以下、この発明によるノイズ低減装置の幾つかの実施形態を、図を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、いずれも、この発明によるノイズ低減装置を、この発明によるノイズ低減音声出力装置の実施形態としてのヘッドホン装置に適用した場合である。
ところで、アクティブなノイズ低減を行なうシステムとしては、フィードバック方式(フィードバック型)と、フィードフォワード方式(フィードフォワード型)とがある。この発明は、いずれの方式のノイズ低減システムにも適用可能である。
また、ノイズ環境に応じたノイズ低減装置における特性を変更する方式は、ユーザの選択指示に応じて行なう手動選択方式と、ノイズ環境に応じて特性を自動的に変更する自動変更方式の2通りがある。
[手動選択方式]
[第1の実施形態(フィードバック方式のノイズ低減装置)]
まず、フィードバック方式のノイズ低減システムに、この発明を適用した実施形態について説明する。図1は、この発明によるノイズ低減装置の実施形態を適用したヘッドホン装置の実施形態の構成例を示すブロック図である。
図1においては、説明の簡単のため、ヘッドホン装置のリスナ(聴取者)1の右耳側の部分のみについての構成を示している。これは、後述する他の実施形態の場合も同様である。なお、左耳側の部分も同様に構成されるのは言うまでもない。
図1では、リスナ1が実施形態のヘッドホン装置を装着したことにより、リスナ1の右耳が右耳用ヘッドホン筐体(ハウジング部)2により覆われている状態を示している。ヘッドホン筐体2の内側には、電気信号である音声信号を音響再生する電気−音響変換手段としてのヘッドホンドライバーユニット(以下、単にドライバーという)11が設けられている。
そして、音声信号入力端12を通じた、例えば音楽信号がイコライザ回路13および加算回路14を通じてパワーアンプ15に供給され、このパワーアンプ15を通じた音楽信号がドライバー11に供給されて、音響再生され、リスナ1の右耳に対して音楽信号の再生音が放音されるようにされている。
音声信号入力端12は、携帯型音楽再生装置のヘッドホンジャックに差し込まれるヘッドホンプラグから構成されるものである。この音声信号入力端12と、左右の耳用のドライバー11との間の音声信号伝送路中には、イコライザ回路13、加算回路14、パワーアンプ15の他、後述する、音響−電気変換手段としてのマイクロホン21、マイクロホンアンプ(以下、単にマイクアンプという)22、ノイズ低減用のフィルタ回路23、メモリ24、メモリコントローラ25、操作部26などを備えるノイズ低減装置部20が設けられる構成とされている。
図示は省略するが、このノイズ低減装置部20とドライバー11、マイクロホン21、また、音声信号入力端12を構成するヘッドホンプラグとの間は、接続ケーブルで接続されている。20a,20b,20cは、ノイズ低減装置部20に対して接続ケーブルが接続される接続端子部である。
この図1の第1の実施形態では、リスナ1の音楽聴取環境において、ヘッドホン筐体2の外のノイズ源3から、ヘッドホン筐体2内のリスナ1の音楽聴取位置に入り込むノイズをフィードバック方式で低減して、音楽を良好な環境で聴取することができるようにする。
フィードバック方式のノイズ低減システムにおいては、リスナ1の音楽聴取位置であるところの、ノイズとノイズ低減音声信号の音響再生音とを合成する音響合成位置(ノイズキャンセルポイントPc)でのノイズをマイクロホンで収音するものである。
したがって、この第1の実施形態においては、ノイズ収音用のマイクロホン21は、ヘッドホン筐体(ハウジング部)2の内側となるノイズキャンセルポイントPcに設けられる。このマイクロホン21の位置の音が制御点となるため、ノイズ減衰効果を考慮し、ノイズキャンセルポイントPcは、通常耳に近い位置、つまりドライバー11の振動板前面とされ、この位置に、マイクロホン21が設けられる。
そして、そのマイクロホンで収音したノイズの逆相成分を、ノイズ低減音声信号生成部で、ノイズ低減音声信号として生成し、その生成したノイズ低減音声信号をドライバー11に供給して音響再生することで、外部からヘッドホン筐体2内に入ってきたノイズを低減させるものである。
ここで、ノイズ源3におけるノイズと、ヘッドホン筐体2内に入り込んだノイズ3´とは同じ特性ではない。しかし、フィードバック方式のノイズ低減システムにおいては、ヘッドホン筐体2内に入り込んだノイズ3´、すなわち、低減対象のノイズ3´を、マイクロホン21で収音することになる。
したがって、フィードバック方式では、ノイズ低減音声信号生成部は、マイクロホン21によりノイズキャンセルポイントPcで収音したノイズ3´をキャンセルするように、前記ノイズ3´の逆相成分を生成すればよい。
この実施形態では、フィードバック方式のノイズ低減音声信号生成部として、デジタルフィルタ回路23を用いる。この実施形態では、フィードバック方式でノイズ低減音声信号を生成するので、デジタルフィルタ回路23は、以下、FBフィルタ回路23と称することとする。
FBフィルタ回路23は、DSP(Digital Signal Processor)232と、その前段に設けられるA/D変換回路231と、その後段に設けられるD/A変換回路233とで構成される。
マイクロホン21で収音された得られたアナログ音声信号は、マイクアンプ22を通じてFBフィルタ回路23に供給され、A/D変換回路231によりデジタル音声信号に変換される。そして、そのデジタル音声信号がDSP232に供給される。
DSP232には、フィードバック方式のデジタルノイズ低減音声信号を生成するためのデジタルフィルタが構成される。このデジタルフィルタは、これに入力されるデジタル音声信号から、これに設定されるパラメータとしてのフィルタ係数に応じた特性の前記デジタルノイズ低減音声信号を生成する。DSP232のデジタルフィルタに設定されるフィルタ係数は、この実施形態では、メモリ24からメモリコントローラ25を通じて供給される。
この実施形態では、メモリ24には、種々の異なる複数のノイズ環境におけるノイズを、DSP232のデジタルフィルタで生成するフィードバック方式によるノイズ低減音声信号により低減することができるようにするために、後述するような複数個(複数セット)のパラメータとしてのフィルタ係数が記憶されている。
メモリコントローラ25は、このメモリ24から、特定の1個(1セット)のフィルタ係数を読み出して、DSP232のデジタルフィルタに設定するようにする。
そして、この実施形態では、メモリコントローラ25に対しては、操作部26の操作出力信号が供給されており、メモリコントローラ25は、この操作部26からの操作出力信号に応じて、メモリ24から特定の1個(1セット)のフィルタ係数を選択して読み出し、DSP232のデジタルフィルタに設定するようにする。
そして、DSP232のデジタルフィルタでは、以上のようにして、メモリコントローラ25を介してメモリ24から選択的に読み出されて設定されたフィルタ係数に応じたデジタルノイズ低減音声信号を生成する。
そして、DSP232で生成されたデジタルノイズ低減音声信号は、D/A変換回路233においてアナログノイズ低減音声信号に変換される。そして、このアナログノイズ低減音声信号が、FBフィルタ回路23の出力信号として加算回路14に供給される。
この加算回路14には、ヘッドホンによりリスナ1が聴取したいとされる入力音声信号(音楽信号など)Sが、音声信号入力端12を通じ、イコライザ回路13を通じて供給される。イコライザ回路13は、入力音声信号の音特補正を行なう。
加算回路14の加算結果の音声信号は、パワーアンプ15を通じてドライバー11に供給されて、音響再生される。この音響再生されてドライバー11により放音される音声には、FBフィルタ23において生成されたノイズ低減音声信号による音響再生成分が含まれる。このドライバー11で音響再生された放音された音声のうちの、ノイズ低減音声信号による音響再生成分とノイズ3´とが、音響合成されることにより、ノイズキャンセルポイントPcでは、ノイズ3´が低減(キャンセル)される。
以上説明したフィードバック方式のノイズ低減装置のノイズ低減動作について、伝達関数を用いて、図2を参照しながら説明する。
すなわち、図1に示したブロック図に対応して、各部をその伝達関数を用いて表したブロック図を図2に示す。この図2において、Aはパワーアンプ15の伝達関数、Dはドライバー11の伝達関数、Mはマイクロホン21およびマイクアンプ22の部分に対応する伝達関数、−βはフィードバックのために設計されたフィルタの伝達関数である。また、Hはドライバー11からマイクロホン21までの空間の伝達関数、Eは聴取目的の音声信号Sにかけられるイコライザ13の伝達関数である。上記の各伝達関数は複素表現されているものとする。
また、図2において、Nは外部のノイズ源からヘッドホン筐体2内のマイクロホン21位置近辺に侵入してきたノイズであり、Pはリスナ1の耳に届く音圧である。なお、外部ノイズがヘッドホン筐体2内に伝わってくる原因としては、例えばイヤーパッド部の隙間から音圧として漏れてくる場合や、ヘッドホン筐体2が音圧を受けて振動した結果としてヘッドホン筐体2内部に音が伝わる場合などが考えられる。
この図2のように表したとき、図2のブロックは、図3の(式1)で表現することができる。そして、この(式1)において、ノイズNに着目すると、ノイズNは、1/(1+ADHMβ)に減衰していることが分かる。ただし、(式1)の系がノイズ低減対象周波数帯域にて、ノイズキャンセリング機構として安定して動作するためには、図3の(式2)が成立している必要がある。
一般的には、フィードバック方式のノイズ低減システムにおける各伝達関数の積の絶対値が1以上(1≪|ADHMβ|)であること、また古典制御理論におけるナイキストNyquist)の安定性判別と合わせて、図3の(式2)に関する系の安定性は、以下のように解釈できる。
図2において、ノイズNに関わるループ部分(マイクロホン21からドライバー11までのループ部分)中の1箇所を切断して、伝達関数(−ADHMβ)の「オープンループ」を考える。これは、図4に示すようなボード線図で表現される特性を持つ。
このオープンループを対象にした場合、ナイキストの安定性判別から、上記(式2)が成立する条件は、図4において、
・位相0deg.の点を通過するとき、ゲインは0dBより小さくなくてはならない
・ゲインが0dB以上であるとき、位相0deg.の点を含んではいけない
の2つの条件を満たす必要があることを意味している。
上記2条件を満たさない場合、ループは正帰還がかかり、発振(ハウリング)を起こすことになる。図4において、Pa,Pbは位相余裕、Ga,Gbはゲイン余裕を表しており、これらの余裕が小さいと、個人差やヘッドホン装着のばらつきにより、発振の危険性が増すことになる。
次に、上記ノイズ低減機能に加え、必要な音をヘッドホンのドライバーから再生する場合について説明する。
図2における、聴取対象の音声信号Sは、実際には音楽信号以外にも、筐体外部のマイクの音(補聴機能として使う)や、通信を介した音声信号(ヘッドセットとして使う)など、本来、ヘッドホンのドライバーで再生すべきものの信号総称である。
前述した(式1)のうち、信号Sに着目すると、図3に示す(式3)のように、イコライザEを設定すれば、音圧Pは、図3の(式4)のように表現される。
したがって、マイクロホン21の位置が耳位置に非常に近いとすると、Hがドライバー11からマイクロホン21(耳)までの伝達関数、AやDがそれぞれパワーアンプ15、ドライバー11の特性の伝達関数であるので、通常のノイズ低減機能を持たないヘッドホンと同様の特性が得られることがわかる。なお、このとき、イコライザ回路13の伝達特性Eは、周波数軸でみたオープンループ特性とほぼ同等の特性になっている。
以上のようにして、図1の構成のヘッドホン装置では、ノイズを低減しながら、聴取対象の音声信号を、何等支障なく聴取することができる。ただし、この場合に、十分なノイズ低減効果を得るためには、DSP232で構成されるデジタルフィルタには、外部ノイズ源3からヘッドホン筐体2内に伝達されたノイズの特性に応じたフィルタ係数が設定される必要がある。
前述したように、ノイズが発生しているノイズ環境には、種々存在し、そのノイズの周波数特性や位相特性は、それぞれのノイズ環境に応じたものとなっている。このため、単一のフィルタ係数では、すべてのノイズ環境において、十分なノイズ低減効果を得ることができることは期待できない。
そこで、この実施形態では、前述したように、メモリ24に、種々のノイズ環境に応じた複数個(複数セット)のフィルタ係数を、予め記憶して用意しておき、その複数個のフィルタ係数から、適切と考えられるものを、選択して読み出し、FBフィルタ回路23のDSP232に構成されているデジタルフィルタに設定するようにする。
デジタルフィルタに設定するフィルタ係数は、種々様々なノイズ環境のそれぞれにおいてノイズを収音して、そのノイズを低減(キャンセル)することができる、適切なものを、予め、算出して、メモリ24に記憶しておくようにすることが望ましい。例えば、駅のプラットフォーム、飛行場、地上を走る電車の中、地下鉄の電車の中、町の雑踏、大型店舗内、など、種々のノイズ環境におけるノイズを、収音して、そのノイズを低減(キャンセル)することができる、適切なものを、予め、算出して、メモリ24に記憶しておくようにする。
そして、この第1の実施形態では、メモリ24に記憶されている複数個(複数セット)のフィルタ係数からの、適切なフィルタ係数の選択は、ユーザが手動で行なうようにする。そのため、ユーザが操作する操作部26が、メモリコントローラ25に対して接続されている。
この実施形態では、操作部26は、フィルタ係数の変更操作手段として例えばノンロック式のプッシュスイッチを備えており、当該プッシュスイッチをリスナが押下する毎に、メモリコントローラ25は、メモリ24から読み出すフィルタ係数のセットを変更して、FBフィルタ回路23に供給するようにする。
この場合におけるメモリコントローラ25におけるメモリ読み出し制御のフローチャートを図5に示す。すなわち、メモリコントローラ25は、操作部26からの操作信号を監視して、前記プッシュスイッチが押下されて、フィルタ係数の変更操作指示があったか否か判別する(ステップS1)。
ステップS1で、フィルタ係数の変更操作指示が無いと判別したときには、メモリコントローラ25は、このステップS1を繰り返し、フィルタ係数の変更操作指示を待つ。ステップS1で、フィルタ係数の変更操作指示があったと判別したときには、メモリコントローラ25は、メモリ24から読み出すフィルタ係数のセットを、それまでとは異なる次順のフィルタ係数に変更して、FBフィルタ回路23に供給するようにする(ステップS2)。そして、ステップS1に戻る。
ここで、メモリコントローラ25では、メモリ24に記憶されている複数個(複数セット)のフィルタ係数に、予め読み出し順序を決めておき、フィルタ係数の変更操作指示があったと判別したときには、その読み出し順序に従って、複数個のフィルタ係数を順番に、かつ、サイクリックに読み出し変更するようにする。
例えば、メモリ24に、図6に示す「ノイズ減衰カーブ(ノイズ減衰特性)」で表されるような4種のノイズ低減効果を得ることができるパラメータのセット、つまり、フィルタ係数のセットが、書き込まれているとする。この図6の例では、ノイズが、低域、中低域、中域、広帯域のそれぞれに主として分布する場合の4種類のノイズ特性に対して、それぞれの場合におけるノイズを低減するカーブ特性を得るようにするフィルタ係数が、メモリ24に記憶されている場合である。
この場合に、図6に示すように、ノイズが低域に主として分布する場合をノイズ低減する低域重視カーブのノイズ低減特性を得るフィルタ係数を1番目、ノイズが中低域に主として分布する場合をノイズ低減する中低域重視カーブのノイズ低減特性を得るフィルタ係数を2番目、ノイズが中域に主として分布する場合をノイズ低減する中域重視カーブのノイズ低減特性を得るフィルタ係数を3番目、ノイズが広帯域に分布する場合をノイズ低減する広帯域カーブのノイズ低減特性を得るフィルタ係数を4番目、としたとき、プッシュスイッチが押下されて、フィルタ係数の変更操作指示がなされる毎に、1番目→2番目→3番目→4番目→1番目→・・・というように、メモリ24から読み出すフィルタ係数を変更するようにする。
リスナ1は、このように変更することで、ノイズ低減効果を、自分の耳で確認して、十分なノイズ低減効果が得られたと感じられたフィルタ係数が読み出されている状態となったら、それ以降は、プッシュスイッチの押下をやめるようにする。すると、メモリコントローラ25は、そのときに読み出しているフィルタ係数を、その後も継続して読み出す状態になり、ユーザが選択したフィルタ係数の読み出し状態に制御されることになる。
この場合に、ノイズ低減効果を、より確実にリスナが確かめるようにするためには、音声信号Sによる再生音をドライバー11から放音しない環境において行なう方が良い。そのためには、音声信号Sを入力しない環境で、リスナが操作部26を操作して、ノイズ低減効果を確かめるようにする方法の他、音声信号Sを入力して再生中である場合には、操作部26のプッシュスイッチを押下してから、ノイズ低減効果を確かめることができる程度の所定時間は、加算回路14への音声信号をミューティングするようにする方法が採用できる。
なお、上述の図6の例は、前述のように、実際的に各ノイズ環境におけるノイズを測定して、それに対応するフィルタ係数を設定するのではなく、ノイズが、低域、中低域、中域、広帯域の4種類に分布する状態を想定し、それぞれの場合におけるノイズを低減するカーブ特性を得るように、フィルタ係数を設定して、メモリ24に記憶した場合に相当している。
このような簡易的に設定したフィルタ係数であっても、この実施形態のノイズ低減装置によれば、それぞれのノイズ環境に適したフィルタ係数を選定することができるので、従来のアナログフィルタ方式のような固定的にフィルタ係数を定める場合に比べて、より有効なノイズ低減効果が得られる。
なお、上述の実施形態におけるメモリコントローラ25は、DSP232内に構成することもできる。
また、上述の説明では、イコライザ回路13におけるイコライザ特性に関しては言及しなかったが、フィードバック方式のノイズ低減装置の場合には、デジタルフィルタのフィルタ係数を変更してノイズ低減カーブを変更したときには、外部入力される聴取対象の音声信号Sは、ノイズ低減効果の周波数カーブに対応した影響を受けるため、デジタルフィルタのフィルタ係数の変更に応じて、イコライザ特性の変更が必要になる。
そこで、例えばメモリ24に、デジタルフィルタの複数個のフィルタ係数のそれぞれに対応させて、イコライザ回路13のイコライザ特性を変更するためのパラメータを記憶させておき、メモリコントローラ25が、フィルタ係数の変更に応じたパラメータをイコライザ回路13に供給するようにして、そのイコライザ特性を変更するようにする。
なお、イコライザ回路13をデジタルイコライザ回路の構成としてDSP232内に構成するようにしてもよい。その場合には、音声信号Sをデジタル信号に変換して、DSP232内のイコライザ回路に供給するようにする。そして、メモリコントローラ25は、メモリ24から、デジタルフィルタのフィルタ係数の変更に応じたパラメータを読み出して、デジタルイコライザ回路に供給するようにして、そのイコライザ特性を変更するようにすればよい。
[第2の実施形態(フィードフォワード方式のノイズ低減装置)]
図7は、この発明によるノイズ低減装置の実施形態を適用したヘッドホン装置の実施形態の構成例であって、図1のフィードバック方式に変えて、フィードフォワード方式のした場合を示すブロック図である。この図7において、図1における場合と同様の部分については、同一番号を付してある。
この第2の実施形態におけるノイズ低減装置部30は、音響−電気変換手段としてのマイクロホン31、マイクアンプ32、ノイズ低減用のフィルタ回路33、メモリ34、メモリコントローラ35、操作部36などを備えるノイズ低減装置部30が設けられる構成とされている。
ノイズ低減装置部30は、前述したフィードバック方式のノイズ低減装置部20と同様に、ドライバー11、マイクロホン31、また、音声信号入力端12を構成するヘッドホンプラグと接続ケーブルで接続されている。30a,30b,30cは、ノイズ低減装置部30に対して接続ケーブルが接続される接続端子部である。
この第2の実施形態では、リスナ1の音楽聴取環境において、ヘッドホン筐体2の外のノイズ源3から、ヘッドホン筐体2内のリスナ1の音楽聴取位置に入り込むノイズをフィードフォワード方式で低減して、音楽を良好な環境で聴取することができるようにする。
フィードフォワード方式のノイズ低減システムは、基本的には、図7に示すように、ヘッドホン筐体2の外部にマイクロホン31が設置されており、このマイクロホン31で、収音したノイズ3に対して適切なフィルタリング処理をしてノイズ低減音声信号を生成し、この生成したノイズ低減音声信号を、ヘッドホン筐体2の内部のドライバー11にて音響再生し、リスナ1の耳に近いところで、ノイズ(ノイズ3´)をキャンセルするようにする。
マイクロホン31で収音されるノイズ3と、ヘッドホン筐体2内のノイズ3´とは、両者の空間的位置の違い(ヘッドホン筐体2の外と内の違いを含む)に応じた異なる特性となる。したがって、フィードフォワード方式では、マイクロホン31で収音したノイズ源3からのノイズと、ノイズキャンセルポイントPcにおけるノイズ3´との空間伝達関数の違いを見込んで、ノイズ低減音声信号を生成するようにする。
この実施形態では、フィードフォワード方式のノイズ低減音声信号生成部として、デジタルフィルタ回路33を用いる。この実施形態では、フィードフォワード方式でノイズ低減音声信号を生成するので、デジタルフィルタ回路33は、以下、FFフィルタ回路33と称することとする。
FFフィルタ回路33は、FBフィルタ回路23と全く同様に、DSP(Digital Signal Processor)332と、その前段に設けられるA/D変換回路331と、その後段に設けられるD/A変換回路333とで構成される。
そして、図7に示すように、マイクロホン31で収音されて得られたアナログ音声信号は、マイクアンプ32を通じてFFフィルタ回路33に供給され、A/D変換回路331によりデジタル音声信号に変換される。そして、そのデジタル音声信号がDSP332に供給される。
DSP332には、フィードフォワード方式のデジタルノイズ低減音声信号を生成するためのデジタルフィルタが構成される。このデジタルフィルタは、これに入力されるデジタル音声信号から、これに設定されるパラメータとしてのフィルタ係数に応じた特性の前記デジタルノイズ低減音声信号を生成する。DSP332のデジタルフィルタに設定されるフィルタ係数は、この実施形態では、メモリ34からメモリコントローラ35を通じて供給される。
この実施形態では、メモリ34には、種々の異なる複数のノイズ環境におけるノイズを、DSP332のデジタルフィルタで生成するフィードフォワード方式によるノイズ低減音声信号により低減することができるようにするために、後述するような複数個(複数セット)のパラメータとしてのフィルタ係数が記憶されている。
メモリコントローラ35は、このメモリ34から、特定の1個(1セット)のフィルタ係数を読み出して、DSP332のデジタルフィルタに設定するようにする。
そして、この実施形態では、メモリコントローラ35に対しては、操作部36の操作出力信号が供給されており、メモリコントローラ35は、この操作部36からの操作出力信号に応じて、メモリ34から特定の1個(1セット)のフィルタ係数を選択して読み出し、DSP332のデジタルフィルタに設定するようにする。
そして、DSP332のデジタルフィルタでは、メモリコントローラ35を介してメモリ34から選択的に読み出されて設定されたフィルタ係数に応じたデジタルノイズ低減音声信号を生成する。
そして、DSP332で生成されたデジタルノイズ低減音声信号は、D/A変換回路333においてアナログノイズ低減音声信号に変換される。そして、このアナログノイズ低減音声信号が、FFフィルタ回路33の出力信号として加算回路14に供給される。
この加算回路14には、ヘッドホンによりリスナ1が聴取したいとされる入力音声信号(音楽信号など)Sが、音声信号入力端12を通じ、イコライザ回路13を通じて供給される。イコライザ回路13は、入力音声信号の音特補正を行なう。
加算回路14の加算結果の音声信号は、パワーアンプ15を通じてドライバー11に供給されて、音響再生される。この音響再生されてドライバー11により放音される音声には、FFフィルタ33において生成されたノイズ低減音声信号による音響再生成分が含まれる。このドライバー11で音響再生された放音された音声のうちの、ノイズ低減音声信号による音響再生成分とノイズ3´とが、音響合成されることにより、ノイズキャンセルポイントPcでは、ノイズ3´が低減(キャンセル)される。
この第2の実施形態におけるメモリ34、メモリコントローラ35および操作部36の部分は、第1の実施形態のメモリ24、メモリコントローラ25および操作部26と全く同様に構成され、操作部36のプッシュスイッチを押下する毎に、異なるノイズ環境に対応したフィルタ係数をメモリ34から順次に、かつ、サイクリックに変更して、FFフィルタ回路33に供給するようにする。
また、FFフィルタ回路33の構成も、FBフィルタ回路23と全く同様であるが、第1の実施形態と第2の実施形態では、DSP232、DSP332で構成されるデジタルフィルタに供給するフィルタ係数が、第1の実施形態では、フィードバック方式のものであるのに対して、第2の実施形態では、フィードフォワード方式のものである点が異なっている。
次に、フィードバック方式のノイズ低減装置のノイズ低減動作について、伝達関数を用いて、図8を参照しながら説明する。図8は、図7に示したブロック図に対応して、各部をその伝達関数を用いて表したブロック図である。
この図8において、Aはパワーアンプ15の伝達関数、Dはドライバー11の伝達関数、Mはマイクロホン31およびマイクアンプ32の部分に対応する伝達関数、−αはフィードフォワードのために設計されたフィルタの伝達関数である。また、Hはドライバー11からキャンセルポイントPcまでの空間の伝達関数、Eは聴取目的の音声信号Sにかけられるイコライザ13の伝達関数である。そして、Fは、外部のノイズ源3のノイズNの位置からリスナの耳のキャンセルポイントPcの位置に至るまでの伝達関数である。
この図8のように表したとき、図8のブロックは、図3の(式5)で表現することができる。なお、F´は、ノイズ源からマイク位置までの伝達関数を表す。上記の各伝達関数は複素表現されているものとする。
ここで、理想的な状態を考えると、伝達関数Fが図3の(式6)のように表せるとすると、図3の(式5)は、図3の(式7)で表すことができ、ノイズはキャンセルされ、音楽信号(または聴取する目的とする音楽信号等)Sだけが残り、通常のヘッドホン動作と同様の音を聴取することができることが分かる。このときの音圧Pは、図3の(式7)のように表される。
ただし実際は、図3の(式6)が完全に成立するような伝達関数を持つ完全なフィルタの構成は困難である。特に中高域に関して、人により装着や耳形状により個人差が大きいことと、ノイズの位置やマイク位置などにより特性が変化する、などの理由のため通常は中高域に関しては、このアクティブなノイズ低減処理を行わず、ヘッドホン筐体2でパッシブな遮音をすることが多い。
なお、図3の(式6)は、数式を見れば自明であるが、ノイズ源から耳位置までの伝達関数を、デジタルフィルタの伝達関数αを含めた電気回路にて模倣することを意味している。
なお、この第2の実施形態のフィードフォワード型でのキャンセルポイントは、図7に示した通り、図1に示した第1の実施形態のフィードバック型と異なり、聴取者の任意の耳位置において設定することができる。
しかしながら、通常の場合、αは固定的であり、設計段階においては、なんらかのターゲット特性を対象として決定するようにすることになり、人によっては、耳の形状が違うため、十分なノイズキャンセル効果が得られないことや、ノイズ成分を非逆相で加算してしまうことにより、異音がするなどの現象が起こりえる。
一般的に、図9に示すように、第2の実施形態のフィードフォワード方式は、発振する可能性が低く安定度が高いが、十分な減衰量を得るのは困難であり、一方、第1の実施形態のフィードバック方式は、大きな減衰量が期待できる代わりに、系の安定性に注意が必要となる。
なお、上述の実施形態におけるメモリコントローラ35は、DSP332内に構成することもできる。また、イコライザ回路13も、DSP332内に構成し、音声信号Sをデジタル信号に変換して、DSP332内のイコライザ回路に供給するようにすることもできる。
[第3の実施形態および第4の実施形態]
ところで、上述した第1および第2の実施形態では、フィルタ回路をデジタル化すると共に、そのフィルタ係数を複数種、メモリに用意しておき、適宜、その複数種のフィルタ係数の中から適切なフィルタ係数を選択してデジタルフィルタに設定することができるように構成した。
しかし、デジタル化したFBフィルタ回路23およびFFフィルタ回路33では、A/D変換回路231および331やD/A変換回路233および333における遅延の問題がある。この遅延の問題について、フィードバック方式のノイズ低減システムに関し、以下に説明する。
例えば、一般的な例として、サンプリング周波数Fsが48kHzのA/D変換回路およびD/A変換回路を用いる場合において、これらA/D変換回路およびD/A変換回路内部でかかる遅延量が、A/D変換回路およびD/A変換回路で各20サンプルとすると、合計40サンプルの遅延が、DSPでの演算遅延に加えて、FBフィルタ回路23のブロックに内包され、その結果、その遅延がオープンループの遅延として系全体に掛かることになる。
具体的に、サンプリング周波数48kHzで40サンプルの遅延分に相当するゲイン・位相を、図10(A)に示すが、数10Hzから位相回転が始まり、Fs/2の周波数(24kHz)に到るまで大きく回転している。これは、図11に示したように、サンプリング周波数48kHzにて1サンプルの遅れは、Fs/2の周波数で180deg.(π)分の遅れに相当し、同じく、2サンプル、3サンプルの遅れは、2π、3π分の遅れに相当することがわかれば容易に理解できる。
一方、フィードバック構成を前提とした実際のノイズ低減システムを持つヘッドホン構成において、ドライバー11の位置からマイクロホン21までの伝達関数を測定したのが、図12である。この場合、マイクロホン21の配置位置は、ドライバー11の振動板前面近傍に設置されており、両者の距離が近いために位相回転が比較的少ないことがわかる。
図12に示す伝達関数は、(式1)、(式2)におけるADHMに相当しており、これと、伝達関数−βの特性を持つフィルタを周波数軸上で掛け合わせたものが、そのままオープンループとなる。このオープンループの形状が、(式2)および図4を用いて示した前述の条件を満たす必要がある。
ここで、もう一度、図10(B)の位相特性を見ると、0deg.から始まって1kHz付近で1周(2π)回転していることがわかる。これに加え、図12のADHM特性においても、ドライバー11からマイクロホン21までの距離により位相遅れは存在している。
FBフィルタ回路23では、A/D変換回路231およびD/A変換回路233における遅延成分と直列に、自由設計できるDSP232に構成されるデジタルフィルタ部が接続されている。しかし、このデジタルフィルタ部においては、基本的に位相進みのフィルタは、因果律から見て設計することは困難である。ただし、フィルタ形状の構成によっては、特定帯域だけの「部分的な」位相進みはありえるが、この遅延による位相回転を補償するような広い帯域の位相進み回路を作るのは不可能である。
このことを考えると、DSP232により、伝達関数−βの好適なデジタルフィルタを設計しても、この場合、フィードバック構成にてノイズ低減効果を得ることができる帯域は、位相が1周回転する1kHz近辺以下に限られ、ADHM特性をも組み込んだオープンループを想定し、位相余裕・ゲイン余裕を見込むと、その減衰量や減衰帯域は、さらに狭められてしまうことがわかる。
その意味で、図12に示すような特性に対して望ましいβ特性(伝達関数−βのブロック内の位相反転系)というのは、図13に示すように、ゲイン形状がノイズ低減効果を狙う帯域においてほぼ山型の形状を持ちながら、位相回転はあまり起こらない(図13では低域から高域まで位相特性は1回転していない)形状であることがわかる。そこで、系全体として、位相が一回転しないように設計することが、当面の目標となる。
なお、本質的には、ノイズ低減の対象帯域(主として低域)において位相回転が小さければ、帯域外についての位相変化は、ゲインさえ落ちていれば関係ない。しかし、一般に、高域での位相回転が多いと、これは低域にも少なからず影響があるため、広い帯域を対象として位相回転を少なく設計するのが、この実施形態の目的である。
また、アナログ回路においては、図13のような特性は設計可能であり、その意味において、前述したデジタルフィルタで構成するメリットと引き換えに、アナログ回路でシステム設計した場合に比べてノイズ低減効果を大きく損なうことは好ましくない。
ところで、サンプリング周波数を高くすれば、A/D変換回路およびD/A変換回路での遅延を小さくすることできる。しかし、サンプリング周波数を高くしたものは、製品として非常に高価になり、軍事用や産業用としては実現可能である。しかし、音楽聴取用のヘッドホン装置など、一般消費者向けの製品としては、価格が高価になりすぎて、実用度が低い。
そこで、この第3の実施形態および第4の実施形態では、第1の実施形態および第2の実施形態におけるデジタル化のメリットを活かしながら、ノイズ低減効果を、より大きくすることができる手法を提供する。
図14は、第3の実施形態のヘッドホン装置の構成を示すブロック図である。この第3の実施形態は、第1の実施形態のフィードバック方式を用いたノイズ低減装置部20の構成を改善したものである。
この第3の実施形態では、図14に示すように、FBフィルタ回路23の構成を、A/D変換回路231、DSP232、D/A変換回路233からなるデジタル処理系に、アナログフィルタ回路234からなるアナログ処理系を並列に設けたものとする。
そして、アナログフィルタ回路234で生成されたアナログノイズ低減音声信号を、加算回路14に加えるようにする。その他は、図1に示した構成と全く同一とする。
なお、図14におけるアナログフィルタ回路234は、実際には、入力音声信号に対して、フィルタ処理を行なわずに、入力音声信号をそのままスルーさせて、加算回路14に供給するようにする場合を含む。その場合には、アナログ素子がアナログ処理系に存在しないので、ばらつきや安定性の面で信頼性の高いシステムとなる。
この第3の実施形態のFBフィルタ回路23では、デジタル処理系とアナログ処理系とで、並列に処理した後に両者を加算した結果が、伝達関数βの特性として、図13に示したようなゲイン特性および位相特性を有するように、前述したメモリ24に記憶されるフィルタ係数が設計される。
この第3の実施形態によれば、デジタル処理系のパスに並列にアナログ処理系のパスを加えることにより、上述した問題を軽減して、種々のノイズ環境に応じた良好なノイズ低減を行なうことができる。
デジタル処理系のパスに並列にアナログ処理系のパス(スルーとした場合)を加えたときの特性を、図15に示す。図15(A)は、この例の場合における伝達関数のインパルス応答の先頭部(128サンプルまで)を示し、また、図15(B)は位相特性、図15(C)はゲイン特性をそれぞれ示している。
図15(B)から、この第3の実施形態によれば、アナログパスを加えることで、位相回転が抑えられており、低域から高域に至るまで1回転も位相が回っていないことが分かる。
各特性を別の面から見れば、ノイズ低減の中心となる低域特性は、デジタルフィルタによる処理系の影響が大きくなり、一方、A/D変換回路、D/A変換回路での遅延により、位相回転が大きくなりがちな中高域に関しては、応答の速いアナログパスの特性が効果的に使用されていることになる。
こうして、この第3の実施形態によれば、構成規模を大きくすること無く、種々のノイズ環境に適合させたノイズ低減が可能なノイズ低減装置およびヘッドホン装置を提供することができる。
第3の実施形態は、フィードバック方式のノイズ低減を行なう場合であるが、第2の実施形態のフィードフォワード方式のノイズ低減を行なう場合にも同様に適用することができる。
第4の実施形態は、このフィードフォワード方式のノイズ低減を行なう第2の実施形態において、上述したデジタルフィルタのみを用いる場合の問題点を改善したもので、その構成例を図16に示す。
すなわち、この第4の実施形態では、FFフィルタ回路33の構成を、A/D変換回路331、DSP332、D/A変換回路333からなるデジタル処理系に、アナログフィルタ回路334からなるアナログ処理系を並列に設けたものとする。
そして、アナログフィルタ回路334で生成されたアナログノイズ低減音声信号を、加算回路14に加えるようにする。その他は、図7に示した構成と全く同一とする。
なお、図16におけるアナログフィルタ回路334は、入力音声信号に対して、フィルタ処理を行なわずに、入力音声信号をそのままスルーさせて、加算回路14に供給するようにする場合を含む。その場合には、アナログ素子がアナログ処理系に存在しないので、ばらつきや安定性の面で信頼性の高いシステムとなる。
この第4の実施形態のFFフィルタ回路33では、デジタル処理系とアナログ処理系とで、並列に処理した後に両者を加算した結果が、伝達関数αの特性として、図13に示したようなゲイン特性および位相特性を有するように、前述したメモリ34に記憶されるフィルタ係数が設計される。
なお、上述の実施形態におけるメモリコントローラ25、35は、DSP232、332内に構成することもできる。また、イコライザ回路13も、DSP232、332内に構成し、音声信号Sをデジタル信号に変換して、DSP232、332内のイコライザ回路に供給するようにすることもできる。
[第5の実施形態]
前述したように、第2の実施形態のフィードフォワード方式は、発振する可能性が低く安定度が高いが、十分な減衰量を得るのは困難であり、一方、第1の実施形態のフィードバック方式は、大きな減衰量が期待できる代わりに、系の安定性に注意が必要となる。
そこで、この第5の実施形態では、両方式の利点を持つノイズ低減方式を提供する。すなわち、この第5の実施形態では、図17に示すように、フィードバック方式のノイズ低減装置部20と、フィードフォワード方式のノイズ低減装置部30との両方を備える構成とする。
なお、図17では、伝達関数を用いてブロック構成を示しており、フィードバック方式のノイズ低減装置部20では、マイクロホン21およびマイクアンプ22の部分に対応する伝達関数をM1、FBフィルタ回路23で生成されたノイズ低減音声信号を出力増幅するパワーアンプの伝達関数をA1、そのノイズ低減音声信号を音響再生するドライバーの伝達関数をD1とする。そして、そのドライバーからキャンセルポイントPcまでの空間伝達関数をH1としている。
また、フィードフォワード方式のノイズ低減装置部30では、マイクロホン31およびマイクアンプ32の部分に対応する伝達関数をM2、FBフィルタ回路33で生成されたノイズ低減音声信号を出力増幅するパワーアンプの伝達関数をA2、そのノイズ低減音声信号を音響再生するドライバーの伝達関数をD2とする。そして、そのドライバーからキャンセルポイントPcまでの空間伝達関数をH2としている。
そして、この図17の実施形態では、メモリ34には、FBフィルタ回路23およびFFフィルタ回路33のそれぞれに供給すべき、それぞれ複数セットのフィルタ係数を記憶しており、メモリコントローラ25および35が、それぞれ用の複数セットのフィルタ係数の中から、前述したような操作部36を通じたユーザのボタン操作に応じて、適切なフィルタ係数をそれぞれ選択して、それぞれのフィルタ回路23,33に設定するように構成されている。
そして、図17の例では、フィードバック方式のノイズ低減装置部で生成したノイズ低減音声信号を音響再生する系と、フィードフォワード方式のノイズ低減装置部で生成したノイズ低減音声信号を音響再生する系とは、それぞれ別々に設けられる。そして、図17の例では、フィードバック方式のノイズ低減装置部で生成したノイズ低減音声信号を音響再生する系のパワーアンプおよびドライバーは、ノイズ低減用としてのみ用いられ、フィードフォワード方式のノイズ低減装置部で生成したノイズ低減音声信号を音響再生する系のパワーアンプおよびドライバーは、ノイズ低減用のみならず、聴取対象の音声信号Sの音響再生用としても用いられる。
さらに、この図17の例では、聴取対象の音声信号Sは、A/D変換回路37でデジタル音声信号に変換された後、FFフィルタ回路33のDSP332に供給される。図示は省略したが、この例のDSP332には、フィードフォワード方式のノイズ低減音声信号を生成するためのデジタルフィルタだけでなく、聴取対象の音声信号Sの音声特性を調整するためのイコライザ回路と、加算回路とが構成されており、イコライザ回路の出力音声信号と、デジタルフィルタで生成されたノイズ低減音声信号とが加算回路で加算されて、DSP332から出力されるように構成されている。
この第5の実施形態においては、フィードバック方式のノイズ低減装置部20と、フィードフォワード方式のノイズ低減装置部30とが、それぞれ独立して上述したノイズ低減処理動作を行なう。ただし、ノイズキャンセルポイントPcは、両方式において同一位置となるようにされている。
したがって、この第5の実施形態によれば、フィードバック方式とフィードフォワード方式のノイズ低減処理が相補的に動作して、両方式の利点が得ることができるノイズ低減システムを実現することができる。
なお、図17では、フィードバック方式とフィードフォワード方式の両方で、デジタルフィルタのフィルタ係数の変更を行なうようにしたが、一方の方式のデジタルフィルタのみ、例えばフィードフォワード方式のデジタルフィルタのみについてフィルタ係数を選択変更することができるように構成しても良い。
また、図17の例では、FBフィルタ回路23と、FFフィルタ回路33とは、それぞれ別々のDSPに構成するようにしたが、一つのDSPに構成することで、全体の回路構成を簡略化することができる。また、図17の例では、パワーアンプおよびドライバーも、フィードバック方式のノイズ低減装置部20と、フィードフォワード方式のノイズ低減装置部30とで、別々に設けるようにしたが、前述の実施形態と同様に、一つのパワーアンプ15と、ドライバー11で構成することもできる。そのようにした構成した場合の例を、図18に示す。
すなわち、この図18の例においては、A/D変換回路41と、DSP42と、A/D変換回路43とからなるフィルタ回路40を設ける。また、マイクアンプ21からのアナログ音声信号は、A/D変換回路44によりデジタル音声信号に変換されて、DSP42に供給される。さらに、入力端12を通じて入力された聴取対象の音声信号Sは、A/D変換回路37によりデジタル音声信号に変換されて、DSP42に供給される。
この例においては、DSP42には、図19に示すように、フィードバック方式のノイズ低減音声信号を得るためのデジタルフィルタ回路421と、フィードフォワード方式のノイズ低減音声信号を得るためのデジタルフィルタ回路422と、デジタルイコライザ回路423と、加算回路424とが構成される。
そして、A/D変換回路44からのデジタル音声信号(マイクロホン21で収音された音声のデジタル信号)がデジタルフィルタ回路421に供給され、A/D変換回路41からのデジタル音声信号(マイクロホン31で収音された音声のデジタル信号)がデジタルフィルタ回路422に供給され、A/D変換回路37からのデジタル音声信号(聴取対象音声のデジタル信号)がイコライザ回路423に供給される。
また、前述したように、この例においては、メモリ34には、デジタルフィルタ回路421用の複数個(複数セット)のフィルタ係数と、デジタルフィルタ回路422用の複数個(複数セット)のフィルタ係数とが記憶されており、メモリコントローラ35は、操作部36を通じたユーザ操作に応じて、メモリ34から、デジタルフィルタ回路421用およびデジタルフィルタ422用のフィルタ係数を選択して、これらデジタルフィルタ回路421およびデジタルフィルタ回路422に供給するようにする。
また、メモリ34には、デジタルイコライザ回路423のイコライザ特性を、デジタルフィルタ422用の複数個(複数セット)のフィルタ係数に応じたものとするパラメータも記憶されており、メモリコントローラ35は、操作部36を通じたユーザ操作に応じて、メモリ34から、デジタルフィルタ回路422用のフィルタ係数の選択に応じて、イコライザ特性用のパラメータを選択的に読み出して、デジタルイコライザ回路423に供給するようにする。
そして、デジタルフィルタ回路421およびデジタルフィルタ回路422で生成されたノイズ低減音声信号と、イコライザ回路423からのデジタル音声信号とが加算回路424に供給されて加算され、その加算結果がD/A変換回路43に供給されてアナログ音声信号に変換される。このD/A変換回路43からのアナログ音声信号がパワーアンプ15を通じてドライバー11に供給される。これにより、ノイズキャンセルポイントPcで、ノイズ3´が低減(キャンセル)されるようにされる。
なお、図18において、40a,40b,40c,40dは、ノイズ低減装置部と、ドライバー11、マイクロホン21、マイクロホン31、入力端12(ヘッドホンプラグ)などとの間で、接続ケーブルが接続される接続端子部である。
[第6の実施形態]
この第6の実施形態は、前述した第3および第4の実施形態と同様に、第5の実施形態がデジタル処理のみであって、A/D変換回路およびD/A変換回路での遅延の問題があることにかんがみ、当該問題を改善した場合の実施形態である。
すなわち、この第6の実施形態においては、図14および図16に示した第3の実施形態および第4の実施形態と同様に、デジタルフィルタの系と並列にアナログフィルタの系を設ける。図20に、この第6の実施形態の場合のノイズ低減装置部50の例のブロック図を示す。
この第6の実施形態のノイズ低減装置部50においては、図20に示すように、フィードバック方式のアナログノイズ低減音声信号を生成するためのアナログフィルタ回路51と、フィードフォワード方式のアナログノイズ低減音声信号を生成するためのアナログフィルタ回路52と、加算回路53とを、図19の構成に追加する。
そして、マイクアンプ22からのアナログ音声信号は、A/D変換回路44に供給されると共に、フィードバック方式のアナログノイズ低減音声信号を生成するためのアナログフィルタ回路51に供給される。そして、このアナログフィルタ回路51からのアナログノイズ低減音声信号が加算回路53に供給される。
また、マイクアンプ32からのアナログ音声信号は、A/D変換回路41に供給されると共に、フィードフォワード方式のアナログノイズ低減音声信号を生成するためのアナログフィルタ回路52に供給される。そして、このアナログフィルタ回路52からのアナログノイズ低減音声信号が加算回路53に供給される。
そして、加算回路53においては、さらに、フィルタ回路40からのノイズ低減音声信号と聴取対象音声信号との加算信号が供給される。そして、加算回路53からの音声信号がパワーアンプ15を通じてドライバー11に供給される。これにより、この実施形態においては、フィードバック方式のノイズ低減処理と、フィードフォワード方式のノイズ低減処理とを併用すると共に、デジタルフィルタのみでノイズ低減音声信号を生成する場合の問題を解決して、一般消費者用として実現可能なノイズ低減装置およびヘッドホン装置を提供することができる。
[手動選択方式(第1〜第6の実施形態)の変形例]
以上の第1〜第6の実施形態では、操作部26のプッシュスイッチを押下する毎に、異なるノイズ環境に対応したフィルタ係数をメモリ24から順次に、かつ、サイクリックに変更して、FBフィルタ回路23に供給するようにしたが、リスナが、プッシュスイッチを押す毎に、各ノイズ環境の名称(「駅のプラットフォーム」、「飛行場」、「電車の中」など)を表示部に表示したり、加算部14において、ドライバー11で音響再生する音声信号に、各ノイズ環境の名称の音声信号を加算したりして、どのノイズ環境用のフィルタ係数に変更されるかをユーザに知らせるようにしても良い。
また、ノイズ低減装置部が表示画面を備える場合には、選択可能な複数種のフィルタ係数のそれぞれに対応するノイズ環境の名称の一覧を表示画面に表示して、ユーザがその一覧画面から、適切と考えるノイズ環境のフィルタ係数を選択指定するようにすることもできる。
また、操作部26,36は、プッシュスイッチに限られるものではなく、種々の構成の操作手段を用いることができる。例えば、ヘッドホン筐体2をリスナ1が軽くたたいたとき(タップしたとき)を、振動センサなどを用いて検出し、その検出出力を、プッシュスイッチを押下したときと同様に、次のフィルタ係数の変更タイミングとするようにしてもよい。
また、上述の実施形態では、ユーザ操作がある毎に、フィルタ係数を変更するようにしたが、ユーザ操作があったら、メモリコントローラ25または35は、メモリ24または35から、複数個のフィルタ係数の一つずつを、順次に予め定めた一定期間ずつ、デジタルフィルタに設定し、リスナに前記一定時間ずつ聴取させるようにしても良い。
その場合には、すべてのフィルタ係数についての聴取を終了した後、リスナからの何番目のフィルタ係数が最適化の入力を受けるようにするか、あるいは、最適なフィルタ係数であるとユーザが判断したフィルタ係数の選択中時点に、ユーザが所定のユーザ操作をするようにして、最適フィルタ係数をユーザが決定するようにする。後者の場合には、複数個のフィルタ係数を順次に選択してリスナに一定時間ずつ聴取させる動作を、前記複数個のフィルタ係数について何回か繰り返すようにすると良い。
なお、ユーザが、最適なフィルタ係数の状態であるかを判断する際に、聴取対象の音声信号Sが再生されていて、前記判断が困難であるときには、フィルタ係数変更のユーザ操作があったとき、音声信号Sを、ユーザがノイズ低減効果を判断できるような所定時間の間、強制的にミューティングするようにすると良い。
[自動変更方式]
以上の第1〜第6の実施形態は、すべて、デジタルフィルタに設定するフィルタ係数を、ユーザの操作に応じて選択設定するようにした場合であるが、以下に説明する実施形態は、自動的に、ヘッドホン装置が使用されている場所のノイズ環境に応じたフィルタ係数の設定がなされるようにする場合である。
このように、自動的にヘッドホン装置が使用されている場所のノイズ環境に応じたフィルタ係数の設定をする構成は、以下に説明するように、幾つかの例があるが、それらの例は、それぞれ、前述した第1〜第6の実施形態における操作部26,36の操作に基づく手動選択の代わりに、それぞれの例を適用することで、それぞれ第1〜第6の実施形態の構成のノイズ低減装置に適用可能となる。以下に、そのうちの幾つかの実施形態について説明する。
[第7の実施形態]
第7の実施形態は、上述したフィードバック方式であってアナログフィルタの系を並列に有する第3の実施形態の構成において、操作部26の代わりに、以下に説明するような自動選択手法を採用した場合の実施形態である。図21に、この第7の実施形態におけるヘッドホン装置の構成例のブロック図を示す。
この第7の実施形態においては、FBフィルタ回路23のDSP232には、フィードバック方式対応のデジタルフィルタ回路2321だけでなく、ノイズ分析部2322および最適フィルタ係数評価部2323が構成される。
ノイズ分析部2322は、マイクロホン21で収音したノイズの特性を分析し、その分析結果を最適フィルタ係数評価部2323に供給する。最適フィルタ係数評価部2323では、この実施形態では、ノイズ分析部2322からの分析結果に基づくノイズ波形カーブと逆特性のカーブに最も近いノイズ低減カーブ特性となるフィルタ係数を、メモリ24に記憶されている複数個のフィルタ係数のうちから選定して、最適な1個(1セット)のフィルタ係数を決定し、その決定結果をメモリコントローラ25に供給する。
メモリコントローラ25は、最適フィルタ係数評価部2323からの最適フィルタ係数の決定結果を受けて、当該最適フィルタ係数の決定結果に対応するフィルタ係数を、メモリ24から読み出して、デジタルフィルタ回路2321に供給して設定するようにする。
この第7の実施形態においては、上述の最適フィルタ係数の自動選択処理動作は、起動制御部61からの起動制御信号により起動制御されるように構成されている。すなわち、起動制御部61からの起動制御信号は、メモリコントローラ25に供給されると共に、ノイズ分析部2322および最適フィルタ係数評価部2323に供給される。
また、ノイズ分析は聴取対象の音声信号Sによる音響再生音が存在しない環境において行なう方が良いので、この第7の実施形態においては、入力端12を通じて入力される音声信号Sは、イコライザ回路13に供給されると共に、起動制御部61にも供給される。そして、イコライザ回路13と加算回路14との間に、音声信号Sをミューティングするミューティング回路16が設けられる。
起動制御部61は、最適フィルタ係数の自動選択処理動作を起動しようとするときには、音声信号Sの有無を判別し、音声信号Sが存在していると判別したときには、ミューティング制御信号によりミューティング回路16において、イコライザ回路13からの音声信号Sを、所定時間だけミューティングして、マイクロホン21での収音位置では、音声信号Sによる再生音無しの状態に制御する。この場合の所定時間は、ノイズ分析して、最適フィルタ係数を選定することができるようにするために必要な時間とされる。
起動制御部61では、この実施形態では、次のようなタイミングで、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動をかけるようにする。すなわち、起動タイミングは、
(1)電源投入時
(2)リスナが、自動選択処理起動スイッチ操作をしたとき
(3)一定の時間毎
(4)ノイズに大きな変化が生じたとき
(5)所定レベル以上のノイズを検出したとき
などである。
上記(1)の電源投入時かどうかは、ヘッドホン装置が音声信号Sの再生装置から電源電圧の供給を受ける場合には、入力端12を構成するヘッドホンプラグが、再生装置のヘッドホンジャックに差し込まれて、電源電圧の供給を受けたかどうかを起動制御部61で検出することで判別することができる。
上記(2)の場合には、起動制御部61は、図示を省略する自動選択処理起動スイッチを備え、当該自動選択処理起動スイッチが操作されたか否かにより、起動タイミングであるかどうかを判断するようにする。
また、自動選択処理起動スイッチを設けずに、例えば、ヘッドホン筐体2をリスナ1が軽くたたいたとき(タップしたとき)を、マイクロホン21または31の収音音声信号から検出し、その検出出力を、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動タイミングとするようにしてもよい。
上記(3)の場合には、起動制御部61は、図示を省略するインターバルタイマーを備え、このインターバルタイマーで、予め定められた所定時間を計測する毎に、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動をかけるようにする。この場合、インターバルタイマーで計測する所定時間は、リスナが設定することができるようにする。リスナは、例えばヘッドホン装置で再生装置からの音声信号Sを聴取しながら、移動しているときには、インターバルタイマーで計測する所定時間を短時間に設定し、移動しないときには、インターバルタイマーで計測する所定時間を長時間に設定するようにすることできる。
上記(4)の場合には、この実施形態では、起動制御部61では、音声信号Sを再生していないときには、所定周期の割り込みタイミングで、ノイズを収音する。また、音声信号Sを再生しているときには、当該音声信号Sの無音区間でノイズを収音する。そして、収音したノイズと、その前のタイミングで収音したノイズとの差が、予め定めた所定の閾値よりも大きいと判別したときに、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動をかけるようにする。ノイズが大きく変化したときには、ノイズ環境が変わったと判断できるからである。
上記(5)の場合には、上記(4)の場合と同様に、起動制御部61では、音声信号Sを再生していないときには、所定周期の割り込みタイミングで、ノイズを収音し、また、音声信号Sを再生しているときには、当該音声信号Sの無音区間でノイズを収音する。そして、収音したノイズが、予め定めた所定の閾値よりも大きいと判別したときに、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動をかけるようにする。低騒音の状態から、大きな騒音となったときには、ノイズ低減した方が良いと考えられるからである。
以上のような(1)〜(5)は、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動タイミングの一例であって、他のタイミングでも良いことは言うまでもない。また、上記の(1)〜(5)のすべての起動タイミングを用いる必要は無く、そのうちの一つ以上の起動タイミングを用いるようにすれば良い。
図22に、起動制御部61における処理動作の流れの例を示すフローチャートを示す。
すなわち、起動制御部61は、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動タイミングになったか否かを監視する(ステップS11)。
そして、ステップS11で、前記起動タイミングになったと判別したときには、起動制御部61は、聴取対象の音声信号Sの再生中であるかを、音声信号Sの有無により判別する(ステップS12)。
ステップS12で、音声信号Sの再生中でないと判別したときには、起動制御部61は、ノイズ分析部2322、最適フィルタ係数評価部2323およびメモリコントローラ25に起動制御信号を送って、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動をかけるようにする(ステップS14)。
また、ステップS12で、音声信号Sの再生中であると判別したときには、起動制御部61は、ミューティング制御信号をミューティング回路16に供給して、再生中の音声信号Sを強制的に、所定時間だけ、ミューティング制御するようにする(ステップS13)。
そして、ステップS13の次にステップS14に進み、起動制御部61は、ノイズ分析部2322、最適フィルタ係数評価部2323およびメモリコントローラ25に起動制御信号を送って、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動をかけるようにする。
次に、ノイズ分析部2322および最適フィルタ係数評価部2323の具体例について説明する。図23は、ノイズ分析部2322および最適フィルタ係数評価部2323の具体例の構成の第1の例である。この例は、ノイズ波形を、FFT(Fast Fourier Transform)処理を用いてノイズ分析して、検出する方法である。
図23に示すように、A/D変換回路231からの信号(前述したように起動がかかっているときには音声信号Sが存在しないので、ノイズからなる)は、ノイズ分析部2322のローパスフィルタ71に供給されて、高域成分が除去された後、データ間引き処理部72に供給されて、適当にデータ間引きされる。そして、データ間引き処理部72からのデータであって、所定期間分のデータがFFT処理部73に供給されて、FFT演算され、そのFFT演算結果が最適フィルタ係数評価部2323に供給される。
最適フィルタ係数評価部2323は、このFFT演算結果から、ノイズ波形カーブを認識する。そして、当該ノイズ波形カーブと逆カーブ特性に近い減衰カーブ特性となるフィルタ係数を、メモリ24の複数個の中から選択する。
例えば、メモリ24に記憶されている複数個のフィルタ係数によるノイズ低減特性が、前述した図6に示すようなものであった場合において、FFT演算結果のノイズ波形カーブが低域に主としてエネルギーを有するようなものである場合には、(1)低域重視カーブのノイズ低減特性を得るフィルタ係数を、最適フィルタ係数として選定するようにする。
図23において、ローパスフィルタ71およびデータ間引き処理部72を用いるようにしたのは、そもそもノイズ特性は低域成分が多いためと、一般的に、高域の正確な制御は難しく、ノイズキャンセリングにおいて、そもそも高域を対象とすることが困難であるため、ダウンサンプリングを行い、計算量を低減することが可能であるからである。
なお、この例の場合、メモリ24に、各フィルタ係数のときの減衰カーブの逆特性カーブについてのFFT結果を記憶しておき、FFT処理部73からのFFT結果と、記憶されている各フィルタ係数のときの減衰カーブの逆特性カーブについてのFFT結果とを比較して、誤差が少ない逆特性カーブに対応するフィルタ係数を、最適フィルタ係数として決定するようにしてもよい。
次に、ノイズ分析部2322および最適フィルタ係数評価部2323の具体例の第2の例について説明する。図24は、ノイズ分析部2322および最適フィルタ係数評価部2323の具体例の構成の第2の例を示すものである。
この第2の例においては、ノイズ分析部2322は、図24に示すように、複数個、この例では6個のバンドパスフィルタ81,82,83,84,85,86と、この6個のバンドパスフィルタ81,82,83,84,85,86のそれぞれの出力のエネルギー値をdB値として算出して内蔵レジスタに格納する6個のエネルギー値算出格納部91,92,93,94,95,96とで構成される。
この例の場合、6個のバンドパスフィルタ81,82,83,84,85,86の通過中心周波数は、50Hz、100Hz、200Hz、400Hz、800Hz、1.6kHzとされている。
そして、A/D変換回路231からの信号(前述したように起動がかかっているときには音声信号Sが存在しないので、ノイズからなる)は、6個のバンドパスフィルタ81,82,83,84,85,86のそれぞれに入力される。そして、6個のバンドパスフィルタ81,82,83,84,85,86のそれぞれの出力が、エネルギー値算出格納部91,92,93,94,95,96に供給されて、各エネルギー値A(0),A(1),A(2),A(3),A(4),A(5)が算出され、それぞれが内蔵するレジスタに格納される。
一方、この第2の例においては、メモリ24には、例えば図25に示すように、前述した4種の各ノイズ低減カーブ(1)、(2)、(3)、(4)に対応する4セットのフィルタ係数が記憶されていると共に、各ノイズ低減カーブ(1)、(2)、(3)、(4)での、50Hz、100Hz、200Hz、400Hz、800Hz、1.6kHzにおける減衰量代表値(dB値)が、それぞれのフィルタ係数に対応して記憶されている。
例えば、低域重視カーブ(1)での50Hz、100Hz、200Hz、400Hz、800Hz、1.6kHzにおける減衰量代表値(dB値)は、B1(0),B1(1),B1(2)・・・B1(5)として対応するフィルタ係数と対応付けられて格納され、低中域重視カーブ(2)での50Hz、100Hz、200Hz、400Hz、800Hz、1.6kHzにおける減衰量代表値(dB値)は、B2(0),B2(1),B2(2)・・・B2(5)として対応するフィルタ係数と対応付けられて格納されるものである。
そして、この第2の例の最適フィルタ係数評価部2323は、エネルギー算出格納部91〜96のそれぞれに格納された各エネルギー値A(0),A(1),A(2),A(3),A(4),A(5)と、メモリ24に格納されている各フィルタ係数によるノイズ低減カーブによる減衰量代表値との差分を検出し、差分の総和が最も小さいノイズ低減カーブに対応するフィルタ係数を、最適フィルタ係数として決定するようにする。
すなわち、エネルギー値A(0),A(1),A(2),A(3),A(4),A(5)と、メモリ24に格納されている各フィルタ係数によるノイズ低減カーブによる減衰量代表値との差分の総和は、入力ノイズに対する各ノイズ低減カーブによる減衰結果の残差に等しいものとなり、小さいものほど、ノイズが低減されていることを意味するからである。
この第2の例の場合の、ノイズ分析部2322および最適フィルタ係数評価部2323における処理動作の流れの例を、図26のフローチャートに示す。
まず、ノイズ分析部2322バンドパスフィルタ81〜86の出力のエネルギー値A(0),A(1),A(2),A(3),A(4),A(5)を算出してレジスタに格納する(ステップS21)。
次に、最適フィルタ係数評価部2323は、格納されたエネルギー値A(0)〜A(5)を読み出して、エネルギー→振幅換算の変換を行い、値の補正を行なう(ステップS22)。この補正は、各BPF81〜86の総合選択度Qが一定の場合、例えば、周波数振幅値一定のホワイトノイズを流した時に、通過した波形のエネルギー値は一定にならず、低域が大きく出力されることから、この補正演算が必要である。また、総合選択度Qのとり方によっても補正が必要な場合があり、これらをまとめて補正をする。
次に、最適フィルタ係数評価部2323は、まず、メモリ24から減衰カーブ(1)の低域重視カーブの代表値B1(0)〜B1(5)を、エネルギー値A(0)〜A(5)の補正値からそれぞれ減算する(ステップS23)。
次に、最適フィルタ係数評価部2323は、聴感上の特性カーブにて、減算値を補正し、値C1(0)〜C1(5)を得る(ステップS24)。次に、最適フィルタ係数評価部2323は、この値C1(0)〜C1(5)を、リニア値に直した合計値を算出する(ステップS25)。この合計値が一つの減衰カーブについての評価スコアとなる。
ここで、聴感上の特性カーブというのは、いわゆるAカーブやCカーブのようなものでも構わないし、絶対音量を加味してラウドネスを換算したものでも良いし、独自に設定したものでも良い。
そして、最適フィルタ係数評価部2323は、上記ステップS23〜ステップS25の作業を、減衰カーブ(1)〜(4)のすべてについて実行して、各減衰カーブに対応する評価スコアを求める(ステップS26)。
そして、最適フィルタ係数評価部2323は、すべてのカーブに対応するスコア値が計算できたら、評価スコア値が最も小さい減衰カーブが、最もノイズ減衰効果を期待することができるものであると判定し、この減衰カーブに対応するフィルタ係数を最適フィルタとして決定する(ステップS27)。
なお、上述の実施形態におけるメモリコントローラ25は、DSP232内に構成することもできる。また、イコライザ回路13も、DSP232内に構成し、音声信号Sをデジタル信号に変換して、DSP232内のイコライザ回路に供給するようにすることもできる。
[第8の実施形態]
第8の実施形態は、上述したフィードフォワード方式であってアナログフィルタの系を並列に有する第4の実施形態の構成において、操作部26の代わりに、以下に説明するような自動選択手法を採用した場合の実施形態である。図27に、この第8の実施形態におけるヘッドホン装置の構成例のブロック図を示す。
この第8の実施形態においては、FFフィルタ回路33のDSP332には、第7の実施形態と同様に、フィードフォワード方式対応のデジタルフィルタ回路3321だけでなく、ノイズ分析部3322および最適フィルタ係数評価部3323が構成される。
そして、この第8の実施形態では、ノイズ分析部3322は、マイクロホン31で収音したノイズの特性を分析し、その分析結果を最適フィルタ係数評価部3323に供給する。ノイズ分析部3322および最適フィルタ係数評価部3323の構成および処理動作は、第7の実施形態と同様であるが、第8の実施形態は、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動制御に関して、次の点が第7の実施形態とは異なる。
前述の第7の実施形態では、音声信号Sが再生されているときには、強制的にミューティングを行なうようにしたが、この第8の実施形態では、ミューティングは行なわずに、音声信号Sの無音区間を検出し、その無音区間で、最適フィルタ係数の自動選択処理動作を実行するようにする。
すなわち、この第8の実施形態においては、起動制御部62が設けられるが、イコライザ回路13と、加算回路14との間には、ミューティング回路16は設けられない。起動制御部62は、その起動制御信号をノイズ分析部3322、最適フィルタ係数評価部3323およびメモリコントローラ35に供給する。
そして、メモリ34には、フィードフォワード方式対応のフィルタ係数が、前述したように複数個(複数セット)、記憶される。そして、メモリコントローラ35は、起動制御部62により起動制御を受けながら、第7の実施形態と同様にして、メモリ35の複数個のフィルタ係数の中から最適フィルタ係数を読み出し、デジタルフィルタ回路3321に対して設定するようにする。その他の点は、第7の実施形態と全く同様に構成される。
この第8の実施形態の起動制御部62による起動制御動作の流れの例を、図28のフローチャートを参照して説明する。
すなわち、まず、起動制御部62は、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動タイミングになったか否かを監視する(ステップS31)。この第8の実施形態においても、起動タイミングに関しては、第7の実施形態と同様に前述の起動タイミング(1)〜(5)を用いることができる。
そして、ステップS31で、前記起動タイミングになったと判別したときには、起動制御部62は、聴取対象の音声信号Sの再生中であるかを、音声信号Sの有無により判別する(ステップS32)。
ステップS32で、音声信号Sの再生中でないと判別したときには、起動制御部62は、ノイズ分析部3322、最適フィルタ係数評価部3323およびメモリコントローラ35に起動制御信号を送って、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動をかけるようにする(ステップS34)。
また、ステップS32で、音声信号Sの再生中であると判別したときには、起動制御部62は、音声信号Sの無音区間を監視して、無音区間になったか否か判別し(ステップS33)、無音区間を判別したら、ステップS34に進み、起動制御部62は、ノイズ分析部2322、最適フィルタ係数評価部2323およびメモリコントローラ35に起動制御信号を送って、最適フィルタ係数の自動選択処理動作の起動をかけるようにする。
最適フィルタ係数の自動選択処理動作は、第8の実施形態においても、第7の実施形態と同様であるので、その説明は省略する。
なお、上述の実施形態におけるメモリコントローラ35は、DSP332内に構成することもできる。また、イコライザ回路13も、DSP332内に構成し、音声信号Sをデジタル信号に変換して、DSP332内のイコライザ回路に供給するようにすることもできる。
[第9の実施形態]
上述した第7の実施形態や第8の実施形態では、最適フィルタ係数の自動選択処理動作は、起動タイミングであって、かつ、再生音声信号を強制的に遮断して無音区間を生成したり、再生音声信号S自身が無音区間であるときに、行なうようにしたが、この第9の実施形態では、再生音声信号Sの成分を、マイクロホン31から収音した音声信号から除去することで、ノイズのみを抽出し、当該抽出したノイズについてノイズ分析を行なうように構成する。これにより、精度よく再生音を流しながらノイズ計測を行うことができるものである。
第9の実施形態のヘッドホン装置の構成例を、フィードフォワード方式のノイズ低減装置に適用した場合について説明する。図29は、その場合のヘッドホン装置の構成例を示すブロック図である。
図29に示すように、いま、ヘッドホン筐体2内部のドライバー11から、ヘッドホン筐体2外部のマイクロホン31までの伝達関数をHとする。この伝達関数Hは、あらかじめ測定しておくことで、既知とすることができる。
この伝達関数H自身は、ヘッドホン筐体2内の共振や反射を多く含み、複雑になることが多い。実際は、計算量の関係で、このHの特長を近似した伝達関数H’を用いるものとする。多くの場合、伝達関数Hを使用して演算する際は、そのインパルス応答hをFIR(Finite Impulse Response)演算することが多いが、FIR演算は、DSPによる演算は計算機リソースを多く消費するため、この伝達関数Hの特長を、伝達関数H’として近似し、これをIIR(Infinite Impulse Response)のフィルタとして実現する。
この第9の実施形態では、図29に示すように、DSP332には、デジタルフィルタ回路3321と、前述のノイズ分析部3322および最適フィルタ係数評価部3323を含むノイズ分析評価部3324と、デジタルイコライザ回路3325と、伝達関数H´乗算部3326と、減算回路3327および加算回路3328が構成されている。
そして、この図29の例においては、入力端12を通じた音声信号Sは、A/D変換回路37でデジタル音声信号に変換されて、FFフィルタ回路33のDSP332のイコライザ回路3325に供給される。
このイコライザ回路3325の出力信号は、加算回路3328を通じてD/A変換回路333に供給されると共に、伝達関数H´乗算部3326に供給される。伝達関数H´乗算部3326は、イコライザ回路3325の出力信号に、伝達関数H´を乗算して、減算回路3327に供給する。
減算回路3327には、A/D変換回路331からのマイクアンプ32を通じたマイクロホン31で収音したノイズ3を含む音声信号Sの再生音響信号が供給されており、このノイズ3を含む音声信号Sから伝達関数H´乗算部3326からの音声信号が減算される。
伝達関数H´は、ヘッドホン筐体2内部のドライバー11から、ヘッドホン筐体2外部のマイクロホン31までの伝達関数であるので、伝達関数H´乗算部3326からの音声信号は、マイクロホン31で収音される音声信号Sの再生音響信号に相当するものとなる。したがって、減算回路3327からは、ノイズ3の成分のみが得られる。この減算回路3327の出力信号が、ノイズ分析評価部3324に供給される。
ノイズ分析評価部3324では、前述したようにして、そのノイズ分析部で、入力信号であるノイズ成分が分析され、そのノイズ分析結果が最適フィルタ係数評価部に供給される。そして、最適フィルタ係数評価部が、前述したようにして、最適フィルタ係数を決定し、その決定結果をメモリコントローラ35に供給する。メモリコントローラ35は、最適フィルタ係数の決定結果に基づいて、当該最適フィルタ係数をメモリ34から読み出して、デジタルフィルタ回路3321に設定する。
デジタルフィルタ回路3321で生成されたノイズ低減音声信号は、加算回路3328に供給されて、イコライザ回路3325からの音声信号と加算される。そして、その加算出力信号が、D/A変換回路333に供給される。
以上のようにして、第9の実施形態においては、図29のような構成とすることにより、音声信号Sの再生音がマイクロホン31の収音地点においてどのような時間波形になるか推定した値で、マイクロホン31からの収音音声信号から差分をとることができ、音声信号Sの再生音を切断しなくても、実際のノイズ成分だけを取り出すことができる。
[自動選択方式の他の実施形態および変形例]
上述の第7〜第9の実施形態では、マイクロホン21または31で収音したノイズを分析し、その分析結果を用いて最適フィルタ係数を選択するようにしたが、ノイズを分析せずに、最適フィルタ係数を自動的に選択するようにすることもできる。
すなわち、フィードバック方式のノイズ低減装置においては、ノイズキャンセルポイントPcにおける音声をマイクロホン21で収音するので、当該マイクロホン21で収音した音声の音声信号からノイズが低減(キャンセル)されているかどうかを確認することができる。
そこで、フィードバック方式のノイズ低減装置においては、起動タイミングになったときに、メモリコントローラ25または35は、メモリ24または35から、複数個のフィルタ係数の一つずつを、順次に予め定めた一定期間ずつ、デジタルフィルタに設定し、それぞれのフィルタ係数のときのノイズキャンセルポイントPcにおける残留ノイズをマイクロホン21で収音し、評価する。そして、残留ノイズが最も小さいフィルタ係数を最適フィルタ係数と決定するようにする。
この場合も、前記評価を行う場合には、音声信号Sをミューティングしたり、また、音声信号Sの無音区間を検出したりして、音声信号Sの影響を除去するようにする。また、図9の実施形態と同様に、音声信号Sに、伝達関数H´を乗算して、マイクロホン21からの音声信号から減算し、その減算出力について残留ノイズを検出して評価するようにしても良い。
なお、フィードフォワード方式の場合においては、ノイズキャンセルポイントPcの音声を収音するマイクロホンを設けることで、上述と同様に、ノイズキャンセルポイントPc残留ノイズを評価して、最適フィルタ係数の決定を自動決定することができる。
フィードフォワード方式とフィードバック方式の併用方式の場合には、ノイズキャンセルポイントPcの音声を収音するマイクロホンで、ノイズキャンセルポイントPc残留ノイズを評価して、最適フィルタ係数の決定を自動決定することができることは言うまでもない。
[その他の実施形態および変形例]
上述の各実施形態の説明では、FBフィルタ回路およびFFフィルタ回路において、デジタルフィルタ回路は、DSPを用いて構成したが、このDSPの代わりにマイクロコンピュータ(あるいはマイクロプロセッサ)を用いて、ソフトウエアプログラムによりデジタルフィルタ回路の処理を行うようにすることができる。
そして、DSPの代わりにマイクロコンピュータ(あるいはマイクロプロセッサ)を用いる場合には、メモリコントローラの部分も、そのソフトウエアプログラムにより構成することができる。また、逆に、DSPにメモリコントローラの部分を構成するようにすることも可能である。
また、上述の第1の実施形態〜第4の実施形態、第7および第8の実施形態では、イコライザ回路13は、アナログ回路の構成としたが、第5、第6および第9の実施形態と同様に、デジタルイコライザ回路の構成として、DSP内に構成したり、マイクロコンピュータのソフトウエアプログラムにより構成したりするようにしても良い。
ノイズ分析して、最適フィルタ係数を自動選択処理する場合におけるノイズ音を収音するマイクロホンは、図17に示した第5の実施形態のように、マイクロホン21とマイクロホン31とを用いる装置の場合においては、マイクロホン21と、マイクロホン31のいずれか一方を用いても良いし、両方を用いてもよい。
なお、第7の実施形態〜第8の実施形態においては、ノイズ分析をして、最適フィルタ係数を選択するようにしたが、ノイズ分析を正確に行うことができれば、そのノイズ分析結果に基づいた減衰カーブを推定し、その推定した減衰カーブを得ることができるフィルタ係数を算出するようにすることもできると期待される。そのようにすれば、メモリに複数個のフィルタ係数を保存しておく必要が無い。
しかしながら、そのような減衰カーブを推定するためのノイズ分析としては、精細なFFTが必要になったり、多量のバンドパスフィルタを用いる必要があったりして、構成が複雑かつ高価になってしまうおそれがある。その点、前述の実施形態では、正確な減衰カーブは必要とせず、単に予め用意されている複数個のフィルタ係数による減衰カーブのうちのどの減衰カーブが最適であるかを判別することができればよいので、簡単かつ安価に構成できるものである。
また、以上の実施形態は、この発明の実施形態のノイズ低減音声出力装置が、ヘッドホン装置である場合について説明したが、マイクロホンを備えるイヤホン装置やヘッドセット装置、さらには携帯電話端末などの通信端末にも適用できる。また、この発明の実施形態のノイズ低減音声出力装置は、ヘッドホン、イヤホン、ヘッドセットと組み合わせた携帯型音楽再生装置にも適用可能である。
また、ノイズ低減装置部は、上述の実施形態では、ヘッドホン装置側に設けるようにしたが、ヘッドホン装置が装着される携帯型音楽再生装置や、マイクロホンを備えるイヤホンやヘッドセットに対応した携帯型音楽再生装置側に、ノイズ低減装置部を設けるようにすることもできる。