JP2013212084A - 少なくとも一層に米含有ゼリーを有する多層食品 - Google Patents
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Abstract
カレーライスに類似する多層食品や、桜餅風デザート等といった、少なくとも一層に米含有ゼリーを有する多層食品であり、外観が常食に近く、更に喫食中に味や食感の変化を楽しむことができる多層食品を提供する。特には、常食に近い外観や味を有しつつも、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感や物性を有する多層食品を提供し、咀嚼・嚥下機能低下者のQOLの向上に貢献する。
【解決手段】
多層食品の少なくとも一層に、ゲル化剤および3質量%以上の米類を含有する米含有ゼリーを用いる。
【選択図】図1
Description
例えば、カレーライスに類似する多層食品や、桜餅風デザートなど、少なくとも一層に米含有ゼリーを有する多層食品であり、外観が常食に近く、更に喫食中に味や食感の変化を楽しむことができ、かつ喫食しやすい多層食品に関する。
本発明はまた、常食に近い外観や味を有しつつも、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感や物性を有する多層食品にも関する。
咀嚼・嚥下機能低下者は、筋肉の衰えなどから食塊を咽頭から食道へ送り込む機能が低下しているため、米飯等の付着性が大きい食品はスムースに飲み込むことができない。一方、現在市販されている咀嚼・嚥下機能低下者向けの食品は、ペースト食、キザミ食、ムース食、ゼリー食が主流である。これらの食品は、食感及び風味が単一かつ均一であり、見た目及び味の両面からおいしさを感じにくいという課題がある。
日本人の主食は米飯であり、咀嚼・嚥下機能低下者でも食べやすい、飲み込みやすい食感を有し、なおかつ常食に近い外観を有する米類を含有する加工食品が求められている。
特許文献2に開示された技術は上記問題点に加え、酵素α−アミラーゼの使用により味質に悪影響を与える(甘味が増し、味のバランスが悪くなる)場合も多い。
特許文献3に開示された技術は容易にダマのない即席粥を調製する技術であり、調製後にアルファー化米やその粉末が沈降するとしても、短時間に喫食するため、米類の均一分散は特に必要とされず、従ってその技術については何ら触れられていない。
また、特許文献1〜3に開示されたいずれの技術も粥等の米飯食品をそのまま加工するものであり、単一の外観や味を有する食品しか提供できない。常食に外観や味が類似し、かつ米類を含有する食品に関する技術は一切記載も示唆もされていない。一方で、米類を含有する層を含む多層構造に飲食品を成形する場合、加熱工程(製造時の加熱殺菌、冷凍品を解凍する際の加熱工程等)で水分移行や浸透圧によって米類が沈降するだけでなく、米類から分離した澱粉質、水分、更には味成分や色成分が他層に移行し、結果として、層間の境界が不明確になるという問題が発生するが、特許文献1〜3にはかかる問題点についても一切触れられていない。
本発明はまた、常食に近い外観や味を有しながらも、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感と物性を有する多層食品を提供し、咀嚼・嚥下機能低下者のQOL(Quality of Life)を向上することを目的とする。
具体的には、本発明は以下の態様を有する多層食品に関する;
項1.少なくとも一層が、増粘多糖類および3質量%以上の米類を含有する米含有ゼリーである多層食品。
項2.90℃以上で加熱処理されたものである、項1に記載の多層食品。
項3.増粘多糖類が、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガムおよび寒天からなる群から選択される一種以上である、項1に記載の多層食品。
項4.少なくとも一層が、脱アシル型ジェランガム、3質量%以上の米類およびカルシウム塩を含有する米含有ゼリーである、多層食品。
項5.咀嚼・嚥下機能低下者用の食品である、項1〜4のいずれかに記載の多層食品。
項6.前記米含有ゼリー以外に、少なくとも一層のゲル層を有する、項1〜5のいずれかに記載の多層食品。
項7.少なくとも一層が、増粘多糖類および3質量%以上の米類を含有する米含有ゼリーである多層食品の製造方法であって、他層および下記条件を満たす米層を容器に充填後、加熱殺菌および冷却工程をとる、多層食品の製造方法;
(A)70℃における米層の粘度が100mPa・s以上である、
(B)米含有ゼリーに用いる米類として、下記測定方法に従って測定した場合の、メッシュ残渣が30g以下である米類を用いる;
(測定方法)
(b−1)米類10質量%及び水90質量%を80℃で10分加熱撹拌後、121℃20分間のレトルト殺菌を行い、米類が膨潤した試料を調製する、
(b−2)殺菌後の試料50gを500mlビーカーに入れ、70℃の湯を450g加えて加熱し、95℃達温後8分間加熱を行い、その後、2分間米粒を潰さないようにゆっくりと手で撹拌してばらけさせ、
(b−3)上から順に目開き4mm、3.35mm及び2.8mmの篩(直径74mm)を重ね、(b−2)の試料を流す、
(b−4)500mlの水(常温)を大気圧下で2回上部から流す、
(b−5)篩上に残った水分をふき取り、4mm、3.35mm及び2.8mmの篩上に残存した試料の合計質量(メッシュ残渣)を測定する。
項8.少なくとも一層が、米類を含有する米含有ゼリーである多層食品の製造方法において、脱アシル型ジェランガム、3質量%以上の米類およびカルシウム塩を含有する米層を充填後、加熱工程前に固化工程をとることを特徴とする、多層食品の製造方法。
項9.全ての層を充填後、90℃以上の加熱殺菌を行う、項7または8に記載の多層食品の製造方法。
本発明の多層食品は、常食に近い外観や味を有しながらも、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感と物性を有するため、咀嚼・嚥下機能低下者に喫食の楽しみを提供し、QOLの向上に貢献できる。また、本発明によれば、予め粥を調製する等の煩雑な工程をとることなく、簡便な方法で外観や味が常食に近い多層食品を製造でき、工業上のメリットも大きい。
好ましくは脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガムおよび寒天からなる群から選択される一種以上、更に好ましくは脱アシル型ジェランガムおよび/またはネイティブ型ジェランガムである。
ジェランガムは、Sphingomonas elodeaが産出する発酵多糖類である。
D−グルコース、D−グルクロン酸、D−グルコースとL−ラムノースの4つの糖からなるモノマーが重合したものであり、1→3結合したグルコースのC−6位にアセチル基(1/2残基)が、C−2位にグリセリル基が結合しているネイティブ型のジェランガムと、これらのアシル基が脱エステル化した脱アシル型ジェランガムが存在する。
かかる増粘多糖類は、米含有ゼリーを成形するために添加される。また、後述する米層の粘度調整剤として添加しても良い。
米含有ゼリーに含まれる米類の含量は、3質量%以上、好ましくは5〜40質量%である。米類の含量を本範囲内に調整することで、カレーライスのような米飯を含む加工食品、または餅、団子を含むデザート等に外観や味が類似した多層食品を提供できる。また、米類の含量を本範囲内に調整することで、常食に外観や味が類似した多層食品でありつつも、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感や物性を有する多層食品を提供できる。
かかるところ、本発明では、均一な米含有ゼリーを有し、さらに層間の境界が明確な層状食品を提供するために、以下に掲げる製造方法(1)又は(2)に従って多層食品を製造することが好ましい。
少なくとも一層が増粘多糖類および3質量%以上の米類を含有する米含有ゼリーである多層食品の製造方法であり、下記条件を満たす米含有ゼリーおよび他層を容器に充填後、加熱殺菌および冷却工程をとる、多層食品の製造方法;
(A)70℃における米層(米含有ゼリーの原材料を含有する溶液)の粘度が100mPa・s以上である、
(B)米含有ゼリーに用いる米類として、下記測定方法に従って測定した場合のメッシュ残渣が30g以下である米類を用いる;
(測定方法)
(b−1)米類10質量%及び水90質量%を80℃で10分加熱撹拌後、121℃20分間のレトルト殺菌を行い、米類が膨潤した試料を調製する、
(b−2)殺菌後の試料50gを500mlビーカーに入れ、70℃の湯を450g加えて加熱し、95℃達温後8分間加熱を行い、その後、2分間米粒を潰さないようにゆっくりと手で撹拌してばらけさせ、
(b−3)上から順に目開き4mm、3.35mm及び2.8mmの篩(直径74mm)を重ね、(b−2)の試料を流す、
(b−4)500mlの水(常温)を大気圧下で2回上部から流す、
(b−5)篩上に残った水分をふき取り、4mm、3.35mm及び2.8mmの篩上に残存した試料の合計質量(メッシュ残渣)を測定する。
本発明において、「米層」とは、米含有ゼリーの原材料を含有する溶液をいう。「70℃における米層の粘度」は、米含有ゼリーの原材料(米類、増粘多糖類等)を含有する溶液を、容器に充填する直前温度である70℃で、BL型回転粘度計を用いて回転数60rpmで1分間測定することによって求められる。
以下、本明細書中でいう「70℃における粘度」とは、本方法によって測定された値を示す。なお、70℃における米層の粘度の上限は特に制限されず、充填可能な粘度の範囲において、適宜調整することが可能である。(好ましくは、上限は10,000mPa・sを例示できる。)
米層におけるネイティブ型ジェランガムの含量は、通常、0.01〜1質量%、好ましくは0.02〜0.5質量%、更に好ましくは0.03〜0.3質量%の範囲である。
本測定方法(b−1)〜(b−5)は、膨潤時の米類の大きさを示す指標であり、メッシュ残渣のg(グラム)数が大きいほど膨潤時の米粒が大きく、g数が小さいほど膨潤時の米粒が小さいことを意味する。
一方、(A)の粘度が100mPa・s以上であっても、(B)が30gを超える場合、または(B)が30g以下であっても(A)の粘度が100mPa・s未満である場合は、充填および/または加熱工程時に、米層中の米類が沈降し、米類と澱粉質や水分に分離する。
例えば、原材料を水と混合した溶液状態の各層を順に容器に充填後、加熱殺菌および冷却工程を経ることで製造できる。米層は、上記条件(B)を満たす米類を3質量%以上および増粘多糖類を水に添加後、ゲル化剤の溶解温度以上に加熱することで調製できる。
一例として、下層に米含有ゼリー、上層に米含有ゼリー以外の層を有する多層食品を製造する場合は、容器に下層となる米層(米含有ゼリーの原材料を含有する溶液)を充填後、必要に応じて増粘多糖類のゲル化温度まで冷却し、次いで上層を充填後、加熱殺菌および冷却工程をとることで多層食品を製造できる。
別の製法においては、容器に上層となる米層以外の層を充填後、次いで下層となる米層を充填し、必要に応じて増粘多糖類のゲル化温度まで冷却後、加熱殺菌および冷却工程をとることで製造することも可能である。
別の製法においては、容器に下層(他層)を充填後、必要に応じて増粘多糖類のゲル化温度まで冷却後、次いで上層(米層)を充填し、加熱殺菌および冷却工程をとることで製造することも可能である。
もちろん、本発明によれば、味や食感を変化させた米層を二層以上用いて、米含有ゼリーを二層以上有する多層食品を製造することも可能である。
少なくとも一層に米含有ゼリーを有する多層食品は、充填および加熱殺菌時に米層中で米類が沈降するだけでなく、米類から分離した澱粉質や水分が他層に移行しやすくなり、結果として得られる米含有ゼリーが不均一になったり層間の境界(界面)が不明確になる等の問題を抱えていた。しかし、本発明では上記製造工程をとることで、90℃以上で30〜60分間の加熱殺菌、特には120℃以上で10〜30分間のレトルト殺菌といった過酷な殺菌条件下でも米層が均一に保持されるため、結果として得られる米含有ゼリーが均一であり、さらに層間の境界が明確な多層食品を製造することが可能となった。
例えば、5〜20℃で1〜3時間冷却することで多層食品の品温を低下させてもよく、常温で放冷することで多層食品の品温を低下させてもよい。
本発明において、第二の好ましい多層食品の製造態様は以下のとおりである。
少なくとも一層が、米含有ゼリーである多層食品の製造方法において、脱アシル型ジェランガム、3質量%以上の米類およびカルシウム塩を含有する米層(米含有ゼリーの原材料を含有する溶液)を充填後、加熱工程前に固化工程を行うことを特徴とする、多層食品の製造方法。
一般的にゲル化可能な増粘多糖類として脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、寒天、カラギナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、タマリンドシードガム、タラガムおよびマンナンなどを例示できるが、脱アシル型ジェランガム以外のゲル化剤を用いた場合は、加熱工程時に米含有ゼリーが融解して対流がおこり米類が沈降する、層間の境界(界面)が不明確となるなど、目的とする多層食品を得ることができない。
脱アシル型ジェランガムに遊離のカルシウム塩を添加し、加熱工程前に冷却固化を行なうことで、加熱工程時の米含有ゼリーの融解を防ぐ。それにより、米類が沈降する、層間の境界(界面)が不明確となるという問題を解決できる。
なお、最終食品の形態に応じて、米層に糖類、ナトリウム塩、調味料、香料などを添加することもできる。
例えば、多層食品を冷蔵流通させる場合は90〜98℃で30〜60分間、常温流通させる場合は120〜150℃で10〜30分間の加熱殺菌が例示できるが、これらの多層食品を製造する場合は、本加熱殺菌工程前に、米層の固化工程をとることが必要である。
また、米層をはじめとした各層を充填後、冷凍固化することで、冷凍流通可能な多層食品を製造できる。かくして得られる多層食品(冷凍品)は、90℃以上に加熱して喫食される場合が多いが、解凍時における加熱工程によって、米含有ゼリーが融解し、米類が沈降する、米類から澱粉質や水分が他層に移行するという問題が発生する。しかし、この場合においても、解凍前(具体的には、多層食品の製造時)に米層の固化工程をとることで、解凍時の加熱工程によっても、米含有ゼリーが均一であり、他層との境界が明確な多層食品を製造できる。
多層食品を冷蔵又は常温流通する場合は、固化工程の後に加熱殺菌工程及び冷却工程をとる。加熱殺菌条件および冷却工程は上記「1.多層食品の製造方法(1)」に従って製造可能である。
多層食品を冷蔵又は常温流通する場合は、固化工程の後に加熱殺菌工程及び冷却工程をとる。
つまり、本製造方法では、米層(米含有ゼリーの原材料を含有する溶液)を充填後、加熱工程前に米層をゲル化させる(ゼリー状にする)工程が必要となる。
固化工程を経ずに加熱殺菌を行った場合は、加熱時に米層中の米類が沈降し、米類から分離した澱粉質や水分が他層に移行し、層間の境界(界面)が不明確になる等の問題が生じる。
上述のとおり、本発明の多層食品は、少なくとも一層以が、増粘多糖類および3質量%以上の米類を含有する米含有ゼリーであることを特徴とし、米含有ゼリー(ゲル状の米層)を一層以上有する多層食品であれば、他層の形態(液状、ペースト状、ゲル状、固体状等)は問わない。好ましくは、他層の少なくとも一層がゲル状であることが好ましい。
(1)下層が米含有ゼリー(ゲル状の米層)、上層が他層(液状、ペースト状、ゲル状、固体状等)、
(2)下層が他層(液状、ペースト状、ゲル状、固体状等)、上層が米含有ゼリー(ゲル状の米層)、
(3)下層、上層とも米含有ゼリー(ゲル状の米層)、
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの形態に、更に米含有ゼリー(ゲル状の米層)もしくは他層を組み合わせた形態など。
なお、連続充填によって多層を形成する場合には、好ましくは少なくとも一層にネイティブ型ジェランガムを用いること、更に好ましくは各層にネイティブ型ジェランガムを用いることが望ましい。
咀嚼・嚥下機能低下者用食品として適用される際は、以下の食感やレオロジー特性が求められる。1)適度なかたさを有すること、2)食塊形成性(咀嚼後の食品のまとまりやすさ、口腔・咽頭相において食塊がばらばらにならないこと)に優れること、3)口腔および咽頭への付着が少ないこと、及び4)保水性が高いこと(離水が少ないこと)。
本発明では上記食感や物性を満たす、多層食品を提供できるという利点を有する。
区分1:容易にかめる / かたさ500,000N/m2以下
区分2:歯ぐきでつぶせる / かたさ50,000N/m2以下
区分3:舌でつぶせる / かたさ20,000N/m2以下
区分4:かまなくてよい / かたさ5,000N/m2以下
ユニバーサルデザインフード(UDF)は、日本介護食品協議会が、利用者が選択する際の目安として、食品を「かたさ」や「粘度」に応じて4段階に区分したものである。かたさや粘度の測定方法は、ユバーサルデザインフード自主規格 第2版(日本介護食品協議会)を参照することができる。
本発明において「かたさ」とは、テクスチャーアナライザー TA−XT.2i(Stable Micro Systems 社製)を使用し、下記条件で測定した場合の最大応力値をいう。
<測定方法>
試料を直径40mm、高さ15mmの容器に充填する。試料表面から上方15mmの位置に、直径20mm、高さ8mmの樹脂性プランジャーを設定し、圧縮速度10mm/秒で、クリアランス5mmになるように押し込む。測定温度20℃。
食塊形成性(咀嚼後の食品のまとまりやすさ、口腔・咽頭相において食塊がばらばらにならないこと)は、飲み込む力が衰えた嚥下機能低下者が対象飲食品を飲み込みやすいか否かの指標となる。
食塊形成性の指標として、例えば、特別用途食品の「えん下困難者用食品の試験方法(実施例参照)」に従って測定した「凝集性」をあげることができ、「凝集性」の範囲として好ましくは0.2〜0.9、更に好ましくは0.2〜0.7を例示できる。「凝集性」の測定方法は以下のとおりである。
試料を直径40mm、高さ15mmの容器に充填し、直線運動により圧縮応力を測定することが可能な装置(例.テクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製))および直径20mm、高さ8mmのプランジャーを用いて、測定温度20℃、架台速度10mm/秒、クリアランス5mmで2回連続圧縮を行う。2回連続圧縮を行った際に得られる応力−距離曲線より、第二バイトの圧縮時の正の応力値と移動距離の積により求められる面積A2を、第一バイトの圧縮時の正の応力値と移動距離の積により求められる面積A1で割った値、すなわちA2/A1を「凝集性」とする。
嚥下機能低下者は筋肉の衰えなどから食塊を口腔から咽頭へ送り込む機能が低下しており、食塊がスムースに咽頭相を通過することができるよう付着の少ない食感が求められる。
付着性の指標として、例えば、特別用途食品の「えん下困難者用食品の試験方法(実施例参照)」に従って測定した「付着性」をあげることができる。
本発明では、「付着性」の範囲として好ましくは2000J/m3以下、更に好ましくは1500J/m3以下を例示できる。「付着性」の測定方法は以下のとおりである。
試料を直径40mm、高さ15mmの容器に充填し、直線運動により圧縮応力を測定することが可能な装置(例.テクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製))および直径20mm、高さ8mmのプランジャーを用いて、測定温度20℃、架台速度10mm/秒、クリアランス5mmで2回連続圧縮を行う。2回連続圧縮を行った際に得られる応力−距離曲線より、第一バイトの圧縮後に現れる負の応力値と移動距離の積により求められる面積を「付着性」とする。
しかし、本発明では米類を3質量%以上、好ましくは5〜30質量%の範囲に調整した米含有ゼリー(ゲル状の米層)とすることで、咀嚼・嚥下機能低下者にとって好ましい食感および物性を有する多層食品を提供できる。咀嚼・嚥下機能低下者は筋肉の衰えなどから食塊を咽頭から食道へ送り込む機能が低下しているため、米飯等の付着性が大きい食品は飲み込みが難しい場合があるが、本発明では米類を含有しながらも咽頭への付着性が小さく、咀嚼・嚥下機能低下者用食品としての食感および物性に優れた多層食品を提供できる。
かかる点、本発明の多層食品は、咀嚼・嚥下機能低下者向けに提供する場合は、付着性が2000J/m3以下、更には1500J/m3以下であることが好ましい。
かかる点、本発明の多層食品は、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感や物性を有しつつも、カレーライスのような米飯を含有する加工食品、または餅、団子を含むデザート等、健常者が喫食するような常食に近い外観や味を有する多層食品を提供できる。
このように本発明の多層食品は外観や味に多様性をもたせることができ、咀嚼・嚥下機能低下者のQOLの向上に貢献できるという利点を有する。
表1及び2の処方に基づき、多層食品(モデル系)を調製した。
(下層:米層の調製)
表1の処方に従って米層を調製した。具体的には、水、米類を撹拌しながら増粘多糖類を添加し、80℃で10分間加熱撹拌溶解した。蒸発水を水で全量補正して米層(米含有ゼリーの原材料を含有する溶液)を調製した。本溶液を100ml容の容器に50g充填後、20℃に冷却して米層をゲル化させた(米含有ゼリーを調製した)。
(測定方法)
(b−1)米類10質量%及び水90質量%を80℃で10分加熱撹拌後、121℃20分間のレトルト殺菌を行い、米類が膨潤した試料を調製する、
(b−2)殺菌後の試料50gを500mlビーカーに入れ、70℃の湯を450g加えて加熱し、95℃達温後8分間加熱を行い、その後、2分間米粒を潰さないようにゆっくりと手で撹拌してばらけさせ、
(b−3)上から順に目開き4mm、3.35mm及び2.8mmの篩(直径74mm)を重ね、(b−2)の試料を流す、
(b−4)500mlの水(常温)を大気圧下で2回上部から流す、
(b−5)篩上に残った水分をふき取り、4mm、3.35mm及び2.8mmの篩上に残存した試料の合計質量(メッシュ残渣)を測定する。
注2)70℃の米層を、BL型回転粘度計を用いて回転数60rpmで1分間測定した値を示す。
表2の処方に従って上層溶液を調製した。具体的には、水を撹拌しながらネイティブ型ジェランガムおよびデキストリンの粉体混合物を添加し、80℃で10分間加熱撹拌溶解した。色素を添加し、蒸発水を水で補正し、上層溶液を調製した。
(多層食品の調製)
実施例1−1〜1−3および参考例1−1で調製した米層を100ml容の容器に50g充填後、冷却し、米層をゲル化させた(米含有ゼリー)。米含有ゼリーの上部に上層の溶液を重層し、満了充填した。121℃で20分間レトルト加熱殺菌を行い、20℃で15時間冷却して多層食品を製造した。得られた多層食品の外観、食感および物性を評価した。なお、物性(かたさ、凝集性および付着性)については、米含有ゼリーのみについて測定を行なった。結果を表3に示す。
注3)「かたさ」
テクスチャーアナライザー TA−XT.2i(Stable Micro Systems社製)を用いて下記条件で測定した。
試料を直径40mm、高さ15mmの容器に充填した。試料表面から上方15mmの位置に、直径20mm、高さ8mmの樹脂性プランジャーを設定し、圧縮速度10mm/秒で、クリアランス5mmになるように押し込んだ。最大応力値を「かたさ」とした。測定温度は20℃とした。
試料を直径40mm、高さ15mmの容器に充填し、テクスチャーアナライザー TA−XT.2i(Stable Micro Systems社製)および直径20mm、高さ8mmのプランジャーを用いて、測定温度20℃、架台速度10mm/秒、クリアランス5mmで2回連続圧縮を行った。2回連続圧縮を行った際に得られる応力−距離曲線より、第二バイトの圧縮時の正の応力値と移動距離の積により求められる面積A2を、第一バイトの圧縮時の正の応力値と移動距離の積により求められる面積A1で割った値、すなわちA2/A1を「凝集性」とした。
試料を直径40mm、高さ15mmの容器に充填し、テクスチャーアナライザー TA−XT.2i(Stable Micro Systems社製)および直径20mm、高さ8mmのプランジャーを用いて、測定温度20℃、架台速度10mm/秒、クリアランス5mmで2回連続圧縮を行った。2回連続圧縮を行った際に得られる応力−距離曲線より、第一バイトの圧縮後に現れる負の応力値と移動距離の積により求められる面積を「付着性」とした。
本発明の多層食品は、米含有ゼリーが均一な外観と食感を有し、かつ層間の境界が明確な多層食品である上に、舌で容易に潰せる程度のかたさを有し、食塊形成性も良好であった。更には、咽頭などへの付着も少なく、咀嚼・嚥下機能低下者に適した食感と物性を有する多層食品であった。
表4及び表5の処方に基づき、多層食品(モデル系)を調製した。
同一の米原料(上新粉)を用い、増粘多糖類の添加により米層の粘度を調製して多層食品を調製した。
具体的には、表4に示す処方に従って、水を撹拌しながら米類および増粘多糖類を添加し、80℃で10分間加熱撹拌溶解した。蒸発水を水で全量補正して米層を調製した。本溶液(米層)を100ml容の容器に50g充填後、20℃に冷却して米層をゲル化させた(米含有ゼリーを調製した)。
表5の処方に従って上層溶液を調製した。具体的には、水を撹拌しながらネイティブ型ジェランガムおよびデキストリンの粉体混合物を添加し、80℃で10分間加熱撹拌溶解した。色素を添加し、蒸発水を水で補正し、上層溶液を調製した。
実施例2−1〜2−2および参考例2−1で調製した米層を100ml容の容器に50g充填後、冷却固化し、米層をゲル化させた(米含有ゼリー)。米含有ゼリーの上部に上層を重層し、満了充填した。121℃で20分間レトルト加熱殺菌を行い、20℃で15時間冷却して多層食品を調製した。得られた多層食品の外観、食感および物性を評価した。なお、物性(かたさ、凝集性および付着性)については、米含有ゼリーについてのみ測定を行なった。結果を表6に示す。
一方、(B)メッシュ残渣が0gでありつつも、(A)70℃における米層の粘度が31mPa・sである米層を用いて調製した参考例2−1は、米層の製造時点で上新粉やと水分が分離し、均一な外観および食感を有する米含有ゼリーを調製することができなかった。更に、層間の境界(界面)が非常に不明確となった。
本発明の多層食品(実施例2−1および2−2)は、米含有ゼリーが均一であり、かつ層間の境界が明確な多層食品である上に、舌で容易に潰せるほどの適度なかたさを有し、食塊形成性も良好であった。更には、咽頭などへの付着も少なく、咀嚼・嚥下機能低下者に適した食感と物性を有する多層食品であった。
表7の処方に基づき、多層食品(モデル系)を調製した。
(下層:米層の調製)
実験例1で層間の境界が明確な多層食品を製造できなかった、米原料(参考例1−1のα化米(3))を用いて多層食品を調製した。
具体的には、水および米を撹拌し、80℃で10分間加熱撹拌溶解した。予め80℃で10分間加熱撹拌溶解した増粘多糖類溶液を添加した後、乳酸カルシウムを加えた。蒸発水を水で全量補正して米層を調製した(実施例3−1)。参考例3−1は、乳酸カルシウムを添加しない以外は実施例3−1と同様である。
調製した米層を100ml容の容器に50g充填後、20℃に冷却して米層をゲル化させた(米含有ゼリーを形成させた)。
上層は、実験例1で調製したものを用いた。
実施例3−1および参考例3−1で調製した米層を100ml容の容器に50g充填後、冷却固化し、米層をゲル化させた(米含有ゼリー)。米含有ゼリーの上部に上層の溶液を重層し、満了充填した。121℃で20分間レトルト加熱殺菌を行い、20℃で15時間冷却して多層食品を調製した。得られた多層食品の外観、食感および物性を評価した。なお、物性(かたさ、凝集性及び付着性)については、米含有ゼリーについてのみ測定を行なった。結果を表7に示す。
一方、実施例3−1と同じ調製工程をとらなかった参考例3−1の多層食品は、米層中で米類と水分が分離してしまい、米層からは澱粉質が、他層からは色素が互いの層に移行し、層間の境界(界面)が明確な多層食品を調製することができなかった。
表8及び表9の処方に基づき、多層食品(カレーライスゼリー)を調製した。
表8の処方に従って、米層を調製した。具体的には、水にα化米および増粘多糖類を添加し、80℃で10分間加熱撹拌溶解した。次いで食塩を添加後、蒸発水を水で全量補正し、65℃にホールディングした。
表9の処方に従って、上層であるカレーソースゼリーを調製した。具体的には、水、素材1に、素材2の粉体混合物を添加し、80℃で10分間加熱撹拌溶解した。次いで、香料を添加後、蒸発水を水にて全量補正し、65℃にホールディングした。
表8で調製した米層(65℃)を100ml容の容器に50g充填し、直後にカレーソースゼリーの溶液(65℃)を重層し、満了充填した。121℃で20分間加熱殺菌処理(レトルト殺菌)を行った。20℃で15時間冷却して多層食品(カレーライスゼリー)を調製した(実施例4)。
本発明の多層食品は、米含有ゼリー中の米類が沈降することなく均一な外観と食感を有し、かつ層間の境界が明確な多層食品である上に、舌で容易に潰せる程度のかたさを有し、食塊形成性も良好であった。更には、咽頭などへの付着も少なく、咀嚼・嚥下機能低下者に適した食感と物性を有する多層食品であった。実施例4の多層食品に関する物性(かたさ、凝集性および付着性)の測定結果を表10に示す。
表11及び表12の処方に従って、多層食品(桜餅風デザート)を調製した。
表11の処方に従って、下層であるあんこゼリーを調製した。具体的には、水、こしあんに、グラニュー糖および増粘多糖類の粉体混合物を添加し、80℃で10分間加熱撹拌溶解した。次いで、香料を添加後、蒸発水を水にて全量補正し、65℃にホールディングした。
表12の処方に従って、米層を調製した。具体的には、水、もち米、α化米に増粘多糖類を添加し、80℃で10分間加熱撹拌溶解した。次いで色素及び香料を添加後、蒸発水を水で全量補正し、65℃にホールディングした。
表12で調製した米層(65℃)を100ml容の容器に50g充填し、直後にあんこゼリー層(65℃)を連続的に充填後し、満了充填した。121℃で20分間加熱殺菌処理(レトルト殺菌)を行った。20℃で15時間冷却して多層食品(桜餅風デザート)を調製した。
本発明の多層食品は、米含有ゼリー中の米類が沈降することなく、均一な外観と食感を有し、かつ層間の境界(界面)が明確な多層食品である上に、舌で容易に潰せる程度のかたさを有し、食塊形成性も良好であった。更には、咽頭などへの付着も少なく、咀嚼・嚥下機能低下者に適した食感と物性を有する多層食品であった。実施例5の多層食品に関する物性(かたさ、凝集性および付着性)の測定結果を表13に示す。
Claims (9)
- 少なくとも一層が、増粘多糖類および3質量%以上の米類を含有する米含有ゼリーである多層食品。
- 90℃以上で加熱処理されたものである、請求項1に記載の多層食品。
- 増粘多糖類が、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガムおよび寒天からなる群から選択される一種以上である、請求項1に記載の多層食品。
- 少なくとも一層が、脱アシル型ジェランガム、3質量%以上の米類およびカルシウム塩を含有する米含有ゼリーである、多層食品。
- 咀嚼・嚥下機能低下者用の食品である、請求項1〜4のいずれかに記載の多層食品。
- 前記米含有ゼリー以外に、少なくとも一層のゲル層を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の多層食品。
- 少なくとも一層が、増粘多糖類および3質量%以上の米類を含有する米含有ゼリーである多層食品の製造方法であって、他層および下記条件を満たす米層を容器に充填後、加熱殺菌および冷却工程をとる、多層食品の製造方法;
(A)70℃における米層の粘度が100mPa・s以上である、
(B)米含有ゼリーに用いる米類として、下記測定方法に従って測定した場合のメッシュ残渣が30g以下である米類を用いる;
(測定方法)
(b−1)米類10質量%及び水90質量%を80℃で10分加熱撹拌後、121℃20分間のレトルト殺菌を行い、米類が膨潤した試料を調製する、
(b−2)殺菌後の試料50gを500mlビーカーに入れ、70℃の湯を450g加えて加熱し、95℃達温後8分間加熱を行い、その後、2分間米粒を潰さないようにゆっくりと手で撹拌してばらけさせ、
(b−3)上から順に目開き4mm、3.35mm及び2.8mmの篩(直径74mm)を重ね、(b−2)の試料を流す、
(b−4)500mlの水(常温)を大気圧下で2回上部から流す、
(b−5)篩上に残った水分をふき取り、4mm、3.35mm及び2.8mmの篩上に残存した試料の合計質量(メッシュ残渣)を測定する。 - 少なくとも一層が米類を含有する米含有ゼリーである多層食品の製造方法において、脱アシル型ジェランガム、3質量%以上の米類およびカルシウム塩を含有する米層を充填後、加熱工程前に固化工程をとることを特徴とする、多層食品の製造方法。
- 全ての層を充填後、90℃以上の加熱殺菌を行う、請求項7または8に記載の多層食品の製造方法。
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