以下、本発明に係る実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
図1は、実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。図2は、実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。図3は、実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成を示す図である。
超音波診断装置Sは、図1および図2に示すように、図略の生体等の被検体に対して超音波(超音波信号)を送信すると共に、被検体で反射した超音波の反射波(エコー)を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体に対して超音波を送信させると共に、超音波探触子2で受信された被検体内からの超音波の反射波に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する超音波診断装置本体1とを備えて構成される。
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、信号処理部14と、画像処理部15と、表示部16と、制御部17とを備えて構成されている。
操作入力部11は、例えば、診断開始を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータを入力するものであり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボード等である。
送信部12は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を供給して超音波探触子2に超音波を発生させる回路である。送信部12は、例えば、高電圧のパルスを生成する高圧パルス発生器等を備えて構成される。受信部13は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2からケーブル3を介して電気信号の受信信号を受信する回路であり、この受信信号を信号処理部14へ出力する。受信部13は、例えば、受信信号を予め設定された所定の増幅率で増幅する増幅器、および、この増幅器で増幅された受信信号をアナログ信号からディジタル信号へ変換するアナログ−ディジタル変換器等を備えて構成される。
信号処理部14は、制御部17の制御に従って、所定の信号を処理する回路、より具体的には、直接受信信号に基づいて反射受信信号を処理する回路であり、その信号処理した反射受信信号を画像処理部15へ出力する。後述するように超音波探触子2の圧電部22(図3参照)から超音波信号が送信されるが、この直接受信信号は、被検体で反射した超音波信号(エコー)を受信することによって生成された信号ではなく、この圧電部22から送信された超音波信号を直接的に受信することによって生成された信号である。ここで、「直接的に」とは、被検体で反射した超音波信号(エコー)を除く意味であり、直接受信信号は、圧電部22から送信された超音波信号を例えば中間層222(図3参照)等の他の部材を介して受信することで生成された信号も含む。反射受信信号は、圧電部22から送信された超音波信号であって被検体で反射した超音波信号(エコー)を受信することによって生成された信号である。
さらに、信号処理部14は、本実施形態では、圧電部22における圧電効率の温度依存性を補正すべく直接受信信号に基づいて反射受信信号を処理する温度依存補正部である。圧電効率は、圧電現象によって超音波エネルギーと電気エネルギーとの間で一方から他方へ変換する場合における変換効率である。
信号処理部14は、例えば、受信部13から出力された受信信号(直接受信信号および反射受信信号)を記憶する例えばRAM(Random Access Memory)等の記憶回路と、この記憶回路に記憶された直接受信信号および反射受信信号を用いて、直接受信信号に基づいて反射受信信号を処理する例えばマイクロプロセッサ等の演算回路とを備えて構成される。
画像処理部15は、制御部17の制御に従って、信号処理部14で信号処理された反射受信信号に基づいて例えばハーモニックイメージング技術等を用いて被検体内の内部状態の画像(超音波画像)を生成する回路である。表示部16は、制御部17の制御に従って、画像処理部15で生成された被検体内の内部状態の画像を表示する装置である。表示部16は、例えば、CRTディスプレイ、LCD、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
制御部17は、例えば、マイクロプロセッサ、記憶素子およびその周辺回路等を備えて構成され、これら操作入力部11、送信回路12、受信回路13、信号処理部14、画像処理部15および表示部16を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う回路である。
超音波探触子(超音波プローブ)2は、例えば、図3に示すように、音響制動部材21と、圧電部22と、音響整合層23と、音響レンズ24とを備えて構成される。
音響制動部材21は、超音波を吸収する材料から構成された平板状の部材であり、圧電部22から音響制動部材21方向へ放射される超音波を吸収するものである。
圧電部22は、圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換するものである。圧電部22は、超音波診断装置本体1の送信部12からケーブル3を介して入力された送信の電気信号を超音波信号へ変換してこの超音波信号を送信すると共に、受信した超音波信号を電気信号へ変換してこの電気信号(受信信号)をケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力する。超音波探触子2が被検体に当てられることによって圧電部22で生成された超音波信号が被検体内へ送信され、被検体内からの超音波の反射波が圧電部22で受信される。
圧電部22は、例えば、本実施形態では、圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができる第1および第2圧電部221、223を備え、第1および第2圧電部221、223は、互いに積層されている。本実施形態では、第1および第2圧電部221、223は、中間層222を介して互いに積層されている。この中間層222は、第1圧電部221と第2圧電部223とを積層するための部材であり、第1圧電部221と第2圧電部223との音響インピーダンスを整合させるものである。このように圧電部が2層の第1および第2圧電部221、223を備えるので、その一方を、例えば、第1圧電部221を、超音波信号を送信する超音波送信部に用いると共に、その他方を、例えば、第2圧電部223を、超音波信号を受信する超音波受信部に用いることができる。このため、超音波送信部の第1圧電部221を送信用により適したものとすることができると共に、超音波受信部の第2圧電部223を受信用により適したものとすることができる。したがって、第1および第2圧電部221、223がそれぞれ超音波送信部および超音波受信部として最適化が可能となり、より高精度な画像を得ることが可能となる。さらに、第1および第2圧電部221、223が積層されているので、小型化が可能となる。
また、本実施形態では、例えば、圧電部22における第1圧電部221は、無機圧電材料を備えて構成されており、この無機圧電材料から成る所定の厚さの圧電体における両面に一対の電極を備えて構成されている。この圧電体の厚さは、例えば、送信すべき超音波の周波数や無機圧電材料の種類等によって適宜に設定される。無機圧電材料は、例えば、いわゆるPZT、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸タンタル酸カリウム(K(Ta,Nb)O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等である。本実施形態では、このように送信パワーを大きくすることが可能な無機圧電素子が第1圧電部221に用いられている。
そして、本実施形態では、例えば、圧電部22における第2圧電部223は、有機圧電材料を備えて構成されており、この有機圧電材料から成る所定の厚さの圧電体における両面に一対の電極を備えて構成されている。この圧電体の厚さは、例えば、受信すべき超音波の周波数や有機圧電材料の種類等によって適宜に設定されるが、例えば、中心周波数8MHzの超音波を受信する場合では、この圧電体の厚さは、約50μmである。有機圧電材料は、例えば、フッ化ビニリデンの重合体を用いることができる。また例えば、有機圧電材料は、フッ化ビニリデン(VDF)系コポリマを用いることができる。このフッ化ビニリデン系コポリマは、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合体(コポリマ)であり、他の単量体としては、3フッ化エチレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、パーフルオロアルコキシエチレン(PAE)およびパーフルオロヘキサエチレン等を用いることができる。フッ化ビニリデン系コポリマは、その共重合比によって厚み方向の電気機械結合定数(圧電効果)が変化するので、例えば、超音波探触子の仕様等に応じて適宜な共重合比が採用される。例えば、フッ化ビニリデン/3フッ化エチレンのコポリマの場合では、フッ化ビニリデンの共重合比が60mol%〜99mol%が好ましく、有機圧電素子を無機圧電素子に積層する複合素子の場合では、フッ化ビニリデンの共重合比が85mol%〜99mol%がより好ましい。また、このような複合素子の場合では、他の単量体は、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、パーフルオロアルコキシエチレン(PAE)およびパーフルオロヘキサエチレンが好ましい。また例えば、有機圧電材料は、ポリ尿素を用いることができる。このポリ尿素の場合では、蒸着重合法で圧電体を作成することが好ましい。ポリ尿素用のモノマとして、一般式、H2N−R−NH2構造を挙げることができる。ここで、Rは、任意の置換基で置換されてもよいアルキレン基、フェニレン基、2価のヘテロ環基、ヘテロ環基を含んでもよい。ポリ尿素は、尿素誘導体と他の単量体との共重合体であってもよい。好ましいポリ尿素として、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)を用いる芳香族ポリ尿素を挙げることができる。本実施形態では、このように超音波を比較的広い周波数に亘って受信可能な特性を持つ有機圧電素子が第2圧電部223に用いられている。
また、本実施形態では、圧電部22の第1圧電部221は、超音波診断装置本体1の送信部12からケーブル3を介して電気信号が入力され、この電気信号を超音波信号へ変換し、この変換した超音波信号を中間層222、第2圧電部223、音響整合層23および音響レンズを介して被検体へ送信する。そして、圧電部22の第2圧電部223は、超音波信号が音響レンズ24および音響整合層23を介して被検体から受信され、この受信された超音波信号を電気信号へ変換し、この変換した電気信号を受信信号としてケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力する。本実施形態では、上述したように第1圧電部221が無機圧電素子であり、送信パワーを比較的簡単な構造で大きくすることが可能となるため、このような圧電部22を備えた超音波探触子2は、高調波のエコーを得るために比較的大きなパワーで基本波の超音波信号を送信することが必要なハーモニックイメージング技術に好適であり、より高精度な超音波画像の提供が可能となる。そして、本実施形態では、上述したように第2圧電部223が有機圧電素子であり、周波数帯域を比較的簡単な構造で広帯域にすることが可能となるため、このような圧電部22を備えた超音波探触子2は、高調波の超音波信号を受信することが必要なハーモニックイメージング技術に好適であり、より高精度な超音波画像の提供が可能となる。
そして、本実施形態では、圧電部22における第1および第2圧電部221、223は、第1圧電部221上に第2圧電部223が積層され、第2圧電部223の前方に超音波信号の送受信面が在る。より具体的には、第1圧電部221上に中間層222を介して第2圧電部223が積層されている。
そして、注目すべきは、本実施形態の超音波探触子2は、圧電材料を備えて成り、圧電部22、本実施形態では第1圧電部221から送信された超音波信号を直接受信信号として電気信号へ圧電現象を利用することによって変換する直接受信部を備えていることである。さらに、本実施形態の超音波探触子2では、圧電部22の第2圧電部223がこの直接受信部と兼用されている。まず第1に、送信部12および受信部13が制御部17によって制御されることによって、圧電部22の第1圧電部221から送信された超音波信号は、圧電部22の第2圧電部223で直ちに直接的に受信され、この直ちに受信された超音波信号は、第2圧電部223で直接受信信号として電気信号に変換され、この直接受信信号は、ケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力される。第2に、送信部12および受信部13が制御部17によって制御されることによって、圧電部22の第1圧電部221から送信された超音波信号は、中間層222、第2圧電部223、音響整合層23および音響レンズを介して被検体へ送信される。そして、この超音波信号に起因する被検体内からの超音波信号は、音響レンズ24および音響整合層23を介して第2圧電部223で受信され、この受信された超音波信号は、第2圧電部223で反射受信信号として電気信号に変換され、この反射受信信号は、ケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力される。本実施形態では、このように圧電部22の第2圧電部223が直接受信部と兼用されているので、個別に直接受信部が不要となり、小型化を図ることが可能となる。
また、第1圧電部221は、単一の圧電素子から構成されてもよいが、本実施形態では、複数の圧電素子を備えて構成されている。これら複数の圧電素子は、ライン上に一列に配列されて構成されてもよいが、互いに所定の間隔を空けて平面視にて線形独立な2方向に、例えば、互いに直交する2方向にm行×n列で配列する2次元アレイ状に音響制動部材21上に配列されて構成されている(m、nは、正の整数である)。なお、これら複数の圧電素子の相互干渉を低減するために、これら複数の圧電素子間に、超音波を吸収する音響吸収材が充填されてもよい。この音響吸収材によって各圧電素子間におけるクロストークの低減が可能となる。
そして、第2圧電部223は、単一の圧電素子から構成されてもよいが、本実施形態では、複数の圧電素子を備えて構成されている。これら複数の圧電素子は、ライン上に一列に配列されて構成されてもよいが、互いに所定の間隔を空けて平面視にて線形独立な2方向に、例えば、互いに直交する2方向にp行×q列で配列する2次元アレイ状に中間層222上に配列されて構成されている(p、qは、正の整数である)。
このような第2圧電部223は、例えば、所定の厚さを持った平板状の有機圧電材料から成る圧電体と、この圧電体の一方主面に形成された互いに分離した複数の電極(素電極)と、この圧電体の他方主面に略全面に亘って一様に形成された電極層とを備えて構成されたシート状の有機圧電素子であってもよい。このように複数の素電極が圧電体の一方主面に形成されることによって、この有機圧電素子は、1個の素電極と圧電体と電極層とから成る圧電素子を複数備えることができ、これら各圧電素子が個別に動作することができる。このような有機圧電素子における複数の圧電素子は、個別に機能させるために無機の圧電素子のように個々に分離する必要がなく、一体的なシート状で構成することが可能である。したがって、この有機圧電素子の製造工程において、有機圧電材料から成るシート状の板状体に溝(間隙、隙間、ギャップ、スリット)を形成する工程が必要なく、有機圧電素子の製造工程がより単純化され、より少ない工数で有機圧電素子を形成することが可能となる。また、このような有機圧電素子は、一体的なシート状で構成されているので、その複数の圧電素子の各特性は、略均一となり、素子ピッチを含めてばらつきが少なくなり、より高精度な超音波画像の提供が可能となる。
また、第1圧電部221の圧電素子の個数と第2圧電部223の圧電素子の個数とは、同一でもよいが、異なっていてもよい。例えば、第2圧電部223の圧電素子の個数が第1圧電部221の圧電素子の個数より多くてもよい。このように構成されることにより、第1圧電部221における1個の圧電素子のサイズ(大きさ)を大きくすることが可能となり、その送信パワーを大きくすることができると共に、第2圧電部223の圧電素子の個数を多くすることが可能となり、その受信分解能を向上することが可能となる。
そして、音響整合層23は、圧電部22の音響インピーダンスと被検体の音響インピーダンスとの整合をとる部材である。より具体的には、本実施形態では、音響整合層23は、第1圧電部221の音響インピーダンスと被検体の音響インピーダンスとの整合をとると共に、第2圧電部223の音響インピーダンスと被検体の音響インピーダンスとの整合をとる部材である。音響レンズ24は、圧電部22から被検体に向けて送信される超音波信号を収束する部材であり、例えば、図3に示すように、円弧状に膨出した形状とされている。
このような構成の超音波診断装置Sでは、例えば、操作入力部11から診断開始の指示が入力されると、制御部17は、まず第1に、直接受信信号を得るべく各部を制御し、第2に、反射受信信号を得るべく各部を制御する。
すなわち、第1に、制御部17の制御によって送信部12で電気信号の送信信号が生成される。この生成された電気信号の送信信号は、ケーブル3を介して超音波探触子2へ供給される。より具体的には、この電気信号の送信信号は、超音波探触子2における圧電部22の第1圧電部221へ供給される。この電気信号の送信信号は、例えば、所定の周期で繰り返される電圧パルスである。第1圧電部221は、この電気信号の送信信号が供給されることによってその厚み方向に伸縮し、この電気信号の送信信号に応じて超音波振動する。この超音波振動によって、第1圧電部221は、超音波信号を放射する。第1圧電部221から音響制動部材21方向へ放射された超音波信号は、音響制動部材21によって吸収される。また、第1圧電部221から中間層222方向へ放射された超音波信号は、圧電部22の第2圧電部223で直ちに直接的に受信される。第2圧電部223は、この第1圧電部221から直ちに直接的に受信した超音波信号を直接受信信号として電気信号に変換し、この直接受信信号をケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力する。受信部13は、この入力された直接受信信号を受信処理し、より具体的には、例えば増幅した後にアナログ信号からディジタル信号へ変換し、信号処理部14へ出力する。信号処理部14は、このディジタル信号の直接受信信号を例えばRAM等の記憶素子に記憶する。
第2に、例えば、直接受信信号が得られたタイミングを見計らって、前記第1の場合と同様に、制御部17の制御によって送信部12で電気信号の送信信号が生成される。この生成された電気信号の送信信号は、ケーブル3を介して超音波探触子2の第1圧電部221へ供給される。第1圧電部221は、この電気信号の送信信号が供給されることによって超音波信号を放射する。第1圧電部221から音響制動部材21方向へ放射された超音波信号は、音響制動部材21によって吸収される。また、第1圧電部221から中間層222方向へ放射された超音波信号は、中間層222、第2圧電部223、音響整合層23および音響レンズ24を介して放射される。超音波探触子2が被検体に例えば当接されていると、これによって超音波探触子2から被検体に対して超音波が送信される。なお、超音波探触子2は、被検体の表面上に当接して用いられてもよいし、被検体の内部に挿入して、例えば、生体の体腔内に挿入して用いられてもよい。この被検体に対して送信された超音波は、被検体内部における音響インピーダンスが異なる1または複数の境界面で反射され、超音波の反射波(エコー)となる。この反射波には、送信された超音波信号の周波数(基本波の基本周波数)成分だけでなく、基本周波数の整数倍の高調波の周波数成分も含まれる。例えば、基本周波数の2倍、3倍および4倍等の第2高調波成分、第3高調波成分および第4高調波成分等も含まれる。この反射波の超音波信号は、超音波探触子2で受信される。より具体的には、この反射波の超音波信号は、音響レンズ24および音響整合層23を介して圧電部22の第2圧電部223で受信され、第2圧電部223で機械的な振動が電気信号に変換されて反射受信信号として取り出される。この取り出された電気信号の反射受信信号は、ケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力される。受信部13は、この入力された反射受信信号を受信処理し、より具体的には、例えば増幅した後にアナログ信号からディジタル信号へ変換し、信号処理部14へ出力する。信号処理部14は、このディジタル信号の反射受信信号を例えばRAM等の記憶素子に記憶する。
ここで、上述において、第1圧電部221における複数の圧電素子から順次に超音波信号が被検体に向けて送信され、被検体で反射した超音波信号が第2圧電部223で受信される。
そして、信号処理部14では、直接受信信号および反射受信信号が揃うと、記憶されている直接受信信号および反射受信信号を用いて、直接受信信号に基づいて反射受信信号を処理し、この処理した反射受信信号を画像処理部15へ出力する。
画像処理部15は、制御部17の制御によって、信号処理部14で処理された反射受信に基づいて、送信から受信までの時間や受信強度等から被検体内の内部状態の画像(超音波画像)を生成し、表示部16は、制御部17の制御によって、画像処理部15で生成された被検体内の内部状態の画像を表示する。
本実施形態の超音波探触子2および超音波診断装置Sでは、このように信号処理部14が直接受信信号に基づいて反射受信信号を処理する。したがって、この直接受信信号に基づいて処理された反射受信信号を用いて画像(超音波画像)を生成することによって、そのまま反射受信信号を用いて超音波画像を生成する場合に較べて、より高精度な画像を得ることが可能となる。
そして、本実施形態では、信号処理部14は、温度依存補正部として機能し、圧電部22における圧電効率の温度依存性を補正すべく、記憶されている直接受信信号および反射受信信号を用いて、直接受信信号に基づいて反射受信信号を処理する。
無機圧電材料を備えて構成される無機圧電素子は、通常、圧電効率の温度依存性が少ないが、有機圧電材料を備えて構成される有機圧電素子は、圧電効率の温度依存性が比較的高い。有機圧電素子は、温度が高くなると圧電効率が小さくなる。したがって、有機圧電素子を含む超音波探触子は、その有機圧電素子の温度依存性から、温度依存性を有することになる。このため、この有機圧電素子を含む超音波探触子は、圧電効率の温度依存性がない場合に較べて、例えば、環境温度の変化等によって受信信号の波形が変化してしまう。さらに、有機圧電素子に無機圧電素子を積層した超音波探触子では、無機圧電素子が送信用に利用されると、無機圧電素子が送信の際に発熱し、この熱が有機圧電素子に熱伝導し、受信信号の波形が変化してしまう。
本実施形態では、超音波探触子2の圧電部22は、無機圧電素子を備える送信用の第1圧電部221と有機圧電素子を備える受信用の第2圧電部223とを備えて構成されているが、信号処理部14が上述のように温度依存補正部として機能するので、圧電効率の温度依存性が超音波画像に与える影響が軽減され、より高精度な画像を得ることが可能となる。
この信号処理部14が実行する温度依存性の補正は、例えば、直接受信信号に基づいて求めた補正係数Cを反射受信信号に作用させることによって実行される。例えば、温度依存性の補正は、直接受信信号に基づいて求めた補正係数Cを反射波の受信信号に乗算することによって実行される。また例えば、温度依存性の補正は、直接受信信号に基づいて求めた補正係数(補正値)Cを反射波の受信信号に減算することによって実行される。
この補正係数Cは、例えば、直接受信信号のピークトゥピーク(peak-to-peak、Vpp)に応じて求められる(C=f(Vpp))。直接受信信号のピークトゥピークVppは、通常、有機圧電素子の温度が高くなると小さくなる。また例えば、補正係数Cは、直接受信信号の波形の積分値Sに応じて求められる(C=g(S))。直接受信信号の波形の積分値Sは、通常、有機圧電素子の温度が高くなると小さくなる。また例えば、補正係数Cは、直接受信信号の波形の長さ(幅)Lに応じて求められる(C=h(L))。波形の長さは、波形の始まりから、当該波形の振幅(大きさ、レベル)がピークトゥピークVppの20dB(一桁)だけ落ちた値になったところまでである。直接受信信号の波形の長さLは、通常、有機圧電素子の温度が高くなると短くなる。例えば、Vpp=1Vの場合では、波形の長さは、波形の始まりから0.1Vになったところまでである。また例えば、補正係数Cは、直接受信信号の周波数帯域幅Bに応じて求められる(C=i(B))。直接受信信号の周波数帯域幅Bは、通常、有機圧電素子の温度が高くなると広くなる。なお、f、g、h、iは、関数を表す。
直接受信信号における例えばピークトゥピークVpp等の上述した特徴量(Vpp、S、L、B)と補正係数Cとの関係が例えば関数式やルックアップテーブル等によって表され、これを用いることによって直接受信信号の特徴量に基づいて補正係数Cが求められる。
なお、上述の実施形態では、信号処理部14は、温度依存補正部として機能したが、直接受信信号に基づいて反射受信信号を処理することによって被検体で反射した超音波信号の高調波成分を抽出する高調波抽出部として機能するように、構成されてもよい。信号処理部14は、被検体で反射した超音波信号の高調波成分を抽出すべく、記憶されている直接受信信号および反射受信信号を用いて、直接受信信号に基づいて反射受信信号を処理する。
図4は、高調波成分の抽出方法を説明するための図である。図4(A)は、直接受信信号の波形であり、図4(B)は、反射受信信号の波形である。図4の横軸は、時間であり、その縦軸は、信号レベル(振幅)である。
この高調波成分の抽出は、例えば、反射受信信号と直接受信信号との差を求めることによって求められる。この場合において、反射受信信号の信号レベル(振幅)と直接受信信号の信号レベル(振幅)は、通常、異なるので、反射受信信号の信号レベルと直接受信信号の信号レベルが合わせられる。より具体的には、例えば、反射受信信号のピークにおける信号レベルと、この反射受信信号のピークに対応する直接受信信号のピークにおける信号レベルが一致するように、直接受信信号が定数倍される。例えば、図4に示すように、反射受信信号における最大の信号レベルであるピークPrの信号レベルArと、直接受信信号における最大の信号レベルであるピークPdの信号レベルAdとが一致するように、直接受信信号が定数K倍される。そして、この反射受信信号と直接受信信号の定数倍との差を求める場合において、反射受信信号と直接受信信号(直接受信信号の定数倍)とを時間的に対応させる。例えば、図4に示すように、反射受信信号における最大の信号レベルであるピークPrと直接受信信号における最大の信号レベルであるピークPdとを一致させることによって、両受信信号を時間的に対応させる。また例えば、反射受信信号と直接受信信号とが最も相関するように、反射受信信号に対して直接受信信号をずらすことによって、両受信信号を時間的に対応させる。また例えば、反射受信信号のピークArや直接受信信号のピークAdに対して、20dB低い値を初めて超えた時を内部トリガー点とし、この点を一致させることによって両受信信号を時間的に対応させる。
図5は、高調波成分の他の抽出方法を説明するための図である。図5の横軸は、周波数であり、その縦軸は、dB単位で示すパワースペクトル値である。また、実線(a)は、直接受信信号を表し、短破線(b)(・・・)は、直接受信信号に後述の減衰演算を実行した後の信号を表し、そして、長破線(c)(− − −)は、反射受信信号に後述の基本波のレベル合わせを実行した後の信号を表す。
また例えば、この高調波成分の抽出は、反射受信信号および直接受信信号をそれぞれフーリエ変換し、周波数成分ごとに反射受信信号のフーリエ変換後の値と直接受信信号のフーリエ変換後の値との差をそれぞれ求めることによって求められてもよい。この場合においても反射受信信号の信号レベルと直接受信信号の信号レベルが合わせられる。例えば、この場合の信号レベル合わせは、時間波形のレベルを合わせることではなく、フーリエ変換後の周波数成分パワースペクトルのレベルを合わせることによって行われる。より具体的には、周波数成分パワースペクトルにおける基本周波数のレベルが反射受信信号と直接受信信号とで同一となるようにパワースペクトル値を演算し、それらの差分を求めること等によって実行される。その際の演算には、直接受信信号のパワースペクトル値(図5の曲線(a))をそのまま用いるのではなく、好ましくは、送信から反射受信信号までの時間に応じて体内の減衰率、例えば0.6dB/cm@MHz等を加味した演算を直接受信信号の周波数成分パワースペクトル値に対して行い(図5の曲線(b))、これに対して前記基本波の信号レベル合わせを行って、反射受信信号から差分パワースペクトル値を求める(図5において曲線(c)と曲線(b)との差分)。このように抽出された差分パワースペクトル値は、逆フーリエ変換等により時間波形に変換された後に、必要に応じて検波を行い、輝度変換や座標変換等の信号処理を行うことによってハーモニック画像が形成される。
超音波画像の生成に高調波成分を用いるハーモニックイメージング技術には、大別すると、フィルタ法と位相反転法(パルスインバージョン法)との2つの方法がある。このフィルタ法は、高調波検出フィルタにより基本波成分と高調波成分とを分離し、高調波成分だけを抽出し、この高調波成分から超音波画像を生成する方法である。また、この位相反転法は、同一方向に続けて互いに位相が反転している第1および第2送信信号を送信し、これら第1および第2送信信号に対応する第1および第2受信信号を加算することによって高調波成分を抽出し、この高調波成分から超音波画像を生成する方法である。
実際には、送信信号の基本波成分や受信信号の基本波成分および高調波成分は、それぞれ、或る帯域幅を有している。このため、基本波成分と高調波成分とは、重複(オーバラップ)している部分が存在するため、高調波検出フィルタによって完全に基本波成分と高調波成分とが分離されない。そして、送信信号にもともと含まれている高調波成分と受信信号の高調波成分(被検体で生じた高調波成分)とを区別することができない。したがって、フィルタ法では、この重複した成分や送信信号にもともと含まれている高調波成分によって画像が劣化してしまう。一方、基本波成分と高調波成分との重複を少なくするために、送信信号のパルス幅を長くすると、距離分解能が低下してしまう。
また、位相反転法では、同一方向に続けて第1および第2送信信号を送信するので、1回の送信信号の送信によって1個の超音波画像を生成する場合に較べて、1個の超音波画像の生成に約2倍の時間が必要となり、フレームレートが低下してしまう。すなわち、時間分解能が低下してしまう。また、通常、キャビテーションの発生要因となる負圧を抑えて正圧成分の多い超音波信号を被検体に送信することによって、いわゆるMI値を満足(クリア)しながら、高いエネルギーの超音波を被検体に送信している。しかしながら、位相反転法では、正位相および逆位相の双方でMI値を満足しなければならないため、通常より低いエネルギーしか被検体に送信することができない。
このような高調波抽出部として機能する信号処理部14を備える超音波探触子2は、上述したように直接受信信号に基づいて反射受信信号を処理することによって被検体で反射した超音波信号の高調波成分を抽出するので、フレームレートの低下を抑制しつつ、より高精度に高調波を抽出することができる。このため、時間分解能の低下を抑制しつつ、より高精度な画像を得ることが可能となる。
なお、このような高調波抽出部として機能する信号処理部14を備える超音波探触子2において、信号処理部14は、さらに、上述の温度依存補正部として機能するように構成されてもよい。すなわち、信号処理部14は、圧電部22における圧電効率の温度依存性を補正すべく直接受信信号に基づいて反射受信信号を処理し、この補正処理された反射受信信号を直接受信信号に基づいて処理することによって被検体で反射した超音波信号の高調波成分を抽出するように、構成されてもよい。このように構成されることによって、圧電効率の温度依存性が補正されつつ超音波信号の高調波成分が抽出されるので、より高精度な画像を得ることが可能となる。
また、上述の実施形態では、超音波探触子2および超音波診断装置Sは、圧電部22の現在の状態を直ちに反射受信信号へ反映すべく、超音波信号の送信ごとに直接受信信号を得るように構成されていたが、所定の間隔ごとに、例えば1フレームごとに直接受信信号を得るように構成されてもよい。このように構成されることによって、一の直接受信信号を得てから所定の時間間隔の経過後に次の直接受信信号を得るまで、信号処理部14がこの一の直接受信信号に基づいて反射受信信号を処理するので、超音波画像の生成時間が短縮される。あるいは、超音波探触子2および超音波診断装置Sは、例えばサーミスタ等の温度検出部をさらに備え、温度変化が予め設定された閾値以上変化した場合に、直接受信信号を得るように構成されてもよい。このように構成されることによって、温度変化によって超音波画像が劣化するタイミングで適切に直接受信信号が得られ、超音波画像の生成時間を短縮しつつ、超音波画像を所定の精度で維持することが可能となる。
また、上述の実施形態では、信号処理部14は、超音波診断装置本体1に備えられたが、超音波探触子2に内蔵されてもよい。
また、上述の実施形態において、超音波探触子2および超音波診断装置Sは、圧電部22から出力された電気信号を所定の時間だけ遅延する遅延部をさらに備えて構成されてもよい。
図6は、実施形態における超音波診断装置および超音波探触子の他の構成を示す図である。なお、図6において、超音波診断装置本体1は、図2に示す超音波診断装置本体1と同様であり、送信部12および受信部13のみが示され、他の構成の記載が省略されている。
この超音波診断装置Saは、図6に示すように、超音波探触子2aと、超音波探触子2aとケーブル3aを介して接続される超音波診断装置本体1とを備えて構成される。
超音波探触子2aは、図1ないし図3に示す超音波探触子2と同様な超音波制動部材21、圧電部22、音響整合層23および音響レンズ24を備え、さらに、遅延部25および切換スイッチ26を備えて構成されている。遅延部25は、圧電部22の第2圧電部223から出力された受信の電気信号を所定の時間だけ遅延する回路である。切換スイッチ26は、圧電部22における第1および第2圧電部221、223とケーブル3aとの接続状態を切り換える1×2スイッチである。切換スイッチ26は、送信部12から圧電部22の第1圧電部221へ送信信号が出力される場合では、圧電部22の第1圧電部221とケーブル3aとを接続する第1接続状態とされ、圧電部22の第2圧電部223から受信部13へ受信信号が出力される場合では、圧電部22の第2圧電部223とケーブル3aとを接続する第2接続状態とされる。
ケーブル3aは、送信部12から切換スイッチ26を介して圧電部22へ送信信号を伝送すると共に、圧電部22から切換スイッチ26を介して受信部13へ受信信号を伝送する信号線(伝送路)を備えて構成される。
このような構成の超音波探触子2aおよび超音波診断装置Saでは、まず、切換スイッチ26が第1接続状態とされ、直接受信信号を得るための第1送信信号と反射受信信号を得るための第2送信信号とが送信部12から出力される。これら第1および第2送信信号は、ケーブル3aを伝送し、切換スイッチ26を介して圧電部22の第1圧電部221へ入力される。
第1送信信号によって第1圧電部221は、超音波信号を放射する。この超音波信号は、中間層222を介して第2圧電部223で直ちに直接的に受信され、第2圧電部223で直接受信信号として電気信号に変換され、遅延部25へ出力される。この直接受信信号は、遅延部25で所定の時間だけ遅延される。この間に、切換スイッチ26が第2接続状態とされる。この遅延部25の遅延時間(所定の時間)は、少なくとも、圧電部22の第1圧電部221が第1および第2送信信号によって超音波信号を放射する時間である。遅延部25で遅延された直接受信信号は、遅延部25から切換スイッチ26へ出力され、ケーブル3aを介して受信部13へ出力される。
また、第2送信信号によって第1圧電部221は、超音波信号を放射する。この超音波信号は、中間層222、第2圧電部223、音響整合層23および音響レンズ24を介して放射される。超音波探触子2が被検体に例えば当接されていると、これによって超音波探触子2から被検体に対して超音波が送信される。この超音波は、被検体内部で反射され、超音波の反射波(エコー)となる。この反射波の超音波信号は、音響レンズ24および音響整合層23を介しての第2圧電部223で受信され、第2圧電部223で反射受信信号として電気信号に変換され、遅延部25へ出力される。この反射受信信号は、遅延部25で所定の時間だけ遅延される後に、切換スイッチ26およびケーブル3aを介して受信部13へ出力される。
このように構成されることによって、遅延部25が圧電部22(第2圧電部223)から出力された電気信号を所定の時間だけ遅延するので、圧電部22へ送信信号を送る信号線と圧電部22から受信信号を送る信号線とを兼用することができる。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。