本明細書の開示は、耐熱性リグニン系ポリマーに関する。本明細書に開示される耐熱性リグニン系ポリマーによれば、ジフェニルプロパンユニットを含むリグノフェノール誘導体中の1又は2以上の水酸基が、アシル化されたエステル部位を備えていることによって、ポリマーの耐熱性が向上し、熱アニールを施さなくても、熱質量分析における5%質量減少温度が250℃以上となる。本リグニン系ポリマーの原料であるリグノフェノール誘導体の5%質量減少温度は、通常、160℃以上170℃以下であり、アシル化によるこのような5%質量減少温度の上昇は本発明者らの予測を超えたものであった。
また、本リグニン系ポリマーは、示差走査熱分析において実質的な発熱ピークが観察されない。アシル化により水酸基が保護されたエステル部位を備えることで、リグノフェノール誘導体において水酸基の存在により生じていた加熱時の重合及び分解などの副反応が抑制ないし回避されたからである。したがって、本リグニン系ポリマーによれば、前記エステル部位の存在により、熱アニールしなくても本来的に高い耐熱性が備わっている。
さらに、本リグニン系ポリマーは、リグノフェノール誘導体に由来する構造可変性を十分に維持している。すなわち、前記エステル部位を備えることによって、構造変換のカギとなる、ベンジル位のアリールエーテル結合やその近傍の脂肪族性水酸基(ただし、アシル化されている)が維持されている。前記エステル部位からアシル基を必要に応じて脱離して水酸基を復元することにより、アルカリ下における構造変換能を再び発現可能な状態とすることができる。したがって、本リグニン系ポリマーは、耐熱性が良好でかつリサイクル性に富む成形材料であり、かかる特性を有する成形体を提供できる。なお、成形後の再利用にあたっては、成形体から回収後の本耐熱性リグニン系ポリマーあるいは成形体中に存在する本耐熱性リグニン系ポリマーに対して、室温から200℃の温度範囲で適切な強度のアルカリ処理によりアシル基の脱離処理をすればよい。
さらにまた、本耐熱性リグニン系ポリマーは、リグノフェノール誘導体に用いた樹種、フェノール誘導体の種類等にかかわらず熱的物性が均質化されている。水酸基が保護されたこと、及びその結果、リグニン由来の構造が安定維持されることで、従来、樹種や用いたフェノール誘導体の種類に依存して変動していたリグノフェノール誘導体の熱的物性が均質化されている。
なお、質量減少温度とは、窒素ガスや空気を媒体として用いて熱質量分析を実施したとき、加熱前の物質質量に対して所定割合の質量の減少が生じる温度をいう。質量減少温度は、物質は加熱の過程で一部の構造の消失が生じ、質量減少という現象を生じる場合があることから、物質の耐熱性を示すためによく用いられる指標の一つである。例えば、加熱前から質量が5%減少したときの温度を5%質量減少温度、10%減少したときの温度を10%質量減少温度などという。本リグニン系ポリマーの熱重量分析は、好ましくは窒素ガス下において、例えば、2℃/分程度の昇温速度で300℃〜400℃程度までの適切な温度まで昇温することによって行うことができる。
また、本明細書に開示される耐熱性リグニン系ポリマーによれば、230℃以上の温度での耐熱性成形体の成形材料に用いることができる。
以下、本明細書に開示されるリグニン系ポリマー及びその製造方法について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本明細書に開示されるリグニン系ポリマーの原料となるフェノール誘導体の製造工程について説明する図である。
(リグニン系ポリマー)
本明細書によって開示される耐熱性リグニン系ポリマーは、リグニンのフェニルプロパンユニットのα位にフェノール誘導体がグラフトされたジフェニルプロパンユニットを含んでおり、1又2以上の水酸基がアシル化されたエステル部位を備える。
本明細書に開示されるリグニン系ポリマーにおけるジフェニルプロパンユニットは、リグニンの基本ユニットであるフェニルプロパンユニットのα位(ベンジル位又は側鎖C1位)にフェノール誘導体がそのオルト位又はパラ位でグラフトしたユニットである。
かかるジフェニルプロパンユニットは、特開平2−233701号公報、特開平9−278904号公報等に開示される方法によって得られるリグノフェノール誘導体が備える基本ユニットである。リグノフェノール誘導体におけるジフェニルプロパンユニットは、フェノール誘導体が、そのフェノール性水酸基のオルト位あるいはパラ位にてリグニン中のフェニルプロパンユニットのα位の炭素原子に結合して形成される。この反応では、フェノール誘導体は、前記α位に対して選択的に導入される。このため、出発原料であるリグニンのフェニルプロパンユニットのα位における様々な結合が開放され、リグニンの多様性が低減され、また、低分子量化される。これにより、原料のリグニンよりも各種溶媒への溶解性や熱流動性などが向上する。
ジフェニルプロパンユニットの要素である、リグニン由来のフェニルプロパンユニットのα位の炭素原子に結合されるフェノール誘導体としては、少なくとも一つのフリーの(無置換の)オルト位又はパラ位を有するものであれば、特に限定しないで、各種のフェノール及びその誘導体を用いることができる。すなわち、フェノール誘導体としては、無置換フェノール誘導体を含み、少なくとも一つの無置換のオルト位あるいはパラ位を有する各種置換形態のフェノール及びその誘導体の1種あるいは2種以上を適宜選択して用いることができる。
なかでも、少なくとも一つのフリーのオルト位を有するフェノール誘導体を用いることが好ましい。当該オルト位の炭素原子がフェニルプロパンユニットのα位に結合することで、当該結合炭素原子からみてオルト位に水酸基を備える形態でフェノール誘導体を含むジフェニルプロパンユニット(以下、オルト位結合ユニットという)が形成される。こうしたジフェニルプロパンユニットは、アルカリ下でアリールクマラン構造を含むアリールクマランユニットを形成することができる。選択的にオルト位結合ユニットを形成するには、p−クレゾール、2,4−ジメチルフェノール、オルト位及びパラ位のうちオルト位のみがフリーのフェノール誘導体を用いる。
フェノール誘導体としては、典型的には、p−クレゾール、2−ナフトール、2,6−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2−メトキシフェノール(Guaiacol)、2,6−ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール及びフロログルシノールなどが挙げられる。好適には、p−クレゾールや、2−ナフトールを用いることにより、高い導入効率を得ることができる。
フェノール誘導体が有していてもよい置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよいが、好ましくは、電子吸引性の基(ハロゲン原子など)以外の基であり、例えば、炭素数が1〜4、好ましくは炭素数が1〜3の低級アルキル基含有置換基である。低級アルキル基含有置換基としては、例えば、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)である。また、アリール基(フェニル基など)の芳香族系の置換基を有していてもよい。また、水酸基含有置換基であってもよい。
本リグニン系ポリマーの原料であるリグノフェノール誘導体は、通常、リグノセルロース系材料等の天然材料から取得されるため、得られるリグノフェノールにおける導入フェノール誘導体の量やその分子量は、原料となるリグニン含有材料のリグニン構造および反応条件により変動し、その性状や物性は必ずしも一定ではない。また、リグニンにおける基本ユニットであるフェニルプロパンユニットは各種の態様があり、これらの基本ユニットは植物の種類によって相違している。しかしながら、おおよそ一般にリグノフェノールは、質量平均分子量が2000〜20000程度で、分子内に共役系をほとんど有さずその色調は淡色である。
リグノフェノール誘導体には、1又は複数の水酸基を備えている。水酸基は、主にリグニンの基本ユニットであるフェニルプロパンユニットC3位(側鎖C3位、又はγ位。以下、単にγ位という)、リグニンの基本骨格のフェニル部位、導入したフェノール誘導体の基本骨格のフェニル部位等に存在している。このうち、フェニル部位に存在している水酸基を、フェノール性水酸基と呼ぶ。リグノフェノール中に水酸基が多く存在するほど水への溶解度が高くなる。
本発明において「アシル化」とは、リグノフェノール誘導体中の1又は2以上の水酸基にアシル基を導入することをいう。水酸基のアシル化によって生じる官能基は、エステルである。また、アシル化には、導入されるアシル基(RCO−)のRが芳香族であるアロイル(Ar−CO−)も含まれる。アシル化されたリグニン系ポリマー中の水酸基は、化学処理によって水酸基に戻すことができる。リグノフェノール誘導体中の水酸基のアシル化が可逆的であることによって、水酸基を一時的に保護し、水酸基における反応を回避しつつ、リグノフェノール誘導体を循環して再利用することができる。
リグノフェノール誘導体に内在する水酸基にアシル基が導入された本リグニン系ポリマーは、1,1−ジフェニルプロパンユニットや残存するフェニルプロパンユニットなどにある水酸基のうち、OH基の水素原子が−COR基(アシル基)で置換された構造を備えている。アシル基におけるRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、バレ3−メチル−ブチル基、フェニル基、ベンジル基、アリルオキシ基、ナフチル基、トリフェニル基、tert−ペンチル基及びトリル基等が挙げられるが、好ましくはメチル基である。アシル基導入反応により、水酸基が保護される。このため、水酸基による特性発現が抑制されることになる。たとえば、水素結合が低減されて、会合性を低下させることができる場合がある。
本リグニン系ポリマーに含まれるリグノフェノール誘導体由来の1又は2以上の水酸基、好ましくはが80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層このましくは95%以上、さらに一層好ましくは98%以上の水酸基がアシル化されていると、アシル化されていないリグノフェノール誘導体よりもガラス転位温度を低くすることができる。例えば、アシル化されていないリグノフェノール誘導体のガラス転位温度は針葉樹で170℃、広葉樹で170℃であるが、アシル化されたリグノフェノール誘導体である本リグニン系ポリマーでは、針葉樹リグノフェノール誘導体由来のリグニン系ポリマーでは70℃以上120℃以下であり、広葉樹リグノフェノール誘導体由来のリグニン系ポリマーでは120℃以上130℃以下とすることができる。すなわち、リグノフェノール誘導体中の水酸基がアシル化されていることによって、アシル化されていないリグノフェノール誘導体よりも低温域で流動性を有することができる。そのため、加工や成形等を容易に行うことができる。
本リグニン系ポリマーは、熱アニールを施さない状態で、その5%質量減少温度が250℃以上であることが好ましい。こうした熱的特性を有することで広い範囲において耐熱性が求められる成形用途として用いることができる。リグニン系ポリマーの5%質量減少温度は、300℃以上であることがより好ましい。より耐熱性が求められる成形体用途に用いることができる。なお、熱アニールの条件は特に限定しないが、例えば、窒素ガス下、2℃〜20℃/分の程度の昇温速度で行うことができる。到達温度は、例えば、200〜300℃程度の範囲で適宜設定することができる。
具体的には、ブナやヒノキ等に由来する本リグニン系ポリマーでは、5%質量減少温度は300℃以上330℃以下であり、10%質量減少温度は、320℃以上350℃以下とすることができる。また、本リグニン系ポリマーの1%重量減少温度を230℃以上300℃以下とすることもできる。これにより、本リグニン系ポリマーを、230℃以上の温度での耐熱性成形体の成形材料に用いることができる。
本リグニン系ポリマーの5%質量減少温度は、水酸基のアシル化前のリグノフェノール誘導体から、120℃以上高いことが好ましい。リグノフェノール誘導体における水酸基のアシル化が、質量減少温度の向上に寄与しているからである。例えば、アシル化されていないリグノフェノール誘導体の5%質量減少温度は、160℃以上200℃以下であり、10%質量減少温度は、220℃以上260℃以下である。
本リグニン系ポリマーの示差走査熱分析において実質的な発熱ピークは観察されないことが好ましい。こうした本リグニン系ポリマーは、かかる昇温処理における副反応が十分に回避又は抑制されている。なお、示差走査熱分析において、実質的な発熱ピークを観察しないとは、示差走査熱分析の昇温過程において0.3mW/g以上の大きさの発熱ピークを観察しないことをいう。これに対して、アシル化前のリグノフェノール誘導体では、示差走査熱分析の昇温過程において、例えば200℃近傍で5mW/g以上の大きさの発熱ピークが観察される。なお、示差走査熱分析は、例えば、窒素ガス下、20℃/分の程度の昇温速度で行うことができる。到達温度は、例えば、200℃〜300℃程度の範囲で適宜設定することができる。
以上説明したように、本リグニン系ポリマーによれば、リグノフェノール誘導体由来の水酸基がアシル化されていることにより、リグノフェノール誘導体に比較して、構造変換能を維持しつつ、熱質量減少温度が向上されているため、より耐熱性の良好な成形体の成形材料として好ましいものとなっている。
(リグニン系ポリマーの製造方法)
次に、本リグニン系ポリマーを製造するのに好ましい方法について図1を参照して説明する。本リグニン系ポリマーの製造方法は、リグニンのフェニルプロパンユニットのα位にフェノール誘導体がグラフトされたジフェニルプロパンユニットを含むリグノフェノール誘導体中の1又は2以上の水酸基をアシル化する工程を備えることができる。
図1に示すように、リグニン系ポリマーは、リグニン含有材料から得えられるリグノフェノール誘導体を原料とすることができる。リグニン含有材料は、天然リグニンを含有するリグノセルロース系材料を含む。リグノセルロース系材料は、木質化した材料、主として木材である各種材料、例えば、木粉、チップの他、廃材、端材、古紙などの木材資源に付随する農産廃棄物や工業廃棄物を挙げることができる。また用いる木材の種類としては、針葉樹、広葉樹など任意の種類のものを使用することができる。さらに、リグノセルロース系材料としては、各種草本植物、それに関連する農産廃棄物や工業廃棄物なども使用できる。また、リグニン含有材料としては、天然リグニンを含有する材料のみならず、リグノセルロース材料をパルピング処理した後に得られるいわゆる変性したリグニンを含有する廃液である黒液も利用することができる。
リグニン含有材料又はリグニン含有材料中のリグニンを、予めフェノール誘導体により溶媒和する。リグニン含有材料をフェノール誘導体で溶媒和するには、液体のフェノール誘導体をリグニン含有材料に供給してもよいし、液体あるいは固体のフェノール誘導体を適当な溶媒に溶解してリグニン含有材料に供給してもよい。リグニン含有材料中のリグニンとフェノール誘導体とが十分に接触して親和できるように到達されればよい。十分にリグニンにフェノール誘導体が到達した後は、過剰なフェノール誘導体を留去してもよい。また、リグニン含有材料へのフェノール誘導体の送達に用いた溶媒を留去することが好ましい。フェノール誘導体による溶媒和は、具体的には、液体のフェノール誘導体にリグニン含有材料を浸漬したり、液体あるいは固体のフェノール誘導体を当該フェノール誘導体が溶解する溶媒に溶解させたものをリグニン含有材料に含浸させるなどして行うことができる。
用いるフェノール誘導体は、少なくとも一つのオルト位又はパラ位がフリーなフェノール性化合物及びその誘導体であればよく、既に説明した各種フェノール性化合物及びその誘導体を適宜選択して用いることができる。
次いで、フェノール誘導体で溶媒和したリグニン含有材料と酸を接触させる。ここで用いる酸としては、特に限定せず、リグノフェノール誘導体を生成しうる範囲で各種無機酸や有機酸を使用することができる。したがって、硫酸、リン酸、塩酸などの無機酸の他、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを使用することができる。リグニン含有材料としてリグノセルロース系材料を使用する場合には、セルロースを膨潤させる作用を有していることが好ましい。例えば、65質量%以上の硫酸(好ましくは、72質量%の硫酸)、85質量%以上のリン酸、38質量%以上の塩酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを挙げることができる。好ましい酸は、85質量%以上(好ましくは95質量%以上)のリン酸、トリフルオロ酢酸又はギ酸である。
なお、リグニン含有材料中のリグニンを、リグノフェノール誘導体に変換し、分離する方法としては各種方法が採用できる。例えば、リグニン含有材料に、液体状のフェノール誘導体(例えば、p−クレゾール)を浸透させ、リグニンをフェノール誘導体により溶媒和させ、次に、リグノセルロース系材料に酸(例えば、72%硫酸)を添加し混合して、セルロース成分を溶解する。この方法によると、リグニンが低分子化され、同時にその基本構成単位のα位にフェノール誘導体が導入されたリグノフェノールが有機相に生成される。この有機相から、リグノフェノールが抽出される。リグノフェノールは、例えば、リグニン中のベンジルアリールエーテル結合が解裂して低分子化されたリグニンの低分子化体の集合体として得られる。
有機相からのリグノフェノールの抽出は、例えば、次の方法で行うことができる。すなわち、有機相を、大過剰のジエチルエーテルに加えて得た沈殿物を集めて、アセトンに溶解する。アセトン不溶部を遠心分離により除去し、アセトン可溶部を濃縮する。このアセトン可溶部を、大過剰のジエチルエーテルに滴下し、沈殿区分を集める。この沈殿区分から溶媒を留去し、リグノフェノールを得る。なお、粗リグノフェノールは、フェノール誘導体相やアセトン可溶区分を単に減圧蒸留により除去することによって得ることができる。
また、リグニン含有材料に、固体状あるいは液体状のフェノール誘導体を溶解した溶媒(例えば、エタノールあるいはアセトン)を浸透させた後、溶媒を留去(フェノール誘導体の収着)した場合も、先の方法と同様、リグノフェノール誘導体が生成される。この方法においては、生成したリグノフェノール誘導体は、液体フェノール誘導体にて抽出分離することができる。あるいは、全反応液を過剰の水中に投入し、不溶区分を遠心分離にて集め、脱酸後、乾燥する。この乾燥物にアセトンあるいはアルコールを加えてリグノフェノール誘導体を抽出する。さらに、この可溶区分を第1の方法と同様に、過剰のエチルエーテル等に滴下して、リグノフェノール誘導体を不溶区分として得ることもできる。
(水酸基をアシル化する工程)
次いで、得られたリグノフェノール誘導体中の水酸基をアシル化する。アシル化によって、リグノフェノール誘導体中の水酸基のOH基の水素原子が−COR基(アシル基)で置換されたリグニン系ポリマーが得られる。リグノフェノール中の水酸基のアシル化には、アシル化剤として、水酸基をアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、アリルオキシカルボニル基、及びトルオイル基等に置換可能な公知のアシル化反応を触媒可能なものを用いることができるが、例えばカルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸無水物等のアシル化剤を用いることができる。具体的には、アシル化剤として、無水酢酸、アセチルクロリドなどのカルボン酸モノハライド、酸ジクロリドなどの酸ジハライド等を用いることができる。また、酸ハライドとしては、アジピン酸ジクロリドやマレイン酸ジクロリド、テレフタル酸ジクロリドなどを用いることができる。これらの酸ハロゲン化物を用いたエステル化反応については、当業者において周知であり、一般的な反応条件をリグノフェノール誘導体についても適宜適用して実施できる。好適には、ピリジン存在下で行うことが好ましい。
こうして生成した本リグニン系ポリマーは溶媒中から分離される。本リグニン系ポリマーの分離としては、液性媒体によって抽出して分離される。液性媒体の種類は特に問わないで、水性媒体、非水性媒体及びこれらの混液を適宜用いることができる。液性媒体の態様は、本リグニン系ポリマーを分離する必要性が生じている混合系の態様や得られた本リグニン系ポリマーの溶解性により様々である。
水性媒体としては、水のほか水に可溶である有機溶媒との混液が挙げられる。こうした有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等炭素数1〜4のアルキル基を備える1級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、グリセリン、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ等のセロソルブ類、アセトニトリル等が挙げられる。水との混液を構成するとき、有機溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、非水性媒体としては、通常の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、上記したメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等炭素数1〜4のアルキル基を備える1級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、グリセリン、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ等のセロソルブ類、アセトニトリル、フェノール等の極性溶媒のほか、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム等の非極性溶媒が挙げられる。こうした有機溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
分離における温度は、特に限定しないが、100℃以下であれば、容易に分離することできる。操作性を考慮すれば60℃以下であることが好ましく、より好ましくは40℃以下である。また、下限は操作性等を考慮すれば0℃以上であることが好ましい。好適には室温(25度程度)である。
分離の後に、さらに、本リグニン系ポリマーの回収を行うことができる。回収としては、遠心分離、沈殿、分離カラム等によって行うことができる。回収用液性媒体としては、無機又は有機アルカリを含むアルカリ性溶媒を用いることができる。無機アルカリとしては、NaOH、KOH、NH4OH等が挙げられる。有機アルカリとしては、トリエチルアミンなどの有機アミン類等が挙げられる。好ましくは、NaOHなどの無機アルカリである。溶媒は、水、水と有機溶媒との混液及び有機溶媒から適宜選択して用いることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等炭素数1〜4のアルキル基を備える1級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、グリセリン、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ等のセロソルブ類、アセトニトリル等の1種又は2種以上を用いることができる。
以上、本リグニン系ポリマーの製造方法の具体例を説明したが、これらに限定されるわけではなく、これらに適宜改良を加えた方法で製造することもできる。
(本リグニン系ポリマーを用いた成形体、その製造方法及び再利用方法)
本リグニン系ポリマーを用いて成形体を得ることができる。本明細書で「成形体」とは、製品又は材料としての物をいう。本リグニン系ポリマーは、リグノフェノール誘導体よりも耐熱性や流動性が良好であり、さらに、リグノフェノール誘導体由来の構造変換能を維持しているため、よりリサイクル性、逐次利用性、循環利用性の高い成形体となっている。
成形体における本リグニン系ポリマーの存在形態は特に限定しない。成形体は、本リグニン系ポリマーを含む樹脂相を有している。成形体の樹脂相は、本リグニン系ポリマーのみからなっていてもよいし、他のポリマーとのブレンドであってもよい。また、成形体は樹脂相のみから形成されていてもよいが、樹脂相以外に他の成形材料を含んでいてもよい。こうした他の成形材料としては、樹脂、ガラス、セラミックス、金属等の繊維状、粒状、チップ状等の各種形態の材料が挙げられる。本リグニン系ポリマーを含む樹脂相とこうした他の成形材料との配合比は特に限定されないし、その配合状態も特に限定されない。例えば、樹脂相中に他の成形材料が分散さして樹脂相がマトリックスとなる形態であってもよいし、他の成形材料の間に樹脂相が分散して樹脂相が接着剤となる形態であってもよい。
こうした成形体は、例えば、本リグニン系ポリマー、必要に応じて他の樹脂や他の成形材料を用いて、公知の成形方法で製造することができる。本リグニン系ポリマーは、リグノフェノール誘導体とは異なり、熱アニール工程を実施しなくとも良好な耐熱性を有する。したがって、熱アニール工程を実施することなく、リグノフェノール誘導体よりも高い温度での成形加工が可能となっている。本リグニン系ポリマーを用いて成形体は、例えば、本リグニン系ポリマーを含む材料を、型を使用したり、ダイを通過させることなどによって所望の形状に成形されて得られる。成形方法として、例えば、射出成形、圧縮成形、繊維またはフィルムの押出、形材の押出、ガス流紡糸、粘着紡糸、支持体被覆などが挙げられる。本発明のポリエステル組成物は、メルト、粒子あるいは揮発性溶媒中の溶液などの任意の形態で使用することができる。
そして、本リグニン系ポリマーにあっては、構造変換能が維持されているため、成形体の当初の用途が達成されたら、成形体から回収した本リグニン系ポリマー、あるいは成形体中に存在する本リグニン系ポリマーに対して、アシル基の脱離処理を施すことで、リグノフェノール誘導体由来の水酸基を復元して、本リグニン系ポリマーをリグノフェノール誘導体として取得あるいは成形体から回収することができる。アシル基の脱離処理は、アシル基の種類に応じた適切な塩基性条件下で行うことができる。
以下、本発明を具体例を挙げて説明するが、この具体例は本発明を具体的に説明するものであって、本発明を限定するものではない。
(試験例1)
試験例1として、針葉樹のリグノフェノールの水酸基をアシル化していない例について説明する。試験例1では、ヒノキ材からヒノキリグノフェノール(p−クレゾールタイプ)の合成を行った。1000gの脱脂済みヒノキ(Chamaecyparis obtusa)木粉(60mesh pass)に500gのp−クレゾールを収着させ、2.5Lの72%硫酸を加え30℃、1時間で、三重大学相分離系変換システム・システムプラントで反応させた。酸を除去した後、沈殿を乾燥させ、アセトン5Lで抽出し、ジエチルエーテルを用いて精製した。精製後のエーテル不溶区分として木粉あたり25%の収率でリグノフェノール(p-クレゾールタイプ)エーテル不溶区分を得た。
得られたヒノキリグノフェノールをKBr法によるフーリエ変換赤外分光分析(FT-IR:島津製作所FT-IR5000RF)にて測定した。その結果、図2に示すように、815cm−1(導入クレゾール芳香環隣接2水素の面外変角)、1000〜1400cm−1(グアイアシル骨格:3位にメトキシル基を持つ芳香環の側鎖の伸縮・変角・振動)、1450〜1600cm−1(芳香環炭素-炭素伸縮振動)、2930cm−1(メチル基/フェニルプロパンユニットプロパン側鎖C−H伸縮振動)、3000〜3700cm−1(水素結合を持つ水酸基)の特徴的な吸収ピークが観測された。
得られたヒノキリグノフェノールをプロトン核磁気共鳴分析(NMR:日本電子(株)FT-NMR500)にて重水素化ピリジン/重水素化クロロホルム中で測定した。その結果、2.0〜2.3ppm(導入クレゾールメチル水素)、3〜4ppm(メトキシル基メチル水素)、4.8ppm(ベンジル水酸基水素)、5ppm(フェニルプロパン単位C2水素)、6.5〜7.5ppm(芳香環水素)のピークが観察された。
得られたヒノキリグノフェノールを熱機械分析(TMA:セイコーインスツルメンツ社製TMA-SS)によって熱流動の測定を行った。実験には、直径5mmのアルミニウムパンに10mgのリグノフェノールを入れ、表面にアルミニウム板を置き、その上に石英ニードルを配置して鉛直下向きに応力をかけ、150mL/分窒素気流下、50〜300℃の温度範囲で2℃/分で加熱し、変位を観測した。その結果、図8に示すように、170℃付近で変位が観測され、180℃でニードルが底部に達し溶融が観察された。
また、得られたヒノキリグノフェノールをサイズ排除クロマトグラフィー(SEC:クロマトグラフィーに島津製作所製LC-10)にて平均分子量を測定した。実験は、1mg/1mLのTHF溶液をKF601、602、603、604(Shodex. Co.)の直列4カラムに1mL/分、40℃で流通し、ポリスチレンスタンダードで作成した検量線を用いて280nmの吸光度から算出した。質量平均分子量(Mw)=9000、数平均分子量(Mn)=4700、分散比1.9であった。
次いで、熱質量分析(TGA:セイコーインスツルメンツ社製TG/DTA-SS)によって熱質量を測定した。実験は、直径5mmのアルミニウムパンに5mgのリグノフェノールを入れ、300mL/分窒素気流下、50〜400℃の温度範囲で2℃/分で加熱し、質量変化を観測した。この結果、図10に示すように、160℃付近で5%質量減少、220℃付近で10%質量減少が観察された。
さらに、示差走査熱量計(DSC:パーキンエルマー社製Diamond DSC)によってガラス転移点を測定した。実験は、直径7mmのアルミニウムパンに4mgのリグノフェノールを入れ、20mL/分窒素気流下、50〜300℃の温度範囲で2〜20℃/分で加熱し、熱流を観測した。この結果、図3に示すように、190℃付近に発熱ピークが観測された。2回目以降の走査ではこのピークが消失した。
(試験例2)
次に、試験例2として、広葉樹のリグノフェノールの水酸基を保護基によって修飾していない例について説明する。試験例2では、ブナ材からブナリグノフェノール(p−クレゾールタイプ)の合成を行った。なお、試験例2は、試験例1の材料をヒノキからブナに変更した点のみが異なり、同一の操作及び装置の説明は適宜省略する。まず、1000gの脱脂済みブナ(Fagus crenata)木粉(60mesh pass)に500gのp−クレゾールを収着させ、2.5Lの72%硫酸を加え30℃、1時間で、三重大学相分離系変換システム・システムプラントで反応させた。酸を除去した後、沈殿を乾燥させ、アセトン5Lで抽出し、ジエチルエーテルを用いて精製した。精製後のエーテル不溶区分として木粉あたり22%の収率でリグノフェノール(p-クレゾールタイプ)エーテル不溶区分を得た。
このナリグノフェノールをFT−IRにて測定した結果、図4に示すように、815cm−1(導入クレゾール芳香環隣接2水素の面外変角)、1000〜1400cm−1(グアイアシル・シリンギル骨格:3位または3位・5位にメトキシル基を持つ芳香環の側鎖の伸縮・変角・振動)、1450〜1600cm−1(芳香環炭素-炭素伸縮振動)、2930cm−1(メチル基/フェニルプロパンユニットプロパン側鎖C−H伸縮振動)、3000〜3700cm−1(水素結合を持つ水酸基)の特徴的な吸収ピークが観測された。
次いで、NMRにて測定した結果、1.6〜2.0ppm(アセチル基メチル水素)、2.0〜2.3ppm(導入クレゾールメチル水素)、3〜4ppm(メトキシル基メチル水素)、4.5〜4.8ppm(フェニルプロパン単位C1−C3水素)、5ppm(フェニルプロパン単位C2水素)、6.5〜7.5ppm(芳香環水素)でピークが観察された。特にシリンギル骨格に由来するメトキシル基のメチルプロトンピークが3.7ppm付近にシャープなピークとして観察された。
さらに、SECにて測定した結果、質量平均分子量(Mw)=5600、数平均分子量(Mn)=3300、分散比1.7であった。また、図18に示すように、TMAでは180℃付近で変位が観測され、190℃でニードルが底部に達し溶融が観察された。DSCでは図5に示すように、210℃付近に発熱ピークが観測されたが、2回目以降の走査ではこのピークが消失した。図19に示すように、TGAの結果、170℃付近で5%質量減少、230℃付近で10%質量減少が観察された。
(試験例3)
次に、試験例3として、針葉樹未晒しグラウンドパルプのリグノフェノールの水酸基を保護基によって修飾していない例について説明する。試験例3では、ヒノキ材からヒノキグノフェノールの合成を行った。なお、試験例3は、試験例1の吸着剤をp−クレゾールから2−ナフトールに変更した点のみが異なり、同一の操作及び装置の説明は適宜省略する。
ヒノキリグノフェノール(2−ナフトールタイプ)をFT−IRにて測定した結果、図6に示すように、700〜900cm−1(導入ナフトール芳香環隣接水素の面外変角振動)、1000〜1400cm−1(グアイアシル骨格:3位または3位・5位にメトキシル基を持つ芳香環の側鎖の伸縮・変角・振動)、1450〜1600cm−1(芳香環炭素-炭素伸縮振動)、2930cm−1(メチル基/フェニルプロパンユニットプロパン側鎖C−H伸縮振動)、3000〜3700cm−1(水素結合を持つ水酸基)の特徴的な吸収ピークが観測された。
また、NMRの結果、3〜4ppm(メトキシル基メチル水素)、4.5〜4.8ppm(フェニルプロパン単位C1−C3水素)、5ppm(フェニルプロパン単位C2水素)、6.5〜8.0ppm(ナフチル芳香環水素)ピークが観察された。
また、SECの結果、質量平均分子量(Mw)=3200、数平均分子量(Mn)=2000、分散比1.6であった。TMAでは170℃付近で変位が観測され、185℃でニードルが底部に達し溶融が観察された。TGAの結果、194℃付近で5%質量減少、255℃付近で10%質量減少が観察された。
本実施例は、針葉樹のリグノフェノールのフェノール性水酸基をアシル化によって修飾した例を示す。針葉樹には、ヒノキを用いた。まず、1000gの脱脂済みヒノキ(Chamaecyparis obtusa)木粉(60mesh pass)に500gのp−クレゾールを収着させ、2.5Lの72%硫酸を加え30℃、1時間で、三重大学相分離系変換システム・システムプラントで反応させた。酸を除去した後、沈殿を乾燥させ、アセトン5Lで抽出し、ジエチルエーテルを用いて精製した。精製後に乾燥して得られた絶乾リグノフェノール100mgを1.0mLピリジンに溶解させ、無水酢酸1.0mLを加えて攪拌し、空気中・室温・暗所に静置した。48時間後、反応混合液を40mLの冷水に磁気攪拌した後投入し、得られた沈殿を遠心分離で分離後、冷水30mLで洗浄した。得られた沈殿を凍結乾燥し、ヒノキリグノフェノール(p−クレゾールタイプ、HCLC)酢酸エステルをリグノフェノールベース収率104.8%で得た。
次いで、得られたリグノフェノールを以下に示すように、IR、NMR、SEC、TMA、DSC、TGAによって測定した。なお、DSC、TMA、及びTGAにおいては、試験例1で得られたリグノフェノールのデータを比較例として挙げる。
このリグノフェノールをFT−IRにて測定した結果、図7に示すように、815cm−1(導入クレゾール芳香環隣接2水素の面外変角)、900cm−1(アセチル基によるシフト:導入クレゾール芳香環隣接2水素の面外変角)1000〜1400cm−1(グアイアシル骨格:3位にメトキシル基を持つ芳香環の側鎖の伸縮・変角・振動)、1200〜1300cm−1(アセチル基のCOCH3アルキル変角振動)、1350〜1450cm−1(メチル基対称・非対称変角振動)、1450〜1600cm−1(芳香環炭素-炭素伸縮振動)、1700〜1740cm−1(脂肪族・フェノール性水酸基エステルC=O伸縮振動)、2930cm−1(メチル基/フェニルプロパンユニットプロパン側鎖C−H伸縮振動)、の特徴的な吸収ピークが観測された。水酸基に特徴的な伸縮振動ピークを表す3400cm−1付近にはピークは現れなかった。
NMRにて測定した結果、1.6〜2.0ppm(アセチル基メチル水素)2.0〜2.3ppm(導入クレゾールメチル水素)、3〜4ppm(メトキシル基メチル水素)、4.5〜4.8ppm(フェニルプロパン単位C1−C3水素)、5ppm(フェニルプロパン単位C2水素)、6.5〜7.5ppm(芳香環水素)のピークが観察された。また、SECにて測定した結果、質量平均分子量(Mw)=16000、数平均分子量(Mn)=5000、分散比3.2であった。
図8に示すように、TMAでは試験例1よりも40℃近く低温の120℃付近で変位が観測され、190℃でニードルが底部に達し溶融が観察された。DSCでは1回目、2回目共に発熱ピークは観察されなかった。さらに、図10に示すように、TGAの結果、5%質量減少は300℃と150℃向上し、10%質量減少は320℃付近となった。
実施例2は、針葉樹のリグノフェノールのフェノール性水酸基をアシル化によって修飾した例を示す。なお、実施例2は、実施例1とは、アシル化の方法のみが異なり、同一の操作及び装置の説明は適宜省略する。まず、絶乾リグノフェノール300mgを3.0mLのピリジンに溶解させ、無水安息香酸250mgを加えて攪拌し、空気中・室温・暗所に静置した。48時間後、反応混合液を40mLの冷水に磁気攪拌した後投入し、得られた沈殿を遠心分離で分離後、冷水30mLで洗浄した。得られた沈殿を凍結乾燥し、ヒノキリグノフェノール(p−クレゾールタイプ)安息香酸エステルをリグノフェノールベース収率114.9%で得た。
次いで、得られたリグノフェノールを以下に示すように、IR、NMR、SEC、TMA、DSC、TGAによって測定した。なお、DSC、TMA、及びTGAにおいては、試験例1で得られたリグノフェノールのデータを比較例として挙げる。
このヒノキリグノフェノールをFT−IRにて測定した結果、図11に示すように、815cm−1(導入クレゾール芳香環隣接2水素の面外変角)、900cm−1(アセチル基によるシフト:導入クレゾール芳香環隣接2水素の面外変角)1000〜1400cm−1(グアイアシル骨格:3位にメトキシル基を持つ芳香環の側鎖の伸縮・変角・振動)、1200〜1300cm−1(アセチル基のCOCH3アルキル変角振動)、1350〜1450cm−1(メチル基対称・非対称変角振動)、1450〜1600cm−1(芳香環炭素-炭素伸縮振動)、1700〜1740cm−1(脂肪族・フェノール性水酸基エステルC=O伸縮振動)、2930cm−1(メチル基/フェニルプロパンユニットプロパン側鎖C−H伸縮振動)、の特徴的な吸収ピークが観測された。水酸基に特徴的な伸縮振動ピークを表す3400cm−1付近にはピークは現れなかった。
また、NMRの結果、1.6〜2.0ppm(クレゾールメチルプロトンピークのシフト)2.0〜2.3ppm(導入クレゾールメチル水素)、3〜4ppm(メトキシル基メチル水素)、4.5〜4.8ppm(フェニルプロパン単位C1−C3水素)、5ppm(フェニルプロパン単位C2水素)、6.5〜7.5ppm(芳香環水素)のピークが観察された。また、SECの結果、質量平均分子量(Mw)=26000、数平均分子量(Mn)=5800、分散比4.4であった。
図12に示すように、TMAでは試験例1よりも50℃近く低温の120℃付近で変位が観測され、160℃でニードルが底部に達し溶融が観察された。図13に示すように、TGAの結果、5%質量減少は320℃と170℃近く向上し、10%質量減少は340℃付近となった。
実施例3は、針葉樹のリグノフェノールのフェノール性水酸基をアシル化によって修飾した例を示す。なお、実施例3は、実施例1及び2とは、アシル化の方法のみが異なり、同一の操作及び装置の説明は適宜省略する。まず、絶乾リグノフェノール100mgを30.0mLのピリジンに溶解させ、クロロギ酸アリル4.5mLを窒素雰囲気下、氷冷下、滴下した。24時間後、反応混合液を500mLの冷水に磁気攪拌した後投入し、得られた沈殿を遠心分離で分離後、冷水50mLで洗浄した。得られた沈殿を凍結乾燥し、ヒノキリグノフェノール(p−クレゾールタイプ)アリルオキシカルボニル基誘導体をリグノフェノールベース収率124.6%で得た。
次いで、得られたリグノフェノールを以下に示すように、IR、NMR、SEC、TMA、DSC、TGAによって測定した。なお、DSC、TMA、及びTGAにおいては、試験例1で得られたリグノフェノールのデータを比較例として挙げる。
得られたリグノフェノールをFT−IRにて測定した結果、図14に示すように、700〜950cm−1(導入p−クレゾール芳香環隣接2水素の面外変角振動:アリルオキシカルボニル基によるシフト)、950cm−1(C=C面外変角振動)、1000〜1400cm−1(グアイアシル骨格:3位にメトキシル基を持つ芳香環の側鎖の伸縮・変角・振動)、1200〜1300cm−1(アセチル基のCOCH3アルキル変角振動)、1350〜1450cm−1(メチル基対称・非対称変角振動)、1450〜1600cm−1(芳香環炭素-炭素伸縮振動)、1700〜1740cm−1(脂肪族・フェノール性水酸基エステルC=O伸縮振動)、2930cm−1(メチル基/フェニルプロパンユニットプロパン側鎖C−H伸縮振動)の特徴的な吸収ピークが観測された。水酸基に特徴的な伸縮振動ピークを表す3400cm−1付近にはピークは現れなかった。
NMRの結果、1.6ppm(アリル末端プロトン)1.8〜2.4ppm(クレゾールメチルプロトン)、3〜4ppm(メトキシル基メチル水素)、4.5〜4.8ppm(フェニルプロパン単位C1−C3水素)、5〜6ppm(アリルプロトン)、6.5〜8.0ppm(芳香環プロトン)にピークが観察された。また、SECの結果、質量平均分子量(Mw)=25000、数平均分子量(Mn)=5900、分散比4.3であった。
図15に示すように、TMAでは試験例1よりも100℃近く低温の70℃付近で変位が観測され、140℃でニードルが底部に達し溶融が観察された。図16に示すように、TGAの結果、5%質量減少は300℃と130℃向上し、10%質量減少は320℃付近となった。
実施例4は、針葉樹のリグノフェノールのフェノール性水酸基をアシル化によって修飾した例を示す。なお、実施例4は、実施例1の吸着剤をp−クレゾールから2−ナフトールに変更した点のみが異なり、同一の操作及び装置の説明は適宜省略する。まず、絶乾リグノフェノール100mgを1.0mLピリジンに溶解させ、無水酢酸1.0mLを加えて攪拌し、空気中・室温・暗所に静置した。48時間後、反応混合液を40mLの冷水に磁気攪拌した後投入し、得られた沈殿を遠心分離で分離後、冷水30mLで洗浄した。得られた沈殿を凍結乾燥し、針葉樹未晒しグラウンドパルプリグノフェノール(2−ナフトールタイプ)酢酸エステルをリグノフェノールベース収率112.1%で得た。
次いで、得られたリグノフェノールを以下に示すように、IR、NMR、SEC、TMA、DSC、TGAによって測定した。なお、DSC、TMA、及びTGAにおいては、試験例3で得られたリグノフェノールのデータを比較例として挙げる。
得られたリグノフェノールをFT−IRにて測定した結果、図17に示すように、700〜950cm−1(導入ナフトール芳香環隣接2水素の面外変角振動:アセチル基によるシフト)、1000〜1400cm−1(グアイアシル骨格:3位にメトキシル基を持つ芳香環の側鎖の伸縮・変角・振動)、1200〜1300cm−1(アセチル基のCOCH3アルキル変角振動)、1350〜1450cm−1(メチル基対称・非対称変角振動)、1450〜1600cm−1(芳香環炭素-炭素伸縮振動)、1700〜1740cm−1(脂肪族・フェノール性水酸基エステルC=O伸縮振動)、2930cm−1(メチル基/フェニルプロパンユニットプロパン側鎖C−H伸縮振動)、の特徴的な吸収ピークが観測された。水酸基に特徴的な伸縮振動ピークを表す3400cm−1付近にはピークは現れなかった。
NMRの結果、1.0〜2.7ppm(アセチル基メチルプロトン)、3〜4ppm(メトキシル基メチル水素)、4.5〜4.8ppm(フェニルプロパン単位C1−C3水素)、5ppm(フェニルプロパン単位C2水素)、6.5〜8.0ppm(ナフチル芳香環水素)にピークが観察された。水酸基に特徴的な伸縮振動ピークを表す3400cm−1付近にはほとんどピークは現れなかった。なお、アセチル基の導入により一部の芳香環プロトンピークの低磁場側へのシフトが観察された。
図18に示すように、TMAでは試験例3よりもより30℃近く低温の140℃付近で変位が観測され、185℃でニードルが底部に達し溶融が観察された。図19に示すように、TGAの結果、5%質量減少は298℃と100℃向上し、10%質量減少は320℃付近となった。
実施例5は、広葉樹のリグノフェノールのフェノール性水酸基をアシル化によって修飾した例を示す。なお、実施例5は、実施例1とは材料のみが異なり、同一の操作及び装置の説明は適宜省略する。まず、絶乾ブナリグノフェノール100mgを1.0mLピリジンに溶解させ、無水酢酸1.0mLを加えて攪拌し、空気中・室温・暗所に静置した。48時間後、反応混合液を40mLの冷水に磁気攪拌した後投入し、得られた沈殿を遠心分離で分離後、冷水30mLで洗浄した。得られた沈殿を凍結乾燥し、針葉樹未晒しグラウンドパルプリグノフェノール(2−ナフトールタイプ)酢酸エステルをリグノフェノールベース収率105.4%で得た。
次いで、得られたリグノフェノールを以下に示すように、IR、NMR、SEC、TMA、DSC、TGAによって測定した。なお、DSC、TMA、及びTGAにおいては、試験例2で得られたリグノフェノールのデータを比較例として挙げる。
FT−IRの結果、図20に示すように、815cm−1(導入クレゾール芳香環隣接2水素の面外変角)、900cm−1(アセチル基によるシフト:導入クレゾール芳香環隣接2水素の面外変角)、1000〜1400cm−1(グアイアシル・シリンギル骨格:3位にメトキシル基を持つ芳香環の側鎖の伸縮・変角・振動)、1200〜1300cm−1(アセチル基のCOCH3アルキル変角振動)、1350〜1450cm−1(メチル基対称・非対称変角振動)、1450〜1600cm−1(芳香環炭素-炭素伸縮振動)、1700〜1740cm−1(脂肪族・フェノール性水酸基エステルC=O伸縮振動)、2930cm−1(メチル基/フェニルプロパンユニットプロパン側鎖C−H伸縮振動)の特徴的な吸収ピークが観測された。水酸基に特徴的な伸縮振動ピークを表す3400cm−1付近にはピークは現れなかった。
NMRの結果、1.6〜2.0ppm(アセチル基メチル水素)、2.0〜2.3ppm(導入クレゾールメチル水素)、3〜4ppm(メトキシル基メチル水素)、4.5〜4.8ppm(フェニルプロパン単位C1−C3水素)、5ppm(フェニルプロパン単位C2水素)、6.5〜7.5ppm(芳香環水素)にピークが観察された。また、SECの結果、質量平均分子量(Mw)=8300、数平均分子量(Mn)=4500、分散比1.8であった。
図21に示すように、TMAでは試験例2よりも50℃近く低温の120℃付近で変位が観測され、190℃でニードルが底部に達し溶融が観察された。図22に示すように、DSCでは1回目、2回目共に発熱ピークは観察されなかった。図23に示すように、TGAの結果、5%質量減少は310℃と100℃向上し、10%質量減少は320℃付近となった。
実施例6は、広葉樹のリグノフェノールのフェノール性水酸基をアシル化によって修飾した例を示す。なお、実施例6は、実施例5とはアシル化の方法のみが異なり、同一の操作及び装置の説明は適宜省略する。まず、絶乾ブナリグノフェノール300mgを3.0mLピリジンに溶解させ、無水安息香酸250mgを加えて攪拌し、空気中・室温・暗所に静置した。48時間後、反応混合液を40mLの冷水に磁気攪拌した後投入し、得られた沈殿を遠心分離で分離後、冷水30mLで洗浄した。得られた沈殿を凍結乾燥し、ブナリグノフェノール(p−クレゾールタイプ)安息香酸エステルをリグノフェノールベース収率112.4%で得た。
次いで、得られたリグノフェノールを以下に示すように、IR、NMR、SEC、TMA、DSC、TGAによって測定した。なお、DSC、TMA、及びTGAにおいては、試験例2で得られたリグノフェノールのデータを比較例として挙げる。
FT−IRの結果、図24に示すように、815cm−1(導入クレゾール芳香環隣接2水素の面外変角)、900cm−1(アセチル基によるシフト:導入クレゾール芳香環隣接2水素の面外変角)、1000〜1400cm−1(グアイアシル・シリンギル骨格:3位にメトキシル基を持つ芳香環の側鎖の伸縮・変角・振動)、1200〜1300cm−1(アセチル基のCOCH3アルキル変角振動)、1350〜1450cm−1(メチル基対称・非対称変角振動)、1450〜1600cm−1(芳香環炭素-炭素伸縮振動)、1700〜1740cm−1(脂肪族・フェノール性水酸基エステルC=O伸縮振動)、2930cm−1(メチル基/フェニルプロパンユニットプロパン側鎖C−H伸縮振動)の特徴的な吸収ピークが観測された。水酸基に特徴的な伸縮振動ピークを表す3400cm−1付近にはピークは現れなかった。
NMRの結果、1.6〜2.0ppm(クレゾールメチルプロトンピークのシフト)、2.0〜2.3ppm(導入クレゾールメチル水素)、3〜4ppm(メトキシル基メチル水素)、4.5〜4.8ppm(フェニルプロパン単位C1−C3水素)、5ppm(フェニルプロパン単位C2水素)、6.5〜7.5ppm(芳香環水素)ピークが観察された。また、SECの結果、質量平均分子量(Mw)=8700、数平均分子量(Mn)=4700、分散比1.9であった。
図25に示すように、TMAでは試験例2より40℃近く低温の130℃付近で変位が観測され、150℃でニードルが底部に達し溶融が観察された。DSCでは1回目、2回目共に発熱ピークは観察されなかった。図26に示すように、TGAの結果、5%質量減少は310℃と100℃向上し、10%質量減少は330℃付近となった。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。