JP2010516251A - ジスルフィド結合を含む活性なタンパク質の増強された無細胞合成の方法 - Google Patents

ジスルフィド結合を含む活性なタンパク質の増強された無細胞合成の方法 Download PDF

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Abstract

ジスルフィド結合を含む活性なポリペプチドの、増強されたインビトロ合成用の、組成物および方法を提供する。本発明の特定の態様において、反応用混合物は、グルタチオン還元酵素遺伝子が不活性化され、低濃度のスルフヒドリル基不活性化剤で前処理されている細菌細胞由来の生物抽出物を含む。

Description

発明の背景
大腸菌(Escherichia coli)は、異種タンパク質の発現のために広く用いられる生物である。それは、安価な基質上で高い細胞密度まで容易に増殖し、優れた体積的および経済的な生産性を提供する。十分に確立された遺伝子組換え技術および各種発現ベクターによって、大腸菌の使用が生産用宿主として正当であることがさらに証明される。しかしながら、活性な生体分子の効率的な生産のためには、高速なタンパク質合成は、必要であるが決して十分ではない。生物学的に活性であるためには、ポリペプチド鎖が、ジスルフィド結合の適切な形成を含む、正確な天然の三次元構造に折り畳まれなければならない。
多くの場合において、組換えポリペプチドは、封入体として公知の大きな屈折性凝集体の中に隔離されて見出される。変性剤に誘導された凝集体の可溶化と次に続く再折り畳みに有利な条件下における変性剤の除去の繰り返しを通して、活性なタンパク質を封入体から回収できる。しかし、封入体の形成は、発現されたタンパク質の精製を容易にすることがあるものの、ほとんどの場合、凝集したタンパク質の再折り畳みは、いまだ課題のままである。
細菌細胞質における異種タンパク質の折り畳みを改善するために、様々な試みがなされてきた。従来の方法に加えて、培養温度を低下させることを含んで、タンパク質折り畳みの機構および作用因子に関する増加する知見が、凝集の問題を解決するための新たな試みを可能としている。
インビトロでの研究は、大部分のポリペプチドにとって、折り畳みが、アミノ酸配列および溶媒条件によって方向付けられた自発的な過程であることを示した。しかし、天然の状態が熱力学的に望ましくはあるものの、折り畳みの時間尺度は、ミリ秒から日単位で変化し得る。例えば、サブユニットおよびサブドメインの配置の必要性から、速度論的障壁が導入された。そして、特に真核生物のタンパク質において、正確に折り畳まれたタンパク質を形成するためには、共有結合反応が起きなければならない。後者の反応形式は、ジスルフィド結合の形成、プロリンのペプチド結合周辺におけるポリペプチド鎖のシス/トランス異性化、タンパク質前駆体のプロセシング、および補欠分子族の結合を含む。これらの速度論的制限は、自己会合および凝集体の形成を促進する、露出した疎水性の「凝集しやすい(sticky)」表面を含む、部分的に折り畳まれた中間体の蓄積をもたらす。
哺乳類タンパク質の多くはその活性のために分子内でのジスルフィド結合が必要であるため、哺乳類タンパク質の発現は、細菌性タンパク質よりも複雑である。したがって、それらが天然の構造となるためには、フォルダーゼおよび適切な酸化還元電位のような追加の作用因子が必要とされる。大腸菌のペリプラズム空間は、酸化性環境のほかにDsb A、B、C、およびDのような折り畳みタンパク質を提供するにもかかわらず、多くの場合、複雑なタンパク質をペリプラズム空間に単純に分泌するだけでは、正確なジスルフィド結合を形成するのに不十分である。
フォルダーゼおよびシャペロンとして公知のアクセサリータンパク質は、インビボにおけるタンパク質の適切な折り畳みを補助することが認められてきた。フォルダーゼは、折り畳みにおいて律速である共有結合形成段階を加速する働きをする触媒活性を有する。一方、シャペロンは多くの機能を果たし、最も重要なものは、新生タンパク質が、自己会合との競合過程なしに折り畳まれる環境を提供することである。GroELおよびDnaKタンパク質のような特徴がはっきりとした分子シャペロンに加え、多くの追加の細胞質タンパク質が、異種タンパク質の折り畳みに影響するものと特定されてきた。
多数の細菌性または真核性のフォルダーゼの発見、ならびにジスルフィド結合の酸化および異性化におけるそれら特有の役割の発見に続いて、これらタンパク質を大腸菌のペリプラズム空間または細胞質でも使用する多くの試みがなされてきた(例えば、Bessette et al. (1999)参照)。分子シャペロンの同時発現によって、ある種の組換えタンパク質の発現における封入体形成の問題は、部分的に解決されることが示された(例えば、Richardson et al. (1998) Trends Biochem. Sci. 23:138-143(非特許文献1);およびBukau et al. (1998) Cell 92:351-366(非特許文献2)参照)。
しかしながら、分子シャペロンの効果は生成物特異的なものであり得、かつそれぞれの分子シャペロンの同時発現は、しばしば煩雑なものである。さらに、一部の例においては、分子シャペロンの発現は細胞増殖に有害である。最近の進展にもかかわらず、大腸菌において適切に折り畳まれた哺乳類のタンパク質を発現させることは、いまだに大きな課題のままである。これは主として、細胞内におけるスルフヒドリル基の酸化還元電位を含む、ジスルフィド結合形成の重要なパラメータを制御することの困難さに起因する。
数十年間、無細胞タンパク質合成(CFPS)とも呼ばれるインビトロタンパク質合成は、クローニングまたは合成された遺伝物質の実験室規模での発現における効果的な手段としての機能を果たしてきた。近年、インビトロタンパク質合成は、細胞での発現に関連する不都合のために、従来型の組換えDNA技術の代替手段と見なされてきた。インビボにおいては、タンパク質は、細胞の増殖に伴って合成される幾つかの酵素によって分解または修飾され、合成の後にグリコシル化、脱アミド化、または酸化のような翻訳後処理によって修飾され得る。さらに、多くの生成物が代謝過程を阻害し、それらの合成は、細胞の再生およびその遺伝子情報の保護に必要とされる他の細胞過程と競合せざるを得ない。
無細胞タンパク質合成は、多くの組換えタンパク質を生産するための技術の選択肢として、細菌での発酵に取って代わる可能性を有する。最も重要な利点は、理論上、反応における資源の全ては所望の生産物の生産を指向することができ、例えば、宿主細胞の生存率を維持するような、二次的な反応は指向していない。さらに、宿主細胞の生存率を維持する必要性が除外されることによって、宿主細胞に対して毒性のあるタンパク質の生産が可能となる。加えて、細胞膜が存在しないことにより、インビトロ合成反応の効率を増大させる試薬を添加して、反応体積に直接関与が可能となる(例えば、タンパク質収量の増加)。
標準的な発酵工程と競合するためには、インビトロ合成反応が、等量の生物学的に活性なタンパク質を同じ(またはより良い)コストで生産することが望ましい(Voloshin and Swartz (2005) Biotechnol Bioeng 91:516-21(非特許文献3)参照)。発酵工程と競合する無細胞合成系を達成する一つの要素は、反応のための低コストのエネルギー供給の採用である。この目的のために、系のpHが安定化されていれば、細菌性発酵において好ましい低コストの基質であるグルコースがインビトロ合成に使用できることが明らかにされた(Calhoun and Swartz (2005) Biotechnol Bioeng 90:606-13(非特許文献4))。
哺乳類のタンパク質を含む多くの工業的に関連するタンパク質が、活性のためにジスルフィド結合を必要とする。ジスルフィド結合の形成を促進するために、還元グルタチオン(GSH)および酸化グルタチオン(GSSG)の緩衝液を、ジスルフィド結合が形成される酸化性環境を創出するために、インビトロ合成反応に添加することができる。残念ながら、GSSGは、グルタチオン還元酵素(Gor)およびチオレドキシン還元酵素(TrxB)が関与する2つの酵素的経路によって、インビトロ合成反応中に速やかに還元される。抽出物を作成するために用いられた菌株からグルタチオン還元酵素またはチオレドキシン還元酵素のどちらかを欠失させても、GSSGの還元速度にはほとんど影響がなかった(Kim and Swartz (2004) Biotechnol Bioeng 85:122-9(非特許文献5))。gorおよびtrxBの両者の欠失は、酵素AhpCのペルオキシレドキシンからジスルフィド還元酵素への突然変異による転換をもたらし、突然変異は、ジスルフィド結合の還元の刺激はもとより、さらに急速な増殖を誘導する(Kim and Swartz (2004) Biotechnol Bioeng 85:122-9(非特許文献5))。
遺伝子欠失系の欠点を克服することを目的とし、TrxBおよびGorの活性部位におけるシステインを誘導体化するためにヨードアセトアミド(IAM)が抽出物に加えられ、その結果、それらの酵素は不活性化された(Kim and Swartz (2004) Biotechnol Bioeng 85:122-9(非特許文献5);米国特許第6,548,276号(特許文献1)および米国特許第7,041,479号(特許文献2))。IAMによるGorおよび TrxBの不活性化はジスルフィド結合形成の促進に有効であるものの、従来のIAM処理は、タンパク質収率の低下をももたらす(Kim and Swartz (2004) Biotechnol Bioeng 85:122-9(非特許文献5))。
ジスルフィド結合を含む活性なタンパク質を生産するインビトロ合成系の改良は、継続した関心事項であり、本願発明の主題である。
米国特許第6,548,276号 米国特許第7,041,479号
Richardson et al. (1998) Trends Biochem. Sci. 23:138-143 Bukau et al. (1998) Cell 92:351-366 Voloshin and Swartz (2005) Biotechnol Bioeng 91:516-21 Calhoun and Swartz (2005) Biotechnol Bioeng 90:606-13 Kim and Swartz (2004) Biotechnol Bioeng 85:122-9
反応用混合物における酸化還元条件が最適化された、ジスルフィド結合を含むタンパク質の無細胞合成のための組成物および方法を提供する。そのような最適化は、少なくとも部分的に、グルタチオン還元酵素遺伝子が不活性となるように遺伝子操作された細菌株由来の細胞抽出物を含む反応用混合物の利用によって達成されており、該細胞抽出物は、遊離のスルフヒドリル基を不活性化する、ヨードアセトアミド(IAM)を含むがこれに限定されない低濃度の化合物で処理されている。
本発明における他の態様において、細胞抽出物が由来する細菌株は、チオレドキシン還元酵素をコードする配列がアフィニティータグを含むように遺伝子操作されている。そのような態様において、本発明の合成反応において使用する前に、この細菌株からの細胞抽出物は、アフィニティータグと選択的に結合し、かつチオレドキシン還元酵素タンパク質を該抽出物から除去するアフィニティー樹脂と接触する。
いくつかの態様において、上述のように、チオレドキシン還元酵素をコードする配列およびグルタチオン還元酵素をコードする配列の両者が遺伝子改変されている細菌株からの抽出物を含む反応用混合物中で、無細胞タンパク質合成系が機能する。
低濃度の不活性化剤による細胞抽出物の処理によって、高エネルギーリン酸結合を欠いたエネルギー源の利用に必要な酵素が該抽出物中において活性を保つので、そのようなエネルギー源の使用がさらに可能となる。そのようなエネルギー源の例は、グルコースおよび解糖中間体を含む。ホスホエノールピルビン酸のような高エネルギーリン酸結合を有するエネルギー源と比較して低いコストのために、そのようなエネルギー源は望ましいものである。
特定の態様において、例えば酸化型が還元型に対して適切な比率であるグルタチオンの含有により、適切なジスルフィド結合を形成するために適当な酸化性環境を維持することを目的として、酸化還元緩衝液が反応用混合物に含まれる。
反応用混合物の酸化還元電位の安定化に加えて、インビボにおいてタンパク質の適切な折り畳みを補助するアクセサリータンパク質の含有により、インビトロ合成はさらに増強されるであろう。特に関心対象となる事項は、例えばPDI、dsbC、Skp、などの、折り畳みにおいて律速である共有結合形成段階を加速する働きをする触媒活性を有するタンパク質である、フォルダーゼの含有である。他の関心対象である改変は、例えばスペルミジン、スペルミン、プトレッシンなどで置き換えられてもよいポリエチレングリコールを実質的に含まずに反応を実施することを含む。反応が行われる温度は、例えば温度を約25度、約30度、約32度、約35度、約37度などまで下げることで、タンパク質のために最適化されてもよい。
本発明の一つの態様において、折り畳みの最適化およびジスルフィド結合形成の補正を目的とするインビトロ合成反応条件のスクリーニングのために、方法が提供される。少なくとも1個のジスルフィド結合を含む活性型タンパク質、すなわち正確に折り畳まれたタンパク質の合成のために、安定した酸化還元電位を有する複数の反応が試験される。反応条件は、例えば、フォルダーゼタンパク質の含有によって、および温度に関して、最適化される。反応条件は、同様に、遊離のスルフヒドリル基を不可逆的に不活性化する化合物のレベル、および酸化還元緩衝液における酸化型の還元型に対する比率の変化によって最適化されてもよい。
図1Aおよび1Bは、無細胞抽出物中における各種pHでのIAM誘導体化に対するGSSGの安定化を示す。数字は、示されたpHおよびIAM濃度で不活性化された、所定の抽出物を用いたPANOx-SP反応における、経時的な遊離スルフヒドリル基の増加速度である(μM/分)。網掛けの程度は還元速度を示している;濃い灰色は100μM/分超、薄い灰色は10〜30μM/分、および網掛けなしは10〜-10μM/分。速度測定における標準偏差は、表示値のおよそ9%である。 各種pHにおけるIAMによるTrxBの不活性化を描いた棒グラフである。酵素の活性は、IAM非存在下(黒色棒)ではpHによって大きな影響は受けないが、IAM処理後(灰色棒)では大きな影響を受ける。 4mM GSSG、1mM GSH、100μg/mL DsbC、およびpH6.6において表示された濃度のIAMで前処理された抽出物を含む、PANOx-SP反応におけるmGM-CSFのインビトロ合成を描いた棒グラフである。総収量(黒色棒)および活性収量(白色棒)を、3回の独立した反応による標準偏差の+/-のエラーバーとともに示す。 4mM GSSG、1mM GSH、75μg/mL DsbC、およびpH6.6において表示された濃度のIAMで前処理された抽出物を含む、PANOx-SP反応におけるウロキナーゼのインビトロ合成を描いた棒グラフである。総収量(黒色棒)、可溶化収量(灰色棒)、および活性収量(白色棒)を、3回の独立した反応による標準偏差の+/-のエラーバーとともに示す。 図5Aおよび5Bは、グルコースをエネルギー源とした反応における細菌および哺乳類の分泌タンパク質の無細胞生産を描いた棒グラフである。KC6およびKGK10の抽出物を、表示された濃度のIAMで前処理する。(A)はCATのインビトロ合成収量、(B)はmGM-CSFのインビトロ合成収量である。総収量(黒色棒)および活性収量(白色棒)を示す。データは、6回の独立した反応の平均値と標準偏差の+/-のエラーバーである。
態様の詳細な説明
生物学的に活性なタンパク質、特に一つまたは複数のジスルフィド結合を含むタンパク質の無細胞合成用の組成物および方法を提供する。本発明の一つの態様において、無細胞タンパク質合成の開始前に、反応用混合物は、内在性の酸化還元酵素反応に関係する酵素の不活性化によって安定化される。これらの態様のいくつかにおいて、無細胞合成系は、グルタチオン還元酵素遺伝子が不活性化され、かつ/またはチオレドキシン還元酵素遺伝子がタンパク質の除去に有用なアフィニティータグを含むように操作された細菌株由来の細胞抽出物を含む。抽出物は、遊離のスルフヒドリル基を不活性化、例えば、非可逆的に不活性化する低濃度の化合物で処理されている。
これらの方法は、連続、半連続、およびバッチ反応に適用できる。半連続系において、内在性の還元酵素が不活性化されていなくても、酸化還元緩衝液の酸化レベルは、延長されたインキュベーション後に実質的に回復する。反応容器における酸化性環境の回復によって、合成されたタンパク質は、ジスルフィド結合および活性を獲得する。しかしながら、酸化還元酵素が不活性化された抽出物は、生物活性なタンパク質のより迅速な形成を提供する。
いくつかの合成反応、例えば多重化反応にとって、半連続系よりもバッチ系を使用するのが望ましい。バッチ合成方法にとって、反応用混合物は、還元活性を有する内在性酵素の活性を低下するように改変されているのが望ましい。
定義
本発明が、記載された特定の方法、手順、細胞株、動物種または属、および試薬に制限されず、それ自体変更され得ることが理解されなければならない。また、本明細書で使用する専門用語は、特定の態様を説明する目的のためのみに用いられ、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を制限する意図はないことも理解されなければならない。
本明細書で使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、特記する場合を除き、その対象物の複数形も含む。したがって、例えば「1つの細胞」についての言及は複数のそのような細胞を含み、「そのタンパク質」についての言及は1つまたは複数のタンパク質および当業者に周知のその同等物についての言及を含み、その他も同様である。特記されない限り、本明細書で使用する専門用語および科学用語はすべて、本発明が属する当技術分野の当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。
スルフヒドリル基の不活性化
本発明の方法において、無細胞合成反応の前に、合成反応用混合物の細胞抽出物成分は、例えば遊離スルフヒドリルのアルキル化またはアセチル化によって、スルフヒドリル基を化学的に阻害する低濃度の化合物で処理される。この「低濃度」は、例えば、図5に示したように、反応用混合物中における抽出物が、エネルギー源としてグルコースまたは高エネルギーリン酸結合を欠いた解糖中間体を用いて、ポリペプチドを翻訳および/またはポリヌクレオチドを転写する能力を保持したまま、図3〜4に示したように、合成反応における適切に折り畳まれたポリペプチド数の増加、例えば、未処理の抽出物と比較して少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%またはそれ以上の増加を提供する濃度である。
不活性化剤の例示的な「低濃度」とは、少なくとも約10μM、約25μM、約50μM、および多くて約100μMの濃度のヨードアセトアミドである。ヨードアセトアミド以外の不活性化剤における適切な「低濃度」を決定する際、その濃度は、少なくとも約10μM、約25μM、約50μM、および多くて約100μMの濃度であるヨードアセトアミドに相当する不活性化のレベルを提供する。ヨードアセトアミドの活性は、本明細書に記載の無細胞合成法;またはヨードアセトアミドの活性の任意の簡便な試験、例えばMasatomi (1973) J. Biochem. 73:705-716;Vuong et al. (2000) Electrophoresis 21(13):2594-605;Sechi and Chait (1998) Anal Chem. 70(24):5150-8;またはTakahashi (1970) J Biochem. 68(4):517-27に記載のものを用いて算出してもよい。
有用な不活性化剤は、当技術分野において公知のように、ヨードアセトアミド、N-エチルマレイミド、ヨード酢酸、ブロモ酢酸、N-ヨードアセチル-N'-(5-スルホ-1-ナフチル)エチレンジアミン、4-ビニルピリジン、アクリルアミド、など、を含み、特に、ヨードアセトアミド類、マレイミド類、ベンジルハライド類およびブロモメチルケトン類を含むそれらの化合物を含む。不活性化剤の濃度および反応時間の長さは、選択された個別の化合物により決定される。
不活性化剤は、抽出物の合成活性を保持したまま、抽出物中の内在性スルフヒドリル還元活性を実質的に消去する濃度で添加される。両活性は、本明細書で提供される実施例で説明された方法によって容易に決定される。一般的には、合成活性の少なくとも約50%、より一般的には少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約90%が維持される。例として、不活性化剤がヨードアセトアミドの場合、それは約10から約50μMの濃度で添加され、15から60分の間インキュベートされてもよい。
本明細書において使用される折り畳みとは、ポリペプチドおよびタンパク質の三次元構造、またはそのような構造を達成する過程を意味し、ここで、アミノ酸残基間の相互作用がその構造を安定化するように作用する。非共有の相互作用が構造の決定に重要であるものの、通常、関心対象のペプチドおよびタンパク質は、二つのシステイン残基によって形成される分子内および/または分子間共有結合を有すると考えられる。天然に存在するタンパク質およびポリペプチドまたはその誘導体および変異体にとって、適切な折り畳みは、典型的に、最適な生物学的活性をもたらす配置であり、例えばリガンド結合、酵素活性等の活性試験によって都合良く測定可能である。
ある事例において、例えば所望の生産物が合成起源である場合、生物学的活性に基づく試験はあまり意味がないと思われる。そのような分子の適切な折り畳みは、物理的特性、エネルギー的考察、モデル化研究などに基づいて決定され得る。
本明細書において使用されるインビトロ合成とは、巨大分子の無細胞合成、通常は生物抽出物および/または確定した試薬を含む反応用混合物中でのタンパク質翻訳を意味する。反応用混合物は、エネルギー源;巨大分子生産の鋳型、例えばDNA、mRNA、など;アミノ酸、ならびに、補助因子、酵素、および合成に必要な他の試薬、例えばリボソーム、tRNA、ポリメラーゼ、転写因子、などを含み得る。
反応用混合物は、エネルギー担体および核酸の構成要素となるヌクレオチドをも含み得る。三リン酸エステル型が必要とされるものの、反応用混合物が、添加されたヌクレオチドの型を三リン酸エステル型に変換するように活性化されている限りにおいては、任意の個数のリン酸エステル基が結合したヌクレオチドを添加できる。これら試薬は、通常は少なくとも約0.1mM、少なくとも約0.25mM、少なくとも約0.5mM、および多くて約2mMの濃度から添加される。そのような濃度では、三リン酸エステル型への再生を繰り返すことなしに重要なタンパク質生産にエネルギーを供給するのに不十分である。
ある反応用混合物の例においては、中央代謝の異化作用を通じて処理されることによって、転写および翻訳に必要とされるATP、GTP、CTP、およびUTPを再生するように、グルコースが約20から約50mMの濃度で添加される。他の例においては、当技術分野において公知な方法を用いて、例えば、供給液中のグルコースが約10mMから約50mMまでとして、グルコース、または解糖中間体もしくはTCAサイクル中間体が、バッチ系、または連続系として操作される系に徐々に供給される。
そのような合成反応系は、当技術分野において周知であり、文献にも記載されてきた。無細胞合成反応は、当技術分野において公知であるように、バッチ、連続流、または半連続流として行ってもよい。
いくつかの態様において、合成反応は、ポリエチレングリコール(PEG)が実質的な非存在下、例えばPEGが約0.1%未満の濃度で、および0.01%未満でもよい濃度で行われる。通常の反応用混合物は、約2%のポリ(エチレングリコール)8000を含む。しかしながら、これは収率を減らすことが知られている。本方法において、PEGの代わりにスペルミジンおよびプトレッシン分子が使用できる。スペルミンまたはスペルミジンは、そのとき、少なくとも約0.5mM、通常少なくとも約1mM、好ましくは約1.5mM、および多くて5mMの濃度で存在する。プトレッシンは、少なくとも約0.5mM、好ましくは少なくとも約1mM、好ましくは約1.5mM、および多くて5mMの濃度で存在する。
本明細書において使用されるグルコースまたは解糖中間体とは、解糖経路の一部である、ADPからATPを合成するためのエネルギーを供給する化合物を意味する。これらエネルギー源は、グルコース、グルコース-1-リン酸、グルコース-6-リン酸、フルクトース-6-リン酸、フルクトース-1,6-二リン酸、トリオースリン酸、3-ホスホグリセリン酸、2-ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸(PEP)およびピルビン酸を含む。
適用できる場合、エネルギー源は、生物学的に許容される適切な塩として、または遊離酸、例えばピルビン酸、として供給される。合成開始時におけるエネルギー源の最終濃度は、一般的には少なくとも約5mM、より一般的には少なくとも約10mM、少なくとも約20mM、および多くても約1000mM、一般的には多くても約100mMであり得る。追加の量は、長い反応時間に備えて、反応過程の間に反応用混合物に添加されてもよい。
幾つかの態様において、反応用混合物は、濃度約2.5mM未満のヌクレオチド三リン酸、および高エネルギーリン酸結合を欠いたエネルギー源、通常はグルコースまたは高エネルギーリン酸結合を欠いた解糖中間体、例えばグルコース-6-リン酸、グリセルアルデヒド-3-リン酸、フルクトース-6-リン酸、ピルビン酸、などを少なくとも濃度約10mMで含む。反応は、上記のようにヌクレオチド三リン酸以外の高エネルギーリン酸結合の外来性起源なしで実施されてもよい。
生物抽出物
本発明の目的のため、生物抽出物は、通常は細菌細胞の抽出物である、タンパク質合成機構の構成成分を含む任意の調製物であって、そのような構成成分は、所望のタンパク質をコードする核酸を翻訳できる。従って、細菌抽出物は、所望のタンパク質をコードする伝令リボ核酸(mRNA)を翻訳できる構成成分を含み、かつ所望のタンパク質をコードするDNAを転写できる構成成分を任意で含む。そのような構成成分は、例えば、DNA依存性RNAポリメラーゼ(RNAポリメラーゼ)、所望のタンパク質をコードするDNAの転写開始に必要な任意の転写活性化因子、転移リボ核酸(tRNA)、アミノアシルtRNA合成酵素、70Sリボソーム、N10-ホルミルテトラヒドロ葉酸、ホルミルメチオニン-tRNAfMet合成酵素、ペプチド転移酵素、IF-1、IF-2、およびIF-3のような開始因子、EF-Tu、EF-Ts、およびEF-Gのような伸長因子、RF-1、RF-2、およびRF-3のような終結因子、などを含む。
便宜上、抽出物の原料として用いられる生物は、原料生物と呼んでもよい。本発明の特定の態様において、反応用混合物は、当技術分野において公知のように、細菌細胞由来の抽出物、例えば大腸菌S30抽出物を含む。多くの異なる種類の細菌細胞、例えば、シュードモナス種、スタフィロコッカス種、メタノコッカス種、メタノバクテリウム種、メタノサルシナ種、等が、これらの目的のために使われてきた。これらの態様のいくつかにおいて、細菌細胞は、特定の遺伝子における欠失または定方向の変異を含む。関心対象である特定の遺伝子改変は、チオレドキシン還元酵素および/またはグルタチオン還元酵素の改変を含む。例えば、グルタチオン還元酵素は、欠失、終止コドンの挿入、などによって不活性化されてもよい。チオレドキシン還元酵素は、アフィニティータグ、例えばヒスチジンタグ、HAタグ、などの付加によって変化させられてもよい。
本発明の一つの態様において、反応用混合物は、当技術分野において公知のように、細菌細胞由来の抽出物、例えば大腸菌S30抽出物を含む。活性な抽出物の製造方法は、当技術分野において公知であり、例えばPratt (1984), Coupled transcription-translation in prokaryotic cell-free systems, p. 179-209、Hames, B. D. and Higgins, S. J. (ed.), Transcription and Translation: A Practical Approach, IRL Press, New Yorkにおいて見出される。Kudlicki et al. (1992) Anal Biochem 206(2):389-93において、超遠心分離法でS30からリボソーム分画を収集することによって大腸菌S30無細胞抽出物が改変された。そのような抽出物は、リボソームおよびタンパク質合成に必要な他の因子の有用な供給源ではあるものの、それらは、反応の酸化性環境を調節し、新生ポリペプチドの基および酸化還元緩衝液を還元するように作用する、タンパク質合成とは関係しない望ましくない副反応の原因となる少量の酵素も含む。
チオ還元酵素(thioreductase)遺伝子は、例えば、GenBankアクセッション番号NC_000913、バージョンNC_000913.2 GI:49175990の、参考のK12株ゲノムに示されるように、大腸菌の配列を参照して記載されてもよい。グルタチオン還元酵素遺伝子(gor)は、ゲノム残基3644322〜3645674に位置する。この酵素は、EC番号分類1.8.1.7を有する。大腸菌のタンパク質は、GenBankアクセッション番号NP_417957.1で参照される。
チオレドキシン還元酵素遺伝子(trxB)は、大腸菌ゲノム残基930308〜931273(相補体)に位置する。この酵素は、EC番号分類1.8.1.9を有する。大腸菌のタンパク質は、GenBankアクセッション番号NP_415408.1で参照される。
酵素をコードする配列は、「ノックアウト」されるか、または、コードする配列の全てまたは一部の欠失;フレームシフトの挿入;ドミナントネガティブ変異等によって、原料生物の染色体において不活性化されてもよい。大腸菌を含む、多くの生物のゲノムは、完全に配列決定されており、その結果、遺伝子改変を促進している。例えば、マーカーレスノックアウト戦略(markerless knockout strategy)法が、Arigoni et al. (1998) Nat Biotechnol 16(9):851-6に記載されている。
標的遺伝子の不活性化方法が、Hoang et al. (1998) Gene 212:77-86に記載されている。この方法において、テトラサイクリン耐性遺伝子およびレバンスクラーゼ(sacB)をコードする遺伝子を組換えの選択マーカーとして含む、遺伝子置換ベクターが使用される。標的遺伝子は、まずクローニングされ、好ましくは遺伝子の大部分を除去することによって変異誘発される。この遺伝子は、次に、染色体の遺伝子置換を促進するために設計されたベクターにライゲーションで挿入される。その後、大腸菌細胞をそれらのベクターで形質転換する。染色体の標的遺伝子部位にプラスミドが組み入れられた細胞が選択され、続いて、ショ糖上での細胞増殖によってプラスミドが染色体から離される。sacB遺伝子が染色体中に存在する場合、ショ糖は毒性がある。適切に変異された菌株は、テトラサイクリン感受性およびショ糖耐性の表現型に基づいて選択される。その後、PCR解析またはDNAシークエンシングで、所望の遺伝子変化を確認する。
酵素は、細胞破壊後および使用前に、細胞抽出物から除去できる。標的酵素に対して特異的親和性を有する抗体または抗体断片の使用のようなアフィニティー精製手法;細胞抽出物からの除去を促進するために標的酵素の一部として発現されたアフィニティータグの使用;および通常の精製方法を含む、タンパク質精製の技術分野において公知であるいくつかの手段のうちの任意のものが用いられる。
例えば、抗体または抗体断片(例えば、FabまたはscFv)が、標的酵素に対する特異的親和性のために、ファージ提示法または他の十分に開発された手法を用いて選択される。続いて、その抗体または抗体断片は、いくつかの固定化手法のうちの任意のものを用いて、いくつかの精製用ビーズまたは樹脂または膜のうちの任意のものに固定化される。固体化された抗体を、標的酵素に結合させるために細胞抽出物と接触させ、続いて固定化された抗体/酵素複合体を、濾過または穏やかな遠心分離によって除去する。
他の例において、標的タンパク質をコードする配列は、例えば、Flag(登録商標)伸長(Immunex Corp.が開発し、Stratageneが販売)、またはポリヒスチジン末端のようなタグを含むように改変されてもよい。他の多くの例が発表され、当業者にとって公知である。続いて、タグ付加されたタンパク質は、適切なアフィニティーマトリックスまたはアフィニティーカラムを通過させることによって除去される。アミノ酸の伸長および結合パートナーは、細胞抽出物の化学組成を有意に変化させずに、細胞抽出物の安定性に対応した条件下において特異的な結合のみが起きるように選択される。
さらにもう一つの例において、標的酵素または酵素類は、基質アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、電気泳動分離、またはタンパク質精製技術分野において実施されている他の方法のような、タンパク質の精製に通常用いられるいくつかの方法のうちの任意のものによって分離される。
酸化還元最適化抽出物
本願方法のための生物抽出物は、酸化還元緩衝液を還元するように作用する、抽出物中の酵素および他の生体分子を実質的に除去するために最適化されている。特定の望ましくない酵素、例えばグルタチオン還元酵素は、遺伝子的に不活性化されるか、または反応用混合物に利用される細胞抽出物から除去されている。さらに、反応用混合物は、上述のとおり、低濃度の不活性化剤で処理されてもよい。そのような処理の最適な濃度は、もしあれば、記載された実験例において説明したような方法によって、容易に決定することができる。
酸化還元緩衝液
本願発明における合成反応用混合物は、酸化還元緩衝液の追加によって改変されてもよい。そのような緩衝液は、一つまたは複数のグルタチオン、システイン、ホモシステインなどのような、遊離のスルフヒドリル基および/またはジスルフィド結合を有する化合物を、還元型もしくは酸化型、または両者の混合物として含む。選択された反応時間で求められる還元能力または酸化能力に達するために必要な、還元剤および/または酸化剤の濃度、ならびに酸化型および還元型の比率は、還元剤または酸化剤の強さ、系における酸素レベル、および反応時間の長さによって変化すると考えられる。
好ましい態様において、グルタチオンが酸化還元緩衝剤として用いられ、少なくとも約1mMかつ多くて約25mMの濃度、好ましくは約2から10mMの濃度で添加される。
酸化還元緩衝液は、酸化型および還元型両者のスルフヒドリル化合物を、例えば酸化型:還元型の比率が約10:1から1:5の間で、一般的には約5:1から2:1の間で、および4:1の比率で含む。
折り畳み酵素の添加
本願発明の反応用混合物は、折り畳みおよびジスルフィド結合の形成を増強する一つまたは複数の酵素、すなわちフォルダーゼ、シャペロニン、などの含有によってさらに改変されてもよい。本発明の一つの態様において、細菌のフォルダーゼ酵素が反応用混合物に添加される。例えば、ジスルフィド結合形成を触媒する多くのシステイン酸化還元酵素が、大腸菌において特徴付けられてきた。関心対象の酵素またはシャペロニンは、RotA(PpiA)、FkpA、Skp、SurA、PpiD、DsbA、DsbB、DsbC、DsbD、PDI(タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ)、GroEL/ES、DnaK、DnaJ、GrpE、BIP(免疫グロブリン重鎖結合タンパク質)、PPI(ペプチジルプロリルイソメラーゼ)、およびサイクロフィリンなどを含む(Schafer et al. (1999) J Biol Chem 274(35):24567-74;Muller et al. (2001) Prog Nucleic Acid Res Mol Biol. 66:107-57参照)。発現されたタンパク質生成物の生物学的活性の力価測定によって実験的に決定される、関心対象の標的タンパク質全体の活性の向上に効果的である濃度で、折り畳み酵素が添加される。
特に関心対象となる事項は、誤ったジスルフィド結合の再配列または異性化を触媒する、酸化酵素活性および異性化酵素活性を有する水溶性の酵素であるDsbCの含有である。折り畳まれていないポリペプチド鎖が初めて酸化される際、システイン残基間の誤った対形成が容易に起こる。DsbCは、誤ったジスルフィド結合の破壊および、その後のそれらの天然状態において起きる形成を促進する。同時に関心対象となる事項は、ジスルフィド結合形成における主要な触媒である水溶性の酵素DsbAの使用である。
DsbC遺伝子の同定は、Missiakas et al. (1994) EMBO J 13:2013-2020に記載されており、インビトロにおけるインスリンのジチオスレイトール依存性還元において、DsbAと類似の活性を有することが示されている。Chen et al. (1999) J. Biol. Chem. 274:19601-19605も参照のこと。周辺質における折り畳み促進のためのDsbAまたはDsbCの使用が、Joly et al. (1998) P.N.A.S. 95:2773-2777で論じられている。
細菌の周辺質におけるシャペロンタンパク質は、チオール‐ジスルフィド交換反応を触媒するDsbタンパク質、およびXaa-Proペプチジル結合周辺のシス‐トランス異性化を触媒するペプチジルプロリルイソメラーゼ(PPIase)の二つの大きな集団に属する。サイクロフィリン型PPIaseであるRotA(PpiA);FK-506結合タンパク質型PPIaseであるFkpA;ならびにパーブリン(Parvulin)型に属するSurAおよびPpiDを含む、PPIaseの大きなファミリー全体の代表は、グラム陰性菌の周辺質で検出されてきた。さらに、Skpは周辺質のシャペロンとして機能する。この16kDaの塩基性の大腸菌タンパク質は、サルモネラ菌のOmpHタンパク質の相同体であり、タンパク質前駆体の早発性の折り畳みを阻害し、かつ初期の可溶性折り畳み中間体を形成および維持する分子シャペロンとして機能する。
細菌性の酵素の代わりとして、真核生物の酵素を使用してもよい。例えば、真核生物のPDIは、タンパク質におけるシステイン酸化およびジスルフィド結合異性化の効率的な触媒であるだけでなく、シャペロン活性をも示す。PDIの共発現は、複数のジスルフィド結合を有する活性なタンパク質の生産さえも促進できる。
「所望のタンパク質」または「選択されたタンパク質」という用語は、互換的に用いられ、一般的に、約5アミノ酸以上を有する任意のペプチドまたはタンパク質をいう。細菌性の無細胞抽出物内で生産されたヒトタンパク質または酵母タンパク質のように、ポリペプチドは、細菌性の無細胞抽出物が由来する細菌と相同であってもよく、または好ましくは外来性であってもよく、すなわち、細菌性の無細胞抽出物が由来する細菌とは非相同、すなわち、異質であってもよい。好ましくは、哺乳類のポリペプチド、すなわち哺乳類のゲノムにコードされたポリペプチドが用いられる。
哺乳類のポリペプチドの例としては、以下の分子を含むが、それに限定されるものではない:レニン;ヒト成長ホルモンおよびウシ成長ホルモンを含む成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;α-1-アンチトリプシン;インスリンA-鎖;インスリン;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体ホルモン;グルカゴン;活性化第VIIIC因子、活性化第IX因子 、組織因子、およびフォンウィルブランド因子のような凝固因子;プロテインCのような抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺サーファクタント;ウロキナーゼまたはヒト尿型または組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)のようなプラスミノーゲン活性化因子;ボンベシン;トロンビン;造血成長因子;腫瘍壊死因子‐αおよび‐β;エンケファリナーゼ;ランテスおよび他のケモカイン;ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1α);ヒト血清アルブミンのような血清アルブミン;ミュラー管抑制因子;レラキシンA鎖;レラキシンB鎖;プロレラキシン;マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド;β‐ラクタマーゼのような微生物タンパク質;DNA分解酵素;インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子(VEGF);ホルモンまたは増殖因子のレセプター;インテグリン;プロテインAまたはD;リウマチ因子;骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3、-4、-5、または-6(NT-3、NT-4、NT-5、またはNT-6)、またはNGF-βのような神経成長因子などの神経栄養因子;血小板由来増殖因子(PDGF);αFGFおよびβFGFのような線維芽細胞増殖因子;上皮増殖因子(EGF);TGF-αおよびTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、またはTGF-β5を含むTGF-βのようなトランスフォーミング増殖因子(TGF);インスリン様増殖因子-Iおよび-II(IGF-IおよびIGF-II);des(1-3)-IGF-I(脳IGF-I)、インスリン様増殖因子結合タンパク質; CD-3、CD-4、CD-8、およびCD-19のようなCDタンパク質;エリスロポエチン;骨誘導因子;免疫毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン-α、-β、および-γのようなインターフェロン;コロニー刺激因子(CSF)、例えば、M-CSF、GM-CSF、およびG-CSF;インターロイキン(IL)、例えば、IL-1からIL-18;スーパーオキシドジスムターゼ;T-細胞レセプター;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;例えば、AIDSエンベロープの一部のようなウイルス抗原;輸送タンパク質;ホーミングレセプター;アドレシン;調節タンパク質;抗体;および任意の上記ポリペプチドの断片。
無細胞タンパク質合成の方法およびシステム
上記のように、本発明は、生物学的に活性なタンパク質、特に一つまたは複数のジスルフィド結合を含むタンパク質を合成するための方法およびシステムである。無細胞タンパク質合成用の反応用混合物は、タンパク質の折り畳みおよびジスルフィド結合の形成を改善するために改変され、その方法は、高エネルギーリン酸結合を欠いたエネルギー源、例えばグルコースおよび解糖中間体の使用を含んでもよい。
一つまたは複数のジスルフィド結合を有するタンパク質の生産に向けた無細胞タンパク質合成系において、(例えば、酸化型が還元型に対して適切な比率であるグルタチオンの含有によって)適切な酸化性環境を維持するために、酸化還元緩衝液が反応用混合物に含まれてもよい。酸化還元緩衝液は、系において用いられる細菌抽出物内の内因性のタンパク質による酸化還元酵素反応を不活性化することによって安定化されている。
本発明の方法において、インビトロ合成系は、グルタチオン還元酵素遺伝子(gor)が不活性化された(例えば、変異した、または欠失した)細菌株由来の細胞抽出物を含む。抽出物は、遊離のスルフヒドリル基を不活性化する低濃度の化合物で処理されてもよい。IAMを用いる態様において、合成反応におけるIAMの濃度は、約5μMから約500μM、例えば約10μMから100μM、および約20μMから約75μMを含むものである。特定の態様において、インビトロタンパク質合成反応におけるIAMの濃度は、50μMである。ジスルフィド結合を含むタンパク質を生産するために必要とされる、遊離のスルフヒドリル基を不活性化する化合物の量を減らすことによって、本願発明は、高エネルギーではないリン酸結合を含むエネルギー源の使用を可能にする。
特定の態様において、細胞抽出物が由来する細菌株は、チオレドキシン還元酵素遺伝子から生産されるタンパク質がアフィニティータグ(例えば、ヘマグルチニンタグ、HA)を含むように、さらに遺伝子操作されている。これらのうち特定の態様において、合成の前に、この細菌株からの細胞抽出物を、改変されたチオレドキシン還元酵素タンパク質上のアフィニティータグと選択的に結合して、それを抽出物から除去するアフィニティー樹脂と接触させる。この処理により、ジスルフィド結合を含むタンパク質の生産に用いられる酸化還元緩衝液の還元が、さらに妨げられる。
インビトロ合成は、インビボにおけるタンパク質の適切な折り畳みを補助するアクセサリータンパク質の含有によって、さらに増進されてもよい。特に関心対象となる事項は、折り畳みにおける律速段階を加速するのに役立つ触媒活性を有するタンパク質であるフォルダーゼ、例えばRotA(PpiA)、FkpA、Skp、SurA、PpiD、DsbA、DsbB、DsbC、DsbD、PDI、GroEL/ES、DnaK、DnaJ、GrpE、BIP、PPI、PDI、サイクロフィリンなどの含有である。
いくつかの合成反応、例えば多重化反応には、半連続系よりもバッチ系を用いることが好ましい。バッチ合成法において、反応用混合物は、好ましくは抽出物中の分子、例えば、還元活性を有する内在性酵素の活性を減弱するために改変される。
本発明の一つの態様において、折り畳みの最適化およびジスルフィド結合形成の補正を目的とするインビトロ合成反応条件のスクリーニングのために、方法が提供される。少なくとも1個のジスルフィド結合を含む活性型タンパク質、すなわち正確に折り畳まれたタンパク質の合成のために、安定した酸化還元電位を有する複数の反応が試験される。
反応条件は、遊離のスルフヒドリル基を不可逆的に不活性化する化合物のレベルの変化、ならびに選択されたシャペロンおよびフォルダーゼタンパク質の導入;温度の変化;酸化還元緩衝液の濃度および酸化還元緩衝液における酸化型の還元型に対する比率の変化;などによって最適化される。
典型的な試験は、対照サンプルを含み、それは通常の反応用混合物、および/または酸化還元系が安定化された反応用混合物であってよい。反応条件は、一つまたは複数のRotA(PpiA)、FkpA、Skp、SurA、PpiD、DsbA、DsbB、DsbC、DsbD、PDI、GroEL/ES、DnaK、DnaJ、GrpE、BIP、PPI、PDI、サイクロフィリン、などを、反応条件の一団を形成するための少なくとも一つおよび一般的には複数の反応に添加することまたはそれらの濃度を変化させることによって最適化されてもよい。薬剤に対応した活性なタンパク質合成における変化が測定される。反応条件は、可能な条件のマトリクスとして示される複数の反応条件を形成するために、同様に、温度の変化、不活性化剤の濃度変化、および酸化還元緩衝液における酸化型の還元型に対する比率の変化によって最適化されてもよい。
各種濃度に対する異なる反応を得るために、異なる薬剤濃度で並行して複数の試験が実施されてもよい。当技術分野で公知であるように、薬剤の効果的な濃度の決定においては、通常、1:10または他の対数尺度の希釈に由来する濃度範囲を使用する。必要であれば、この濃度を、第二の希釈系列でさらに精密化してもよい。一般的には、これら濃度、すなわち、濃度0または薬剤の検出レベルより低濃度または合成において検出可能な変化を与えない薬剤濃度若しくはそれ未満の濃度のうちの一つが、陰性対照となる。
翻訳反応におけるタンパク質の生産量は、各種方法で測定できる。一つの方法は、翻訳された特定のタンパク質の活性を測定する試験の有用性に依存する。タンパク質の活性を測定する試験の例は、ルシフェラーゼ試験系、またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ試験系である。これらの試験により、翻訳反応から生産された機能的に活性なタンパク質の量が測定される。活性試験では、不適切なタンパク質の折り畳みまたはタンパク質の活性に必要な他の翻訳後修飾の欠如のゆえに不活性である全長タンパク質は測定されない。
連続したインビトロの転写および翻訳反応で生産されたタンパク質の量を測定するもう一つの方法は、既知量の35S-メチオニン、3H-ロイシン、および14C-ロイシンのような放射性標識アミノ酸を用いて反応を実施し、続いて新たに翻訳されたタンパク質に取り込まれた放射性標識アミノ酸の量を測定することである。取り込み試験は、インビトロ翻訳反応で生産された、不完全なタンパク質生産物を含む全てのタンパク質における放射性標識アミノ酸の量を測定する。放射性標識タンパク質を、さらにタンパク質ゲル上で分離し、生産物が適切な大きさであるか、および二次的なタンパク質生産物が生産されていないかをオートラジオグラフィーによって確認する。
上記の構成成分に加えて、本発明のインビトロタンパク質合成タンパク質反応は、特定の構成成分を含み、その幾つかは以下に記載されている。
例えば、反応用混合物は、巨大分子生産の鋳型、例えばDNA、mRNA、など;合成される巨大分子用のモノマー、例えば、アミノ酸、ヌクレオチド、など、ならびに、補助因子、酵素、および合成に必要な他の試薬、例えばリボソーム、tRNA、ポリメラーゼ、転写因子、などを含む。このような合成反応系は、当技術分野において周知であり、文献に記載されてきた。ポリペプチド合成用の多くの反応化学が、本発明の方法において使用できる。例えば、反応化学は、2002年1月8日交付の米国特許第6,337,191号、および2001年1月2日交付の米国特許第6,168,931号に記載されており、参照により本明細書に組み入れられる。
本発明の一つの態様において、反応化学は、2003年8月18日に出願された係属中の米国出願特許第10/643,683号に記載されているとおりであり、参照により本明細書に組み入れられる。酸化的リン酸化が活性化され、収量の増加をもたらし、エネルギー源の利用を増進する。向上した収量は、グルコースを含む培地で増殖させた細菌由来の生物抽出物の使用;ポリエチレングリコールを含まないこと;および最適化されたマグネシウム濃度を含む因子の組み合わせによって得られる。これにより、系におけるリン酸濃度およびpHの恒常性がもたらされ、二次的なエネルギー源を含まない場合においてさえ合成が可能となる。
無細胞タンパク質合成用の鋳型は、mRNAかDNAのどちらかである。安定化されたmRNAの翻訳、または転写と翻訳の組み合わせは、保存された情報をタンパク質に変換する。大腸菌の系において通常利用される、組み合わされた系は、認識可能なプロモーターにより継続的にDNAの鋳型からmRNAを生成する。内因性のRNAポリメラーゼが使用されるか、または典型的にはT7またはSP6である外来性のファージRNAポリメラーゼが反応用混合物に直接添加される。あるいは、RNA依存性RNAポリメラーゼであるQBレプリカーゼ用の鋳型にメッセージを挿入することによって、mRNAが継続的に増幅され得る。精製されたmRNAは、通常、反応用混合物に添加される前に、化学修飾によって安定化される。mRNAレベルの安定を補助するために、ヌクレアーゼは、抽出物から除去できる。鋳型は、任意の特定の関心対象の遺伝子をコードできる。
特に生物学的に関連する、マンガンのような、他の塩も添加してよい。カリウムは、通常、50〜250mMの間で添加され、アンモニウムは0〜100mMの間で添加される。反応のpHは、通常、pH 6〜pH 9の間である。反応の温度は、通常、20℃〜40℃の間である。これらの範囲は拡張されてもよい。
望ましくない酵素活性に対する代謝阻害剤が、反応用混合物に添加されてもよい。あるいは、望ましくない活性に関与する酵素または因子は、抽出物から直接除去されてもよく、望ましくない酵素をコードする遺伝子は、不活性化されるか、または抽出物の原料細胞の染色体から除去されてもよい。
宿主生物から精製されたまたは合成の小胞が、系に添加されてもよい。これらは、タンパク質の合成および折り畳みを促進するために使用されてもよい。このサイトミム(cytomim)技術は、酸化的リン酸化の活性化のため、呼吸鎖成分を含む膜小胞を利用する活性化過程を示してきた。本願方法は、他の膜タンパク質のセットを活性化するために、無細胞発現に用いられてもよい。
関心対象の合成系は、DNAの複製を含み、それは、DNAの増幅、DNAまたはRNAの鋳型からのRNAの転写、RNAのポリペプチドへの翻訳、および簡単な糖から複雑な糖鎖の合成を含んでもよい。ポリヌクレオチド合成が起きる態様において、反応用混合物はヌクレオチド三リン酸(NTP)を含む。これらのモノマーは高エネルギーリン酸結合を有するものの、それらはタンパク質合成反応のエネルギー源としては用いられない。
反応は、大規模でも小規模でもよく、または多数の同時合成を実施するために多重化されてもよい。活性な合成の時間を延長するために追加の試薬が導入されてもよい。合成された生産物は一般的に反応器内に蓄積され、その後、系の操作の完了後に、一般的なタンパク質精製方法に従って分離および精製される。
特に関心対象となる事項は、鋳型DNAからのmRNAインビトロ合成に連動する、タンパク質を生産するためのmRNAの翻訳である。そのような無細胞系は、mRNAの翻訳に必要な全ての因子、例えばリボソーム、アミノ酸、tRNA、アミノアシル合成酵素、伸長因子および開始因子を含む。当技術分野において公知である無細胞系は、活性な内因性のmRNAを除去するために適切なヌクレアーゼで処理され得る大腸菌抽出物、などを含む。
無細胞抽出物、遺伝子の鋳型、およびアミノ酸のような上記の構成成分に加えて、タンパク質合成に特に必要とされる物質が反応に添加されてもよい。これらの物質は、塩、高分子化合物、サイクリックAMP、タンパク質または核酸分解酵素の阻害剤、タンパク質合成の阻害剤または制御剤、酸化/還元調節剤、未変性界面活性剤、緩衝液成分、プトレッシン、スペルミン、スペルミジン、などを含む。
好ましくは、塩は、酢酸または硫酸のカリウム塩、マグネシウム塩、およびアンモニウム塩であり、これらのいくつかは対アニオンとしてアミノ酸を有してもよい。高分子化合物は、ポリエチレングリコール、デキストラン、ジエチルアミノエチルデキストラン、第4級アミノエチル、およびアミノエチルデキストラン、などでもよい。酸化/還元調節剤は、ジチオスレイトール、アスコルビン酸、グルタチオン、および/またはそれらの酸化物でもよい。また、Triton X-100のような非変性界面活性剤が0〜0.5Mの濃度で使用されてもよい。スペルミンおよびスペルミジン、または任意で組み合わせでプトレッシンは、タンパク質合成能力の向上に使用されてもよく、cAMPは遺伝子発現制御剤として使用されてもよい。
反応用培地における特定の構成成分濃度を変化させる際には、それに応じてもう一つの構成成分の濃度が変更されてもよい。例えば、ヌクレオチドおよびエネルギー源化合物のような数種の構成成分の濃度は、他の構成成分の濃度の変化に従って同時に制御されてもよい。また、反応器内における構成成分の濃度レベルは、時間とともに変化してもよい。
本発明が、記載された特定の方法、手順、細胞株、動物の種または属、構築物、および試薬には限定されず、それらが当然異なってもよいことが理解される必要がある。また、本明細書で用いる用語は特定の態様を説明することのみを目的としており、添付の特許請求の範囲のみによって制限される本発明の範囲を制限することを意図したものではないことも理解される必要がある。
特記されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により共通して理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で記述した方法、機器、および材料と類似または等価の任意の方法、機器、および材料を、本発明の実施または試験で使用することができるが、好ましい方法、機器および材料について、以下説明する。
本明細書で言及されるすべての刊行物は、その刊行物中で説明され、本明細書において説明される発明と関連して使用される可能性のある、例えば、細胞株、構築物、および方法を説明および開示するための参照として本明細書に組み入れられる。上記および本文章全体で論じられる刊行物は、単に、本願の出願日前の刊行物を開示するために示される。本明細書には、先行発明に基づいて発明者がこのような刊行物に先行する権利がないことが認められると解釈されるものは何もない。
以下の実施例は、当業者に本発明を作製および使用する方法を完全に開示および説明するために示されるが、本発明と見なされるものの範囲を制限すると意図されない。使用される数値(例えば、量、温度、濃度、など)に関する精度を保証するように努力がなされたが、いくらかの実験誤差および偏差が考慮されるべきである。特記されない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏であり、圧力は大気圧であるかまたは大気圧と近似である。
実施例1
材料および方法
KGK10株の構築
ここでの目的は、グルタチオン還元酵素(Gor)をコードする遺伝子の除去およびヘマグルチニンタグ(HAタグ)をコードする配列をtrxB遺伝子に加えることであった。後者のため、Datsenko and Wanner (2000) Proc Natl Acad Sci USA 97:6640-5に記載のpKD3プラスミドを鋳型とし、プライマー
Figure 2010516251
を用いてPCRカセットを作製した。これらのプライマーにおいて、相同領域を小文字で示し、HAタグ配列には下線を引き、終止コドンは太字とし、そしてpKD3プラスミドにアニールする領域は大文字とする。このカセットは、BW25113 pDK46株で形質転換し、LB-クロランフェニコール上で選択した。成功した組換え体からKC6へ遺伝子変異を移行するために、P1バクテリオファージでの形質導入を用いた。次に、pCP20プラスミドからのFLPリコンビナーゼの発現を用いて、クロランフェニコール耐性マーカーを除去して菌株KC6 TrxB-HAを得た。
KC6 TrxB-HAから、上記と同じ手段でグルタチオン還元酵素(gor)を除去した。プライマー
Figure 2010516251
を用いてPCRカセットを作製した。gorが除去され、trxBが3' HAタグ配列を獲得し、かつahpCが変異していないか確認するために、KGK10におけるtrxB、gor、およびahpCの位置を配列決定した。
KGK10からの抽出物の調製およびTRのアフィニティー精製
グルコースおよびアミノ酸を、酢酸塩の蓄積を回避しながら高細胞密度まで対数増殖を可能にする手段(Zawada and Swartz (2005) Biotechn and Bioeng 89:407-415)を用いて発酵槽に供給した、確定した培地を用いて、10リットルの発酵槽でKGK10またはKC6を増殖させた。30 OD600で発酵槽を回収し、Liu et al. (2005) Biotech Prog 21:460-465に記載のように抽出物を調製した。
HAタグ付加したチオレドキシン還元酵素をKGK10抽出物から除去するためにAP-Mini(Waters、ミルフォード、マサチューセッツ州)の内径5 mmのクロマトグラフィーカラムに1.8mLの抗HA樹脂(Roche Applied Science、インディアナポリス、インディアナ州、カタログ# 1 867 423)を充填した。カラムは、50 mLの平衡緩衝液(20 mM Tris、0.1 M NaCl、0.1 mM EDTA、pH 7.5)で調整した。合計15 mlのKGK10抽出物を、流速0.25 mL/分でカラムを通過させた。通過した分画は0.5 mLずつ採取した。次に、カラムを10 mLの平衡緩衝液+0.05% Tween-20で洗浄した。結合したTrxBは、0.1 MグリシンpH 2.0で溶出した。
無細胞タンパク質合成反応
表示されているものを除いて、全ての化学薬品はSigma-Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)から購入した。この研究では、二つの類似の無細胞タンパク質合成系を用いた。どちらの系も、以下の標準的な成分を含んだ:130 mMグルタミン酸カリウム;10 mMグルタミン酸アンモニウム;1.2 mM AMP;0.85 mMのGMP、UMP、およびCMPのそれぞれ;1.5 mMスペルミジン;1.0 mMプトレッシン;34μg/mLフォリン酸;170.6μg/mL 大腸菌tRNA混合物(Roche、インディアナポリス、インディアナ州);10 mMリン酸カリウム(pH 7.2);20の天然アミノ酸2 mMずつ;5μM L-[U-14C]-ロイシン(Amersham Pharmacia、ウプサラ、スウェーデン);0.33 mMニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD);0.27 mMコエンザイムA(CoA);26.6μg/mLプラスミド;100μg/mL T7 RNAポリメラーゼ;および0.24体積の大腸菌S30抽出物。PANOx-SP系は、16 mMグルタミン酸マグネシウム;33 mMホスホエノールピルビン酸(PEP;Roche、インディアナポリス、インディアナ州);および2.7 mM シュウ酸ナトリウムも含んだ。標準的な試薬に加えて、グルコース系は、8 mMグルタミン酸マグネシウム; 90 mM Bis-Tris緩衝液pH 7.0;および33 mMグルコースを含んだ。
組み合わせた転写‐翻訳反応は、特に断りのない限り、1.5 mLのエッペンドルフチューブで37℃で3時間実施した。プラスミドは、Qiagen Plasmid Maxi Kit(Qiagen、バレンシア、カナダ)を用いて調製した。T7 RNAポリメラーゼは、すでに記述されたように(Davanloo et al. (1984) Proc Natl Acad Sci 81:2035-9)、大腸菌株BL21(pAR1219)から調製した。DsbCは、記述のように(Yin and Swartz (2004) Biotechnol Bioeng 86:188-95)、菌株BL21(DE3)(pETDsbChisC)からの過剰発現および精製によって調製した。抽出物をヨードアセトアミド(IAM)で処理する必要がある反応においては、最初に濃縮された少量のIAMをエッペンドルフチューブの底に加えた。次に、大量のS30抽出物を少量のIAMと、迅速かつ完全に混合した。この抽出物を、インビトロ合成反応で使用する前に、室温で30分間IAMとインキュベートした。
pHおよびIAM濃度のGSSG安定化に対する影響を決定するため、最初に少量の10 M KOHまたはHClをエッペンドルフチューブの底に加えることによって、S30のpHを調整した。次に、大量のS30抽出物を少量の酸または塩基と、迅速かつ完全に混合した。pHは、標準化されたマイクロpHプローブ(Model 9810BN、Orion、ベバリー、マサチューセッツ州)で測定した。各pHおよびIAM濃度において、5 mMのGSSGおよびpK7CATプラスミドを追加したいくつかの15μLでのPANOx-SP反応を準備した。各条件において、一つの反応を、15、38、60、90、120、および180分で停止させ、下記のとおりSH基濃度を測定した。
ウロキナーゼ(UK)反応は、合計体積30μLでの、pK7UKプラスミド、4 mM GSSG、1 mM GSH、および75μg/mL DsbCを追加した、PANOx-SP反応であった。この反応は、37℃で6時間インキュベートした。プラスミドpK7UKは、T7プロモーターの制御下で、マウスウロキナーゼのセリンプロテアーゼ領域をコードする。
マウス顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(mGM-CSF)反応は、合計体積30μLでの、pK7catgmhisプラスミド、4 mM GSSG、1 mM GSH、および100μg/mL DsbCを追加した、PANOx-SP反応であった。mGM-CSF用遺伝子には、翻訳開始の改善のためにクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)の最初の5アミノ酸のコドンを融合し、終止コドンの直前にヘキサヒスチジン精製タグのコドンを加えた。pK7catgmhis(Yang et al.(2004) Biotechnol Prog 20:1689-95)を作製するために、この修飾遺伝子をpK7プラスミドにクローニングした。修飾された5'のコーディング配列は、翻訳速度の増加を示したものの、タンパク質の折り畳みへの影響は有意ではない。
グルコース系の反応は、合計体積15μLおよび30μLでのPANOx-SP反応と同じ方法で実施し、pK7CATまたはpK7catgmhisプラスミドを使用した。この反応は、37℃で3時間(CAT)および5時間(mGM-CSF)インキュベートした。プラスミドは、T7プロモーターとT7ターミネーターとの間で、それぞれ各遺伝子をコードする。
タンパク質合成収量の測定
反応直後に、インビトロ合成反応のサンプル5μLを一片のろ紙上に滴下した。タンパク質に取り込まれたL-[U-14C]-ロイシン量を、合成されたタンパク質を沈殿させるため、すでに記述されたトリクロロ酢酸法(Calhoun and Swartz (2005) Biotechnol Prog 21:1146-53)を用いて、液体シンチレーションカウンター(LS3801、Beckman Coulter, Inc.)で定量化した。生産物であるタンパク質の可溶性分画は、14,000 x gで15分間4℃でサンプルを遠心分離して単離した。上精の5μLを用いて、同様の方法でL-[U-14C]-ロイシンの取り込みを測定した。
酸化グルタチオンの還元試験
酸化グルタチオンの還元を、スルフヒドリル基濃度の増加を経時的に観察することによって測定した。インビトロ合成反応の全量15μLを等量の10%トリクロロ酢酸で希釈し、12,000 x g、4℃で10分間遠心分離した。上清の10μLを、96穴マイクロタイタープレートのウェルに加えた。各ウェルに、90μLの1 M Tris-HCl(pH 7.8)と0.44 mg/mL DTNB (5,5'-ジチオビス-2-ニトロ安息香酸、TCI America)を加えた。室温で3分後、412 nmでの吸光度を測定し、既知の濃度のGSH溶液で確定した検量線との比較から、遊離のチオール濃度を決定した。
チオレドキシン還元酵素活性試験
チオレドキシン還元酵素は、すでに記述されたようにインビトロ合成反応で生産された(Knapp and Swartz (2004) FEBS Lett 559:66-70)。少量の濃縮されたKOHまたはHClにより、未精製反応生産物のアリコートのpHを、所望の値に調整した。続いてこれらのアリコートを、IAMの最終濃度が7mMとなるように、少量のIAM濃縮物と混合した。これらのサンプルを室温で30分間インキュベートし、続いてこのサンプルのチオレドキシン還元酵素活性を測定した。チオレドキシン還元酵素の活性試験は、以下の構成要素を含む:50 mM リン酸二水素ナトリウム pH 7.6、1.5 mM EDTA、10 mM グルコース6-リン酸、200μM DTNB、300μM NADPH、3μM 大腸菌チオレドキシン(EMD Biosciences;ダルムシュタット、ドイツ)、および0.2 Uグルコース6-リン酸脱水素酵素(Sigma)。約500 ngのチオレドキシン還元酵素を、1 mLの試験用混合物に加え、412 nmにおける吸光度の増加速度を37℃で90秒間測定した。DTNBは、還元されて2分子のニトロチオ安息香酸を生成した。反応速度の計算には、ニトロチオ安息香酸の吸光係数(13,600 M-1 cm-1)を用いた。
無細胞合成ウロキナーゼの活性試験
遠心分離後、上清10μLを、80μLの試験緩衝液(50 mM Tris-HCl、38 mM NaCl pH 8.8)および10μLの基質溶液(2 mM Chromozym U;Roche Applied Science)を含むマイクロタイタープレートのウェルに加えた。405 nmにおける吸光度の変化速度を、マイクロプレートリーダー(SpectraMax 190、Molecular Devices)で測定した。マウスウロキナーゼのセリンプロテアーゼ領域を、記述(Kim and Swartz (2004) Biotechnol Bioeng 85:122-9)にしたがって生産、精製、および試験した。この研究により、87 ngの酵素が10 mOD-mL/分の活性を発生することが示された。活性なUKの収量は、その比活性に基づいて算出した。
無細胞合成マウスGM-CSFの細胞増殖活性試験
mGM-CSFの生物学的活性を、マウスGM-CSF依存性細胞株NFS-60に対する増殖誘導能によって試験した。NFS-60細胞は、酵母由来GM-CSF(Immunex)存在下、10%FCSを含むRPMI培地(Invitrogen)で増殖させた。細胞は対数期に回収して、3回洗浄し、そしてウェル当たり5000細胞の濃度で、標準的な96穴組織培養プレートに蒔いた。三通りの希釈した標準的な大腸菌由来のmGM-CSF(R&D Systems、ミネアポリス、ミネソタ州)または無細胞発現mGM-CSFをウェルに加え、5%二酸化炭素環境下、37℃でインキュベートした。約20時間後、6.7μCi/mLの[3H]-チミジン(Amersham Biosciences)を加えて、インキュベーションを再開した。7から10時間後に、グラスファイバーフィルターマット上に細胞を回収し、Wallach 1450 Micro-betaシンチレーションカウンター(PerkinElmer、ウェレスレイ、マサチューセッツ州)により[3H]-チミジン取り込みを測定した。
結果
本発明者らは、アフィニティー除去過程と組み合わせた場合に、全ての公知である細胞質での還元経路を欠いた無細胞抽出物をもたらす、二つの染色体改変を、菌株KC6(Calhoun and Swartz (2006) J Biotechnol. 123:193-203)に対して行った。第一の変異は、GSSGの還元を触媒する酵素であるgorを除去することである。図1Aのデータは、この除去ではGSSG(KGK10細胞抽出物)を完全に安定化しないことを示している。本発明者らは、Δgor株におけるGSSGの継続する還元は、チオレドキシン還元酵素(TrxB)が介在する系の活性が原因であると判断した。
Δgorの背景におけるチオレドキシン還元酵素(trxB)の遺伝子は、細胞質のジスルフィド結合を還元する能力を修復するahpCの代償性変異なしに除去することができない。チオレドキシン系を無効とするため、染色体におけるtrxBのC末端に精製用ヘマグルチニンタグ(HAタグ)を加えた。最終的な菌株はKGK10(A19 ΔspeA ΔtnaA ΔtonA ΔendA ΔsdaA ΔsdaB ΔgshA Δgor TrxB-HA met+)と命名した。この菌株は、チオレドキシンが介在する経路がまだ損なわれていないため、AhpCの変異を獲得することなしに正常に増殖する。しかし、精製用タグは、インビトロ合成反応で使用する前に、抽出物からTrxBを除去することを可能とする。TrxB-HAの除去は、KC6抽出物に放射性TrxB-HAを加え、アフィニティークロマトグラフィー法でそれを除去することによって検証した。90%を超える放射性TrxB-HAを抽出物から除去し、そのタンパク質のみがカラムに残存した。
KGK10細胞抽出物を調製し、アフィニティークロマトグラフィーを用いてHAタグTrxBを除去した。KC6、KGK10、およびKGK10-TrxB抽出物を様々な濃度のIAMで処理し、5 mM GSSGを含むインビトロ合成反応で使用した。図1Aは、TrxBのアフィニティー精製をしなくても、gorの除去はGSSGの還元速度を有意に減少させることをを示している。KGK10抽出物で酸化グルタチオン緩衝剤を安定化するために必要とされるIAMは、KC6抽出物に対して20倍少ない。
KGK10における染色体変異は、IAMの必要濃度を減少させるが、GSSGの安定化のためのIAMでの前処理の必要性を無くしはしなかった。本発明者らは、反応の化学的性質を慎重に考慮することによって、IAMの濃度をさらに減少できる可能性があると考えた。スルフヒドリル基は、IAMに求核攻撃をするために、チオラートアニオン型になる必要がある。タンパク質における大半のシステインのスルフヒドリル基はpKa>8.0であり、従って生理的pHにおいてプロトン化されたままである。しかしながら、酸化還元活性タンパク質の活性部位におけるシステイン残基のスルフヒドリル基は、中性pHにおいてよりチオラートアニオンになりやすい。これらのタンパク質は、隣接するアミノ酸残基の電荷相互作用により、活性部位におけるチオールのpKaを低下させている。他のほとんどのスルフヒドリル基がプロトン化されている低pHにおいて実施するIAM処理は、そのような活性部位の一部ではないシステイン残基を選択的に保護する。
この戦略の実現性を確認するために、各種pHにおいてチオレドキシン還元酵素をIAMで不活性化した。TrxBの活性部位のスルフヒドリルのpKaは6.98である。IAMによるTrxBの不活性化は、pKaよりも約1単位低い、pH5.8付近で効果を失い始めることが、図2に示されている。この実験は、IAMでの不活性化は、あるpH未満(問題のシステインのpKaと比較して)では起きないという理論を実証し、かつインビトロ合成反応においてGSSGを安定化するために必要なIAM濃度は、低pHで選択的に不活性化される還元酵素によって低下するであろうことを示唆する。
しかしながら実際には、図1Bに示すように、低pHでの前処理はIAMの必要濃度を低下させなかった。10μM以下のIAMで処理したKGK10抽出物は、処理pHに関係なく、遊離のスルフヒドリル基の増加を20から30μM/分の間で触媒する。生理的pH付近では、50μMのIAMは、GSSGの還元を排除するのに十分である。50μMより高濃度のIAMは、抽出物を含まない反応で観察されるものと類似の、スルフヒドリルの酸化の低速化をもたらす。IAM処理のpHを生理的pHから離れて調節するにつれて、酸化されたグルタチオンを完全に安定化するためには、より高濃度のIAMを必要とする。
この研究の主目的は、必ずしもGSSGを完全に安定化することではなく、ジスルフィド結合を必要とするタンパク質を生産することである。この研究において、マウス顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(mGM-CSF)を無細胞反応でのモデルタンパク質として用いた。それは、二つのジスルフィド結合を含む。図3は、このタンパク質を生産するためには、酸化されたグルタチオン緩衝剤を完全に安定化する必要はないことを示している。しかしながら、50μMのIAM処理またはTrxB除去のどちらかを行ったKGK10抽出物を使用した場合、活性なタンパク質の収量は、IAM処理したKC6抽出物よりも25から30%多かった。
六つのジスルフィド結合を必要とし、ジスルフィドの異性化に高度に依存することが公知(Kim and Swartz, Biotechnol Bioeng 85:122-9)である、マウスウロキナーゼ(UK)のセリンプロテアーゼ領域を、インビトロ合成で生産した。図4に、KC6、異なる濃度のIAMで前処理されたKGK10抽出物、およびKGK10-TrxB抽出物での、タンパク質収量の総量、可溶化量、および活性量を示す。1mMのIAMで処理した従来のKC6抽出物は、43μg/mLの活性タンパク質を生産した。pH6.6において0、10、50、および100μMのIAMで前処理したKGK10抽出物は、50μMのIAMにおいて最高の53μg/mLに達する活性ウロキナーゼの増加する量を生産した。KGK10抽出物からのTrxBの抗HA除去は、ほぼ等量の活性UKの生産を可能とした。pH5.5においてKGK10を600μMのIAMによって前処理することを含む他の場合も調査されたが、図4に示す程の高い収量を生じなかった。
KGK10抽出物に必要なIAM濃度の減少が、活性を必要とする他のスルフヒドリル、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(これはグルコース利用に必要である)、を保つかを確認するために、CATおよびmGM-CSF生産反応を実施した。図5に、ジスルフィド結合を必要とするタンパク質を生産する際に、50μMのIAMでの前処理により、グルコースをエネルギー源として使用することが可能となることを示す。KC6とは対照的に、KGK10の反応は、IAMでの前処理後のタンパク質収量において、若干の減少しか示さない。
新規に操作されたこの細胞抽出物は、ジスルフィド結合を必要とするタンパク質の、経済的により魅力的な製造を提供する。図5Bに示すように、KGK10の反応は、IAMおよびグルコースを使用した際に、KC6の反応よりも三倍以上の活性なmGM-CSFを製造する。グルコースの反応(図5B)において製造された活性mGM-CSFの量は、最適条件でのPEP反応(図3)における製造量の50%にすぎない。しかしながら、PEPは最も高価な無細胞反応の構成成分であり、グルコースよりも少なくとも1000倍高価であるため、これは依然として経済的に魅力的である。PEPの除外は、インビトロ合成の更なるコスト低下および商業化に道を開く。加えて、本発明は、細胞抽出物における、タンパク質および巨大分子集合体の製造ならびに折り畳みに有用な他の活性を保つと考えられる方法を提供する。

Claims (21)

  1. 少なくとも一つのジスルフィド結合を含む適切に折り畳まれたポリペプチドの無細胞合成方法であって、
    この改良点が、グルタチオン還元酵素を不活化するために遺伝子操作され、かつ低濃度のスルフヒドリル不活性化剤で前処理された細菌細胞に由来する生物抽出物を含む反応用混合物において該ポリペプチドを合成することを含み、
    低濃度のスルフヒドリル不活性化剤が、10μMから約100μMの濃度のヨードアセトアミドと、スルフヒドリル不活化活性について同等である、
    方法。
  2. スルフヒドリル不活性化剤が、遊離のスルフヒドリル基をアルキル化またはアセチル化する、請求項1記載の方法。
  3. スルフヒドリル不活性化剤が、ヨードアセトアミドである、請求項2記載の方法。
  4. 生物抽出物が、チオレドキシン還元酵素を除去するために処理される、請求項1記載の方法。
  5. 生物抽出物が由来する細菌細胞が、チオレドキシン還元酵素タンパク質がアフィニティータグを含むように遺伝子操作されており、かつチオレドキシン還元酵素の除去処理が、該生物抽出物と該アフィニティータグに特異的な親和性樹脂との接触を含む、請求項4記載の方法。
  6. 反応用混合物が、高エネルギーリン酸結合を欠いたエネルギー源を少なくとも約50mMの濃度で含む、請求項1記載の方法。
  7. エネルギー源が、グルコースまたは高エネルギーリン酸結合を欠いた解糖中間体である、請求項6記載の方法。
  8. 反応用混合物が、酸化還元緩衝剤をさらに含む、請求項1記載の方法。
  9. 酸化還元緩衝剤が、グルタチオン、システイン、およびホモシステインの一つまたは複数を含む、請求項8記載の方法。
  10. 酸化還元緩衝剤が、酸化グルタチオンおよび還元グルタチオンの混合物を含む、請求項9記載の方法。
  11. 反応用混合物が、ポリペプチドの折り畳みまたはジスルフィド結合の生成を増進する1種類または複数の酵素を含む、請求項1記載の方法。
  12. ポリペプチドの折り畳みまたはジスルフィド結合の生成を増進する1種類または複数の酵素が、フォルダーゼ酵素である、請求項11記載の方法。
  13. 反応用混合物が、ポリエチレングリコールを実質的に含まない、請求項1記載の方法。
  14. 反応用混合物が、スペルミン、スペルミジン、およびプトレッシンの一つまたは複数を含む、請求項13記載の方法。
  15. グルタチオン還元酵素を不活化するために遺伝子操作され、かつ低濃度のスルフヒドリル不活性化剤で前処理された細菌細胞に由来する生物抽出物を含む無細胞タンパク質翻訳用の反応用混合物であって、低濃度のスルフヒドリル不活性化剤が、10μMから約100μMの濃度のヨードアセトアミドと、スルフヒドリル不活化活性について同等である、反応用混合物。
  16. スルフヒドリル不活性化剤が、遊離のスルフヒドリル基をアルキル化またはアセチル化する、請求項15記載の反応用混合物。
  17. スルフヒドリル不活性化剤が、ヨードアセトアミドである、請求項16記載の方法。
  18. 生物抽出物が、チオレドキシン還元酵素を除去するために処理される、請求項15記載の反応用混合物。
  19. 生物抽出物が由来する細菌細胞が、チオレドキシン還元酵素タンパク質がアフィニティータグを含むように遺伝子操作されており、かつチオレドキシン還元酵素の除去処理が、該生物抽出物と該アフィニティータグに特異的な親和性樹脂との接触を含む、請求項18記載の反応用混合物。
  20. 高エネルギーリン酸結合を欠いたエネルギー源を少なくとも約50mMの濃度で含む、請求項15記載の反応用混合物。
  21. エネルギー源が、グルコースまたは高エネルギーリン酸結合を欠いた解糖中間体である、請求項20記載の反応用混合物。
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