JP2011153366A - レーザ溶接用またはレーザ・アークハイブリッド溶接用の引張強さが1100MPa以上の高張力鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 各元素の成分範囲を適正化し、かつ、鋼板の変態組織を確実にマルテンサイト組織とするために炭素当量を0.45〜1.2%とし、さらに、溶接熱影響部の軟化を抑制するために、析出強化元素に係わるNb当量を0.09〜0.80%とした鋼片を用いて、再加熱焼入や加工熱処理工程によって鋼板を製造するに際して、特に溶接熱影響部軟化抑制のために、600℃以上から開始し450℃以上で終了する、冷却速度が2〜100℃/sの加速冷却を行うことを特徴とする。
【選択図】 なし
Description
質量%で、
C :0.12〜0.20%、
S i:0.03〜1.0%、
Mn:0.5〜2.5%、
P :0.02%以下、
S :0.01%以下、
Al:0.002〜0.1%、
Ni:0.6〜6%、
N :0.001〜0.01%
をそれぞれ含有し、さらに、
Cr:0.1〜3%、
Mo:0.05〜2%、
W :0.10〜2%、
V :0.12〜0.50%、
Nb:0.005〜0.20%、
Ta:0.005〜0.50%、
Zr:0.005〜0.50%
のうちの1種または2種以上を含有し、かつ、下記[1]式により定義されるNb当量が0.09〜0.80%であり、下記[2]式により定義される炭素当量(Ceq.)が0.45〜1.2%であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼片を、熱間で鋼板に圧延した後、該鋼板をAc3変態点〜1000℃の温度域に再加熱後、600℃以上から開始し、450℃以上で終了する、冷却速度が2〜100℃/sの加速冷却を行うことを特徴とする、レーザ溶接用またはレーザ・アークハイブリッド溶接用の引張強さが1100MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
Nb当量=Nb%+0.35Mo%+0.20W%+0.75V%+0.30Ta%
+0.20Zr%+0.05Cr% ・・・・・[1]
Ceq.=C%+Si%/24+Mn%/6+Ni%/40+Cr%/5+Mo%/4
+W%/8+V%/14 ・・・・・[2]
ただし、上記[1]式、[2]式における、各元素の%はそれぞれ溶接金属中の各元素の質量%を示す。
Cu:0.005〜1.5%、
Co:0.01〜6%、
Ti:0.002〜0.05%、
B :0.0002〜0.0030%
のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のレーザ溶接用またはレーザ・アークハイブリッド溶接用の引張強さが1100MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
Ca:0.0002〜0.01%、
Mg:0.0002〜0.01%、
REM:0.0002〜0.01%
のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のレーザ溶接用またはレーザ・アークハイブリッド溶接用の引張強さが1100MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
鋼の化学組成は、質量%で、C:0.12〜0.20%、Si:0.03〜1.0%、Mn:0.5〜2.5%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.002〜0.1%、Ni:0.6〜6%、N:0.001〜0.01%をそれぞれ含み、さらに、Cr:0.1〜3%、Mo:0.05〜2%、W:0.10〜2%、V:0.12〜0.50%、Nb:0.005〜0.20%、Ta:0.005〜0.50%、Zr:0.005〜0.50%のうちの1種または2種以上含有することが必須要件となる。先ず、本発明の必須成分について説明する。ここで、成分についての%は、質量%を意味する。
Cはマルテンサイト組織においては、強度発現に最も重要な元素で、引張強さを1100MPa以上とするためには最低限0.12%以上含有させる必要がある。C含有量が多いほど高強度化が可能であるが、靱性や耐高温割れ性、低温割れ性の劣化が著しくなるため、本発明においては、C含有量を0.12〜0.20%に限定する。
Siは脱酸元素であり、鋼の健全性を保つために、最低0.03%必要である。ただし、1.0%を超えて過剰に含有させると、溶接熱影響部の硬化が大きくなり、溶接熱影響部の靱性、低温割れ性を劣化させて好ましくないため、本発明においては、Siの含有量を0.03〜1.0%に限定する。
Mnは、焼入性を確保してマルテンサイト組織として強度を高めるために、必須の元素である。組織制御ならびに強度向上効果を確実に発揮するためには、0.5%以上鋼板に含有させる必要がある。一方、2.5%超含有させると、粒界脆化感受性が増加して靱性劣化、耐低温割れ性劣化の可能性が高くなるため、本発明においては、鋼板中のMn含有量は0.5〜2.5%に限定する。
Pは不純物元素であり、母材および溶接熱影響部の靱性を阻害し、かつ、溶接熱影響部の耐高温割れ性、耐低温割れ性を劣化させるため、極力低減する必要があるが、鋼板中の含有量が0.02%以下では靱性への悪影響が許容できるため、本発明では鋼板中のP含有量は0.02%以下とする。
Sも不純物元素であり、鋼板中に過大に存在すると靱性と延性とをともに劣化させるため、極力低減することが好ましい。鋼板中の含有量が0.01%以下では靱性、延性への悪影響が許容できるため、本発明では鋼板中のS含有量は0.01%以下とする。
Alは脱酸元素であり、Siと同様、鋼の酸素含有量を低減して健全性を確保するために有効な元素であり、そのためには0.002%以上含有させる必要がある。一方、0.1%を超えて過剰に含有させると、粗大な酸化物を形成して、靱性を阻害する場合があるため、本発明においては、Al含有量を0.002〜0.1%に限定する。
Niは焼入性を高めて強度向上に寄与すると同時に靱性も高められる唯一の元素である。特に、本発明におけるマルテンサイト組織が基本組織となる鋼においては、アシキュラーフェライトなどの組織微細化技術による靱性向上が基本的には用いることができないため、母材靱性とともにマルテンサイト変態ままとなる溶接熱影響部の靱性を確保するためには、必須の元素である。該効果を確実に発揮するためには、鋼板中のNi含有量は0.6%以上とする必要がある。Ni含有量が多いほど靱性向上には有効であるが、Niは高価な元素であり、また、過剰に含有させると、残留オーステナイトが多くなり、降伏強度が場合によっては50%前後にまで過度に低下するため、引張強さが本発明の範囲内であっても、好ましくない。また、残留オーステナイトの存在や塑性変形時の転位の挙動に起因して、シャルピー衝撃試験における延性破壊特性を劣化させ、脆性破壊特性(例えば破面遷移温度)は向上しても吸収エネルギーはむしろ低下する場合もあり、やはり、好ましくない。従って、本発明においては、実用的に十分な靱性を達成できる含有量として、Ni含有量の上限を6%とする。
Nは、微量では鋼片の加熱時に微細な窒化物を形成して加熱オーステナイト粒径を微細化して靱性に寄与する。そのためには鋼中の含有量として0.001%以上必要である。一方、0.01%を超えて含有させると、窒化物が粗大化したり、固溶N量が増加して却って靱性を劣化させるため、本発明においては、Nの含有量を0.001〜0.01%に限定する。
Crは、焼入性向上、析出強化により母材の強度向上に有効な元素であり、溶接影響部の軟化抑制にも有効であるが、明瞭な効果を生じるためには0.1%以上必要であり、一方、3%を超えて含有させると、母材ならびに溶接熱影響部の靭性および耐低温割れ性が劣化する傾向を有するため、本発明においては、Crを含有させる場合は0.1〜3%の範囲とする。
Moは焼入性向上、析出強化により母材の強度向上に有効な元素であるが、特に、その強い焼戻し軟化抵抗により溶接熱影響部の軟化抑制に非常に有効な元素である。また、溶接熱影響部の高温割れ抑制にも一定の効果を有する。明確な効果を発揮するためには、0.05%以上必要であり、一方、2%を超えると、母材や溶接熱影響部の靭性、さらには耐低温割れ性が劣化するため、Moを含有させる場合は0.05〜2%の範囲とする。
Wも、Moと同様に焼入性向上、析出強化により母材の強度向上に有効な元素であるが、特に、その強い焼戻し軟化抵抗により溶接熱影響部の軟化抑制に非常に有効な元素である。また、溶接熱影響部の高温割れ抑制にも一定の効果を有する。明確な効果を発揮するためには、0.10%以上必要であり、一方、2%を超えると、母材や溶接熱影響部の靭性、さらには耐低温割れ性が劣化するため、Wを含有させる場合は0.10〜2%の範囲に限定する。
Vは主として析出強化により焼戻しマルテンサイト組織を有する鋼の強度向上に有効である。また、溶接熱影響部においてもAc1変態点以下の焼戻し温度域以下に加熱された領域について、顕著な靭性劣化を招かずに軟化を抑制することが可能であるため、継手強度確保に極めて有効な元素である。効果を確実に発揮するためには鋼中に0.12%以上含有させる必要がある。ただし、0.50%を超えて含有させると、母材および溶接熱影響部の靭性劣化が大きくなるため好ましくない。従って、本発明において鋼中にVを含有させる場合は、その含有量を0.12〜0.50%に限定する。なお、レーザ溶接およびレーザ・アークハイブリッド溶接における溶接熱影響部の強度−靭性バランスとしては、Vと同様の効果を有し、Vと選択的に用いることが可能な、Cr、Mo、Nb、Ta、Zrと比べて、Vの有効性が最も大であるため、Vの使用を第一に考慮することがより好ましい。
Nbは析出強化とともに焼入性向上により、母材強度向上、溶接熱影響部の軟化抑制に有効な元素である。効果を明確に発揮するためには、最低でも0.005%以上必要である。一方、0.20%を超えて過剰に含有させると、母材および溶接熱影響部の靭性劣化が大きくなるため、好ましくない。そのため、本発明において鋼中にNbを含有させる場合は、その含有量を0.005〜0.20%に限定する。
Taは定性的にはNbとほぼ同様の効果を発揮する元素である。母材強度確保、継手強度確保のために効果を明確に発揮するためには鋼中に0.005%以上含有させる必要がある。一方、0.50%を超えて含有させると、粗大析出物を形成して、母材や溶接熱影響部の靭性劣化を招くため、本発明において鋼中にTaを含有させる場合は、その含有量を0.005〜0.50%とする。
Zrも定性的にはNbとほぼ同様の効果を発揮する元素である。母材強度確保、継手強度確保のために効果を明確に発揮するためには鋼中に0.005%以上含有させる必要がある。一方、0.50%を超えて含有させると、粗大析出物を形成して、母材や溶接熱影響部の靭性劣化を招くため、本発明において鋼中にTaを含有させる場合は、その含有量を0.005〜0.50%とする。
Cuは主として焼入性向上と固溶強化、さらには析出強化とにより母材強度を高める上で有効な元素である。効果を発揮するためには、0.005%以上含有させる必要がある。ただし、1.5%超では熱間加工性に問題を生じるため、効果を発揮し、かつ熱間加工性等の問題を生じない範囲として、本発明においてCuを含有させる場合、0.005〜1.5%の範囲に限定する。
Coは高合金成分の鋼において、過度に変態点を下げることを防いで残留オーステナイトの生成を制御することが可能な元素である。該効果により、母材強度や靭性の調整に有用な元素である。効果を確実に発揮するためには、最低限0.01%含有させる必要がある。一方、6%を超えて含有させることは、効果の割に合金コストが過大となって好ましくなく、また、靭性劣化の可能性も生じる。従って、本発明においてCoを用いる場合は、鋼中の含有量は0.01〜6%の範囲とする。
Tiは、析出強化により母材強度向上に寄与するとともに、高温でも安定なTiNの形成により加熱オーステナイト粒径微細化にも有効な元素であり、加工熱処理や再加焼入焼戻しにより鋼板を製造する本発明においては靭性向上に有用な元素である。鋼中に含有させて効果を発揮するためには0.002%以上が必要である。一方、0.05%を超えると、粗大な析出物、介在物を形成して靭性や延性を劣化させるため、上限を0.05%とする。すなわち、本発明においてTiを含有させる場合、0.002〜0.05%の範囲に限定する。
Bは、固溶状態でオーステナイト粒界に偏析することで、微量で焼入れ性を高めることが可能なため、マルテンサイト組織として強度を高めるために極めて有効な元素である。焼入性向上に効果を発揮するためには0.0002%以上の含有が必要であるが、一方、0.0030%を超えて鋼中に過剰に含有させると、BNやFe23(C、B)6 等の粗大な析出物を生じて、靱性が顕著に劣化するため、本発明においてBを含有させる場合、0.0002〜0.0030%に限定する。
Caは鋼中の硫化物の熱間圧延中の展伸を抑制して延性特性向上に有効である。また、酸化物の微細化や適正な酸化物組成となることにより、溶接熱影響部靭性の向上にも有効に働く。該効果を確実に発揮するためには、0.0002%以上必要である。一方、0.01%を超えて過剰に鋼中に含有させると、粗大な介在物を形成して逆に靭性劣化要因になるため、好ましくない。そのため、本発明においてCaを鋼中に含有させる場合、0.0002〜0.01%に限定する。
MgはCaとほぼ同様の鋼中の硫化物の熱間圧延中の展伸を抑制して延性特性向上に有効な効果を有し、また、酸化物の微細化や適正な酸化物組成となることにより、溶接熱影響部靭性の向上にも有効に働く効果を有するため、Caと同じ理由により、本発明においてMgを鋼中に含有させる場合、0.0002〜0.01%に限定する。
REMもCa、Mgとほぼ同様の鋼中の硫化物の熱間圧延中の展伸を抑制して延性特性向上に有効な効果を有し、また、酸化物の微細化や適正な酸化物組成となることにより、溶接熱影響部靭性の向上にも有効に働く効果を有するため、やはり同じ理由により、本発明においてREMを鋼中に含有させる場合、0.0002〜0.01%に限定する。
母材組織がマルテンサイト組織となる場合、強度に最も大きな影響を及ぼすのは当然Cであるが、Cだけで強度を確保しようとすると、靭性劣化が大きくなるため好ましくない。そこで、本発明においては、極力C量が少ない中で強度を確保するために、焼戻し軟化抵抗元素、析出強化元素を用いる。また、これらの元素は溶接熱影響部の軟化抑制のためにも重要である。具体的には、Cr、Mo、W、V、Nb、TaおよびZrであり、前記の理由により各元素個々の含有量を限定するが、母材強度確保、溶接熱影響部軟化抑制のために、これら類似の効果を有する元素全体の効果として、下記[1]式により計算されるNb当量も同時に限定する必要がある。個々の元素の含有量が本発明の範囲内であっても、Nb当量が0.09%未満であると、強度向上や軟化抑制効果が十分でない。Nb当量が大きいほど、母材強度の向上、溶接熱影響部の軟化抑制には有利であるが、Nb当量が0.80%を超えると、溶接熱影響部の高温割れや低温割れ感受性が無視できなくなるため、本発明においては、Nb当量を0.09〜0.80%の範囲に限定する。
Nb当量=Nb%+0.35Mo%+0.20W%+0.75V%+0.30Ta%
+0.20Zr%+0.05Cr% ・・・・・[1]
ただし、上記[1]式、[2]式における、各元素の%はそれぞれ溶接金属中の各元素の質量%を示す。
本発明では鋼の組織をマルテンサイト組織とすることを前提とするが、本発明の製造方法において、確実にマルテンサイト組織とするためには、個々の元素の限定以外に炭素当量も限定する必要がある。本発明においては実験的に求めたマルテンサイト焼入性と化学組成との関係から導出した下記[2]式の炭素当量式を用い、その下限を0.45%とする。これは、[2]式による炭素当量が0.45%未満であると、鋼板の板厚や冷却条件によっては鋼の組織中にマルテンサイト以外の組織が出現する可能性が皆無ではないためである。炭素当量が高いほど強度確保には有利であるが、1.2%を超えると、耐低温割れ性や靭性の劣化が大きくなるため、本発明においては炭素当量の上限を1.2%とする。
Ceq.=C%+Si%/24+Mn%/6+Ni%/40+Cr%/5+Mo%/4
+W%/8+V%/14 ・・・・・[2]
ただし、上記[1]式、[2]式における、各元素の%はそれぞれ溶接金属中の各元素の質量%を示す。
以上が、本発明における化学組成の限定理由である。しかしながら、鋼板ならびに溶接熱影響部において所望の特性を有する鋼板を得るためには、上記理由により化学組成を限定した上で、さらに製造方法を規定する必要がある。以下、製造方法に関わる本発明の内容を詳細に説明する。
「熱間圧延条件」
再加熱・加速冷却により製造する場合、鋼板の形状を調整するために、一般的には熱間圧延によって、先ず、鋼片やインゴットを鋼板とする。再加熱・加速冷却により製造する場合は、熱間圧延で形成された組織は、再加熱時にほぼ解消されるため、熱間圧延条件は最終的な鋼板や溶接熱影響部特性にほとんど影響を及ぼさない。従って、本発明においては、再加熱・加速冷却により鋼板を製造する場合のそれに先立つ鋼板製造に関わる条件は特に限定する必要はない。ただし、化学組成によっては、熱間圧延時に形成された組織の微細さが最終的な鋼板組織の微細さに影響を及ぼす可能性が皆無とは言えないため、熱間圧延時の鋼片、インゴットの加熱温度はAc3変態点〜1250℃、熱間圧延の全累積圧下率≧50%、900℃以下での累積圧下率≧20%、圧延仕上げ温度≧650℃、とすることがより好ましい。
再加熱・加速冷却における再加熱温度は、Ac3変態点〜1000℃の範囲とする。再加熱温度がAc3変態点未満であると、加速冷却前組織がオーステナイト単相組織とならないため、全面マルテンサイト組織とならない。そのため、鋼板の強度が十分高くならず、かつ、極端な不均一組織となるため、鋼板の靭性も劣化する場合が多くなり、好ましくない。一方、再加熱温度が1000℃を超えると、鋼板の化学組成によっては、加熱オーステナイト粒が極端な混粒となったり、粒径が粗大となったりして靭性に悪影響を及ぼすため、これも好ましくない。
Ac3変態点〜1000℃に再加熱後、加速冷却を行ってマルテンサイト組織とする。加速冷却の冷却速度は2〜100℃/sとする必要がある。冷却速度が2℃/s未満であると、鋼の化学組成によってはマルテンサイト組織以外の粗大組織が混在するようになることがあるため、好ましくない。冷却速度は大きいほど、マルテンサイト組織を得るためには有利であるが、本発明の化学組成においては、100℃/sを超えて冷却速度を大きくしても効果が飽和するとともに、鋼板板厚が大きくなると、工業的に100℃/s超で加速冷却することが困難となる。そのため、本発明においては、加速冷却における冷却速度の上限を100℃/sとする。なお、冷却速度とは加速冷却開始から停止までの平均冷却速度を指す。
マルテンサイト組織の安定化を図って、溶接熱影響部の大きな軟化をより確実に抑制するためには、再加熱・加速冷却処理後に焼戻しを施すことが好ましい。本発明にノように、加速冷却の途中で加速冷却を終了する方法では、加速冷却の途中終了によるオートテンパー効果により熱的安定性は担保されているため、その後に焼戻し処理を施すことは必須要件ではないが、より確実に溶接熱影響部の軟化抑制を確保するために、焼戻し処理を行う場合は、焼戻し温度は400℃以上、Ac1 変態点未満の範囲とする。加速冷却の途中終了により、一定の焼戻し効果がすでに生じているため、焼戻し温度の下限は、通常の焼入処理の場合に比べて下げることが可能で、本発明においては、詳細な実験結果に基づき、400℃と定める。焼戻し温度の上限をAc1変態点未満とするのは、通常の再加熱焼入におけるものと同じ理由である。
本発明におけるもう一つの製造方法は、熱間圧延後の冷却時に加速冷却を施す、加工熱処理法によるものである。再加熱・加速冷却による場合と同様、溶接熱影響部の再熱軟化抑制のためには、加速冷却条件が重要であるが、鋼板において良好な強度、靭性を確保するためには、鋼片やインゴットの圧延条件も適正範囲に規定する必要がある。
熱間圧延に先立つ鋼片やインゴットの加熱温度は、Ac3変態点〜1300℃の範囲とする。加熱温度がAc3変態点未満であると、加熱組織がオーステナイト単相組織とならないため、最終組織が全面マルテンサイト組織とならない。そのため、鋼板の強度が十分高くならず、かつ、極端な不均一組織となるため、鋼板の靭性も劣化する場合が多く、好ましくない。一方、加熱温度が1300℃を超えると、加熱オーステナイト粒径が極端な粗大粒となり、その後の圧延によっても細粒化が不十分となり、鋼板靭性に悪影響を及ぼすため、好ましくない。
熱間圧延の条件は主として変態前のオーステナイト粒径の微細化、加工歪導入による靭性向上のために重要である。本発明においては、全累積圧下率が30〜95%、圧延終了温度が650℃以上が必須要件とする。全累積圧下率が30%未満であると、オーステナイト粒径の再結晶による微細化が十分でないため、靭性が劣る場合があり、好ましくない。全累積圧下率は大きいほどオーステナイトの微細化に有利であるが、95%超では効果が飽和する上、鋼板形状の劣化、圧延終了温度確保の困難、等の問題が顕在化するため、本発明においては、累積圧下率の上限を95%とする。なお、圧延温度については、本発明の加熱温度範囲を前提とし、圧延終了温度を守れる条件範囲であれば、特に規定しなくとも、本発明が目的としている鋼板の靭性レベルを達成することは可能であるが、オーステナイトの再結晶による微細化効果を最大限発揮し、未再結晶域での圧延も有効利用して加工歪も導入して、靭性向上効果を最大限に享受するためであれば、全圧延のうち、900℃〜700℃の温度範囲で行われる圧延の累積圧下率を30〜80%とすることが好ましい。
熱間圧延後、引き続き加速冷却を施すが、その条件は、2〜100℃/sの冷却速度で、600℃以上から開始し、450℃以上で終了することを要件とする。冷却速度が2℃/s未満であると、鋼の化学組成によっては100%マルテンサイト組織とならないことがあるため、好ましくない。冷却速度は大きいほど、マルテンサイト組織を得るためには有利であるが、本発明の化学組成においては、100℃/sを超えて冷却速度を大きくしても効果が飽和するとともに、鋼板板厚が大きくなると、工業的に100℃/s超で加速冷却することが困難となる。そのため、本発明においては、加速冷却における冷却速度の上限を100℃/sとする。なお、冷却速度とは加速冷却開始から停止までの平均冷却速度を指す。該冷却速度の加速冷却は、600℃以上から開始し、450℃以上で終了することを要件とする。加速冷却の開始温度が600℃未満であると、本発明の化学組成範囲であっても、加速冷却前にマルテンサイト以外の変態が生じ、強度・靭性がともに劣化する可能性があるため、好ましくない。
加速冷却を450℃以上で終了する加工熱処理処理の場合は、加速冷却の途中終了によるオートテンパー効果により熱的安定性は担保されているため、その後に焼戻し処理を施すことは必須要件ではない。より確実に溶接熱影響部の軟化抑制を確保するために、焼戻し処理を行う場合は、焼戻し温度は400℃以上、Ac1変態点未満の範囲とする。加速冷却の途中停止により、一定の焼戻し効果がすでに生じているため、焼戻し温度の下限は、通常の焼入処理の場合に比べて下げることが可能で、本発明においては、詳細な実験結果に基づき、400℃と定める。一方、焼戻し温度の上限をAc1変態点未満とするのは、焼戻し温度がAc1変態点以上であると、焼戻しの加熱時にオーステナイトへの逆変態が生じて、強度の低下や靭性の劣化が生じる可能性が大きくなるためである。
Claims (5)
- レーザ溶接用またはレーザ溶接とガスシールドアーク溶接とを組み合わせたレーザ・アークハイブリッド溶接用の、引張強さが1100MPa以上の高張力鋼板の製造方法であって、
質量%で、
C :0.12〜0.20%、
S i:0.03〜1.0%、
Mn:0.5〜2.5%、
P :0.02%以下、
S :0.01%以下、
Al:0.002〜0.1%、
Ni:0.6〜6%、
N :0.001〜0.01%
をそれぞれ含有し、さらに、
Cr:0.1〜3%、
Mo:0.05〜2%、
W :0.10〜2%、
V :0.12〜0.50%、
Nb:0.005〜0.20%、
Ta:0.005〜0.50%、
Zr:0.005〜0.50%
のうちの1種または2種以上を含有し、かつ、下記[1]式により定義されるNb当量が0.09〜0.80%であり、下記[2]式により定義される炭素当量(Ceq.)が0.45〜1.2%であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼片を、熱間で鋼板に圧延した後、該鋼板をAc3変態点〜1000℃の温度域に再加熱後、600℃以上から開始し、450℃以上で終了する、冷却速度が2〜100℃/sの加速冷却を行うことを特徴とする、レーザ溶接用またはレーザ・アークハイブリッド溶接用の引張強さが1100MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
Nb当量=Nb%+0.35Mo%+0.20W%+0.75V%+0.30Ta%
+0.20Zr%+0.05Cr% ・・・・・[1]
Ceq.=C%+Si%/24+Mn%/6+Ni%/40+Cr%/5+Mo%/4
+W%/8+V%/14 ・・・・・[2]
ただし、上記[1]式、[2]式における、各元素の%はそれぞれ溶接金属中の各元素の質量%を示す。 - 前記鋼片を熱間で鋼板に圧延する工程から、前期鋼板をAc3変態点〜1000℃の温度域に再加熱する工程に替えて、前記成分組成を有する鋼片を、Ac3変態点〜1300℃の温度域に加熱し、終了温度が650℃以上で、累積圧下率が30〜95%の熱間圧延を行い、引き続き、前記加速冷却を行うことを特徴とする、請求項1に記載のレーザ溶接用またはレーザ・アークハイブリッド溶接用の引張強さが1100MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
- 前記加速冷却後に、400℃以上、Ac1変態点未満の温度域で焼戻すことを特徴とする、請求項1または2に記載のレーザ溶接用またはレーザ・アークハイブリッド溶接用の引張強さが1100MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
- 前記鋼が、さらに、質量%で、
Cu:0.005〜1.5%、
Co:0.01〜6%、
Ti:0.002〜0.05%、
B :0.0002〜0.0030%
のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ溶接用またはレーザ・アークハイブリッド溶接用の引張強さが1100MPa以上の高張力鋼板の製造方法。 - 前記鋼が、さらに、質量%で、
Ca:0.0002〜0.01%、
Mg:0.0002〜0.01%、
REM:0.0002〜0.01%
のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ溶接用またはレーザ・アークハイブリッド溶接用の引張強さが1100MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN103276311A (zh) * | 2013-05-20 | 2013-09-04 | 浙江朋诚科技有限公司 | 一种高速线材辊轴合金 |
WO2016114146A1 (ja) * | 2015-01-16 | 2016-07-21 | Jfeスチール株式会社 | 厚肉高靭性高強度鋼板およびその製造方法 |
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JP2007177266A (ja) * | 2005-12-27 | 2007-07-12 | Jfe Steel Kk | 低降伏比高強度厚鋼板およびその製造方法 |
-
2010
- 2010-01-28 JP JP2010016924A patent/JP2011153366A/ja not_active Ceased
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