本発明の具体的な実施形態を説明する前に、本願発明者らが種々検討を行うことによって得た知見について説明する。
本願発明者らは、窒化物半導体発光素子に分極ドーピング層(組成傾斜層)を有する構造を用いる場合、分極ドーピング層を含む層構造中に、たとえば、基板から活性層に向けて、組成の逆方向への不連続が生じないように構成することで、クラックの抑制効果および結晶品質の向上効果が得られることを見出した。
具体的には、たとえば、基板から活性層に向けて、Al組成が減少する、もしくはAl組成が一定の層構造中に、Al組成が増加する層を導入しない(基板上に形成された窒化物半導体層の格子定数から、格子定数が小さくなる方向に変化している場合に、格子定数が大きくなる層を導入しない)ようにすることによって、格子定数の不連続(急激な格子定数変化)が生じないように構成することができる。このため、格子不整合から生じる転位などの結晶欠陥の発生を抑制することができるため、結晶品質を向上させることが可能となる。加えて、クラックの発生を抑制することも可能となる。また、本願発明者らは、このような構成は、紫外領域(深紫外領域)で発光する窒化物半導体発光素子に特に有効であることも見出した。
一方、上記した3次元分極傾斜構造では、たとえば、GaNからInGaNへIn組成を変化させた後方傾斜層を積層させているため、ヘテロ界面に、組成の逆方向への不連続箇所(格子定数の逆方向への不連続箇所)が設けられる。このため、3次元分極傾斜構造は、界面に電子分布の不連続を有している。そのため、3次元分極傾斜構造では、この電子分布の不連続を緩和するために、Siデルタ・ドープ層を設ける必要がある。Siデルタ・ドープ層には、通常、GaN層が用いられるが、GaN層は、深紫外領域の波長の光を吸収するため、光取出し効率が低下するという不都合が生じる。
本願発明者らの知見によれば、上記のように、格子定数の不連続(急激な格子定数変化)が生じないように構成することで、Siデルタ・ドープ層などの深紫外領域の波長の光を吸収する層を設ける必要がなくなる。このため、外部への光の取出しが低下するのを抑制することが可能となる。
また、基板と活性層との間の層構造を、分極ドーピング層(Al組成傾斜層)を含む層構造とする場合、Al組成傾斜層のAl組成の変化は、以下の2通りが考えられる。
一つは、基板から活性層に向けて、Al組成が減少する構成とする場合である。たとえば、基板から活性層に向けて、量子井戸のAl組成に到達するまで、Al組成が減少する構成とする場合である。この場合、分極ドーピング層を含む層構造内で、Al組成が増加する層を含まない構成とするのが好ましい。なお、Al組成の変化の範囲は、上記以外であってもよい。たとえば、基板から活性層までの間の一部の範囲で、Al組成が減少する構成とされていてもよい。一例として、基板上に形成されたAlNから量子井戸のAlGaNまで変化する場合が挙げられる。
もう一つは、基板から活性層に向けて、Al組成が増加する構成とする場合である。たとえば、基板から活性層に向けて、量子井戸のAl組成に到達するまで、Al組成が増加する構成とする場合である。この場合も、分極ドーピング層を含む層構造内で、Al組成が減少する層を含まない構成とするのが好ましい。なお、Al組成の変化の範囲は、上記以外であってもよい。たとえば、基板から活性層までの間の一部の範囲で、Al組成が減少する構成とされていてもよい。一例として、基板上に形成されたGaNから量子井戸のAlGaNまで変化する場合が挙げられる。
前者(Al組成が減少する構成)で構成した場合、活性層のバンドギャップが一番小さい構造となるため、キャリアが効果的に閉じ込められる。また、活性層で発せられた光が、分極ドーピング層を含む層構造内で吸収されるのが抑制される。このため、基板から活性層に向けて、Al組成傾斜層のAl組成が減少する構成とすることが好ましいことが分かった。
一方、後者(Al組成が増加する構成)で構成した場合、活性層のバンドギャップが一番大きい構造となるため、キャリアの閉じ込めの観点から好ましくない。また、活性層で発せられた光が、分極ドーピング層を含む層構造内で吸収されるため、この点においても好ましくないことが分かった。
また、分極ドーピング層を含む層構造を、基板から活性層に向けて、Al組成が減少する構成とする場合、分極ドーピングの効果を得るために、極性面であるc面を用いると、以下の2通りが考えられる。
一つは、+c面(III族極性)を主面とする窒化物半導体層上に、この分極ドーピング層を含む層構造を形成する場合である。この場合、p型ドーパントを添加しなくても、p型キャリアであるホールが生成される。なお、この場合、基板と活性層との間の層が、p型の窒化物半導体層からなる構造となる。
分極ドーピング層を含む層構造を有することにより、横方向の電流拡がりを大幅に増大させることが可能となる。また、故意にドーピングを行わなくても導電性を示すため、p型ドーパントとして、Mgなどのドーピングを行わない構成とすることもできる。また、Mgなどのドーピングを行う場合でも、そのドーピング量を少なくすることが可能である。このため、結晶品質が向上する。
もう一つは、−c面(窒素極性)を主面とする窒化物半導体層上に、この分極ドーピング層を含む層構造を形成する場合である。この場合、n型ドーパントを添加しなくても、n型キャリアである電子が生成される。なお、この場合、基板と活性層との間の層が、n型の窒化物半導体層からなる構造となる。
この場合も、分極ドーピング層を含む層構造を有することにより、横方向の電流拡がりを大幅に増大させることが可能となる。また、故意にドーピングを行わなくても導電性を示すため、n型ドーパントとして、Siなどのドーピングを行わない構成とすることもできる。これにより、Siなどをドーピングすることで危惧されるクラックの誘発が抑制される。また、Siなどのドーピングを行う場合でも、そのドーピング量を少なくすることが可能である。このため、結晶品質が向上する。
以上より、窒化物半導体発光素子が、−c面(窒素極性)を主面とする窒化物半導体層およびAl組成が傾斜した層(組成傾斜層)を含んで構成される場合、Al組成が大きいものから小さいものへと変化する組成傾斜層では、n型のキャリアが発生する。一方、Al組成が小さいものから大きいものへと変化する組成傾斜層では、p型のキャリアが発生する。また、窒化物半導体発光素子が、+c面(III族極性)を主面とする窒化物半導体層およびAl組成が傾斜した層(組成傾斜層)を含んで構成される場合、Al組成が大きいものから小さいものへと変化する組成傾斜層では、p型のキャリアが発生する。一方、Al組成が小さいものから大きいものへと変化する組成傾斜層では、n型のキャリアが発生する。
また、本願発明者らが、さらに鋭意検討した結果、深紫外領域(たとえば、波長200nm〜350nm)で発光する発光素子を形成する場合、基板(たとえば、サファイア基板)上に、ウルツ鉱の結晶構造を有し、−c面(窒素極性)を主面とするAlを有する窒化物半導体層(たとえば、AlN、AlGaNなど)を形成した場合、+c面(III族極性)を主面とする窒化物半導体層(たとえば、AlN)を形成する場合に比べて、クラック抑制効果が効果的に得られるという特有の効果があることが分かった。これは、結晶成長中のウエハの反り量が低減したことによるものと考えられる。そのため、基板上に、−c面(窒素極性)を主面とする窒化物半導体層を形成することで、+c面(III族極性)に比べて厚膜化が可能となる利点もあることが分かった。厚膜化の効果としては、バッファ効果による結晶品質の向上や、層厚を厚くすることで、電流を横方向に拡げる効果が挙げられる。
このように、基板(たとえば、サファイア基板)上に、−c面(窒素極性)を主面とするAlを有する窒化物半導体層を形成し、その上に、分極ドーピング層を含む層構造を形成することにより、その効果がより顕著に現れるという知見も得た。これは、基板上に積層された下地の結晶品質の向上により、分極ドーピング層を含む層構造の品質が向上した効果に加えて、分極ドーピング層を含む層構造をより厚くできる効果によるものと推測される。
さらに、分極ドーピング層を含む層構造を有することにより、−c面(窒素極性)を主面とする窒化物半導体層上に形成された窒化物半導体層の平坦性を向上させることができることも分かった。これにより、結晶品質が向上するため、導電性が向上し、結果として、横方向の電流を拡げることが可能となる。
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、窒化物半導体発光素子の一例である窒化物半導体ダイオード素子に本発明を適用した例について説明する。また、以下の実施形態において、「窒化物半導体」とは、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)からなる半導体を意味する。
(第1実施形態)
図1は、窒化物半導体の結晶構造を説明するための模式図である。図2は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体発光素子を示した断面図である。図3は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体発光素子の素子構造(層構造)を模式的に示した断面図である。図4〜図6は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体発光素子を説明するための図である。なお、図6は、第1実施形態による窒化物半導体発光素子を搭載した半導体光学装置を示している。まず、図1〜図6を参照して、本発明の第1実施形態による窒化物半導体発光素子について説明する。
窒化物半導体は、図1に示すように、六方晶系(ウルツ鉱)の結晶構造を有している。この結晶構造において、六角柱とみなせる六方晶のc軸[0001]を法線とする面(六角柱の上面)をc面(0001)と呼ぶ。窒化物半導体では、c軸方向に対称面が存在しないため、分極方向がc軸方向に沿っている。このため、c面は、+c軸側と−c軸側とで異なる性質を示す。すなわち、+c面((0001)面)と−c面((000−1)面)とは等価な面ではなく、化学的な性質も異なる。
第1実施形態による窒化物半導体発光素子(EL)は、深紫外領域の光を発光する深紫外発光ダイオード素子であり、図2に示すように、基板10(たとえば、サファイア基板)上に、Alを含む窒化物半導体層を1層以上有するn側窒化物半導体20、活性層30、および、Alを含む窒化物半導体層を1層以上有するp側窒化物半導体40が順に形成された構造を有している。なお、n側窒化物半導体20は、本発明の「第1半導体部」の一例であり、p側窒化物半導体40は、本発明の「第2半導体部」の一例である。
n側窒化物半導体20は、図3に示すように、Alを含む窒化物半導体層21(たとえば、AlN層)を含んで構成されている。この窒化物半導体層21は、その主面21aが−c面(窒素極性)となるように形成されている。また、窒化物半導体層21は、基板10上に、この基板10と接するように形成されている。ただし、基板10と窒化物半導体層21との間に、他の層が形成された構成になっていてもよい。たとえば、基板10と窒化物半導体層21との間に、AlInGaN層や、AlInGaNの組成の異なる2種以上の層から構成される超格子構造を有する構成などになっていてもよい。
また、n側窒化物半導体20は、Alを含む窒化物半導体からなるとともにそのAl組成が傾斜したAl組成傾斜層22をさらに有している。このAl組成傾斜層22は、窒化物半導体層21と活性層30との間に形成されている。具体的には、たとえば、Al組成傾斜層22は、窒化物半導体層21の−c面上に、窒化物半導体層21と接するように形成されている。なお、窒化物半導体層21は、本発明の「第1窒化物半導体層」の一例であり、Al組成傾斜層22は、本発明の「第1組成傾斜層」の一例である。
ここで、基板10と活性層30との間に窒化物半導体層21を形成した場合、窒化物半導体層21から活性層30に向けてAl組成を減らすバンド構造とすることにより、基板10と活性層30との間にn型層として機能する層を有する構成とすることできる。このため、第1実施形態では、窒化物半導体層21上に形成されるAl組成傾斜層22を、そのAl組成が、活性層30に向けて減少するように構成されている。そのため、Al組成傾斜層22は、分極ドーピングされた分極ドーピング層22として機能し、Siなどのn型ドーパントを添加しなくても、n型キャリアである電子が生成されて、n型の導電性を示す。この場合、量子井戸のバンドギャップが一番小さい構造となる。これにより、キャリアが効果的に閉じ込められる。また、活性層30で発せられた光が、分極ドーピング層22を含む層構造内で吸収されるのを抑制することが可能となる。
なお、Al組成傾斜層22における基板10側のAl組成をAl_subとし、活性層30側のAl組成をAl_actとした場合、以下の(1)式の関係が成り立つ。
Al_sub>Al_act ・・・(1)
また、Al組成傾斜層22の基板10側のAl組成(Al_sub)は、Al組成傾斜層22の基板10側(下部側)で隣接する層のAl組成以下に構成されており、Al組成傾斜層22の活性層30側のAl組成(Al_act)は、Al組成傾斜層22の活性層30側(上部側)で隣接する層のAl組成以上に構成されている。
また、Al組成傾斜層22におけるAl組成が、Al_subからAl_actに変化する時に、Al組成は一様に減少し、増加することがないように構成されているのが好ましい。さらに、窒化物半導体層21と活性層30との間に、Al組成傾斜層22以外のAlを含む窒化物半導体層が形成されている場合、その窒化物半導体層のAl組成は、その窒化物半導体層に隣接する層のうち、窒化物半導体層21側のAl組成よりも小さく、また、その窒化物半導体に隣接する層のうち、活性層側のAl組成よりも大きい構成とするとよい。また、Al組成傾斜層22以外に組成傾斜層が存在する場合は、Al組成傾斜層22と同様の構成にするとよい。さらに、Alを含む窒化物半導体層のAl組成が傾斜する構成とする場合、Al組成の変化(傾斜)は、図4の実線Aで示すように、成長層厚に比例した直線状の傾斜が好ましい。このように、Al組成を直線状に傾斜させれば、層内に均一にキャリアを発生させることが可能となる。なお、Al組成の変化(傾斜)は、上記した直線状以外であってもよい。たとえば、図4の一点鎖線Bで示すように、下に凸の放物線状であってもよい。この場合、Al組成傾斜層22とその下に形成された隣接層との界面で発生するキャリアが多くなる。このため、このような構成を、たとえば、界面の高濃度ドーピングに利用することも可能である。また、Al組成の変化(傾斜)は、上記以外に、図4の破線Cで示すように、上に凸の放物線状であってもよい。
また、図3に示したAl組成傾斜層22は、AlGaNから構成されているのが好ましい。また、Al組成傾斜層22は、AlGaN以外に、たとえば、AlInGaNから構成されていてもよい。
ここで、Al組成傾斜層22においては、その最下面のAl組成と最上面のAl組成との差(Al組成差)により、発生するキャリア濃度が決まる。具体的には、Al組成傾斜層22の層厚が薄い場合、高いキャリア濃度が薄い領域に発生する。その一方、Al組成傾斜層22の層厚が厚い場合、低いキャリア濃度が厚い領域に発生する。そのため、Al組成傾斜層22の層厚を厚く設定した場合、キャリア濃度が低くなるため、必要に応じて故意にn型不純物をドーピングすることで、キャリア濃度を制御することもできる。Al組成傾斜層22の具体的な層厚は、たとえば、1.0μm程度であるのが好ましく、2.0μm程度であればより好ましい。
また、Al組成傾斜層22では、分極ドーピングによりキャリアが発生するため、不純物をドーピングしなくても導電性を示す。このため、故意にn型不純物をドーピングする場合でも、n型不純物のドーピング量を減らすことができる。そのため、不純物をドーピングする場合のドーピング量は、Al組成傾斜層22の層厚にもよるが、不純物ドーピングを行った通常の層(組成傾斜層ではない層)の不純物ドーピング量に対して、たとえば、3分の2以下程度に設定されるとよい。不純物ドーピング量を減らすことにより、クラックの抑制効果が顕著に得られる。また、Al組成傾斜層22の不純物ドーピング量は、不純物ドーピングを行った通常の層(組成傾斜層ではない層)の不純物ドーピング量に対して、2分の1以下程度に設定されているとより好ましい。この場合、上記クラック抑制効果に加えて、平坦性の向上効果も顕著に得られる。
また、Al組成傾斜層22は、活性層30と接するように形成されている。ただし、Al組成傾斜層22と活性層30との間に、他の層が形成された構成になっていてもよい。
活性層30は、図5に示すように、障壁層31と量子井戸層32とが交互に積層された多重量子井戸(MQW)構造からなる。ただし、多重量子井戸構造以外の構造(たとえば、単一量子井戸構造)であってもよい。また、障壁層31および量子井戸層32は、それぞれ、Alを含む窒化物半導体から構成されている。
具体的には、量子井戸層32は、Alx1Iny1Ga1-x1-y1N(0<x1<1、0≦y1<1)の組成式で表される半導体層から構成されている。また、障壁層31は、Alx2Iny2Ga1-x2-y2N(0<x2<1、0≦y2<1)の組成式で表される半導体層から構成されており、そのAl組成x2は、量子井戸層32のAl組成x1よりも大きい。
量子井戸層32のAl組成x1は、0.15≦x1≦0.90の範囲にあるのが好ましく、0.30≦x1≦0.70の範囲にあればより好ましい。量子井戸層32のAl組成x1をこのような範囲とすれば、分極ドーピング層22の効果がより顕著に得られる。また、量子井戸層32のIn組成y1は、0.00≦y1≦0.12の範囲にあるのが好ましい。すなわち、活性層30の量子井戸層32は、Inを含むように構成されていてもよく、Inを含まないように構成されていてもよい。
障壁層31のAl組成x2は、0.20≦x2≦0.95の範囲にあるのが好ましい。また、障壁層31のAl組成x2は、0.30≦x2≦0.85の範囲にあればより好ましい。障壁層31のAl組成x2をこのような範囲とすれば、分極ドーピング層22の効果がより顕著に得られる。また、障壁層31のIn組成y2は、量子井戸層32のIn組成y1よりも小さく、かつ、0.00≦y2≦0.08の範囲にあるのが好ましい。すなわち、障壁層31は、量子井戸層32と同様、Inを含むように構成されていてもよく、Inを含まないように構成されていてもよい。
また、量子井戸層32の層厚は、1.0nm〜8.0nm程度が好ましく、1.2nm〜4.0nm程度であればより好ましい。このように構成することで、発光効率が向上する。また、障壁層31の層厚は、量子井戸層32の層厚よりも大きく、かつ、20nmよりも小さくなるように設定されているのが好ましい。障壁層31の層厚を20nmより小さくすることで、キャリアの注入が均一化されるので好ましい。
また、上記活性層30が複数の量子井戸層32と障壁層31とから構成される場合、量子井戸層32の層厚および組成は、全て同じに構成されていてもよいし、全て異なる構成にされていてもよい。また、いくつかの量子井戸層32が同じになるように構成されていてもよい。同様に、障壁層31の層厚および組成は、全て同じに構成されていてもよいし、全て異なる構成にされていてもよい。また、いくつかの障壁層31が同じになるように構成されていてもよい。なお、上記量子井戸層32は、意図せずに層厚や組成が揺らぐ領域ができた場合をも含む。また、量子井戸層32においては、複数の層において、層厚および組成が同じになるように構成されているのが好ましい。このように構成することで、発光効率が向上する。
また、図3に示すように、活性層30上に形成されたp側窒化物半導体40は、キャリアブロック層41、Alを含む窒化物半導体層42およびコンタクト層43を含んで構成されている。具体的には、活性層30上には、Alを含む窒化物半導体からなるキャリアブロック層41が形成されている。このキャリアブロック層41は、障壁層31(図5参照)のAl組成よりも高いAl組成を有している。キャリアブロック層41上には、Alを含む窒化物半導体層42が形成されている。窒化物半導体層42上には、窒化物半導体からなるコンタクト層43が形成されている。また、p側窒化物半導体40を構成する各層41〜43には、それぞれ、p型不純物(たとえば、Mg)がドーピングされている。また、コンタクト層43は、Alを含む窒化物半導体層42(たとえば、p型AlGaN層)のAl組成よりもAl組成が小さくなるように設定されるとよい。このように構成すれば、コンタクト抵抗を低減することができる。この場合、窒化物半導体層42との界面に、p型不純物(たとえば、Mg)を高ドープするとよい。このように構成することで、発光素子の抵抗を低減できるため好ましい。なお、キャリアブロック層41は、本発明の「第2窒化物半導体層」の一例である。
また、Al組成傾斜層22の活性層30側のAl組成は、量子井戸層32(図5参照)より高いAl組成に設定されているのが好ましい。このように構成することで、活性層30からの光を吸収する悪影響が低減される。さらに、Al組成傾斜層22の活性層30側のAl組成は、障壁層31と同じAl組成に設定されているとより好ましい。Al組成傾斜層22の活性層30側のAl組成は、障壁層31のAl組成以上であるのが好ましい。このように構成することで、Al組成傾斜層22と障壁層31とが隣接した構成にする場合、界面の格子定数差が小さくなるため好ましい。
また、Al組成傾斜層22の基板10側のAl組成は、窒化物半導体層21のAl組成以下に設定されているのが好ましい。
また、第1実施形態では、図2に示したように、窒化物半導体発光素子(EL)が、いわゆる横型構造の発光ダイオード素子に構成されている。このため、基板10上に形成された層構造の一部が、たとえば、ドライエッチングなどによって、n側窒化物半導体20の途中の深さまで掘り込まれている。そして、掘り込まれた部分の底面に、n側電極50が形成されている。このn側電極50は、たとえば、Al電極、または、基板10側からAg層、Cu層が順次積層された多層構造のAg/Cu電極からなる。一方、p側窒化物半導体40(コンタクト層43)上には、p側電極60が形成されている。このp側電極60は、たとえば、p側窒化物半導体40側からNi層(図示せず)およびAu層(図示せず)が順に積層された多層構造のNi/Au電極からなる。これにより、第1実施形態では、基板10の上面側に、p側電極60とn側電極50とが形成された状態となっている。なお、電極に用いられる金属は、一例にすぎず、上記の例に限定されない。
このように、第1実施形態による窒化物半導体発光素子では、量子井戸層32を、Alを含む窒化物半導体から構成することによって、紫外光(深紫外光)を発光する発光ダイオード素子に構成されている。なお、活性層30(量子井戸層32)から放出される光の波長は、200nm〜350nmの紫外領域であるのが好ましく、250nm〜340nmであればより好ましい。
活性層30から放出される光の波長が240nm以上では量子井戸層32や障壁層31などのヘテロ界面のエネルギー差がある程度大きく、キャリアの閉じ込めが十分に可能となる。また、光の波長が340nm以下では、発光素子を構成する窒化物半導体のAl組成が比較的高く、−c面(窒素極性)を用いる効果や、組成傾斜層を用いる効果が得られるため好ましい。
また、光の波長が260nm〜320nmであればさらに好ましい。活性層30から放出される光の波長が260nm以上では、基板10上に形成したバッファ層(たとえば、AlN)と、障壁層31やn型窒化物半導体層とのAl組成差を十分にとることができる。このため、Al組成傾斜層22のAl組成差(最下面と最上面とのAl組成の差)が大きくなるので、分極ドーピングがより効果的となる。また、光の波長が320nm以下では、バッファ層(たとえば、AlN)と、障壁層やn型窒化物半導体層とのAl組成差が大きくなりすぎず、クラックが抑制されるため好ましい。
なお、発光波長が260nm以上300nm以下となるように設計された活性層30を有する場合、−c面(窒素極性)を主面21aとする窒化物半導体層21上に形成された分極ドーピング層22がより効果的に機能するため好ましい。
また、上記のように構成された窒化物半導体発光素子(EL)は、図6に示すように、キャンタイプのパッケージ1000aに搭載されて、半導体光学装置1000に構成される。
第1実施形態では、上記のように、基板10と活性層30との間に、−c面(窒素極性)を主面21aとする窒化物半導体層21を形成するとともに、その窒化物半導体層21の−c面(主面21a)上(窒化物半導体層21に対して活性層30側)に、Al組成傾斜層22を形成することによって、このAl組成傾斜層22を分極ドーピング層とすることができる。そして、この分極ドーピング層22を含む層構造とすることによって、横方向の電流拡がりを大幅に増大させることができる。これにより、電流を活性層30の全体にわたって注入することができる。
また、第1実施形態では、Al組成傾斜層22を、活性層30に向かってそのAl組成が減少するように構成することによって、n型ドーパントを添加しなくても、n型キャリアである電子が生成されるため、Al組成傾斜層22をn型の導電型に構成することができる。このため、たとえば、Siなどの不純物をドーピングすることで危惧されるクラックの誘発を抑制することができる。また、Al組成傾斜層22(分極ドーピング層)に故意にドーピングを行う場合でも、そのドーピング量を少なくすることができる。このため、ドーピング量を少なくすることによって、結晶品質を向上させることができる。加えて、ドーピング量を少なくすることによって、不純物原料の使用量が減るため、原料効率を高めることができる。これにより、生産コスト、製品コストを低減することもできる。
また、窒化物半導体層21の主面21aを−c面(窒素極性)とすることによって、Al組成傾斜層22(分極ドーピング層)に故意にドーピングを行う場合においても、+c面(III族極性)とする場合に比べて、クラック抑制効果を向上させることができる。このため、Al組成傾斜層22(分極ドーピング層)の厚膜化を図ることができるので、電流を容易に横方向に拡げることができる。
また、第1実施形態では、基板10から活性層30に向けて、Al組成が減少する層構造中に、Al組成が増加する層を導入しない(基板上に形成された窒化物半導体層の格子定数から、格子定数が小さくなる方向に変化している場合に、格子定数が大きくなる層を導入しない)ようにすることによって、格子定数の不連続(急激な格子定数変化)が生じないように構成することができる。これにより、格子不整合から生じる転位などの結晶欠陥の発生を抑制することができるので、結晶品質を向上させることができるとともに、クラックの発生を抑制することができる。
さらに、第1実施形態では、素子構造中に、GaNからなるSiデルタ・ドープ層などの紫外光(深紫外光)を吸収する層を設けることなく発光素子を形成することができるので、外部への光の取出しが低下するのを抑制することができる。加えて、設計自由度を向上させることもできる。
また、基板10上に、−c面(窒素極性)を主面21aとする窒化物半導体層21を形成した場合や、さらにその上に、異なるAl組成のAlを有する窒化物半導体層を形成した場合、+c面(III族極性)を主面とする窒化物半導体層上にこれらの層を形成した場合と比べて、クラックをより抑制することができるという特有の効果を得ることができる。これは、結晶成長中のウエハの反り量が低減したことによるものと考えられる。したがって、基板10上に、−c面(窒素極性)を主面21aとする窒化物半導体層21を形成することによって、+c面(III族極性)に比べて、厚膜化を図ることが可能となる。その結果、バッファ効果により結晶品質を向上させることができるとともに、横方向の電流拡がりを容易に増大させることができる。
また、第1実施形態では、窒化物半導体層21を、そのAl組成が量子井戸層32のAl組成より大きくなるように構成することによって、活性層30で発せられた光の吸収を抑制することができる。
また、第1実施形態では、Al組成傾斜層22における基板10(窒化物半導体層21)側のAl組成を、窒化物半導体層21のAl組成以下に設定するとともに、Al組成傾斜層22の活性層30側のAl組成を、障壁層31のAl組成以上に設定することによって、界面における格子不整合差を小さくすることができる。このため、格子不整合から生じる転位などの結晶欠陥の発生を効果的に抑制することができるので、結晶品質を効果的に向上させることができる。
また、第1実施形態では、Al組成傾斜層22のAl組成を、層厚方向に対して直線状に変化(傾斜)するように構成することによって、層内にキャリアを均一に発生させることができる。
また、第1実施形態では、窒化物半導体層21の−c面(窒素極性)上に形成される層構造を、Al組成傾斜層22(分極ドーピング層)を含む構造とすることによって、窒化物半導体層21の−c面(窒素極性)上に形成される窒化物半導体層の平坦性を向上させることができる。この際、Al組成傾斜層22の層厚を、2.0μm程度とすれば、平坦性の向上効果を大きく得ることができる。これにより、結晶品質が向上するので、導電性が向上する。その結果、これによっても、横方向の電流拡がりを向上させることができる。
−c面を主面21aとする窒化物半導体層21上では、Al組成傾斜層22とn型不純物をドーピングした通常の層(組成傾斜層ではない層)との層厚の大小関係は、どちらが大きくてもよい。これは、−c面(窒素極性)を窒化物半導体層21の主面21aとすることで、クラックの抑制が可能になるためである。より好ましい構成は、Al組成傾斜層22の層厚を、n型不純物をドーピングした通常の層(組成傾斜層ではない層)の層厚以上に設定する構成である。このように構成した場合、n型不純物をドーピングした層を減らすことができるため、より結晶品質が向上する。また、平坦性も向上するため好ましい。
また、第1実施形態では、キャリアブロック層41と窒化物半導体層42との界面に、p型不純物(たとえば、Mg)を高濃度でドーピングする構成とすることもできる。そして、このように構成することで、ヘテロ界面に発生するスパイクの影響を低減することができるので、電圧低減効果を得ることができる。また、同様に、窒化物半導体層42とコンタクト層43との界面に、p型不純物を高濃度でドーピングする構成とすることもできる。このように構成することで、上記と同様、ヘテロ界面に発生するスパイクの影響を低減することができる。このため、電圧低減効果を得ることができる。
なお、上記窒化物半導体発光素子は、たとえば、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)や、分子ビーム成長法(MBE法)などの結晶成長法などを用いて作製することができる。
また、窒化物半導体層21は、たとえば、以下の方法(工程)を用いることにより、その主面21aを−c面(窒素極性)とすることができる。具体的な方法の一例として、基板10にサファイア基板を用い、窒化物半導体層21をAlN層とした場合について説明する。
まず、サファイア基板を結晶成長装置(たとえば、MOCVD装置)に導入し、基板温度を1050℃程度に保持した状態で、H2雰囲気中で基板表面のクリーニングを行う。次に、基板温度を1100℃程度にして、窒化処理を行う。具体的には、基板温度が1100℃程度の状態で、N原料であるNH3のみを500cc/min程度で60秒程度供給する。この窒化処理後、NH3に加えて、Alの原料(たとえば、TMA)を、5μmol/min程度で供給する。これにより、−c面(窒素極性)を主面とするAlN層が形成される。なお、上記方法を用いることにより、窒素極性とIII族極性とが混在した窒化物半導体層(たとえば、AlN層)を形成することもできる。また、AlN層以外の窒化物半導体層とする場合には、適宜、原料ガスを供給すればよい。
また、Al組成傾斜層22は、たとえば、以下の方法(工程)を用いて形成することができる。具体的な方法の一例として、Al組成傾斜層22をAlGaN層とした場合について説明する。
AlGaN層の成長時に、Alの原料(たとえば、TMA)、Gaの原料(たとえば、TMG)およびNH3をある値で供給していた場合、Gaの原料およびNH3の供給量が一定の元、Alの原料の供給量を変化させる。これにより、AlGaN層のAl組成を変化させることができる。また、上記以外に、Alの原料およびNH3の供給量が一定の元、Gaの原料の供給量を変化させることでも、AlGaN層のAl組成を変化させることができる。さらに、Gaの原料およびAlの原料の供給量が一定の元、NH3の供給量を変化させることでも、AlGaN層のAl組成を変化させることができる。
この実施例1では、−c面(窒素極性)の主面を有する窒化物半導体層として、AlN層を形成し、このAlN層の−c面上に、約0.2μmの厚みを有するAlGaN層からなるAl組成傾斜層を形成することにより、窒化物半導体発光素子を形成した。
図7は、Al組成傾斜層のAl組成とキャリア密度との関係を示した図である。この図7では、主面が窒素極性を示すAlN層上に、0.2μmの厚みを有するAlxGa1-xN層(Al組成傾斜層)を形成した場合の分極ドーピングにより発生するキャリア濃度について計算した結果を示している。また、図7において、横軸は、AlxGa1-xN層のAl組成x(%)を示しており、縦軸は、キャリア密度(cm-3)を示している。なお、Al組成xは、AlxGa1-xN層(Al組成傾斜層)の最上面のAl組成を示している。また、AlxGa1-xN層(Al組成傾斜層)の最下面のAl組成は、AlN層と同じ、100%として計算している。
図7より、AlxGa1-xN層のAl組成xが100%の場合、組成傾斜が生じないため、キャリアが発生しないが、Al組成xが100%より小さくなると組成傾斜が生じるため、キャリアが発生する。また、AlxGa1-xN層のAl組成xが小さくなるにしたがい、最下面のAl組成と最上面のAl組成とのAl組成差が大きくなるため、キャリア密度が大きくなることがわかる。
図8は、Al組成傾斜層の層厚とキャリア密度との関係を示した図である。この図8では、主面が窒素極性を示すAlN層上に、Al0.7Ga0.3N層(Al組成傾斜層)を形成した場合の分極ドーピングにより発生するキャリア濃度について計算した結果を示している。また、図8において、横軸は、Al0.7Ga0.3N層(Al組成傾斜層)の層厚(μm)を示しており、縦軸は、キャリア密度(cm-3)を示している。なお、Al0.7Ga0.3N層(Al組成傾斜層)のAl組成は、Al0.7Ga0.3N層(Al組成傾斜層)の最上面のAl組成を示している。また、Al0.7Ga0.3N層(Al組成傾斜層)の最下面のAl組成は、AlN層と同じ、100%として計算している。
図8より、Al組成傾斜層の層厚が薄いほど、発生するキャリア濃度が大きくなる。したがって、Al組成差と層厚とを調整することで、分極ドーピングにより発生するキャリア濃度を制御することができる。
また、主面が−c面(窒素極性)のAlN層上に、Al組成が減少したAl組成傾斜層を形成した場合、n型のキャリアが発生する。一方、主面が+c面(Al極性)のAlN層上に、Al組成が減少したAl組成傾斜層を形成した場合、p型のキャリアが発生する。このため、極性面と組成傾斜のさせ方とによって、発生させるキャリアを制御することができる。
(第2実施形態)
図9は、本発明の第2実施形態による窒化物半導体発光素子の素子構造(層構造)を模式的に示した断面図である。図10〜図12は、本発明の第2実施形態による窒化物半導体発光素子のAl組成傾斜層の構成を説明するための図である。次に、図5および図9〜図12を参照して、本発明の第2実施形態による窒化物半導体発光素子について説明する。なお、各図において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
この第2実施形態では、図9および図10に示すように、上記第1実施形態の構成において、Al組成傾斜層122(22)が、複数の層を含む多層構造に構成されている。具体的には、上記Al組成傾斜層122は、Al組成の傾斜が異なる2層以上の分極ドーピング層(傾斜層)22aを含んで構成されている。この分極ドーピング層22aは、Al組成が傾斜した窒化物半導体から構成されている。
また、第2実施形態では、第1実施形態と同様、基板10と活性層30との間に、Alを含む窒化物半導体層21(たとえば、AlN層)が形成されている。この窒化物半導体層21の主面21aは、−c面(窒素極性)とされている。また、窒化物半導体層21と活性層30との間には、上記Al組成傾斜層122が形成されている。このAl組成傾斜層122は、窒化物半導体層21に対して活性層30側に形成されている。さらに、活性層30上には、キャリアブロック層41、Alを含む窒化物半導体層42、窒化物半導体からなるコンタクト層43が順に形成されている。なお、キャリアブロック層41、窒化物半導体層42およびコンタクト層43には、p型不純物(たとえば、Mg)がドーピングされている。
Al組成傾斜層122は、図10に示すように、Al組成が傾斜した分極ドーピング層22aと通常の層(組成傾斜層ではない層:通常層22b)とが交互に積層された多層構造からなる。また、Al組成傾斜層122は、そのAl組成が、活性層30に向けて減少するように構成されている。なお、通常層22bは、組成一定を目的として形成された層であるが、意図せずに組成が不均一になった層も通常層22bに含まれる。
ここで、Al組成傾斜層122の構成についてより詳細に説明する。なお、説明を簡単にするために、図11および図12を参照して、Al組成傾斜層122が、第1分極ドーピング層221a、第1通常層221b、第2分極ドーピング層222aから構成される場合を例にして説明する。
図11および図12に示すように、Al組成傾斜層122は、第1分極ドーピング層221aと第2分極ドーピング層222aとで、第1通常層221bが挟まれた構成を有している。第1分極ドーピング層221aは、基板側に形成されており、第2分極ドーピング層222aは、活性層側に形成されている。
また、第1分極ドーピング層221aにおける基板10側のAl組成をAl_a1_subとし、活性層30側のAl組成をAl_a1_actとした場合、以下の(2)式の関係が成り立つ。
Al_a1_sub>Al_a1_act ・・・(2)
なお、第1分極ドーピング層221aは、図12に示すように、Al組成がAl_a1_subからAl_a1_actに変化する時に、Al組成は一様に減少し、増加することがないように構成されているのが好ましい。さらに、そのAl組成の変化(傾斜)は、図12の実線a1のように、成長層厚に比例した直線状の傾斜が好ましい。このように構成することで、分極ドーピングにより、横方向の電流拡がりを大幅に増大させることができるため好ましい。また、Al組成を直線状に傾斜させれば、層内に均一にキャリアを発生させることが可能となる。なお、Al組成の変化(傾斜)は、上記した直線状以外の他の傾斜方法(たとえば、放物線状の傾斜など)であってもよい。
第1通常層221bのAl組成が一定の場合、そのAl組成をAl_b1とすると、Al_b1は、以下の(3)式を満たすように構成される。
Al_b1≦Al_a1_act ・・・(3)
Al_b1=Al_a1_actの場合(図12の実線b1参照)、界面での格子定数差が生じないため、転位などの結晶欠陥の発生やクラックの発生が抑制される。また、Al_b1<Al_a1_actの関係(図12の破線b2参照)を維持することで、界面において、p型キャリアの発生が抑制される。
また、第2分極ドーピング層222aにおける基板10側のAl組成をAl_a2_subとし、活性層30側のAl組成をAl_a2_actとした場合、以下の(4)式の関係が成り立つ。
Al_a2_sub>Al_a2_act ・・・(4)
また、第1通常層221bのAl組成との関係においては、以下の(5)式を満たすように構成される。
Al_a2_act≦Al_b1 ・・・(5)
Al_a2_act=Al_b1の場合(図12の実線a2参照(第1通常層221bが破線b2の状態の場合は、破線a3参照))、界面での格子定数差が生じないため、転位などの結晶欠陥の発生やクラックの発生が抑制される。また、Al_a2_act<Al_b1の関係(第1通常層221bが図12の実線b1の状態の場合は、破線a3またはa4参照、第1通常層221bが破線b2の状態の場合は、破線a4参照)を維持することで、界面において、p型キャリアの発生が抑制される。
また、第2分極ドーピング層222aにおけるAl組成が、Al_a2_subからAl_a2_actに変化する時に、Al組成は一様に減少し、増加することがないように構成されているのが好ましい。また、そのAl組成の変化(傾斜)は、第1分極ドーピング層221aと同様、成長層厚に比例した直線状の傾斜が好ましい。このように構成することで、層内に均一にキャリアを発生させることが可能となる。ただし、Al組成の変化(傾斜)は、上記した直線状以外の他の傾斜方法(たとえば、放物線状の傾斜など)であってもよい。
なお、以上の説明では、分極ドーピング層22aと通常層22bとが交互に積層された多層構造からなる3層構造を例示したが、Al組成傾斜層122の層数は、3層に限定されるものではなく、たとえば、10層、20層と層数を増やした構成とすることも可能である。
この場合、Al組成傾斜層122のn番目(nは、0を含まない自然数)の分極ドーピング層22aにおける基板10側のAl組成をAl_n_subとし、活性層30側のAl組成をAl_n_actとすると、Al_1_subは、窒化物半導体層21のAl組成以下に設定されているとともに、Al_n_actは、Al_n+1_sub以上に設定されており、かつ、活性層30に最も近い分極ドーピング層22aにおける活性層30側のAl組成が、障壁層31(図5参照)のAl組成以上に設定されているのが好ましい。すなわち、多層構造とした場合でも、基板10から活性層30に向けて、Al組成が一定か、もしくは減少するように構成されているのが好ましい。
また、Al組成傾斜層122は、AlGaNから構成されているのが好ましい。また、Al組成傾斜層122は、AlGaN以外に、たとえば、AlInGaNから構成されていてもよい。
組成傾斜した分極ドーピング層22aに不純物をドーピングする場合、上述したように、そのドーピング量は、不純物ドーピングを行った通常の層(組成傾斜層ではない層)の不純物ドーピング量に対して、たとえば、3分の2以下程度に設定されるとよい。不純物ドーピング量を減らすことにより、クラックの抑制効果が顕著に得られる。また、Al組成傾斜層122の不純物ドーピング量は、不純物ドーピングを行った通常の層(組成傾斜層ではない層)の不純物ドーピング量に対して、2分の1以下程度に設定されているとより好ましい。この場合、上記クラック抑制効果に加えて、平坦性の向上効果も顕著に得られる。
また、Al組成傾斜層122を構成する各層は、量子井戸層より高いAl組成に設定されているのが好ましい。このように構成することで、活性層30からの光を吸収する悪影響が低減される。さらに、Al組成傾斜層122を構成する層のうち、最も活性層30(障壁層)に近い層のAl組成は、障壁層と同じAl組成に設定されているとより好ましい。このように構成することで、Al組成傾斜層122と障壁層とが隣接した構成にする場合、界面の格子定数差が小さくなるため好ましい。
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
第2実施形態では、上記のように、Al組成傾斜層122を、Al組成の傾斜が異なる2層以上の分極ドーピング層22aを含む多層構造に構成することによって、Al組成傾斜層122を1層(単層)で形成する場合に比べて、横方向の電流拡がりをより増大させることができる。
また、−c面(窒素極性)を主面21aとする窒化物半導体層21上においては、分極ドーピング層22aを多層で形成することにより、窒化物半導体層の平坦性をより向上させることができる。
また、第2実施形態では、Al組成傾斜層122を、Al組成が傾斜している分極ドーピング層22aとAl組成が一定の通常層22bとが交互に積層された多層構造に構成することによって、容易に、窒化物半導体層の平坦性を向上させることができる。
また、通常層22bに不純物がドーピングされている場合、不純物ドーピングされた通常層22b間に、ドーピング量が少ない、もしくは、故意に不純物ドーピングを行わない層(分極ドーピング層22a)を形成することで、不純物量を減らすことができる。これにより、結晶品質を向上させることができる。
また、第2実施形態では、Al組成傾斜層122のn番目(nは、0を含まない自然数)の分極ドーピング層22aにおける基板10側のAl組成をAl_n_subとし、活性層30側のAl組成をAl_n_actとした場合、Al_1_subが、窒化物半導体層21のAl組成以下に設定されているとともに、Al_n_actは、Al_n+1_sub以上に設定されており、かつ、活性層30に最も近い分極ドーピング層22aにおける活性層30側のAl組成が、障壁層31(図5参照)のAl組成以上に設定された構成とすることにより、容易に、界面における格子不整合差を小さくすることができる。これにより、格子不整合から生じる転位などの結晶欠陥の発生をより効果的に抑制することができるので、結晶品質をより効果的に向上させることができる。
たとえば、途中でAl組成が大きくなった場合、格子不整合差が大きい界面が生じるため好ましくない。また、途中でAl組成が大きくなった場合、分極ドーピングにより発生するキャリアは、n型ではなくp型に寄与することになる。このため、n型窒化物半導体に適用する場合、好ましくない。
なお、Al組成傾斜層122の層厚は、たとえば、2.0μm程度とすることができる。また、Al組成傾斜層122の層厚は、3.0μmから5.0μmの間に設定されていると好ましい。3.0μmより大きく設定することにより、電流拡がりの効果が大きくなる。一方、5.0μmより小さく設定することにより、平坦性が良好になる。
−c面を主面21aとする窒化物半導体層21上では、Al組成傾斜層122とn型不純物をドーピングした通常の層(組成傾斜層ではない層)との層厚の大小関係は、どちらが大きくてもよい。これは、−c面(窒素極性)を窒化物半導体層21の主面21aとすることで、クラックの抑制が可能になるためである。より好ましい構成は、Al組成傾斜層122の層厚を、n型不純物をドーピングした通常の層(組成傾斜層ではない層)の層厚以上に設定する構成である。このように構成した場合、n型不純物をドーピングした層を減らすことができるため、より結晶品質が向上する。また、平坦性も向上するため好ましい。
分極ドーピング層22aが多段に形成された場合、各々の分極ドーピング層22aのAl組成傾斜方法は、同じでもよいし、それぞれ、異なっていてもよい。また、各々の分極ドーピング層22aの層厚も、全て同じでもよいし、異なっていてもよい。
第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
(第2実施形態の変形例)
上記第2実施形態では、通常層22bを、Al組成一定の層としたが、分極ドーピング層22aのように、Al組成が変化していてもよい。この場合、Al組成は、基板10から活性層30に向けて、一様に減少し、増加することがないように構成されているのが好ましい。また、Al組成の変化の仕方は、成長層厚に比例した直線状の傾斜が好ましい。この直線状の傾斜の傾きは、分極ドーピング層22aと異なっていてもよい。傾斜の傾きが分極ドーピング層22aと同じ場合は、上記第1実施形態と同様の構成となる。
(第3実施形態)
図13は、本発明の第3実施形態による窒化物半導体発光素子の素子構造(層構造)を模式的に示した断面図である。次に、図5および図13を参照して、本発明の第3実施形態による窒化物半導体発光素子について説明する。なお、図13において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
この第3実施形態では、図13に示すように、上記第1または第2実施形態の構成において、p側窒化物半導体40にもAl組成傾斜層が形成された構成となっている。具体的には、第3実施形態では、活性層30(最も基板10から離れた障壁層)とキャリアブロック層41との間に、Al組成が傾斜している窒化物半導体からなるAl組成傾斜層44が形成されている。なお、Al組成傾斜層44は、本発明の「第2組成傾斜層」の一例である。
活性層30とキャリアブロック層41との間に形成されたAl組成傾斜層44は、活性層30からキャリアブロック層41に向けて、Al組成が増加するように構成されている。たとえば、Al組成傾斜層44における活性層30側のAl組成をAl_44_actとし、キャリアブロック層41側のAl組成をAl_44_cbとした場合、以下の(6)式の関係が成り立つ。
Al_44_act<Al_44_cb ・・・(6)
また、Al組成傾斜層44のAl組成がAl_44_actからAl_44_cbに変化する時に、Al組成は一様に増加し、減少することがないように構成されているのが好ましい。そのAl組成の変化(傾斜)は、成長層厚に比例した直線状の傾斜が好ましい。このように構成することで、層内に均一にキャリアを発生させることが可能となる。ただし、Al組成の変化(傾斜)は、上記した直線状以外の他の傾斜方法(たとえば、放物線状の傾斜など)であってもよい。
ここで、上記Al組成傾斜層44は−c面上に形成されているので、故意に不純物(たとえば、Mg)をドーピングしなくても、分極ドーピングによりキャリア(ホール)が発生する。このため、Al組成傾斜層44は、故意に不純物をドーピングしなくても、p型の導電性を示す。ただし、Al組成傾斜層44に故意に不純物をドーピングすることにより、ドーピング量の調整などを行うことも可能である。
また、Al組成傾斜層44におけるキャリアブロック層41側のAl組成(Al_44_cb)は、キャリアブロック層41のAl組成と同じに設定されているのが好ましい。このように構成することで、キャリアブロック層41との界面での格子不整合差がなくなるため、好ましい。また、Al組成傾斜層44における活性層30側のAl組成(Al_44_act)は、障壁層31(図5参照)のAl組成と同じに設定されているのが好ましい。このように構成することで、活性層30との界面での格子不整合差がなくなるため、好ましい。
なお、活性層30とキャリアブロック層41との間に、Al組成傾斜層44を有する構成の場合、Al組成傾斜層44が量子井戸層と接する構成とすることにより、Al組成傾斜層44が、最もキャリアブロック層41に近い障壁層31(図5参照)の機能を兼ね備えた構成とすることも可能である。
また、Al組成傾斜層44の層厚は、たとえば、100nm以下にするとよい。このように構成することで、キャリアブロック層41の効果を大きくすることができる。また、Al組成傾斜層44の層厚が、50nm以下であればより好ましく、20nm以下であればさらに好ましい。Al組成傾斜層44の層厚を20nm以下とすることで、分極ドーピングにより十分にキャリアを発生させることができる。また、Al組成傾斜層44の層厚は、たとえば、5nm以上にするとよい。このように構成することで、Al組成を緩やかに変化させることが可能となり、結晶品質が向上する。
なお、第3実施形態では、p側窒化物半導体40のAl組成傾斜層44を単層で示したが、これに限らず、Al組成傾斜層44は、複数の層を含む多層構造に形成されていてもよい。この場合も、活性層30からキャリアブロック層41に向けて、Al組成が増加するように構成される。
また、第3実施形態では、n側窒化物半導体20にもAl組成傾斜層22(122)を設けた例を示したが、n側窒化物半導体20に、Al組成傾斜層22(122)を設けない構成とすることも可能である。ただし、n側窒化物半導体20にAl組成傾斜層22(122)を設けることで、横方向に電流を拡げる効果や、平坦性の向上効果、クラック抑制効果などが得られるため、n側窒化物半導体20にAl組成傾斜層22(122)を設けた構成が好ましい。
また、上記第3実施形態の構成において、基板10と窒化物半導体層21との間に、超格子構造を形成する構成とすることも可能である。たとえば、基板10上に、窒素極性を有するAlNバッファ層を形成したのち、さらに、AlNとAlGaN、もしくは、AlGaNとAlGaNとからなる超格子を形成し、その上に、Alを含む窒化物半導体層21を形成することも可能である。このように、基板10と窒化物半導体層21との間に、超格子を挿入することで、その上に形成される層の結晶欠陥を低減(抑制)することができる。さらに、上記以外に、たとえば、Al組成傾斜層22(122)と活性層30との間に、AlNとAlGaN、もしくは、AlGaNとAlGaNとからなる超格子構造を挿入することも可能である。
第3実施形態のその他の構成は、上記第1および第2実施形態と同様である。
第3実施形態では、上記のように、活性層30とキャリアブロック層41との間に、Al組成が傾斜したAl組成傾斜層44を形成することによって、このAl組成傾斜層44を分極ドーピング層とすることができる。分極ドーピング層では、ドーパントを添加しなくてもキャリアが生成されるため、素子抵抗を低減することができる。
また、第3実施形態では、p型不純物をドーピングせずに、Al組成傾斜層44にp型のキャリア(ホール)を発生させることができる。ここで、活性層付近にp型不純物をドーピングすると、素子抵抗を低減することが可能となる一方、p型窒化物半導体層の成長中にp型不純物が活性層に拡散することにより、発光効率が低下する場合がある。また、p型不純物の拡散は、結晶品質が悪いもので、より顕著となる。
これに対し、上記のように構成された第3実施形態では、p型不純物をドーピングすることなく、p型のキャリアを発生させることができるので、p型不純物(たとえば、Mg)の拡散に起因する発光効率の低下を抑制することができる。また、p型不純物をドーピングする場合でも、そのドーピング量を減らすことができるので、p型不純物の拡散を効果的に抑制することができる。また、p型不純物のドーピング量を減らすことにより、結晶品質を向上させることもできる。その結果、活性層へのダメージを抑制して、発光効率の低下を抑制することができる。
また、Al組成傾斜層44に不純物(たとえば、Mg)をドーピングする場合、そのドーピング量は、p型不純物をドーピングした通常の層(組成傾斜層ではない層)のドーピング量の、たとえば、3分の2以下程度に設定されるとよい。このように構成すれば、不純物ドーピング量を減らすことができるので、結晶品質を向上させることができる。また、活性層30への不純物の拡散を抑制することができるので、不純物拡散による活性層30のダメージを抑制することもできる。また、Al組成傾斜層44の不純物ドーピング量は、p型不純物をドーピングした通常の層(組成傾斜層ではない層)のドーピング量の、たとえば、2分の1以下程度に設定されているとより好ましい。この場合、上記効果に加えて、平坦性を向上させる効果を顕著に得ることができる。不純物をドーピングしない構成とすれば、さらに好ましい。
また、第3実施形態では、Al組成傾斜層44におけるキャリアブロック層41側のAl組成(Al_44_cb)を、キャリアブロック層41のAl組成以下に設定するとともに、Al組成傾斜層44における活性層30側のAl組成(Al_44_act)を、障壁層31(図5参照)のAl組成以上に設定することによって、界面における格子不整合差を小さくすることができるので、格子不整合から生じる転位などの結晶欠陥の発生を効果的に抑制することができる。
第3実施形態のその他の効果は、上記第1および第2実施形態と同様である。
実施例2の窒化物半導体発光素子として、上記第3実施形態で示した窒化物半導体発光素子と同様の発光素子を作製した。図14および図15は、実施例2の窒化物半導体発光素子の素子構造(層構造)を模式的に示した断面図である。なお、各図において、対応する構成要素には同一の符号を付している。
この実施例2では、図14に示すように、基板10にサファイア基板を用いた。また、サファイア基板10上には、−c面(窒素極性)を主面21aとするAlN層22を形成した。AlN層22上には、Al組成が傾斜しているn側分極ドーピング層22を形成した。この分極ドーピング層22は、約2.0μmの層厚とし、AlNからAl0.45Ga0.55Nへ、Al組成を直線的に変化させた。また、分極ドーピング層22には、通常の層(組成傾斜層でない層(後述する比較例))のSiドーピング量の3分の2程度のSiドーピングを行った。分極ドーピング層22上には、活性層30を形成し、この活性層30上に、Al組成が45%から70%まで変化させたAlGaNからなるp側分極ドーピング層44を約15nmの層厚で形成した。p側分極ドーピング層44上には、Al組成70%のAlGaNからなるキャリアブロック層41を約10nmの層厚で形成した。また、キャリアブロック層41上には、Al組成45%のAlGaN層42を約15nmの層厚で形成した。さらに、このAlGaN層42上には、GaNからなるコンタクト層43を約100nmの層厚で形成した。
キャリアブロック層41、AlGaN層42およびコンタクト層43には、p型不純物としてMgをドーピングした。一方、活性層30上に形成したp側分極ドーピング層44は、Mgドーピングを施さない構成とした。
活性層30は、図15に示すように、Al組成35%のAlGaNからなる量子井戸層32とAl組成45%のAlGaNからなる障壁層31とを交互に積層した3重量子井戸の多重量子井戸構造とした。なお、量子井戸層32の層厚は、約3nmとし、障壁層31の層厚は、約7.5nmとした。
また、n側分極ドーピング層22およびp側分極ドーピング層44を、それぞれ、Al組成一定の層に代えた窒化物半導体発光素子を作製し、この窒化物半導体発光素子を比較例として用いた。なお、比較例による素子では、n側分極ドーピング層22に対応する層の層厚は、0.8μm程度としている。これは、実施例2と同様の層厚(約2.0μm)とした場合、クラックが発生するためである。また、比較例において、n側分極ドーピング層22に対応する層は、Al0.45Ga0.55N層とし、p側分極ドーピング層44に対応する層は、Al0.7Ga0.3N層とした。
そして、これらの素子を用いて、動作電圧および電流注入による発光強度の比較を行った。その結果、比較例では、電圧値が20mAにおいて8.7Vであったのに対し、分極ドーピング層を有する実施例2では、電圧値を6.8Vまで低減することができた。また、実施例2の発光強度は、比較例に比べて、2.5倍程度増加した。
実施例3の窒化物半導体発光素子として、n側分極ドーピング層22(図14参照)が多層構造から形成されている点を除いて上記実施例2と同様の構成を有する素子を作製した。図16は、実施例3のn側分極ドーピング層の層構造を模式的に示した断面図である。
図16に示すように、実施例3では、AlN層21上に、多層構造を有するn側分極ドーピング層122(22)を形成した。具体的には、AlN層21上に、まず、AlNからAl0.80Ga0.20Nへ、Al組成を直線的に変化させた組成傾斜層22a(221a)を約0.5μmの層厚で形成した。次に、組成傾斜層22a(221a)上に、Al0.80Ga0.20Nからなる組成一定層22b(221b)を約0.6μmの層厚で形成した。次に、組成一定層22b(221b)上に、Al0.80Ga0.20NからAl0.60Ga0.40Nへ、Al組成を直線的に変化させた組成傾斜層22a(222a)を約0.5μmの層厚で形成した。続いて、組成傾斜層22a(222a)上に、Al0.60Ga0.40Nからなる組成一定層22b(222b)を約0.6μmの層厚で形成した。次に、組成一定層22b(222b)上に、Al0.60Ga0.40NからAl0.45Ga0.55Nへ、Al組成を直線的に変化させた組成傾斜層22a(223a)を約0.5μmの層厚で形成した。その後、組成傾斜層22a(223a)上に、Al0.45Ga0.55Nからなる組成一定層22b(223b)を約0.6μmの層厚で形成した。
組成傾斜層22a(221a〜223a)には、比較例の通常Siドーピング量に対して3分の2程度のSiドーピングを行った。また、組成一定層22b(221b〜223b)には、比較例の通常Siドーピング量と同程度のSiドーピングを行った。
そして、実施例3の素子を用いて、実施例2と同様、動作電圧および電流注入による発光強度の測定を行い、比較例との比較を行った。その結果、比較例では、電圧値が20mAにおいて8.7Vであったのに対し、分極ドーピング層を有する実施例3では、電圧値を6.3Vまで低減することができた。また、実施例3の発光強度は、比較例に比べて、4.5倍程度増加した。
(第4実施形態)
図17は、本発明の第4実施形態による窒化物半導体発光素子の素子構造(層構造)を模式的に示した断面図である。次に、図3および図17を参照して、本発明の第4実施形態による窒化物半導体発光素子について説明する。なお、図17において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
この第4実施形態では、+c面(III族極性)上で分極ドーピングを利用するために、上記第1実施形態の構成において、各導電型が逆の導電型に構成されている。すなわち、第4実施形態では、図17に示すように、基板10(たとえば、サファイア基板)と活性層30との間に、p型窒化物半導体層が形成されており、活性層30上に、n型窒化物半導体層が形成されている。
また、第4実施形態では、基板10と活性層30との間に、Alを含む窒化物半導体層21が形成されている。この窒化物半導体層21の主面21aは、上記第1実施形態とは異なり、+c面(III族極性)となっている。また、窒化物半導体層21と活性層30との間には、Al組成が傾斜したAl組成傾斜層22が形成されている。このAl組成傾斜層22は、活性層30に向けてAl組成が減少するように構成されている。このため、このAl組成傾斜層22が+c面(III族極性)上に形成されることで、Mgなどのp型ドーパントを添加しなくても、p型キャリアであるホールが生成される。これにより、Al組成傾斜層22がp型の導電性を示す。この場合、量子井戸のバンドギャップが一番小さい構造となるため、キャリアが効果的に閉じ込められる。
なお、Al組成傾斜層22は、上記のように、p型不純物(たとえば、Mg)をドーピングしなくても導電性を示す。このため、Al組成傾斜層22にp型不純物をドーピングしない構成とするのが好ましいが、p型不純物をドーピングする構成とすることもできる。Al組成傾斜層22にp型不純物をドーピングする場合、そのドーピング量は、p型不純物をドーピングした通常の層(組成傾斜層ではない層)のドーピング量の、たとえば、3分の2以下程度に設定されていると好ましく、2分の1程度以下に設定されているとより好ましい。
また、第4実施形態では、第1実施形態とは導電型が逆になっているため、基板10と活性層30との間にはp側窒化物半導体20aが形成されることになる。このp側窒化物半導体20aは、導電型を除き、第1実施形態のn側窒化物半導体20(図3参照)と対応する(同様の)層構造となっている。一方、活性層30上には、第1実施形態のp側窒化物半導体40(図3参照)と対応した(同様の)層構造を有するn側窒化物半導体40aが形成されている。n側窒化物半導体40aは、上記第1実施形態と同様、キャリアブロック層41、Alを含む窒化物半導体層42およびコンタクト層43を含んで構成されている。ただし、これらの層は、n型不純物がドーピングされることにより、n型の導電型を示すように構成されている。なお、p側窒化物半導体20aは、本発明の「第1半導体部」の一例であり、n側窒化物半導体40aは、本発明の「第2半導体部」の一例である。
キャリアブロック層41と窒化物半導体層42との界面には、n型不純物が高濃度ドーピングされているのが好ましい。このように構成することで、ヘテロ界面に発生するスパイクの影響を低減でき、電圧低減効果が得られる。また、同様に、窒化物半導体層42とコンタクト層43との界面には、n型不純物が高濃度ドーピングされているのが好ましい。
Al組成傾斜層22の層厚は、たとえば、1.0μm程度とすることができる。より好ましくは、2.0μm程度である。Al組成傾斜層22の層厚を2.0μm程度とすれば、電流拡がりの効果がより大きくなるためより好ましい。
また、+c面を主面21aとする窒化物半導体層21上では、Al組成傾斜層22は、p型不純物をドーピングした通常の層(組成傾斜層ではない層)の層厚より大きい層厚で形成されると好ましい。このように構成した場合、p型不純物をドーピングした層を減らすことができるため、より結晶品質が向上する。また、平坦性も向上するため好ましい。
また、Al組成傾斜層22の活性層30側のAl組成は、量子井戸層より高いAl組成に設定されているのが好ましい。このように構成することで、活性層30からの光を吸収する悪影響が低減される。さらに、Al組成傾斜層22の活性層30側のAl組成は、障壁層と同じAl組成に設定されているとより好ましい。このように構成することで、界面の格子定数差が小さくなるため好ましい。
さらに、Al組成傾斜層22を、基板10から活性層30に向けて、Al組成が減少する構成とし、そのAl組成を活性層30のAl組成よりも大きい値に設定することで、光吸収の影響を抑制した構成にすることができる。また、格子定数差を徐々に変化させることで、格子定数差の大きな界面を減らすことができるため、結晶品質を向上させることができる。
なお、第4実施形態では、上記第1実施形態とは導電型が逆になっているため、n側電極およびp側電極もその形成領域が入れ替わった構成となっている。すなわち、第4実施形態では、第1実施形態におけるn側電極が形成されている領域にp側電極が形成されており、第1実施形態におけるp側電極が形成されている領域にn側電極が形成されている。
第4実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態の構成において導電型を逆にした構成と同様である。また、第4実施形態の効果は、上記第1実施形態と同様である。
(第5実施形態)
図18は、本発明の第5実施形態による窒化物半導体発光素子の素子構造(層構造)を模式的に示した断面図である。次に、図10および図18を参照して、本発明の第5実施形態による窒化物半導体発光素子について説明する。なお、図18において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
この第5実施形態では、図18に示すように、上記第4実施形態の構成において、Al組成傾斜層122(22)が、複数の層を含む多層構造に構成されている。このAl組成傾斜層122は、第2実施形態で示したAl組成傾斜層122(図10参照)と同様の多層構造に構成されている。ただし、第5実施形態では、窒化物半導体層21の主面21aが+c面(III族極性)とされているため、Al組成傾斜層122の導電型はp型となっている。なお、第5実施形態による窒化物半導体発光素子は、上記第2実施形態の構成において、各導電型が逆の導電型の構成と同様の構成でもある。
第5実施形態のその他の構成は、上記第4実施形態と同様である。また、第5実施形態の効果は、上記第1、第2および第4実施形態と同様である。
(第6実施形態)
図19は、本発明の第6実施形態による窒化物半導体発光素子の素子構造(層構造)を模式的に示した断面図である。次に、図13および図19を参照して、本発明の第6実施形態による窒化物半導体発光素子について説明する。なお、図19において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
この第6実施形態では、図19に示すように、上記第4または第5実施形態の構成において、n側窒化物半導体40aにもAl組成傾斜層が形成された構成となっている。具体的には、第6実施形態では、活性層30(最も基板10から離れた障壁層)とキャリアブロック層41との間に、Al組成が傾斜している窒化物半導体からなるAl組成傾斜層44が形成されている。このAl組成傾斜層44は、上記第3実施形態で示したAl組成傾斜層44(図13参照)と同様の構成を有している。ただし、第6実施形態では、窒化物半導体層21の主面21aが+c面(III族極性)とされているため、Al組成傾斜層44の導電型はn型となっている。なお、第6実施形態による窒化物半導体発光素子は、上記第3実施形態の構成において、各導電型が逆の導電型の構成と同様の構成でもある。
第6実施形態のその他の構成は、上記第4および第5実施形態と同様である。また、第6実施形態の効果は、上記第1〜第5実施形態と同様である。
(第7実施形態)
図20は、本発明の第7実施形態による窒化物半導体発光素子の素子構造(層構造)を模式的に示した断面図である。次に、図20を参照して、本発明の第7実施形態による窒化物半導体発光素子について説明する。なお、図20において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
この第7実施形態では、図20に示すように、上記第1実施形態の構成において、Al組成傾斜層22と活性層30との間にAlを含む窒化物半導体層25がさらに形成された構成となっている。
ここで、第7実施形態では、上記窒化物半導体層25は、その主面25aが+c面(III族極性)となるように形成されている。すなわち、この第7実施形態では、基板10と活性層30との間において、−c面(窒素極性)から+c面(III族極性)に極性が反転した構成となっている。
第7実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
第7実施形態では、上記のように、基板10と活性層30との間で極性を反転させることによって、活性層30を、+c面(III族極性)上に形成することができる。これにより、活性層30の平坦性をより向上させることができる。
第7実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
なお、極性を反転させる層(窒化物半導体層25)は、たとえば、以下の方法(工程)を用いて形成することができる。具体的な方法の一例として、基板10にサファイア基板を用い、窒化物半導体層25をAlN層とした場合について説明する。また、以下の説明では、−c面(窒素極性)を主面とする窒化物半導体層の形成工程については省略している。
まず、サファイア基板を結晶成長装置(たとえば、MOCVD装置)に導入し、基板温度を1050℃程度に保持した状態で、H2雰囲気中で基板表面のクリーニングを行う。次に、基板温度を1100℃程度にして、窒化処理を行う。具体的には、基板温度が1100℃程度の状態で、N原料であるNH3を400cc/min程度、Alの原料(たとえば、TMA)を5μmol/min程度で供給することにより、窒素極性とIII族極性とが混在したAlNを形成する。その後、基板温度を1200℃程度(先の工程での温度+100℃程度)にし、NH3およびAlの原料を同一条件にて供給する。これにより、その主面がIII族極性に転換される。これは、窒素極性がIII族極性に比べて低温で熱分解するため、成長温度を高温にすることでIII族極性が残り、これを核として成長が進むためである。
なお、上記第7実施形態では、極性を反転させる層を、基板10と活性層30との間に設けたが、このような層を、活性層30とコンタクト層43との間に設けてもよい。この場合、たとえば、キャリアブロック層41の形成後、Alを含む窒化物半導体層42の形成前に、極性反転を行うための窒化物半導体層を形成するのが好ましい。
(第8実施形態)
図21は、本発明の第8実施形態による窒化物半導体発光素子の素子構造(層構造)を模式的に示した断面図である。次に、図21を参照して、本発明の第8実施形態による窒化物半導体発光素子について説明する。なお、図21において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
この第8実施形態では、図21に示すように、上記第7実施形態の構成において、窒化物半導体層42およびコンタクト層43の少なくとも一方が、Al組成が傾斜した組成傾斜層(分極ドーピング層)からなる。
窒化物半導体層42のAl組成が傾斜している場合、キャリアブロック層41からコンタクト層43に向けて、Al組成が減少する構成とされる。窒化物半導体層42は、+c面(III族極性)を主面25aとする窒化物半導体層25上に形成されているため、このように構成することで、故意に不純物をドーピングしなくても、窒化物半導体層42はp型の導電性を示す。
この場合、たとえば、窒化物半導体層42のキャリアブロック層41側のAl組成をAl_42_cbとし、コンタクト層43側のAl組成をAl_42_coとすると、
以下の(7)式の関係が成り立つ。
Al_42_co<Al_42_cb ・・・(7)
また、窒化物半導体層42におけるAl組成が、Al_42_cbからAl_42_coに変化する時に、Al組成は一様に減少し、増加することがないように構成されているのが好ましい。そのAl組成の変化の仕方は、成長層厚に比例した、直線状の傾斜が好ましい。このように構成することで、層内に均一にキャリアを発生させることができる。その他、放物線状の傾斜など、他の傾斜方法でAl組成を傾斜させてもよい。
また、コンタクト層43側のAl組成(Al_42_co)は、コンタクト層43のAl組成が一様の場合、コンタクト層43のAl組成と同じであるのが好ましい。このように構成することで、界面での格子不整合差がなくなるため好ましい。
キャリアブロック層41上に形成される窒化物半導体層42の層厚は、たとえば、500nm以下に設定されているのが好ましい。より好ましくは、200nm以下である。さらに好ましくは、100nm以下である。窒化物半導体層42の層厚を100nm以下とすることで、分極ドーピングにより十分にキャリアを発生させることが可能となる。また、上記窒化物半導体層42の層厚は、たとえば、5nm以上に設定されているのが好ましい。このように構成することで、Al組成を緩やかに変化させることが可能となり、結晶品質が向上する。
また、キャリアブロック層41と窒化物半導体層42との界面には、ハイドープを施してもよい。このように構成することで、界面でのn型キャリアの影響が抑制される。また、界面にハイドープを施す場合、Alの組成傾斜プロファイルを、下に凸の放物線状に減少させた構成とすることで、分極ドーピングにより発生するキャリアを、窒化物半導体層42とその下の層との界面に近づくほど高くすることができる。
また、上記窒化物半導体層42と同様に、コンタクト層43も、Al組成が傾斜した組成傾斜層(分極ドーピング層)とすることができる。この場合、活性層30から上方(基板10と反対方向)に向けて、Al組成が減少する構成とされる。このように構成することで、コンタクト層43に故意に不純物をドーピングしなくても、コンタクト層43はp型の導電性を示す。また、コンタクト層43を、Al組成が傾斜した組成傾斜層(分極ドーピング層)とした場合、そのAl組成の変化の仕方は、成長層厚に比例した、直線状の傾斜が好ましい。このように構成することで、層内に均一にキャリアを発生させることができる。その他、放物線状の傾斜など、他の傾斜方法でAl組成を傾斜させてもよい。
コンタクト層43の層厚は、たとえば、500nm以下に設定されているのが好ましい。より好ましくは、200nm以下である。コンタクト層43の層厚を200nm以下とすることで、分極ドーピングにより十分にキャリアを発生させることが可能となる。また、上記コンタクト層43の層厚は、たとえば、10nm以上に設定されているのが好ましい。このように構成することで、Al組成を緩やかに変化させることが可能となり、結晶品質が向上する。
また、コンタクト層43における窒化物半導体層42との界面のAl組成は、窒化物半導体層42のコンタクト層43側のAl組成(Al_42_co)以上に設定されているのが好ましい。このように構成することで、界面でのn型キャリアの発生を抑制することができる。また、窒化物半導体層42との界面のAl組成は、窒化物半導体層42のコンタクト層43側のAl組成(Al_42_co)と同じに設定されているのが好ましい。このように構成することで、界面でのn型キャリアの発生が抑制されることに加えて、界面での格子定数差をなくすことができる。
第8実施形態のその他の構成は、上記第7実施形態と同様である。
第8実施形態では、上記のように、窒化物半導体層42およびコンタクト層43の少なくとも一方を、Al組成が傾斜した組成傾斜層(分極ドーピング層)とすることによって、p型不純物をドーピングせずに、p型のキャリアを発生させることができる。また、このように構成することによって、ドーピング量の調整などを行うためにp型不純物をドーピングする場合でも、少ない不純物量で導電性を得ることができるので、不純物量を減らすことにより結晶品質を向上させることができる。また、不純物の原料使用量も減らすことができるため、生産コストの観点からも好ましい。
第8実施形態のその他の効果は、上記第7実施形態と同様である。
なお、第8実施形態では、p側窒化物半導体の分極ドーピング層(窒化物半導体層42、コンタクト43)を単層で示したが、これに限らず、分極ドーピング層(窒化物半導体層42、コンタクト43)は、複数の層を含む多層構造に形成されていてもよい。この場合も、活性層30からキャリアブロック層41に向けて、Al組成が減少するように構成される。また、途中で、Al組成が増加することがないように構成されているのが好ましい。
また、第8実施形態では、n側窒化物半導体にもAl組成傾斜層22(分極ドーピング層)を設けた例を示したが、n側窒化物半導体に、Al組成傾斜層22を設けない構成とすることもできる。ただし、n側窒化物半導体にAl組成傾斜層22を設けることで、横方向に電流を拡げる効果や、平坦性の向上効果、クラック抑制効果などが得られるため、n側窒化物半導体にAl組成傾斜層22を設けた構成が好ましい。
また、上記第8実施形態では、極性を反転させる層を、基板10と活性層30との間に設けたが、このような層を、活性層30とコンタクト層43との間に設けてもよい。この場合、たとえば、キャリアブロック層41の形成後、Alを含む窒化物半導体層42の形成前に、極性反転を行うための窒化物半導体層を形成するのが好ましい。このように構成することで、p型不純物をドーピングすることなく、組成傾斜層(分極ドーピング層)に構成した層(窒化物半導体層42、コンタクト層43)にp型のキャリアを容易に発生させることができる。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記第1〜第8実施形態では、基板にサファイア基板を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、基板に、サファイア基板以外の基板を用いることもできる。サファイア基板以外の基板としては、たとえば、窒化物半導体基板、炭化珪素基板、シリコン基板などが挙げられる。また、基板にGaN基板などの紫外光(深紫外光)を吸収する基板を用いた場合は、基板剥離などを行うのが好ましい。このように構成することで、光吸収の影響をなくすことができる。また、AlN基板やAlGaN基板などでは、光吸収の影響が抑制されるため、基板剥離を行わない構成とすることもできる。このため、AlN基板やAlGaN基板などの光吸収が抑制される基板を用いる場合は、素子構造の設計自由度が向上するため好ましい。なお、窒化物半導体発光素子に用いる基板は、上記基板に限定されるものではない。たとえば、基板上に、六方晶系の結晶構造を有する窒化物半導体層を積層可能な基板であれば、窒化物半導体発光素子の基板として適用可能である。
また、上記第1〜第8実施形態では、窒化物半導体発光素子を横型構造に構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、図22に示すような縦型構造に構成することも可能である。たとえば、導電性を有する基板を用いた場合は、窒化物半導体発光素子を縦型構造とすることができる。もちろん、横型構造とすることもできる。また、導電性を有しない基板を用いた場合は、上記実施形態で示したように、窒化物半導体発光素子を横型構造に構成することができる。
また、上記第1〜第8実施形態では、−c面または+c面の主面を有する窒化物半導体層の一例としてAlN層を示したが、本発明はこれに限らず、上記窒化物半導体層は、AlN層以外の層であってもよい。たとえば、上記窒化物半導体層として、AlGaN層などを用いてもよい。
また、上記第1〜第8実施形態では、−c面または+c面の主面を有する窒化物半導体層上に、この窒化物半導体層と接するようにAl組成傾斜層を形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、上記窒化物半導体層とAl組成傾斜層との間に他の層が介在されていてもよい。
また、上記第1〜第8実施形態では、窒化物半導体層の主面を、−c面(窒素極性)または+c面(III族極性)とした例を示したが、本発明はこれに限らず、窒化物半導体層の主面は、たとえば、窒素極性とIII族極性とが混在した状態であってもよい。このように構成した場合でも、クラック抑制の効果を得ることができる。ただし、このような混在状態に比べて、窒素極性のみの方が、分極ドーピングの効果を大きくすることができる。また、窒化物半導体層の主面は、−c面および+c面以外の結晶面であってもよい。すなわち、窒化物半導体層の主面は、無極性面以外の面であればよい。
また、上記第1〜第8実施形態では、基板上に、−c面または+c面の主面を有する窒化物半導体層を形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、基板上に、上記窒化物半導体層を形成しない構成とすることもできる。たとえば、上記窒化物半導体層の機能を基板が兼ねる構成とすることにより、窒化物半導体層をなくす構成とすることができる。この場合、たとえば、Al組成傾斜層を、直接、基板上に形成することも可能である。また、この場合、基板の成長主面は、たとえば、−c面または+c面などの極性面とされているのが好ましいが、上記以外の面(無極性面以外の面)とすることもできる。なお、基板の成長主面は、極性の関係から、−c面が好ましい。
また、上記実施形態において、基板および基板上に形成される窒化物半導体層のオフ角度(主面のオフ角度)は特に限定されない。平坦性が向上するなどの特別なオフ角度があれば、その角度にすることも可能である。
また、上記第1〜第8実施形態では、窒化物半導体素子の一例である発光ダイオード素子に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、発光ダイオード素子以外の窒化物半導体発光素子に本発明を適用することもできる。たとえば、窒化物半導体発光素子の一例である窒化物半導体レーザ素子に本発明を適用することもできる。
また、上記実施形態において、基板上に形成される素子構造(窒化物半導体各層)については、その厚みや組成等は、所望の特性に合うものに適宜組み合わせたり、変更したりすることが可能である。たとえば、半導体層を追加または削除したり、半導体層の順序を一部入れ替えたりしてもよい。
また、上記第1〜第8実施形態では、発光ダイオード素子の一例として、紫外波長領域(深紫外波長領域)で発光する発光ダイオード素子について説明したが、本発明はこれに限らず、紫外(深紫外)以外の波長領域で発光する発光素子とすることもできる。
また、上記第1実施形態では、キャンタイプのパッケージに窒化物半導体発光素子を搭載した例を示したが、本発明はこれに限らず、上記実施形態で示したパッケージ以外のパッケージに窒化物半導体発光素子を搭載することもできる。また、第2〜第8実施形態で示した窒化物半導体発光素子においても、第1実施形態と同様、パッケージに搭載することで、半導体光学装置に構成することができる。
なお、上記で開示された技術(構成)を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。