JP2010255046A - 高炭素鋼レールの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.60〜1.20%、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.05〜2.00%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるレール圧延用鋼片を粗圧延、中間圧延、引き続いて仕上圧延を行い、A3又はAcm線〜1000℃の温度を有したレール頭部表面を、冷却速度2〜20℃/secで450〜680℃まで急冷し、その後、A3又はAcm線〜950℃の温度域まで昇温速度2〜50℃/secで温度上昇させ、その後、当該温度範囲内で1.0〜900sec保持し、さらにその後、冷却速度5〜30℃/secで450〜650℃まで加速冷却することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
【選択図】 図1
Description
レールに対してはこれまで以上の耐摩耗性に加えて、寒冷地での靭性などが求められるようになってきた。このような背景から、現用の高強度レール以上の耐摩耗性と高い靭性を有したレールの開発が求められるようになってきた。
また特許文献2では、高炭素鋼含有の鋼レールの仕上げ圧延において、所定のパス間時間で連続2パス以上の圧延を行い、さらに連続圧延を行った後、圧延後に加速冷却を行うことにより高耐摩耗・高靭性レールを提供ことが開示されている。
さらに特許文献3では、高炭素鋼含有の鋼レールの仕上げ圧延において、パス間で冷却を施し、連続圧延を行った後、圧延後に加速冷却を行うことにより高耐摩耗・高靭性レールを提供することが開示されている。
この問題を解決するため、下記に示すような高炭素鋼レールの製造方法が開発された。これらのレールの主な特徴は、レール頭部をオーステナイト域からA1線以下の温度範囲まで冷却し、その後、圧延や復熱を利用し、A1線以上のオーステナイト域まで昇温し、さらに圧延等を施すことにより、オーステナイト組織を微細化し、パーライト鋼の延性や靭性を向上させている(例えば特許文献4、5、6参照)。
特許文献5では、高炭素鋼含有の鋼レールの仕上げ圧延において、粗圧延直後にレール鋼の表面を急速冷却し、パーライト変態させ、その後、昇温させてから仕上げ圧延を行うことにより延性の高い耐摩耗レールを提供するとしている。
特許文献6では、高炭素鋼含有の鋼レールの仕上げ圧延において、粗圧延直後にレール鋼の表面をAr1点以下まで急速冷却し、仕上げ圧延を行い、復熱によりAc1点以上まで昇温し、その後、加速冷却することにより靭性を高めた耐表面損傷性の高いレールを提供するとしている。
特許文献7では、高炭素鋼含有の鋼レールの仕上げ圧延において、粗圧延直後にレール鋼の表面を急速冷却し、パーライト変態させると同時に仕上げ圧延を行い、復熱によりオーステナイト域まで昇温し、その後、加速冷却することにより延性を高めた耐摩耗レールを提供するとしている。
しかし、特許文献4〜7では、抜本的なオーステナイト組織の微細化が図れるものの、いずれの方法においても、圧延温度が非常に低いことから、成形性確保が非常に困難である。また、低温圧延が前提であるため、圧延能力の確保が必須であり、新たな圧延機の導入等、設備投資が多大になるといった問題がある。
そこで本発明は、上述した問題点に鑑み創出したものであり、その目的とするところは、海外の貨物鉄道のレールで要求される頭部の耐摩耗性と靭性を同時に向上させることを目的としたものである。
(1)質量%で、
C :0.60〜1.20%、 Si:0.05〜2.00%、
Mn:0.05〜2.00%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるレール圧延用鋼片を粗圧延、中間圧延、引き続いて仕上げ圧延を行い、A3またはAcm線〜1000℃の温度を有したレール頭部表面を、冷却速度2〜20℃/secで450〜680℃まで急冷し、その後、A3またはAcm線〜950℃の温度域まで昇温速度2〜50℃/secで温度上昇させ、その後、当該温度範囲内で1.0sec〜900sec保持し、さらにその後、冷却速度5〜30℃/secで450〜650℃まで加速冷却することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
(a)C:0.60〜0.85%含有鋼の場合、
tmin<t<tmax
tmin=3000/(T−A3)、tmax=25000/(T−A3)・・式1
ここで、A3(℃)=877−190(%C)+50(%Si)−25(%Mn)
T(℃):昇温後の保持温度の平均値
A3:オーステナイト化下限温度
(b)C:0.85超〜1.20%含有鋼の場合、
tmin<t<tmax
tmin=10000/(T−Acm)、tmax
=30000/(T−Acm)・・・・式2
ここで、Acm(℃)=375+400(%C)+20(%Si)−10(%Mn)
T(℃):昇温後の保持温度の平均値
Acm:オーステナイト化下限温度
(a)Cr:0.05〜2.00%、Mo:0.01〜0.50%の1種または2種、
(b)V:0.005〜0.50%、Nb:0.002〜0.050%の1種または
2種、
(c)Co:0.01〜1.00%、
(d)B :0.0001〜0.0050%、
(e)Cu:0.01〜1.00%、
(f)Ni:0.01〜1.00%、
(g)Ti:0.0050〜0.0500%、
(h)Ca:0.0005〜0.0200%、Mg:0.0005〜0.0200%の1種または2種、
(i)Zr:0.0001〜0.0100%、
(j)Al:0.0100〜1.00%、
(k)N :0.0060〜0.0200%、
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
まず、本発明者らは、熱間圧延に頼らず熱処理のみでオーステナイト組織を微細化する方法を検討した。高炭素レール鋼を用いて、様々な熱処理パターンを模擬したラボ実験を行い、オーステナイト粒の調査を行った。その結果、一旦、変態させた後にオーステナイト変態させることで微細粒が得られることを確認した。さらに、変態組織とオーステナイト粒の関係を調査した結果、前組織を微細な層状のフェライトとセメンタイト(炭化物)からなるパーライト組織とすることにより、オーステナイト粒が最も微細化することを確認した。
そこで、オーステナイト粒をピンニングする微細な炭化物を安定的に生成させる熱処理方法の検討を行った。ラボ圧延熱処理実験により、パーライト変態後の昇温速度、昇温後の保持温度と保持時間の関係を詳細に解析した。
さらに、この微細な炭化物の生成量を制御し、衝撃値を安定的に向上させる方法を検討した。まず、パーライト変態後の昇温後の保持温度と保持時間(t)を変化させたラボ圧延熱処理実験を行い、昇温後の保持温度と保持時間と衝撃値との関係を詳細に解析した。
さらに、この解析で求めたA3またはAcm温度と昇温後の保持温度の平均値(T)との差、保持時間(t)と衝撃試験の衝撃値の関係を重相関により解析した。その結果、保持時間(t)をA3またはAcm温度と昇温後の保持温度の平均値(T)との差を変数とする関数とし、その上限(tmin)、下限(tmax)を下記に示す関数の値の範囲で熱処理を行うと衝撃値が安定的に向上することを見出した。
A3(℃)=877−190(%C)+50(%Si)−25(%Mn):727℃
T(℃):昇温後の保持温度の平均値:800℃
tmin=3000/(T−A3):41.1sec
tmax=25000/(T−A3):342.5sec
Acm(℃)=375+400(%C)+20(%Si)−10(%Mn):778℃
T(℃)昇温後の保持温度の平均値:900℃
tmin=10000/(T−Acm):82sec
tmax=30000/(T−Acm):246sec
本発明において、レール鋼の化学成分を特許請求の範囲に限定した理由について詳細に説明する。
Cは、パーライト変態を促進させ、かつ、耐摩耗性を確保する有効な元素である。C量が0.60%未満になると、熱処理後のレール頭部に初析フェライト組織が生成し、レールに要求される最低限の強度や耐摩耗性を確保することが困難となる。また、C量が1.20%を超えると、昇温後のAcm温度以上の保持において、粗大な初析セメンタイト組織が解け残り、炭化物が粗大化する。この結果、微細な炭化物の存在量が減少し、オーステナイト粒をピンニングすることが困難となり、靭性の向上が図れない。さらに、熱処理後のレール頭部に初析セメンタイト組織が生成し、靭性が大きく低下する。このため、C添加量を0.60〜1.20%に限定した。なお、耐摩耗性低下させず、靭性を確保するには、C添加量は0.70〜1.00%の範囲とすることが望ましい。
Crは、平衡変態温度を上昇させ、結果としてフェライト組織やパーライト組織を微細にして高硬度(強度)化に寄与すると同時に、セメンタイト相を強化して、パーライト組織の硬度(強度)を向上させる元素であるが、Cr量が0.05%未満ではその効果は小さく、レール鋼の硬度を向上させる効果が全く見られなくなる。また、Cr量2.00%を超える過剰な添加を行うと、焼入れ性が増加し、マルテンサイト組織が生成し、頭部コーナー部や頭頂部にマルテンサイト組織を起点としたスポーリグ損傷が発生し、耐表面損傷性が低下する。このため、Cr添加量を0.05〜2.00%に限定した。
なお、強度を確保し、マルテンサイト組織の生成やスポーリング損傷を防止するには、Cr添加量は0.40〜1.20%の範囲とすることが望ましい。
なお、強度を確保し、マルテンサイト組織の生成やスポーリング損傷を防止するには、Mo添加量は0.02〜0.15%の範囲とすることが望ましい。
しかし、V量が0.005%未満ではこれらの効果が十分に期待できず、パーライト組織の靭性や硬度(強度)の向上は認められない。またV量が0.50%を超えると、Vの炭化物や窒化物の析出硬化が過剰となり、パーライト組織の靭性が低下し、頭部コーナー部や頭頂部にスポーリグ損傷が発生し、耐表面損傷性が低下する。このため、V添加量を0.005〜0.50%に限定した。
なお、強度や靭性を確保し、溶接継ぎ手性能を向上させ、スポーリング損傷を防止するには、V添加量は0.01〜0.05%の範囲とすることが望ましい。
また、Ac1点以下の温度域に再加熱された熱影響部において、低温度域から高温度域までNbの炭化物やNb窒化物を安定的に生成させ、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止するのに有効な元素である。しかしその効果は、Nb量が0.002%未満ではこれらの効果が期待できず、パーライト組織の靭性や硬度(強度)の向上は認められない。また、Nb量が0.050%を超えると、Nbの炭化物や窒化物の析出硬化が過剰となり、パーライト組織の靭性が低下し、頭部コーナー部や頭頂部にスポーリグ損傷が発生し、耐表面損傷性が低下する。このため、Nb添加量を0.002〜0.050%に限定した。
なお、強度や靭性を確保し、溶接継ぎ手性能を向上させ、スポーリング損傷を防止するには、Nb添加量は0.01〜0.02%の範囲とすることが望ましい。
なお、耐摩耗性を向上させ、経済性を確保するには、Co添加量は0.05〜0.50%の範囲とすることが望ましい。
なお、内部硬度を向上させ、靭性低下を抑制するには、B添加量は0.0010〜0.0030%の範囲とすることが望ましい。
しかし、Ti量が0.0050%未満ではこれらの効果が少なく、Ti量が0.0500%を超えると、粗大なTiの炭化物、Tiの窒化物が生成して、レールの靭性が低下すると同時に、粗大な析出物から疲労損傷が発生する。このため、Ti添加量を0.0050〜0.0500%に限定した。
なお、靭性を向上させ、疲労損傷の発生を抑制するには、Mg添加量は0.0010〜0.0030%の範囲とすることが望ましい。
なお、靭性を向上させ、疲労損傷の発生を抑制するには、Zr添加量は0.0010〜0.0030%の範囲とすることが望ましい。
なお、靭性を向上させ、疲労損傷の発生を抑制するには、N添加量は0.0080〜0.0150%の範囲とすることが望ましい。
(A)仕上げ圧延後の冷却開始温度:
まず、仕上げ圧延後の冷却開始温度の限定理由について説明する。
仕上げ圧延後の冷却開始温度がA3またはAcm線温度未満では、冷却開始前に初析セメンタイト組織や初析フェライト組織が生成し、冷却後に十分なパーライト組織が得られない。このため、冷却後の昇温において微細な炭化物が生成せず、オーステナイト粒が微細化せず、レールの頭部の延性が向上しない。また、仕上げ圧延後の冷却開始温度が1000℃を超えると、冷却速度の選択によっては、冷却後にベイナイト組織が生成し、冷却後の昇温において微細な炭化物が生成せず、オーステナイト粒が微細化せず、レールの頭部の延性が向上しない。このため、仕上げ圧延後の冷却開始温度をA3またはAcm線〜1000℃の範囲に限定した。
次に、仕上げ圧延後の冷却速度および冷却停止条件の限定理由について説明する。
仕上げ圧延後の冷却速度が2℃/sec未満では、成分系によっては、パーライト組織中に粗大な初析セメンタイト組織が生成し、昇温後の熱処理において、セメンタイト相が解け残り、オーオーステナイト粒の微細化が図れず、レールの頭部の延性が向上しない。また、加速冷却速度が20℃/secを超えると、本成分系では、パーライト組織中にマルテンサイト組織が生成し、昇温後の熱処理において微細な炭化物が生成せず、レール頭部の靭性が向上しない。このため、仕上げ圧延後の冷却速度を2〜20℃/secの範囲に限定した。
冷却停止温度が680℃を超えると、冷却終了後にレール内部から過大な復熱が発生する。この結果、温度上昇によりパーライト組織中に粗大な初析セメンタイト組織が生成し、昇温後の熱処理において、セメンタイト相が解け残り、オーステナイト粒の微細化が図れず、レールの頭部の延性が向上しない。また、冷却停止温度が450℃未満になると、パーライト組織中にベイナイトやマルテンサイト組織が生成し、昇温後の熱処理において微細な炭化物が生成せず、レール頭部の靭性が向上しない。このため、仕上げ圧延後の冷却停止温度を450〜680℃の範囲に限定した。
次に、冷却後の昇温速度の限定理由について説明する。
昇温速度が2℃/sec未満では、パーライト組織中のセメンタイト相の溶解が進み、微細な炭化物の存在量が減少する。この結果、オーステナイト粒をピンニングすることが困難となり、レール頭部の靭性が向上しない。また、昇温速度が50℃/secを超えると、パーライト組織中のセメンタイト相が解け残り、炭化物が粗大化し、オーステナイト粒をピンニングすることが困難となり、レール頭部の靭性が向上しない。このため、冷却後の昇温速度を2〜50℃/secの範囲に限定した。
次に、昇温後の保定温度の限定理由について説明する。
昇温温度がA3またはAcm線未満では、パーライト組織中のセメンタイト相が解け残り、炭化物が粗大化し、オーステナイト粒をピンニングすることが困難となり、レール頭部の靭性が向上しない。また昇温温度が950℃を超えると、成分系によってはパーライト組織中のセメンタイト相の溶解が促進する。この結果、微細な炭化物の存在量が減少し、オーステナイト粒をピンニングすることが困難となり、レール頭部の靭性が向上しない。このため、昇温後の保定温度をA3またはAcm線〜950℃の範囲に限定した。
なお、昇温後の保定においては若干の温度の変動が生じる。この場合、保持時の平均的な温度が上記限定の温度範囲内であれば、オーステナイト粒の微細化が達成され、レール頭部の靭性が向上する。また、後述の昇温後の保持時間(t)の上限(tmax)、下限(tmin)の1式、2式の算定においては、靭性を向上させるため、保持時の平均的な温度で算定する。
次に、昇温後の保定時間の限定理由について説明する。
保持時間が1sec未満では、パーライト組織中のセメンタイト相が解け残り、炭化物が粗大化し、オーステナイト粒をピンニングすることが困難となり、レール頭部の靭性が向上しない。また保持時間が900secを超えると、成分系によってはパーライト組織中のセメンタイト相の溶解が促進する。この結果、微細な炭化物の存在量が減少し、オーステナイト粒をピンニングすることが困難となり、レール頭部の靭性が向上しない。このため、昇温後の保定時間を1〜900secの範囲に限定した。
次に、昇温保定後の加速冷却速度の限定理由について説明する。
加速冷却速度が5℃/sec未満では、レール頭部の高硬度が図れず、耐摩耗性の確保が困難となる。さらに、高炭素鋼においては初析セメンタイト組織が生成し、レールの頭部の靭性が低下する。また加速冷却速度が30℃/secを超えると、成分系によっては、マルテンサイト組織が生成し、レール頭部の耐摩耗性や靭性が大きく低下する。このため、レール頭部の加速冷却速度の範囲を5〜30℃/secの範囲に限定した。
次に、昇温保定後の加速冷却停止温度の限定理由について説明する。
加速冷却停止温度が650℃を超えると、加速冷却終了後にレール内部から過大な復熱が発生する。この結果、温度上昇によりパーライト変態温度が上昇し、パーライト組織の高硬度が図れず、耐摩耗性を確保できない。また、加速冷却停止温度が450℃未満になると、ベイナイト組織やマルテンサイト組織が生成し、頭部の耐摩耗性や靭性が著しく低下する。このため、加速冷却停止温度の範囲を450〜650℃の範囲に限定した。
(A)鋼の化学成分とA3またはAcm線温度の関係:
鋼の化学成分とA3またはAcm線温度を下記の式のように決めた理由を説明する。
C、Si、Mn量を変化させた鋼を用いて、ラボでの加熱冷却実験を行い、オーステナイト化する温度(A3またはAcm線温度)と化学成分の関係を調査した。その結果、A3またはAcm温度は鋼の成分であるC、Si、Mnとよい相関があることが確認された。さらにこの結果をベースに、化学成分とオーステナイト化する温度(A3またはAcm線温度)の関係を重相関により求め、下記に示すA3またはAcm温度と鋼の成分の相関式を見出した。
A3(℃)=877−190(%C)+50(%Si)−25(%Mn)
Acm(℃)=375+400(%C)+20(%Si)−10(%Mn)
昇温後の保持時間(t)の上限(tmax)、下限(tmin)を下記の式のように決めた理由を説明する。
ラボ加熱冷却実験において、保持温度、保持時間(t)、衝撃試験の衝撃値の関係を重相関により解析した。その結果、保持温度を関数とする保持時間(t)とラボ圧延板の衝撃値にはよい相関があることが確認された。さらに実験を積み重ね、重相関を用いて昇温後の保持温度の平均値(T)、保持時間(t)、衝撃値の関係を整理した。
その結果、上記で示したA3またはAcm温度と昇温後の保持温度の平均値(T)との差で表せる保持時間(t)の上限(tmin)、下限(tmax)の範囲内で熱処理を行うと衝撃値が安定的に向上することを見出した。
(a)C:0.60〜0.85%鋼の場合、
tmin<t<tmax
tmin=3000/(T−A3)、tmax=25000/(T−A3)・・式1
(b)C:0.85超〜1.20%鋼の場合、
tmin<t<tmax
tmin=10000/(T−Acm)、tmax=30000/(T−Acm)
・・式2
言い換えれば、本発明レールの頭部金属組織は、95%以上がパーライト組織であれば良く、耐摩耗性や靭性を十分に確保するためには、頭部金属組織の98%以上をパーライト組織とすることが望ましい。なお、表1及び表2におけるミクロ組織の欄で微量と記載しているのは5%以下の量を意味し、パーライト組織以外の組織において微量と記載していないのは5%超の量を意味する。
表1に供試レール鋼の化学成分を示す。
表2に表1に記載したレール鋼を用いて本発明のレール製造方法で製造した結果を示す。表2には、化学成分から算定した各鋼のA3温度、Acm温度、仕上げ圧延後の冷却条件(冷却開始温度、冷却速度、冷却停止温度)、昇温時の熱処理条件(昇温速度、昇温時の保持温度の平均:T、保持時間:t)、昇温後の冷却速度(冷却速度、冷却停止温度)、式1、式2から算定されるtmin、tmaxの値を示す。さらに、レール頭部のミクロ組織、硬度、図4に示す位置から試験片を採取し、図5に示す方法で行った摩耗試験の結果、図6に示す位置から試験片を採取して行った衝撃試験の結果も併記した。
表3に、表1に記載の鋼を表2のB21の条件で製造した結果を示す。
(1)頭部摩耗試験
試験機:西原式摩耗試験機(図5参照)
試験片形状:円盤状試験片(外径:30mm、厚さ:8mm)
試験片採取位置:レール頭部表面下2mm(図4参照)
試験荷重:686N(接触面圧640MPa)
すべり率:20%
相手材:パーライト鋼(Hv380)
雰囲気:大気中
冷却:圧搾空気による強制冷却(流量:100Nl/min)
繰返し回数:70万回
(2)頭部衝撃試験
試験機:衝撃試験機
試験片形状:JIS3号2mmUノッチ
試験片採取位置:レール頭部表面下2mm(図6参照)
試験温度:常温(20℃)
符号A1〜A39:化学成分が本発明範囲内のレール。
符号B1〜B30:化学成分および熱処理製造方法が本発明範囲内のレール。
(4)比較レール(22本)
符号a1〜a6:化学成分が本願発明範囲外のレール。
符号b1〜b16:熱処理製造方法が本願発明範囲外のレール。
また、表2、図9示すように、本発明レール(符号B26〜B30)は、本発明レール(符号B17〜B25)と比べて、昇温時の保持時間:tを式1、式2から算定されるtmin、tmaxの値の範囲内にすることにより、いずれの炭素量においてもレールの靭性をさらに向上させることができる。
2:頭部コーナー部
3:レール試験片
4:相手材
5:冷却用ノズル
Claims (13)
- 質量%で、C:0.60〜1.20%、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.05〜2.00%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるレール圧延用鋼片を粗圧延、中間圧延、引き続いて仕上げ圧延を行い、A3またはAcm線〜1000℃の温度を有したレール頭部表面を、冷却速度2〜20℃/secで450〜680℃まで急冷し、その後、A3またはAcm線〜950℃の温度域まで昇温速度2〜50℃/secで温度上昇させ、その後、当該温度範囲内で1.0〜900sec保持し、さらにその後、冷却速度5〜30℃/secで450〜650℃まで加速冷却することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
- 請求項1の熱処理における、最初の加速冷却後の昇温において、保持時間:tを下記式1あるいは式2で示す条件範囲内で行うことを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
(a)C:0.60〜0.85%含有鋼の場合、
tmin<t<tmax
tmin=3000/(T−A3)、tmax=25000/(T−A3)・・式1
ここで、A3(℃)=877−190(%C)+50(%Si)−25(%Mn)
T(℃):昇温後の保持温度の平均値
A3:オーステナイト化下限温度
(b)C:0.85超〜1.20%含有鋼の場合、
tmin<t<tmax
tmin=10000/(T−Acm)、tmax=30000/(T−Acm)
・・式2
ここで、Acm(℃)=375+400(%C)+20(%Si)−10(%Mn)
T(℃):昇温後の保持温度の平均値
Acm:オーステナイト化下限温度 - 請求項1または2において、質量%でさらに、Cr:0.05〜2.00%、Mo:0.01〜0.50%の1種または2種を含有することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項において、質量%でさらに、V:0.005〜0.50%、Nb:0.002〜0.050%の1種または2種を含有することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項において、質量%でさらに、Co:0.01〜1.00%を含有することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項において、質量%でさらに、B:0.0001〜0.0050%を含有することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
- 請求項1〜6のいずれか1項において、質量%でさらに、Cu:0.01〜1.00%を含有することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項において、質量%でさらに、Ni:0.01〜1.00%を含有することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか1項において、質量%でさらに、Ti:0.0050〜0.0500%を含有することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
- 請求項1〜9のいずれか1項において、質量%でさらに、Ca:0.0005〜0.0200%、Mg:0.0005〜0.0200%の1種または2種を含有することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
- 請求項1〜10のいずれか1項において、質量%でさらに、Zr:0.0001〜0.0100%を含有することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
- 請求項1〜11のいずれか1項において、質量%でさらに、Al:0.0100〜1.00%を含有することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
- 請求項1〜12のいずれか1項において、質量%でさらに、N:0.0060〜0.0200%を含有することを特徴とする高炭素鋼レールの製造方法。
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