本発明は、制御棒及びその製造方法に係り、特に、沸騰水型原子炉に用いられる制御棒に適用するのに好適な制御棒及びその製造方法に関する。
沸騰水型原子炉で用いられる従来の制御棒の構造及びこの制御棒が設置される環境について説明する。沸騰水型原子炉は、複数の燃料集合体が装荷された炉心を原子炉圧力容器内に有している。これらの燃料集合体内に存在する核燃料物質に含まれたウラン235が、中性子を吸収して核分裂を起こし、熱を発生する。炉心に供給された炉水(冷却水)は、その熱によって加熱されて沸騰し、一部が蒸気になる。炉心内では、上記の核分裂によって新たに発生する中性子が他のウラン235を分裂させる連鎖反応が起きている。
核分裂の連鎖反応量を制御するため、中性子吸収部材を内部に収納する制御棒が利用される。このうち、沸騰水型原子炉で、通常、使用される制御棒は、横断面が十字形をしており、4体の燃料集合体のチャンネルボックスの相互間に形成される間隙(飽和水領域)内に挿入される。4体の燃料集合体にて構成される1つのセル当たり1体の制御棒が設けられる。ほぼ1つのセル毎にそれら4体の燃料集合体の下方に制御棒案内管が配置される。制御棒案内管は、原子炉圧力容器内に設置される。制御棒は、セル内の4体の燃料集合体の各チャンネルボックス、及び制御棒案内管をガイド部材として利用する。また、制御棒は、下端部が制御棒駆動機構に連結され、この制御棒駆動機構の駆動操作によって炉心に挿入され、炉心から引抜かれる。制御棒は、反応度制御及び出力分布の調整に用いられる重要機器である。
沸騰水型原子炉に用いられる従来の制御棒の構造を簡単に説明する。この制御棒は、ハンドルがタイロッドの上端部に、落下速度リミッタがタイロッドの下端部にそれぞれ接合され、タイロッドの中心軸に位置するタイロッドから四方に伸びる4枚のブレードを有している。各ブレードは、タイロッドに取り付けられたU字状のシースを有し、このシース内に、中性子吸収材を収納した複数の中性子吸収棒を配置している(特開2002−257968号公報参照)。特開2002−257968号公報は、さらに、シースの長手方向においてシースの端面に複数の突出部を形成し、これらの突出部をタイロッドにレーザ溶接によって接合することを記載している。突出部を設けることによって、シースは長手方向においてタイロッドに断続的に溶接される。
また、中性子吸収棒の替りに、タイロッドに接合されるU字状のシース内にハフニウム板を配置した制御棒も知られている(特開平2−10299号公報及び特開平8−105989号公報参照)。
シースの応力腐食割れ(SCC)を防ぐために、ハフニウムを含む希釈合金板内に複数の中性子吸収棒を挿入して構成された中性子吸収部材とシースの間に形成される間隙を所定幅に保持した制御棒が、特開平1−284796号公報に記載されている。その間隙の保持は、シースに形成された複数の窪み部の内面を中性子吸収部材の表面に接触させることによって行われる。ハフニウム板で構成された中性子吸収部材とシースの間の間隙を所定幅に保持する技術は、特開昭60−60585号公報及び特開平4−289490号公報にも記載されている。
特開2002−257968号公報
特開平2−10299号公報
特開平8−105989号公報
特開平1−284796号公報
特開昭60−60585号公報
特開平4−289490号公報
発明者らは、制御棒のシースの内面に隙間腐食が発生することを新たに見出した。特に、板状または扁平な筒状のハフニウム部材がシース内に配置され、シースの内面に対向するハフニウム部材の外面に広い平面が形成されている場合に、シースの内面に隙間腐食が発生しやすくなる。
本発明の目的は、シース内面における隙間腐食の発生を抑制できる制御棒及びその製造方法を提供することにある。
上記の目的を達成する本発明の特徴は、制御棒が原子炉内に搬入されるときに、中性子吸収部材に面するシースの内面に酸化皮膜が形成されていることにある。
シースの内面に予め酸化皮膜が形成されているので、原子炉の運転中に中性子吸収部材とシースの内面との間の間隙の幅が狭くなり、その幅の狭い間隙内に存在する冷却材に含まれる酸化種の濃度が低下しても、その幅の狭い間隙内に存在する冷却材とその幅の狭い間隙に面するシースの内面との間における電荷の移動を抑制できる。したがって、その幅の狭い間隙に面するシースの内面への酸化皮膜の生成が抑制され、そして局所的に異なる厚みの酸化皮膜がシースの内面に形成されることに起因してシース内面に生じる隙間腐食を抑制することができる。これにより、制御棒をさらに長寿命化することができる。
好ましくは、酸化皮膜は、シースの制御棒挿入端部側の一端とこの一端からシースの長手方向における全長の1/3の位置との間の範囲に形成されていることが望ましい。シースの隙間腐食は、主に、この範囲で発生しやすい。これは、BWRでは、制御棒が下方より炉心に挿入されることに起因している。したがって、酸化皮膜がその範囲でシース内面に形成されているので、実質的にシース内面での隙間腐食を抑制できる。酸化皮膜を形成する領域が狭くなったため、酸化皮膜の形成に要する時間を短縮することができる。
酸化皮膜の形成は、100乃至500℃の温度の水蒸気をシースの内面に吹き付けて行うことが好ましい。吹き付けられた水蒸気がシース内面で液相となることにより凝集熱が与えられ、効率的にシースの所望箇所に酸化皮膜の形成に必要な熱と酸素とを与えることができる。
シース内面に噴射する水蒸気の温度が100℃未満では、隙間腐食を抑制できる厚みの酸化皮膜をシース内面に形成することが困難である。その水蒸気の温度を500℃以下にすることによって、シースの母材が相変化を起こし、その母材が劣化する(σ脆化等)ことを防止できる。
酸化皮膜の形成は、100乃至500℃の温度の酸化性気体をシースの内面に吹き付けて行うことができる。酸化性気体をシースの内面に吹き付けることによって、水を貯留するタンクが不要となり、取扱いが容易な簡素な装置を用いてシースの内面に酸化皮膜の形成に必要な熱及び酸素を与えることができる。酸化性気体の温度を100乃至500℃にする理由は、100乃至500℃の水蒸気を用いる場合と同じである。
酸化性気体を含む気体をシース内面に吹き付ける場合には、この吹き付ける気体に含まれる酸化性気体の濃度を20%以上にすることが好ましい。好ましくは、酸化性気体の濃度は20%以上50%以下にするとよい。20%の酸化性気体を含む気体としては、空気があり、空気をシース内面に吹き付けることが最も現実的である。
好ましくは、酸化皮膜の厚みが0.05μm以上で10μm以下の範囲にあることが望ましい。酸化皮膜の厚みが0.05μm以上あれば、シース内面での隙間腐食が抑制される。しかしながら、酸化皮膜の厚みが10μmを超えた場合には、形成された酸化皮膜が割れやすくなる。酸化皮膜の割れを防止するためには、酸化皮膜の厚みを10μm以下にする必要がある。
好ましくは、酸化皮膜の形成は電解酸化処理で行われることが望ましい。また、好ましくは、電解酸化処理を行う場合には、使用する水溶液のpHを0以上7以下にすることが望ましい。そのpHを7以下にすることによって、シース内面に酸化皮膜が形成されやすくなる。
好ましくは、上記の水溶液とシースの界面に付与する電位差を1V以上200V以下にすることが望ましい。電位差を1V以上にすることによって水溶液に含まれている水が電気分解して酸素が発生するので、シース内面への酸化皮膜の形成が行われる。200V以下であれば、商用電源を利用することができます。
本発明によれば、シース内面における隙間腐食の発生を抑制できるので、制御棒をさらに長寿命化することができる。
発明者らは、制御棒のシースの内面に隙間腐食が発生することを新たに見出した。発明者らが行ったこの隙間腐食に関する検討の内容を、以下に説明する。
沸騰水型原子炉に用いられる従来の制御棒は、中性子吸収部材、例えば、ハフニウム部材をU字状に曲げられたシース内に配置している。ハフニウム部材とシースの間には、0.1mmから0.2mmの間隙が形成されている。制御棒が原子炉の炉心内に配置された状態では、炉水(冷却水)がその間隙内を流れている。この炉水の存在により、原子炉の運転中においては、燃料集合体内だけでなく、制御棒のその間隙内でも沸騰が生じる。原子炉の運転中に、その間隙の、ハフニウム部材の外面と直交する方向における幅が変化する。間隙の幅が狭くなった部分では、炉水の流動が妨げられる可能性がある。
炉心内及び炉心の近傍では、炉水の放射線分解により、例えば酸素及び過酸化水素などの酸化剤が常に生成されている。このため、炉水は、酸素及び過酸化水素などの酸化剤を含んでいる。上記した炉水の放射線分解は、制御棒の上記の間隙内に存在する炉水中でも生じる。その間隙内に存在する炉水に含まれている酸化剤は、シース表面から電子を奪って最終的には水に還元される。このとき、対反応としてシースの金属材料がイオン化して炉水中に溶出し、溶出したイオンが最終的にはFe3O4、或いはFe2O3の形態となり、シースの内面に酸化皮膜を形成する。このような酸化皮膜の形成は従来から知られている。
酸化種は炉水の放射線分解によって生成するため、その間隙のうち、シースの変形によって上記間隙の幅が減少して炉水の容積が少ない隙間となった部位(以下、隙間部という)では酸素が少なくなる。したがって、シース内面の、制御棒内の隙間部に面する部分では原子炉の運転中において酸化皮膜の成長が妨げられる。一方、シース内面の、隙間部以外の幅が広い間隙(以下、間隙部という)に面する部分では、原子炉の運転中において酸化皮膜が成長して厚くなる。なお、制御棒内においてハフニウム部材とシース内面との間に形成される間隙は、間隙部及び隙間部を含んでいる。
前述した酸化剤がシースの表面部分から電子を奪う還元反応は、隙間部で起こりにくく、隙間部以外の間隙で活発に起こる。これにより酸素濃淡電池が形成され、隙間部に面するシース内面の部分にアノードが形成され、間隙部に面するシース内面の部分にカソードが形成される。この結果、発明者らは、アノードとなったシース内面の部分からシース材料の溶出が生じ、シースの隙間腐食の発生につながると想定した。
原子炉の起動直後では、シース全域で酸化皮膜が形成されていなく全面腐食の形態をとるが、原子炉の定格運転中には、前述した炉水の放射線分解によって生成される酸素及び過酸化水素などの酸化種が存在する炉水に接するシース表面(内外面)に酸化皮膜が形成される。原子炉の定格運転が継続されると、シース表面に形成される酸化皮膜が生長して、その厚みが厚くなる。しかしながら、原子炉の運転開始後におけるシースの変形によって、中性子吸収部材とシース内面との間に形成された間隙で、炉水の流動が著しく滞る隙間部が発生した場合には、その間隙に面するシース内面に形成される酸化皮膜の厚さが場所によって差異を生ずる。このために、酸化皮膜が薄いシース内面の部分(隙間部に面する部分)で、シース材がより多く溶出する隙間腐食を生じる可能性がある。
以上に述べた理論を確認するために、発明者らは隙間腐食の実験を行った。発明者らが行ったこの実験の内容及び結果を、以下に説明する。
水溶液中における腐食反応は、金属と水溶液中に含まれる成分との電荷の授受によって生じる。したがって、電荷の授受の量を評価することによって、腐食速度の高低を判断できる。
そこで、発明者らは、沸騰水型原子炉(BWR)内の炉水及び温度を模擬した純水中で、金属表面における水との電荷授受のしやすさが、酸化皮膜の有無によってどのような影響を受けるかを検討した。
具体的には、BWRの炉内温度に加熱された、酸化剤を含まない純水(酸素濃度が0ppb)及び酸素濃度300ppbを含む純水内に、SUS304ステンレス鋼の試験片をそれぞれ浸漬した。この試験片としては、研磨したままの試験片及び予備酸化処理を施して酸化皮膜を形成した試験片の2種類を用いた。酸化剤を含まない純水に浸漬させた2種類の各試験片のアノード分極曲線、及び酸素濃度300ppbを含む純水に浸漬させた2種類の各試験片のカソード分極曲線をそれぞれ測定し、得られたこれらの分極曲線を比較した。これらの分極曲線により、試験片が所望の電位に置かれた状態での電流密度が算定できる。算定された電流密度によって、試験片表面への酸化皮膜の形成が、試験片表面における電荷の授受に与える影響(電荷の授受の阻害)を知ることができる。
実験は、BWRの炉内環境を模擬した、導電率0.056μS・cm−1の純水を、沸騰を防ぐ目的で8MPaに加圧して280℃の温度に制御し、試験片を装荷した高温槽内に導くことによって行った。試験片は、市販のφ0.5mmのSUS304ステンレス鋼線を使用した。予備酸化処理を施した試験片は、そのステンレス鋼線を288℃、8MPaの純水中で500hr保持して事前に表面に酸化皮膜を形成した。分極曲線の測定は、ポテンショスタットを使用して各試験片に電位を印加し、その時々の電流を測定した。
まず、酸素を含まない純水に試験片を浸漬させた場合におけるアノード分極曲線の測定結果を図5に示す。予備酸化処理により予め酸化皮膜が形成された試験片(図5に示された予備酸化ステンレス鋼)は、研磨したままで表面に酸化皮膜が形成されていない試験片(図5に示された酸化皮膜無しステンレス鋼)よりも、広い電位域において電流密度が減少した。この電流密度の減少は、金属の溶出が減ったこと、すなわち、腐食速度が減少したことを示している。
特に、研磨したままで酸化皮膜が形成されていない試験片において−0.4Vvs.SHE近傍で見られた活性態と呼ばれるピーク電流が、予備酸化処理による酸化皮膜が形成された試験片では約1/5に低下している。隙間部は、前述のように酸素及び過酸化水素が生成しにくく、低酸化種濃度の状態にある。したがって、発明者らは、隙間部に面して配置されたステンレス鋼が、図5における自然浸漬電位(約−0.5Vvs.SHE)に近い低電位になっていると想定した。一方、間隙部に面して配置されたステンレス鋼の電位は、炉水の放射線分解による酸素及び過酸化水素濃度が隙間部よりも高いため、隙間部よりも高電位に置かれているものと考えられる。したがって、隙間部に面しているステンレス鋼の表面部分が活性態となり、この表面部分で選択的に腐食が進行する隙間腐食が生じる。
図5に示された実験結果から、発明者らは、以下に述べる新たな知見を見出した。すなわち、ハフニウム部材の膨張及びシースの変形などにより間隙の幅が狭い隙間部が形成され、酸素及び過酸化水素等の酸化剤の濃度が低下してその隙間部に面するシースの内面の部分で電位が−0.4Vvs.SHE近傍まで低下した場合には、シースの内面に酸化皮膜が形成されていないとき、その隙間部に面するシースの内面部分が活性態となり、その内面部分での腐食速度が大きくなる。しかしながら、シース内面に予め酸化皮膜を形成しておくことによって、−0.4Vvs.SHE近傍の活性態におけるシース内面部分での腐食速度が酸化皮膜を形成していない場合に比べて最大で約1/5に低減できる。
酸素を300ppb含む純水に試験片を浸漬させた場合のカソード分極曲線の測定結果を図6に示す。この測定の結果、予備酸化処理により予め酸化皮膜を形成することにより、全電位域で電流密度が減少することが見出された。カソード分極曲線における電流密度は、任意電位にある試験片の表面上における、酸素など酸化種の還元反応量を表している。したがって、酸化皮膜の形成によって電流密度が減少したことは、酸素の還元反応量が酸化皮膜によって阻害されたことを示している。すなわち、事前の酸化皮膜の付与により、腐食の駆動力を減少できることを表している。
以上の結果から、発明者らは、予備酸化処理によりシース内面に予め酸化皮膜を形成することによって、隙間腐食の駆動力が低減されること、及び、単位時間当たりのシース材の溶出量、すなわち腐食速度が低減されることを新たに見出した。したがって、制御棒を原子炉内に設置する前に、シース内面に酸化皮膜を予め形成することによって、制御棒のシース内面部分での隙間腐食の腐食速度が低減できることを、発明者らが見出したのである。
制御棒の、炉心に最初に挿入される端部を制御棒挿入端部と称し、炉心内に全挿入された制御棒の、炉心から最初に引き抜かれる端部を制御棒引抜端部と称する。BWRでは制御棒は下方より炉心内に挿入されるため、BWR用の制御棒の制御棒挿入端部は制御棒の上端部(すなわち、ハンドル部)に相当し、BWR用の制御棒の制御棒引抜端部は制御棒の下部支持部の部分に相当する。
制御棒のシース内面に形成された酸化皮膜は、制御棒の原子炉内への搬入前において、シースの長手方向の全長に亘って存在していても良い。しかしながら、その酸化皮膜は、制御棒の原子炉内への搬入前において、少なくとも、制御棒の制御棒挿入端部側に位置するシースの端面と、この端面から制御棒引抜端部に向かってシースの長手方向の全長の1/3の位置との間の第1領域で、シース内面に形成されていることが望ましい。この第1領域におけるシース内面に予め酸化皮膜を形成する理由は、(a)シースの制御棒挿入端部側の部分が、複数の運転サイクルにおいて炉心内に長時間にわたって挿入されており、シースがその部分で変形しやすい、(b)制御棒内の中性子吸収部材とシース内面の間の間隙内での炉水の沸騰も、制御棒挿入端部側で生じる、ことにある。具体的に言えば、(a)及び(b)の理由によって炉水の低酸素種濃度になる隙間部が、第1領域で形成され易く、この第1領域で隙間腐食が発生し易いからである。その領域のシース内面に事前に酸化皮膜を形成することによって、シース内面における隙間腐食の発生を著しく抑制することができる。
制御棒挿入端部側に位置するシースの端面から制御棒引抜端部に向かってシースの長手方向の全長の1/3の位置と、シースの制御棒引抜端部側の端面との間の第2領域では、シース内面と中性子吸収部材の間に間隙部が形成されるので、BWRの運転中にその間隙部内を流れる炉水の酸素及び過酸化水素の濃度が高い。このため、第2領域に面するシース内面では、間隙部内を流れる炉水に含まれた酸素及び過酸化水素により、原子炉の運転中において酸化皮膜の形成が促進される。
本発明は、上記の検討結果に基づいて成されたものであり、以下に、本発明の実施例を説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の制御棒を、図1〜図4に基づいて以下に説明する。本実施例の制御棒1は、沸騰水型原子炉(BWR)で用いられる制御棒である。この制御棒1は、横断面が十字形をしていて軸心にタイロッド4が配置され、このタイロッド4から四方に伸びる4枚のブレード2を有する。ハンドル5がタイロッド4の上端部に取り付けられ、下部支持部材8がタイロッド4の下端部に取り付けられる。下部支持部材8は、下部支持板または落下速度リミッタである。ローラ16が回転可能に下部支持部材8に取り付けられる。このローラ16は、炉心に装荷されている燃料集合体のチャンネルボックスの外面と接触し、制御棒1を燃料集合体間で円滑に移動させる機能を有する。
各ブレード2は、横断面がU字状をしているシース6、扁平な筒、例えば楕円形状の筒であるハフニウム部材3U,3Lを有する(図2及び図3参照)。シース6はステンレス鋼(SUS304及びSUS316L等)によって構成される。シース6の上端はハンドル5に溶接され、シース6の下端は下部支持部材8に溶接されている。シース6のU字の両端部には、複数のタブ(突出部)18がタイロッド4の軸方向において所定の間隔を置いて形成されている。タブ18は、シース6の一部であるが、タイロッド4側に向かって突出している部分である。これらのタブ18は溶接にてタイロッド4に接合されている。上記したシース6とタイロッド4、ハンドル5及び下部支持部材8との接合は、例えば、レーザ溶接によって行われる。
1つのブレード2のシース6内に形成される空間内に、2つのハフニウム部材3U及び2つのハフニウム部材3Lが配置されている。ハフニウム部材3Uはハフニウム部材3Lの上方に位置しており、タイロッド4の軸方向におけるこれらの長さは同じである。ハフニウム部材3Uは、ハンドル5の下端部に形成された舌状部(図示せず)にピン12で取り付けられている。ハフニウム部材3Lは、下部支持部材8の上端部に形成された舌状部(図示せず)にピン12で取り付けられている。すなわち、ハフニウム部材3Uは上端部がハンドル5に取り付けられ、ハフニウム部材3Lが下部支持部材8に取り付けられている。これらのハフニウム部材は中性子吸収部材である。BWRの運転中においてハフニウム部材3U,3Lが熱膨張してもそれらのハフニウム部材が互いに接触しないように、ハフニウム部材3Uの下端とハフニウム部材3Lの上端との間のギャップgが形成されている。図2において、Lsはシース6の長手方向における全長を示している。この全長Lsは約4mである。
制御棒1では、原子炉圧力容器内への搬入前において、4つのブレード2のそれぞれのシース6の内面に酸化皮膜が形成されている。この酸化皮膜は、制御棒1の制御棒挿入端部(ハンドル5)側に位置するシース6の端面と、この端面から制御棒引抜端部(下部支持部材8の上端)に向かってLs/3の位置との間で、シース6の内面に形成されている。酸化皮膜はシース6の長手方向の全長Lsに亘ってシース6の内面に形成しても良い。ハフニウム部材3U,3Lの外面とシース6の内面との間に間隙g1が形成される(図3参照)。この間隙g1の幅は、例えば、0.2mmである。
制御棒1の組み立てを、図1及び図4を用いて説明する。制御棒1の製造工程が図4に示され、この製造工程におけるシース6内面への酸化皮膜の形成には図1に示された予備酸化処理装置(酸化皮膜形成装置)21が用いられる。開口9L,9U,12が形成されたステンレス鋼板をU字状に曲げてシース6の成型が完了した後、予備酸化処理装置21によって、シース6の内面に対して予備酸化処理を行い、シース6内面の所定範囲に酸化皮膜を形成する。
予備酸化処理装置21は、ガイドレール22、走行装置23、管状ノズル24、加熱装置26及びタンク28を備えている。走行装置23はガイドレール22に沿って移動可能である。複数の噴出孔25が形成されて不錆鋼で作られた管状ノズル24が、走行装置23に取り付けられる。管状ノズル24に接続された可撓性の流体搬送管29が、水30が貯留されているタンク28に接続される。加熱装置26及びポンプ27が流体搬送管29に設けられる。管状ノズル24の外径は、U字状のシース6の対向する内面間の幅よりも小さくなっている。
シース6は、U字状の端部が下方になるように保持装置(図示せず)に取り付けられる。ガイドレール22は、支持装置(図示せず)に取り付けられてシース6の開放された端部よりも上方に位置している。ガイドレール22とシース6の開放された端部は並行になるように配置されている。走行装置23に取り付けられた管状ノズル24が、開放端部からシース6の対向する内面間に挿入されている。管状ノズル24に形成された各噴出孔25はシース6の内面の法線方向を向いている。管状ノズル24は、走行装置23をガイドレール22に沿って移動させることにより、シース6の長手方向における一端からその他端に向かってシース6内を移動する。
シース6の内面への酸化皮膜の形成を開始するとき、管状ノズル24は、シース6の長手方向における一端に位置している。タンク28内の水30は、ポンプ27によって加圧され、流体搬送管29を通って加熱装置26に供給される。加熱装置26は、その水を400℃に加熱して蒸気にする。この蒸気は、加熱装置26から排出されて流体搬送管29により管状ノズル24内に供給される。蒸気は、複数の噴出孔25からシース6の内面に向かって噴出され、シース6内面に酸化皮膜を形成するために必要な熱及び酸素を供給する。蒸気を管状ノズル24から噴出させながら、ガイドレール22を走行する走行装置23によって、管状ノズル24を長手方向におけるシース6の一端からそれの他端に向かって所定の速度で移動させる。複数の噴出孔25から噴出される蒸気によってシース6の内面に所定厚みの酸化皮膜が形成される。管状ノズル24が、シース6の長手方向における一端を起点にして、この一端からシース6の長手方向の全長Lsの1/3の位置まで到達したとき、管状ノズル24からの蒸気の噴出が停止され、管状ノズル24の移動も停止される。このため、予備酸化処理による酸化皮膜が、長手方向におけるシース6の一端からシース6の長手方向の全長Lsの1/3の位置の間でシース6の内面に形成される。走行装置23の移動速度と形成される酸化皮膜の厚みとの相関関係を予め測定しておき、走行装置23の移動速度を調整することによって、酸化皮膜厚みを10μm以下の範囲内に制御する。予備酸化処理を実施している間、加熱装置26から管状ノズル24に供給する蒸気の温度、及び蒸気が当たっているシース6の内面の温度が、熱電対などの温度測定装置によって測定することにより監視される。管状ノズル24に供給する蒸気の温度が設定温度からずれた場合には、加熱装置26による加熱量を制御する。もし、シース6の長手方向の全長に亘ってその内面に酸化皮膜を形成するときは、管状ノズル24をシース6の長手方向における一端からその他端まで移動させる。
制御棒1の製造を、図4を用いて簡単に説明する。ハンドル5の舌状部にハフニウム部材3Uをピン12で取り付ける。このハンドル5をタイロッド4の一端に接合する。ローラ16及びコネクタ19が取り付けられた下部支持部材8の舌状部に、ハフニウム部材3Lをピン12で取り付ける。この下部支持部材8がタイロッド4の他端に接合される。予備酸化処理装置21により、内面に酸化皮膜が前述のように形成されたシース6が、ハンドル5、タイロッド4及び下部支持部材8にレーザ溶接により接合される。ハフニウム部材3U,3Lがシース6の対向する内面間に配置される。内面に酸化皮膜が形成された部分が制御棒挿入端部側に配置されるように、シース6が、ハンドル5、タイロッド4及び下部支持部材8に接合される。このようにして制御棒1が製造される。
制御棒1は、BWRの原子炉圧力容器内に配置され、原子炉出力を制御するために、複数の燃料集合体が装荷された炉心内に制御棒駆動機構(図示せず)によって出し入れされる。制御棒1は、下部支持部材8の下端部に設けられたコネクタ19によって原子炉圧力容器の底部に設けられた制御棒駆動機構に連結される。制御棒駆動機構は、制御棒1の炉心内への挿入操作、及び制御棒1の炉心からの引き抜き操作を行う。原子炉圧力容器内を流れる炉水(冷却水)は、シース6に形成された一部の開口12及びシース6の最下端部に形成された複数の開口9Lからシース6内に流入し、ハフニウム部材3U,3Lを冷却して他の開口12(特に上端部に位置する開口12)及びシース6の最上端部に形成された複数の開口9Uからシース6の外に流出する。シース6内に流入した炉水の一部は、ハフニウム部材3Uに設けられた小径の開口10を通ってハフニウム部材3U内に流入し、また、ハフニウム部材3Lに形成された小径の開口11を通ってハフニウム部材3L内に流入する。このように、炉水がハフニウム部材3U,3L内に流入することによって、これらのハフニウム部材の冷却効果が増大される。シース6内に流入した炉水の一部はハフニウム部材とシース6の内面との間に形成された間隙g1内を上昇する。
BWRが起動されて原子炉出力が定格出力(100%出力)まで上昇したときには、大部分の制御棒は炉心から全引き抜きされ、その後における原子炉出力の調整用に何本かの制御棒1が炉心に挿入されている。BWRの運転開始後に、炉心に挿入されている複数の制御棒1のうち1本の制御棒1において、シース6が変形して間隙g1において隙間部が形成されたと仮定する。この隙間部は、例えば、シース6の制御棒挿入端部側の一端とこの一端からシース6の長手方向の全長Lsの1/3の位置との間の領域に形成されている。この隙間部内では炉水が沸騰しており、隙間部内の炉水に含まれる酸素及び過酸化水素の濃度が低くなっている。このため、BWRの運転中において、隙間部内の炉水に含まれている酸素及び過酸化水素に起因した酸化皮膜の成長が、その隙間部に面するシース6の内面で抑えられる。しかしながら、隙間部に面する、シース6の制御棒挿入端部側の一端とこの一端からシース6の長手方向の全長Lsの1/3の位置との間の領域のシース6の内面には、制御棒1が原子炉圧力容器内に搬入される前に予め酸化皮膜が形成されているので、シース6の内面と隙間部内の炉水との間における電荷の移動が抑制できる。したがって、本実施例は、シース6内で隙間部が形成された場合であっても、この隙間部に面するシース6の内面で隙間腐食が生じることを防止することができる。
シース6の制御棒挿入端部側の一端からシース6の長手方向の全長Lsの1/3の位置とシース6の制御棒引抜部側の他端との間の第2領域では、間隙部がハフニウム部材とシース6内面との間に形成される。このため、第2領域に面するシース6の内面は、原子炉の運転中において、酸素及び過酸化水素の濃度が高い炉水と接触するので、その内面への酸化皮膜の形成が原子炉運転中に促進される。この酸化皮膜の形成により、第2領域に面するシース6の内面の隙間腐食が防止される。
本実施例によれば、制御棒1のシース6の内面での隙間腐食が抑制される。
400℃に加熱された水蒸気をシース6の内面に吹き付けたとき、その水蒸気がシース6の内面で凝集して水になる。水蒸気が液相になることにより凝集熱がシース6の内面に付与でき、効率的にシース6の内面の所望箇所に酸化皮膜の形成に必要な熱及び酸素を与えることができる。
本発明の他の実施例である実施例2の制御棒を以下に説明する。本実施例の制御棒は、実施例1の制御棒1と同じ構成を有し、図4に示す製造工程により製作される。しかしながら、本実施例の制御棒は、実施例1とは異なる予備酸化処理によりシース6の内面に酸化皮膜を形成している。本実施例で行われる予備酸化処理を、図7を用いて説明する。この予備酸化処理は、シース6の内面に酸化皮膜を形成させるために熱及び酸素を与える媒体として、実施例1のように水蒸気ではなく、空気を用いる。
本実施例で用いられる予備酸化処理装置21Aは、実施例1で用いられる予備酸化処理装置21とほとんど同じ構成を有し、流体搬送管29がタンク28ではなく空気が充填されたボンベ31に接続されていることが予備酸化処理装置2と異なっている部分である。
予備酸化処理装置21Aは予備酸化処理装置2と同様に設置され、管状ノズル24が保持装置(図示せず)に取り付けられたU字状のシース6の対向する内面間に挿入される。ボンベ31内の加圧空気が、流体搬送管29を通して加熱装置26に供給され、400℃に加熱される。加熱された空気は、管状ノズル24内に導かれ、複数の噴出孔25からシース6の内面に向かって噴出される。高温の空気に含まれる酸素の作用によって、シース6の内面に酸化皮膜が形成される。走行装置23を移動させて、実施例1と同じ範囲においてシース6の内面に酸化皮膜を形成する。形成される酸化皮膜の厚みは10μmである。予備酸化処理を実施している間、加熱装置26から管状ノズル24に供給する空気の温度、及び蒸気が当たっているシース6の内面の温度が、熱電対などの温度測定装置によって測定することにより監視される。
本実施例も、実施例1と同様に、シース6に隙間腐食が生じることを防止することができる。さらに、予備酸化処理装置21Aは、気体である空気を使用することにより、予備酸化処理装置21のように水を貯留するタンク28が不要となる。取扱いが容易な簡素な予備酸化処理装置を使用して、シース6の所望の箇所に、酸化皮膜の形成に必要な熱と酸素を与えることができる。なお、空気の替りに、酸素を20%以上含む不活性な気体、オゾンまたは酸化窒素を用いてもよい。
本発明の他の実施例である実施例3の制御棒を以下に説明する。本実施例の制御棒は、実施例1の制御棒1と同じ構成を有し、図4に示す製造工程により製作される。しかしながら、本実施例の制御棒は、実施例1及び実施例2とは異なる予備酸化処理によりシース6の内面に酸化皮膜を形成している。本実施例で行われる予備酸化処理を、図8を用いて説明する。この予備酸化処理は、陽極電解によりシース6の内面を酸化させる電解酸化処理である。
本実施例で用いられる予備酸化処理装置21Bは、実施例1で用いられる予備酸化処理装置21において、管状ノズル24及び加熱装置26を中空管33、吸水部材34、格子状電極35及び電源36に替えた構成を有する。中空管33が走行装置23に取り付けられ、格子状電極35が中空管33に取り付けられている。吸水部材34は格子状電極35の外側を覆っている。吸水部材34及び格子状電極35は、細長く、U字状になったシース6の開放端からシース6の曲がり部に到達する程度の長さを有する。電源36に接続された配線37が格子状電極35の一端に接続されている。格子状電極35はさらに接地されている。電源36は配線によりシース6にも接続される。ポンプ27に接続される流体搬送管29は中空管33に接続される。酸性溶液32がタンク28内に充填されている。
予備酸化処理装置21Bは予備酸化処理装置2と同様に設置され、吸水部材34及び格子状電極35が保持装置(図示せず)に取り付けられたU字状のシース6の対向する内面間に挿入される。タンク28内の酸性溶液32がポンプ27の駆動によって流体搬送管29及び中空管33を通して吸水部材34に供給される。吸水部材34は、pH1の酸性溶液32で一様に浸された状態に保たれる。酸性溶液32を含んでいる吸水部材34はシース6の対向する内面にそれぞれ接触している。
その後、配線37に接続されている開閉器(図示せず)を閉じて電源36から格子状電極35及びシース6に通電する。電源36を調節して、格子状電極35とシース6間に印加される電圧を所定の電圧に制御する。酸性溶液32を含んでいる吸水部材34がシース6の内面に接触している状態で電圧を印加することによって、シース6の内面に対する電解酸化処理が実施され、吸水部材34に接しているシース6の内面に酸化皮膜が形成される。
シース6の内面に対する電解酸化処理を行いながら、走行装置23を移動させて、吸水部材34及び格子状電極35を、シース6の長手方向における一端を起点にして、この一端からシース6の長手方向の全長Lsの1/3の位置まで移動させる。この位置に到達したとき、開閉器が開いて電圧の印加が停止され、酸性溶液32の吸水部材34への供給も停止される。また、走行装置23の移動も停止される。シース6の長手方向における一端と、この一端からシース6の長手方向の全長Lsの1/3の位置との間の領域で、シース6の内面に酸化皮膜が形成される。酸化皮膜の厚みは10μmである。予備酸化処理を実施している間、格子状電極35とシース6との間に印加される電圧が、電位差計などの電圧測定装置で測定することによって監視される。
格子状電極35は、貴な材料である白金で構成することが望ましく、板状としても良い。酸性溶液32は硝酸、あるいはクロム酸の水溶液を用いることが望ましい。
本実施例も、実施例1と同様に、シース6に隙間腐食が生じることを防止することができる。本実施例は、電解酸化処理によりシース6の内面に酸化皮膜を形成しているので、電気エネルギーを酸化皮膜の形成に利用することができる。このため、電流等を計測することが容易であり、酸化皮膜の厚み制御が容易になる。また、本実施例は、酸化皮膜の形成に熱を与えないので、シース6の母材の相変化による劣化が生じない。
図2に示す制御棒のシース内面への酸化皮膜の形成を説明する説明図であり、(A)はその酸化皮膜の形成に用いられる予備酸化処理装置の構成及びこの予備酸化処理装置を用いた酸化皮膜の形成を示す説明図、(B)は予備酸化処理装置の管状ノズルをシースの対向する内面間に挿入した状態でのシースの側面図である。
本発明の好適な一実施例で沸騰水型原子炉に用いられる実施例1の制御棒の側面図である。
図2のIII−III断面図である。
図2に示す制御棒の製造工程を示す工程図である。
純水に浸漬された、酸化皮膜が形成された試験片及び酸化皮膜が存在しない試験片におけるアノード分極曲線の測定結果を示す説明図である。
酸素を含んでいるに浸漬された、酸化皮膜が形成された試験片及び酸化皮膜が存在しない試験片におけるカソード分極曲線の測定結果を示す説明図である。
本発明の他の実施例である実施例2の制御棒のシース内面への酸化皮膜の形成を説明する説明図であり、(A)はその酸化皮膜の形成に用いられる他の予備酸化処理装置の構成及びこの予備酸化処理装置を用いた酸化皮膜の形成を示す説明図、(B)は他の予備酸化処理装置の管状ノズルをシースの対向する内面間に挿入した状態でのシースの側面図である。
本発明の他の実施例である実施例3の制御棒のシース内面への酸化皮膜の形成を説明する説明図であり、(A)はその酸化皮膜の形成に用いられる他の予備酸化処理装置の構成及びこの予備酸化処理装置を用いた酸化皮膜の形成を示す説明図、(B)は他の予備酸化処理装置の吸水部材及び格子状電極をシースの対向する内面間に挿入した状態でのシースの側面図である。
符号の説明
1…制御棒、2…ブレード、3L,3U…ハフニウム部材、4…タイロッド、5…ハンドル、6…シース、8…下部支持部材、21,21A,21B…予備酸化処理装置、22…ガイドレール、23…走行装置、24…管状ノズル、25…噴出孔、26…加熱装置、28…タンク、29…流体搬送管、31…ボンベ、33…中空管、34…吸水部材、35…格子状電極ク、36…電源。