以下、これら図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下の説明では、本発明に係る乗物の一実施形態として自動二輪車を例示し、方向の概念は自動二輪車に騎乗した運転者から見た方向を基準としている。
図1に示す自動二輪車1は前輪2及び後輪3を備えている。前輪2は略上下方向に延びるフロントフォーク4の下端部に回転可能に支持され、フロントフォーク4の上端部は、ヘッドパイプ5に回転可能に支持されたステアリングシャフト(図示せず)を介し、左右一対のグリップを有したハンドル6と連結されている。運転者がグリップを把持してハンドル6を回動操作すると、ステアリングシャフトを回転軸として前輪2が転向する。運転者が右手で把持するグリップはスロットルグリップ7(図2参照)となっており、運転者が左手で把持するグリップの前側にはクラッチレバー8が設けられている。
ヘッドパイプ5からは左右一対のメインフレーム9が後下方へ延び、メインフレーム9の後部には左右一対のピボットフレーム10が接続され、ピボットフレーム10には略前後方向に延びるスイングアーム11の前端部が枢支され、スイングアーム11の後端部には後輪3が回転自在に軸支されている。メインフレーム9及びピボットフレーム10にはエンジン12が支持されている。エンジン12の吸気ポート(図示せず)にはスロットル装置13及びエアクリーナ14が連設されており、エンジン12の出力は変速機15及びチェーン16を介して後輪3に伝達される。ハンドル6の後方には燃料タンク17を介して運転者騎乗用のシート18が設けられており、シート18の下方の内部空間にはエンジン12の動作を制御する電子制御ユニット(ECU)19が収容されている。
図2に示すスロットルグリップ7は、その軸線方向に回転可能になっている。スロットルグリップ7の操作位置は全閉位置と全開位置との間で回転変位し、外力を与えなければ全閉位置にとどまる構成となっている。運転者は、手首の捻りによりスロットルグリップ7を回転操作することで操作位置を変化させることができる。このとき、操作位置を全開位置に近づけるように変化させることで加速要求を入力することができ、全閉位置に近づけるように変化させることで減速要求を入力することができる。以下、操作位置が全開位置に近づく側を「開き側」、全閉位置に近づく側を「閉じ側」という。
スロットル装置13は、エンジン12とエアクリーナ14との間に設けられた吸気管21と、吸気管21の内部通路に設けられたスロットル弁22と、スロットル弁22を駆動するバルブアクチュエータ23とを備えている。スロットル弁22はバルブアクチュエータ23により駆動されて吸気管21の内部通路を開度可変に開閉し、これによりエンジン12への吸気量が調節される。また、エンジン12には、燃料を噴射する燃料噴射装置24と、混合気を点火する点火装置25とが設けられている。これら装置24,25が適宜タイミングで動作することにより気筒で混合気の点火燃焼が行われ、これによりエンジン12が回転出力を発生する。概してスロットル弁22の開度が大きく、燃料噴射装置24からの燃料噴射量が多く、点火装置25による混合気の点火時期が進角しているときほどエンジン12の出力が大きくなり、自動二輪車1の加速度が大きくなる。
エンジン12の出力は動力伝達経路26を介して後輪3に伝達される。動力伝達経路26はエンジン12側から順に、エンジン出力軸27、減速機構28、クラッチ29、変速機入力軸30、変速機15、変速機出力軸31、及びチェーン16からなる。クラッチ29はクラッチレバー8と機械的に連結され、クラッチレバー8が操作されていないときにはクラッチ29が締結状態となり、クラッチレバー8が操作されるとクラッチ29が解放状態となって動力伝達経路26が遮断される。変速機15は、変速機入力軸30の回転動力を変速して変速機出力軸31に伝達する。変速機15は複数の変速段のうちの一つを選択的に設定可能であり、これら変速段には互いに変速比が異なる複数の前進用変速段と、変速機入力軸30と変速機出力軸31との間の動力伝達を遮断する中立段とが含まれる。
電子制御ユニット19は自動二輪車1の走行状態を検出するセンサ類からの信号を入力し、検出された走行状態に応じてエンジン12及びそれに付随する機器類を制御する。図2では、電子制御ユニット19の入力側に接続されるセンサ類として、スロットルグリップ7の操作位置を検出するグリップ位置センサ32、スロットル弁22の開度を検出するスロットル位置センサ33、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ34、及び変速機15のギヤ位置を検出するギヤ位置センサ35を例示している。また、出力側に接続されるエンジン12側の機器類として、前述したスロットル装置13のバルブアクチュエータ23、燃料噴射装置24、及び点火装置25を例示している。
電子制御ユニット19は、ノーマルモード、及び過渡時の燃費を改善し得るエコノミーモードの2つの制御モードのうちの一つを選択的に設定可能になっている。電子制御ユニット19には、各制御モードに対応してエンジン12側の機器類の動作指令値を求めるための制御プログラムや制御マップが予め記憶されており、読み出す制御プログラム等を切り替えることによって制御モードが切り替わることとなる。
そして、電子制御ユニット19の入力側には、制御モードを切り替える指令を入力するためのモード切替スイッチ37が接続されている。モード切替スイッチ37はグリップに隣接して配置されており、これにより運転者が走行中でも容易に操作可能となる。このようなスイッチを設けたことにより、運転者が、加速要求に対する応答性を高くして走行する場合と、燃費向上を考慮して走行する場合とを自在に選択することができる。
図3(a)には、スロットル弁22の目標開度又は基準開度を求めるために用いる制御マップを例示している。この制御マップによれば、スロットルグリップ7の操作位置が開き側であるほどスロットル弁22の目標開度が大となる。この関係性により、スロットルグリップ7が加減速要求を入力するための操作部材として機能する。図3(b)には、目標燃料量を求めるために用いる制御マップを例示している。この制御マップによれば、スロットル弁22の目標開度が大であるほど目標燃料量が大となり、これにより所望の空燃比が維持される。バルブアクチュエータ23の動作指令値は目標開度に基づいて導出され、燃料噴射装置24の動作指令値は目標燃料量に基づいて導出される。
図4を参照し、電子制御ユニット19は、エコノミーモードの設定時には、該制御モードに対応する制御プログラムに従い、スロットルグリップ7で加速要求が入力されている間にその加速要求の大小を判定し、その加速要求が大であるときには目標開度の変化率をスロットルグリップ7の操作位置の変化率に追従させ、加速要求が大でないときには目標開度の変化率を大であるときよりも緩慢にする制御が実行される。かかる制御プログラムを実行する電子制御ユニット19は、記憶部40、モード設定部41、バルブ制御部42、燃料制御部43、及び点火制御部44を有している。
記憶部40には、制御モードに対応する制御プログラムが記憶されている。また、スロットル弁22の目標開度を求めるための制御マップ(図3(a)参照)、燃料噴射装置24が噴射する目標燃料量を求めるための制御マップ(図3(b)参照)、及び目標点火時期を求めるための制御マップ(図示せず)が記憶されている。
モード設定部41は、モード切替スイッチ37が操作されてエコノミーモードのオンオフ切替の指令が入力されると、記憶部40から切り替え後の制御モードに対応する制御プログラムを読み出す。このモード設定部41の動作により、電子制御ユニット19に設定される制御モードが切り替わる。
バルブ制御部42は開度設定部45、駆動部46及び加速判定部47を有している。開度設定部45は、読み出された制御プログラムに従い、図3(a)に示す制御マップを利用して、スロットルグリップ7の操作位置に応じたスロットル弁22の目標開度を設定する。駆動部46は、スロットル弁22の実開度が開度設定部45により設定された目標開度となるよう、バルブアクチュエータ23の動作指令値を導出してバルブアクチュエータ23を駆動制御する。加速判定部47はエコノミーモードの設定時に動作し、スロットルグリップ7における加速要求の入力有無の判定、及び加速要求の大小の判定を行う。
開度設定部45は、ノーマルモードの設定時には、図3(a)に示す制御マップを参照し、スロットルグリップ7の操作位置に基づきスロットル弁22の目標開度を設定する。これに対し、後に詳述するようにエコノミーモードの設定時には、この制御マップを参照しつつ、更に加速判定部47での判定結果を加味して目標開度を設定する。
燃料制御部43は制御マップ(図3(b)参照)を用いて目標燃料量を求め、該目標燃料量が噴射されるよう燃料噴射装置24の動作を制御する。点火制御部44も記憶部40に記憶される制御マップ(図示せず)を用いて目標点火時期を求め、該目標点火時期に点火燃焼が行われるよう点火装置25の動作を制御する。
図5はエコノミーモードに対応する制御プログラムの処理を示すフローチャートである。この処理は、エコノミーモードの設定時に所定制御周期(例えば10msec)毎に繰り返され、また、そのオンオフの状態が次回制御周期の処理に持ち越されるフラグを用いる。
まず、このフラグがオンであるか否かが判断され(ステップS1)、フラグがオフであれば(S1:N)、加速要求が入力されているか否かが判定され(ステップS2)、加速要求が入力されていると判定されたときには(S2:Y)、その加速要求が大であるか否かが判定される(ステップS3)。また、ステップS1でフラグがオンであれば(S1:Y)、このステップS3に進む。加速要求が大ではないと判定されたときには(S3:Y)、フラグがオンになる(ステップS4)。
ここで、ステップS2,S3について具体的に説明する。ステップS2の加速要求の入力有無の判定では、スロットルグリップ7の操作位置の変化率が所定の加速判定閾値(第2閾値)を超えているか否かが判定される。なお、開き側に操作位置が変化したときの変化量を正とした場合、この加速判定閾値は正の値に設定される。このスロットルグリップ7の操作位置の変化率は、今回制御周期の処理で入力された操作位置と、前回制御周期の処理で入力された操作位置との偏差と等価のものとして扱うことができる。この偏差は所定制御周期に相当する時間が経過する間の操作位置の変化量となり、この偏差を当該時間で除算すれば操作位置の変化率が導出されるからである。
ステップS3の加速要求の大小の判定に関し、スロットルグリップ7の操作位置が全閉位置付近にあるときには、発進時など運転者に真の加速要求がある可能性が高い。また、スロットルグリップ7の操作位置が全開位置付近にあって高速走行が行われているにも関わらずスロットルグリップ7に加速要求が入力されたときには、運転者に緊急的な真の加速要求がある可能性が高い。これに鑑み、ステップS3では、加速要求が入力されている間におけるスロットルグリップ7の操作位置が所定の操作範囲内に収まっているか否かが判定される。以下、該判定結果がYESであることを「第1条件」の成立とする。
また、スロットルグリップ7が急操作されたときには運転者に緊急的な真の加速要求がある可能性が高い。これに鑑み、ステップS3では、加速要求が入力されている間におけるスロットルグリップ7の操作位置の変化率が所定の急開閾値(第1閾値)よりも大きいか否かが判定される。以下、該判定結果がYESであることを「第2条件」の成立とする。
また、スロットルグリップ7に加速要求の入力に相当する操作がなされても、不意の操作であればその操作が短期に終わる可能性が高く、逆に運転者に真の加速要求があればその操作がある程度の期間継続される可能性が高い。これに鑑み、ステップS3では、加速要求が入力されてからの期間が所定の継続期間閾値を超えているか否かが判定される。以下、該判定結果がYESであることを「第3条件」の成立とする。
本実施形態のステップS3では、第1条件が成立しているとき、又は第2条件及び第3条件の両方が成立しているときに、加速要求が大と判定される。即ち、スロットルグリップ7の操作位置が全閉位置付近又は全開位置付近にあるときには、加速要求の入力が継続的でなく及び/又は操作位置の変化率が緩やかであっても、加速要求が大と判定される。また、スロットルグリップ7の急開操作が継続的になされたときには、操作位置がどこであっても加速要求が大と判定される。逆に、第1条件が不成立であり、且つ第2条件及び第3条件の少なくとも一方が不成立であるときには、加速要求が大でないと判定される。
加速要求が入力されていないと判断され(S2:N)、又は加速要求が大と判定されたときには(S3:Y)、スロットルグリップ7の操作位置に基づき、図3(a)に示す制御マップを参照してスロットル弁22の基準開度θRが求められる(ステップS11)。そして、フラグがオンであるか否かが判断される(ステップS12)。
フラグがオフであれば(S12:N)、スロットル弁22の目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。そして、スロットル弁22の実開度がこの目標開度θAとなるようバルブアクチュエータ23を動作させるための動作指令値が導出され(ステップS41)、この動作指令値に従ってバルブアクチュエータ23を駆動する(ステップS42)。
フラグがオンであれば(S12:Y)、基準開度θRと前回制御周期の処理で設定された目標開度θAとの偏差が演算される(ステップS31)。次いで、この偏差が所定の開度増加量θYを超えているか否かが判断される(ステップS32)。この開度増加量θYは、スロットルグリップ7の操作位置の変化量に基づき、図4(a)に示す制御マップを参照して求め得る開度変化量と比べて大きく、例えばスロットルグリップ7の操作位置の変化量に所定のゲインを積算することにより求められる。
偏差がこの開度増加量θYを超えるときには(S32:Y)、目標開度θAが、前回制御周期の処理で求められた目標開度θAにこの開度増加量θYを加算した値に設定される(ステップS34)。そして、ステップS41,42で上記同様の処理が行われて当該制御周期の処理が終了する。この場合、フラグはオンのままで次回制御周期の処理に持ち越される。
偏差が開度増加量θY以下であるときには(S32:N)、フラグがオフとされた上で(ステップS34)、目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。そして、ステップS41,42で上記同様の処理が行われて当該制御周期の処理が終了する。
また、加速要求が大ではないと判定されたときには(S3:N)、フラグをオンとするステップS4を経て、スロットルグリップ7の操作位置に応じたスロットル弁22の基準開度θRが求められ(ステップS21)、基準開度θRと前回制御周期の処理で設定された目標開度θAとの偏差が演算される(ステップS22)。次いで、この偏差が所定の開度増加量θXを超えているか否かが判断される(ステップS23)。
偏差が開度増加量θXを超えているときには(S23:Y)、目標開度θAが、前回制御周期の処理で求められた目標開度θAにこの開度増加量θXを加算した値に設定される(ステップS24)。そして、ステップS41,42で上記同様の処理が行われて当該制御周期の処理が終了する。この場合、フラグはオンのままで次回制御周期の処理に持ち越される。
偏差が開度増加量θX以下であるときには(S23:N)、フラグがオフとされた上で(ステップS25)、目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS26)。そして、ステップS41,42で上記同様の処理が行われて当該周期の処理が終了する。
ここで、開度増加量θXは予め記憶部40に記憶される値でもよく、演算で求める値でもよい。予め記憶される場合、開度増加量θXは、ステップS2で用いる加速判定閾値に相当する開度変化量と比べて小さい値となるよう設定されることが好ましい。演算で求める場合、開度増加量θXは、スロットルグリップ7の操作位置の変化量や基準開度θRの変化量に所定のゲインを積算するなどして、基準開度θRの変化量よりも小さい値となるようにして求められることが好ましい。このようにすると、フラグがオフからオンに切り替わった周期の処理において、偏差が開度増加量θXを超えることがなく、ステップS23で確実に「YES」の判定を行ってステップS24に進ませることができる。
図6には、フラグのオンオフ、加速要求の入力有無、及び加速要求の大小に応じて分類される5つのステータスの各々において、目標開度が如何に設定されるのかをまとめている。
「ステータス1」は、フラグがオフで加速要求が入力されていないときである。このときには目標開度θAは基準開度θRに設定される(ステップS13)。「ステータス2」は、フラグがオフで加速要求が入力されていてその加速要求が大のときである。このときにも目標開度θAが同様にして設定される。「ステータス1」及び「ステータス2」が継続しているときの目標開度θAの変化率(第1の変化率)は、基準開度θRの変化量を制御周期で除算することによって求まる変化率となり、結果として操作位置の変化率に追従したものとなる。
「ステータス3」は、フラグがオフで加速要求が入力されていてその加速要求が小のときである。このときには目標開度θAは前回目標開度θAに開度増加量θXだけ加算した値に設定される(ステップS24)。なお、この「ステータス3」においては、ステップS4の通過時にフラグがオフからオンに切り替わる。
「ステータス4」は、フラグがオンで加速要求が大でないときである。この「ステータス4」の継続中には、目標開度θAが制御周期毎に開度増加量θXずつ増加していき(ステップS24)、この増加によって目標開度θAが基準開度θRに追い付くと、フラグがオフとなって目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS26)。よって、「ステータス4」では、目標開度θAの変化率が、開度増加量θXを制御周期で除算することによって求められる変化率となる。なお、「加速要求が大でない」とは、「加速要求が小である」旨のほか、「加速要求が入力されていない」旨及び「減速要求が入力されている」旨を含む概念である。加速要求が入力されていてその加速要求が小であることにより「ステータス4」として分類され得る場合、開度増加量θXはステップS2で用いる加速判定閾値に相当する開度変化量や、基準開度θRの変化量よりも小さい値に設定されるため、このときの目標開度θAの変化率(第2の変化率)は「ステータス2」の目標開度θAの変化率(第1の変化率)よりも緩やかとなる。
「ステータス5」は、フラグがオンで加速要求が大のときである。「ステータス5」の継続中には、目標開度θAが制御周期毎に開度増加量θYずつ増加していき(ステップS33)、この増加により目標開度θAは基準開度θRに追い付くと、フラグがオフとなって目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。このように「ステータス5」では、目標開度θAの変化率が、開度増加量θYを制御周期で除算することによって求められる変化率となる。
図7はエコノミーモード設定時の自動二輪車1のスロットルグリップ7の操作位置の変化とスロットル弁22の目標開度の変化を例示するタイミングチャートであり、図8乃至図11は図7の部分拡大図である。
図7乃至図11の横軸は時間を表し、縦軸上側がスロットルグリップ7の操作位置、下側がスロットル弁22の目標開度をそれぞれ表している。縦軸上側における2本の一点鎖線は、第1条件に用いられる操作範囲を規定する上限値θ1及び下限値θ2を示している(以下、この範囲を単に「操作範囲」という)。縦軸下側における実線はエコノミーモード設定時の目標開度θAの推移を示し、破線はノーマルモード設定時の目標開度の推移、即ちエコノミーモード設定時における基準開度θRの推移を示している。ここでは便宜的に、操作位置が開き側又は閉じ側に変化する場合、その操作位置が線形に変化するとしている。
図8に示すように、時点t0から時点t1までの期間T1ではスロットルグリップ7の操作位置が全閉位置にあり、時点t1から時点t3までの期間T2では操作位置が全閉位置から開き側に緩やかに変化している。この期間T2のうち時点t1から時点t2までの期間T3では操作位置が下限値θ2を下回り、時点t2から時点t3までの期間T4では操作位置が操作範囲内に収まっている。時点t3から時点t5までの期間T5では操作位置が変化していない。
この場合、期間T1では「ステータス1」に従って目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。期間T3では、加速要求の入力があるものの操作位置が下限値θ2を下回っているためその加速要求が大と判定され、「ステータス2」に従って目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。よって、この期間T3では、目標開度θAの変化率が操作位置の変化率に追従する。この期間T3の操作位置は、自動二輪車1が発進を開始した段階などで現れるが、このような段階でスロットル弁22の開度が操作位置の変化に敏感に追従するため、運転者の加速要求を強く反映してエンジン12の出力が大きくなり、発進がスムーズに行われる。
時点t2では、加速要求が入力されているが操作位置が操作範囲内に収まるためその加速要求が小と判定され、「ステータス3」に従って目標開度θAが開度増加量θXだけ増加する(ステップS24)。このステップS24に進む過程でフラグがオンとなる(ステップS4)。期間T4では、フラグがオンで加速要求が大でないと判定され、「ステータス4」に従って目標開度θAが開度増加量θXずつ増加していく(ステップS24)。この期間T4では操作位置も開き側に変化し続けている。開度増加量θXは前述したように小さい値に設定され、目標開度θAの変化率(第2の変化率)は、基準開度θRの変化率(即ち、「ステータス2」における目標開度の変化率(第1の変化率))と比べて緩やかとなる。よって、この期間T4では目標開度θAと基準開度θRとの偏差は徐々に大きくなっていくことになる。
したがって、操作位置の変化が終了した時点t3以降においても、「ステータス4」に従って目標開度θAが開度増加量θXずつ増加していく(ステップS24)。他方、時点t3以降に操作位置は変化していないため、目標開度θAは次第に基準開度θRに追い付いてくる。時点t4に示すように、目標開度θAと基準開度θRとの偏差が開度増加量θX以下になると、フラグがオフとなって目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS26)。このように、フラグがオンとなる時点t2からオフとなる時点t4までの期間T6では、加速要求が大ではない(加速要求も減速要求も入力されていない)ため、「ステータス4」に従って目標開度θAが基準開度θRに追い付くまでは目標開度θAを緩やかに増加させ続けることになる。時点t4から時点t5までの期間T7では「ステータス1」に従って目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。
このように、加速要求が入力されていても、その加速要求が大でないときにはスロットル弁22の開度を操作位置の変化に敏感に追従させないようにしている。このため、燃料消費量を抑制することができるようになる。
図9に示すように、時点t5から時点t6までの期間T8ではスロットルグリップ7の操作位置が閉じ側に緩やかに変化し、時点t6から時点t7までの期間T9では操作位置が変化せず、時点t7から時点t8までの期間T10は操作位置が開き側に緩やかに変化し、時点t8から時点t10までの期間T11では操作位置が変化せず、時点t10から時点t12までの期間T12では操作位置が閉じ側に急変している。なお、期間T8〜T11では操作位置が操作範囲内に収まっている。期間T12のうち時点t10から時点t11までは操作位置が操作範囲内に収まっており、時点t11以降は操作位置が下限値θ2を下回っている。
この場合、期間T8,T9では「ステータス1」に従って目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。時点t7では、加速要求の入力が有るが操作位置が操作範囲内に収まっているため加速要求が小と判定され、「ステータス3」に従って目標開度θAが開度増加量θXだけ増加する(ステップS24)。期間T10では、フラグがオンで加速要求が大ではないと判定され、「ステータス4」に従って目標開度θAが開度増加量θXずつ増加していく(ステップS24)。そして、期間T10が終了する時点t8以降も、「ステータス4」に従って目標開度θAが開度増加量θXずつ増加していく(ステップS24)。時点t9において目標開度θAと基準開度θRの偏差が開度増加量θX以下になると、フラグがオフとなり目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS26)。このように時点t8から時点t9までの期間T13では「ステータス4」に従って目標開度が設定され、時点t9から時点t10までの期間T14では「ステータス1」に従って目標開度θAが基準開度にθR設定される(ステップS13)。また、期間T12では、操作範囲内に収まっているか否かに関係なく、「ステータス1」に従って目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。
このように、期間T9,T12では減速要求が入力されているが、その減速要求の大小に関係なく、目標開度θAは操作位置の変化に敏感に追従する。これにより、減速要求に対する応答性が確保される。また、スロットル弁22が緩慢に閉じ動作しないため、燃料消費が無用に多くなるのを避けることができる。
図10に示すように、時点t12から時点t13までの期間T15では、スロットルグリップ7の操作位置が変化せず、時点t13から時点t16までの期間T16では操作位置が開き側に急変している。この操作位置の変化率は第2条件に用いられる急開閾値を超えており、期間T16のうち時点t13から時点t14までの期間T17は第3条件に用いられる継続期間閾値に相当する期間である。また、期間T15のうち時点t13から時点t15までの期間T18では操作位置が下限値θ2を下回り、時点t15から時点t16までの期間T19では操作位置が操作範囲内に収まっている。時点t16から時点t17までの期間T20は操作位置が操作範囲内で開き側に緩やかに変化し、時点t17から時点t19までの期間T21は操作位置が操作範囲内で閉じ側に変化する。
この場合、期間T15では「ステータス1」に従って目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。
期間T17では加速要求の入力があって操作位置が下限値θ2を下回っているため加速要求が大と判定され、「ステータス2」に従って目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。期間T17では、第2条件に規定するスロットルグリップ7の急開操作が第3条件に規定する所定継続期間なされることとなり、期間T17が終了する時点t14以降では、第2条件及び第3条件の両方が成立した状態となる。よって、時点t15以降の期間T19においても、操作位置が操作範囲内に収まっているものの第2条件及び第3条件の両方が成立しているため加速要求が大と判定され、「ステータス2」に従って目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。このように操作位置が操作範囲内に収まっていても、スロットルグリップ7の操作位置が急変しているときには運転者から真の加速要求が入力されている可能性が高く、目標開度θAを操作位置の変化に敏感に追従させることで、かかる加速要求に対する応答性を良好に確保することができる。その上で、この急変操作が所定期間継続していることを条件として、かかる目標開度θAの設定が行われる。よって、不意の操作で短期に操作位置が急変するような場合があっても、この不意の操作に基づいて燃料噴射量が増加するのを防ぐことができる。
時点t16では、加速要求の入力が継続されているものの操作位置が操作範囲内に収まっているとともにその変化率が緩やかであるため加速要求が小と判定され、「ステータス3」に従って目標開度θAが開度増加量θXだけ増加する(ステップS24)。期間T20では、フラグがオンで加速要求が小と判定され、「ステータス4」に従って目標開度θAが制御周期毎に開度増加量θXずつ増加していく(ステップS24)。
操作位置の開き側への変化は時点t17で終了し、これ以降は操作位置が閉じ側に変更されていくものの、この時点t17では目標開度と基準開度との間には大きな偏差がある。よって、時点t17以降においても、フラグがオンであって加速要求は大ではないと判定され、「ステータス4」に従って目標開度θAが制御周期毎に開度増加量θXずつ増加していく(ステップS24)。なお、この時点t17以降では、操作位置が閉じ側に変化する一方で目標開度θAが増加していくため、比較的速やかに目標開度θAが基準開度θRに追い付く。時点t18では、目標開度θAと基準開度θRの偏差が開度増加量θX以下となり、フラグがオフとなって目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS26)。このように時点t17から時点t18までの期間T22では「ステータス4」に従って目標開度が設定され、時点t18から時点t19までの期間T23では「ステータス1」に従って目標開度θAが基準開度にθR設定される(ステップS13)。
図11に示すように、時点t19から時点t20までの期間T24ではスロットルグリップ7の操作位置が変化せず、時点t20から時点t23までの期間T25では操作位置が開き側に緩やかに変化している。期間T25のうち、時点t20から時点t21までの期間T26では操作位置が操作範囲内に収まっており、時点t21から時点t23までの期間T27では操作位置が上限値θ1を上回る。時点t23から時点t24までの期間T28では操作位置が変化せず、時点t24以降の期間T29では操作位置が閉じ側に変化している。
この場合、期間T24では「ステータス1」に従って目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。時点t20では、加速要求の入力が有るが操作位置が操作範囲内に収まっているため加速要求が小と判定され、「ステータス3」に従って目標開度θAが開度増加量θXだけ増加する(ステップS24)。期間T26では、フラグがオンで加速要求が大ではないと判定され、「ステータス4」に従って目標開度θAが開度増加量θXずつ増加していく(ステップS24)。
時点t21では、加速要求の入力が有って操作位置が上限値θ1を上回るため加速要求が大であると判定される。このときフラグはオンであるため、「ステータス5」に従って目標開度θAが開度増加量θYだけ増加される(ステップS33)。この時点t21では目標開度θAと基準開度θRとの偏差は大きいのに対し、時点t21以降は加速要求が大であるために速やかに目標開度θAを基準開度θRまで戻す必要がある。開度増加量θYは前述したとおりそのために十分に大きい値に設定されており、時点t21以降では、目標開度が制御周期毎にこの開度増加量θYずつ増加していき、速やかに基準開度θRに追い付いていく。時点t22では、目標開度と基準開度の偏差が開度増加量θY以下となり、フラグがオフとなって目標開度が基準開度に設定される(ステップS13)。このように時点t21から時点t22までの期間T30では「ステータス5」に従って目標開度が設定される。
このように本実施形態では、フラグがオンで目標開度θAの変化率が緩やかになっている状態において加速要求が大と判定された時に、その時以降に目標開度θAを基準開度θRへと速やかに戻す制御が実行される。これにより、加速要求に対する応答性を高めることができる。逆に、加速要求が大と判定された時に、即座に目標開度θAを基準開度θRへと戻さないようにしている。これにより、目標開度θAと基準開度θRとの偏差が大きい場合であってもスロットル弁22の実開度の急変が起こりにくくなり、運転フィーリングが損なわれない。
そして、時点t22から時点t23までの期間T31では「ステータス2」に従って目標開度θAが基準開度にθR設定される(ステップS13)。期間T28,T29では、「ステータス1」に従って目標開度θAが基準開度θRに設定される(ステップS13)。
以上のように、本実施形態では、加速要求の入力があったときにその加速要求が大か否かを判定し、その判定結果に応じて目標開度の変化率が変更される。加速要求が小と判定されるときにはスロットルグリップ7の操作位置の変化に対して目標開度が緩慢に変化するようにし、スロットル弁22の開度が急変するのを回避している。燃料消費量はスロットル弁22の開度変化に応じて増減するため、このように開度の急変を避けることにより、目標開度の増加を開始する時点(例えば時点t2(図8参照))から終了する時点(例えば時点t4(図8参照))までに噴射される燃料量を少なくすることができる。
他方、加速要求が大であるときには、目標開度が操作位置の変化に敏感に追従する。このようにして、本実施形態の乗物においては、運転者からの加速要求の応答性の確保と、燃費の改善とを両立させることができる。
この図7の例示では、第1条件の操作範囲を規定する上限値θ1及び下限値θ2が一定としているが、これら値は走行状態に応じて設定変更されてもよい。
図12にはこれら上限値θ1及び下限値θ2とエンジン回転数との関係を示しており、図12の横軸はエンジン回転数、縦軸はスロットルグリップ7の操作位置をそれぞれ表している。曲線R/Lは、平坦路で定速走行させるスロットル弁22の開度を図3(a)の制御マップから求めるときの入力値となるスロットルグリップ7の操作位置(以下、これを「R/L位置」という)を示している。この曲線R/Lから、エンジン回転数が大きくなるとR/L位置が大きくなるとわかる。或るエンジン回転数においてスロットルグリップ7の操作位置がR/L位置よりも大きいときには、平坦路を走行中の自動二輪車1は加速していき、逆に小さいときには減速していく。また、同一の操作位置であっても、エンジン回転数が違うと加速するときもあれば減速するときもある。
そこで上記上限値θ1は、R/L位置と同様、エンジン回転数が大きくなるほど大きい値に設定される。図12の座標系では上限値θ1を示す曲線が曲線R/Lの上側をこの曲線R/Lに沿うようにして推移し、エンジン回転数がアイドル回転数N0から高回転域の第1回転数N1までの範囲にあるとき、上限値θ1はR/L位置よりも大きい値に設定される。これにより、スロットルグリップ7の操作位置が上限値θ1よりも上方にあるときには、登坂中など特別な状況を除けば自動二輪車1が実際に加速している状態であり、このときに加速要求が大であると判定することは理にかなったものとなる。
また、下限値θ2もエンジン回転数が大きくなるほど大きい値に設定されている。図12の座標系では下限値θ2を示す曲線が、曲線R/Lの下側をこの曲線R/Lに沿うようにして推移し、エンジン回転数が低回転域の第2回転数N2を超えているとき、下限値θ2はR/L位置よりも小さい値に設定される。よって、エンジン回転数が第2回転数N2以下であるときには、スロットルグリップ7の操作位置がR/L位置よりも開き側にあっても、下限値θ2を下回るために加速要求が大と判定されることがある。エンジン回転数がアイドル回転数N0付近であってスロットルグリップ7の操作位置が全閉位置付近にあるときとは、自動二輪車1が発進を開始した段階であることが多いため、このときに加速要求を大と判定しやすい状況を生むべく下限値θ2を設定するのは、発進をスムーズに行わせる上で理にかなったものとなる。
なお、これら上限値θ1及び下限値θ2はギヤ位置に応じて可変であってもよい。このとき、ギヤ位置が高速側であるほど各値が小さくなるよう設定してもよい。また、第2条件に用いられる急開閾値や、第3条件に用いられる継続期間閾値についても、エンジン回転数やギヤ位置に応じて可変であってもよい。このとき、エンジン回転数が大きいときほど各閾値が小さくなるよう設定し、ギヤ位置が高速側であるほど各閾値が小さくなるように設定してもよい。
また、ステップS3の加速要求の大小の判定においては、第1条件、第2条件及び第3条件の全てが成立したときに加速要求が大と判定するようにしてもよく、第1条件、第2条件及び第3条件のうちいずれか一つが成立したときに加速要求が大と判定するようにしてもよい。また、上記実施形態では、第1条件、第2条件及び第3条件の3つの条件を考慮したが、これら3つのうち2つ以下の条件のみを考慮してステップS3の加速要求の大小の判定を行ってもよい。なお、2つの条件を考慮する場合には、2つの条件の両方が成立したときに加速要求が大と判定するようにしてもよく、2つの条件のうちいずれか一つが成立したときに加速要求が大と判定するようにしてもよい。
「ステータス3」及び/又は「ステータス4」に従って目標開度の変化率が緩やかになっているときには、点火時期を進角させる制御を併用してもよい。これによりエンジン12の出力を大きくすることができ、燃料消費量を低減しつつも加速要求に対する応答性を確保することができる。また、空燃比をリーン側とし、これによるトルク低下分だけスロットル弁22の開度を更に大きくする制御を併用し、更なる燃料消費量の低減が図られてもよい。また、減速要求が入力されているときに燃料カット制御を併用し、更なる燃料消費量の低減が図られていてもよい。
これまで本発明に係る実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の範囲内において適宜変更可能である。また、本実施形態では本発明に係る乗物として自動二輪車を例示したが、本発明は四輪車、不整地走行車及び小型滑走艇等、その他の乗物にも好適に適用することができる。