以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する発明を実施するための形態(以下実施形態という)の内容によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。以下においては、振動解析の対象をタイヤ(空気入りタイヤを含む)とするが、本発明は、環状構造体であって、周方向に向かっていずれの子午断面(前記環状構造体の中心軸と平行かつ前記中心軸を含む平面で前記環状構造体を切った断面)も同様の形状であるもの(軸対称環状構造物)であれば適用できる。
図1は、タイヤの子午断面図である。タイヤ1は、回転軸(Y軸)を中心として回転する環状構造体であり、中心軸の周りに、周方向に向かって同様の形状の子午断面が展開される。図1に示すように、タイヤ1の子午断面には、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4、ビードコア5が現れている。タイヤ1は、母材であるゴムを、補強材であるカーカス2、ベルト3、あるいはベルトカバー4等の補強コードによって補強した複合材料の構造体である。ここで、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4等の、金属繊維や有機繊維等のコード材料で構成される補強コードの層をコード層という。
カーカス2は、タイヤ1に空気を充填した際に圧力容器としての役目を果たす強度メンバーであり、その内圧によって荷重を支え、走行中の動的荷重に耐えるようになっている。ベルト3は、キャップトレッドとカーカス2との間に配置されたゴム引きコードを束ねた補強コードの層である。なお、バイアスタイヤの場合にはブレーカと呼ぶ。ラジアルタイヤにおいて、ベルト3は形状保持及び強度メンバーとして重要な役割を担っている。
ベルト3の接地面(トレッド)G側には、ベルトカバー4が配置されている。ベルトカバー4は、例えば有機繊維材料を層状に配置したものであり、ベルト3の保護層としての役割や、ベルト3の補強層としての役割を持つ。ビードコア5は、内圧によってカーカス2に発生するコード張力を支えているスチールワイヤの束である。ビードコア5は、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4及びトレッドとともに、タイヤ1の強度部材となる。キャップトレッド6の接地面G側には、溝7が形成される。これによって、雨天走行時の排水性を向上させる。また、タイヤ1の側部はサイドウォール8と呼ばれており、ビードコア5とキャップトレッド6との間を接続する。また、キャップトレッド6とサイドウォール8との間はショルダー部Shである。次に、本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法を実行する装置について説明する。
図2は、タイヤの振動モードを示す図である。図2のA〜Lがタイヤの振動モードを示す。タイヤを非接地状態とし、かつタイヤの回転軸(図2のY軸)を固定した状態において、タイヤの振動モードは、図2に示すような形態に分類される。また、タイヤの振動モードは、振動の方向と、周方向における振動モードに対応する周上次数と、子午断面における振動モードに対応する断面次数とによって、図2のモードAからモードLのように分類される。
例えば、モードAは、振動の方向が径方向で、周上次数が1次の振動モードであり、モードDは、振動の方向が周方向で、周上次数が0次の振動モードであり、モードHは、振動の方向が横方向で、周上次数が0次の振動モードである。そして、さらに振動の方向によって特徴付けられる断面次数によって分類される。例えば、モードIは、振動の方向が径方向で、断面次数が1次の振動モードであり、モードKは、振動の方向が横方向で、断面次数が1次の振動モードである。振動の方向が周方向であり、周上次数が0次かつ断面次数が0次である場合、タイヤは回転軸(Y軸)の周りを揺動し、子午断面形状は変化しないモードHとなる。すなわち、タイヤの振動モードは、方向と周上次数、および断面次数が組み合わされた振動モードとなる。例えば、振動の方向が径方向で周上次数が2次かつ断面次数が1次である場合、タイヤ全体としては、モードBのようにタイヤの周方向に4個の腹と4個の節とを有する振動、及び子午断面においてモードIのように3個の腹と2個の節(ビード部は除く)とを有する振動が合成された振動モードになる。
図3は、タイヤを固有値解析して得られた振動モードを判別するためのパラメータの一例を示す図表である。図3には、振動モードを判別するためのパラメータが記述されている。図3に示す判別パラメータは、タイヤの周方向での次数成分に対応するパラメータである。タイヤの周方向での次数成分は、余弦成分と正弦成分(又は、大きさ及び位相)とがある。前記次数成分は、フーリエ変換で得ることができる。なお、図3に示す判別パラメータは、コンピュータで解析可能なタイヤの解析モデルタイヤを作成し、1次、2次の周上次数を規定して前記タイヤモデルに対して固有値解析を実行し、これによって得られた追加自由度から求められる。判別パラメータは、径方向、周方向、横方向それぞれに対して求められる。追加自由度から判別パラメータを求める手法は後述する。
判別パラメータの値が1になっている振動の方向及び周上次数が、そのモード番号の振動モードであると判別される。例えば、判別パラメータを参照すると、モード番号1、2は、振動の方向が横方向で周上次数が1次の振動モードであると判別される。また、モード番号3、4は、振動の方向が径方向で周上次数が1次、かつ振動の方向が周方向で周上次数が1次の振動モードであると判別される。モード番号9、10に着目すると、振動の方向は横方向、周上次数は1次の判別パラメータが1になっている。したがって、モード番号9、10の振動モードは、振動の方向が横方向で周上次数が1次であり、これは、モード番号1、2の振動モードと同じである。
一方、断面次数に着目すると、モード番号1、2の断面次数は1次(図2のモードK)であり、モード番号9、10の振動モードはモード番号1、2よりも高次なので、断面次数は2次(図2のモードL)になる。このように、判別パラメータ(次数成分に相当する)からは断面次数を判別できない。また、振動モードを目視すれば、人による判別ができる場合もあるが、判別に手間を要したり、周上次数が高次になると判別できなくなったりする。本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法は、タイヤのような環状構造体の振動の腹となる環状構造体の子午断面に存在する複数の観測点の振動情報を求め、求められた振動情報の変化から観測点の振動の節を抽出し、抽出された振動の節の数に基づいて断面次数を判別する。これによって、簡易かつ確実に環状構造体の断面次数を求めることができる。
図4は、本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法を実行する振動解析装置を示す説明図である。本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法は、図4に示す振動解析装置50によって実現できる。振動解析装置50はコンピュータであり、図4に示すように、処理部52と記憶部54とで構成される。また、この振動解析装置50には、入出力装置51が接続されており、ここに備えられた入力手段53で解析モデルであるタイヤモデルを構成するゴムの物性値や補強コードの物性値、あるいは振動解析における境界条件や解析する振動モードの数等を処理部52や記憶部54へ入力する。
入力手段53には、キーボード、マウス等の入力デバイスを使用することができる。記憶部54には、本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法を実現できるコンピュータプログラムやその他のコンピュータプログラムやデータテーブル、データマップ等が格納されている。記憶部54は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、又はフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法を実現できるコンピュータプログラムは、コンピュータシステムにすでに記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本発明に係る構造物の振動モード判別方法を実現できるものであってもよい。また、本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法を実現できるコンピュータプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録された前記コンピュータプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行させる。これによって、本発明に係る環状構造体の振動モード判別方法を実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
処理部52は、モデル作成部52aと振動解析部52bとモード判定部52cとを含む。モデル作成部52aは、振動解析に供するタイヤの解析モデルであるタイヤモデルを作成して、記憶部54に格納する。解析モデルとは、コンピュータで取り扱うことにより、種々の解析が可能なモデルである。振動解析部52bは、モデル作成部52aが作成した解析モデルを記憶部54から読み出し、その解析モデルに対して本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法に基づいた振動解析を実行する。そして、振動解析部52bは、解析結果を表示手段55に表示させたり、記憶部54に格納したりする。モード判定部52cは、振動解析部52bによる振動解析の結果を記憶部54から読み出し、前記結果に基づいて解析対象のタイヤモデルの振動モードを判定する。そして、モード判定部52cは、判定結果を記憶部54に格納したり、後述する表示手段55に表示させたりする。
処理部52は、例えば、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されている。環状構造体の振動モード判別においては、モデル作成部52aが作成したタイヤモデルや入力データ等に基づいて、処理部52が前記プログラムを処理部52に組み込まれたメモリに読み込んで演算する。その際に処理部52は、記憶部54へ演算途中の数値を適宜保存し、また記憶部54へ格納した数値を読み出して演算を進める。なお、この処理部52は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアによって、その機能を実現するものであってもよい。振動モードの判定結果は、入出力装置51の表示手段55に表示される。
表示手段55には、例えば、液晶表示装置を使用することができる。また、判定結果は、必要に応じて設けられたプリンタに出力することもできる。判定結果が格納される記憶部54は、他の装置(例えばデータベースサーバ)内にあってもよい。例えば、振動解析装置50は、入出力装置51を備えた端末装置から通信により処理部52や記憶部54にアクセスするものであってもよい。次に、本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法を説明する。
図5は、本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法の手順を示すフローチャートである。図6は、コンピュータを用いた振動解析の手順の一例を示すフローチャートである。図7は、タイヤモデルの一例を示す斜視図である。図8は、図7に示すタイヤモデルの子午断面図である。図9は、図7に示すタイヤモデルの側面図である。本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法を実行するにあたり、ステップS1において、振動解析を実行する。本実施形態において、実験によって振動解析をしてもよいし、コンピュータを用いて振動解析をしてもよい。次においては、コンピュータを用いた振動解析を説明する。コンピュータを用いた振動解析は、図4に示す振動解析装置50によって実現できる。
振動解析を実行するにあたり、図6のステップS11において、図4に示す振動解析装置50のモデル作成部52aは、振動解析の対象であるタイヤの解析モデル(以下タイヤモデルという)10を作成する。タイヤモデル10は、有限要素法や有限差分法等の数値解析手法を用いて振動解析を行うために用いるモデルで、例えば、コンピュータを用いて数値解析可能なモデルであり、数学的モデルや数学的離散化モデルを含む。本実施形態では、タイヤモデル10の振動解析に、有限要素法(Finite Element Method:FEM)を使用する。なお、本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法に適用できる解析手法は有限要素法に限られず、有限差分法(Finite Differences Method:FDM)や境界要素法(Boundary Element Method:BEM)等も使用できる。また、境界条件等によって最も適当な解析手法を選択し、又は複数の解析手法を組み合わせて使用することもできる。なお、有限要素法は、構造解析に適した解析手法なので、特にタイヤのような構造体に対して好適に適用できる。
ステップS11において、モデル作成部52aは、環状構造体であるタイヤ1を、複数かつ有限個の要素E1、E2・・・Enに分割して、図7、図8に示すタイヤモデル10を作成する。複数の要素E1、E2・・・Enは、それぞれ複数の節点で構成される。本実施形態では、タイヤモデル10は図7に示すような三次元形状の解析モデルとなる。なお、図8は、タイヤモデル10の回転軸(Y軸)を含み、かつ前記回転軸(Y軸)に平行な平面でタイヤモデル10を切った場合の断面(子午断面)である。
タイヤモデル10を構成する要素は、例えば、二次元体では、三辺形要素、四辺形要素、三次元体では四面体ソリッド要素、五面体ソリッド要素、六面体ソリッド要素等のソリッド要素や三角形シェル要素、四角形シェル要素等のシェル要素、面要素等、コンピュータで取り扱い得る要素とすることが望ましい。このようにして分割された要素は、解析の過程においては、二次元モデルでは二次元座標を用いて、三次元モデルでは三次元座標を用いて逐一特定される。
ステップS11でタイヤモデル10が作成されたらステップS12へ進む。ステップS12では解析条件が設定される。例えば、振動の周波数範囲や解析するモード数等が設定される。解析条件は、例えば、図4に示す振動解析装置50の入力手段53を介して入力されて、記憶部54に格納される。解析条件が設定されたらステップS13へ進み、振動解析装置50の振動解析部52bは、振動解析を実行する。振動解析としては、例えば、固有値解析や応答解析等がある。次に、本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法における振動解析について説明する。
例えば、タイヤの周方向1次/断面2次の振動モードに着目して、あるタイヤモデルに対して固有値解析を実行する場合、本実施形態では、計算の効率化(計算時間の短縮)及び着目する振動モードを効率的に抽出するため、次のような手法を用いて、不要な振動モードの計算を低減する。
図10は、周方向1次/断面2次の振動モードにおいて、タイヤモデルの複数の異なる子午断面内における同じ位置での周上における振動モードの成分を示す図である。図11は、図10に示す振動モードの次数成分の比率を示す図である。図10は、タイヤモデル10の周方向に向かって複数の異なる子午断面内の同じ位置における、タイヤモデル10の周上での振動モードの径方向成分r、周方向成分t、横方向成分yをそれぞれ示している。図11は、図10に示す振動モードの径方向成分r、周方向成分t、横方向成分yを、それぞれフーリエ変換等により次数分析して、最大となる次数の成分に対する次数成分の比率を各次数に対して表したものである。ここで、次数成分の比率は、タイヤモデル10の周上における振動モードの基本調波と高調波との比率を表したものに相当する。
図8は、図7に示すタイヤモデル10の子午断面を表す解析モデル(子午断面モデル10Ci、iはそれぞれの子午断面モデルを識別する番号)を示している。子午断面モデル10Ciは、タイヤモデル10の周方向の分割数に応じた数だけ存在する。図9に示す例では、タイヤモデル10が周方向にI分割されているものとし、I個の子午断面モデル10Ci(iは1〜I)がタイヤモデル10の周上に存在する。図10に示す例は、図8の子午断面モデル10Ciの節点Ni(すなわち、子午断面モデル10Ciの踏面であって、赤道面と交差する部分の節点)の振動モードを、複数の異なる子午断面モデル10Ci(iは1〜I)における同じ位置の節点に対して求めたものである。
図10の周上位置αは、図7、図9に示すタイヤモデル10の周上位置であり、図9のX軸を0radとしたときにおける、Y軸を中心としたX軸からの回転角度で表される。周上位置αは、図9のX軸を中心として時計回りに増加して、Y軸周りを1周してもとのX軸に戻る。図10から分かるように、中心軸(タイヤの回転軸Y)周りのいずれの子午断面においても同様の形状である環状構造体(例えば、タイヤ)は、異なる子午断面内における同じ位置における周上での振動モードの径方向成分r、周方向成分t、横方向成分yは、いずれも正弦波(あるいは余弦波)である。
そして、いずれの子午断面においても同様の形状である環状構造体では、異なる子午断面の同じ位置における周上での振動モードは、周方向の振動モードの次数に対する振動のみであり、周方向の振動モードの次数よりも小さい次数や大きい次数の振動の成分は含まない。図10、図11に示す例では、周方向の振動モードの次数が1次なので、異なる子午断面の同じ位置における周上での振動モードは基本次数(1次)に対する振動の成分のみであり、均等な成分(0次)や高調波成分(2次以上)は含まない。
なお、図10、図11は、タイヤモデル10の周方向1次/断面2次の振動モード、かつ子午断面モデル10Ciの踏面であって、赤道面と交差する部分の節点Niでの結果であるが、他の振動モード、節点でも同様である。例えば、図10に示す例では、周方向の振動モードの次数が1次であるが、周方向の振動モードの次数がm次(mは整数)である場合、異なる子午断面の同じ位置における周上での振動モードは、m次の成分のみを有することになる。このように、いずれの子午断面においても同様の形状である環状構造体では、異なる子午断面の同じ位置における周上での振動モードは、特定の次数(周方向の振動モードの次数)以外は持たない。
本実施形態では、中心軸周りのいずれの子午断面においても同様の形状である環状構造体は、異なる子午断面の同じ位置における周上での振動モードは特定の次数のみを有することを利用して、着目する振動モードの周方向における次数成分のみに周上の変形を規制する。すなわち、異なる子午断面の同じ位置における周上での振動モードは特定の次数のみを有することから、異なる子午断面の同じ位置における周方向1周分の節点群の振動は、正弦波(あるいは余弦波)で決定できる。したがって、前記節点群を構成するすべての節点の変位は、正弦波(あるいは余弦波)及び位相によって定められるので、前記節点群を構成するすべての節点の自由度を独立に設定する必要がなくなる。これによって、独立な自由度を低減できるので、計算時間を短縮できる。また、着目する振動モードの周方向における次数成分のみに周上の変形を規制することにより、振動解析においては、規制された振動モードのみが計算されるので、出現する振動モードの数を低減できる。その結果、着目する振動モードを効率的に抽出できる。
図12は、タイヤモデルを円筒座標系で表した模式図である。図13は、図12のX軸方向からタイヤモデルを見た状態を示す模式図である。図12、図13に示す節点Niは、ある子午断面モデル10Ci内に存在する。径方向R、周方向T、横方向Y(タイヤモデル10の回転軸Yと平行)の円筒座標系(R、T、Y)としたとき、節点Niの変位は、径方向の成分をΔRi、周方向の成分をΔTi、横方向の成分をΔYiとすると、ΔRi、ΔTi、ΔYiは、それぞれ式(1)、式(2)、式(3)のようになる。
ここで、nは着目する周方向の振動モードの次数、iはタイヤモデル10の周方向における分割数であり子午断面モデル10Ciを識別する番号、θは子午断面モデル10Ciの位置を示す中心角、q1n、q2nは径方向成分(R成分)の追加自由度、s1n、s2nは周方向成分(T成分)の追加自由度、p1n、p2nは横方向成分(Y成分)の追加自由度である。追加自由度がそれぞれの成分に対してそれぞれ2個存在するのは、振動の腹及び節の位置を固定させないためである。なお、n=0である場合、sin(0×θi)=0となるので、追加自由度は1個になり、nが1以上であれば、追加自由度は2個になる。
ここで、nは着目する周方向の振動モードの次数、iはタイヤモデル10の周方向における分割数であり子午断面モデル10Ciを識別する番号、θは子午断面モデル10Ciの位置を示す中心角、q1n、q2nは径方向成分(R成分)の追加自由度、s1n、s2nは周方向成分(T成分)の追加自由度、p1n、p2nは横方向成分(Y成分)の追加自由度である。追加自由度がそれぞれの成分に対してそれぞれ2個存在するのは、振動の腹及び節の位置を固定させないためである。なお、n=0である場合、sin(0×θi)=0となるので、追加自由度は1個になり、nが1以上であれば、追加自由度は2個になる。タイヤのベルトのような傾斜補強層を有する構造体では周上の節の位置が同じ断面になるとは限らないため1個の追加自由度で表現すると過剰拘束になり、固有振動数の計算精度の低下や振動モードも正確に表現できなくなるおそれがある。このため、追加自由度をそれぞれ2個とすることで、同一断面に節の位置が固定されることを回避できる。
節点Niの変位の径方向の成分ΔRiと周方向の成分ΔTiと横方向の成分ΔYiとを、それぞれ直交座標系(X、Y、Z)におけるX方向の成分ΔXiとY方向の成分ΔYiとZ方向の成分ΔZiとを用いて表現すると、ΔRiは式(4)、ΔTiは式(5)、ΔYiは上述した式(3)のようになる。
式(1)=式(4)としてΔRiを消去し、また、式(2)=式(5)としてΔTiを消去して、ΔXi、ΔZiについて整理すると、直交座標系(X、Y、Z)における節点Niの変位は、式(6)、式(7)、式(8)のようになる。なお、式(8)は、上述した式(3)と同じである。
ステップS13における振動解析においては、式(6)、式(7)、式(8)をタイヤモデル10の異なる子午断面モデル10Ci内の同じ位置に存在するそれぞれの節点Niに付与し、節点群として取り扱う。すなわち、振動解析部52bは、タイヤモデル10の異なる子午断面モデル10Ci内の同じ位置に存在する節点Niをタイヤモデル10の周方向1周分まとめて節点群とする。そして、振動解析部52bは、前記節点群に含まれるそれぞれの節点Niの変位を、タイヤモデル10の周方向1周nサイクルの正弦波と余弦波との少なくとも一方と、追加自由度との積の重ね合わせで規定して、振動解析を実行する。ここで、nは整数(0及び正の整数)である。なお、n=0の場合は、余弦波を用いる必要があり、cos(0)=1であるため、タイヤモデル10は、周上で一様な変形をする。
例えば、振動解析装置50の記憶部54に式(6)、式(7)、式(8)を格納しておく。振動解析においては、振動解析部52bが記憶部54から式(6)、式(7)、式(8)を読み出し、タイヤモデル10の異なる子午断面モデル10Ci内の同じ位置に存在する節点群に含まれるそれぞれの節点の変位を、式(6)、式(7)、式(8)で定義する。そして、振動解析部52bは、この定義に基づいて振動解析を実行し、その結果を記憶部54に保存する。ここで、タイヤモデル10の異なる子午断面モデル10Ci内の同じ位置に存在する節点Niは、それぞれの子午断面モデル10Ci内における節点の座標で特定される。すなわち、それぞれの子午断面モデル10Ci間において同じ座標の節点が、タイヤモデル10の異なる子午断面モデル10Ci内の同じ位置に存在する節点Niとして特定され、節点群として取り扱われる。
これによって、振動解析においては、前記節点群の独立な自由度を低減できるので、計算時間を短縮できる。また、着目する振動モードの周方向における次数成分のみに周上の変形が規制されるので、規制された振動モードのみが計算される。その結果、振動解析では、出現する振動モードの数を低減できるので、着目する振動モードを効率的に抽出できる。また、本実施形態では、追加自由度を規定する関係式である式(6)、式(7)、式(8)をタイヤモデル10の節点に付与すればよいので、振動解析以外の解析(例えば、転動解析やインフレート解析)に前記関係式を除去することで、振動解析とその他の解析とで共通のタイヤモデルを用いることもできる。これによって、異なる解析においてもタイヤモデルを複数用意する必要はないので、評価の効率化を図ることができる。さらに、本実施形態では、モード刺激係数を用いないので、着目する振動モードに制限はない。
なお、タイヤモデル10の周方向1周nサイクルの正弦波と余弦波との少なくとも一方と、追加自由度との積の重ね合わせで規定する節点群は、子午断面内に存在する少なくとも一つの節点に対して規定すればよい。このようにしても、タイヤモデル10全体の独立な自由度を低減できるので、計算時間を短縮できる。また、節点Niの並進3成分(ΔXi、ΔYi、ΔZi)のうち少なくとも一つに対して、タイヤモデル10の周方向1周nサイクルの正弦波と余弦波との少なくとも一方と、追加自由度との積の重ね合わせで規定してもよい。このようにしても、タイヤモデル10全体の独立な自由度を低減できるので、計算時間を短縮できる。
また、サイクル(次数n)は単独でもよいし、複数でもよい。後者の意味は、例えば、n=1、n=2、n=3を足し合わせてもよいということである。すなわち、例えば、節点Niの変位ΔXiについては、ΔXi(n=1)+ΔXi(n=2)+ΔXi(n=3)としてもよい。これによって、振動解析においては、周方向の振動モードを複数重ね合わせて表現することができる。
ステップS13の振動解析においては、着目する振動モードの周上次数が0次(すなわちn=0)である場合には1個、1次以上(n≧1)の場合、振動解析部52bは、2個の追加自由度を節点群に設定する。そして、振動解析部52bは、設定した追加自由度に従属となるように、節点群に含まれるそれぞれの節点の変位を規定する。これによって、タイヤモデル10の周方向で、π/(2×n)だけ振動の腹/節の位置がずれた重根の振動モードを適切に表現させることができる。なお、0次、すなわちn=0はタイヤモデル10の周方向において一様な変位になるため、追加自由度は一つで表現できる。また、タイヤのように、異方性を有する補強コード層(図1に示すカーカス2やベルト3)が斜めに配置された構造物の場合、タイヤモデル10の周方向における振動の腹や節の位置が子午断面の位置によって異なる。このため、振動の腹や節を任意に表現できるように、追加自由度は2個とすることが好ましい。
次に、タイヤモデル10の周方向の分割について説明する。タイヤモデル10の周方向の分割が不等分割であると、タイヤモデル10の周方向で要素の形状が異なることによる振動モードの不均一が発生し、解析精度が低下するおそれがある。このため、タイヤモデル10の周方向を等分割することにより、振動解析の精度低下を抑制する。
また、タイヤモデル10の周方向の分割数が少ないと、タイヤモデル10が多角形形状になり解析精度が低下するので、分割数は48以上、好ましくは60分割以上が望ましい。しかしながら、360分割を超えても実質的に解析精度の向上は認められない。また、上述した関係式で周方向の節点群の変位を規制するため、分割数が増加しても独立な自由度の数に変化はないが、前記関係式をタイヤモデル10へ組み込む過程で計算時間が増加してしまう。このため、タイヤモデル10の周方向の分割は360分割以下が好ましい。
タイヤモデル10の周方向の分割数が奇数である場合、重根のモードで腹や節の位置が要素間と要素境界とに分かれてしまい、要素分割の影響を受ける。その結果、振動解析で計算される固有振動数が分裂してしまい、解析精度の低下を招くおそれがある。このため、タイヤモデル10の周方向の分割数は偶数であることが好ましい。これによって、解析精度の低下を抑制できる。
タイヤの周上で均一な予荷重(例えば、内圧)が作用する場合、ステップS13の振動解析の前に、振動解析部52bは、タイヤモデル10の周上における変形を考慮して、すなわち、周上における均等な変形を抑制せずに予荷重の解析を実行する。そして、振動解析において、振動解析部52bは、上述した関係式により、節点群の変位を規定する。これによって、予荷重の効果を考慮することができる。予荷重を計算するときには、上述した関係式を無効にしてもよいし、0次、すなわち、n=0を含む関係式を用いてもよい。すなわち、0次が均一な変形を表現する次数なので、n=0とすれば予荷重の効果を計算できる。上述した関係式を用いる場合、予荷重の計算時には少なくとも0次を有効にして、振動解析時に不要であれば、振動解析部52bは、0次の自由度を、予荷重を計算した後の値で拘束して振動解析を実行してもよい。
コンピュータによる振動解析は、上述したものに限られない。計算効率は低下するが、着目する振動モードが含まれると予想される振動モードの個数や周波数範囲を設定して振動解析(例えば、固有値解析)を実行してもよい。振動解析が終了したら、図5に示すステップS2へ進み、解析対象であるタイヤの周方向での次数成分を、振動の方向毎に求める。例えば、上述したように、着目する振動モードの周方向における次数成分のみに周上の変形を規制して固有値解析を実行し、解析後における追加自由度の各振動モードの値を用いて、前記次数成分を求める。解析対象であるタイヤ(環状構造体)の径方向、周方向、横方向の各方向、及びそれぞれの方向の次数について、追加自由度から得られる次数成分の大きさを比較すれば、どの次数成分が大きいかにより、タイヤの振動モードを判別できる。この判別に用いる子午断面内の節点の位置は、タイヤモデル10の代表となる節点が好ましく、少なくとも1点あればよい。
例えば、図7に示すタイヤモデル10で1次、2次の周上次数nをそれぞれ規定して(n=1、2)固有値解析を実行し、径方向、周方向、横方向それぞれに対して、各方向の追加自由度を用いて各方向の次数成分を求める。径方向の次数成分RF、周方向の次数成分TF、幅方向の次数成分YFはそれぞれ式(9)〜(11)のようになる。径方向の次数成分RFn、周方向の次数成分TFn、幅方向の次数成分YFnは、余弦(cos)成分及び正弦(sin)成分にそれぞれ対応する追加自由度f1n、f2nから、√(f1n 2+f2n 2)のように合成した値である。本実施形態において、追加自由度は、タイヤモデル10のトレッドセンターを規定する節点群のものを用いた。
RFn=√(q1n 2+q2n 2)・・・(9)
TFn=√(s1n 2+s2n 2)・・・(10)
YFn=√(p1n 2+p2n 2)・・・(11)
本実施形態では、それぞれの次数成分RF、TF、YFを、各振動モードでの追加自由度の最大値fmaxで規格化して、判別パラメータとする。径方向の次数成分RFに基づく判別パラメータRFpnは式(12)で、周方向の次数成分TFに基づく判別パラメータTFpnは式(13)で、幅方向の次数成分YFに基づく判別パラメータYFpnは式(14)で求める。それぞれの判別パラメータRFp、TFp、YFpは、それぞれの次数成分RF、TF、YFに対応しており、それぞれの次数成分RF、TF、YFに相当するパラメータとなる。それぞれの判別パラメータRFp、TFp、YFpの計算例は、図3に示すようになる。
RFpn=√(q1n 2+q2n 2)/fmax・・・(12)
TFpn=√(s1n 2+s2n 2)/fmax・・・(13)
YFpn=√(p1n 2+p2n 2)/fmax・・・(14)
図4に示す振動解析装置50の振動解析部52bは、例えば、タイヤモデル10に対して固有値解析を実行し、その結果(例えば、追加自由度やその最大値等)を記憶部54に保存する。上述した式(9)〜式(14)は、記憶部54に保存されている。ステップS2において、振動解析装置50のモード判定部52cは、記憶部54から固有値解析の結果や式(9)〜(11)等を読み出し、振動の方向及びモード番号毎に、次数成分RFn、TFn、YFn、あるいは判別パラメータRFpn、TFpn、YFpnを計算する。これによって、次数成分(あるいは次数成分と相関のある判別パラメータ)が求められる。計算した結果は、記憶部54に保存される。この場合、例えば、図3に示すように、モード判定部52cは、それぞれの振動の方向(径方向、周方向、横方向)に対応した判別パラメータRFpn、TFpn、YFpnの値を、周上次数毎、かつそれぞれのモード番号に対して記述し、記憶部54に保存する。
図3には、ステップS2で求められた判別パラメータRFpn、TFpn、YFpnの値が記述されている。判別パラメータRFpnは径方向の振動モードを判別するものであり、判別パラメータTFpnは周方向の振動モードを判別するものであり、判別パラメータYFpnは横方向の振動モードを判別するためのものである。nの値が周上次数を示す。例えば、判別パラメータRFp1の値が1であるモード番号での振動は、振動の方向が径方向で周上次数が1次の振動モードである。また、判別パラメータTFp2の値が1であるモード番号での振動は、振動の方向が周方向で周上次数が2次の振動モードであると判別できる。
ステップS3において、モード判定部52cは、判別パラメータRFpn、TFpn、YFpnの値(次数成分の大きさ)によって、振動の方向及び周上次数を求める。すなわち、モード判定部52cは、振動の方向及び周上次数を求めようとするモード番号の判別パラメータの値を取得する。そして、モード判定部52cは、値が1である判別パラメータの種類から前記モード番号の振動の方向を求め、値が1である判別パラメータの周上次数を前記モード番号の周上次数として、振動の方向及び周上次数を、求めようとするモード番号と対応付けて記憶部54に保存する。
それぞれのモード番号(図3では1〜16)に対応する振動は、判別パラメータRFp、TFp、YFpの値が1になっている方向及び周上次数に対応する振動モードであると判別される。例えば、モード番号1、2の振動は、横方向1次の判別パラメータYFpnが1なので振動の方向が横方向で周上次数が1次の振動モードであり、モード番号5、6の振動は、径方向2次の判別パラメータRFpnが1なので振動の方向が径方向で周上次数が2次の振動モードであると判別できる。モード番号9、10の振動は、横方向1次の判別パラメータYFpnが1なので振動の方向が横方向で周上次数が1次の振動モードである。上述したように、次数成分や判別パラメータからは断面次数を判別できないので、モード番号1、2の振動形態とモード番号9、10の振動形態とを区別することはできない。
本実施形態では、タイヤの振動の腹となるタイヤの子午断面に存在する複数の観測点の振動情報を求め(ステップS4)、その振動情報の変化から観測点の振動の節を抽出し(ステップS5)、抽出された振動の節の数に基づいて環状構造体の断面次数を求める(ステップS6)。これによって、タイヤの振動モードを判別する。
図14は、タイヤモデルあるいはタイヤの振動の腹となる子午断面を示す断面図である。図15は、観測点の振動情報を求めた結果の一例を示す図である。ステップS4において、タイヤ1あるいはタイヤモデル10の振動の腹となる子午断面(評価子午断面)に存在する複数の観測点の振動情報を求める。図14は、評価子午断面であり、タイヤ1の評価子午断面は符号1CSb、タイヤモデル10の評価子午断面は符号10CSbで示される。
周上次数がnである場合におけるタイヤモデル10(あるいはタイヤ1)の振動の余弦成分がp1n、正弦成分がp2nであるとき、図12に示すタイヤモデル10(あるいはタイヤ1)の周方向位置θにおける振動(振動情報)をYvとすると、Yvは式(15)で表現される。p1n、p2nは、上述した横方向成分(Y成分)の追加自由度である。
Yv=p1n・cos(n・θ)+p2n・sin(n・θ)・・・(15)
タイヤモデル10(あるいはタイヤ1)の振動の腹となる子午断面、すなわち評価子午断面は、Yvの振幅が極大かつ極小となる周方向位置、すなわち、振幅が最大となる周方向位置に存在する。Yvの振幅が極大かつ極小になる周方向位置は、Yvの一回微分値Yv’=0の位置である。すなわち、Yv’=−n・p1n・sin(n・θ0)+n・p2n・sin(n・θ0)=0から、θ0は、式(16)のようになる。図14に示すタイヤモデル10の評価子午断面10CSb(タイヤ1の評価子午断面1CSb)は、周方向位置がθ0=arctan(p2n/p1n)/nの子午断面である。
θ0=arctan(p2n/p1n)/n・・・(16)
図14に示す評価子午断面10CSb(1CSb)には、複数(本実施形態では11個)の観測点20A〜20Kが設定される。観測点20A〜20Kは、評価子午断面10CSb(1CSb)の一方のビード5Aから他方のビード5Kまでの間に設けられる。本実施形態において、観測点20A〜20Kは、カーカス2上に配置されるが、これに限定されるものではない。観測点20A〜20Kのそれぞれの座標を直交座標系で表すと、(Xoj、Yoj、Zoj)=Pojとなる。jは、それぞれの観測点20A、20B、・・・20Kを識別するための識別子であり、同じ評価子午断面10CSb(1CSb)内において、観測点20A、20B、・・・20Kが異なる位置に存在することを識別するためのものである。j=1が観測点20Aに、j=2が観測点20Bに対応し、以下同様にそれぞれの観測点に対応する。
それぞれの観測点20A、20B、・・・20Kにおける振動情報(振幅と符号との少なくとも一方)は、それぞれの観測点20A、20B、・・・20Kの座標の振動であり、これは、式(17)〜式(19)のθに式(16)から求めたθ0を与えることによって求めることができる。
Xoj=cos(θ)・[{q1nj・cos(n・θ)+q2nj・sin(n・θ)}−{s1nj・cos(n・θ)+s2nj・sin(n・θ)}]・・・(17)
Yoj=p1nj・cos(n・θ)+p2nj・sin(n・θ)・・・(18)
Zoj=sin(θ)・[{q1nj・cos(n・θ)+q2nj・sin(n・θ)}+{s1nj・cos(n・θ)+s2nj・sin(n・θ)}]・・・(19)
q1nj、q2njは径方向成分(R成分)の追加自由度、s1nj、s2njは周方向成分(T成分)の追加自由度、p1nj、p2njは横方向成分(Y成分)の追加自由度、nは周上次数である。それぞれの追加自由度は、観測点20A、20B、・・・20Kが、評価子午断面10CSb(1CSb)内の異なる位置に存在することに対応して、それぞれの観測点20A、20B、・・・20Kに対応して求められる。それぞれの追加自由度に付される識別子jは、それぞれの観測点20A、20B、・・・20Kに対応することを示すためのものである。
例えば、図4に示す振動解析装置50の記憶部54に、式(16)〜式(19)を保存しておき、ステップS4において、モード判定部52cは、固有値解析の結果から追加自由度p1nj、p2njを読み出し、断面次数を求めようとする周上次数nに対応する値とともに式(16)に与えて評価子午断面10CSbのθ0求める。そして、モード判定部52cは、求めたθ0に対応する評価子午断面10CSb上に存在する観測点20A、20B、・・・20Kに対応する追加自由度を記憶部54から読み出す。その後、モード判定部52cは、識別子jを参照して、θ0及びそれぞれの観測点20A、20B、・・・20Kに対応する追加自由度を式(17)〜式(19)に与えて、それぞれの観測点20A、20B、・・・20Kの座標(Xoj、Yoj、Zoj)の振動(振動情報)を求める。
図15には、ステップS4において求められた、それぞれの観測点20A、20B、・・・20Kの振動(振動情報)が記述される。より具体的には、各観測点20A、20B、・・・20Kの振幅aが、観測点20Aから順に記述されている。振幅aは、0を基準として符号が正の振幅と符号が負の振幅とがある。この結果から、ステップS5において、評価子午断面10CSb(1CSb)における振動の節の数を抽出する。本実施形態においては、モード判定部52cが振動の節を抽出する。例えば、各観測点20A、20B、・・・20Kの振幅aの値から、振幅aを各観測点20A、20B、・・・20Kの位置bの関数f(b)として表現し、関数f(b)と縦軸a=0との交点の数を求める。この交点の数が、評価子午断面10CSb(1CSb)における振動の節の数となる。なお、図14に示すビード5A、5Kは、振動の節としない。また、隣接する観測点間で振幅aの符号が反対になる部分の数と、振幅aが0になる観測点(ビード5A、5Kは除く)の数との和を振動の節と判定してもよい。
図15に示す例では、観測点20C、20D間、観測点20D、20E間、観測点20G、20H間、観測点20H、20I間で振幅aの符号が反対になっている。したがって、図15の例では、振動の節が21A、21B、21C、21Dの4個存在することになる。ステップS5においては、モード判定部52cが、得られたそれぞれの観測点20A、20B、・・・20Kの振動(振動情報)から上述の関数f(b)を生成したり、上述の手法により隣接する振幅aの符号を判定したりして、振動の節の数を抽出する。
図14に示す例において、観測点20A〜20Kは、振動の節を確実に抽出する観点から等間隔に配置することが好ましい。ただし、タイヤ(特に空気入りタイヤ)は、トレッドGの剛性が高く、質量も大きいので、トレッドGの振動が大きくなる。したがって、タイヤの場合には、トレッドGの領域とサイドウォール8の領域において、観測点の数や位置はそれぞれ別個に設定することが好ましい。この場合、トレッドGの領域における観測点20D〜20Hは、一方のサイドウォール8の領域における観測点20B、20C、あるいは観測点20I、20Jよりも密に設けられることが好ましい(ビード5A、5Kはリムと嵌合して振動が小さくなるため、この部分の観測点20A、20Kは考慮しない)。これによって、観測点の数を無闇に増加させずに、振動の節及びその数を確実に抽出できる。
また、評価子午断面10CSb(1CSb)に存在する観測点20A〜20Kにおいて、隣接する観測点間の最長距離Kmaxと最短距離Kminとの比Kmax/Kminを2以下とし、トレッドGの領域における観測点20D〜20Hの数を、両方のサイドウォール8の領域における観測点20A〜20C及び20I〜20Kの数の総和から2を減算した値よりも多くしてもよい。これによって、トレッドGの領域とサイドウォール8の領域との間における質量や剛性の違いを考慮できるので、振動の節及びその数をより確実に抽出できる。2を減算するのは、リムと嵌合して振動が小さくなるビード5A、5Kに存在する観測点20A、20Kを除くためである。振動の節の数が抽出されたら、モード判定部52cは振動の節を記憶部54に保存して、ステップS6に進む。
ステップS6において、抽出された振動の節の数に基づいて、断面次数が求められる。断面次数をQとすると、ステップS5において求められた振動の節の数Rと振動の方向(径方向、周方向、横方向)とから、断面次数Qは次のように求められる。すなわち、振動の方向が径方向である場合、断面次数QはR/2、振動の方向が周方向である場合、断面次数QはR、振動の方向が横方向である場合、断面次数Qは(R+1)/2となる。断面次数Rと、振動の節の数R及び振動の方向との関係は、記憶部54に保存されている。振動の方向はステップS3で求められており、振動の節の数RはステップS5で抽出されている。このため、ステップS6で断面次数Qが求められる。本実施形態においては、モード判定部52cが、振動の方向及び振動の節の数R、並びに上述した断面次数Qと振動の節の数R及び振動の方向との関係を記憶部54から読み出して、断面次数Qを求める。求められた断面次数Qは、モード判定部52cによって記憶部54に保存される。上記手順によって振動の方向、周上次数n、断面次数Qが求められたので、ステップS7で、振動モードが判別される。
図16は、本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法によって得られたタイヤの振動モードを求めた結果の一例を示す図である。図16の図表は、タイヤの振動モード判定結果を記述したデータテーブル30であり、振動解析装置50が上述した本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法を実行することによって振動解析装置50によって作成され、記憶部54に保存される。データテーブル30には、振動の方向と当該振動の方向における周上次数に対して、それぞれのモード番号の断面次数Qが記述されている。
それぞれのモード番号(図16では1〜16)に対応する振動は、断面次数Qの値が0以外になっている振動の方向かつ周上次数であり、断面次数Qは断面次数の値と判別される。例えば、モード番号1、2の振動は、横方向1次の断面次数が1なので、振動の方向が横方向で周上次数が1次、断面次数が1次の振動モードであり、モード番号5、6の振動は、径方向2次の断面次数が1なので、振動の方向が径方向で周上次数が2次、断面次数が1次の振動モードであると判別できる。モード番号9、10の振動は、横方向1次の断面次数が2なので振動の方向が横方向で周上次数が1次、断面次数が2次の振動モードであると判別できる。これは、モード判定部52cがデータテーブル30を記憶部54から読み出して、断面次数Qに対応する振動の方向と周上次数と断面次数Qの値とから判別することができる。このように、本実施形態によれば、振動の方向、周上次数、断面次数を求めることができるので、モード番号1、2の振動形態とモード番号9、10の振動形態とを区別することができる。
図17は、観測点の数の説明図である。観測点の数をJとし、求めようとするタイヤの断面次数をQとしたとき、Jは3以上かつJ=2×Q+1とすることが好ましい。図17に示す例では、振動の方向が径方向で、求めようとする断面次数が2次である場合の例を示す。この場合、2点鎖線で示す評価子午断面10CSb(1CSb)の形状が、元の評価子午断面10CSb(1CSb)の形状(実線)を横切る部分が振動の節21A、21B、21C、21Dとなる。このように、振動の節が4個ある場合、上記Jを求める式から、少なくとも5個(J=2×Q(=2)+1=5)の観測点20A〜20Eが必要になる。上述したJの関係式に基づいて観測点の数を設定すれば、評価子午断面10CSb(1CSb)内での振動の節を確実に判別できる。なお、観測点の数は、上述したJに対して2倍以上とすることがより好ましい。このようにすれば、より確実に振動の節を判別できる。観測点の数は、少なくともステップS4までに設定される。
図18は、評価子午断面を示す断面図である。図19は、観測点の振動情報を求めた結果の一例を示す図である。環状構造体が中実である場合、振動の方向が径方向である場合には、振動情報(振動量)の径方向成分を用いて振動の節及びその数を抽出してもよい。しかし、空気入りタイヤのような中空の環状構造体は、径方向と横方向との連動が大きくなるので、振動の節及びその数が誤って抽出されてしまうおそれがある。例えば、振動の方向が径方向で、断面次数が2次である場合、図18に示す評価子午断面10CSb(1CSb)に存在する観測点20A〜20Kの径方向(回転軸であるY軸に直交する方向であり、図18の実線の矢印で示す方向)における振動量を振動情報として用いて振動の節及びその数を抽出した場合を考える。この場合、図19に示すように、振動の節の数は符号21E、21Fで示す2個となる。断面次数が2次である場合は、図15に示した結果と同様になるが、図18に示すように、観測点20A〜20Kの径方向における振動量を振動情報として用いると、図15に示す結果とは異なってしまう。
このため、本実施形態では、振動の方向が径方向であれば、観測点20A〜20Kが存在する子午断面、すなわち、評価子午断面10CSb(1CSb)の断面形状に対して法線方向における観測点20A〜20Kの振動量の成分を振動情報として用いて、振動の節及びその数を抽出する。例えば、図18に示す例では、評価子午断面10CSb(1CSb)の外表面形状に対して法線方向(図18の点線の矢印で示す方向)における観測点20A〜20Kの振動量の成分を振動情報として用いる。これによって、図15に示す結果と同様な結果を得ることができるので、振動の節及びその数を確実に抽出できる。評価子午断面10CSb(1CSb)の断面形状は、外表面形状に限定されるものではなく、例えば、内表面形状やカーカスラインであってもよい。このようにすれば、より滑らかな線上に観測点20A〜20Kを設けることができるので、振動の節及びその数をより確実に抽出できる。
また、観測点20A〜20Kが存在する位置における接線(この例では、観測点20A〜20Kがカーカス2上に存在するので、観測点20A〜20Kの位置におけるカーカス2との接線)の二分線方向における観測点20A〜20Kの振動量の成分を振動情報として用いてもよい。上述した法線方向は、評価子午断面10CSb(1CSb)の断面形状に対して厳密なものでなくてもよいので、前記法線方向を設定する代表的な形状を予め定めておいてもよい。なお、振動の方向が横方向及び周方向であれば、その振動の方向における観測点20A〜20Kの振動量の成分を振動情報として用いて、振動の節及びその数を抽出する。
上述した例では、コンピュータである振動解析装置50を用いて本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法を実現した。しかし、本実施形態に係る環状構造体の振動モード判別方法はこれに限定されるものではない。例えば、振動測定装置による加振実験の結果から、環状構造体、例えばタイヤの振動モードを判別してもよい。
図20は、振動測定装置の概略説明図である。振動測定装置100は、装置台座102と、構造物支持体104と、振動検出手段である振動計109A〜109Eと、振動解析装置108とを含んで構成される。振動計109A〜109Eはタイヤ101の表面に取り付けられている。振動計109A〜109Eは、タイヤ101の子午断面において、タイヤ101の表面に沿って所定間隔で配置される。なお、振動計109A〜109Eの他に、タイヤ101の周方向に向かって振動計を取り付けてもよい。
振動計109A〜109Eは、変位計、速度計、加速度計いずれでもよい。構造物支持体104の一方には、タイヤ(空気入りタイヤ)101とホイール106とで構成されるタイヤ/ホイール組立体107が取り付けられるブラケット105が設けられている。また、構造物支持体104は、装置台座102に固定される。なお、構造物支持体は上記構成に限定されるものではなく、対象とする構造物の振動を妨げないように構成されていればよい。
加振実験においては、振動モードを判定する対象の環状構造体であるタイヤ101を、ハンマー等によって打撃して加振する。そして、振動計109A〜109Eによってタイヤ101の振動を検出する。振動計109A〜109Eが観測点となる。したがって、振動計109A〜109Eが設けられる子午断面が、タイヤ101の評価子午断面となる。振動計109A〜109Eによって検出されたタイヤ101の振動は、振動解析装置108に取り込まれる。本実施形態において、振動解析装置108には、例えば、多チャンネルを処理できるFFT(Fast Fourier Transform)アナライザが組み込まれている。振動解析装置108に取り込まれたタイヤ101の振動は、FFTにより周波数分析される。
打撃の位置は、対象となる振動モードを励起できるように振動モードの腹の位置に設定するとよい。また、ステップS2での周上の次数を判別するために必要な周上の振動分布を得るために、周上で所定間隔離れた複数位置でも打撃しそれぞれ計測するとよい。ここで打撃位置は、対象とする周上次数の2倍以上の箇所で行うのが好ましい。なお、打撃する位置を変えるかわりに、振動計109A〜109Eの少なくとも1つの位置で周上の複数箇所に振動計を配置して振動情報を得てもよい。いずれの方法でも周上での振動の分布状態(周上次数を得るための情報)を得ることができる。ここで、振動情報は加振信号で規格化するとよい。例えば加振信号を入力として振動計で検出された信号を応答とする伝達関数を用いるとよい。また、判別のための信号は上記伝達関数のピーク値と位相を用いてもよいし、実験モード解析を実施して固有ベクトルを抽出し、これを用いてもよい。
図21−1、図21−2は、振動の方向を判定する手法の説明図である。振動解析装置108による周波数分析が、ステップS1における振動解析に相当する。ステップS2における次数成分は、振動解析装置108による周波数分析データのうち、同じ子午断面の位置にある観測点の周上の振動分布から求められる。例えば、周上の振動量を、1周を基本周期としてフーリエ次数分析を行い、次数を求めてもよいし、振動量の山/谷の数を数えてもよい。ステップS3において、振動方向は、タイヤ101の子午断面内において幅方向(タイヤ101の回転軸と平行な方向)中央部分の振動計109Cから得られたタイヤ101の振動情報から求めてもよい。また、振動方向は、タイヤ101の幅方向中心に対して対称な位置に配置された2点の振動計(例えば、振動計109Aと振動計109E)の振動情報から求めてもよい。さらに多くの振動計から得られる振動情報を用いて振動の方向を求めてもよい。
例えば、振動計109C等から得られる振動情報がタイヤ101の周方向である場合、タイヤ101の振動の方向は周方向であると判定する。タイヤ101の幅方向中心に対して対称な位置に配置された2点の振動計109A、109Eを用いる場合、図21−1に示すように、振動計109Aの振動量Yaと振動計109Eの振動量Ybとの符号(又は位相)が逆であるとき、評価子午断面1CSbの振動の方向は径方向であると判定する。また、図21−2に示すように、振動計109Aの振動量Yaと振動計109Eの振動量Ybとの符号が同じであるとき、評価子午断面1CSbの振動の方向は横方向であると判定する。
タイヤ101の子午断面内において幅方向中央部分の振動計109Cを用いる場合、振動計の径方向、横方向、および周方向の成分の大きさを比較し、図21−1に示すように径方向成分が大きければ、評価子午断面1CSbの振動の方向は径方向であると判定する。また、図21−2に示すように横方向成分が大きければ、評価子午断面1CSbの振動の方向は横方向であると判定する。なお、ある子午断面上のみの観測点を用いる場合は、周波数分析データを用いてピークの出現する順番に、周波数の低い方から周上次数を決定すればよい。振動の方向が径方向であれば1次、2次、・・・、横方向であれば0次、1次、2次、・・・、周方向であれば0次、1次、・・・と決定する。これは、タイヤのような構造物の場合、同じ方向、断面次数の場合の周上次数は低い周波数から順番に出現することによる。
ステップS4における評価子午断面における振動情報は、振動計109A〜109Eから取得されるので、これに基づいて求める。そして、評価子午断面における振動情報から振動の節及びその数を抽出して(ステップS5)断面次数を求め(ステップS6)、振動モードを判別する。
さらに、上述した実施形態で開示した環状構造体の振動モード判別方法又は環状構造体の振動モード判別用コンピュータプログラムからは、次の手段が把握される。第1の手段は、環状構造体の振動モード判別方法又は環状構造体の振動モード判別用コンピュータプログラムであり、中心軸周りのいずれの子午断面においても同様の形状である環状構造体を振動解析するにあたり、前記環状構造体を複数の節点で構成される複数の要素に分割して、数値解析可能な前記環状構造体の解析モデルを作成する手順と、当該解析モデルの異なる子午断面内の同じ位置に存在する節点を当該解析モデルの周方向1周分まとめて節点群とし、当該節点群に含まれるそれぞれの節点の変位を、当該解析モデルの周方向1周nサイクルの正弦波と余弦波との少なくとも一方と、追加自由度との積の重ね合わせで規定して、振動解析を実行する手順と、を含む。ここで、nは整数である。
また、第2の手段として、前記第1の手段において、前記振動解析においては、振動モードの周上次数が0次の場合には1個、1次以上の場合には2個の追加自由度を前記節点群に設定し、設定した追加自由度に従属となるように前記節点群に含まれるそれぞれの節点の変位を規定することが好ましい。
また、第3の手段として、前記第1の手段又は前記第2の手段において、前記解析モデルは、前記環状構造体が周方向に等分割されるとともに、その分割数を偶数かつ48以上とすることが好ましい。
また、第4の手段として、前記第3の手段において、前記分割数は、60以上360以下であることが好ましい。
また、第5の手段として、前記第1の手段から前記第4の手段のうちいずれか1つにおいて、前記環状構造体の周上で均一な予荷重が作用する場合、前記振動解析の前に、前記解析モデルの周上における変形を考慮して予荷重の解析を実行し、前記振動解析において、前記節点群の変位を規定することが好ましい。
また、第6の手段として、前記第1の手段から前記第5の手段のうちいずれか1つにおいて、前記環状構造体はタイヤであり、前記振動解析では、少なくとも0次及び1次の振動モードを解析することが好ましい。
また、第7の手段として、前記第1の手段から前記第6の手段のうちいずれか1つにおいて、前記振動解析は固有値解析であり、当該固有値解析を実行した後における前記追加自由度の各振動モードの値に基づいて、前記環状構造体の振動モードを判別することが好ましい。