JP2010270812A - 吊り制振構造 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】吊り材1の基端部に設定した支持点13とその近傍の固定端14との間に制振機構を設置する。第1制振機構10として慣性質量ダンパー11と付加減衰要素12とを並列に配置した構成とし、慣性質量ダンパー11による慣性質量ψと、吊り材1の基端部の吊り元6から支持点13までの長さL2の範囲における水平剛性とにより定まる固有振動数を、吊り材1の支持点13から質量体2までの長さL1により定まる振り子の固有振動数に同調させる。あるいは、制振機構を慣性質量ダンパーと付加バネとを直列に配置し、かつ慣性質量ダンパーまたは付加バネの少なくともいずれか一方と並列に付加減衰要素を配置した構成とし、慣性質量ダンパーによる慣性質量と、付加バネのバネ剛性とにより定まる固有振動数を振り子の固有振動数に同調させる。
【選択図】図1
Description
図9(b)に示すようなオイルダンパー4による場合、オイルダンパー4により大きな減衰を付与しようとしても吊り材1の水平剛性が小さいためオイルダンパー4の変形があまり生じず、大きな応答低減効果は得られない。
図9(c)に示すように吊り元の近傍でブレース5により吊り材1の変形を拘束しても、振り子の長さがやや短くなる(固有周期が短くなる)だけで振動自体は殆ど変わらず、大きな制振効果は得られない。
上記事情に鑑み、本発明は振り子として振動する吊り構造物の振動を慣性質量ダンパーを利用して速やかに減衰させ得る有効適切な吊り制振構造を提供することを目的とする。
この場合、請求項2記載の発明のように、前記制振機構における慣性質量ダンパーによる慣性質量ψを、前記質量体の質量Mと、前記吊り材の支持点から質量体までの長さL1と、該吊り材の吊り元から支持点までの長さL2に基づき、 ψ=(L1/L2)M 、L1≫L2 の関係を満たすように設定すれば良い。
この場合、請求項3記載の発明のように、前記制振機構における慣性質量ダンパーによる慣性質量ψ1を、前記質量体の質量Mと、前記付加バネのバネ剛性k1と、前記吊り材の支持点から質量体までの長さL1と、該吊り材の吊り元から支持点までの長さL2と、重力加速度gに基づき、 ψ1=(L1・k1)/g 、ψ1≦(L1/L2)M 、L1≫L2 の関係を満たすように設定すれば良い。
特に、慣性質量効果を利用する制振機構であるので、小質量の錘による小型軽量の慣性質量ダンパーと単なる減衰要素や付加バネのみによる簡単な構成の制振機構によって優れた制振効果が得られるし、吊り材への荷重の増加は殆どなく、使い勝手や美観を損なうこともない。
図1に本発明の第1実施形態を示す。これは、図9に示したものと同様にワイヤー等の曲げ剛性を有しない吊り材1によって質量体2が吊り元6から吊り下げられて振り子として振動する吊り構造物を対象とする制振構造であって、吊り材1の基端部に設定した支持点13とその近傍の固定端14との間に、慣性質量ダンパー11と付加減衰要素12とを並列に配置した第1制振機構10を設置したものである。
慣性質量ダンパー11は、吊り材1の支持点13での水平振動をたとえばボールねじ機構によって錘としてのフライホイールの回転運動に転換する構成のもので、錘の実際の質量に対して数百倍もの大きな慣性質量が得られるものである。
そして、第1制振機構10では、慣性質量ダンパー11による慣性質量ψと、吊り材1の基端部の吊り元6から支持点13までの長さL2の範囲における水平剛性khとにより定まる固有振動数ωを、吊り材1の支持点13から質量体2までの長さL1(L1≫L2)の振り子の固有振動数ω0に同調させるように各諸元を設定したものである。
つまり、慣性質量ψを質量体2の質量Mと吊り材1の長さ比L1/L2だけで設定して、慣性質量ψを質量体2の質量MのL1/L2倍とすれば良い。勿論、質量体2の質量Mが変化した場合には慣性質量ψを調整することのみで同調をとることができる。
上記の第1制振機構10を設置した吊り構造物に対し、質量体2に初期変位x0=0.1mを与えた後の自由振動について検討する。質量体2の水平変位x1、吊り材1の支持点13での水平変位x2とする。吊り材1の減衰を無視すると振動方程式は
図2に示すように、従来型の単なるオイルダンパーを設置した場合には、2倍の減衰を与えているにも拘わらず振幅が緩慢に減少していくだけであるが、本発明の第1制振機構10による場合には急峻に応答が低減することがわかる。
なお、ここで設定した第1制振機構10における慣性質量ダンパー11および付加減衰要素12の諸元はいずれも現状で容易に実現できるものであり、特に慣性質量ダンパー11の実際の錘の質量は所要慣性質量ψ=40tonに対して数百分の一程度で充分であるからそのサイズも数十cm程度で納まるものであり、本実施形態の第1制振機構10は吊り元6の近傍に対して特に支障なく設置することができるものである。
図3に本発明の第2実施形態を示す。これは、第1実施形態の第1制振機構10に代えて第2制振機構20を設置したものである。
第2制振機構20は、慣性質量ダンパー21と付加バネ22とを直列に配置し、かつそれら慣性質量ダンパー21と付加バネ22のそれぞれに対して並列に付加減衰要素23を配置したものである。
なお、本第2実施形態の第2制振機構20においては、付加減衰要素23は必ずしも図示例のように慣性質量ダンパー21と付加バネ22の双方に対して並列に設置することはなく、少なくとも慣性質量ダンパー21または付加バネ22のいずれか一方に対して並列に設置すれば良い。
そして、この第2制振機構20では、慣性質量ダンパー21による慣性質量ψ1と、付加バネ22のバネ剛性k1(単に付加バネk1と呼称)とにより定まる固有振動数ωを、吊り材1の支持点13から質量体2までの長さL1により定まる振り子の固有振動数ω0に同調させる。
また、第2制振機構20では慣性質量ψ1を第1制振機構10における慣性質量ψよりも小さくしても、制振効果はやや低下するものの充分な制振効果が得られる利点もある。
上記の第2制振機構20を設置した吊り構造物に対し、第1実施形態の場合と同様の検討を行う。上記と同様に質量体2の水平変位x1、吊り材1の支持点13での水平変位x2とし、慣性質量ダンパー21と付加バネ22との接合部の水平変位x3とする。
なお、本検討では付加減衰要素23を付加バネ22に並列に設置するのみとしてその減衰係数c1(単に付加減衰c1と呼称)とする。(図3において慣性質量ダンパー21と並列に設置してある付加減衰要素23は省略する。)
吊り材1の減衰を無視すると振動方程式は
図4から、本発明の第2制振機構20によれば従来型の単なるオイルダンパーによる場合に比べて遙かに急峻に応答が低減することがわかる。
図5は質量体2の質量M=4tonのままで付加減衰c1=40kN/(m/s)=400kineとした場合の応答を示し、図6は質量M=8ton、付加減衰c1=40kN/(m/s)とした場合の応答を示す。
図5〜図6に示される検討例では図4の検討例に比較すれば応答低減効果がやや小さくはなるものの、従来型のオイルダンパーによる場合に比べれば遙かに急峻に応答が低減することがわかる。これは振り子の質量が変化しても吊り下げ長さが一定ならば固有振動数は変化せず、したがって第2制振機構20によるTMDとしての機能がそのまま維持されることによるものであり、質量体2の質量Mが広範囲に変化してもほぼそのまま優れた制振効果を発揮し得ることがわかる。
この場合には、慣性質量ψ1を半減としたことにより図4に示した検討例に比べてやや応答低減効果は劣るものの、従来型のオイルダンパーによる場合に比較すれば充分な制振効果が得られることがわかる。
(1)吊り材により吊り支持されている質量体に対しては何ら手を加えずとも、吊り元の近傍に制振機構を追加するだけでその振動を急峻に収斂させることができる。
このような性能は、たとえばクレーン(工場における天井走行クレーンや建設現場におけるタワークレーン等)の吊り荷の揺れ防止、ゴンドラ(ロープウエイや高層建物の窓面清掃用)の揺れ防止、天井吊り設備機器(シャンデリア等の照明器具や舞台装置としての吊り設備等)の揺れ対策等として効果的であり、本発明はそれら各種の吊り構造物に対して広範に適用可能である。
(2)吊り元の近傍の固定端と吊り材の基端部の支持点との間に制振機構を介装するだけであるので、吊り材への荷重の増加は殆どなく、支持点より下方は従来の吊り構造と全く同じなので、使い勝手や美観を損なうこともない。
(3)慣性質量効果を利用した制振機構であって、慣性質量ダンパーと付加減衰要素を並列に組み合わせるか、あるいは慣性質量ダンパーと付加バネとを直列に組み合わせて少なくともそれらのいずれか一方に並列に付加減衰要素を組み合わせることのみで、いずれも簡単な構成でありながら優れた制振効果が得られる。特に後者の場合には質量体の質量変化にも制振効果が維持されるし、小さな慣性質量であっても大きな制振効果を発揮し得る。
(5)常時(使用時)の揺れだけでなく地震時の後揺れにも効果的である。吊り構造は一般的に固有周期が長く減衰が小さい構造であり、地震後にも長時間揺れが持続する傾向にある。本発明によればそのような後揺れを早期に解消させることが可能であり、居住者の恐怖心を軽減するだけでなく吊り構造の疲労特性を改善するためにも効果的である。
2 質量体
3 TMD
4 オイルダンパー(粘性減衰装置)
5 ブレース(変形拘束部材)
6 吊り元
10 第1制振機構
11 慣性質量ダンパー
12 付加減衰要素
13 支持点
14 固定端
20 第2制振機構
21 慣性質量ダンパー
22 付加バネ
23 付加減衰要素
Claims (4)
- 曲げ剛性を有しない吊り材によって質量体が吊り元から吊り下げられて振り子として振動する吊り構造物を対象とする吊り制振構造であって、
前記吊り材の基端部に設定した支持点とその近傍の固定端との間に、慣性質量ダンパーと付加減衰要素とを並列に配置した制振機構を設置し、
前記慣性質量ダンパーによる慣性質量と、前記吊り材の吊り元から支持点までの長さの範囲における水平剛性とにより定まる固有振動数を、前記吊り材の支持点から質量体までの長さにより定まる振り子の固有振動数に同調させたことを特徴とする吊り制振構造。 - 請求項1記載の吊り制振構造であって、
前記制振機構における慣性質量ダンパーによる慣性質量ψを、前記質量体の質量Mと、前記吊り材の支持点から質量体までの長さL1と、該吊り材の吊り元から支持点までの長さL2に基づき、
ψ=(L1/L2)M 、L1≫L2
の関係を満たすように設定したことを特徴とする吊り制振構造。 - 曲げ剛性を有しない吊り材によって質量体が吊り元から吊り下げられて振り子として振動する吊り構造物を対象とする吊り制振構造であって、
前記吊り材の基端部に設定した支持点とその近傍の固定端との間に、慣性質量ダンパーと付加バネとを直列に配置し、かつ前記慣性質量ダンパーまたは前記付加バネの少なくともいずれか一方と並列に付加減衰要素を配置した制振機構を設置し、
前記慣性質量ダンパーによる慣性質量と、前記付加バネのバネ剛性とにより定まる固有振動数を、前記吊り材の支持点から質量体までの長さにより定まる振り子の固有振動数に同調させたことを特徴とする吊り制振構造。 - 請求項3記載の吊り制振構造であって、
前記制振機構における慣性質量ダンパーによる慣性質量ψ1を、前記質量体の質量Mと、前記付加バネのバネ剛性k1と、前記吊り材の支持点から質量体までの長さL1と、該吊り材の吊り元から支持点までの長さL2と、重力加速度gに基づき、
ψ1=(L1・k1)/g 、ψ1≦(L1/L2)M 、L1≫L2
の関係を満たすように設定したことを特徴とする吊り制振構造。
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