従来の沸騰水型原子炉(BWR)の安全系の例について、図7から図10を参照して説明する。
図7は、従来の沸騰水型原子炉(BWR)の安全系の一例を示すシステム構成図である。
図7に示すように、原子力発電プラント70は、原子炉格納容器(PCV)5に原子炉圧力容器(RPV)11が格納される。炉心12は原子炉圧力容器11の内部に収納され、炉水である原子炉冷却材13で冠水されている。原子炉圧力容器11は、下端にインターナルポンプ14が設置され、原子炉冷却材13が炉心12に強制的に供給される強制循環型の原子炉(強制循環炉)である。原子炉圧力容器11は上部ドライウェル17と下部ドライウェル18とからなるドライウェル19内部に設置される。下部ドライウェル18を円周状(環状)に取り囲むように圧力抑制室21が設置され、この圧力抑制室21内部には圧力抑制プール22が貯えられる。ドライウェル19と圧力抑制プール22とはベント管(LOCAベント管)24により連通される。また、圧力抑制室21の圧力抑制プール22の上には、原子炉冷却材喪失事故時にベント管24から吹き出した蒸気を凝縮させた残りの不凝縮性ガスを溜める空間がある。この不凝縮性ガスを溜める空間の圧力がドライウェル19内の圧力を超えると真空破壊弁25が作動して、不凝縮性ガスはドライウェル19内へ放出される。
原子炉圧力容器11には炉心12で発生した蒸気が案内される主蒸気系27が設けられる。炉心12で発生した蒸気は気液分離され、乾燥された後、主蒸気系27の配管を通って蒸気タービン(図示省略)に導かれ、発電機(図示省略)を駆動させて仕事をする。蒸気タービンで仕事をした蒸気は復水器(図示省略)で冷却され、復水となった後、原子炉復水・給水系を通って原子炉圧力容器11内に給水され、還流される。
原子力発電プラント70の原子炉(原子炉圧力容器11)の廻りに設けられた従来の安全系30は、万一の事故時に系統の故障などを考慮しても放射性物質を環境に拡散することがないように、多重の安全性が配慮されている。
従来の安全系30は、配管破断事故等の設計想定事象(DBA)に対策する安全系システム32とシビアアクシデント対策設備31とから構成される。
安全系システム32は、例えば低圧炉心注水系(LPFL)35と自動減圧系(ADS)36と、静的格納容器冷却系(PCCS)40とから構成される。安全系システム32は多くの動的機器が設けられた動的安全系である。
低圧炉心注水系35は圧力抑制プール22のプール水を非常用発電設備(図示省略)で駆動される低圧注水ポンプ(動的注水ポンプ)37で昇圧し、原子炉圧力容器11内に注水する。また、低圧炉心注水系35は、原子炉格納容器5と原子炉圧力容器11との差圧が所定圧力以下に低下すると、冷却材を炉心12に注水する能力を有する。
自動減圧系36は、低圧炉心注水系35と連係して作動し、炉心12を冷却する機能を有する。自動減圧系36は逃し安全弁(SRV)38を備え、原子炉冷却材喪失事故時には、原子炉圧力容器11内の蒸気を圧力抑制プール22に逃し、原子炉圧力容器11内の圧力を速やかに低下させる。原子炉圧力容器11内の圧力を低下させることで、低圧炉心注水系35により圧力抑制プール22のプール水を原子炉圧力容器11内に注水することが可能となり、炉心12の冷却ができる。
原子炉に配管破断事故等の設定想定事象(DBA)が発生した場合、自動減圧系(ADS)36の逃し安全弁38を開放して原子炉圧力容器11内の蒸気を主蒸気系27から自動減圧系36の配管を通して圧力抑制プール22内に案内して原子炉圧力容器11内の圧力を減圧させ、安全系システム32の低圧炉心注水系35により原子炉圧力容器11への注水を実施する。
静的格納容器冷却系40は、冷却配管44が従来の原子炉格納容器5のドライウェル19、例えばドライウェル19頂部から引き出され、途中にPCCS熱交換器45を備えてドライウェル19内に追設されて終端し、開放される。
さらに、原子力発電プラント70の従来の安全系30は、シビアアクシデント対策設備31として従来の原子炉格納容器5の底部に設けられ、事故時には溶融した炉心12(溶融炉心)を受け止めるコアキャッチャー42を備える。シビアアクシデント対策設備31はできるだけ動的機器を備えない構成となっている。静的格納容器冷却系40は、設定想定事象(DBA)対策として動的機器により炉心12へ注水が維持されていることとは別に、従来の原子炉格納容器5からの除熱を行う。
静的格納容器冷却系40は、シビアアクシデント(SA)時にコアキャッチャー42で発生した蒸気を冷却配管44内に案内し、案内された蒸気をPCCS熱交換器45で冷却し、凝縮水として従来の原子炉格納容器5内へ戻して、従来の原子炉格納容器5内を冷却する。
従来の原子炉格納容器5では、上部ドライウェル17は主蒸気系27の主蒸気管46などを配置する空間となる。
図8は、従来の沸騰水型原子炉(BWR)の安全系の原子炉冷却材喪失事故時の炉心冷却の状態を示す図である。
図8に示すように、原子炉冷却材喪失事故時に原子炉圧力容器11内の原子炉冷却材13は、ドライウェル19に放出されベント管24を経て圧力抑制プール22にブローダウンされるが、この原子炉冷却材13は原子炉圧力容器11内の水位を確保するために、例えば低圧炉心注水系35により再び原子炉圧力容器11内に注水される。このとき冷却水の一部はベント管24を通らず下部ドライウェル18にドローダウンされる。この結果、下部ドライウェル18はベント管24の入口(またはその下の戻り開口部)のエレベーションまで水で満たされる。事故時に圧力抑制プール22から下部ドライウェル18に溜まる水量相当を圧力抑制プール22ではハッチング領域Pで、下部ドライウェル18ではハッチング領域Wで示す。
静的安全系では水の静水頭差だけで炉心12に水が重力落水する必要があるが、従来の原子炉格納容器5では、静水頭差で原子炉圧力容器11内の炉心12に注水可能なエレベーションには水のタンクがなく、この状態では原子炉圧力容器11内の炉心12に重力落水できない。
一方、従来の原子炉格納容器5からの除熱は、PCCS熱交換器45でドライウェル19の蒸気を冷却し、凝縮水として再び従来の原子炉格納容器5内へ移送して行われるが、このとき、圧力抑制プール22のプール水は低圧炉心注水系35で原子炉圧力容器11へ継続的に注水されるので、再び原子炉圧力容器11から溢れた高温水として圧力抑制プール22に戻されるので、圧力抑制プール22のプール水の温度は上昇し、ドライウェル19と圧力抑制プール22との温度は原子炉圧力容器11内の炉水温度に漸近して略同一となる。また、この結果ドライウェル19側に圧力抑制室21内に溜められた非凝縮性ガスが真空破壊弁25を介して還流することから静的格納容器冷却系40の除熱機能が低下し従来の原子炉格納容器5内の圧力が上昇してしまう。この状況では静的格納容器冷却系40は、設計基準事象(DBA)としての除熱系には適用し難く、シビアアクシデント(SA)対策設備31専用にしか適用できない。
そうすると、従来の原子炉格納容器5における設計基準事象(DBA)への対策は、原子炉圧力容器11内の炉心12への注水を低圧注水ポンプ(動的注水ポンプ)37で行いつつ、これとは別に熱交換器を有する動的安全系が必要になる。一方、シビアアクシデント(SA)への対策は、静的安全系による静的格納容器冷却系40とコアキャッチャー42とで行うこととなる。すなわち、従来の原子炉格納容器5における安全系30では、従来の安全系システム32が有する静的格納容器冷却系40では、設計基準事象(DBA)への対策に適用し難く、シビアアクシデント(SA)専用の静的安全系を単に加えたものに、さらに設計基準事象(DBA)への対策として除熱系を追加する必要が生じ、安全系を構成する物量が増えて必然的に経済性は悪くなる。
次に、レイズドサプレッションプール型原子炉格納容器で構成された従来の沸騰水型原子炉(BWR)の安全系の一例を説明する。
図9は、従来の沸騰水型原子炉(BWR)の安全系の一例を示すシステム構成図である。
この従来の原子力発電プラント70Aにおいて従来の原子力発電プラント70と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図9に示すように、原子力発電プラント70Aは、レイズドサプレッションプール型の原子炉格納容器(PCV)5Aに原子炉圧力容器(RPV)11が格納される。
圧力抑制プール22は原子炉格納容器5Aの床面より上部に位置する。また、圧力抑制室21の圧力抑制プール22の上には、事故時にベント管24から吹き出した蒸気を凝縮させた残りの不凝縮性ガスを溜める空間があり、この空間は原子炉格納容器5Aの上端まで延び、ドライウェル19のトップスラブ(天板)と同一の高さになっている。
原子炉圧力容器11には炉心12で発生した蒸気が案内される主蒸気系27が設けられる。主蒸気系27はドライウェル19内を垂下し、ドライウェル19の下部より原子炉格納容器5Aの外部に導かれる。
従来の安全系30Aは、配管破断事故等の設計想定事象(DBA)に対策する安全系システム32Aと、これにシビアアクシデント対策設備31Aを加えたものから構成される。この安全系システム32Aは低圧炉心注水系35と、自動減圧系36と、静的安全系である重力落下式非常用炉心冷却系(GDCS)48と、均圧炉心冷却系64とから構成される。
重力落下式非常用炉心冷却系48は、原子炉圧力容器11より上部に設置された重力落下型の重力落下式非常用炉心冷却系プール(GDCSプール)49と、GDCSプール49と原子炉圧力容器11とを結ぶ重力落下式非常用炉心冷却系配管50と、重力落下式非常用炉心冷却系配管50に配置されGDCSプール49から原子炉圧力容器11内への流れのみを許す逆止弁51と、重力落下式非常用炉心冷却系配管50に配置された重力落下式非常用炉心冷却系隔離弁52とから構成される。
均圧炉心冷却系64は、原子炉圧力容器11内の圧力が低下し、均圧注水弁65の開放により、原子炉圧力容器11と原子炉格納容器5Aのドライウェル19と圧力抑制プール22との圧力差が解消される。静的格納容器冷却系ドレンタンク60のプール水を原子炉圧力容器11内に動的機器を使用することなく注水できる。
図10は、従来の沸騰水型原子炉(BWR)の安全系の原子炉冷却材喪失事故時の炉心冷却の状態を示す図である。
図10に示すように、原子炉に配管破断事故等の設定想定事象(DBA)が発生した場合、自動減圧系36の逃し安全弁38を開放して原子炉圧力容器11内の蒸気を主蒸気系27から自動減圧系36の配管を通して圧力抑制プール22内に案内して原子炉圧力容器11内の圧力を減圧させ、安全系システム32の低圧炉心注水系35、重力落下式非常用炉心冷却系48および均圧炉心冷却系64により原子炉圧力容器11へ継続的に注水する。
レイズドサプレッションプール型原子炉格納容器5Aでは、圧力抑制プール22を原子炉格納容器5Aの上方に位置させることで、主蒸気系27等の配管の経路は原子炉格納容器5Aの下部を通す構造とするか、あるいは圧力抑制プール22を通す構造(図では破線で示す)とする必要がある。
しかし、圧力抑制プール22部に通常の供用温度または通常の運転圧力が所定を超える主蒸気系27や給水系(図示省略)などの高エネルギー配管を通す場合には、圧力抑制プール22内の高エネルギー配管が破断すると原子炉格納容器5Aの圧力抑制機能が喪失するので、圧力抑制プール22を通る高エネルギー配管は二重管構造にして保護することが必要となる。また、高エネルギー配管と原子炉格納容器5A外壁との接合部では、高エネルギー配管の熱膨張による変形を吸収するために配管の接合部をベローズ構造にする必要がある。
一方、高エネルギー配管を原子炉格納容器5Aの下部を通す構造にすると、ドライウェル19の空間容積が増加し炉心12の溝浸けに必要な水量が膨大に必要になり合理的な設計とならない。事故時に圧力抑制プール22とGDCSプール49とから下部ドライウェル18に溜まる水量相当を圧力抑制プール22とGDCSプール49とではハッチング領域Pで、下部ドライウェル18ではハッチング領域Wで示す。なお、炉心の溝浸けとは、ドライウェル19に満たされた水が原子炉圧力容器(RPV)11に収容された炉心12の上部まで達している状態である。
強制循環炉の設定想定事象(DBA)対策に静的安全系を適用する場合は、先ず炉心を溝浸けさせて、この溝浸けさせた炉心に均圧注水ができる原子炉格納容器(PCV)が必要になる。次に炉心を溝浸けに至らしめる手段が必要になる。しかし、静的安全系のみで炉心を溝浸け状態に至らしめるには、原子炉格納容器(PCV)の天井より上に3000m3もの膨大な容量を有する原子炉格納容器(PCV)と同程度の設計のタンクが必要になる。このような大型のタンクでは原子力発電プラントにおける配置上の影響が大きく、従来の原子炉格納容器5Aのまま設定想定事象(DBA)対策に静的安全系を適用した強制循環炉の実現は困難であった。
そこで、原子炉格納容器(PCV)に備えられた安全系には、動的安全系と静的安全系とを組み合わせたハイブリッド安全系が必要になる。また、このハイブリッド安全系には高い信頼性が必要になる。さらに、ハイブリッド安全系の構成全体の経済性は、従来の動的安全系による設計基準事象(DBA)対策と、従来の静的安全系によるシビアアクシデント(SA)対策との組合せよりも向上することが望まれる。
一方、原子炉圧力容器(RPV)長の長い自然循環炉では、圧力抑制プールのエレベーションを従来原子炉格納容器(PCV)よりも上方にしたレイズドサプレッションプール型原子炉格納容器(PCV)を採用することで炉心の溝浸けを実現しようとする試みがなされている。しかしながら前述のように、原子炉圧力容器(RPV)長の短い強制循環炉では、主蒸気系等の高エネルギー配管の経路の確保は、圧力抑制プールとのエレベーションの関係上から困難であり、高エネルギー配管の経路は圧力抑制プール部を通すか、あるいは原子炉格納容器(PCV)の下部まで迂回させる必要が生じて合理的でない設計となる。
本発明は、上述した課題を解決するために、強制循環炉を格納する原子炉格納容器(PCV)と動的安全系と静的安全系を組み合わせた経済的なハイブリッド安全系との組み合わせを提供することを目的とする。
本発明に係る沸騰水型原子炉のハイブリッド安全系は、上述した課題を解決するために、原子炉格納容器に設けられたドライウェルと圧力抑制プールとを連通するベント管の上端側の開口部を前記原子炉格納容器のダイアフラムフロアーより上方に突出させ、原子炉圧力容器に収容される炉心の上端は前記ダイアフラムフロアーより下方に配置させ、前記炉心が冠水するまで前記ドライウェル内を水で満たす手段を有し、前記ベント管の上端よりも低く、前記ダイアフラムフロアーよりも高い位置に設けられた均圧炉心冷却系により炉心に均圧注水することを特徴とする。
本発明によれば、強制循環炉を格納する原子炉格納容器(PCV)と動的安全系と静的安全系を組み合わせた経済的なハイブリッド安全系との組み合わせを提供できる。
以下、本発明に係る沸騰水型原子炉のハイブリッド安全系の実施の形態について、図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
本発明に係る沸騰水型原子炉のハイブリッド安全系の第1実施形態について、図1から図3を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る沸騰水型原子炉のハイブリッド安全系の実施形態を示すシステム構成図である。
図1に示すように、原子炉施設である原子力発電プラント70Bは、原子炉格納容器(PCV)5に原子炉圧力容器(RPV)11が格納される。炉心12は原子炉圧力容器11の内部に収納され、炉水である原子炉冷却材13で冠水されている。原子炉圧力容器11は、下端にインターナルポンプ14が設置され、原子炉冷却材13が炉心12に強制的に供給される強制循環型の原子炉である。原子炉圧力容器11は上部ドライウェル17と下部ドライウェル18とからなるドライウェル19内部に設置される。下部ドライウェル18を円周状(環状)に取り囲むように圧力抑制室21が設置され、この圧力抑制室21内部には圧力抑制プール22が貯えられる。ドライウェル19と圧力抑制プール22とはベント管(LOCAベント管)24により連通される。また、圧力抑制室21の圧力抑制プール22の上には、事故時にベント管24から吹き出した蒸気を凝縮させた残りの不凝縮性ガスを溜める空間がある。この不凝縮性ガスを溜める空間の圧力がドライウェル19内の圧力を超えると真空破壊弁25が作動して、不凝縮性ガスはドライウェル19内へ放出される。
原子炉圧力容器11には炉心12で発生した蒸気が案内される主蒸気系27が設けられる。炉心12で発生した蒸気は気液分離され、乾燥された後、主蒸気系27の配管を通って蒸気タービン(図示省略)に導かれ、発電機(図示省略)を駆動させて仕事をする。蒸気タービンで仕事をした蒸気は復水器(図示省略)で冷却され、復水となった後、原子炉復水・給水系(図示省略)を通って原子炉圧力容器11内に給水され、還流される。
主蒸気系27には、原子炉圧力容器11内の気相部と原子炉格納容器5内のドライウェル19との間に連通可能に設けられ、事故時に原子炉圧力容器11内の蒸気をドライウェル19に逃がして原子炉圧力容器11内の圧力を迅速かつ緊急に低下させる均圧弁(DPV)54が設けられる。
ベント管24の上端側の開口部は、圧力抑制室21の天井であるダイアフラムフロアー55より上方に突出して設けられる。この突出量は数十センチメートル程度とする。一方、炉心12は、その上端がダイアフラムフロアー55よりも1から2m程度下方になるよう配置される。一方、上部ドライウェル17の高さは、主蒸気系27や給水系(図示省略)等の配管の経路を確保し、かつ、主蒸気系隔離弁56等の大型弁等の構造物を原子炉格納容器5に搬出入可能な範囲で最小となるよう構成することが好ましい。
原子力発電プラント70Bの原子炉(原子炉圧力容器11)の廻りに設けられたハイブリッド安全系58は、万一の事故時に系統の故障などを考慮しても放射性物質を環境に拡散することがないように、多重の安全性が配慮されている。
ハイブリッド安全系58は、配管破断事故等の設計想定事象(DBA)に対策する安全系システム32Bとシビアアクシデント対策設備31Bとから構成される。
安全系システム32Bは低圧炉心注水系(LPFL)35と、自動減圧系(ADS)36と、静的安全系である重力落下式非常用炉心冷却系(GDCS)48と、静的格納容器冷却系(PCCS)40と、均圧炉心冷却系64とから構成される。低圧炉心注水系35と、重力落下式非常用炉心冷却系48とは、ダイアフラムフロアー55より上方で原子炉圧力容器11に接続される。すなわち、低圧炉心注水系35と、重力落下式非常用炉心冷却系48とは、炉心12の上端よりも上方の位置で原子炉圧力容器11に接続される。低圧炉心注水系35は多くの動的機器が設けられた動的安全系である。
低圧炉心注水系35はGDCSプール49のプール水および圧力抑制プール22のプール水を非常用発電設備(図示省略)で駆動される低圧注水ポンプ(動的注水ポンプ)37で昇圧し、原子炉圧力容器11内に注水する。低圧炉心注水系35は、原子炉格納容器5と原子炉圧力容器11との差圧が所定圧力以下まで低下すると、冷却材を炉心12に注水する能力を有する。
自動減圧系36は、低圧炉心注水系35と連係して作動し、炉心12を冷却する機能を有する。自動減圧系36は強制的に開操作が可能な逃し安全弁(SRV)38を備え、原子炉冷却材喪失事故時には、原子炉圧力容器11内の蒸気を圧力抑制プール22に逃し、原子炉圧力容器11内の圧力を速やかに低下させる。原子炉圧力容器11内の圧力を低下させることで、低圧炉心注水系35により圧力抑制プール22のプール水を原子炉圧力容器11内に注水することが可能となり、炉心12の冷却ができる。
重力落下式非常用炉心冷却系48は、原子炉圧力容器11より上部に設置された重力落下型の重力落下式非常用炉心冷却系プール(GDCSプール)49と、GDCSプール49と原子炉圧力容器11とを結ぶ重力落下式非常用炉心冷却系配管50と、重力落下式非常用炉心冷却系配管50に配置されGDCSプール49から原子炉圧力容器11内への流れのみを許す逆止弁51と、重力落下式非常用炉心冷却系配管50に配置された重力落下式非常用炉心冷却系隔離弁52とから構成される。GDCSプール49内の気層部と圧力抑制室21の気層部とは連通されている。GDCSプール49は、炉心12の溝浸けに必要な水量の全てを貯留するよう構成することができる。
静的格納容器冷却系40は、冷却配管44が原子炉格納容器5のドライウェル19、例えばドライウェル19頂部から引き出され、途中にPCCS熱交換器45を備えてダイアフラムフロアー55上に設けられた静的格納容器冷却系ドレンタンク60内に終端し、開放される。静的格納容器冷却系ドレンタンク60には、圧力抑制プール22からプール水を揚水する揚水ポンプ61を有する系統が追設される。揚水ポンプ61は圧力抑制プール22のプール水をダイアフラムフロアー55より上方に揚水して静的格納容器冷却系ドレンタンク60に注水する。静的格納容器冷却系40は、バルブやポンプなどの動的機器を使用しない完全に静的な安全系であり信頼性が非常に高い。
静的格納容器冷却系ドレンタンク60は、ベント管24の上端よりも低く、ダイアフラムフロアー55よりも高い位置に設けられた均圧炉心冷却系64により原子炉圧力容器11と連通される。均圧炉心冷却系64は、均圧弁54の開放による原子炉圧力容器11内の圧力の低下により、原子炉圧力容器11と原子炉格納容器5のドライウェル19との圧力差が解消され、所定の圧力差以下になると均圧注水弁65の開放により、静的格納容器冷却系ドレンタンク60のプール水を原子炉圧力容器11内に動的機器を使用することなく注水できる。また、静的格納容器冷却系ドレンタンク60は、ベント管24の上端よりも低い位置に設けられた逆止弁62を有する均圧戻り配管66でドライウェル19と連通される。揚水ポンプ61によって静的格納容器冷却系ドレンタンク60に注水された圧力抑制プール22のプール水は、均圧炉心冷却系64から原子炉圧力容器11に注水される。
さらに、原子力発電プラント70Bのハイブリッド安全系58は、シビアアクシデント対策設備31Bとして原子炉格納容器5の底部に設けられ、事故時には溶融した炉心12(溶融炉心)を受け止めるコアキャッチャー42と、原子炉格納容器5の蓋等を含む上部を冷却する原子炉ウェルプール67とを備える。シビアアクシデント対策設備31Bはできるだけ動的機器を備えない構成となっている。また、シビアアクシデント対策設備31Bは、GDCSプール49または圧力抑制プール22のプール水を下部ドライウェル18へ落下させる配管(図示省略)を有する。さらに、シビアアクシデント対策設備31Bは、安全系システム32Bが備える静的格納容器冷却系40を共用する。
次に、例えば設計想定事象(DBA)である原子炉冷却材喪失事故が発生した場合の原子力発電プラント70Bのハイブリッド安全系58における安全機能について説明する。原子炉冷却材喪失事故では、原子炉の運転中に、原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する配管あるいはこれに付随する機器等の破損等により、原子炉冷却材が系外に流出し炉心12の冷却機能が低下する事象を想定する。なお、原子炉冷却材圧力バウンダリとは、原子炉の通常運転時に、原子炉冷却材を内包して原子炉と同じ圧力条件となり、異常状態において圧力障壁を形成するものであって、これが破壊すると原子炉冷却材喪失となる範囲の施設である。
図2は、本発明の第1実施形態に係る沸騰水型原子炉のハイブリッド安全系の実施形態の設計想定事象時の炉心冷却の状態を示す図である。
図2に示すように、原子力発電プラント70Bの運転中に、設計想定事象(DBA)である原子炉冷却材喪失事故が生じて、原子炉冷却材圧力バウンダリの破断口から原子炉冷却材13が流出すると、原子炉圧力容器11内の圧力が低下するとともに原子炉格納容器5のドライウェル19内に蒸気が放出される。この放出された蒸気は、ドライウェル19内の雰囲気ガスとともにドライウェル19と圧力抑制プール22とを連通させるベント管24を介して圧力抑制プール22に案内され、冷却されて凝縮水となる。
原子炉圧力容器11内の原子炉冷却材13の水位は、破断口からの蒸気の流出により低下する。原子炉圧力容器11内の原子炉冷却材13の水位が所定の水位よりも低くなると、計装設備(図示省略)により炉水位低信号が検知され、この検知信号に基づきハイブリッド安全系58を構成する自動減圧系36が作動する。自動減圧系36は、主蒸気系27を介して逃し安全弁38から圧力抑制プール22に原子炉圧力容器11内の蒸気を案内する。そうすると、原子炉圧力容器11内の圧力は急速に減圧する。この後、均圧弁54が開いて原子炉圧力容器11内と原子炉格納容器5のドライウェル19との間の圧力が均圧し、その後蒸気は優先的に均圧弁54の方へ流れるので逃し安全弁38から圧力抑制プール22への蒸気の放出は停止する。
低圧炉心注水系35は、原子炉圧力容器11内の圧力が低下して、例えば原子炉圧力容器11内の圧力が略1.5MPaに減圧すると注水が開始される。低圧炉心注水系35は、原子炉冷却材喪失事故発生の初期はGDCSプール49を、最終的には圧力抑制プール22を水源として原子炉圧力容器11内に注水して炉心12を再冠水した後も運転を継続し、最終的には破断口から溢れた水が原子炉圧力容器11廻りを冠水(溝浸け)するまで作動される。
一方、低圧炉心注水系35が有する低圧注水ポンプ37が電源喪失等の原因で起動できない場合であっても、均圧弁54により原子炉圧力容器11内と原子炉格納容器5のドライウェル19との間の圧力が均圧されれば、重力落下式非常用炉心冷却系48が有するGDCSプール49のプール水を原子炉圧力容器11との重力差だけで注水して炉心12を再冠水できる。このときGDCSプール49に必要な水量は高々300m3程度である。この水量は、静的力のみで原子炉圧力容器11廻りを冠水させて、均圧炉心冷却系64によって原子炉圧力容器11内の炉心12を冠水継続する場合に必要な水量3000m3に対して1/10程度に合理化されている。
すなわち、低圧炉心注水系35と、重力落下式非常用炉心冷却系48とは、それぞれ炉心12が冠水するまでドライウェル19内を水で満たすことができる。
その後、揚水ポンプ61を有する系統により圧力抑制プール22のプール水は静的格納容器冷却系ドレンタンク60へ揚水される。このとき、原子炉圧力容器11内の圧力は低下して、ドライウェル19との間の圧力がほぼ均圧しているので、揚水ポンプ61は低流量、かつ低揚程のポンプを用いることができる。
炉心12が再冠水すると、静的格納容器冷却系ドレンタンク60に揚水されて貯留された水は、静的格納容器冷却系ドレンタンク60と原子炉圧力容器11内との間の静水頭差により均圧炉心冷却系64を介して注水される。
一方、原子炉圧力容器11に注水された原子炉冷却材13により炉心12が再冠水されると、炉心12が冠水された後の余分な原子炉冷却材13は、破断口または均圧弁54を介してドライウェル19に放出される。ドライウェル19は、ダイアフラムフロアー55上に突出されたベント管24の上部開口まで水で満たされる。余分な原子炉冷却材13はベント管24から圧力抑制プール22に案内される。炉心12が溝浸けされた後は、動的機器である低圧注水ポンプ37と揚水ポンプ61とは停止される。炉心12が溝浸けされると、炉心12はドライウェル19に満たされた水により均圧注水されて循環冷却される。
破断口あるいは均圧弁54が開いて崩壊熱により原子炉圧力容器11内に発生した蒸気がドライウェル19に放出され続けると、この蒸気は静的格納容器冷却系40が有するPCCS熱交換器45により冷却され凝縮水となり静的格納容器冷却系ドレンタンク60へ案内される。この凝縮水は、均圧炉心冷却系64を介して原子炉圧力容器11内に注水される。原子炉圧力容器11から破断口または均圧弁54を介してドライウェル19に放出される蒸気の一部は、原子炉格納容器5の外壁からの放熱によりドライウェル19内壁面で蒸気が冷却されて凝縮水となりダイアフラムフロアー55上に落水するが、均圧戻り配管66から静的格納容器冷却系ドレンタンク60へ重力差で戻され、静的格納容器冷却系40から案内される凝縮水とともに原子炉圧力容器11へ注水されるので、一旦原子炉冷却材13で溝浸けされた原子炉圧力容器11内の水位は維持される。したがって、原子炉格納容器5の系外から新たな水の補給が無くとも炉心12は継続的に冷却される。このようにして原子炉格納容器5内の水が循環される。事故時に圧力抑制プール22とGDCSプール49とからドライウェル19(下部ドライウェル18、上部ドライウェル17)に溜まる水量相当を圧力抑制プール22とGDCSプール49とではハッチング領域Pで、ドライウェル19ではハッチング領域Wで示す。
PCCS熱交換器45から圧力抑制プール22へ設けられるガスベント管(図示省略)を介して間欠的に放出される蒸気および原子炉圧力容器11の破断口から放出されてドライウェル19からベント管24を介して圧力抑制プール22側に案内される蒸気は、量的には少ないので、予め炉心12を溝浸けする水量として数日、例えば3日程度分をドライウェル19の溝浸け水として圧力抑制プール22のプール水やGDCSプール49のプール水の中に確保しておくことで、数日間は揚水ポンプ61の再起動または系外からの水の補給を必要とせず、静的格納容器冷却系ドレンタンク60から原子炉圧力容器11への注水と炉心12の冷却とを維持できる。
次に、例えばシビアアクシデント(SA)である炉心溶融が発生した場合の原子力発電プラント70のハイブリッド安全系58における安全機能について説明する。
図3は、本発明の第1実施形態に係る沸騰水型原子炉のハイブリッド安全系の実施形態のシビアアクシデント時の炉心冷却の状態を示す図である。
図3に示すように、原子力発電プラント70Bの運転中に、シビアアクシデント(SA)である炉心12の溶融が生じて、溶融した炉心12が原子炉圧力容器11内から原子炉格納容器5の床に落下すると、溶融した炉心12は原子炉格納容器5底部に備えられたコアキャッチャー42により受け止められる。このとき、原子炉圧力容器11内に残存する原子炉冷却材13は溶融した炉心12と共に下部ドライウェル18へ落水して、溶融した炉心12とこれを受け止めたコアキャッチャー42とを冷却する。
また、溶融した炉心12とこれを受け止めたコアキャッチャー42とを冷却する水はGDCSプール49または圧力抑制プール22のプール水を配管(図示省略)を介して必要な水量分を重力落下させることもできる。
ドライウェル19には、原子炉圧力容器11内と溶融した炉心12の冷却により発生する蒸気とが放出される。この放出されたほとんどの蒸気は、静的格納容器冷却系40が有するPCCS熱交換器45により冷却され凝縮水となり静的格納容器冷却系ドレンタンク60へ案内される。この凝縮水により静的格納容器冷却系ドレンタンク60が満水になると、静的格納容器冷却系ドレンタンク60から凝縮水が溢れてドライウェル19に落水し、ダイアフラムフロアー55を介して下部ドライウェル18に落下する。このとき炉心12の一部が落下せずに原子炉圧力容器11内に留まって発熱する事象については、ドライウェル19の冷却は静的格納容器冷却系40により行い、原子炉格納容器5の蓋フランジ部等のように高温になりやすい部分は、原子炉格納容器5蓋上の原子炉ウェルプール67のプール水により冷却されて保護される。ドライウェル19内の蒸気の一部は、原子炉格納容器5蓋内面で冷却されて凝縮水となり原子炉格納容器5蓋部を冷却するとともに、この蓋部から水滴となって落下し原子炉圧力容器11を外面から冷却するとともに下部ドライウェル18へ落下することで循環される。
例えば設計想定事象(DBA)に対策する安全系システム32Bは、低圧炉心注水系35を2系統、揚水ポンプ61を有する系統を2系統とし、各々の系統が原子炉圧力容器11に注水する能力を100%容量として全体で400%容量となる。いずれか1系統の安全機能が確保されれば炉心12を溝浸けすることができる。また、炉心12を溝浸けするための水源はGDCSプール49が300m3程度と、圧力抑制プール22のプール水が用いられる。原子炉格納容器5内の除熱は静的格納容器冷却系40で行い、静的格納容器冷却系40は設計想定事象(DBA)に対策する安全系システム32Bのみならず、シビアアクシデント対策設備31Bにも共用できる。これにシビアアクシデント対策設備31Bの専用設備としてコアキャッチャー42と原子炉ウェルプール67とが加わる。
すなわち、本実施形態の原子炉格納容器5とハイブリッド安全系58の組み合わせであれば従来の安全系30と比較する対象は、短期のみ作動する低圧注水ポンプ37が2台と、揚水ポンプ61が2台と、300m3程度のGDCSプール49となり、従来の安全系30が、例えば長期作動する必要がある高圧注水系に設けられたポンプ2台と低圧注水系のポンプ3台とからなることを考えれば、従来の安全系30に対してハイブリッド安全系58はシステム全体として大幅に合理化されている。
本実施形態の原子力発電プラント70のハイブリッド安全系58によれば、事故後短期は動的機器あるいは動的機器と静的機器との組合せにより、原子炉圧力容器11内の水位の確保と、炉心12の溝浸け状態への移行を行うことができる。その後、長期的には系外からの水の補給や動的機器の駆動に頼らずに、静的機器と系内の保有水のみで炉心12と原子炉格納容器5の安定的な冷却状態を維持できる。短期的な動的機器の信頼性は、動的機器を有する系の注水パスの多重性と多様性を確保することで充分に確保できる。また、このとき用いられる動的機器の駆動時間は炉心12を溝浸け状態へ移行するまでの短期間でよい。
そうすると、例えば動的機器が非常用ガスタービン発電機により駆動されるポンプであれば、非常用ガスタービン発電機の駆動に必要な燃料は数時間分をデイタンクとして非常用ガスタービン発電機の設置エリア内に併設することができる。また、例えば動的機器がバッテリー駆動ポンプであれば、駆動用のバッテリーをバッテリー駆動ポンプの制御エリアに設置することができる。
さらに、揚水ポンプ61の必要容量は、原子炉圧力容器11とドライウェル19との間の圧力が均圧して、原子炉圧力容器11の破断口から原子炉冷却材13が静水頭差で流出する状態で、静的格納容器冷却系ドレンタンク60から均圧炉心冷却系64により原子炉圧力容器11内へ注水する必要流量から決められる。そして、揚水ポンプ61を有する系統は、圧力抑制プール22のプール水を原子炉圧力容器11へ注水する経路として、一旦、静的格納容器冷却系ドレンタンク60を介しているので、揚水ポンプ61の必要容量は10KW程度と非常に小さくてよい。したがって、現状のDCバッテリー技術でも揚水ポンプ61を充分運転可能である。
シビアアクシデント(SA)については、設計基準事象(DBA)についての対策とは別に、コアキャッチャー42と原子炉ウェルプール67とが備えられ、安全系システム32Bが備える高信頼性の静的格納容器冷却系40を共用することで対策できる。
本実施形態の原子力発電プラント70のハイブリッド安全系58によれば、強制循環型の原子炉において、事故時に炉心12を溝浸けにして静的安全系により長期的に炉心12を安定冷却状態にできるハイブリッド安全系58を経済的・合理的な設計で実現できる。
また、本実施形態のハイブリッド安全系58では、海水系などの系外からの補助は不要であり、かつ大型のタンクが不要なことから安全系の全てを原子炉建屋内に収まる構成が実現可能であり、従来の動的安全系を持つ原子力発電プラントに比べて地震などの外部事象に対して強い原子力発電プラントにできる。
さらに、安全系の定期点検時の安全性に関しても、原子炉圧力容器の開放中に設計想定事象(DBA)である原子炉冷却材喪失事故が起きても、この溝浸け型原子炉格納容器(PCV)と揚水ポンプの組合せは炉心12を安定的な冷却状態へ移行させるのに有効である。
さらにまた、低圧炉心注水系35および揚水ポンプ61を有する系統の多重性を強化することで、安全系のオンラインメンテナンスが容易に実施できる。
原子力発電プラント70Bに備えられたハイブリッド安全系58は、強制循環炉を格納する原子炉格納容器(PCV)と設計基準事象(DBA)対策用に動的安全系と静的安全系を組み合わせた経済的なハイブリッド安全系との組み合わせを提供でき、かつシビアアクシデント(SA)対策用にも使用できる。
[第2の実施形態]
本発明に係る沸騰水型原子炉のハイブリッド安全系の第2実施形態について、図4から図6を参照して説明する。
なお、本実施形態において第1実施形態と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図4は、本発明の第2実施形態に係る沸騰水型原子炉のハイブリッド安全系の実施形態を示すシステム構成図である。
図4に示すように、原子力発電プラント70Bの原子炉(原子炉圧力容器11)の廻りに設けられたハイブリッド安全系58Aは、万一の事故時に系統の故障などを考慮しても放射性物質を環境に拡散することがないように、多重の安全性が配慮されている。
ハイブリッド安全系58Aは、配管破断事故等の設計想定事象(DBA)に対策する安全系システム32Cとシビアアクシデント対策設備31Cとから構成される。
安全系システム32Cは、自動減圧系(ADS)36と、静的安全系である蓄圧注水式非常用炉心冷却系72と、静的格納容器冷却系(PCCS)40Aと、均圧炉心冷却系64とから構成される。蓄圧注水式非常用炉心冷却系72は、ダイアフラムフロアー55より上方で原子炉圧力容器11に接続される。すなわち、蓄圧注水式非常用炉心冷却系72は、炉心12の上端よりも上方の位置で原子炉圧力容器11に接続される。
自動減圧系36は、蓄圧注水式非常用炉心冷却系72と連係して作動し、炉心12を冷却する機能を有する。自動減圧系36は強制的に開操作が可能な逃し安全弁(SRV)38を備え、原子炉冷却材喪失事故時には、原子炉圧力容器11の蒸気を圧力抑制プール22に逃し、原子炉圧力容器11内の圧力を速やかに低下させる。原子炉圧力容器11内の圧力を低下させることで、蓄圧注水式非常用炉心冷却系72により蓄圧注水タンク73のプール水を原子炉圧力容器11内に注水することが可能となり、炉心12の冷却ができる。
蓄圧注水式非常用炉心冷却系72は、窒素などの所要の気体によって加圧されたプール水を蓄えた蓄圧注水タンク73と、蓄圧注水タンク73と原子炉圧力容器11とを結ぶ蓄圧注水式非常用炉心冷却系配管74と、蓄圧注水式非常用炉心冷却系配管74に配置され、蓄圧注水タンク73から原子炉圧力容器11内への流れのみを許す逆止弁75と、蓄圧注水式非常用炉心冷却系配管74に配置された蓄圧注水系隔離弁76とから構成される。蓄圧注水タンク73は、炉心12の溝浸けに必要な水量の全てを貯留するよう構成することができる。蓄圧注水式非常用炉心冷却系配管74には、圧力抑制プール22からプール水を揚水する揚水ポンプ61を有する系統が追設される。揚水ポンプ61は圧力抑制プール22のプール水をダイアフラムフロアー55より上方に揚水して原子炉圧力容器11に注水する。
静的格納容器冷却系40Aは、冷却配管44が原子炉格納容器5のドライウェル19、例えばドライウェル19頂部から引き出され、途中にPCCS熱交換器45を備えて上部ドライウェル17内に終端し、開放される。静的格納容器冷却系40Aは、バルブやポンプなどの動的機器を使用しない完全に静的な安全系であり信頼性が非常に高い。
上部ドライウェル17は、ベント管24の上端よりも低く、ダイアフラムフロアー55よりも高い位置に設けられた均圧炉心冷却系64により原子炉圧力容器11と連通される。均圧炉心冷却系64は、均圧弁54の開放による原子炉圧力容器11内の圧力の低下により、原子炉圧力容器11と原子炉格納容器5のドライウェル19との圧力差が解消され、所定の圧力差以下になると均圧注水弁65の開放により、ダイアフラムフロアー55上のプール水を原子炉圧力容器11内に動的機器を使用することなく注水できる。
さらに、原子力発電プラント70Bのハイブリッド安全系58Aは、シビアアクシデント対策設備31Cとして原子炉格納容器5の底部に設けられ、事故時には溶融した炉心12(溶融炉心)を受け止めるコアキャッチャー42と、原子炉格納容器5の蓋等を含む上部を冷却する原子炉ウェルプール67とを備える。シビアアクシデント対策設備31Cはできるだけ動的機器を備えない構成となっている。また、シビアアクシデント対策設備31Cは、蓄圧注水タンク73または圧力抑制プール22のプール水を下部ドライウェル18へ注水させる配管(図示省略)を有する。さらに、シビアアクシデント対策設備31Cは、安全系システム32Cが備える静的格納容器冷却系40Aを共用する。
次に、例えば設計想定事象(DBA)である原子炉冷却材喪失事故が発生した場合の原子力発電プラント70Bのハイブリッド安全系58Aにおける安全機能について説明する。
図5は、本発明の第2実施形態に係る沸騰水型原子炉のハイブリッド安全系の実施形態の設計想定事象時の炉心冷却の状態を示す図である。
図5に示すように、原子力発電プラント70Bの運転中に、設計想定事象(DBA)である原子炉冷却材喪失事故が生じて、原子炉冷却材圧力バウンダリの破断口から原子炉冷却材13が流出すると、原子炉圧力容器11内の圧力が低下するとともに原子炉格納容器5のドライウェル19内に蒸気が放出される。この放出された蒸気は、ドライウェル19内の雰囲気ガスとともにドライウェル19と圧力抑制プール22とを連通させるベント管24を介して圧力抑制プール22に案内され、冷却されて凝縮水となる。
原子炉圧力容器11内の原子炉冷却材13の水位は、破断口からの蒸気の流出により低下する。原子炉圧力容器11内の原子炉冷却材13の水位が所定の水位よりも低くなると、計装設備(図示省略)により炉水位低信号が検知され、この検知信号に基づきハイブリッド安全系58Aを構成する自動減圧系36が作動する。自動減圧系36は、主蒸気系27を介して逃し安全弁38から圧力抑制プール22に原子炉圧力容器11内の蒸気を案内する。そうすると、原子炉圧力容器11内の圧力は急速に減圧する。この後、均圧弁54が開いて原子炉圧力容器11内と原子炉格納容器5のドライウェル19との間の圧力が均圧し、その後蒸気は優先的に均圧弁54の方へ流れるので逃し安全弁38から圧力抑制プール22への蒸気の放出は停止する。
蓄圧注水式非常用炉心冷却系72は、原子炉圧力容器11内の圧力が低下して、例えば原子炉圧力容器11内の圧力が略3.0MPaに減圧すると注水が開始される。蓄圧注水式非常用炉心冷却系72は、蓄圧注水タンク73を水源として原子炉圧力容器11内に注水して炉心12を再冠水させ、最終的には破断口から溢れた水が原子炉圧力容器11廻りを冠水(溝浸け)させるまで作動される。このとき蓄圧注水タンク73に必要な水量は高々300m3程度である。この水量は、静的力のみで原子炉圧力容器11廻りを冠水させて、均圧炉心冷却系64によって原子炉圧力容器11内の炉心12を冠水継続させる場合に必要な水量3000m3に対して1/10程度に合理化されている。
その後、揚水ポンプ61を有する系統により圧力抑制プール22のプール水は原子炉圧力容器11へ揚水される。このとき、原子炉圧力容器11内の圧力は低下して、ドライウェル19との間の圧力がほぼ均圧しているので、揚水ポンプ61は低流量、かつ低揚程のポンプを用いることができる。
すなわち、蓄圧注水式非常用炉心冷却系72と、揚水ポンプ61を有する系統とは、炉心12が冠水するまでドライウェル19内を水で満たすことができる。
原子炉圧力容器11に注水された原子炉冷却材13により炉心12が再冠水されると、炉心が冠水された後の余分な原子炉冷却材13は、破断口または均圧弁54を介してドライウェル19に放出される。ドライウェル19は、ダイアフラムフロアー55上に突出されたベント管24の上部開口まで水で満たされる。ダイアフラムフロアー55上に満たされた水は、その静水頭圧と原子炉圧力容器11内の静水頭圧との静水頭差により均圧炉心冷却系64を介して注水される。余分な原子炉冷却材13はベント管24から圧力抑制プール22に案内される。炉心12が溝浸けされた後は、動的機器である揚水ポンプ61は停止される。したがって、炉心12が溝浸けされると、炉心12はドライウェル19に満たされた水により均圧注水されて循環冷却される。
破断口あるいは均圧弁54が開いて崩壊熱により原子炉圧力容器11内に発生した蒸気がドライウェル19に放出され続けると、この蒸気は静的格納容器冷却系40Aが有するPCCS熱交換器45により冷却され凝縮水となりドライウェル19へ案内される。この凝縮水は、均圧炉心冷却系64を介して原子炉圧力容器11内に注水される。また、原子炉圧力容器11から破断口または均圧弁54を介してドライウェル19に放出される蒸気の一部は、原子炉格納容器5の外壁からの放熱によりドライウェル19内壁面で蒸気が冷却されて凝縮水となりダイアフラムフロアー55上に落水するが、静的格納容器冷却系40Aから案内される凝縮水とともに均圧炉心冷却系64を介して原子炉圧力容器11へ注水される。したがって、一旦、原子炉冷却材13で溝浸けされた原子炉圧力容器11内の水位は維持されるので、原子炉格納容器5の系外から新たな水の補給が無くとも炉心12は継続的に冷却される。このようにして原子炉格納容器5内の水が循環される。事故時に圧力抑制プール22と蓄圧注水タンク73とからドライウェル19(下部ドライウェル18、上部ドライウェル17)に溜まる水量相当を圧力抑制プール22と蓄圧注水タンク73とではハッチング領域Pで、ドライウェル19ではハッチング領域Wで示す。
PCCS熱交換器45から圧力抑制プール22へ設けられるガスベント管(図示省略)を介して間欠的に放出される蒸気および原子炉圧力容器11の破断口から放出されてドライウェル19からベント管24を介して圧力抑制プール22側に案内される蒸気は、量的には少ないので、予め炉心12を溝浸けする水量として数日、例えば3日程度分をドライウェル19の溝浸け水として圧力抑制プール22のプール水や蓄圧注水タンク73のプール水の中に確保しておくことで、数日間は揚水ポンプ61の再起動または系外からの水の補給を必要とせず、ダイアフラムフロアー55上に満たされた水を原子炉圧力容器11に注水して炉心12の冷却を維持できる。
次に、例えばシビアアクシデント(SA)である炉心溶融が発生した場合の原子力発電プラント70のハイブリッド安全系58Aにおける安全機能について説明する。
図6は、本発明の第2実施形態に係る沸騰水型原子炉のハイブリッド安全系の実施形態のシビアアクシデント時の炉心冷却の状態を示す図である。
図6に示すように、原子力発電プラント70Bの運転中に、シビアアクシデント(SA)である炉心12の溶融が生じて、溶融した炉心12が原子炉圧力容器11内から原子炉格納容器5の床に落下すると、溶融した炉心12は原子炉格納容器5底部に備えられたコアキャッチャー42により受け止められる。このとき、原子炉圧力容器11内に残存する原子炉冷却材13は溶融した炉心12と共に下部ドライウェル18へ落水して、溶融した炉心12とこれを受け止めたコアキャッチャー42とを冷却する。
また、溶融した炉心12とこれを受け止めたコアキャッチャー42とを冷却する水は蓄圧注水タンク73または圧力抑制プール22のプール水を配管(図示省略)を介して必要な水量分を注水させることもできる。
ドライウェル19には、原子炉圧力容器11内と溶融した炉心12の冷却により発生する蒸気とが放出される。この放出されたほとんどの蒸気は、静的格納容器冷却系40Aが有するPCCS熱交換器45により冷却され凝縮水となりドライウェル19へ案内される。この凝縮水はダイアフラムフロアー55を介して下部ドライウェル18に落下する。このとき炉心12の一部が落下せずに原子炉圧力容器11内に留まって発熱する事象については、ドライウェル19の冷却は静的格納容器冷却系40Aにより行い、原子炉格納容器5の蓋フランジ部等のように高温になりやすい部分は、原子炉格納容器5蓋上の原子炉ウェルプール67のプール水により冷却されて保護される。ドライウェル19内の蒸気の一部は、原子炉格納容器5蓋内面で冷却されて凝縮水となり原子炉格納容器5蓋部を冷却するとともに、この蓋部から水滴となって落下し原子炉圧力容器11を外面から冷却するとともに下部ドライウェル18へ落下することで循環される。
例えば設計想定事象(DBA)に対策する安全系システム32Cは、蓄圧注水式非常用炉心冷却系72を2系統、揚水ポンプ61を有する系統を2系統とし、各々の系統が原子炉圧力容器11に注水する能力を100%容量として全体で400%容量となる。いずれか1系統の安全機能が確保されれば炉心12を溝浸けすることができる。すなわち、安全系システム32Cは、第1実施形態に係る安全系システム32Bが備えた低圧炉心注水系35に代えて蓄圧注水式非常用炉心冷却系72を備える。
また、炉心12を溝浸けするための水源は蓄圧注水タンク73が300m3程度と、圧力抑制プール22のプール水が用いられる。原子炉格納容器5内の除熱は静的格納容器冷却系40Aで行い、静的格納容器冷却系40Aは設計想定事象(DBA)に対策する安全系システム32Cのみならず、シビアアクシデント対策設備31Cにも共用できる。これにシビアアクシデント対策設備31Cの専用設備としてコアキャッチャー42と原子炉ウェルプール67とが加わる。
すなわち、本実施形態の原子炉格納容器5とハイブリッド安全系58Aの組み合わせであれば従来の安全系30と比較する対象は、短期のみ作動する揚水ポンプ61が2台と、300m3程度の蓄圧注水タンク73となり、従来の安全系30が、例えば長期作動する必要がある高圧注水系に設けられたポンプ2台と低圧注水系のポンプ3台とからなることを考えれば、従来の安全系30に対してハイブリッド安全系58Aはシステム全体として大幅に合理化されている。
本実施形態の原子力発電プラント70のハイブリッド安全系58Aによれば、事故後短期は動的機器あるいは動的機器と静的機器との組合せにより、原子炉圧力容器11内の水位の確保と、炉心12の溝浸け状態への移行を行うことができる。その後、長期的には系外からの水の補給や動的機器の駆動に頼らずに、静的機器と系内の保有水のみで炉心12と原子炉格納容器5の安定的な冷却状態を維持できる。短期的な動的機器の信頼性は、動的機器を有する系の注水パスの多重性と多様性を確保することで充分に確保できる。また、このとき用いられる動的機器の駆動時間は炉心12を溝浸け状態へ移行するまでの短期間でよい。
そうすると、例えば動的機器が非常用ガスタービン発電機により駆動されるポンプであれば、非常用ガスタービン発電機の駆動に必要な燃料は数時間分をデイタンクとして非常用ガスタービン発電機の設置エリア内に併設することができる。また、例えば動的機器がバッテリー駆動ポンプであれば、駆動用のバッテリーをバッテリー駆動ポンプの制御エリアに設置することができる。
揚水ポンプ61の必要容量は、原子炉圧力容器11とドライウェル19との間の圧力が均圧し、原子炉圧力容器11の破断口から原子炉冷却材13が静水頭差で流出する状態で、圧力抑制プール22から原子炉圧力容器11内へ注水する必要流量から決められる。この必要容量は10KW程度と非常に小さくてよいので、現状のDCバッテリー技術でも揚水ポンプ61を充分運転可能である。
シビアアクシデント(SA)については、設計基準事象(DBA)についての対策とは別に、コアキャッチャー42と原子炉ウェルプール67とが備えられ、安全系システム32Cが備える高信頼性の静的格納容器冷却系40Aを共用することで対策できる。
本実施形態の原子力発電プラント70のハイブリッド安全系58Aによれば、強制循環型の原子炉において、事故時に炉心12を溝浸けにして静的安全系により長期的に炉心12を安定冷却状態にできるハイブリッド安全系58Aを経済的・合理的な設計で実現できる。
また、本実施形態のハイブリッド安全系58Aでは、海水系などの系外からの補助は不要であり、かつ大型のタンクが不要なことから安全系の全てを原子炉建屋内に収まる構成が実現可能であり、従来の動的安全系を持つ原子力発電プラントに比べて地震などの外部事象に対して強い原子力発電プラントにできる。
さらに、安全系の定期点検時の安全性に関しても、原子炉圧力容器の開放中に設計想定事象(DBA)である原子炉冷却材喪失事故が起きても、この溝浸け型原子炉格納容器(PCV)と揚水ポンプの組合せは炉心12を安定的な冷却状態へ移行させるのに有効である。
さらにまた、揚水ポンプ61を有する系統の多重性を強化することで、安全系のオンラインメンテナンスが容易に実施できる。
原子力発電プラント70Bが備えたハイブリッド安全系58Aでは、強制循環炉を格納する原子炉格納容器(PCV)と設計基準事象(DBA)対策用に動的安全系と静的安全系を組み合わせた経済的なハイブリッド安全系との組み合わせを提供でき、かつシビアアクシデント(SA)対策用にも使用できる。
原子力発電プラント70Bは、ハイブリッド安全系58の安全系システム32Bと、ハイブリッド安全系58Aの安全系システム32Cとを多重化して、例えば、安全系システム32Bを1系統、安全系システム32Cを1系統とすることができる。さらに具体的には、安全系システム32Bは低圧炉心注水系35を1系統、揚水ポンプ61を有する系統を1系統、安全系システム32Cは蓄圧注水式非常用炉心冷却系72を1系統、揚水ポンプ61を有する系統を1系統のように多重化することができる。各々の系統が原子炉圧力容器11に注水する能力を100%容量として全体で400%容量となる。自動減圧系(ADS)36と、均圧炉心冷却系64と、静的格納容器冷却系40または静的格納容器冷却系40Aのいずれかとを備え、静的格納容器冷却系ドレンタンク60を備えることもできる。