本発明は単離された哺乳動物幹細胞に関する。より具体的には、本発明は、骨髄由来の系統陰性造血幹細胞(Lin−HSC)集団及び、単離されたLin−HSC集団を用いて哺乳動物の眼を処置することにより眼変性疾患に罹患している哺乳動物の網膜において錐体細胞を維持する方法に関する。
加齢性黄斑変性症(ARMD)及び糖尿病性網膜症(DR)は、先進国における視力障害の主要な原因であり、これは、異常な網膜の血管新生の結果として起こる。網膜は明確な、ニューロン、グリア及び血管要素の層から構成されるので、血管増殖又は浮腫において見られるものなどの比較的小さな障害により、顕著な視覚機能障害が起こり得る。網膜色素変性(RP)などの遺伝性網膜変性もまた、細動脈狭窄及び血管萎縮などの血管の異常に関連する。殆どの遺伝性ヒト網膜変性は特に桿状光受容器に影響を及ぼすが、ヒトにおける中央の細かい視力に寄与する網膜の領域である黄斑の主要な細胞性成分である錐体細胞も同時に失われる。錐体細胞特異的な生存因子が最近記載されたが(Mohand−Saidら、1998、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95:8357−8362)、この因子により網膜変性マウスモデルで錐体細胞の生存が促進され得る。
3500人に1人が網膜の遺伝性変性に罹患しており、この疾患は進行性の夜盲、視野欠損、視神経萎縮、細動脈弱化、血管透過性の変化及び全盲に進行することが多い中央視野欠損を特徴とする(Heckenlively,J.R.、編者、1988;Retinitis Pigmentosa,Philadelphia:JB Lippincott CO.)。これらの疾患の分子遺伝学的分析により、110を超える様々な遺伝子における突然変異が同定されたが、これにより説明されるのは既知の罹患個体の比較的少数でしかない(Humphriesら、1992、Science 256:804-808;Farrarら、2002、EMBO J.21:857−864)。これらの突然変異の多くは、ロドプシン、cGMPホスホジエステラーゼ、rdsペリフェリン及びRPE65を含む光情報伝達機構の酵素的及び構造的成分に関与する。これらの観察にもかかわらず、これらの網膜変性疾患の進行を遅延させる、又は回復させるための効果的な治療は依然として得られていない。遺伝子治療における最近の進歩により、特異的な突然変異のある動物において光受容体又は網膜色素性上皮(RPE)へと野生型トランス遺伝子を送達した場合、マウスにおけるrds(Aliら、2000、Nat.Genet.25:306−310)及びrd(Takahashiら、1999、J.Virol.73:7812−7816)表現型及びイヌにおけるRPE65表現型(Aclandら、2001、Nat.Genet.28:92−95)の良好な回復が導かれた。
長年にわたり、正常な成体循環及び骨髄において幹細胞の集団が存在することが知られている。これらの細胞の様々なサブ集団は造血系統陽性(Lin+)又は系統陰性(Lin−)に沿って分化し得る。さらに、系統陰性造血幹細胞(HSC)集団が、インビトロ及びインビボで血管を形成することができる内皮前駆細胞(EPC)を含有することが最近示された(Asaharaら、1997、Science 275:964−7参照。)。これらの細胞は、正常及び病的な出生後の血管形成に関与し得(Lydenら、2001 Nat.Med.7、1194−201;Kalkaら、2000、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97:3422−7;及びKocherら、2001、Nat.Med.7:430−6参照。)、また、肝細胞(Lagasseら、2000、Nat.Med.6:1229−34参照。)、小膠細胞(Prillerら、2002 Nat.Med.7:1356−61参照。)、心筋細胞(Orlicら、2001、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.98:10344−9参照。)及び上皮(Lydenら、2001、Nat.Med.7:1194−1201参照。)を含む様々な非内皮細胞タイプに分化し得る。血管形成のいくつかの実験モデルにおいてこれらの細胞が使用されてきたにもかわらず、新生血管系に対するEPCターゲティングの機構は分かっておらず、特定の脈間構造に寄与する細胞数を効率的に増加させるストラテジーは確認されていない。
骨髄からの造血幹細胞は現在、治療応用のために一般に使用される幹細胞タイプのみである。40年以上にわたり、移植において骨髄HSCが使用されてきた。現在、白血病、リンパ腫及び遺伝性血液疾患の治療に対する療法を開発するために、精製幹細胞回収の改良法が研究されている。限られた人数のヒト患者において、糖尿病及び進行した腎臓癌の治療に対して、ヒトにおける幹細胞の臨床応用が研究されてきた。
(発明の概要)
本発明は、眼疾患に罹患した哺乳動物の網膜における錐体細胞変性を改善する方法を提供する。本方法は、哺乳動物骨髄由来の単離系統陰性造血幹細胞集団を哺乳動物の網膜に投与する段階を含むが、この細胞集団は、造血幹細胞及び内皮前駆細胞を含有する。網膜において錐体細胞変性を遅らせるのに十分な量で細胞を投与する。
好ましい方法は、内皮前駆細胞を含む系統陰性造血幹細胞集団を眼疾患に罹患した哺乳動物の骨髄から単離し、続いて、網膜において錐体細胞の変性を改善するのに十分な数で、単離した幹細胞を哺乳動物の眼に硝子体内注入することを含む。
本発明の方法は、哺乳動物骨髄由来の、単離された、哺乳動物系統陰性造血幹細胞(Lin−HSC)集団(つまり、その細胞表面において系細胞表面抗原(Lin)を発現しない造血幹細胞(HSC))を利用する。好ましくは、細胞は自家幹細胞である(つまり治療を受ける個別の哺乳動物の骨髄由来。)。単離された、哺乳動物のLin−HSC集団は内皮前駆細胞(EPC)を含み、眼に硝子体内注入された際に活性化網膜星状細胞を選択的に標的とする、内皮前駆細胞としても知られている。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
好ましい実施形態において、眼疾患に罹患した哺乳動物から骨髄を抽出し;骨髄から複数の単球を分離し;1以上の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体により単球を標識し、系統表面抗原に対して陽性である単球を除去し、次いでEPCを含有するLin−HSC集団を回収することにより、本発明のLin−HSC集団を単離する。好ましくは、CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G、TER−119、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86、CD66b、HLA−DR及びCD235a(グリコフォリンA)からなる群から選択される1以上の系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体を用いて単球を標識する。好ましくは、本発明の単離Lin−HSC集団の細胞の少なくとも約20%が表面抗原CD31を発現する。次いで、好ましくは眼内注入により、哺乳動物の疾患のある眼に単離細胞を投与する。好ましい実施形態において、単離Lin−HSCの少なくとも約50%が表面抗原CD31を発現し、単離Lin−HSCの少なくとも約50%が表面抗原CD117を発現する(c−kit)。
本発明のLin−HSC集団中のEPCは、発生中の網膜血管及び網膜のニューロンネットワークに広く組み込まれ、眼の新生血管系及びニューロンネットワークに安定して組み込まれ続ける。正常なマウス網膜は大部分桿体であるが、本発明の方法により処置されたマウスにおいて、Lin−HSC処置後の救出細胞は、驚くべきことに殆ど全て錐体であった。
ある好ましい実施形態において、単離Lin−HSC集団の細胞に対して治療上有用な遺伝子をトランスフェクションする。例えば、神経栄養因子又は、新生血管系を選択的に標的とし、細胞を利用した遺伝子治療の形態を介して既に確立された血管に影響を与えずに新しい血管形成を抑制する抗血管形成物質を操作可能にコードするポリヌクレオチドを細胞に対してトランスフェクションし得る。ある実施形態において、本発明の方法において有用な単離Lin−HSC集団は、血管形成阻害ペプチドをコードする遺伝子を含む。血管形成阻害Lin−HSCは、ARMD、DR及び、異常な脈間構造を伴うある種の網膜変性などの疾患において異常な血管成長を調節するのに有用である。別の好ましい実施形態において、本発明の単離Lin−HSCは、神経栄養ペプチドをコードする遺伝子を含む。神経栄養性Lin−HSCは、緑内症、網膜色素変性などの網膜神経変性に関連する眼疾患においてニューロン救出を促進するのに有用である。
本発明の単離Lin−HSC集団を用いた眼の処置の具体的な長所は、Lin−HSCを用いて硝子体内処置された眼において観察される、血管栄養性及び神経栄養性救出効果である。網膜ニューロン及び光受容体、特に錐体が保存され、本発明の単離Lin−HSCを用いて処置した眼において、視覚機能のいくつかの指標が維持され得る。
好ましくは、本発明の方法により治療すべき疾患のある網膜は、活性化星状細胞を含む。関連するグリオーシスがある場合の眼の早期治療により、又は、レーザーを用いて活性化星状細胞の局所的増殖を刺激することにより、これを達成することができる。
(好ましい実施形態の詳細な説明)
幹細胞は通常、細胞表面の抗原の分布により同定される(詳細な考察については、Stem Cells:Scientific Progress and Future Directions,a report prepared by the National Institutes of Health,Office of Science Policy,June 2001,Appendix E:Stem Cell Narkers(適切な程度まで、参照により本明細書中に組み込む。)を参照のこと。)。
本発明は、眼疾患に罹患した哺乳動物の網膜において錐体細胞変性を改善する方法を提供する。造血幹細胞及び内皮前駆細胞を含む、哺乳動物骨髄由来の単離系統陰性造血幹細胞集団を哺乳動物の網膜に、好ましくは硝子体内注入により、投与する。網膜における錐体細胞変性を改善するのに十分な量で細胞を投与する。
好ましい方法は、治療すべき哺乳動物の骨髄から系統陰性の造血幹細胞集団を単離し、次に網膜において錐体細胞の変性を改善するのに十分な数で、哺乳動物に細胞を投与することを含む。
疾患哺乳動物から、好ましくは眼疾患の初期段階で、細胞を得ることができる。あるいは、例えば網膜色素変性などの眼疾患に対する遺伝性素因を有することが分かっている患者において疾患の発症前に細胞を得ることができる。必要になるまで細胞を保存することができ、次いで疾患発症の徴候が最初に観察されたところで予防的に細胞を注入することができる。好ましくは、疾患のある網膜は活性化星状細胞を含み、幹細胞がこれを標的とするようにする。したがって、関連グリオーシスがある場合の眼の早期治療は有益である。あるいは、自家幹細胞を投与する前に、網膜において活性化星状細胞増殖を局所的に刺激するために、レーザーで網膜を処置することができる。
造血幹細胞は、例えばB細胞、T細胞、顆粒球、血小板及び赤血球などの様々な血液細胞型に発生できる幹細胞である。系統表面抗原は、CD2、CD3、CD11、CD11a、Mac−1(CD11b:CD18)、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、CD45RA、マウスLy−6G、マウスTER−119、CD56、CD64、CD68、CD86(B7.2)、CD66b、ヒト白血球抗原DR(HLA−DR)及びCD235a(グリコホリンA)を含む、成熟血液細胞系列のマーカーである細胞表面タンパク質のグループである。顕著なレベルでこれらの抗原を発現しない造血幹細胞は、一般に、系統陰性(Lin−)と呼ばれる。ヒト造血幹細胞は一般に、CD31、CD34、CD117(c−kit)及び/又はCD133などの他の表面抗原を発現する。マウス造血幹細胞は一般に、CD34、CD117(c−kit)、Thy−1及び/又はSca−1などの他の表面抗原を発現する。
本発明は、細胞表面において顕著なレベルで「系統表面抗原」(Lin)を発現しない単離造血幹細胞を提供する。本明細書中でこのような細胞を「系統陰性」又は「Lin−」造血幹細胞と呼ぶ。特に、本発明は、発生中の脈間構造及び次いで血管内皮細胞になるための分化に組み込むことができる内皮前駆細胞(EPC)を含むLin−造血幹細胞(Lin−HSC)の集団を提供する。好ましくは、単離Lin−HSC集団は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの培養メディウム中に存在する。
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、骨髄に関して「成体」という語は、胎仔ではなく、出生後に単離された、つまり幼若及び成体個体由来の骨髄を含む。「成体哺乳動物」という用語は、幼若及び完全に成熟した哺乳動物の両方を指す。
本発明の、単離された哺乳動物の系統陰性造血幹細胞(Lin−HSC)集団は、内皮前駆細胞(EPC)を含む。単離Lin−HSC集団は、好ましくは、細胞の少なくとも約20%が内皮細胞において一般に存在する表面抗原CD31を発現する哺乳動物細胞を含有する。他の実施形態において、細胞の少なくとも約50%がCD31を発現し、より好ましくは少なくとも約65%、最も好ましくは少なくとも約75%がCD31を発現する。好ましくは、本発明のLin−HSC集団の細胞の少なくとも約50%が、好ましくはインテグリンα6抗原を発現する。
ある好ましいマウスLin−HSC集団の実施形態において、細胞の少なくとも約50%がCD31抗原を発現し、細胞の少なくとも約50%がCD117(c−kit)抗原を発現する。好ましくは、Lin−HSC細胞の少なくとも約75%、より好ましくは細胞の約81%が表面抗原CD31を発現する。別の好ましいマウスの実施形態において、細胞の少なくとも約65%、より好ましくは細胞の約70%が表面抗原CD117を発現する。本発明の特に好ましい実施形態は、細胞の約50%から約85%が表面抗原CD31を発現し、細胞の約70%から約75%が表面抗原CD117を発現するマウスLin−HSCの集団である。
別の好ましい実施形態は、細胞がCD133陰性であり、細胞の少なくとも約50%がCD31表面抗原を発現し、細胞の少なくとも50%がインテグリンα6抗原を発現する、ヒトLin−HSC集団である。さらに別の好ましい実施形態は、細胞がCD133陽性であり、細胞の約30%未満がCD31表面抗原を発現し、細胞の約30%未満がインテグリンα6抗原を発現する、ヒトLin−HSC集団である。
本発明の単離Lin−HSC集団は、細胞を単離した、マウス又はヒトなどの哺乳動物種の眼に硝子体内注入した場合、選択的に星状細胞を標的とし、網膜新生血管に組み込まれる。
本発明の単離Lin−HSC集団は、内皮細胞に分化し、網膜中で血管構造を生成させる内皮前駆細胞を含む。とりわけ、本発明のLin−HSC集団は、網膜新生血管及び網膜血管変性疾患の治療に対して、及び網膜血管損傷の修復に対して有用である。本発明のLin−HSC細胞はまた、網膜においてニューロンの救出を促進し、抗アポトーシス遺伝子の上方制御を促進する。驚くべきことに、本発明の成人ヒトLin−HSC細胞が、網膜変性に罹患している重度の複合的免疫不全(SCID)マウスにおいてでさえ、網膜変性を抑制し得ることが分かった。正常なマウス網膜は主に桿体であるが、Lin−HSCでの治療処置後、救出された細胞は殆ど全てが錐体である。さらに、酸素誘発性網膜症又は未熟児網膜症に罹患している哺乳動物など、新生仔哺乳動物の眼における網膜の欠陥を処置するために、Lin−HSC集団を利用し得る。
本発明はまた、哺乳動物の骨髄細胞から内皮前駆細胞を含む系統陰性造血幹細胞集団を単離し、疾患を阻むのに十分な数で哺乳動物の眼に単離幹細胞を硝子体内に注入することを含む、哺乳動物において眼疾患を処置する方法も提供する。新生仔、幼若又は完全に成熟した哺乳動物における、網膜変性疾患、網膜血管変性疾患、虚血性網膜症、血管出血、血管漏出及び脈絡膜症などの眼疾患を処置するために本方法を利用することができる。このような疾患の例としては、加齢性黄斑変性(ARMD)、糖尿病性網膜症(DR)、推定眼ヒストプラスマ症(POHS)、未熟児網膜症(ROP)、鎌状赤血球貧血及び網膜色素変性ならびに網膜損傷が挙げられる。
眼に注入される幹細胞の数は、眼の疾患状態を阻むのに十分である。例えば、細胞数は、眼の網膜損傷を修復し、網膜新生血管を安定化し、網膜新生血管を成熟させ、血管漏出及び血管出血を防ぐ又は修復するために有効であり得る。
本発明のLin−HSC集団の細胞に対して、眼の、細胞を利用した遺伝子治療における使用に対して、抗血管形成タンパク質をコードする遺伝子及び、ニューロン救出効果を促進するための神経栄養因子をコードする遺伝子などの治療上有用な遺伝子をトランスフェクションし得る。
トランスフェクションされた細胞は、網膜疾患の処置に対して治療上有用な何らかの遺伝子を含み得る。ある好ましい実施形態において、本発明のトランスフェクションされたLin−HSCは、TrpRS又はその抗血管形成断片(例えばTrpRSのT1及びT2断片)(これらは、共同所有、同時係属米国特許出願第10/080,839号(参照により本明細書中に組み込む。)で詳細に述べられている。)などの、タンパク質又はタンパク質断片を含む抗血管形成ペプチドを操作可能にコードする遺伝子を含む。本発明の抗血管形成ペプチドをコードするトランスフェクションされたLin−HSCは、糖尿病性網膜症などの疾患といった異常な血管発生を含む網膜疾患の処置に有用である。好ましくは、Lin−HSCはヒト細胞である。
別の好ましい実施形態において、本発明のトランスフェクションされたLin−HSCは、神経成長因子、ニューロトロフィン−3、ニューロトロフィン−4、ニューロトロフィン−5、毛様体神経栄養因子、網膜色素性上皮由来神経栄養因子、インスリン様増殖因子、グリア細胞系列由来神経栄養因子、脳由来神経栄養因子などの神経栄養因子を操作可能にコードする遺伝子を含む。このような神経栄養性Lin−HSCは、緑内症及び網膜色素変性などの網膜ニューロン変性疾患において、網膜神経などに対する損傷の処置において、ニューロンの救出を促進するのに有用である。網膜色素変性の治療に対して毛様体神経栄養因子の移植が有用であるとして報告されている(Kirbyら、2001、Mol Ther 3(2):241−8;Farrarら、2002、EMBO Journal 21:857−864を参照。)。脳由来神経栄養因子は、報告によると、損傷のある網膜神経節において増殖関連遺伝子を調節する(Fournierら、1997、J.Neurosci.Res.47:561−572を参照。)。グリア細胞系列由来神経栄養因子は、報告によると、網膜色素変性において光受容体変性を遅らせる(McGeeら、2001、Mol.Thef.4(6):622−9を参照。)。
本発明はまた、哺乳動物の骨髄から内皮前駆細胞を含有する系統陰性造血幹細胞を単離する方法を提供する。本方法は、(a)生体哺乳動物から骨髄を抽出し;(b)骨髄から複数の単球を分離し;(c)1以上の系統表面抗原、好ましくは、CD2、CD3、CD4、CD11、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD24、CD33、CD36、CD38、CD45、Ly−6G(マウス)、TER−119(マウス)、CD45RA、CD56、CD64、CD68、CD86(B7.2)、CD66b、ヒト白血球抗原DR(HLA−DR)及びCD235a(グリコホリンA)からなる群から選択される系統表面抗原に対するビオチン結合系統パネル抗体で単球を標識し、(d)複数の単球から前記1以上の系統表面抗原に対して陽性の単球を除去し、好ましくは細胞の少なくとも約20%がCD31を発現する、内皮前駆細胞を含有する系統陰性造血幹細胞の集団を回収する段階を含む。
Lin−HSCが成人ヒト骨髄から単離される場合、好ましくは、系統表面抗原CD2、CD3、CD4、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD33、CD38、CD45RA、CD64、CD68、CD86(B7.2)及びCD235aに対するビオチン結合系統パネル抗体で単球を標識する。Lin−HSCが成体マウス骨髄から単離される場合、好ましくは、系統表面抗原CD3、CD11、CD45、Ly−6G及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で単球を標識する。
好ましい方法において、成人ヒト骨髄から細胞を単離し、CD133系統によりさらに分離する。ヒトLin−HSCを単離するある好ましい方法には、ビオチン結合CD133抗体で単球を標識し、CD133陽性のLin−HSC集団を回収するさらなる段階が含まれる。通常、このような細胞の約30%未満がCD31を発現し、このような細胞の約30%未満がインテグリンα6を発現する。本発明のヒトCd133陽性のLin−HSC集団は、血管形成が起こっていない眼に注入した場合、周辺の虚血により起こる血管新生の部位を標的とすることができる。
ヒトLin−HSCを単離する別の好ましい方法には、ビオチン結合CD133抗体で単球を標識し、CD133陽性細胞を除去し、CD133陰性Lin−HSC集団を回収するさらなる段階が含まれる。通常、このような細胞の少なくとも約50%がCD31を発現し、このような細胞の少なくとも約50%がインテグリンα6を発現する。本発明のヒトCD133陰性Lin−HSC集団は、血管形成が起こっている眼に注入した場合、発生中の脈間構造に組み込まれ得る。
本発明はまた、眼への細胞の硝子体内注入によって本発明のトランスフェクションされたLin−HSC細胞を投与することにより、眼の血管形成性疾患を治療するための方法を提供する。このようなトランスフェクションされたLin−HSC細胞は、抗血管形成又は神経栄養性遺伝子産物をコードする遺伝子などの治療上有用な遺伝子でトランスフェクションされたLin−HSCを含む。好ましくは、トランスフェクションされたLin−HSC細胞はヒト細胞である。
好ましくは、硝子体内注入により、網膜変性疾患に罹患している哺乳動物の眼に、少なくとも約1x105個のLin−HSC細胞又はトランスフェクションされたLin−HSC細胞を投与する。注入すべき細胞数は、網膜変性の重症度、哺乳動物の齢及び網膜疾患を治療する当業者にとって容易に明らかとなろうその他の因子に依存し得る。治療担当の臨床家により決定されるように、単回投与又は一定期間にわたる複数回投与によりLin−HSCを投与し得る。
本発明のLin−HSCは、網膜損傷及び、網膜脈間構造供給の障害もしくは網膜脈間構造の劣化もしくは網膜ニューロン変性を含む網膜の欠陥の治療に有用である。網膜脈間構造の、再生又は回復治療での使用のために、ならびに網膜ニューロン変性の、治療又は改善のために、ヒトLin−HSCを使用して、遺伝的に同一の細胞の系列、つまりクローンを生成させることもできる。
(実施例)
細胞単離及び濃縮;マウスLin−HSC集団A及びBの調製
全般的手段。インビボ評価は全て、NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animalsに従い行い、評価手段は全て、The Scripps Research Institute(TSRI、La Jolla,CA)Animal Care and Use Committeeの承認を受けた。B6.129S7−Gtrosa26、Tie−2GFP、ACTbEGFP、FVB/NJ(rd/rdマウス)又はBalb/cBYJ成体マウス(The Jackson Laboratory、ME)から骨髄細胞を抽出した。
次に、HISTOPAQUE(R)ポリスクロース勾配(Sigma,St.Louis,MO)を用いた密度勾配分離により単球を分離し、マウスでのLin−選択のためにビオチン結合系統パネル抗体(CD45、CD3、Ly−6G、CD11、TER−119、Pharmingen,San Diego,CA)で標識した。系統陽性(Lin+)細胞を分離し、磁気分離装置(AUTOMACSTMソーター、Miltenyi Biotech,Auburn,CA)を用いてLin−HSCから除去した。FACSTMCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)を用いて、次の抗体を用い、内皮前駆細胞を含有する得られたLin−HSC集団の特徴をさらに調べた:PE−結合−Sca−1、c−kit、KDR及びCD31(Pharmingen,San Diego,CA)。Tie−2の特徴を調べるために、Tie−2−GFP骨髄細胞を使用した。
成体マウス内皮細胞を回収するために、ACTbEGFPマウスから腸間膜組織を手術により取り出し、組織を消化するためにコラゲナーゼ(Worthington,Lakewood,NJ)中に入れ、次いで45μmフィルターを用いてろ過した。フロースルーを回収し、Endothelial Growth Media(内皮増殖培地)(Clonetics,San Diego,CA)とともにインキュベートした。CD31mAb(Pharmingen)で染色して形態的な敷石状所見を観察することにより、内皮の特徴を確認し、MATRIGELTMマトリックス(Beckton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)において管状構造の形成について培養物を調べた。
マウスLin−HSC集団A。上述の全般的手段により、ACTbEGFPマウスから骨髄細胞を抽出した。CD31、c−kit、Sca−1、Flk−I及びTie−2細胞表面抗原マーカーに対して、FACSフローサイトメトリーにより、Lin−HSC細胞の特徴を調べた。図1(c)において結果を示す。Lin−HSCの約81%がCD31マーカーを示し、Lin−HSCの約70.5%がc−kitマーカーを示し、Lin−HSCの約4%がSca−1マーカーを示し、Lin−HSCの約2.2%がFlk−1マーカーを示し、Lin−HSCの約0.91%がTie−2マーカーを示した。一方、これらの骨髄細胞から単離したLin+HSCは、顕著に異なる細胞マーカープロファイルを有した(つまり、CD31:37.4%;c−kit:20%;Sca−1:2.8%;Flk−:0.05%)。
マウスLin−HSC集団B。上述の全般的手段により、Balb/c、ACTbEGFP及びC3Hマウスから骨髄細胞を抽出した。細胞表面マーカー(Sca−1、KDR、c−kit、CD34、CD31及び様々なインテグリン:α1、α2、α3、α4、α5、α6、αM、αV、αX、αIIb、β1、β4、β3、β4、β5及びβ7)の存在について、Lin−HSC細胞を分析した。結果を表1に示す。
マウスモデルにおける細胞の硝子体内投与
鋭利な刃を用いてマウス眼瞼において眼瞼裂溝を作り、P2からP6の眼球を露出した。次に、33ゲージ(Hamilton,Reno,NV)針付きシリンジを用いて、本発明の系統陰性HSC集団A(細胞培養液約0.5μLから約1μL中およそ105細胞)を硝子体内に注入した。
EPCトランスフェクション
製造者のプロトコールに従い、FuGENETM6トランスフェクション試薬(Roche,Indianapolis,IN)を用いて、His6タグも含むTrpRSのT2断片をコードするDNA(配列番号1、図7)をマウスLin−HSC(集団A)にトランスフェクションした。幹細胞因子(PeproTech,Rocky Hill,NJ)を含有するopti−MEM(R)培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)中でLin−HSC細胞(約106細胞/mL)を懸濁した。次に、DNA(約1μg)及びFuGENE試薬(約3μL)混合液を添加し、混合液を約37℃で約18時間インキュベートした。インキュベート後、細胞を洗浄し、回収した。この系のトランスフェクション率は、FACS分析により確認したところ、およそ17%であった。ウェスタンブロッティングによりT2産生を確認した。His6−タグ付加T2−TrpRSのアミノ酸配列を配列番号2、図8として示す。
免疫組織化学及び共焦点分析
様々な時間点でマウス網膜を回収し、ホールマウント又は凍結切片の何れかに対して標本作製を行った。ホールマウントの場合、4%パラホルムアルデヒドで網膜を固定し、50%ウシ胎仔血清(FBS)及び20%正常ヤギ血清中で周囲室温にて1時間ブロッキングした。一次抗体で網膜を処理し、二次抗体で検出した。使用した一次抗体は、抗コラゲナーゼIV(Chemicon,Temecula,CA、抗β−gal(Promega,Madison,WI)、抗GFAP(Dako Cytomation,Carpenteria,CA)、抗α−平滑筋アクチン(α−SMA、Dako Cytomation)であった。使用した二次抗体は、Alexa488又は594蛍光マーカー(Molecular Probes,Eugene,OR)の何れかに結合したものであった。MRC1024共焦点顕微鏡(Bio−Rad,Hercules,CA)を用いて画像を撮影した。LASERSHARP(R)ソフトウェア(Bio−Rad)を用いて三次元画像を作製し、ホールマウント網膜において、血管発生の、異なる3層を調べた。共焦点顕微鏡により区別される強化GFP(eGFP)マウスとGFAP/wtGFPマウスとの間のGFPピクセル強度の違いを利用して、3次元画像を作製した。
マウスにおけるインビボ網膜血管形成定量アッセイ
T2−TrpRS分析に対して、マウス網膜の三次元画像から一次及び深部叢を再構成した。一次叢を2つのカテゴリー、正常発生又は血管発達停止に分けた。深部血管発生の抑制のカテゴリーは、次の基準を含む血管新生抑制のパーセンテージに基づき解釈した:深部叢形成の完全抑制を「完全」とし、正常な血管発生(25%未満の抑制を含む。)を「正常」とし、残りを「部分的」とした。rd/rdマウス救出データに対して、10xレンズを用いて各ホールマウント網膜における深部叢の4箇所の別個の領域を捕捉した。各画像に対して脈間構造の全長を計算し、まとめ、群間で比較した。正確な情報を得るために、Lin−HSCを一方の眼に注入し、Lin+HSCを同じマウスの他方の眼に注入した。同腹のマウスから非注入対照網膜を取った。
成体網膜損傷マウスモデル
ダイオードレーザー(150mW、1秒、50mm)を用いるか又は27ゲージ針でマウス網膜に孔を開けることによる機械的な方法の何れかで、レーザー及び瘢痕モデルを作製した。損傷から5日後、硝子体内注入法により細胞を注入した。5日後にマウスから眼を回収した。
網膜変性の神経栄養救出
成体マウス骨髄由来系統陰性造血幹細胞(Lin−HSC)は、網膜変性のマウスモデルにおいて血管栄養性及び神経栄養救出効果を有する。10日齢マウスの右眼に対して、本発明の約105個のLin−HSCを含有する約0.5マイクロリットルを硝子体内注入し、網膜脈間構造の存在及びニューロン層核数について2カ月後に評価した。同じマウスの左眼に対して、対照としておよそ同数のLin+HSCを注入し、同様に評価した。図9で示されるように、Lin−HSC処置した眼において、網膜脈間構造はほぼ正常と思われ、内顆粒層はほぼ正常であり、外顆粒層(ONL)は核の約3から約4層を有した。一方、逆側のLin+HSC処置した眼では、中間網膜血管層が顕著に萎縮し、外側の網膜血管層は完全に萎縮し、内顆粒層は顕著に萎縮し、外顆粒層は完全になくなっていた。これは、マウス3及びマウス5においてはっきりと示された。マウス1において、救出効果はなく、これは注入マウスのおよそ15%に対して当てはまった。
網膜電図(ERG)を用いて視覚機能を評価した場合、血管及びニューロン救出の両方が観察された場合(マウス3及び5)、陽性のERGの回復が観察された。血管又はニューロン救出がなかった場合(マウス1)、陽性のERGは観察されなかった。図10で示される回帰分析プロットにより、本発明のLin−HSCによるrd/rdマウス眼の血管と神経栄養性救出との間のこの相関が示される。中間脈間構造型(r=0.45)及び深部脈間構造型(r=0.67)に対して、ニューロン(y軸)と血管(x軸)回復との間の相関が観察された。
図11は、Lin+HSCによる血管とニューロン救出との間に統計的に有意な相関が何らないことを示す。血管救出を定量し、データを図12で示す。図12で示される、注入後1カ月(1M)、2カ月(2M)及び6カ月(6M)でのマウスに対するデータから、特に注入後1カ月及び2カ月において、同じマウスからの非処置眼(淡色のバー)における血管長と比較して、本発明のLin−HSCで処置した眼(濃色のバー)において血管長が有意に長くなったことが分かる。Lin−HSC又はLin+HSCの注入後約2カ月の内及び外顆粒層において核を数えることにより、神経栄養性救出効果を定量した。結果を図13及び14に示す。
ヒトLin−HSC集団
上述の全般的手段により、健常成人ヒトボランティアから骨髄細胞を抽出した。次に、HISTOPAQUE(R)ポリスクロース勾配(Sigma,St.Louis,MO)を用いた密度勾配分離により、単球を分離した。ヒト骨髄単核細胞からLin−HSC集団を単離するために、磁気分離系(AUTOMACSTMソーター、Miltenyi Biotech,Auburn,CA)とともに次のビオチン結合系統パネル抗体を使用した:CD2、CD3、CD4、CD11a、Mac−1、CD14、CD16、CD19、CD33、CD38、CD45RA、CD64、CD68、CD86、CD235a(Pharmingen)。
CD133発現に基づき、ヒトLin−HSC集団を2つのサブ集団にさらに分離した。ビオチン結合CD133抗体で細胞を標識し、CD133陽性及びCD133陰性サブ集団に分離した。
網膜変性のマウスモデルにおけるヒト及びマウス細胞の硝子体内投与
C3H/HeJ、C3SnSmn.CB17−Prkdc SCID及びrd10マウス系統を網膜変性モデルとして使用した。C3H/HeJ及びC3SnSmn.CB17−Prkdc SCIDマウス(The Jackson Laboratory、Maine)は、Rretinal degeneration1(rd1)突然変異に対してホモ接合型であった(この突然変異は早期から発症する重篤な網膜変性を引き起こす。)。突然変異は、桿体光受容体cGMPホスホジエステラーゼβサブユニットをコードするPde6b遺伝子のエクソン7に位置する。この遺伝子における突然変異は、常染色体劣性網膜色素変性(RP)ヒト患者において見出されている。C3SnSmn.CB17−Prkdc SCIDマウスはまた、重症複合型免疫不全自然突然変異(Prkdc SCID)に対してホモ接合型であり、ヒト細胞移入実験に使用した。rd10マウスにおける網膜変性は、Pde6b遺伝子のエクソン13での突然変異により引き起こされる。これはまた、遅発型及びrd1/rd1よりも軽度の網膜変性と臨床的に関連のあるRPモデルでもある。NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animalsに従い全ての評価を行い、評価手段は全て、The Scripps Research Institute Animal Care and Use Committeeの承認を受けた。
鋭利な刃を用いてマウス眼瞼において眼瞼裂溝を作り、P2からP6の眼球を露出した。次に、33ゲージ(Hamilton,Reno,NV)針付きシリンジを用いて、本発明のLineage陰性HSC集団A又はヒト集団C(細胞培養液約0.5μLからto約1μL中およそ105細胞)を硝子体内に注入した。注入したヒト細胞を視覚化するために、注入前に色素で細胞を標識した(Cell tracker green CMFDA、Molecular Probes)。
様々な時点で網膜を回収し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)及びメタノールで固定した後、50%FBS/20%NGS中で室温にて1時間ブロッキングした。網膜脈間構造を染色するために、網膜を抗CD31(Pharmingen)及び抗コラゲナーゼIV(Chemicon)抗体とインキュベートし、次いでAlexa488又は594結合二次抗体(Molecular Probes,Eugene,Oregon)とインキュベートした。弛緩させるように4箇所に放射状に減張切開した網膜を平らに置いて、ホールマウント標本を得た。Radiance MP2100共焦点顕微鏡及びLASERSHARP(R)ソフトウェア(Biorad,Hercules,California)を用いて、中間又は深部網膜血管叢における脈間構造の画像(Dorrellら、2002 Invest Ophthamol Vis.Sci.43:3500-3510)を得た。脈間構造を定量するために、中間又は深部血管層の中央部分から4箇所の個別の視野(900μm x 900μm)を無作為に選択し、LASERPIX(R)解析ソフトウェア(Biiorad)を用いて脈間構造の全長を測定した。同じ叢におけるこれらの4箇所の視野の全長をさらなる分析に用いた。
凍結切片用に、平らに置いた網膜を再び包埋した。4%PFA中に一晩網膜を入れ、その後、20%スクロースとともにインキュベートした。最適薄切温度コンパウンド(OCT:Tissue−Tek;Sakura FineTech,Torrance,CA)中で網膜を包埋した。核色素DAPI(Sigma−Aldrich,St.Louis,Missouri)を含有するPBS中で凍結切片(10μm)を再水和した。視神経乳頭及び周辺部網膜全体を含有した1つの切片中の3箇所の異なる領域のDAPI標識された核の画像(280μm幅、無作為サンプリング)を共焦点顕微鏡により撮影した。1つの切片中の3箇所の独立した視野のONLにある核数を数え、解析のために合計した。深部叢の脈間構造の長さとONLの細胞核数との間の関係を調べるために、単純線形回帰分析を行った。
一晩暗順応させた後、15μg/gmケタミン及び7μg/gmキシラジンの腹腔内注入によりマウスを麻酔した。瞳孔拡張(1%硫酸アトロピン)後、マウスリファレンス(mouth reference)及び尾部接地電極とともに金ループ角膜電極を用いて、各眼の角膜表面から網膜電図(ERG)を記録した。反射率が高いGanzfeldドームの外側に固定したGrass Photic Stimulator(PS33 Plus、Grass Instruments,Quincy,MA)を用いて刺激を起こした。光刺激装置により可能な最大強度(0.668cd−s/m2)以下の強度範囲に及ぶ短波長(Wratten 47A;λmax=470nm)の光のフラッシュに対して桿体の反応を記録した。反応シグナルを増幅し(CP511 AC増幅器 Grass Instruments)、デジタル化し(PCI−1200、National Instruments,Austin,TX)、コンピュータ解析した。処置及び非処置眼の両方から記録したERGとともに、各マウスをそれ自身の内部対照として用いた。最も弱いシグナルに対して100スイープ以下を平均した。非処置眼からの平均反応を処置眼からの反応からデジタル処理により差し引き、シグナルにおけるこの差を機能的救出の指標とするために使用した。
Lin−HSCが標的とする網膜遺伝子発現の評価のために、マイクロアレイ分析を使用した。P6 rd/rdマウスにLin−又はCD31−HSCの何れかを注入した。注入から40日後、RNaseフリー培地中でこれらのマウスの網膜を切開した(注入後のこの時点で網膜脈間構造及び光受容体層の救出は明らかである。)。各網膜からの4分の1をホールマウントにより分析し、正常なHSC標的化ならびに脈間構造及び神経保護が達成されていることを確認した。TRIzol(Life Technologies,Rockville,MD)及びフェノール/クロロホルムRNA単離プロトコールを用いて、成功裡に注入された網膜からのRNAを精製した。Affymetrix Mu74Av2チップにRNAをハイブリダイズさせ、GENESPRING(R)ソフトウェア(SiliconGenetics,Redwood City,CA)を用いて遺伝子発現を分析した。精製したヒト又はマウスHSCをP6マウスに硝子体内注入した。RNAの精製及びヒト特異的U133A Affymetrixチップへのハイブリダイゼーションのために、P45において網膜を切開し、1)ヒトHSCを注入した、救出マウス網膜、2)ヒトHSCを注入した、非救出マウス網膜、3)マウスHSCを注入した、救出マウス網膜の分画へとプールした。GENESPRING(R)ソフトウェアを用いて、バックグラウンドを上回って発現され、ヒトHSC救出網膜においてより高く発現される遺伝子を同定した。次に、これらの遺伝子のそれぞれに対するプローブペア発現プロファイルを個々に分析し、dChipを用いて正常ヒトU133Aマイクロアレイ実験のモデルと比較して、ヒト種特異的ハイブリダイゼーションを調べ、種間ハイブリダイゼーションによる偽陽性を除外した。
図21は、CD133陽性(DC133+)及び本発明のCD133陰性(CD133−)ヒトLin−HSC集団におけるCD31及びインテグリンα6表面抗原の発現を比較する、フローサイトメトリーデータを示す。左パネルは、フローサイトメトリー分散プロットを示す。中央及び右パネルは、細胞集団における特異的抗体発現のレベルを示すヒストグラムである。Y軸は事象数を表し、X軸はシグナルの強度を示す。外枠を付したヒストグラムは、非特異的バックグラウンド染色のレベルを示すアイソタイプIgG対照抗体である。黒のヒストグラムは、細胞集団における特異的抗体発現のレベルを示す。外枠(対照)ヒストグラムの右にシフトした黒のヒストグラムは、蛍光シグナル及び抗体の発現がバックグラウンドレベルを上回り向上したことを表す。2種類の細胞集団間で黒ヒストグラムの位置を比較することにより、細胞におけるタンパク質の相違が示される。例えば、本発明のCD133+及びCD133−細胞の両方においてバックグラウンドを上回ってCD31が発現されるが、しかし、CD133+細胞集団において、CD133−細胞集団おいてよりも、CD31の発現レベルが低い細胞が多く存在する。このデータから、2種類の集団間でCD31発現が異なり、α6インテグリン発現がLin−細胞集団中の細胞に大きく制限され、これを血管及び神経栄養救出機能を有する細胞のマーカーとして使用し得ることが明らかである。
CD133陽性及びCD133陰性Lin−HSCサブ集団を新生仔SCIDマウスの眼に硝子体内注入した場合、CD31及びインテグリンα6表面抗原の両方を発現するCD133陰性サブ集団に対して発生脈間構造への組み込みが最大になることが観察された(図21、下参照。)。CD31又はインテグリンα6を発現しないCD133陽性サブ集団(図21、上)は、周辺部虚血により起こる血管新生の部位を標的とすると思われるが、血管形成が起こっている眼に注入した場合はそうではない。
桿体又は錐体オプシンに特異的な抗体を用いて、免疫組織化学により救出及び非救出網膜を分析した。図17で示すERG記録に対して使用した同じ眼を桿体又は錐体オプシンに対して分析した。野生型マウス網膜において、錐体は存在する光受容体の5%未満であり(Soucyら、1998、Neuron 21:481−493)、図25(A)で示されるような赤/緑錐体オプシン又は図25(B)で示されるような桿体ロドプシンで観察される免疫組織化学染色パターンは、この錐体細胞の割合と一致した。桿体ロドプシンに特異的な抗体(rho4D2)は、University of British ColumbiaのDr.Robert Moldayにより提供され、既に述べられているように使用した(Hicksら、1986、Exp.Eye Res.42:55−71)。錐体赤/緑オプシンに対して特異的なウサギ抗体は、Chemicon(AB5405)より購入し、製造者の説明書に従い使用した。
酸素誘発性網膜変性に対するマウスモデルにおけるマウス細胞の硝子体内投与
酸素誘発性網膜変性(OIR)モデルにおいて、出生後P7からP12の間、新生仔野生型C57B16マウスを酸素過剰状態(75%酸素)に曝露した。図22は、P0からP30までの、C57B16マウスにおける正常な出生後血管発生を示す。P0において、視神経円板周辺で、生え始めた表面血管のみが観察できる。次の数日にわたり、一次表面ネットワークが周辺部へと拡大し、P10日までに離れた周縁部に到達する。P7からP12の間、二次(深部)叢が発生する。P17までに、表面において血管が広範囲に広がり、血管の深部ネットワークが存在するようになる(図22、差込図)。その後数日間、成体構造がおよそP21に完成するまで、血管の三次(中間)層の発生に伴い再構築が起こる。
一方、OIRモデルにおいて、P7からP12に75%酸素に曝露した後、正常な一連の事象が著しく妨害される(図23)。P3に、その後にOIRを行なったマウスの眼において、本発明の成体マウスLin−HSC集団を硝子体内注入し、もう一方の眼にPBS又はCD31陰性細胞を対照として注入した。図24は、本発明のLin−HSC集団が発生中のマウス網膜において高酸素レベルの変性的影響を阻み得ることを示す。処置した眼において、P17に、完全に発生した表面及び深部網膜脈間構造が観察され、一方、対照の眼において、広い血管領域において実質的に深部血管がないことが分かった(図24)。OIRモデルにおけるおよそ100個のマウスの眼を観察した。本発明のLin−HSC集団で処置した眼の58%において正常な血管形成が観察され、一方、CD31−細胞で処置した対照眼では12%、PBSで処置した対照眼では3%で観察された。
結果及び考察
マウス網膜血管発生;眼の血管形成に対するモデル
マウス眼は、ヒト網膜血管発生などの哺乳動物網膜血管発生の研究に対する認識されたモデルを与える。マウス網膜脈間構造の発生の間、虚血により起こる網膜血管は、星状細胞と密接に関連して発生する。これらのグリア要素は、視神経円板から神経節細胞層に沿って第三期ヒト胎児又は新生仔げっ歯類網膜に移動し、放射状に広がる。マウス網膜脈間構造が発生する際、内皮細胞は、この既に確立された星状細胞鋳型を利用して、網膜血管パターンを決定する(図1(a及びb)参照。)。図1(a及びb)は、発生中のマウス網膜の概略図を示す。パネル(a)は、星状細胞鋳型(淡色の線)上に重なる一次叢(図の左上の濃色の線)の発生を示し、一方(b)は、網膜血管形成の二次相を示す。図1において、GCLは神経節細胞層を表し;IPLは内網状層を表し;INLは内顆粒層を表し;OPLは外網状層を表し;ONLは外顆粒層を表し;RPEは網膜色素上皮を表し;ONは視神経を表し;Pは周辺部を表す。出生時、網膜脈間構造は実質的にない。出生後14日(P14)までに、網膜は、視覚の開始と一致して、網膜血管の複雑な一次(表面)及び二次(深部)層を発達させる。最初、周辺へと既存の星状ネットワーク上にスポーク様周辺部血管が放射状に成長し、毛管網形成により徐々に相互に連結されるようになる。これらの血管は、P10まで神経繊維内で単層として成長する(図1(a))。P7からP8の間に、側副枝がこの一次叢から発芽し、二次又は深部網膜叢を形成する外網状層へと網膜に浸透する。P21までに、全体のネットワークで大規模な再構築及び内顆粒層の内面で三次又は中間叢形成が起こる。(図1(b))。
新生マウス網膜血管形成モデルは、いくつかの理由から、眼の血管形成中のHSCの役割の研究に対して有用である。この生理的関連モデルにおいて、内因性血管が現れる前に、大きな星状細胞鋳型が存在し、これにより、血管新生プロセス中の細胞−細胞標的化に対する役割を評価することができる。らに、この新生期の網膜血管の一貫した再現性のある新生仔網膜血管プロセスは低酸素により起こることが知られており、この点で、虚血が関与することが知られる多くの網膜疾患と類似点がある。
骨髄からの内皮前駆細胞(EPC)の濃縮
HSCの調製で見られるEPC集団において細胞表面マーカー発現が広く評価されているにもかかわらず、EPCをユニークに同定するマーカーは未だはっきりと定義されていない。EPCに対して濃縮を行うために、造血系統マーカー陽性細胞(Lin+)、つまりBリンパ球(CD45)、Tリンパ球(CD3)、顆粒球(Ly−6G)、単球(CD11)及び赤血球(TER−119)をマウスの骨髄単核球細胞から除去した。Sca−1抗原を使用して、EPCに対してさらに濃縮した。同数のLin+Sca−1細胞又はLin−Sca−1細胞の何れかの硝子体内注入後に得られた結果を比較した場合、2群間で差は検出されなかった。実際、Lin−Sca−1細胞のみを注入した場合、発生中の血管への組み込みが非常に大きかったことが観察された。
機能アッセイに基づき、EPCを用いて本発明のLin−HSC集団を濃縮する。さらに、Lin+HSC集団の挙動は機能的にLin−HSC集団とは非常に異なる。各分画に対してEPCを同定するために一般に使用されるエピトープ(既に報告されているインビトロの特徴を調べる研究に基づき)もまた評価した。これらのマーカーの中で、Lin−分画と独占的に関連するものがない一方、Lin+HSC分画と比較して、Lin−HSCにおいて全てが約70から約1800%上昇した(図1(c))。図1、パネル(c)は、骨髄由来Lin+HSC及びLin−HSC分離細胞のフローサイトメトリーの特徴を示す。パネル(c)の上段は、非抗体標識細胞の造血幹細胞ドットプロット分布を示す。R1は、陽性PE染色の定量可能なゲート領域を定義し;R2はGFP陽性を指す。中段においてLin−HSCのドットプロットを示し、Lin+HSCのドットプロットは下段で示す。Sca−1、c−kit、Flk−1/KDR、CD31に対するPE結合抗体でC57B/6細胞を標識した。Tie−2−GFPマウスからTie−2データを得た。ドットプロットに関する%は、総Lin−又はLin+HSC集団からの陽性標識%を指す。興味深いことに、Flk−1/KDR、Tie−2及びSca−1のような許容されているEPCマーカーの発現は乏しく、したがって、さらなる分画化に使用しなかった。.
硝子体内注入したHSC Lin−細胞は、星状細胞を標的とし発生中の網膜脈間構造に組み込まれるEPCを含有する。星状細胞鋳型を利用し、網膜の血管形成に関与する、硝子体内注入したLin−HSCが網膜の特異的な細胞型を標的化し得るか否かを調べるために、成体(GFP又はLacZトランスジェニック)マウスの骨髄から単離した、本発明のLin−HSC組成物からのおよそ105個の細胞又はLin+HSC細胞(対照、約105個細胞)を出生後2日(P2)のマウスの眼に注入した。注入から4日後(P6)、GFP又はLacZトランスジェニックマウス由来の本発明のLin−HSC組成物からの多くの細胞が網膜に接着し、内皮細胞の特徴的な細長い外観を有していた(図2(a))。図2は、発生中のマウス網膜へのLin−細胞の移植を示す。図2、パネル(a)で示されるように、注入4日後(P6)に、硝子体内注入したeGFP+Lin−HSCが網膜において接着し、分化する。
網膜の多くの領域において、GFP発現細胞は、その下にある星状細胞に適合し、血管に類似したパターンに配置された。れらの蛍光細胞は、内因性の発生する血管ネットワークの先端で観察された(図2(b))。逆に、網膜表面に接着するのは、Lin+HSC(図2(c))又は成体マウス腸間膜内皮細胞(図2(d))のうち少数のみであった。注入Lin−HSC集団からの細胞も既に確立された血管とともに網膜に接着することができるか否かを調べるために、発明者らはLin−HSC組成物を成体の眼に注入した。興味深いことに、網膜に接着する又は確立された正常網膜血管に組み込まれる細胞は観察されなかった(図2(e))。これは、本発明のLin−HSC組成物が正常に発生した脈間構造を妨害せず、正常に発生した網膜において異常な血管形成を開始させないことを示す。
本発明の注入Lin−HSC組成物と網膜星状細胞との間の関係を調べるために、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP、星状細胞のマーカー)及びプロモーターにより駆動される緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するトランスジェニックマウスを使用した。eGFPトランスジェニックマウスからのLin−HSCを注入したこれらのGFAP-GFPトランスジェニックマウス網膜の実験から、注入されたeGFP EPC及び存在する星状細胞の共局在が示された(図2(f−h)、矢印)。eGFP+Lin−HSCが内在する星状細胞ネットワークに適合するためのプロセスを観察した(矢印、図2(g))。これらの眼の試験から、注入された標識細胞のみが星状細胞に接着し;P6マウス網膜で(網膜周囲が内因性血管をまだ持たない。)、これらのまだ血管形成されていない領域において、注入細胞が星状細胞に付着するのが観察された。驚くべきことに、正常な網膜血管が後に発生するであろう正確な位置で、網膜のより深部の層において注入標識細胞が観察された(図2(i)、矢印)。
本発明の注入Lin−HSCが安定して発生中の網膜脈間構造に組み込まれるか否かを調べるために、後期のいくつかの時点で網膜血管を調べた。P9という早い時期(注入から7日後)に、Lin−HSCがCD31+構造に組み込まれた(図2(j))。P16(注入から14日後)までに、網膜血管様構造に細胞が広範囲に既に取り込まれた(図2(k))。動物を屠殺する前にローダミン−デキストランを血管内注入した場合(機能的網膜血管を同定するために。)、Lin−HSCの大部分が開存血管に沿って並んでいた(図2(l))。標識した細胞分布の2つのパターンを観察した:(1)1つのパターンにおいて、非標識内皮細胞間で血管に沿って細胞が散在し;及び(2)もう一方のパターンは、血管が完全に標識細胞からなることを示した。注入された細胞はまた、深部血管叢の血管にも組み込まれた(図2(m))。Lin−HSC−由来EPCが新生血管系へ散発的に組み込みまれることは既に報告されているが、一方、これらの細胞から血管ネットワークが完全に構成されるということについてはこれが最初の報告である。これは、硝子体内に注入される本発明の骨髄由来Lin−HSCの集団からの細胞が、形成中の網膜血管叢の層何れにも効率的に組み込まれ得ることを示す。
非網膜組織の組織学的試験(例えば、脳、肝臓、心臓、肺、骨髄)から、硝子体内注入後5又は10日以下で試験した場合、GFP陽性細胞の存在は示されなかった。これは、Lin−HSC分画内の細胞のサブ集団が選択的に網膜星状細胞を標的とし、発生中の網膜脈間構造に安定的に組み込まれることを示唆する。これらの細胞は内皮細胞の多くの特徴を有するので(網膜星状細胞との関連、細長い形態、開存血管への安定な組み込み及び血管外の位置に存在しないこと)、これらの細胞は、Lin−HSC集団中に存在するEPCを表す。標的とされた星状細胞は、多くの低酸素網膜症で観察される同じタイプのものである。グリア細胞が、DR及び網膜損傷の他の形態で観察される新生血管葉の主要な成分であることは周知である。ヒトを含む多くの哺乳動物種で新生仔網膜血管鋳型形成中に観察されるのと同様に、グリオーシス及び虚血により誘発される血管新生の状態下で、活性化星状細胞の増殖によりサイトカインが産生されGFAPが上方制御される。
本発明のLin−HSC集団は、新生仔の眼で起こるように、成体マウスの眼において活性化星状細胞を標的とし、網膜に光凝固(図3(a))又は注射針による(図3(b))損傷がある成体の眼にLin−HSC細胞が注入された。両モデルにおいて、GFAPの顕著な染色がある細胞の集団は損傷部位の周囲のみで観察された(図3(a及びb))。注入されたLin−HSC組成物からの細胞は損傷部位に局在し、GFAP−陽性星状細胞と特異的に結合したままであった(図3(a及びb))。これらの部位で、深部網膜脈間構造の新生仔での形成の際に観察されるレベルと同様のレベルでLin−HSC細胞が網膜のより深い層に移動することもまた観察された。Lin−HSC細胞を含有しない網膜の非損傷部分は、Lin−HSCを正常な非損傷成体網膜に注入した場合に観察されるものと同一であった(図2(e))。これらのデータから、グリオーシスに罹患した損傷成体網膜ならびに血管形成が行われている新生仔網膜において、Lin−HSC組成物が選択的に活性化グリア細胞を標的とすることが示される。
硝子体内注入されたLin−HSCは、変性脈間構造を救出及び安定化することができる。
硝子体内注入Lin−HSC組成物は星状細胞を標的とし、正常網膜脈間構造に組み込まれるので、これらの細胞はまた、グリオーシス及び血管変性が関与する、虚血性もしくは変性網膜疾患において、変性脈間構造を安定化する。rd/rdマウスは、生後1カ月までに光受容体及び網膜血管層の完全な変性を示す網膜変性に対するモデルである。これらのマウスにおける網膜脈間構造は、より深部の血管叢が退行するP16まで正常に発生する;殆どのマウスにおいて、深部及び中間叢がP30までに完全に変性した。
HSCが退行血管を救出できるか否かを調べるために、Lin+又はLin−HSC(Balb/cマウスより)をP6でrd/rdマウス硝子体内に注入した。Lin+細胞注入後、P33までに、最深部網膜層の血管がほぼ完全に消失した(図4(A及びB))。一方、P33までの殆どのLin−HSC注入網膜の網膜脈間構造はほぼ正常であり、3層の平行な、よく形成された血管層があった(図4(a及びd))。この効果を定量したところ、Lin−注入rd/rd眼の深部血管叢の平均血管長が、非処置又はLin+細胞で処置した眼よりもほぼ3倍長かった(図4(e))。驚くべきことに、rd/rd成体マウス(FVB/N)骨髄由来のLin−HSC組成物の注入によってもまた、変性rd/rd新生仔マウス網膜脈間構造が救出される(図4(f))。rd/rdマウスの眼における脈間構造の変性は、生後2−3週という早期に観察される。P15という遅いLin−HSCの注入によってもまた、少なくとも1カ月間、rd/rdマウスにおける変性血管が部分的に安定化された(図4(g及びh))。
より幼若な(例えばP2)rd/rdマウスに注入されたLin−HSC組成物もまた、発生中の表面脈間構造に組み込まれた。P11までに、これらの細胞が深部血管叢のレベルに移動し、野生型の網膜外側の血管層で観察されるものと同一のパターンを形成することが観察された(図5(a))。注入されたLin−HSC組成物からの細胞がrd/rdマウスにおいて変性網膜脈間構造に取り込まれ、安定化する様式をより明らかに説明するために、Balb/cマウス由来のLin−HSC組成物をTie−2−GFP FVBマウスの眼に注入した。FVBマウスはrd/rd遺伝子型を有し、これらは融合タンパク質Tie−2−GFPを発現するので、内因性血管は全て蛍光を発する。
Lin−HSC組成物からの非標識細胞を新生仔Tie−2−GFP FVB眼に注入し、それが続いて発生中の脈間構造に取り込まれる場合、注入され、組み込まれた非標識Lin−HSCに対応する内因性のTie−2−GFP標識血管において非標識の間隙があるはずである。次いで、別の血管マーカー(例えばCD−31)を用いたその後の染色で血管全体の輪郭を描くことにより、非内因性内皮細胞が脈間構造の一部であるか否かについて調べることができる。注入から2カ月後、Lin−HSC組成物を注入した眼の網膜においてCD31−陽性のTie−2−GFP陰性血管を観察した(図5(b))。興味深いことに、救出された血管の大部分がTie−2−GFP陽性細胞を含有していた(図5(c))。平滑筋アクチンに対する染色により調べたところ、血管救出の有無にかかわらず、Lin−HSC注入によって周皮細胞の分布は変化しなかった(図5(d))。これらのデータから、本発明の硝子体内注入Lin−HSC組成物が網膜に移動し、正常網膜血管の形成に寄与し、遺伝的欠陥のあるマウスにおいて内因性の変性脈間構造を安定化させることがはっきりと示される。
Lin−HSCからのトランスフェクション細胞による網膜血管形成の抑制
網膜血管疾患の殆どは、変性よりむしろ異常な血管増殖を伴う。星状細胞を標的とするトランスジェニック細胞を使用して、抗血管形成タンパク質を送達し、血管形成を抑制することができる。Lin−HSC組成物からの細胞に対してT2−トリプトファニル−tRNAシンテターゼをトランスフェクションした(T2−TrpRS)。T2−TrpRSは、網膜血管形成を強く抑制するTrpRSの43kD断片である。(図6(a))。P12において、対照プラスミドをトランスフェクションしたLin−HSC組成物(T2−TrpRS遺伝子なし)をP2に注入された眼の網膜は、正常な一次(図6(c))及び二次(図6(d))網膜血管叢を有した。T2−TrpRSをトランスフェクションされた本発明のLin−HSC組成物をP2の眼に注入し、10日後に評価した場合、一次ネットワークは顕著に異常性を示し(図6(e))、深部網膜脈間構造の形成がほぼ完全に抑制された(図6(f))。これらの眼で観察された数個の血管は、血管間に大きな間隙を伴い顕著に減衰していた。T2−TrpRS分泌Lin−HSCによる抑制の程度を表2で詳細に記す。
Lin−HSC組成物における細胞によりインビトロでT2−TrpRSが産生及び分泌されるが、これらのトランスフェクション細胞を硝子体へ注入した後、網膜においてT2−TrpRSの30kD断片(図6(b))が観察された。この30kD断片は、トランスフェクションされた本発明のLin−HSCを注入された網膜においてのみ特異的に観察され、組み換え又はインビトロ合成タンパク質と比較して見かけの分子量が低下していることは、インビボでのT2−TrpRSのプロセシング又は分解によるものであり得る。これらのデータから、Lin−HSC組成物を使用して、活性化星状細胞を標的とすることによって血管新生抑制分子を発現する遺伝子などの機能的活性遺伝子を網膜脈間構造に送達することができることが示される。観察される血管新生抑制効果が細胞を介した活性によるものである可能性がある一方、同一であるがT2のトランスフェクションが行われていないLin−HSC組成物によって処置した眼が正常な網膜脈間構造を有していることから、この可能性は非常に低い。
網膜星状細胞に局在する硝子体内注入Lin−HSC集団は血管に取り込まれ、多くの網膜疾患を治療するのに有用であり得る。注入されたHSC組成物からの殆どの細胞が星状細胞鋳型に接着する一方、少数は網膜の深部へと移動し、深部血管ネットワークが後に発生するであろう領域に行く。出生後42日前にはこの領域でGFAP−陽性星状細胞が観察されなかったとしても、GFAP陰性グリア細胞が既に存在し、Lin−HSC局在に対するシグナルを与える可能性がないわけではない。以前の研究から、多くの疾患が反応性グリオーシスに関与することが示されている。DRにおいて、特に、グリア細胞及びそれらの細胞外マトリックスが病的な血管形成に関与する。
注入されたLin−HSC組成物からの細胞はGFAP発現グリア細胞に特異的に付着するので、損傷の種類にかかわらず、本発明のLin−HSC組成物を用いて、網膜における血管形成前の障害を標的とすることができる。例えば、糖尿病などの虚血性網膜症において、血管新生は低酸素に対する応答である。Lin−HSC組成物を病的な血管新生の部位に向けることにより、発生中の新生血管系を安定化して、出血又は浮腫などの新生血管系の異常(DRに伴う視覚喪失の原因)を防ぎ、元来血管新生を刺激していた低酸素が緩和される可能性がある。異常な血管を正常な状態に回復させることができる。さらに、トランスフェクションされたLin−HSC組成物及びレーザーにより誘発される星状細胞の活性化により、病的血管形成の部位にT2−TrpRSなどの血管新生抑制タンパク質を送達することができる。レーザー光凝固は眼科の臨床で一般に使用されているので、このアプローチは、多くの網膜疾患に対して応用性がある。このような細胞を利用したアプローチが癌の治療において探索されてきたが、眼内注入により多数の細胞を直接疾患部位に送達することができるようになるため、眼の疾患に対するそれらの使用はより有用性が高い。
Lin−HSCによる神経栄養及び血管栄養性救出
MACSを使用して、上述のように、強化緑色蛍光タンパク質(eGFP)、C3H(rd/rd)、FVB(rd/rd)マウスの骨髄からLin−HSCを分離した。これらのマウスからのEPCを含有するLin−HSCをP6 C3H又はFVBマウス眼に硝子体内注入した。注入後、様々な時点で網膜を回収した(1カ月、2カ月及び6カ月)。CD31に対する抗体により染色した後、走査型レーザー共焦点顕微鏡により、脈間構造を分析し、DAPIによる核染色後網膜の組織学を行った。様々な時点における網膜からのmRNAのマイクロアレイ遺伝子発現分析を使用して、また、この影響に関与する可能性のある遺伝子を同定した。
rd/rdマウスの眼は、P21までに、感覚神経網膜及び網膜脈間構造の両方が深刻に変性する。P6にLin−HSCで処置したrd/rdマウスの眼は、6カ月もの長い間正常な網膜脈間構造を維持し;全ての時点(1M、2M及び6M)において、対照と比較して、深部及び中間層の両方が顕著に改善した(図12参照。)。さらに、発明者らは、対照としてLin+HSCで処置した眼と比較して、Lin−HSCで処置した網膜はまた厚く(1M;1.2倍、2M;1.3倍、6M;1.4倍)、外顆粒層にはより多くの細胞が存在する(1M;2.2倍、2M;3.7倍、6M;5.7倍)ことを観察した。対照(非処置又は非Lin−処置)rd/rd網膜と比較した「救出された」(例えばLin−HSC)rd/rd網膜の大規模ゲノム解析により、sHSP(小分子熱ショックタンパク質)及び、図20のパネルA及びBに挙げるタンパク質をコードする遺伝子を含む、血管及び神経救出と相関した特異的な成長因子をコードする遺伝子が顕著に上方制御されることが分かった。
本発明の骨髄由来Lin−HSC集団は、顕著かつ再現性を持って、正常な脈間構造の維持を誘導し、rd/rdマウスにおいて光受容体及びその他の神経細胞層を顕著に増加させた。この神経栄養救出効果は、小分子熱ショックタンパク質及び成長因子の顕著な上方制御と相関し、現在治療できない網膜変性疾患に対する治療的アプローチへの手がかりを与える。
rd1/rd1マウス網膜は、激しい血管及びニュ―ロン変性を示す。
マウスにおける正常出生後網膜血管及びニューロン発生はよく分かっており、第三期ヒト胎児で観察される変化と同様である(Dorrellら、2002、Invest.Ophthaomol.Vis.Scl.43:3500−3510)。rd1遺伝子に対するマウスホモ接合体はヒト網膜変性と共通する多くの特徴があり(Frassonら、1999、Nat.Med.5:1183−1187)、PR cGMPホスホジエステラーゼをコードする遺伝子における突然変異の結果として、重篤な血管萎縮に伴う急速な光受容体(PR)損失を示す(Bowesら、1990、Nature 347:677−680)。網膜発生中の脈間構造及びその後の変性を調べるために、コラゲナーゼIV(CIV)、成熟脈間構造の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質及びCD31(PECAM−1)に対する抗体(内皮細胞に対するマーカー)を使用した(図15)。rd1/rd1(C3H/HeJ)の網膜は、光受容体含有外顆粒層(ONL)の変性が始まる出生後およそ(P)8まで正常に発生した。ONLは急速に変性し、細胞はアポトーシスにより死に、P20までに1層の核が残るのみとなった。ホールマウント網膜をCIV及びCD31の両方に対する抗体で二重染色することにより、その他の研究者により述べられているものと同様にrd1/rd1マウスにおける血管変性の詳細が明らかとなった(Blanksら、1986、J.Comp.Neurol.254:543−553)。一次及び深部網膜血管層は、P12まで正常に発生し、その後、CD31染色がないことにより分かるによう、内皮細胞の急速な損失が起こると思われた。P12まで、正常な分布においてCD31陽性内皮細胞が存在したが、その後急速に消失した。興味深いことに、CIV陽性染色は試験した全時点で存在し続け、このことから、血管及び関連するECMが正常に形成されることが示唆されるが、CD31陽性細胞が観察されなくなるP13後はマトリックスのみが残る(図15、中央パネル)。中間血管叢もまた、P21後に変性するが、進行は深部叢で観察されるものよりも遅い(図15、上パネル)。rd1/rd1マウスと比較するために、正常マウスの網膜血管及び神経細胞層を示す(右パネル、図15)。
rd1/rd1マウスにおける骨髄由来Lin−HSCの神経保護効果
硝子体内注入Lin−HSCは、3種類の血管叢全てにおいて内因性網膜脈間構造に取り込まれ、血管が変性するのを防ぐ。興味深いことに、注入された細胞は実際に外顆粒層で観察されない。これらの細胞は、形成中の網膜血管に組み込まれるか、又はこれらの血管の近接近で観察されるかのいずれかである。マウスLin−HSC(C3H/HeJより。)を、変性の開始直前、P6でC3H/HeJ(rd1/rd1)マウス眼に硝子体内注入した。P30までに、対照細胞(CD31−)注入した眼は典型的なrd1/rd1表現型を示し、つまり、試験した網膜全てにおいて、深部血管叢及びONLのほぼ完全な変性が観察された。Lin−HSCを注入した眼は、正常な外観の中間及び深部血管叢を維持した。驚くべきことに、対照細胞を注入した眼においてよりも、Lin−HSC注入眼の細胞核間層(INL)及びONLにおいて、顕著により多くの細胞が観察された(図16(A))。2カ月において(図16(B))、及び注入後6カ月の間(図16(C))、Lin−HSCのこの救出効果を観察することができた。Lin−HSC注入した眼の中間及び深部叢の脈間構造ならびにニューロン細胞含有INL及びONLの差は、救出及び非救出眼を比較した場合、全ての時点で有意であった(図16(B及びC))。脈間構造の全長を測定し(図16(D))、ONLにおいて観察されたDAPI陽性細胞核の数を数える(図16(E))ことにより、この影響を定量した。全時点で単純線形回帰分析をデータに適用した。
Lin−HSC注入眼(図16(F))において、P30(p<0.024)及びP60(p<0.034)で、血管救出とニューロン(例えばONLの厚さ)救出との間で、統計的に有意な相関が観察された。対照細胞注入網膜とLin−HSC注入網膜を比較した場合、P180において統計学的に有意ではないが(p<0.14)、相関性は高いままであった(図16(F))。一方、対照細胞注入網膜は、何れの時点でも脈間構造とONLとの保存の間で有意な相関関係を示さなかった(図16(F))。これらのデータから、rd1/rd1マウスの網膜において、Lin−HSCの硝子体内注入の結果、付随する網膜血管及びニューロン救出が起こることが示された。ONL又は網膜血管内もしくはその近接近以外の場所では注入細胞は観察されなかった。
Lin−HSC注入rd/rd網膜の機能的救出
対照細胞又はマウスLin−HSCの注入から2カ月後、マウスにおいて網膜電図(ERG)を行った(図17)。ERG記録後各眼を用いて免疫組織化学的分析及び顕微鏡分析を行い、血管及びニューロン救出が起こったことを確認した。処置、救出及び対照、非救出の眼からの代表的なERG記録から、救出された眼において、デジタル処理で差し引かれたシグナル(処置−非処置の眼)が、8−10マイクロボルトのオーダーの振幅で明らかに検出可能なシグナルを生じたことが示された(図17)。明らかに、両方の眼からのシグナルは非常に異常である。しかし、一致し、かつ検出可能なERGがLin−HSC処置した眼から記録可能であった。全ての場合において、対照眼からのERGは検出可能でなかった。救出された眼におけるシグナルの振幅が正常より著しく低かった一方、組織学的救出があり、それがその他の遺伝子を利用した救出実験により報告されているものの大きさであった場合は必ず、シグナルは一貫して観察された。全体的なこれらの結果は、本発明のLin−HSCを用いて処置された眼においてある程度の機能的救出があることの証明である。
救出されたrd/rd網膜細胞タイプは主に錐体である。桿体及び錐体オプシンに対して特異的な抗体を用いて、救出された、及び非救出の網膜を免疫組織化学的に分析した。桿体及び錐体オプシンに対して、図17で示されるERG記録に使用した同じ眼を分析した。野生型マウス網膜において、存在する光受容体の約5%未満が錐体であり(Soucyら 1998、Neuron 21:481−493)、図25(A)において示されるような赤/緑錐体オプシン又は図25(B)において示されるような桿体ロドプシンを用いて観察される免疫組織化学染色パターンは、錐体細胞のこの割合と一致した。野生型網膜を免疫前IgGで染色した場合、血管の自己蛍光以外は感覚神経網膜のどこでも染色は観察されなかった(図25(C))。出生から2カ月後、非注入rd/rdマウスの網膜の外顆粒層は、基本的に萎縮性であり、赤緑錐体オプシン(図25(d))又はロドプシン(図25(G))に対する抗体で全く染色が示されなかった。対照、CD31−HSCを注入した眼も、錐体(図25(E))又は桿体(図25(H))オプシンの存在に対して陽性染色されなかった。一方、Lin−HSCを注入された逆側の眼は、保存された外顆粒層において約3から約8列の核があった;これらの細胞の殆どが錐体オプシンに対して陽性であり(図25(F))、桿体オプシンに対しておよそ1−3%陽性であった(図25(I))。顕著に、これは、桿体が主体である正常なマウス網膜で普通観察されるものの殆ど逆である。これらのデータから、Lin−HSCの注入により、普通は変性する長期間にわたり、錐体が保存されることが示される。
ヒト骨髄(hBM)由来Lin−HSCもまた変性網膜を救出する。
ヒト骨髄から単離されたLin−HSCは、マウスLin−HSCと同様の挙動を示す。ヒトドナーから骨髄を回収し、Lin+HSCを除去し、ヒトLin−HSC(hLin−HSC)集団を得た。蛍光色素を用いてこれらの細胞をエクスビボで標識し、C3SnSmn.CB17−Prkdc SCIDマウスの眼に注入した。注入されたhLin−HSCは、マウスLin−HSCを注入した場合に観察されるのと同一の様式で網膜血管形成部位に移動し、これを標的とした(図18(A))。血管標的化に加えて、ヒトLin−HSCはまた、rd1/rd1マウスの血管及び神経細胞層の両方で強力な救出効果を与えた(図18(B及びC))。この観察から、ヒト骨髄において、網膜脈間構造を標的とし網膜変性を防ぐことができる細胞の存在が確認される。
rd10/rd10マウスにおいて、Lin−HSCは、血管及び神経栄養効果を有する。rd1/rd1マウスが最も広く使用され、網膜変性に対して特徴が最もよく知られたモデルである一方(Changら、2002、Vision Res.42:517−525)、変性は非常に急速であり、この点でヒト疾患で観察される通常のより遅いタイムコースとは異なる。この系統において、光受容体細胞変性はP8前後で開始するが、これは網膜脈間構造がまだ急速に広がっている時期である(図15)。中間叢がまだ形成中である間も、深部網膜脈間構造の続発性の変性が起こり、したがって、この疾患の殆どのヒトで観察されるものとは異なり、rd1/rd1マウスの網膜は完全に発生することはない。変性のタイムコースがより遅く、ヒト網膜変性状態により類似するrd10マウスモデルを使用して、Lin−HSCが介在する血管救出を調べた。rd10マウスにおいて、光受容体細胞変性はP21前後で始まり、血管変性はその少し後に始まる。
正常な感覚神経網膜発生はP21までにほぼ完成され、網膜が完全に分化した後に変性が始まることが観察され、このように、rd1/rd1マウスモデルよりもヒト網膜変性に類似している。rd10マウスからのLin−HSC又は対照細胞をP6の眼に注入し、様々な時点で網膜を評価した。P21において、Lin−HSC及び対照細胞注入の眼の両方からの網膜は全血管層が完全に発生し、INL及びONLが正常に発生しており、正常と思われた。(図18(D及びH))。P21前後において、網膜変性が始まり、齢とともに進行した。P30までに、対照細胞注入網膜は重度の血管及びニューロン変性を示し(図18(I))、一方でLin−HSC注入網膜は、ほぼ正常な血管層及び光受容体細胞を維持した(図18(E))。救出された眼と非救出の眼との間の差は、後期の時点であるほどより顕著であった(図18(F及びG)と18(J及びK)を比較。)。対照処置した眼において、CD31及びコラゲナーゼIVに対する免疫組織化学染色により、血管変性の進行が非常に明らかに観察された(図18(I−K))。対照処置した眼は、CD31に対してほぼ完全に陰性であり、一方、コラーゲンIV陽性血管「痕跡」は依然として明らかであり、このことから、不完全な血管形成というよりむしろ血管退行が起こったことが示唆された。一方、Lin−HSC処置した眼は、正常の野生型の眼と非常に類似して見える、CD31及びコラーゲンIV陽性血管の両方があった(図18(F及びI)を比較)。
Lin−HSC処置後のrd/rdマウス網膜の遺伝子発現分析
大規模ゲノミクス(マイクロアレイ分析)を使用して、神経栄養性救出の推定されるメディエーターを同定するために、救出及び非救出網膜を分析した。非注入網膜ならびに対照細胞(CD31−)を注入した網膜と、Lin−HSC処置したrd1/rd1マウス網膜における遺伝子発現を比較した。トリプリケートでこれらの比較それぞれを行った。存在を考慮すると、3回のトリプリケート実験の全てにおいてバックグラウンドレベルよりも少なくとも2倍高い発現レベルを遺伝子が有することが必要である。対照細胞注入及び非注入rd/rdマウス網膜と比較してLin−HSC保護網膜において3倍上方制御された遺伝子を図20、パネルA及びBで示す。各cRNAレプリケートの平均発現レベルで標準偏差を割ることにより、発現された遺伝子に対して変動係数(COV)レベルを計算した。さらに、平均及び標準偏差(SD)を相互に関係付けることにより、発現レベルと雑音分散との間の相関関係を計算した。各遺伝子に対する遺伝子発現レベルと標準偏差との間の相関関係を得て、これにより、バックグラウンドレベル及び信頼性のある発現レベル閾値を決定できる。総じて、データは許容可能な限界内によく収まった(Tuら、2002、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:14031−14036)。以下で個々に考察される遺伝子は、これらの臨界的な発現レベルを上回る発現レベルを示した。考察される遺伝子に対する対応のある「t検定」の値も表1で与える。各場合において、p値は相応なものであり(0.05付近又は以下)、このことから、異なる試験群間でのレプリケートと可能性のある有意差との間に類似性があることが示される。MAD及びYing Yang−1(YY−1)(Austenら、1997、Curr.Top.Microbioil.Immunol.224:123−130)を含む顕著に上方制御される遺伝子の多くは、アポトーシスからの細胞の保護と関連する機能を有するタンパク質をコードする。ストレスから細胞を保護することに関与する公知の熱ショックタンパク質に対して配列ホモロジー及び類似の機能を有する多くのクリスタリン遺伝子もまた、Lin−HSC処置により上方制御された。免疫組織化学分析によると、α−クリスタリンの発現はONLに局在していた(図19)。図19は、Lin−HSC処置後、救出された外顆粒層細胞においてクリスタリンαAが上方制御されるが、対照細胞で処置した逆側の眼では上方制御されないことを示す。左パネルは、救出された網膜におけるIgG染色(対照)を示す。中央のパネルは、救出された網膜におけるクリスタリンαAを示す。右パネルは、非救出網膜におけるクリスタリンαAを示す。
ヒトLin−HSCにより救出されたrd1/rd1マウス網膜からのメッセンジャーRNAをヒト特異的Affymetrix U133Aマイクロアレイチップにハイブリダイズさせた。ストリンジェントな分析後、mRNA発現がヒト特異的であり、バックグラウンドを上回り、ヒトLin−HSC救出網膜において、マウスLin−HSC救出網膜及びヒト対照細胞注入非救出網膜と比較して顕著に高い、多くの遺伝子が見出された(図20、パネルC)。幼若及び新しく分化したCD34+造血幹細胞の表面で発現される細胞接着分子であるCD6及び、造血幹細胞により発現される別の遺伝子であるインターフェロンα13の両方が、マイクロアレイバイオインフォマティクス技術により見出され、評価プロトコールの正当性が確認された。さらに、ヒトLin−HSC救出マウス網膜試料により、バックグラウンドを上回り、いくつかの成長因子及び神経栄養因子が発現された(図20、パネルD)。
系統が決まっている造血細胞に対するマーカーを使用して、EPCを含有する骨髄由来Lin−HSCの集団をネガティブ選択した。EPCとして機能し得る骨髄由来Lin−HSCのサブ集団の特徴が、一般に使用される細胞表面マーカーによって分からない一方、発生中又は損傷のある網膜脈間構造におけるこれらの細胞の挙動は、Lin+又は成体内皮細胞集団に対して観察されるものと完全に異なっている。これらの細胞は選択的に、網膜血管形成の部位を標的とし、開存血管の形成に寄与する。
遺伝性網膜変性疾患には網膜脈間構造の喪失が伴うことが多い。このような疾患の効果的な治療には、機能の回復ならびに複雑な組織構造の維持が必要である。いくつかの最近の研究により細胞を利用した栄養因子の送達又は幹細胞そのものの使用が探索されてきた一方で、両者のある組み合わせが必要であり得る。例えば、網膜変性疾患を治療するための成長因子療法の使用の結果、制御されない血管の過剰成長が起こり、その結果、正常網膜組織構造の重大な破壊が起こる。網膜変性疾患を治療するために神経又は網膜幹細胞を使用することによりニューロン機能が再構成され得るが、機能的な脈間構造にはまた、網膜機能の完全性を維持することも必要とされる。rd/rdマウスの網膜血管への本発明のLin−HSCからの細胞の組み込みにより、網膜構造を破壊することなく変性脈間構造が安定化された。この救出効果はまた、P15のrd/rdマウスに細胞を注入した場合にも観察された。rd/rdマウスにおいて血管変性がP16から始まるので、この観察により効果的なLin−HSC治療に対する治療域が広がる。本発明のLin−HSCを注入した眼において、網膜ニューロン及び光受容体が保存され、視覚機能が維持される。成体骨髄由来Lin−HSCは、網膜変性疾患のマウスに硝子体内注入された場合、著しい血管及び神経栄養効果を発揮する。この救出効果は、処置後6カ月まで持続し、完全な網膜変性前(通常、出生後30日までに完全な網膜変性を示すマウスにおいて出生後16日まで)にLin−HSCが注入された場合に最も効果的である。この救出は網膜変性の2種類のマウスモデルにおいて観察され、注目すべきことに、レシピエントが網膜変性のある免疫不全げっ歯類(例えばSCIDマウス)である場合、及びドナーが網膜変性のあるマウスである場合、成人ヒト骨髄由来HSCを用いて遂行することができる。いくつかの最近の報告が、ウイルスを利用した野生型遺伝子による遺伝子救出後の、網膜変性のあるマウス又はイヌにおける表現型救出を記載している一方(Aliら、2000、Nat Genet 25:306-310;Takahashiら、1999、J.Virol.73:7812−7816;Aclandら2001、Nat.Genet.28:92−95)、本発明は、血管救出により達成される、包括的な細胞を利用した最初の治療効果である。したがって、100を超える公知の関連突然変異を伴う疾患群(例えば網膜色素変性)の治療におけるこのようなアプローチの潜在的有用性は、各公知の突然変異を処置するために個々の遺伝子治療を作るよりも実際的である。
神経栄養救出効果の正確な分子的機序は分かっていないが、この効果は同時に血管安定化/救出があるときのみ観察される。注入幹細胞の存在それ自身は神経栄養救出を行うのに十分ではなく、外顆粒層において幹細胞由来ニューロンがないことが明確であることから、注入細胞が光受容体に形質転換される可能性は除外される。マイクロアレイ遺伝子発現分析により得られるデータから、抗アポトーシス効果を有することが知られている遺伝子が顕著に上方制御されることが示された。網膜変性において観察される殆どのニューロン死がアポトーシスによるものであるため、このような保護は光受容体及びこれらの疾患における視覚機能に重要なその他のニューロンの寿命を延長するのに治療上非常に有用であり得る。c−mycは、様々な下流アポトーシス誘発因子を上方制御することによりアポトーシスに寄与する転写因子である。野生型を上回り、rd/rdマウスにおいてC−myc発現が4.5倍増加したが、このことから、rd1/rd1マウスにおいて観察される光受容体変性へ関与する可能性があることが示唆される。Lin−HSC保護網膜において劇的に上方制御される2種類の遺伝子、Mad1及びYY−1(図20、パネルA)は、c−mycの活性を抑制することが知られており、従って、c−myc誘発性アポトーシスを抑制する。Mad1の過剰発現が、アポトーシス経路の別の重要な成分であるカスパーゼ−8のFas誘発性活性化を抑制することも示されている。これらの2種類の分子の上方制御は、通常rd/rdマウスにおいて変性に導くアポトーシスの開始を防ぐことにより、血管及び神経変性から網膜を保護することに寄与し得る。
Lin−HSC保護網膜において大きく上方制御された別の一連の遺伝子としては、クリスタリンファミリーのメンバーが挙げられる(図20、パネルB)。熱ショック及びその他のストレス誘発性タンパク質と同様に、クリスタリンは、網膜のストレスにより活性化され得、アポトーシスに対する保護効果を与え得る。αA−クリスタリンの発現が異常に低いことは、網膜萎縮のラットモデルにおける光受容体損失と相関があり、rd/rdマウスにおける網膜の最近のプロテオミクス分析から、網膜変性に反応してクリスタリンの上方制御が誘発されることが示された。EPC救出rd/rdマウス網膜の、発明者らのマイクロアレイデータに基づき、クリスタリンの上方制御は、EPC介在性網膜神経保護において重要な役割を果たすと思われる。
c−myc、Mad1、Yx−1及びクリスタリンなどの遺伝子は、ニューロン救出の下流メディエーターであると思われる。神経栄養因子は、抗アポトーシス遺伝子発現を制御することができるが、マウス幹細胞により救出された網膜の、発明者らのマイクロアレイ分析から、公知の神経栄養因子のレベル向上の誘発は示されなかった。一方、ヒト特異的チップを用いたヒト骨髄由来幹細胞介在性救出の分析から、複数の成長因子遺伝子の発現が低いながらも顕著に向上することが示された。上方制御される遺伝子としては、繊維芽細胞増殖因子ファミリーのいくつかのメンバー及びオトフェリンが挙げられる。オトフェリン遺伝子における突然変異は、聴力ニューロパチーによる難聴に結びつく遺伝的疾患と関連がある。注入されたLin−HSCによるオトフェリン産生は、網膜ニューロパチーの予防にも寄与する可能性がある。組織学的に、網膜変性のある患者及び動物で観察される血管変化は、光受容体の死の際に代謝要求が低下することに続く二次的なものであると長い間推定されてきた。今回のデータから、少なくとも遺伝性網膜変性のマウスに対して、正常な血管の保持は、同様に外顆粒層の成分の維持を促進し得ることが示される。文献における最近の報告は、組織特異的脈間構造が、単純に血管「栄養」を与えることから予想されるものを超える栄養作用を有するという概念を支持する。例えば、肝臓内皮細胞は、肝臓損傷に直面して、VEGFR1活性化後に、肝細胞再生及び維持に重要な成長因子を産生するように誘導され得る(LeCouterら、2003、Science 299:890−893)。
血管内皮細胞と、隣接する肝実質細胞との間の同様の指標となる相互作用は、報告によれば、機能的血管の形成よりかなり前に肝臓の器官形成に関与する。網膜変性のある個体における内因性網膜脈間構造は、それ程劇的には救出を促進しないと思われるが、この脈間構造が骨髄造血幹細胞集団由来の内皮前駆体により強化される場合、これらは変性に対する脈間構造の耐性をより強化し得、同時に、網膜ニューロンならびに血管の生存を促進し得る。網膜変性のあるヒトにおいて、完全な網膜変性の発症を遅延させることにより、視覚を保持する年月を延長させることができる。本発明のLin−HSCで処置した動物はERGを顕著に保持し、それは視覚をサポートするのに十分であり得る。
臨床的に、機能的視覚を保持しながら、光受容体及びその他のニューロンを実質的に喪失することがあり得ることが広く認識されている。ある時点で、限界となる閾値を超え、視覚が失われる。ヒトの遺伝性網膜変性のほぼ全てが早発型であるがゆっくりとしたものであるため、網膜変性のある個体を同定し、本発明の自家骨髄幹細胞の移植物を用いて硝子体内処置して、網膜変性及び付随する視覚喪失を遅らせることができる。本発明の幹細胞の標的化及び組み込みを促進するために、活性化星状細胞の存在が望ましい(Otaniら、2002、Nat.Med.8:1004−1010);関連するグリオーシスがある場合の早期治療により、又は活性化星状細胞の局所的増殖を刺激するためにレーザーを使用することにより、これを遂行することができる。場合によっては、眼内注入前に1以上の神経栄養物質を伴う幹細胞のエクスビボトランスフェクションを使用し、救出効果を促進することができる。網膜神経節細胞変性がある、緑内症などのその他の視覚ニューロン変性疾患の治療に対してこのアプローチを適用することができる。
本発明のLin−HSC集団は、反応性星状細胞を標的とすることにより血管形成を促進することができ、網膜構造を破壊することなく、確立された鋳型に取り込まれ得るEPCの集団を含有する。本発明のLin−HSCはまた、網膜変性に罹患した眼において驚くべき長期間の神経栄養救出効果も与える。さらに、EPCを含有する、遺伝子改変した自家Lin−HSC組成物を虚血性又は異常に血管形成が起こっている眼に移植することができ、新しい血管及びニューロン層に安定に取り込まれ得、長期間にわたり、局所的に治療用分子を連続して送達することができる。生理的に意味のある用量で薬理学的物質を発現する遺伝子のこのような局所送達により、現在治療できない眼疾患を治療するための新しいパラダイムが示される。
正常マウス網膜における光受容体は、例えば、殆ど桿体であるが、本発明のLin−HSCによる救出後に観察される外顆粒層は、主に錐体を含有していた。殆どの遺伝性ヒト網膜変性は、初期の桿体特異的欠損の結果として起こり、錐体の喪失は、桿体機能不全に続いて起こるものと考えられており、これは、桿体により発現されるいくつかの栄養因子の喪失に関連すると思われる。Lin−HSCにより促進される、桿体/網膜変性に直面した錐体の生存を誘発する本方法により、網膜色素変性などの疾患において錐体が多数を占めるヒト黄斑をよりよく保持するための方法が得られる。
本発明の新規の特性の精神及び範囲から逸脱することなく、上述の実施形態の多数の変形及び修飾が為され得る。本明細書中で説明される具体的な実施形態は非限定的なものとし、又は、そのように解釈されるべきである。
図1は発生中のマウス網膜の概略図を示し、(a)一次叢の発生、(b)網膜血管形成の第二相である。GCL、神経細胞層;IPL、内網状層;INL、内顆粒層;OPL、外網状層;ONL、外顆粒層;RPE、網膜色素上皮;ON、視神経;P、辺縁部。パネル(c)は、骨髄由来Lin+HSC及びLin−HSC分離細胞のフローサイトメトリーの特徴を示す。上段:非抗体標識細胞のドットプロット分布、ここで、R1は陽性PE染色の定量可能なゲートエリアを定義し;R2はGFP−陽性を示す;中段:Lin−HSC(C57B/6);下段:Lin+HSC(C57B/6)細胞、Sca−1、c−kit、Flk−1/KDR、CD31に対するPE結合抗体により標識した各細胞系列。Tie−2−GFPマウスからTie−2データを得た。%は、総Lin−HSC又はLin+HSC集団からの、陽性標識細胞の%を示す。
図1は発生中のマウス網膜の概略図を示し、(a)一次叢の発生、(b)網膜血管形成の第二相である。GCL、神経細胞層;IPL、内網状層;INL、内顆粒層;OPL、外網状層;ONL、外顆粒層;RPE、網膜色素上皮;ON、視神経;P、辺縁部。パネル(c)は、骨髄由来Lin+HSC及びLin−HSC分離細胞のフローサイトメトリーの特徴を示す。上段:非抗体標識細胞のドットプロット分布、ここで、R1は陽性PE染色の定量可能なゲートエリアを定義し;R2はGFP−陽性を示す;中段:Lin−HSC(C57B/6);下段:Lin+HSC(C57B/6)細胞、Sca−1、c−kit、Flk−1/KDR、CD31に対するPE結合抗体により標識した各細胞系列。Tie−2−GFPマウスからTie−2データを得た。%は、総Lin−HSC又はLin+HSC集団からの、陽性標識細胞の%を示す。
図2は、発生中のマウス網膜へのLin−HSCの移植を示す。(a)注入から4日後(P6)、硝子体内注入されたeGFP+Lin−HSC細胞が網膜に接着し、分化する。(b)Lin−HSC(β−gal抗体で染色した、B6.129S7−Gtrosaマウス)は、コラーゲンIV抗体で染色される脈間構造の先端でそれら自身を確立する(星印は脈間構造の先端を示す)。(c)注入4日後(P6)のLin+HSC細胞(eGFP+)の殆どが分化できなかった。(d)注入4日後(P6)の腸間膜eGFP+マウスEC。(e)成体マウス眼に注入したLin−HSC(eGFP+)。(f)GFAP−GFPトランスジェニックマウスにおいて、既に存在する星状細胞鋳型へ行き、それに沿って分化するeGFP+Lin−HSC(矢印)の低倍率。(g)Lin−細胞(eGFP)と下層の星状細胞(矢印)との間の関係の高倍率。(h)非注入GFAP−GFPトランスジェニック対照。(i)注入4日後(P6)、eGFP+Lin−HSCが将来の深部叢の領域に移動し、分化する。左図は、ホールマウントの網膜でのLin−HSC活性を捕らえ;右図は、網膜におけるLin−細胞(矢印)の位置を示す(上は硝子体側、下は強膜側)。(j)α−CD31−PE及びα−GFP−alexa488抗体による二重染色。注入7日後、注入したLin−HSC(eGFP)、赤)が脈間構造に組み込まれた(CD31)。矢印は、組み込まれた領域を示す。(k)注入後14日(P17)に、eGFP+Lin−HSC細胞が血管を形成する。(l及びm)ローダミン−デキストランの心臓内投与から、血管がインタクトであり、一次(l)及び深部(m)叢の両方で機能的であることが示される。
図2は、発生中のマウス網膜へのLin−HSCの移植を示す。(a)注入から4日後(P6)、硝子体内注入されたeGFP+Lin−HSC細胞が網膜に接着し、分化する。(b)Lin−HSC(β−gal抗体で染色した、B6.129S7−Gtrosaマウス)は、コラーゲンIV抗体で染色される脈間構造の先端でそれら自身を確立する(星印は脈間構造の先端を示す)。(c)注入4日後(P6)のLin+HSC細胞(eGFP+)の殆どが分化できなかった。(d)注入4日後(P6)の腸間膜eGFP+マウスEC。(e)成体マウス眼に注入したLin−HSC(eGFP+)。(f)GFAP−GFPトランスジェニックマウスにおいて、既に存在する星状細胞鋳型へ行き、それに沿って分化するeGFP+Lin−HSC(矢印)の低倍率。(g)Lin−細胞(eGFP)と下層の星状細胞(矢印)との間の関係の高倍率。(h)非注入GFAP−GFPトランスジェニック対照。(i)注入4日後(P6)、eGFP+Lin−HSCが将来の深部叢の領域に移動し、分化する。左図は、ホールマウントの網膜でのLin−HSC活性を捕らえ;右図は、網膜におけるLin−細胞(矢印)の位置を示す(上は硝子体側、下は強膜側)。(j)α−CD31−PE及びα−GFP−alexa488抗体による二重染色。注入7日後、注入したLin−HSC(eGFP)、赤)が脈間構造に組み込まれた(CD31)。矢印は、組み込まれた領域を示す。(k)注入後14日(P17)に、eGFP+Lin−HSC細胞が血管を形成する。(l及びm)ローダミン−デキストランの心臓内投与から、血管がインタクトであり、一次(l)及び深部(m)叢の両方で機能的であることが示される。
図3は、成体網膜において、レーザー(a)及び機械的なもの(b)の両方により誘発された損傷で、eGFP+Lin−HSC細胞がグリオーシスに行くこと(GFAP発現星状細胞により示される。一番左側の画像)を示す(星印は損傷部位を示す。)。一番右側の画像は、高倍率のものであり、Lin−HSCと星状細胞との密接な関係を表す。較正バー=20μM。
図4は、Lin−HSC細胞が、網膜変性マウスの脈間構造を救出することを示す。(a−d)コラーゲンIV染色を行った、注入27日後(P33)の網膜;(a)及び(b)、Lin+HSC細胞(Balb/c)を注入した網膜は、正常FVBマウスとの脈間構造の差を示さなかった;(c)及び(d)Lin−HSCs(Balb/c)を注入した網膜は、野生型マウスと同様、豊富な血管ネットワークを示した;(a)及び(c)、DAPI染色を行った網膜全体の凍結切片(上は硝子体側、下は強膜側);(b)及び(d)、網膜ホールマウントの深部叢;(e)Lin−HSC細胞注入網膜において形成される深部血管叢の脈間構造の増加を説明する棒グラフ(n=6)。各画像内の血管の全長を計算することにより、深部網膜血管形成の程度を定量した。Lin−HSC、Lin+HSC又は対照の網膜に対する血管/高倍率視野の平均全長(ミクロン)を比較した。(f)rd/rdマウスからの、Lin−HSC(R、右眼)又はLin+HSC(L、左眼)細胞注入後の深部血管叢の長さの比較。6匹の別個のマウスの結果を示す(各色は各マウスを表す。)。(g)及び(h)P15の眼に注入した場合、Lin−HSC細胞もまた(Balb/c)rd/rd脈間構造を救出した。Lin−HSC(G)又はLin+HSC(H)細胞注入網膜の中間及び深部血管叢を示す(注入から1カ月後)。
図5は、マウス網膜組織の顕微鏡写真を示す:(a)網膜ホールマウントの深部層(rd/rdマウス)、可視化した(灰色)eGFP+Lin−HSC注入5日後(P11)、(b)及び(c)P6で注入した、Balb/cLin−細胞(b)又はLin+HSC細胞(c)を受けたTie−2−GFP(rd/rd)マウスのP60網膜脈間構造。(b)及び(c)の左パネルにおいて内因性の内皮細胞(GFP染色)のみが見える。(b)及び(c)の中央のパネルはCD31抗体で染色されている;矢印は、CD31により染色されているが、GFPで染色されていない血管を示し、(b)及び(c)の右パネルはGFP及びCD31両方で染色されているものを示す。(d)Lin−HSC注入網膜(左パネル)及び対照網膜(右パネル)のα−SMA染色。
図6は、T2−TrpRS−トランスフェクションLin−HSCがマウス網膜の脈間構造の発生を抑制することを示す。(a)アミノ末端にIgkシグナル配列を有するヒトTrpRS、T2−TrpRS及びT2−TrpRSの略図。(b)T2−TrpRSトランスフェクションLin−HSC注入網膜がT2−TrpRSタンパク質をインビボで発現する。(1)E.コリで産生された組み換えT2−TrpRS;(2)E.コリで産生された組み換えT2−TrpRS;(3)E.コリで産生された組み換えT2−TrpRS;(4)対照網膜;(5)Lin−HSC+pSecTag2A(ベクターのみ)注入網膜;(6)Lin−HSC+pKLe135(pSecTagにおけるIgk−T2−TrpRS)注入網膜。(a)内因性TrpRS。(b)組み換えT2−TrpRS。(c)Lin−HSC注入網膜のT2−TrpRS。(c−f)注入網膜の代表的な一次(表面)及び二次(深部)叢、注入から7日後;(c)及び(d)空のプラスミドをトランスフェクションされたLin−HSCを注入した眼は正常に発生した;(e)及び(f)T2−TrpRSトランスフェクションLin−HSC注入した眼の多くが深部叢の抑制を示した;(c)及び(e)一次(表面)叢;(d)及び(f)二次(深部)叢。(f)で観察される血管の淡い線は、(e)で示される一次ネットワーク血管の「滲み出し(bleed−through)」画像である。
図7はHis6−タグ付加T2−TrpRSをコードするDNA配列、配列番号1を示す。
図7はHis6−タグ付加T2−TrpRSをコードするDNA配列、配列番号1を示す。
図8はHis6−タグ付加T2−TrpRSのアミノ酸配列、配列番号2を示す。
図9は、本発明のLin−HSC及びLin+HSC(対照)を眼に注入されたマウスからの網膜の顕微鏡写真及び網膜電図(ERG)を示す。
図10は、Lin−HSCで処置したrd/rdマウスの眼の、中間(Int.)及び深部血管層の両方に対する、ニューロン救出(y軸)と血管救出(x軸)との間の相関を示す統計プロットを示す。
図11は、Lin+HSCで処置したrd/rdマウスの眼に対して、ニューロン救出(y軸)と血管救出(x軸)との間で相関がないことを示す統計プロットを示す。
図12は、注入から1カ月(1M)、2カ月(2M)及び6カ月(6M)後の時点での、Lin−HSC処置したrd/rdマウスの眼(濃色の棒)及び非処置のrd/rdマウスの眼(淡色の棒)に対する、任意の相対単位での血管長(y軸)の棒グラフである。
図13は、注入から1カ月(1M)、2カ月(2M)及び6カ月(6M)後の、rd/rdマウスの外顆粒層(ONR)での核数の3個の棒グラフを含み、Lin+HSCで処置した対照の眼(淡色の棒)と比較した、Lin−HSCで処置した眼(濃色の棒)に対する核数の有意な増加を示す。
図14は、1カ月(1M)、2カ月(2M)及び6カ月(6M)(注入後)の時点での、左眼(L、Lin+HSC処置した対照眼)に対して右眼(R、Lin−HSC処置)を比較した、個々のrd/rdマウスに対する、外顆粒層における核数のプロットを示し;所定プロットの各線は、個々のマウスの眼を比較する。
図15は、rd1/rd1(CH3/HeJ、左パネル)又は野生型マウス(C57BL/6、右パネル)における、網膜脈間構造及び神経細胞の変化を示す。ホールマウント網膜における、中間(上パネル)又は深部(中央パネル)血管叢の網膜脈間構造(赤:コラーゲンIV、緑:CD31)及び同じ網膜の切片(赤:DAPI、緑:CD31、下パネル)を示す(P:出生後日数)。(GCL:神経節細胞層、INL:内顆粒層、ONL:外顆粒層)。
図16は、rd1/rd1マウスにおける神経細胞の変性をLin−HSC注入が救出することを示す。(A、B及びC)、P30(A)、P60(B)及びP180(C)での、中間(Int.)又は深部叢の網膜脈間構造及びLin−HSCを注入した眼の切片(右パネル)及び逆側の対照細胞(CD31−)を注入した眼(左パネル)。(D)、P30(左、n=10)、P60(中央、n=10)及びP180(右、n=6)での、Lin−HSC注入又は対照細胞(CD31−)注入網膜における脈間構造の平均全長(平均の+又は−標準誤差)。中間(Int.)及び深部血管叢のデータを別々に示す(Y軸:脈間構造の相対長)。(E)、対照細胞(CD31−)又はLin−HSC注入網膜のP30(左、n=10)、P60(中央、n=10)及びP180(右、n=6)での、ONLにおける細胞核の平均数(Y軸:ONLにおける細胞核の相対数)。(F)、Lin−HSC又は対照細胞注入網膜の、P30(左)、P60(中央)及びP180(右)での、脈間構造の長さ(X軸)とONLにおける細胞核数(Y軸)との間の線形相関。
図17は、Lin−HSC注入により網膜機能が救出されることを示す。網膜電図(ERG)記録を用いて、Lin−HSC又は対照細胞(CD31−)注入網膜の機能を測定した(A及びB)。注入2カ月後の、救出された、及び救出されなかった網膜の代表的なケース。同じ動物の、Lin−HSC注入の右眼(a)及びCD31−対照細胞注入左眼(b)の網膜切片を示す(緑:CD31染色脈間構造、赤:DAPI染色核)。(C)、同じ動物からのERGの結果を(A及びB)で示す。
図18は、ヒト骨髄細胞がrd1マウスにおいて変性網膜を救出できることを示す(A−C)。網膜変性の別のモデル、rd10においても救出がまた観察される(D−K)。A、緑色色素で標識したヒトLin−HSC(hLin−HSC)は、C3SnSmn.CB17−Prkdc SCIDマウスへの硝子体内注入後に網膜血管細胞に分化することができる。(B及びC)、注入1.5カ月後の、hLin−HSCを注入した眼(b)又は逆側の対照の眼(C)における網膜脈間構造(左パネル;上:中間叢、下:深部叢)及び神経細胞(右パネル)。(D−K)、Lin−HSC(P6で注入)によるrd10マウスの救出。P21(D:Lin−HSC、H:対照細胞)、P30(E:Lin−HSC、I:対照細胞)、P60(F:Lin−HSC、J:対照細胞)及びP105(G:Lin−HSC、K:対照細胞)における代表的な網膜を示す(各時点の、処置眼及び対照眼は、同じ動物由来である。)。網膜脈間構造(各パネルの上の画像は中間叢であり;各パネルの中央の画像は深部叢である。)をCD31(緑)及びコラゲナーゼIV(赤)で染色した。各パネルの下の画像は、同じ網膜から作製した横断面を示す(赤:DAPI、緑:CD31)。
図19は、Lin−HSCによる処置後、救出された外顆粒層細胞において、クリスタリンαAが上方制御されるが、対照細胞で処置した逆側の眼で上方制御されないことを示す。左パネル;救出された網膜におけるIgG対照、中央パネル;救出された網膜におけるクリスタリンαA、右パネル;非救出網膜におけるクリスタリンαA。
図20は、本発明のLin−HSCを用いて処置したマウス網膜において上方制御される遺伝子の表を含む。(A)マウスLin−HSCを用いて処置したマウス網膜において発現が3倍上昇する遺伝子。(B)マウスLin−HSCを用いて処置したマウス網膜において上方制御されるクリスタリン遺伝子。(C)ヒトLin−HSCを用いて処置したマウス網膜において発現が2倍上昇する遺伝子。(D)ヒトLin−HSCを用いて処置したマウス網膜において発現が上方制御される神経栄養因子又は成長因子に対する遺伝子。
図20は、本発明のLin−HSCを用いて処置したマウス網膜において上方制御される遺伝子の表を含む。(A)マウスLin−HSCを用いて処置したマウス網膜において発現が3倍上昇する遺伝子。(B)マウスLin−HSCを用いて処置したマウス網膜において上方制御されるクリスタリン遺伝子。(C)ヒトLin−HSCを用いて処置したマウス網膜において発現が2倍上昇する遺伝子。(D)ヒトLin−HSCを用いて処置したマウス網膜において発現が上方制御される神経栄養因子又は成長因子に対する遺伝子。
図21は、本発明の、CD133陽性(DC133+)及びCD133陰性(CD133−)ヒトLin−HSC集団における、CD31及びインテグリンα6表面抗原の分布を示す。左パネルは、フローサイトメトリーの散布図を示す。中央及び右パネルは、細胞集団における特異的な抗体発現のレベルを示すヒストグラムである。Y軸は、事象数を表し、X軸はシグナル強度を示す。参照(対照)ヒストグラムの右へのシフトのある黒柱は、蛍光シグナルの向上及びバックグラウンドレベルを上回る抗体の発現を示す。
図22は、出生後P0からP30の、通常酸素レベル(通常酸素、normoxia)で飼育された野生型C57/B16マウスにおける出生後網膜発生を示す。
図23は、P7からP12に高酸素レベルで飼育し、次いでP12からP17に通常酸素レベルで飼育した、C57/B16マウスにおける酸素誘発網膜症モデルを示す(酸素過剰;75%酸素)。
図24は、酸素誘発網膜症モデルにおける、本発明のLin−HSC集団を用いた処置による血管救出を示す。
図25は、Lin−HSCの硝子体内注入後のrd1マウス外顆粒層(ONL)において救出された光受容体が主に錐体であることを示す。赤/緑錐体オプシンの発現により明らかとなるように、野生型マウス網膜(上パネル)における光受容体のうち数%が錐体であり(A)、一方、ONLの殆どの細胞が桿体特異的ロドプシンに対して陽性であった(B)。網膜脈間構造は、免疫前血清により自己蛍光を発したが(C)、桿体又は錐体特異的オプシンでの染色に対して、顆粒層は完全に陰性であった。rd/rdマウス網膜(下パネル)では、内顆粒層が消失し、ONLがほぼ完全に萎縮性となり、これらの両方が桿体(d)又は錐体(パネルG)特異的オプシンに対して陰性であった。対照、CD31−HSC処置した眼は非注入rd/rd網膜と同一であり、桿体(E)又は錐体(H)オプシンに対して染色されなかった。錐体赤/緑オプシンに対する陽性免疫活性により明らかなように、Lin−HSC処置した逆側の眼は、顕著な減少を示したが、明らかに、主に錐体からなるONLが存在した(F)。桿体数%もまた観察された(I)。