JP2011021062A - 蛍光体、発光モジュール及び車両用灯具 - Google Patents
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Abstract
【課題】所望の色度を満たすアンバー色の発光が可能な蛍光体を実現する。
【解決手段】発光素子が発する光の波長をアンバー色を示す波長に変換する、板状の無機材料で構成された蛍光体において、蛍光体は、一般式がCa3−a−bMaEubSiO4(Cl1−cXc)2(ここで、MはSr及びMgの少なくとも1種の元素からなり、XはCl以外のハロゲン元素から選ばれた1種以上の元素からなり、aは0<a≦2.5を満たす値、bは0.002≦b≦0.2を満たす値、cは0≦c≦0.5を満たす値である。)で表される。
【選択図】図15
【解決手段】発光素子が発する光の波長をアンバー色を示す波長に変換する、板状の無機材料で構成された蛍光体において、蛍光体は、一般式がCa3−a−bMaEubSiO4(Cl1−cXc)2(ここで、MはSr及びMgの少なくとも1種の元素からなり、XはCl以外のハロゲン元素から選ばれた1種以上の元素からなり、aは0<a≦2.5を満たす値、bは0.002≦b≦0.2を満たす値、cは0≦c≦0.5を満たす値である。)で表される。
【選択図】図15
Description
本発明は、アンバー色の光を照射する蛍光体及びそれを備えた発光モジュールに関する。
近年、発光ダイオードを用いた車両用灯具が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、アンバー色の光を発生する発光ダイオードとして、例えばAlGaInP又はGaAsP等を用いたものが知られている。しかしながら、AlGaInP又はGaAsP等を用いた発光ダイオードは、温度が上昇すると、発光効率が低下する場合があった。また、車両においては、エンジンからの輻射熱や直射日光により、車両用灯具の温度が上昇する場合もある。このような場合、灯具が発生する光の波長が変化し、ひいては色度の変化が生じることにもなる。
そこで、青色の光を発する発光ダイオードと、発光ダイオードが発生する青色の光に応じてアンバー色から赤色の光を発生する蛍光体とを組み合わせた車両用灯具や発光装置が知られている(例えば、特許文献2、3参照。)。
しかしながら、発光ダイオードと蛍光体とを組み合わせた上述のような技術では、蛍光体が発する光に発光ダイオード自体の光が混ざるため、所望のアンバー色の光を実現することが困難であった。そのため、主として発光ダイオードが発生する光を遮断する光学フィルタが必要とされており、部品点数の増加や構造の複雑化を招くことから更なる改良が求められていた。
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、所望の色度を満たすアンバー色の発光が可能な蛍光体、及び、その蛍光体を用いた簡易な構成の発光モジュールを提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明のある態様の蛍光体は、発光素子が発する光の波長をアンバー色を示す波長に変換する、板状の無機材料で構成された蛍光体である。この蛍光体は、一般式がCa3−a−bMaEubSiO4(Cl1−cXc)2(ここで、MはSr及びMgの少なくとも1種の元素からなり、XはCl以外のハロゲン元素から選ばれた1種以上の元素からなり、aは0<a≦2.5を満たす値、bは0.002≦b≦0.2を満たす値、cは0≦c≦0.5を満たす値である。)で表される。
この態様によると、所望の色度を満たすアンバー色の発光が可能な蛍光体が得られる。また、蛍光体を板状の無機材料とすることで、組成比の変わらない粉末の状態と比べて蛍光の色度をアンバー側にシフトすることができる。
MがSrの場合、aは0<a≦0.15を満たす値であってもよい。これにより、発光強度を高めることができる。
MがMgの場合、aは0<a≦0.10を満たす値であってもよい。これにより、発光強度を高めることができ、またレッド側にシフトした波長の光が得られる。
蛍光体は、厚みが300〜1000μmの範囲であってもよい。これにより、発光強度をあまり低下させずに色度をレッドシフトすることができる。
本発明の別の態様は、発光モジュールである。この発光モジュールは、発光素子と、発光素子が発する光により励起されアンバー色の光を発する蛍光体と、を備える。
この態様によると、所望の色度を満たすアンバー色の発光が可能となる。
発光素子は、紫外線や近紫外光を発してもよい。これにより、発光素子が発する励起光が漏れ光となって蛍光体が発する光と混色することによる色度のシフトが抑制される。
本発明の更に別の態様は、車両用灯具である。この車両用灯具は、発光モジュールと、発光モジュールを収納するランプボディと、ランプボディの開口部に取り付けられるアウターレンズと、を備える。
本発明によれば、所望の色度を満たすアンバー色の発光が可能な蛍光体、及び、その蛍光体を用いた簡易な構成の発光モジュールを実現することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
(車両用灯具)
はじめに、図1及び図2を参照して、本実施の形態に係る車両用灯具10の構成の一例について点灯制御部12とともに説明する。図1は、車両用灯具10の水平断面図を示す。図2は、車両用灯具10の正面図を示す。本実施の形態に係る車両用灯具10は、ターンシグナルランプであり、アンバー色の光を安定に照射する。また、図1及び図2に示した車両用灯具10は、例えば車両前方の右側に設けられる。
はじめに、図1及び図2を参照して、本実施の形態に係る車両用灯具10の構成の一例について点灯制御部12とともに説明する。図1は、車両用灯具10の水平断面図を示す。図2は、車両用灯具10の正面図を示す。本実施の形態に係る車両用灯具10は、ターンシグナルランプであり、アンバー色の光を安定に照射する。また、図1及び図2に示した車両用灯具10は、例えば車両前方の右側に設けられる。
車両用灯具10は、アウターレンズ22、ランプボディ24、複数の基板32、複数のLEDモジュール100、及び導光部材34を備える。ランプボディ24及びアウターレンズ22は、車両用灯具10の灯室を形成する。この灯室は、複数の基板32、及び複数のLEDモジュール100を、防水しつつ保持、収納する。ランプボディ24は、例えば樹脂により、複数の基板32、及び複数のLEDモジュール100を車両の後方から覆うように形成される。
アウターレンズ22は、例えば無色透明の素材である。アウターレンズ22は、車両用灯具10の前面を覆うようにランプボディ24の開口部に取り付けられている。これにより、アウターレンズ22は、LEDモジュール100から入射する光を、車両の前方に照射する。アウターレンズ22は、ランプボディ24に対し、例えばホットメルトや溶着により、固定される。また、アウターレンズ22における、複数のLEDモジュール100と対向する面には、配光制御のためのレンズステップが形成されており、アウターレンズ22は、このレンズステップにより、光を照射すべき方向を制御する。なお、他の例において、車両用灯具10が光を照射すべき方向は、例えばLEDモジュール100の後方に設けられた反射鏡により、制御されてもよい。
複数の基板32のそれぞれは、複数のLEDモジュール100をそれぞれ固定する。また、それぞれの基板32は、点灯制御部12と、複数のLEDモジュール100とを電気的に接続する。基板32は、ランプボディ24に固定されてよい。
複数のLEDモジュール100のそれぞれは、基板32を介して点灯制御部12から受け取る電力に応じて、点灯する。本実施の形態において、LEDモジュール100は、この電力に応じて、所望の色度を満たすアンバー色の光を発生する。この場合、例えば車両用灯具10の温度が上昇したとしても、光量及び波長が安定した光を、LEDモジュール100は、発生することができる。また、LEDモジュール100は、例えば、断続的な電力を点灯制御部12から受け取り、この電力に応じて点滅する。点灯制御部12は、複数のLEDモジュール100を点灯させる点灯回路である。点灯制御部12は、例えばフラッシャーリレーにより断続的な電力を生成して、複数のLEDモジュール100に供給する。
導光部材34は、ランプボディ24の前面の少なくとも一部を覆うように、車両の側面方向へ延伸して形成される。これにより、導光部材34は、LEDモジュール100から出射されたアンバー色の光を、車両の側面方向へ導く。また、これにより、車両用灯具10は、アウターレンズ22の略全面から、アンバー色の光を発生する。本実施の形態によれば、車両用灯具10は、アンバー色の光を、安定かつ適切に照射することができる。
図3は、本実施の形態に係るLEDモジュール100の断面図である。LEDモジュール100は、複数の電極104、基板112、枠体118、発光ダイオード102、及び板状の無機材料で構成された蛍光体106を有する。
複数の電極104は、基板32(図1参照)と電気的に接続され、基板32を介して点灯制御部12(図1参照)から受け取る電力を、基板112を介して、発光ダイオード102に供給する。
基板112は、発光ダイオード102を上面に裁置して固定する板状体である。また、基板112は、電極104と発光ダイオード102とを電気的に接続する配線を含み、電極104を介して点灯制御部12から受け取る電力を、発光ダイオード102に供給する。枠体118は、基板112の上に、発光ダイオード102を囲むように形成された壁面であり、その上面に蛍光体106を保持する。これにより、蛍光体106は、発光ダイオード102を覆うように保持される。また、枠体118の少なくとも一部は、例えば金属等の、空気よりも熱伝導率の高い素材で形成され、発光ダイオード102が発生する熱を、LEDモジュール100の外部に伝達する。
発光ダイオード102は、本発明の発光モジュールに用いられる発光素子の一例であり、例えば、紫外線又は短波長可視光(近紫外光)を発光するLEDやLD等を用いることができる。具体例として、InGaN系の化合物半導体を挙げることができる。InGaN系の化合物半導体は、Inの含有量によって発光波長域が変化する。Inの含有量が多いと発光波長が長波長となり、少ない場合は短波長となる傾向を示すが、ピーク波長が400nm付近となる程度にInが含有されたInGaN系の化合物半導体が発光における量子効率が最も高いことが確認されている。発光ダイオード102は、点灯制御部12から受け取る電力に応じて、紫外線又は短波長可視光を発生する。
蛍光体106は、発光ダイオード102の表面を覆うように設けられた、いわゆる発光セラミック、又は蛍光セラミックと呼ばれるものである。蛍光体106は、発光ダイオード102が発生する紫外線又は短波長可視光に応じて励起され、この紫外線又は短波長可視光よりも波長の長い光を発生する。本実施の形態において、蛍光体106は、前述の発光ダイオード102が発する光により励起され、発光スペクトルのピーク波長が580nm〜640nmの範囲にあるアンバー色の光を発するものが採用されている。
具体的には、一般式がCa3−a−bMaEubSiO4(Cl1−cXc)2(ここで、MはSr及びMgの少なくとも1種の元素からなり、XはCl以外のハロゲン元素から選ばれた1種以上の元素からなり、aは0<a≦2.5を満たす値、bは0.002≦b≦0.2を満たす値、cは0≦c≦0.5を満たす値である。)で表される蛍光体を用いて作製されたセラミック素地を焼結することにより得ることができる。
このような蛍光体は、以下のような方法により作製される。はじめにCaCO3、SiO2、Eu2O3、NH4Cl、MCO3(Mは、MgやSr)などの原料を所定の配合比となるように秤量し、坩堝に入れ大気雰囲気中にて800℃、3時間仮焼した。その後、好ましくは、遊星ボールミルにて粉砕する。その後、試料を一軸加圧成形機にて50MPaで成形する。好ましくは、更にCIP(冷間等方圧加圧)成形機にて250MPaで3分間保持する。その後、還元雰囲気(H2:N2=5:95、非酸化性ガス中)で室温から950℃(好ましくは975℃)まで300℃/時間の昇温速度で昇温し、950℃(好ましくは975℃)、3時間の条件で焼成する。
上述のような方法により、950℃、975℃のいずれの焼成温度においても、アンバー(橙色)発光の蛍光体が作製できた。図4は、本実施の形態に係る蛍光体の発光スペクトルの一例を示す図である。図4の実線は、原料にMgCO3を0.01mol%配合し、焼成温度950℃で作製した粉末状蛍光体の発光スペクトルを示し、図4の点線は、原料にSrCO3を0.05mol%配合し、焼成温度950℃で作製した粉末状蛍光体の発光スペクトルを示している。図4に示すように、いずれの蛍光体も発光スペクトルのピーク波長が580〜640nmに存在するアンバー色の光を発していることがわかる。
図5は、図4に示した各蛍光体の色度を示した図である。ここで、図5に示したアンバー規格色度とは、車両のターンシグナルランプの規格の1つであるECE規則No.6に準拠するものである。規格範囲は、y≧0.390、y≧0.790−0.670x、y≦x−0.120である。
このようにして得られた試料を研磨、切断し板状のセラミック蛍光体試料とした蛍光体106は、粉末状の蛍光体と異なり、粉末表面での光拡散を抑制でき、発光ダイオード102が発する光の損失が非常に少ない。また、蛍光体106は、無機物で構成されているため、バインダーに有機物を含有する場合に比べて耐久性の向上が図られている。このため、例えばLEDモジュール100に1W(ワット)以上の電力を投入することが可能となっており、LEDモジュール100が発する光の輝度及び光度を高めることが可能となっている。
以下、蛍光体の実施例及び比較例について詳述する。
次に、遊星ボールミルにて試料を粉砕・混合した。遊星ボールミルの条件は、アルミナ製坩堝中に、試料:ボール(ジルコニア製、φ=10mm):空間が体積比にて1:1:1となるように試料及びボールを投入し、公転速度400rpmで4時間処理した。詳細条件は、遊星ボールミルを、順方向に15分間駆動した後1分間休止、逆方向に15分間駆動した後1分間休止、というサイクルとした。その後、試料を一軸加圧成形器にて50MPaの圧力で加圧しながら1分間保持し、更に冷間等方圧加圧成形器(CIP成形器)にて250MPaの圧力で加圧しながら3分間保持し、ペレットに成形した。その後、成形されたペレットをアルミナ製坩堝に入れ、室温から800℃まで300℃/時間の昇温速度で昇温した。その後、還元雰囲気(H2:N2=5:95、非酸化性ガス中)において975℃で1時間保持し、還元焼成した。
更に、その試料を熱間等方圧加圧焼成炉(HIP)において、Arガス雰囲気中で100MPaの圧力下、975℃の焼成温度で、3時間処理した。その後、厚さが550μmとなるように研磨処理を施した後、1.6mm角となるように切断し板状のセラミック蛍光体試料を作製した。この試料を、図3に示すようなLEDモジュール100に蛍光体106として組み込んだ。ここで、励起光となる発光ダイオード102は、近紫外光を発光するものである。
このようにして得られたLEDモジュール100に対し、700mAの電流を流した際に得られた発光スペクトル、色度座標を図6、図7に示す。図6は、実施例1に係る蛍光体を用いたLEDモジュールの発光スペクトルを示した図である。図7は、実施例1に係る蛍光体を用いたLEDモジュールが発する光の色度座標を示した図である。図6に示すように、実施例1に係るLEDモジュールの発光スペクトルのピーク波長は630nmであり、半値幅は160nmであった。また、LEDモジュール100全体の発光効率は、9lm/Wであった。また、LEDモジュール100が発する光は、アンバー色の規格範囲に含まれるものであった。
次に、実施例1と同様の方法により、混合、仮焼、遊星ボールミルによる粉砕、混合処理を施した。その後、試料を一軸加圧成形器にて50MPaの圧力で加圧しながら1分間保持し、ペレットに成形した。その後、成形されたペレットをアルミナ製坩堝に入れ、室温から950℃まで300℃/時間の昇温速度で昇温した。その後、試料を還元雰囲気(H2:N2=5:95)において950℃で3時間保持することで還元焼成し、板状セラミック蛍光体試料を得た。
このようにして得られた試料(厚さ:2.2mm)に対し、近紫外LEDを試料下方より照射し、上方に透過してきた変換光(橙色発光)を測定した。変換光の発光スペクトルのピーク波長は630nmであり、半値幅は160nmであった。
次に、実施例2と同様の方法により、混合、仮焼、遊星ボールミルによる粉砕、混合処理を施した。その後、試料を一軸加圧成形器にて50MPaの圧力で加圧しながら1分間保持し、ペレットに成形した。その後、成形されたペレットをアルミナ製坩堝に入れ、室温から950℃まで300℃/時間の昇温速度で昇温した。その後、試料を還元雰囲気(H2:N2=5:95)において950℃で3時間保持することで還元焼成し、板状セラミック蛍光体試料を得た。
このようにして得られた試料(厚さ:2.2mm)に対し、近紫外LEDを試料下方より照射し、上方に透過してきた変換光(橙色発光)を測定した。変換光の発光スペクトルのピーク波長は620nmであり、半値幅は155nmであった。
次に、試料を一軸加圧成形器にて50MPaの圧力で加圧しながら1分間保持し、ペレットに成形した。このペレットをアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気(H2:N2=5:95)において1000℃で5時間保持することで還元焼成した。その後、この試料を乳鉢で粉砕し粉末蛍光体を得た。得られた試料を40vol%となるようにシリコーン系樹脂と混合し、シート厚920μmとなるように成形した後に、150℃で1時間保持し硬化させ、蛍光体シートを得た。得られた蛍光体シートを、図3に示するようなLEDモジュールに蛍光体として組み込んだ。
このようにして得られたLEDモジュールに対し、700mAの電流を流した際に得られた発光スペクトル、色度座標を図8、図9に示す。図8は、比較例1に係る蛍光体を用いたLEDモジュールの発光スペクトルを示した図である。図9は、比較例1に係る蛍光体を用いたLEDモジュールが発する光の色度座標を示した図である。図8に示すように、比較例1に係るLEDモジュールの発光スペクトルのピーク波長は630nmであり、半値幅は170nmであった。また、LEDモジュール全体の発光効率は、5lm/Wであった。なお、図9に示すように、比較例1の試料は、蛍光体シートの厚みが実施例1のセラミック蛍光体よりも厚いにも関わらず、色度はアンバー色の規格を満たさなかった。
(比較例2)
比較例1と同様の配合比で各原料を秤量し、実施例1と同様の方法で試料を作製した。しかしながら、この試料は、成型器で成形され、坩堝で還元焼成されているにもかかわらず、ペレット形状に維持されておらず、複数の塊へと破砕されていた。つまり、実施例のような板状セラミック蛍光体の作製は困難であった。
比較例1と同様の配合比で各原料を秤量し、実施例1と同様の方法で試料を作製した。しかしながら、この試料は、成型器で成形され、坩堝で還元焼成されているにもかかわらず、ペレット形状に維持されておらず、複数の塊へと破砕されていた。つまり、実施例のような板状セラミック蛍光体の作製は困難であった。
上述のように、比較例の組成にて実施例と同様の方法で試料を作製すると、成形したにも関わらず、できあがった蛍光体はバルク体を維持できない。つまり、円柱形状に成形された成形体が焼成後には複数の塊となっている。一方、各実施例に示す蛍光体は、焼結のため収縮するものの、焼成後においても成形体と相似な形状を保っている。
このような相違がでる要因としては、実施例に添加されているSrやMgが焼結助剤として働き、焼成により合成された橙色発光蛍光体の粒子間の焼結反応が促進されたためである。その結果、焼結体内部の空隙率が減少し、焼結体密度が上昇する。表5は、各実施例と比較例との密度の相違を示している。表5より、比較例の蛍光体に比べて各実施例の蛍光体の密度が高いことがわかる。
(Sr及びMgの好ましい添加量)
次に、上述の各実施例の結果を考慮して、Sr及びMgの好ましい添加量について検討した。Srは主に発光強度の増大を図るために添加される。図10は、Srの添加量に対する発光強度の変化を示した図である。また、Srの添加量とその時の発光強度比、発光波長(発光スペクトルのピーク波長)λDの具体的な数値を表6に示す。なお、発光強度比は、Srの添加量が0の場合の発光強度を1とした相対比である。
次に、上述の各実施例の結果を考慮して、Sr及びMgの好ましい添加量について検討した。Srは主に発光強度の増大を図るために添加される。図10は、Srの添加量に対する発光強度の変化を示した図である。また、Srの添加量とその時の発光強度比、発光波長(発光スペクトルのピーク波長)λDの具体的な数値を表6に示す。なお、発光強度比は、Srの添加量が0の場合の発光強度を1とした相対比である。
図10に示すように、Srの組成比aが0.05の場合に発光強度が最大となり、組成比aが0.20の場合には発光強度が急激に減少していることがわかる。このことから、前述の一般式において、MがSrの場合、aは0<a≦0.15を満たす値であることが好ましい。これにより、発光強度を高めることができる。
Mgは主にレッドシフトを図るために添加される。図11は、Mgの添加量に対する発光波長の変化を示した図である。また、Mgの添加量とその時の発光強度比、発光波長λDの具体的な数値を表7に示す。なお、発光強度比は、Mgの添加量が0の場合の発光強度を1とした相対比である。
図11に示すように、Mgの組成比aが0.01の場合に発光強度及びレッドシフトが最大となり、組成比aが0.15の場合には発光強度が急激に減少していることがわかる。このことから、前述の一般式において、MがMgの場合、aは0<a≦0.10を満たす値であることが好ましい。これにより、発光強度を高めることができ、またレッド側にシフトした波長の光が得られる。なお、発光波長λDが588〜596nmの場合が、アンバー色の規格範囲に含まれる目安である。
なお、上述の測定は、粉末試料に対し後述する反射型の光学系(図12参照)で測定したものである。また、MがMg及びSrを含む場合、aは0<a≦0.25を満たす値であることが好ましい。
(試料の形態による色度の相違)
比較例や実施例の蛍光体は、その形態が粉末の場合、前述の色度範囲を満たさない。一方、実施例に示したように透光性のある板状のセラミックとして加工された蛍光体は、前述の色度規格を満たす発光を示す。図12は、粉末状の蛍光体の発光スペクトルの測定方法を模式的に示した図である。図13は、透光性のある板状セラミック蛍光体の発光スペクトルの測定方法を模式的に示した図である。図12に示すように、粉末状の蛍光体では表面近傍の蛍光成分を測定している。一方、図13に示すように、透光性の板状セラミック蛍光体では透光した蛍光成分を測定している。
比較例や実施例の蛍光体は、その形態が粉末の場合、前述の色度範囲を満たさない。一方、実施例に示したように透光性のある板状のセラミックとして加工された蛍光体は、前述の色度規格を満たす発光を示す。図12は、粉末状の蛍光体の発光スペクトルの測定方法を模式的に示した図である。図13は、透光性のある板状セラミック蛍光体の発光スペクトルの測定方法を模式的に示した図である。図12に示すように、粉末状の蛍光体では表面近傍の蛍光成分を測定している。一方、図13に示すように、透光性の板状セラミック蛍光体では透光した蛍光成分を測定している。
図14は、上述の各試料の色度座標を示した図である。図14に示すように、同物質である蛍光体が、粉末形状か板状セラミックかによって色度が異なる理由は、蛍光体自身の自己吸収による。自己吸収とは、自らの蛍光を自らが吸収する現象であり、一般的に発光スペクトルの短波長域が自己吸収対象となる。この現象により短波長域の発光強度が相対的に低下するため、試料の蛍光成分の色度は長波長側へシフトする。そのため、板状セラミック蛍光体が厚くなるほど(蛍光体相の厚さ違いに相当)、発光スペクトルの短波長域の強度が減少し、ピーク波長は長波長側へシフト(レッドシフト)する。
図15は、板状セラミック蛍光体の板厚の違いによる色度の変化を示した図である。図15に示すように、板状セラミック蛍光体の厚みが増すにつれて色度はレッドシフトし、板厚が500μm程度より厚くなると前述のアンバー色の規格に含まれる。
一方、従来の蛍光体のように、樹脂中に蛍光体粉末を分散させると結果が大きく異なる。以下に、実施例3と同様の成分比の蛍光体を粉末状にして樹脂に分散したものを蛍光体相として、図3と同様のLEDモジュールを作製し、蛍光体相の厚みによる色度や発光強度の変化を測定した。なお、発光ダイオードとしては、波長が405nmの近紫外光を発光するものを用いている。
図16は、蛍光体相の厚みの違いによる色度の変化を示した図である。図17は、蛍光体相の厚みの違いによる発光強度の変化を示した図である。図16に示すように、蛍光体相の厚みが増すにつれてLEDモジュールが発する光の色度が変化する。これは、厚みが薄いと発光ダイオードの励起光(紫光)が漏れ、色度がアンバー色規格から大きく外れるためである。しかしながら、厚みを増すことで漏れ光量が減少していき、更に蛍光波長の短波長域が自己吸収により減少し、発光スペクトルが長波長側にシフトする。その結果、厚みが1300μmまで厚くなると、LEDモジュールが発する光の色度は、前述のアンバー色の色度範囲に含まれる。しかしながら、図17に示すように、LEDモジュールに板状セラミック蛍光体を用いた場合と比較して、蛍光体相の厚みの増加に伴い発光強度は著しく減少していることがわかる。
この理由は以下のように解釈できる。厚みが増すことで発光強度が著しく減少した原因は、光路長内にある蛍光体粒子数が増え、粒子表面で発生する励起光及び変換光の散乱による減衰や、蛍光体内部での減衰などが多く生じたためである。特に、樹脂に蛍光体を分散させた蛍光体相を用いたLEDモジュールの場合、蛍光体粒子とマトリクスの樹脂との屈折率差から、その界面で励起光及び変換光が多重的に散乱する。その結果、LEDモジュールとして取り出される変換光は減衰し、図17に示したように厚みの増加と共に発光強度が著しく減衰する。
次に、板状セラミック蛍光体の好ましい厚みについて検討する。上述のようにLEDモジュールが発する光の色度や発光強度は蛍光体の厚みに依存している。つまり、蛍光体相の厚みが大きいほど変換光の減衰は大きくなる。そこで、このような変換光の減衰を抑制するために、本実施の形態に係る蛍光体106は、高密度焼結体化されたものが好適である。このように蛍光体を高密度焼結体とすることで、透光性が発現する。これにより、樹脂に蛍光体粉末を分散させた蛍光体相のように蛍光体粒子間に隙間が生じることがなく、効率よく変換光を取り出すことができる。
また、板状セラミック蛍光体は、樹脂に蛍光体粉末を分散させた場合のような、蛍光体相と樹脂相との間での相違いによる屈折率差が生じない。その結果、板状セラミックからなる蛍光体相の内部における変換光の散乱がほとんど生じない。そのため、板状セラミック蛍光体は、樹脂に蛍光体粉末を分散させた蛍光体相の場合と比較して、変換光の減衰が生じ辛くなり、LEDモジュールとしての発光強度が大幅に向上する。
そこで、板状セラミック蛍光体を蛍光体106として組み込んだLEDモジュールの発光強度を測定した。測定したLEDモジュールにおける蛍光体の厚みは、300,500,1000μmである。図18は、本実施の形態に係るLEDモジュールにおける板状セラミック蛍光体の厚みの違いによる発光強度の変化を示した図である。
図18に示すように、板状セラミック蛍光体の板厚が厚くなるほど発光スペクトルの強度は減少する。具体的には、本実施の形態に係る板状セラミック蛍光体において、発光スペクトルのピーク波長における発光強度は、厚みが300μmの場合と比較して厚みが500μmの場合には約85%程度になる。同じく、厚みが300μmの場合と比較して厚みが1000μmの場合には約60%程度になる。板状セラミック蛍光体の場合、厚みが厚くなるほど発光強度は減衰するものの、図17に示した樹脂に蛍光体粉末を分散した蛍光体相の場合と比較して、減衰の程度は少ない。
また、本実施の形態に係るLEDモジュールが発する光は、図15に示したように、板状セラミック蛍光体の厚みによって色度が変化する。板状セラミック蛍光体は、高密度焼結体であるため、厚みが300μmであっても発光ダイオードの励起光(λp=405nm)が充分吸収される。そのため、紫色の漏れ光がほとんど発生しないため、アンバー色の色度の規格の範囲から大きく逸脱する光にはなりにくい。図19は、板状セラミック蛍光体の厚みが300μmであるLEDモジュールの発光スペクトルを示す図である。図19に示すように、このLEDモジュールが発する光のピーク波長は620nm前後であり、発光ダイオードの励起光を示すピークはみられず、また、アンバー色の波長から外れていない。
また、LEDモジュール100は、板状セラミック蛍光体の厚みの増加に伴い、発光する光の色度がレッドシフトする。そして、板状セラミック蛍光体の厚みが500μm以上の場合、LEDモジュール100が発する光は、アンバー色の規格の範囲を満たす。上述のように、板状セラミック蛍光体の厚みの相違による色度や発光強度の変化を考慮すると、板状セラミック蛍光体の厚みは300μm以上であることが好ましい。より好ましくは、ECE規則を考慮して板状セラミック蛍光体の厚みは500μm以上であるとよい。一方、発光強度を考慮すると、板状セラミック蛍光体の厚みは1000μm以下であることが好ましい。これにより、LEDモジュール100は、発光強度をあまり低下させずに色度がレッドシフトした光を発することができる。
なお、板状セラミック蛍光体の増加に伴い色度がレッドシフトした原因は、蛍光体の自己吸収現象であると考えられる。本実施の形態に係る蛍光体は、吸収帯と発光帯に重なりがある。重なりがある波長領域での蛍光は光路長が長いと再吸収されるため、短波長領域の発光強度が相対的に減少し、結果として発光色が長波長側へシフトする。特に、板厚の増加に伴い蛍光体相の光路長が増加するため、蛍光が再吸収される確率が増加する。そのため、板厚の増加に従い発光スペクトルのピーク波長が長波長側へシフトする。
(発光ダイオードの発光波長)
従来、燈色発光の蛍光体は450nmの光で励起されることが多かった。また一般的な橙色発光LEDモジュールにおいては、450nm(又は460nm)の光で励起される黄色発光蛍光体と赤色発光蛍光体とを混ぜることで橙色発光を得ているものもある。しかしながら、このような青色光(λp=450〜460nm)で励起するLEDモジュールの場合、励起光の漏れ光があると発光した光の色度がブルーシフトするため、アンバー色の規格から外れる可能性が高くなる。また、後者の例では黄色蛍光体と赤色蛍光体の温度特性の違いから、使用環境の温度上昇にしたがい赤色蛍光体の効率が低下し、イエローシフトすることで規格から外れる可能性がある。
従来、燈色発光の蛍光体は450nmの光で励起されることが多かった。また一般的な橙色発光LEDモジュールにおいては、450nm(又は460nm)の光で励起される黄色発光蛍光体と赤色発光蛍光体とを混ぜることで橙色発光を得ているものもある。しかしながら、このような青色光(λp=450〜460nm)で励起するLEDモジュールの場合、励起光の漏れ光があると発光した光の色度がブルーシフトするため、アンバー色の規格から外れる可能性が高くなる。また、後者の例では黄色蛍光体と赤色蛍光体の温度特性の違いから、使用環境の温度上昇にしたがい赤色蛍光体の効率が低下し、イエローシフトすることで規格から外れる可能性がある。
そこで、本実施の形態に係る発光ダイオードは、紫外線で励起するものを用いている。このような発光ダイオードは、励起光として紫外線や場合によっては近紫外光を発するため、励起光の漏れ光が生じても色度を大きくシフトすることはない。また本実施の形態に係るLEDモジュールは、橙色発光する単一の蛍光体を用いているため、高温環境下においても色度変化のおそれがない。
以上、本発明を上述の実施の形態や実施例を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態や実施例に限定されるものではなく、実施の形態や実施例の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態や実施例における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態や実施例に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態や実施例も本発明の範囲に含まれうる。
10 車両用灯具、 12 点灯制御部、 22 アウターレンズ、 24 ランプボディ、 32 基板、 34 導光部材、 100 LEDモジュール、 102 発光ダイオード、 104 電極、 106 蛍光体、 112 基板、 118 枠体。
Claims (7)
- 発光素子が発する光の波長をアンバー色を示す波長に変換する、板状の無機材料で構成された蛍光体であって、
前記蛍光体は、一般式がCa3−a−bMaEubSiO4(Cl1−cXc)2
(ここで、MはSr及びMgの少なくとも1種の元素からなり、XはCl以外のハロゲン元素から選ばれた1種以上の元素からなり、aは0<a≦2.5を満たす値、bは0.002≦b≦0.2を満たす値、cは0≦c≦0.5を満たす値である。)で表されることを特徴とする蛍光体。 - MがSrの場合、aは0<a≦0.15を満たす値であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
- MがMgの場合、aは0<a≦0.10を満たす値であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
- 前記蛍光体は、厚みが300〜1000μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光体。
- 発光素子と、
前記発光素子が発する光により励起されアンバー色の光を発する請求項1乃至4のいずれかに記載の蛍光体と、
を備えることを特徴とする発光モジュール。 - 前記発光素子は、紫外線を発することを特徴とする請求項5に記載の発光モジュール。
- 請求項5または6に記載の発光モジュールと、
前記発光モジュールを収納するランプボディと、
前記ランプボディの開口部に取り付けられるアウターレンズと、
を備えることを特徴とする車両用灯具。
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