以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。説明は以下の順序で行なう。
1.全体概要
2.通信処理系統:参考構成
3.通信処理系統:基本構成1〜基本構成3
4.実施例1:第1の基本構成の適用例
5.実施例2:空間分割多重の適用
6.実施例3:複数の信号に基づいて、受信側で1つの信号を生成
7.実施例4:1つの電子デバイスで取得される信号を受信側で処理する手法を複数組
8.実施例5:送受信間の相対的な移動による信号切替え→回転構造体への適用
9.変形例:実施例6〜実施例10(実施例1〜実施例5の変形例)
10:実施例11:電子機器への適用事例
<全体概要>
[無線伝送装置、無線伝送方法]
本発明の第1の態様や第2の態様と対応する本実施形態の第1の構成においては、送信部(例えば送信側の伝送路結合部)と受信部(例えば受信側の伝送路結合部)の内の少なくとも一方を備えて無線伝送装置を構成する。送信部は、伝送対象信号を無線信号として送信する。受信部は、送信部から送信された無線信号を受信する。送信部の前段及び受信部の後段の内の少なくとも一方には更に、信号処理部を備える。信号処理部は、予め定められた信号処理を行なう。たとえば、送信側に、伝送対象信号に対して予め定められた信号処理をする前段信号処理部、前段信号処理部から出力された処理済みの信号を変調する変調部を設ける。受信側に、受信部で受信された信号を復調する復調部、及び、復調部により復調された信号に対して予め定められた信号処理をする後段信号処理部を設ける。そして、送信部における無線信号の送信箇所と受信部における無線信号の受信箇所の間で通信経路が複数形成可能にし、複数の通信経路を使用して、1つの送信箇所から送信される同一の無線信号を複数の通信経路を使用して複数の受信箇所に伝送することで同一の伝送対象信号を複数の受信部に分配する信号分配、複数の通信経路を使用して伝送対象信号の伝送先を切り替える信号切替え、複数の送信箇所から送信される各無線信号を各通信経路を使用して1つの受信箇所に伝送することで複数の伝送対象信号を1つの受信部に集中させる信号集中の少なくとも1つを実行可能にする。
「送信箇所の数」対「受信箇所の数」で表したとき、信号分配、信号切替え、あるいは、信号集合を行なう場合の基本的構成としては、1対N構成、M対1構成、あるいは、M対N構成の何れかを採ることができる。
例えば、信号分配を行なう場合の第1の基本的構成としては、1つの送信箇所に対して複数の受信箇所を配置するいわゆる1対N構成を採ることができる。即ち、1つの送信箇所に対して複数の受信箇所が配置されることで送信箇所と受信箇所の間に複数の通信経路が配置可能にする。そして、1つの送信箇所から送信される伝送対象信号を複数の受信箇所に伝送する信号分配を実行可能にする。
信号分配を行なう場合の第2の基本的構成としては、複数の送信箇所に対して複数の受信箇所を配置するいわゆるM対N構成を採ることができる。即ち、複数の送信箇所に対して複数の受信箇所が配置されることで送信箇所と受信箇所の間に複数の通信経路が配置可能にする。そして、複数の送信箇所の何れかから送信される同一の伝送対象信号を複数の受信箇所に伝送する信号分配を実行可能にする。
信号切替えを行なう場合の第1の基本的構成としては、1つの送信箇所に対して複数の受信箇所を配置するいわゆる1対N構成を採ることができる。即ち、1つの送信箇所に対して複数の受信箇所が配置されることで送信箇所と受信箇所の間に複数の通信経路が配置可能にする。そして、1つの送信箇所から送信される伝送対象信号を複数の受信箇所の何れかに選択的に伝送する信号切替えを実行可能にする。
信号切替えを行なう場合の第2の基本的構成としては、複数の送信箇所に対して1つの受信箇所を配置するいわゆるM対1構成を採ることができる。即ち、複数の送信箇所に対して1つの受信箇所が配置されることで送信箇所と受信箇所の間に複数の通信経路が配置可能にする。そして、複数の送信箇所の何れかから送信される伝送対象信号の何れかを1つの受信箇所に選択的に伝送する信号切替えを実行可能にする。
信号切替えを行なう場合の第3の基本的構成としては、複数の送信箇所に対して複数の受信箇所を配置するいわゆるM対N構成を採ることができる。即ち、複数の送信箇所に対して複数の受信箇所が配置されることで送信箇所と受信箇所の間に複数の通信経路が配置可能にする。そして、複数の送信箇所の何れかから送信される伝送対象信号を複数の受信箇所の何れかに選択的に伝送する信号切替えを実行可能にする。
信号集合を行なう場合の第1の基本的構成としては、複数の送信箇所に対して1つの受信箇所を配置するいわゆるM対1構成を採ることができる。即ち、複数の送信箇所に対して1つの受信箇所が配置されることで送信箇所と受信箇所の間に複数の通信経路が配置可能にする。そして、複数の送信箇所のそれぞれから送信される伝送対象信号を1つの受信箇所に纏める信号集合を実行可能にする。
信号集合を行なう場合の第2の基本的構成としては、複数の送信箇所に対して複数の受信箇所を配置するいわゆるM対N構成を採ることができる。即ち、複数の送信箇所に対して複数の受信箇所が配置されることで送信箇所と受信箇所の間に複数の通信経路が配置可能にする。そして、複数の受信箇所の少なくとも1つに関して、複数の送信箇所から送信される伝送対象信号を1つの受信箇所に纏める信号集合を実行可能にする。
何れの場合も、好ましくは、同時に信号伝送が行なわれるように、送信箇所と受信箇所の間隔(チャネル間距離:典型的にはアンテナ間距離)を次のように設定するのがよい。即ち、送信箇所と受信箇所の間隔は、送信箇所から送信される同一の伝送対象信号を同時に複数の受信箇所にて受信可能な範囲内、あるいは、複数の伝送対象信号を同時に1つの受信箇所にて受信可能な範囲内に設定する。
又、何れの場合も、好ましくは、送信側は、送信箇所から送信される伝送対象信号を受信するべき受信箇所を識別する情報を伝送対象信号とともに送信し、受信側は、受信箇所を識別する情報に基づいて、送信箇所から送信される伝送対象信号を受信して復調するか否かを制御するとよい。
又、何れの場合も、送信箇所と受信箇所を相対的に移動可能に構成してもよい。この態様は、例えば、複数の電子デバイス(例えば固体撮像装置やデータ処理IC等)が存在する場合に、無線(電磁波)伝送路上の送信側や受信側の空中線を移動すること、又は、送信側や受信側の電子デバイスを移動することで、電子デバイスの切り替えを容易にすることができる。
又、何れの場合も、時分割多重方式によって複数の通信経路をそれぞれ異なる時間(タイミング)に使用する形態の他、周波数分割多重方式や符号分割多重方式等の多重化方式を適用して複数の通信経路を同時に使用することで、干渉や混信を防止するとよい。
空間分割多重を適用するには、例えば、送信箇所と受信箇所の間の無線信号伝送路を、無線信号を伝送路中に閉じ込めつつ無線信号を伝送させる構造を持つものとするとよい。あるいは、送信箇所と受信箇所の間の無線信号伝送路を、無線信号を伝送路中に閉じ込めつつ無線信号を伝送させる構造を持たない自由空間としつつ、隣接する送信箇所と受信箇所の対との間の距離を、隣接間で独立した通信が可能に(つまり干渉又は混信を起こさないように)設定するとよい。
好ましくは、伝送可能範囲内に追加の送信箇所や受信箇所を配置可能にするとよい。例えば、無線送信機と送信側空中線の組合せと無線受信機と受信側空中線の組合せの間にある無線伝送路に対し、送信用のアンテナあるいは受信用のアンテナを挿入する空間と構造を設け、アンテナの挿入によって追加された他の無線送信機や無線受信機との間でも信号伝送を可能にするとよい。
好ましくは、送信部における無線信号の送信箇所と受信部における無線信号の受信箇所の対が複数形成可能な組を複数設け、それぞれの組で取得される信号を用いて信号処理を行なうとよい。例えば、それぞれの組で取得される信号を用いて1つの信号を生成するとよい。
好ましくは、送信部における無線信号の送信箇所と受信部における無線信号の受信箇所の対が複数形成可能な組を複数設け、それぞれの組で、信号分配、信号切替え、あるいは信号集合を行なうとよい。例えば、同一の送信箇所から発せられる無線信号に基づいて、それぞれ異なる特性の信号処理を行なうことで、それぞれ特性の異なる信号を取得するとよい。
[電子機器]
本発明の第3の態様や本発明の第4の態様や本発明の第5の態様と対応する本実施形態の電子機器においては、各部がひとつの筐体内に収容された状態の装置構成で1つの電子機器が構成されることもあるし、複数の装置(電子機器)の組合せで1つの電子機器の全体が構成されることもある。本実施形態の信号伝送装置(無線伝送装置)は、例えば、デジタル記録再生装置、地上波テレビ受像装置、携帯電話装置、ゲーム装置、コンピュータ等の電子機器において使用される。
以下で説明する本実施形態の信号伝送装置では、ミリ波帯(波長が1〜10mm)の搬送周波数を使用するものとして説明するが、ミリ波帯に限らず、より波長の短い、例えばサブミリ波帯等、ミリ波帯近傍の搬送周波数を使用する場合にも適用可能である。
信号伝送装置を構成する場合、送信側単独の場合と、受信側単独の場合と、送信側と受信側の双方を有する場合とがある。送信側と受信側は無線信号伝送路(例えばミリ波信号伝送路)を介して結合されミリ波帯で信号伝送を行なうように構成される。伝送対象の信号を広帯域伝送に適したミリ波帯域に周波数変換して伝送するようにする。例えば、第1の通信部(第1のミリ波伝送装置)と第2の通信部(第2のミリ波伝送装置)で、信号伝送装置を構成する。そして、比較的近距離に配置された第1の通信部と第2の通信部の間では、伝送対象の信号をミリ波信号に変換してから、このミリ波信号をミリ波信号伝送路を介して伝送するようにする。本実施形態の「無線伝送」とは、伝送対象の信号を一般的な電気配線(単純なワイヤー配線)ではなく無線(この例ではミリ波)で伝送することを意味する。
「比較的近距離」とは、放送や一般的な無線通信で使用される野外(屋外)での通信装置間の距離に比べて距離が短いことを意味し、伝送可能範囲が閉じられた空間として実質的に特定できる程度のものであればよい。「閉じられた空間」とは、その空間内部から外部への電波の漏れが少なく、逆に、外部から空間内部への電波の到来(侵入)が少ない状態の空間を意味し、典型的にはその空間全体が電波に対して遮蔽効果を持つ筐体(ケース)で囲まれた状態である。例えば、1つの電子機器の筐体内での基板間通信や同一基板上でのチップ間通信や、一方の電子機器に他方の電子機器が装着された状態のように複数の電子機器が一体となった状態での機器間の通信が該当する。「一体」は、装着によって両電子機器が完全に接触した状態が典型例であるが、両電子機器間の伝送可能範囲が閉じられた空間として実質的に特定できる程度のものであればよい。例えば数センチ以内あるいは10数センチ以内等、比較的近距離で、両電子機器が多少離れた状態で定められた位置に配置されていて「実質的に」一体と見なせる場合も含む。要するに、両電子機器で構成される電波が伝搬し得る空間内部から外部への電波の漏れが少なく、逆に、外部からその空間内部への電波の到来(侵入)が少ない状態であればよい。
以下では、1つの電子機器の筐体内での信号伝送を筐体内信号伝送と称し、複数の電子機器が一体(以下、「実質的に一体」も含む)となった状態での信号伝送を機器間信号伝送と称する。筐体内信号伝送の場合は、送信側の通信装置(通信部:送信部)と受信側の通信装置(通信部:受信部)が同一筐体内に収容され、通信部(送信部と受信部)間に無線信号伝送路が形成された信号伝送装置が電子機器そのものとなる。一方、機器間信号伝送の場合、送信側の通信装置(通信部:送信部)と受信側の通信装置(通信部:受信部)がそれぞれ異なる電子機器の筐体内に収容され、両電子機器が定められた位置に配置され一体となったときに両電子機器内の通信部(送信部と受信部)間に無線信号伝送路が形成されて信号伝送装置が構築される。
ミリ波信号伝送路を挟んで設けられる各通信装置においては、送信系統と受信系統が対となって組み合わされて配置される。各通信装置に送信系統と受信系統を併存させることで双方向通信ができる。各通信装置に送信系統と受信系統を併存させる場合、一方の通信装置と他方の通信装置との間の信号伝送は片方向(一方向)のものでもよいし双方向のものでもよい。例えば、第1の通信部が送信側となり第2の通信部が受信側となる場合には、第1の通信部に送信部が配置され第2の通信部に受信部が配置される。第2の通信部が送信側となり第1の通信部が受信側となる場合には、第2の通信部に送信部が配置され第1の通信部に受信部が配置される。
送信部は、例えば、伝送対象の信号を信号処理してミリ波の信号を生成する送信側の信号生成部(伝送対象の電気信号をミリ波の信号に変換する信号変換部)と、ミリ波の信号を伝送する伝送路(ミリ波信号伝送路)に送信側の信号生成部で生成されたミリ波の信号を結合させる送信側の信号結合部を備えるものとする。好ましくは、送信側の信号生成部は、伝送対象の信号を生成する機能部と一体であるのがよい。
例えば、送信側の信号生成部は変調回路を有し、変調回路が伝送対象の信号を変調する。送信側の信号生成部は変調回路によって変調された後の信号を周波数変換してミリ波の信号を生成する。原理的には、伝送対象の信号をダイレクトにミリ波の信号に変換してもよい。送信側の信号結合部は、送信側の信号生成部によって生成されたミリ波の信号をミリ波信号伝送路に供給する。
受信部は、例えば、ミリ波信号伝送路を介して伝送されてきたミリ波の信号を受信する受信側の信号結合部と、受信側の信号結合部により受信されたミリ波の信号(入力信号)を信号処理して通常の電気信号(伝送対象の信号)を生成する受信側の信号生成部(ミリ波の信号を伝送対象の電気信号に変換する信号変換部)を備えるものとする。好ましくは、受信側の信号生成部は、伝送対象の信号を受け取る機能部と一体であるのがよい。例えば、受信側の信号生成部は復調回路を有し、ミリ波の信号を周波数変換して出力信号を生成し、その後、復調回路が出力信号を復調することで伝送対象の信号を生成する。原理的には、ミリ波の信号からダイレクトに伝送対象の信号に変換してもよい。
つまり、信号インタフェースをとるに当たり、伝送対象の信号に関して、ミリ波信号により接点レスやケーブルレスで伝送する(電気配線での伝送でない)ようにする。好ましくは、少なくとも信号伝送(特に高速伝送や大容量伝送が要求される映像信号や高速のクロック信号等)に関しては、ミリ波信号により伝送するようにする。要するに、従前は電気配線によって行なわれていた信号伝送を本実施例ではミリ波信号により行なう。ミリ波帯で信号伝送を行なうことで、Gbpsオーダーの高速信号伝送を実現することができるし、ミリ波信号の及ぶ範囲を容易に制限でき、この性質に起因する効果も得られる。
ここで、各信号結合部は、第1の通信部と第2の通信部がミリ波信号伝送路を介してミリ波の信号が伝送可能となるようにするものであればよい。例えばアンテナ構造(アンテナ結合部)を備えるものとしてもよいし、アンテナ構造を具備せずに結合をとるものであってもよい。「ミリ波の信号を伝送するミリ波信号伝送路」は、空気(いわゆる自由空間)であってもよいが、好ましくは、ミリ波信号を伝送路中に閉じ込めつつミリ波信号を伝送させる構造(ミリ波閉込め構造あるいは無線信号閉込め構造と称する)を持つものがよい。ミリ波閉込め構造を積極的に利用することで、例えば電気配線のようにミリ波信号伝送路の引回しを任意に確定することができる。このようなミリ波閉込め構造のものとしては、例えば、典型的にはいわゆる導波管が該当するが、これに限らない。例えば、ミリ波信号伝送可能な誘電体素材で構成されたもの(誘電体伝送路やミリ波誘電体内伝送路と称する)や、伝送路を構成し、かつ、ミリ波信号の外部放射を抑える遮蔽材が伝送路を囲むように設けられその遮蔽材の内部が中空の中空導波路がよい。誘電体素材や遮蔽材に柔軟性を持たせることでミリ波信号伝送路の引回しが可能となる。空気(いわゆる自由空間)の場合、各信号結合部はアンテナ構造をとることになり、そのアンテナ構造によって近距離の空間中を信号伝送することになる。一方、誘電体素材で構成されたものとする場合は、アンテナ構造をとることもできるが、そのことは必須でない。
[電気配線による信号伝送と無線伝送との対比]
電気配線を介して信号伝送を行なう信号伝送では、次のような問題がある。
i)伝送データの大容量・高速化が求められるが、電気配線の伝送速度・伝送容量には限界がある。
ii)伝送データの高速化の問題に対応するため、配線数を増やして、信号の並列化により一信号線当たりの伝送速度を落とす手法がある。しかしながら、この手法では、入出力端子の増大に繋がってしまう。その結果、プリント基板やケーブル配線の複雑化、コネクタ部や電気的インタフェースの物理サイズの増大等が求められ、それらの形状が複雑化し、これらの信頼性が低下し、コストが増大する等の問題が起こる。
iii)映画映像やコンピュータ画像等の情報量の膨大化に伴い、ベースバンド信号の帯域が広くなるに従って、EMC(電磁環境適合性)の問題がより顕在化してくる。例えば、電気配線を用いた場合は、配線がアンテナとなって、アンテナの同調周波数に対応した信号が干渉される。又、配線のインピーダンスの不整合等による反射や共振によるものも不要輻射の原因となる。このような問題を対策するために、電子機器の構成が複雑化する。
iv)EMCの他に、反射があると受信側でシンボル間での干渉による伝送エラーや妨害の飛び込みによる伝送エラーも問題となってくる。
これに対して、電気配線ではなく無線(例えばミリ波帯を使用)で信号伝送を行なう場合、配線形状やコネクタの位置を気にする必要がないため、レイアウトに対する制限があまり発生しない。ミリ波による信号伝送に置き換えた信号については配線や端子を割愛できるので、EMCの問題から解消される。一般に、通信装置内部で他にミリ波帯の周波数を使用している機能部は存在しないため、EMCの対策が容易に実現できる。送信側の通信装置と受信側の通信装置を近接した状態での無線伝送となり、固定位置間や既知の位置関係の信号伝送であるため、次のような利点が得られる。
1)送信側と受信側の間の伝搬チャネル(導波構造)を適正に設計することが容易である。
2)送信側と受信側を封止する伝送路結合部の誘電体構造と伝搬チャネル(ミリ波信号伝送路の導波構造)を併せて設計することで、自由空間伝送より、信頼性の高い良好な伝送が可能になる。
3)無線伝送を管理するコントローラの制御も一般の無線通信のように動的にアダプティブに頻繁に行なう必要はないため、制御によるオーバーヘッドを一般の無線通信に比べて小さくすることができる。その結果、制御回路や演算回路等で使用する設定値 (いわゆるパラメータ)を定数(いわゆる固定値)にすることができ、小型、低消費電力、高速化が可能になる。例えば、製造時や設計時に無線伝送特性を校正し、個体のばらつき等を把握すれば、そのデータを参照できるので、信号処理部の動作を規定する設定値は、プリセットや静的な制御にできる。その設定値は信号処理部の動作を概ね適正に規定するから、簡易な構成かつ低消費電力でありながら、高品位の通信が可能になる。
又、波長の短いミリ波帯での無線通信にすることで、次のような利点が得られる。
a)ミリ波通信は通信帯域を広く取れるため、データレートを大きくとることが簡単にできる。
b)伝送に使う周波数が他のベースバンド信号処理の周波数から離すことができ、ミリ波とベースバンド信号の周波数の干渉が起こり難い。
c)ミリ波帯は波長が短いため、波長に応じてきまるアンテナや導波構造を小さくできる。加えて、距離減衰が大きく回折も少ないため電磁シールドが行ない易い。
d)通常の野外での無線通信では、搬送波の安定度については、干渉等を防ぐため、厳しい規制がある。そのような安定度の高い搬送波を実現するためには、高い安定度の外部周波数基準部品と逓倍回路やPLL(位相同期ループ回路)等が用いられ、回路規模が大きくなる。しかしながら、ミリ波は(特に固定位置間や既知の位置関係の信号伝送との併用時は)、容易に遮蔽でき、外部に漏れないようにできる。安定度を緩めた搬送波で伝送された信号を受信側で小さい回路で復調するのには、注入同期方式を採用するのが好適である。
例えば、比較的近距離(例えば10数センチ以内)に配置されている電子機器間や電子機器内での高速信号伝送を実現する手法として、例えばLVDS(Low Voltage Differential Signaling)が知られている。しかしながら、最近のさらなる伝送データの大容量高速化に伴い、消費電力の増加、反射等による信号歪みの影響の増加、不要輻射の増加(いわゆるEMIの問題)、等が問題となる。例えば、映像信号(撮像信号を含む)やコンピュータ画像等の信号を機器内や機器間で高速(リアルタイム)に伝送する場合にLVDSでは限界に達してきている。
データの高速伝送に対応するため、配線数を増やして、信号の並列化により一信号線当たりの伝送速度を落としてもよい。しかしながら、この対処では、入出力端子の増大に繋がってしまう。その結果、プリント基板やケーブル配線の複雑化や半導体チップサイズの拡大等が求められる。また、高速・大容量のデータを配線で引き回すことでいわゆる電磁界障害が問題となる。
LVDSや配線数を増やす手法における問題は何れも、電気配線により信号を伝送することに起因している。そこで、電気配線により信号を伝送することに起因する問題を解決する手法として、電気配線を無線化して伝送する手法を採ってもよい。電気配線を無線化して伝送する手法としては例えば、筐体内の信号伝送を無線で行なうとともに、UWB(Ultra Wide Band )通信方式を適用してもよいし(第1の手法と記す)、波長の短い(1〜10mm)ミリ波帯の搬送周波数を使用してもよい(第2の手法と記す)。しかしながら、第1の手法のUWB通信方式では、搬送周波数が低く、例えば映像信号を伝送するような高速通信に向かないし、アンテナが大きくなる等、サイズ上の問題がある。さらに、伝送に使う周波数が他のベースバンド信号処理の周波数に近いため、無線信号とベースバンド信号との間で干渉が起こり易いという問題点もある。また、搬送周波数が低い場合は、機器内の駆動系ノイズの影響を受け易く、その対処が必要になる。これに対して、第2の手法のように、より波長の短いミリ波帯の搬送周波数を使用すると、アンテナサイズや干渉の問題を解決し得る。
ここでは、ミリ波帯で通信を行なう場合で説明したが、その適用範囲はミリ波帯で通信を行なうものに限定されない。ミリ波帯を下回る周波数帯や、逆にミリ波帯を超える周波数帯での通信を適用してもよい。例えば、マイクロ波帯やミリ波帯より波長の短い(0.1〜1mm)サブミリ波帯を適用してもよい。ただし、筐体内信号伝送や機器間信号伝送においては、過度に波長が長くも短くもないミリ波帯を使用するのが効果的である。
以下、本実施例の信号伝送装置や電子機器について具体的に説明する。なお、最も好適な例として、多くの機能部が半導体集積回路(チップ)に形成されている例で説明するが、このことは必須でない。
<通信処理系統:参考構成>
図1は、本実施形態の信号伝送装置の信号インタフェースを機能構成面から説明する図であって、後述する基本構成1〜基本構成3に対しての参考構成である。この参考構成は、送信系統と受信系統がそれぞれ1つの1対1の信号伝送装置1となっており、後述する基本構成1〜基本構成3で採用する無線通信(無線信号伝送)を利用した信号分配や信号切替えや信号集合の機能は存在しない。後述する基本構成1〜基本構成3では、ここで示す参考構成が備える無線通信を行なうための機能部分を利用して、無線通信によって信号分配や信号切替えや信号集合の機能を実現する。
[機能構成]
信号伝送装置1は、第1の無線機器の一例である第1通信装置100と第2の無線機器の一例である第2通信装置200がミリ波信号伝送路9を介して結合されミリ波帯で信号伝送を行なうように構成されている。図では、第1通信装置100側に送信系統を設け、第2通信装置200に受信系統を設けた場合で示している。
第1通信装置100にはミリ波帯送信に対応した半導体チップ103が設けられ、第2通信装置200にはミリ波帯受信に対応した半導体チップ203が設けられている。
本実施例では、ミリ波帯での通信の対象となる信号を、高速性や大容量性が求められる信号のみとし、その他の低速・小容量で十分なものや電源等直流と見なせる信号に関してはミリ波信号への変換対象としない。これらミリ波信号への変換対象としない信号(電源を含む)については、従前と同様の手法で基板間の信号の接続をとるようにする。ミリ波に変換する前の元の伝送対象の電気信号を纏めてベースバンド信号と称する。
[第1通信装置]
第1通信装置100は、基板102上に、ミリ波帯送信に対応した半導体チップ103と伝送路結合部108が搭載されている。半導体チップ103は、前段信号処理部の一例であるLSI機能部104と信号生成部107(ミリ波信号生成部)を一体化したLSI(Large Scale Integrated Circuit)である。
半導体チップ103は伝送路結合部108と接続される。伝送路結合部108は、送信部の一例であり、例えば、アンテナ結合部やアンテナ端子やマイクロストリップ線路やアンテナ等を具備するアンテナ構造が適用される。伝送路結合部108とミリ波信号伝送路9とが結合する箇所(つまり無線信号を送信する部分)が送信箇所であり、典型的にはアンテナが送信箇所に該当する。
LSI機能部104は、第1通信装置100の主要なアプリケーション制御を司るもので、例えば、相手方に送信したい各種の信号を処理する回路が含まれる。
信号生成部107(電気信号変換部)は、LSI機能部104からの信号をミリ波信号に変換し、ミリ波信号伝送路9を介した信号送信制御を行なうための送信側信号生成部110を有する。送信側信号生成部110と伝送路結合部108で送信系統(送信部:送信側の通信部)が構成される。
送信側信号生成部110は、入力信号を信号処理してミリ波の信号を生成するために、多重化処理部113、パラレルシリアル変換部114、変調部115、周波数変換部116、増幅部117を有する。増幅部117は、入力信号の大きさを調整して出力する振幅調整部の一例である。なお、変調部115と周波数変換部116は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
多重化処理部113は、LSI機能部104からの信号の内で、ミリ波帯での通信の対象となる信号が複数種(N1とする)ある場合に、時分割多重、周波数分割多重、符号分割多重等の多重化処理を行なうことで、複数種の信号を1系統の信号に纏める。例えば、高速性や大容量性が求められる複数種の信号をミリ波での伝送の対象として、1系統の信号に纏める。
パラレルシリアル変換部114は、パラレルの信号をシリアルのデータ信号に変換して変調部115に供給する。変調部115は、伝送対象信号を変調して周波数変換部116に供給する。パラレルシリアル変換部114は、本実施例を適用しない場合に、パラレル伝送用の複数の信号を使用するパラレルインタフェース仕様の場合に備えられ、シリアルインタフェース仕様の場合は不要である。
変調部115としては、基本的には、振幅・周波数・位相の少なくとも1つを伝送対象信号で変調するものであればよく、これらの任意の組合せの方式も採用し得る。例えば、アナログ変調方式であれば、例えば、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)とベクトル変調がある。ベクトル変調として、周波数変調(FM:Frequency Modulation)と位相変調(PM:Phase Modulation)がある。デジタル変調方式であれば、例えば、振幅遷移変調(ASK:Amplitude shift keying)、周波数遷移変調(FSK:Frequency Shift Keying)、位相遷移変調(PSK:Phase Shift Keying)、振幅と位相を変調する振幅位相変調(APSK:Amplitude Phase Shift Keying)がある。振幅位相変調としては直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)が代表的である。本実施例では、特に、受信側で同期検波方式を採用し得る方式を採る。
周波数変換部116は、変調部115によって変調された後の伝送対象信号を周波数変換してミリ波の電気信号を生成して増幅部117に供給する。ミリ波の電気信号とは、概ね30GHz〜300GHzの範囲のある周波数の電気信号をいう。「概ね」と称したのはミリ波通信による効果が得られる程度の周波数であればよく、下限は30GHzに限定されず、上限は300GHzに限定されないことに基づく。
周波数変換部116としては様々な回路構成を採り得るが、例えば、周波数混合回路(ミキサー回路)と局部発振回路とを備えた構成を採用すればよい。局部発振回路は、変調に用いる搬送波(キャリア信号、基準搬送波)を生成する。周波数混合回路は、パラレルシリアル変換部114からの信号で局部発振回路が発生するミリ波帯の搬送波と乗算(変調)してミリ波帯の伝送信号を生成して増幅部117に供給する。
増幅部117は、周波数変換後のミリ波の電気信号を増幅して伝送路結合部108に供給する。増幅部117には図示しないアンテナ端子を介して双方向の伝送路結合部108に接続される。
伝送路結合部108は、送信側信号生成部110によって生成されたミリ波の信号をミリ波信号伝送路9に送信する。伝送路結合部108は、アンテナ結合部で構成される。アンテナ結合部は伝送路結合部108(信号結合部)の一例やその一部を構成する。アンテナ結合部とは、狭義的には半導体チップ内の電子回路と、チップ内又はチップ外に配置されるアンテナを結合する部分をいい、広義的には、半導体チップとミリ波信号伝送路9を信号結合する部分をいう。例えば、アンテナ結合部は、少なくともアンテナ構造を備える。アンテナ構造は、ミリ波信号伝送路9との結合部における構造をいい、ミリ波帯の電気信号をミリ波信号伝送路9に結合させるものであればよく、アンテナそのもののみを意味するものではない。
ミリ波の伝搬路であるミリ波信号伝送路9は、自由空間伝送路として、例えば筐体内の空間を伝搬する構成にしてもよい。又、好ましくは、導波管、伝送線路、誘電体線路、誘電体内等の導波構造で構成し、ミリ波帯域の電磁波を伝送路に閉じ込める構成にして、効率よく伝送させる特性を有するものとするのが望ましい。例えば、一定範囲の比誘電率と一定範囲の誘電正接を持つ誘電体素材を含んで構成された誘電体伝送路9Aにするとよい。例えば、筐体内の全体に誘電体素材を充填することで、伝送路結合部108と伝送路結合部208の間には、自由空間伝送路ではなく誘電体伝送路9Aが配される。又、伝送路結合部108のアンテナと伝送路結合部208のアンテナの間を誘電体素材で構成されたある線径を持つ線状部材である誘電体線路で接続することで誘電体伝送路9Aを構成してもよい。なお、ミリ波信号を伝送路に閉じ込める構成のミリ波信号伝送路9としては、誘電体伝送路9Aの他に、伝送路の周囲が遮蔽材で囲まれその内部が中空の中空導波路としてもよい。
[第2通信装置]
第2通信装置200は、基板202上に、ミリ波帯受信に対応した半導体チップ203と伝送路結合部208が搭載されている。半導体チップ203は、後段信号処理部の一例であるLSI機能部204と信号生成部207(ミリ波信号生成部)を一体化したLSIである。図示しないが、第1通信装置100と同様に、LSI機能部204と信号生成部207を一体化しない構成にしてもよい。
半導体チップ203は伝送路結合部108と同様の伝送路結合部208と接続される。伝送路結合部208は、受信部の一例であり、伝送路結合部108と同様のものが採用され、ミリ波信号伝送路9からミリ波の信号を受信し受信側信号生成部220に出力する。
信号生成部207(電気信号変換部)は、ミリ波信号伝送路9を介した信号受信制御を行なうための受信側信号生成部220を有する。受信側信号生成部220と伝送路結合部208で受信系統(受信部:受信側の通信部)が構成される。伝送路結合部208とミリ波信号伝送路9とが結合する箇所(つまり無線信号を受信する部分)が受信箇所であり、典型的にはアンテナが受信箇所に該当する。
受信側信号生成部220は、伝送路結合部208によって受信したミリ波の電気信号を信号処理して出力信号を生成するために、増幅部224、周波数変換部225、復調部226、シリアルパラレル変換部227、単一化処理部228を有する。増幅部224は、入力信号の大きさを調整して出力する振幅調整部の一例である。周波数変換部225と復調部226は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。又、注入同期(インジェクションロック)方式を適用して復調搬送信号を生成してもよい。
伝送路結合部208には受信側信号生成部220が接続される。受信側の増幅部224は、伝送路結合部208に接続され、アンテナによって受信された後のミリ波の電気信号を増幅して周波数変換部225に供給する。周波数変換部225は、増幅後のミリ波の電気信号を周波数変換して周波数変換後の信号を復調部226に供給する。復調部226は、周波数変換後の信号を復調してベースバンドの信号を取得しシリアルパラレル変換部227に供給する。
シリアルパラレル変換部227は、シリアルの受信データをパラレルの出力データに変換して単一化処理部228に供給する。シリアルパラレル変換部227は、パラレルシリアル変換部114と同様に、本実施例を適用しない場合に、パラレル伝送用の複数の信号を使用するパラレルインタフェース仕様の場合に備えられる。第1通信装置100と第2通信装置200の間の元々の信号伝送がシリアル形式の場合は、パラレルシリアル変換部114とシリアルパラレル変換部227を設けなくてもよい。
第1通信装置100と第2通信装置200の間の元々の信号伝送がパラレル形式の場合には、入力信号をパラレルシリアル変換して半導体チップ203側へ伝送し、又半導体チップ203側からの受信信号をシリアルパラレル変換することにより、ミリ波変換対象の信号数が削減される。
単一化処理部228は、多重化処理部113と対応するもので、1系統に纏められている信号を複数種の信号_@(@は1〜N)に分離する。例えば、1系統の信号に纏められている複数本のデータ信号を各別に分離してLSI機能部204に供給する。
LSI機能部204は、第2通信装置200の主要なアプリケーション制御を司るもので、例えば、相手方から受信した種々の信号を処理する回路が含まれる。
[双方向通信への対応]
信号生成部107と伝送路結合部108や信号生成部207と伝送路結合部208はデータの双方向性を持つ構成にすることで、双方向通信にも対応できる。例えば、信号生成部107や信号生成部207には、それぞれ受信側の信号生成部、送信側の信号生成部を設ける。伝送路結合部108や伝送路結合部208は、送信側と受信側に各別に設けてもよいが、送受信に兼用されるものとすることもできる。
なお、ここで示す「双方向通信」は、ミリ波の伝送チャネルであるミリ波信号伝送路9が1系統(一芯)の一芯双方向伝送となる。この実現には、時分割多重(TDD:Time Division Duplex)を適用する半二重方式と、周波数分割多重(FDD:Frequency Division Duplex)等が適用される。
[接続と動作]
入力信号を周波数変換して信号伝送するという手法は、放送や無線通信で一般的に用いられている。これらの用途では、どこまで通信できるか(熱雑音に対してのS/Nの問題)、反射やマルチパスにどう対応するか、妨害や他チャンネルとの干渉をどう抑えるか等の問題に対応できるような比較的複雑な送信器や受信器等が用いられている。
これに対して、本実施例で使用する信号生成部107と信号生成部207は、放送や無線通信で一般的に用いられる複雑な送信器や受信器等の使用周波数に比べて、より高い周波数帯のミリ波帯で使用され、波長λが短いため、周波数の再利用がし易く、近傍に配置された多くのデバイス間での通信をするのに適したものが使用される。
本実施例では、従来の電気配線を利用した信号インタフェースとは異なり、前述のようにミリ波帯で信号伝送を行なうことで高速性と大容量に柔軟に対応できるようにしている。例えば、高速性や大容量性が求められる信号のみをミリ波帯での通信の対象としており、装置構成によっては、第1通信装置100と第2通信装置200は、低速・小容量の信号用や電源供給用に、従前の電気配線によるインタフェース(端子・コネクタによる接続)を一部に備えることになる。
信号生成部107は、設定値に基づいて予め定められた信号処理を行なう信号処理部の一例であり、この例では、LSI機能部104から入力された入力信号を信号処理してミリ波の信号を生成する。信号生成部107は、例えば、マイクロストリップライン、ストリップライン、コプレーナライン、スロットライン等の伝送線路で伝送路結合部108に接続され、生成されたミリ波の信号が伝送路結合部108を介してミリ波信号伝送路9に供給される。
伝送路結合部108は、アンテナ構造を有し、伝送されたミリ波の信号を電磁波に変換し、電磁波を送出する機能を有する。伝送路結合部108はミリ波信号伝送路9と結合されており、ミリ波信号伝送路9の一方の端部に伝送路結合部108で変換された電磁波が供給される。ミリ波信号伝送路9の他端には第2通信装置200側の伝送路結合部208が結合されている。ミリ波信号伝送路9を第1通信装置100側の伝送路結合部108と第2通信装置200側の伝送路結合部208の間に設けることにより、ミリ波信号伝送路9にはミリ波帯の電磁波が伝搬する。
ミリ波信号伝送路9には第2通信装置200側の伝送路結合部208が結合されている。伝送路結合部208は、ミリ波信号伝送路9の他端に伝送された電磁波を受信し、ミリ波の信号に変換して信号生成部207(ベースバンド信号生成部)に供給する。信号生成部207は、設定値に基づいて予め定められた信号処理を行なう信号処理部の一例であり、この例では、変換されたミリ波の信号を信号処理して出力信号(ベースバンド信号)を生成しLSI機能部204へ供給する。
ここまでは第1通信装置100から第2通信装置200への信号伝送の場合で説明したが、第1通信装置100と第2通信装置200をともに双方向通信へ対応した構成にすることで、第2通信装置200のLSI機能部204からの信号を第1通信装置100へ伝送する場合も同様に考えればよく双方向にミリ波の信号を伝送できる。
<通信処理系統:基本構成1〜基本構成3>
図2は、本実施形態の信号伝送装置の信号インタフェースを機能構成面から説明する第1の基本構成(基本構成1)である。第1の基本構成は、送信系統が1個であり受信系統がN個である1対Nの信号伝送装置1となっており、1つの送信系統から送信された共通の無線信号を複数(N個)の受信系統で(好ましくは同時に)受信(詳しくは復調)することによる信号分配の機能や、1つの送信系統から送信された無線信号を複数(N個)の受信系統の何れかが選択的に受信(詳しくは復調)することによる信号切替えの機能を実現する。
図は、N個の受信系統を各別の半導体チップ203で構成した例で示しているが、これらを纏めて1つの半導体チップとしてもよいし、N個の信号生成部207は各別の半導体チップにしつつN個のLSI機能部204を纏めて1つの半導体チップとする等の変形が可能である。信号分配機能を実現する際にはいわゆる同報通信を利用すればよい。信号切替え機能を実現する際には、周波数切替方式や符号分割多重方式等を適用できるし識別情報を利用した制御を行なうこともできる。例えば周波数切替方式を適用して、N個の受信系統はそれぞれ異なる搬送周波数に対応したものとすればよい。1つの送信系統は、N種類の搬送周波数に対応した広帯域の送信回路にし、信号を送りたい受信先に対応した搬送周波数の変調搬送信号で変調を行なえばよい。あるいは、N個の受信系統を区別する識別情報を送信データに含め、各受信系統は自己宛であるか否かを識別情報に基づいて判断して復調やその後の信号処理を行なうか否かを制御してもよい。
図3は、本実施形態の信号伝送装置の信号インタフェースを機能構成面から説明する第2の基本構成(基本構成2)である。第2の基本構成は、送信系統がM個であり受信系統が1個であるM対1の信号伝送装置1となっており、複数(M個)の送信系統から送信された無線信号を1つの受信系統で選択的に受信(詳しくは復調)することによる信号切替えの機能や、複数(M個)の送信系統から送信された無線信号を1箇所の受信系統が纏めて受信(詳しくはそれぞれを区別して復調)することによる信号集中(あるいは信号集約)の機能を実現する。図は、M個の送信系統を各別の半導体チップ103で構成した例で示しているが、これらを纏めて1つの半導体チップとしてもよいし、M個の信号生成部107は各別の半導体チップにしつつM個のLSI機能部104を纏めて1つの半導体チップとする等の変形が可能である。信号切替え機能や信号集中機能を実現する際には、時分割分割多重方式や周波数分割多重方式や符号分割多重方式等を適用できるし識別情報を利用した制御を行なうこともできる。例えば時分割分割多重方式を適用して、M個の送信系統はそれぞれ同じ搬送周波数に対応したものとし、各送信系統は、それぞれ異なるタイミングで送信処理を行なえばよい。なお、M個の送信系統を区別する識別情報を送信データに含める。周波数分割多重方式を適用して、M個の送信系統はそれぞれ異なる搬送周波数に対応したものとし、1つの受信系統は、M種類の搬送周波数に対応した広帯域の受信回路にし、搬送周波数ごとに各別に復調してもよい。
図4は、本実施形態の信号伝送装置の信号インタフェースを機能構成面から説明する第3の基本構成(基本構成3)である。第3の基本構成は、第1の基本構成と第2の基本構成を組み合わせたもので、送信系統がM個であり受信系統がN個(MとNは同数でもよいし異なっていてもよい)であるM対Nの信号伝送装置1となっており、複数(M個)の送信系統から送信された無線信号を複数(N個)の受信系統で(好ましくは同時に)受信(詳しくは復調)することによる信号分配の機能や、複数(M個)の送信系統から送信された無線信号を複数の受信系統の何れかが選択的に受信(詳しくは復調)することによる信号切替えの機能や、複数(M個)の送信系統から送信された無線信号をそれぞれの受信系統が纏めて受信することによる信号集中の機能を実現する。各機能は任意に組み合わせて適用することもできる。基本構成1や基本構成2の説明から理解されるように、これらの機能の実現に当たっても、時分割分割多重方式や周波数分割多重方式や符号分割多重方式等を適用できるし識別情報を利用した制御を行なうことができる。
[比較例]
図5は、比較例の信号伝送装置の信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。図5(A)には、その全体概要が示されている。比較例の信号伝送装置1Zは、第1装置100Zと第2装置200Zが電気的インタフェース9Zを介して結合され信号伝送を行なうように構成されている。第1装置100Zには電気配線を介して信号伝送可能な半導体チップ103Zが設けられ、第2装置200Zにも電気配線を介して信号伝送可能な半導体チップ203Zが設けられている。第1実施形態のミリ波信号伝送路9を電気的インタフェース9Zに置き換えた構成である。電気配線を介して信号伝送を行なうため、第1装置100Zには信号生成部107および伝送路結合部108に代えて電気信号変換部107Zが設けられ、第2装置200Zには信号生成部207および伝送路結合部208に代えて電気信号変換部207Zが設けられている。第1装置100Zにおいて、電気信号変換部107Zは、LSI機能部104に対し、電気的インタフェース9Zを介した電気信号伝送制御を行なう。一方、第2装置200Zにおいて、電気信号変換部207Zは、電気的インタフェース9Zを介してアクセスされ、LSI機能部104側から送信されたデータを得る。
例えば、デジタルカメラ等の固体撮像装置を使用する電子機器においては、固体撮像装置は光学レンズ近傍に配置され、固体撮像装置からの電気信号の画像処理、圧縮処理、画像保存等の各種の信号処理は固体撮像装置の外部の信号処理回路にて処理されることが多い。固体撮像装置と信号処理回路の間では、例えば、多画素化、高フレームレート化に対応するため電気信号の高速転送技術が必要となっている。この対処のするためにLVDSが多く用いられている。LVDS信号を精度よく伝送するためには整合の取れたインピーダンス終端が必要であるが、消費電力の増加も無視できない状況になってきているし、同期が必要な複数のLVDS信号を伝送するためには配線遅延が十分少なくなるように互いの配線長を等しく保つ必要がある。電気信号をより高速転送するために、LVDS信号線数を増やす等の対応を採ることもあるが、この場合、プリント配線板の設計の困難さは増し、プリント配線板やケーブル配線の複雑化と、固体撮像装置と信号処理回路との間を接続する配線のための端子数の増加を招き、小型化、低コスト化の課題となる。さらに、信号線数の増加は次のような新たな問題を生む。線数が増えることによって、ケーブルやコネクタのコストの増大を招く。
特開2003−110919号公報には、固体撮像装置を移動することによる手振れ補正の機構が提案されているが、電気信号を伝達するためのケーブルをたわませるためのアクチュエータの負荷が問題となる。これに対して、特開2006−352418号公報では、無線伝送を用いることでアクチュエータの負荷を軽減している。多眼視画像(特開平09−27969号公報を参照)や3次元動画データの生成には、複数の固体撮像装置からの信号とその処理が必要となるが、この場合、機器内の高速伝送技術を用いた伝送路の数は、更に多くなる。
多眼視画像の生成等、複数の固体撮像装置からの信号を扱う信号処理装置等、アプリケーションによっては電気信号の分配(分岐)、信号切替え等が必要になることもある。しかしながら、LVDS信号を分配する、あるいは切り替えるには、信号伝送品質の劣化を防ぐため信号分配IC(いわゆるデバイダIC)や信号切替えIC(いわゆるスイッチIC)等を用いる。
例えば、図5(A)には、LVDS信号の分配を行なう場合が示されている。ここでは、クロック1つとデータn(nはデータ数)の信号を2系統に分配(分岐)する回路構成を例示している。クロック及びデータは差動(相補)であるとする。系統ごとに、電気信号変換部107Zには信号分配ICが設けられ、電気信号変換部207Zには2つのバッファICが設けられている。しかしながら、図5(A)に示すようにして、LVDS信号を分配させる場合、プリント配線板の設計の困難さはさらに増すこととなり信号分配のための集積回路やその周辺の部品点数の増加及び配線の増加の問題を生じる。
特開2009−27748号公報には、電子機器内で電磁波伝送路を用いた通信を行なうことが記載されている。同公報の技術では、複数の送信機が近距離に存在し、同時に送信を行なう場合には混信を避けるため電磁波伝送路の分割が容易であることが必要となるし、電気信号の分配(分岐)や信号切替えに関しては触れられていない。
これに対して、本実施形態の基本構成1〜基本構成3では、比較例の電気信号変換部107Z及び電気信号変換部207Zを、信号生成部107及び信号生成部207と伝送路結合部108及び伝送路結合部208に置き換えることで、電気配線ではなくミリ波帯(無線)で信号伝送を行なう。信号の伝送路が、配線から電磁波伝送路に置き換わる。このため、信号分配はいわゆる同報通信機能を利用して実現できるし、信号切替えは選択的な受信(復調)を利用して実現でき、信号分配や信号切替えを簡易な構成で行なうことができる。電気配線による信号伝送で用いられていたコネクタやケーブルが不用になり、コストダウンの効果を生むし、コネクタやケーブルに関わる信頼性を考慮する必要がなくなり、伝送路の信頼性を向上する効果を生む。コネクタやケーブルを使用する場合は、その嵌合のための空間や組立時間が必要になるが、無線伝送を利用した信号分配や信号切替えにすることで、組立のための空間が不用になり機器を小型化できるし、組立時間を削減できるので生産時間を削減することもできる。
次に、本実施例の特徴点である無線通信(無線による信号伝送)を利用した信号分配や信号切替えについて、具体的な事例を挙げる。なお、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲は後述の実施例に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で後述の実施例に多様な変更又は改良を加えることができ、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。又、後述の実施例は、クレーム(請求項)に係る発明を限定するものではなく、又実施例の中で説明される特徴の組合せの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。後述の実施例には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜の組合せにより種々の発明を抽出できる。後述する各実施例は、それぞれ単独で適用されることに限らず、可能な範囲で、それぞれ任意に組み合わせて適用することもできる。実施例に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、効果が得られる限りにおいて、この幾つかの構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。例えば、特に電子デバイスとして固体撮像装置を使用する例を中心に説明するが、固体撮像装置以外の高速転送技術を用いる電子デバイスでも、無線通信を利用して信号分配や信号切替えを行なう本実施形態を適用できる。例えば、ディスプレイを結ぶための画像信号の情報伝送装置とその信号処理方法に適用することができる。
図6〜図9は、実施例1を説明する図である。ここで、図6は、実施例1の全体構成を示す図であり、図7は、全体構成中の1対の送受信系を示す図である。図8は、送信側の信号処理系統と受信信側の信号処理系統とを示す図である。図9は、アンテナの指向性の例を示す図である。
実施例1は、特に、ミリ波信号伝送路9(無線伝送路)が1系統であり、第1の基本構成を採用して、送信系統が1個であり受信系統がN個である1対Nの信号伝送装置1を適用する。図6に示すように、送信側には、半導体集積回路や固体撮像装置等の電子デバイス411(LSI機能部104と対応)が設けられている。送信アンテナ436(送信部側空中線、送信箇所)の形式(空中線形式)は、ダイポールなどのプローブアンテナの他に、パッチアンテナ、ループアンテナ、小型アパーチャ結合素子(スロットアンテナ等)等を、それが持つ指向性の特性と生成したいミリ波信号伝送路9の形状に応じて選択し、使用する。送信アンテナ436の設置場所は、例えば電子デバイス411の背面又は近傍等とする。図は、ダイポールアンテナを送信アンテナ436に使用し、それを電子デバイス411の背面に配置する例で示している。
空中線の形式は、例えば、特開2000−68904号公報に示される半導体パッケージ上のアンテナや、特開2003−101320号公報に示される1チップ化したアンテナ等の他に、電子デバイス411(例えば固体撮像装置)が実装されるプリント配線板上に送信アンテナ436を形成し、電子デバイス411と結ぶ形式としてもよい。あるいは、他のプリント配線板上に形成された送信アンテナ436と電子デバイス411とを結ぶ形式も使用可能である。送信アンテナ436の大きさは、ミリ波の場合、使用する周波数や、空中線周辺の材料にも依るが1mm程度となる。これは十分電子デバイス411(例えば固体撮像装置)の裏面に設置することが可能な大きさである。
受信側には、1対Nの信号分配や信号切替えに対処するべく、受信アンテナ446(受信箇所)と信号生成部207とがN系統(図は4系統)分設けられている。LSI機能部204には、後段信号処理部448がN系統(図は4系統)分設けられている。後段信号処理部448は、使用者の需要によって機能が設定される。例えば、固体撮像装置からの信号を処理しカラー化(例えば、赤・青・緑の3原色の信号生成)を行なう、撮像データを保存するための圧縮処理行なう、HDMI(High-Definition Multimedia Interface)やDVI(Digital Visual Interface)などに代表される外部モニタへの接続形式への変換などの処理を行なう。
図7及び図8に示すように、1対の送受信間では、クロック1つとデータn(nはデータ数)の差動(相補)信号を、ミリ波信号伝送路9を介してミリ波帯で無線伝送することで、電気配線によらないで伝送する。例えば、固体撮像装置からの撮像データはクロックとそれに同期するデータによって表される。これを、図8に示す信号生成部107で送信系の処理を行ない、ミリ波帯において送信アンテナ436に送出可能な形式とし、伝送路結合部108を介して送信アンテナ436に出力する。送信側(例えば固体撮像装置側)から送出されたミリ波によるミリ波信号伝送路9(電磁波伝送路)上に受信アンテナ446(受信側の空中線)を配置し、信号生成部207において信号(クロック1つとn個のデータ)を復調する。受信に至るための電磁波の強度が十分得られれば、受信アンテナ446は送信アンテナ436と同一線上にする必要はなく、又、送信アンテナ436と同じ空中線の形式にする必要はない。受信側では図8に示す信号生成部207で受信系の処理を行ない、伝送路結合部108を介して受信した信号を復調しLSI機能部204へ渡す。これで、電子デバイス411からの大容量高速信号を伝達することが可能になる。
図9には、ミリ波で用いられる空中線形式として、ダイポールアンテナを用いた場合のダイポールアンテナの形状例と、そこから放射されるミリ波信号の伝送可能範囲の指向性が示されている。ダイポールアンテナは、水平面では指向性がある。その指向性を含めた送信アンテナ436による伝送可能範囲内に複数の受信アンテナ446(つまり各受信点)を配置することで同報通信が実現され、同一信号を複数箇所に配分する信号分配が容易に実現される。
送信データに受信先を識別するコードを埋め込む等して、複数の受信先の中から1つの受信先を指定可能にすることで信号切替えを実現することもできる。
なお、送信アンテナ436の伝送可能範囲内に複数の受信アンテナ446を配置する際に、送受信間の距離(アンテナ間距離)が異なる場合は、位相差が発生するため、受信の同時性が崩れる。したがって、受信の同時性が要求される場合には、つまり、ミリ波帯送信機と送信側空中線によって生成される伝送可能範囲内に複数の受信アンテナ446を配置することによって、複数のミリ波帯受信機(受信側空中線)にデータを同時に伝送する場合は、送信アンテナ436の伝送可能範囲内において、複数の受信アンテナ446を、データの同時伝送に支障がない送信アンテナ436からの距離の差の範囲内に配置するとよい。つまり、送信箇所と受信箇所の間隔は、送信箇所から送信される同一の伝送対象信号を同時に複数の受信箇所にて受信可能な範囲内にする。
例えば、ミリ波帯送信機と送信側空中線の組合せと、ミリ波帯受信機と受信側空中線の組合せの間にある伝送可能範囲内(電磁波伝送路)に対し、受信用のアンテナを挿入する空間と構造を設けると、アンテナの電磁波伝送路(送信アンテナ436の伝送可能範囲内)への挿入によって、挿入されたアンテナと接続された他のミリ波帯受信機への信号分配や信号切替えや信号集合をすることができる。
例えば、電子デバイス411(固体撮像装置等)の製造時には、高速伝送路が電気的配線による場合には、電子デバイス411の端子に電気的接触をピンなどで形成し、検査機器に接続することで検査を行なう。これに対して、電子デバイス411に信号生成部107と伝送路結合部108(送信アンテナ436を含む)を設けてあれば、送信アンテナ436の伝送可能範囲内(電磁波伝送路)に対して検査用のアンテナを挿入することで、検査にも無線を利用することができ、高速伝送路に対しての電気的接触が不要になる。このため、検査設備のコストを低減できるし、検査機器の入替えが容易になる。
ミリ波帯のミリ波信号伝送路9では、LVDS等の従来技術における終端による電力消費がなくなり、消費電力を削減できる。LVDSで必要であったインピーダンスの整合や等長配線の設計をするために要していた基板設計時間を短縮することもできる。信号分配回路(集積回路等)やスイッチIC等を用いて信号を分岐する必要や切り替える必要がなくなるため、部品点数を削減でき、コストを低減することもできる。
無線伝送を利用した信号分配や信号切替えにすることで、電子デバイス411(固体撮像装置等)への電気配線を電源や低周波信号(制御信号を含む)用の配線だけにできる(電気配線を少なくすることができる)。このことで、電子デバイス411の交換が容易になる効果が生じる。例えば、宇宙放射線やX線等の環境下では電子デバイス411は破壊し易いが、人が介在することが容易ではなく交換が困難である。このような環境下でも、無線伝送を利用した信号分配や信号切替えにすることで、交換が容易になり、場合によっては自動交換も実現できる。
複数の電子デバイス411(固体撮像装置等)の間に金属などの遮蔽物を入れ、受信アンテナ446に到達するミリ波信号伝送路9(送信アンテナ436の伝送可能範囲)を切り替えることで、電子デバイス411の切り替えを行なうこともできる。
更には、電気配線による信号伝送では実現が困難であった信号の分配(分岐)も容易になる。例えば、従来は電子デバイス411とその電気配線は容易に分岐させることができなかった。しかし、無線伝送を利用すれば、送信アンテナ436の伝送可能範囲内にプローブ用の受信アンテナ446を設けるだけで信号の分配や切替が可能となる。例えば、故障発生箇所の切り分けのために電気的配線を繋ぎ換えなくても、電子デバイス411からの信号出力を計測器などで観測することができる。
図10〜図11は、実施例2を説明する図である。ここで、図10は、実施例2の全体構成を示す図であり、図11は、実施例2で採用する空間分割多重の考え方を説明する図である。
実施例2は、送信系統が1つであり受信系統がN個である1対Nの信号伝送装置1(第1の基本構成を採用したもの)を複数系統設ける場合である。図10に示すように、電子デバイス411(LSI機能部104)→信号生成部107→送信アンテナ436→受信アンテナ446→信号生成部207→LSI機能部204の経路を複数系統(図は2系統)設置する。装置全体として見た場合、送信系統が2個であり受信系統が2N個であるM対2Nの信号伝送装置1(第3の基本構成を採用したもの)を採用した形態となる。
この場合、各系統の基本的な動作は実施例1に説明した動作と同様であるが、チャネル間距離D(典型的には送信アンテナ間距離)が短いほど、各送信アンテナ436によって形成される伝送可能範囲(伝送チャネル)が近接することになり、受信部側での干渉や混信が問題になり得る。アンテナの指向性(空中線の形式の選択)を鋭くすることは、受信アンテナ446を小型にできることに繋がる。これがミリ波帯を用いる理由の一つである。送信アンテナ436の配置、送信アンテナ436の電磁波出力の強度、受信アンテナ446の配置等の調整で、狭い機器内部で隣接する伝送チャネルが、同一周波数帯を用いていたとしても干渉や混信を避けることが容易になる特徴を持つ。
しかしながら、チャネル間距離Dが短く、前記で述べた方法での伝送チャネルの干渉や混信を避けることが困難な場合もある。このような場合には、例えば、隣接する伝送チャネルで使用する周波数帯を異なるものとする周波数分割多重方式を採ってもよい。あるいは周波数分割多重方式とは別の手法として、ミリ波信号を伝送路中に閉じ込めつつミリ波信号を伝送させる構造(ミリ波閉込め構造あるいは無線信号閉込め構造と称する)を持つ伝送チャネル(ミリ波信号伝送路9)にするとよい。ミリ波閉込め構造を積極的に利用することで、例えば電気配線のようにミリ波信号伝送路の引回しを任意に確定することができる。
このようなミリ波閉込め構造のものとしては、例えば、典型的にはいわゆる導波管が該当するが、これに限らない。例えば、ミリ波信号伝送可能な誘電体素材で構成されたもの(誘電体伝送路やミリ波誘電体内伝送路と称する)や、伝送路を構成し、かつ、ミリ波信号の外部放射を抑える遮蔽材が伝送路を囲むように設けられその遮蔽材の内部が中空の中空導波路がよい。誘電体素材や遮蔽材に柔軟性を持たせることでミリ波信号伝送路の引回しが可能となる。空気(いわゆる自由空間)の場合、各信号結合部はアンテナ構造をとることになり、そのアンテナ構造によって近距離の空間中を信号伝送することになる。一方、誘電体素材で構成されたものとする場合は、アンテナ構造をとることもできるが、そのことは必須でない。
複数系統のミリ波信号伝送路9は、空間的に干渉しないように設置され、同一周波数で同一時間に通信を行なうことができるものとする。本実施形態では、このような手法を空間分割多重と称する。伝送チャネルの多チャネル化を図る際に、空間分割多重を適用しない場合は周波数分割多重を適用して各チャネルでは異なる搬送周波数を使用することが必要になるが、空間分割多重を適用すれば、同一の搬送周波数でも干渉の影響を受けずに伝送できる。
「空間分割多重」とは、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間において、複数系統のミリ波信号伝送路9を形成するものであればよく、自由空間中に複数系統のミリ波信号伝送路9を構成することに限定されない。たとえば、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間が誘電体素材(有体物)から構成されている場合に、その誘電体素材中に複数系統のミリ波信号伝送路9を形成するものでもよい。また、複数系統のミリ波信号伝送路9のそれぞれも、自由空間であることに限定されず、誘電体伝送路や中空導波路などの形態を採ってよい。
空間分割多重では、同一周波数帯域を同一時間に使用することができるため、通信速度を増加できるし、また、第1通信装置100Cから第2通信装置200CへのN1チャネル分の信号伝送と、第2通信装置200Cから第1通信装置100CへのN2チャネル分の信号伝送を同時に行なう双方向通信の同時性を担保できる。特に、ミリ波は、波長が短く距離による減衰効果を期待でき、小さいオフセット(伝送チャネルの空間距離が小さい場合)でも干渉が起き難く、場所により異なった伝搬チャネルを実現し易い。
図11には、「空間分割多重」の適正条件が示されている。各系統の搬送周波数は同一でもよいし異なっていてもよい。たとえば、誘電体伝送路や中空導波路の場合はミリ波が内部に閉じこめられるのでミリ波干渉を防ぐことができ、同一周波数でも全く問題ない。自由空間伝送路の場合は、自由空間伝送路同士がある程度隔てられていれば同一でも問題ないが、近距離の場合には異なっていた方がよい。
たとえば、図11(A)に示すように、自由空間の伝播損失Lは、距離をd、波長をλとして“L[dB]=10log10((4πd/λ)2)…(A)”で表すことができる。
図11に示すように、空間分割多重の通信を2種類考える。図では送信器を「TX」、受信器を「RX」で示している。参照子「_100」は第1通信装置100側であり、参照子「_200」は第2通信装置200側である。図11(B)は、第1通信装置100に、2系統の送信器TX_100_1、送信器TX_100_2を備え、第2通信装置200に、2系統の受信器RX_200_1、受信器RX_200_2を備える。つまり、第1通信装置100側から第2通信装置200側への信号伝送が送信器TX_100_1と受信器RX_200_1の間および送信器TX_100_2と受信器RX_200_2の間で行なわれる。つまり、第1通信装置100側から第2通信装置200側への信号伝送が2系統で行なわれる態様である。
一方、図11(C)は、第1通信装置100に、送信器TX_100と受信器RX_100を備え、第2通信装置200に、送信器TX_200と受信器RX_200を備える。つまり、第1通信装置100側から第2通信装置200側への信号伝送が送信器TX_100と受信器RX_200の間で行なわれ、第2通信装置200側から第1通信装置100側への信号伝送が送信器TX_200と受信器RX_100の間で行なわれる。送信用と受信用に別の通信チャネルを使用する考え方で、同時に双方からデータの送信(TX)と受信(RX)が可能な全二重通信(Full Duplex )の態様である。
ここで、指向性のないアンテナを使用して、必要DU[dB](所望波と不要波の比)を得るために必要なアンテナ間距離d1と空間的なチャネル間隔(具体的には自由空間伝送路9Bの離隔距離)d2の関係は、式(A)より、“d2/d1=10(DU/20)…(B)”となる。たとえば、DU=20dBの場合は、d2/d1=10となり、d2はd1の10倍必要となる。通常は、アンテナにある程度の指向性があるため、自由空間伝送路9Bの場合であっても、d2をもっと短く設定することができる。
たとえば、通信相手のアンテナとの距離が近ければ、各アンテナの送信電力は低く抑えることができる。送信電力が十分低く、アンテナ対同士が十分離れた位置に設置できれば、アンテナ対の間での干渉は十分低く抑えることができる。特に、ミリ波通信では、ミリ波の波長が短いため、距離減衰が大きく回折も少ないため、空間分割多重を実現し易い。たとえば、自由空間伝送路9Bであっても、空間的なチャネル間隔(自由空間伝送路9Bの離隔距離)d2を、アンテナ間距離d1の10倍よりも少なく設定することができる。
ミリ波閉込め構造を持つ誘電体伝送路や中空導波路の場合、内部にミリ波を閉じこめて伝送できるので、空間的なチャネル間隔(自由空間伝送路の離隔距離)d2を、アンテナ間距離d1の10倍よりも少なくでき、特に、自由空間伝送路9Bとの対比ではチャネル間隔をより近接させることができる。
図12は、実施例3を説明する図である。実施例3は、実施例2を利用して、複数の電子デバイス411で取得される複数の信号に基づいて、受信側で1つの信号を生成するものである。例えば、近年話題となっている三次元(3D)画像データの生成に適用することができる。3D画像は、人間の目の間隔(7cm程度)と概ね等しいチャネル間距離Dに配置された複数の固体撮像装置を含む撮像系(レンズ等を含む)で撮像された画像を処理することで生成される。送信系統が1つであり受信系統も1つである参考構成を複数系統設ける場合であるが、装置全体として見た場合は、送信系統が2個であり受信系統が1個であるM対1の信号伝送装置1(第2の基本構成を採用したもの)を採用した形態と見ることができる。
図12では、電子デバイス411_1(固体撮像装置等)と電子デバイス411_2(固体撮像装置)で得られた複数の情報(例えば左眼画像と右眼画像)を、それぞれ別の送信アンテナ436_1、送信アンテナ436_2で形成される伝送チャネル(ミリ波信号伝送路9)を利用して、高速伝送する。受信側には、プリント配線板402の辺縁に送信アンテナ436_2と対応する受信アンテナ446_1と送信アンテナ436_1と対応する受信アンテナ446_2を設けている。
図12では、ダイポールアンテナを送信アンテナ436に使用し、ホーンアンテナを受信アンテナ446に使用している。受信アンテナ446で受信した電磁波を、プリント配線板402に設けた誘電体伝送路404を用いて信号生成部207やLSI機能部204を内蔵した半導体チップ203まで伝送する。信号生成部207は受信した高速伝送信号を復調し、LSI機能部204は2系統の復調信号に基づいて3D画像(信号出力)を生成する。この際に、各系統の信号を複数(2つ)の処理回路に配分する信号分配や、各系統の信号を複数(2つ)の処理回路の何れかに選択的に入力する信号切替えや、複数(2)系統の信号の何れかを1つの処理回路に入力する信号切替えを行なう。全体的には、無線通信を利用した信号分配や信号切替えが実現される。変形例としては、受信系統の信号生成部207までを受信アンテナ446の近傍に配置し、受信信号を復調しベースバンド信号にしてから電気配線で3D画像を生成する機能部を収容したLSI機能部まで伝送してもよい。
プリント配線板402に誘電体伝送路404を設けるには、例えばスルーホールフェンスを利用して伝送領域を基板中に形成する手法を採るとよい。即ち、プリント配線板402を貫通する中空円筒状の複数の開孔部(スルーホール)によって伝送領域を画定することで誘電体伝送路404を形成する。たとえば、受信アンテナ446_1及び受信アンテナ446_2と半導体チップ203の間のプリント配線板402において、ミリ波の信号Sを伝搬させたい方向に沿って、複数のスルーホールを線状に二列形成する。配列方向の1つのスルーホールと隣接する他のスルーホールとの間の配置ピッチpを例えば、p=λ/2(λは無線信号の波長)以下に設定する。二列になったスルーホール間の幅を伝送領域(つまり誘電体伝送路404)の幅wとすると、wはλ/2以上に設定する。スルーホールは、中空円筒状の部材の他に導電性の円柱状部材を使用してもよい。導電性の円柱状部材を接地等することで、誘電体導波路としての位相を調整できる。このように伝送領域は、二列に並んだ開孔部列(スルーホールフェンス)によって画定される。プリント配線板402の途中に、リピータのような衝立部品を配置して、ミリ波の信号Sの伝送可能範囲を制御してもよい。
図13は、実施例4を説明する図である。実施例4は、1つの電子デバイス411で取得される信号を受信側で処理する構成を複数組設けるものである。各組では異なる特性の信号処理を行なう。こうすることで、1つの電子デバイス411で取得される信号に基づいて特性の異なる複数の信号を取得できる。一例として、実施例3を利用して、複数の電子デバイス411で取得される複数の信号を受信側で処理して1つの信号を生成する手法を複数組設ける。例えば、三次元(3D)画像データの生成に当たって、特性の異なる複数の3D画像を同時に生成する場合に適用することができる。
図13に示すように、実施例3に示したものと同様のプリント配線板402を複数、例えばプリント配線板402_1とプリント配線板402_2を重ねる等し、それぞれの受信アンテナ446_1を送信アンテナ436_1の伝送可能範囲中に設け、それぞれの受信アンテナ446_2を送信アンテナ436_2の伝送可能範囲中に設ける。それぞれのプリント配線板402の半導体チップ203にて3D画像を生成することができるので、同時に3D画像を複数生成することができる。
これによって、各プリント配線板402の半導体チップ203(LSI機能部204)において信号処理器内容を変えることで、処理の違う(特性の異なる)2種類の3D画像を同時に得ることができる。処理の違いの例としては、例えば、陰影の強弱のつけ方を変えることで奥行き感が異なる3D画像を得る等である。同一の基板を増やすことで、処理の違う(特性の異なる)複数種類の3D画像を同時に得ることができる。
図14は、実施例5を説明する図である。実施例5は、送信アンテナ436と受信アンテナ446を相対的に移動させることで、受信される信号の切り替えを実現する態様である。例えば、回転構造体において、第1の通信部と第2の通信部が相対的に回転する構造をとりつつ、第1の通信部と第2の通信部の間の信号伝送を無線で行なう場合に適用される。
図14に示すように、送信アンテナ436と半導体チップ103の対を概ね等間隔で円状のプリント配線板402の外側において全周に亘って配置する(図は「_1」〜「_5」の5つを示している)。円周の内側には、プリント配線板402の円周に沿って配置されている複数の送信アンテナ436の内の隣接する2つの送信アンテナ436(図は「_3」、「_4」の2つで示している)と対向するように、受信アンテナ446_1と半導体チップ203_1の対及び受信アンテナ446_2と半導体チップ203_2の対を1組配置する。入力信号の追加が要求される場合でも、電磁波伝送路が干渉や混信することなく半導体チップ103(信号生成部107及び伝送路結合部108を有する)及び送信アンテナ436の対を配置できれば、入力信号の追加が実現できる。
送信側は固定部とし、受信側はエンドレス回転可能な可動部とする。可動部は例えば回転するプリント配線板402に信号生成部207等を内蔵した半導体チップ203や受信アンテナ446等を配置することで形成すればよい。このような構成にすることで、それぞれの送信アンテナ436で形成される伝送可能範囲のうち、隣接する1組の送信アンテナ436から発せられる無線信号を順次切り替えて受信できる。換言すると、送信アンテナ436で形成される伝送可能範囲(ミリ波信号伝送路9)は、回転するプリント配線板に配置された受信部側空中線と受信部が移動することで受信される電磁波伝送路の切替えを実現する。
更に、実施例4で示したように、受信アンテナ446及び半導体チップ203が配置されたプリント配線板402を複数枚重ねることで、特性の異なる複数の信号出力を得ることもできる。例えば、固体撮像装置を複数扱う多眼視の信号処理装置等では、多くの高速伝送信号を扱う。その信号切替えをプリント配線板402の設計変更なしに変更できる。
例えば、電子デバイス411(固体撮像装置等)からの電気信号による高速伝送信号を切り替える場合には、切り替えのための回路(スイッチIC)が必要になる。これには部品点数の増加や設計時間の増加並びにコストが切り替えの対象となる入力信号が多くなればなるほど多くなる。さらに、切り替えの対象となる入力信号を追加したい場合、電気信号による伝送の場合では、回路並びにプリント配線板を設計し直さなければならない。これに対して、実施例5では回路並びにプリント配線板の設計変更が不要である。
又、例えば、回転(典型的にはエンドレス回転)する構造をとる場合に、固定部と可動部の双方にストリップ線路を適用し、また、導波管(導波路)に直線偏波の電波を伝搬させているだけでは不都合がある。可動部側のストリップ線路が直線偏波で送信するとき、その直線偏波が無限旋回ことになるが、そのようなものを、固定部側で、直線偏波を受信するストリップ線路で不都合なく受信するということはできない。両者の方向が合致する位置を中心とした狭い範囲でしか送受信ができるに過ぎない。この対策として、回転構造体に無線伝送を適用する場合には、送受信間に円偏波を採用するとよい。しかしながら円偏波を採用するには相応の工夫が必要になる。これに対して、実施例5では、エンドレス回転対応の3Dカメラを容易に実現できる。
<実施例1〜実施例5に対する変形例>
図15は、実施例6を説明する図である。実施例6は、特に、ミリ波信号伝送路9(無線伝送路)が1系統であり、第2の基本構成を採用して、送信系統がM個であり受信系統が1個であるM対1の信号伝送装置1を適用するものであり、実施例1に対して送信系と受信系とを逆にした変形例である。
図15に示すように、受信側には半導体集積回路(例えばDSPで構成されたデータ処理IC)等の電子デバイス413(信号生成部207やLSI機能部204と対応)が設けられている。受信アンテナ446(受信部側空中線、受信箇所)の形式(空中線形式)は、実施例1の送信アンテナ436と同様に、ダイポールなどのプローブアンテナの他に、パッチアンテナ、ループアンテナ、小型アパーチャ結合素子(スロットアンテナ等)等を、それが持つ指向性の特性と生成したいミリ波信号伝送路9の形状に応じて選択し、使用する。受信アンテナ446の設置場所は、例えば電子デバイス413の背面又は近傍等とする。図は、ダイポールアンテナを受信アンテナ446に使用し、それを電子デバイス413の背面に配置する例で示している。
送信側には、M対1の信号集中や信号切替えに対処するべく、送信アンテナ436(送信箇所)と信号生成部107とがM系統(図は4系統)分設けられている。LSI機能部104には、前段信号処理部438がM系統(図は4系統)分設けられている。前段信号処理部438は、使用者の需要によって機能が設定される。
実施例6では、信号の流れが実施例1とは逆であり、M系統の送信側の複数の信号入力(この例では信号入力1〜信号入力4)を1箇所の受信側に伝送する無線信号伝送になる。これによって、複数の送信系統から送信された無線信号を1箇所の受信系統が纏めて受信することによる信号集中の機能や複数の送信系統から送信された無線信号を1つの受信系統で選択的に受信することによる信号切替えの機能が実現される。
実施例1と同様にして、受信アンテナ446による伝送可能範囲内に複数の送信アンテナ436(つまり各送信点)を配置することで、複数の信号を1箇所に纏める信号集中や、複数の信号の何れかを選択的に受け付ける信号切替えが容易に実現される。この際には、時分割多重方式や周波数分割多重方式等を適用して各送信信号を受信側で区別できるようにする。受信アンテナ446の伝送可能範囲内に複数の送信アンテナ436を配置する際に、送受信間の距離(アンテナ間距離)が異なる場合は、位相差が発生するため、受信の同時性が崩れる。したがって、例えば周波数分割多重方式を適用して、1箇所のミリ波帯受信機(受信側空中線)に複数のデータを同時に伝送する場合は、受信アンテナ446の伝送可能範囲(受信可能範囲)内において、複数の送信アンテナ436を、データの同時伝送に支障がない受信アンテナ446からの距離の差の範囲内に配置するとよい。
図16は、実施例7を説明する図である。実施例7は、受信系統が1つであり送信系統がM個であるM対1の信号伝送装置1(第2の基本構成を採用したもの)を複数系統設ける場合であり、実施例2に対して送信系と受信系とを逆にした変形例である。図16に示すように、前段信号処理部438(複数)→信号生成部107(複数)→送信アンテナ436(複数)→受信アンテナ446(1つ)の経路(伝送チャネル)を複数系統(図は2系統)設置する。各伝送チャネルの基本的な動作は実施例6に説明した動作と同様である。実施例2と同様に、伝送チャネル間では、干渉や混信が起きないようにチャネル間距離Dを適正にする等の対処を採る。
図17は、実施例8を説明する図である。実施例8は、実施例7を利用して、1つの半導体チップ103から出力される信号を複数箇所の受信側に伝送するものであり、実施例3に対して送信系と受信系とを逆にした変形例である。各系統の信号を複数(2つ)の処理回路に配分する信号分配や、各系統の信号を複数(2つ)の処理回路の何れかに選択的に入力する信号切替えや、複数(2)系統の信号の何れかを1つの処理回路に入力する信号切替えを行なう。1つの半導体チップ103からの信号に基づいて特性の異なる複数の信号を取得できる。全体的には、無線通信を利用した信号分配や信号切替えが実現される。変形例としては、送信系統の信号生成部107までを送信アンテナ436の近傍に配置してもよい。
図18は、実施例9を説明する図である。実施例9は、1つの半導体チップ103から出力される信号を複数箇所の受信側に伝送する構成を複数組設けるものであり、実施例4に対して送信系と受信系とを逆にした変形例である。各組では異なる特性の信号処理を行なう。こうすることで、各組では、2つの半導体チップ103からの信号に基づいて特性の異なる複数の信号を取得できる。
図19は、実施例5を説明する図である。実施例5は、送信アンテナ436と受信アンテナ446を相対的に移動させることで、受信される信号の切り替えを実現する態様であり、実施例5に対して送信系と受信系とを逆にした変形例である。
図19に示すように、受信アンテナ446と半導体チップ203の対を概ね等間隔で円状のプリント配線板402の外側において全周に亘って配置する(図は「_1」〜「_5」の5つを示している)。円周の内側には、プリント配線板402の円周に沿って配置されている複数の受信アンテナ446の内の隣接する2つの受信アンテナ446(図は「_3」、「_4」の2つで示している)と対向するように、送信アンテナ436_1と半導体チップ103_1の対及び送信アンテナ436_2と半導体チップ103_2の対を1組配置する。受信箇所の追加が要求される場合でも、電磁波伝送路が干渉や混信することなく半導体チップ203(信号生成部207及び伝送路結合部208を有する)及び受信アンテナ446の対を配置できれば、受信箇所の追加が実現できる。
受信側は固定部とし、送信側はエンドレス回転可能な可動部とする。このような構成にすることで、それぞれの受信アンテナ446で形成される伝送可能範囲(受信可能範囲)のうち、隣接する1組の受信アンテナ446を順次切り替えて、1組の送信アンテナ436から発せられる無線信号を受信できる。換言すると、送信アンテナ436で形成される伝送可能範囲(ミリ波信号伝送路9)は、回転するプリント配線板に配置された送信部側空中線と送信部が移動することで、受信される電磁波伝送路の切替えを実現する。
実施例11は、前述の各実施例の無線通信を利用した信号分配や信号切替えを電子機器へ適用する事例である。以下に3つの代表的な事例を示す。
[第1例]
図20は、実施例11の電子機器の第1例を説明する図である。第1例は、1つの電子機器の筐体内で無線により信号伝送を行なう場合での適用例である。電子機器としては固体撮像装置を搭載した撮像装置への適用例で示す。この種の撮像装置は、例えばデジタルカメラやビデオカメラ(カムコーダ)あるいはコンピュータ機器のカメラ(Webカメラ)等として市場に流通される。
第1通信装置が制御回路や画像処理回路等を搭載したメイン基板に搭載され、第2通信装置が固体撮像装置を搭載した撮像基板(カメラ基板)に搭載されている装置構成となっている。
撮像装置500の筐体590内には、撮像基板502とメイン基板602が配置されている。撮像基板502には固体撮像装置505が搭載される。例えば、固体撮像装置505はCCD(Charge Coupled Device)で、その駆動部(水平ドライバや垂直ドライバ)も含めて撮像基板502に搭載する場合や、CMOS(Complementary Metal-oxide Semiconductor)センサの場合が該当する。
メイン基板602に半導体チップ103を搭載し、撮像基板502に半導体チップ203を搭載する。図示しないが、撮像基板502には、固体撮像装置505の他に撮像駆動部等周辺回路が搭載され、又、メイン基板602には画像処理エンジンや操作部や各種のセンサ等が搭載される。
半導体チップ103と半導体チップ203のそれぞれには、送信チップや受信チップと同等の機能を組み込む。送信チップと受信チップの両機能を組み込むことで双方向通信にも対処できる。
固体撮像装置505や撮像駆動部は、第1通信装置側のLSI機能部のアプリケーション機能部に該当する。LSI機能部には送信側の信号生成部が接続され、さらに伝送路結合部を介してアンテナ236(受信箇所)と接続される。信号生成部や伝送路結合部は固体撮像装置505とは別の半導体チップ203に収容してあり撮像基板502に搭載される。
画像処理エンジンや操作部や各種のセンサ等は第2通信装置側のLSI機能部のアプリケーション機能部に該当し、固体撮像装置505で得られた撮像信号を処理する画像処理部が収容される。LSI機能部には受信側の信号生成部が接続され、さらに伝送路結合部を介してアンテナ136(送信箇所)と接続される。信号生成部や伝送路結合部は画像処理エンジンとは別の半導体チップ103に収容してありメイン基板602に搭載される。
送信側の信号生成部は例えば、多重化処理部、パラレルシリアル変換部、変調部、周波数変換部、増幅部等を具備し、受信側の信号生成部は例えば、増幅部、周波数変換部、復調部、シリアルパラレル変換部、単一化処理部等を具備する。これらの点は、後述する他の適用事例でも同様である。
アンテナ136とアンテナ236との間で無線通信が行なわれることで、固体撮像装置505で取得される画像信号は、アンテナ間の無線信号伝送路9を介してメイン基板602へと伝送される。双方向通信に対応するように構成してもよく、この場合例えば、固体撮像装置505を制御するための基準クロックや各種の制御信号は、アンテナ間の無線信号伝送路9を介して撮像基板502へと伝送される。
図20(A)及び図20(B)の何れも、2系統のミリ波信号伝送路9が設けられている。図20(A)では自由空間伝送路9Bとしているが、図20(B)では中空導波路9Lとしている。中空導波路9Lとしては、周囲が遮蔽材で囲まれ内部が中空の構造であればよい。たとえば、周囲が遮蔽材の一例である導電体MZで囲まれ内部が中空の構造にする。たとえば、メイン基板602上にアンテナ136を取り囲む形で導電体MZの囲いが取り付けられている。アンテナ136と対向する位置に撮像基板502側のアンテナ236の移動中心が配置されるようにする。導電体MZの内部が中空であるので誘電体素材を使用する必要がなく低コストで簡易にミリ波信号伝送路9を構成できる。
ここで、固体撮像装置505からの信号分配に対応するべく、系統ごとに、受信側(この例ではメイン基板602側)では、実施例1のようにして、アンテナ136(受信部側空中線)、信号生成部207、LSI機能部204を複数配置することで信号の分配を行なうことや、2つの送信用のアンテナ236から1つの受信用のアンテナ136に向けて各別の信号を無線伝送することによる信号集中や、2系統の送受信間の通信経路を利用しての信号切替え等を行なうことができる。
各系統の基本的な動作は1系統の動作と同様であるが、系統間の距離(チャネル間距離:この例では2つの送信側のアンテナ間距離に対応)が短いほど、それぞれのミリ波信号伝送路9が近接することになり、図20(A)の場合、各系統で同じ搬送周波数を使用して同時通信を行なうと、受信部側での干渉や混信が問題になる虞れがある。送信側のアンテナ(空中線)の配置、送信側のアンテナの電磁波出力の強度、受信側のアンテナの配置等の調整が困難で、チャネル間距離が短く、電磁波伝送路の干渉や混信を避けることが困難な場合、図20(B)に示すように、2つのミリ波信号伝送路の間に、電磁波の遮蔽物(導電体MZ:金属など)を設置するとよい。あるいは、2つミリ波信号伝送路9で使用する周波数帯を異なるものとする周波数分割多重分離方式を採用してもよい。
例えば、デジタルスチルカメラやカムコーダ用のカメラなどの固体撮像装置を有する信号処理装置においては、固体撮像装置からの撮像データは高速で伝送される。高速伝送には電気信号を用い、多くがフレキシブル配線板、プリント配線板、ケーブルなどを用い信号処理器に伝送されているが、信号分配や信号切替えを行なう場合にも、電気信号で信号伝送を行うことに伴う前述したような問題点を有している。これに対して、実施例11(第1例)では、伝送対象信号を無線信号にして伝送するとともに、信号分配や信号切替えを無線信号の部分で実現する。信号分配や信号切替えを実現する部分に、電気配線で信号伝送を行なう部分が介在しないので、信号分配や信号切替えを簡易な構成で行なうことができる。固体撮像装置から出力される信号は大容量高速化されているが、電気配線による伝送は、その設計の困難さに加え、伝送路の分岐・分配が必要になる場合は回路(集積回路など)を用いて実現するため、設計時間の増加、コストの増大を招く。これに対して、実施例11(第1例)では、ミリ波による電磁波伝送路を用いて無線信号状態で分配や切替えをするので、前述の問題から解放される。
[第2例]
図21は、実施例11の電子機器の第2例を説明する図である。第2例は、複数の電子機器が一体となった状態での電子機器間で無線により信号伝送を行なう場合での適用例である。特に、一方の電子機器が他方の電子機器に装着されたときの両電子機器間の信号伝送への適用である。
例えば、中央演算処理装置(CPU)や不揮発性の記憶装置(例えばフラッシュメモリ)等が内蔵されたいわゆるICカードやメモリカードを代表例とするカード型の情報処理装置を本体側の電子機器に装着可能(着脱自在)にしたものがある。一方(第1)の電子機器の一例であるカード型の情報処理装置を以下では「カード型装置」とも称する。本体側となる他方(第2)の電子機器を以下では単に電子機器とも称する。
メモリカード201Bの構造例(平面透視及び断面透視)が図21(A)に示されている。電子機器101Bの構造例(平面透視及び断面透視)が図21(B)に示されている。 電子機器101Bのスロット構造4(特に開口部192)にメモリカード201Bが挿入されたときの構造例(断面透視)が図21(C)に示されている。
スロット構造4は、電子機器101Bの筺体190にメモリカード201B(その筐体290)を開口部192から挿抜して固定可能な構成となっている。スロット構造4のメモリカード201Bの端子との接触位置には受け側のコネクタ180が設けられる。無線伝送に置き換えた信号についてはコネクタ端子(コネクタピン)が不要である。
図21(A)に示すようにメモリカード201Bの筐体290に円筒状の凹形状構成298(窪み)を設け、図21(B)に示すように電子機器101Bの筺体190に円筒状の凸形状構成198(出っ張り)を設けている。メモリカード201Bは、基板202の一方の面に、複数(図は2つ)の半導体チップ203を有し、基板202の一方の面には複数(図は2つ)のアンテナ236(計2つのアンテナ236)が形成されている。筐体290は、各アンテナ236と同一面に凹形状構成298が形成され、凹形状構成298の部分が無線信号伝送可能な誘電体素材を含む誘電体樹脂で構成される。
基板202の一辺には、筐体290の決められた箇所で電子機器101Bと接続するための接続端子280が決められた位置に設けられている。メモリカード201Bは、低速・小容量の信号用や電源供給用に、従前の端子構造を一部に備える。ミリ波での信号伝送の対象となり得るものは、図中に破線で示すように、端子を取り外している。
図21(B)に示すように、電子機器101Bは、基板102の開口部192側の面に半導体チップ103を有し、基板102の一方の面にアンテナ136が形成されている。筺体190は、スロット構造4として、メモリカード201Bが挿抜される開口部192が形成されている。筺体190には、メモリカード201Bが開口部192に挿入されたときに、凹形状構成298の位置に対応する部分に、ミリ波閉じ込め構造(導波路構造)を持つ凸形状構成198が形成され誘電体伝送路9Aとなるように構成されている。
図21(C)に示すように、スロット構造4の筺体190は開口部192からのメモリカード201Bの挿入に対し、凸形状構成198(誘電体伝送路9A)と凹形状構成298が凹凸状に接触するようなメカ構造を有する。凹凸構造が嵌合するときに、アンテナ136と複数(図は2つ)のアンテナ236が対向するとともに、その間に無線信号伝送路9として誘電体伝送路9Aが配置される。これによって、たとえば、1つの送信用のアンテナ136から2つの受信用のアンテナ236に向けて同一信号を無線伝送することによる信号分配や、逆に、2つの送信用のアンテナ236から1つの受信用のアンテナ136に向けて各別の信号を無線伝送することによる信号集中や、2系統の送受信間の通信経路を利用しての信号切替え等を行なうことができる。メモリカード201Bは、誘電体伝送路9Aとアンテナ236の間に筐体290を挟むが、凹形状構成298の部分の素材が誘電体素材であるのでミリ波帯での無線伝送に大きな影響を与えるものではない。
[第3例]
図22は、実施例11の電子機器の第3例を説明する図である。信号伝送装置1は、第1の電子機器の一例として携帯型の画像再生装置201Kを備えるとともに、画像再生装置201Kが搭載される第2(本体側)の電子機器の一例として画像取得装置101Kを備えている。画像取得装置101Kには、画像再生装置201Kが搭載される載置台5Kが筐体190の一部に設けられている。なお、載置台5Kに代えて、第2例のようにスロット構造4にしてもよい。一方の電子機器が他方の電子機器に装着されたときの両電子機器間において、無線で信号伝送を行なうという点では第2例と同じである。以下では、第2例との相違点に着目して説明する。
画像取得装置101Kは概ね直方体(箱形)の形状をなしており、もはやカード型とは言えない。画像取得装置101Kとしては、例えば動画データを取得するものであればよく、例えばデジタル記録再生装置や地上波テレビ受像機が該当する。画像再生装置201Kには、アプリケーション機能部として、画像取得装置101K側から伝送されてくる動画データを記憶する記憶装置や、記憶装置から動画データを読み出して表示部(例えば液晶表示装置や有機EL表示装置)にて動画を再生する機能部が設けられる。構造的には、メモリカード201Bを画像再生装置201Kに置き換え、電子機器101Bを画像取得装置101Kに置き換えたと考えればよい。
載置台5Kの下部の筺体190内には、例えば第2例(図21)と同様に、半導体チップ103が収容されており、ある位置にはアンテナ136が設けられている。アンテナ136と対向する筺体190の部分には、無線信号伝送路9として誘電体素材により誘電体伝送路9Aが構成されるようにしてある。載置台5Kに搭載される画像再生装置201Kの筺体290内には、例えば第2例(図21)と同様に、複数(図は2つ)の半導体チップ203が収容されており、各半導体チップ203と対応してアンテナ236(計2つのアンテナ236)が設けられている。2つのアンテナ236と対向する筺体290の部分は、誘電体素材により無線信号伝送路9(誘電体伝送路9A)が構成されるようにしてある。これらの点は前述の第2例と同様である。これによって、たとえば、1つの送信用のアンテナ136から2つの受信用のアンテナ236に向けて同一信号を無線伝送することによる信号分配や、逆に、2つの送信用のアンテナ236から1つの受信用のアンテナ136に向けて各別の信号を無線伝送することによる信号集中や、2系統の送受信間の通信経路を利用しての信号切替え等を行なうことができる。
第3例は、嵌合構造という考え方ではなく壁面突当て方式を採り、載置台5Kの角101aに画像取得装置101Kが突き当てられるように置かれたときにアンテナ136とアンテナ236が対向するようにしているので、位置ズレによる影響を確実に排除できる。このような構成により、載置台5Kに対する画像再生装置201Kの搭載(装着)時に、画像再生装置201Kの無線信号伝送に対する位置合せ行なうことが可能となる。アンテナ136とアンテナ236との間に筐体190と筐体290を挟むが、誘電体素材であるのでミリ波帯での無線伝送に大きな影響を与えるものではない。