティッシュペーパーの配合量をLLDPE100重量部に対して25重量部とした以外は実施例1と同様にしてLLDPEとティッシュペーパーからなる樹脂組成物を得た。この樹脂組成物に導電性カーボン(ライオンアクゾ社製ケッチェンカーボンEC600JD)を1.5重量%配合し、ミキサーブロック温度150℃、ローター回転数30min−1に設定したラボプラストミルで5分間混練した。得られた混練物を160℃で熱プレスして60mm×60mm×2mmのシートを成形したのち、JIS K6911に準拠した三菱化学社製ハイレスタ(UP
MCP−HT450)により表面抵抗を測定した。その結果、導電性カーボンによる凝集体は観測されず、表面抵抗は6.3×107Ωであった。実施例19並びに比較例13の測定結果を表7に示す。
〔比較例13〕
実施例19と同様にして、LLDPEに導電性カーボンのみを同量配合した混練物を作製し、実施例19と同様に表面抵抗を測定した。その結果、導電性カーボン由来の凝集体(ブツ)が認められ、表面抵抗は3.1×109Ωであった。
実施例19においては、比較例13との比較から、分子間凝集の強い導電ケッチェンカーボンは混練中のセルロース繊維による物理的邂逅と表面の官能基による化学的親和性により樹脂中での分散性が改良されたと考えられる。このようにセルロース繊維が介在することで導電性カーボンの分散性が改善され良好で安定した導電性が得られるものと推察される。